(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】電気化学センサおよび電気化学センサの製造方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/30 20060101AFI20240902BHJP
G01N 27/416 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
G01N27/30 B
G01N27/416 336G
(21)【出願番号】P 2020076878
(22)【出願日】2020-04-23
【審査請求日】2023-03-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】栗原 香
(72)【発明者】
【氏名】乙木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩二
(72)【発明者】
【氏名】鯉渕 裕一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 篤志
【審査官】黒田 浩一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/004441(WO,A1)
【文献】特開2013-190212(JP,A)
【文献】特開2013-186049(JP,A)
【文献】特開2001-147211(JP,A)
【文献】特開2014-095110(JP,A)
【文献】国際公開第2019/139009(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/015067(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26-27/49
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作用電極と、
対電極と、
前記作用電極および前記対電極を支持する基材と、を備え、
前記作用電極は、該作用電極と前記対電極との間に被験試料が存在する状態で所定の電圧を印加した際に表面で酸化還元反応を生じさせるダイヤモンド膜と、
シリコン単体又はシリコンの化合物で形成され、前記ダイヤモンド膜を支持する支持体と、を有するチップ形状の電極であり、
前記支持体の側面には、絶縁性の被膜が形成されており、
前記作用電極は、前記支持体が前記基材側に位置し、かつ、前記支持体の
前記側面の少なくとも一部が露出した状態で前記基材上に取り付けられ、被験試料が供給された際には露出している前記支持体の前記側面にも前記被験試料が付着するように構成されている電気化学センサ。
【請求項2】
作用電極と、
対電極と、
前記作用電極および前記対電極を支持する基材と、を備え、
前記作用電極は、該作用電極と前記対電極との間に被験試料が存在する状態で所定の電圧を印加した際に表面で酸化還元反応を生じさせるダイヤモンド膜と、
シリコンの単体又はシリコンの化合物で形成され、前記ダイヤモンド膜を支持する支持体と、を有するチップ形状の電極であり、
前記支持体の側面には、絶縁性の被膜が形成されており、
前記作用電極は、前記支持体が前記基材側に位置し、かつ、前記支持体の
前記側面の少なくとも一部が露出した状態(但し、前記支持体の露出側面に前記被験試料が接触しないように、前記電極に筒状部材の一端が接続され、前記支持体の前記露出側面が前記筒状部材で覆われている状態を除く)で前記基材上に取り付けられている電気化学センサ。
【請求項3】
前記作用電極は、該作用電極と前記対電極との間に被験試料が存在する状態で所定の電圧を印加した際に、前記ダイヤモンド膜の表面では酸化還元反応を生じさせ、前記支持体の
前記側面では酸化還元反応を生じさせないように構成されている請求項1又は2に記載の電気化学センサ。
【請求項4】
前記被験試料として尿酸を含む液を前記作用電極および前記対電極に供給し、前記ダイヤモンド膜の表面で前記液中の尿酸の酸化還元反応を生じさせる請求項1~
3のいずれか1項に記載の電気化学センサ。
【請求項5】
前記支持体は、比抵抗が0.04Ωcm以下である導電性の材料からなる請求項1~
4のいずれか1項に記載の電気化学センサ。
【請求項6】
前記支持体の厚さが350μm以上である請求項1~
5のいずれか1項に記載の電気化学センサ。
【請求項7】
前記作用電極の平面積が25mm
2以下である請求項1~
6のいずれか1項に記載の電気化学センサ。
【請求項8】
前記作用電極は、導電性接着剤を介して前記基材に取り付けられている請求項1~
7のいずれか1項に記載の電気化学センサ。
【請求項9】
作用電極と、対電極と、前記作用電極及び前記対電極を支持する基材と、を有する電気化学センサの製造方法であって、
前記作用電極として、前記作用電極と前
記対電極との間に被験試料が存在する状態で所定の電圧を印加した際に表面で酸化還元反応を生じさせるダイヤモンド膜と、
シリコンの単体又はシリコンの化合物で形成され、前記ダイヤモンド膜を支持する支持体と、を有するチップ形状の電極を作成
する工程と、
前記支持体が前記基材側に位置し、かつ、被験試料が供給された際に前記支持体
の側面にも前記被験試料が付着するように前記支持体の
前記側面の少なくとも一部を露出させて前記作用電極を前記基材に
設ける工程と、
前記支持体の前記側面に絶縁性の被膜を形成する工程と、
を有する、電気化学センサの製造方法。
【請求項10】
前記絶縁性の被膜を形成する工程では、前記作用電極を前記基材上に設ける工程を行った後、前記支持体の
前記側面を不活性化する
ことで、前記絶縁性の被膜を形成する請求項
9に記載の電気化学センサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学センサおよび電気化学センサの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電気化学センサの作用電極として、ダイヤモンド膜を有する電極を用いることが提案されている(例えば特許文献1,2等参照)。導電性を有するダイヤモンドは、電位窓が広く、バックグラウンド電流も小さいことから、尿酸等の種々の物質の電気化学的検出を高感度で行うことができる。このため、導電性を有するダイヤモンドは、作用電極の形成材料として注目を集めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-292717号公報
【文献】特開2013-208259号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、簡素な構造であっても正確なセンシングが可能な、ダイヤモンド膜を有する作用電極を備える電気化学センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
作用電極と、
対電極と、
前記作用電極および前記対電極を支持する基材と、を備え、
前記作用電極は、
該作用電極と前記対電極との間に被験試料が存在する状態で所定の電圧を印加した際に表面で酸化還元反応を生じさせるダイヤモンド膜と、ダイヤモンド以外の材料で形成され、前記ダイヤモンド膜を支持する支持体と、を有するチップ形状の電極であり、
前記支持体が前記基材側に位置し、かつ、前記支持体の側面の少なくとも一部が露出した状態で前記基材上に取り付けられている電気化学センサおよびその関連技術が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、簡素な構造であっても正確なセンシングが可能な、ダイヤモンド膜を有する作用電極を備える電気化学センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる電気化学センサの斜視図の一例を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態にかかる電気化学センサの概略構成を
図1のA-A線断面図で示す図である。
【
図3】(a)は、高アスペクト比の作用電極に拡散層が形成される様子を模式的に示す図であり、(b)は、低アスペクト比の作用電極に拡散層が形成される様子を模式的に示す図である。
【
図4】ダイヤモンド膜を成長させる際に用いられる気相成長装置の概略図である。
【
図5】(a)はダイヤモンド膜と基板との積層体の断面構造を示す図であり、(b)は
図5(a)に示す積層体の裏面に凹状溝を形成した様子を示す断面図であり、(c)は凹状溝に沿ってダイヤモンド膜を破断して作用電極を取得する様子を示す模式図である。
【
図6】(a)は、サンプル1で尿酸濃度を測定した際に得られたサイクリックボルタモグラムを示し、(b)は、サンプル2で尿酸濃度を測定した際に得られたサイクリックボルタモグラムを示し、(c)は、サンプル3で尿酸濃度を測定した際に得られたサイクリックボルタモグラムを示す。
【
図7】(a)は、サンプル1の作用電極の周辺部の様子を模式的に示す図であり、(b)は、サンプル2の作用電極の周辺部の様子を模式的に示す図であり、(c)は、サンプル3の作用電極の周辺部の様子を模式的に示す図である。
【
