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特許7546375樹脂組成物並びにそれを含む成形品、及び当該樹脂組成物からなる層を有するフィルム又はシート
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】樹脂組成物並びにそれを含む成形品、及び当該樹脂組成物からなる層を有するフィルム又はシート
(51)【国際特許分類】
   B65D 81/34 20060101AFI20240830BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20240830BHJP
   C08L 77/00 20060101ALI20240830BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20240830BHJP
【FI】
B65D81/34
C08L29/04 S
C08L77/00
C08K3/36
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020073625
(22)【出願日】2020-04-16
(65)【公開番号】P2021169576
(43)【公開日】2021-10-28
【審査請求日】2022-12-23
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】星加 里奈
【審査官】佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-282727(JP,A)
【文献】特開2015-059216(JP,A)
【文献】国際公開第2015/174396(WO,A1)
【文献】特開2011-178140(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 29/00-29/14
C08L 77/00-77/12
C08K 3/00-13/08
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン単位含有量が20モル%以上60モル%以下であるエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)、ポリアミド樹脂(B)及び酸化ケイ素粒子(C)を含み、酸化ケイ素粒子(C)の比表面積が150m/g以上1000m/g以下であり、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)とポリアミド樹脂(B)の質量比(A/B)が55/45~99/1であり、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)及びポリアミド樹脂(B)の合計量に対する酸化ケイ素粒子(C)の含有量が5ppm以上5000ppm以下である、樹脂組成物を含むレトルト容器
【請求項2】
前記樹脂組成物における酸化ケイ素粒子(C)の平均粒子径が1μm以上30μm以下である、請求項1に記載の樹脂組成物を含むレトルト容器
【請求項3】
前記樹脂組成物において、さらに、二価金属化合物(D)を含有し、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)及びポリアミド樹脂(B)の合計量に対する二価金属化合物(D)の二価金属原子換算の含有量が10ppm以上500ppm以下である、請求項1または2に記載の樹脂組成物を含むレトルト容器
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エチレン-ビニルアルコール共重合体を含む樹脂組成物並びにそれを含む成形品、及び当該樹脂組成物からなる層を有するフィルム又はシートに関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(以下「EVOH」と略記する場合がある)は、酸素、臭気、フレーバー等に対して優れたバリア性を有する樹脂である。そのため、EVOHは食品等の包装材料等に好適に用いられている。このような包装材料に食品等の内容物を充填した後、熱水又は水蒸気による加熱処理(レトルト処理又はボイル処理)がしばしば行われる。しかしながら、EVOHを含む包装材料を熱水又は水蒸気で長時間加熱処理すると、白化スジや部分的な白濁(白化等)、デラミネーション(以下「デラミ」と略記することがある)が生じ、外観が低下するという不都合があり、かかる不都合を解消するための検討が種々なされている。
【0003】
特許文献1には、EVOH、ポリアミド樹脂(以下「PA」と略記する場合がある)及び炭素数6以下の脂肪酸マグネシウム塩を特定量含み、EVOH中とPA中の双方に炭素数6以下の脂肪酸マグネシウム塩が分散している樹脂組成物ペレットが記載されている。そして、当該樹脂組成物ペレットを用いたフィルムは、製膜時の熱安定性に優れ、加熱処理後の外観に優れるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2015/174396号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、包装材の層構成やレトルト処理条件によっては、デラミネーション等の外観不良が発生することがあり、特許文献1に記載の技術では不十分である場合があった。そのため、レトルト処理後の耐デラミ性を改善し、外観に優れるEVOH及びPAを含む樹脂組成物が求められている。
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、透明性に優れるとともに、レトルト処理等の熱水又は水蒸気による加熱処理後であっても、デラミネーション等の外観不良の発生を抑制できる、EVOH及びPAを含む樹脂組成物を提供することを目的とするものである。また、当該樹脂組成物を含む成形品、及び当該樹脂組成物からなる層を有するフィルム又はシートを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は以下に示す樹脂組成物並びにそれを含む成形品、及び当該樹脂組成物からなる層を有するフィルム又はシートを提供する。
【0008】
すなわち、本発明は、
[1]エチレン単位含有量が20モル%以上60モル%以下であるエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)(以下「EVOH(A)」と略記する場合がある)、ポリアミド樹脂(B)(以下「PA(B)」と略記する場合がある)及び酸化ケイ素粒子(C)を含み、EVOH(A)とPA(B)の質量比(A/B)が55/45~99/1であり、EVOH(A)及びPA(B)の合計量に対する酸化ケイ素粒子(C)の含有量が5ppm以上5000ppm以下である、樹脂組成物;
