(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】タイヤの仕様決定方法およびタイヤの製造方法並びにタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 19/00 20060101AFI20240830BHJP
【FI】
B60C19/00 Z
(21)【出願番号】P 2020139324
(22)【出願日】2020-08-20
【審査請求日】2023-06-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】中川 隆太郎
(72)【発明者】
【氏名】前川 覚
(72)【発明者】
【氏名】糸魚川 文広
【審査官】上谷 公治
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-057134(JP,A)
【文献】特開2003-072317(JP,A)
【文献】特開2018-077064(JP,A)
【文献】国際公開第2017/033414(WO,A1)
【文献】特開2006-250261(JP,A)
【文献】特開2009-008409(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加硫ゴムとこの加硫ゴムに埋設された剛体層とを備えて、使用時に対象面に対して摺動するトレッド面を有するタイヤの仕様決定方法であって、
前記タイヤとして、前記トレッド面から所定深さに前記剛体層が配置されていて、前記トレッド面を有するゴム層と前記剛体層とが積層されて前記剛体層の上面が固定端に固定された解析モデルを設定し、下記(1)式を満たすように、前記ゴム層の質量m、
前記摺動する方向に対する弾性率kおよび粘性減衰係数cと、前記剛体層の質量m
a、
前記摺動する方向に対する弾性率k
aおよび粘性減衰係数c
aとを特定し、前記ゴム層および前記剛体層を前記特定した仕様にすることを特徴とするタイヤの仕様決定方法。
λ
2(1-Z
eff
)
5/Z
eff>4π・・・(1)
ここで、λ=W(μ
s-μ
k)/{V(m・k)
1/2}、Z
eff=1/(4.62Z
3+1.40Z
2+7.52Z+4.48)、Z=c/{2(m・k)
1/2}、Wは前記タイヤに作用する垂直荷重、μ
sは前記対象面に対する前記トレッド面の静摩擦係数、μ
kは前記対象面に対する前記トレッド面の動摩擦係数、Vは前記対象面に対して前記トレッド面が摺動する際の前記対象面に対する前記トレッド面の相対移動速度であ
り、前記剛体層の質量m
a
、弾性率k
a
および粘性減衰係数c
a
は、前記解析モデルを用いた数値計算と理論解析を行って、前記(1)式を満足する前記ゴム層、前記剛体層の仕様の最適解を求めた際に算出される値である。
【請求項2】
前記剛体層として前記加硫ゴムよりも密度が大きい金属を用いる請求項1に記載のタイヤの仕様決定方法。
【請求項3】
前記剛体層の弾性率を前記加硫ゴムの弾性率の3倍以上50倍以下にする請求項1または2に記載のタイヤの仕様決定方法。
【請求項4】
前記剛体層の層厚を前記ゴム層の層厚の0.01倍以上0.5倍以下にする請求項1~3のいずれかに記載のタイヤの仕様決定方法。
【請求項5】
前記剛体層として金属板または横並びさせたワイヤを用いる請求項1~4のいずれかに記載のタイヤの仕様決定方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のタイヤの仕様決定方法によって決定された前記ゴム層および前記剛体層の仕様を備えた前記タイヤを製造することを特徴とするタイヤの
製造方法。
【請求項7】
加硫ゴムとこの加硫ゴムに埋設された剛体層とを備えて、使用時に対象面に対して摺動するトレッド面を有するタイヤであって、
前記タイヤを、前記トレッド面から所定深さに前記剛体層が配置されていて、前記トレッド面を有するゴム層と前記剛体層とが積層されて前記剛体層の上面が固定端に固定された解析モデルとして設定した場合に、下記(1)~(4)式を満たすように、前記ゴム層の質量m、
前記摺動する方向に対する弾性率kおよび粘性減衰係数cと、前記剛体層の質量m
a、
前記摺動する方向に対する弾性率k
aおよび粘性減衰係数c
aとが特定されていることを特徴とするタイヤ。
