(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】難燃防蟻樹脂組成物、電力ケーブルならびにその製造方法および敷設方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/12 20060101AFI20240902BHJP
C08K 5/3492 20060101ALI20240902BHJP
C08K 3/38 20060101ALI20240902BHJP
H01B 13/24 20060101ALI20240902BHJP
H01B 7/18 20060101ALI20240902BHJP
A01N 43/64 20060101ALI20240902BHJP
A01N 59/14 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
C08L101/12
C08K5/3492
C08K3/38
H01B13/24 Z
H01B7/18 W
A01N43/64 105
A01N59/14
(21)【出願番号】P 2021512159
(86)(22)【出願日】2020-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2020014949
(87)【国際公開番号】W WO2020204048
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2019071626
(32)【優先日】2019-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】菊池 早記
(72)【発明者】
【氏名】桜井 貴裕
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-078110(JP,A)
【文献】特開平02-090412(JP,A)
【文献】特開2002-205906(JP,A)
【文献】特許第6734243(JP,B2)
【文献】特表2012-500881(JP,A)
【文献】特開2018-157637(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解度パラメータが7.1以上11.6以下の範囲であるベース樹脂(A)と、イソシアヌレート構造を有する化合物(B)と、ホウ素含有化合物(C)とを含有し、
前記イソシアヌレート構造を有する化合物(B)の含有量[B]が、前記ベース樹脂(A)100質量部に対して、0.05~10質量部の範囲であり、
前記ホウ素含有化合物(C)の含有量[C]が、前記ベース樹脂(A)100質量部に対して、10~55質量部の範囲であり、
イソシアヌレート構造を有する化合物(B)の含有量[B](質量部)に対するホウ素含有化合物(C)の含有量[C](質量部)の比([C]/[B])が、
5以上
200以下である、難燃防蟻樹脂組成物。
【請求項2】
電力ケーブルの最外層を構成するシースの原材料に用いられる、請求項
1に記載の難燃防蟻樹脂組成物。
【請求項3】
前記ホウ素含有化合物(C)がホウ酸塩化合物を含む、請求項
1または2に記載の難燃防蟻樹脂組成物。
【請求項4】
心線の外周側に、最外層としてシースを形成した電力ケーブルの製造方法であって、
請求項1から
3のいずれか1項に記載の難燃防蟻樹脂組成物を、前記心線の外周側に押出成形することによりシースを被覆形成する
工程を含む、電力ケーブルの製造方法。
【請求項5】
心線の外周に、請求項1から
3のいずれか1項に記載の難燃防蟻樹脂組成物を原材料として形成されたシースが最外層として被覆されてなる、電力ケーブル。
【請求項6】
前記シースが単層からなる、請求項
5に記載の電力ケーブル。
【請求項7】
前記シースが前記イソシアヌレート構造を有する化合物(B)を含有し、
前記シースの外面に、前記イソシアヌレート構造を有する化合物(B)が表出してなる、請求項
5または
6に記載の電力ケーブル。
【請求項8】
請求項
5から
