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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】多孔質銅およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 1/08 20060101AFI20240830BHJP
   C22C 1/02 20060101ALI20240830BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALN20240830BHJP
   C22C 9/00 20060101ALN20240830BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20240830BHJP
   C22C 38/16 20060101ALN20240830BHJP
【FI】
C22C1/08 E
C22C1/02 503B
C12Q1/04
C22C9/00
C22C38/00 302Z
C22C38/16
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020117120
(22)【出願日】2020-07-07
(65)【公開番号】P2022022797
(43)【公開日】2022-02-07
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000195029
【氏名又は名称】星和電機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】110000947
【氏名又は名称】弁理士法人あーく事務所
(72)【発明者】
【氏名】堂浦 剛
(72)【発明者】
【氏名】梅澤 成之
(72)【発明者】
【氏名】川上 洋司
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-144790(JP,A)
【文献】特開2015-151608(JP,A)
【文献】特開平09-157675(JP,A)
【文献】国際公開第2012/063591(WO,A1)
【文献】特開2020-122181(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 1/00
C22C 9/00
C22C 38/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅と鉄とを、銅:鉄=30:70~90:10の容積比(ただし、銅:鉄=30:70~50:50および銅:鉄=70:30~80:20の範囲は除く)で混ぜ合わせた銅鉄合金を、鉄の溶解液に浸けて電圧を印加することで鉄を溶解処理し、鉄の溶解に要する電流が流れなくなるまで鉄を溶解処理することを特徴とする多孔質銅の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の多孔質銅の製造方法によって得られる多孔質銅であって、
鉄が溶解処理され、当該鉄が存在していた部分にマクロ孔が空隙として形成されてなり、
φ50mmの滅菌シャーレに8mlの大腸菌懸濁液(2.0×10CFU/8ml)を滴下したものを用意し、そこに多孔質銅を浸漬させて35℃のインキュベータ内で50rpmで振とうさせながら保存した後、1時間毎(最長8時間)に、各シャーレから菌液0.1mlを取り出し、9mlのリン酸緩衝液により希釈し、標準寒天平板培養法により生菌数測定を行った結果より求められる抗菌性の反応速度定数が、純銅の2倍以上となされたことを特徴とする多孔質銅。
【請求項3】
鉄が溶解処理され、当該鉄が存在していた部分にマクロ孔が空隙として形成されてなり、
1000倍拡大の条件で撮影された試料表面の電子顕微鏡観察像の64μm×48μmの範囲に確認されるマクロ孔の最長離隔間距離の平均値が8.01μm以下となされた請求項2に記載の多孔質銅。
【請求項4】
鉄が溶解処理され、当該鉄が存在していた部分にマクロ孔が空隙として形成されてなり、
前記電子顕微鏡観察像の64μm×48μmの範囲の4点測定平均で確認される、最長離隔間距離が2μm以下のマクロ孔の数が20個以上となされた請求項2または3に記載の多孔質銅。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質銅および、その製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、金属内部に多数の空隙を形成した多孔質の金属部材が知られている。このような多孔質の金属部材としては、例えば、2種類以上の金属が固溶した合金から、一部の金属が残存するように、残りの金属を、酸やアルカリで溶解して除去することによって製造することが行われている。
