(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】電子ビーム検査装置及び電子ビーム検査方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/66 20060101AFI20240902BHJP
H01J 37/22 20060101ALI20240902BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
H01L21/66 J
H01J37/22 502J
H01J37/22 502H
H01J37/28 B
(21)【出願番号】P 2020188281
(22)【出願日】2020-11-11
【審査請求日】2023-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【氏名又は名称】須藤 章
(74)【代理人】
【識別番号】100178984
【氏名又は名称】高下 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】佐川 研太
【審査官】小池 英敏
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-112974(JP,A)
【文献】特開平5-198641(JP,A)
【文献】特開2011-154223(JP,A)
【文献】特開2001-175857(JP,A)
【文献】特開2008-47664(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/66
H01J 37/22
H01J 37/28
G01N 23/2251
G01N 21/956
G01N 21/00
G01B 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
図形パターンの元になる設計データから作成され、電子光学画像に対応する参照画像を作成する参照画像作成部と、
前記参照画像に対応する電子光学画像を取得するために用いる電子ビームの強度分布に依存する画像処理フィルタを用いて、前記参照画像内の図形パターンのエッジ形状を維持し、前記参照画像内の前記図形パターンの角部形状を補正する補正処理部と、
前記角部形状が補正された参照画像と、前記電子光学画像とを比較する比較部と、
を備えたことを特徴とする電子ビーム検査装置。
【請求項2】
前記参照画像に対して、対象画素を移動しながら前記画像処理フィルタを畳み込むフィルタ処理を行った場合の前記対象画素に対する前記フィルタ処理された階調値と、前記画像処理フィルタと前記図形パターンとの重なり関係とに応じて定まる値と、を用いて、当該対象画素がコーナ部分に位置するかどうかを判定するコーナ判定部をさらに備え、
前記補正処理部は、対象画素が前記コーナ部分に位置すると判定された場合に対象画素の階調値を補正することを特徴とする請求項1記載の電子ビーム検査装置。
【請求項3】
前記重なり関係に応じて定まる値として、上限値と下限値とが設定され、
前記コーナ判定部は、前記対象画素に対する前記フィルタ処理された階調値が前記上限値と前記下限値との間である場合に、対象画素が前記コーナ部分に位置すると判定することを特徴とする請求項2記載の電子ビーム検査装置。
【請求項4】
前記画像処理フィルタと前記図形パターンのエッジとの相対角度に依存して、前記上限値と前記下限値とが変化することを特徴とする請求項3記載の電子ビーム検査装置。
【請求項5】
図形パターンの元になる設計データから作成され、電子光学画像に対応する参照画像を作成する工程と、
前記参照画像に対応する電子光学画像を取得するために用いる電子ビームの強度分布に依存する画像処理フィルタを用いて、前記参照画像内の図形パターンのエッジ形状を維持し、前記参照画像内の前記図形パターンの角部形状を補正する工程と、
前記角部形状が補正された参照画像と、前記電子光学画像とを比較し、結果を出力する工程と、
を備えたことを特徴とする電子ビーム検査方法。
【請求項6】
前記参照画像に対して、対象画素を移動しながら前記画像処理フィルタを畳み込むフィルタ処理を行った場合の前記対象画素に対する前記フィルタ処理された階調値と、前記画像処理フィルタと前記図形パターンとの重なり関係とに応じて定まる値と、を用いて、当該対象画素がコーナ部分に位置するかどうかを判定する工程をさらに備え、
対象画素が前記コーナ部分に位置すると判定された場合に対象画素の階調値を補正することを特徴とする請求項5記載の電子ビーム検査方法。
【請求項7】
前記重なり関係に応じて定まる値として、上限値と下限値とが設定され、
前記対象画素に対する前記フィルタ処理された階調値が前記上限値と前記下限値との間である場合に、対象画素が前記コーナ部分に位置すると判定することを特徴とする請求項6記載の電子ビーム検査方法。
【請求項8】
前記画像処理フィルタと前記図形パターンのエッジとの相対角度に依存して、前記上限値と前記下限値とが変化することを特徴とする請求項7記載の電子ビーム検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一態様は、電子ビーム検査装置及び電子ビーム検査方法に関する。例えば、電子線によるマルチビームで基板を照射して放出されるパターンの2次電子画像を用いて検査する検査装置、および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大規模集積回路(LSI)の高集積化及び大容量化に伴い、半導体素子に要求される回路線幅はますます狭くなってきている。そして、多大な製造コストのかかるLSIの製造にとって、歩留まりの向上は欠かせない。しかし、LSIを構成するパターンは、10ナノメータ以下のオーダーを迎えつつあり、パターン欠陥として検出しなければならない寸法も極めて小さいものとなっている。よって、半導体ウェハ上に転写された超微細パターンの欠陥を検査するパターン検査装置の高精度化が必要とされている。その他、歩留まりを低下させる大きな要因の一つとして、半導体ウェハ上に超微細パターンをフォトリソグラフィ技術で露光、転写する際に使用されるマスクのパターン欠陥があげられる。そのため、LSI製造に使用される転写用マスクの欠陥を検査するパターン検査装置の高精度化が必要とされている。
【0003】
欠陥検査手法としては、紫外線或いは電子ビームを用いて、半導体ウェハやリソグラフィマスク等の基板上に形成されているパターンを撮像した測定画像と、設計パターンデータを基にした参照画像、あるいは基板上の同一パターンを撮像した測定画像と比較することにより検査を行う方法が知られている。
【0004】
特に、測定画像と設計パターンデータを基にした参照画像とを比較するダイ-データベース検査では、高感度に欠陥検出するためには参照画像から抽出される輪郭線と測定画像から抽出される輪郭線との一致度が高いことが求められる。一方、電子ビームで試料をスキャンして得られるSEM(Scanning Electron Microscope)画像は、製造プロセス或いは電子光学条件等の影響により設計パターンデータと比べてパターン角部(コーナ部)の丸みに差異が生じてしまう。例えば、電子ビームの照射形状が回転対象ではない強度分布のビームで得られるSEM画像は、非回転対象のボケを有し、これに応じたコーナ形状になる。特に、マルチビームを用いる場合、軌道中心軸を通過するビーム以外は非回転対象の強度分布のビームになり易い。そのため、SEM画像の取得に使用するビームの特性に合わせて参照画像を補正しないと疑似欠陥が多発してしまう。
【0005】
また、コーナ部の丸め処理をフィルタ処理で行う場合、コーナ部だけではなく、パターンのエッジ形状も補正されてしまう。これによりパターンのエッジ位置がずれてしまう。これでは、抽出される輪郭線同士の差異が大きくなり、その結果、疑似欠陥の発生につながってしまう。よって、パターンのエッジ形状を維持し、コーナ部の丸め処理を行うことが求められる。なお、パターンのエッジ位置をあえてずらすリサイズ処理を行う必要がある場合には、コーナ部の丸め処理とは独立して行うことが求められる。
【0006】
ここで、輪郭線同士を比較する検査装置において、元々一致度が低いコーナ部について、コーナ丸め処理を行うのではなく、測定画像から抽出された輪郭線から非直線部を抽出して、設計データの角部位の各点について一定範囲内に存在する非直線部位の有無を検出し、対応点の存在しない部位を欠陥部位とするといった手法が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の一態様は、パターンのエッジ形状を維持し、測定画像の取得に使用するビームの特性に合わせたコーナ部の補正処理が成された参照画像で比較可能な装置及び方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様の電子ビーム検査装置は、
