(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】ヒートパイプ
(51)【国際特許分類】
F28D 15/04 20060101AFI20240902BHJP
F28D 15/02 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
F28D15/04 H
F28D15/02 101A
F28D15/04 G
F28D15/02 M
(21)【出願番号】P 2020026477
(22)【出願日】2020-02-19
【審査請求日】2022-10-24
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】上久保 将大
【審査官】大谷 光司
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3164517(JP,U)
【文献】特開2016-023821(JP,A)
【文献】特開平04-098093(JP,A)
【文献】特開平03-087596(JP,A)
【文献】特開2018-179403(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0020269(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0213612(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D15/00-15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体が封入された内部空間を有する管状容器に、
液相の作動流体を蒸発させて気相の作動流体に相変化させる蒸発部と、
前記蒸発部から離隔した位置に配設され、気相の作動流体を凝縮させて液相の作動流体に相変化させる凝縮部とを設けてなるヒートパイプにおいて、
前記管状容器は、
内周面に長手方向に向かって延在する溝と、
前記溝のうち長手方向の少なくとも一部に
前記溝の開口位置を超えないで充填される第1ウィック部、および
、前記管状容器の長手方向に向かって延在し、
前記第1ウィック部の少なくとも一部と連結し、前記第1ウィック部の充填上面を含む前記管状容器の仮想内周面上の位置から、前記内部空間に向かって隆起して形成される複数の第2ウィック部を有する、少なくとも前記蒸発部に設けられるウィック構造体と
を備えるヒートパイプ。
【請求項2】
前記第1ウィック部の一部が前記内部空間に露出している、請求項1に記載のヒートパイプ。
【請求項3】
前記ウィック構造体は、前記管状容器の中央部分または一端側部分に設けられる、請求項1または2に記載のヒートパイプ。
【請求項4】
前記管状容器の蒸発部で見て、前記溝を形成する前の前記管状容器の溝形成前内周面の表面積(A)に占める、前記内部空間に露出する、前記第1ウィック部の前記充填上面の表面積(B)の比(B/A比)が、0.05以上の範囲である、請求項1から3までのいずれか1項に記載のヒートパイプ。
【請求項5】
前記管状容器の横断面で見て、前記第1ウィック部の断面積(S
1)と前記第2ウィック部(S
2)の断面積の和である、前記ウィック構造体の断面積(S
1+S
2)は、前記管状容器の前記内部空間の断面積(S
0)に対する比((S
1+S
2)/S
0比)が0.10以上0.70以下の範囲である、請求項1から4までのいずれか1項に記載のヒートパイプ。
【請求項6】
前記管状容器の横断面で見て、前記第1ウィック部の断面積(S
1)に対する前記第2ウィック部(S
2)の断面積の比(S
2/S
1比)は、1.0以上20.0以下の範囲である、請求項1から5までのいずれか1項に記載のヒートパイプ。
【請求項7】
前記ウィック構造体を構成する前記第1ウィック部および前記第2ウィック部は、それぞれ同じまたは異なる粉末材料からなる焼結材料で構成され、
前記第1ウィック部を構成する第1粉末材料の平均粒径が、前記第2ウィック部を構成する第2粉末材料の平均粒径と同じであり、または前記第2粉末材料の平均粒径よりも小さい、請求項1から6までのいずれか1項に記載のヒートパイプ。
【請求項8】
前記溝は、前記管状容器の長手方向に対して傾斜する延在方向にスパイラル状に形成され、
前記第2ウィック部は、前記溝と交差する延在方向に形成される、請求項1から7までのいずれか1項に記載のヒートパイプ。
【請求項9】
作動流体が封入された内部空間を有する管状容器に、
液相の作動流体を蒸発させて気相の作動流体に相変化させる蒸発部と、
前記蒸発部から離隔した位置に配設され、気相の作動流体を凝縮させて液相の作動流体に相変化させる凝縮部とを設けてなるヒートパイプにおいて、
前記管状容器は、
内周面に長手方向に向かって延在する溝と、
前記溝のうち長手方向の少なくとも一部に充填される第1ウィック部、および、前記管状容器の長手方向に向かって延在し、前記第1ウィック部の充填上面を含む前記管状容器の仮想内周面上の位置から、前記内部空間に向かって隆起して形成される複数の第2ウィック部を有する、少なくとも前記蒸発部に設けられるウィック構造体と
を備え、
前記第2ウィック部は、前記管状容器の長手方向に対して傾斜する延在方向にスパイラル状に形成され、
前記溝は、前記第2ウィック部と交差する延在方向に形成される
、ヒートパイプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱輸送特性を有するヒートパイプに関する。
【背景技術】
【0002】
