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特許7546350加熱調理用組成物、及び加熱調理食品の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】加熱調理用組成物、及び加熱調理食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 7/157 20160101AFI20240830BHJP
   A23L 5/10 20160101ALI20240830BHJP
   A23L 13/00 20160101ALN20240830BHJP
   A23L 13/40 20230101ALN20240830BHJP
   A23L 17/40 20160101ALN20240830BHJP
   A23L 17/00 20160101ALN20240830BHJP
【FI】
A23L7/157
A23L5/10 E
A23L13/00 A
A23L13/40
A23L17/40 A
A23L17/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019214755
(22)【出願日】2019-11-27
(65)【公開番号】P2021083366
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154597
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 悟郎
(72)【発明者】
【氏名】須永 智伸
(72)【発明者】
【氏名】矢内 千春
【審査官】村松 宏紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-167479(JP,A)
【文献】特開2019-195292(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱調理食品の具材周辺部の衣の内層のぬめりを抑制するための加熱調理用組成物であって、
難水溶性マグネシウム化合物を0.2~5.0質量%含有することを特徴とする加熱調理用組成物(ただし、アルギン酸第1価金属塩0.1~5質量%を含むものを除く)
【請求項2】
前記難水溶性マグネシウム化合物が、20℃の水に対する溶解度が0.1g/100g-H2O以下のマグネシウム化合物である請求項1に記載の加熱調理用組成物。
【請求項3】
前記マグネシウム化合物が、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、第三リン酸マグネシウム、及びステアリン酸マグネシウムから選択される1種以上の化合物である請求項1又は2に記載の加熱調理用組成物。
【請求項4】
具材周辺部の衣の内層のぬめりが抑制された加熱調理食品の製造方法であって、
加熱調理用組成物、及び/又は加熱調理用組成物に加水してなるバッターを具材に付着させて加熱調理する工程を含み、
前記加熱調理用組成物が、難水溶性マグネシウム化合物を、前記加熱調理用組成物の質量に基づいて、0.2~5.0質量%含有することを特徴とする加熱調理用組成物(ただし、アルギン酸第1価金属塩0.1~5質量%を含むものを除く)である加熱調理食品の製造方法。
【請求項5】
前記加熱調理用組成物として、請求項1~3のいずれか1項に記載の加熱調理用組成物を用いる請求項4に記載の加熱調理食品の製造方法。
【請求項6】
難水溶性マグネシウム化合物を0.2~5.0質量%含有する加熱調理用組成物(ただし、アルギン酸第1価金属塩0.1~5質量%を含むものを除く)を用いることを特徴とする加熱調理食品の具材周辺部の衣の内層のぬめりを抑制する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱調理食品の製造に用いる加熱調理用組成物、及び加熱調理食品を製造する方法に関し、特に、具材周辺部の衣の内層のぬめりが抑制された加熱調理食品を製造できる加熱調理用組成物、及びそのような加熱調理食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加熱調理食品は、魚介類、食肉類、野菜類等の具材を油ちょう、焼成、蒸し、電子レンジ調理等によって加熱調理した加熱調理食品のことをいう。具体的には、魚介類、畜肉類、野菜類等の具材に、小麦粉等を含む打ち粉、ブレッダー及び/又はバッターを付着させたものを油ちょうした天ぷら、フリッター、から揚げ、竜田揚げ、パン粉付けフライ等の揚げ物、魚介類、畜肉類、野菜類等の具材に、小麦粉等を含む打ち粉、ブレッダー及び/又はバッターを付着させたものを焼成したカツレツ、ピカタ、ソテー等の焼き物等が挙げられる。揚げ物や焼き物等の加熱調理食品は、一般に、具材周辺部の衣の内層にぬめり(油分と水分が混ざって生じる好ましくない食感)がないことや、歯切れやかたさが良好であることが求められている。