図8】不活性化処理を充分に行った作用電極を用いたサンプルおよび不活性化処理が不充分である作用電極を用いたサンプルのサイクリックボルタモグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施形態の説明に先立ち、本願発明者等が得た知見について説明する。
【0009】
電気化学測定に用いられる電気化学センサの作用電極としてシリコン(Si)のような導電性の材料からなる支持体とダイヤモンド膜との積層体を用いることが提案されている。ここで、導電性の材料とは、ダイヤモンド膜と作用電極回路との間に介在して両者を電気的に接続することを可能にする材料という意味である。このような電気化学センサは、被験試料(例えば、尿等の尿酸を含む液)がダイヤモンド膜の表面に付着している状態で作用電極と対電極との間に所定の電圧を印加することによりダイヤモンド膜の表面で被験試料中の所定成分(尿酸等)の酸化還元反応(電気化学反応)を生じさせ、この酸化還元反応によって流れた電流値を測定することにより、被験試料中の所定成分の濃度を測定するように構成されている。このような電気化学センサは、支持体の側面に被験試料が付着しないように作用電極を設けることが一般的である。例えば、作用電極を設ける際、支持体の側面が露出しないように絶縁性(防水性)を有する材料で支持体の側面を覆うことが一般的である。というのも、ダイヤモンド膜の表面で被験試料中の所定成分の酸化還元反応を生じさせる際、被験試料が支持体の側面に付着していると、導電性の材料からなる支持体の側面でも酸化還元反応が生じてしまう。この場合、測定した電流値が、ダイヤモンド膜の表面で生じた酸化還元反応に起因する電流値と支持体の側面で生じた酸化還元反応に起因する電流値とを含むこととなるため、被験試料中の所定成分の濃度を正確に測定できないことがある。すなわち、電気化学センサの感度が低下する場合がある。
【0010】
しかしながら、本願発明者等は、支持体であるシリコン基板の側面が露出している電気化学センサであっても、被験試料中の尿酸濃度を測定する際にダイヤモンド膜を有する作用電極と対電極との間に印加する電圧範囲(0ボルト(V)超1ボルト(V)以下、好ましくは0.5V以上0.7V以下の電圧範囲)では、センサの感度が一律に悪くなるのではなく、感度に大きなばらつきが生じていることを見出した。そこで、感度にばらつきの生じた電気化学センサの作用電極を詳細に調べた結果、支持体の側面上で生じる酸化還元反応の程度にばらつきがあること、センサ感度の低下が少ない作用電極は、支持体側面の多くの部分が不活性化していて、酸化還元反応が抑制されていること、上述の不活性している部分には、絶縁性のシリコン酸化被膜が形成されていたことを見出した。これらのことは、本願発明者等の鋭意検討の結果、初めて見出された事項である。
【0011】
これらの結果から、本願発明者等は、作用電極としてダイヤモンド膜と導電性の支持体とを有する積層体を用い、かつ、作用電極と対電極との間に印加する電圧が上記の電圧範囲内であるとき、支持体の側面全面を酸化被膜などの絶縁膜で被覆して不活性化していれば、特に絶縁性を有する別の材料で支持体の側面を覆うことなく、即ち支持体が露出した状態でも、支持体上では尿酸等の酸化還元反応が生じないことを見出した。
【0012】
本発明は、本願発明者等により見出された上記知見に基づいてなされたものである。
【0013】
<本発明の一実施形態>
以下、本発明の一実施形態として、液状の被験試料(電解液)中の所定成分の濃度を三電極法により測定する電気化学センサについて、
図1~
図5を参照しながら説明する。本実施形態では、例えば尿等の尿酸を含む液中の尿酸の濃度を三電極法により測定する電気化学センサを例に説明する。
【0014】
(1)電気化学センサの構成
図1に示すように、本実施形態にかかる電気化学センサ100(以下、「センサ100」とも称する)は、基材10と、基材10に支持される作用電極21、対電極(対向電極)22、および参照電極23で構成される電極群20と、作用電極21、対電極22、および参照電極23にそれぞれ接続された配線31~33と、を備えて構成されている。
【0015】
基材10は、作用電極21、対電極22、および参照電極23、すなわち電極群20を支持するように構成されている。基材10は、シート状(板状)部材として構成されている。基材10の平面形状は例えば長方形状とすることができる。基材10は、センサ100として使用することができる物理的(機械的)強度、例えば被験試料が付着した場合であっても折れ曲がったり、破損したりすることがない強度を有している。基材10は、例えば絶縁性を有する複合樹脂、セラミック、ガラス、プラスチック、可燃性材料、生分解性材料、不織布または紙等の絶縁性材料で形成することができる。基材10はフレキシブル基材であることが好ましい。基材10としては、例えばガラスエポキシ樹脂やポリエチレンテレフタレート(PET)で形成された基材を好適に用いることができる。また、基材10としては、電極群20を支持する面が絶縁性を有するように構成された半導体基材や金属基材を用いることもできる。
【0016】
基材10が有する2つの主面のうちいずれか一方の主面上には、作用電極21が設けられている。作用電極21は、基材10の長手方向における一方の端部付近に設けられている。作用電極21は、ダイヤモンド膜211と、ダイヤモンド膜211を支持する支持体212と、を有する積層体として構成されている(
図2参照)。作用電極21は、支持体212が基材10側に位置するように基材10上に配置されている。ダイヤモンド膜211を有する作用電極21を備えるセンサ100をダイヤモンドセンサとも称する。なお、作用電極21の構成の詳細については、後述する。
【0017】
以下では、基材10が有する2つの主面のうち作用電極21が設けられている面を「基材10の上面」とも称する。
【0018】
作用電極21は、導電性接着剤14を介して基材10に取り付けられている(接着されている)。導電性接着剤14としては、例えば、はんだ、銀(Ag)ペースト、銅(Cu)ペースト等の導電性ペーストや、異方性導電ペースト、あるいは、ACFフィルム等の異方性導電フィルムを用いることができる。また、導電性接着剤14が露出することがないよう、導電性接着剤14は絶縁性(防水性)を有する材料等(以下、絶縁材料15とも称する)で覆われている。絶縁材料15は、導電性接着剤14を露出させることなく、かつ、支持体212の側面の少なくとも一部を露出させるように設けられている。すなわち、作用電極21は、支持体212が基材10側に位置し、かつ、支持体212の側面の少なくとも一部が絶縁材料15で覆われることなく露出した状態で基材10上に取り付けられている。
【0019】
上述のように、本願発明者等の鋭意検討の結果、尿酸濃度を測定する際に印加する電圧範囲(0V超1V以下、好ましくは0.5V以上0.7V以下の電圧範囲)では、支持体212の表面(側面を含む表面)が不活性化されていれば、尿酸等に対して酸化還元反応が生じないことが分かっている。このため、支持体212の側面の少なくとも一部が露出した状態で作用電極21が基材10上に設けられていても、ダイヤモンドセンサを用いて尿酸濃度を正確に測定することができる。
【0020】
また、基材10の上面には、対電極22および参照電極23が設けられている。対電極22および参照電極23は、作用電極21の近傍に設けられている。
【0021】
対電極22は、作用電極21および参照電極23を取り囲むように設けられている。対電極22としては、白金(Pt)、金(Au)、銅(Cu)、パラジウム(Pd)、ニッケル(Ni)、銀(Ag)等の金属で形成された電極やカーボン電極等を用いることができる。対電極22は、セミアディティブ法、サブトラクティブ法等の公知の手法により形成することができる。
【0022】
作用電極21および対電極22に被験試料を付着させた状態で、例えば後述の電圧印加部を有する計測機構を用いて作用電極21と対電極22との間に所定の電圧を印加することで、作用電極21および対電極22で、被験試料中の所定成分(所定の反応種、例えば尿酸)の酸化還元反応が起こり、これにより、作用電極21と対電極22との間に電流が流れることとなる。以下では、「被験試料を付着させた状態で、後述の電圧印加部を有する計測機構を用いて作用電極21と対電極22との間に所定の電圧を印加する」ことを、単に「所定の電圧を印加する」とも記載する。
【0023】
参照電極23は、作用電極21の電位を決定する際の基準となる電極である。参照電極23としては例えば銀/塩化銀(Ag/AgCl)電極等を用いることができる。また、参照電極23としては、標準水素電極、可逆水素電極、パラジウム・水素電極、飽和カロメル電極、カーボン電極等を用いることもできる。また、参照電極23として、Pt、Au、Cu、Pd、Ni、Ag等の金属で形成された電極等を用いることもできる。参照電極23は、例えば、ディスペンス、スクリーン印刷等の公知の手法により形成することができる。
【0024】
作用電極21には配線(導体配線)31の一端部が接続され、対電極22には配線(導体配線)32の一端部が接続され、参照電極23には配線(導体配線)33の一端部が接続されている。配線31~33は、それぞれ、基材10の上面に設けられている。すなわち、配線31~33は、基材10上にそれぞれ支持されている。
【0025】