近年のノートパソコンをはじめとした、デジタルカメラ、携帯電話などの電気・電子機器に搭載されている半導体素子などの電子部品は、高機能化に伴う高密度搭載などにより、発熱量が増大する傾向があることから、効率よく冷却できるような構成を採用することが重要である。電子部品を冷却するための手段としては、例えばヒートパイプを用いて冷却する方法が挙げられる。
【0003】
ここでヒートパイプは、一般的に、作動流体が封入された内部空間を有する管状容器(コンテナ)を備える。管状容器は、一端側部分に、液相の作動流体を蒸発させて気相の作動流体に相変化させる蒸発部を有し、他端側部分に、気相の作動流体を凝縮させて液相の作動流体に相変化させる凝縮部を有する。蒸発部で液相から気相に相変化させた作動流体は、蒸発部から凝縮部に流れる。凝縮部で気相から液相に相変化させた作動流体は、凝縮部から蒸発部に流れる。このようにして、管状容器内の蒸発部と凝縮部の間で作動流体の循環流れが形成されることによって、管状容器内の蒸発部と凝縮部の間で熱輸送を行っている。
【0004】
従来のヒートパイプとしては、例えば、コンテナの蒸発部に、粒子状の金属粉の焼結体からなるウィック構造体を備える構成が挙げられる。蒸発部を構成するウィック構造体は、液相の作動流体の保持力に優れている。このとき、ヒートパイプが、例えば蒸発部側が凝縮部側よりも高い位置にある姿勢、いわゆるトップヒートの姿勢で設置されたとしても、ドライアウト(作動流体が枯渇する現象)を防止することができる。
【0005】
また、本発明者は、特許文献1において、蒸発部に、長手方向に対して直交する断面の形状が花弁形状、歯車形状、星型形状または多角形状であるウィック構造体を設けたヒートパイプを提案した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載される花弁形状、歯車形状、星型形状または多角形状のウィック構造体は、全体的に厚さが略等しくなるように構成されており、かつ全体的に厚さが大きく構成されている。このとき、蒸発部の管状容器が受け取る熱によって作動流体を蒸発させる際に、作動流体の蒸発が速やかに進んでいないことで、ヒートパイプの熱抵抗が高まっている可能性がある。よって、特許文献1のウィック構造体は、作動流体の蒸発をより速やかに進め、それによりヒートパイプの熱抵抗をより小さくする点で、改善の余地がある。
【0008】
本発明の目的は、熱抵抗がより一層小さいヒートパイプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、液相の作動流体の保持力に優れている管状のウィック構造体(金属粉などの粉末材料の焼結体)を、管状容器(コンテナ)の蒸発部に備える構成を前提とし、熱抵抗の更なる改善を図るための検討を行ったところ、ウィック構造体として、管状容器の溝内に充填される第1ウィック部と、管状容器の内周面や第1ウィック部6の充填上面から径方向内方に向かって隆起して形成される第2ウィック部とを併用することにより、ウィック構造体の内部における作動流体の流れの乱れが抑制されて、作動流体を効率的にウィック構造体表面に供給でき、さらには作動流体の蒸発をより速やかに進められることを見出し、かかる知見に基づき本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
(1)作動流体が封入された内部空間を有する管状容器に、液相の作動流体を蒸発させて気相の作動流体に相変化させる蒸発部と、前記蒸発部から離隔した位置に配設され、気相の作動流体を凝縮させて液相の作動流体に相変化させる凝縮部とを設けてなるヒートパイプにおいて、前記管状容器は、内周面に長手方向に向かって延在する溝と、前記溝のうち長手方向の少なくとも一部に充填される第1ウィック部、および前記管状容器の長手方向に向かって延在し、前記第1ウィック部の充填上面を含む前記管状容器の仮想内周面上の位置から前記内部空間に向かって隆起して形成される第2ウィック部を有するウィック構造体とを備えるヒートパイプ。
(2)前記第1ウィック部の少なくとも一部が前記第2ウィック部と連結しており、かつ前記第1ウィック部の一部が前記内部空間に露出している、上記(1)に記載のヒートパイプ。
(3)前記ウィック構造体は、少なくとも前記蒸発部に設けられる、上記(1)または(2)に記載のヒートパイプ。
(4)前記ウィック構造体は、前記管状容器の中央部分または一端側部分に設けられる、上記(1)から(3)までのいずれか1項に記載のヒートパイプ。
(5)前記管状容器の蒸発部で見て、前記溝を形成する前の前記管状容器の溝形成前内周面の表面積(A)に占める、前記内部空間に露出する、前記第1ウィック部の前記充填上面の表面積(B)の比(B/A比)が、0.05以上の範囲である、上記(1)から(4)までのいずれか1項に記載のヒートパイプ。
(6)前記管状容器の横断面で見て、前記第1ウィック部の断面積(S1)と前記第2ウィック部(S2)の断面積の和である、前記ウィック構造体の断面積(S1+S2)は、前記管状容器の前記内部空間の断面積(S0)に対する比((S1+S2)/S0比)が0.10以上0.70以下の範囲である、上記(1)から(5)までのいずれか1項に記載のヒートパイプ。
(7)前記管状容器の横断面で見て、前記第1ウィック部の断面積(S1)に対する前記第2ウィック部の断面積(S2)の比(S2/S1比)は、1.0以上20.0以下の範囲である、上記(1)から(6)までのいずれか1項に記載のヒートパイプ。
(8)前記ウィック構造体を構成する前記第1ウィック部および前記第2ウィック部は、それぞれ同じまたは異なる粉末材料からなる焼結材料で構成され、前記第1ウィック部を構成する第1粉末材料の平均粒径が、前記第2ウィック部を構成する第2粉末材料の平均粒径と同じであり、または前記第2粉末材料の平均粒径よりも小さい、上記(1)から(7)までのいずれか1項に記載のヒートパイプ。
