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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】手袋の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 41/14 20060101AFI20240902BHJP
   C08J 7/00 20060101ALI20240902BHJP
   C08K 3/10 20180101ALI20240902BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20240902BHJP
   C08L 13/02 20060101ALI20240902BHJP
   B29K 9/00 20060101ALN20240902BHJP
   B29L 22/00 20060101ALN20240902BHJP
【FI】
B29C41/14
C08J7/00 305
C08J7/00 CEQ
C08K3/10
C08K5/13
C08L13/02
B29K9:00
B29L22:00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020548594
(86)(22)【出願日】2019-09-19
(86)【国際出願番号】 JP2019036750
(87)【国際公開番号】W WO2020066835
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-09-05
【審判番号】
【審判請求日】2023-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2018180167
(32)【優先日】2018-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北川 昌
【合議体】
【審判長】里村 利光
【審判官】西岡 貴央
【審判官】清水 康司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/146238(WO,A1)
【文献】特開平4-341709(JP,A)
【文献】特表2010-528142(JP,A)
【文献】特表2014-524490(JP,A)
【文献】特表2019-507235(JP,A)
【文献】国際公開第2017/146240(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C41/14
A41D19/04
C08K3/10
C08K5/13
C08L13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)のラテックスと、2価以上の金属を含む金属化合物(B)と、ヒンダードフェノール系老化防止剤(C)とを含有するラテックス組成物をディップ成形することで、ディップ成形層を形成する工程と、
前記ディップ成形層に、放射線を照射する工程と、を備える手袋の製造方法であって、
前記ヒンダードフェノール系老化防止剤(C)が、p-クレゾールとジシクロペンタジエンとの縮合物をブチル化してなり、下記一般式(1)で表される化合物であり、
放射線照射後の手袋中に含まれる、前記ヒンダードフェノール系老化防止剤(C)の含有量を5,000重量ppm以上、70,000重量ppm以下とする手袋の製造方法。
【化4】
(式中、nは整数を表す。)
【請求項2】
放射線照射後の手袋の黄色味を示す黄色度(YI)が10以下である請求項1に記載の手袋の製造方法。
【請求項3】
前記ラテックス組成物中における、前記カルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)100重量部に対する、前記ヒンダードフェノール系老化防止剤(C)の含有量を、0.5~8.5重量部の範囲とし、
前記ディップ成形層に対する、放射線の照射を、前記ディップ成形層を形成した後、40日以内に行う請求項1または2に記載の手袋の製造方法。
【請求項4】
前記ディップ成形層を形成する工程が、前記ラテックス組成物をディップ成形した後、加熱処理を施すことで、前記2価以上の金属を含む金属化合物(B)による架橋を行う工程である請求項1~3のいずれかに記載の手袋の製造方法。
【請求項5】
前記カルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)のラテックスが、カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)のラテックスである請求項1~のいずれかに記載の手袋の製造方法。
【請求項6】
前記2価以上の金属を含む金属化合物(B)が、3価以上の金属を含む金属化合物であり、
前記ラテックス組成物が、糖類(d1)、糖アルコール(d2)、ヒドロキシ酸(d3)およびヒドロキシ酸塩(d4)から選択される少なくとも1種のアルコール性水酸基含有化合物(D)をさらに含有する請求項1~のいずれかに記載の手袋の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手袋の製造方法に関し、さらに詳しくは、着色の発生が抑制され、引張強度が高く、伸びが大きく、柔軟な風合いおよび高い応力保持率を備える手袋を製造するための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、天然ゴムのラテックスに代表される天然ラテックスを含有するラテックス組成物をディップ成形して、乳首、風船、手袋、バルーン、サック等の人体と接触して使用されるディップ成形品が知られている。しかしながら、天然ラテックスは、人体にアレルギー症状を引き起こすような蛋白質を含有するため、生体粘膜または臓器と直接接触するディップ成形品、特に手袋としては問題がある場合が多かった。そこで、合成のニトリルゴムのラテックスを用いる検討がされている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、カルボキシル基含有共役ジエン系ゴムのラテックスと、2価以上の金属を含む金属化合物とを含有し、架橋剤としての硫黄および/または含硫黄化合物を実質的に含有しないラテックス組成物をディップ成形することで、ディップ成形層を形成する工程と、前記ディップ成形層に、放射線を照射する工程と、を備える手袋の製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献1によれば、引張強度が高く、伸びが大きく、柔軟な風合いおよび高い応力保持率を備える手袋を製造することができるものの、特許文献1記載の製造方法により得られる手袋は、放射線照射により、着色が発生してしまい、その商品価値が低下してしまうという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2017/146239号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、着色の発生が抑制され、引張強度が高く、伸びが大きく、柔軟な風合いおよび高い応力保持率を備える手袋を製造するための方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、ラテックス組成物をディップ成形することにより得られるディップ成形層に、放射線を照射することにより手袋を製造する際に、ラテックス組成物として、カルボキシル基含有共役ジエン系ゴムのラテックスと、2価以上の金属を含む金属化合物とに加えて、ヒンダードフェノール系老化防止剤を含有するものを用い、かつ、放射線照射後の手袋中に含まれる、ヒンダードフェノール系老化防止剤の含有量を5,000重量ppm以上、70,000重量ppm以下の範囲に制御することにより、得られる手袋における、着色の発生の抑制が可能であり、しかも、得られる手袋を、引張強度が高く、伸びが大きく、柔軟な風合いおよび高い応力保持率を備えるものとすることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、カルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)のラテックスと、2価以上の金属を含む金属化合物(B)と、ヒンダードフェノール系老化防止剤(C)とを含有するラテックス組成物をディップ成形することで、ディップ成形層を形成する工程と、
前記ディップ成形層に、放射線を照射する工程と、を備える手袋の製造方法であって、
放射線照射後の手袋中に含まれる、前記ヒンダードフェノール系老化防止剤(C)の含有量を5,000重量ppm以上、70,000重量ppm以下とする手袋の製造方法が提供される。
【0009】
本発明の手袋の製造方法において、放射線照射後の手袋の黄色味を示す黄色度(YI)が10以下であることが好ましい。
本発明の手袋の製造方法において、前記ラテックス組成物中における、前記カルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)100重量部に対する、前記ヒンダードフェノール系老化防止剤(C)の含有量を、0.5~8.5重量部の範囲とし、前記ディップ成形層に対する、放射線の照射を、前記ディップ成形層を形成した後、40日以内に行うことが好ましい。
本発明の手袋の製造方法において、前記ディップ成形層を形成する工程が、前記ラテックス組成物をディップ成形した後、加熱処理を施すことで、前記2価以上の金属を含む金属化合物(B)による架橋を行う工程であることが好ましい。
本発明の手袋の製造方法において、前記ヒンダードフェノール系老化防止剤(C)が、p-クレゾールとジシクロペンタジエンとの縮合物をブチル化してなる化合物であることが好ましい。
