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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-29
(45)【発行日】2024-09-06
(54)【発明の名称】光源装置及び光源装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/0231 20210101AFI20240830BHJP
   H01S 5/024 20060101ALI20240830BHJP
   H01S 5/026 20060101ALI20240830BHJP
   H01S 5/02212 20210101ALI20240830BHJP
【FI】
H01S5/0231
H01S5/024
H01S5/026 616
H01S5/026 650
H01S5/02212
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023124487
(22)【出願日】2023-07-31
【審査請求日】2023-07-31
(73)【特許権者】
【識別番号】591230295
【氏名又は名称】NTTイノベーティブデバイス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】小杉 敏彦
(72)【発明者】
【氏名】佐原 明夫
(72)【発明者】
【氏名】吉田 英二
(72)【発明者】
【氏名】金澤 慈
(72)【発明者】
【氏名】中西 泰彦
(72)【発明者】
【氏名】小菅 祥平
【審査官】村井 友和
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-108937(JP,A)
【文献】特開2011-108938(JP,A)
【文献】特開2011-108939(JP,A)
【文献】特開2012-064817(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00-5/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステムと、
前記ステムに設けられ、高周波信号を伝達する信号伝搬部と、
前記ステムに搭載され、前記高周波信号を受けて駆動する光半導体光源素子と、
前記高周波信号を前記光半導体光源素子に伝達する高周波線路部が形成された高周波配線基板と、
前記信号伝搬部と前記高周波線路部とを接続する接続部と、を備え、
前記接続部は、
前記信号伝搬部の特性インピーダンスの値と前記高周波線路部の特性インピーダンスの値との間の値の特性インピーダンスを有し、
前記信号伝搬部の実効誘電率の値と前記高周波線路部の実効誘電率の値との間の値の実効誘電率を有する、
光源装置。
【請求項2】
前記信号伝搬部は、同軸線路で構成され、
前記高周波配線基板上には、伝送線路と、前記伝送線路を挟むように位置する一対のグランド電極とを有するコプレーナ線路が形成されている
請求項1に記載の光源装置。
【請求項3】
前記一対のグランド電極の内の一方は、前記高周波配線基板の裏面グランドにビア接地またはキャスタレーションで接地され、
前記一対のグランド電極の内の他方は、前記高周波配線基板の外周面を囲むように設けられた側壁メタルにより前記裏面グランドに接地されている、
請求項2に記載の光源装置。
【請求項4】
前記伝送線路の信号線中心は、前記高周波配線基板の中心からずれている、
請求項3に記載の光源装置。
【請求項5】
前記光半導体光源素子の動作温度を調整する動作温度調整機構と、
前記高周波配線基板と高周波接続手段により接続され、前記光半導体光源素子が搭載され、前記コプレーナ線路と電気的に接続されるパターンが形成されたサブキャリア基板と、をさらに有する、
請求項2に記載の光源装置。
【請求項6】
前記光半導体光源素子は、EML(Electro-absorption Modulated Laser)またはDML(Direct Modulated Laser)であり、出力導波路が光軸に対して3度以上の傾きを有して実装され、半導体光増幅器が一体集積されている、
請求項2に記載の光源装置。
【請求項7】
前記接続部は、
前記信号伝搬部の特性インピーダンスの値と前記高周波線路部の特性インピーダンスの値との中間の値の特性インピーダンスを有し、