[2]酸化ケイ素粒子(C)の平均粒子径が1μm以上30μm以下である、[1]の樹脂組成物;
[3]さらに、二価金属化合物(D)を含有し、EVOH(A)及びPA(B)の合計量に対する二価金属化合物(D)の二価金属原子換算の含有量が10ppm以上500ppm以下である、[1]または[2]の樹脂組成物;
[4][1]~[3]の樹脂組成物を含む成形品;
[5][1]~[3]の樹脂組成物からなる層を有するフィルム又はシート;
を提供することにより達成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、透明性に優れるとともに、レトルト処理等の熱水又は水蒸気による加熱処理後であっても、デラミネーション等の外観不良の発生を抑制できる、EVOH及びPAを含む樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の樹脂組成物は、エチレン単位含有量が20モル%以上60モル%以下であるEVOH(A)、PA(B)及び酸化ケイ素粒子(C)を含み、EVOH(A)とPA(B)の質量比(A/B)が55/45~99/1であり、EVOH(A)及びPA(B)の合計量に対する酸化ケイ素粒子(C)の含有量が5ppm以上5000ppm以下である。このような構成を満たすことにより、透明性に優れるとともに、レトルト処理等の熱水又は水蒸気による加熱処理後であっても、デラミネーション等の外観不良の発生を抑制できる樹脂組成物が提供される。
【0011】
[EVOH(A)]
本発明の樹脂組成物は、EVOH(A)を含むことでガスバリア性に優れる傾向となる。本発明の樹脂組成物に含まれるEVOH(A)は、主としてエチレン単位とビニルアルコール単位とからなる共重合体であり、エチレン-ビニルエステル共重合体中のビニルエステル単位をケン化して得られるものである。本発明において使用されるEVOH(A)は特に限定されず、溶融成形用途で使用される公知のものを用いることができる。EVOH(A)は、単独で用いることもできるし、2種以上を混合して用いることもできる。
【0012】
EVOH(A)のエチレン単位含有量は、20モル%以上60モル%以下である。エチレン単位含有量が20モル%未満の場合、樹脂組成物の溶融成形性が低下するおそれがあり、24モル%以上が好ましく、26モル%以上がより好ましい。一方、エチレン単位含有量が60モル%を超える場合、ガスバリア性が低下するおそれがあり、48モル%以下が好ましく、46モル%以下がより好ましい。
【0013】
EVOH(A)のケン化度は、特に限定されないが、ガスバリア性を維持するとともに、ロングラン性を発揮させる観点から、95モル%以上が好ましく、98モル%以上がより好ましく、99モル%以上がさらに好ましい。一方、EVOH(A)のケン化度の上限は、100モル%が好ましく、99.99モル%がより好ましい。ケン化度はJIS K6726に準じて測定される値である。
【0014】
EVOH(A)のメルトフローレート(温度210℃、荷重2160gの条件下で、ASTM D1238に記載の方法で測定、以下、「メルトフローレート」を「MFR」と称することがある)は、下限としては0.5g/10分が好ましく、1.0g/10分がより好ましく、2.0g/10分がさらに好ましい。一方、MFRの上限としては、100g/10分が好ましく、50g/10分がより好ましく、25g/10分がさらに好ましい。MFRが上記の範囲の場合には、樹脂組成物の成形性や加工性が向上する。
【0015】
EVOH(A)は、エチレンとビニルエステル及びそのケン化物以外の他の単量体由来の単位を有していてもよい。EVOH(A)が前記他の単量体単位を有する場合、EVOH(A)の全構造単位に対する前記他の単量体単位の含有量は30モル%以下が好ましく、20モル%以下がより好ましく、10モル%以下がさらに好ましく、5モル%以下が特に好ましい。また、EVOH(A)が上記他の単量体由来の単位を有する場合、その下限値は0.05モル%であってもよいし0.10モル%であってもよい。前記他の単量体としては、例えば、プロピレン、ブチレン、ペンテン、ヘキセン等のアルケン;3-アシロキシ-1-プロペン、3-アシロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-3-メチル-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ペンテン、5-アシロキシ-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-1-ペンテン、4-アシロキシ-1-ヘキセン、5-アシロキシ-1-ヘキセン、6-アシロキシ-1-ヘキセン、5,6-ジアシロキシ-1-ヘキセン、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン等のエステル基を有するアルケン又はそのケン化物;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸等の不飽和酸又はその無水物、塩、又はモノ若しくはジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸又はその塩;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β-メトキシ-エトキシ)シラン、γ-メタクリルオキシプロピルメトキシシラン等ビニルシラン化合物;アルキルビニルエーテル類、ビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。EVOH(A)は、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の手法で後変性されていてもよい。
【0016】
EVOH(A)の製造方法としては、例えば、公知の方法に従って、エチレン-ビニルエステル共重合体を製造し、次いで、これをケン化することによってEVOH(A)を製造することができる。エチレン-ビニルエステル共重合体は、例えば、エチレンとビニルエステルとを、メタノール、t-ブチルアルコール、ジメチルスルホキシド等の有機溶媒中、加圧下に、過酸化ベンゾイル、アゾビスイソブチロニトリル等のラジカル重合開始剤を用いて重合させることによって得られる。原料のビニルエステルとしては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ピバリン酸ビニルなどを使用することができるが、これらの中でも酢酸ビニルが好ましい。エチレン-ビニルエステル共重合体のケン化には、酸触媒またはアルカリ触媒を使用することができる。ケン化方法は連続式、回分式いずれも可能である。アルカリ触媒としては水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アルカリ金属アルコラートなどが用いられる。