【0003】
従来から、加熱調理食品、特に揚げ物の具材周辺部の衣の内層のぬめりを抑制する技術が開発されている。例えば、特許文献1では、フライ食品の揚げ種と衣の間に澱粉糊が残らず、ぬめり感がないバッター用ミックスを提供することを目的として、ミックス中にコーンフラワー5~30重量%、コーングリック1~5重量%、蔗糖脂肪酸エステル0.1~0.5重量%およびレシチン0.1~0.5重量%を含有することを特徴とするバッター用ミックスが開示されている。また、特許文献2では、揚げ種と衣の間にぬめり感のない優れた食感を有するフライ食品を得るためのバッターミックスを提供することを目的として、ミックス中に蛋白物質30~50重量%および/またはデキストリン1~40重量%を含有することを特徴とする、バッターミックスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-78459号公報
【文献】特開2002-84999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1又は2の技術では、加熱調理用組成物の配合に大きな制限があり、限られた用途にのみに利用できる技術であり、より多くの種類の加熱調理食品に利用できる汎用性の高い技術が求められている。
【0006】
したがって、本発明の目的は、配合に大きな制限がない、具材周辺部の衣の内層のぬめりが抑制された加熱調理食品を製造できる加熱調理用組成物、及び加熱調理用組成物の配合に大きな制限を与えることなく、具材周辺部の衣の内層のぬめりが抑制された加熱調理食品を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、加熱調理用組成物に添加する材料について種々検討を行なった結果、所定のマグネシウム化合物を所定量添加することで、上記課題を解決できることを見出した。
【0008】
すなわち、上記目的は、加熱調理食品の具材周辺部の衣の内層のぬめりを抑制するための加熱調理用組成物であって、難水溶性マグネシウム化合物を0.2~5.0質量%含有することを特徴とする加熱調理用組成物(ただし、アルギン酸第1価金属塩0.1~5質量%を含むものを除く)によって達成される。また、上記目的は、具材周辺部の衣の内層のぬめりが抑制された加熱調理食品の製造方法であって、加熱調理用組成物、及び/又は加熱調理用組成物に加水してなるバッターを具材に付着させて加熱調理する工程を含み、前記加熱調理用組成物が、難水溶性マグネシウム化合物を、前記加熱調理用組成物の質量に基づいて、0.2~5.0質量%含有することを特徴とする加熱調理用組成物(ただし、アルギン酸第1価金属塩0.1~5質量%を含むものを除く)である加熱調理食品の製造方法によって達成される。本発明において、「加熱調理用組成物」は、常温常圧下で粉粒体であり、打ち粉やブレッダー等として具材にまぶして使用することもでき、水やその他の液体(ビール、炭酸水、調味液等)と混合することによって調製されるバッター(本発明において、「加熱調理用組成物に加水してなるバッター」とも称する)として具材に付着させて使用することもできる加熱調理食品を製造するための粉粒体状組成物を意味する。また、「加熱調理食品」は、上述の通り、魚介類、食肉類、野菜類等の具材に、小麦粉等を含む打ち粉、ブレッダー及び/又はバッターを付着させたものを油ちょう、焼成、蒸し、電子レンジ調理等によって加熱調理した食品を意味し、具体的には、天ぷら、フリッター、から揚げ、竜田揚げ、パン粉付けフライ等の揚げ物、カツレツ、ピカタ、ソテー等の焼き物、蒸し調理された蒸し物、電子レンジ調理された食品等が挙げられる。なお、「打ち粉」や「ブレッダー」は、小麦粉等の原料粉、及びその他の副資材を混合した加熱調理食品の製造に用いる粉粒体を意味し、「バッター」は、小麦粉等の原料粉、及びその他の副資材を含む粉粒体と水やその他の液体(ビール、炭酸水、調味液等)とを混合した加熱調理食品の製造に用いる流体を意味する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の加熱調理用組成物、及び加熱調理食品の製造方法によれば、加熱調理用組成物の配合に大きな制限を与えることなく、具材周辺部の衣の内層のぬめりが抑制された良好な加熱調理食品を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[加熱調理用組成物]
