(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】Si基板生成方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20240902BHJP
【FI】
H01L21/304 611
(21)【出願番号】P 2020128469
(22)【出願日】2020-07-29
【審査請求日】2023-05-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100113217
【氏名又は名称】奥貫 佐知子
(74)【代理人】
【識別番号】100202496
【氏名又は名称】鹿角 剛二
(74)【代理人】
【識別番号】100202692
【氏名又は名称】金子 吉文
(72)【発明者】
【氏名】平田 和也
(72)【発明者】
【氏名】田畑 晋
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-033134(JP,A)
【文献】特開2020-050563(JP,A)
【文献】国際公開第2013/115351(WO,A1)
【文献】特開2019-043808(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶面(100)を平坦面としたSiインゴットからSi基板を生成するSi基板生成方法であって、
Siに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を該平坦面から生成すべきSi基板の厚みに相当する深さに位置づけて、結晶面{100}と結晶面{111}とが交わる交差線
と平行
又は直交する方向<110>に集光点とSiインゴットとを相対的に移動させながらレーザー光線をSiインゴットに照射して剥離帯を形成する剥離帯形成工程と、
該剥離帯を形成した方向と直交する方向に集光点とSiインゴットとを相対的に割り出し送りする割り出し送り工程と、
該剥離帯形成工程と該割り出し送り工程とを繰り返し実施して結晶面(100)に全体として平行な剥離層をSiインゴットの内部に形成し、Siインゴットの剥離層からSi基板を剥離して生成するウエーハ生成工程と、
を含
み、
該レーザー光線の集光点を該割り出し送り方向に複数分岐させて形成する、Si基板生成方法。
【請求項2】
該割り出し送り工程において、隣接する剥離帯が接触するように割り出し送りする請求項1記載のSi基板生成方法。
【請求項3】
該剥離帯形成工程の前に、Siインゴットの結晶面(100)を平坦化する平坦化工程が含まれる請求項1記載のSi基板生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiインゴットからSi基板を生成するSi基板生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IC、LSI等の複数のデバイスが分割予定ラインによって区画されシリコン基板の上面に形成されたウエーハは、ダイシング装置、レーザー加工装置によって個々のデバイスチップに分割され、分割された各デバイスチップは携帯電話、パソコン等の電気機器に利用される。
【0003】
シリコン(Si)基板は、内周刃、ワイヤーソー等を備えた切断装置によってSiインゴットが1mm程度の厚みにスライスされ、ラッピング、ポリッシングを経て形成される(たとえば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、内周刃、ワイヤーソーの切り代は1mm前後と比較的大きいため、内周刃、ワイヤーソーによってSiインゴットからSi基板を生成すると、Si基板として用いられる素材量はSiインゴットの1/3程度であり、生産性が悪いという問題がある。
【0006】
上記事実に鑑みてなされた本発明の課題は、Siインゴットから効率良くSi基板を生成することが可能となるSi基板生成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するために以下のSi基板生成方法を提供する。すなわち、結晶面(100)を平坦面としたSiインゴットからSi基板を生成するSi基板生成方法であって、Siに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を該平坦面から生成すべきSi基板の厚みに相当する深さに位置づけて、結晶面{100}と結晶面{111}とが交わる交差線と平行又は直交する方向<110>に集光点とSiインゴットとを相対的に移動させながらレーザー光線をSiインゴットに照射して剥離帯を形成する剥離帯形成工程と、該剥離帯を形成した方向と直交する方向に集光点とSiインゴットとを相対的に割り出し送りする割り出し送り工程と、該剥離帯形成工程と該割り出し送り工程とを繰り返し実施して結晶面(100)に平行な剥離層をSiインゴットの内部に形成し、Siインゴットの剥離層からSi基板を剥離して生成するウエーハ生成工程と、を含み、該レーザー光線の集光点を該割り出し送り方向に複数分岐させて形成する、Si基板生成方法を本発明は提供する。
