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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】被加工物の研削方法
(51)【国際特許分類】
   B24B 7/04 20060101AFI20240902BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
B24B7/04 A
H01L21/304 622M
H01L21/304 631
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021009275
(22)【出願日】2021-01-25
(65)【公開番号】P2022113212
(43)【公開日】2022-08-04
【審査請求日】2023-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 貴之
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(72)【発明者】
【氏名】宮本 弘樹
【審査官】マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-039739(JP,A)
【文献】特開2020-093318(JP,A)
【文献】特開2020-171977(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 7/04
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研削装置を用いて被加工物を研削する被加工物の研削方法であって、
該研削装置は、
該被加工物を保持する保持面を有し、該保持面と垂直な方向に沿って回転軸が設定されたチャックテーブルと、
研削砥石を含む研削ホイールが装着され、該研削砥石で該被加工物を研削する研削ユニットと、を備え、
該研削砥石が該チャックテーブルによって保持された該被加工物の外側に位置付けられ、且つ、該研削砥石の下面が該チャックテーブルによって保持された該被加工物の上面から所定の距離下方に位置付けられるように、該チャックテーブルと該研削ユニットとの位置関係を調節する第1準備ステップと、
該第1準備ステップの実施後、該研削ホイールを回転させながら、該チャックテーブルを回転させずに該チャックテーブルと該研削ユニットとを該保持面と平行な方向に沿って相対的に移動させ、該研削砥石で該被加工物を一端側から他端側まで研削する第1研削ステップと、
該第1研削ステップの実施後、該チャックテーブルの回転軸と該研削砥石の軌道とが重なるように、該チャックテーブルと該研削ユニットとの位置関係を調節する第2準備ステップと、
該第2準備ステップの実施後、該チャックテーブルと該研削ホイールとを回転させながら、該チャックテーブルと該研削ユニットとを該保持面と垂直な方向に沿って相対的に移動させ、該研削砥石で該被加工物を研削する第2研削ステップと、を含むことを特徴とする被加工物の研削方法。
【請求項2】
該第1準備ステップ、該第1研削ステップ、該第2準備ステップ、及び該第2研削ステップを、順番に2回以上実施することを特徴とする請求項1記載の被加工物の研削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研削装置を用いて被加工物を研削する被加工物の研削方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デバイスチップの製造工程では、互いに交差する複数のストリート(分割予定ライン)によって区画された複数の領域にそれぞれデバイスが形成されたウェーハが用いられる。このウェーハをストリートに沿って分割することにより、デバイスをそれぞれ備える複数のデバイスチップが得られる。デバイスチップは、携帯電話、パーソナルコンピュータ等の様々な電子機器に組み込まれる。
【0003】