【0017】
このようにしてEVOH(A)を含む溶液を得て、その後、溶媒が除去される。溶媒を除去する方法は、溶媒の含有率を下げることができる方法であればよく、特に限定されない。EVOH溶液を水などの貧溶媒中に押し出して凝固させることによって、溶媒の含有量を低下させて固化させることができる。また、押出機やニーダ中において、機械的に水を絞り出したり、ベントから水蒸気を蒸発させたりしてもよい。このようにして溶媒を除去した後で、切断されてEVOH(A)ペレットが得られる。切断してEVOH(A)ペレットを得る方法は特に限定されない。凝固させた含水状態のストランドをカッターで切断することもできるし、押出機やニーダ中で含水率を減少させたものを、流動状態のままでホットカッターやアンダーウォーターカッターで切断することもできる。
【0018】
また、乾燥を行うことで、樹脂組成物の含水率を減少させることもできる。この際、乾燥時間の下限としては、例えば3時間である。一方、この上限としては、例えば100時間である。なお、本明細書中においてペレットの乾燥時間とはペレットの含水率が0.5質量%未満となるのに要する時間をいう。
【0019】
乾燥の際の乾燥温度(雰囲気温度)の下限としては、100℃が好ましく、110℃がより好ましく、120℃がさらに好ましく、125℃が特に好ましい。一方、この上限としては、150℃が好ましく、140℃がより好ましい。乾燥温度を上記下限以上とすることで、効率的に十分な乾燥を行うことができ、乾燥時間を短くすることができる。一方、乾燥温度を上記上限以下とすることで、EVOHの熱劣化を抑制することができる。
【0020】
上記乾燥は、空気雰囲気下で行ってもよいが、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。また、上記乾燥は、減圧下で行ってもよいし、除湿しながら行ってもよい。上記乾燥工程における乾燥方法としては特に限定されず、熱風乾燥の他、紫外線照射や赤外線照射により乾燥を行うこともできる。
【0021】
[PA(B)]
本発明の樹脂組成物は、PA(B)を含み、EVOH(A)とPA(B)の質量比(A/B)が55/45~99/1である。PA(B)を当該質量比で含むことにより、ガスバリア性とロングラン性が優れるとともに、レトルト処理等の熱水又は水蒸気による加熱処理後の外観が優れる傾向にある。前記質量比(A/B)が55/45未満の場合、ガスバリア性が悪化するおそれがあり、60/40以上が好ましく、70/30以上がより好ましく、80/20以上がさらに好ましい。一方、前記質量比(A/B)が99/1を超える場合、レトルト処理等の熱水又は水蒸気による加熱処理後の外観が不十分なものとなるおそれがあり、95/5以下が好ましい。
【0022】
PA(B)としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリ-ω-アミノヘプタン酸(ナイロン7)、ポリ-ω-アミノノナン酸(ナイロン9)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリラウリルラクタム(ナイロン12)、ポリエチレンジアミンアジパミド(ナイロン26)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリオクタメチレンアジパミド(ナイロン86)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン106)、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン6/12)、カプロラクタム/ω-アミノノナン酸共重合体(ナイロン6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン6/66)、ラウリルラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン12/66)、エチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン26/66)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン6/66/610)、エチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン26/66/610)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ヘキサメチレンイソフタルアミド/ヘキサメチレンテレフタルアミド共重合体(ナイロン6I/6T)、11-アミノウンデカンアミド/ヘキサメチレンテレフタルアミド共重合体、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン10T)、ポリヘキサメチレンシクロヘキシルアミド、ポリノナメチレンシクロヘキシルアミドあるいはこれらのポリアミドをメチレンベンジルアミン、メタキシレンジアミンなどの芳香族アミンで変性したものが挙げられる。また、メタキシリレンジアンモニウムアジペートなども挙げられる。
【0023】
これらの中でも、レトルト処理等の熱水又は水蒸気による加熱処理後の外観性向上の観点から、カプロアミドを主体とするポリアミド樹脂であることが好ましく、具体的には、PA(B)の構成単位の75モル%以上がカプロアミド単位であることが好ましい。中でも、EVOH(A)との相溶性の観点から、PA(B)がナイロン6であることが好ましい。
【0024】
PA(B)の重合方法としては、特に限定されず、例えば、溶融重合、界面重合、溶液重合、塊状重合、固相重合、またはこれらを組み合わせた方法等、公知の方法を採用することができる。
【0025】
本発明の樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂としては、本発明の効果を阻害しない範囲でEVOH(A)とPA(B)以外のその他の熱可塑性樹脂が含まれていてもよい。当該その他の熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン;ポリエステル;ポリスチレン;ポリ塩化ビニル;アクリル系樹脂;ポリウレタン;ポリカーボネート;ポリ酢酸ビニル等の熱可塑性樹脂が挙げられる。当該その他の熱可塑性樹脂の含有量は、5質量%未満が好ましい。本発明の樹脂組成物を構成する熱可塑性樹脂としては、レトルト処理後の外観特性をより向上させる観点から、95質量%以上がEVOH(A)及びPA(B)であることが好ましく、97質量%以上がEVOH(A)及びPA(B)であることがより好ましく、99質量%以上がEVOH(A)及びPA(B)であることがさらに好ましく、実質的にEVOH(A)及びPA(B)のみからなることが特に好ましい。