λ
2(1-Z
eff
)
5/Z
eff>4π・・・(1)
m
a=m(330Z
3-43.6Z
2+14.5Z+1.48)・・・(2)
k
a=k(7.72Z
3+1.13Z
2+1.38Z+0.934)
2・・・(3)
c
a=2(m・k)
1/2(61.1Z
3-4.39Z
2+3.91Z+1.09)・・・(4)
ここで、λ=W(μ
s-μ
k)/{V(m・k)
1/2}、Z
eff=1/(4.62Z
3+1.40Z
2+7.52Z+4.48)、Z=c/{2(m・k)
1/2}、Wは前記タイヤに作用する垂直荷重、μ
sは前記対象面に対する前記トレッド面の静摩擦係数、μ
kは前記対象面に対する前記トレッド面の動摩擦係数、Vは前記対象面に対して前記トレッド面が摺動する際の前記対象面に対する前記トレッド面の相対移動速度
である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤの仕様決定方法およびタイヤの製造方法並びにタイヤに関し、さらに詳しくは、走行初期から優れたグリップ性を確保できる汎用性が高いタイヤの仕様決定方法およびタイヤの製造方法並びにタイヤに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ゴム構造体であるタイヤは、道路路面などの対象面に押圧されて摺動する。タイヤのトレッド面の対象面に対するグリップ性が良好であれば、車両の操縦安定性などに大きく寄与するため、グリップ性はタイヤ性能を示す指標の1つになっている。走行初期のタイヤは走行中に比して温度が低いことなどの原因により、優れたグリップ性を得ることが難しい。
【0003】
タイヤのグリップ性の向上させるために、特定の化合物が特定の配合割合で添加されたゴム組成物が提案されている(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、この提案では、タイヤのトレッド面に汎用の加硫ゴムなどが用いられている場合、十分なグリップ性を得ることはできない。それ故、走行初期から優れたグリップ性(ウォームアップ性)を確保できる汎用性が高いタイヤを実現するには改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、走行初期から優れたグリップ性を確保できる汎用性が高いタイヤの仕様決定方法およびタイヤの製造方法並びにタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため本発明のタイヤの仕様決定方法は、加硫ゴムとこの加硫ゴムに埋設された剛体層とを備えて、使用時に対象面に対して摺動するトレッド面を有するタイヤの仕様決定方法であって、前記タイヤとして、前記トレッド面から所定深さに前記剛体層が配置されていて、前記トレッド面を有するゴム層と前記剛体層とが積層されて前記剛体層の上面が固定端に固定された解析モデルを設定し、下記(1)式を満たすように、前記ゴム層の質量m、前記摺動する方向に対する弾性率kおよび粘性減衰係数cと、前記剛体層の質量ma、前記摺動する方向に対する弾性率kaおよび粘性減衰係数caとを特定し、前記ゴム層および前記剛体層を前記特定した仕様にすることを特徴とする。
λ2(1-Z
eff
)5/Zeff>4π・・・(1)
ここで、λ=W(μs-μk)/{V(m・k)1/2}、Zeff=1/(4.62Z3+1.40Z2+7.52Z+4.48)、Z=c/{2(m・k)1/2}、Wは前記タイヤに作用する垂直荷重、μsは前記対象面に対する前記トレッド面の静摩擦係数、μkは前記対象面に対する前記トレッド面の動摩擦係数、Vは前記対象面に対して前記トレッド面が摺動する際の前記対象面に対する前記トレッド面の相対移動速度であり、前記剛体層の質量m
a
、弾性率k
a
および粘性減衰係数c
a
は、前記解析モデルを用いた数値計算と理論解析を行って、前記(1)式を満足する前記ゴム層、前記剛体層の仕様の最適解を求めた際に算出される値である。
【0007】
本発明のタイヤの製造方法は、上記のタイヤの仕様決定方法によって決定された前記ゴム層および前記剛体層の仕様を備えた前記タイヤを製造することを特徴とする。
【0008】