近年では、電子機器の小型化に伴い、デバイスチップにも薄型化が求められている。そこで、ウェーハの分割前に、研削装置を用いてウェーハを研削して薄化する工程が実施されることがある。研削装置は、被加工物を保持する保持面を有するチャックテーブルと、被加工物を研削する研削ユニットとを備えており、研削ユニットには研削砥石を含む研削ホイールが装着される。そして、研削ユニットは、研削ホイールを回転させて研削砥石を被加工物に接触させることにより、被加工物を研削する。
【0004】
研削装置を用いてウェーハ等の被加工物を研削する際には、チャックテーブルによって保持された被加工物の中心が研削砥石の軌跡と重なるように、チャックテーブルと研削ユニットとの位置関係が調節される。そして、チャックテーブルと研削ホイールとをそれぞれ回転させながら、研削ホイールをチャックテーブルの保持面に向かって下降させると、研削砥石の下面が被加工物の上面側に接触して被加工物が研削される。このような研削方式は、インフィード研削と呼ばれる。
【0005】
一方、被加工物の研削には、クリープフィード研削と称される研削方式が用いられることもある。クリープフィード研削では、研削砥石が被加工物の外側に位置付けられ、且つ、研削砥石の下面が被加工物の上面よりも下方に位置付けられるように、チャックテーブルと研削ユニットとの位置関係が調節される。そして、チャックテーブルを回転させず、且つ、研削ホイールを回転させた状態で、チャックテーブルを保持面と平行な方向(水平方向)に沿って移動させることにより、研削砥石の側面及び下面が被加工物の上面側に接触して、被加工物が研削される(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-28550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
研削ホイールに含まれる研削砥石は、ダイヤモンド等でなる砥粒を結合材(ボンド材)で固定することによって形成される。そして、研削砥石の結合材から突出する砥粒が被加工物に衝突することにより、被加工物に研削加工が施される。また、研削砥石による被加工物の研削を継続すると、結合材が摩耗し、露出している砥粒が脱落するとともに結合材の内部に埋め込まれている砥粒が新たに露出する。この現象は自生発刃と呼ばれており、自生発刃によって研削砥石の研削能力が維持される。
【0008】
ここで、クリープフィード研削では、研削砥石が被加工物の側面から内側に向かって衝突して被加工物を研削する。そのため、研削砥石の側面側では摩耗が生じやすいが、研削砥石の下面側では摩耗が生じにくい。その結果、研削砥石の下面側において自生発刃が適度な頻度で発生せず、研削砥石の研削能力が低下することがある。また、研削加工によって生じた屑(研削屑)が研削砥石の下面側に蓄積され、砥粒の突出が不十分になることがある(目詰まり)。
【0009】
上記のようにクリープフィード研削中に研削砥石のコンディションが悪化すると、加工不良が生じやすくなる。そのため、クリープフィード研削の途中には、研削砥石を所定の部材に衝突させて研削砥石を意図的に摩耗させる、ドレッシング工程が実施されることがある。しかしながら、研削砥石のドレッシングを行うと、被加工物の加工が中断してしまい、加工効率が低下する。
【0010】
本発明は、かかる問題に鑑みてなされたものであり、加工効率の低下を抑えつつ研削砥石のコンディションを改善させることが可能な被加工物の研削方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様によれば、研削装置を用いて被加工物を研削する被加工物の研削方法であって、該研削装置は、該被加工物を保持する保持面を有し、該保持面と垂直な方向に沿って回転軸が設定されたチャックテーブルと、研削砥石を含む研削ホイールが装着され、該研削砥石で該被加工物を研削する研削ユニットと、を備え、該研削砥石が該チャックテーブルによって保持された該被加工物の外側に位置付けられ、且つ、該研削砥石の下面が該チャックテーブルによって保持された該被加工物の上面から所定の距離下方に位置付けられるように、該チャックテーブルと該研削ユニットとの位置関係を調節する第1準備ステップと、該第1準備ステップの実施後、該研削ホイールを回転させながら、該チャックテーブルを回転させずに該チャックテーブルと該研削ユニットとを該保持面と平行な方向に沿って相対的に移動させ、該研削砥石で該被加工物を一端側から他端側まで研削する第1研削ステップと、該第1研削ステップの実施後、該チャックテーブルの回転軸と該研削砥石の軌道とが重なるように、該チャックテーブルと該研削ユニットとの位置関係を調節する第2準備ステップと、該第2準備ステップの実施後、該チャックテーブルと該研削ホイールとを回転させながら、該チャックテーブルと該研削ユニットとを該保持面と垂直な方向に沿って相対的に移動させ、該研削砥石で該被加工物を研削する第2研削ステップと、を含む被加工物の研削方法が提供される。