前記信号伝搬部の実効誘電率の値と前記高周波線路部の実効誘電率の値との中間の値の実効誘電率を有する、
請求項1に記載の光源装置。
【請求項8】
高周波信号を伝達する信号伝搬部を、ステムに設けること、
前記高周波信号を受けて駆動する光半導体光源素子を、前記ステムに搭載すること、
前記高周波信号を前記光半導体光源素子に伝達する高周波線路部が形成された高周波配線基板を、前記ステムに設けること、
前記信号伝搬部と前記高周波線路部とを接続すること、及び、
前記信号伝搬部と前記高周波線路部との接続部が、前記信号伝搬部の特性インピーダンスの値と前記高周波線路部の特性インピーダンスとの間の値の特性インピーダンスを有し、前記信号伝搬部の実効誘電率の値と前記高周波線路部の実効誘電率の値との間の値の実効誘電率を有するように調整すること、を含む、
光源装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、光通信技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、直接変調レーザー(DML(Direct Modulated Laser))、分布帰還形(DFB(Distributed Feedback))レーザー等の光半導体光源素子をキャンタイプパッケージへ実装する構造が知られている。
【0003】
特許文献1には、光半導体光源素子をキャンタイプパッケージの実装面にサブマウントを介して直接接続することで光半導体光源素子と実装面との間の距離を短縮した上、ワイヤーボンディングのみで信号線を接続する方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1に開示される方法では、光半導体光源素子がサブマウントに直接搭載されているため、光半導体光源素子の配置自由度が低いという課題がある。また、接続部分のワイヤーボンディングは高周波特性劣化の要因となりやすいとの課題もある。
【0005】
このような課題に対応するために、特許文献2には、高周波配線基板を用いてキャンタイプパッケージの実装面と光半導体光源素子とを接続する方法が開示されている。これによれば、光半導体光源素子を実装面から離れた位置に設けることができ、光半導体光源素子の配置自由度を高くすることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-354642号公報
【文献】特開2011-108939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に開示される方法では、高周波配線基板と信号フィードスルー部との間における高周波特性の乱れを抑制することが困難であるとの課題がある。これに対し、特許文献2では、フィードスルーの絶縁体としてガラスを用いた部分と空気を用いた部分とを隣接させて設けることで、高周波特性を改良している。しかし、この方法では、フィードスルーの構造が複雑化し、コストが増加するという課題がある。
【0008】
上記課題を解決するために、本開示は、光半導体光源素子を駆動する高周波信号の伝搬特性を良好に維持しつつ、コストの増加を抑制可能な光源装置及び光源装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本開示に係る光源装置は、通信用キャンパッケージ構造に用いる高周波配線基板において、通常は定数として扱われる基板幅を独立したパラメータとして最適化するという手法を採用する。
【0010】
具体的には、本開示の光源装置は、
ステムと、
前記ステムに設けられ、高周波信号を伝達する信号伝搬部と、
前記ステムに搭載され、前記高周波信号を受けて駆動する光半導体光源素子と、
前記高周波信号を前記光半導体光源素子に伝達する高周波線路部が形成された高周波配線基板と、
前記信号伝搬部と前記高周波線路部とを接続する接続部と、を備え、
前記接続部は、
前記信号伝搬部の特性インピーダンスの値と前記高周波線路部の特性インピーダンスの値との間の値の特性インピーダンスを有し、
前記信号伝搬部の実効誘電率の値と前記高周波線路部の実効誘電率の値との間の値の実効誘電率を有する、ことを特徴とする。
【0011】
また、本開示の光源装置の製造方法は、
高周波信号を伝達する信号伝搬部を、ステムに設けること、