本発明の手袋の製造方法において、前記ヒンダードフェノール系老化防止剤(C)が、下記一般式(1)で表される化合物であることが好ましい。
【化1】
(式中、nは整数を表す。)
本発明の手袋の製造方法において、前記カルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)のラテックスが、カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)のラテックスであることが好ましい。
本発明の手袋の製造方法において、前記2価以上の金属を含む金属化合物(B)が、3価以上の金属を含む金属化合物であり、前記ラテックス組成物が、糖類(d1)、糖アルコール(d2)、ヒドロキシ酸(d3)およびヒドロキシ酸塩(d4)から選択される少なくとも1種のアルコール性水酸基含有化合物(D)をさらに含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、着色の発生が抑制され、引張強度が高く、伸びが大きく、柔軟な風合いおよび高い応力保持率を備える手袋を製造するための方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の手袋の製造方法は、カルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)のラテックスと、2価以上の金属を含む金属化合物(B)と、ヒンダードフェノール系老化防止剤(C)とを含有するラテックス組成物をディップ成形することで、ディップ成形層を形成する工程と、
前記ディップ成形層に、放射線を照射する工程と、を備える手袋の製造方法であって、
放射線照射後の手袋中に含まれる、前記ヒンダードフェノール系老化防止剤(C)の含有量を5,000重量ppm以上、70,000重量ppm以下に制御するものである。
【0012】
<ラテックス組成物>
まず、本発明の製造方法に用いるラテックス組成物について、説明する。
本発明で用いるラテックス組成物は、カルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)のラテックスと、2価以上の金属を含む金属化合物(B)と、ヒンダードフェノール系老化防止剤(C)とを含有するものである。
【0013】
カルボキシル基含有共役ジエンゴム(A)のラテックスとしては、共役ジエン単量体およびエチレン性不飽和カルボン酸単量体を共重合して得られる共重合体のラテックスであればよいが、カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)、カルボキシル基含有スチレン-ブタジエンゴム(a2)およびカルボキシル基含有ブタジエンゴム(a3)から選択される少なくとも1種のゴムのラテックスであることが好ましい。
【0014】
カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)のラテックスは、共役ジエン単量体およびエチレン性不飽和カルボン酸単量体に加えて、エチレン性不飽和ニトリル単量体を共重合してなる共重合体のラテックスであり、これらに加えて、必要に応じて用いられる、これらと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体を共重合してなる共重合体のラテックスであってもよい。
【0015】
共役ジエン単量体としては、たとえば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-エチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンおよびクロロプレンなどが挙げられる。これらのなかでも、1,3-ブタジエンが好ましい。これらの共役ジエン単量体は、単独で、または2種以上を組合せて用いることができる。カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)中における、共役ジエン単量体により形成される共役ジエン単量体単位の含有割合は、好ましくは56~78重量%であり、より好ましくは56~73重量%、さらに好ましくは56~70重量%である。共役ジエン単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、本発明の製造方法により得られる手袋を、引張強度を十分なものとしながら、風合いにより優れ、伸びがより増大されたものとすることができる。
【0016】
また、共役ジエン単量体由来の単量体単位のなかでも、イソプレン由来の単量体単位は、後述する放射線照射により軟化劣化を生じるおそれがあるため、カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)中における、イソプレン由来の単量体単位の含有割合は、5重量%以下とすることが好ましく、2.5重量%以下とすることがより好ましく、1重量%以下とすることがさらに好ましく、イソプレン由来の単量体単位を実質的に含有しないことが特に好ましい。なお、後述するカルボキシル基含有スチレン-ブタジエンゴム(a2)のラテックス、カルボキシル基含有ブタジエンゴム(a3)のラテックス、さらには、これら以外のカルボキシル基含有共役ジエンゴム(A)のラテックスにおいても、同様の理由より、これらカルボキシル基含有共役ジエンゴム中における、イソプレン由来の単量体単位の含有割合は、好ましくは5重量%以下、より好ましくは2.5重量%以下、さらに好ましくは1重量%以下であり、イソプレン由来の単量体単位を実質的に含有しないことが特に好ましい。
【0017】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、カルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体であれば特に限定されないが、たとえば、アクリル酸、メタクリル酸などのエチレン性不飽和モノカルボン酸単量体;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のエチレン性不飽和多価カルボン酸単量体;無水マレイン酸、無水シトラコン酸等のエチレン性不飽和多価カルボン酸無水物;フマル酸モノブチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸モノ-2-ヒドロキシプロピル等のエチレン性不飽和多価カルボン酸部分エステル単量体;などが挙げられる。これらのなかでも、エチレン性不飽和モノカルボン酸が好ましく、メタクリル酸が特に好ましい。これらのエチレン性不飽和カルボン酸単量体はアルカリ金属塩またはアンモニウム塩として用いることもできる。また、エチレン性不飽和カルボン酸単量体は単独で、または2種以上を組合せて用いることができる。カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)中における、エチレン性不飽和カルボン酸単量体により形成されるエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有割合は、好ましくは2~6.5重量%であり、より好ましくは2~6重量%、さらに好ましくは2~5重量%、さらにより好ましくは2~4.5重量%、特に好ましくは2.5~4.5重量%である。エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、本発明の製造方法により得られる手袋を、引張強度を十分なものとしながら、風合いにより優れ、伸びがより増大されたものとすることができる。
【0018】
エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、ニトリル基を含有するエチレン性不飽和単量体であれば特に限定されないが、たとえば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、フマロニトリル、α-クロロアクリロニトリル、α-シアノエチルアクリロニトリルなどが挙げられる。なかでも、アクリロニトリルおよびメタクリロニトリルが好ましく、アクリロニトリルがより好ましい。これらのエチレン性不飽和ニトリル単量体は、単独で、または2種以上を組合せて用いることができる。カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)中における、エチレン性不飽和ニトリル単量体により形成されるエチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有割合は、好ましくは20~40重量%であり、より好ましくは25~40重量%、さらに好ましくは30~40重量%である。エチレン性不飽和ニトリル単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、本発明の製造方法により得られる手袋を、引張強度を十分なものとしながら、風合いにより優れ、伸びがより増大されたものとすることができる。
【0019】