【0012】
なお、好ましくは、該被加工物の研削方法では、該第1準備ステップ、該第1研削ステップ、該第2準備ステップ、及び該第2研削ステップを、順番に2回以上実施する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様に係る被加工物の研削方法では、チャックテーブルと研削ユニットとを保持面と平行な方向に沿って相対的に移動させる第1研削ステップの実施後に、チャックテーブルと研削ユニットとを保持面と垂直な方向に沿って相対的に移動させる第2研削ステップが実施される。これにより、研削砥石の下面側の摩耗が促進され、研削砥石のコンディションが改善される。また、第2研削ステップでは、研削砥石の下面側のドレッシングが、被加工物の研削と同時進行で実施される。そのため、研削砥石のドレッシング中にも被加工物の研削が続行され、加工効率が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】研削装置を示す一部断面側面図である。
図2】チャックテーブル及び研削ユニットを示す斜視図である。
図3図3(A)は第1準備ステップにおけるチャックテーブル及び研削ユニットを示す側面図であり、図3(B)は第1研削ステップにおけるチャックテーブル及び研削ユニットを示す側面図である。
図4図4(A)は第2準備ステップにおけるチャックテーブル及び研削ユニットを示す側面図であり、図4(B)は第2研削ステップにおけるチャックテーブル及び研削ユニットを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して本発明の一態様に係る実施形態を説明する。まず、本実施形態に係る被加工物の研削方法に用いることが可能な研削装置の構成例について説明する。図1は、研削装置2を示す一部断面側面図である。なお、図1において、X軸方向(第1加工送り方向、第1水平方向、前後方向)とY軸方向(第2水平方向、左右方向)とは、互いに垂直な方向である。また、Z軸方向(第2加工送り方向、鉛直方向、上下方向、高さ方向)は、X軸方向及びY軸方向と垂直な方向である。
【0016】
研削装置2は、研削装置2を構成する各構成要素を支持又は収容する基台4を備える。基台4の上面側には、直方体状の開口4aが設けられている。そして、開口4aの内側には、研削装置2による加工の対象となる被加工物11を保持するチャックテーブル(保持テーブル)6が設けられている。チャックテーブル6の上面は、X軸方向及びY軸方向と概ね平行な平坦面であり、被加工物11を保持する保持面6aを構成している。
【0017】
また、基台4の内側には、移動機構(移動ユニット)8が設けられている。移動機構8は、チャックテーブル6に連結されており、チャックテーブル6をX軸方向に沿って移動させる。具体的には、移動機構8は、X軸方向に沿って配置されたボールねじ10を備える。ボールねじ10は、チャックテーブル6に連結されたナット部(不図示)に螺合されている。また、ボールねじ10の端部には、ボールねじ10を回転させるパルスモータ12が連結されている。パルスモータ12でボールねじ10を回転させると、チャックテーブル6がX軸方向に沿って移動する。
【0018】
また、チャックテーブル6には、モータ等の回転駆動源(不図示)が連結されている。この回転駆動源は、チャックテーブル6を保持面6aと概ね垂直な回転軸(Z軸方向と概ね平行な回転軸)の周りで回転させる。すなわち、チャックテーブル6の回転軸は、保持面6aと垂直な方向に沿って設定されている。
【0019】
