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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】基板の加工方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20240902BHJP
   B24B 27/06 20060101ALI20240902BHJP
   B23D 45/02 20060101ALI20240902BHJP
   B23D 5/02 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
H01L21/78 F
B24B27/06 M
B23D45/02 A
B23D5/02
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020135939
(22)【出願日】2020-08-11
(65)【公開番号】P2022032303
(43)【公開日】2022-02-25
【審査請求日】2023-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 貴之
(72)【発明者】
【氏名】小池 和裕
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-093349(JP,A)
【文献】特開2018-181899(JP,A)
【文献】特開2013-120856(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
B24B 27/06
B23D 45/02
B23D 5/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面に銅膜が設けられた基板を加工する基板の加工方法であって、
該基板を分割予定線に沿って砥粒を有さない鋸刃によって加工し、該銅膜を分断する加工溝を形成する加工溝形成ステップと、
砥粒を含み該加工溝の幅よりも小さい厚さの切り刃を有する切削工具で該基板の該加工溝の下方の領域に切り込み、該基板を該分割予定線に沿って切削することによって該基板を複数の矩形基板に分割する分割ステップと、
該分割ステップの後、少なくとも一つの該矩形基板の該銅膜の上面をバイト工具でバイト切削して平坦化する平坦化ステップと、
を備えることを特徴とする基板の加工方法。
【請求項2】
上面に銅膜が設けられた基板を加工する基板の加工方法であって、
砥粒を含む切り刃を備える切削工具によって該基板を分割予定線に沿って切削することで該基板を複数の矩形基板に分割する分割ステップと、
少なくとも一つの該矩形基板の該銅膜の切断面に砥粒を有さない鋸刃を接触させ、該銅膜の該切断面に残留する該切削工具の該砥粒を除去する砥粒除去ステップと、
該砥粒除去ステップの後、該銅膜から該砥粒が除去された該矩形基板の該銅膜の上面をバイト工具でバイト切削して平坦化する平坦化ステップと、
を備えることを特徴とする基板の加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅膜が表面に形成された基板を分割し、該銅膜が平坦化された個々の矩形基板を得る基板の加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やパソコン等の電子機器に使用されるデバイスチップは、表面に複数のデバイスが形成された半導体ウェーハを分割することで形成される。近年、デバイスチップの小型化及び薄型化への要求が著しく、また、デバイスチップの実装面積の小面積化も求められている。
【0003】
そこで、ボンディング・ワイヤーによる内部配線を行わずウェーハ表面に直接バンプと呼ばれる金属突起を形成し、該ウェーハの表面とともにバンプを封止材で封止し、ウェーハを分割して個々のパッケージ化されたチップを得る技術が実用化されている。この技術で得られるデバイスチップは、WL-CSP(Wafer-level Chip Size Package)と呼ばれる(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
デバイスチップの表面のバンプを電極として実装基板に形成された銅膜等で構成される電極に直接接合させてデバイスチップを該実装基板に実装すると、デバイスチップの実装面積を小さくできる。しかしながら、デバイスチップの表面に形成された複数のバンプの高さは不均一であるため、このままではすべてのバンプを一様に実装基板の電極に接合できない。