共役ジエン単量体、エチレン性不飽和カルボン酸単量体およびエチレン性不飽和ニトリル単量体と共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体としては、たとえば、スチレン、アルキルスチレン、ビニルナフタレン等のビニル芳香族単量体;フルオロエチルビニルエーテル等のフルオロアルキルビニルエーテル;(メタ)アクリルアミド、N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチロール(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-プロポキシメチル(メタ)アクリルアミド等のエチレン性不飽和アミド単量体;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸テトラフルオロプロピル、マレイン酸ジブチル、フマル酸ジブチル、マレイン酸ジエチル、(メタ)アクリル酸メトキシメチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸メトキシエトキシエチル、(メタ)アクリル酸シアノメチル、(メタ)アクリル酸-2-シアノエチル、(メタ)アクリル酸-1-シアノプロピル、(メタ)アクリル酸-2-エチル-6-シアノヘキシル、(メタ)アクリル酸-3-シアノプロピル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、グリシジル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート等のエチレン性不飽和カルボン酸エステル単量体;ジビニルベンゼン、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトール(メタ)アクリレート等の架橋性単量体;などを挙げることができる。これらのエチレン性不飽和単量体は単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0020】
カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)中における、その他のエチレン性不飽和単量体により形成されるその他の単量体単位の含有割合は、好ましくは10重量%以下であり、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは3重量%以下である。
【0021】
カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)のラテックスは、上述した単量体を含有してなる単量体混合物を共重合することにより得られるが、乳化重合により共重合する方法が好ましい。乳化重合方法としては、従来公知の方法を採用することができる。
【0022】
上述した単量体を含有してなる単量体混合物を乳化重合する際には、通常用いられる、乳化剤、重合開始剤、分子量調整剤等の重合副資材を使用することができる。これら重合副資材の添加方法は特に限定されず、初期一括添加法、分割添加法、連続添加法などいずれの方法でもよい。
【0023】
乳化剤としては、特に限定されないが、たとえば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェノールエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエステル、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル等の非イオン性乳化剤;ドデシルベンゼンスルホン酸カリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルベンゼンスルホン酸塩、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルスルホコハク酸塩等のアニオン性乳化剤;アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ジアルキルアンモニウムクロライド、ベンジルアンモニウムクロライド等のカチオン性乳化剤;α,β-不飽和カルボン酸のスルホエステル、α,β-不飽和カルボン酸のサルフェートエステル、スルホアルキルアリールエーテル等の共重合性乳化剤などを挙げることができる。なかでも、アニオン性乳化剤が好ましく、アルキルベンゼンスルホン酸塩がより好ましく、ドデシルベンゼンスルホン酸カリウムおよびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが特に好ましい。これらの乳化剤は、単独で、または2種以上を組合せて用いることができる。乳化剤の使用量は、単量体混合物100重量部に対して、好ましくは0.1~10重量部である。
【0024】
重合開始剤としては、特に限定されないが、たとえば、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過リン酸カリウム、過酸化水素等の無機過酸化物;ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3-テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、ジ-α-クミルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等の有機過酸化物;アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等のアゾ化合物;などを挙げることができる。これらの重合開始剤は、それぞれ単独で、または2種類以上を組み合わせて使用することができる。重合開始剤の使用量は、単量体混合物100重量部に対して、好ましくは0.01~10重量部、より好ましくは0.01~2重量部である。
【0025】
また、過酸化物開始剤は還元剤との組み合わせで、レドックス系重合開始剤として使用することができる。この還元剤としては、特に限定されないが、硫酸第一鉄、ナフテン酸第一銅等の還元状態にある金属イオンを含有する化合物;メタンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸化合物;ジメチルアニリン等のアミン化合物;などが挙げられる。これらの還元剤は単独で、または2種以上を組合せて用いることができる。還元剤の使用量は、過酸化物100重量部に対して3~1000重量部であることが好ましい。
【0026】
乳化重合する際に使用する水の量は、使用する全単量体100重量部に対して、80~600重量部が好ましく、100~200重量部が特に好ましい。
【0027】
単量体の添加方法としては、たとえば、反応容器に使用する単量体を一括して添加する方法、重合の進行に従って連続的または断続的に添加する方法、単量体の一部を添加して特定の転化率まで反応させ、その後、残りの単量体を連続的または断続的に添加して重合する方法等が挙げられ、いずれの方法を採用してもよい。単量体を混合して連続的または断続的に添加する場合、混合物の組成は、一定としても、あるいは変化させてもよい。また、各単量体は、使用する各種単量体を予め混合してから反応容器に添加しても、あるいは別々に反応容器に添加してもよい。
【0028】
さらに、必要に応じて、キレート剤、分散剤、pH調整剤、脱酸素剤、粒子径調整剤等の重合副資材を用いることができ、これらは種類、使用量とも特に限定されない。
【0029】
乳化重合を行う際の重合温度は、特に限定されないが、通常、3~95℃、好ましくは5~60℃である。重合時間は5~40時間程度である。
【0030】
以上のように単量体混合物を乳化重合し、所定の重合転化率に達した時点で、重合系を冷却したり、重合停止剤を添加したりして、重合反応を停止する。重合反応を停止する際の重合転化率は、好ましくは90重量%以上、より好ましくは93重量%以上である。
【0031】
重合停止剤としては、特に限定されないが、たとえば、ヒドロキシルアミン、ヒドロキシアミン硫酸塩、ジエチルヒドロキシルアミン、ヒドロキシアミンスルホン酸およびそのアルカリ金属塩、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ハイドロキノン誘導体、カテコール誘導体、ならびに、ヒドロキシジメチルベンゼンチオカルボン酸、ヒドロキシジエチルベンゼンジチオカルボン酸、ヒドロキシジブチルベンゼンジチオカルボン酸などの芳香族ヒドロキシジチオカルボン酸およびこれらのアルカリ金属塩などが挙げられる。重合停止剤の使用量は、単量体混合物100重量部に対して、好ましくは0.05~2重量部である。
【0032】
重合反応を停止した後、所望により、未反応の単量体を除去し、固形分濃度やpHを調整することで、カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)のラテックスを得ることができる。
【0033】
また、カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)のラテックスには、必要に応じて、老化防止剤、防腐剤、抗菌剤、分散剤などを適宜添加してもよい。
【0034】
カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)のラテックスの数平均粒子径は、好ましくは60~300nm、より好ましくは80~150nmである。粒子径は、乳化剤および重合開始剤の使用量を調節するなどの方法により、所望の値に調整することができる。
【0035】
また、カルボキシル基含有スチレン-ブタジエンゴム(a2)のラテックスは、共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエンおよびエチレン性不飽和カルボン酸単量体に加えて、スチレンを共重合してなる共重合体のラテックスであり、これらに加えて、必要に応じて用いられる、これらと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体を共重合してなる共重合体のラテックスであってもよい。
【0036】
カルボキシル基含有スチレン-ブタジエンゴム(a2)中における、1,3-ブタジエンにより形成されるブタジエン単位の含有割合は、好ましくは56~78重量%であり、より好ましくは56~73重量%、さらに好ましくは56~68重量%である。ブタジエン単位の含有量を上記範囲とすることにより、本発明の製造方法により得られる手袋を、引張強度を十分なものとしながら、風合いにより優れ、伸びがより増大されたものとすることができる。