本発明の加熱調理用組成物は、加熱調理食品の具材周辺部の衣の内層のぬめりを抑制するための加熱調理用組成物であって、難水溶性マグネシウム化合物を0.2~5.0質量%含有することを特徴とする。本発明において、「マグネシウム化合物」はマグネシウム塩、酸化物又は水酸化物のことを意味する。また、「難水溶性マグネシウム化合物」とは、20℃の水100gに0.1g投入した後10分間撹拌し、溶け残りが目視観察されるマグネシウム化合物であることを意味する。これまでも加熱調理食品(特に揚げ物)の食感を改善するためにマグネシウム塩等のマグネシウム化合物をその他の材料と組合せて加熱調理用組成物(特に揚げ物用組成物)に配合する技術は知られていた(例えば、特開平7-303457号公報、特開2015-167479号公報、国際公開2014/087730号)。しかしながら、マグネシウム化合物を加熱調理用組成物に添加することで、加熱調理食品の具材周辺部の衣の内層のぬめりを抑制できることは一切知られていなかった。本発明においては、マグネシウム化合物の内、難水溶性を示すマグネシウム化合物を加熱調理用組成物に上記の範囲で含有させることで、具材周辺部の衣の内層のぬめりが抑制された良好な加熱調理食品を製造できることが見出された。後述する実施例に示す通り、マグネシウム化合物であっても、上記条件で水に可溶である塩化マグネシウム等では、上記効果が認められず、難水溶性を示しても、ステアリン酸カルシウム等のカルシウム塩では、上記効果は認められない。また、難水溶性マグネシウム化合物の含有量が上記範囲を外れても効果が認められない。本発明において、前記難水溶性マグネシウム化合物の含有量は、前記加熱調理用組成物の質量に基づいて、0.25~2.5質量%が好ましく、0.3~1.0質量%がより好ましく、0.35~0.8質量%がさらに好ましく、0.4~0.6質量%が特に好ましい。
【0011】
本発明において、難水溶性マグネシウム化合物は、現在又は将来的にでも、食品に添加することができるマグネシウム塩、酸化物、又は水酸化物で、上記の性質を有するものであれば、制限なく使用することができる。本発明において、前記難水溶性マグネシウム化合物は、20℃の水に対する溶解度が0.1g/100g-H2O以下のマグネシウム化合物であることが好ましい。具体的には、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、第三リン酸マグネシウム(リン酸三マグネシウム)、ステアリン酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、第二リン酸マグネシウム(リン酸二マグネシウム)等が挙げられる。本発明において、前記マグネシウム化合物は、さらに歯切れも良好な加熱調理食品を製造できる点で、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、第三リン酸マグネシウム、及びステアリン酸マグネシウムから選択される1種以上の化合物であることが好ましい。前記マグネシウム化合物は、市販のものを適宜選択して使用することができる。
【0012】
本発明の加熱調理用組成物において、前記マグネシウム化合物以外の材料については、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、通常の加熱調理用組成物に用いられる材料を配合することができる。例えば、薄力粉、中力粉、準強力粉、強力粉、全粒粉、デュラム小麦粉等の小麦粉、米粉、大麦粉、大豆粉、そば粉、ライ麦粉、ホワイトソルガム粉、トウモロコシ粉、及びこれらの穀粉を加熱処理した加熱処理穀粉等の穀粉類;コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、ハイアミロースコーンスターチ、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、小麦澱粉、サゴ澱粉、米澱粉、甘藷澱粉等の澱粉、及びこれらの澱粉に物理的、化学的な加工を単独又は複数組み合わせて施した加工澱粉等の澱粉類が挙げられる。