(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】バッター生地加熱食品用組成物、及びバッター生地加熱食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A21D 10/00 20060101AFI20240902BHJP
A21D 2/34 20060101ALI20240902BHJP
A21D 2/18 20060101ALI20240902BHJP
A21D 2/26 20060101ALI20240902BHJP
A21D 2/14 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
A21D10/00
A21D2/34
A21D2/18
A21D2/26
A21D2/14
(21)【出願番号】P 2020055157
(22)【出願日】2020-03-25
【審査請求日】2023-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000187079
【氏名又は名称】昭和産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100154597
【氏名又は名称】野村 悟郎
(72)【発明者】
【氏名】相生 実樹
(72)【発明者】
【氏名】望月 梓
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/180667(WO,A1)
【文献】特開2005-218409(JP,A)
【文献】特開昭63-022164(JP,A)
【文献】特開昭62-022537(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0193565(US,A1)
【文献】特開2017-131168(JP,A)
【文献】特表2012-523841(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0241319(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A21D
A23L
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦粉を含有するバッター生地を加熱してバッター生地加熱食品を製造するためのバッター生地加熱食品用組成物であって、
乳タンパク質濃縮物(MPC)を、たん白質量として1~25質量%含有
し、
難消化性澱粉を、4~12質量%含有することを特徴とするバッター生地加熱食品用組成物。
【請求項2】
グルコノデルタラクトンを0.02~2.0質量%含有する請求項
1に記載のバッター生地加熱食品用組成物。
【請求項3】
小麦粉を含有するバッター生地を加熱してバッター生地加熱食品を製造するための粉粒状材料及び液状材料からなるバッター生地加熱食品用生地であって、
前記粉粒状材料中に、乳タンパク質濃縮物(MPC)が、たん白質量として1~25質量%含有され
、
難消化性澱粉が、4~12質量%含有されることを特徴とするバッター生地加熱食品用生地。
【請求項4】
請求項1
又は2に記載のバッター生地加熱食品用組成物と、液状材料を含むその他の材料とを混合してなるバッター生地、又は請求項
3に記載のバッター生地加熱食品用生地を加熱する工程を含むバッター生地加熱食品の製造方法。
【請求項5】
前記バッター生地加熱食品が、ホットケーキ又はお好み焼である請求項
4に記載のバッター生地加熱食品の製造方法。
【請求項6】
小麦粉を含有するバッター生地を加熱してバッター生地加熱食品を製造するための
粉粒状材料及び液状材料からなるバッター生地加熱食品用生地
の前記粉粒状材料中に、乳タンパク質濃縮物(MPC)を
、たん白質量として1~25質量%含有させ、
難消化性澱粉を、4~12質量%含有させることを特徴とするバッター生地加熱食品のボリューム向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バッター生地加熱食品用組成物、及びバッター生地加熱食品の製造方法に関し、特に厚み、ボリューム感があり、ソフトな食感で口溶けが良好なバッター生地加熱食品が得られ、且つ調製したバッター生地の粘度等の経時的な変化が少なく、安定した品質でバッター生地加熱食品を製造できるバッター生地加熱食品用組成物、及びバッター生地加熱食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ホットケーキやお好み焼等のバッター生地加熱食品は厚みやボリューム感があることが好まれる。従来、バッター生地加熱食品の厚みやボリューム感を向上させる場合、生地に増粘剤、α化澱粉、たん白素材等を配合して生地粘度が高くなるように調整することが行われている。