チャックテーブル6及び移動機構8の後方(図1の紙面右側)には、直方体状の支持構造(コラム)14が設けられている。そして、支持構造14の表面側(前面側)には、移動機構(移動ユニット)16が設けられている。移動機構16は、チャックテーブル6と後述の研削ユニット28とを、チャックテーブル6の保持面6aと垂直な方向(Z軸方向)に沿って接近及び離隔させる。
【0020】
具体的には、移動機構16は、支持構造14の表面側に固定された一対のガイドレール18を備える。一対のガイドレール18は、Y軸方向において互いに離隔した状態で、Z軸方向に沿って配置されている。また、一対のガイドレール18には、平板状の移動プレート20が、ガイドレール18に沿ってスライド可能な状態で装着されている。
【0021】
移動プレート20の裏面側(背面側)には、ナット部22が設けられている。また、一対のガイドレール18の間にはボールねじ24がZ軸方向に沿って設けられており、ボールねじ24はナット部22に螺合されている。そして、ボールねじ24の端部には、ボールねじ24を回転させるパルスモータ26が連結されている。パルスモータ26でボールねじ24を回転させると、移動プレート20がガイドレール18に沿ってZ軸方向に移動(昇降)する。
【0022】
移動プレート20の表面側(前面側)には、被加工物11を研削する研削ユニット28が装着されている。研削ユニット28は、移動プレート20の表面側に固定された中空の円柱状の支持部材30を備える。支持部材30には、円柱状のハウジング32が収容されている。ハウジング32の下面側は、ゴム等でなる緩衝部材34を介して、支持部材30の底面によって支持されている。
【0023】
ハウジング32には、Z軸方向に沿って配置された円柱状のスピンドル36が収容されている。スピンドル36の先端部(下端部)は、ハウジング32から露出しており、支持部材30の底部に設けられた開口を介して支持部材30の下面から下方に突出している。また、スピンドル36の基端部(上端部)には、スピンドル36を回転させるモータ等の回転駆動源(不図示)が連結されている。
【0024】
スピンドル36の先端部には、金属等でなる円盤状のマウント38が固定されている。そして、マウント38の下面側に、被加工物11を研削する環状の研削ホイール40が装着される。例えば研削ホイール40は、ボルト等の固定具によってマウント38に固定される。
【0025】
研削ホイール40は、アルミニウム、ステンレス等の金属でなりマウント38と概ね同径に形成された環状の基台42を備える。基台42の上面側は、マウント38の下面側に固定される。また、基台42の下面側には、複数の研削砥石44が固定されている。例えば、複数の研削砥石44は直方体状に形成され、基台42の周方向に沿って概ね等間隔で環状に配列されている。
【0026】
研削砥石44は、ダイヤモンド、cBN(cubic Boron Nitride)等でなる砥粒を、メタルボンド、レジンボンド、ビトリファイドボンド等の結合材(ボンド材)で固定することによって形成される。ただし、研削砥石44の材質、形状、構造、大きさ等に制限はない。また、研削砥石44の数も任意に設定できる。
【0027】
研削ホイール40は、スピンドル36の基端部に連結された回転駆動源からスピンドル36及びマウント38を介して伝達される動力により、チャックテーブル6の保持面6aと概ね垂直な回転軸(Z軸方向と概ね平行な回転軸)の周りを回転する。すなわち、研削ホイール40の回転軸は、保持面6aと垂直な方向に沿って設定されている。そして、チャックテーブル6によって保持された被加工物11の上面側に回転する研削砥石44を接触させると、被加工物11の上面側が削り取られる。これにより、被加工物11に研削加工が施され、被加工物11が薄化される。
【0028】
研削装置2の各構成要素(チャックテーブル6、移動機構8、移動機構16、研削ユニット28等)は、研削装置2を制御する制御ユニット(制御部、制御装置)46に接続されている。制御ユニット46は、研削装置2の構成要素の動作を制御する制御信号を生成して、研削装置2の稼働を制御する。
【0029】
例えば制御ユニット46は、コンピュータによって構成され、研削装置2の稼働に必要な演算を行う演算部と、研削装置2の稼働に用いられる各種の情報(データ、プログラム等)を記憶する記憶部とを含む。演算部は、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサを含んで構成される。また、記憶部は、主記憶装置、補助記憶装置等として機能する各種のメモリを含んで構成される。