配線31は、導電性を有する材料を用い、作用電極21とは別体に形成されている。配線31は、例えばCuを用いて形成することができる。配線31は、Cu以外に、Au、Pt、Ag、または、Pd等の各種貴金属、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、Ni、クロム(Cr)、チタン(Ti)等の各種金属、これらの貴金属または金属を主成分とする合金、上記貴金属や合金の酸化物、金属酸化物等を用いて形成することもできる。また、配線31は、カーボンを用いて形成することもできる。配線31は、導電性接着剤14を介して作用電極21に電気的に接続されている(
図2参照)。導電性接着剤14及び配線31は、上述の絶縁材料15で覆われていることが好ましい(
図2参照)。
【0026】
配線32は、対電極22と同一の材料、同一の材料を含む材料、または対電極22の形成材料とは異なる材料であって導電性を有する材料を用いて形成することができる。例えば、配線32は、配線31で例示した上述の材料と同様の材料を用いて形成することができる。配線32は、対電極22と一体にまたは別体に形成することができる。配線32が対電極22と別体に形成されている場合、配線32は、導電性接着剤14と同様の接着剤を用いて対電極22に電気的に接続することができる。
【0027】
配線33は、参照電極23と同一の材料、同一の材料を含む材料、または参照電極23の形成材料とは異なる材料であって導電性を有する材料を用いて形成することができる。例えば、配線33は、配線31で例示した上述の材料と同様の材料を用いて形成することができる。配線33は、参照電極23と一体にまたは別体に形成することができる。配線33が参照電極23と別体に形成されている場合、配線33は、導電性接着剤14と同様の接着剤を用いて参照電極23に電気的に接続することができる。
【0028】
配線31~33は、サブトラクティブ法、セミアディティブ法等により形成した導体パターン上に例えばAuメッキやAgメッキ等を施して形成することもできる。また、配線31~33は、サブトラクティブ法等の他、例えば、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷等の印刷法や、蒸着法等により形成することもできる。
【0029】
配線31~33は、同一の構成を有していてもよいし、互いに異なる構成を有していてもよい。例えば、配線31~33は、同一の材料で形成されていてもよいし、互いに異なる材料で形成されていてもよい。
【0030】
(2)作用電極の構成
以下、本実施形態にかかる作用電極21の構成について、主に
図2および
図3を参照しながら説明する。
【0031】
図2に示すように、作用電極21は、被験試料(電解液)が付着した状態で例えば後述の電圧印加部を有する計測機構を用いて作用電極21と対電極22との間に所定の電圧を印加した際に、表面で被験試料中の所定成分(所定の反応種、例えば尿酸)の酸化還元反応を生じさせるダイヤモンド膜211と、ダイヤモンド膜211を支持する支持体212と、を有する積層体として構成されている。上述のように、作用電極21は、支持体212が基材10側に位置するように基材10上に配置されている。
【0032】
ダイヤモンド膜211は多結晶膜である。ダイヤモンド膜211は、ダイヤモンド・ライク・カーボン(DLC)膜であってもよい。本明細書で「ダイヤモンド膜211」という文言を用いる場合は、多結晶ダイヤモンド膜を意味する場合、DLC膜を意味する場合、これらの両方を意味する場合を含む。ダイヤモンド膜211はp型であることが好ましい。p型のダイヤモンド膜211とするために、ダイヤモンド膜211は、ホウ素(B)等の元素を例えば1×1019cm-3以上1×1022cm-3以下の濃度で含むことが好ましい。ダイヤモンド膜211中のB濃度は例えば二次イオン質量分析法(SIMS)で測定することができる。ダイヤモンド膜211は、熱フィラメント(ホットフィラメント)CVD法、プラズマCVD法等の化学気相成長(Chemical Vapor Deposition:CVD)法、イオンビーム法やイオン化蒸着法等の物理蒸着(Phisical Vapor Deposition:PVD法)等を用いて成長させる(合成する)ことができる。熱フィラメントCVD法を用いてダイヤモンド膜211を成長させる場合、フィラメントとして例えばタングステンフィラメントを用いることができる。ダイヤモンド膜211の厚さは例えば0.5μm以上10μm以下、好ましくは2μm以上4μm以下とすることができる。
【0033】
支持体212は、ダイヤモンド以外の材料(異種材料)を用いて形成されている。支持体212は、導電性の材料からなることが好ましい。支持体212は、例えば、シリコン(Si)単体又はシリコンの化合物からなることが好ましい。すなわち、支持体212はシリコン基板からなることが好ましい。具体的には、支持体212は、単結晶Si基板、多結晶Si基板、炭化シリコン基板(SiC基板)のいずれかからなることが好ましい。
【0034】
支持体212は、比抵抗が低い基板からなることが好ましい。支持体212は、比抵抗が0.04Ωcm以下である材料からなること、すなわち、支持体212の比抵抗が0.04Ωcm以下であることが好ましい。
【0035】
というのも、上述の尿酸の酸化還元反応により生じた電流(以下、「反応電流」とも称する)は、作用電極21の表面、すなわちダイヤモンド膜211から支持体212を経て配線31に流れる。このような反応電流の流路において、外部抵抗はできるだけ低いことが好ましい。
【0036】
外部抵抗の成分としては、例えば、(1)作用電極21と参照電極23との間の電解液の抵抗、(2)作用電極21(ダイヤモンド膜211)と支持体212の表面との間の界面の抵抗、(3)支持体212自体の抵抗、(4)支持体212の裏面と導電性接着剤14(導電性接着剤14中の金属成分(金属フィラー))との間の接続抵抗(接触抵抗)、(5)導電性接着剤14と配線31との間の接続抵抗、及び(6)配線抵抗があげられる。(1)の抵抗は、作用電極21と参照電極23との間の距離を5mm以下にすることで充分に低くすることができる。(4)~(6)の抵抗は、通常無視できるほど低い。(2)および(3)の抵抗は、支持体212として、比抵抗が低い基板を用いることで、無視できるほど充分に低くすることができる。具体的には、支持体212の比抵抗が0.04Ωcm以下であることで、(2)および(3)の抵抗を充分に低くすることが可能となる。これにより、上述の反応電流の流路において、外部抵抗を低くすることができ、外部抵抗に起因する反応電流の値の変動を小さくすることが可能となる。その結果、被験試料中の尿酸の濃度をより正確に測定することが可能となる。
【0037】
また、外部抵抗、特に上記(4)の抵抗は、尿酸の酸化還元反応(尿酸の酸化反応)に伴う作用電極21の表面における液-界面での電子授受による抵抗(以下、「液-界面抵抗」とも称する)に対して例えば10%以下であることが好ましい。これにより、外部抵抗に起因する反応電流の値の変動を確実に小さくすることができる。その結果、被験試料中の尿酸濃度をより正確に測定することができる。上記(4)の抵抗が液-界面抵抗に対して10%を超えると、例えば後述するサイクリックボルタンメトリーにより得たサイクリックボルタモグラム上の反応電流(酸化還元電流)プロファイルに外部抵抗成分が付加されてしまい、ピーク電流値が小さくなる場合がある。このため、被験試料中の尿酸濃度を正確に測定できない場合がある。
【0038】
(4)の抵抗を液-界面抵抗の10%以下とする観点からも、比抵抗が例えば0.04Ωcm以下である支持体212を用いることが好ましい。
【0039】
ここで、ダイヤモンド膜211を有する作用電極21の場合、液-界面抵抗は、測定条件等に応じて多少変動するが通常約120Ωcm2である。したがって、本実施形態では、(4)の抵抗が12Ωcm2以下であることが好ましい。なお、作用電極21の平面積が4mm2である場合(2mm□のチップ形状の作用電極21である場合)、液-界面抵抗は、測定条件等に応じて多少変動するが約3kΩである。
【0040】
(4)の抵抗を12Ωcm2以下とするためには、支持体212中のキャリア濃度を例えば1×1018cm-3以上とすればよい。支持体212中のキャリア濃度を例えば1×1018cm-3以上にすれば、支持体212の比抵抗を例えば0.04Ωcm以下にすることができ、その結果、上述の通り(4)の抵抗を12Ωcm2以下にすることが可能となる。また、支持体212中のキャリア濃度を1×1019cm-3以上にすることが好ましい。支持体212中のキャリア濃度を1×1019cm-3以上にすれば、支持体212の比抵抗を0.009Ωcm以下にすることができ、その結果、(4)の抵抗をより低くすることができる。また、支持体212中のキャリア濃度を5×1019cm-3以上にすることがさらに好ましい。支持体212中のキャリア濃度を5×1019cm-3以上にすれば、支持体212の比抵抗を0.003Ωcm以下にすることができ、その結果、(4)の抵抗を充分に低くすることができる。
【0041】
なお、本願発明者等は、支持体212として、比抵抗が例えば10Ωcmであるシリコン基板(すなわち、高比抵抗のシリコン基板)を用いた場合、(4)の抵抗が高くなり、その結果、(4)の抵抗を液-界面抵抗の10%以下とすることが難しい場合があることを確認済みである。
【0042】
