IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 信越化学工業株式会社の特許一覧

特許7547291ビニルエーテル化合物、並びにそれからのアルデヒド化合物及びカルボキシレート化合物の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】ビニルエーテル化合物、並びにそれからのアルデヒド化合物及びカルボキシレート化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 45/42 20060101AFI20240902BHJP
   C07C 47/40 20060101ALI20240902BHJP
   C07C 45/62 20060101ALI20240902BHJP
   C07C 47/30 20060101ALI20240902BHJP
   C07C 67/08 20060101ALI20240902BHJP
   C07C 69/14 20060101ALI20240902BHJP
   C07C 43/162 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
C07C45/42
C07C47/40
C07C45/62
C07C47/30
C07C67/08
C07C69/14
C07C43/162 CSP
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021115859
(22)【出願日】2021-07-13
(65)【公開番号】P2023012305
(43)【公開日】2023-01-25
【審査請求日】2023-07-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 武
(72)【発明者】
【氏名】金生 剛
【審査官】神谷 昌克
(56)【参考文献】
【文献】Tetrahedron Letters,2011年,Vol.52,pp.4224-4226
【文献】Tetrahedron Letters,2007年,Vol.48,pp.6377-6379
【文献】Journal of Chemical Ecology,2005年,Vol.31,pp.2999-3005
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
CAplus/REGISTRY(STN)
CASREACT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるビニルエーテル化合物を加水分解反応に付すことにより、下記式(2)で表される2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒドを得る工程を少なくとも含む、2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(2)の製造方法。
【化1】
(上記一般式(1)中、Rは炭素数1~15の一価の炭化水素基を表し、波線はE体、Z体又はそれらの混合物であることを表す。)
【請求項2】
請求項1に記載の、2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(2)の製造方法と、該2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(2)を水素添加反応に付すことにより、下記式(3)で表される2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドを得る工程とを少なくとも含む、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)の製造方法。
【化2】
【請求項3】
請求項2に記載の、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)の製造方法と、該2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)を、還元剤との還元反応に付すことにより、下記式(4)で表される(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メタノールを得る工程と、該(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メタノール(4)をエステル化反応に付すことにより、下記一般式(5)で表される(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=カルボキシレート化合物を得る工程とを少なくとも含む、(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=カルボキシレート化合物(5)の製造方法。
【化3】
(上記一般式(5)中、Rは水素原子又は炭素数1~15の一価の炭化水素基を表す。)
【請求項4】
前記(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=カルボキシレート化合物(5)が下記式(5A)で表される(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテートであり、前記(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテートにおいて、4種のジアステレオマーのうち、下記式(5A’)で表される(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテートのジアステレオマー比(dr)が50%以上である、請求項3に記載の(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=カルボキシレート化合物(5)の製造方法。
【化4】
(上記式(5A)及び(5A’)中、Acはアセチル基を表し、(R)、(S)、太線結合(bold bond)及びハッシュ結合(hashed bond)は相対立体配置を表す。)
【請求項5】
2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)が下記式(3’)で表される(1RS,2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドであり、該(1RS,2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3’)を異性化反応に付すことにより、下記式(3”)で表される(1R,2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドを得る工程をさらに含み、
前記還元反応が、前記得られた(1R,2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3”)を用いて行われて、(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メタノール(4’)が得られ、
前記エステル化反応が、前記得られた(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メタノール(4’)を用いて行われて、前記(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテート(5A’)が得られる、
請求項4に記載の方法。
【化5】
【請求項6】
下記式(6)で表される2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテノンと、下記一般式(7)で表されるリンイリド化合物とをウィッティッヒ(Wittig)反応に付すことにより、前記ビニルエーテル化合物(1)を得る工程をさらに含む、請求項1に記載の、2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(2)の製造方法。
【化6】
(上記一般式(7)中、Rは炭素数1~15の一価の炭化水素基を表し、Phはフェニル基を表す。)
【請求項7】
下記式(6)で表される2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテノンと、下記一般式(7)で表されるリンイリド化合物とをウィッティッヒ(Wittig)反応に付すことにより、前記ビニルエーテル化合物(1)を得る工程をさらに含む、請求項2に記載の、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)の製造方法。
【化7】
(上記一般式(7)中、Rは炭素数1~15の一価の炭化水素基を表し、Phはフェニル基を表す。)
【請求項8】
下記式(6)で表される2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテノンと、下記一般式(7)で表されるリンイリド化合物とをウィッティッヒ(Wittig)反応に付すことにより、前記ビニルエーテル化合物(1)を得る工程をさらに含む、請求項3に記載の、(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=カルボキシレート化合物(5)の製造方法。
【化8】
(上記一般式(7)中、Rは炭素数1~15の一価の炭化水素基を表し、Phはフェニル基を表す。)
【請求項9】
下記式(6)で表される2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテノンと、下記一般式(7)で表されるリンイリド化合物とをウィッティッヒ(Wittig)反応に付すことにより、前記ビニルエーテル化合物(1)を得る工程をさらに含む、請求項4に記載の、(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=カルボキシレート化合物(5)の製造方法。
【化9】
(上記一般式(7)中、Rは炭素数1~15の一価の炭化水素基を表し、Phはフェニル基を表す。)
【請求項10】
下記一般式(1)で表されるビニルエーテル化合物。
【化10】
(式中、Rは炭素数1~15の一価の炭化水素基を表し、波線はE体、Z体又はそれらの混合物であることを表す。)
【請求項11】
下記式(2)で表される2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド。
【化11】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なビニルエーテル化合物に関する。本発明はまた、該ビニルエーテル化合物から、アルデヒド化合物、すなわち2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド及び2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド、並びにカルボキシレート化合物、すなわち(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=カルボキシレート化合物、を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
昆虫の性フェロモンは、通常、雌個体が雄個体を誘引する機能をもつ生物活性物質であり、少量で高い誘引活性を示す。性フェロモンは、発生予察及び地理的な拡散(特定地域への侵入)の確認の手段として、また害虫防除の手段として広く利用されている。害虫防除の手段としては、大量誘殺法(Mass trapping)、誘引殺虫法(Lure and kill又はAttract and kill)、誘引感染法(Lure and infect又はAttract and infect)及び交信撹乱法(Mating disruption)と呼ばれる防除法が広く実用に供されている。昆虫1個体から抽出できる性フェロモンはごく微量であることから、天然由来の性フェロモンを交信攪乱等に利用することは難しく、性フェロモンの利用にあたっては必要量の性フェロモン原体を人工的に製造することが、基礎研究のために、更には応用のために必要とされる。
【0003】
Pseudococcus viburni(一般名:Obsucure Mealybug、以下、「OMB」と略する。)は、主にアメリカ大陸に分布し、ブドウを始めとする種々の作物に被害を与えるため、経済的に非常に重要な害虫である。近年、OMBの分布が広がっており、地理的な拡散の確認も重要となっている。OMBの性フェロモンは、(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=カルボキシレート化合物の一つである(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテートであることが報告されている(下記の非特許文献1)。また、合成された(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテートのラセミ体を用いたオスの誘引試験において、合成品が天然フェロモンと同等の誘引活性を示すことが報告されている(非特許文献1)。
【0004】
OMBの性フェロモンの合成例としては、例えば、イソブチル=メタクリレートを出発原料とし、Nazarov環化反応を用いた合成が挙げられる(非特許文献1)。また、非特許文献1の改良合成法も報告されている(下記の非特許文献2及び3)。即ち、ジブロモメタン、亜鉛及び塩化チタン(IV)を用いたケトンのメチレン化反応を用いて収率を向上させている。更に、(-)-パントラクトンを出発原料とし、タンデム共役付加-環化付加反応を鍵とした光学活性体の合成も報告されている(下記の非特許文献4)。工業生産を企図した製造方法としては、若森らによるα-ハロテトラメチルシクロヘキサノンのファヴォルスキー(Favorskii)転位反応を利用した方法が公開されている(下記の特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-210469号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】J.Millarら、J.Chem.Ecol.,31,2999(2005)
【文献】J.Millarら、Tetrahedron Lett.,48,6377(2007)
【文献】J.Millarら、Tetrahedron Lett.,52,4224(2011)
【文献】D.Reddyら、Tetrahedron Lett.,51,5291(2010)
【文献】Bull.Soc.Chim.Fr.,2981(1970)
【文献】J.Am.Chem.Soc.,113,8062(1991)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載の合成法は短工程であるものの、目的物である(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテートの精製に、ガスクロマトグラフィー分取を用いているため、(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテートの大量合成には大きな困難を伴う。また、非特許文献2及び3に記載された合成法は、変異原性を有するジブロモメタンの使用及び強毒性の六価クロムを用いた酸化反応が必要である上に、中間体の精製において、高コストかつスケールアップに難のあるシリカゲルカラムクロマトグラフィー法が必要であるため、工業スケールでの実施が難しい。さらに、非特許文献4では、目的物である(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテートの合成に、(-)-パントラクトンから17工程もの工程数を要する上に、共役付加反応に-78℃の極低温を用いていること及び酸化反応に爆発性の高い高原子価ヨウ素試薬を用いていることから、工業スケールでの実施が難しい。