【0030】
被加工物11は、チャックテーブル6によって保持された状態で、研削ユニット28によって研削される。図2は、チャックテーブル6及び研削ユニット28を示す斜視図である。
【0031】
チャックテーブル6は、SUS(ステンレス鋼)等の金属、ガラス、セラミックス、樹脂等でなる円柱状の枠体(本体部)48を備える。枠体48の上面48a側の中央部には、円柱状の凹部48bが設けられている。また、凹部48bには、ポーラスセラミックス等の多孔質部材でなる円盤状の保持部材50が嵌め込まれている。保持部材50は、内部に保持部材50の上面から下面に連通する空孔(流路)を含んでいる。保持部材50の上面50aは、チャックテーブル6によって被加工物11を保持する際に被加工物11を吸引する吸引面に相当する。
【0032】
凹部48bの深さと保持部材50の厚さとは概ね同一に設定され、枠体48の上面48aと保持部材50の上面50aとは概ね同一平面上に配置される。そして、枠体48の上面48aと保持部材50の上面50aとによって、チャックテーブル6の保持面6aが構成される。保持面6aは、保持部材50に含まれる空孔、枠体48の内部に形成された流路(不図示)、バルブ(不図示)等を介して、エジェクタ等の吸引源(不図示)に接続されている。
【0033】
チャックテーブル6の保持面6a上に、被加工物11が配置される。例えば被加工物11は、シリコン等の半導体材料でなる円盤状のウェーハであり、互いに概ね平行な表面(第1面)11a及び裏面(第2面)11bを含む。
【0034】
被加工物11は、互いに交差するように格子状に配列された複数のストリート(分割予定ライン)によって、複数の矩形状の領域に区画されている。そして、ストリートによって区画された複数の領域の表面11a側にはそれぞれ、IC(Integrated Circuit)、LSI(Large Scale Integration)、LED(Light Emitting Diode)、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)デバイス等のデバイス(不図示)が形成されている。
【0035】
被加工物11をストリートに沿って分割することにより、デバイスをそれぞれ備える複数のデバイスチップが得られる。また、被加工物11の分割前に、被加工物11の裏面11b側を研削装置2によって研削して被加工物11を薄化することにより、薄型化されたデバイスチップが得られる。
【0036】
ただし、被加工物11の種類、材質、大きさ、形状、構造等に制限はない。例えば被加工物11は、シリコン以外の半導体(GaAs、InP、GaN、SiC等)、ガラス、セラミックス、樹脂、金属等でなる円盤状のウェーハ(基板)であってもよい。また、被加工物11は、CSP(Chip Size Package)基板、QFN(Quad Flat Non-leaded package)基板等のパッケージ基板であってもよい。
【0037】
例えば被加工物11は、表面11a側が保持面6aに対向し、裏面11b側が上方に露出するように、チャックテーブル6上に配置される。この状態で保持面6aに吸引源の吸引力(負圧)を作用させると、被加工物11がチャックテーブル6によって吸引保持される。なお、被加工物11の表面11a側には、樹脂等でなり被加工物11の表面11a側(デバイス)を保護する保護シートが貼付されていてもよい。この場合には、被加工物11が保護シートを介してチャックテーブル6の保持面6aで保持される。
【0038】
チャックテーブル6によって保持された被加工物11は、研削ホイール40に含まれる研削砥石44によって研削され、薄化される。また、研削ユニット28の内部又は近傍には、純水等の液体(研削液)を供給するための研削液供給路(不図示)が設けられている。研削砥石44によって被加工物11を研削する際には、研削液が被加工物11及び研削砥石44に供給される。これにより、被加工物11及び研削砥石44が冷却されるとともに、研削加工によって発生した屑(研削屑)が洗い流される。
【0039】