【0005】
そこで、ダイヤモンドチップからなる切り刃を有するバイト工具が装着されたバイト切削装置(サーフェイスプレーナー)でデバイスチップの表面を切削し、封止材ごとバンプの上端部をバイト切削する。すると、封止材が薄化されるとともに、各バンプの高さが揃えられる(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-7135号公報
【文献】特許第4249827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
デバイスチップの表面の平坦性が上がるとともに、各デバイスチップが実装される実装基板においても表面の高い平坦性が求められる。そこで、実装基板の一方の面または両方の面に形成された銅膜を同様にバイト工具でバイト切削し、該銅膜の表面を平坦化することも考えられる。
【0008】
ここで、実装基板は、大判の基板から所定の大きさに切り出されて形成される。該基板の切断には、ダイヤモンド砥粒と、該ダイヤモンド砥粒を分散固定する結合材と、からなる円環状の切り刃を備える切削工具(切削ブレード)が使用される。そして、切削工具で該基板を切削する際には、該切削工具を回転させて切り刃を該基板に切り込ませる。このとき、切り刃に含まれていた一部のダイヤモンド砥粒が銅膜の切断面に付着する。
【0009】
そのため、形成された実装基板の銅膜の切断面には、ダイヤモンド砥粒が付着している。そして、ダイヤモンド砥粒が付着した銅膜を有する実装基板をバイト工具でバイト切削すると、該ダイヤモンド砥粒にバイト工具が当たり該バイト工具に損傷が生じる。そのため、バイト工具を頻繁に交換する必要があり、平坦化された銅膜を表面に有する実装基板を得るための時間的コスト及び金銭的コストが高くなるとの問題が生じていた。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、バイト工具に損傷を生じさせることなく、平坦化された銅膜を表面に有する矩形基板を得られる基板の加工方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様によれば、上面に銅膜が設けられた基板を加工する基板の加工方法であって、該基板を分割予定線に沿って砥粒を有さない鋸刃によって加工し、該銅膜を分断する加工溝を形成する加工溝形成ステップと、砥粒を含み該加工溝の幅よりも小さい厚さの切り刃を有する切削工具で該基板の該加工溝の下方の領域に切り込み、該基板を該分割予定線に沿って切削することによって該基板を複数の矩形基板に分割する分割ステップと、該分割ステップの後、少なくとも一つの該矩形基板の該銅膜の上面をバイト工具でバイト切削して平坦化する平坦化ステップと、を備えることを特徴とする基板の加工方法が提供される。
【0013】
本発明の他の一態様によれば、上面に銅膜が設けられた基板を加工する基板の加工方法であって、砥粒を含む切り刃を備える切削工具によって該基板を分割予定線に沿って切削することで該基板を複数の矩形基板に分割する分割ステップと、少なくとも一つの該矩形基板の該銅膜の切断面に砥粒を有さない鋸刃を接触させ、該銅膜の該切断面に残留する該切削工具の該砥粒を除去する砥粒除去ステップと、該砥粒除去ステップの後、該銅膜から該砥粒が除去された該矩形基板の該銅膜の上面をバイト工具でバイト切削して平坦化する平坦化ステップと、を備えることを特徴とする基板の加工方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様に係る基板の加工方法では、砥粒を含まない鋸刃で基板の上面に設けられた銅膜を切断する。または、砥粒を含む切削工具で銅膜を切断した後、該銅膜の切断面に鋸刃を接触させて該切断面に残留する該砥粒を除去する。そのため、該基板から分割されて形成された矩形基板の該銅膜を平坦化する際に該銅膜に砥粒が付着しておらず、該バイト工具が砥粒に接触することはない。すなわち、バイト工具に損傷を生じさせることがなく、バイト工具の交換頻度を低減できる。
【0015】
したがって、本発明によりバイト工具に損傷を生じさせることなく、平坦化された銅膜を表面に有する矩形基板を得られる基板の加工方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1(A)は、加工される基板を模式的に示す斜視図であり、図1(B)は、基板が分割されることで形成された矩形基板を模式的に示す斜視図である。
図2】分割ステップを模式的に示す斜視図である。