【0003】
従来より、このような多孔質の金属部材としては、銅、ニッケル、クロム、金、白金などが知られている。このうち、多孔質の銅としては、銅とアルミニウムとを溶融混合した固溶体から、アルミニウムを除去することで多孔質のスポンジ銅を製造することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-53359号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の多孔質銅の場合、銅とアルミニウムとを固溶した合金からアルミニウムを除去して製造されるため、形成される細孔がミクロ孔や、小さいサイズのメソ孔などの小さな空隙を形成したものに限定されてしまうこととなり、細孔が小さくなり過ぎてしまうこととなる。したがって、表面の細孔が閉塞されてしまうと、内部の細孔が利用できなくなってしまい、多孔質構造が生かされないこととなってしまう。
【0006】
また、本発明者等は、銅鉄合金から鉄を溶解処理することによる多孔質銅の製造方法を発明したが、所定の配合領域においては、当該多孔質銅による菌やウィルスの有効な抗菌性効果が得られない領域が発生することの知見を得た。
【0007】
本発明は係る実情に鑑みてなされたものであって、抗菌性効果を発揮するのに有効なマクロ孔を中心とした細孔が形成された多孔質銅とその製造方法とを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の多孔質銅の製造方法は、銅と鉄とを、銅:鉄=30:70~90:10の容積比(ただし、銅:鉄=30:70~50:50および銅:鉄=70:30~80:20の範囲は除く)で混ぜ合わせた銅鉄合金を、鉄の溶解液に浸けて電圧を印加することで鉄を溶解処理し、鉄の溶解に要する電流が流れなくなるまで鉄を溶解処理するものである。
【0009】
上記課題を解決するための本の多孔質銅は、多孔質銅の製造方法によって得られる多孔質銅であって、鉄が溶解処理され、当該鉄が存在していた部分にマクロ孔が空隙として形成されてなり、 φ50mmの滅菌シャーレに8mlの大腸菌懸濁液(2.0×10CFU/8ml)を滴下したものを用意し、そこに多孔質銅を浸漬させて35℃のインキュベータ内で50rpmで振とうさせながら保存した後、1時間毎(最長8時間)に、各シャーレから菌液0.1mlを取り出し、9mlのリン酸緩衝液により希釈し、標準寒天平板培養法により生菌数測定を行った結果より求められる抗菌性の反応速度定数が、純銅の2倍以上となされたものである。
【0010】
上記多孔質銅は、鉄が溶解処理され、当該鉄が存在していた部分にマクロ孔が空隙として形成されてなり、1000倍拡大の条件で撮影された試料表面の電子顕微鏡観察像の64μm×48μmの範囲に確認されるマクロ孔の最長離隔間距離の平均値が8.01μm以下となされたものであってもよい。
【0011】
上記多孔質銅は、鉄が溶解処理され、当該鉄が存在していた部分にマクロ孔が空隙として形成されてなり、前記電子顕微鏡観察像の64μm×48μmの範囲の4点測定平均で確認される、最長離隔間距離が2μm以下のマクロ孔の数が20個以上となされたものであってもよい。
【0012】
多孔質銅の製造方法において、使用する銅および鉄としては、特に限定されるものではなく、例えば、純銅および純鉄を用いることができる。これら純銅および純鉄は、不活性ガス雰囲気下で加熱溶解して混合した後、冷却されることによって銅鉄合金とされる。この際、銅鉄合金は、冷却速度が速い程緻密になり、この冷却速度によって、互いの分子の混ざり具合の緻密さが決定されることとなるが、銅と鉄とは互いに固溶しないので、銅分子や鉄分子は、固溶した場合(例えば、銅とアルミニウム)のようにミクロの単位で混ざり合うことにはならない。したがって、銅と鉄との溶融金属を型に流し込んだ後、水中に投入して急速に冷却したとしても、マクロを中心とした単位で銅と鉄とが混ざり合った銅鉄合金が得られることとなる。
【0013】