7のいずれか1項に記載の電力ケーブルの敷設方法であって、前記電力ケーブルを地中に直接埋設する工程を含む、敷設方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性および防蟻性を有する成分を配合した難燃防蟻樹脂組成物、この難燃防蟻樹脂組成物を用いて形成されるシースを有する電力ケーブル、電力ケーブルの製造方法および電力ケーブルの敷設方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電力ケーブルや、光ケーブルのような通信ケーブルなどのケーブルとしては、心線の外周側に、最外層としてシース(保護外被覆)を被覆したものが広く用いられている。シースは、ケーブルを敷設する場所によって様々な機能を有することが求められており、例えば、シロアリの活動が活発な地域の地中に敷設されるケーブルでは、シロアリなどの蟻による食害を防ぐ特性である防蟻性のほか、難燃性を有することが求められる。
【0003】
このうち、ケーブルに防蟻性を付与する手法としては、ケーブルのシースを硬質化するなどしてシロアリが噛み付けなくすることで物理的にシロアリの食害を防ぐ手法と、シロアリの防除に有効な成分(以下、「防蟻剤」という。)をシースに配合し、噛み付いたシロアリが死ぬことで、シロアリの食害を防ぐ手法が挙げられる。
【0004】
前者の手法としては、例えば特許文献1に、ケーブルを構成するシースを、難燃ビニル層と、ポリプロピレン樹脂組成物で形成した最外層との2層で構成し、ポリプロピレン樹脂組成物が、プロピレン単独重合部、および溶解度パラメータが7.0以上9.5以下の樹脂成分とからなる重合樹脂と難燃剤とを含有し、ロックウェル硬度が85以上であり、曲げ弾性率が1500MPa以上であることが記載されている。そして、ケーブルの最外層を構成するシースは、それを構成する難燃ビニル層と、最外層中に含有する難燃剤によって、難燃性を付与し、また、最外層を形成する重合樹脂中に含有するプロピレン単独重合部の質量比率を所定の範囲とするとともに、高硬度および高曲げ弾性率とすることによって防蟻性を付与している。
【0005】
また、後者の手法としては、例えば特許文献2に、防蟻成分の揮散や流出(ブリードアウト)の少ない樹脂組成物として、防蟻成分としてトリアリルイソシアヌレート、トリプロピルイソシアヌレートまたはトリエチルイソシアヌレートを含み、ポリエチレンなどからなるシースを有する防蟻電線が記載されている。そして、この防蟻電線は、シースに防蟻成分を含有させることで、ケーブルに防蟻性を付与している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-096583号公報
【文献】特開平02-078110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載されるケーブルは、シースを、難燃ビニル層と、ポリプロピレン樹脂組成物で形成した最外層との2層で構成するため、製造コストが高くなるとともに、製造工数も多くなって、作業性が悪いという問題がある他、防蟻性の発現は、シースをシロアリが噛むことを前提としているため、ケーブルに対する食害は完全には防止することができないという問題がある。
【0008】
また、特許文献2に記載される防蟻電線は、シース中に、シースを構成するベース樹脂との相溶性のよい防蟻成分(化合物)を用いていて、シロアリがシースを噛むことを前提として、防蟻成分がシース(防蟻層)から流出しないように材料設計されているため、ケーブルに対する食害は完全には防止することができないという問題がある。
【0009】
このほか、防蟻剤を材料に配合せずに、ケーブルの周囲に防蟻剤を配する方法も考えられるが、特に長さのあるケーブルでは、防蟻剤の付着に時間が掛かるため、あまり実用的ではない。
【0010】
加えて、ケーブルの最外層であるシースを形成するには、所定の温度で混練された樹脂を、ケーブルの心線の外周側に押し出してシースを被覆形成する必要があるため、押出加工の際に均質に混合された樹脂が得られるとともに、ガスなどの発生がないことが望ましい。
【0011】