また、副資材としては、例えば、デキストリン、オリゴ糖、ぶどう糖、ショ糖、マルトース、トレハロース等の糖質類;植物性油脂、動物性油脂、加工油脂、粉末油脂等の油脂類;卵白粉、卵黄粉、全卵粉、小麦たん白、乳たん白、大豆たん白等のたん白素材;重曹(炭酸水素ナトリウム)、炭酸アンモニウム、炭酸カルシウム等のガス発生剤、及び酒石酸、酒石酸水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム等の酸性剤を含むベーキングパウダー等の膨張剤;カードラン、キサンタンガム、グアガム、タマリンドガム、ローカストビーンガム、ジェランガム、及びカラギーナン等の増粘剤;食塩、グルタミン酸ナトリウム、粉末醤油等の調味料;酵母エキス、畜肉又は魚介由来エキス等のエキス類;グリセリン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤;その他、かぼちゃ粉、色素、香料、香辛料、酵素、種々の品質改良剤等が挙げられる。
【0013】
[加熱調理食品の製造方法]
本発明の加熱調理食品の製造方法は、具材周辺部の衣の内層のぬめりが抑制された加熱調理食品の製造方法であって、加熱調理用組成物、及び/又は加熱調理用組成物に加水してなるバッターを具材に付着させて加熱調理する工程を含み、前記加熱調理用組成物が、難水溶性マグネシウム化合物を、前記加熱調理用組成物の質量に基づいて、0.2~5.0質量%含有することを特徴とする。前記加熱調理用組成物に、難水溶性マグネシウム化合物を上記範囲で含有させることで、具材周辺部の衣の内層のぬめりが抑制された良好な加熱調理食品を製造できることができる。本発明の加熱調理食品の製造方法において、加熱調理用組成物は、常法に従って用いることができる。例えば、魚介類及び水産加工品類、畜肉類及び畜肉加工品類、野菜類を必要に応じて加工成形した具材、又はさらに必要に応じて調味液に浸漬した前記具材に、前記加熱調理用組成物を打ち粉として付着させてもよく、ブレッダーとしてまぶして付着させてもよい。また、前記加熱調理用組成物を、適切な加水率で、水やその他の液体(ビール、炭酸水、調味液等)と混合してバッターを調製し、前記バッターに前記具材を浸漬する、又は前記バッターを前記具材に塗布する等により前記バッターを前記具材に付着させてもよい。また、前記打ち粉や前記ブレッダーを付着させた後、バッターを付着させてもよく、前記バッターを付着させた後に、前記ブレッダーやパン粉をまぶしてもよい。本発明においては、上述のように具材に付着させる打ち粉、ブレッダー、及びバッターに用いる加熱調理用組成物の少なくとも1種が、前記難水溶性マグネシウム化合物を上記の範囲で含有していればよく、全ての加熱調理用組成物が前記難水溶性マグネシウム化合物を上記の範囲で含有していてもよい。前記バッターを調製する際、加水率は、加熱調理食品の種類に応じて、適宜調整することができる。例えば加熱調理食品が、天ぷらの場合は、加熱調理用組成物100質量部に対して、80~180質量部が好ましく、から揚げであれば80~120質量部が好ましく、パン粉付けフライであれば150~1000質量部が好ましく、焼き物用であれば100~300質量部が好ましい。その後、前記加熱調理用組成物が付着した具材を、油ちょう、焼成、蒸し、電子レンジ調理等の適切な加熱調理方法で加熱調理し、加熱調理食品を製造する。加熱調理方法は、油ちょうした後にオーブンにて焼成する等、2種以上の加熱調理方法を組み合わせて用いてもよい。本発明においては、前記加熱調理用組成物を具材に付着させた後、加熱調理する前に冷凍保存してもよい。ただし、前記加熱調理用組成物を具材に付着させた後、生の状態(冷凍状態は除く(以下同じ))での時間が長過ぎると、具材やその他の材料との相互作用により、前記加熱調理用組成物に含有される難溶性マグネシウム化合物の状態が変化する場合があるため、常温や冷蔵で長時間保存しないことが好ましい。前記加熱調理用組成物を具材に付着させた後、生の状態での時間は、5時間以下が好ましく、3時間以下がさらに好ましく、1時間以下がさらに好ましい。本発明においては、加熱調理後の加熱調理食品を冷蔵・冷凍保存して、さらに加熱調理して製造してもよい。本発明の製造方法によって製造された加熱調理食品は、上述の通り、具材周辺部の衣の内層のぬめりが抑制された良好な加熱調理食品である。
【0014】