なお、上記した銅鉄合金の調製では、純銅と純鉄を用いることが好ましいが、特に純銅および純鉄に限定されるものではなく、銅としては、C1020(無酸素銅)、C1100(タフピッチ銅)、C1220(リン脱酸銅)のような99.9%以上の銅と、残部に他の元素とが含有されたものを使用するものであってもよい。他の元素としては、ケイ素、リン、リチウムなどの脱酸材が挙げられる。鉄としては、純度の高い方が好ましいが、炭素含有量が0.02%以下であるものを使用するものであってもよい。なお、銅または鉄に含有される他の元素は、銅と固溶可能で、しかもその量が多く、これら他の元素が銅と固溶してしまう量が多くなってしまうと、出来上がった多孔質銅に、ミクロ孔(2nm以下)が増えすぎてしまうこととなり、マクロ孔(50nm以上)の形成を阻害してしまうこととなる。したがって、銅や鉄としては、マクロ孔(50nm以上)の形成を阻害しない程度で他の元素が含有されたものを使用するのであれば、上記した純度の高いものに限定されなくてもよい。
【0014】
また、上記した銅鉄合金の調製における銅と鉄との使用量としては、特に限定されるものではなく、銅:鉄=10:90~90:10の容積比(ただし、銅:鉄=70:30~80:20の範囲は除く)で使用することができ、何らかの形状を形成するのであれば、銅:鉄=30:70~90:10の容積比、より好ましくは、銅:鉄=30:70~90:10の容積比で使用される。銅が10vol%よりも少ないと、銅鉄合金の大半を占める鉄を溶かしてしまうので、得られる多孔質銅のコストが嵩むこととなってしまう。また、何らかの形状を形成するのであれば、銅が30vol%よりも少ないと、多孔質銅を形成した際に脆くなってしまい、その形状を維持できずに破壊されてしまう。一方、銅が90vol%よりも多いと、十分に多孔質な多孔質銅を形成することができなくなってしまう。
【0015】
ただし、銅が70vol%~80vol%の範囲の場合は、多孔質銅の表面にマクロ孔が形成されるが、充分な抗菌性効果が得られないので好ましくない。すなわち、銅が90vol%の場合は、溶解処理される鉄の量が少ないため、マクロ孔同士が連続して繋がることも限られ、多孔質銅の表面に形成されるマクロ孔の数は、当該マクロ孔の最長離隔間距離が2μm台以下のものが過半数を占めることとなり、その結果、当該多孔質銅の表面積が増加し、優れた抗菌性効果が得られることとなる。しかし、銅が70vol%~80vol%の範囲の場合、溶解処理される鉄によって形成されるマクロ孔が連続して繋がり、当該マクロ孔は、最長離隔間距離が大きくなる反面、深さ方向に連続して形成される程ではないため、結果として、当該多孔質銅の表面積は、銅が90vol%の場合よりも小さくなり、優れた抗菌性効果が得られないこととなる。しかし、銅が70vol%をさらに下回る量になって来ると、溶解処理される鉄の量が増えるため、鉄が溶解する過程で隣接するマクロ孔同士が繋がってしまう箇所が多く形成され、マクロ孔の最長離隔間距離の平均値は大きくなるが、その分、当該多孔質銅の表面から深さ方向に連続孔が形成され易くなり、結果として、当該多孔質銅の表面積が増加し、優れた抗菌性効果が得られることとなる。
【0016】
上記多孔質銅の製造方法において、鉄を溶解処理する工程は、上記銅鉄合金を、塩酸等の銅が溶解しない酸溶液に浸漬し、鉄を選択的に溶解することによって行うことができる。この際、鉄の溶解処理に使用する酸の濃度や、銅鉄合金を浸漬する処理時間としては、特に限定されるものではなく、例えば、塩酸、硝酸、硫酸などを使用することができる。酸の濃度としては、例えば、0.01~1.20モル/リットルで実施することができる。処理時間としては、240時間までの実施が確認できているが、反応の終端を見分けることが難しいので、電気化学測定装置を用いて、電流を終端のモニターとして実験を行うことができる。すなわち、これらの溶解処理の進行具合は、例えば、電気化学測定装置を用いて定量的に確認しながら行うものであってもよい。すなわち、電気化学測定装置よって、溶解中の銅鉄合金に電圧を印加してモニタリングし、電流が流れなくなったところで鉄が全て溶解したものと判断して鉄の溶解処理を進行させるものであってもよい。
【0017】
このようにして構成される多孔質銅は、互いに固溶しない銅と鉄とを溶融固化した銅鉄合金から形成されているので、マクロ孔(50nm以上)を中心とした空隙が形成された多孔質銅となる。
【0018】