【0037】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、カルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体であれば特に限定されないが、たとえば、上述したカルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)のラテックスと同様のものを用いることができる。カルボキシル基含有スチレン-ブタジエンゴム(a2)中における、エチレン性不飽和カルボン酸単量体により形成されるエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有割合は、好ましくは2~6.5重量%であり、より好ましくは2~6重量%、さらに好ましくは2~5重量%、さらにより好ましくは2~4.5重量%、特に好ましくは2.5~4.5重量%である。エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、本発明の製造方法により得られる手袋を、引張強度を十分なものとしながら、風合いにより優れ、伸びがより増大されたものとすることができる。
【0038】
カルボキシル基含有スチレン-ブタジエンゴム(a2)中における、スチレンにより形成されるスチレン単位の含有割合は、好ましくは20~40重量%であり、より好ましくは25~40重量%、さらに好ましくは30~40重量%である。スチレン単位の含有量を上記範囲とすることにより、本発明の製造方法により得られる手袋を、引張強度を十分なものとしながら、風合いにより優れ、伸びがより増大されたものとすることができる。
【0039】
共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン、エチレン性不飽和カルボン酸単量体およびスチレンと共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体としては、たとえば、上述したカルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)のラテックスと同様のもの(ただし、スチレンを除く)の他、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-エチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンおよびクロロプレンなどの1,3-ブタジエン以外の共役ジエン単量体などが挙げられる。カルボキシル基含有スチレン-ブタジエンゴム(a2)中における、その他のエチレン性不飽和単量体により形成されるその他の単量体単位の含有割合は、好ましくは10重量%以下であり、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは3重量%以下である。
【0040】
本発明で用いるカルボキシル基含有スチレン-ブタジエンゴム(a2)のラテックスは、上述した単量体を含有してなる単量体混合物を共重合することにより得られるが、乳化重合により共重合する方法が好ましい。乳化重合方法としては、カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)の場合と同様の重合副資材を用い、同様の方法にて重合を行えばよい。
【0041】
また、本発明で用いるカルボキシル基含有スチレン-ブタジエンゴム(a2)のラテックスには、必要に応じて、老化防止剤、防腐剤、抗菌剤、分散剤などを適宜添加してもよい。
【0042】
本発明で用いるカルボキシル基含有スチレン-ブタジエンゴム(a2)のラテックスの数平均粒子径は、好ましくは60~300nm、より好ましくは80~150nmである。粒子径は、乳化剤および重合開始剤の使用量を調節するなどの方法により、所望の値に調整することができる。
【0043】
また、カルボキシル基含有共役ジエンゴム(a3)のラテックスは、共役ジエン単量体およびエチレン性不飽和カルボン酸単量体を共重合してなる共重合体のラテックスであり、これらに加えて、必要に応じて用いられる、これらと共重合可能な他のエチレン性不飽和単量体を共重合してなる共重合体のラテックスであってもよい。
【0044】
カルボキシル基含有共役ジエンゴム(a3)中における、共役ジエン単量体により形成される共役ジエン単量体単位の含有割合は、好ましくは80~98重量%であり、より好ましくは90~98重量%、さらに好ましくは95~97.5重量%である。共役ジエン単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、本発明の製造方法により得られる手袋を、引張強度を十分なものとしながら、風合いにより優れ、伸びがより増大されたものとすることができる。
【0045】
エチレン性不飽和カルボン酸単量体としては、カルボキシル基を含有するエチレン性不飽和単量体であれば特に限定されないが、たとえば、上述したカルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)のラテックスと同様のものを用いることができる。カルボキシル基含有共役ジエンゴム(a3)中における、エチレン性不飽和カルボン酸単量体により形成されるエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有割合は、好ましくは2~10重量%であり、より好ましくは2~7.5重量%、さらに好ましくは2~6.5重量%であり、さらにより好ましくは2~6重量%、特に好ましくは2~5重量%、最も好ましくは2.5~5重量%である。エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位の含有量を上記範囲とすることにより、本発明の製造方法により得られる手袋を、引張強度を十分なものとしながら、風合いにより優れ、伸びがより増大されたものとすることができる。
【0046】
共役ジエン単量体としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-エチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエンおよびクロロプレンなどが挙げられ、共役ジエン単量体としてはこれらの何れかを単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのなかでも、1,3-ブタジエンが好ましい。
【0047】
共役ジエン単量体およびエチレン性不飽和カルボン酸単量体と共重合可能なその他のエチレン性不飽和単量体としては、たとえば、上述したカルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)のラテックスと同様のもの(ただし、スチレンを除く)が挙げられる。カルボキシル基含有共役ジエンゴム(a3)中における、その他のエチレン性不飽和単量体により形成されるその他の単量体単位の含有割合は、好ましくは10重量%以下であり、より好ましくは5重量%以下、さらに好ましくは3重量%以下である。
【0048】
本発明で用いるカルボキシル基含有共役ジエンゴム(a3)のラテックスは、上述した単量体を含有してなる単量体混合物を共重合することにより得られるが、乳化重合により共重合する方法が好ましい。乳化重合方法としては、カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1)の場合と同様の重合副資材を用い、同様の方法にて重合を行えばよい。
【0049】
本発明で用いるラテックス組成物は、上述したカルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)のラテックスに加えて、2価以上の金属を含む金属化合物(B)を含有する。
【0050】
2価以上の金属を含む金属化合物(B)は、上述したカルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)に含まれるカルボキシル基と反応することにより、金属イオン結合することで、架橋構造を形成することができ、これにより架橋剤として作用するものである。
【0051】
2価以上の金属を含む金属化合物(B)としては、特に限定されないが、亜鉛化合物、マグネシウム化合物、チタン化合物、カルシウム化合物、鉛化合物、鉄化合物、錫化合物、クロム化合物、コバルト化合物、ジルコニウム化合物、アルミニウム化合物などが挙げられる。これら2価以上の金属を含む金属化合物(B)は、単独で、または2種以上を組合せて用いることができる。これらのなかでも、本発明の製造方法により得られる手袋を、応力保持率により優れたものとすることができるという観点より、3価以上の金属を含む金属化合物が好ましく、アルミニウム化合物が特に好ましい。
【0052】
アルミニウム化合物としては、たとえば、酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、水酸化アルミニウム、硝酸アルミウム、硫酸アルミニウム、アルミニウム金属、硫酸アルミニウムアンモニウム、臭化アルミニウム、フッ化アルミニウム、硫酸アルミニウム・カリウム、アルミニウム・イソプロポキシド、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム、亜硫酸アルミウムナトリウムなどが挙げられ、これらのなかでも、アルミン酸ナトリウムが好ましい。これらアルミニウム化合物は、単独で、または2種以上を組合せて用いることができる。
【0053】