【0026】
[酸化ケイ素粒子(C)]
本発明の樹脂組成物は、酸化ケイ素粒子(C)を含み、EVOH(A)及びPA(B)の合計量に対する酸化ケイ素粒子(C)の含有量が5ppm以上5000ppm以下である。酸化ケイ素粒子(C)を当該含有量で含むことにより、透明性に優れるとともに、レトルト処理等の熱水又は水蒸気による加熱処理後であっても、デラミネーション等の外観不良の発生を抑制できることが明らかとなった。酸化ケイ素粒子(C)の含有量は20ppm以上が好ましく、60ppm以上がより好ましく、100ppm以上がさらに好ましく、300ppm以上が特に好ましい。酸化ケイ素粒子(C)の含有量が5ppm未満であると、レトルト処理等の熱水又は水蒸気による加熱処理後の外観が不十分なものになる傾向となる。また、酸化ケイ素粒子(C)の含有量は4500ppm以下が好ましく、3500ppm以下がより好ましく、2300ppm以下がさらに好ましく、1800ppm以下が特に好ましい。酸化ケイ素粒子(C)の含有量が5000ppm超であると、透明性が悪化する傾向となる。
【0027】
本発明で使用される酸化ケイ素粒子(C)は、ケイ素と酸素原子とから構成される酸化ケイ素であり、一酸化ケイ素(SiO)、二酸化ケイ素(SiO)、亜酸化ケイ素(SiOx、1<x<2)が挙げられる。これらは、それぞれ単独で使用してもよいし、複数併用してもよい。酸化ケイ素粒子(C)が、一酸化ケイ素(SiO)、二酸化ケイ素(SiO)及び亜酸化ケイ素(SiOx、1<x<2)からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、中でも、二酸化ケイ素(SiO)であることがより好ましい。酸化ケイ素粒子(C)には、ケイ素以外の他の金属が含まれていても構わない。他の金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、バリウム、アルミニウム、マグネシウム、ジルコニウム、セリウム、タングステン、モリブデン、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛等が挙げられる。他の金属の含有量としては、酸化ケイ素粒子(C)を構成する構成金属及び構成ケイ素の合計量に対して、通常、20モル%以下である。すなわち、酸化ケイ素粒子(C)を構成する構成金属及び構成ケイ素の合計量に対して、ケイ素の含有量は80モル%以上である。ケイ素を当該含有量で含む酸化ケイ素粒子(C)を用いることにより、レトルト処理等の熱水又は水蒸気による加熱処理後であっても、デラミネーション等の外観不良の発生を抑制できる利点を有する。ケイ素の含有量は、酸化ケイ素粒子(C)を構成する構成金属及び構成ケイ素の合計量に対して、85モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、95モル%以上がさらに好ましい。
【0028】
酸化ケイ素粒子(C)の平均粒子径は特に限定されないが、1μm以上30μm以下が好ましい。酸化ケイ素粒子(C)の平均粒子径は、1.5μm以上がより好ましく、1.8μm以上がさらに好ましく、2.2μm以上が特に好ましい。酸化ケイ素粒子(C)の平均粒子径は、20μm以下がより好ましく、15μm以下がさらに好ましく、8μm以下が特に好ましい。酸化ケイ素粒子(C)の平均粒子径を上記範囲内にすることで、より透明性に優れたフィルムを得ることができる。酸化ケイ素粒子(C)の平均粒子径が上記範囲にあれば、酸化ケイ素粒子が凝集した二次粒子であってもよい。なお、酸化ケイ素粒子(C)の平均粒子径は、レーザー回折式粒度分布測定装置を用いて測定することにより求められ、具体的には後述する実施例に記載された方法により測定される。
【0029】
酸化ケイ素粒子(C)の比表面積は特に限定されないが、100m/g以上1000m/g以下が好ましい。酸化ケイ素粒子(C)の比表面積は、150m/g以上がより好ましく、200m/g以上がさらに好ましく、250m/g以上が特に好ましい。酸化ケイ素粒子(C)の比表面積は、900m/g以下がより好ましく、800m/g以下がさらに好ましく、750m/g以下が特に好ましい。なお、酸化ケイ素粒子(C)の比表面積は、BET法により求めることができる。
【0030】
酸化ケイ素粒子(C)のアスペクト比は特に限定されないが、1以上10以下が好ましい。また、酸化ケイ素粒子(C)のアスペクト比は8以下がより好ましく、5以下がさらに好ましく、3以下が特に好ましい。なお、アスペクト比は、SEM法によりSEM写真中の任意の100個の結晶の一次粒子幅(長径)と一次粒子厚み(短径)の測定値の算術平均から求めることができる。
【0031】
[二価金属化合物(D)]
本発明の樹脂組成物は、二価金属化合物(D)を含み、EVOH(A)及びPA(B)の合計量に対する二価金属化合物(D)の二価金属原子換算の含有量が10ppm以上500ppm以下であることが好ましい。前記二価金属化合物(D)の二価金属原子換算の含有量が上記範囲にあることで、溶融成形時のロングラン性に優れる傾向となる。前記二価金属化合物(D)の二価金属原子換算の含有量は10ppm以上がより好ましく、20ppm以上がさらに好ましく、30ppm以上が特に好ましい。また、前記二価金属化合物(D)の二価金属原子換算の含有量は、400ppm以下がより好ましく、300ppm以下がさらに好ましく、200ppm以下が特に好ましい。
【0032】
二価金属化合物(D)を構成する金属原子としては特に限定されないが、マグネシウム、カルシウム、鉄および亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。中でも、溶融成形におけるロングラン性の観点から、二価金属化合物(D)を構成する金属原子が、マグネシウム、カルシウムおよび亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、マグネシウムおよびカルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であることがさらに好ましく、マグネシウムであることが特に好ましい。
【0033】