この多孔質銅の形状としては、特に限定されるものではなく、例えば、箔を含む板状、筒状、線状、粉状、チップ状、立方体形状、直方体形状、球体形状、錐体形状、その他各種形状に賦形されたものであってもよい。ただし、この多孔質銅が環境雰囲気下の媒体と、より接触し易くするためには、立方体形状や球体形状のような中実部分が多くなる形状ではなく、箔のような薄い板状、同じく薄い筒状、細い線状、粉状、チップ状等のように、見かけの表面積が大きく形成された形状のものであることが好ましい。より好ましい形状としては、厚さ0.2mm以下の箔状の多孔質銅およびこれを各種形状に加工したもの、厚さ1mm未満の板状の多孔質銅およびこれを各種形状に加工したものが挙げられる。
【0019】
このようにして構成される多孔質銅は、互いに固溶しない銅と鉄との銅鉄合金から、鉄を溶解処理して構成されているので、鉄が溶解した後には、マクロ孔(50nm以上)を中心とした多孔質孔を形成することができる。特に、抗菌性効果を発揮するのに有効なマクロ孔を形成することができる。したがって、高表面積で熱電導性に優れた多孔質銅を得ることができる。このような多孔質銅は、気体や液体を媒体とした除菌部材、抗菌部材、殺菌部材として利用したり、触媒担持体として利用したり、電極集電体として利用したり、ガスセンサーとして利用したり、ヒートポンプ熱交換器の熱伝導部材として利用したりすることができる。
【発明の効果】
【0020】
以上述べたように、本発明によると、多孔質銅は、互いに固溶しない銅と鉄との銅鉄合金から鉄を溶解処理して得られるため、所定の容積比で配合した銅鉄合金から鉄が溶解した後には、マクロ孔を中心とした細孔サイズが形成された多孔質で高表面積の多孔質銅が得られることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明に係る実施例1の多孔質銅における、任意の4点の電子顕微鏡写真である。
図2】本発明に係る実施例2の多孔質銅における、任意の4点の電子顕微鏡写真である。
図3】本発明に係る実施例3の多孔質銅における、任意の4点の電子顕微鏡写真である。
図4】本発明に係る実施例4の多孔質銅における、任意の4点の電子顕微鏡写真である。
図5】比較例1の多孔質銅における、任意の4点の電子顕微鏡写真である。
図6】比較例2の多孔質銅における、任意の4点の電子顕微鏡写真である。
図7】本発明に係る実施例5の多孔質銅における、任意の4点の電子顕微鏡写真である。
図8】本発明に係る実施例1-5、および比較例1-3の抗菌性試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る実施の形態について説明する。
【0023】
[実施例1-5、比較例1-3]
(銅鉄合金の調製)
それぞれCu:Fe=30:70(実施例1)、40:60(実施例2)、50:50(実施例3):60:40(実施例4)、70:30(比較例1)、80:20(比較例2)、90:10(実施例5)、100:0(比較例3)の容積比率となるように、比重を考慮して求めた所定の質量で、純銅と純鉄とを秤量し、各実施例の試料を用意した。
【0024】
高周波誘導加熱炉を用いて、アルゴンガス雰囲気中で試料を加熱し、純銅と、純鉄とが完全に溶けて混ざり合った状態になったことを目視で確認した後に型に流し込んだ。その後、型に流し込んだ試料を、すぐに水中に投入して急冷し、銅鉄合金を得た。これを、それぞれの試料について行い、各銅鉄合金を得た。
【0025】
(多孔質銅の調製)
得られた各試料からは、縦10mm×横10mm×厚さ0.2mmの試験片を切断し、各試験片は、♯2000のエミリー紙を用いた湿式研磨、粒径0.5μmの酸化アルミナを用いてバフ研磨を施した。その後、各試験片を硫酸(15M)に1秒間浸漬させて表面酸化物を除去し、蒸留水に1秒間浸漬させて洗浄した。このようにして得られた各試験片から鉄を溶出させた。この鉄の溶出は、電気化学測定装置(電気化学計測器(VSP300 Biologic社製))を用いて行った。この際、作用電極には対象試料、対極には白金、参照電極にはAg/Ag参照電極(RE4A:ECフロンティア製)を使用した。それらをpHが1.0で23℃に調整された塩酸溶液に投入した。参照電極に対して-0.4Vになるように電圧を試料に印加した。そして、電流をモニタリングし、0Aとなったところを終端とみなした。終了後、エタノールとイオン交換水中で10分間超音波洗浄行い、多孔質銅を得た。これをそれぞれの試料について行い、鉄の容積部分が空隙となった空隙率70%(実施例1)、60%(実施例2)、50%(実施例3)、40%(実施例4)、空隙率30%(比較例1)、20%(比較例2)、10%(実施例5)の各多孔質銅と、空隙率0%(比較例3)の銅板を得た。
【0026】
(反応率の測定)