【0008】
該割り出し送り工程において、隣接する剥離帯が接触するように割り出し送りするのが好適である。該剥離帯形成工程の前に、Siインゴットの結晶面(100)を平坦化する平坦化工程が含まれるのが好都合である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のSi基板生成方法は、結晶面(100)を平坦面としたSiインゴットからSi基板を生成するSi基板生成方法であって、Siに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を該平坦面から生成すべきSi基板の厚みに相当する深さに位置づけて、結晶面{100}と結晶面{111}とが交わる交差線に平行な方向<110>に、または該交差線に直交する方向[110]に集光点とSiインゴットとを相対的に移動させながらレーザー光線をSiインゴットに照射して剥離帯を形成する剥離帯形成工程と、該剥離帯を形成した方向と直交する方向に集光点とSiインゴットとを相対的に割り出し送りする割り出し送り工程と、該剥離帯形成工程と該割り出し送り工程とを繰り返し実施して結晶面(100)に平行な剥離層をSiインゴットの内部に形成し、Siインゴットの剥離層からSi基板を剥離して生成するウエーハ生成工程と、を含むので、Siインゴットから効率良くSi基板を生成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】(a)Siインゴットの斜視図、(b)(a)に示すSiインゴットの平面図。
【
図2】(a)Siインゴットの斜視図、(b)(a)に示すSiインゴットの平面図。
【
図4】(a)剥離帯形成工程を実施している状態を示す斜視図、(b)剥離帯形成工程を実施している状態を示す正面図。
【
図5】(a)剥離帯が形成されたSiインゴットの断面図、(b)(a)における剥離帯の拡大図。
【
図6】レーザー光線の分岐数とクラックの長さとの関係を示すグラフ。
【
図7】分岐させた集光点のピッチ間距離とクラックの長さとの関係を示すグラフ。
【
図8】加工送り速度とクラックの長さとの関係を示すグラフ。
【
図9】レーザー光線の出力とクラックの長さとの関係を示すグラフ。
【
図10】(a)剥離装置の下方にSiインゴットを位置づけた状態を示す斜視図、(b)(a)に示す剥離装置を用いて剥離工程を実施している状態を示す斜視図、(c)SiインゴットおよびSi基板の斜視図。
【
図11】剥離層が形成されたSiインゴットに超音波を付与して剥離工程を実施している状態を示す模式図。
【
図12】ウエーハ研削工程を実施している状態を示す斜視図。
【
図13】平坦化工程を実施している状態を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のSi基板生成方法の好適実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0012】
図1には、本発明のSi基板生成方法が実施され得るSi(シリコン)インゴット2が示されている。Siインゴット2は、全体として円柱形状に形成され、結晶面(100)を平坦面とした円形状の第一の端面4と、第一の端面4と反対側の円形状の第二の端面6と、第一の端面4および第二の端面6の間に位置する周面8とを有する。Siインゴット2の周面8には、平坦な矩形状のオリエンテーションフラット10が形成されている。オリエンテーションフラット10は、結晶面{110}と結晶面{111}とが交わる交差線12に対する角度が45°となるように位置づけられている。
【0013】
図2に示すとおり、Siインゴット2の周面8には、オリエンテーションフラット10に代えて、軸方向に延びるノッチ14が形成されていてもよい。
図2(b)を参照することによって理解されるとおり、ノッチ14における接線16と交差線12とのなす角度が45°となるようにノッチ14が位置づけられている。なお、以下の説明では、オリエンテーションフラット10が形成されたSiインゴット2からSi基板を生成する方法について説明する。