図形パターンの元になる設計データから作成され、電子光学画像に対応する参照画像を作成する参照画像作成部と、
参照画像に対応する電子光学画像を取得するために用いる電子ビームの強度分布に依存する画像処理フィルタを用いて、参照画像内の図形パターンのエッジ形状を維持し、参照画像内の図形パターンの角部形状を補正する補正処理部と、
角部形状が補正された参照画像と、電子光学画像とを比較する比較部と、
を備えたことを特徴とする。
【0010】
また、参照画像に対して、対象画素を移動しながら画像処理フィルタを畳み込むフィルタ処理を行った場合の対象画素に対するフィルタ処理された階調値と、画像処理フィルタと図形パターンとの重なり関係とに応じて定まる値と、を用いて、当該対象画素がコーナ部分に位置するかどうかを判定するコーナ判定部をさらに備え、
補正処理部は、対象画素がコーナ部分に位置すると判定された場合に対象画素の階調値を補正すると好適である。
【0011】
また、重なり関係に応じて定まる値として、上限値と下限値とが設定され、
コーナ判定部は、対象画素に対するフィルタ処理された階調値が上限値と下限値との間である場合に、対象画素がコーナ部分に位置すると判定すると好適である。
【0012】
また、画像処理フィルタと図形パターンのエッジとの相対角度に依存して、上限値と下限値とが変化すると好適である。
【0013】
本発明の一態様の電子ビーム検査方法は、
図形パターンの元になる設計データから作成され、電子光学画像に対応する参照画像を作成する工程と、
参照画像に対応する電子光学画像を取得するために用いる電子ビームの強度分布に依存する画像処理フィルタを用いて、参照画像内の図形パターンのエッジ形状を維持し、参照画像内の図形パターンの角部形状を補正する工程と、
角部形状が補正された参照画像と、電子光学画像とを比較し、結果を出力する工程と、
を備えたことを特徴とする。
【0014】
また、参照画像に対して、対象画素を移動しながら画像処理フィルタを畳み込むフィルタ処理を行った場合の対象画素に対するフィルタ処理された階調値と、画像処理フィルタと図形パターンとの重なり関係とに応じて定まる値と、を用いて、当該対象画素がコーナ部分に位置するかどうかを判定する工程をさらに備え、
対象画素がコーナ部分に位置すると判定された場合に対象画素の階調値を補正すると好適である。
【0015】
また、重なり関係に応じて定まる値として、上限値と下限値とが設定され、
対象画素に対するフィルタ処理された階調値が上限値と下限値との間である場合に、対象画素がコーナ部分に位置すると判定すると好適である。
【0016】
また、画像処理フィルタと図形パターンのエッジとの相対角度に依存して、上限値と下限値とが変化すると好適である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一態様によれば、パターンのエッジ形状を維持し、測定画像の取得に使用するビームの特性に合わせたコーナ部の補正処理が成された参照画像で比較できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施の形態1における検査装置の構成の一例を示す構成図である。
【
図2】実施の形態1における成形アパーチャアレイ基板の構成を示す概念図である。
【
図3】実施の形態1における半導体基板に形成される複数のチップ領域の一例を示す図である。
【
図4】実施の形態1におけるマルチビームのスキャン動作を説明するための図である。
【
図5】実施の形態1における検査方法の要部工程を示すフローチャート図である。
【
図6】実施の形態1における試料面上でのビーム形状の一例を示す図である。
【
図7】実施の形態1におけるフィルタ関数を演算する手法の一例を説明するための図である。
【
図8】実施の形態1におけるテーブル作成回路の内部構成の一例を示す図である。
【
図9】実施の形態1におけるフィルタ関数と図形パターンエッジとの重なり関係の一例を示す図である。
【
図10】実施の形態1におけるフィルタ関数と図形パターンエッジとの重なり関係の他の一例を示す図である。
【
図11】実施の形態1における矩形パターンの各エッジとフィルタ関数との重なり関係の一例を示す図である。
【
図12】実施の形態1におけるV1,V2テーブルの一例を示す図である。
【
図13】実施の形態1における補正回路の内部構成の一例を示す図である。
【
図14】実施の形態1におけるフィルタ関数と図形パターンの重なり関係を説明するための図である。
【
図15】実施の形態1における補正前後のパターンの一例を示す図である。
【
図16】実施の形態1における比較回路の内部構成の一例を示す図である。
【
図17】実施の形態1における実画輪郭線と参照輪郭線との一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、実施の形態では、検査装置の一例として、電子ビーム検査装置について説明する。また、実施の形態では、複数の電子ビームによるマルチビームを用いて画像を取得する検査装置について説明するが、これに限るものではない。1本の電子ビームによるシングルビームを用いて画像を取得する検査装置であっても構わない。
【0020】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1における検査装置の構成の一例を示す構成図である。
図1において、基板に形成されたパターンを検査する検査装置100は、マルチ電子ビーム検査装置の一例である。検査装置100は、画像取得機構150(2次電子画像取得機構)、及び制御系回路160を備えている。画像取得機構150は、電子ビームカラム102(電子鏡筒)及び検査室103を備えている。電子ビームカラム102内には、電子銃201、電磁レンズ202、成形アパーチャアレイ基板203、電磁レンズ205、一括ブランキング偏向器212、制限アパーチャ基板213、電磁レンズ206、電磁レンズ207(対物レンズ)、主偏向器208、副偏向器209、ビームセパレーター214、偏向器218、電磁レンズ224、電磁レンズ226、及びマルチ検出器222が配置されている。
図1の例において、電子銃201、電磁レンズ202、成形アパーチャアレイ基板203、電磁レンズ205、一括ブランキング偏向器212、制限アパーチャ基板213、電磁レンズ206、電磁レンズ207(対物レンズ)、主偏向器208、及び副偏向器209は、マルチ1次電子ビーム20を基板101に照射する1次電子光学系を構成する。ビームセパレーター214、偏向器218、電磁レンズ224、及び電磁レンズ226は、マルチ2次電子ビーム300をマルチ検出器222に照射する2次電子光学系を構成する。
【0021】
検査室103内には、なくともXY方向に移動可能なステージ105が配置される。ステージ105上には、検査対象となる基板101(試料)が配置される。ここでは、基板101が、例えば、3点支持により支持される。基板101には、露光用マスク基板、及びシリコンウェハ等の半導体基板が含まれる。基板101が半導体基板である場合、半導体基板には複数のチップパターン(ウェハダイ)が形成されている。基板101が露光用マスク基板である場合、露光用マスク基板には、チップパターンが形成されている。チップパターンは、複数の図形パターンによって構成される。かかる露光用マスク基板に形成されたチップパターンが半導体基板上に複数回露光転写されることで、半導体基板には複数のチップパターン(ウェハダイ)が形成されることになる。以下、基板101が半導体基板である場合を主として説明する。基板101は、例えば、パターン形成面を上側に向けてステージ105に配置される。また、ステージ105上には、検査室103の外部に配置されたレーザ測長システム122から照射されるレーザ測長用のレーザ光を反射するミラー216が配置されている。マルチ検出器222は、電子ビームカラム102の外部で検出回路106に接続される。
【0022】
制御系回路160では、検査装置100全体を制御する制御計算機110が、バス120を介して、位置回路107、比較回路108、展開回路111、参照画像作成回路112、ステージ制御回路114、レンズ制御回路124、ブランキング制御回路126、偏向制御回路128、補正回路132、フィルタ演算回路134、テーブル作成回路136、磁気ディスク装置等の記憶装置109、モニタ117、及びメモリ118に接続されている。また、偏向制御回路128は、DAC(デジタルアナログ変換)アンプ144,146,148に接続される。DACアンプ146は、主偏向器208に接続され、DACアンプ144は、副偏向器209に接続される。DACアンプ148は、偏向器218に接続される。