支持体212の比抵抗の下限値は例えば0.001Ωcmとすることができる。というのも、支持体212には、ダイヤモンド膜211と同じように支持体212をp型にする不純物として、ホウ素(B)がドープされていることが好ましい。支持体212の比抵抗を0.001Ωcm未満にしようとすると、支持体212(シリコン基板)中にドーパント(B)を1.5×1020cm-3超ドープすることになる。このようにドーパントを高濃度で含む支持体212は、結晶自体の製造歩留が低下しやすいだけでなく、結晶中にドーパントの析出物などの結晶欠陥が発生して、支持体212としての性能が劣化する恐れが出てくる。このため、支持体212の比抵抗は0.001Ωcm以上であることが望ましい。
【0043】
支持体212中にBがドープされていることで、支持体212の比抵抗を確実に低くすることが可能となる。支持体212は、Bを例えば5×1018cm-3以上1.5×1020cm-3以下の濃度で含むことが好ましく、5×1018cm-3以上1.2×1020cm-3以下の濃度で含むことがより好ましい。支持体212中のB濃度が5×1018cm-3以上であることで、支持体212の比抵抗を0.04Ωcm以下に確実にすることができる。支持体212中のB濃度が1.5×1020cm-3以下であることで、支持体212の比抵抗を0.001Ωcm程度にしつつ、支持体212の製造歩留の低下や性能劣化を抑制することができる。支持体212中のB濃度が1.2×1020cm-3以下の濃度であることで、支持体212の比抵抗を0.001Ωcm程度にしつつ、支持体212の製造歩留の低下や性能劣化を確実に抑制することができる。
【0044】
支持体212の側面は、所定電圧印加時に側面上で尿酸の電気分解(尿酸の酸化還元反応)が生じないように構成されていることが好ましい。例えば、支持体212の側面は不活性化されていることが好ましい。ここで、「支持体212の側面が不活性化されている」とは、所定電圧印加時に、支持体212の側面で尿酸の酸化還元反応が生じることが抑制されるような処理(不活性化処理)が支持体212の側面に対してなされている状態を指す。支持体212の側面の少なくとも表層部が不活性化されていればよい。支持体212の側面の不活性化は、支持体212の側面に絶縁性の被膜(絶縁被膜)213を形成することでなされている。
【0045】
例えば、支持体212の側面を酸化または窒化することで、支持体212の側面を不活性化することができる。この場合、絶縁被膜213は、例えば、Siを含有する支持体212が酸化されてシリコン酸化物となった箇所(SiO2部)や、Siを含有する支持体212が窒化されてシリコン窒化物等となった箇所(SiN部)である。
【0046】
絶縁被膜213は連続膜であり、支持体212の側面全面を覆っている。これにより、支持体212の側面の少なくとも一部が露出した状態で作用電極21が基材10上に設けられていても、所定の電圧を印加した際に支持体212の側面で尿酸の酸化還元反応が生じることを確実に抑制することが可能となる。
【0047】
絶縁被膜213の厚さ(例えば酸化または窒化された支持体212の側面の表層部の厚さ)は、例えば1nm以上、好ましくは2nm以上とすることができる。絶縁被膜213の厚さが1nm以上であれば、絶縁被膜213を連続膜とすることができ、支持体212の側面全面を露出させることなく覆うことができる。その結果、所定電圧印加時に支持体212の側面で尿酸の酸化還元反応が生じることを抑制する効果を得ることができる。絶縁被膜213の厚さが2nm以上であることで、絶縁被膜213をより確実に連続膜とすることができ、上述の尿酸の酸化還元反応抑制効果を確実に得ることができる。なお、絶縁被膜213の厚さが極端に厚くなると、支持体212の導電性領域が少なくなる。このため、絶縁被膜213の厚さは、上述の尿酸の酸化還元反応抑制効果が得られる厚さであって、できるだけ薄い厚さであることが好ましい。
【0048】
支持体212の厚さは例えば350μm以上とすることができる。これにより、電気化学測定のセンシング感度(以下、単に「センシング感度」とも称する)を高めることが可能となる。
【0049】
というのも、作用電極21の平面積が一定である場合、支持体212が厚いほど、作用電極21はアスペクト比(=高さ/幅)が高い電極(高アスペクト比の電極)となり、支持体212が薄いほど、作用電極21はアスペクト比が低い電極(低アスペクト比の電極)となる。作用電極21への電圧の印加開始とともに反応種である尿酸が拡散し、尿酸の拡散層(反応種の拡散層)214が作用電極21(ダイヤモンド膜211)上に形成される。このとき、高アスペクト比の電極では、尿酸が円筒拡散状態や球状拡散状態等の二次元拡散や三次元拡散とみなせるような拡散を示すことから、拡散層214は球状に近い形状となり(
図3(a)参照)、低アスペクト比の電極では、尿酸の拡散が一次元拡散(線形拡散)を示すことから、拡散層214は半長円形状(半オーバル形状)になる(
図3(b)参照)。なお、
図3(a)および
図3(b)中の矢印は、所定の電圧の印加により起こる尿酸の拡散を模式的に示している。このように高アスペクト比の電極では、線形拡散よりも球状拡散(二次元拡散や三次元拡散)が優勢となることから、電極表面での尿酸の酸化還元反応により生じる電流の密度(作用電極21の単位面積当たりの電流)が低アスペクト比の電極よりも高くなる。また、高アスペクト比の電極では、IRドロップの影響が低アスペクト比の電極よりも小さくなる。IRドロップとは、作用電極21と参照電極23との間の溶液抵抗に起因して、作用電極21と対電極22との間に流れる電流が作る電圧降下をいう。高アスペクト比の電極では、電極と液界面との間の抵抗が増大することにより、系全体の抵抗における溶液抵抗の比率が小さくなる。その結果、IRドロップの影響が小さくなるのである。作用電極21が高アスペクト比の電極であるほど、上述の電流密度が高くなるとともにIRドロップの影響を低くでき、その結果、センシング感度が高くなる。
【0050】
支持体212の厚さが例えば350μm以上であることで、作用電極21は所定の電圧を印加した際に尿酸が球状拡散とみなせるように拡散する電極となる。すなわち、作用電極21は高アスペクト比の電極となる。その結果、センシング感度を高めることが可能となる。なお、作用電極21を高アスペクト比の電極とする観点から、支持体212の厚さはできるだけ厚い方が好ましい。現在一般的に市場に流通しているシリコン基板の厚さは、12インチの単結晶Si基板で775μm程度であることから、支持体212の厚さの最大値は775μm程度となる。
【0051】
作用電極21は平面視で矩形状、例えば正方形状に形成されている。すなわち、作用電極21はチップ形状に形成されている。作用電極21の平面積は例えば25mm2以下とすることができる。これにより、高アスペクト比の作用電極21を容易に得ることが可能となる。支持体212の厚さが一定である場合、作用電極21の平面積が小さいほど、作用電極21は高アスペクト比の電極となる。このため、高アスペクト比の作用電極21を得る観点からは、作用電極21の平面積はできるだけ小さいことが好ましい。また、作用電極21の平面積が小さいほど、電極と液界面との間の抵抗がより増大し、系全体の抵抗における溶液抵抗の比率をより小さくすることが可能となる。その結果、IRドロップの影響を確実に小さくすることも可能となる。しかしながら、チップ形状の作用電極21を作製する観点から、作用電極21の平面積は例えば1mm2以上であることが好ましい。平面積が1mm2以上の作用電極21であれば、後述の破断を用いた手法により精度よく安定して容易に作製することが可能である。また、作用電極21の平面積が1mm2以上であることで、作用電極21のハンドリング性の低下および実装安定性の低下を抑制することも可能となる。
【0052】
(3)電気化学センサの製造方法
本実施形態にかかるセンサ100の製造方法について、主に
図4および
図5を参照しながら説明する。
【0053】
本実施形態にかかるセンサ100の製造方法では、
作用電極21を作製するステップ(ステップA)と、
作用電極21を基材10上に設けるステップ(ステップB)と、を行う。
【0054】
なお、ステップAでは、作用電極21として、作用電極21と対電極22との間に所定の電圧を印加した際に表面で酸化還元反応を生じさせるダイヤモンド膜211と、ダイヤモンド以外の材料で形成され、ダイヤモンド膜211を支持する支持体212と、を有するチップ形状の電極を作成する。
【0055】
また、ステップBでは、支持体212が基材10側に位置するように作用電極21を基材10上に配置し、支持体212の側面の少なくとも一部が露出するように作用電極21を基材10に取り付ける。
【0056】
さらにまた、ステップBを行った後、支持体212の側面を不活性化するステップ(ステップC)を行う。ステップCでは、例えば、作用電極21等が設けられた基材10を酸素(O)含有雰囲気又は窒素(N)含有雰囲気中でアニールするか、作用電極21等が設けられた基材10に対してO含有雰囲気中で紫外光を照射し、支持体212の側面を不活性化する。ステップCでは、作用電極21等が設けられた基材10を清浄な大気中に放置し、支持体212の側面を不活性化してもよい。
【0057】
(ステップA)
このステップでは、ダイヤモンド膜211と支持体212とを有する作用電極21を作製する。