本発明の目的は、難燃性および防蟻性に優れたシースを単層で構成することが可能であり、かつ押出加工でのシースの形成に用いるのに好適な難燃防蟻樹脂組成物と、それを原材料に用いて形成したシースを有する電力ケーブルならびにその製造方法および敷設方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、ベース樹脂と、イソシアヌレート構造を有する化合物との相溶性の関係や、ホウ素含有化合物およびイソシアヌレートの含有量に着目し、難燃性、防蟻性および押出加工での適性を高度に満たすべく、鋭意研究を重ねた。その結果、溶解度パラメータが7.1以上11.6以下の範囲であるベース樹脂を用いるとともに、イソシアヌレート構造を有する化合物と、ホウ素含有化合物とを含有させることによって、難燃性および防蟻性の双方に優れたシースを単層で形成できることを見出した。
【0013】
しかしながら、かかる組成を有するシースを単層で形成する場合には、押出加工時に、イソシアヌレート構造を有する化合物の配合量を多くしすぎると、白煙および有機化合物臭が発生しやすくなるため、局所ドラフトなどの排気設備が必要になり、製造コストの増加につながるという新たな問題が生じた。
【0014】
このため、本発明者らがさらに検討を行った結果、ベース樹脂に配合する、イソシアヌレート構造を有する化合物と、ホウ素含有化合物とを適正割合に限定することによって、押出加工時に白煙および有機化合物臭が発生することなく、押出加工での適性も有していることを見出し、かかる知見に基づき本発明を完成させるに至った。
【0015】
すなわち、本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
(1)溶解度パラメータが7.1以上11.6以下の範囲であるベース樹脂と、イソシアヌレート構造を有する化合物と、ホウ素含有化合物とを含有し、前記イソシアヌレート構造を有する化合物の含有量が、前記ベース樹脂100質量部に対して、0.05~10質量部の範囲であり、前記ホウ素含有化合物の含有量が、前記ベース樹脂100質量部に対して、10~55質量部の範囲である、難燃防蟻樹脂組成物。
(2)前記ベース樹脂の溶解度パラメータが7.1以上10.8以下の範囲である、上記(1)に記載の難燃防蟻樹脂組成物。
(3)前記イソシアヌレート構造を有する化合物の含有量が、前記ベース樹脂100質量部に対して、0.05~1質量部の範囲である、上記(1)または(2)に記載の難燃防蟻樹脂組成物。
(4)前記ホウ素含有化合物の含有量が、前記ベース樹脂100質量部に対して、10~45質量部の範囲である、上記(1)、(2)または(3)に記載の難燃防蟻樹脂組成物。
(5)電力ケーブルの最外層を構成するシースの原材料に用いられる、上記(1)から(4)のいずれか1項に記載の難燃防蟻樹脂組成物。
(6)心線の外周側に、最外層としてシースを形成した電力ケーブルの製造方法であって、上記(1)から(5)のいずれか1項に記載の難燃防蟻樹脂組成物を、前記心線の外周側に押出成形することによりシースを被覆形成する工程を含む、電力ケーブルの製造方法。
(7)心線の外周に、上記(1)から(5)のいずれか1項に記載の難燃防蟻樹脂組成物を原材料として形成されたシースが最外層として被覆されてなる、電力ケーブル。
(8)前記シースが単層からなる、上記(7)に記載の電力ケーブル。
(9)前記シースが前記イソシアヌレート構造を有する化合物を含有し、前記シースの外面に、前記イソシアヌレート構造を有する化合物が表出してなる、上記(7)または(8)に記載の電力ケーブル。
(10)上記(7)から(9)のいずれか1項に記載の電力ケーブルの敷設方法であって、前記電力ケーブルを地中に直接埋設する工程を含む、敷設方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、単層構造であっても難燃性および防蟻性に優れたシースを得ることが可能であり、かつ押出加工への適性を有する難燃防蟻樹脂組成物と、それを用いた電力ケーブルならびにその製造方法および敷設方法を得ることができる。それにより、難燃防蟻樹脂組成物を電力ケーブルのシースとして用いたときに、単層で所望の難燃性および防蟻性が発揮されるため、電力ケーブルの外径を小さくすることができ、また、電力ケーブルの製造も効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明に係る電力ケーブルの概念的な構造を模式的に示す断面図である。