【0008】
一方、特許文献1には、より工業的な合成法が記載されているが、ファヴォルスキー転位反応よりも、さらに位置選択的な製造方法が求められていた。
【0009】
このように、従来の製造方法では、有害試薬の使用、工程数、中間体及び/又は目的物の分離或いは精製の手段等の理由から、十分量の(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテートを工業的に製造することは非常に困難であり、また反応選択性についても改善の余地があると考えられた。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、有害試薬を使用せずとも、短工程かつ工業的に可能な精製手段を用い、(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=カルボキシレート化合物を製造する方法を提供することを目的とする。
【0011】
また、ラセミ体の誘引活性を踏まえ、生物学的研究、農学的研究及び/又は実際の応用及び/又は利用等に必要な十分量のOMBの性フェロモン(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテートのラセミ体の製造方法を提供することも目的とする。より好ましくは、(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテートの4種のジアステレオマーのうち、天然のOMB性フェロモンと同じ相対立体配置を有する(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテートのジアステレオマー比(dr)を50%以上とすることができる立体選択的な製造方法を提供することを目的とする。ここで、ジアステレオマー比(dr)とは、注目するジアステレオマー1種のモル数を、存在する全ジアステレオマーの合計モル数で割り、%で表したものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、新規化合物であるビニルエーテル化合物とアルデヒド化合物、すなわち2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド、とが、カルボキシレート化合物、すなわち(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=カルボキシレート化合物、の製造において有用な中間体であることを見出した。
【0013】
また、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、上記の2つの中間体を経由することにより、有害試薬を使用せずとも、短工程で工業的に(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=カルボキシレート化合物を製造できることを見出した。
【0014】
さらに、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテートのラセミ体を製造できることに加えて、(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテートの4種のジアステレオマーのうち、天然のOMB性フェロモンと同じ相対立体配置を有する(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテートのジアステレオマー比(dr)を50%以上とすることができることを見出した。
【0015】
本発明の一つの態様によれば、下記一般式(1)で表されるビニルエーテル化合物を加水分解反応に付すことにより、下記式(2)で表される2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒドを得る工程を少なくとも含む、2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(2)の製造方法を提供できる。
【化1】
(上記一般式(1)中、Rは炭素数1~15の一価の炭化水素基を表し、波線はE体、Z体又はそれらの混合物であることを表す。)
【0016】
また、本発明のその他の態様によれば、上記の2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(2)の製造方法と、該2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(2)を水素添加反応に付すことにより、下記式(3)で表される2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドを得る工程を少なくとも含む、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)の製造方法を提供できる。
【化2】
【0017】
さらに、本発明のその他の態様によれば、上記の2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)の製造方法と、該2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)を、還元剤との還元反応に付すことにより、下記式(4)で表される(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メタノールを得る工程と、該(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メタノール(4)をエステル化反応に付すことにより、下記一般式(5)で表される(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=カルボキシレート化合物を得る工程とを少なくとも含む、(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=カルボキシレート化合物(5)の製造方法を提供できる。
【化3】
(上記一般式(5)中、Rは水素原子又は炭素数1~15の一価の炭化水素基を表す。)
【0018】
また、本発明のその他の態様によれば、上記のカルボキシレート化合物(5)が下記式(5A)で表される(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテートであり、該(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテートにおいて、4種のジアステレオマーのうち、下記式(5A’)で表される(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテートのジアステレオマー比(dr)が50%以上である、(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=カルボキシレート化合物(5)の製造方法を提供できる。
【化4】
(上記式(5A)及び(5A’)中、Acはアセチル基を表し、(R)、(S)、太線結合(bold bond)及びハッシュ結合(hashed bond)は相対立体配置を表し、以下同じである。)
【0019】
さらに、本発明のその他の態様によれば、下記式(6)で表される2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテノンと、下記一般式(7)で表されるリンイリド化合物とをウィッティッヒ(Wittig)反応に付すことにより、該ビニルエーテル化合物(1)を得る工程をさらに含む、上記の2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(2)、上記の2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)又は上記の(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=カルボキシレート化合物(5)の製造方法を提供できる。
【化5】
(上記一般式(7)中、Rは炭素数1~15の一価の炭化水素基を表し、Phはフェニル基を表す。)
【0020】
また、本発明のその他の態様によれば、下記一般式(1)で表されるビニルエーテル化合物を提供できる。
【化6】
(式中、Rは炭素数1~15の一価の炭化水素基であり、波線はE体、Z体又はそれらの混合物であることを表す。)
【0021】
さらに、本発明のその他の態様によれば、下記式(2)で表される2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒドを提供できる。
【化7】
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=カルボキシレート化合物、特には、重要農業害虫であるOMBの性フェロモンとして、発生予察及び防除等への応用が期待される(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテートを、安全に、効率的、選択的かつ工業的に製造できる。また、本発明によれば、(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=カルボキシレート化合物の製造に有用な中間体である上記ビニルエーテル化合物(1)及び上記2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(2)も提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。また、本明細書中の中間体、試薬及び目的物の化学式において、構造上、エナンチオ異性体又はジアステレオ異性体等の立体異性体が存在しうるものがあるが、特に記載がない限り、いずれの場合も各化学式はこれらの異性体のすべてを表すものとする。また、これらの異性体は、単独であってもよく又は混合物であってもよい。
【0024】
本発明者らは、以下に説明するように、上記目的化合物である(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=カルボキシレート化合物(5)の合成計画を考察した。
下記の逆合成解析の反応式は、上記(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=カルボキシレート化合物(5)のうち、OMB性フェロモンのラセミ体(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテート(5A’)を1つの例として示したものである。
【0025】
【化8】
(上式中、Rは炭素数1~15の一価の炭化水素基を表し、波線はE体、Z体又はそれらの混合物であることを表し、太線結合(bold bond)及びハッシュ結合(hashed bond)は相対立体配置を表す。)
【0026】
上記の逆合成解析の反応式中、白抜き矢印は逆合成解析(Retrosynthetic analysis)におけるトランスフォームを表す。
【0027】
(工程D’)
上記(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテート(5A’)は、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)のうち、式(3’)で表される(1RS,2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドから合成可能であると考えた。具体的には、1)必要に応じて、(1RS,2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3’)の1位の立体異性化(エピ化(epimerization))、2)アルデヒドのアルコールへの還元、そして、3)アルコールのエステル化、の少なくとも2工程又は、3工程により変換できる。
【0028】
(工程C’)
(1RS,2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3’)は、式(2)で表される2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒドの還元反応、好ましくは二重結合への水素添加反応に付すことにより合成可能と考えた。2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(2)のより空いた面、すなわち3位のメチル基の反対側の面から2位に水素が付加することにより、2,3位のジメチル基について望む立体配置を有するシス(cis)体が優先して生成すると予想した。また、(1RS,2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3’)にて2,3-シス配置が得られれば、その後の変換では立体異性化の恐れがなく、目的化合物まで、望む2,3-シス配置が保持される。したがって、上記2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(2)を基質として選択し、その上で、立体選択的水素化が期待される二重結合への水素添加反応を行うことが極めて重要である。また、一般的に水素添加反応は、非常に安価な分子状水素と、少量かつ再利用可能な水素添加触媒を用いて行うことができ、工業的経済性の観点からも有利である。
【0029】
(工程B’)
2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(2)は、一般式(1)で表されるビニルエーテル化合物を加水分解反応に付すことにより合成できると考えた。上記ビニルエーテル化合物(1)の加水分解においてアルデヒドを生じると、環内の二重結合は、アルデヒドのカルボニル基との共役により熱力学的により安定となる1,2位間へ、原料での2,3位間から容易に異性化すると考えられた。
【0030】
(工程A’)
上記ビニルエーテル化合物(1)は、公知のケトンでありかつ式(6)で表される2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテノンと式(7)で表されるリンイリド化合物とをウィッティッヒ(Wittig)反応に付すことにより合成可能であると考えた。
【0031】
そして、上記逆合成解析の反応式を考慮すると、本発明の一つの実施態様に従う化学反応式は、下記の通りに示される。
【化9】
【0032】
(工程A)上記化学反応式中に示される通り、2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテノン(6)とリンイリド化合物(7)とをウィッティッヒ(Wittig)反応に付すことにより、ビニルエーテル化合物(1)が得られる。
(工程B)次に、工程Aに従って得られたビニルエーテル化合物(1)を加水分解反応に付すことにより、2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(2)が得られる。