【0003】
例えば、特許文献1では、風味、食感に優れ、ホットケーキの高さを向上させ、しかも調理性、作業性を向上させたホットケーキを提供することを目的として、グルコノデルタラクトンと、増粘剤及び/又は可溶性カルシウム化合物とを含有することを特徴とするホットケーキ用プレミックスが開示されている。また、特許文献2では、小麦粉を含む澱粉質原料を含有する比較的水分含量の高い菓子類の食感を改良することができる食感改良剤を提供することを目的として、小麦粉を含む澱粉質原料を含有し、水分含量が10質量%以上である菓子類の食感改良剤であって、アセチル基含量が2.0~2.5質量%であり、6質量%の糊粘度が200mPa・s以下となるα化アセチル化架橋タピオカ澱粉を有効成分とすることを特徴とする菓子類の食感改良剤が開示されている。さらに、特許文献3では、ソフトで、かつ歯切れの良いホットケーキ類が得られるホットケーキ類生地を提供することを目的として、穀粉類を主体とする生地原料に、少なくともゲル化剤と乳蛋白質と水とで構成される複合体を、上記穀粉類100質量部に対し1~30質量部混練してなることを特徴とするホットケーキ類生地が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平4-370054号公報
【文献】特開2017-176105号公報
【文献】特開2005-304373号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これらの材料を配合した生地から製造されたバッター生地加熱食品は、高さやボリュームを向上させようとすると食感が硬い場合や、ソフトな食感にしようとするとくちゃついたりぼそついたりして口溶けが悪い場合があったり、さらに調製したバッター生地の粘度等が経時的に変化し、安定した品質でバッター生地加熱食品を製造できない場合があったりするため、さらなる改良が求められている。
【0006】
したがって、本発明の目的は、厚み、ボリューム感があり、ソフトな食感で口溶けが良好なバッター生地加熱食品が得られ、且つ調製したバッター生地の粘度等の経時的な変化が少なく、安定した品質でバッター生地加熱食品を製造できるバッター生地加熱食品用組成物、及びバッター生地加熱食品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、たん白素材に着目し、種々のたん白素材を検討した結果、特定の乳たん白素材を所定の範囲の量で用いることによって、上記課題を達成できることを見出した。
【0008】
すなわち、上記目的は、小麦粉を含有するバッター生地を加熱してバッター生地加熱食品を製造するためのバッター生地加熱食品用組成物であって、乳タンパク質濃縮物(MPC)(以下、「MPC」と称する)を、たん白質量として1~25質量%含有し、難消化性澱粉を、4~12質量%含有することを特徴とするバッター生地加熱食品用組成物、並びに小麦粉を含有するバッター生地を加熱してバッター生地加熱食品を製造するための粉粒状材料及び液状材料からなるバッター生地加熱食品用生地であって、前記粉粒状材料中に、MPCが、たん白質量として1~25質量%含有され、難消化性澱粉が、4~12質量%含有されることを特徴とするバッター生地加熱食品用生地によって達成される。なお、本発明において、バッター生地加熱食品は、小麦粉、及びその他の材料を含むバッター生地を焼成、油ちょう、蒸し調理、又は電子レンジ調理によって加熱して製造される食品のことを称する。
【0009】
また、上記目的は、本発明のバッター生地加熱食品用組成物と、液状材料を含むその他の材料とを混合してなるバッター生地、又は本発明のバッター生地加熱食品用生地を加熱する工程を含むバッター生地加熱食品の製造方法によって達成される。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、厚み、ボリューム感があり、ソフトな食感で口溶けが良好なバッター生地加熱食品が得られ、且つ調製したバッター生地の粘度等の経時的な変化が少なく、安定した品質でバッター生地加熱食品を製造できるバッター生地加熱食品用組成物、及びバッター生地加熱食品の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[バッター生地加熱食品用組成物]