【
図2】本発明に係る電力ケーブルの具体的な構造の一例を、模式的に示す断面図である。
【
図3】従来に係るケーブルの構造を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0019】
<難燃防蟻樹脂組成物>
本発明の難燃防蟻樹脂組成物は、溶解度パラメータが7.1以上11.6以下の範囲であるベース樹脂と、イソシアヌレート構造を有する化合物と、ホウ素含有化合物とを含有し、前記イソシアヌレート構造を有する化合物の含有量が、前記ベース樹脂100質量部に対して、0.05~10質量部の範囲であり、前記ホウ素含有化合物の含有量が、前記ベース樹脂100質量部に対して、10~55質量部の範囲である。
【0020】
本実施形態に係る難燃防蟻樹脂組成物は、これを原材料として、例えば電力ケーブルの最外層を形成するシースに適用した場合、シースが、ホウ素含有化合物を含有することによって所望の難燃性能を発揮できるとともに、シースの表面に、低揮発性のイソシアヌレート構造を有する化合物が、薄く覆う程度の量だけブリードアウト(滲み出し)することによって表出して付着し、この化合物が付着した状態を長期間にわたって維持できる結果、シロアリなどの蟻がケーブル周りに存在していたとしても、電力ケーブル(より厳密にはシース)に噛み付かなくなる結果、電力ケーブルへの蟻による食害を有効に低減することができる。加えて、難燃防蟻樹脂組成物に含まれるホウ素含有化合物は、蟻がシースに噛み付いた際の防蟻性能も有するため、例えば、シースに表出して付着したイソシアヌレート構造を有する化合物が、シースの表面から拭き取られた場合や、イソシアヌレート構造を有する化合物のブリードアウトによる表出が少ない場合であっても、蟻がシースに噛み付いた際に生じる防蟻性を発揮できるため、蟻による電力ケーブルの食害を持続して防ぐことができる。したがって、本実施形態に係る難燃防蟻樹脂組成物を用いて電力ケーブルのシースを単層で構成したとしても、電力ケーブルに難燃性と防蟻性の両方を付与することが可能である。
【0021】
[難燃防蟻樹脂組成物]
本実施形態に係る難燃防蟻樹脂組成物は、ベース樹脂(A)と、イソシアヌレート構造を有する化合物(B)(以下、単に「イソシアヌレート化合物(B)」という場合がある。)と、ホウ素含有化合物(C)とを含む。
【0022】
(ベース樹脂(A))
このうち、ベース樹脂(A)は、溶解度パラメータ(SP値)が7.1以上11.6以下の樹脂である。ここで、ベース樹脂(A)として、溶解度パラメータ(SP値)が11.6以下の樹脂を含有することで、イソシアヌレート化合物(B)との相溶性が低くなるため、ベース樹脂(A)からイソシアヌレート化合物(B)をブリードアウトさせることができる。また、ベース樹脂(A)として、溶解度パラメータ(SP値)が7.1以上11.6以下の樹脂を含有することで、ベース樹脂(A)の分子間の相互作用が適度に調整されるため、ベース樹脂(A)から、後述するイソシアヌレート化合物(B)を長期間にわたって徐々にブリードアウトさせることができる。
【0023】
ベース樹脂(A)としては、溶解度パラメータが7.1以上11.6以下の樹脂であれば、特に限定されない。このような樹脂としては、ビニル系樹脂を含むポリオレフィン、ジエン系ゴム、ポリアミド系樹脂、エチレン-プロピレンゴム、エチレン-プロピレン-ジエンゴム、熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。
【0024】
このうち、ポリオレフィンの具体例としては、ポリエチレン(SP値:7.7~8.4)、ポリプロピレン(SP値:9.3)、ポリブテン(SP値:9.4)、ポリスチレン(SP値:8.5~10.3)、ポリエステル(SP値:10.7)、アクリロニトリル・スチレン樹脂(SP値:9.8~10.7)、エチレン-酢酸ビニルコポリマー(SP値:8.8~9.4)、エチレン-アクリル酸エチルコポリマー(SP値:9.4)、ポリイソブチレン(SP値:7.1~8.3)、ポリ塩化ビニル(SP値:9.4~10.8)、ポリ酢酸ビニル(SP値:9.4~9.6)などが挙げられる。