【0023】
また、検出回路106は、チップパターンメモリ123に接続される。チップパターンメモリ123は、比較回路108及びフィルタ演算回路134に接続されている。また、ステージ105は、ステージ制御回路114の制御の下に駆動機構142により駆動される。駆動機構142では、例えば、ステージ座標系におけるX方向、Y方向、θ方向に駆動する3軸(X-Y-θ)モータの様な駆動系が構成され、ステージ105が移動可能となっている。ステージ105は、XYθ各軸のモータによって水平方向及び回転方向に移動可能である。そして、ステージ105の移動位置はレーザ測長システム122により測定され、位置回路107に供給される。レーザ測長システム122は、ミラー216からの反射光を受光することによって、レーザ干渉法の原理でステージ105の位置を測長する。ステージ座標系は、例えば、マルチ1次電子ビームの光軸(電子軌道中心軸)に直交する面に対して、X方向、Y方向、θ方向が設定される。
【0024】
電磁レンズ202、電磁レンズ205、電磁レンズ206、電磁レンズ207(対物レンズ)、電磁レンズ224、電磁レンズ226、及びビームセパレーター214は、レンズ制御回路124により制御される。また、一括ブランキング偏向器212は、2極以上の電極により構成され、電極毎に図示しないDACアンプを介してブランキング制御回路126により制御される。副偏向器209は、4極以上の電極により構成され、電極毎にDACアンプ144を介して偏向制御回路128により制御される。主偏向器208は、4極以上の電極により構成され、電極毎にDACアンプ146を介して偏向制御回路128により制御される。偏向器218は、4極以上の電極により構成され、電極毎にDACアンプ148を介して偏向制御回路128により制御される。
【0025】
電子銃201には、図示しない高圧電源回路が接続され、電子銃201内の図示しないフィラメント(カソード)と引出電極(アノード)間への高圧電源回路からの加速電圧の印加と共に、別の引出電極(ウェネルト)の電圧の印加と所定の温度のカソードの加熱によって、カソードから放出された電子群が加速させられ、電子ビーム200となって放出される。
【0026】
ここで、
図1では、実施の形態1を説明する上で必要な構成を記載している。検査装置100にとって、通常、必要なその他の構成を備えていても構わない。
【0027】
図2は、実施の形態1における成形アパーチャアレイ基板の構成を示す概念図である。
図2において、成形アパーチャアレイ基板203には、2次元状の横(x方向)m
1列×縦(y方向)n
1段(m
1,n
1は、一方が2以上の整数、他方が1以上の整数)の穴(開口部)22がx,y方向に所定の配列ピッチで形成されている。
図2の例では、23×23の穴(開口部)22が形成されている場合を示している。各穴22は、理想的には共に同じ寸法形状の矩形で形成される。或いは、理想的には同じ外径の円形であっても構わない。これらの複数の穴22を電子ビーム200の一部がそれぞれ通過することで、m
1×n
1本(=N本)のマルチ1次電子ビーム20が形成されることになる。
【0028】
次に、検査装置100における画像取得機構150の動作について説明する。
【0029】
電子銃201(放出源)から放出された電子ビーム200は、電磁レンズ202によって屈折させられ、成形アパーチャアレイ基板203全体を照明する。成形アパーチャアレイ基板203には、
図2に示すように、複数の穴22(開口部)が形成され、電子ビーム200は、すべての複数の穴22が含まれる領域を照明する。複数の穴22の位置に照射された電子ビーム200の各一部が、かかる成形アパーチャアレイ基板203の複数の穴22をそれぞれ通過することによって、マルチ1次電子ビーム20が形成される。
【0030】
形成されたマルチ1次電子ビーム20は、電磁レンズ205、及び電磁レンズ206によってそれぞれ屈折させられ、中間像およびクロスオーバーを繰り返しながら、マルチ1次電子ビーム20の各ビームのクロスオーバー位置(各ビームの中間像位置)に配置されたビームセパレーター214を通過して電磁レンズ207(対物レンズ)に進む。そして、電磁レンズ207は、マルチ1次電子ビーム20を基板101にフォーカス(合焦)する。対物レンズ207により基板101(試料)面上に焦点が合わされた(合焦された)マルチ1次電子ビーム20は、主偏向器208及び副偏向器209によって一括して偏向され、各ビームの基板101上のそれぞれの照射位置に照射される。なお、一括ブランキング偏向器212によって、マルチ1次電子ビーム20全体が一括して偏向された場合には、制限アパーチャ基板213の中心の穴から位置がはずれ、制限アパーチャ基板213によって遮蔽される。一方、一括ブランキング偏向器212によって偏向されなかったマルチ1次電子ビーム20は、
図1に示すように制限アパーチャ基板213の中心の穴を通過する。かかる一括ブランキング偏向器212のON/OFFによって、ブランキング制御が行われ、ビームのON/OFFが一括制御される。このように、制限アパーチャ基板213は、一括ブランキング偏向器212によってビームOFFの状態になるように偏向されたマルチ1次電子ビーム20を遮蔽する。そして、ビームONになってからビームOFFになるまでに形成された、制限アパーチャ基板213を通過したビーム群により、検査用(画像取得用)のマルチ1次電子ビーム20が形成される。
【0031】
基板101の所望する位置にマルチ1次電子ビーム20が照射されると、かかるマルチ1次電子ビーム20が照射されたことに起因して基板101からマルチ1次電子ビーム20の各ビームに対応する、反射電子を含む2次電子の束(マルチ2次電子ビーム300)が放出される。
【0032】
基板101から放出されたマルチ2次電子ビーム300は、電磁レンズ207を通って、ビームセパレーター214に進む。
【0033】
ここで、ビームセパレーター214はマルチ1次電子ビーム20の中心ビームが進む方向(電子軌道中心軸)に直交する面上において電界と磁界を直交する方向に発生させる。電界は電子の進行方向に関わりなく同じ方向に力を及ぼす。これに対して、磁界はフレミング左手の法則に従って力を及ぼす。そのため電子の侵入方向によって電子に作用する力の向きを変化させることができる。ビームセパレーター214に上側から侵入してくるマルチ1次電子ビーム20には、電界による力と磁界による力が打ち消し合い、マルチ1次電子ビーム20は下方に直進する。これに対して、ビームセパレーター214に下側から侵入してくるマルチ2次電子ビーム300には、電界による力と磁界による力がどちらも同じ方向に働き、マルチ2次電子ビーム300は斜め上方に曲げられ、マルチ1次電子ビーム20から分離する。
【0034】
斜め上方に曲げられ、マルチ1次電子ビーム20から分離したマルチ2次電子ビーム300は、偏向器218によって、さらに曲げられ、電磁レンズ224,226によって、屈折させられながらマルチ検出器222に投影される。マルチ検出器222は、マルチ1次電子ビーム20の照射によって基板101から放出される2次電子を検出する。具体的には、マルチ検出器222は、投影されたマルチ2次電子ビーム300を検出する。マルチ検出器222には、反射電子及び2次電子が投影されても良いし、反射電子は途中で発散してしまい残った2次電子が投影されても良い。マルチ検出器222は、2次元センサを有する。そして、マルチ2次電子ビーム300の各2次電子が2次元センサのそれぞれ対応する領域に衝突して、電子を発生し、2次電子画像データを画素毎に生成する。言い換えれば、マルチ検出器222には、マルチ1次電子ビーム20の1次電子ビーム毎に、検出センサが配置される。そして、各1次電子ビームの照射によって放出された対応する2次電子ビームを検出する。よって、マルチ検出器222の複数の検出センサの各検出センサは、それぞれ担当する1次電子ビームの照射に起因する画像用の2次電子ビームの強度信号を検出することになる。マルチ検出器222にて検出された強度信号は、検出回路106に出力される。
【0035】
図3は、実施の形態1における半導体基板に形成される複数のチップ領域の一例を示す図である。