(9)前記溝は、前記管状容器の長手方向に対して傾斜する延在方向にスパイラル状に形成され、前記第2ウィック部は、前記溝と交差する延在方向に形成される、上記(1)から(8)までのいずれか1項に記載のヒートパイプ。
(10)前記第2ウィック部は、前記管状容器の長手方向に対して傾斜する延在方向にスパイラル状に形成され、前記溝は、前記第2ウィック部と交差する延在方向に形成される、上記(1)から(9)までのいずれか1項に記載のヒートパイプ。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、熱抵抗がより一層小さいヒートパイプを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明に従う第1の実施形態のヒートパイプの内部構造を示した図であって、
図1(a)が縦断面図、
図1(b)が
図1(a)のa-a断面図、
図1(c)が
図1(a)のb-b断面図である。
【
図2】
図2は、
図1のヒートパイプの内部で生じる作動流体の流れを説明するための図であって、
図2(a)が縦断面図、
図2(b)が
図2(a)のc-c断面図である。
【
図3】
図3は、第2の実施形態のヒートパイプの内部構造を示した縦断面図である。
【
図4】
図4(a)~(b)は、ウィック構造体の変形例を示す縦断面図である。
【
図5】
図5(a)~(b)は、第1ウィック部の変形例の要部を示す横断面図である。
【
図6】
図6(a)~(b)は、第1ウィック部の変形例を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の好ましい実施形態について、以下で説明する。
【0014】
<第1の実施形態>
図1は、本発明に従う第1の実施形態のヒートパイプの内部構造を示した図であって、
図1(a)が縦断面図、
図1(b)が
図1(a)のa-a断面図、
図1(c)が
図1(a)のb-b断面図である。この
図1では、ヒートパイプの内部に封入されている作動流体の図示は省略している。他方で、
図2は、
図1のヒートパイプの内部で生じる作動流体の流れを説明するための図であって、
図2(a)が縦断面図、
図2(b)が
図2(a)のc-c断面図である。
【0015】
(管状容器(コンテナ))
図1および
図2に示すヒートパイプ1は、作動流体Fが封入された内部空間Sを有する管状容器であるコンテナ2を備えている。
【0016】
コンテナ2の長手方向Lについての延在形状は、
図1(a)に示す直線状の他、曲部を有する形状などが挙げられ、特に限定されない。コンテナ2の長手方向に対して直交方向に切断したときのコンテナの外面輪郭形状は、
図1(b)および
図1(c)に示す略円形状の他、扁平形状、四角形などの多角形状などが挙げられ、特に限定されない。コンテナ2の肉厚は、特に限定されないが、例えば0.05~1mmである。コンテナ2の外径寸法は、特に限定されないが、例えば、コンテナ2が略円形状の外面輪郭形状である場合には、5~20mmの範囲であることが好ましい。
【0017】
コンテナ2の材質は、特に限定されない。特に作動流体Fとして水系の液体を用いる場合には、作動流体Fとの濡れ性を良くする観点から、金属材料を使用することが好ましい。特に、優れた熱伝導率を有する点から、コンテナ2には、例えば、銅、銅合金などを使用することができる。また、軽量化の点から、コンテナ2には、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金などを使用することができる。また、高強度を有する点から、コンテナ2には、例えば、ステンレス鋼などを使用することができる。また、その他、使用状況に応じて、コンテナ2には、例えば、スズ、スズ合金、チタン、チタン合金、ニッケル、ニッケル合金などを用いてもよい。
【0018】
(蒸発部および凝縮部)
管状容器であるコンテナ2は、それぞれ長手方向Lの一部に、液相の作動流体F(L)を蒸発させて気相の作動流体F(g)に相変化させる蒸発部3と、蒸発部3から離隔した位置に配設され、気相の作動流体F(g)を凝縮させて液相の作動流体F(L)に相変化させる凝縮部4とを設ける。
図1に示すコンテナ2は、一端側部分に蒸発部3、他端側部分に凝縮部4を有し、密閉された管として構成されている。
【0019】
このうち、蒸発部3は、
図1では、コンテナ2の一端側部分に形成されており、熱的に接続された発熱体(図示せず)から受熱(吸熱)する機能を有する。具体的に、蒸発部3は、
図2に記載されるように、液相の作動流体F(L)を蒸発させて気相の作動流体F(g)に相変化させることで、蒸発潜熱として発熱体から受けた熱を吸収する。
【0020】
また、凝縮部4は、蒸発部から離隔した位置に配設されており、例えば
図1ではコンテナ2の他端側部分に配設される。この凝縮部4は、蒸発部3で相変化して輸送されてきた気相の作動流体F(g)を、熱交換手段(図示せず)によって放熱する機能を有している。具体的には、凝縮部4は、気相の作動流体F(g)を凝縮させて液相の作動流体F(L)に相変化させ、それにより凝縮潜熱として輸送された作動流体F(g)の熱をヒートパイプ1の外部に放出する。
【0021】
(溝)
また、コンテナ2は、内周面2aに、1本または複数本の溝5と、これらの溝5内を含んで設けられるウィック構造体8を備える。
【0022】