【0058】
具体的には、まず、ダイヤモンド以外の材料で形成された支持体212を用意する。例えば、平面視で円形の外形を有し、シリコン(Si)を含有する導電性の支持体、好ましくは導電性を有し、かつ、低抵抗の支持体(例えばシリコン基板)212を用意する。そして、支持体212が有する2つの主面のうちいずれか一方の主面に、種付け(シーディング)処理や、傷付け(スクラッチ)処理等を行う。以下では、支持体212が有する2つの主面のうち、種付け処理や傷つけ処理等を行う面、すなわちダイヤモンド膜211を成長させる面を「支持体212の上面」とも称する。ここで、種付け処理とは、例えば数nm~数十μm程度のダイヤモンド粒子(好ましくはダイヤモンドナノ粒子)を分散させた溶液(分散液)を支持体212の上面に塗布したり、分散液中に支持体212を浸漬したりすることにより、ダイヤモンド粒子を支持体212の上面に付着させる処理をいう。傷付け処理とは、数μm程度のダイヤモンド砥粒(ダイヤモンドパウダー)等を用いて支持体212の上面に引っかき傷(スクラッチ)を付ける処理をいう。これにより、支持体212の上面にダイヤモンド膜211を成長させることができるようになる。
【0059】
支持体212に対して種付け処理や傷付け処理等を行った後、例えばタングステンフィラメントを用いた熱フィラメントCVD法により、支持体212の上面にダイヤモンド膜211を成長させる。
【0060】
ダイヤモンド膜211の成長は、例えば
図4に示すような熱フィラメントCVD装置300を用いて行うことができる。熱フィラメントCVD装置300は、石英等の耐熱性材料からなり、成長室301が内部に構成された気密容器303を備えている。成長室301内には、支持体212を保持するサセプタ308が設けられている。気密容器303の側壁には、成長室301内へ窒素(N
2)ガスを供給するガス供給管332aと、水素(H
2)ガスを供給するガス供給管332bと、炭素(C)含有ガスとしてのメタン(CH
4)ガス又はエタン(C
2H
6)ガスを供給するガス供給管332cと、ホウ素(B)含有ガスとしてのトリメチルボロン(B(CH
3)
3、略称:TMB)ガス、トリメチルボレート(B(OCH
3)
3)ガス、トリエチルボレート(B(C
2H
5O)
3)ガス、又はジボラン(B
2H
6)ガスを供給するガス供給管332dと、が接続されている。ガス供給管332a~332dには、ガス流の上流側から順に、流量制御器341a~341d、バルブ343a~343dがそれぞれ設けられている。ガス供給管332a~332dの下流端には、ガス供給管332a~332dから供給された各ガスを成長室301内に供給するノズル349a~349dがそれぞれ接続されている。気密容器303の他の側壁には、成長室301内を排気する排気管330が設けられている。排気管330にはポンプ331が設けられている。気密容器303内には、成長室301内の温度を測定する温度センサ309が設けられている。また、気密容器303内にはタングステンフィラメント310と、タングステンフィラメント310を加熱する一対の電極(例えばモリブデン(Mo)電極)311a,311bとが、それぞれ設けられている。熱フィラメントCVD装置300が備える各部材は、コンピュータとして構成されたコントローラ380に接続されており、コントローラ380上で実行されるプログラムによって後述する処理手順や処理条件が制御されるように構成されている。
【0061】
ダイヤモンド膜211の成長は、上述の熱フィラメントCVD装置を用い、例えば以下の処理手順で実施することができる。まず、支持体212を、気密容器303内へ投入(搬入)し、サセプタ308上に保持する。そして、成長室301内の排気を実施しながら、成長室301内へH2ガスを供給する。また、電極311a,311b間に電流を流してタングステンフィラメント310の加熱を開始する。タングステンフィラメント310が加熱されることで、サセプタ308上に保持した支持体212も加熱されることとなる。タングステンフィラメント310が所望の温度となり、成長室301内が所望の成長圧力に到達し、また成長室301内の雰囲気が所望の雰囲気となったら、成長室301内へC含有ガス(例えばCH4ガス)、B含有ガス(例えばTMBガス)を供給する。成長室301内に供給されたCH4ガス、TMBガスが、高温に加熱されたタングステンフィラメント310を通過する際に分解(熱分解)されて、メチルラジカル(CH3
*)等の活性種が生成される。この活性種等が支持体212上に供給されてダイヤモンド膜が成長する。
【0062】
ダイヤモンド膜211を成長させる際の条件としては、下記の条件が例示される。なお、ダイヤモンド膜211の成長時間は、ダイヤモンド膜211の厚さに応じて適宜調整する。
基板温度:600℃以上1000℃以下、好ましくは650℃以上800℃以下
フィラメント温度:1800℃以上2500℃以下、好ましくは2000℃以上2200℃以下
成長室内圧力:5Torr以上50Torr以下、好ましくは10Torr以上35Torr以下
CH4ガスに対するTMBガスの分圧の比率(TMB/CH4):0.003%以上0.8%以下
H2ガスに対するCH4ガスの比率(CH4/H2):2%以上5%以下
【0063】
これにより、
図5(a)に断面概略図で示すような支持体212とダイヤモンド膜211との積層体220が作製される。なお、ダイヤモンド以外の材料で形成された支持体212上にダイヤモンド膜211を成長させることから、成長させたダイヤモンド膜211は多結晶ダイヤモンド膜又はDLC膜となる。また、上述の条件下でダイヤモンド膜211を成長させることで、ダイヤモンド膜211中のB濃度は例えば1×10
19cm
-3以上1×10
22cm
-3以下となる。
【0064】
ダイヤモンド膜211の成長が完了したら、
図5(b)に示すように、積層体220の裏面(支持体212の上面とは反対側の面)から凹状溝221(例えばスクライブ溝)を形成する。凹状溝221は、例えば、レーザスクライブやレーザダイシング等のレーザ加工法、機械加工法、エッチングのような公知の手法を用いて形成することができる。凹状溝221は、支持体212を厚さ方向に貫くことがないように、すなわちダイヤモンド膜211まで達しないように形成することが好ましい。凹状溝221は、支持体212の最薄部の厚さが例えば10μm以上80μm以下となるように形成することが好ましい。このように凹状溝221を設けることで、ダイヤモンド膜211の破断制御性の低下を抑制しつつ、ダイヤモンド膜211の変質を抑制することが可能となる。ダイヤモンド膜211の変質を抑制することにより、センシング感度の低下を抑制することが可能となる。なお、ダイヤモンド膜211の変質とは、例えばダイヤモンド膜211中のsp
3結合がsp
2結合に変わってしまう、すなわち黒鉛化(グラファイト化)してしまうこと等を意味する。
【0065】
続いて、
図5(c)に示すように、凹状溝221に沿ってダイヤモンド膜211を破断する。このとき、凹状溝221に沿ってダイヤモンド膜211を外方に折り曲げて破断することが好ましい。これにより、ダイヤモンド膜211と支持体212とを有するチップ形状の作用電極21が得られる。
【0066】
なお、積層体220の表面側(ダイヤモンド膜211の側)から凹状溝221を形成することも考えられる。しかしながら、ダイヤモンド膜211は非常に硬い(高硬度である)ため、ダイヤモンド膜211の側からレーザ加工法や機械加工法等により凹状溝221を形成することは難しい。
【0067】
また、積層体220をドライエッチング等により所定形状に成形して作用電極21を得ることも考えられる。しかしながら、高硬度のダイヤモンド膜211を有する積層体220をドライエッチング等により所定形状に成形することは非常に難しい。また、ドライエッチングを行うとダイヤモンド膜211に変質領域が生じる場合がある。
【0068】
これに対し、上述のように、支持体212の裏面側から凹状溝221を形成し、凹状溝221に沿ってダイヤモンド膜211等を破断することにより、高硬度のダイヤモンド膜211を有する場合であっても、所定形状(チップ形状)の作用電極21を容易に作製することができる。また、エッチング等を行わないことから、ダイヤモンド膜211に変質領域が生じることがなく、ダイヤモンド膜211の品質の低下を抑制し、センサ100のセンサ性能の低下を抑制することができる。
【0069】
凹状溝221を形成し、凹状溝221に沿ってダイヤモンド膜211を破断する手法で得られた作用電極21の支持体212の側面には、凹状溝221を形成することで生じたスクライブ面又はエッチング面の少なくともいずれかと、破断の際に生じた破断面と、が形成され、ダイヤモンド膜211の側面には、破断の際に生じた破断面が形成されることとなる。ここでいう「スクライブ面」とは、例えばレーザスクライブ(レーザ加工)を行うことで形成された融解面(レーザ加工面)や、ダイヤモンドスクライバ等を用いたスクライブ(機械加工)を行うことで形成された切削面(機械加工面)を含む面のことである。また、ここでいう「エッチング面」とは、ウェットエッチング或いはプラズマやイオンビームを用いたエッチングにより形成された面のことである。また、ここでいう「破断面」は、劈開面を含む場合がある。
【0070】
(ステップB)