前記高周波信号を受けて駆動する光半導体光源素子を、前記ステムに搭載すること、
前記高周波信号を前記光半導体光源素子に伝達し前記信号伝搬部とは異なる特性インピーダンス及び実効誘電率を有する高周波線路部が形成された高周波配線基板を、ステムに設けること、
前記信号伝搬部と前記高周波線路部とを接続すること、及び、
前記信号伝搬部と前記高周波線路部との接続部が、前記信号伝搬部の特性インピーダンスの値と前記高周波配線基板の特性インピーダンスとの間の値の特性インピーダンスを有し、前記信号伝搬部の実効誘電率の値と前記高周波配線基板の実効誘電率の値との間の値の実効誘電率を有するように調整すること、を含む、ことを特徴とする。
【0012】
これによれば、高周波配線基板と信号伝搬部とを接続する接続部の特性インピーダンス及び実効誘電率を調整するという簡易な方法で、コストの増大を抑制しつつ、高周波信号の伝搬特性を良好に維持可能な光源装置を提供できる。また、高周波配線基板を用いているため、高周波信号を伝達するための信号用ワイヤーボンディングの数や長さを抑制することができる。
【0013】
前記信号伝搬部は、同軸線路で構成され、
前記高周波基板上には、伝送線路と、前記伝送線路を挟むように位置する一対のグランド電極とを有するコプレーナ線路が形成されていることが好ましい。
【0014】
これによれば、電磁放射を抑制し、高周波信号の波形品質を改善することができる。
【0015】
前記一対のグランド電極の内の一方は、前記高周波配線基板の裏面グランドにビア接地またはキャスタレーションで接地され、
前記一対のグランド電極の内の他方は、前記高周波配線基板の外周面を囲むように設けられた側壁メタルにより前記裏面グランドに接地されている、ことが好ましい。
【0016】
これによれば、信号線中心が高周波配線基板の中心からずれていても所望の高周波特性を有するコプレーナ線路を得ることができる。
【0017】
前記伝送経路の信号線中心は、前記高周波配線基板の中心からずれていることが好ましい。
【0018】
このように信号線中心が高周波配線基板の中心からずれていたとしても、上述のように本開示の光源装置によれば、所望の高周波特性を有するコプレーナ線路を得ることができる。
【0019】
前記光半導体光源素子の動作温度を調整する動作温度調整機構と、
前記高周波配線基板と高周波接続手段により接続され、前記光半導体光源素子が搭載され、前記コプレーナ線路と電気的に接続されるパターンが形成されたサブキャリア基板と、をさらに有する、ことが好ましい。
【0020】
本開示では、高周波配線基板を用いているため、ワイヤーボンディングによる高周波特性劣化を改善するために、光半導体光源素子を実装面に近接するように配置する必要がない。つまり、高周波特性の乱れを抑制しつつ、光半導体光源素子の配置自由度が確保される。そして、このように光半導体光源素子の配置自由度が確保されたことで、動作温度調整機構をパッケージ内部の適切な位置に配置することができ、光半導体光源素子を好適に冷却することができる。
【0021】
前記光半導体光源素子は、EML(Electro-absorption Modulated Laser)またはDML(Direct Modulated Laser)であり、出力導波路が光軸に対して3度以上の傾きを有して実装され、半導体光増幅器が一体集積されている、ことが好ましい。
【0022】
このように、半導体光増幅器を設ける場合には、半導体光増幅器を駆動するためのワイヤーボンディングが必要となり、高周波信号の電磁放射による干渉が顕著となりやすい。これに対し、本開示の構成によれば、コプレーナ線路を採用しているため、電磁放射を抑制し、高周波信号の波形品質を改善することができる。
【0023】
前記接続部は、
前記信号伝搬部の特性インピーダンスの値と前記高周波線路部の特性インピーダンスの値との中間の値の特性インピーダンスを有し、
前記信号伝搬部の実効誘電率の値と前記高周波線路部の実効誘電率の値との中間の値の実効誘電率を有する、ことが好ましい。
【0024】
これによれば、より好適に高周波信号の伝搬特性を良好に維持可能な光源装置を提供できる。
【0025】
なお、上記各開示は、可能な限り組み合わせることができる。
【発明の効果】
【0026】