【0025】
また、ジエン系ゴムの具体例としては、ブチルゴム(SP値:7.7~8.1)、ブタジエンゴム(SP値:8.1~8.6)、クロロプレンゴム(SP値:8.2~9.4)、ニトリルゴム(SP値:8.7~10.5)などが挙げられる。
【0026】
また、ポリアミド系樹脂の具体例としては、ナイロン6(SP値:11.6)、ナイロン66(SP値:11.6)、ナイロン11(SP値:10.1)、ナイロン12(SP値:9.9)などが挙げられる。
【0027】
これらの中でも、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニルから選択される1種以上をベース樹脂(A)として用いることが好ましい。
【0028】
本実施形態におけるベース樹脂(A)の溶解度パラメータ(SP値)は、11.6以下であり、10.8以下が好ましい。このようなベース樹脂(A)を用いることで、イソシアヌレート化合物(B)との溶解度パラメータの差が大きくなって相溶性が低くなるため、ベース樹脂(A)からイソシアヌレート化合物(B)をブリードアウトさせ易くすることができる。他方で、ベース樹脂(A)の溶解度パラメータ(SP値)の下限は、イソシアヌレート化合物(B)をベース樹脂(A)から徐々に放出されるようにするため、7.1以上が好ましく、7.7以上がより好ましい。
【0029】
ここで、ベース樹脂(A)としては、溶解度パラメータ(SP値)が上記適正範囲内にある樹脂を1種類だけ用いてもよいが、上記適正範囲内にある樹脂を2種類以上併用してもよい。
【0030】
なお、ベース樹脂(A)は、溶解度パラメータが7.1以上11.6以下の樹脂のみによって構成されるのが好ましいが、ベース樹脂(A)に占める質量割合が10%以内であれば、溶解度パラメータが上記適正範囲外である樹脂を含んでいてもよい。
【0031】
(イソシアヌレート構造を有する化合物(B))
分子内にイソシアヌレート構造を有する化合物(B)は、防蟻剤として作用するとともに、この組成物から得られる難燃防蟻樹脂の表面にブリードアウトによって表出して付着することで難燃防蟻樹脂が保護されるため、シロアリなどの蟻による難燃防蟻樹脂への食害を有効に低減する作用を有する。
【0032】
イソシアヌレート化合物(B)としては、従来公知のものを用いることができ、特に限定されないが、以下の一般式(I)で表される化合物を用いることが好ましい。
【化1】
(ここで、R
1~R
3は各々独立に、水素原子、脂肪族炭化水素基、アリール基またはヘテロ環基を表す。)
【0033】
上記一般式(I)のR1~R3を構成する脂肪族炭化水素基としては、飽和炭化水素基であってもよく、不飽和炭化水素基であってもよく、また、環状の炭化水素基であってもよい。より具体的には、脂肪族炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基およびシクロアルケニル基が挙げられ、アルキル基およびアルケニル基が好ましい。また、脂肪族炭化水素基に含まれる炭素数は、1~20が好ましく、1~12がより好ましく、1~8がさらに好ましく、1~6が特に好ましい。これらの組合せの中で、脂肪族炭化水素基としては、炭素数1~20のアルキル基および炭素数2~20のアルケニル基がより好ましい。脂肪族炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、2-エチルヘキシル基、デシル基、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、エチニル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基およびシクロヘキセニル基が挙げられる。
【0034】
上記一般式(I)のR1~R3を構成するアリール基は、炭素数は6~20が好ましく、6~16がより好ましく、6~10がさらに好ましい。アリール基の具体例としては、フェニル基およびナフチル基が挙げられる。
【0035】