本発明のタイヤは、加硫ゴムとこの加硫ゴムに埋設された剛体層とを備えて、使用時に対象面に対して摺動するトレッド面を有するタイヤであって、前記タイヤを、前記トレッド面から所定深さに前記剛体層が配置されていて、前記トレッド面を有するゴム層と前記剛体層とが積層されて前記剛体層の上面が固定端に固定された解析モデルとして設定した場合に、下記(1)~(4)式を満たすように、前記ゴム層の質量m、前記摺動する方向に対する弾性率kおよび粘性減衰係数cと、前記剛体層の質量ma、前記摺動する方向に対する弾性率kaおよび粘性減衰係数caとが特定されていることを特徴とする。
λ2(1-Z
eff
)5/Zeff>4π・・・(1)
ma=m(330Z3-43.6Z2+14.5Z+1.48)・・・(2)
ka=k(7.72Z3+1.13Z2+1.38Z+0.934)2・・・(3)
ca=2(m・k)1/2(61.1Z3-4.39Z2+3.91Z+1.09)・・・(4)
ここで、λ=W(μs-μk)/{V(m・k)1/2}、Zeff=1/(4.62Z3+1.40Z2+7.52Z+4.48)、Z=c/{2(m・k)1/2}、Wは前記タイヤに作用する垂直荷重、μsは前記対象面に対する前記トレッド面の静摩擦係数、μkは前記対象面に対する前記トレッド面の動摩擦係数、Vは前記対象面に対して前記トレッド面が摺動する際の前記対象面に対する前記トレッド面の相対移動速度である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のタイヤの仕様決定方法では、前記タイヤとして、前記トレッド面から所定深さに前記剛体層が配置されていて、前記トレッド面を有するゴム層と前記剛体層とが積層されて前記剛体層の上面が固定端に固定された簡素化した解析モデルを設定する。そして、上述した(1)式を満たすように、前記ゴム層の質量m、弾性率kおよび粘性減衰係数cと、前記剛体層の質量ma、弾性率kaおよび粘性減衰係数caとを特定し、前記ゴム層および前記剛体層を前記特定した仕様にすることで、前記トレッド面に汎用の加硫ゴムが用いられていても、タイヤをそのトレッド面を対象面に摺動させて使用する際に、スティックスリップ振動を誘発し易くなるため、走行初期から対象面に対するトレッド面のグリップ性を向上させることが可能になる。
【0010】
本発明のタイヤの製造方法では、上述したように、走行初期から対象面に対するトレッド面のグリップ性を向上させることができるタイヤを製造することが可能になる。
【0011】
本発明のタイヤでは、前記タイヤを、前記トレッド面から所定深さに前記剛体層が配置されていて、前記トレッド面を有するゴム層と前記剛体層とが積層されて前記剛体層の上面が固定端に固定された簡素化した解析モデルとして設定する。この場合に、上述した(1)~(4)式を満たすように、前記ゴム層の質量m、弾性率kおよび粘性減衰係数cと、前記剛体層の質量ma、弾性率kaおよび粘性減衰係数caとが特定された仕様にすることで、前記トレッド面に汎用の加硫ゴムが用いられていても、タイヤをそのトレッド面を対象面に摺動させて使用する際に、スティックスリップ振動が誘発され易いため、走行初期から対象面に対するトレッド面のグリップ性を向上させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明のタイヤの右半分を、幅方向断面視で模式的に例示する説明図である。
【
図2】
図1の一点鎖線で囲まれた部分を拡大して側面視で例示する説明図である。
【
図4】
図2のタイヤの部分の解析モデルを例示する説明図である。
【
図5】
図2のタイヤのトレッド面を対象面に接触させて相対移動させている状態を模式的に例示する説明図である。
【
図6】剛体層が埋設されたタイヤのトレッド面の振動状態を例示するグラフ図である。
【
図7】剛体層が埋設されていないタイヤのトレッド面の振動状態を例示するグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のタイヤの仕様決定方法およびタイヤの製造方法並びにタイヤを、図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0014】
図1~
図3に例示する実施形態のタイヤ1の仕様は、本発明の仕様決定方法によって決定されている。タイヤ1は、加硫ゴム3と加硫ゴム3に埋設された剛体層4とを備えている。加硫ゴム3からなるゴム層3aと剛体層4とが積層されていて、互いが加硫接着によって接合されて一体化してタイヤ1が構成されている。ゴム層3aの下端面(外周面)が、使用時に対象面6に対して摺動するトレッド面2になっている。