(工程C)工程Bに従って得られた2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(2)を水素添加反応に付すことにより、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)が得られる。
(工程D)2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)を、1)必要に応じて、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)の1位の立体異性化(エピ化)、2)アルデヒドのアルコールへの還元、そして、3)アルコールのエステル化、を行うことにより、目的化合物である(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=カルボキシレート化合物(5)が得られる。
【0033】
以下に、本発明の実施の形態の一例として、上記逆合成解析に基づく上記工程A~Dを、工程B、工程A、工程C、そして工程Dの順に詳細に説明する。
【0034】
[1]工程B
以下に、下記一般式(2)で表される2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(2)を得る工程Bについて説明する。2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(2)は、下記の化学反応式に示されている通り、下記一般式(1)で表されるビニルエーテル化合物を加水分解に付すことにより得られる。
【化10】
(上記一般式中、Rは上記で定義した通りであり、波線は、E体、Z体又はそれらの混合物であることを表す。)
【0035】
まず、工程Bの出発物質である下記一般式(1)で表されるビニルエーテル化合物について説明する。
【化11】
【0036】
一般式(1)において、Rは、炭素数1~15、好ましくは1~7、より好ましくは1~4の一価の炭化水素基を表し、波線は、E体、Z体又はそれらの混合物であることを表す。
一価の炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、デシル基、ウンデシル基及びペンタデシル基などの直鎖状の飽和炭化水素基;イソプロピル基、s-ブチル基、t-ブチル基及びイソブチル基などの分枝状の飽和炭化水素基;シクロヘキシル基などの環状の飽和炭化水素基;並びに、アリル基などの不飽和炭化水素基;フェニル基などのアリール基;並びに、ベンジル基及びフェネチル基などのアラルキル基が挙げられ、経済性の観点からメチル基、エチル基、フェニル基及びベンジル基が特に好ましい。また、これらの炭化水素基の水素原子の一部が置換されていてもよく、その場合の置換基としては、ハロゲン基、炭素数1~4のアルコキシ基、アルキルチオ基及びトリアルキルシリル基が好ましく、置換された炭化水素基としてより具体的には、2-(トリメチルシリル)エチル基、2-メトキシエチル基、2-(メチルチオ)エチル基、クロロフェニル基及びメトキシフェニル基が挙げられる。
【0037】
該ビニルエーテル化合物(1)の具体例としては、4-(メトキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン、4-(エトキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン、4-(プロポキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン、4-(ブトキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン、4-(ペンタデシルオキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン、4-(イソプロポキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン、4-(シクロヘキシルオキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン、4-(アリルオキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン、4-(フェノキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン、4-(ベンジルオキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン、4-[2-(トリメチルシリル)エトキシメチレン]-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン、4-[(2-メトキシエトキシ)メチレン]-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン、4-[2-(メチルチオ)エトキシメチレン]-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン、4-[(4-クロロフェノキシ)メチレン]-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン及び4-[(4-メトキシフェノキシ)メチレン]-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテンが挙げられ、原料入手及び/又は製造コスト等の観点から、4-(メトキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン、4-(エトキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン、4-(フェノキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン、4-(ベンジルオキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテンが好ましい。
該ビニルエーテル化合物(1)の製造方法については、後述の工程Aにて説明する。
【0038】
次に、工程Bの目的物質である2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(2)は、下記式(2)により表される。
【化12】
【0039】
上記加水分解反応は、該ビニルエーテル化合物(1)に、水と、必要に応じて酸及び/又は溶媒を加えることにより行うことができる。また、該水素添加反応は、冷却又は加熱しながら行ってもよい。
【0040】
該加水分解反応における水の使用量としては、実用上十分な反応速度が得られれば任意に設定でき、該ビニルエーテル化合物(1)1モルに対して、好ましくは0.1~100,000モル、より好ましくは0.5~10,000モル、さらに好ましくは1~1,000モルである。
【0041】
該加水分解反応に用いる酸としては、大量入手可能な市販の酸が好ましく、例えば、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸及びリン酸等の無機酸類又はこれらの塩類;ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸及びナフタレンスルホン酸等の有機酸類又はこれらの塩類;テトラフルオロホウ酸リチウム、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、三塩化アルミニウム、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、四塩化錫、四臭化錫、二塩化錫、四塩化チタン、四臭化チタン及びトリメチルシリル=ヨージド等のルイス酸類;アルミナ、シリカゲル及びチタニア等の酸化物;各種陽イオン交換樹脂;並びに、モンモリロナイト等の鉱物を挙げることができる。経済性及び/又は反応性等の観点から、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、ギ酸、酢酸、シュウ酸及びp-トルエンスルホン酸が好ましい。
該酸は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該酸は、市販されているものを用いることができる。
【0042】
該酸の使用量としては、実用上十分な反応速度が得られれば任意に設定できるが、経済性の観点からはなるべく少量が好ましく、該ビニルエーテル化合物(1)1モルに対して、好ましくは0.00001~10,000モル、より好ましくは0.0001~1,000モル、さらに好ましくは0.001~100モルである。
【0043】
該加水分解反応には水以外の溶媒を使用してもよい。
該溶媒としては、例えば、ジエチル=エーテル、ジブチル=エーテル、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサン等のエーテル類;ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン及びクメン等の炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルム及びトリクロロエチレン等の塩素系溶剤類;アセトン、メチル=エチル=ケトン等のケトン類;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、ジメチル=スルホキシド(DMSO)及びヘキサメチルホスホリック=トリアミド(HMPA)等の非プロトン性極性溶媒類;アセトニトリル及びプロピオニトリル等のニトリル類;酢酸エチル及び酢酸n-ブチル等のエステル類;並びに、メタノール、エタノール及びt-ブチル=アルコール等のアルコール類が挙げられ、好ましくは、ジエチル=エーテル及びテトラヒドロフランなどのエーテル類、又は該エーテル類を含む混合溶媒である。
該溶媒は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該溶媒は、市販されているものを用いることができる。
該溶媒の使用量としては、該ビニルエーテル化合物(1)1モルに対して、好ましくは10g~10,000gである。
【0044】
該加水分解反応の反応温度は、反応条件に拠るが、好ましくは-78~160℃、より好ましくは-50~140℃、さらに好ましくは-30~120℃である。
該加水分解反応の反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィー(GC)及び/又はシリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)等を用いて反応を追跡して、該反応を完結させることが収率の観点から望ましく、通常0.5~100時間が好ましい。
【0045】
該ビニルエーテル化合物(1)の加水分解においてアルデヒドを生じると、元々は2位の二重結合が、アルデヒドのカルボニル基との共役によって熱力学的により安定となる1位へと容易に異性化し、2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(2)が主成すると考えられる。
【0046】
また、該加水分解反応においては、反応の副生成物であるアルコールROHと、原料ビニルエーテル化合物(1)又は生成物である2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(2)との反応により、望まないアセタール化合物が副生する場合がある。その場合には、該望まないアセタール化合物の副生抑制のため、反応により生じたアルコールROHを、留出等の方法によって、反応系外に除去しながら該加水分解反応を行ってもよい。
【0047】
該加水分解反応により得られた2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(2)が、次工程に供するにあたり十分な純度を有している場合には、粗生成物のまま又は、ろ過済みの反応液のまま次の工程に用いてもよい。あるいは、混在する可能性がある二重結合の位置異性体等の不純物の分離除去をしたい場合は、蒸留及び/又は各種クロマトグラフィー等の通常の有機合成における精製方法から適宜選択して精製してもよい。精製を行う場合、工業的経済性の観点から、特に蒸留、例えば減圧蒸留が好ましい。
【0048】
[2]工程A
以下に、下記一般式(1)で表されるビニルエーテル化合物を得る工程Aについて説明する。該ビニルエーテル化合物(1)は、下記の化学反応式に示されている通り、下記式(6)で表される2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテノンと、下記式(7)で表されるリンイリド化合物(7)とをウィッティッヒ(Wittig)反応に付すことにより得られる。
【化13】
(上記一般式中、Rは炭素数1~15の一価の炭化水素基を示す。Phはフェニル基を表す。波線は、E体、Z体又はそれらの混合物であることを表す)
【0049】
工程Aの出発物質である2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテノン(6)は既知化合物であり、例えば、Bull.Soc.Chim.Fr.,2981(1970)又はJ.Am.Chem.Soc.,113,8062(1991)に記載の方法に従って、1工程で容易に製造可能である。
【0050】
次に、リンイリド化合物(7)について以下に説明する。
【化14】
【0051】
一般式(7)におけるRは、上記一般式(1)にて定義した通りである。
該リンイリド化合物(7)の具体例としては、(メトキシメチレン)トリフェニルホスホラン、(エトキシメチレン)トリフェニルホスホラン、(プロポキシメチレン)トリフェニルホスホラン、(ブトキシメチレン)トリフェニルホスホラン、(デシルオキシメチレン)トリフェニルホスホラン、(ペンタデシルオキシメチレン)トリフェニルホスホラン、(イソプロポキシメチレン)トリフェニルホスホラン、(シクロヘキシルオキシメチレン)トリフェニルホスホラン、(アリルオキシメチレン)トリフェニルホスホラン、(フェノキシメチレン)トリフェニルホスホラン、(ベンジルオキシメチレン)トリフェニルホスホラン、トリフェニル[2-(トリメチルシリル)エトキシメチレン]ホスホラン、[(2-メトキシエトキシ)メチレン]トリフェニルホスホラン、[2-(メチルチオ)エトキシメチレン]トリフェニルホスホラン、[(4-クロロフェノキシ)メチレン]トリフェニルホスホラン及び[(4-メトキシフェノキシ)メチレン]トリフェニルホスホラン等が挙げられ、原料入手及び/又は製造コスト等の観点から、(メトキシメチレン)トリフェニルホスホラン、(エトキシメチレン)トリフェニルホスホラン、(フェノキシメチレン)トリフェニルホスホラン及び(ベンジルオキシメチレン)トリフェニルホスホラン等が好ましい。
【0052】
該リンイリド化合物(7)の製造方法は特に限定されないが、該リンイリド化合物(7)は、例えば、下記の反応式に示される通り、トリフェニルホスホニウムハライド化合物(101)を塩基の存在下で脱ハロゲン化水素反応させることによって得られる。
【化15】
【0053】
上記一般式中、Rは、上記一般式(1)にて定義した通りである。Xはハロゲン原子を表し、好ましくは塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子である。Phはフェニル基を示す。
【0054】