本実施形態においては、チャックテーブル6と研削ホイール40とを保持面6aと平行な方向に沿って相対的に移動させて被加工物11を研削するクリープフィード研削と、チャックテーブル6と研削ホイール40とを保持面6aと垂直な方向に沿って相対的に移動させて被加工物11を研削するインフィード研削とを実施することにより、被加工物11を薄化する。以下、研削装置2を用いた被加工物の研削方法の具体例を説明する。
【0040】
まず、チャックテーブル6と研削ユニット28との位置関係を調節する(第1準備ステップ)。図3(A)は、第1準備ステップにおけるチャックテーブル6及び研削ユニット28を示す側面図である。第1準備ステップでは、研削砥石44がチャックテーブル6によって保持された被加工物11の外側に位置付けられ、且つ、研削砥石44の下面がチャックテーブル6によって保持された被加工物11の上面(裏面11b)から所定の距離下方に位置付けられるように、チャックテーブル6及び研削ユニット28の位置が調節される。
【0041】
具体的には、被加工物11が研削ホイール40と重ならず研削ホイール40の前方(図3(A)における紙面左側)に配置されるように、チャックテーブル6のX軸方向における位置が移動機構8(図1参照)によって制御される。また、研削砥石44の下面が被加工物11の裏面11bよりも下方に位置付けられるように、研削ユニット28のZ軸方向における位置が移動機構16(図1参照)によって制御される。このときの被加工物11の裏面11bと研削砥石44の下面との高さ位置(Z軸方向における位置)の差ΔHが、次の第1研削ステップにおける被加工物11の研削量(研削前後の被加工物11の厚さの差)の目標値に相当する。
【0042】
次に、研削ホイール40を回転させながら、チャックテーブル6と研削ユニット28とを保持面6aと平行な方向に沿って相対的に移動させ、研削砥石44で被加工物11を一端側から他端側まで研削する(第1研削ステップ)。図3(B)は、第1研削ステップにおけるチャックテーブル6及び研削ユニット28を示す側面図である。
【0043】
第1研削ステップでは、被加工物11をクリープフィード研削によって研削する。具体的には、まず、スピンドル36を回転させることにより、研削ホイール40をチャックテーブル6の保持面6aと概ね垂直な回転軸の周りで回転させる。例えば、研削ホイール40の回転数は1000rpm以上3000rpm以下に設定される。
【0044】
そして、研削ホイール40を回転させた状態で、チャックテーブル6を回転させずにX軸方向に沿って研削ホイール40側に移動させる(第1加工送り)。これにより、チャックテーブル6と研削ホイール40とが、チャックテーブル6の保持面6aと平行な方向に沿って互いに接近する。なお、チャックテーブル6の移動速度(加工送り速度)は、例えば1mm/s以上20mm/s以下に設定される。
【0045】
チャックテーブル6が移動して、被加工物11の一端(被加工物11の移動方向における前端、図3(B)における紙面右端)が研削砥石44の軌道に到達すると、被加工物11の一端部が研削砥石44によって削り取られる。そして、チャックテーブル6は、被加工物11の他端(被加工物11の移動方向における後端、図3(B)における紙面左端)が研削砥石44の軌跡と重なる位置に配置されるまで、X軸方向に沿って移動する。その結果、被加工物11が一端側から他端側まで研削され、被加工物11の全体が薄化される。
【0046】
上記のクリープフィード研削では、研削砥石44が被加工物11の側面から内側に向かって衝突して被加工物を研削するため、研削砥石44の側面側では摩耗が生じやすいが、研削砥石44の下面側では摩耗が生じにくい。すなわち、研削中において研削砥石44の下面のZ軸方向における位置が変動しにくい。その結果、被加工物11の研削量の誤差が低減される。
【0047】
また、研削後の被加工物11の裏面11b側には、研削砥石44の軌跡に沿って形成された円弧状の傷(研削痕、ソーマーク)が残存する。そして、クリープフィード研削においては、チャックテーブル6が回転しない状態で被加工物11が研削されるため、研削後の被加工物11の裏面11b側には、複数の研削痕が概ね平行に形成される。このように、研削痕の向きを揃えることにより、研削後の被加工物11の強度の異方性を制御できる。