【0014】
図示の実施形態では、まず、Siに対して透過性を有する波長のレーザー光線の集光点を平坦面(第一の端面4)から生成すべきSi基板の厚みに相当する深さに位置づけて、結晶面{100}と結晶面{111}とが交わる交差線12に平行な方向<110>に、または交差線12に直交する方向[110]に集光点とSiインゴット2とを相対的に移動させながらレーザー光線をSiインゴット2に照射して剥離帯を形成する剥離帯形成工程を実施する。
【0015】
剥離帯形成工程は、たとえば
図3および
図4(a)に一部を示すレーザー加工装置18を用いて実施することができる。レーザー加工装置18は、Siインゴット2を保持する保持テーブル20と、保持テーブル20に保持されたSiインゴット2にパルスレーザー光線LBを照射するレーザー光線照射手段22とを含む。
【0016】
保持テーブル20は、上下方向に延びる軸線を中心として回転自在に構成されていると共に、
図3および
図4に矢印Xで示すX軸方向と、X軸方向に直交するY軸方向(
図3および
図4に矢印Yで示す方向)とのそれぞれに進退自在に構成されている。また、保持テーブル20は、レーザー加工装置18の加工領域から後述の剥離装置42および研削装置52のそれぞれの加工領域まで移動自在に構成されている。なお、X軸方向およびY軸方向が規定する平面は実質上水平である。
【0017】
図3を参照して説明すると、レーザー光線照射手段22は、Siに対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線LBを発振する発振器24と、発振器24が発振したパルスレーザー光線LBの出力を調整するアッテネータ26と、アッテネータ26によって出力が調整されたパルスレーザー光線LBをY軸方向に所定間隔をおいて複数(たとえば5)に分岐させる空間光変調器28と、空間光変調器28によって分岐されたパルスレーザー光線LBを反射して光軸方向を変更するミラー30と、ミラー30によって反射したパルスレーザー光線LBを集光してSiインゴット2に照射する集光器32とを含む。
【0018】
剥離帯形成工程では、まず、適宜の接着剤(たとえばエポキシ樹脂系接着剤)を介してSiインゴット2を保持テーブル20の上面に固定する。あるいは、保持テーブル20の上面に複数の吸引孔が形成され、保持テーブル20の上面に吸引力を生成してSiインゴット2を吸引保持してもよい。
【0019】
次いで、レーザー加工装置18の撮像手段(図示していない。)で上方からSiインゴット2を撮像し、撮像手段で撮像したSiインゴット2の画像に基づいて、保持テーブル20を回転および移動させることにより、Siインゴット2の向きを所定の向きに調整すると共にSiインゴット2と集光器32とのXY平面における位置を調整する。Siインゴット2の向きを所定の向きに調整する際は、
図4(a)に示すとおり、X軸方向とオリエンテーションフラット10とのなす角度が45°となるように調整し、結晶面{110}と結晶面{111}とが交わる交差線12に平行な方向<110>をX軸方向に整合させる。
【0020】
次いで、レーザー加工装置18の集光点位置調整手段(図示していない。)で集光器32を昇降させ、パルスレーザー光線LBの集光点FP(
図4(b)参照。)を平坦面である第一の端面4から、生成すべきSi基板の厚みに相当する深さに位置づける。図示の実施形態のパルスレーザー光線LBは空間光変調器28によってY軸方向に所定間隔をおいて複数に分岐されるが、分岐されたパルスレーザー光線LBの集光点FPのそれぞれを同一の深さに位置づける。
【0021】
次いで、結晶面{100}と結晶面{111}とが交わる交差線12に平行な方向<110>に整合しているX軸方向に所定の送り速度で保持テーブル20を移動させながら、Siに対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線LBを集光器32からSiインゴット2に照射する。そうすると、
図5(a)および
図5(b)に示すとおり、パルスレーザー光線LBの5つの集光点FPの付近において結晶構造が破壊されると共に、結晶構造が破壊された部分34から(111)面に沿って等方的にクラック36が伸張した剥離帯38が<110>方向(X軸方向)に沿って形成される。図示の実施形態では、結晶面{100}と結晶面{111}とが交わる交差線12に平行な方向<110>に集光点FPとSiインゴット2とを相対的に移動させているが、交差線12に直交する方向[110]に集光点FPとSiインゴット2とを相対的に移動させた場合にも、上記同様の剥離帯38が形成される。なお、剥離帯形成工程では、保持テーブル20に代えて集光器32をX軸方向に移動させてもよい。また、図示の実施形態では、パルスレーザー光線LBを複数に分岐させてSiインゴット2に照射しているが、パルスレーザー光線LBを分岐させずにSiインゴット2に照射してもよい。