本開示の光源装置によれば、コストの増大を抑制しつつ、光半導体光源素子を駆動する高周波信号の伝搬特性を良好に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】光源装置の通信用キャンパッケージ構造を説明する図である。
図2】高周波配線基板とその周辺の構造を説明する図である。
図3】関連する光源装置の通過特性及び反射特性を説明するグラフである。
図4】実施形態に係る光源装置の通過特性及び反射特性を説明するグラフである。
図5】高周波配線基板とキャリア基板との間の距離を狭くした構造を説明する図である。
図6】光半導体光源素子が光軸に対して所定の角度傾いていることを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本開示は、以下に示す実施形態に限定されるものではない。これらの実施の例は例示に過ぎず、本開示は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0029】
(実施形態1)
本開示の実施形態に係る光源装置301について、図1図4を参照して説明する。
[通信用パッケージ構造の概要]
図1は、光源装置301の通信用パッケージ構造を説明する図である。図2は、高周波配線基板103とその周辺の構造を説明する図である。光源装置301は、ステム113と、キャップ110と、基板部107と、光半導体光源素子111と、動作温度調整機構116と、信号ピン101と、ポスト106と、高周波配線基板103と、を主に備えている。本実施形態では、信号ピン101からの信号は、図2に示すように、信号ピン101と封止ガラス102aとが同軸状をなす信号フィードスルー部204と、接続基板部201と信号ピン101の上部とが接続された接続部203と、高周波線路部202とを介して光半導体光源素子111に伝達される。信号フィードスルー部204は、「信号伝搬部」として機能する。
【0030】
具体的には、光源装置301は、
ステム113と、
ステム113に設けられ、高周波信号を伝達する信号フィードスルー部204と、
ステム113に搭載され、高周波信号を受けて駆動する光半導体光源素子111と、
当該高周波信号を光半導体光源素子111に伝達する高周波線路部202が形成された高周波配線基板103と、
信号フィードスルー部204と高周波線路部202とを接続する接続部203と、を備え、
接続部203は、
信号フィードスルー部204の特性インピーダンスの値と高周波線路部202の特性インピーダンスの値との間の特性インピーダンスを有し、
信号フィードスルー部204の実効誘電率の値と高周波線路部202の実効誘電率の値との間の値の実効誘電率を有する。
【0031】
また、光源装置301の製造方法は、
高周波信号を伝達する信号フィードスルー部204を、ステム113に設けること、
高周波信号を受けて駆動する光半導体光源素子111を、ステム113に搭載すること、
高周波信号を光半導体光源素子111に伝達する高周波線路部202が形成された高周波配線基板103を、ステム113に設けること、及び、
信号フィードスルー部204と高周波線路部202とを接続すること、及び、
接続部203が、信号フィードスルー部204の特性インピーダンスの値と高周波配線基板103の特性インピーダンスとの間の値の特性インピーダンスを有し、信号フィードスルー部204の実効誘電率の値と高周波配線基板103の実効誘電率の値との間の値の実効誘電率を有するように調整すること、を含む。
【0032】
ステム113は、金属製であり、ステム113を図の上下方向に貫通する複数の貫通穴が形成されている。複数の貫通穴には、封止ガラス102a及び102bのいずれかを介して、高周波信号を伝える信号ピン101又はその他の直流バイアスを制御するバイアスピン114が設けられている。信号ピン101及びバイアスピン114のそれぞれは、ステム内面112から上方に突出している。信号ピン101及びバイアスピン114は、封止ガラス102a又は102bによりステム113と接続されフィードスルーとして機能する。封止ガラス102a及び102bのそれぞれは、所定の誘電率を有する絶縁体である。封止ガラス102aは信号ピン101に対応するように形成され、封止ガラス102bはバイアスピン114に対応するように形成されている。本実施形態では、信号ピン101が1つ設けられるとともに、6つのバイアスピン114a、114b、114c、114d、114e、及び114gが設けられている。また、信号ピン101及びバイアスピン114の数に対応するように、封止ガラス102aが1つ、封止ガラス102bが6つ設けられている。