【0048】
しかしながら、上記の通りクリープフィード研削では研削砥石44の下面側で摩耗が生じにくいため、研削砥石44の下面側において自生発刃が生じにくい。また、研削屑が研削砥石44の下面側に蓄積されやすく、研削砥石44の砥粒の突出が不十分になることがある(目詰まり)。従って、クリープフィード研削のみを長時間実施すると、研削砥石44の研削能力が低下することがある。
【0049】
そこで、本実施形態においては、クリープフィード研削の実施後、被加工物11をインフィード研削によって研削する。これにより、研削砥石44の下面側の摩耗が促進され、研削砥石44のコンディションが良好に維持される。
【0050】
まず、第1研削ステップの実施後に、チャックテーブル6と研削ユニット28との位置関係を調節する(第2準備ステップ)。図4(A)は、第2準備ステップにおけるチャックテーブル6及び研削ユニット28を示す側面図である。第2準備ステップでは、チャックテーブル6の回転軸と研削砥石44の軌道とが重なるように、チャックテーブル6と研削ユニット28との位置関係が調節される。なお、研削砥石44の軌道は、研削ホイール40を回転させた際に複数の研削砥石44がそれぞれ通過する環状の経路(移動経路、回転経路)に相当する。
【0051】
具体的には、まず、研削ユニット28を移動機構16(図1参照)によって上昇させ、研削砥石44を被加工物11から離隔させる。そして、チャックテーブル6の回転軸が研削砥石44の軌道と重なるように、チャックテーブル6のX軸方向における位置が移動機構8(図1参照)によって制御される。例えば、保持面6aの中心及び被加工物11の中心が、研削ホイール40の前端部(図4(A)における紙面左端部)に配置されている研削砥石44と重なるように、チャックテーブル6の位置が調節される。
【0052】
次に、チャックテーブル6と研削ユニット28とを回転させながら、チャックテーブル6と研削ユニット28とを保持面6aと垂直な方向に沿って相対的に移動させ、研削砥石44で被加工物11を研削する(第2研削ステップ)。図4(B)は、第2研削ステップにおけるチャックテーブル6及び研削ユニット28を示す側面図である。
【0053】
第2研削ステップでは、被加工物11にインフィード研削を施す。具体的には、チャックテーブル6及び研削ホイール40を回転させた状態で、研削ユニット28を移動機構16(図1参照)によってZ軸方向に沿って下降させる(第2加工送り)。これにより、チャックテーブル6と研削ホイール40とが、チャックテーブル6の保持面6aと垂直な方向に沿って互いに接近する。
【0054】
研削砥石44の下面が被加工物11の上面(裏面11b)に接触すると、被加工物11の裏面11b側が研削砥石44によって削り取られ、被加工物11が薄化される。そして、被加工物11の厚さが所定の厚さになるまで、被加工物11の研削が継続される。
【0055】
上記の第2研削ステップでは、被加工物11と接触する研削砥石44の下面側で摩耗が生じ、自生発刃が促進されるとともに目詰まりが解消される。すなわち、被加工物11の研削と同時に、研削砥石44の下面側のドレッシングが行われる。その結果、研削砥石44のコンディションが改善され、研削砥石44の研削能力が回復する。
【0056】
第2研削ステップにおける被加工物11の加工条件は、研削砥石44の下面側に適切なドレッシングが施されるように設定される。例えば、被加工物11の研削量は、10μm以上100μm以下、好ましくは20μm以上40μm以下に設定される。また、チャックテーブル6の回転数は、例えば100rpm以上300rpmに設定される。さらに、研削ユニット28の下降速度(加工送り速度)は、例えば0.2μm/s以上1μm/s以下に設定される。
【0057】
なお、第2研削ステップでは、被加工物11の薄化を主たる目的とする通常のインフィード研削を実施する場合よりも、研削ホイール40の回転数を低速に設定することが好ましい。これにより、研削砥石44の下面側の摩耗が促進され、研削砥石44のコンディションが短時間で改善する。具体的には、研削ホイール40の回転数は、例えば2000rpm以上3000rpm以下であることが好ましい。
【0058】