このうち、溝5は、管状容器であるコンテナ2の内周面2aに、長手方向Lに向かって延在するように設けられる。このような溝5を設けることで、ヒートパイプ1の内部で液相の作動流体F(L)を輸送する際に、液相の作動流体F(L)が溝5に沿ってコンテナ2の内周面2aを移動するように、毛細管力を発揮することができる。そのため、凝縮部4から蒸発部3への液相の作動流体F(L)の輸送を促進することができる。
【0023】
これらの溝5は、凝縮部4から蒸発部3までの内周面2aに長手方向Lに向かって延在することが好ましく、凝縮部4から蒸発部3まで連続した溝5が延在することがより好ましい。コンテナ2の長手方向Lに向かって延在する溝(グルーブ)5がコンテナ2の内周面2aに形成されたグルーブ管によってコンテナ2を構成することで、コンテナ2の全長にわたって液相の作動流体F(L)を輸送するための毛細管力を発揮することができる。そのため、ヒートパイプ1がトップヒートの姿勢で設置されたとしても、凝縮部4から蒸発部3への液相の作動流体F(L)の輸送を行い易くすることができる。
【0024】
これらの溝5の開口幅W1は、特に限定されるものではないが、毛細管力による液相の作動流体F(L)の輸送を促進する観点では、例えば開口幅W1が0.1mm~1mmの範囲の溝5を有するように構成してもよい。
【0025】
(ウィック構造体)
他方で、コンテナ2の内周面2aに設けられるウィック構造体8は、1本または複数本の溝5のうち少なくともいずれかに充填される、1個または複数個の第1ウィック部6と、コンテナ2の長手方向Lに向かって延在し、第1ウィック部6の充填上面6aを含むコンテナ(管状容器)2の仮想内周面2b上の位置から、コンテナ2の内部空間Sに向かって隆起して形成される、1個または複数個の第2ウィック部7とを備える。第1ウィック部6および第2ウィック部7は、作動液を浸透させる機能を持つ部材であり、例えば、多孔質焼結体や発泡体などによって構成される。
【0026】
(第1ウィック部)
このうち、第1ウィック部6は、多孔質材料で構成され、コンテナ2の内周面2aに長手方向Lに向かって延在する1本または複数本の溝5のうち少なくともいずれかについて、長手方向Lの少なくとも一部を充填するように構成される。第1ウィック部6を設けることで、溝5に沿って輸送される液相の作動流体F(L)の蒸発を促進させることができる。
【0027】
ここで、第1ウィック部6は、少なくとも蒸発部3に設けられることが好ましい。このような第1ウィック部6を蒸発部3に設けることで、蒸発部3での液相の作動流体F(L)の蒸発が促進されるため、蒸発部3と熱的に接続された発熱体(図示せず)から受けた熱を、蒸発潜熱としてより多くの気相の作動流体F(g)に吸収させることができる。
【0028】
第1ウィック部6は、溝5内の開口位置5aまで充填されていることが好ましい。これにより、コンテナ2の長手方向Lに直交する横断面で見たときに、溝5内に充填される第1ウィック部6の断面積が大きくなることで、より多くの液相の作動流体F(L)が第1ウィック部6に供給されるため、液相の作動流体F(L)の蒸発量を増加させることができる。また、第1ウィック部6が溝5の開口位置5aを超えて充填された場合と比べて、液相の作動流体F(L)の蒸発によって気相の作動流体F(g)が生成され易くなるため、第1ウィック部6における温度上昇を低減することができる。
【0029】
第1ウィック部6の材質は、多孔質材料で構成される。特に、作動流体Fとして水系の液体を用いる場合には、作動流体Fとの濡れ性を良くする観点から、多孔質金属材料で構成されることが好ましい。これにより、第1ウィック部6には細かい細孔が多数形成されて表面積が大きくなるため、液相の作動流体F(L)を、第1ウィック部6の表面から蒸発させることができる。
【0030】
特に、第1ウィック部6は、平均粒径(p1)(平均一次粒子径)が0.01mm以上0.3mm以下の範囲にある第1粉末材料からなる焼結材料で構成されることが好ましい。このような範囲の平均粒径を有する第1粉末材料の焼結材料を用いることで、第1ウィック部6に多数の細孔が形成されて表面積が大きくなるため、液相の作動流体F(L)をより速やかに第1ウィック部6の表面から蒸発させることができる。他方で、作動流体F(L)は、輸送の早い段階ですべて蒸発するため、第1ウィック部6のより広い範囲から液相の作動流体F(L)を蒸発させて熱輸送特性を高めるには、後述の第2ウィック部7を用いて、第1ウィック部6の広い範囲に液相の作動流体F(L)を供給する必要がある。
【0031】
また、第1ウィック部6を構成する粉末材料は、優れた熱伝導率を有する点から、銅粉や銅合金粉などからなる銅系粉の焼結材料で構成されることが好ましい。
【0032】
(第2ウィック部)
第2ウィック部7は、多孔質材料で構成され、コンテナ2の長手方向Lに向かって延在し、コンテナ2の内周面2aと第1ウィック部6の充填上面6aによって構成されるコンテナ(管状容器)2の仮想内周面2b上の位置から、管状容器2の内部空間Sに向かって隆起して形成される。ここで、第2ウィック部7は、第1ウィック部6の少なくとも一部と連結し、かつ第1ウィック部6の一部が、内部空間Sに露出するように構成されることが好ましい。このような第2ウィック部7を第1ウィック部6と併用することで、液相の作動流体F(L)は、長手方向Lに形成される第2ウィック部7に沿って、第1ウィック部6と接触している部分まで輸送され、第1ウィック部6のより広い範囲から蒸発される。その結果、ウィック構造体8の内部における液相の作動流体F(L)の流れの乱れを抑制してヒートパイプ1の熱抵抗を小さくするとともに、ヒートパイプ1に優れた熱輸送特性をもたらすことができる。
【0033】