本発明のベーカリー製品用組成物は、小麦粉を含有するバッター生地を加熱してバッター生地加熱食品を製造するためのバッター生地加熱食品用組成物であって、乳タンパク質濃縮物(MPC)を、たん白質量として1~25質量%含有することを特徴とする。MPCを含有するバッター生地加熱食品用組成物を上記の範囲の量で用いることで、厚み、ボリューム感があり、ソフトな食感で口溶けが良好なバッター生地加熱食品が得られ、且つ調製したバッター生地の粘度等の経時的な変化が少なく、安定した品質でバッター生地加熱食品を製造できる。後述する実施例で示す通り、たん白素材であっても、大豆たん白、小麦グルテン、及びホエイパウダーやカゼイン塩等の他の乳たん白素材を用いた場合は、上述の効果が得られない。
【0012】
本発明において、MPCは、ミルクプロテインコンセントレート(Milk Protein Concentrate)のことであり、一般に脱脂乳を除菌した後、限外ろ過膜等により膜処理して、乳糖および塩類等を少なくとも部分的に除去して乳タンパク質を濃縮したものを必要に応じてさらに加熱、濃縮、乾燥したものである。通常、たん白質含量は40~95質量%である。本発明において、MPCは、同様な製造方法で得られる乳タンパク質濃縮物、例えば、ミセラカゼインアイソレート(MCI)、ミルクプロテインアイソレート(MPI)等も含むものとする。本発明において、MPCは、市販のMPCから適宜選択して使用することができる。本発明において、MPCは、粉粒状であることが好ましく、その平均粒径が500μm以下であることがより好ましい。
【0013】
本発明のバッター生地加熱食品用組成物において、前記MPCの含有量は、たん白質量として、1~25質量%である。本発明のバッター生地加熱食品用組成物は、前記MPCを、たん白質量として、好ましくは4~21質量%、さらに好ましくは8~21質量%、特に好ましくは10~18質量%含有する。「たん白質量として」含有するとは、MPCの含有量としては、MPC中のたん白質含有量に応じて変わることを意味する。すなわち、例えば、MPC中のたん白質含有量が80質量%の場合、MPCとしては、バッター生地加熱食品用組成物の質量に基づいて、1.25~31.25質量%含有し、好ましくは5~26.25質量%、さらに好ましくは10~26.25質量%、特に好ましくは12.5~22.5質量%含有する。
【0014】
バッター生地加熱食品用組成物に、たん白素材を配合する目的として、バッター生地加熱食品のたん白質を強化することがあるが、上述のように、得られるバッター生地加熱食品の食感が硬い場合や、くちゃついたりぼそついたりして口溶けが悪い場合や、風味が悪い場合があったり、調製したバッター生地の粘度等が経時的に変化し、安定した品質でバッター生地加熱食品を製造できない場合があったりする。本発明においては、例えば、たん白質量として10質量%以上強化した場合でも、厚み、ボリューム感があり、ソフトな食感で口溶けが良好なバッター生地加熱食品が得られ、且つ調製したバッター生地の粘度等の経時的な変化が少なく、安定した品質でバッター生地加熱食品を製造できる。
【0015】
本発明のバッター生地加熱食品用組成物に含まれる小麦粉としては、特に制限はなく、薄力粉、中力粉、準強力粉、強力粉、全粒粉、デュラム小麦粉等が挙げられる。本発明のバッター生地加熱食品用組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲で、一般にバッター生地加熱食品用組成物に配合される粉粒状材料又は液状材料を適宜配合することができる。例えば、大麦粉、大豆粉、そば粉、ライ麦粉、米粉、トウモロコシ粉等の小麦粉以外の穀粉類;植物から抽出した澱粉、例えば、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、甘藷澱粉、サゴ澱粉、米澱粉等の澱粉、及びそれらの澱粉を原料として、物理的又は化学的(酵素処理も含む)に加工を施した加工澱粉等(例えば、α化澱粉;湿熱処理澱粉;酸化澱粉;酸処理澱粉;酢酸澱粉(アセチル化澱粉)等のエステル化澱粉;リン酸化澱粉;ヒドロキシプロピル化澱粉等のエーテル化澱粉;リン酸架橋澱粉、アジピン酸架橋澱粉等の架橋澱粉;アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸架橋澱粉、アセチル化酸化澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉等の複数の加工を組み合わせた加工澱粉、それらの澱粉又は加工澱粉に対し、油脂加工を施したもの油脂加工澱粉等)の澱粉類(難消化性澱粉は除く);上