一般式(101)におけるRは、上記一般式(1)で定義した通りである。Xはハロゲン原子であり、好ましくは塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子である。該トリフェニルホスホニウムハライド化合物(101)の具体例としては、(メトキシメチル)トリフェニルホスホニウムクロリド、(メトキシメチル)トリフェニルホスホニウムブロミド、(メトキシメチルトリフェニルホスホニウム)ヨージド、(エトキシメチル)トリフェニルホスホニウムクロリド、(ブトキシメチル)トリフェニルホスホニウムクロリド、(ペンタデシルオキシメチル)トリフェニルホスホニウムクロリド、(イソプロポキシメチル)トリフェニルホスホニウムクロリド、(シクロヘキシルオキシメチル)トリフェニルホスホニウムクロリド、(アリルオキシメチル)トリフェニルホスホニウムクロリド、(フェノキシメチル)トリフェニルホスホニウムクロリド、(ベンジルオキシメチル)トリフェニルホスホニウムクロリド、トリフェニル[2-(トリメチルシリル)エトキシメチレン]ホスホニウムクロリド、[(2-メトキシエトキシ)メチル)トリフェニルホスホニウムクロリド、[2-(メチルチオ)エトキシメチル)トリフェニルホスホニウムクロリド、[(4-クロロフェノキシ)メチル)トリフェニルホスホニウムクロリド及び[(4-メトキシフェノキシ)メチル)トリフェニルホスホニウムクロリド等が挙げられる。
トリフェニルホスホニウムハライド化合物(101)は、市販のものを用いてもよいし、あるいは、下記一般式(102)で表されるハロゲン化物とトリフェニルホスフィン(PPh)との4級ホスホニウム化反応により調製してもよい。
【0055】
【化16】
(上記一般式中、R、X及びPhは上記で定義した通りである。)
【0056】
ハロゲン化物(102)の具体例としては、クロロメチル=メチル=エーテル、ブロモメチル=メチル=エーテル、ヨードメチル=メチル=エーテル、クロロメチル=エチル=エーテル、ブチル=クロロメチル=エーテル、クロロメチル=ペンタデシル=エーテル、クロロメチル=イソプロピル=エーテル、シクロヘキシル=クロロメチル=エーテル、アリル=クロロメチル=エーテル、クロロメチル=フェニル=エーテル、ベンジル=クロロメチル=エーテル、2-メトキシエトキシメチルクロリド、クロロメチル=2-(トリメチルシリル)エチル=エーテル、クロロメチル=2-(メチルチオ)エトキシメチル=エーテル、クロロメチル=4-クロロフェニル=エーテル及びクロロメチル=4-メトキシフェニル=エーテル等が挙げられる。
【0057】
該トリフェニルホスホニウムハライド化合物(101)を調製する際、該反応を加速させるために、金属ハロゲン化物及び/又は四級オニウム塩を添加してもよい。
該金属ハロゲン化物としては、例えば、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム等が挙げられる。
該四級オニウム塩としては、テトラエチルアンモニウム=ブロミド、テトラブチルアンモニウム=ブロミド、テトラブチルホスホニウム=ブロミド、テトラエチルアンモニウム=ヨージド、テトラブチルアンモニウム=ヨージド及びテトラブチルホスホニウム=ヨージド等が挙げられる。
【0058】
また、該トリフェニルホスホニウムハライド化合物(101)を調製する際、炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム若しくは炭酸水素カリウム等の炭酸水素塩、炭酸リチウム、炭酸ナトリウム若しくは炭酸カリウム等の炭酸塩、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム若しくは水酸化カリウム等の水酸化物塩;又は、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、ピリジン、4-ジメチルアミノピリジン、キノリン、ピロリジン、ピペリジン、コリジン、ルチジン若しくはモルホリン等の有機塩基類を加え、塩基性寄りで反応を行ってもよい。
【0059】
該トリフェニルホスホニウムハライド化合物(101)の調製は、溶媒中で行うことが好ましい。
該溶媒としては、例えば、ジエチル=エーテル、ジブチル=エーテル、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサン等のエーテル類;ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン及びクメン等の炭化水素類;塩化メチレン、クロロホルム及びトリクロロエチレン等の塩素系溶剤類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジメチル=スルホキシド及びヘキサメチルホスホリック=トリアミド等の非プロトン性極性溶媒類;アセトニトリル及びプロピオニトリル等のニトリル類;酢酸エチル及び酢酸n-ブチル等のエステル類;並びに、メタノール、エタノール及びt-ブチルアルコール等のアルコール類が挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。
該溶媒の使用量としては、ハロゲン化物(102)1モルに対して、好ましくは10g~10,000gである。
【0060】
該トリフェニルホスホニウムハライド化合物(101)調製の反応温度は、用いる原料に応じて好適な条件を選択できるが、通常、-10℃~180℃、好ましくは0℃~160℃、さらに好ましくは10℃~140℃で行うことが好ましい。
該トリフェニルホスホニウムハライド化合物(101)調製の反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィー(GC)及び/又はシリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)等を用いて反応を追跡して、該反応を完結させることが収率の観点から望ましく、通常0.5~60時間が好ましい。
【0061】
該リンイリド化合物(7)の調製に用いる塩基としては、例えば、ナトリウム=メトキシド、ナトリウム=エトキシド、ナトリウム=t-ブトキシド、ナトリウム=t-アミロキシド、リチウム=メトキシド、リチウム=エトキシド、リチウム=t-ブトキシド、リチウム=t-アミロキシド、カリウム=メトキシド、カリウム=エトキシド、カリウム=t-ブトキシド及びカリウム=t-アミロキシド等の金属アルコキシド類;メチルリチウム、エチルリチウム、n-ブチルリチウム、塩化メチルマグネシウム、ナトリウム=アセチリド及びジムシルナトリウム等の有機金属試薬;ナトリウム=アミド、リチウム=アミド、リチウム=ジイソプロピルアミド、リチウム=ヘキサメチルジシラジド、ナトリウム=ヘキサメチルジシラジド、カリウム=ヘキサメチルジシラジド及びリチウム=ジシクロヘキシルアミド等の金属アミド類;並びに、水素化ナトリウム、水素化カリウム及び水素化カルシウム等の金属水素化物類を挙げることができる。
該塩基は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよく、基質であるトリフェニルホスホニウムハライド化合物(101)の種類及び/又は反応性及び/又は反応収率等を考慮して選択できる。また、該塩基は、市販されているものを用いることができる。
【0062】
該リンイリド化合物(7)の調製に用いる塩基の使用量としては、上記トリフェニルホスホニウムハライド化合物(101)1モルに対して、好ましくは0.7モル~5モルである。
該リンイリド化合物(7)の調製に用いる溶媒としては、該トリフェニルホスホニウムハライド化合物(101)の調製における溶媒と同じ溶媒を使用することができる。
【0063】
該リンイリド化合物(7)の調製における反応温度は、好ましくは-78~50℃、より好ましくは-78℃~35℃である。
該リンイリド化合物(7)の調製における反応時間は、5分間~18時間が好ましいが、試薬の安定性を考慮し、5分間~10時間がより好ましい。
【0064】
次に、工程Aの目的物質であるビニルエーテル化合物(1)については、上記[1]において説明した通りである。
【0065】
上記ウィッティッヒ反応は、溶媒中、2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテノン(6)を加えることにより行うことができる。また、該ウィッティッヒ反応は、冷却又は加熱しながら行ってもよい。
【0066】
該ウィッティッヒ反応における2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテノン(6)の使用量としては、上記リンイリド化合物(7)の理論量1モルに対して、0.1モル~5モル、好ましくは0.2モル~3モルである。
【0067】
該ウィッティッヒ反応における溶媒としては、上記トリフェニルホスホニウムハライド化合物(101)の調製における溶媒と同じ溶媒を使用することができる。
該ウィッティッヒ反応に使用する溶媒の使用量としては、リンイリド化合物(7)の理論量1モルに対して、好ましくは10g~10,000gである。
【0068】
該ウィッティッヒ反応の反応温度は、-78℃~50℃が好ましく、-50℃~35℃がより好ましい。
該ウィッティッヒ反応の反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィー(GC)及び/又はシリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)等を用いて反応を追跡して、該反応を完結させることが収率の観点から望ましく、通常0.5~24時間が好ましい。
【0069】
該ウィッティッヒ反応において得られたビニルエーテル化合物(1)が、次工程に供するにあたり十分な純度を有している場合には、粗生成物のまま又は、反応液若しくはろ過済みの反応液のまま次の工程に用いてもよい。あるいは、不純物の分離除去をしたい場合は、蒸留及び/又は各種クロマトグラフィー等の通常の有機合成における精製方法から適宜選択して精製してもよい。精製を行う場合、工業的経済性の観点からは、特に蒸留、例えば減圧蒸留が好ましい。
【0070】
なお、該ウィッティッヒ反応において得られるビニルエーテル化合物(1)には、環外二重結合の幾何異性に由来して、E体及びZ体の2種の幾何異性体がある。そのために、該ビニルエーテル化合物(1)は通常2種の混合物として存在するが、該幾何異性体を分離する必要することなしに、該混合物のままで問題なく次工程に用いることができる。
【0071】
[3]工程C
以下に、下記式(3)で表される2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒドを得る工程Cについて説明する。該2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)は、下記の化学反応式に示されている通り、工程Bで得られた2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(2)を水素添加反応に付すことにより得られる。
【化17】
【0072】
工程Cの出発物質である2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(2)については、上記[1]において説明した通りである。
【0073】
次に、工程Cの目的物質である下記の2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)について、以下に説明する。
【化18】
【0074】
2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)には、4種のジアステレオマーが存在し、下記の通りである:(1R,2R,3R)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(以下、(1R,2R,3R)-体ともいう);(1R,2S,3R)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(以下、(1R,2S,3R)-体ともいう);(1R,2S,3S)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(以下、(1R,2S,3S)-体ともいう);並びに、下記式(3”)で表される(1R,2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(以下、(1R,2R,3S)-体(3”)ともいう)。該(1R,2R,3S)-体(3”)は、OMB性フェロモンと同じ相対立体配置を有する。
【化19】
(上記式(3)中、太線結合(bold bond)及びハッシュ結合(hashed bond)は相対立体配置を表す。)
【0075】
上記水素添加反応は、該2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(2)に、水素添加触媒と必要に応じて溶媒とを加え、水素を作用させることにより行うことができる。また、該水素添加反応は、冷却又は加熱しながら行ってもよい。
【0076】
該水素添加触媒としては、例えば、コバルト、ニッケル、ロジウム、パラジウム、ルテニウム、オスミウム、白金、イリジウム、銅及び鉄等の金属(金属触媒とも云う)並びにこれら金属を含む金属酸化物(金属酸化物触媒とも云う);水酸化パラジウム、水酸化ロジウムなどの金属水酸化物;塩化パラジウム、塩化ルテニウム及び塩化ロジウム等の金属ハロゲン化物;並びに、塩化白金酸及びクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム等の錯体化合物等が挙げられる。
また、該水素添加触媒としては、上記に例示した金属触媒又は金属酸化物触媒が担体に担持されていてもよく、その場合の担体としては、カーボン、アルミナ、ゼオライト及びシリカゲル等が挙げられ、該担体としてカーボンが好ましく、該担体がカーボンである場合の具体例はロジウム=カーボン、パラジウム=カーボン、ルテニウム=カーボン、白金=カーボン及び水酸化パラジウム=カーボンが挙げられる。特に好ましくは、ロジウム=カーボン、パラジウム=カーボン及び水酸化パラジウム=カーボンである。
該水素添加触媒は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該水素添加触媒は、市販されているものを用いることができる。
【0077】
該水素添加触媒の使用量としては、実用上十分な反応速度が得られれば任意に設定できるが、経済性の観点からはなるべく少量が好ましく、該2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(2)1モルに対して、好ましくは0.00001~10モル、より好ましくは0.00001~1モル、さらに好ましくは0.00001~0.5モルである。
【0078】
該水素添加反応における溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t-ブチルアルコール、ベンジルアルコール、メトキシエタノール、エトキシエタノール、ジエチレングリコール=モノメチル=エーテル及びトリエチレングリコール=モノメチル=エーテル等のアルコール類;ジエチル=エーテル、ジ-n-ブチル=エーテル、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサン等のエーテル類;ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン及びクメン等の炭化水素類;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMI)、ジメチル=スルホキシド(DMSO)及びヘキサメチルホスホリック=トリアミド(HMPA)等の非プロトン性極性溶媒類;アセトニトリル及びプロピオニトリル等のニトリル類;ギ酸、酢酸及びトリフルオロ酢酸等のカルボン酸類;並びに水を挙げることができる。