その後、第1準備ステップ(図3(A)参照)と同じ内容の第3準備ステップと、第1研削ステップ(図3(B)参照)と同じ内容の第3研削ステップとが順に実施され、クリープフィード研削が再開される。なお、第3研削ステップにおいては、第2研削ステップの実施によってコンディションが改善された研削砥石44で被加工物11が研削される。これにより、加工品質が向上し、加工不良の発生が抑制される。そして、被加工物11の厚さが所定の目標値(仕上げ厚さ)になるまで被加工物11が薄化されると、被加工物11の研削加工が完了する。
【0059】
上記の研削装置2による被加工物11の研削は、制御ユニット46(図1参照)で研削装置2の各構成要素の動作を制御することによって実現される。具体的には、制御ユニット46の記憶部には、第1準備ステップ、第1研削ステップ、第2準備ステップ、第2研削ステップ、第3準備ステップ、第3研削ステップの実施に必要な研削装置2の各構成要素の一連の動作を記述するプログラムが記憶されている。そして、被加工物11の研削を実行する際には、制御ユニット46が記憶部からプログラムを読み出して実行し、研削装置2の各構成要素に制御信号を出力する。これにより、研削装置2の稼働が制御され、本実施形態に係る被加工物の研削方法が自動で実施される。
【0060】
以上の通り、本実施形態に係る被加工物の研削方法では、チャックテーブル6と研削ユニット28とを保持面6aと平行な方向に沿って相対的に移動させる第1研削ステップ(クリープフィード研削)の実施後に、チャックテーブル6と研削ユニット28とを保持面6aと垂直な方向に沿って相対的に移動させる第2研削ステップ(インフィード研削)が実施される。これにより、研削砥石44の下面側における摩耗が促進され、研削砥石44のコンディションが改善される。
【0061】
また、第2研削ステップ(インフィード研削)では、研削砥石44の下面側のドレッシングが、被加工物11の研削と同時進行で実施される。そのため、研削砥石44のドレッシング中にも被加工物11の研削が続行され、加工効率が向上する。
【0062】
なお、本実施形態に係る被加工物の研削方法において、クリープフィード研削(第1準備ステップ及び第1研削ステップ)の実施回数、及び、インフィード研削(第2準備ステップ及び第2研削ステップ)の実施回数は、被加工物11の材質、研削量等に応じて適宜設定できる。すなわち、第1準備ステップ、第1研削ステップ、第2準備ステップ、第2研削ステップを、それぞれ2回以上実施してもよい。
【0063】
例えば、クリープフィード研削(第1準備ステップ及び第1研削ステップ)が1回又は2回以上連続して実施された後、インフィード研削(第2準備ステップ及び第2研削ステップ)が1回実施され、研削砥石44のコンディションが改善される。その後、同様にクリープフィード研削とインフィード研削とが順に繰り返されることにより、被加工物11が薄化される。これにより、研削砥石44のコンディションを良好に維持したまま、被加工物11を所望の厚さになるまで薄化することができる。
【0064】
ただし、被加工物11に最後に施される研削加工は、クリープフィード研削(第3研削ステップ)であることが好ましい。これにより、研削加工後の被加工物11の厚さのばらつきが低減されるとともに、研削加工後の被加工物11の強度の異方性が制御される。
【0065】
その他、上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0066】
11 被加工物
11a 表面(第1面)
11b 裏面(第2面)
2 研削装置
4 基台
4a 開口
6 チャックテーブル(保持テーブル)
6a 保持面
8 移動機構(移動ユニット)
10 ボールねじ
12 パルスモータ
14 支持構造(コラム)
16 移動機構(移動ユニット)
18 ガイドレール
20 移動プレート
22 ナット部
24 ボールねじ
26 パルスモータ
28 研削ユニット
30 支持部材
32 ハウジング
34 緩衝部材
36 スピンドル
38 マウント
40 研削ホイール
42 基台
44 研削砥石
46 制御ユニット(制御部、制御装置)
48 枠体(本体部)
48a 上面
48b 凹部
50 保持部材
50a 上面
図1
図2
図3
図4