【0033】
具体的には、複数の貫通穴には、封止ガラス102a及び102bのいずれかが圧入されている。ステム113と封止ガラス102a及び102bとの間には、圧縮応力が作用し気密性が保たれている。封止ガラス102aと信号ピン101との間、及び、封止ガラス102bと各バイアスピン114a、114b、114c、114d、114e、及び114fとの間にも、圧縮応力が作用し気密性が保たれている。ステム113には、バイアスピンの他にグランド接続用のピンを任意の本数設けても良い。
【0034】
ステム113は、キャップ110により密閉されている。キャップ110には、光学手段109が設けられている。
【0035】
ステム内面112には下から順に動作温度調整機構116、基板部107、光半導体光源素子111が搭載されている。動作温度調整機構116は、光半導体光源素子111の温度を制御するヒートシンクである。動作温度調整機構116は、例えばペルチェ素子からなる。動作温度調整機構116の下面とステム内面112とは、接触している。また、動作温度調整機構116の上面と基板部107の下面とは、接触している。光半導体光源素子111が動作する際に発生する熱は、動作温度調整機構116及びステム113を介して、外部に放熱される。
【0036】
基板部107は、キャリア基板107aと、サブキャリア基板107bとを有している。キャリア基板107aの下面は、動作温度調整機構116の上面と接触している。キャリア基板107aには、サブキャリア基板107bが実装されている。サブキャリア基板107bには、光半導体光源素子111が実装されている。
【0037】
光半導体光源素子111は、光出射口117を有している。光出射口117から出射された出射光は光学手段109を介してキャップ110の外部へ誘導される。
【0038】
ポスト106は高周波配線基板103を所定の位置に固定するために設けられた構造であるが必須ではない。高周波配線基板103は、高周波線路部202と、接続基板部201とを有している。接続基板部201は、信号ピン101のステム内面112から上方へ突出する部分と接触するように配置されている。接続基板部201と信号ピン101とは、接触することにより、電気的に接続されている。
【0039】
上述のように、本実施形態では、信号ピン101からの信号は、図2に示すように、信号ピン101と封止ガラス102aとが同軸状をなす信号フィードスルー部204と、接続基板部201と信号ピン101の上部とが接続された接続部203と、高周波線路部202とを介して光半導体光源素子111に伝達される。以下、信号フィードスルー部204、接続部203、及び高周波線路部202の特性について、説明する。
【0040】
[フィードスルー部の特性]
信号フィードスルー部204の特性インピーダンスは信号ピン101の直径d1、封止ガラス102aの比誘電率、及び封止ガラス102aの直径d2により決まる。また、信号フィードスルー部204の実効誘電率は、封止ガラス102aの比誘電率により決まる。信号ピン101の直径d1は、キャンパッケージの製造技術に依存する。信号ピン101の直径d1は、小さい場合で0.2mm程度までなら実現が容易である。封止ガラスの比誘電率は低いものでは4.0までなら実現が容易である。これらより信号フィードスルー部204の特性インピーダンスとして50Ωが得られる直径d1は、約1.0mmと見込まれる。信号フィードスルー部204は同軸線路構造であるため、この時の実効誘電率は封止ガラス102aの比誘電率と同じく4.0となる。本発明においては上記の線路構造を用いて詳細を説明するが、上記以外の信号ピンや封止ガラスであっても同様の議論が成り立つ。
【0041】
[接続部の特性]