図3図3(A)及び図3(B)は、分割ステップを模式的に示す側面図である。
図4】バイト切削装置を模式的に示す斜視図である。
図5】矩形基板をバイト切削装置で平坦化する様子を模式的に示す側面図である。
図6図6(A)は、加工溝形成ステップを模式的に示す側面図であり、図6(B)は、分割ステップを模式的に示す側面図である。
図7図7(A)は、分割ステップを模式的に示す側面図であり、図7(B)は、砥粒除去ステップを模式的に示す側面図である。
図8図8(A)は、一例に係る基板の加工方法の各ステップの流れを説明するフローチャートであり、図8(B)は、他の一例に係る基板の加工方法の各ステップの流れを説明するフローチャートであり、図8(C)は、さらに他の一例に係る基板の加工方法の各ステップの流れを説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。まず、本実施形態に係る基板の加工方法で加工される基板について説明する。図1(A)には、基板1を模式的に示す斜視図が含まれている。基板1は、板状の基材層5と、該基材層5の表裏面に設けられた銅膜3,7と、を有する。
【0018】
図1(A)に示す通り、基板1には、互いに交差する複数の分割予定線9が設定される。最終的に該分割予定線9に沿って基板1が分割されると、デバイスチップが実装される実装基板等となる矩形基板11(図1(B)参照)が形成される。
【0019】
例えば、基材層5は、耐燃性の紙、ガラス、または金属等と、フェノール樹脂、エポキシ樹脂等の樹脂と、の積層構造を有している。基材層5には、金属配線等が含まれていてもよい。基材層5の表面及び裏面の一方、または両方には、銅膜3,7が設けられている。銅膜3,7は、所定の形状にパターニングされており、例えば、基板1から形成された矩形基板11にデバイスチップ等が実装される際、デバイスチップの電極が接触して該電極との間で導通が確保される端子として機能する。
【0020】
デバイスチップの表面に設けられたバンプを均質に矩形基板11に接合するために、各バンプの上面は、例えば、バイト切削装置(サーフェイスプレーナー)によりバイト切削されることで平坦化されるともに高さが統一される。そして、近年、バンプが接合される矩形基板11の端子となる銅膜3,7の表面にも平坦性が求められており、基板1が分割されて形成された矩形基板11の銅膜3,7がバイト切削されていた。
【0021】
しかしながら、基板1を分割予定線9に沿って円環状の切削工具で分割する際、該切削工具の切り刃に含まれるダイヤモンド砥粒が基板1の銅膜3,7の切断面に付着してしまう。すなわち、矩形基板11の銅膜3,7の切断面には、ダイヤモンド砥粒が付着している。この状態で、矩形基板11の銅膜3,7をバイト工具でバイト切削すると該バイト工具にダイヤモンド砥粒が接触するため、該バイト工具に損傷が生じて頻繁な交換が必要となる。したがって、矩形基板11の生産効率は低かった。
【0022】
そこで、本実施形態に係る基板の加工方法では、銅膜3,7をバイト切削して平坦化するバイト工具にダイヤモンド砥粒が接触するのを防止し、バイト工具に損傷を生じさせない。すなわち、基板1を矩形基板11に分割する際に、銅膜3,7にダイヤモンド砥粒を付着させない。または、銅膜3,7に付着したダイヤモンド砥粒を除去する。
【0023】
次に、本実施形態に係る基板の加工方法で使用される切削装置と、バイト切削装置(サーフェイスプレーナー)と、について説明する。図2等には、切削装置2の一部を模式的に示す斜視図が含まれている。図4は、バイト切削装置18を模式的に示す斜視図である。
【0024】
まず、基板1を分割予定線9に沿って切削する切削装置2について図2図3(A)、及び図3(B)を用いて説明する。切削装置2は、Y軸方向に沿ったスピンドル6と、該スピンドル6の基端側を回転可能に収容するスピンドルハウジング4と、該スピンドル6の先端に設けられたフランジ機構8により該スピンドル6に固定された切削工具10と、を備える。
【0025】
フランジ機構8は、スピンドル6の先端に固定できる前フランジ8aと、前フランジ8aよりもスピンドルハウジング6に近い位置で該スピンドル6に固定された後フランジ8bと、を有する。切削工具10は、前フランジ8a及び後フランジ8bに挟持されることでスピンドル6の先端部に固定される。
【0026】
スピンドルハウジング4は、図示しない昇降機構により支持されており、該昇降機構により昇降可能である。また、スピンドルハウジング4の内部には、スピンドル6を回転させる図示しないモータ等の回転駆動源が設けられている。該回転駆動源を作動させると、スピンドル6の先端に装着された切削工具10が回転する。