上記一般式(I)のR1~R3を構成するヘテロ環基は、ヘテロ環の構成原子として、酸素原子、窒素原子および硫黄原子から選択される原子を少なくとも1つ有するものが好ましい。ここで、ヘテロ環基に含まれるヘテロ環は、飽和環であっても不飽和環であっても芳香環であってもよい。また、ヘテロ環基の炭素数は、0~20が好ましく、1~12がより好ましい。ヘテロ環基に含まれるヘテロ環としては、例えば、テトラヒドロフラン環、ピロリジン環、ピペリジン環、ピペラジン環、フラン環、チオフェン環、ピロール環、イミダゾール環、チアゾール環、ピリジン環が挙げられる。
【0036】
上記一般式(I)で表される化合物は、R1~R3が各々独立に、水素原子または脂肪族炭化水素基であることが好ましく、R1~R3がいずれも脂肪族炭化水素基であることがより好ましく、R1~R3がいずれもアルキル基またはアルケニル基から選択される基であることがさらに好ましく、その中でも、R1~R3が同じ基であることがさらに好ましい。
【0037】
上記一般式(I)で表される化合物のうち、好ましい化合物は、トリメチルイソシアヌレート、トリエチルイソシアヌレート、トリプロピルイソシアヌレートおよびトリアリルイソシアヌレートである。その中でも、トリエチルイソシアヌレート、トリプロピルイソシアヌレートおよびトリアリルイソシアヌレートがより好ましく、トリアリルイソシアヌレート(すなわち、1,3,5-トリス(2-プロペニル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン)が最も好ましい。
【0038】
イソシアヌレート化合物(B)の含有量は、ベース樹脂(A)100質量部に対して、0.05質量部以上である必要があり、0.50質量部以上であることが好ましい。これにより、難燃防蟻樹脂組成物から生成される難燃防蟻樹脂の表面に、低揮発性であり且つ防蟻性を有するイソシアヌレート構造を有する化合物がブリードアウトによって表出して付着するため、難燃防蟻樹脂組成物をシースの原材料に用いたときに、電力ケーブルへの蟻による食害を低減することができる。他方で、イソシアヌレート化合物(B)の含有量の上限は、難燃防蟻樹脂組成物を押出加工する際の白煙および有機化合物臭が生じず、かつ、押出加工への適性を考慮して、10質量部とする必要があり、5質量部であることが好ましく、1質量部であることがより好ましい。
【0039】
(ホウ素含有化合物(C))
ホウ素含有化合物(C)は、分子内にホウ素原子を有する化合物であり、シースの原材料に用いたときの難燃性を高めるとともに、シロアリなどの蟻に対して食毒となることで防蟻性能を高める作用を有する。
【0040】
本実施形態に係る難燃防蟻樹脂組成物では、ホウ素含有化合物(C)をイソシアヌレート化合物(B)と併用することで、イソシアヌレート化合物(B)が難燃防蟻樹脂の表面から拭き取られた場合や、イソシアヌレート化合物(B)のブリードアウトによる表出が少ない場合であっても、難燃防蟻樹脂への蟻による食害を低減することができる。
【0041】
ホウ素含有化合物(C)としては、より具体的には、ホウ酸塩化合物、ホウ酸化物、ホウ硫化物およびホウ窒化物から選択される1種以上をなどが挙げられる。その中でも、ホウ酸塩化合物を用いることが好ましく、ホウ酸亜鉛を用いることが特に好ましい。
【0042】
ホウ素含有化合物(C)の含有量は、ベース樹脂(A)100質量部に対して、10質量部以上であることが必要である。これにより、難燃防蟻樹脂組成物から生成される難燃防蟻樹脂について、難燃性および防蟻性の双方を高めることができる。他方で、ホウ素含有化合物(C)の含有量の上限は、難燃防蟻樹脂組成物中にホウ素含有化合物(C)を均一に含有させることができ、かつ、押出加工への適性を考慮して、ベース樹脂(A)100質量部に対して、55質量部とすることが必要であり、45質量部がより好ましく、35質量部がさらに好ましく、20質量部が特に好ましい。
【0043】