次に、接続部203の特性について述べる。仮に信号ピン101と接続基板部201とが接触する接続部203を設けない場合、信号ピン101が比誘電率1.0の空気中に位置するため、信号ピン101の特性インピーダンスは50Ωより高くなり、実効誘電率は4.0より低くなる。これに対し、本実施形態では、信号ピン101に接するように接続基板部201を設けているため、高周波配線基板103の持つ比誘電率の影響を受けて、接続部203の局所的な特性インピーダンスおよび実効誘電率は、信号ピン101が空気中に位置する場合と比較して変化する。高周波配線基板103の比誘電率、基板厚みおよび基板幅Wを調整することで接続部203の特性インピーダンスを50Ωに整合させると同時に実効誘電率を制御することが可能である。ここで、高周波配線基板103の誘電率と厚みは、材料の入手性や加工性からあまり調整の自由度がない。そこで、特性インピーダンス及び実効誘電率のおもな調整は、高周波配線基板103の幅Wを用いて行うのが現実的である。本実施形態において、基板幅Wとは、高周波配線基板103の図の左右方向における幅のことをいう。言い換えると、基板幅Wは、高周波線路部202の延びる方向と直交する方向における高周波配線基板103の幅のことを言う。高周波配線基板103の材質としてはアルミナや窒化アルミニウムなど比誘電率9.0前後の高誘電率基板がよく用いられる。本実施形態においてもこれらの高誘電率基板を想定した説明を行うが、上記以外の高誘電率基板であっても同様の議論が成り立つ。
【0042】
[基板幅の決定法]
次に幅Wの決定法の詳細を説明する。ここで、信号フィードスルー部204が特性インピーダンスZ1、実効誘電率ε1を有し、高周波配線基板103上の高周波線路部202が特性インピーダンスZ2、実効誘電率ε2を有し、信号ピン101と接続基板部201との接続部203の特性インピーダンスがZ、実効誘電率εを有するとする。この場合に、高周波配線基板202の基板幅Wを増減することで、特性インピーダンスZをZ1とZ2の中間の値に調整し、前記実効誘電率εをε1とε2の中間の値に調整することで最適な基板幅Wが決定される。なお、Z1とZ2がともに50Ωと見なせる場合にはZも50Ωになる。基板幅Wの調整だけで上記の条件が満たせない場合でも、高周波配線基板103の厚みを変更して基板幅Wを再度最適化することで、所望の範囲の特性インピーダンス及び実効誘電率が得られる。
【0043】
図3は、本実施形態の通信用パッケージ構造を有しない従来の通信用パッケージ構造の高周波特性を示すグラフである。つまり、図3には、信号ピン101と高周波配線基板103とを接触させず、ワイヤーボンディング等で信号ピン101と高周波配線基板103とが接続される構成における、高周波特性が示されている。図4は、本実施形態に係る通信用パッケージ構造の高周波特性を示すグラフである。つまり、図4には、信号ピン101と高周波配線基板103とを接続部203を介して接続部203接続した場合のSパラメータが示されている。各グラフを比較すると、接続部203を設けることにより反射特性S11および通過特性S21が改善することがわかる。具体的には、各グラフを比較すると、周波数が25GHz~35GHzの範囲で、通過損失のdB単位での絶対値が半分以下に減少し、1dBを十分に下回ることが分かる。また、図3及び4より高周波特性の改善は高周波側ほど顕著であり、本発明による通信用パッケージ構造を用いることでより広帯域な通信装置が得られることがわかる。このように、本実施形態では、通常は定数として扱われる高周波配線基板103の基板幅独立したパラメータとして最適化することで、接続部203における高周波特性の乱れを抑制することができる。これにより、簡易且つ低コストで、高周波信号の伝搬特性を良好に維持可能な、光源装置301を提供することができる。また、高周波配線基板103を用いているため、光半導体光源素子111と実装面との間のワイヤーボンディングの数や長さを抑制することができる。このため、本実施形態では、ワイヤーボンディングによる高周波特性劣化を改善するために、光半導体光源素子111を実装面に近接するように配置する必要がない。つまり、本実施形態では、高周波特性の乱れを抑制しつつ、光半導体光源素子111の配置自由度が確保される。そして、このように光半導体光源素子111の配置自由度が確保されたことで、動作温度調整機構116をパッケージ内部の適切な位置に配置することができる。
【0044】
(実施形態2)
本開示の実施形態に係る光源装置301について、図1図2及び図5を参照し説明する。図5は、高周波配線基板103とキャリア基板107aとの間の距離を狭くした構造を説明する図である。
【0045】
[高周波配線基板の配置決定]