ここで、第2ウィック部7は、第1ウィック部6と同様に、少なくとも蒸発部3に設けられることが好ましい。これにより、第1ウィック部6および第2ウィック部7を併用したウィック構造体8が少なくとも蒸発部3に設けられるため、蒸発部3の内部における液相の作動流体F(L)の流れの乱れを抑制することができる。本実施形態では、
図1に示すように、蒸発部3がコンテナ2の一端側部分に設けられるため、ウィック構造体8も少なくともコンテナ2の一端側部分に設けられる。
【0034】
また、第2ウィック部7の幅寸法W2は、特に限定されないが、第2ウィック部7に沿った液相の作動流体F(L)の流量を増加させる観点から、例えば幅寸法W2が0.05mm~0.40mmの範囲になるように構成してもよい。
【0035】
また、第2ウィック部7は、コンテナ2の内周面2aと第1ウィック部6の充填上面6aによって構成されるコンテナ(管状容器)2の仮想内周面2b上の位置から、コンテナ2の内部空間Sに向かって隆起して形成される。これにより、内周面2aに第2ウィック部7が形成されない部分が生じ、その部分にある第1ウィック部6の表面から液相の作動流体F(L)が蒸発するため、第1ウィック部6の広い範囲に液相の作動流体F(L)を行き渡らせるとともに、第1ウィック部6の表面から液相の作動流体F(L)を速やかに蒸発させることができる。
【0036】
このとき、コンテナ2の蒸発部3で見て、溝5を形成する前の管状容器2の内周面2aの表面積(A)に占める、内部空間Sに向かって露出する、第1ウィック部6の充填上面6aの表面積(B)の比(B/A比)が、0.05以上の範囲であることが好ましく、0.07以上の範囲であることがより好ましく、0.08以上の範囲であることがさらに好ましい。これにより、第2ウィック部7に沿って液相の作動流体F(L)が輸送されながら、第1ウィック部6の表面からの、液相の作動流体F(L)の蒸発量が増加するため、ヒートパイプ1の熱抵抗をより小さくすることができる。他方で、前記第1ウィック部6が表面に露出している部分の表面積の比の上限は、特に限定されないが、第2ウィック部7に沿った液相の作動流体F(L)の輸送を確保する観点から、0.60以下の範囲としてもよい。
【0037】
また、
図1(b)に示すように、コンテナ2の横断面で見たときの、第1ウィック部6の断面積(S
1)と第2ウィック部の断面積(S
2)の和である、ウィック構造体8の断面積(S
1+S
2)は、溝5やウィック構造体8を形成する前のコンテナ2の内部空間の断面積(S
0)に対する比((S
1+S
2)/S
0比)が0.10以上0.70以下の範囲であることが好ましく、0.25以上0.60以下の範囲であることがより好ましい。特に、この比を0.25以上の範囲にすることで、液相の作動流体F(L)が長手方向Lに沿って流れ易くなるため、第1ウィック部6のより広い範囲に、液相の作動流体F(L)を行き渡らせることができる。他方で、この比を0.60以下の範囲にすることで、気相の作動流体F(g)が流通する内部空間Sの断面積が増加するため、ヒートパイプ1の熱輸送特性をより高めて、熱抵抗をより小さくすることができる。
【0038】
また、
図1(b)に示すように、コンテナ2の横断面で見たときの、第1ウィック部6の断面積(S
1)に対する第2ウィック部7の断面積(S
2)の比(S
1/S
2比)は、1.0以上20.0以下の範囲であることが好ましく、2.0以上10.0以下の範囲であることがより好ましい。特に、この比を2.0以上10.0以下の範囲にすることで、第1ウィック部6から蒸発する液相の作動流体F(L)の量に相対して、第2ウィック部7に沿って流通する液相の作動流体F(L)の量が適正な範囲になるため、ヒートパイプ1の熱輸送特性をより高めて、熱抵抗をより小さくすることができる。
【0039】
第2ウィック部7は、ヒートパイプ1の蒸発部3を含むように1個(1本)のみ有してもよいが、コンテナ2の内周面2aに向かって複数有することが好ましい。ここで、第2ウィック部7の個数(本数)は、8個(本)以上であることが好ましく、16個(本)以上であることがより好ましい。また、第2ウィック部7を複数有する場合、コンテナ2の横断面で見たときの、第2ウィック部7のコンテナ内周面に沿った間隙(配設ピッチ)は、0.5mm以上2.0mm以下であることが好ましい。このように、複数の第2ウィック部7を有し、より好ましくは所定の配設ピッチで複数の第2ウィック部7を有することで、第2ウィック部7に沿って流通し、第1ウィック部6に供給される液相の作動流体F(L)の量が増加するため、ヒートパイプ1の熱抵抗をより小さくすることができる。
【0040】
第2ウィック部7の材質は、多孔質材料で構成される。特に、作動流体Fとして水系の液体を用いる場合には、作動流体Fとの濡れ性を良くする観点から、多孔質金属材料で構成されることが好ましい。これにより、第2ウィック部7には液相の作動流体F(L)が通過できる細孔が形成されるため、液相の作動流体F(L)を、第2ウィック部7に沿って輸送することができる。
【0041】
第2ウィック部7は、平均粒径(p2)(平均一次粒子径)が0.05mm以上0.5mm以下の範囲にある第2粉末材料からなる焼結材料で構成されることが好ましい。このような範囲の平均粒径を有する第2粉末材料からなる焼結材料を用いることで、液相の作動流体F(L)が、第2ウィック部7の内部を通過し易くなるため、第2ウィック部7に沿って液相の作動流体F(L)を流通し易くすることができる。本実施形態における第2ウィック部7は、熱伝導性が高く、第1ウィック部6への耐ドライアウト性などを発揮するとともに、逆作動性を有する。ここで、逆作動性とは、蒸発部3の位置が凝縮部4の位置よりも高い場合でも、機能を発揮する性能をいう。
【0042】