述の澱粉類を消化酵素の消化作用に抵抗性を有するように加工した難消化性澱粉、粉末セルロース、難消化性デキストリン、ポリデキストロース、グアガム分解物、βグルカン、イヌリン、水溶性ペクチン等の食物繊維;砂糖、トレハロース、デキストリン、オリゴ糖、ぶどう糖、粉末水あめ、糖アルコール等の糖質;大豆油、ひまわり油、なたね油、胡麻油、サフラワー油、オリーブ油、綿実油、コーン油、米油、パーム油、又はこれらを用いたサラダ油等の液状油脂、ショートニング、バター、マーガリン、ラード、ヘット、カカオバター、パーム硬化油、水素添加硬化油脂等の固形油脂、これらの油脂と乳化剤等から調製された粉末油脂等の食用油脂;重曹(炭酸水素ナトリウム)、炭酸アンモニウム、炭酸カルシウム等のガス発生剤、及び任意にグルコノデルタラクトン、酒石酸、酒石酸水素カリウム、リン酸二水素ナトリウム、ピロリン酸二水素二ナトリウム、フマル酸、リン酸二水素カルシウム等の酸性剤を含む膨張剤;グアガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、キサンタンガム等の増粘剤;牛乳、脱脂粉乳等のMPC以外の乳製品;液卵、卵白粉、卵黄粉、全卵粉等の卵製品;グリセリン脂肪酸エステル、レシチン等の乳化剤;有機酸、有機酸塩等のpH調整剤、制菌剤、その他、食塩、調味料、色素、香料、甘味料、種々の品質改良剤等が挙げられる。なお、これらの材料は、バッター生地加熱食品用組成物に配合しても良く、後述するように、バッター生地加熱食品を製造する際に、バッター生地を調製する工程において、液状材料と一緒に添加しても良い。
【0016】
本発明のバッター生地加熱食品用組成物においては、食物繊維を含有することが好ましい。食物繊維の含有量は、バッター生地加熱食品用組成物の質量に基づいて、1~15質量%が好ましく、3~15質量%がより好ましく、4~12質量%がさらに好ましく、5~10質量%が特に好ましい。前記組成物が食物繊維を適切な含有量で含有することで、調製される生地のグルテンネットワークの形成が適度に抑制され、生地の経時的な「締まり(本発明において、生地の粘度の上昇を意味する)」を抑制することができる。食物繊維の含有量(食物繊維量)は、プロスキー変法(酵素-重量法)で水溶性食物繊維、及び不溶性食物繊維の合計として測定することができる。本発明において、前記食物繊維は、難消化性澱粉を含有することが好ましい。難消化性澱粉の含有量は、3~15質量%が好ましく、4~12質量%がさらに好ましく、5~10質量%が特に好ましい。前記難消化性澱粉は、特に制限はなく、公知の難消化性澱粉を適宜選択して使用することができる。前記難消化性澱粉は、架橋処理が施されたものが好ましい。
【0017】
また、本発明のバッター生地加熱食品用組成物においては、グルコノデルタラクトンを含有することが好ましい。グルコノデルタラクトンは、上述の膨張剤の酸性剤としても用いられるものである。グルコノデルタラクトンの含有量は、バッター生地加熱食品用組成物の質量に基づいて、0.02~2.0質量%が好ましく、0.06~1.1質量%がより好ましく、0.2~0.8質量%がさらに好ましい。グルコノデルタラクトンは、その添加量に応じて、経時的に生地を「緩める(本発明において、生地の粘度を降下させることを意味する)」傾向があるため、前記組成物がグルコノデルタラクトンを適切な含有量で含有することで、生地の粘度を適正化することができる。
【0018】
さらに、本発明のバッター生地加熱食品用組成物においては、食用油脂を含有することが好ましい。食用油脂の含有量は、バッター生地加熱食品用組成物の質量に基づいて0.5~10質量%が好ましく、1~7質量%がより好ましく、1~5質量%がさらに好ましい。前記組成物が食用油脂を適切な含有量で含有することで、調製される生地のグルテンネットワークの形成が適度に抑制され、生地の経時的な「締まり」を抑制することができる。本発明のバッター生地加熱食品用組成物においては、上記の含有量の範囲で、食物繊維、グルコノデルタラクトン、及び食用油脂の1種以上、好ましくは2種以上、さらに好ましくは全ての材料を含むことにより、さらに厚み、ボリューム感があり、ソフトな食感で口溶けが良好なバッター生地加熱食品が得られ、且つ調製したバッター生地の粘度等の経時的な変化が少なく、安定した品質でバッター生地加熱食品を製造できる。
【0019】
[バッター生地加熱食品用生地]