【0027】
切削工具10は、円環状の切り刃14を備える。主に銅膜3,7を切削する際に使用される切削工具10の切り刃14は複数の鋸刃が外周に形成されており、該切削工具10はメタルソー(超硬カッター)と呼ばれる。切り刃14は、例えば、タングステンカーバイド(WC)等の炭化物をコバルト、ニッケル等の鉄属金属をバインダーとして焼結結合させた合金で形成される。
【0028】
切削装置には、切削工具10に代えて、基材層5を好適に切削できる図6(B)に示す切削工具68や図7(A)に示す切削工具68aが装着されてもよい。図6(B)及び図7(A)には、切削工具68,68aが装着された切削装置62の一部を模式的に示す側面図が含まれている。
【0029】
基板1を切削して分割する際に使用される切削工具68,68aの切り刃72,72aは、ダイヤモンド砥粒と、該ダイヤモンド砥粒を分散固定する樹脂、金属、セラミックス等の材料で形成された結合材と、を備える。切り刃72,72aは、アルミニウム等で形成された円環状の基台70,70aの外周部に固定されている。
【0030】
回転する切削工具68,68aを被加工物に切り込ませると結合材から露出したダイヤモンド砥粒が該被加工物に接触し、該被加工物が切削される。被加工物を切削するうちにダイヤモンド砥粒が消耗するが、結合材も消耗して新たなダイヤモンド砥粒が露出するようになるため、切削工具68,68aの切削能力が維持される。
【0031】
切削装置2は、被加工物を支持して吸引保持するチャックテーブル16(図3(A)及び図3(B)等参照)を備え、切削装置62は、チャックテーブル64(図6(B)及び図7(A))を備える。る。チャックテーブル16,64と、切削工具10,68,68aと、はチャックテーブル16,64の上面に平行な方向(例えば、X軸方向)に相対的に移動可能である。また、チャックテーブル16,64は、上面に垂直な軸の周りに回転可能である。
【0032】
次に、図4等を用いてバイト切削装置18について説明する。バイト切削装置18は、各構成要素を支持する基台20を備え、基台20の後端部にはコラム22が立設されている。コラム22には、上下方向(Z軸方向)に沿った一対のガイドレール24が固定されている。この一対のガイドレール24には、上下方向に移動可能にバイト切削ユニット26が装着されている。
【0033】
バイト切削ユニット26は、スピンドルハウジング28と、スピンドルハウジング28を支持する支持部30を有しており、支持部30が一対のガイドレール24に沿って上下方向に移動する移動基台32に取り付けられている。
【0034】
バイト切削ユニット26は、スピンドルハウジング28中に回転可能に収容されたスピンドル34と、該スピンドル34を回転駆動するモータ36と、該スピンドル34の先端に固定されたホイールマウント38と、を備える。ホイールマウント38には、バイトホイール40が着脱可能に装着されている。
【0035】
図5には、バイト切削ユニット26の一部を模式的に示す側面図が含まれている。バイトホイール40は、ステンレス鋼等で形成された円環状または円板状のホイール基台42と、該ホイール基台42の下面に装着されたバイト工具44と、を有する。バイト工具44の先端には、ダイヤモンドチップ等の切り刃44aが固定されている。
【0036】
バイト切削装置18は、バイト切削ユニット26を一対のガイドレール24に沿って上下方向に移動するボールねじ46と、該ボールねじ46を回転させるパルスモータ48と、を備えるZ軸移動機構50を備えている。移動基台32の裏面(背面)には該ボールねじ46に螺合されたナット部(不図示)が設けられており、パルスモータ48を駆動してボールねじ46を回転させると、バイト切削ユニット26が上下方向に移動する。
【0037】
基台20の上面には凹部20aが形成されており、この凹部20aにチャックテーブル機構52が配設されている。チャックテーブル機構52は、テーブルベース54と、該テーブルベース54上に搭載されたチャックテーブル56と、備える。チャックテーブル56は、基板1から形成される矩形基板11と同様の大きさ及び平面形状の多孔質部材を上面し、該上面が保持面56aとなる。該多孔質部材は、例えば、上面に該多孔質部材を収容できる大きさの凹部を備え、該凹部に該多孔質部材が収容されている。
【0038】
チャックテーブル機構52は、一端に該多孔質部材が接続され、他端にポンプやアスピレーター等で構成される吸引源(不図示)が接続された吸引路(不図示)を備える。保持面56aに基板1を載せ、該吸引源を作動させると、該チャックテーブル機構52は、基板1を吸引保持できる。