二価金属化合物(D)としては、上記金属原子を含む脂肪酸塩や二価金属水酸化物が挙げられる。前記脂肪酸塩としては、脂肪酸マグネシウム、脂肪酸カルシウム、脂肪酸鉄および脂肪酸亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。中でも、溶融成形におけるロングラン性の観点から、脂肪酸マグネシウム、脂肪酸カルシウムおよび脂肪酸亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、脂肪酸マグネシウムおよび脂肪酸カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であることがさらに好ましく、脂肪酸マグネシウムであることが特に好ましい。前記脂肪酸としては、炭素数1~30の脂肪酸が挙げられ、中でも炭素数1~7の脂肪酸が好ましく、炭素数1~3の脂肪酸がより好ましく、酢酸であることがさらに好ましい。前記二価金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化鉄および水酸化亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。中でも、溶融成形におけるロングラン性の観点から、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムおよび水酸化亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種であることがより好ましく、水酸化マグネシウムおよび水酸化カルシウムからなる群より選ばれる少なくとも1種であることがさらに好ましく、水酸化マグネシウムであることが特に好ましい。
【0034】
二価金属化合物(D)を構成する全金属原子におけるマグネシウム原子の割合が80モル%以上であることが好適な実施態様である。このことにより、長時間の溶融成形におけるロングラン性に優れる利点を有する。前記割合は90モル%以上がより好ましく、95モル%以上がさらに好ましく、二価金属化合物(D)の二価金属原子は、実質的にマグネシウム原子であることが特に好ましい。
【0035】
本発明の樹脂組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、上記以外の各種添加剤が配合されていてもよい。このような添加剤の例としては、カルボン酸化合物、リン酸化合物、ホウ素化合物、アルカリ金属塩、酸化防止剤、可塑剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、フィラー、他の樹脂等が挙げられ、具体的には下記のものが挙げられる。添加剤の含有量は、通常、10質量%以下であり、5質量%以下が好適であり、1質量%以下がより好適である。
【0036】
本発明の樹脂組成物がカルボン酸化合物を含むと、溶融成形時に着色しにくくなる傾向となる。前記カルボン酸は、モノカルボン酸でも多価カルボン酸でもよく、これらの組み合わせであってもよい。また、前記カルボン酸はイオンであってもよく、かかるカルボン酸イオンは金属イオンと塩を形成していてもよい。モノカルボン酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、カプロン酸、カプリン酸、アクリル酸、メタクリル酸、安息香酸、2-ナフトエ酸等が挙げられ、中でも、酢酸が好ましい。また、多価カルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸等の脂肪族ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;アコニット酸等のトリカルボン酸;1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、エチレンジアミン四酢酸等の4以上のカルボキシ基を有するカルボン酸;酒石酸、クエン酸、イソクエン酸、リンゴ酸等のヒドロキシカルボン酸;オキサロ酢酸、メソシュウ酸、2-ケトグルタル酸等のケトカルボン酸;グルタミン酸、アスパラギン酸等のアミノ酸等が挙げられ、中でもコハク酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸が入手容易である点から好ましい。本発明の樹脂組成物がカルボン酸化合物を含む場合、その含有量は、カルボン酸根換算で0.01μmol/g以上20μmol/g以下が好ましい。
【0037】
本発明の樹脂組成物がリン酸化合物を含むと、溶融成形時に着色しにくくなる傾向となる。前記リン酸化合物は特に限定されず、リン酸、亜リン酸等の各種の酸やその塩等を用いることができる。リン酸塩としては第1リン酸塩、第2リン酸塩、第3リン酸塩のいずれの形で含まれていてもよいが、第1リン酸塩が好ましい。そのカチオン種も特に限定されるものではないが、アルカリ金属塩が好ましい。これらの中でもリン酸2水素ナトリウム及びリン酸2水素カリウムが好ましい。本発明の樹脂組成物がリン酸化合物を含む場合、リン酸化合物の含有量はリン酸根換算で5~200ppmが好ましい。リン酸化合物の含有量が5ppm以上であると、溶融成形時の耐着色性が良好となる傾向にある。一方、リン酸化合物の含有量が200ppm以下であると溶融成形性が良好となる傾向にあり、より好適には160ppm以下である。
【0038】
本発明の樹脂組成物がホウ素化合物を含むと、加熱溶融時のトルク変動を抑制できる傾向となる。前記ホウ素化合物としては特に限定されず、ホウ酸類、ホウ酸エステル、ホウ酸塩、水素化ホウ素類等が挙げられる。具体的には、ホウ酸類としては、オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸などが挙げられ、ホウ酸エステルとしてはホウ酸トリエチル、ホウ酸トリメチルなどが挙げられ、ホウ酸塩としては前記の各種ホウ酸類のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ホウ砂などが挙げられる。これらの化合物のうちでもオルトホウ酸(以下、単にホウ酸と表示する場合がある)が好ましい。本発明の樹脂組成物がホウ素化合物を含む場合、ホウ素化合物の含有量はホウ素元素換算で20~2000ppmが好ましい。ホウ素化合物の含有量が20ppm以上であると、加熱溶融時のトルク変動を抑制できる傾向となり、より好適には50ppm以上である。一方、ホウ素化合物の含有量が2000ppm以下であると、成形性が良好となる傾向にあり、より好適には1000ppm以下である。
【0039】