本発明のバッター生地加熱食品用生地は、小麦粉を含有するバッター生地を加熱してバッター生地加熱食品を製造するための粉粒状材料及び液状材料からなるバッター生地加熱食品用生地であって、前記粉粒状材料中に、MPCが、たん白質量として1~25質量%含有されることを特徴とする。本発明のバッター生地加熱食品用生地は、一般に、小麦粉及びMPCを含む上述のバッター生地加熱食品用組成物に配合できる粉粒状材料と、液状材料との混合物である。前記液状材料としては、水、牛乳、液卵、果汁、酒類、食用油脂等が挙げられる。本発明においては、牛乳を含むことが好ましい。本発明のバッター生地加熱食品用生地の調製は、常法に従って行うことができる。例えば、上記の材料をミキサー等で混合することで調製することができる。本発明のバッター生地加熱食品用生地は、常温、冷蔵(チルドを含む)又は冷凍で保存し、バッター生地加熱食品製造時にそのまま、又はさらにその他の材料を加えて使用することができる。本発明のバッター生地加熱食品用生地の好ましい態様は、本発明のバッター生地加熱食品用組成物と同様である。
【0020】
[バッター生地加熱食品の製造方法]
本発明のバッター生地加熱食品の製造方法は、本発明のバッター生地加熱食品用組成物と、液状材料を含むその他の材料とを混合してなるバッター生地、又は本発明のバッター生地加熱食品用生地を含むバッター生地を加熱する工程を含む。液状材料としては、上述の通り、水、牛乳、液卵、果汁、酒類、食用油脂等が挙げられる。本発明においては、牛乳を含むことが好ましい。その他の材料としては、上述のバッター生地加熱食品用組成物に配合できる材料が挙げられる。本発明のバッター生地加熱食品の製造方法は、本発明のバッター生地加熱食品用組成物、又は本発明のバッター生地加熱食品用生地を用いているので、厚み、ボリューム感があり、ソフトな食感で口溶けが良好なバッター生地加熱食品が得られ、且つ調製したバッター生地の粘度等の経時的な変化が少なく、安定した品質でバッター生地加熱食品を製造できる。本発明のバッター生地加熱食品の製造方法の好ましい態様は、本発明のバッター生地加熱食品用組成物と同様である。
【0021】
本発明のバッター生地加熱食品の製造方法は常法に従って行うことができる。本発明の製造方法における加熱工程は、例えば、焼成、油ちょう、蒸し調理、又は電子レンジ調理等が挙げられ、特に焼成工程を含むことが好ましい。本発明のバッター生地加熱食品の製造方法によって製造できるバッター生地加熱食品の種類には特に制限はなく、例えば、ホットケーキ(パンケーキともいう)、お好み焼、鯛焼、今川焼、スポンジケーキ、マフィン、パウンドケーキ、ドーナツ、蒸しケーキ、蒸しパン等が挙げられる。バッター生地加熱食品としては、厚み、ボリューム感があることが特に好まれる、ホットケーキ又はお好み焼が好ましい。
【0022】
また、上記説明から理解できるように、本発明は、MPCを有効成分とする、小麦粉を含有するバッター生地を加熱して製造されるバッター生地加熱食品のボリューム向上剤を提供する。また、小麦粉を含有するバッター生地を加熱してバッター生地加熱食品を製造するためのバッター生地加熱食品用生地に、MPCを含有させることを特徴とするバッター生地加熱食品のボリューム向上方法を提供する。本発明のバッター生地加熱食品用ボリューム向上剤、及び本発明のバッター生地加熱食品のボリューム向上方法の好ましい態様は、本発明のバッター生地加熱食品用組成物及び本発明のバッター生地加熱食品の製造方法と同様である。
【実施例】
【0023】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
1.ホットケーキの試験
バッター生地加熱食品としてホットケーキを選定し、以下の通り試験した。
(1)ホットケーキ用組成物の調製
表1~表3に示した配合で各実施例、比較例及び参考例のホットケーキ用組成物を調製した。なお、膨張剤は、ガス発生剤として重曹(炭酸水素ナトリウム)を40%配合し、酸性剤としてグルコノデルタラクトン、ピロリン酸二水素二ナトリウム、フマル酸、リン酸二水素カルシウムから選択される1種以上の化合物を組み合わせて配合し、グルコノデルタラクトンの含有量を調整した。
(2)ホットケーキ用生地の調製
各ホットケーキ用組成物を用いてバッター生地を調製した。具体的には、ボウルに上記1.(1)で調製したホットケーキ用組成物100質量部を入れ、全卵33.3質量部及び牛乳80質量部を加えてホイッパーで均一になるよう、60回攪拌混合した。
(3)ホットケーキの焼成
ホットプレートを用いて、上記1.(2)で調製したホットケーキ用生地(1枚当たり80g)を、180℃で3分間焼成し、裏返してさらに3分間焼成した。焼成は、生地の経時的な変化の影響を調べるため、調製直後の生地、及び調製後、室温30分経過後の生地を用いて実施した。
【0024】
(4)ホットケーキの評価