【0039】
テーブルベース54の下方には、該テーブルベース54をY軸方向に沿って移動させるボールねじ式等のY軸移動機構(不図示)が設けられている。該Y軸移動機構を作動させると、チャックテーブル機構52がY軸方向に沿って移動する。
【0040】
チャックテーブル機構52の図示しないY軸移動機構は、テーブルベース54と、バイト切削装置18の基台20の固定部と、の間に配設された蛇腹58により覆われている。基台20の前端部には、加工条件等を入力するためのインターフェースとなる操作パネル60が設けられている。
【0041】
次に、本実施形態に係る基板の加工方法の各ステップについて説明する。図8(A)は、本実施形態に係る基板の加工方法の各ステップの流れを説明するフローチャートである。本実施形態に係る基板の加工方法では、基板1を分割予定線9に沿って鋸刃によって切断し、該基板1を複数の矩形基板11に分割し、形成された矩形基板11の少なくとも一つの銅膜3,7の上面をバイト工具44でバイト切削して平坦化する。
【0042】
まず、鋸刃を有する切削工具10で分割予定線9に沿って基板1を切断し、基板1を複数の矩形基板11に分割する分割ステップS10を実施する。図2は、分割ステップS10を模式的に示す斜視図であり、図3(A)及び図3(B)は、分割ステップS10を模式的に示す側面図である。分割ステップS10では、各図に示した切削装置2を使用する。
【0043】
分割ステップS10では、まず、チャックテーブル16の上に基板1を載せ、チャックテーブル16で基板1を吸引保持する。次に、切削工具10と、チャックテーブル16と、をチャックテーブル16の上面に平行な方向に相対的に移動させ、加工送り方向(X軸方向)に沿って切削工具10の切り刃14と、一つの分割予定線9と、を並べる。
【0044】
そして、スピンドル6を回転させることで切削工具10を毎分約30,000回転の回転速度で回転させる。その後、基板1と、切削工具10と、を加工送り方向に相対的に移動させ、鋸刃を有する切り刃14を基板1に切り込ませる。すると、基板1が切断されて分割予定線9に沿った切断溝が形成される。
【0045】
一つの分割予定線9に沿って基板1を切削した後、基板1と、切削工具10と、を割り出し送り方向(Y軸方向)に沿って相対的に移動させ、他の分割予定線9に沿って基板1を切断する。こうして、加工送り方向に沿った全ての分割予定線9に沿って基板1を切断した後、チャックテーブル16を上面に垂直な軸の周りに回転させ、他の方向に沿った分割予定線9の向きを加工送り方向に合わせる。その後、該他の方向に沿った分割予定線9に沿って基板1を切断する。
【0046】
こうして、すべての分割予定線9に沿って基板1を切断すると、基板1が切削溝により分割されて、個々の矩形基板11が形成される。図1(B)には、矩形基板11を模式的に示す斜視図が示されている。このように、分割ステップS10では、砥粒を有さず鋸刃を有する切り刃14を備える切削工具10で基板1を切断する。そのため、銅膜3,7の切断面に砥粒が付着することはない。
【0047】
次に、基板1が切断されて形成された一部、または全部の矩形基板11の銅膜3,7の上面をバイト工具44でバイト切削する平坦化ステップS20を実施する。図4は、バイト切削装置18を模式的に示す斜視図であり、図5は、平坦化ステップS20を模式的に示す側面図である。
【0048】
平坦化ステップS20では、矩形基板11をチャックテーブル56に載せ、チャックテーブル機構52に矩形基板11を吸引保持させる。そして、バイト切削ユニット26のスピンドル34を約2000rpmで回転させるとともに、バイト工具44の切り刃44aの下端の高さを矩形基板11の上面に露出する銅膜3に接触する所定の高さ位置に位置付けるようにZ軸移動機構50を駆動する。
【0049】
次に、Y軸移動機構を作動させてチャックテーブル56をY軸方向に移動させ、矩形基板11をバイト切削ユニット26の下方を通過させる。すると、回転する切り刃44aが矩形基板11の銅膜3に接触し、銅膜3がバイト切削(旋回切削)されて平坦化される。
【0050】
なお、平坦化ステップS20で矩形基板11の銅膜3とは反対側の面に設けられた銅膜7もバイト工具で平坦化する場合、銅膜3の平坦化が完了した後に、チャックテーブル56をバイト切削装置18の基台20の前側に移動させる。そして、チャックテーブル機構52による矩形基板11の吸引保持を解除し、矩形基板11の上下を反転させ、矩形基板11の銅膜7側を露出させ、チャックテーブル機構52に再び矩形基板11を吸引保持させる。