第1ウィック部6を構成する第1粉末材料は、第2ウィック部7を構成する第2粉末材料と同じであってもよく、異なっていてもよい。その中でも、第1ウィック部6を構成する第1粉末材料の平均粒径(p1)は、第2ウィック部7を構成する第2粉末材料の平均粒径(p2)と同じであり、または第2粉末材料の平均粒径(p2)よりも小さいことが好ましい。より具体的には、第2粉末材料の第2平均粒径(p2)に対する、第1粉末材料の平均粒径(p1)の比(p1/p2比)が、1.0以下であることが好ましい。これにより、液相の作動流体F(L)が、第1ウィック部6の内部と同程度以上に、第2ウィック部7の内部を通過しやすくなるため、第1ウィック部6のより広い範囲に、液相の作動流体F(L)を行き渡らせることができる。それとともに、第1ウィック部6の表面積が大きくなるため、第1ウィック部6からの液相の作動流体F(L)の蒸発を促進することができる。
【0043】
第2ウィック部7を構成する粉末材料は、優れた熱伝導率を有する点から、銅粉や銅合金粉などからなる銅系粉の焼結材料で構成されることが好ましい。
【0044】
本実施形態のヒートパイプ1は、溝5が、コンテナ2の長手方向Lに対して傾斜する延在方向にスパイラル状に形成され、第2ウィック部7は、第1ウィック部6を充填した溝5と交差する延在方向に形成される。このように、第2ウィック部7と第1ウィック部6とを交差するように延在させることで、第2ウィック部7から第1ウィック部6に液相の作動流体F(L)を供給し易くするとともに、第1ウィック部6の広い範囲に液相の作動流体F(L)を行き渡らせることができる。
【0045】
なお、本実施形態のヒートパイプ1は、コンテナ2の内周面2aが、蒸発部3が形成されている箇所では、
図1(b)に示すように、第1ウィック部6および第2ウィック部7を有するウィック構造体8で覆われている。他方で、本実施形態のヒートパイプ1は、蒸発部3が形成されていない箇所では、
図1(c)に示すように、コンテナ2の内周面が内部空間Sに露出した状態のまま存在している。
【0046】
<第2の実施形態>
図3は、第2の実施形態のヒートパイプ1Aの内部構造を示した縦断面図である。なお、
図3に示す各構成部材は、
図1に示す構成部材と同じ場合には、同じ符号を付している。
【0047】
図3に示すヒートパイプ1Aは、作動流体Fが封入された内部空間Sを有する管状容器であるコンテナ2を備えている。コンテナ2には、内周面側にウィック構造体8Aを有する蒸発部3Aが、コンテナ2の中央部分に設けられる。すなわち、ウィック構造体8Aは、少なくともコンテナ2の中央部分に設けられる。また、コンテナ2は、2つの凝縮部4A、4A´を両端に有し、全体として密閉された管として構成されている。
【0048】
本実施形態のヒートパイプ1Aでは、コンテナ2の中央部に位置する蒸発部3Aで熱を吸収した気相の作動流体F(g)は、コンテナ2の両端側部分に位置する凝縮部4A、4A´の双方に分かれて流れるため、第1ウィック部6および第2ウィック部7を有するウィック構造体によって液相の作動流体F(L)の蒸発量が増加しても、蒸発潜熱として発熱体から受けた熱を、効率よく凝縮部4A、4A´に移動させることができる。
【0049】
<その他の実施形態>
上述の第1および第2の実施形態では、溝5が、コンテナ2の長手方向Lに対して傾斜する延在方向にスパイラル状に形成され、かつ第2ウィック部7が、第1ウィック部6を充填した溝5と交差する延在方向に形成される場合を示したが、かかる構成だけには限定されない。例えば、
図4(a)のヒートパイプ1Bに示すように、溝5Bおよび第2ウィック部7Bの両方がコンテナ2の長手方向Lに向かって延在していてもよい。このとき、ウィック構造体8Bは、第1ウィック部6Bと第2ウィック部7Bとが平行になるように構成される。他方で、
図4(b)のヒートパイプ1Cに示すように、第2ウィック部7Cが、コンテナ2の長手方向Lに対して傾斜する延在方向にスパイラル状に形成され、溝5は、第2ウィック部7Cと交差する延在方向に形成されていてもよい。このとき、ウィック構造体8Cは、第1ウィック部6Cと第2ウィック部7Cとが交差するように構成される。
【0050】
また、上述の第1および第2の実施形態では、第1ウィック部6は、溝5の開口位置5aまで充填されている場合を示したが、かかる構成だけには限定されない。例えば、
図5(a)に示すように、ウィック構造体8Dの第1ウィック部6Dは、溝5の開口位置5aまで充填されていなくてもよい。このとき、第1ウィック部6Dの充填上面6aは溝5の内部にある。また、第2ウィック部7Dは、溝5の内部に入り込んで第1ウィック部6と接触するように形成される。他方で、
図5(b)に示すように、ウィック構造体8Eの第1ウィック部6Eは、溝5の開口位置5aを超えて充填されていてもよい。特に、
図5(b)に示すように、第1ウィック部6Eが開口位置5aを超えて充填される場合、コンテナ2の内周面2aから第1ウィック部6Eの表面(第1ウィック部6Eの充填上面6a)までの距離tは、第2ウィック部7Eから第1ウィック部6Eへの液相の作動流体F(L)の移動をスムーズに進める観点で、例えば0.1mm以下の範囲にすることができる。
【0051】
また、上述の第1および第2の実施形態では、第1ウィック部6および第2ウィック部7の両方が、蒸発部3が形成されている箇所のみに形成されている場合を示したが、かかる構成だけには限定されない。例えば、
図6(a)および
図6(b)に示すように、第1ウィック部6F、6Gが、蒸発部3が形成されている箇所と、蒸発部3が形成されていない箇所の両方に形成されていてもよい。このとき、
図6(a)に示すように、第1ウィック部6Fが、蒸発部3から凝縮部4まで連なって形成されていてもよい。また、