図3において、基板101が半導体基板(ウェハ)である場合、半導体基板(ウェハ)の検査領域330には、複数のチップ(ウェハダイ)332が2次元のアレイ状に形成されている。各チップ332には、露光用マスク基板に形成された1チップ分のマスクパターンが図示しない露光装置(ステッパ、スキャナ等)によって例えば1/4に縮小されて転写されている。各チップ332の領域は、例えばy方向に向かって所定の幅で複数のストライプ領域32に分割される。画像取得機構150によるスキャン動作は、例えば、ストライプ領域32毎に実施される。例えば、-x方向にステージ105を移動させながら、相対的にx方向にストライプ領域32のスキャン動作を進めていく。各ストライプ領域32は、長手方向に向かって複数の矩形領域33に分割される。対象となる矩形領域33へのビームの移動は、主偏向器208によるマルチ1次電子ビーム20全体での一括偏向によって行われる。
【0036】
図4は、実施の形態1におけるマルチビームのスキャン動作を説明するための図である。
図4の例では、5×5列のマルチ1次電子ビーム20の場合を示している。1回のマルチ1次電子ビーム20の照射で照射可能な照射領域34は、(基板101面上におけるマルチ1次電子ビーム20のx方向のビーム間ピッチにx方向のビーム数を乗じたx方向サイズ)×(基板101面上におけるマルチ1次電子ビーム20のy方向のビーム間ピッチにy方向のビーム数を乗じたy方向サイズ)で定義される。各ストライプ領域32の幅は、照射領域34のy方向サイズと同様、或いはスキャンマージン分狭くしたサイズに設定すると好適である。
図4の例では、照射領域34が矩形領域33と同じサイズの場合を示している。但し、これに限るものではない。照射領域34が矩形領域33よりも小さくても良い。或いは大きくても構わない。そして、マルチ1次電子ビーム20の各ビームは、自身のビームが位置するx方向のビーム間ピッチとy方向のビーム間ピッチとで囲まれるサブ照射領域29内に照射され、当該サブ照射領域29内を走査(スキャン動作)する。マルチ1次電子ビーム20を構成する各1次電子ビーム10は、互いに異なるいずれかのサブ照射領域29を担当することになる。そして、各ショット時に、各1次電子ビーム10は、担当サブ照射領域29内の同じ位置を照射することになる。サブ照射領域29内の1次電子ビーム10の移動は、副偏向器209によるマルチ1次電子ビーム20全体での一括偏向によって行われる。かかる動作を繰り返し、1つの1次電子ビーム10で1つのサブ照射領域29内を順に照射していく。そして、1つのサブ照射領域29のスキャンが終了したら、主偏向器208によるマルチ1次電子ビーム20全体での一括偏向によって照射位置が同じストライプ領域32内の隣接する矩形領域33へと移動する。かかる動作を繰り返し、ストライプ領域32内を順に照射していく。1つのストライプ領域32のスキャンが終了したら、ステージ105の移動或いは/及び主偏向器208によるマルチ1次電子ビーム20全体での一括偏向によって照射位置が次のストライプ領域32へと移動する。以上のように各1次電子ビーム10の照射によってサブ照射領域29毎の2次電子画像が取得される。これらのサブ照射領域29毎の2次電子画像を組み合わせることで、矩形領域33の2次電子画像、ストライプ領域32の2次電子画像、或いはチップ332の2次電子画像が構成される。
【0037】
なお、
図4に示すように、各サブ照射領域29が矩形の複数のフレーム領域30に分割され、フレーム領域30単位の2次電子画像(被検査画像)が検査に使用される。
図4の例では、1つのサブ照射領域29が、例えば4つのフレーム領域30に分割される場合を示している。但し、分割される数は4つに限るものではない。その他の数に分割されても構わない。
【0038】
なお、例えばx方向に並ぶ複数のチップ332を同じグループとして、グループ毎に例えばy方向に向かって所定の幅で複数のストライプ領域32に分割されるようにしても好適である。そして、ストライプ領域32間の移動は、チップ332毎に限るものではなく、グループ毎に行っても好適である。
【0039】
ここで、ステージ105が連続移動しながらマルチ1次電子ビーム20を基板101に照射する場合、マルチ1次電子ビーム20の照射位置がステージ105の移動に追従するように主偏向器208によって一括偏向によるトラッキング動作が行われる。そのため、マルチ2次電子ビーム300の放出位置がマルチ1次電子ビーム20の軌道中心軸に対して刻々と変化する。同様に、サブ照射領域29内をスキャンする場合に、各2次電子ビームの放出位置は、サブ照射領域29内で刻々と変化する。このように放出位置が変化した各2次電子ビームをマルチ検出器222の対応する検出領域内に照射させるように、偏向器218は、マルチ2次電子ビーム300を一括偏向する。
【0040】
図5は、実施の形態1における検査方法の要部工程を示すフローチャート図である。
図5において、実施の形態1における検査方法は、代表パターンスキャン工程(S102)と、代表パターン設計画像作成工程(S104)と、ビーム毎のフィルタ演算工程(S106)と、各フィルタの角度毎の閾値V1,V2算出工程(S108)と、各フィルタのV1,V2テーブル作成工程(S110)と、スキャン工程(S202)と、参照画像作成工程(S204)と、フィルタ特定工程(S206)と、角度判定工程(S208)と、閾値V1,V2抽出工程(S210)と。畳み込み演算工程(S220)と。重なり判定工程(S222)と、補正工程(S224)と、輪郭線抽出工程(S230)と、比較工程(S232)と、いう一連の工程を実施する。
【0041】
図6は、実施の形態1における試料面上でのビーム形状の一例を示す図である。
図6の例では、3×3のマルチ1次電子ビーム20を示している。マルチ1次電子ビーム20の各ビームは、理想的には、円形に照射される。しかし、電磁レンズ202、電磁レンズ205、電磁レンズ206、及び/或いは電磁レンズ207といった電子光学系を使用することで、
図6に示すように、非点収差が生じてしまう場合がある。そのため、
図6に示すように、基板101(試料)面上においてx,y方向の2次方向に焦点位置がずれ、ビーム形状が非回転対称のいわゆる楕円状になる電子ビームの強度分布をもつ。そのため、各1次電子ビームの楕円形状のボケが、照射されるビームに生じてしまう。このためにかかる1次電子ビームによって得られる2次電子画像においても楕円形状のボケに応じたコーナ形状になる。なお、マルチ1次電子ビーム20に生じる非点の向き及び位置ずれ量は、マルチ1次電子ビーム20の中心から放射状に延びるように楕円状になる傾向があるが、ビーム毎に異なってしまう。そのため、各ビームで得られる測定画像のコーナ部の形状に参照画像のコーナ部の形状を合わせるためには、各ビームの基板101上でのビーム強度分布に応じたコーナ補正を行うことが求められる。そこで、実施の形態1では、ビーム毎に、当該ビームの強度分布に応じたフィルタ関数を演算する。
【0042】
代表パターンスキャン工程(S102)として、画像取得機構150は、代表パターンの2次電子画像を取得する。代表パターンは、予め設定されたパターンを評価基板上に形成しておいても良いし、検査対象の基板101の代表領域に形成されるパターンを代表パターンとして流用しても構わない。
【0043】
まず、基板101の代表領域を含むストライプ領域32をスキャン可能な位置にステージ105を移動させる。或いは、或いは評価基板をステージ105に配置して、代表パターンが形成された領域を含むストライプ領域32をスキャン可能な位置にステージ105を移動させる。画像取得機構150は、代表パターンが形成された基板101(或いは評価基板)の代表領域(代表パターン領域)を含むストライプ領域32の画像を取得する。ここでは、例えば、基板101の代表領域を含むストライプ領域32にマルチ1次電子ビーム20を照射して、マルチ1次電子ビーム20の照射に起因して基板101から放出されるマルチ2次電子ビーム300を検出することにより、代表領域を含むストライプ領域32の2次電子画像を取得する。上述したように、マルチ検出器222には、反射電子及び2次電子が投影されても良いし、反射電子は途中で発散してしまい残った2次電子(マルチ2次電子ビーム300)が投影されても良い。
【0044】
上述したように、マルチ1次電子ビーム20の照射に起因して基板101から放出されるマルチ2次電子ビーム300は、マルチ検出器222で検出される。マルチ検出器222によって検出された各サブ照射領域29内の画素毎の2次電子の検出データ(測定画像データ:2次電子画像データ:被検査画像データ)は、測定順に検出回路106に出力される。検出回路106内では、図示しないA/D変換器によって、アナログの検出データがデジタルデータに変換され、チップパターンメモリ123に格納される。そして、得られた測定画像データは、位置回路107からの各位置を示す情報と共に、フィルタ演算回路134に転送される。測定画像データは、フィルタ演算回路134内の図示しない記憶装置に格納される。これにより、1次電子ビーム10毎の測定画像データが得られる。