ステップAが終了した後、ステップBを行う。
【0071】
このステップでは、まず、基材10を用意し、基材10の上面に例えばAuからなる配線31~33を形成する。例えば、いずれかの主面上に予め金膜(Au膜)が貼られた基材10を用意し、このAu膜上に所定パターンのレジストを形成し、その後、エッチング等によりレジストで覆われていない箇所のAu膜(すなわちAu膜の不要な部分)を除去する。これにより、基材10上に配線31~33となる所定の導体パターンが形成される。なお、配線31~33は、Auの他、上述のようにCu、Pt、Ag、またはPd等の各種貴金属、Al、Fe、Ni、Cr、Ti等の各種金属、これらの貴金属または金属を主成分とする合金、上記貴金属や合金の酸化物、金属酸化物等を用いて形成してもよい。また、配線31~33を形成する際、配線32と一体の対電極22も同時に形成する。
【0072】
続いて、参照電極23としてのAg/AgCl電極を形成する。例えば、Auからなる配線33の所定位置に銀線や銀板を配置し、この銀線や銀板上に溶融したAgClを塗布してAg/AgCl電極を形成する。なお、予め作製した配線33とは別体のAg/AgCl電極等の参照電極23を、導電性接着剤14と同様の導電性接着剤を介して基材10の上面に設けてもよい。この場合、導電性接着剤を介して参照電極23と配線33とが電気的に接続されるように、所定量の導電性接着剤を塗布する。なお、Ag/AgCl電極を形成することなく、配線33のAu露出部をそのまま参照電極23として使用してもよい。
【0073】
次に、作用電極21を、支持体212が基材10側に位置するように、導電性接着剤14を介して基材10の上面に設ける(取り付ける)。このとき、導電性接着剤14を介して作用電極21と配線31とが電気的に接続されるように、所定量の導電性接着剤14を塗布する。そして、導電性接着剤14を固化させる(キュア工程)。
【0074】
次に、露出している配線31及び導電性接着剤14を絶縁材料15で覆う。絶縁材料15は、配線31と導電性接着剤14とを露出させることなく、かつ、作用電極21(支持体212)の側面の少なくとも一部を露出させるように設ける。このとき、参照電極23と配線33とを電気的に接続する導電性接着剤、配線32,33も露出することがないように、絶縁材料15で覆うことが好ましい。
【0075】
(ステップC)
ステップBが終了した後、ステップCを行う。
【0076】
このステップでは、支持体212の側面の少なくとも一部が露出した状態で、作用電極21等が設けられた基材10をO含有雰囲気又はN含有雰囲気でアニールする。
【0077】
アニール条件としては、下記の条件が例示される。
アニール雰囲気:O2ガス、大気、またはN2ガス
アニール温度:60℃以上200℃以下、好ましくは70℃以上140℃以下
アニール時間:5分以上180分以下、好ましくは60分以上120分以下
【0078】
上述の条件下でアニールを行うことで、支持体212の側面全面に絶縁被膜213としての熱酸化膜(SiOx膜)又は窒化膜(SiN膜)を形成でき、支持体212の側面(すなわちスクライブ面又はエッチング面、および破断面)の少なくとも表層部を不活性化することができる。
【0079】
このステップでは、上述のアニールに替えて、支持体212の側面の少なくとも一部が露出した状態で、作用電極21等が設けられた基材10に対して、例えば水銀ランプを用いてO含有雰囲気で紫外光を照射してもよい。
【0080】
紫外光を照射する際の条件としては、下記の条件が例示される。
照射雰囲気:O2ガスまたは大気
照射温度:室温(25~28℃、例えば27℃)
照射時間:5分以上30分以下、好ましくは10分以上20分以下
【0081】
上述の条件下で紫外光の照射を行うことでも、支持体212の側面全面に絶縁被膜213としてのオゾン酸化膜を形成でき、支持体212の側面の表層部を不活性化することができる。
【0082】
また、このステップでは、上述のアニールまたは紫外光照射に替えて、支持体212の側面の少なくとも一部が露出した状態で、作用電極21等が設けられた基材10に対して、クリーンベンチ内などの清浄な大気中に放置して自然酸化膜を形成してもよい。
【0083】
自然酸化膜を形成する際の条件としては、下記の条件が例示される。
自然酸化膜形成雰囲気:湿度50%以上の大気
自然酸化膜形成温度:室温(25℃)以上
自然酸化膜形成時間:1000分以上
【0084】
上述の条件下で作用電極21等が設けられた基材10を大気中に放置することによっても、支持体212の側面全面に絶縁被膜213としての自然酸化膜を形成し、支持体212の側面を不活性化することができる。しかしながら、上述のアニールまたは紫外光照射の方が、絶縁被膜213を確実に連続膜とし、支持体212の側面全面を絶縁被膜213で確実に覆うことができる等の観点から好ましい。
【0085】
なお、上述の条件下で支持体212の側面を不活性化することで、配線31~33が酸化されたり窒化されたりすることとなる。しかしながら、本ステップにおけるアニール条件、紫外光照射条件、自然酸化膜形成条件では、配線31~33の表面(表層)しか酸化されたり窒化されたりしないことから、配線31~33の導電性には殆ど影響を与えない。
【0086】
また、ステップBが終了した後、具体的には導電性接着剤14を介して作用電極21と配線31とを電気的に接続した後に本ステップ(ステップC)を行うことで、意図しない箇所がアニール等により酸化等されて作用電極21と配線31との電気的接続が遮断されてしまうことを確実に抑制することができる。
【0087】
なお、ステップCを故意に行わなくても、支持体212の側面には自然酸化膜が形成されている。しかしながら、この自然酸化膜は連続膜ではない場合が多いことから、ステップCを行わない場合、支持体212の側面の不活性化が不充分である。ステップCを行うことで、支持体212の側面全面を充分に不活性化することができ、支持体212の側面全面を絶縁被膜213で覆うことが可能となる。
【0088】
(4)電気化学センサを用いた尿酸濃度の測定方法
上述のセンサ100を用い、電気化学測定を行って尿中の尿酸濃度を測定する方法について説明する。
【0089】
センサ100を用いた尿酸濃度測定方法では、
センサ100に計測機構を接続するステップ(ステップ1)と、
センサ100に被験試料を供給して、電極群20に被験試料を供給する(付着させる)ステップ(ステップ2)と、
電極群20の表面に被験試料が接触した状態で、作用電極21と対電極22との間に電圧を印加して作用電極21が有するダイヤモンド膜211の表面で尿酸の酸化還元反応を生じさせ、尿酸の酸化還元反応によって流れる電流値を測定するステップ(ステップ3)と、
電極群20の表面に被験試料が接触した状態で、作用電極21と参照電極23との間の電位差(電圧の差)を測定するステップ(ステップ4)と、
測定した電流値および電位差に基づいて尿酸濃度を定量するステップ(ステップ5)と、を実施する。
【0090】
(ステップ1)
本ステップでは、センサ100に計測機構を接続する。具体的には、センサ100が有する配線31~33のうち、作用電極21、対電極22、参照電極23が接続されている側とは反対側の各端部を露出させ、この露出端部に計測機構の接続部を接続する。計測機構としては、公知のポテンショスタット、またはそれに類似する電気回路を用いることができる。計測機構は、例えば、電圧印加部、電流測定部、電位差測定部、電位調整部を有している。電圧印加部は、接続部が配線31~33に接続されて所定の回路が形成されたら、作用電極21と対電極22との間に電圧を印加するように構成されている。電流測定部は、尿酸の酸化還元反応により生じた電流を測定するように構成されている。電位差測定部は、作用電極21と参照電極23との間の電位差を測定するように構成されている。電位調整部は、電位差測定部により測定した電位差に基づき、参照電極23の電位を基準として作用電極21の電位を一定に維持するように構成されている。
【0091】
(ステップ2)
センサ100に計測機構を接続したら、センサ100に被験試料を供給し、電極群20に被験試料を付着させる。
【0092】
(ステップ3)
電極群20の表面に被験試料が付着した状態で、計測機構の電圧印加部により作用電極21と対電極22との間に所定の電圧を印加することで、作用電極21が有するダイヤモンド膜211の表面上で尿酸の酸化還元反応が生じる。尿酸の酸化還元反応が生じることにより、作用電極21内を電流(反応電流)が流れる。この反応電流の値を、計測機構を用いて例えばサイクリックボルタンメトリーにより測定する。サイクリックボルタンメトリー条件としては、電圧範囲:0V以上1V以下を含む範囲、掃引速度:0.1V/s以上1V/s以下が例示される。反応電流の値は、スクエアウェーブボルタンメトリー(矩形波ボルタンメトリー)、微分パルスボルタンメトリー、ノーマルパルスボルタンメトリー、交流ボルタンメトリー等の手法を用いて測定してもよい。
【0093】
(ステップ4)
電極群20の表面に被験試料が接触した状態で、計測機構の電位差測定部により作用電極21と参照電極23との間の電位差を測定する。
【0094】
(ステップ5)