通信用パッケージ構造においては、各構成要素の機能や構成要素間の配置上の制限等に応じて、各構成要素の配置が決定される。ここで、実施形態1において、高周波配線基板103に高誘電率基板を用いて上記の基板幅Wの最適化を実施すると、基板幅Wが小さく(狭く)なることにより、高周波配線基板103の光半導体光源素子111等に対する配置が上記の配置上の制限を逸脱するおそれがある。例えば、図2に示す高周波配線基板103とキャリア基板107a間の距離Dが所望の値より大きくなる。この場合でも、図5に示すように、高周波配線基板103をキャリア基板107a側へ寄せて配置することで距離Dを距離D´へ狭めることが可能である。これにより、高周波配線基板103のキャリア基板107aに対する配置を、上記の配置上の制限内に収めることができる。
【0046】
[高周波配線基板の配置変更に伴う電磁放射の抑制]
しかしながら、最適化された基板幅Wを維持しつつ上記の高周波配線基板103の配置調整を行うと、高周波線路部202の信号線中心Oが高周波配線基板103の中心線Cと必ずしも一致しなくなるおそれがある。
【0047】
このため、本実施形態においては、高周波線路部202として、伝送線路208と、信号線路を挟み込むように高周波配線基板103上に設けられた一対のグランド電極104b及び104cとからなる、コプレーナ線路を採用している。つまり、伝送線路208と、一対のグランド電極104b及び104cとは、高周波配線基板103における同一面に設けられている。なお、伝送線路208の一部と、一対のグランド電極104b及び104cの一部とは、サブキャリア基板107bに設けられている。当該サブキャリア基板107b上に設けられた高周波線路部202の一部は、高周波配線基板103上の高周波線路部202と信号用ワイヤーボンディング122を介して接続されている。具体的には、ワイヤーボンディング122は、サブキャリア基板107bと高周波配線基板103との間を直接電気的に接続する。本実施形態では、ワイヤーボンディング122として、サブキャリア基板107bと伝送線路208とを直接電気的に接続するシグナルワイヤーボンディングと、キャリア基板107bと一対のグランド電極104b及び104cとを直接電気的に接続するGNDワイヤーボンディングとが設けられている。各ワイヤーボンディングについて、ワイヤーを2本用いてボンディングするダブルボンディングとすることも可能である。これによれば、通過特性がさらに改善される。また、ワイヤー長は、任意に変更することができる。ワイヤー長が短い程、特性は改善される。グランド電極104cは、ビア接地105a、105b、及び105cを介して、あるいはキャスタレーションにより高周波配線基板103の裏面グランドへ接地されている。グランド電極104bは、高周波配線基板103の外周面を囲むように設けられた側壁メタル104aを介して高周波配線基板103の裏面グランドに接地されている。このようにグランド電極104b及び104cが接地されていることにより、信号線中心Oが高周波配線基板103の中心線Cからずれた位置にあっても所望の高周波特性を有するコプレーナ線路を得ることが可能である。つまり、本実施形態では、コプレーナ線路を採用することにより、信号の電磁放射の発生を抑制し信号の波形品質の劣化を抑制することができる。なお、図2に示すように、伝送線路部208だけが高周波線路部202として、規定されてもよい。
【0048】
上記のような高周波特性を有するコプレーナ線路が可能となる理由は、伝送線路208とグランド電極104b、10cとを高周波配線基板103における同一面に設けることにより、コプレーナ線路の伝搬モードを伝送線路208の近傍に集中させることができ、基板幅Wが変化しても伝搬特性に影響が無いためである。これに対し、コプレーナ線路の代わりにマイクロストリップ線路を用いると、グランド電極が伝送線路とは反対側の面に設けられるため、伝搬モードは高周波配線基板103の基板幅Wを超えてはみ出しやすく、信号線中心Oに対して非対称なモードが発生する。これにより信号の電磁放射が発生するため、信号の波形品質が劣化する問題が生じる。
【0049】
このように、本実施形態では、高周波配線基板103の配線として電磁放射の少なくコプレーナ線路を採用することで、通常は高周波配線基板103の中央に配置される高周波配線の位置を中央以外の位置へ移動させるような基板幅Wの調整幅の拡大および光半導体光源素子111と高周波配線基板103との間の位置調整が可能である。
【0050】