【0022】
次いで、剥離帯38を形成した方向と直交する方向に集光点FPとSiインゴット2とを相対的に割り出し送りする割り出し送り工程を実施する。図示の実施形態の割り出し送り工程では、剥離帯38を形成した<110>方向(X軸方向)と直交するY軸方向に保持テーブル20を所定インデックス量Li(
図4(a)参照。)だけ割り出し送りする。なお、割り出し送り工程では、保持テーブル20に代えて集光器32を割り出し送りさせてもよい。
【0023】
次いで、剥離帯形成工程と割り出し送り工程とを繰り返し実施して結晶面(100)に全体として平行な剥離層をSiインゴット2の内部に形成し、Siインゴット2の剥離層からSi基板を剥離して生成するウエーハ生成工程を実施する。
【0024】
剥離帯形成工程と割り出し送り工程とを繰り返し実施することによって、
図5(a)に示すとおり、複数の剥離帯38から構成され強度が低下した剥離層40をSiインゴット2の内部に形成することができる。各剥離帯38のクラック36は(111)面に沿って延びているが、
図5(a)を参照することによって理解されるとおり、複数の剥離帯38から構成される剥離層40は、全体として第一の端面4に対して平行である。
【0025】
隣接する剥離帯38のクラック36同士の間には若干の間隙を設けてもよいが、割り出し送り工程では、隣接する剥離帯38が接触するように割り出し送りするのが好ましい。これによって、隣接する剥離帯38同士を連結させて剥離層40の強度をより低減させることができ、下記剥離工程においてSiインゴット2からのSi基板の剥離が容易になる。
【0026】
このような剥離層40を形成する際の加工条件は、下記の加工条件とすることが望ましい。本発明者等は、様々な条件で実験を行った結果、下記の加工条件で剥離帯38を形成することによって、剥離帯38のクラック36が長くなるためインデックス量Liを長くすることができ、剥離層40の形成にかかる時間を短縮化することができることを見出した。
レーザー光線の波長 :1342nm
分岐前のレーザー光線の平均出力 :2.5W
集光点の分岐数 :5(下記実験1の結果に基づく。)
分岐した集光点同士の間隔 :10μm(下記実験2の結果に基づく。)
繰り返し周波数 :60kHz
送り速度 :300mm/s(下記実験3の結果に基づく。)
インデックス量 :320μm(下記実験4の結果に基づく。)
【0027】
図6ないし
図9を参照して、本発明者等が行った剥離層の形成に関する実験結果について説明する。本発明者等は、パルスレーザー光線の分岐数、分岐させたパルスレーザー光線の集光点の間隔、Siインゴットと集光点との相対的な送り速度およびパルスレーザー光線の出力のそれぞれを変えて、Siに対して透過性を有する波長のパルスレーザー光線の集光点を上端面(結晶面(100)を平坦面とした上端面)から生成すべきSi基板の厚みに相当する深さに位置づけて、結晶面{100}と結晶面{111}とが交わる交差線に平行な方向<110>に集光点とSiインゴットとを相対的に移動させながらパルスレーザー光線をSiインゴットに照射した際の剥離帯のクラックの長さを測定した。なお、下記の各実験において変更したパラメータ以外の加工条件は上記の加工条件に沿って設定しており、それ以外の加工条件についての説明は省略する。
【0028】
<実験1>
図6には、分岐後の1ビーム当たりの平均出力を0.5Wとして、パルスレーザー光線の分岐数を変えた際の剥離帯のクラックのY軸方向の長さの測定結果が示されている。
図6に示すとおり、分岐数が3、4、5の場合には、パルスレーザー光線の分岐数が多いほど、クラックの長さが長くなった。
【0029】
<実験2>
図7には、分岐させたパルスレーザー光線の集光点の間隔を変えた際の剥離帯のクラックのY軸方向の長さの測定結果が示されている(●印)。
図7に示すとおり、分岐させたパルスレーザー光線の集光点の間隔が10μmの場合にクラックの長さが最大となった。また、
図7には、比較例として、オリエンテーションフラットに平行な方向に集光点とSiインゴットとを相対的に移動させながらパルスレーザー光線をSiインゴットに照射した際の結果も示されている(×印)。