また、イソシアヌレート化合物(B)の含有量(質量部)に対するホウ素含有化合物(C)の含有量(質量部)の比は、1以上1000未満であることが好ましく、5以上200以下であることがより好ましい。特に、イソシアヌレート化合物(B)の含有量に対する、ホウ素含有化合物(C)の含有量の比の値を1以上、より好ましくは5以上にすることで、難燃防蟻樹脂組成物の押出加工への適性を高めることができ、かつ難燃防蟻樹脂組成物の酸素指数を高めることができる。他方で、イソシアヌレート化合物(B)の含有量に対する、ホウ素含有化合物(C)の含有量の比の値を1000未満、より好ましくは200以下にすることで、難燃防蟻樹脂の表面へのイソシアヌレート構造を有する化合物のブリードアウトを起こり易くし、それによりシロアリによる加害を起こり難くすることができる。
【0044】
(その他の成分(D))
本実施形態に係る難燃防蟻樹脂組成物には、必要に応じて、他の成分を含んでもよい。
【0045】
例えば、本実施形態に係る難燃防蟻樹脂組成物は、上述のホウ素含有化合物(C)に加えて、難燃剤および難燃助剤の一方または両方を含有してもよい。このような難燃剤および難燃助剤としては、特に限定されないが、三酸化アンチモン、ポリテトラフルオロエチレン、二酸化珪素、ハイドロタルサイト、重炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウムもしくは水酸化カルシウムのような金属水酸化物、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化バナジウム、酸化モリブデン、リン系化合物およびその表面処理品、メラミン、メラミンシアヌレート、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ポリテトラフルオロエチレンなどが挙げられる。これらの中でも、難燃性をさらに向上させる観点では、三酸化アンチモンおよび金属水酸化物の一方または両方を含有することが好ましい。これらの難燃剤および難燃助剤の含有量は、本発明の難燃防蟻樹脂組成物の特性が損なわれない範囲であればよい。
【0046】
また、本実施形態に係る難燃防蟻樹脂組成物は、必要に応じて、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、滑剤、結晶核剤、軟化剤、帯電防止剤、金属不活性化剤、抗菌・抗カビ剤、着色剤、顔料、染料、蛍光体などの添加剤を配合してもよい。
【0047】
[電力ケーブルの製造方法]
本実施形態に係る電力ケーブルの製造方法は、特に限定されないが、例えば、上述の難燃防蟻樹脂組成物を、心線の外周側に押出加工することによりシースを被覆形成する工程を含む。これにより、心線の外周側に、最外層としてシースを形成した電力ケーブルを得ることができる。
【0048】
ここで、難燃防蟻樹脂組成物を押出成形する手段としては、公知の押出成形の手段を用いることができる。
【0049】
また、上述の難燃防蟻樹脂組成物を押出成形する前に、難燃防蟻樹脂組成物を混錬することが好ましい。難燃防蟻樹脂組成物の混練手段としては、公知の手段を用いることができ、例えばベース樹脂(A)、イソシアヌレート化合物(B)およびホウ素含有化合物(C)を溶融させて混練する手段を用いることができる。
【0050】
なお、難燃防蟻樹脂組成物の混練と、難燃防蟻樹脂の成形は、別個の工程として行わなくてもよく、例えば同一の装置を用いて、難燃防蟻樹脂組成物を溶融・混錬・押出をすることにより行ってもよい。
【0051】
<電力ケーブル>
本実施形態に係る電力ケーブル1は、
図1に概念的に示されるように、心線11の外周に上述の難燃防蟻樹脂組成物を原材料として形成されるシース13が最外層として被覆されてなるものであり、心線11とシース13との間には中間層12を有する構成であればよく、特に限定はしない。この電力ケーブル1は、例えば上述の方法によって得ることができる。
【0052】
より具体的には、電力ケーブル1Aは、
図2に示すように、心線11である導体の外周に、中間層として、少なくとも絶縁層122が積層され、より好ましくは内部半導電層121と、絶縁層122と、外部半導電層123と、金属遮蔽層124とが順に積層され、その外周に最外層としてシース13が積層されたものとすることができる。
【0053】
本実施形態に係る電力ケーブル1は、所望の難燃性および防蟻性を発揮することができるため、蟻による食害が起こり得る場所や、蟻の食害による火災や、周辺火災による損傷が起こり得る場所にも、好適に敷設することができる。
【0054】