ステップ3で測定した反応電流の値から、例えばサイクリックボルタモグラムを作成し、酸化ピークの電流値を取得する。取得した酸化ピーク電流値およびステップ4で測定した電位差の値に基づいて、被験試料中の尿酸濃度を算出する(定量する)。反応電流の値は、尿中の尿酸濃度と相関関係にあることを本願発明者等は確認済みである。したがって、反応電流の値と尿酸濃度との関係を予め求めておけば、測定した反応電流の値に基づいて尿酸濃度を定量することができる。
【0095】
(5)本実施形態により得られる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果が得られる。
【0096】
(a)本実施形態では、作用電極21が支持体212の側面の少なくとも一部が露出した状態で基材10上に取り付けられている。センサ100は支持体212の側面の少なくとも一部を露出させた状態で作用電極21を基材10上に取り付けた簡素な構造であっても、被験試料中の尿酸濃度を正確に測定することができる。すなわち、センサ100では、このような簡素な構造であっても、正確にセンシングを行うことができる。
【0097】
本願発明者等は、支持体212の側面の少なくとも一部が露出した状態であっても、尿酸を含む被験試料中の尿酸濃度を正確に測定できることを確認済みである。例えば
図6(a)~(c)に示すサイクリックボルタモグラムに示すように、尿酸の酸化電流ピーク(酸化ピーク)をはっきりと観察できることを確認済みである。また、本願発明者等は、尿酸濃度が予め分かっている溶液(所定量の尿酸を水に溶解させた水溶液)を用い、センサ100を用いて、この水溶液中の尿酸濃度をサイクリックボルタンメトリーにより測定したところ、センサ100を用いて測定した尿酸濃度は、水溶液中の尿酸濃度と一致することを確認した。
【0098】
(b)作用電極21が支持体212の側面を露出させた状態で基材10上に取り付けられていることで、センシング感度を高めることが可能となる。また、支持体212の側面の露出領域を多くすることで、センサ100のセンシング感度をより高めることができる。
【0099】
ここで、
図6(a)に示すサンプル1、
図6(b)に示すサンプル2、
図6(c)に示すサンプル3は、それぞれ、支持体212の側面の露出領域が異なっている。サンプル1では、
図7(a)に示すように、支持体212の側面の多くの領域が絶縁材料15で覆われている、すなわち、支持体212の側面の露出領域が少なくなっている。サンプル2では、
図7(b)に示すように、支持体の側面の露出領域がサンプル1よりも多くなっている。サンプル3では、
図7(c)に示すように、支持体212の側面の露出領域が、サンプル1,2よりも多くなっている。すなわち、サンプル3、サンプル2、サンプル1の順に、支持体212の側面の露出領域が多くなっている。
図6(a)~(c)を比較すると、支持体212の側面の露出領域が多くなるほど、サイクリックボルタモグラムにおいて印加電圧0.5V付近にみられる酸化ピークの電流値が高いことが分かる。これにより、支持体212の側面の露出領域が多いほど、センシング感度が高くなることが分かる。
【0100】
なお、作用電極21が支持体212の側面が露出した状態で取り付けられていない場合、すなわち、支持体212の側面全面を絶縁材料15で覆った場合、センシング感度が低下する場合がある。というのも、ダイヤモンド膜211の厚さが支持体212の厚さに比べて非常に薄いことから、支持体212の側面全面が露出しないように支持体212の側面全面を覆うように絶縁材料15を設けようとすると、多くの場合、絶縁材料15がダイヤモンド膜211の表面(上面)にはみ出てしまう。このため、センシングに寄与するダイヤモンド膜211の面積が少なくなり、その結果、センシング感度が低下する場合がある。また、支持体212の側面全面を絶縁材料15で覆った場合、作用電極21を高アスペクト比の電極とする効果が低減してしまう場合がある。すなわち、球状拡散とみなせる拡散が少なくなる場合がある。また、IRドロップの影響を低くする効果が得られにくくなる場合もある。これらの結果、センシング感度が低下する場合がある。
【0101】
(c)支持体212の側面を不活性化する処理を行うことで、絶縁被膜213を確実に連続膜とし、支持体212の側面全面を絶縁被膜213で確実に覆うことが可能となる。すなわち、支持体212の側面を充分に不活性化することが可能となる。これにより、支持体212の側面に被験試料が付着した場合であっても、所定の電圧を印加した際に支持体212の側面で尿酸の酸化還元反応が生じることを確実に抑制することができる。すなわち、所定の電圧を印加した際に、ダイヤモンド膜211の表面では酸化還元反応を生じさせ、支持体212の側面では酸化還元反応を生じさせない作用電極21を得ることが可能となる。これにより、被験試料中の尿酸の濃度をより正確に測定することが可能となる。
【0102】
図8に、不活性化処理を充分に行ったサンプルと不活性化処理が不充分であるサンプルとのサイクリックボルタモグラムを示す。
図8に示すように、不活性化処理が不充分である場合、不活性化処理を充分に行った場合よりも酸化ピークの電流値が低くなり、酸化ピークがはっきり現れない場合がある。
【0103】
(d)作用電極21はチップ形状であることから、基材10上に載置しやすい。このため、高硬度のダイヤモンド膜211を有する作用電極21を用いたセンサ100の量産性を向上させることができる。
【0104】
(e)支持体212の比抵抗が0.04Ωcm以下であることで、反応電流の流路において、外部抵抗を低くすることができ、外部抵抗に起因する反応電流の値の変動を小さくすることが可能となる。その結果、被験試料中の尿酸の濃度をより正確に測定することが可能となる。
【0105】
(f)支持体212の比抵抗が0.04Ωcm以下であることで、支持体212中のキャリア濃度を例えば1×1018cm-3以上にすることができる。これにより、支持体212の裏面と導電性接着剤14中の金属成分との間の接続抵抗を、液-界面抵抗の10%以下にすることが可能となる。このため、外部抵抗に起因する反応電流の値の変動を確実に小さくすることができる。また、サイクリックボルタンメトリーにより得たサイクリックボルタモグラム上の反応電流プロファイルに外部抵抗成分が付加されてしまい、ピーク電流値が小さくなることを抑制することができる。これらの結果、被験試料中の尿酸の濃度をより正確に測定することが可能となる。
【0106】
(g)支持体212の厚さが350μm以上であることで、作用電極21を、所定の電圧を印加した際に尿酸が球状拡散とみなせるように拡散する電極、すなわち高アスペクト比の電極とすることができる。これにより、作用電極21の表面での尿酸の酸化還元反応により生じる電流密度を高くすることができるとともにIRドロップの影響を小さくすることができ、センシング感度を高めることができる。
【0107】
(h)支持体212の厚さが350μm以上であることで、6インチや8インチの市販の単結晶Si基板や多結晶Si基板等を、バックラップ(back rap)して厚さ調整することなく、支持体212としてそのまま用いることが可能となる。その結果、作用電極21の生産性を高め、製造コストを低減することが可能となる。
【0108】
(i)作用電極21の平面積が25mm2以下であることで、高アスペクト比の作用電極21をより容易に得ることが可能となる。その結果、センシング感度を確実に高めることが可能となる。
【0109】
(j)作用電極21を、従来のようにワイヤボンディング等を用いることなく、導電性接着剤14を介して配線31と電気的に接続することで、作用電極21の平面積が小さくても、作用電極21と配線31とを電気的に接続させることが容易になる。また、ワイヤボンディング等を用いて接続する場合に比べてセンサ100の量産性を高めることも可能となる。
【0110】
ここで、参考までに、従来のダイヤモンド膜を有する作用電極について説明する。従来のダイヤモンド膜を有する作用電極として、例えば、開口部が設けられた基材(回路基板)を用意し、基材の裏面側から開口部を塞ぐようにダイヤモンド膜を貼り付けることにより作製した作用電極が提案されている。このような作用電極では、開口部の平面積よりも大きな平面積を有するダイヤモンド膜を用いる必要がある。このような作用電極では、電気化学測定(センシング)に寄与する領域(開口部から露出する領域)以外に、センシングに寄与しない余分なダイヤモンド膜も必要となることから、製造コストが高くなる場合がある。また、作用電極を小型にすることができず、電気化学センサを小型にすることが難しい場合もある。なお、このような作用電極を小型にした場合、開口部の面積に対して基材の厚さが相対的に厚くなりすぎるために、尿酸の拡散が線形拡散を示すこととなる。
【0111】
また、ダイヤモンド膜を有する小型の作用電極として、ダイヤモンドを用いて形成した針状電極が提案されている。針状電極は、金属針の先端にダイヤモンド膜を蒸着することにより作製することができる。また、ダイヤモンド基材を用意し、酸素ガスによるドライエッチング等によってダイヤモンド基材の表面に針状突起配列構造を形成することによっても、針状電極を作製することができる。しかしながら、これらの作用電極は、本発明のようなダイヤモンド膜を有するチップ形状の作用電極に比べて、その作製工程が複雑である。また、ダイヤモンド基材に対してドライエッチングを行うと、ドライエッチングの処理領域およびその周辺領域のダイヤモンド基材が変質してしまうことがある。なお、レーザ照射、プラズマ照射、イオンビーム照射等によってダイヤモンド基材の表面を処理した場合も、ドライエッチングによりダイヤモンド基材の表面を処理した場合と同様に、ダイヤモンド基材が変質してしまうことがある。このような変質領域を有するダイヤモンド基材を用いた作用電極では、電気化学測定の測定精度が低下することがある。