本発明の樹脂組成物がアルカリ金属塩を含むと、本発明の樹脂組成物を含む層と他の樹脂層との層間接着性が良好になる傾向となる。アルカリ金属塩のカチオン種は特に限定されないが、ナトリウム塩またはカリウム塩が好適である。アルカリ金属塩のアニオン種も特に限定されない。カルボン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、リン酸水素塩、ホウ酸塩、水酸化物等として添加できる。本発明の樹脂組成物がアルカリ金属塩を含む場合、アルカリ金属塩の含有量は金属元素換算で10~500ppmであることが好ましい。アルカリ金属塩の含有量は、より好適には50ppm以上である。一方、アルカリ金属塩の含有量が500ppm以下であると溶融安定性が良好になる傾向となり、より好適には300ppm以下である。
【0040】
酸化防止剤:2,5-ジ-t-ブチルハイドロキノン、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、4,4’-チオビス-(6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレン-ビス-(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’-チオビス-(6-t-ブチルフェノール)等
可塑剤:フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、フタル酸ジオクチル、ワックス、流動パラフィン、リン酸エステル等
紫外線吸収剤:エチレン-2-シアノ-3,3’-ジフェニルアクリレート、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)5-クロロベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン等
帯電防止剤:ペンタエリスリトールモノステアレート、ソルビタンモノパルミテート、硫酸化ポリオレフィン類、ポリエチレンオキシド等
滑剤:エチレンビスステアロアミド、ブチルステアレート等
【0041】
本発明の樹脂組成物の製造方法は特に限定されず、EVOH(A)、PA(B)及び酸化ケイ素粒子(C)をドライブレンドした後に、必要に応じて二価金属化合物(D)及び各種添加剤を添加して溶融混練することによって調製することが好ましい。具体的には、ニーダールーダー、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサーなどの既知の混合装置または混練装置を使用して行うことができる。溶融混練時の温度は、通常、110~300℃である。酸化ケイ素粒子(C)、二価金属化合物(D)及び各種添加剤は、予めEVOH(A)又はPA(B)に含有されていても構わない。また、二価金属化合物(D)が二価金属水酸化物である場合、EVOH(A)、PA(B)及び酸化ケイ素粒子(C)に対して、二価金属化合物(D)を加えてドライブレンドする方法が好適に採用される。本発明の樹脂組成物は、ペレット、粉末などの任意の形態であってよく、安定に溶融成形できる観点からペレットが好ましい。
【0042】
本発明の樹脂組成物は、成形品として好適に用いられる。具体的には、押出成形品、フィルムまたはシート(特に延伸フィルムまたは熱収縮フィルム)、熱成形品、壁紙または化粧板、パイプまたはホース、異形成形品、押出ブロー成形品、射出成形品、フレキシブル包装材、容器(特にレトルト容器)などの成形品が挙げられる。成形品が多層構造体である場合は、共押出フィルムまたは共押出シート、熱収縮フィルム、容器(特に共押出ブロー成形容器、共射出成形容器、レトルト容器)、パイプ(特に燃料パイプまたは温水循環用パイプ)、ホース(特に燃料ホース)などが好ましい。
【0043】
本発明の成形品が、本発明の樹脂組成物からなる層を含む多層構造体である場合、かかる多層構造体は、本発明の樹脂組成物からなる層とは異なる他の層とを積層して形成される。本発明の多層構造体の層構成としては、本発明の樹脂組成物以外の重合体からなる層をx層、本発明の樹脂組成物からなる層をy層、接着性重合体層をz層とすると、x/y、x/y/x、x/z/y、x/z/y/z/x、x/y/x/y/x、x/z/y/z/x/z/y/z/x等が例示される。複数のx層を設ける場合は、その種類は同じであっても異なっていてもよい。また、成形時に発生するトリム等のスクラップからなる回収重合体を用いた層を別途設けてもよいし、回収重合体を他の重合体からなる層にブレンドしてもよい。当該多層構造体の各層の厚さ構成は、特に限定されるものではないが、成形性及びコスト等の観点から、全層厚さに対するy層の厚さ比は2~20%が好ましい。
【0044】
上記のx層に使用される重合体としては、加工性等の観点から熱可塑性重合体が好ましい。かかる熱可塑性重合体としては、例えば次の重合体が挙げられる。
・ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン又はプロピレン共重合体(エチレン又はプロピレンと次の単量体の少なくとも1種との共重合体:1-ブテン、イソブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン等のα-オレフィン;イタコン酸、メタクリル酸、アクリル酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸、その塩、その部分又は完全エステル、そのニトリル、そのアミド、その無水物;ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ビニルブチレート、ビニルオクタノエート、ビニルドデカノエート、ビニルステアレート、ビニルアラキドネート等のカルボン酸ビニルエステル類;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシラン系化合物;不飽和スルホン酸又はその塩;アルキルチオール類;ビニルピロリドン類等);
・ポリ4-メチル-1-ペンテン、ポリ1-ブテン等のポリオレフィン;
・ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル;
・ポリε-カプロラクタム、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリメタキシリレンアジパミド等のポリアミド;
・ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリカーボネート、ポリアクリレート等。
かかる熱可塑性重合体層は無延伸のものであってもよいし、一軸もしくは二軸に延伸又は圧延されているものであっても構わない。
【0045】
これらの熱可塑性重合体のうち、ポリオレフィンは耐湿性、機械的特性、経済性、ヒートシール性等の点で、また、ポリアミドやポリエステルは機械的特性、耐熱性等の点で好ましい。