また、2価以上の金属を含む金属化合物(B)として、3価以上の金属を含む金属化合物を使用する場合には、2価の金属を含む金属化合物を併用してもよく、2価の金属を含む金属化合物を併用することで、本発明の製造方法により得られる手袋の引張強度をより高めることができる。3価以上の金属を含む金属化合物と、2価の金属を含む金属化合物とを併用する場合における、2価の金属を含む金属化合物としては、亜鉛化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、鉛化合物が好ましく、亜鉛化合物がより好ましく、酸化亜鉛が特に好ましい。
【0054】
本発明で用いるラテックス組成物中における、2価以上の金属を含む金属化合物(B)の含有割合は、ラテックス中に含まれるカルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)100重量部に対して、好ましくは0.1~5重量部であり、より好ましくは0.5~2.5重量部、さらに好ましくは0.5~2.0重量部である。2価以上の金属を含む金属化合物(B)の含有割合を上記範囲とすることにより、ラテックス組成物としての安定性を良好なものとしながら、架橋を行う際における、架橋を十分なものとすることができる。また2価以上の金属を含む金属化合物(B)として、3価以上の金属を含む金属化合物を使用する場合における、ラテックス組成物中における、3価以上の金属を含む金属化合物の含有割合は、ラテックス組成物としての安定性および架橋性の観点から、ラテックス中に含まれるカルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)100重量部に対して、0.1~1.5重量部の範囲とすることが好ましく、より好ましくは0.1~1.25重量部、さらに好ましくは0.1~1.0重量部である。さらに、2価以上の金属を含む金属化合物(B)として、3価以上の金属を含む金属化合物と、2価の金属を含む金属化合物とを併用する場合における、これらの含有割合は、ラテックス組成物としての安定性および架橋性の観点から、「3価以上の金属を含む金属化合物:2価の金属を含む金属化合物」の重量比で、好ましくは100:0~0:100の範囲、より好ましくは10:90~90:10の範囲である。
【0055】
また、本発明で用いるラテックス組成物は、上述したカルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)のラテックス、および2価以上の金属を含む金属化合物(B)に加えて、ヒンダードフェノール系老化防止剤(C)を含有する。
【0056】
ヒンダードフェノール系老化防止剤(C)としては、フェノール構造を有し、かつ、フェノール構造を構成するOH基(フェノール性水酸基)のオルト位の一方に、嵩高の基(たとえば、t-ブチル基)を有する化合物であればよく、特に限定されない。
【0057】
ヒンダードフェノール系老化防止剤(C)としては、たとえば、p-クレゾールとジシクロペンタジエンとの縮合物をブチル化してなる化合物、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、3-t-ブチル-4-ヒドロキシアニソール、2-t-ブチル-4-ヒドロキシアニソール、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-t-ブチルフェノール)、4,4‘-ブチリデンビス(3-メチル-6-t-ブチルフェノール)、n-オクタデシル-3-(3’,5’-ジーt-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、1,3,5-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ハイドロキシベンジル)-s-トリアジン-2,4,6-(1H,3H,5H)トリオン、ペンタエリスリチル-テトラキス(3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、N,N-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-ヒドロシンナミド)、およびトリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-イソシアヌレイトなどが挙げられる。これらのなかでも、得られる手袋の着色の発生をより適切に抑制できるという観点より、p-クレゾールとジシクロペンタジエンとの縮合物をブチル化してなる化合物(p-クレゾールを構成するOH基(フェノール性水酸基)のオルト位をブチル化してなる化合物)が好ましく、p-クレゾールとジシクロペンタジエンとの縮合物をt-ブチル化してなる化合物(p-クレゾールとジシクロペンタジエンとの縮合物中のp-クレゾールを構成するOH基(フェノール性水酸基)のオルト位に、t-ブチル基を導入してなる化合物)がより好ましく、下記一般式(1)で表される化合物が特に好ましい。下記一般式(1)で表される化合物は、たとえば、p-クレゾールとジシクロペンタジエンとの縮合物を得た後、イソブチレンを反応させることにより、得ることができる。
【化2】
(式中、nは整数を表す。)
【0058】
本発明においては、ラテックス組成物として、このようなヒンダードフェノール系老化防止剤(C)を含有するものを用い、かつ、このようなラテックス組成物をディップ成形することで、形成したディップ成形層に、放射線を照射することにより手袋を製造するものであり、この際に、放射線照射後の手袋中に含まれる、ヒンダードフェノール系老化防止剤(C)の含有量を5,000重量ppm以上、70,000重量ppm以下に制御するものである。そして、これにより、得られる手袋を、着色の発生が抑制され、引張強度が高く、伸びが大きく、柔軟な風合いおよび高い応力保持率に優れたものとすることができるものである。
【0059】
そのため、本発明で用いるラテックス組成物中における、ヒンダードフェノール系老化防止剤(C)の含有量としては、放射線照射後の手袋中に含まれる、ヒンダードフェノール系老化防止剤(C)の含有量が上記範囲となる量とすればよいが、本発明で用いるラテックス組成物中における、カルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)100重量部に対する、ヒンダードフェノール系老化防止剤(C)の含有量は、好ましくは0.5~8.5重量部であり、より好ましくは0.8~7.5重量部、さらに好ましくは1.5重量部超、7.5重量部以下、さらにより好ましくは1.6~6.0重量部である。
【0060】
また、本発明で用いるラテックス組成物において、2価以上の金属を含む金属化合物(B)として、3価以上の金属を含む金属化合物を含むものを使用する場合には、糖類(d1)、糖アルコール(d2)、ヒドロキシ酸(d3)およびヒドロキシ酸塩(d4)から選択される少なくとも1種のアルコール性水酸基含有化合物(D)をさらに含有することが好ましい。このようなアルコール性水酸基含有化合物(D)をさらに含有させることで、ラテックス組成物中における、3価以上の金属を含む金属化合物の分散性をより高めることができ、これにより、ラテックス組成物としての安定性を良好なものとすることができる。そして、結果として、本発明の製造方法により得られる手袋の応力保持率をより適切に高めることができる。
【0061】
本発明で用いるアルコール性水酸基含有化合物(D)は、糖類(d1)、糖アルコール(d2)、ヒドロキシ酸(d3)およびヒドロキシ酸塩(d4)から選択される少なくとも1種であり、これらの中でも、本発明の作用効果をより高めることができるという観点より、糖アルコール(d2)およびヒドロキシ酸塩(d4)から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。また、アルコール性水酸基含有化合物(D)として、2種以上を併用する場合には、糖類(d1)および糖アルコール(d2)から選択される少なくとも1種と、ヒドロキシ酸(d3)およびヒドロキシ酸塩(d4)から選択される少なくとも1種とを組み合わせて用いることが好ましく、糖アルコール(d2)とヒドロキシ酸塩(d4)とを組み合わせて用いることがより好ましい。
【0062】
糖類(d1)としては、単糖類、あるいは、2以上の単糖がグリコシド結合によって結合した多糖類であればよく特に限定されないが、たとえば、エリスロース、スレオース、リボース、リキソース、キシロース、アラビノース、アロース、タロース、グロース、アルトロース、ガラクトース、イドース、エリスルロース、キシルロース、リブロース、プシコース、フルクトース、ソルボース、タガトースなどの単糖類;トレハロース、マルトース、イソマルトース、セロビオース、ゲンチオビオース、メリビオース、ラクトース、スクロース、パラチノースなどの二糖類;マルトトリオース、イソマルトトリオース、パノース、セロトリオース、マンニノトリオース、ソラトリオース、メレジトース、プランテオース、ゲンチアノース、ウンベリフェロース、ラクトスクロース、ラフィノースなどの三糖類;マルトテトラオース、イソマルトテトラオースなどのホモオリゴ糖;スタキオース、セロテトラオース、スコロドース、リキノース、パノースなどの四糖類;マルトペンタオース、イソマルトペンタオースなどの五糖類;マルトヘキサオース、イソマルトヘキサオースなどの六糖類;などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