(実施形態3)
本開示の実施形態に係る光源装置301について、図1及び図6を参照し説明する。図6は、光半導体光源素子111が光軸108に対して所定の角度傾いていることを説明する図である。
【0051】
光半導体光源素子111がEML(Electro-absorption Modulated Laser)またはDML(Direct Modulated Laser)118であり、光半導体光源素子111の出力導波路が光軸108に対して3°以上の傾きを有して実装されている。このように光半導体光源素子11の出力導波路を光軸108に対して傾かせる理由は、レーザー光出力は光半導体光源素子111の出力側端面の法線から少し傾いた指向性を持つため、その向きに合わせて光半導体111を回転して実装する必要があるからである。光出射口117から出射された出射光は、光学手段109でキャップ110の外部へ導かれる。具体的には、光出射口117からの出射光は、光学手段109内部に設けられたレンズ部またはミラー部により、光軸108に対して光軸合わせされたうえで、キャップ110の外部へ導かれる。光半導体光源素子111の配置は、光学手段109の機能や特性に応じて決定される。本実施形態では、高周波配線基板103を採用しており、光半導体光源素子111の配置自由度が高いため、光学手段109の機能構造に応じて、適切に光半導体光源素子111を配置することができる。
【0052】
また、光半導体光源素子111には半導体光増幅器119が一体集積されており、出射光から得られる電力を増加させることを可能とする。半導体光増幅器119を内包する光半導体光源素子111においては、EMLまたはDML118の信号用ワイヤーボンディング121以外に半導体光増幅器119を駆動するためのワイヤーボンディング120も必要となり、信号の電磁放射による干渉が顕著となりやすい課題がある。具体的には、信号用ワイヤーボンディング121としては、RF信号用であるため、できる限り低反射かつ低放射であることが好ましい。このため、ワイヤーボンディング121は技術的に可能な最短距離で接続されるとともに、ワイヤーボンディング121だけは他のワイヤーボンディングとは異なる機種のボンダーで接続されている。また、ワイヤーボンディング120はDCバイアス用のため、ステム113のバイアスピン114aまでかなり長いワイヤー長で接続する必要がある。ただし、それ以外に、ワイヤーボンディング120の長さ・形状に対する制約は少ない。これに対し、本実施形態では、コプレーナ線路を導入し、さらに伝送線路208の線幅をより狭くすることで電磁放射を抑制し、信号の波形品質を改善することが可能である。
【符号の説明】
【0053】
101:信号ピン
102a、102b:封止ガラス
103:高周波配線基板
104a:側壁メタル
105a、105b、105c:ビア接地
106:ポスト
107:基板部
107a:キャリア基板
107b:サブキャリア基板
108:光軸
109:光学手段
110:キャップ
111:光半導体光源素子
112:ステム内面
113:ステム
114、114a、114b、114c、114d、114e、114f:バイアスピン
116:動作温度調整機構
117:光出射口
118:EML又はDML
119:半導体光増幅器
120:ワイヤーボンディング
121、122:信号用ワイヤーボンディング
201:接続基板部
202:高周波線路部
203:接続部
204:信号フィードスルー部
208:伝送線路
301:光源装置
【要約】      (修正有)
【課題】本開示は、コストの増大を抑制しつつ、光半導体光源素子を駆動する高周波信号の伝搬特性を良好に維持することができる光源装置を提供することを目的とする。
【解決手段】光源装置は、ステムに設けられ高周波信号を伝達する信号フィードスルー部204と、ステムに搭載され高周波信号を受けて駆動する光半導体光源素子と、高周波信号を光半導体光源素子に伝達する高周波線路部202が形成された高周波配線基板103と、信号フィードスルー部と高周波線路部とを接続する接続部203を有し、接続部は、信号フィードスルー部の特性インピーダンスの値と高周波線路部の特性インピーダンスの値との間の値の特性インピーダンスを有し、信号フィードスルー部の実効誘電率の値と高周波線路部の実効誘電率との間の値の実効誘電率を有する。
【選択図】図2
図1
図2
図3
図4
図5
図6