【0051】
そして、バイト切削ユニット26のスピンドル34を回転させるとともに、銅膜7が所定の厚さとなるようにバイト切削できるように、バイト切削ユニット26の高さを調整する。そして、Y軸移動機構を作動させてチャックテーブル56をY軸方向に移動させ、矩形基板11をバイト切削ユニット26の下方を通過させる。すると、回転する切り刃44aが矩形基板11の銅膜7に接触し、銅膜7がバイト切削(旋回切削)されて平坦化される。
【0052】
なお、平坦化ステップS20では、バイト切削される矩形基板11の被加工面とは反対側の面を保護するために、該反対側の面にテープ状の保護部材を貼着してもよい。この場合、矩形基板11は、該保護部材を介してチャックテーブル機構52に吸引保持される。平坦化ステップS20では、一つの矩形基板11のバイト切削が完了した後、他の矩形基板11のバイト切削が続けて実施されてもよい。
【0053】
基板1から形成された複数の矩形基板11のうち、加工対象となる矩形基板11の平坦化が完了したとき、平坦化ステップS20が完了する。矩形基板11の基材層5の表裏面には、平坦化ステップS20で平坦化された銅膜3,7が設けられている。すなわち、本実施形態に係る基板の加工方法では、平坦化された銅膜3,7が設けられた矩形基板11が得られる。
【0054】
なお、本実施形態に係る基板の加工方法では、分割ステップS10において切削工具10で基板1を切削する際に、ダイヤモンド砥粒が銅膜3,7の切断面に付着しない。そのため、平坦化ステップS20で銅膜3,7をバイト切削してもバイト工具44がダイヤモンド砥粒で損傷することがない。そのため、バイト工具44を頻繁に交換する必要がない。したがって、基板1の加工効率を向上できる。
【0055】
ただし、砥粒を含まず鋸刃を有する切り刃14で基板1を切断しようとするとき、基板1の基材層5の材質次第では、該基板1を切削工具10で適切に切断できない場合がある。例えば、鋸刃を有する切り刃14を備える切削工具10は、樹脂で形成された基材層5を含む基板1の切断には好適に使用できる。その一方で、該切削工具10を使用すると、金属等の材料で形成された基材層5を含む基板1を容易に切断できない。
【0056】
そこで、次に説明する本実施形態の他の一態様に係る基板の加工方法では、主に鋸刃を有する切削工具10で銅膜3,7を切断し、主にダイヤモンド砥粒を有する切削工具68で基材層5を切断する。図8(B)は、本実施形態の変形例に係る基板の加工方法の各ステップの流れを説明するフローチャートである。
【0057】
図8(B)に示す基板の加工方法では、まず、基板1を分割予定線9に沿って鋸刃によって加工し、該銅膜3の厚さに相当する深さの、又は、該銅膜3の厚さよりも深い加工溝を該基板1に形成する加工溝形成ステップS30を実施する。すなわち、該加工溝形成ステップS30では、該銅膜3を分断する該加工溝を形成する。図6(A)は、加工溝形成ステップS30を模式的に示す側面図である。
【0058】
加工溝形成ステップS30では、上述の分割ステップS10と同様に切削装置2を使用する。加工溝形成ステップS30は、切削工具10の切り刃14の下端が基板1の銅膜3の下端と同じ、又は該下端よりも低い位置に位置付けられるように切削工具10の高さを位置付けること以外は分割ステップS10と同様に実施されるため、一部の説明を省略する。加工溝形成ステップS30を実施すると、分割予定線9に沿った加工溝9aが形成される。このとき、加工溝9aの底部に基材層5が露出する。なお、加工溝形成ステップS30では基板1の一部が除去されてもよく、加工溝9aの底部が基板1の上端及び下端の間のいずれかの高さ位置に位置してもよい。
【0059】
なお、基材層5の両面に形成された銅膜3,7の両方を後に説明する平坦化ステップS50でバイト切削する場合、銅膜3を切削工具10で切断して加工溝9aを形成した後、基板1を上下反転させ、銅膜7を同様に切削工具10で切断して加工溝9aを形成する。この場合、銅膜7に形成された加工溝9aの底部にも基材層5が露出する。
【0060】
次に、基材層5を切削して基板1を分割する分割ステップS40について説明する。図6(B)は、分割ステップS40を模式的に示す側面図である。分割ステップS40では、加工溝9aの幅よりも小さい厚さの切り刃72を有する切削工具68で基板1の加工溝9aの下方の領域に切り込み、該基板1を分割予定線9に沿って切削する。このとき、切り刃72の下端を基材層5の下方に到達させ、切り刃72を基板1の裏面側に露出させる。これにより該基板1を複数の矩形基板11に分割する。