反応前後のFeの質量から、上記多孔質銅の調製によって反応した鉄の反応率を求めた。なお、反応前は鉄の質量は、体積と鉄の割合から算出した。また、反応後の鉄の質量は、原子吸光測定法によって測定した。
結果を表1に示す。
【0027】
【表1】
【0028】
(マクロ孔の測定)
上記で得られた多孔質銅の表面を電子顕微鏡で1000倍に拡大し、64μm×48μmの電子顕微鏡観察像の範囲にある全てのマクロ孔を測定した。マクロ孔は、各孔の最大離隔間距離を測定した。この測定は、各多孔質銅の表面の任意の4点で計測し、これら4点で計測された合計の各マクロ孔の大きさ毎に分布を求めた。
結果を図1ないし図7、表2に示す。
【0029】
【表2】
【0030】
(抗菌性試験)
φ50mmの滅菌シャーレに8mlの大腸菌懸濁液(2.0×10CFU/8ml)を滴下したものを複数用意した。
その後、これら大腸菌懸濁液を滴下した各シャーレに、上記実施例1~5、比較例1~3の各試験片を浸漬させた。
各試験片を浸漬させたシャーレは、35℃のインキュベータ内で50rpmで振とうさせながら保存した。1時間毎(最長8時間)に、各シャーレから菌液0.1mlを取り出した。この菌液0.1mlは、9mlのリン酸緩衝液により希釈した後、標準寒天平板培養法により生菌数測定を行った。すなわち、生菌数の測定は、まず、菌液をφ90mmの滅菌シャーレにそれぞれ1mlずつ取り出し、42℃前後に調整したSA培地を注ぎ、蓋をして十分に撹拌した。固化後、インキュベータ内で温度35±1℃で培養した。48時間後、コロニー数の測定を行った。コロニー数は、測定した2枚のシャーレの平均値とした。
得られた結果から、各試験片の反応速度定数(k)を求めた。算出した反応速度定数(k)は、表3に示す。また、表3には、各測定点4点毎のマクロ孔の平均サイズと、これら4点の平均サイズとを算出し、並記した。
【0031】
【表3】
【0032】
また、反応速度定数(k)の差異による抗菌性効果の違いが明確となるように、図8にグラフ化した。図8の横軸は浸漬時間(hours)、縦軸は生菌数(CFU/sample)を示す。各試験片において、各実験値を下記式1を用いて最小二乗法により近似した。
A(t)=Akt…(式1)
上記式1において、A(t)は浸漬時間(hours)での生菌数(CFU/sample)、Aは初発菌数(CFU/sample)、kは反応速度定数(1/hours)、tは浸漬時間(hours)、eはネイピア定数を示している。
【0033】
以上の結果から、本発明に係る試験片は、鉄の含有量が多くなるにしたがって、反応率が上昇して内部まで鉄の溶解処理が進行することが確認できた。また、鉄の含有量が増えるにしたがって、形成される多孔質銅のマクロ孔は最大離隔間距離が増大する傾向にあることが確認できた。ただし、鉄の含有量が20~30vol%の領域は、鉄の含有量が40%の場合よりも、マクロ孔の最大離隔間距離の平均値が過剰に大きくなっていることが確認できた。また、鉄の含有量が20~30vol%の領域は、抗菌性試験から得られる反応速度定数が、鉄の含有量が10%の場合よりも低い結果となった。逆に鉄の含有量が10vol%の場合は、マクロ孔の最大離隔間距離が小さいにも関わらず、鉄の含有量が40vol%の場合に近い反応速度定数が得られることが確認できた。表2のマクロ孔の分布を見ても確認できるように、鉄の含有量が10vol%の場合は、最大離隔間距離が1μm以下の比較的小さなマクロ孔が多く形成されたことにより、優れた抗菌性が発揮される原因になったと考えられる。逆に、鉄の含有量が20~30vol%の領域は、鉄の溶解処理が進行する段階で、これら比較的小さなマクロ孔同士が合体して大きくなってしまい、鉄の含有量が10vol%の場合よりも劣る多孔質状態になってしまったものと考えられる。また、鉄の含有量が40vol%の場合は、鉄の含有量が20~30vol%の領域と同様にマクロ孔同士が合体して大きくなってしまうが、それと合わせて深さ方向にも鉄の溶解処理が進行して内部まで多孔質な状態となるので、優れた抗菌性効果が発揮されたものと考えられる。
【0034】
なお、本発明は、その精神または主要な特徴から逸脱することなく、他のいろいろな形で実施することができる。そのため、上述の実施例はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書本文には、なんら拘束されない。さらに、特許請求の範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8