図4の例では、1次電子ビーム10毎に4つ(=2×2)のフレーム領域30のフレーム画像31が得られる。ここでは、1次電子ビーム毎に2×2のフレーム領域30のうち1つのフレーム領域30のフレーム画像31を選択すればよい。1次電子ビーム10毎の代表パターンは、同じパターンであっても良いし、それぞれ或いは一部の1次電子ビーム10で異なるパターンであっても構わない。
【0045】
代表パターン設計画像作成工程(S104)として、まず、展開回路111(設計画像作成部の一例)は、基板101(或いは評価基板)の代表パターン形成の基となる設計パターンデータに基づいて、1次電子ビーム10毎に、得られたフレーム画像31に対応するフレーム領域の設計パターンデータを画像展開して代表パターンの設計画像(代表設計画像)を作成する。具体的には、磁気ディスク装置109から制御計算機110を通して設計パターンデータを読み出し、読み出された設計パターンデータに定義された対応するフレーム領域の各図形パターンを2値ないしは多値のイメージデータに変換(画像展開)して基準設計画像を作成する。
【0046】
ここで、設計パターンデータに定義される図形は、例えば長方形や三角形を基本図形としたもので、例えば、図形の基準位置における座標(x、y)、及び辺の長さ、長方形や三角形等の図形種を区別する識別子となる図形コードといった情報で各パターン図形の形、大きさ、位置等を定義した図形データ(ベクトルデータ)が格納されている。
【0047】
かかる図形データとなる設計パターンの情報が展開回路111に入力されると図形ごとのデータにまで展開し、その図形データの図形形状を示す図形コード、図形寸法などを解釈する。そして、所定の量子化寸法のグリッドを単位とするマス目内に配置されるパターンとして2値ないしは多値の設計画像データを展開し、出力する。言い換えれば、設計データを読み込み、検査領域を所定の寸法を単位とするマス目として仮想分割してできたマス目毎に設計パターンにおける図形が占める占有率を演算し、nビットの占有率データを出力する。例えば、1つのマス目を1画素として設定すると好適である。そして、1画素に1/28(=1/256)の分解能を持たせるとすると、画素内に配置されている図形の領域分だけ1/256の小領域を割り付けて画素内の占有率を演算する。そして、画素毎に8ビットの占有率データの代表設計画像を作成する。代表設計画像のデータはフィルタ演算回路134に出力される。1次電子ビーム10毎の基準設計画像のデータは、フィルタ演算回路134内の図示しない記憶装置に格納される。
【0048】
ビーム毎のフィルタ演算工程(S106)として、フィルタ演算回路134は、マルチ1次電子ビーム10の1次電子ビーム10毎に、当該1次電子ビーム用の代表パターンの測定画像と代表設計画像とに基づいて、代表設計画像をフィルタ処理するためのフィルタ関数或いはフィルタ関数の係数を演算する。
【0049】
図7は、実施の形態1におけるフィルタ関数を演算する手法の一例を説明するための図である。例えば、
図7(a)に示すように、フレーム領域30の画素数よりも少ない(2k+1)×(2k+1)個の要素で構成される未知の係数行列a(u,v)(係数の一例)を求める。例えば、512×512画素で構成されるフレーム領域30の画像に対して、15×15の係数行列a(u,v)を求める。代表設計画像の注目画素d(i,j)を中心にして、(2k+1)×(2k+1)画素の画素と係数行列a(u,v)との積の和が注目画素d(i,j)に対応する測定画像の注目画素r(i,j)により近づく係数行列a(u,v)を求める。かかる関係式(1)を以下に示す。
【0050】
【0051】
図7(b)に示すように、注目画素を代表設計画像31の領域内で移動させながら、その都度、関係式(1)を演算する。そして、基準設計画像31内のすべての画素についてそれぞれ得られた、未知の係数行列a(u,v)を用いて定義された関係式(1)を最も満足させる係数行列a(u,v)を求める。係数行列a(u,v)の要素数(2k+1)×(2k+1)は、適宜設定すればよい。少ないと精度が劣化し、多すぎると演算時間が長くなる。また、注目画素が代表設計画像31の領域内を移動する際、端部に近いと端部側の周囲の画素が必要分存在しない場合もあるが、かかる場合には値が得られる周囲画素で演算すればよい。
【0052】
また、フィルタ演算回路134は、演算された各フィルタ関数について、それぞれ(2k+1)×(2k+1)画素の中心画素と当該フィルタ関数の重心とがずれている場合、中心画素とフィルタ関数の重心とが一致するように、例えば平行移動等によりフィルタ関数を補正する。
【0053】
以上により、1次電子ビーム10毎に、当該1次電子ビームの強度分布に依存するフィルタ関数(画像処理フィルタ)を取得できる。取得された1次電子ビーム10毎のフィルタ関数のデータは、テーブル作成回路136に出力される。
【0054】
図8は、実施の形態1におけるテーブル作成回路の内部構成の一例を示す図である。
図8において、テーブル作成回路136内には、磁気ディスク装置等の記憶装置70,71,79、角度設定部72、V1算出部74、V2算出部76、及びテーブル作成部78が配置される。角度設定部72、V1算出部74、V2算出部76、及びテーブル作成部78といった各「~部」は、処理回路を含み、この処理回路には、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置等が含まれる。また、各「~部」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いてもよい。或いは、異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。判角度設定部72、V1算出部74、V2算出部76、及びテーブル作成部78内に必要な入力データ或いは演算された結果はその都度図示しないメモリ、或いはメモリ118に記憶される。
【0055】
テーブル作成回路136内に入力された1次電子ビーム10毎のフィルタ関数のデータは、記憶装置70に格納される。また、記憶装置71には、フィルタ関数のサイズ(k×k画素)よりも大きいサイズの辺を持った、例えば、矩形パターンの画像データが格納される。
【0056】
各フィルタの角度毎の閾値V1,V2算出工程(S108)として、テーブル作成回路136は、1次電子ビーム10毎に、当該1次電子ビーム10用のフィルタ関数と画像内の図形パターンのエッジとの相対角度毎の重なり関係を指標する閾値V1,V2を算出する。閾値V1,V2は、フィルタ関数と画像内の図形パターンとの重なり関係に応じて定まる値となる。
【0057】
図9は、実施の形態1におけるフィルタ関数と図形パターンエッジとの重なり関係の一例を示す図である。
図9(a)の例では、所定の1次電子ビームの強度分布に依存した、例えばy方向に長径が形成される楕円形状の領域の画素にゼロ以外の値(例えば、1)が、その他の領域の画素にゼロが定義される、例えば11×11画素のフィルタ関数12を示している。
図9(a)の例では、x方向に延びるエッジ(辺)を持つ矩形パターン16のエッジを跨いで、かかるフィルタ関数12の一部が矩形パターン16と重なる場合を示している。
【0058】
図9(b)では、フィルタ関数12が矩形パターン16のx方向に延びる2本のエッジのうち上側(y方向側)のエッジを跨いで重なる場合であって、フィルタ関数12の中心画素14が矩形パターン16の外部側から接する位置でのフィルタ関数12と矩形パターン16との重なり関係を示している。言い換えれば、フィルタ関数12のx方向に全体とy方向に約半分のサイズの領域が矩形パターン16と重なる場合であって、フィルタ関数12の中心画素14が矩形パターン16に含まれない範囲でエッジと中心画素14とが接する位置での重なり関係を示している。この位置でフィルタ関数12を矩形パターン16が配置される画像に畳み込むフィルタ処理を行ったフィルタ後の中心画素14の階調値を閾値V1とする。言い換えれば、閾値V1は、
図9(b)に示す中心画素14が矩形パターン16に含まれず、エッジと中心画素14とが接する重なり位置関係での矩形パターン16と重なった楕円形状の領域の各画素の要素値に矩形パターンの対応画素の階調値を乗じた値の合計値を示す。例えば、画像を0~255までの256階調で定義し、矩形パターン16内の画素の階調値を255、矩形パターン16外の画素の階調値をゼロとする。また、フィルタ関数12の楕円形状の領域の画素の要素値を例えば1とし、その他の画素の要素値をゼロとする。かかる場合、この位置でフィルタ関数12を畳み込むと、注目画素となる中心画素14のフィルタ後の階調値は、矩形パターン16と重なった楕円形状の領域の画素数×階調値(ここでは、例えば255)の値となる。
図9(b)の例では、閾値V1=20画素×255となる。