図7を参照することによって理解されるとおり、結晶面{100}と結晶面{111}とが交わる交差線に平行な方向<110>に集光点とSiインゴットとを相対的に移動させた場合(●印)の方が、オリエンテーションフラットに平行に集光点とSiインゴットとを相対的に移動させた場合(×印)よりも、分岐させたパルスレーザー光線の集光点の間隔によらず、クラックの長さが長くなった。
【0030】
<実験3>
図8には、Siインゴットと集光点との相対的な送り速度を変えた際の剥離帯のクラックのY軸方向の長さの測定結果が示されている。
図8を参照することによって理解されるとおり、送り速度を300mm/sとした場合に、クラックの長さが最大となった。なお、実験3においては、最適な送り速度を確認することを目的としており、パルスレーザー光線の集光点の分岐数を3、パルスレーザー光線の平均出力を1.8W(分岐後の1ビーム当たりの平均出力0.5W)として、加工を行った。
【0031】
<実験4>
図9には、分岐前のパルスレーザー光線の平均出力を変えた際の剥離帯のクラックのY軸方向の長さの測定結果が示されている。
図9において、●印で示す折れ線グラフは、分岐数5、結晶面{100}と結晶面{111}とが交わる交差線に平行な方向<110>に集光点とSiインゴットとを相対的に移動させた場合である。×印で示す折れ線グラフは、分岐数5、オリエンテーションフラットに平行に集光点とSiインゴットとを相対的に移動させた場合である。△印で示す折れ線グラフは、分岐数3、結晶面{100}と結晶面{111}とが交わる交差線に平行な方向<110>に集光点とSiインゴットとを相対的に移動させた場合である。
【0032】
図9から、(1)パルスレーザー光線の出力が高いほどクラックが長くなること、(2)分岐数が多いほどクラックが長くなること、(3)オリエンテーションフラットに平行に集光点とSiインゴットとを相対的に移動させた場合よりも、結晶面{100}と結晶面{111}とが交わる交差線に平行な方向<110>に集光点とSiインゴットとを相対的に移動させた場合の方が、クラックが長くなることが判明した。また、
図9を参照することによって理解されるとおり、●印で示す折れ線グラフにおいて、出力2.5Wのときにクラックの長さが最大(320μm)となった。
【0033】
ウエーハ生成工程についての説明に戻ると、剥離層40をSiインゴット2の内部に形成した後、Siインゴット2の剥離層40からSi基板を剥離して生成する。Siインゴット2の剥離層40からSi基板を剥離するには、たとえば
図10に示す剥離装置42を用いて実施することができる。
【0034】
図10に示すとおり、剥離装置42は、実質上水平に延びるアーム44と、アーム44の先端に付設されたモータ46とを含む。モータ46の下面には、上下方向に延びる軸線を中心として回転自在に円板状の吸着片48が連結されている。下面において被加工物を吸着するように構成されている吸着片48には、吸着片48の下面に対して超音波振動を付与する超音波振動付与手段(図示していない。)が内蔵されている。
【0035】
図10を参照して説明を続けると、剥離層40をSiインゴット2の内部に形成した後、Siインゴット2を保持している保持テーブル20を吸着片48の下方に移動させる。次いで、アーム44を下降させ、
図10(b)に示すとおり、吸着片48の下面をSiインゴット2の第一の端面4(剥離層40に近い方の端面)に吸着させる。次いで、超音波振動付与手段を作動させ、吸着片48の下面に対して超音波振動を付与すると共に、モータ46で吸着片48を回転させる。これによって、
図10(c)に示すとおり、剥離層40を起点としてSiインゴット2からSi基板50(ウエーハ)を剥離して生成することができる。
【0036】
また、Siインゴット2の剥離層40からSi基板50を剥離する際は、
図11に示す剥離装置52を用いてもよい。
図11に示す剥離装置52は、水槽54と、水槽54内に昇降自在に配置されたロッド56と、ロッド56の下端に装着された超音波発振部材58とを備える。
【0037】
剥離装置52を用いてSiインゴット2からSi基板50を剥離する際は、Siインゴット2を水槽54内の水60に浸漬させる。次いで、ロッド56を移動させ、Siインゴット2の第一の端面4の若干上方に超音波発振部材58を位置づける。Siインゴット2の第一の端面4と超音波発振部材58との間隔は、1mm程度でよい。そして、超音波発振部材58から超音波を発振し、水60の層を介して剥離層40を刺激することにより、剥離層40を起点としてSiインゴット2からSi基板50を剥離することができる。
【0038】