【0112】
<他の実施形態>
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。但し、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0113】
上述の実施形態では、ステップCにおいて、上述のアニール、紫外光照射、清浄な大気中に放置のいずれかを行い、支持体212の側面を不活性化する例について説明したが、これに限定されない。すなわち、支持体212の側面を不活性化することができれば、他の種々の手法を用いて、不活性化処理を行ってもよい。例えば、上述のアニール、紫外光照射、または清浄な大気中に替えて、各種酸、過酸化水素水、水等を用いて支持体212の側面を不活性化してもよい。このような手法として、酸素を含有する純水や酸化剤を含む溶液に浸漬してケミカルエッチングを行い、支持体212の側面を不活性する手法が考えられる。
【0114】
上述の実施形態や他の実施形態では、ステップCにおいて、上述のアニール、紫外光照射、清浄な大気中に放置、ケミカルエッチングのいずれかを行い、支持体212の側面を不活性化する例について説明したが、これに限定されない。支持体212の側面を不活性化する上述の手法のうち、複数の手法を適宜組み合わせて行ってもよい。
【0115】
上述の実施形態では、基材10の上面に作用電極21、対電極22、参照電極23、および配線31~33を設けた後にステップCを行う例について説明したが、これに限定されない。基材10の上面に作用電極21および配線31が設けられ、導電性接着剤14を介して作用電極21と配線31とが電気的に接続された後であれば、対電極22、参照電極23、および配線32,33が基材10の上面に設けられる前に上述のステップCを行ってもよい。この場合であっても、支持体212の側面(全面)を絶縁被膜213で覆うことができ、支持体212の側面を充分に不活性化することができる。その結果、上述の尿酸の酸化還元反応抑制効果を得ることができる。
【0116】
上述の実施形態では、導電性接着剤14及び配線31等を絶縁材料15で露出させることなく覆う例について説明したが、これに限定されない。導電性接着剤14及び配線31等の露出を抑える他の手段が講じられていれば、導電性接着剤14及び配線31等は必ずしも絶縁材料15で覆われている必要はない。すなわち、このような場合、絶縁材料15は設けられていなくてもよい。
【0117】
上述の実施形態では、尿酸を含む液状の被験試料である中の尿酸濃度を測定する例について説明したが、これに限定されない。尿酸を含む液状の被験試料として、人や動物等の尿以外に、人や動物の血液、涙、鼻水、唾液、汗等を用いることができる。また、検出成分は、尿酸以外の他の成分であってもよい。作用電極21と対電極22との間に印加する電圧範囲が所定範囲内であれば、サイクリックボルタンメトリーの条件を適宜変更することで、液状の被験試料中の種々の成分(物質)の濃度を測定することができる。
【0118】
ダイヤモンド膜211上に検出成分に応じた所定の酵素を塗布し、尿酸等の検出成分と酵素とを電気化学反応させて検出成分の濃度を算出するようにしてもよい。
【0119】
上述の実施形態では、三電極法により液状の被験試料中の所定成分の濃度を測定する例に説明したが、これに限定されない。例えば、液状の被験試料中の所定成分の濃度を二電極法により測定してもよい。この場合、センサ100において、参照電極23および配線33を設けないことを除くその他の点は、上述の実施形態と同様の構造とすることができる。
【0120】
上述の実施形態では、センサ100が1つの電極群20を有する例について説明したが、センサ100は複数の電極群20を有していてもよい。複数の電極群20を有する場合、各電極に配線31~33がそれぞれ接続されている。
【0121】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
【0122】
(付記1)
本発明の一態様によれば、
作用電極と、
対電極と、
前記作用電極および前記対電極を支持する基材と、を備え、
前記作用電極は、
該作用電極と前記対電極との間に被験試料(電解液)が存在する状態で所定の電圧を印加した際に表面で酸化還元反応を生じさせるダイヤモンド膜と、ダイヤモンド以外の材料で形成され、前記ダイヤモンド膜を支持する支持体と、を有するチップ形状の電極であり、
前記支持体が前記基材側に位置し、かつ、前記支持体の側面の少なくとも一部が露出した状態で前記基材上に取り付けられている電気化学センサが提供される。
【0123】
(付記2)
付記1に記載のセンサであって、好ましくは、前記作用電極は、該作用電極と前記対電極との間に被験試料が存在する状態で所定の電圧を印加した際に、前記ダイヤモンド膜の表面では酸化還元反応を生じさせ、前記支持体の側面では酸化還元反応を生じさせないように構成されている。すなわち、前記支持体の側面が不活性化されている。
【0124】
(付記3)
付記1または2に記載のセンサであって、好ましくは、
前記支持体の側面に絶縁性の被膜が形成されている。すなわち、前記支持体の側面の不活性化は、前記支持体の側面に絶縁性の被膜を形成することでなされている。
【0125】
(付記4)
付記1~3のいずれか1つに記載のセンサであって、好ましくは、
被験試料として尿酸を含む液を前記作用電極および前記対電極に供給し(付着させ)、前記ダイヤモンド膜の表面で前記液中の尿酸の酸化還元反応を生じさせる。
【0126】
(付記5)
付記1~4のいずれか1つに記載のセンサであって、好ましくは、
前記支持体は、比抵抗が0.04Ωcm以下の材料からなる。
【0127】
(付記6)
付記1~5のいずれか1つに記載のセンサであって、好ましくは、
前記支持体は、シリコンの単体又はシリコンの化合物からなる。
【0128】
(付記7)
付記1~6のいずれか1つに記載のセンサであって、好ましくは、
前記支持体は、単結晶シリコン基板、多結晶シリコン基板、炭化シリコン基板のいずれかからなる。
【0129】
(付記8)
付記3~7のいずれか1つに記載のセンサであって、好ましくは、
前記絶縁性の被膜は、厚さ1nm以上の連続膜であり、前記支持体の側面全面を覆っている。
【0130】
(付記9)
付記1~8のいずれか1つに記載のセンサであって、好ましくは、
前記支持体の厚さが350μm以上である。
【0131】
(付記10)
付記1~9のいずれか1つに記載のセンサであって、好ましくは、
前記作用電極の平面積が25mm2以下である。
【0132】
(付記11)
付記1~10のいずれか1つに記載のセンサであって、好ましくは、
前記作用電極は、導電性接着剤を介して前記基材に取り付けられ(接着され)ている。
【0133】
(付記12)
付記1~11のいずれか1つに記載のセンサであって、好ましくは、
前記作用電極に接続される配線をさらに備え、
前記配線は、前記基材上に支持されており、
前記作用電極と前記配線とは、導電性接着剤を介して電気的に接続されている。
【0134】
(付記13)
本発明の他の態様によれば、
作用電極を作製する工程と、
前記作用電極を基材上に設ける工程と、を有し、
前記作用電極を作成する工程では、前記作用電極として、前記作用電極と前記基材上に設けられる対電極との間に被験試料(電解液)が存在する状態で所定の電圧を印加した際に表面で酸化還元反応を生じさせるダイヤモンド膜と、ダイヤモンド以外の材料で形成され、前記ダイヤモンド膜を支持する支持体と、を有するチップ形状の電極を作成し、
前記作用電極を前記基材上に設ける工程では、前記支持体が前記基材側に位置し、かつ、前記支持体の側面の少なくとも一部が露出するように前記作用電極を前記基材に取り付ける電気化学センサの製造方法が提供される。
【0135】
(付記14)
付記13に記載の方法であって、好ましくは、
前記作用電極を前記基材上に設ける工程を行った後、前記支持体の側面を不活性化する工程をさらに有する。
【0136】
(付記15)
付記13に記載の方法であって、好ましくは、
前記支持体の側面を不活性化する工程では、前記作用電極が設けられた前記基材に対して酸素含有雰囲気又は窒素含有雰囲気でアニールを行う。
【0137】
(付記16)
付記13に記載の方法であって、好ましくは、
前記支持体の側面を不活性化する工程では、前記作用電極が設けられた前記基材に対して酸素含有雰囲気で紫外光を照射する。
【0138】
(付記17)
付記13に記載の方法であって、好ましくは、
前記支持体の側面を不活性化する工程では、前記作用電極が設けられた前記基材を大気中で所定の温度下で、所定の時間放置する。
【0139】
(付記18)
付記13~17のいずれか1つに記載の方法であって、好ましくは、
前記作用電極を前記基材上に設ける工程では、導電性接着剤を介して前記作用電極を前記基材に取り付ける。
【符号の説明】
【0140】
100 電気化学センサ
10 基材
21 作用電極
211 ダイヤモンド膜
212 支持体
22 対電極