【0046】
一方、z層に使用される接着性重合体としては、各層間を接着できるものであればよく、ポリウレタン系又はポリエステル系の一液型又は二液型硬化性接着剤、カルボン酸変性ポリオレフィン重合体等が好ましい。カルボン酸変性ポリオレフィン重合体は、不飽和カルボン酸又はその無水物(無水マレイン酸等)を共重合成分として含むオレフィン系重合体又は共重合体;又は不飽和カルボン酸又はその無水物をオレフィン系重合体又は共重合体にグラフトさせて得られるグラフト共重合体である。
【0047】
共射出成形法や共押出成形法等で多層構造体を製造する場合は、接着性重合体はカルボン酸変性ポリオレフィン重合体がより好ましい。特に、x層がポリオレフィン重合体である場合、y層との接着性が良好となる。かかるカルボン酸変性ポリオレフィン重合体を構成するポリオレフィン重合体としては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)等のポリエチレン;ポリプロピレン;共重合ポリプロピレン;エチレン-酢酸ビニル共重合体;エチレン-(メタ)アクリル酸エステル(メチルエステル又はエチルエステル)共重合体等が挙げられる。一方、ドライラミネート法で多層構造体を製造する場合には、ポリウレタン系の二液型硬化性接着剤がより好ましい。この場合、x層に多様な重合体を用いることができるため、多層構造体の機能をより高度なものにすることができる。
【0048】
前記多層構造体を得る方法としては、例えば押出ラミネート法、ドライラミネート法、共射出成形法、共押出成形法等が挙げられる。共押出成形法としては、共押出ラミネート法、共押出シート成形法、共押出パイプ成形法、共押出チューブ成形法、共押出インフレーション成形法、共押出ブロー成形法等が挙げられる。
【0049】
このようにして得られた前記多層構造体のシート、フィルム、パリソン等を、含有される重合体の融点以下の温度で再加熱し、絞り成形等の熱成形法、ロール延伸法、パンタグラフ式延伸法、インフレーション延伸法、ブロー成形法等により一軸又は二軸延伸して、延伸された成形物を得ることもできる。
【0050】
このようにして得られる本発明の樹脂組成物を含む成形品は、透明性に優れるとともに、レトルト処理等の熱水又は水蒸気による加熱処理後であっても、デラミネーション等の外観不良の発生を抑制できるため、包装材や容器として好適に採用され、特にレトルト包装材、レトルト容器に適している。
【実施例
【0051】
以下、本発明を実施例と比較例とを挙げて具体的に説明するが、本発明は以下に示す実施例に限定されない。なお、測定、算出及び評価の方法はそれぞれ以下の方法に従った。
【0052】
<使用した原料>
[EVOH(A)]
・A-1:「エバール(登録商標)L171B」(株式会社クラレ製、EVOHペレット、エチレン単位含有量27モル%、MFR 4.0g/10分(210℃、2160g荷重)、融点190℃)
[PA(B)]
・B-1:「SF1018A」(宇部興産株式会社製、ポリアミド6ペレット、融点220℃)
[酸化ケイ素粒子(C)]
・C-1:「サイリシア(登録商標)310P」(富士シリシア化学株式会社製、平均粒子径2.7μm、比表面積300m/g、構成金属及び構成ケイ素の合計量に対するケイ素の割合96モル%)
・C-2:「サイリシア(登録商標)380」(富士シリシア化学株式会社製、平均粒子径9.0μm、比表面積300m/g、構成金属及び構成ケイ素の合計量に対するケイ素の割合96モル%)
・C-3:「サイリシア(登録商標)530」(富士シリシア化学株式会社製、平均粒子径2.7μm、比表面積500m/g、構成金属及び構成ケイ素の合計量に対するケイ素の割合96モル%)
・C-4:「サイリシア(登録商標)710」(富士シリシア化学株式会社製、平均粒子径2.8μm、比表面積700m/g、構成金属及び構成ケイ素の合計量に対するケイ素の割合96モル%)
[無機層状ケイ酸塩(C’)]
・C’-5:「クニピア-F」(クニミネ工業株式会社製、モンモリロナイト、平均粒子径2.0μm、比表面積25m/g、構成金属及び構成ケイ素の合計量に対するケイ素の割合63モル%)
【0053】
<評価方法>
(1)レトルト処理後の耐デラミ性
実施例及び比較例で得られた、厚み20μmの単層フィルム、二軸延伸ナイロン6フィルム(ユニチカ社製の「エンブレム(登録商標)ONBC」、厚み15μm)及び無延伸ポリプロピレンフィルム(三井化学東セロ社製の「RXC-22」、厚み50μm)をそれぞれA4サイズにカットし、該単層フィルムの両面にドライラミネート用接着剤を塗布し、外層がナイロン6フィルム、内層が無延伸ポリプロピレンフィルムとなるようドライラミネートを実施し、80℃で3分間乾燥させて、3層からなる透明なラミネートフィルムを得た。上記ドライラミネート用接着剤としては三井化学株式会社の「タケラック(登録商標)A-520」を主剤、三井化学株式会社の「タケネート(登録商標)A-50」を硬化剤、希釈液として酢酸エチルを用いたものを使用した。該接着剤の塗布量は4.0g/mとし、ラミネ-ト後、40℃で3日間養生を実施した。
【0054】
得られたラミネートフィルムを2枚用いて、無延伸ポリプロピレンフィルム同士を重ね合わせ12cm×12cm外寸の四方をシールしたパウチを作製した。内容物は水とした。これをレトルト装置(株式会社日阪製作所の高温高圧調理殺菌試験機「RCS-40RTGN」)を使用して、125℃で30分のレトルト処理を実施した。レトルト処理後、表面水を拭き20℃、65%RHの恒温恒湿の部屋で1日放置してから耐デラミ性の評価として、以下の基準で外観特性を判定した。以下の判定基準のうち、A、B及びCが使用可能なレベルである。
判定:基準
A :デラミなし
B :パウチ表面の10%程度がデラミ
C :パウチ表面の20%程度がデラミ
D :パウチ表面の50%程度がデラミ
E :パウチ表面の70%以上がデラミ
【0055】
(2)ヘイズ値
実施例及び比較例で得られた、厚み20μmの単層フィルムについて、ASTM D1003-61に準じて、反射・透過率計「HR-100」(村上色彩技術研究所製)を用いて、ヘイズ値を測定した。
【0056】
(3)酸素透過度(OTR)
実施例及び比較例で得られた、厚み20μmの単層フィルムについて、MOCON INC.製の酸素透過率測定装置「OX-TRAN2/20型」(検出限界値0.01cc・20μm/(m・day・atm))を用いて、温度20℃、湿度65%RHの条件下でJIS K 7126(等圧法)に記載の方法に準じて、酸素透過度(cc・20μm/(m・day・atm))を測定した。
【0057】
(4)二価金属化合物(D)の金属原子換算量の定量