図1中の一点鎖線CLはタイヤ幅方向中心を示している。
【0015】
このタイヤ1は、対象面6に対して摺動する際にスティックスリップ振動が誘発され易くて、走行初期から優れたグリップ性を確保できることが特徴である。タイヤ1としては、空気入りタイヤに限らず、その他のタイプのタイヤであってもよい。対象面6はアスファルト路面等になる。
【0016】
加硫ゴム3のゴム種は特に限定されず、汎用のゴム組成物で形成することができる。加硫ゴム3の弾性率は概ね0.9MPa以上1.1MPa以下の範囲である。加硫ゴム3の密度は概ね900kg/m3以上1500kg/m3以下の範囲である。ゴム層3aの層厚はhになっている。
【0017】
剛体層4として例えば横並びさせた複数本のワイヤなど、加硫ゴム3よりも密度が大きい金属を用いるとよい。鋼板などの種々の金属板を剛体層4として用いることもできる。後述する「λ2(1-Z
eff
)5/Zeff」の値(X値)が4πよりも大きい条件下(即ちX>4πの条件下)で、剛体層4の密度を加硫ゴム3より大きくすることで、スティックスリップ振動を誘発し易くなる。
【0018】
また、剛体層4の弾性率を加硫ゴム3の弾性率の3倍以上50倍以下にするとよい。X値が4πよりも大きい条件下で、剛体層4の弾性率が加硫ゴム3の3倍未満であるとスティックスリップ振動を誘発し難くなり、50倍超にしてもスティックスリップ振動を誘発する効果がそれ程、向上しない。
【0019】
剛体層4は、トレッド面2から所定深さhにトレッド面2から露出しない状態で配置されている。この所定深さhとは、剛体層4とトレッド面2との最短距離であり、例えば、5mm以上の範囲である。この実施形態では、一層の剛体層4が配置されているが、複数層の剛体層4を配置することもできる。
【0020】
剛体層4の層厚dは、ゴム層3aの層厚hの0.01倍以上0.5倍以下にするとよい。X値が4πよりも大きい条件下で、剛体層4の層厚dがゴム層3aの層厚hの0.01倍未満であると、スティックスリップ振動を誘発し難くなり、0.5倍超にしてもスティックスリップ振動を誘発する効果がそれ程、向上しない。
【0021】
このタイヤ1の仕様を決定する手順の一例は以下のとおりである。
【0022】
タイヤ1の仕様を決定する際には、
図1の一点鎖線で囲まれている部分のように、加硫ゴム3からなるゴム層3aと剛体層4とが積層されていて、互いが加硫接着によって接合されて一体化している部分(四角形の部分)を抽出して、
図4に例示するタイヤ1の解析モデル1Aを設定する。解析モデル1Aは、トレッド面2から所定深さhに剛体層4が配置されていて、トレッド面2を有するゴム層3aと剛体層4とが積層されて剛体層4の上面が固定端5に固定されている。
【0023】
剛体層4は、タイヤ1に埋設されているベルト層、ベルトカバー層に相当するが、これら既存の部材でなくてもよい。固定端5はタイヤ1が装着されるリム(ホイール)に相当する。解析モデル1Aは、対象面6に沿って相対移動してトレッド面2が対象面6に摺動する。即ち、この解析モデル1Aは、
図5に例示するタイヤ1を単純化してモデル化したものである。
【0024】
この解析モデル1Aでは、ゴム層3aと剛体層4の間にバネ3Sと減衰器3Dが並列して介在している。バネ3S(ゴム層3a)の弾性率はk、減衰器3D(ゴム層3a
)の粘性減衰係数はcである。また、剛体層4と固定端5の間にバネ4Sと減衰器4Dが並列して介在している。バネ4S(剛体層4)の弾性率はka、減衰器4D(剛体層4)の粘性減衰係数はcaである。また、ゴム層3aの質量はm、剛体層4の質量はmaである。
【0025】
そして、下記(1)式を満たすように、ゴム層3aの質量m、弾性率kおよび粘性減衰係数cと、剛体層4の質量ma、弾性率kaおよび粘性減衰係数caとが特定される。
λ2(1-Z
eff
)5/Zeff
>4π・・・(1)
ここで、λ=W(μs-μk)/{V(m・k)1/2}、Zeff=1/(4.62Z3+1.40Z2+7.52Z+4.48)、Z=c/{2(m・k)1/2}、Wはタイヤ1(解析モデル1A)に作用する垂直荷重、μsは対象面6に対するトレッド面2の静摩擦係数、μkは対象面6に対するトレッド面2の動摩擦係数、Vは対象面6に対してトレッド面2が摺動する際の対象面6に対するトレッド面2の相対移動速度である。