糖アルコール(d2)としては、単糖あるいは多糖類の糖アルコールであればよく、特に限定されないが、たとえば、グリセリンなどのトリトール;エリスリトール、D-スレイトール、L-スレイトールなどのテトリトール;D-アラビニトール、L-アラビニトール、キシリトール、リビトール、ペンタエリスリトールなどのペンチトール;ペンタエリスリトール;ソルビトール、D-イジトール、ガラクチトール、D-グルシトール、マンニトールなどのヘキシトール;ボレミトール、ペルセイトールなどのへプチトール;D-エリトロ-D-ガラクト-オクチトールなどのオクチトール;などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのなかでも、炭素数6の糖アルコールであるヘキシトールが好ましく、ソルビトールがより好ましい。
【0064】
ヒドロキシ酸(d3)としては、ヒドロキシル基を有するカルボン酸であればよく、特に限定されないが、たとえば、グリコール酸、乳酸、タルトロン酸、グリセリン酸、2-ヒドロキシ酪酸、3-ヒドロキシ酪酸、γ-ヒドロキシ酪酸、リンゴ酸、3-メチリンゴ酸、酒石酸、シトラマル酸、クエン酸、イソクエン酸、ロイシン酸、メバロン酸、パントイン酸、リシノール酸、リシネライジン酸、セレブロン酸、キナ酸、シキミ酸、セリンなどの脂肪族ヒドロキシ酸;サリチル酸、クレオソート酸(ホモサリチル酸、ヒドロキシ(メチル)安息香酸)、バニリン酸、シリング酸、ヒドロキシプロパン酸、ヒドロキシペンタン酸、ヒドロキシヘキサン酸、ヒドロキシヘプタン酸、ヒドロキシオクタン酸、ヒドロキシノナン酸、ヒドロキシデカン酸、ヒドロキシウンデカン酸、ヒドロキシドドデカン酸、ヒドロキシトリデカン酸、ヒドロキシテトラデカン酸、ヒドロキシペンタデカン酸、ヒドロキシヘプタデカン酸、ヒドロキシオクタデカン酸、ヒドロキシノナデカン酸、ヒドロキシイコサン酸、リシノール酸などのモノヒドロキシ安息香酸誘導体、ピロカテク酸、レソルシル酸、プロトカテク酸、ゲンチジン酸、オルセリン酸などのジヒドロキシ安息香酸誘導体、没食子酸などのトリヒドロキシ安息香酸誘導体、マンデル酸、ベンジル酸、アトロラクチン酸などのフェニル酢酸誘導体、メリロト酸、フロレト酸、クマル酸、ウンベル酸、コーヒー酸、フェルラ酸、シナピン酸等のケイヒ酸・ヒドロケイヒ酸誘導体などの芳香族ヒドロキシ酸;などが挙げられる。これらは1種単独で用いてもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのなかでも、脂肪族ヒドロキシ酸が好ましく、脂肪族α-ヒドロキシ酸がより好ましく、グリコール酸、乳酸、タルトロン酸、グリセリン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸がさらに好ましく、グリコール酸が特に好ましい。
【0065】
ヒドロキシ酸塩(d4)としては、ヒドロキシ酸の塩であればよく、特に限定されず、ヒドロキシ酸(d3)の具体例として例示したヒドロキシ酸の金属塩などが挙げられ、たとえば、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属の塩;カルシウム、マグネシウムなどのアルカリ土類金属の塩が挙げられる。ヒドロキシ酸塩(d4)としては、1種単独で用いてもよいし、あるいは2種以上を組み合わせて用いてもよい。ヒドロキシ酸塩(d4)としては、ヒドロキシ酸のアルカリ金属塩が好ましく、ヒドロキシ酸のナトリウム塩が好ましい。また、ヒドロキシ酸塩(d4)を構成するヒドロキシ酸としては、脂肪族ヒドロキシ酸が好ましく、脂肪族α-ヒドロキシ酸がより好ましく、グリコール酸、乳酸、タルトロン酸、グリセリン酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸がさらに好ましく、グリコール酸が特に好ましい。すなわち、ヒドロキシ酸塩(d4)としては、グリコール酸ナトリウムが特に好適である。
【0066】
本発明で用いるラテックス組成物中における、アルコール性水酸基含有化合物(D)の含有量は、3価以上の金属を含む金属化合物に対し、「3価以上の金属を含む金属化合物:アルコール性水酸基含有化合物(D)」の重量比で、1:0.1~1:50の範囲となる量とすることが好ましく、より好ましくは1:0.2~1:45の範囲となる量、さらに好ましくは1:0.3~1:30の範囲となる量である。アルコール性水酸基含有化合物(D)の含有量を上記範囲とすることにより、ラテックス組成物の安定性をより高めることができる。
【0067】
本発明で用いるラテックス組成物は、たとえば、カルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)のラテックスに、2価以上の金属を含む金属化合物(B)、およびヒンダードフェノール系老化防止剤(C)、ならびに必要に応じて用いられるアルコール性水酸基含有化合物(D)を配合することにより得ることができる。カルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)のラテックスに、2価以上の金属を含む金属化合物(B)、およびヒンダードフェノール系老化防止剤(C)、ならびに必要に応じて用いられるアルコール性水酸基含有化合物(D)を配合する方法としては、特に限定されないが、得られるラテックス組成物中に、2価以上の金属を含む金属化合物(B)を良好に分散させることができるという点より、2価以上の金属を含む金属化合物(B)については、必要に応じて用いられるアルコール性水酸基含有化合物(D)とともに水またはアルコールに溶解し、水溶液またはアルコール溶液の状態で添加することが好ましい。また、ヒンダードフェノール系老化防止剤(C)についても、得られるラテックス組成物中における分散性を良好なものとするという観点より、水またはアルコールに溶解あるいは分散させた、溶液あるいは分散液の状態で添加することが好ましい。
【0068】
また、本発明で用いるラテックス組成物には、上述したカルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)のラテックス、2価以上の金属を含む金属化合物(B)、およびヒンダードフェノール系老化防止剤(C)、ならびに必要に応じて用いられるアルコール性水酸基含有化合物(D)に加えて、所望により、2価以上の金属を含む金属化合物(B)以外の架橋剤、充填剤、pH調整剤、増粘剤、ヒンダードフェノール系老化防止剤(C)以外の老化防止剤、分散剤、顔料、充填剤、軟化剤等を配合してもよい。
【0069】
2価以上の金属を含む金属化合物(B)以外の架橋剤としては、たとえば、硫黄および/または含硫黄化合物などが挙げられる。架橋剤としての硫黄としては、実質的に硫黄原子のみから構成され、かつ、各種ゴムを架橋させるための架橋剤用途に用いられる単体硫黄、特に、共役ジエン単量体単位の炭素-炭素二重結合部分に作用する単体硫黄であり、その具体例としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などが挙げられる。また、架橋剤としての含硫黄化合物としては、硫黄原子を含有し、かつ、各種ゴムを架橋させるための架橋剤用途に用いられる化合物、特に、共役ジエン単量体単位の炭素-炭素二重結合部分に作用する化合物であり、その具体例としては、一塩化硫黄、二塩化硫黄、4,4’-ジチオジモルホリン、アルキルフェノールジスルフィド、6-メチルキノキサリン-2、3-ジチオカーボネート、カプロラクタムジスルフィド、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛、含リンポリスルフィド、高分子多硫化物などが挙げられる。
【0070】
本発明で用いるラテックス組成物中における、架橋剤としての硫黄および/または含硫黄化合物の含有割合は、ラテックス中に含まれるカルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)100重量部に対して、硫黄および含硫黄化合物の合計で、好ましくは0重量部超、4重量部以下であり、より好ましくは0重量部超、2.5重量部以下、さらに好ましくは0重量部超、1.5重量部以下である。
【0071】
本発明で用いるラテックス組成物の固形分濃度は、好ましくは10~40重量%、より好ましくは15~35重量%である。また、本発明で用いるラテックス組成物のpHは、好ましくは7.5~12.0、より好ましくは7.5~11.0、さらに好ましくは7.5~9.4、特に好ましくは7.5~9.2である。
【0072】
<手袋の製造方法>
本発明の手袋の製造方法は、上述したラテックス組成物をディップ成形することで、ディップ成形層を形成する工程と、形成されたディップ成形層に、放射線を照射する工程と、を備える。
【0073】
ディップ成形は、ラテックス組成物に手袋形状の型(手袋型)を浸漬し、手袋型の表面にラテックス組成物を沈着させ、次に手袋型をラテックス組成物から引き上げ、その後、手袋型の表面に沈着したラテックス組成物を乾燥させる方法である。なお、ラテックス組成物に浸漬される前の手袋型は予熱しておいてもよい。また、手袋型をラテックス組成物に浸漬する前、または、手袋型をラテックス組成物から引き上げた後に、必要に応じて凝固剤を使用してもよい。
【0074】
凝固剤の使用方法の具体例としては、ラテックス組成物に浸漬する前の手袋型を凝固剤の溶液に浸漬して手袋型に凝固剤を付着させる方法(アノード凝着浸漬法)、ラテックス組成物を沈着させた手袋型を凝固剤溶液に浸漬する方法(ティーグ凝着浸漬法)などがあるが、厚みムラの少ないディップ成形層が得られる点で、アノード凝着浸漬法が好ましい。
【0075】
凝固剤としては、たとえば、塩化バリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化アルミニウム等のハロゲン化金属;硝酸バリウム、硝酸カルシウム、硝酸亜鉛等の硝酸塩;酢酸バリウム、酢酸カルシウム、酢酸亜鉛等の酢酸塩;硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム等の硫酸塩;等が挙げられる。なかでも、塩化カルシウムおよび硝酸カルシウムが好ましい。