【0061】
ここで、分割ステップS40で基材層5に切り込む切削工具68では、環状の基台70の外周部にダイヤモンド砥粒と、該ダイヤモンド砥粒を分散固定する結合材と、を有する切り刃72が固定されている。切削工具68は、上述の切削装置2に切削工具10に代えて装着されていてもよい。
【0062】
また、切削工具68は、切削装置2と同様に構成される他の切削装置62に装着されて使用されてもよい。切削装置62は、回転軸となるスピンドル66と、該スピンドル66の先端に切削工具68を固定するフランジ機構74と、該フランジ機構74を介してスピンドル66の先端に固定された切削工具68と、基板1を保持するチャックテーブル64と、を備える。
【0063】
ここで、切削工具68の切り刃72の幅は、加工溝9aを形成する際に使用された切削工具10の切り刃14の幅よりも小さい。この場合、分割ステップS40では、加工溝9aに露出した銅膜3,7の切断面に切削工具68の切り刃72を接触させることなく該加工溝9aの底部に露出した基材層5のみを該切削工具68で切削できる。例えば、分割ステップS40では、加工溝9aの中央に切削工具68の切り刃72を切り込ませるのが好ましい。
【0064】
銅膜3,7に切り刃72を接触させることなく基板1を切削工具68で基板1を切削すると、切削工具68の切り刃72に含まれるダイヤモンド砥粒が銅膜3,7に付着することがない。そのため、次に説明する平坦化ステップS50においてバイト工具44がダイヤモンド砥粒に接触して該バイト工具44に損傷を生じさせることがない。
【0065】
なお、基材層5の両面に銅膜3,7が設けられており、かつ、一方の銅膜3をバイト切削する一方で他方の銅膜7をバイト切削しない場合、銅膜7に加工溝9aを形成する必要はなく、切削工具68で銅膜7を切削してもよい。銅膜7がバイト工具44でバイト切削されない場合、銅膜7にダイヤモンド砥粒が付着していても問題とはならない。
【0066】
次に、分割ステップS40の後に実施される平坦化ステップS50について説明する。平坦化ステップS50では、少なくとも一つの矩形基板11の銅膜3,7の上面をバイト工具44でバイト切削して平坦化する。平坦化ステップS50は上述の平坦化ステップS20と同様に実施されるため、平坦化ステップS50の説明を省略する。該変形例に係る基板の加工方法においても、バイト工具44がダイヤモンド砥粒に接触しないため、バイト工具44に損傷が生じず、バイト工具44の交換頻度を低減できる。
【0067】
なお、ダイヤモンド砥粒を含む切り刃72を有する切削工具68は、基材層5だけでなく銅膜3,7の切削にも適しており、基板1の精密な分割を実現できる。そこで、基板1を切削工具68で切削して基板1を矩形基板11に分割した後、銅膜3,7をバイト工具44でバイト切削する前に、矩形基板11の銅膜3,7の切断面に付着したダイヤモンド砥粒を除去してもよい。次に、本実施形態のさらなる変形例に係る基板の加工方法について説明する。
【0068】
図8(C)は、該さらなる変形例に係る基板の加工方法の各ステップの流れを説明するフローチャートである。該変形例に係る基板の加工方法では、まず、分割ステップS60を実施する。図7(A)は、分割ステップS60を模式的に示す側面図である。分割ステップS60は、分割ステップS40と同様に実施されるため、一部の説明を省略する。
【0069】
分割ステップS60は、例えば、上述の分割ステップS40と同様に切削装置62で実施される。分割ステップS60では、環状基台70aと、該環状基台70aの外周部に固定されたダイヤモンド砥粒等の砥粒を含む切り刃72aと、を含む切削工具68aが使用される。分割ステップS60では、ダイヤモンド砥粒等の砥粒を含む切り刃72aを備える切削工具68aによって基板1を分割予定線9に沿って切削することで該基板1を複数の矩形基板11に分割する。
【0070】
分割ステップS60を実施すると、図7(A)及び図7(B)に示す通り、基板1に分割予定線9に沿った加工溝9bが形成され、該加工溝9bによって基板1が分断される。ここで、加工溝9bの幅は、切削工具68aの切り刃72aの厚さに対応した大きさとなる。
【0071】
分割ステップS60の後、少なくとも一つの矩形基板11の銅膜3,7の切断面に鋸刃を接触させ、該銅膜3,7の該切断面に残留する切削工具68aの砥粒を除去する砥粒除去ステップS70を実施する。図7(B)は、砥粒除去ステップS70を模式的に示す側面図である。砥粒除去ステップS70は、分割ステップS10と同様に実施されるため、一部の説明を省略する。