【0059】
図9(c)では、フィルタ関数12が矩形パターン16のx方向に延びる2本のエッジのうち上側(y方向側)のエッジを跨いで重なる場合であって、フィルタ関数12の中心画素14が矩形パターン16の内部側から接する位置でのフィルタ関数12と矩形パターン16との重なり関係を示している。言い換えれば、フィルタ関数12のx方向に全体とy方向に約半分のサイズの領域が矩形パターン16と重なる場合であって、フィルタ関数12の中心画素14が矩形パターン16内に含まれる範囲でエッジと中心画素14とが接する位置での重なり関係を示している。この位置でフィルタ関数12を矩形パターン16が配置される画像に畳み込むフィルタ処理を行ったフィルタ後の中心画素14の階調値を閾値V2とする。言い換えれば、閾値V2は、
図9(c)に示す中心画素14が矩形パターン16に含まれ、エッジと中心画素14とが接する重なり位置関係での矩形パターン16と重なった楕円形状の領域の各画素の要素値に矩形パターンの対応画素の階調値を乗じた値の合計値を示す。かかる場合、この位置でフィルタ関数12を畳み込むと、注目画素となる中心画素14のフィルタ後の階調値は、矩形パターン16と重なった楕円形状の領域の画素数×階調値(ここでは、例えば255)の値となる。
図9(c)の例では、閾値V2=27画素×255となる。
【0060】
図9(a)の例では、x軸に対して角度0°のエッジを持つパターンが配置される画像に対して、かかるエッジを跨いでフィルタ関数12の一部がパターンと重なる場合を示しているが、パターンのエッジの角度はこれに限るものではない。
【0061】
図10は、実施の形態1におけるフィルタ関数と図形パターンエッジとの重なり関係の他の一例を示す図である。
図10(a)の例では、
図9(a)に示したフィルタ関数12がx軸に対して角度θ1の方向に延びるエッジを持つ矩形パターン16と重なる場合を示している。矩形パターン16が斜めに配置される場合、フィルタ関数12全体のうち矩形パターン16と重なる領域が
図9(a)の場合とは異なる。よって、閾値V1,V2は、角度依存性を持つ。言い換えれば、フィルタ関数と図形パターンのエッジとの相対角度に依存して、閾値V1,V2が変化する。そこで、実施の形態1では、見かけ上、矩形パターン16のエッジの延びる方向がx軸になるように、フィルタ関数12と矩形パターン16とを、矩形パターン16の配置角度の方向とは逆方向に角度θ1だけ回転させた状態を想定する。この角度において、上述した閾値V1,V2を演算する。
【0062】
図10(b)では、右回りに角度θ1だけ回転させたフィルタ関数12の中心画素14が矩形パターン16のx方向に延びる2本のエッジのうち上側(y方向側)のエッジと矩形パターン16の外部側から接する位置でのフィルタ関数12と矩形パターン16との重なり関係を示している。言い換えれば、フィルタ関数12のx方向に全体とy方向に約半分のサイズの領域が矩形パターン16と重なる場合であって、フィルタ関数12の中心画素14が矩形パターン16に含まれず、エッジと中心画素14とが接する重なり位置関係を示している。この位置でフィルタ関数12を畳み込むと、注目画素となる中心画素14のフィルタ後の階調値は、矩形パターン16と重なった楕円形状の領域の画素数×255の値となる。
図10(b)の例では、閾値V1=21画素×255となる。
【0063】
図10(c)では、右回りに角度θ1だけ回転させたフィルタ関数12の中心画素14が矩形パターン16のx方向に延びる2本のエッジのうち上側(y方向側)のエッジと矩形パターン16の内部側から接する位置でのフィルタ関数12と矩形パターン16との重なり関係を示している。言い換えれば、フィルタ関数12のx方向に全体とy方向に約半分のサイズの領域が矩形パターン16と重なる場合であって、フィルタ関数12の中心画素14が矩形パターン16内に含まれ、エッジと中心画素14とが接する重なり位置関係を示している。この位置でフィルタ関数12を畳み込むと、注目画素となる中心画素14のフィルタ後の階調値は、矩形パターン16と重なった楕円形状の領域の画素数×255の値となる。
図10(c)の例では、閾値V2=28画素×255となる。
【0064】
以上のように、フィルタ関数12と矩形パターン16との重なり関係の指標となる閾値V1,V2は、画像内での矩形パターンの配置角度に依存する。
【0065】
図11は、実施の形態1における矩形パターンの各エッジとフィルタ関数との重なり関係の一例を示す図である。
図11の例では、x軸に対して角度0°のエッジを持つ矩形パターン13の各エッジとフィルタ関数12とが重なる場合を示している。フィルタ関数12がx方向に延びる上側のエッジを跨ぐ場合、フィルタ関数12の下側の約半分の領域が矩形パターンと重なることになる。この場合、角度θ=0°とする。フィルタ関数12がy方向に延びる左側のエッジを跨ぐ場合、フィルタ関数12の右側の約半分の領域が矩形パターンと重なることになる。この場合、角度θ=90°になる。フィルタ関数12がx方向に延びる下側のエッジを跨ぐ場合、フィルタ関数12の上側の約半分の領域が矩形パターンと重なることになる。この場合、角度θ=180°になる。フィルタ関数12がy方向に延びる右側のエッジを跨ぐ場合、フィルタ関数12の左側の約半分の領域が矩形パターンと重なることになる。この場合、角度θ=275°になる。それぞれの角度θで、閾値V1,V2が異なり得る。そこで、実施の形態1では、フィルタ関数毎に、跨ぐエッジの角度を可変にしながら、角度毎の閾値V1,V2を算出する。以下、具体的に説明する。
【0066】
フィルタ関数毎に、まず、角度設定部72がエッジ角度θを設定する。次に、V1算出部74が、設定された角度θでの閾値V1を算出する。次に、V2算出部76が、設定された角度θでの閾値V2を算出する。以下、角度θを変えながら、その都度、閾値V1,V2を算出する。角度θは、例えば、1°ずつ設定を変更すると好適である。但し、これに限るものではない。例えば、角度の変更幅を5°ずつ、10°ずつ、22.5°ずつ、45°ずつ、或いは90°ずつに設定しても構わない。角度の変更幅が小さい方が高精度に閾値V1,V2を算出できる。
【0067】
各フィルタのV1,V2テーブル作成工程(S110)として、テーブル作成部78は、フィルタ関数毎に、角度毎の閾値V1,V2を定義するV1,V2テーブルを作成する。
【0068】
図12は、実施の形態1におけるV1,V2テーブルの一例を示す図である。
図12の例では、角度を1°ずつ、ずらしながら、0°~359°の各角度での閾値V1,V2を定義するV1,V2テーブルの一例を示している。作成されたV1,V2テーブルは、記憶装置79に格納される。
【0069】
検査処理に先立ち、以上の各工程を前処理として実施した上で、実際の被検査基板の検査処理を開始する。
【0070】
スキャン工程(S202)として、画像取得機構150は、図形パターンが形成された基板101上を電子ビームで走査することにより電子光学画像(2次電子画像)を取得する。ここでは、複数の図形パターンが形成された基板101にマルチ1次電子ビーム20を照射して、マルチ1次電子ビーム20の照射に起因して基板101から放出されるマルチ2次電子ビーム300を検出することにより、基板101の2次電子画像を取得する。上述したように、マルチ検出器222には、反射電子及び2次電子が投影されても良いし、反射電子は途中で発散してしまい残った2次電子(マルチ2次電子ビーム300)が投影されても良い。
【0071】
上述したように、マルチ1次電子ビーム20の照射に起因して基板101から放出されるマルチ2次電子ビーム300は、マルチ検出器222で検出される。マルチ検出器222によって検出された各サブ照射領域29内の画素毎の2次電子の検出データ(測定画像データ:2次電子画像データ:被検査画像データ:電子光学画像データ)は、測定順に検出回路106に出力される。検出回路106内では、図示しないA/D変換器によって、アナログの検出データがデジタルデータに変換され、チップパターンメモリ123に格納される。そして、得られた測定画像データは、位置回路107からの各位置を示す情報と共に、比較回路108に転送される。
【0072】
参照画像作成工程(S204)として、図形パターンの元になる設計データから作成され、電子光学画像に対応する参照画像を作成する。具体的に説明する。まず、展開回路111(参照画像作成部の一部)は、記憶装置109から制御計算機110を通して設計パターンデータを読み出し、読み出された設計パターンデータに定義された各図形パターンを2値ないしは多値のイメージデータに変換する。展開回路111は、スキャン工程で取得される測定画像の取得順序に合わせて、対応するフレーム領域30の設計画像を作成すると好適である。