【0026】
静摩擦係数μsおよび動摩擦係数μkはJIS K7125に規定された試験方法に準拠して測定することができる。タイヤ1は、トレッド面2が路面などの対象面6に押圧された状態で転動し、トレッド面2を対象面6に沿った接線方向に移動させて対象面6に対して摺動させる。相対移動速度Vは概ね0.1m/s以上の範囲である。相対移動速度Vの上限値はタイヤ1が実用上、耐え得る速度である。
【0027】
(1)式の左辺の値(X値)を4π超にすることで、対象面6に摺動するトレッド面2の振幅を大きくすることでき、これにより、トレッド面2に汎用の加硫ゴムが用いられていても、トレッド面2(タイヤ1)のスティックスリップ振動を誘発することができる。そこで、タイヤ1を製造する際には、(1)式を満たすようにゴム層3a、剛体層4の上述した仕様を決定し、この決定した仕様を備えたタイヤ1を製造する。
【0028】
タイヤ1を(1)式を満たす仕様にした場合、対象面6に摺動するトレッド面2の振幅を例示すると
図6のようになる。摩耗(摺動)の開始直後からトレッド面2の振幅には大きな変動が生じ、その後も、振幅の大きな変動が維持されてスティックスリップ振動が誘発、促進される。一方、タイヤ1が剛体層4を有していない場合、対象面6に摺動するトレッド面2の振幅を例示すると
図7のようになる。摩耗(摺動)の開始直後からトレッド面2の振幅の大きな変動がその後も維持されてスティックスリップ振動が継続するが、
図6の振幅の変動よりも小さい。即ち、剛体層4を設けてX値を4π超にすることで、剛体層4を設けない場合に比してスティックスリップ振動が大きくなる。
【0029】
解析モデル1Aを用いた数値計算と理論解析を行って、(1)式を満足するゴム層3a、剛体層4の仕様の最適解を求めると下記(2)式~(4)式のとおりである。
ma=m(330Z3-43.6Z2+14.5Z+1.48)・・・(2)
ka=k(7.72Z3+1.13Z2+1.38Z+0.934)2・・・(3)
ca=2(m・k)1/2(61.1Z3-4.39Z2+3.91Z+1.09)・・・(4)
【0030】
そこで、タイヤ1は(1)式~(4)式を具備する仕様にするとよい。これにより、トレッド面2に汎用の加硫ゴムが用いられていても、タイヤ1をそのトレッド面2を対象面6に摺動させて使用する際に、スティックスリップ振動を誘発することが可能になる。スティックスリップ振動が生じることで、タイヤ1(トレッド面2)のヒステリシスロスが大きくなり、走行初期から優れたグリップ性(ウォームアップ性)を確保することが可能になる。
【実施例】
【0031】
図4に例示するように剛体層を加硫ゴムからなるゴム層に積層して一体化したタイヤの解析モデルにおいて、加硫ゴムの弾性率を1MPa、密度を1000kg/m
3、ポアソン比を0.46、剛体層の弾性率を200GPa、密度を7850kg/m
3、ポアソン比を0.30、トレッド面の対象面に対する静摩擦係数を0.2、動摩擦係数を0.05、対象面の算術平均高さSaを1mm(高さ1mmの凸部が連続する凹凸面)、対象面に対するトレッド面の押込み量を0.8mmにしたことを共通条件として、(1)式で算出される「λ
2(1-Z
eff
)
5/Z
eff」の値(X値)を表1のように異ならせて、タイヤのトレッド面を対象面に沿って相対移動速度1m/sで摺動させた場合のトレッド面の走行初期のグリップ力の大きさを算出した。その結果は、表1に示すとおりである。表1中のウォームアップ性とは、走行初期のグリップ力の大きさであり、X値が3πのタイヤのウォームアップ性を基準の100として指数評価した。この指数の数値が大きい程、ウォームアップ性が優れていて、スティックスリップ振動が誘発されていることを意味する。
【0032】
【0033】
表1の結果から、X値が4πよりも大きいケースNo.2は、X値が3πであるケースNo.1に比してウォームアップ性が優れていることが分かる。
【符号の説明】
【0034】
1 タイヤ
1A 解析モデル
2 トレッド面
3 加硫ゴム
3a ゴム層
3S バネ
3D 減衰器
4 剛体層
4S バネ
4D 減衰器
5 固定端
6 対象面