実施例で得られた樹脂組成物ペレット0.5gをアクタック社製のテフロン(登録商標)製耐圧容器に添加し、富士フィルム和光純薬株式会社製の精密分析用硝酸5mLを添加した。30分放置後、ラプチャーディスク付きキャップリップにて容器に蓋をし、アクタック社製のマイクロウェーブ高速分解システム「スピードウェーブ MWS-2」にて150℃10分、次いで180℃10分の条件で分解処理を行った。樹脂組成物ペレットの分解が不十分な場合は、処理条件を適宜調節した。分解処理後の内容物を、10mLのイオン交換水で希釈し、すべての液を50mLのメスフラスコに移しとり、イオン交換水で定容し分解溶液を得た。上記の分解溶液を、パーキンエルマージャパン社製のICP発光分光分析装置「Optima 4300 DV」を用いて測定し、二価金属化合物(D)の金属原子換算量を定量した。
【0058】
(5)ロングラン性評価
実施例で得られた樹脂組成物ペレットを用い、単軸押出装置(株式会社東洋精機製作所、D2020、D(mm)=20、L/D=20、圧縮比=3.5、スクリュー:フルフライト)にて20μmの単層フィルムを連続的に作製した。押出条件は以下のとおりである。
押出温度:230℃
ダイス幅:30cm
引取りロール温度:80℃
スクリュー回転数:40rpm
引取りロール速度:3.0m/分
【0059】
製膜開始から6時間後に得られた単層フィルムを10cm×10cmにサンプリングして目視で確認可能(約50μm以上)なブツ個数を目視でカウントし、実施例2で得られた樹脂組成物ペレットを用いて同様の試験を行った場合のブツ個数との比較を行った。
【0060】
(6)酸化ケイ素粒子(C)の平均粒子径の測定
酸化ケイ素粒子(C)の平均粒子径は、株式会社島津製作所の「レーザー回折式粒度分布測定装置SALD-2200」を用いて測定を行った。評価サンプルは、ガラスビーカーに50ccの純水と測定する酸化ケイ素粒子(C)を5g添加して、スパチュラを用いて撹拌し、その後超音波洗浄機で10分間、分散処理を行った。次に、分散処理を行った酸化ケイ素粒子(C)を含む液を、装置のサンプラ部に添加し吸光度が安定になった時点で測定を行い、粒子の回折/散乱光の光強度分布データから粒子径分布(粒子径と相対粒子量)を計算した。平均粒子径は、測定された粒子径と相対粒子量とを掛けて、相対粒子量の合計で割って求めた。酸化ケイ素粒子(C)の平均粒子径は、樹脂組成物中においても実質的に変化していない。なお、平均粒子径は粒子の平均直径である。
【0061】
<実施例1>
EVOH(A-1)を90質量部、PA(B-1)を10質量部、酸化ケイ素粒子(C-1)を、EVOH(A-1)とPA(B-1)との合計100質量部に対して600ppmとなるようドライブレンドした後に、株式会社日本製鋼所製二軸押出機「TEX30α」(スクリュー径30mm)を用いて、溶融温度230℃、押出速度20kg/hrの条件で溶融押出を行い、押出したストランドを冷却槽で冷却固化した後に切断し、樹脂組成物ペレットを得た。なお、二軸押出機のスクリューとしてはL(スクリュー長)/D(スクリュー径)=3を有する順ズラシニーディングディスク(Forward kneading disk)を用いた。
【0062】
得られた樹脂組成物ペレットを用い、単軸押出装置(株式会社東洋精機製作所、D2020、D(mm)=20、L/D=20、圧縮比=3.0、スクリュー:フルフライト)にて、厚み20μmの単層フィルムを作製した。押出条件は以下に示すとおりである。
押出温度:230℃
ダイス幅:30cm
引取りロール温度:80℃
スクリュー回転数:40rpm
引取りロール速度:3.0m/分
【0063】
得られた単層フィルムについて、上記評価方法(1)~(3)に記載の方法に従って、レトルト処理後の耐デラミ性、ヘイズ値、及び酸素透過度を測定した。結果を表1に示す。
【0064】
<実施例2~6、9~11、比較例1~5>
表1に示す通り、PA(B)の含有量、酸化ケイ素粒子(C)の種類及び含有量を変更した以外は、実施例1と同様の方法で、評価を行った。
【0065】
<実施例7>
実施例2において、樹脂組成物ペレットを作製する際の二軸押出機内で二価金属化合物(D)として酢酸マグネシウムを水溶液としたものを、マグネシウム濃度が表1に記載の濃度となるよう、液添ポンプで添加した以外は、実施例2と同様の方法で樹脂組成物ペレット及び単層フィルムを作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0066】
実施例7で得られた樹脂組成物ペレットについて、上記評価方法(4)に記載の方法に従い、二価金属化合物(D)の金属原子換算量の定量を行った。結果を表1に示す。また、実施例7で得られた樹脂組成物ペレットについて、上記評価方法(5)に記載の方法に従い、ロングラン性評価を行った結果、実施例2の樹脂組成物ペレットを用いた場合と比べ、製膜開始後6時間でのブツ個数を4分の1以下に抑制できることを確認した。
【0067】
<実施例8>
EVOH(A-1)を90質量部、PA(B-1)を10質量部、酸化ケイ素粒子(C-1)を、EVOH(A-1)とPA(B-1)との合計100質量部に対して1200ppm、二価金属化合物(D)として「KISUMA(登録商標)10A」(協和化学工業株式会社製、水酸化マグネシウム)を、EVOH(A-1)とPA(B-1)との合計100質量部に対して45ppm(マグネシウム原子換算)となるようドライブレンドして溶融押出した以外は、実施例2と同様の方法で樹脂組成物ペレット及び単層フィルムを作製し、評価した。結果を表1に示す。
【0068】
実施例8で得られた樹脂組成物ペレットについて、上記評価方法(4)に記載の方法に従い、二価金属化合物(D)の金属原子換算量の定量を行った。結果を表1に示す。また、実施例8で得られた樹脂組成物ペレットについて、上記評価方法(5)に記載の方法に従い、ロングラン性評価を行った結果、実施例2の樹脂組成物ペレットを用いた場合と比べ、製膜開始後6時間でのブツ個数を4分の1以下に抑制できることを確認した。さらに上記評価方法(1)に記載の方法において、125℃で45分の厳しいレトルト条件でレトルト処理を施したところ、デラミや白化などの外観不良のない結果となった。
【0069】
<比較例6>
比較例1において、樹脂組成物ペレットを作製する際の二軸押出機内で酢酸マグネシウムを水溶液としたものを、マグネシウム濃度が表1に記載の濃度となるよう、液添ポンプで添加した以外は、比較例1と同様の方法で樹脂組成物ペレット及び単層フィルムを作製し、評価した。なお、比較例6で得られた樹脂組成物ペレットについて、上記評価方法(4)に記載の方法に従い、二価金属化合物(D)の二価金属原子換算量の定量を行った。結果を表1に示す。
【0070】
【表1】