【0073】
上述したように、設計パターンデータに定義される図形は、例えば長方形や三角形を基本図形としたもので、例えば、図形の基準位置における座標(x、y)、辺の長さ、長方形や三角形等の図形種を区別する識別子となる図形コードといった情報で各パターン図形の形、大きさ、位置等を定義した図形データが格納されている。
【0074】
かかる図形データとなる設計パターンデータが展開回路111に入力されると図形毎のデータにまで展開し、その図形データの図形形状を示す図形コード、図形寸法などを解釈する。そして、所定の量子化寸法のグリッドを単位とするマス目内に配置されるパターンとして2値ないしは多値の設計画像データに展開し、出力する。言い換えれば、設計データを読み込み、検査領域を所定の寸法を単位とするマス目として仮想分割してできたマス目毎に設計パターンにおける図形が占める占有率を演算し、nビットの占有率データを出力する。例えば、1つのマス目を1画素として設定すると好適である。そして、1画素に1/28(=1/256)の分解能を持たせるとすると、画素内に配置されている図形の領域分だけ1/256の小領域を割り付けて画素内の占有率を演算する。そして、8ビットの占有率データとして作成する。かかるマス目(検査画素)は、測定データの画素に合わせればよい。
【0075】
次に、参照画像作成回路112(参照画像作成部の他の一部)は、複数の電子光学画像の電子光学画像毎に対象の電子光学画像に対応する設計画像に所定の画像処理フィルタを用いてフィルタ処理を行うことで、対象の電子光学画像に対応する参照画像を作成する。これにより、画像強度(濃淡値)がデジタル値の設計側のイメージデータである設計画像データをマルチ1次電子ビーム20の照射によって得られる像生成特性に合わせることができる。作成された参照画像の画像データは補正回路132に出力される。
【0076】
ここで参照画像の作成に適用される画像処理フィルタは、1次電子ビーム10毎の強度分布に依存している訳ではない。例えば、中心ビームのビーム特性に合わせて作成される。そのため、このままでは、SEM画像の取得に使用した、それぞれ個別に非回転対象のビーム強度分布を持ったビームの特性に合わせた参照画像にはなっていない。そのため、参照画像は、SEM画像が有する非回転対象のボケに応じたコーナ形状になっていない。そこで、電子光学画像を取得したビームの特性に合わせて参照画像を個別に補正する。その際、エッジ形状は変更しないように工夫する。以下、具体的に説明する。
【0077】
図13は、実施の形態1における補正回路の内部構成の一例を示す図である。
図13において、補正回路132内には、磁気ディスク装置等の記憶装置60,61,69、フィルタ特定部62、角度判定部64、V1,V2抽出部65、畳み込み演算部66、重なり判定部67、及び補正処理部68が配置される。フィルタ特定部62、角度判定部64、V1,V2抽出部65、畳み込み演算部66、重なり判定部67、及び補正処理部68といった各「~部」は、処理回路を含み、この処理回路には、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置等が含まれる。また、各「~部」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いてもよい。或いは、異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。フィルタ特定部62、角度判定部64、V1,V2抽出部65、畳み込み演算部66、重なり判定部67、及び補正処理部68内に必要な入力データ或いは演算された結果はその都度図示しないメモリ、或いはメモリ118に記憶される。
【0078】
フィルタ特定工程(S206)として、フィルタ特定部62は、フレーム領域30毎に、当該フレーム領域の電子光学画像を取得する1次電子ビーム10を特定すると共に、かかる1次電子ビーム10用のフィルタ関数を特定する。
【0079】
角度判定工程(S208)として、フレーム領域30毎に、当該フレーム領域内に配置される図形パターンの各エッジをフィルタ関数が跨ぐ場合のエッジ角度を判定する。例えば、x軸に沿って延びる2つのエッジを持つ矩形パターンであれば、上側のエッジは角度θ=0°になり、下側のエッジは角度θ=180°になる。
【0080】
閾値V1,V2抽出工程(S210)として、V1,V2抽出部65は、V1,V2テーブルを参照して、図形パターンのエッジ毎に、特定されたフィルタ関数の当該エッジ角度θに応じた閾値V1,V2を抽出する。
【0081】
畳み込み演算工程(S220)として、畳み込み演算部66は、フレーム領域30毎に、当該フレーム領域の参照画像に対して、対象画素を移動しながら、特定されたフィルタ関数(画像処理フィルタ)を畳み込むフィルタ処理を行う。
【0082】
重なり判定工程(S222)として、重なり判定部67(コーナ判定部)は、フレーム領域30毎に、当該フレーム領域の参照画像に対して、対象画素を移動しながら、特定されたフィルタ関数を畳み込むフィルタ処理を行った場合の対象画素に対するフィルタ処理された階調値C0と、特定されたフィルタ関数と図形パターンとの重なり関係とに応じて定まる閾値V1,V2と、を用いて、当該対象画素がコーナ部分に位置するかどうかを判定する。
【0083】
図14は、実施の形態1におけるフィルタ関数と図形パターンの重なり関係を説明するための図である。
図14の例では、パターン有の画素の階調値は255、パターン無しの画素の階調値はゼロとする。また、フィルタ関数12は、
図9(a)に示した例えばy方向に長径が形成される楕円形状の領域の画素にゼロ以外の値(例えば、1)が、その他の領域の画素にゼロが定義される、例えば11×11画素のフィルタ関数12を示している。また、ここでは、跨るエッジ角度はθ=0°とする。よって、例えば、V1=20×255、V2=27×255となる。
【0084】
フィルタ関数12がA部の位置である場合、対象画素(フィルタ関数12の中心画素と同じ位置の画素)は、パターン外に位置し、対象画素のフィルタ後の階調値C0はゼロになる。よって、C0<V1となる。
【0085】
フィルタ関数12がB部の位置である場合、フィルタ関数12の下側の一部(楕円領域は8画素分)がパターンと重なっており、対象画素(フィルタ関数12の中心画素と同じ位置の画素)は、まだパターン外に位置し、対象画素のフィルタ後の階調値C0=8×255になる。よって、まだC0<V1となる。
【0086】
フィルタ関数12がC部の位置である場合、フィルタ関数12の約半分の領域(楕円領域は20画素分)がパターンと重なっており、対象画素(フィルタ関数12の中心画素と同じ位置の画素)は、まだパターン外に位置し、対象画素のフィルタ後の階調値C0=20×255になる。よって、C0=V1となる。
【0087】
一方、C部の位置から1画素ずれて、フィルタ関数12がD部の位置である場合、フィルタ関数12の約半分の領域(楕円領域は27画素分)がパターンと重なっており、対象画素(フィルタ関数12の中心画素と同じ位置の画素)は、パターン内に位置し、対象画素のフィルタ後の階調値C0=27×255になる。よって、C0=V2となる。
【0088】
フィルタ関数12がE部の位置である場合、フィルタ関数12の大半の領域(楕円領域は27画素分)がパターンと重なっており、対象画素(フィルタ関数12の中心画素と同じ位置の画素)は、パターン内に位置し、対象画素のフィルタ後の階調値C0=44×255になる。よって、C0>V2となる。
【0089】
以上のように、対象画素のフィルタ後の階調値C0が、ゼロではなく、C0≦V1或いはC0≧V2の場合には、フィルタ関数12が図形パターンの1つのエッジに跨って図形パターンと重なる位置関係であることがわかる。言い換えれば、対象画素がコーナ部ではないと判定できる。また、階調値C0が、ゼロであれば、そもそもフィルタ関数12と図形パターンが重なっていないと判定できる。
【0090】
これに対して、フィルタ関数12がF部(コーナ部分)の位置である場合、対象画素(フィルタ関数12の中心画素と同じ位置の画素)は、パターン内に位置するものの、パターンと重なるフィルタ関数12の領域が、V1の状態であるC部より多く、V2の状態であるD部より少ない。そのため、対象画素のフィルタ後の階調値C0=21×255になる。よって、V1<C0<V2となる。このように、重なり関係に応じて定まる値として、閾値V2は上限値となり、閾値V1は下限値となる。そこで、重なり判定部67は、対象画素に対するフィルタ処理された階調値C0が上限値と下限値との間である場合に、対象画素がコーナ部分に位置すると判定する。言い換えれば、重なり判定部67は、V1<C0<V2となる対象画素をコーナ部分に位置すると判定する。