該溶媒は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該溶媒は、市販されているものを用いることができる。
【0079】
該溶媒の使用量としては、2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(2)100質量部に対して、好ましくは0.01質量部~100,000質量部、更に好ましくは0.1質量部~10,000質量部である。
【0080】
該水素添加反応における水素圧は、常圧~5MPaが好ましい。
該水素添加反応の反応温度は、実用上十分な反応速度が得られれば任意に設定できるが、好ましくは-20℃~150℃、より好ましくは0℃~100℃である。
該水素添加反応の反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィー(GC)及び/又は薄層クロマトグラフィー(TLC)等を用いて反応を追跡して、該反応を完結させることが収率の観点から望ましく、通常5分間~240時間が好ましい。
【0081】
該水素添加反応得られた2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)が、次工程に供するにあたり十分な純度を有している場合には、粗生成物のまま又は、反応液若しくはろ過済みの反応液のまま次工程に用いてもよい。あるいは、不純物の分離除去をしたい場合は、蒸留及び/又は各種クロマトグラフィー等の通常の有機合成における精製方法から適宜選択して精製してもよい。精製を行う場合、工業的経済性の観点から、特に蒸留、例えば減圧蒸留が好ましい。
【0082】
なお、OMB性フェロモンのラセミ体(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテート(5A’)を製造する場合においては、下記式に示す、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)における2位と3位のジメチル基がシス(cis)配置である、下記の式(3’)で表される(1RS,2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3’)(以下、(1RS,2R,3S)-体(3’)ともいう)と、2位と3位のジメチル基がトランス(trans)配置である、(1RS,2S,3S)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)(以下、(1RS,2S,3S)-体ともいう)のうち、(1RS,2R,3S)-体(3’)が好ましい。
【化20】
【0083】
該(1RS,2R,3S)-体(3’)を優先的に製造するためには、上記水素添加触媒として、ロジウム、パラジウム等の金属若しくはこれら金属を含む金属酸化物、又はこれら金属触媒若しくは金属酸化物触媒を、カーボン、アルミナ、ゼオライト若しくはシリカゲル等の担体に担持した触媒を用いることが好ましく、カーボンが特に好ましく、具体的にはロジウム=カーボン、パラジウム=カーボン及び水酸化パラジウム=カーボンを用いることがさらに特に好ましい。一般に、これらの水素添加触媒を用いた水素添加反応では、基質分子の立体的に空いている面から水素原子が付加しやすいため、該水素添加反応においては、下記の化学反応式に示される通り、2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(2)のより空いた面、すなわち3位メチル基の反対側の面から優先的に水素が付加し、望む2,3-シス配置が選択的に得られると考えられる。なお、工程Cで得られた(1RS,2R,3S)-体(3’)の2,3-ジメチル基の相対立体配置は、次工程以降も最終物まで保持されるため、工程Cでの立体選択性を高めることが、目的物のジアステレオマー比を向上する上で非常に重要である。
【化21】
【0084】
[4]工程D
以下に、下記一般式(5)で表される(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=カルボキシレート化合物を得る工程Dについて説明する。該(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=カルボキシレート化合物(5)は、下記の化学反応式に示されている通り、工程Cにより得られた2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)を、還元剤との還元反応に付すことにより、下記式(4)で表される(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メタノールを得て、そして次に、該得られた(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メタノール(4)をエステル化反応に付すことにより得られる。
【化22】
【0085】
工程Dの出発物質である2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)については、上記[3]において説明した通りである。
【0086】
工程Dの中間物質である(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メタノールは下記式(4)により表される。
【化23】
【0087】
(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メタノール(4)には、4種のジアステレオマーが存在し、下記の通りである:(1R,2R,3R)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メタノール(以下、(1R,2R,3R)-体ともいう);(1R,2S,3R)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メタノール(以下、(1R,2S,3R)-体ともいう);(1R,2S,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メタノール(以下、(1R,2S,3S)-体ともいう);並びに、下記式(4’)で表される(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メタノール(4’)(以下、(1R,2R,3S)-体(4’)ともいう)。該(1R,2R,3S)-体(4’)は、OMB性フェロモンと同じ相対立体配置を有する。
【化24】
(上記式(4)中、太線結合(bold bond)及びハッシュ結合(hashed bond)は相対立体配置を表す。)
【0088】
(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メタノール(4)としては、OMB性フェロモンのラセミ体(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテート(5A’)の製造の観点から、すなわち、(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテートのジアステレオマー比(dr)が50%以上であるようにするために、下記式(4’)で表される(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メタノールが好ましい。
【化25】
【0089】
工程Dの目的物質である(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=カルボキシレート化合物(5)は下記一般式(5)により表される。
【化26】
(上記一般式(5)中、Rは水素原子又は炭素数1~15の一価の炭化水素基を表す。)
【0090】
該2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=カルボキシレート化合物(5)の具体例としては、(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=フォルメート、(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテート、(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=プロピオネート、(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=ブチレート、(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=ペンタノエート、(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=イソブチレート、(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=イソバレレート、(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=3-メチル-3-ブテノエート、(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=チグレート、(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=セネシオエート、(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アクリレート、(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=メタクリレート及び(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=2-アセトキシ-3-メチルブタノエート等が挙げられる。
【0091】
(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=カルボキシレート化合物(5)の中でも、上記一般式(5)中のRがメチル基であり、かつ下記一般式(5A)で表される(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテートが、重要害虫であるOMBの性フェロモンと同じ平面構造であることから、産業上の利用価値が高い。
【化27】
(上式中、Acはアセチル基を示す。)
【0092】
ここで、OMB性フェロモンの平面構造式により表される(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテート(5A)には、4種のジアステレオマーが存在し、具体的には下記の通りである:(1R,2R,3R)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテート(以下、(1R,2R,3R)-体ともいう);(1R,2S,3R)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテート(以下、(1R,2S,3R)-体ともいう);(1R,2S,3S)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテート(以下、(1R,2S,3S)-体ともいう);並びに、下記式(5A’)で表される(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテート(以下、(1R,2R,3S)-体(5A’)ともいう)。該(1R,2R,3S)-体(5A’)は、OMB性フェロモンと同じ相対立体配置を有する。
【化28】
(上記式(5A)中、Acはアセチル基を示す。(R)、(S)、太線結合(bold bond)及びハッシュ結合(hashed bond)は相対立体配置を表す。)
【0093】
(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテート(5A)の中でも、相対立体配置が(1R,2R,3S)である(1R,2R,3S)-体(5A’)は、OMB性フェロモンのラセミ体であり、前述の通りOMBのオスの誘引活性がすでに確認されていることから、産業上の利用価値が非常に高い。
なお、上記OMB性フェロモンのラセミ体とは、OMB性フェロモンである下記(1S,2S,3R)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテート(1S,2S,3R)-(5A’)と、その鏡像体(enantiomer)である(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテート(1R,2R,3S)-(5A’)との1:1混合物を意味する。
【化29】
(上式中の(R)、(S)、太線ウェッジ結合(bold wedged bond)及びハッシュウェッジ結合(hashed wedge bond)は絶対立体配置を表す。)
【0094】
ここで、非立体選択的に合成した場合、得られた合成物における、天然のOMB性フェロモンと同じ(1R,2R,3S)-体(5A’)のジアステレオマー比の期待値は25%dr程度となってしまう。実際に非立体選択的合成を報告した非特許文献1では、(1R,2R,3S)-体(5A’)のジアステレオマー比は20%dr未満である。(1R,2R,3S)-体(5A’)以外の80%以上を占める3種のジアステレオマーにはOMBに対する活性はなく、多量の不活性成分の混在が実用上なんらかの悪影響を及ぼす可能性が懸念される。また、同じ量の活性成分を製造する場合、例えばジアステレオマー比が半分になると総製造量は倍必要であり、工業的経済性の面からもジアステレオマー比が高い方が有利である。
そこで、上記OMB防除への利用における優位性から、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=カルボキシレート化合物(5)は、(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテート(5A)が好ましく、さらには、上記の(1R,2R,3S)-体(5A’)のジアステレオマー比(dr)が50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることがさらにより好ましい。
【0095】
上記還元工程では、下記の化学反応式に示されている通り、(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メタノール(4)が、基質である2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)を、還元剤と還元反応に付すことにより得られる。
【化30】
【0096】
該還元反応には、公知のアルデヒドからアルコールへの還元反応を適用することができる。該還元反応は、通常溶媒中、必要に応じて冷却又は加熱しながら上記基質を還元剤と反応させる。
【0097】