凝固剤は、通常、水、アルコール、またはそれらの混合物の溶液として使用する。凝固剤濃度は、通常、5~50重量%、好ましくは10~35重量%である。
【0076】
そして、得られたディップ成形層に対し、加熱処理を施すことで、2価以上の金属を含む金属化合物(B)による架橋を行う。この際の架橋は、2価以上の金属を含む金属化合物(B)が、カルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)に含まれるカルボキシル基と反応することにより、金属イオン結合することで進行する。また、加熱処理を施す前には、ディップ成形層を、水、好ましくは30~70℃の温水に、1~60分程度浸漬し、水溶性不純物(たとえば、余剰の乳化剤や凝固剤等)を除去してもよい。水溶性不純物の除去操作は、ディップ成形層を加熱処理した後に行なってもよいが、より効率的に水溶性不純物を除去できる点から、加熱処理前に行なうことが好ましい。
【0077】
ディップ成形層の2価以上の金属を含む金属化合物(B)による架橋は、通常、80~150℃の温度で、好ましくは10~130分の加熱処理を施すことにより行われる。加熱の方法としては、赤外線や加熱空気による外部加熱または高周波による内部加熱による方法が採用できる。なかでも、加熱空気による外部加熱が好ましい。
【0078】
そして、架橋したディップ成形層を手袋型から脱着することによって、放射線照射前ディップ成形体を得る。脱着方法としては、手で手袋型から剥したり、水圧や圧縮空気の圧力により剥したりする方法を採用することができる。なお、脱着後、更に60~120℃の温度で、10~120分の加熱処理を行なってもよい。
【0079】
次いで、得られた放射線照射前ディップ成形体に対し、放射線照射を行うことで、手袋(放射線照射後ディップ成形体)を得る。本発明の製造方法によれば、上述したラテックス組成物から形成されるディップ成形層(放射線照射前ディップ成形体)に対し、放射線照射を行うことにより、本発明の製造方法により得られる手袋を、伸びが大きく、柔軟な風合いを備えたものとしながら、引張強度が大きく向上されたものとすることができ、さらには、高い応力保持率を有するものとすることができるものである。特に、手術用手袋などのディップ成形により得られる手袋においては、引張強度が高く、伸びが大きいことに加え、これを装着し、作業を行った際における使用感が重要となってくるものである。具体的には、風合い(500%伸長時の応力)に加えて、装着してから時間経過とともに緩みやたるみが発生することを有効に防止できること(すなわち、手袋を100%伸張した引張応力M100(0)に対する、伸張を停止してから6分経過後の応力M100(6)の百分率で示される応力保持率が高いこと)が望ましい。これに対し、本発明によれば、本発明の製造方法により得られる手袋を、引張強度が高く、伸びが大きいこと、および、500%伸長時の応力(風合い)に優れていることに加え、高い応力保持率を備えるものとすることができるものである。
【0080】
なお、本発明の製造方法において、高い応力保持率を実現できる理由としては、必ずしも明らかではないが、放射線照射により、ラテックス組成物中に含まれるカルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)の共役ジエン単量体単位の炭素-炭素二重結合部分を架橋させることができ、このような架橋の形成により、高い応力保持率を実現できるものと考えられる。
【0081】
また、本発明の製造方法においては、ラテックス組成物から形成されるディップ成形層(放射線照射前ディップ成形体)に対する、放射線照射を、放射線照射後の手袋中に含まれる、ヒンダードフェノール系老化防止剤(C)の含有量が、5,000重量ppm以上、70,000重量ppm以下の範囲となるように行う。本発明の製造方法によれば、放射線照射後の手袋中に含まれる、ヒンダードフェノール系老化防止剤(C)の含有量が上記範囲となるように制御することにより、得られる手袋における着色の発生、特に、放射線照射による着色を有効に抑制できるものである。なお、放射線照射後の手袋中に含まれる、ヒンダードフェノール系老化防止剤(C)の含有量は、5,000重量ppm以上、70,000重量ppm以下、好ましくは9,000重量ppm以上、70,000重量ppm以下、より好ましくは10,000重量ppm以上、50,000重量ppm以下、さらに好ましくは10,000重量ppm以上、30,000重量ppm以下、さらにより好ましくは15,000重量ppm超、30,000重量ppm以下である。
【0082】
なお、放射線照射後の手袋中に含まれる、ヒンダードフェノール系老化防止剤(C)の含有量は、ディップ成形に用いるラテックス組成物中に含有させるヒンダードフェノール系老化防止剤(C)の含有量を上記範囲に制御する方法、また、これに加えて、放射線照射前ディップ成形体を得た後(2価以上の金属を含む金属化合物(B)による加熱による架橋を行った後)、保存条件を室温下とした場合に、好ましくは40日以内、より好ましくは20日以内、さらに好ましくは10日以内に、放射線照射を行う方法などが挙げられる。なお、ヒンダードフェノール系老化防止剤(C)などの老化防止剤は、加熱による架橋を行った後においては、保管時間に伴い徐々に失活していく場合が多く、これに対し、放射線照射後の手袋中に含まれる、ヒンダードフェノール系老化防止剤(C)の含有量を上記範囲に好適に制御するという観点からは、ディップ成形に用いるラテックス組成物中に含有させるヒンダードフェノール系老化防止剤(C)の含有量を上記範囲とし、かつ、放射線照射前ディップ成形体を得た後における、放射線照射を行うタイミングを上記範囲内とすることが好ましい。
【0083】
また、照射する放射線としては、γ線やX線などの電磁放射線、電子線やβ線などの粒子放射線などが挙げられるが、得られる手袋の引張強度、伸び、500%伸長時応力及び応力保持率などの向上効果をより高めることができる観点より、γ線または電子線が好ましく、γ線が最も好ましい。γ線などの放射線照射における吸収線量が、好ましくは1~500kGyとなる範囲であり、より好ましくは5~300kGyとなる範囲であり、さらに好ましくは10~100kGyとなる範囲である。また、γ線照射を行う際における照射エネルギーと時間は、γ線などの放射線照射における目的とする吸収線量および被照射物のγ線などの放射線に対する耐性を鑑みて、適当な条件にすることが望ましい。γ線などの放射線照射エネルギーについては0.1~10MeVの範囲であればよく、好ましくはコバルト60を線源とした時に照射されるエネルギー1.17MeVと1.33MeVやセシウム137を線源とした時に照射されるエネルギー0.66MeVが望ましい。γ線などの放射線照射時間については、目的とするγ線などの放射線照射吸収線量にするにあたり必要な時間であるため、特に限定されない。
【0084】
このようにして、本発明の製造方法により得られる手袋は、着色の発生が抑制され、引張強度が高く、伸びが大きく、柔軟な風合いおよび高い応力保持率を備えるものである。特に、本発明の製造方法により得られる手袋は、黄色味を示す黄色度(YI;イエローインデックス)が、好ましくは10以下、より好ましくは8以下、さらに好ましくは7以下と低く抑えられ、着色の発生が適切に抑制されたものである。なお、黄色度(YI)は、たとえば、本発明の製造方法により得られる手袋について、色差計を用いて、JIS K7103に準じて、測定することができる。
【0085】
そして、このようにして、本発明の製造方法により得られる手袋は、このような特性を活かして、各種用途に用いられる手袋として好適であり、とりわけ、手術用手袋に特に好適である。
【実施例
【0086】
以下、実施例により本発明が詳細に説明されるが、本発明はこれらの実施例に限定されない。なお、以下の「部」は、特に断りのない限り、重量基準である。なお、各種の物性は以下のように測定した。
【0087】
<ヒンダードフェノール系老化防止剤量>
実施例および比較例において得られたγ線照射後のゴム手袋から約0.5gの試験片を切り出し、切り出した試験片の重量を精秤した後、試験片をメタノールを用いて、85℃、8時間の条件でソックスレー抽出することで、ヒンダードフェノール系老化防止剤を抽出し、抽出液を0.2μmのディスクフィルターによりろ過した後、ろ過後の抽出液を用いて、抽出されたヒンダードフェノール系老化防止の量を逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により、下記の条件にて測定することで、γ線照射後のゴム手袋中に含まれる、ヒンダードフェノール系老化防止剤の含有量を測定した。
カラム:商品名「ZORBOX XDB-C18 1.8μ」(アジレント・テクノロジー社製)
カラム温度:40℃
流速:0.75mL/min
検出器:DAD(ダイオードアレイ検出) 280nm
注入量:2μL
【0088】
<黄色度(YI)>
実施例および比較例において得られたγ線照射後のゴム手袋、および参考例で得られたゴム手袋の手の甲部分の外側表面について、色差計(製品名「SE-2000」、日本電色工業社製)を用いて、JIS K7103に準じて、測定した。
【0089】
<引張強度、破断時伸び、500%伸長時の応力>
実施例および比較例において得られたγ線照射後のゴム手袋、および参考例で得られたゴム手袋から、ASTM D-412に準じてダンベル(Die-C:ダンベル社製)を用いて、ダンベル形状の試験片を作製した。次いで、得られた試験片を、引張速度500mm/分で引っ張り、破断時の引張強度、破断時の伸び、および500%伸長時の応力を測定した。引張強度および破断時伸びは高いほど好ましく、また、500%伸長時の応力が小さいほど、柔軟な風合いとなるため、好ましい。
【0090】
<応力保持率>