図6(b)に示すように、第1ウィック部6Gが、蒸発部3から凝縮部4と隣接する領域まで連なって形成されていてもよい。
【0052】
また、溝5の断面形状は、上述の第1および第2の実施形態では、矩形状である場合を示したが、かかる構成だけには限定されず、台形状や略三角形状など種々の形状を採用することができる。
【0053】
<ヒートパイプの熱輸送メカニズム>
次に、本発明のヒートパイプ1の熱輸送のメカニズムを、
図1および
図2に示す第1の実施形態のヒートパイプ1を用いて以下で説明する。
【0054】
まず、液相の作動流体F(L)が、コンテナ2の内周面に長手方向に向かって延在する溝5に沿って、蒸発部3に供給される。このとき、作動流体F(L)の蒸発部3への供給手段は、特に限定されない。例えば、溝5などが作動流体F(L)に接触するときに生じる毛細管力を用いることで、蒸発部側が凝縮部側よりも高い位置にあっても、ドライアウトの発生は起こり難くなる。
【0055】
蒸発部3に供給された作動流体F(L)は、ウィック構造体8、特に第2ウィック部7に主として吸収され、第2ウィック部7の有する毛細管力によって長手方向Lに沿って流れる。また、作動流体F(L)は、第2ウィック部7と第1ウィック部6が接触する部分で、第2ウィック部7から溝5に充填されている第1ウィック部6に効率よく吸収され、溝5が延出する方向に沿って流れる。
【0056】
ここで、ヒートパイプ1の蒸発部3が、熱的に接続された発熱体(図示せず)から受熱すると、第2ウィック部7の表面と第1ウィック部6の表面において、液相の作動流体F(L)を蒸発させて気相の作動流体F(g)に相変化することによって、蒸発潜熱として発熱体から受けた熱を吸収する。
【0057】
このように、ヒートパイプ1の蒸発部3が、ウィック構造体8として第1ウィック部6および第2ウィック部7とを併用することで、蒸発部3における液相の作動流体F(L)の流れの乱れを抑制して、液相の作動流体F(L)を効率的に第1ウィック部6および第2ウィック部7の表面に供給することができるため、ヒートパイプの熱抵抗を格段に小さくすることができる。
【0058】
蒸発部3で熱を吸収した気相の作動流体F(g)は、コンテナ2の内部空間Sである蒸気流路を通って、コンテナ2の長手方向Lに蒸発部(受熱部)3から凝縮部(放熱部)4へ流れることで、発熱体から受けた熱が、蒸発部3から凝縮部4へと輸送される。
【0059】
その後、凝縮部4へ輸送された気相の作動流体F(g)は、凝縮部4にて、熱交換手段(図示せず)によって、液相へ相変化させられる。このとき、輸送されてきた発熱体の熱は、凝縮潜熱としてヒートパイプ1の外部に放出される。そして、凝縮部4で熱を放出して液相に相変化した液相の作動流体F(L)が、コンテナ2の内周面に沿って、凝縮部4から蒸発部3に流れることで、蒸発部3と凝縮部4の間の作動流体の循環流れを形成することができる。
【0060】
<ヒートパイプの製造方法>
以下、本発明のヒートパイプの製造方法の具体的な例について説明する。
【0061】
本発明のヒートパイプ1に用いられるコンテナ2の形状は、ヒートパイプ1の形状に合わせて、管材、板材、箔材などから適宜選択することができる。コンテナ2の表面に付着した汚れなどは、ヒートパイプの熱伝達能の低下に繋がる恐れがあるため、洗浄することが好ましい。洗浄は一般的な方法で行うことができ、例えば溶剤脱脂、電解脱脂、エッチング、酸化処理などによって行うことができる。
【0062】
このコンテナ2の内部中心位置に、第1ウィック部6の型となる形状の芯棒(例えば、ステンレス製の芯棒)を挿入配置してから、コンテナ2の内面と芯棒の外面との間に形成された空隙部に第1ウィック部6の原料である粉末材料(例えば銅粉などの金属粉)を装填し、この粉末材料を焼結することで、第1ウィック部6を形成する。第1ウィック部6を形成したコンテナ2から、芯棒を引き抜いて取り外す。
【0063】
次いで、コンテナ2の内部中心位置に、第2ウィック部7の型となる形状の芯棒(例えば、ステンレス製の芯棒)を挿入配置し、コンテナ2の内面と芯棒の外面との間に形成された空隙部に、第2ウィック部7の原料である粉末材料(例えば銅粉などの金属粉)を装填し、この粉末材料を焼結することで、第2ウィック部7を形成する。第2ウィック部を形成したコンテナ2から、芯棒を引き抜いて取り外す。
【0064】
ここで、第1ウィック部6および第2ウィック部7の原料である粉末材料の焼結は、通常行われている条件であればよく、特に限定されない。焼結の条件の一例として、水素ガスや、水素ガスと不活性ガス(N2、Ar、Heなど)を含む混合ガスなどの還元ガスの雰囲気下で、加熱処理を施すことで行うことが挙げられる。
【0065】
第1ウィック部6および第2ウィック部7を形成した後、一方の端部である封入口を残してコンテナ2の他方の端部だけを封止し、封入口から作動流体Fを注入する。作動流体Fを注入した後、コンテナ2内部を、加熱脱気、真空脱気などの脱気処理をして減圧状態にする。その後、封入口を封止することでヒートパイプ1を製造する。
【0066】
封止の方法は、特に限定されず、例えば、TIG溶接、抵抗溶接、圧接、はんだ付けを挙げることができる。なお、最初に行う封止(他方の端部だけの封止)は、その後に行う脱気の際に内部の気体が抜ける部分以外を封止するために行う工程であり、また、2回目の封止(封入口の封止)は、脱気の際に内部の気体が抜ける部分を封止するために行う工程である。
【0067】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例】
【0068】