該還元反応における還元剤(reducing agent)としては、例えば、水素;ボラン、アルキルボラン、ジアルキルボラン及びビス(3-メチル-2-ブチル)ボラン等のホウ素化合物;ジアルキルシラン、トリアルキルシラン、水素化モノアルキルアルミニウム及び水素化ジアルキルアルミニウム等の金属水素化物類;水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素カルシウム、水素化アルミニウムナトリウム、水素化アルミニウムリチウム、水素化トリメトキシホウ素ナトリウム、水素化トリメトキシアルミニウムリチウム、水素化ジエトキシアルミニウムリチウム、水素化トリ(tert-ブトキシ)アルミニウムリチウム、水素化ビス(2-メトキシエトキシ)アルミニウムナトリウム及び水素化トリエチルホウ素リチウム等の錯水素化塩類(complex hydride);並びにそれらのアルコキシ又はアルキル誘導体が挙げられるが、反応条件及び/又は後処理の容易さ及び/又は生成物の単離の容易さ等の点で水素又は錯水素化塩類を使用することが好ましい。
該還元反応の還元剤に水素を用いる場合は、前述した工程Cの水素添加反応と同様に行うことができる。
【0098】
以下、該還元反応に水素以外の還元剤を用いる場合について詳述する。
該還元反応における還元剤の使用量は、使用する還元剤及び/又は反応条件等によって異なるが、一般的には基質である2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)1モルに対して、好ましくは0.1モルから大過剰量(2モル~500モル)、より好ましくは0.2モルから8.0モルである。
【0099】
該還元反応における溶媒としては、例えば、水;ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン及びクメン等の炭化水素類;ジエチル=エーテル、ジ-n-ブチル=エーテル、ジエチレングリコール=ジエチル=エーテル、ジエチレングリコール=ジメチル=エーテル、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサン等のエーテル類;メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、エチレングリコール=モノメチル=エーテル及びジエチレングリコール=モノメチル=エーテル等のアルコール類;アセトニトリル等のニトリル類;アセトン及び2-ブタノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸n-ブチル等のエステル類;並びに、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチル=スルホキシド及びヘキサメチルホスホリック=トリアミド等の非プロトン性極性溶媒類が挙げられる。
該溶媒は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該溶媒は、市販されているものを用いることができる。
該還元反応における溶媒としては、用いられる還元剤の種類によって適切なものを選択して用いることができる。例えば、還元剤と溶媒の好ましい組み合わせとしては、還元剤として水素化ホウ素リチウムを用いる場合には、エーテル類;エーテル類とアルコール類との混合溶媒;及び、エーテル類と炭化水素類との混合溶媒等が挙げられ、還元剤として水素化アルミニウムリチウムを用いる場合には、エーテル類;及び、エーテル類と炭化水素類との混合溶媒等が挙げられ、還元剤として水素化ホウ素ナトリウムを用いる場合には、アルコール類;エーテル類と水との混合溶媒;炭化水素類と水との混合溶媒;及び、エーテル類とアルコール類との混合溶媒等が挙げられる。
【0100】
該還元反応における溶媒の使用量としては、基質である2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)100質量部に対して、好ましくは0.01質量部~100,000質量部、更に好ましくは0.1質量部~10,000質量部である。
【0101】
該還元反応における反応温度は、用いる試薬及び/又は溶媒により異なるが、例えば、還元剤としてテトラヒドロフラン中で水素化アルミニウムリチウムを用いる場合は、反応温度は好ましくは-78℃~50℃、より好ましくは-70℃~20℃である。
該還元反応における反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィー(GC)及び/又はシリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)等を用いて反応を追跡して、該反応を完結させることが収率の観点から望ましく、通常0.5~100時間が好ましい。
【0102】
次に、上記エステル化工程では、下記の化学反応式に示されている通り、(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=カルボキシレート化合物(5)が、(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メタノール(4)をエステル化反応に付すことにより得られる。以下、反応基質である(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メタノール(4)を、反応基質のアルコール(4)という。
【化31】
【0103】
該エステル化工程は、公知のエステルの製造方法、例えば、(i)アシル化剤との反応、(ii)カルボン酸との反応、(iii)エステル交換反応及び(iv)基質のアルコール化合物(4)をアルキル化剤に変換し、その後にカルボン酸と反応させる方法を適用できる。
【0104】
(i)アシル化剤との反応
該アシル化剤との反応は、反応基質のアルコール(4)を、アシル化剤と塩基又は酸とを、順次又はその逆で又は同時に反応させることによって行われる。
【0105】
該アシル化剤との反応は、溶媒中又は無溶媒で行われてよい。
該アシル化剤との反応に用いる溶媒としては、例えば、塩化メチレン、クロロホルム及びトリクロロエチレン等の塩素系溶剤類;へキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン及びクメン等の炭化水素類;ジエチル=エーテル、ジ-n-ブチル=エーテル、ジエチレングリコール=ジエチル=エーテル、ジエチレングリコール=ジメチル=エーテル、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサン等のエーテル類;アセトニトリル等のニトリル類;アセトン及び2-ブタノン等のケトン類;酢酸エチル及び酢酸n-ブチル等のエステル類;並びに、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチル=スルホキシド及びヘキサメチルホスホリック=トリアミド等の非プロトン性極性溶媒類が挙げられる。
該溶媒は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該溶媒は、市販されているものを用いることができる。
【0106】
該アシル化剤としては、例えば、カルボン酸クロリド、カルボン酸ブロミド、カルボン酸無水物、カルボン酸トリフルオロ酢酸混合酸無水物、カルボン酸メタンスルホン酸混合酸無水物、カルボン酸トリフルオロメタンスルホン酸混合酸無水物、カルボン酸ベンゼンスルホン酸混合酸無水物、カルボン酸p-トルエンスルホン酸混合酸無水物及びカルボン酸p-ニトロフェニル等が挙げられる。
アシル化剤の使用量としては、反応基質のアルコール(4)1モルに対して、0.8モル~500モル、好ましくは0.8モル~50モル、より好ましくは0.8モル~5モルである。
【0107】
該塩基類としては、好ましくはトリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N,N-ジメチルアニリン、ピリジン及び4-ジメチルアミノピリジン等が挙げられる。
【0108】
酸無水物等のアシル化剤を用いる反応では、上記塩基類の代わりに酸触媒下で反応を行うことができる。
該酸触媒としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸及び硝酸等の無機酸類;シュウ酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸及びp-トルエンスルホン酸等の有機酸類;並びに、三塩化アルミニウム、アルミニウム=エトキシド、アルミニウム=イソプロポキシド、酸化アルミニウム、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、四塩化錫、四臭化錫、二塩化ジブチル錫、ジブチル錫=ジメトキシド、ジブチル錫=オキシド、四塩化チタン、四臭化チタン、チタン(IV)メトキシド、チタン(IV)=エトキシド、チタン(IV)=イソプロポキシド及び酸化チタン(IV)等のルイス酸(Lewis acid)類が挙げられる。
該塩基類又は該酸触媒の使用量としては、反応基質のアルコール(4)1モルに対して、0.0001モル~500モル、好ましくは0.001モル~50モル、より好ましくは0.01モル~5モルである。
【0109】
該アシル化剤との反応における反応温度は、用いるアシル化剤の種類及び/又は反応条件により適切な反応温度を選択できるが、一般的には-50℃~溶媒の沸点が好ましく、-20℃~100℃が更に好ましい。
該アシル化剤との反応における反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィー(GC)及び/又はシリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)等を用いて反応を追跡して、該反応を完結させることが収率の観点から望ましく、通常0.5~100時間が好ましい。
【0110】
(ii)カルボン酸との反応
該カルボン酸との反応は、反応基質のアルコール(4)とカルボン酸との脱水縮合反応であり、一般的に酸の存在下で行われる。
該カルボン酸は、一般式RCOOHで示される。
上記式中、Rは、水素原子又は炭素数1~15、好ましくは1~6の一価の炭化水素基である。
の一価の炭化水素基として、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、ヘキシル基及びペンタデシル基などの直鎖状飽和炭化水素基;イソプロピル基、s-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基及びイソヘキシル基などの分枝状飽和炭化水素基;ビニル基、アリル基、2-メチルアリル基、1-プロペニル基、イソプロペニル基、1-メチル-1-プロペニル基及び2-メチル-1-プロペニル基などの鎖状アルケニル基が挙げられる。また、これらの炭化水素基の水素原子の一部が炭素数1~6のアシル基で置換されていてもよく、具体的には1-アセトキシ-2-メチルプロピル基が挙げられる。該カルボン酸としてより具体的には、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘプタン酸、ヘキサデカン酸、イソ酪酸、イソ吉草酸、ピバリン酸、メチルヘプタン酸、アクリル酸、ビニル酢酸、プロペニル酢酸、クロトン酸、メタクリル酸、チグリン酸、セネシオ酸及び2-アセトキシ-3-メチルブタン酸が挙げられる。
【0111】
カルボン酸の使用量としては、反応基質のアルコール(4)1モルに対して、0.8モル~500モル、好ましくは0.8モル~50モル、より好ましくは0.8モル~5モルである。
カルボン酸との反応に用いる酸触媒の例としては、上記の(i)アシル化剤との反応と同様のものを挙げることができる。
酸触媒の使用量としては、反応基質のアルコール(4)1モルに対して、0.0001モル~100モル、好ましくは0.001モル~1モル、より好ましくは0.01モル~0.5モルの触媒量である。反応基質のアルコール(4)とカルボン酸との反応に用いる溶媒としては、上記アシル化剤との反応と同様のものが挙げられる。
【0112】
カルボン酸との反応における反応温度は、カルボン酸の種類及び/又は反応条件により適切な反応温度を選択できるが、一般的には-50℃から溶媒の沸点が好ましく、室温から溶媒の沸点が更に好ましい。へキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、クメン等の炭化水素類を含む溶媒を用いて、生じる水を共沸により系外に除去しながら反応を進行させてもよい。この場合、常圧で溶媒の沸点で還流しながら水を留去してもよいし、減圧下により低い温度で水の留去を行ってもよい。
カルボン酸との反応における反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィー(GC)及び/又はシリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)等を用いて反応を追跡して、該反応を完結させることが収率の観点から望ましく、通常1~200時間が好ましい。
【0113】
カルボン酸との反応の別法として、カルボン酸を縮合剤と縮合反応させ、その後に、縮合反応生成物と反応基質のアルコール(4)とを、塩基性条件下で縮合反応させる手法も可能である。
該別法におけるカルボン酸の使用量としては、反応基質のアルコール(4)1モルに対して、0.8モル~500モル、好ましくは0.8モル~50モル、より好ましくは0.8モル~5モルである。
該縮合剤の例としては、例えば、N,N’-ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、N,N’-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド(EDC)及び1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩(EDC・HCl)等のカルボジイミド類;並びに、O-(7-アザ-1H-ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウム=ヘキサフルオロホスファート(HATU)及びO-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウム=ヘキサフルオロホスファート(HBTU)等のウロニウム塩類が挙げられる。
該縮合剤は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該縮合剤は、市販されているものを用いることができる。
該縮合剤の使用量としては、反応基質のアルコール(4)1モルに対して、0.8モル~500モル、好ましくは0.8モル~50モル、より好ましくは0.8モル~5モルである。塩基類としては、例えば、トリエチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、N,N-ジメチルアニリン、ピリジン、4-ジメチルアミノピリジン等が挙げられる。
該別法に用いる溶媒としては、上記アシル化剤との反応で用いられる溶媒と同じ溶媒が挙げられる。
【0114】
該別法における反応温度は、カルボン酸の種類及び/又は反応条件により適切な反応温度を選択できるが、一般的には-50℃~溶媒の沸点が好ましく、室温~溶媒の沸点温度が更に好ましい。
該別法における反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィー(GC)及び/又はシリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)等を用いて反応を追跡して、該反応を完結させることが収率の観点から望ましく、通常0.5~100時間が好ましい。
【0115】
(iii)エステル交換反応
該エステル交換反応は、下記の反応式に示されている通り、反応基質のアルコール(4)とカルボン酸アルキル(RCOOR)とを反応触媒の存在下で反応させて、生じるアルキルアルコール(ROH)を除去することによって行われる。