(i)厚み
各ホットケーキ焼成品について、焼成後5分間放置後、最も厚い部分を有するラインでカットし、最厚部の厚み(mm)を測定した。
(ii)直径
各ホットケーキ焼成品について、長径(mm)及び短径(mm)を測定し、直径=(長径+短径)/2として、直径(mm)を算出した。
(iii)ソフト感
各ホットケーキ焼成品について、焼成後5分間放置後、試食し、ソフト感を以下の基準で評価した。訓練を受けた専門のパネル10名の評点の平均値を評価結果とした。
5:非常にふんわりしており、ソフトである
4:ふんわりしており、ソフトである
3:ややふんわりしており、ソフトである
2:ややふんわり感が少なく、ソフトでない
1:ふんわり感が少なく、ソフトでない
(iv)口溶け
各ホットケーキ焼成品について、焼成後5分間放置後、試食し、口溶けを以下の基準で評価した。訓練を受けた専門のパネル10名の評点の平均値を評価結果とした。
5:非常に口溶けが良い
4:口溶けが良い
3:やや口溶けが良い
2:やや口溶けが悪く、くちゃつく
1:口溶けが悪く、くちゃつく
表1~3に評価結果を示す。
【0025】
【0026】
表1に示した通り、MPCを14質量%含有させた参考例3のホットケーキ用組成物を用いてバッター生地を調製し、ホットケーキを焼成した場合、参考例1と比較して、直径が小さくなり、ホットケーキの厚みが1.4倍に向上し、且つソフト感、口溶けの評価も非常に高かった。これらの評価については、さらに難消化性澱粉を含有させ食物繊維量を高めた実施例2の方がより高い傾向であった。また、調製した直後のバッター生地を用いた焼成品と調製後30分経過後の生地を用いた焼成品を比較すると、参考例1では、ソフト感、口溶けの評価が低くなったのに対し、参考例3及び実施例2では、大きな差は認められなかった。一方、その他のたん白素材として、乳たん白素材であるホエイ、及びカゼインナトリウムをホットケーキ用組成物中のたん白質量が同様になるように配合した比較例1及び2では、そのような効果は認められず、むしろ参考例よりもホットケーキの厚みが小さくなり、ソフト感及び口溶けも評価が低かった。また、小麦グルテン及び大豆たん白を配合した比較例3及び4では、参考例と比較して、ホットケーキの厚みは向上し、ソフト感や口溶けの評価も同等又はやや高くなったものの、調製後30分経過後の生地を用いた焼成品では、ソフト感、口溶けの評価が低下した。したがって、バッター生地加熱食品用組成物にMPCを配合することで、厚み、ボリューム感があり、ソフトな食感で口溶けが良好なバッター生地加熱食品が得られ、且つ調製したバッター生地の粘度等の経時的な変化が少なく、安定した品質でバッター生地加熱食品を製造できることが示唆された。また、ホエイを添加した比較例1ではチーズ様の発酵臭が、小麦グルテンを添加した比較例3では独特の臭みが、大豆たん白を添加した比較例4では青臭い大豆臭がそれぞれホットケーキの好ましい風味を損ねていた。これに対し、MPCを添加した参考例3では、好ましい乳風味のホットケーキが得られた。したがって、バッター生地加熱食品用組成物にMPCを配合することで、風味の良好なバッター生地加熱食品が得られることも示唆された。
【0027】
【0028】
表2においては、バッター生地加熱食品用組成物におけるMPCの含有量の影響を調べた。表2に示した実施例2~6の通り、MPCを、たん白質量として4.1~20.3質量%の範囲で含有するホットケーキ用組成物では、たん白素材を含まない参考例1と比較して、得られるホットケーキの厚みが向上し、ソフト感、口溶けの評価も高くなることが認められ、バッター生地の経時的な安定性も認められた。したがって、本発明のバッター生地加熱食品用組成物は、MPCを、たん白質量として1~25質量%含有することが有効であることが示唆された。
【0029】
【0030】
表3においては、その他の材料の影響について調べた。表3に示した参考例3及び実施例2、並びに参考例4、参考例5及び実施例9~10の通り、MPCを含有し、食物繊維を1~15質量%の範囲で含有するホットケーキ用組成物では、得られるホットケーキの厚みが向上し、ソフト感、口溶けの評価も高くなることが認められ、バッター生地の経時的な安定性も認められた。食物繊維量を高めるため、難消化性澱粉A又は難消化性澱粉Bを3~15質量%の範囲で含有させたホットケーキ用組成物では、得られるホットケーキの厚みが向上し、ソフト感、口溶けの評価もより高くなることが認められ、バッター生地の経時的な安定性も認められた。したがって、本発明のバッター生地加熱食品用組成物は、食物繊維を、1~15質量%含有することが好ましく、前記食物繊維は、難消化性澱粉を含有することが好ましいことが示唆された。また、実施例2及び実施例10の結果から、難消化性澱粉の種類には、大きな影響がないことが示唆された。