本発明の加熱調理食品の製造方法において、前記加熱調理用組成物の好ましい態様は、上述の加熱調理用組成物の場合と同様である。本発明の加熱調理食品の製造方法においては、前記加熱調理用組成物として、上述の本発明の加熱調理用組成物に含まれる各材料を、前記難水溶性マグネシウム化合物の含有量が上記範囲になるように、それぞれ個別に、又は一部が予め混合されたものを用いもよい。本発明の加熱調理食品の製造方法においては、容易に使用できる点で、前記加熱調理用組成物として、本発明の加熱調理用組成物を用いることが好ましい。
【0015】
本発明の加熱調理食品の製造方法において、加熱調理食品には特に制限はなく、天ぷら、フリッター、から揚げ、竜田揚げ、パン粉付けフライ等の揚げ物、カツレツ、ピカタ、ソテー等の焼き物、蒸し調理された蒸し物、電子レンジ調理された食品等が挙げられる。
【0016】
なお、本発明は、上述の説明から理解できる通り、難水溶性マグネシウム化合物を0.2~5.0質量%含有する加熱調理用組成物を用いることを特徴とする加熱調理食品の具材周辺部の衣の内層のぬめりを抑制する方法にもある。本発明の方法により、加熱調理用組成物の配合に大きな制限を与えることなく、加熱調理食品の具材周辺部の衣の内層のぬめりを抑制することができる。本発明の方法に用いる前記加熱調理用組成物の好ましい態様は、上述の加熱調理用組成物及び加熱調理食品の製造方法の場合と同様である。
【実施例
【0017】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
1.マグネシウム化合物の溶解性
各マグネシウム化合物が難水溶性を示すかどうかについて調べた。具体的には、各マグネシウム化合物を20℃の水100gに0.1g投入した後スターラーを用いて10分間撹拌(100rpm)し、溶け残りが目視観察されるか否かで判定した。各マグネシウム化合物の溶解性を表1に示した。完全に溶けたものを「可溶」、溶け残りが目視で観察されたものを「不溶」として示した。
【0018】
【表1】
【0019】
2.天ぷらの試験
(1)加熱調理用組成物の調製
各材料を表2~5に示した通りの配合量で混合し、各加熱調理用組成物(すなわち、天ぷら粉又は打ち粉)を調製した。なお、コントロール1~3では化合物を混合しない加熱調理用組成物を調製した。
(2)天ぷらの作製
前記各天ぷら粉100質量部に、160質量部の水を混合し、バッターを調製した。約20g/尾のえび(サイズ:21-25)に、表2及び表3では、各天ぷら粉を打ち粉としてまぶした後、表4では各打ち粉をまぶした後、各バッターを付着させた。その後、175℃で2分間油ちょうして天ぷらを得た。また、表5では、加熱調理方法として油ちょうと焼成を組み合せた場合の影響を調べるため、各天ぷら粉を打ち粉としてまぶした後、各バッターを付着させて175℃で2分間油ちょうした天ぷらを30分間放冷し、冷蔵庫で1日間保存した後、オーブンにて170℃で4分間焼成した。
(3)天ぷらの評価
油ちょうした各天ぷら(表2~4)、又は油ちょう後オーブン加熱(焼成)した天ぷら(表5)を、油ちょう又はオーブン加熱直後にぬめり、歯切れ、かたさを評価し、3時間後に歯切れとかたさを評価した。なお、ぬめりは、より顕著に感じられる油ちょう又は再加熱直後のみに評価した。評価は、専門パネル10名にてコントロール1(表2及び表3)、コントロール2(表4)又はコントロール3(表5)を3点として以下の評価基準で行い、評価結果は、評価点の平均値で示した。
(i)ぬめり
5:コントロールと比較して、ぬめりがなく、非常に良好
4:コントロールと比較して、ぬめりを感じ難く、良好
3:コントロールと同等のぬめりがある
2:コントロールと比較して、ぬめりがやや強く感じられ、悪い
1:コントロールと比較して、ぬめりが強く、非常に悪い
(ii)歯切れ
5:コントロールと比較して、衣の歯切れが良い
4:コントロールと比較して、やや衣の歯切れが良い
3:コントロールと同等
2:コントロールと比較して、やや衣の歯切れ悪い
1:コントロールと比較して、衣の歯切れが悪い
(iii)かたさ
5:コントロールと比較して、衣に適度なかたさがあり、非常に良好
4:コントロールと比較して、衣にやや適度なかたさがあり、良好
3:コントロールと同等
2:コントロールと比較して、衣のかたさがやや硬すぎたり、やや軟らかすぎたりする
1:コントロールと比較して、衣のかたさが硬すぎたり、軟らかすぎたりする
評価結果を表2~5に示す。
【0020】
【表2】
【0021】
【表3】
【0022】
【表4】
【0023】
【表5】
【0024】