【0091】
なお、
図14の例では、F部の位置から+x方向に1画素ずれた位置(コーナ部先端)の画素では、C0<V1となるのでかかる対象画素をコーナ部分に位置すると判定しないものの、F部の位置から-x方向に1画素ずれた位置では、V1<C0<V2となるので、コーナ部分の多くの画素についてはコーナ部分に位置すると判定できる。
【0092】
補正工程(S224)として、補正処理部68は、参照画像に対応する電子光学画像を取得するために用いる1次電子ビーム10の強度分布に依存するフィルタ関数を用いて、参照画像内の図形パターンのエッジ形状を維持し、参照画像内の図形パターンのコーナ(角部)形状を補正する。具体的には、補正処理部68は、参照画像の画素毎に、対象画素がコーナ部分に位置すると判定された場合に対象画素の階調値を補正する。さらに具体的には、C0≦V1となる画素は、階調値をゼロとする。C0≧V2となる画素は、階調値を255とする。そして、V1<C0<V2となる画素は、階調値を(C0-V1)/(V2-V1)と補正する。閾値V1,V2は、1次電子ビームの強度分布に依存して変化する値なので、1次電子ビームの強度分布に依存した階調補正ができる。
【0093】
また、エッジ部分は、C0≦V1或いはC0≧V2となり、エッジ部分のうちC0≦V1となる画素はパターン外に位置するので元々階調値はゼロである。エッジ部分のうちC0≧V2となる画素はパターン内に位置するので元々階調値は255である。よって、図形パターンのエッジ形状は変わらないようにできる。一方、コーナ部分はV1<C0<V2となるので、補正できる。このように、直線部分は階調補正されず、コーナ部分だけが階調補正されるので、コーナ丸め処理として機能する。コーナ丸め処理の補正が施された参照画像のデータは、記憶装置69に格納されると共に、比較回路108に出力される。
【0094】
図15は、実施の形態1における補正前後のパターンの一例を示す図である。
図15(a)では、補正前のパターンを示している。かかるパターンに実施の形態1の補正を実施することで、
図15(b)に示すように直線のエッジ部分の形状を変えずにコーナ丸め処理ができる。
【0095】
図16は、実施の形態1における比較回路の内部構成の一例を示す図である。
図16において、比較回路108内には、磁気ディスク装置等の記憶装置50,52、輪郭線抽出部54,56、及び比較部58が配置される。輪郭線抽出部54,56、及び比較部58といった各「~部」は、処理回路を含み、この処理回路には、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置等が含まれる。また、各「~部」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いてもよい。或いは、異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。輪郭線抽出部54,56、及び比較部58内に必要な入力データ或いは演算された結果はその都度図示しないメモリ、或いはメモリ118に記憶される。
【0096】
比較回路108内に入力されたサブ照射領域29毎の電子光学画像のデータは記憶装置50に格納される。また、比較回路108内に入力された、コーナ丸め処理補正が成された補正参照画像のデータは記憶装置50に格納される。比較回路108では、サブ照射領域29毎の2次電子画像の少なくとも一部で構成される被検査画像と参照画像とを比較する。被検査画像として、例えばフレーム領域30毎の2次電子画像(電子光学画像)を用いる。例えば、サブ照射領域29を4つのフレーム領域30に分割する。フレーム領域30として、例えば、512×512画素の領域を用いる。
【0097】
輪郭線抽出工程(S230)として、輪郭線抽出部54は、フレーム領域30毎の電子光学画像(フレーム画像31)毎に、画像内の図形パターンの輪郭線(実画輪郭線)を抽出する。また、輪郭線抽出部56は、フレーム領域30毎の補正参照画像毎に、画像内の図形パターンの輪郭線(参照輪郭線)を抽出する。輪郭線の抽出手法は、従来と同様で構わない。例えば、画像を微分フィルタでフィルタ処理して輪郭位置を強調させることで抽出すると好適である。
【0098】
比較工程(S232)として、比較部58は、角部形状が補正された補正参照画像と、フレーム画像31とを比較する。
【0099】
図17は、実施の形態1における実画輪郭線と参照輪郭線との一例を示す図である。
図17において、比較部58は、例えば参照輪郭線から実画輪郭線への位置ずれベクトルを算出し、位置ずれベクトルの長さ(輪郭線同士の距離)が判定閾値Thを超えた場合に欠陥と判定する。そして、比較結果が出力される。比較結果は、記憶装置109、モニタ117、若しくはメモリ118に出力される、或いは図示しないプリンタより出力されればよい。
【0100】
以上のように、実施の形態1によれば、パターンのエッジ形状を維持し、測定画像の取得に使用するビームの特性に合わせたコーナ部の補正処理が成された参照画像で比較できる。
【0101】
以上の説明において、一連の「~回路」は、処理回路を含み、その処理回路には、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置等が含まれる。また、各「~回路」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いてもよい。或いは、異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。プロセッサ等を実行させるプログラムは、磁気ディスク装置、磁気テープ装置、FD、或いはROM(リードオンリメモリ)等の記録媒体に記録されればよい。例えば、位置回路107、比較回路108、展開回路111、参照画像作成回路112、ステージ制御回路114、レンズ制御回路124、ブランキング制御回路126、偏向制御回路128、補正回路132、フィルタ演算回路134、及びテーブル作成回路136は、上述した少なくとも1つの処理回路で構成されても良い。
【0102】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
図1の例では、1つの照射源となる電子銃201から照射された1本のビームから成形アパーチャアレイ基板203によりマルチ1次電子ビーム20を形成する場合を示しているが、これに限るものではない。複数の照射源からそれぞれ1次電子ビームを照射することによってマルチ1次電子ビーム20を形成する態様であっても構わない。
【0103】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。
【0104】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての電子ビーム検査装置及び電子ビーム検査方法は、本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0105】
10 1次電子ビーム
12 フィルタ関数
13,16 矩形パターン
14 中心画素
20 マルチ1次電子ビーム
22 穴
29 サブ照射領域
30 フレーム領域
31 フレーム画像
32 ストライプ領域
33 矩形領域
34 照射領域
50,52 記憶装置
54,56 輪郭線抽出部
58 比較部
60,61,69 記憶装置
62 フィルタ特定部
64 角度判定部
65 V1,V2抽出部
66 畳み込み演算部
67 重なり判定部
68 補正処理部
70,71,79 記憶装置
72 角度設定部
74 V1算出部
76 V2算出部
78 テーブル作成部
100 検査装置
101 基板
102 電子ビームカラム
103 検査室
105 ステージ
106 検出回路
107 位置回路
108 比較回路
109 記憶装置
110 制御計算機
112 参照画像作成回路
114 ステージ制御回路
117 モニタ
118 メモリ
120 バス
122 レーザ測長システム
123 チップパターンメモリ
124 レンズ制御回路
126 ブランキング制御回路
128 偏向制御回路
132 補正回路
134 フィルタ演算回路
136 テーブル作成回路
142 駆動機構
144,146,148 DACアンプ
150 画像取得機構
160 制御系回路
201 電子銃
202 電磁レンズ
203 成形アパーチャアレイ基板
205,206,207,224,226 電磁レンズ
208 主偏向器
209 副偏向器
212 一括ブランキング偏向器
213 制限アパーチャ基板
214 ビームセパレーター
216 ミラー
218 偏向器
222 マルチ検出器
300 マルチ2次電子ビーム
330 検査領域
332 チップ