【化32】
(上記反応式中、Rはアルキル基を表し、Rは上記の通りである。)
【0116】
該カルボン酸アルキルとしては、カルボン酸の一級アルキルエステルが好ましく、特にカルボン酸メチル(RCOOCH)、カルボン酸エチル(RCOOCHCH)、カルボン酸n-プロピル(RCOOCHCHCH)が価格及び/又は反応の進行のし易さ等の観点から好ましい。
上記カルボン酸の一級アルキルエステルを示す一般式中のRは、上記(ii)カルボン酸との反応における一般式RCOOH中のRで定義した通りである。
該カルボン酸アルキルの使用量としては、反応基質のアルコール(4)1モルに対して、0.8モル~500モル、好ましくは0.8モル~50モル、より好ましくは0.8モル~5モルである。
該エステル交換反応に用いる触媒としては、例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸及び硝酸等の無機酸類;シュウ酸、トリフルオロ酢酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸及びp-トルエンスルホン酸等の有機酸類;ナトリウム=メトキシド、ナトリウム=エトキシド、カリウム=t-ブトキシド及び4-ジメチルアミノピリジン等の塩基類;青酸ナトリウム、青酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、酢酸カルシウム、酢酸錫、酢酸アルミニウム、アセト酢酸アルミニウム及びアルミナ等の塩類;三塩化アルミニウム、アルミニウム=エトキシド、アルミニウム=イソプロポキシド、酸化アルミニウム、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、塩化マグネシウム、臭化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム、塩化亜鉛、臭化亜鉛、ヨウ化亜鉛、四塩化錫、四臭化錫、二塩化ジブチル錫、ジブチル錫=ジメトキシド、ジブチル錫=オキシド、四塩化チタン、四臭化チタン、チタン(IV)メトキシド、チタン(IV)=エトキシド、チタン(IV)=イソプロポキシド及び酸化チタン(IV)等のルイス酸(Lewis acid)類を挙げることができる。
該触媒は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該触媒は、市販されているものを用いることができる。
該触媒の使用量としては、反応基質のアルコール(4)1モルに対して、0.0001モル~100モル、好ましくは0.001モル~1モル、より好ましくは触媒量である0.001モル~0.05モルである。
【0117】
該エステル交換反応における溶媒としては、例えば、へキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン及びクメン等の炭化水素類;ジエチル=エーテル、ジ-n-ブチルエーテル、ジエチレングリコール=ジエチル=エーテル、ジエチレングリコール=ジメチル=エーテル、テトラヒドロフラン及び1,4-ジオキサン等のエーテル類が挙げられる。
該溶媒は、1種類又は必要に応じて、2種類以上を使用してもよい。また、該溶媒は、市販されているものを用いることができる。
また、エステル交換反応の条件によっては溶媒を用いずに、反応試薬であるカルボン酸アルキル自身を溶媒として用いることができる。この場合、余計な濃縮及び/又は溶媒回収等の操作を必要としない点で有利である。
【0118】
該エステル交換反応における反応温度は用いるカルボン酸アルキルの種類及び/又は反応条件により適切な温度を選択できるが、通常、加熱下に行われ、該エステル交換反応で生じる低沸点の低級アルコール、即ち、メタノール、エタノール、1-プロパノール等の沸点付近で反応を行い、生じる低級アルコールを留去しながら行うと特によい結果を与える。減圧下において、低い温度でアルコールの留去を行ってもよい。
該エステル交換反応における反応時間は、任意に設定できるが、ガスクロマトグラフィー(GC)及び/又はシリカゲル薄層クロマトグラフィー(TLC)等を用いて反応を追跡して、該反応を完結させることが収率の観点から望ましく、通常1~200時間が好ましい。
【0119】
(iv)反応基質のアルコール(4)をアルキル化剤に変換し、その後にカルボン酸と反応させる方法
反応基質のアルコール(4)をアルキル化剤に変換し、その後にカルボン酸と反応させる方法では、例えば、反応基質のアルコール(4)を対応するハロゲン化物(塩化物、臭化物若しくはヨウ化物)又はスルホネート(例えば、メタンスルホネート、トリフルオロメタンスルホネート、ベンゼンスルホネート若しくはp-トルエンスルホネート等)に変換し、これら対応するハロゲン化物とカルボン酸とを、通常は溶媒中、塩基性条件下で反応させる。また、反応基質のアルコール(4)をトリフェニルホスフィンとジエチル=アゾジカルボキシレートと混合し、その後に、これら混合物をカルボン酸と、通常は溶媒中、反応させることもできる。
該カルボン酸としては、(ii)カルボン酸との反応で使用するカルボン酸と同じものを挙げることができる。
用いる溶媒、塩基、反応時間及び反応温度としては、反応基質のアルコール(4)とアシル化剤との反応におけるそれらと同じであることができる。カルボン酸と塩基との組み合わせの代わりに、カルボン酸ナトリウム、カルボン酸リチウム、カルボン酸カリウム又はカルボン酸アンモニウム等のカルボン酸塩を用いてもよい。
【0120】
上記のようにして合成した、(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=カルボキシレート化合物(5)の単離及び/又は精製は、減圧蒸留及び/又は各種クロマトグラフィー等の通常の有機合成における精製方法から適宜選択して用いることができるが、工業的経済性の観点から減圧蒸留が好ましい。
【0121】
上記還元反応工程の前に、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)を異性化反応に付してもよい。
該異性化工程は任意工程であり、1,2位置換基のトランス(trans)選択性を向上する必要がある場合に実施してもよい。
【0122】
該異性化工程の1つの実施態様として、下記の化学反応式が挙げられる。
【化33】
【0123】
上記化学反応式は、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)の代わりに、(1R,2R,3S)-体(3’)を出発物質として用い、(1R,2R,3S)-体(3”)を経由し、そして目的化合物である(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=カルボキシレート化合物(5)のうち、OMB性フェロモンのラセミ体(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテート(5A’)を選択的に合成することを目的とする。
【0124】
詳細には、該化学反応式は、該(1RS,2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3’)を異性化反応に付すことにより、(1R,2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3”)を得る工程、該得られた(1R,2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3”)を、還元剤との還元反応に付すことにより、(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メタノール(4’)を得る工程、及び該得られた(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メタノール(4’)をエステル化反応に付すことにより、(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテート(5A’)を得る工程を含む。なお、上記で述べた通り、異性化反応は任意工程であるために、上記(1RS,2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3’)を異性化反応に付さずに、直接、還元反応に付してもよい。
【0125】
上記異性化工程は、例えば基質である(1RS,2R,3S)-体(3’)を酸性又は塩基性条件下で処理することにより行うことができる。(1RS,2R,3S)-体(3’)の1位のアルデヒドは、酸性又は塩基性条件下にてエノール型とアルデヒド型との平衡化により立体異性化が可能であり、熱力学的により安定な立体配置に収束するため、1,2位の置換基同士の立体反発がより少ない1,2-トランス(trans)体の存在比率が向上して、(1R,2R,3S)-体(3”)を与えるものと考えられる。
【0126】
該異性化反応は、基質と、酸又は塩基と、必要に応じて溶媒とを混合することにより行うことができる。また、該異性化反応は、冷却又は加熱しながら行ってもよい。
【0127】
該異性化反応を酸性条件下にて行う場合に好適に用いられる酸とその使用量は、上記工程Bの加水分解反応において用いられる酸とその使用量と同じである。
【0128】
該異性化反応を塩基性条件下にて行う場合に好適に用いられる塩基は、上記工程Aのリンイリド化合物(7)の調製工程に用いられる塩基と同じである。
該塩基の使用量としては、実用上十分な反応速度が得られれば任意に設定できるが、基質である2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)1モルに対して、好ましくは0.00001~10,000モル、より好ましくは0.0001~1,000モル、さらに好ましくは0.001~100モルである。
【0129】
該異性化反応において、用いてもよい溶媒とその使用量、反応温度及び反応時間は、上記工程Bの加水分解反応において用いられる溶媒とその使用量、反応温度及び反応時間と同じである。
【0130】
該異性化反応において得られた(1R,2R,3S)-体(3”)が、次工程に供するにあたり十分な純度を有している場合は、粗生成物のまま又は、反応液若しくはろ過済みの反応液のまま次の工程に用いてもよい。あるいは、不純物の分離除去をしたい場合は、蒸留及び/又は各種クロマトグラフィー等の通常の有機合成における精製方法から適宜選択して精製してもよい。精製を行う場合、工業的経済性の観点から、特に蒸留、例えば減圧蒸留が好ましい。
【0131】
上記異性化反応は、(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテート(5A’)のジアステレオマー比(dr)が50%以上になるようにすることを可能にする1つの理由である。
【0132】
次に、上記得られた(1R,2R,3S)-体(3”)を、還元剤との還元反応に付すことにより、(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メタノール(4’)が得られる。
【0133】
最後に、上記得られた(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メタノール(4’)をエステル化に付すことにより、OMB性フェロモンのラセミ体(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテート(5A’)が得られる。
(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メタノール(4’)のジアステレオマー比が50%dr以上であることにより、(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテート(5A’)のジアステレオマー比(dr)が50%以上であるようにしうる。
【0134】
本発明の製造方法によれば、OMB性フェロモンの平面構造式に対応する(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテートの4種のジアステレオマーのうち、天然のOMB性フェロモンと同じ(1R,2R,3S)-体(5A’)を50%dr以上の選択性で立体選択的かつ容易に製造できる。また、反応条件の調整等により、60%dr以上、70%dr以上、80%以上、さらには90%以上をも達成可能である。
【実施例
【0135】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
なお、以下において、「純度」は、特に明記しない限り、ガスクロマトグラフィー(GC)分析によって得られた面積百分率を示し、「生成比」は、GC分析によって得られた面積百分率の相対比を示す。
また「収率」は、GC分析によって得られた面積百分率を基に算出した収率を示す。
各実施例において、反応のモニタリング及び収率の算出は、基本的に次のGC条件に従って行った。
GC条件: GC装置:SHIMADZU GC-2014,キャピラリーカラム:DB-5、内径0.25mm×膜厚0.25μm×長さ30m、キャリアーガス:He、検出器:FID、カラム温度:80℃→+5℃/分昇温、注入口:230℃。
なお、原料、生成物及び中間体の純度として、ガスクロマトグラフィー(GC)分析によって得られた値を用い、%GCと表記する。
収率は、原料及び生成物の純度(%GC)を考慮して、以下の式に従い計算した。
収率(%)={[(反応によって得られた生成物の重量×%GC)/生成物の分子量]÷[ (反応における出発原料の重量×%GC)/出発原料の分子量]}×100。
なお、「粗収率」とは、精製せずに算出した収率をいう。
化合物のスペクトル測定のためのサンプルは、必要に応じて粗生成物を精製した。
以下の化学構造式中、Meはメチル基を表し、Phはフェニル基を表し、Acはアセチル基を表す。
【0136】
[実施例1]
4-(メトキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン(1A)(1:R=メチル基)の合成
【0137】
【化34】
【0138】
カリウムtert-ブトキシド183g及びテトラヒドロフラン847gの混合物を窒素雰囲気下、氷冷撹拌しながら、(メトキシメチル)トリフェニルホスホニウムクロリド588gを加えて100分間撹拌し、リンイリド(7A)(7:R=メチル基)を調製した。2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテン-1-オン(6)121g(98.0%GC)及びテトラヒドロフラン480gの混合物を加えて、一晩撹拌した。溶媒を留去し、ヘキサンにて可溶分を抽出し、そしてヘキサンを留去して、粗生成物を得た。減圧蒸留により精製を行い、4-(メトキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン(1A)116g(98.3%GC、収率80%)を環外二重結合の幾何異性である幾何異性体混合物(生成比:E体/Z体=75/25)として得た(沸点73-75℃/1.0kPa)。
【0139】
4-(メトキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン(1A)
淡黄色油状物(Yellowish oil)。
IR(D-ATR):ν=2954、2928、2862、2830、1705、1668、1461、1376、1358、1328、1251、1223、1135、1090、982、802cm-1