表2及び表3に示した通り、難水溶性マグネシウム化合物を0.2~5.0質量%含有する天ぷら粉を用いた実施例1~11の天ぷらは、具材周辺部の衣の内層のぬめりが抑制され、良好であった。一方、マグネシウム化合物であっても、上記条件で水に可溶である塩化マグネシウムを含有する天ぷら粉を用いた比較例1は、具材周辺部の衣の内層のぬめりが抑制されていなかった。また、難水溶性を示したとしても、ステアリン酸カルシウム、リン酸一水素カルシウム、炭酸カルシウム、硫酸カルシウムといったカルシウム化合物を含有する比較例2~5の天ぷら粉を用いた天ぷらは、具材周辺部の衣の内層のぬめりが抑制されていなかった。さらに、表3に示した実施例6~11及び比較例6の結果から、前記天ぷら粉における難水溶性マグネシウム化合物の含有量については、0.2~5.0質量%であることが必要であると示唆された。したがって、難水溶性マグネシウム化合物を0.2~5.0質量%含有する天ぷら粉を用いることによって、天ぷらの具材周辺部の衣の内層のぬめりを抑制し、揚げ物の品質を良好にすることができることが示唆された。なお、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、第三リン酸マグネシウム、及びステアリン酸マグネシウムを含有する天ぷら粉を用いた実施例1~4及び実施例6~10の天ぷらは、天ぷらの品質として重要な歯切れが油ちょう3時間後も良好であった。また、表4に示した通り、天ぷら粉にのみ難水溶性マグネシウム化合物を含有させ、打ち粉には含有させていない実施例12、打ち粉にのみ難水溶性マグネシウム化合物を含有させ、天ぷら粉には含有させていない実施例13及び14においても具材周辺部の衣の内層のぬめりが抑制され、歯切れ、かたさも良好であった。したがって、具材に付着させる打ち粉、又は天ぷら粉のいずれかが難水溶性マグネシウム化合物を上記の範囲で含有していればよいことが示された。さらに、表5に示した通り、油ちょう後に冷蔵保存した天ぷらをオーブンで焼成した実施例15においても、具材周辺部の衣の内層のぬめりが抑制され、歯切れ、かたさも良好であった。したがって、加熱調理後の加熱調理食品を冷蔵・冷凍保存して、さらに加熱調理しても上記効果が得られること、及び加熱調理方法を組み合わせた場合にも上記効果が得られることが示された。
【0025】
3.から揚げの試験
(1)から揚げの作製
各材料を表6に示した通りの配合量で混合し、各加熱調理用組成物を調製した。なお、コントロール4では化合物を混合しない加熱調理用組成物を調製した。各加熱調理用組成物55質量部に50質量部の水を混合してバッターを調製した。次に、鶏もも肉350g(10切れ)に対して、105gの各バッターを揉み込んで付着させた。その後、170℃で4分間油ちょうしてから揚げを得た。
(2)から揚げの評価
油ちょうした各から揚げを、2.(3)の天ぷらの評価と同様に評価した。評価結果を表6に示す。
【0026】
【表6】
【0027】
表6に示した通り、難水溶性マグネシウム化合物を0.5質量%含有する加熱調理用組成物を用いた実施例16のから揚げは、具材周辺部の衣の内層のぬめりが抑制され、良好であった。
【0028】
4.白身魚の衣焼きの試験
(1)白身魚の衣焼きの作製
各材料を表7に示した通りの配合量で混合し、各加熱調理用組成物を調製した。なお、コントロール5では化合物を混合しない加熱調理用組成物を調製した。各加熱調理用組成物100質量部に160質量部の水を混合してバッターを調製した。次に、タラの切り身の両面に各バッターを付着させた後、フライパンで両面を各6分間ずつ焼成して白身魚の衣焼きを得た。
(2)白身魚の衣焼きの評価
焼成した各白身魚の衣焼きを、焼成直後にぬめり、歯切れを評価し、3時間後に歯切れを評価した。評価基準及び評価条件は2.(3)の天ぷらの評価と同様である。評価結果を表7に示す。
【0029】
【表7】
【0030】
表7に示した通り、難水溶性マグネシウム化合物を0.5質量%含有する加熱調理用組成物を用いた実施例17の白身魚の衣焼きは、具材周辺部の衣の内層のぬめりが抑制され、良好であった。したがって、本発明の加熱調理用組成物は、揚げ物、焼き物等のあらゆる加熱調理食品に有効であることが示唆された。
【0031】
以上により、本発明の加熱調理用組成物を用いることにより、具材周辺部の衣の内層のぬめりが抑制された良好な加熱調理食品を製造することができることが示された。
【0032】
なお、本発明は上記の実施の形態の構成及び実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明により、加熱調理用組成物の配合に大きな制限を与えることなく、具材周辺部の衣の内層のぬめりが抑制された良好な加熱調理食品を製造することができる。