実施例および比較例において得られた放射線照射後のゴム手袋、および参考例で得られたゴム手袋から、ASTM D-412に準じてダンベル(Die-C:ダンベル社製)を用いて、ダンベル形状の試験片を作製し、該試験片の両端に速度500mm/分にて引張応力をかけ、該試験片の標準区間20mmが2倍(100%)に伸張した時点で伸張を止めると共に引張応力M100(0)を測定し、また、そのまま6分間経過した後の引張応力M100(6)を測定した。そして、M100(0)に対するM100(6)の百分率(すなわち、M100(6)/M100(0)の百分率)を応力保持率とした。応力保持率は大きいほど、手袋の使用に伴うへたり(緩みやたるみ)が起きにくいため好ましい。
【0091】
<製造例1(カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1-1)のラテックスの製造)>
攪拌機付きの耐圧重合反応容器に、1,3-ブタジエン63部、アクリロニトリル34部、メタクリル酸3部、連鎖移動剤としてt-ドデシルメルカプタン0.25部、脱イオン水132部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム3部、β-ナフタリンスルホン酸ホルマリン縮合物ナトリウム1部、過硫酸カリウム0.3部、およびエチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.005部を仕込み、重合温度を37℃に保持して重合を開始した。そして、重合転化率が70%になった時点で、重合温度を43℃に昇温し、継続して重合転化率が95%になるまで反応させ、その後、重合停止剤としてジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム0.1部を添加して重合反応を停止した。そして、得られた共重合体のラテックスから、未反応単量体を減圧にして留去した後、固形分濃度とpHとを調整することで、固形分濃度40重量%、pH8.0のカルボキシル基含有ニトリルゴム(a1-1)のラテックスを得た。得られたカルボキシル基含有ニトリルゴム(a1-1)の組成は、1,3-ブタジエン単位63重量%、アクリロニトリル単位34重量%、メタクリル酸単位3重量%であった。
【0092】
<実施例1>
(ラテックス組成物の調製)
製造例1で得られたカルボキシル基含有ニトリルゴム(a1-1)のラテックス250部(カルボキシル基含有ニトリルゴム(a1-1)換算で100部)に、アルミン酸ナトリウム0.2部、ソルビトール0.4部、およびグリコール酸ナトリウム0.4部を水溶させた混合水溶液、およびヒンダードフェノール系老化防止剤の水溶液(商品名「Wingstay L」、グッドイヤー社製、下記一般式(1)で示されるヒンダードフェノール系老化防止剤を35重量%の割合で含む水溶液)2.29部(下記一般式(1)で示されるヒンダードフェノール系老化防止剤換算で0.8部)を加えた。そして、これに脱イオン水を加えて、固形分濃度を30重量%に調整することで、ラテックス組成物を得た。
【化3】
【0093】
<γ線照射前ディップ成形体の製造>
硝酸カルシウム30部、ノニオン性乳化剤であるポリエチレングリコールオクチルフェニルエーテル0.05部および水70部を混合することにより、凝固剤水溶液を調製した。次いで、この凝固剤水溶液に、予め70℃に加温したセラミック製手袋型を5秒間浸漬し、引上げた後、温度70℃、10分間の条件で乾燥して、凝固剤を手袋型に付着させた。そして、凝固剤を付着させた手袋型を、上記にて得られたラテックス組成物に10秒間浸漬し、引上げた後、50℃の温水に90秒間浸漬して、水溶性不純物を溶出させて、手袋型にディップ成形層を形成した。次いで、ディップ成形層を形成した手袋型を、温度125℃、25分間の条件で加熱処理してディップ成形層を架橋させ、架橋したディップ成形層を手袋型から剥し、γ線照射前ディップ成形体を得た。
【0094】
<γ線照射後のゴム手袋の製造>
上記にて得られたγ線照射前ディップ成形体を10日間、室温において保管した後、10日間保管した後のγ線照射前ディップ成形体に対して、コバルト60を線源としたγ線を照射し、吸収線量が30kGyに達するまで照射した。照射時間は3時間であった。このようにして、γ線照射後のディップ成形体(手袋)を得た。そして、得られたγ線照射後のディップ成形体(手袋)について、上記方法にしたがって、ヒンダードフェノール系老化防止剤量、黄色度(YI)、引張強度、破断時伸び、500%伸長時の応力、および応力保持率の各測定を行った。結果を表1に示す。
【0095】
<実施例2>
ヒンダードフェノール系老化防止剤の水溶液(商品名「Wingstay L」、グッドイヤー社製)の使用量を、4.57部(上記一般式(1)で示されるヒンダードフェノール系老化防止剤換算で1.6部)に変更した以外は、実施例1と同様にして、ラテックス組成物、γ線照射前ディップ成形体、およびγ線照射後のゴム手袋を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0096】
<実施例3>
ヒンダードフェノール系老化防止剤の水溶液(商品名「Wingstay L」、グッドイヤー社製)の使用量を、14.3部(上記一般式(1)で示されるヒンダードフェノール系老化防止剤換算で5部)に変更した以外は、実施例1と同様にして、ラテックス組成物、γ線照射前ディップ成形体、およびγ線照射後のゴム手袋を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0097】
<比較例1>
ヒンダードフェノール系老化防止剤の水溶液(商品名「Wingstay L」、グッドイヤー社製)の使用量を、0.71部(上記一般式(1)で示されるヒンダードフェノール系老化防止剤換算で0.25部)に変更した以外は、実施例1と同様にして、ラテックス組成物、γ線照射前ディップ成形体、およびγ線照射後のゴム手袋を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0098】
<比較例2>
ヒンダードフェノール系老化防止剤の水溶液(商品名「Wingstay L」、グッドイヤー社製)の使用量を、28.6部(上記一般式(1)で示されるヒンダードフェノール系老化防止剤換算で10部)に変更した以外は、実施例1と同様にして、ラテックス組成物、γ線照射前ディップ成形体、およびγ線照射後のゴム手袋を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0099】
<比較例3>
ヒンダードフェノール系老化防止剤の水溶液(商品名「Wingstay L」、グッドイヤー社製)の使用量を、4.29部(上記一般式(1)で示されるヒンダードフェノール系老化防止剤換算で1.5部)に変更した以外は、実施例1と同様にして、ラテックス組成物、およびγ線照射前ディップ成形体を製造するとともに、γ線照射前ディップ成形体の保存期間を50日に変更した以外は、実施例1と同様にして、γ線照射後のゴム手袋を製造し、同様に評価を行った。結果を表1に示す。
【0100】
<参考例1>
実施例1と同様にして得られたラテックス組成物を用い、実施例1と同様にして、γ線照射前ディップ成形体を得て、これをゴム手袋として、黄色度(YI)、引張強度、破断時伸び、500%伸長時の応力、および応力保持率の各測定を行った。すなわち、参考例1においては、γ線照射を行わなかった以外は、実施例1と同様にしてゴム手袋を得た。結果を表1に示す。
【0101】
<参考例2>
実施例2と同様にして得られたラテックス組成物を用い、実施例2と同様にして、γ線照射前ディップ成形体を得て、これをゴム手袋として、黄色度(YI)、引張強度、破断時伸び、500%伸長時の応力、および応力保持率の各測定を行った。すなわち、参考例2においては、γ線照射を行わなかった以外は、実施例2と同様にしてゴム手袋を得た。
【0102】
<参考例3>
比較例2と同様にして得られたラテックス組成物を用い、比較例2と同様にして、γ線照射前ディップ成形体を得て、これをゴム手袋として、黄色度(YI)、引張強度、破断時伸び、500%伸長時の応力、および応力保持率の各測定を行った。すなわち、参考例3においては、γ線照射を行わなかった以外は、比較例2と同様にしてゴム手袋を得た。
【0103】
【表1】
【0104】
表1に示すように、カルボキシル基含有共役ジエン系ゴム(A)のラテックスと、2価以上の金属を含む金属化合物(B)と、ヒンダードフェノール系老化防止剤(C)とを含有するラテックス組成物をディップ成形して得られるディップ成形層に、放射線を照射することで手袋を製造するとともに、放射線照射後の手袋中に含まれる、ヒンダードフェノール系老化防止剤(C)の含有量を5,000重量ppm以上、70,000重量ppm以下に制御した場合には、得られる手袋は、黄色度(YI)が低く、着色の発生が抑制されたものであり、また、引張強度が高く、伸びが大きく、柔軟な風合いおよび高い応力保持率を備えるものであった(実施例1~3)。
また、実施例1と参考例1との比較、および実施例2と参考例2との比較からも明らかなように、本発明の製造方法によれば、γ線照射前後における、黄色度(YI)の変動が小さく、γ線照射による着色の発生が有効に抑制されたものであることが確認できる。
【0105】
一方、放射線照射後の手袋中に含まれる、ヒンダードフェノール系老化防止剤(C)の含有量が5,000重量ppm未満である場合には、黄色度(YI)が高くなり、着色の発生が顕著となる結果となった(比較例1,3)。
また、ヒンダードフェノール系老化防止剤(C)の含有量が70,000重量ppmを超えると、黄色度(YI)を低く抑えることができる一方で、得られる手袋は、引張強度が低く、伸びが小さく、風合いおよび応力保持率に劣るものとなった(比較例2)。