【0031】
表3に示した参考例3及び実施例2、並びに実施例11及び12の通り、グルコノデルタラクトンを0.06~1.1質量%の範囲で含有するホットケーキ用組成物では、得られるホットケーキの厚みが向上し、ソフト感、口溶けの評価も高くなることが認められ、バッター生地の経時的な安定性も認められた。したがって、本発明のバッター生地加熱食品用組成物は、グルコノデルタラクトンを、0.02~2.0質量%含有することが好ましいことが示唆された。
【0032】
表3に示した参考例3及び実施例2、並びに実施例13~15の通り、食用油脂として、ショートニング又はサラダ油を1~7質量%の範囲で含有するホットケーキ用組成物では、得られるホットケーキの厚みが向上し、ソフト感、口溶けの評価も高くなることが認められ、バッター生地の経時的な安定性も認められた。したがって、本発明のバッター生地加熱食品用組成物は、食用油脂を、0.5~10質量%含有することが好ましいことが示唆された。なお、参考例6に示した通り、MPCを含有し、難消化性澱粉、グルコノデルタラクトン、及び食用油脂のいずれも含有しないホットケーキ用組成物を用いた場合についても、上述の効果が認められた。参考例6と他の実施例と比較すると、MPCと共に、難消化性澱粉、グルコノデルタラクトン、及び食用油脂の1種以上を含有する組成物の方が、比較的良好な評価であった。したがって、本発明のバッター生地加熱食品用組成物は、上記の含有量の範囲で、難消化性澱粉、グルコノデルタラクトン、及び食用油脂の1種以上を含有することが好ましいことが示唆された。
【0033】
2.お好み焼の試験
バッター生地加熱食品としてお好み焼を選定し、以下の通り試験した。
(1)お好み焼用組成物の調製
表4に示した配合で実施例及び参考例のお好み焼用組成物を調製した。
(2)お好み焼用生地の調製
各お好み焼用組成物を用いてバッター生地を調製した。具体的には、ボウルに上記2.(1)で調製したお好み焼用組成物100gを入れ、水100gを加えてホイッパーで均一になるよう、60回攪拌混合しバッター生地を得た。5×5mm程度に刻んだキャベツ300gと卵1個と、上記のバッター生地200gを加えてカレー用スプーンで20回攪拌混合してお好み焼用生地を調製した。
(3)お好み焼の焼成
ホットプレートを用いて、上記2.(2)で調製したお好み焼用生地(1枚当たり275g)を、200℃で5分間焼成し、裏返してさらに5分間焼成した。焼成は、生地の経時的な変化の影響を調べるため、調製直後の生地、及び調製後、室温30分経過後の生地を用いて実施した。
(4)お好み焼の評価
各お好み焼焼成品について、上記1.(4)と同様に評価した。表4に評価結果を示す。
【0034】
【0035】
表4に示した通り、MPCを15質量%含有させた参考例7のお好み焼用組成物を用いてバッター生地を調製し、お好み焼を焼成した場合、たん白素材を含まない参考例2と比較して、直径が小さくなり、お好み焼の厚みが向上し、且つソフト感、口溶けの評価も高かった。これらの評価については、さらに難消化性澱粉を含有させ食物繊維量を高めた実施例18の方がより高い傾向であった。また、調製した直後のバッター生地を用いて焼成品と調製後30分経過後の生地を用いた焼成品を比較すると、参考例2では、ソフト感、口溶けの評価が低くなったのに対し、参考例7及び実施例18では、大きな差は認められなかった。したがって、バッター生地加熱食品用組成物にMPCを配合することで、お好み焼においても、ホットケーキの場合と同様な効果が得られることが示唆された。
【0036】
以上の結果から、本発明によって、厚み、ボリューム感があり、ソフトな食感で口溶けが良好なバッター生地加熱食品が得られ、且つ調製したバッター生地の粘度等の経時的な変化が少なく、安定した品質でバッター生地加熱食品を製造できることが示された。
【0037】
なお、本発明は上記の実施の形態の構成及び実施例に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で種々変形が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明により、厚み、ボリューム感があり、ソフトな食感で口溶けが良好なバッター生地加熱食品が得られ、且つ調製したバッター生地の粘度等の経時的な変化が少なく、安定した品質でバッター生地加熱食品を製造できるバッター生地加熱食品用組成物、及びバッター生地加熱食品の製造方法を提供することができる。