【0072】
砥粒除去ステップS70では、分割ステップS10で使用される上述の切削装置2を使用できる。砥粒除去ステップS70では、鋸刃を有する切り刃14aを有する切削工具10aを切削装置2に装着して使用する。
【0073】
例えば、砥粒除去ステップS70では、分割ステップS60で使用した切削工具68aの切り刃72aよりも厚い切り刃14aを含む切削工具10aを使用する。好ましくは、切り刃14aの厚さは、切り刃72aの厚さの1倍より大きく、2倍より小さい。砥粒除去ステップS70では、切り刃14aを加工溝9bに切り込ませる。
【0074】
この場合、矩形基板11の加工溝9bに面した領域が切り刃14aにより切り込まれ、除去される。このとき、銅膜3,7の切断面に付着していた切り刃72aの砥粒が切り刃14aにより除去される。ここで、基材層5にも切り刃14aが切り込むこととなるが、加工溝9bが形成されていない場合と比較して切り刃14aが切り込んで除去する領域が少なくなるため、切り刃14aにかかる負荷は小さい。
【0075】
また、砥粒除去ステップS70では、切り刃72aよりも厚さの小さい切り刃14aを有する切削工具10aが使用されてもよい。この場合、加工溝9bで分断された銅膜3,7の一方側と、他方側と、に個々に切り刃14aを切り込ませて、銅膜3,7の切断面に付着していたダイヤモンド砥粒を除去する。
【0076】
砥粒除去ステップS70を実施した後、銅膜3,7から該砥粒が除去された矩形基板11の該銅膜3,7の上面をバイト工具44でバイト切削して平坦化する平坦化ステップS80を実施する。平坦化ステップS80は、上述の平坦化ステップS20及び平坦化ステップS50と同様に実施されるため、一部の説明を省略する。
【0077】
図8(C)のフローチャートで説明される基板の加工方法では、砥粒除去ステップS70により銅膜3,7の切断面に付着していたダイヤモンド砥粒等の砥粒が除去されている。そのため、平坦化ステップS80では、バイト工具44にダイヤモンド砥粒が接触することはなく、バイト工具44に損傷を生じさせることがない。そのため、バイト工具44の交換頻度は少なくて済むため、基板1の加工効率を向上できる。
【0078】
なお、本発明は上記実施形態の記載に限定されず、種々変更して実施可能である。例えば、上記実施形態では、基材層5の両面に銅膜3,7が形成されている場合について主に説明したが、本発明の一態様はこれに限定されない。すなわち、基材層5の一方の面に銅膜が形成されており、該銅膜が平坦化されてもよい。
【0079】
また、上記実施形態では、基材層5の両面に設けられた銅膜3,7の両方をバイト工具44により平坦化される場合を例に説明したが、本発明の一態様に係る基板の加工方法はこれに限定されない。すなわち、銅膜3,7の少なくとも一方が平坦化されてもよい。この場合においても、ダイヤモンド砥粒が付着した銅膜3,7がバイト工具44でバイト切削されることがない。
【0080】
さらに、本発明の一態様に係る基板の加工方法で加工される基板1は、銅以外の材料で形成された金属膜が基材層の一方の面または両方の面に設けられてもよい。この場合においても、本発明の一態様に係る基板の加工方法では、該金属膜にダイヤモンド砥粒が付着する前にバイト工具44によるバイト切削を完了できる。
【0081】
上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0082】
1 基板
3,7 銅膜
5 基材層
9 分割予定線
9a,9b 加工溝
11 矩形基板
2,62 切削装置
4 スピンドルハウジング
6,66 スピンドル
8,74 フランジ機構
8a 前フランジ
8b 後フランジ
10,10a,68,68a 切削工具
70,70a 基台
14,14a,72,72a 切り刃
16,64 チャックテーブル
18 バイト切削装置
20 基台
20a 凹部
22 コラム
24 ガイドレール
26 バイト切削ユニット
28 スピンドルハウジング
30 支持部
32 移動基台
34 スピンドル
36 モータ
38 ホイールマウント
40 バイトホイール
42 ホイール基台
44 バイト工具
44a 切り刃
46 ボールねじ
48 パルスモータ
50 Z軸移動機構
52 チャックテーブル機構
54 テーブルベース
56 チャックテーブル
56a 保持面
58 蛇腹
60 操作パネル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8