ウエーハ生成工程を実施した後、Si基板50の剥離面50aを研削して平坦化するウエーハ研削工程を実施する。ウエーハ研削工程は、たとえば、
図12に一部を示す研削装置62を用いて実施することができる。研削装置62は、Si基板50を吸引保持するチャックテーブル64と、チャックテーブル64に吸引保持されたSi基板50を研削する研削手段66とを備える。上面においてSi基板50を吸引保持するチャックテーブル64は、上下方向に延びる軸線を中心として回転自在に構成されている。
【0039】
図12に示すとおり、研削手段66は、上下方向を軸心として回転自在に構成されたスピンドル68と、スピンドル68の下端に固定された円板状のホイールマウント70とを含む。ホイールマウント70の下面にはボルト72によって環状の研削ホイール74が固定されている。研削ホイール74の下面の外周縁部には、周方向に間隔をおいて環状に配置された複数の研削砥石76が固定されている。
【0040】
図12を参照して説明を続けると、ウエーハ研削工程では、まず、Si基板50の剥離面50aと反対側の面に、適宜の接着剤を用いて円板状のサブストレート78を装着させる。次いで、Si基板50の剥離面50aを上に向けて、チャックテーブル64の上面でサブストレート78と共にSi基板50を吸引保持する。次いで、上方からみて反時計回りに所定の回転速度(たとえば300rpm)でチャックテーブル64を回転させる。また、上方からみて反時計回りに所定の回転速度(たとえば6000rpm)でスピンドル68を回転させる。次いで、研削装置62の昇降手段(図示していない。)でスピンドル68を下降させ、Si基板50の剥離面50aに研削砥石76を接触させる。そして、Si基板50の剥離面50aに研削砥石76を接触させた後は所定の研削送り速度(たとえば1.0μm/s)でスピンドル68を下降させる。これによって、Si基板50の剥離面50aを研削してSi基板50を平坦化することができる。なお、剥離面50aを研削した後、適宜の研磨装置を用いて、平坦化した剥離面50aを所望の表面粗度になるまで研磨してもよい。
【0041】
また、ウエーハ生成工程を実施した後、ウエーハ研削工程の前または後に、ウエーハ研削工程と並行して、Si基板50を剥離したSiインゴット2の剥離面4’を研削して、結晶面(100)を平坦化する平坦化工程を実施する。
【0042】
ウエーハ研削工程の前または後に、平坦化工程を実施する場合には、上記研削装置62の研削手段66を用いて平坦化工程を実施することができる。研削手段66を用いて平坦化工程を実施する場合には、まず、チャックテーブル64を研削手段66の下方から離間させた後、Siインゴット2を保持している保持テーブル20を研削手段66の下方に移動させる。
【0043】
次いで、Si基板50の剥離面50aを研削した際と同様に、上方からみて反時計回りに保持テーブル20を回転させると共に、上方からみて反時計回りにスピンドル68を回転させた後、スピンドル68を下降させてSiインゴット2の剥離面4’に研削砥石76を接触させる。その後、所定の研削送り速度でスピンドル68を下降させる。これによって、Siインゴット2の剥離面4’を研削して、Siインゴット2の結晶面(100)を平坦化することができる。なお、研削装置52と同様の研削手段を有する他の研削装置を用いて、ウエーハ研削工程と並行して平坦化工程を実施してもよい。また、剥離面4’を研削した後、適宜の研磨装置を用いて、平坦化した結晶面(100)を所望の表面粗度になるまで研磨してもよい。
【0044】
そして、平坦化工程を実施した後、上述の剥離帯形成工程、割り出し送り工程、ウエーハ生成工程、ウエーハ研削工程および平坦化工程を繰り返すことにより、Siインゴット2から複数枚のSi基板50を生成する。図示の実施形態では、Siインゴット2の第一の端面4が結晶面(100)を平坦面とした面であることから、剥離帯形成工程から始める例を説明したが、Siインゴット2の第一の端面4が結晶面(100)を平坦面とした面でない場合には、平坦化工程から始めてもよい。
【0045】
以上のとおりであり、図示の実施形態のSi基板生成方法においては、Siインゴット2にパルスレーザー光線LBを照射して剥離層40を形成し、剥離層40を起点としてSiインゴット2からSi基板50を剥離するので切り代がなく、Siインゴット2から効率良くSi基板50を生成することが可能となる。
【符号の説明】
【0046】
2:Siインゴット
4:第一の端面(結晶面(100)を平坦面とした面)
12:結晶面{100}と結晶面{111}とが交わる交差線
38:剥離帯
40:剥離層
50:Si基板
LB:レーザー光線
FP:集光点