H-NMR(500MHz、CDCl):
主要異性体(E体):δ=0.96(6H、s)、1.54(3H、s)、1.58(3H、d、J=0.8Hz)、2.21(2H、d、J=2.3Hz)、3.53(3H、s)、5.98(1H、tq、J=2.3、0.8Hz)ppm。
少量異性体(Z体):δ=0.93(6H、s)、1.54(3H、s)、1.79(3H、d、J=0.8Hz)、2.13(2H、d、J=1.5Hz)、3.44(3H、s)、5.76(1H、tq、J=1.5、0.8Hz)ppm。
13C-NMR(126MHz、CDCl):E/Z幾何異性体混合物、δ=9.40、9.64、10.08、13.16、26.62、27.25、41.28、42.58、43.81、44.41、59.08、59.40、122.26、125.01、127.56、129.18、136.64、137.01、143.19、145.38ppm。
GC-MS(EI,70eV):29、41、53、65、77、91、105、119、136、151、166(M+)。
【0140】
[実施例2]
2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(2)の合成
【0141】
【化35】
【0142】
実施例1に従って得られた4-(メトキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン(1A)20.0g(98.3%GC)、ヘキサン40g、テトラヒドロフラン40g及び20%塩酸65gの混合物を窒素雰囲気下、6時間撹拌した。有機層を分離し、そして次に、通常の分液洗浄、そして濃縮による後処理操作を行い、粗生成物を得た。該粗生成物を減圧蒸留により精製して、2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(2)11.7g(95.1%GC、収率62%)を得た(沸点61℃/0.45kPa)。
【0143】
2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(2)
淡褐色油状物(Brownish oil)。
IR(D-ATR):ν=2960、2869、2719、1663、1633、1440、1377、1340、1256、1228、1210cm-1
H-NMR(500MHz、CDCl):δ=1.03(3H、s)、0.97(3H、d、J=7.7Hz)、8.72(3H、s)、2.06(3H、m)、2.25(1H、m、※d、J=15.6Hzを含む)、2.32(1H、m、※d、J=15.6Hzを含む)、2.35(1H、m、※q、J=7.7Hzを含む)、9.98(1H、s)ppm。
13C-NMR(126MHz、CDCl):δ=11.86、12.88、23.25、28.65、39.89、43.28、55.53、136.41、165.40、188.70ppm。
GC-MS(EI,70eV):27、41、55、67、81、95、109、123、137、152(M+)。
【0144】
[実施例3]
2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)、((1RS,2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3’)と(1RS,2R,3R)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド)の合成
【0145】
【化36】
【0146】
実施例2に従って得られた2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(2)11.3g(88.4%GC)、ヘキサン136g及び5%ロジウム・炭素1.35gを圧力容器(autoclave)に仕込み、水素ガスを封入して、20時間撹拌した。固形分を濾別し、溶媒を留去して、2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)12.0g(71.3%GC、粗収率85%)を粗生成物として得た。なお、(1RS,2R,3S)-体(3’)(2,3位に関しOMB性フェロモンと同じ立体配置)/(1RS,2R,3R)-体(2,3位に関しOMB性フェロモンとは異なる立体配置)の生成比はGC分析より、96/4であった。(1RS,2R,3S)-体(3’)としてのGC純度は、68.7%GC、粗収率82%であった。
【0147】
2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3)
淡黄色油状物(Yellowish oil)。
IR(D-ATR):ν=2959、2872、2707、1723、1663、1456、1379cm-1
GC-MS(EI,70eV):29、41、55、69、83、97、98、109、123、139、154(M+)。
【0148】
[実施例4]
(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メタノール(4’)の合成
【0149】
【化37】
【0150】
実施例3に従って得られた(1RS,2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチルシクロペンタンカルバルデヒド(3’)12.0g(68.7%GC)、テトラヒドロフラン50g、5%苛性ソーダ水溶液22gの混合物を、窒素雰囲気下で40時間撹拌した後、10%水素化ホウ素ナトリウム水溶液10.1gを加え、さらに2時間撹拌した。反応液をヘキサンで希釈し、有機層を分離し、そして次に、通常の分液洗浄、そして濃縮による後処理操作を行い、粗生成物を得た。該粗生成物を減圧蒸留により精製して、(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メタノール(4’)6.95g(88.0%GC、収率73%)を得た(沸点91-92℃/1.0kPa)。
【0151】
(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メタノール(4’)
無色油状物(Colorless oil)。
IR(D-ATR):ν=3329(ブロード)、2955、2872、1459、1386、1377、1053、1005cm-1
H-NMR(500MHz、CDCl):δ=0.78(3H、d、J=7.3Hz)、0.86(3H、s)、0.95(3H、d、J=6.9Hz)、0.97(3H、s)、1.16(1H、dd、J=12.2、9.6Hz)、1.61(1H、br.s)、1.64(1H、dq、J=9.2、7.3Hz)、1.68(1H、dd、J=12.6、8.0Hz)、1.81(1H、m)、1.88(1H、m)、3.52(1H、dd、J=10.3、7.3Hz)、3.66(1H、dd、J=10.3、5.4Hz)ppm。
13C-NMR(126MHz、CDCl):δ=10.24、17.43、23.86、29.78、38.62、41.33、44.50、46.19、48.20、67.47ppm。
GC-MS(EI,70eV):29、41、55、69、82、97、109、123、141、154(M+)。
【0152】
[実施例5]
(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテート(5A’)の合成
【0153】
【化38】
【0154】
実施例4に従って得られた(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メタノール(4’)6.45g(88.0%GC)、ピリジン7.20g及び無水酢酸6.30gの混合物を、窒素雰囲気下で4時間撹拌した。水とヘキサンを加え、有機層を分離し、そして次に、通常の分液洗浄、そして濃縮による後処理操作を行い、粗生成物を得た。該粗生成物を減圧蒸留により精製して、(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテート(5A’)7.48g(88.6%GC、収率92%)を得た(沸点87℃/0.87kPa)。
GC分析により、OMB性フェロモンと同じ相対立体配置を有する(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテート(5A’)のジアステレオマー比は92.8%drであった。
【0155】
(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテート(5A’)
無色油状物(Colorless oil)。
IR(D-ATR):ν=2957、2873、1743、1458、1367、1242、1042、970cm-1
H-NMR(500MHz、CDCl):δ=0.78(3H、d、J=7.3Hz)、0.85(3H、s)、0.95(3H、d、J=6.9Hz)、0.97(3H、s)、1.15(1H、dd、J=12.6、9.2Hz)、1.65(1H、dq、J=8.7、7.3Hz)、1.67(1H、dd、J=12.6、7.6Hz)、1.87-1.97(2H、m)、2.05(3H、s)、3.99(1H、dd、J=10.7、6.9Hz)、4.06(1H、dd、J=10.7、5.8Hz)ppm。
13C-NMR(126MHz、CDCl):δ=10.22、17.14、21.02、23.84、29.73、39.11、41.28、44.49、44.52、46.21、68.76、171.35ppm。
GC-MS(EI,70eV):29、43、55、69、82、97、109、123、138、154、165、178、192。
【0156】
[実施例6]
(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテート(5A)の合成
【0157】
【化39】
【0158】
実施例2に従って得られた2,3,4,4-テトラメチル-1-シクロペンテンカルバルデヒド(2)の粗生成物6.84g(78.0%GC、粗収率88.9%)、テトラヒドロフラン27g及び5%パラジウム・炭素0.38gを圧力容器(autoclave)に仕込み、水素ガスを封入して、18時間撹拌した。固形分を濾別し、そして次に、5%苛性ソーダ水溶液15.4gを加え、窒素雰囲気下で18時間撹拌した。反応混合物に、10%水素化ホウ素ナトリウム水溶液7.3gを加え、3時間撹拌した。反応液をヘキサンで希釈し、有機層を分離し、そして次に、通常の分液洗浄、そして濃縮による後処理操作を行い、(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メタノール(4)の粗生成物を得た。続いて、ピリジン7.59g及び無水酢酸5.88gを加え、窒素雰囲気下で5時間撹拌した。攪拌終了後、水とヘキサンを加え、有機層を分離し、そして次に、通常の分液洗浄、そして濃縮による後処理操作を行い、粗生成物を得た。該粗生成物を減圧蒸留により精製して、(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテート(5A)5.87g(90.4%GC)を得た(沸点92-96℃/1.1kPa)。
4-(メトキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチル-2-シクロペンテン(1A)からの収率は68%であり、2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテン-1-オン(6)からの全収率は55%であった。
GC分析より、OMB性フェロモンと同じ相対立体配置を有する(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテート(5A’)のジアステレオマー比は78.1%drであった。
【0159】
(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテート(5A)
無色油状物(Colorless oil)。
IR(D-ATR):ν=2956、2872、1743、1455、1366、1242、1042、970cm-1
H-NMR(500MHz、CDCl):主異性体、δ=0.78(3H、d、J=7.3Hz)、0.85(3H、s)、0.95(3H、d、J=6.9Hz)、0.97(3H、s)、1.15(1H、dd、J=12.6、9.2Hz)、1.65(1H、dq、J=8.7、7.3Hz)、1.67(1H、dd、J=12.6、7.6Hz)、1.87-1.97(2H、m)、2.05(3H、s)、3.99(1H、dd、J=10.7、6.9Hz)、4.06(1H、dd、J=10.7、5.8Hz)ppm。
13C-NMR(126MHz、CDCl):主異性体、δ=10.22、17.14、21.02、23.84、29.73、39.11、41.28、44.49、44.52、46.2168.76、171.35ppm。
GC-MS(EI,70eV):29、43、55、69、82、97、109、123、138、154、165、178、192。
【0160】
[比較合成例]
(2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテン-1-オン(103)からの、(2S,3S)-4-(メトキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチルシクロペンタン(104)の合成
【0161】
【化40】
【0162】
(メトキシメチル)トリフェニルホスホニウムクロリド4.46gとテトラヒドロフラン10gとの混合物を窒素雰囲気下、氷冷撹拌しながら、カリウムtert-ブトキシド1.35gを加えた。20分間撹拌し、そして次に、(2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテン-1-オン(103)1.50g(85.6%GC)とトルエン10gとの混合物を加えた。室温に昇温し、10時間撹拌した。水及びジエチルエーテルを加え、有機層を分離し、そして次に、分液洗浄、ろ過、乾燥、そして濃縮による後処理操作を行い、粗生成物として、4-(メトキシメチレン)-1,1,2,3-テトラメチルシクロペンタン1.41g(75.8%GC,粗収率63.5%)を得た。
【0163】
該得られた生成物は、基質である(2R,3S)-2,3,4,4-テトラメチル-2-シクロペンテン-1-オン(103)の2位のメチル基がエピ化(epimerization)し、その後にウィッティッヒ反応に付されることにより生成する(2S,3S)-体(104)であり、一方、OMB性フェロモンと同じ相対立体配置を有する(2S,3R)-体(104’)はGC-MS分析で存在が確認できなかった。
【0164】
なお、相対立体配置の確認は、本反応生成物に、上記の実施例2、4及び5に準じた処理を施し、(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテート(5A)へ変換し、非特許文献3に記載の物性データと比較することにより確認した。
【産業上の利用可能性】
【0165】
上記の結果より、本発明の製造方法を適用すれば、(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=カルボキシレート化合物、特には、重要農業害虫であるOMBの性フェロモンとして、発生予察、防除等への応用が期待されている(1R,2R,3S)-(2,3,4,4-テトラメチルシクロペンチル)メチル=アセテートを、既存の方法と比較して、安全、効率的、選択的かつ工業的に製造可能であり、産業上の利用価値が非常に高いことが示された。