以下に、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0069】
(本発明例1~3)
本発明例1~3のヒートパイプは、
図1に示す内部構造を有する円筒状のヒートパイプ1である。コンテナ2として、長さが400mmであり、表1に記載の直径(外径)を有する円筒形状のものを用いた。このとき、横断面で見たときのコンテナ2の内部空間の断面積(S
0)と、蒸発部3における溝形成前のコンテナの内周面の表面積(A)は、表1に記載のとおりである。このコンテナ2の内周面2aに、コンテナ2の全長にわたって延在し、横断面で見たときの断面が矩形のグルーブ管を構成した。
【0070】
このコンテナ2(グルーブ管)の内部中心位置に、第2ウィック部7の型となる形状のステンレス製の芯棒を挿入配置してから、グルーブ管の内面と芯棒の外面との間に形成された空隙部に第1ウィック部6および第2ウィック部7の原料である粉末材料を装填した。ここで、第1ウィック部6および第2ウィック部7の原料である粉末材料(第1粉末材料、第2粉末材料)としては、表1に記載される平均粒径(平均一次粒子径)を有する銅粉を用いた。すなわち、第1粉末材料の平均粒径(p1)と、第2粉末材料の平均粒径(p2)は、それぞれ0.1mmである。そして、粉末材料を装填したコンテナ2を、還元ガスの雰囲気下で加熱処理を施し、粉末材料を焼結させた後、芯棒をコンテナ2から引き抜いて取り外した。これにより、コンテナ2の内部の一端側部分(蒸発部3)には、長さが100mmの銅焼結体からなる、第1ウィック部6および第2ウィック部7が同時に形成された。このうち、第1ウィック部6は、コンテナ2の内周面2aに形成された溝5が開口位置5aまで充填される状態で形成された。また、第2ウィック部7は、第1ウィック部6が形成されているコンテナ2の内部の一端側部分(蒸発部3)に、表1に記載される配設ピッチで、表1に記載される本数が形成された。このとき、蒸発部3における、ウィック構造体8を設けたコンテナ2における第1ウィック部6が露出する部分の表面積(B)と、溝5形成前のコンテナ2の内周面2aの表面積(A)に占める、ウィック構造体8を設けたコンテナ2における第1ウィック部6が露出する部分の表面積(B)の比(B/A比)と、第1ウィック部6の断面積(S1)と、第2ウィック部7の断面積(S2)と、第1ウィック部6の断面積(S1)に対する第2ウィック部7の断面積(S2)の割合(S2/S1)と、コンテナ2の内部空間Sの断面積(S0)に対するウィック構造体の断面積(S1+S2)の割合((S1+S2)/S0比)は、表1に記載のとおりである。
【0071】
第1ウィック部6および第2ウィック部7を形成した後、一方の端部である封入口を残してコンテナ2の他方の端部だけを封止し、封入口から作動流体F(L)である水を注入した。次いで、コンテナ2の内部を脱気して減圧状態とし、その後、封入口を封止することでヒートパイプ1を作製した。
【0072】
(比較例1)
比較例1のヒートパイプは、コンテナに溝を形成せずに第1ウィック部を設けることなく、コンテナの内部の一端側部分(蒸発部)の内周面に、平均粒径(平均一次粒子径)が0.10mmの銅粉を用いて、長さが100mmの銅焼結体からなる第2ウィック部を形成した。それ以外は、本発明例1のヒートパイプと同様な構成になるようにして作製した。
【0073】
(性能評価)
ヒートパイプの性能評価は以下の条件で行った。
1.ヒートパイプの一端側部分である蒸発部(受熱部)の外面に発熱体(発熱量30W~150W)を装着した。
2.ヒートパイプの他端側部分である凝縮部(放熱部)に熱交換手段を装着した。
3.蒸発部と凝縮部の間の中間部は、断熱材を装着して断熱部とした。
4.水平方向に設置した状態で、蒸発部での入熱量を30Wから10Wずつ増加させていき、蒸発部の温度が非定常となる直前の入熱量の大きさを測定し、この測定した入熱量を最大熱輸送量Qmax(W)とした。
5.ヒーターの温度と凝縮部の温度の差を測定し、入熱量で割った値を熱抵抗(℃/W)とした。
【0074】
このうち、最大熱輸送量Qmaxの結果について、以下の基準で評価した。評価結果を表1の「最大熱輸送量の評価」欄に示す。
〇:最大熱輸送量Qmaxが65W以上である
×:最大熱輸送量Qmaxが65W未満である
【0075】
また、熱抵抗の結果について、比較例1を基準(指数比100)としたときの相対値で表した。結果を表1の「熱抵抗の相対値」欄に示す。
【0076】
【0077】
その結果、本発明例1~3のヒートパイプ1は、最大熱輸送量Qmaxに関する評価結果が、いずれも「○」評価であったため、優れた熱輸送特性を有していることが分かった。また、本発明例1~3のヒートパイプ1は、熱抵抗の相対値が、いずれも100を下回っていたため、比較例1のヒートパイプに比べて熱抵抗が小さいことが分かった。
【0078】
上記結果より、本発明例1~3のヒートパイプ1は、高い熱輸送特性を有するとともに熱抵抗が小さいことが分かった。
【符号の説明】
【0079】
1、1A~1C ヒートパイプ
2、2A 管状容器(またはコンテナ)
2a 管状容器(またはコンテナ)の内周面
2b 管状容器(またはコンテナ)の仮想内周面
3、3A 蒸発部
4、4A、4A´ 凝縮部
5 溝
5a 溝の開口位置
6、6B~6E 第1ウィック部
6a 第1ウィック部の充填上面
7、7B~7E 第2ウィック部
8、8B~8E ウィック構造体
F 作動流体
F(L) 液相の作動流体
F(g) 気相の作動流体
L 管状容器の長手方向
S 内部空間
t コンテナの内周面から第1ウィック部の表面までの距離
d 溝の深さ
W1 溝の開口幅
W2 第2ウィック部の幅寸法