また、本実施形態に係る電力ケーブル1は、シース13を単層で構成しても、所望の難燃性および防蟻性の双方を発揮できるため、シースを2層で構成した電力ケーブルに比べて、電力ケーブルの外径を小さくすることができ、また、押出加工への適性も有していることから、電力ケーブル1の製造も効率よく行うことができる。
【0055】
なお、上述した本実施形態では、電力ケーブル1について説明してきたが、本発明の難燃防蟻樹脂組成物は、ケーブルを構成するシースの原材料として適用すれば、本発明の電力ケーブルと同様の効果を奏することができることから、例えば、光ファイバケーブルのような通信ケーブルを含めたケーブル全般にわたって適用できることは言うまでもない。
【0056】
また、本実施形態に係る電力ケーブル1は、地中に直接埋設する工程を有する敷設方法によって敷設されることも好ましい。これにより、降雨などによって電力ケーブル1の表面からブリードアウトした成分が流されても、電力ケーブル1の周囲にある土などがその成分を吸着して、電力ケーブル1の周囲に留めておくことができるため、電力ケーブル1の防蟻性を持続させるとともに、蟻による食害をより起こり難くすることができる。
【実施例】
【0057】
次に、本発明の効果をさらに明確にするために、本発明例および比較例について説明するが、本発明はこれら本発明例に限定されるものではない。
【0058】
<シース形成材料(シート)での性能評価>
[本発明例1、2]
表1に示す割合(質量部)で、ポリエチレン、トリアリルイソシアヌレートおよびホウ酸亜鉛を配合して樹脂組成物を得た後、110℃の混練温度に設定したロール機を用いてこの樹脂組成物を混練して樹脂を生成し、厚さの異なる2枚のシート状の試料を作製した。それら2枚の試料について、120℃の成形温度に加熱し、11MPaの圧力で15分にわたってプレス成形を行い、それぞれ厚さが2mmおよび3mmの平滑なシートを得た。
【0059】
[本発明例3~5]
表1に示す割合(質量部)で、ポリ塩化ビニル、トリアリルイソシアヌレートおよびホウ酸亜鉛を配合して樹脂組成物を得た後、150℃の混練温度に設定したロール機を用いてこの樹脂組成物を混練して樹脂を生成し、厚さの異なる2枚のシート状の試料を作製した。それら2枚の試料について、170℃の成形温度に加熱し、11MPaの圧力で15分にわたってプレス成形を行い、それぞれ厚さが2mmおよび3mmの平滑なシートを得た。
【0060】
[本発明例6]
表1に示す割合(質量部)で、ペレット状のナイロン66、トリアリルイソシアヌレートおよびホウ酸亜鉛をドライブレンドして樹脂組成物を得た後、この樹脂組成物を210℃の混練温度で一軸押出により混錬して樹脂を生成した。得られた樹脂を、220℃の成形温度に加熱し、11MPaの圧力で10分間にわたってプレス成型を行い、厚さが2mmおよび3mmである2枚の平滑なシートを得た。
【0061】
[比較例1]
表2に示す割合(質量部)で、ポリエチレンからなる樹脂組成物を得た後、110℃の混練温度に設定したロール機を用いてこの樹脂組成物を混練して樹脂を生成し、厚さの異なる2枚のシート状の試料を作製した。それら2枚の試料について、120℃の成形温度に加熱し、11MPaの圧力で15分にわたってプレス成形を行い、それぞれ厚さが2mmおよび3mmである2枚の平滑なシートを得た。
【0062】
[比較例2]
表2に示す割合(質量部)で、ポリエチレンとトリアリルイソシアヌレートを配合して樹脂組成物を得た後、110℃の混練温度に設定したロール機を用いてこの樹脂組成物を混練して樹脂を生成し、厚さの異なる2枚のシート状の試料を作製した。それら2枚の試料について、120℃の成形温度に加熱し、11MPaの圧力で15分にわたってプレス成形を行い、それぞれ厚さが2mmおよび3mmである2枚の平滑なシートを得た。
【0063】
[比較例3~5]
表2に示す割合(質量部)で、ポリエチレン、トリアリルイソシアヌレートおよびホウ酸亜鉛を配合して樹脂組成物を得た後、150℃の混練温度に設定したロール機を用いてこの樹脂組成物を混練して樹脂を生成し、厚さの異なる2枚のシート状の試料を作製した。それら2枚の試料について、170℃の成形温度に加熱し、11MPaの圧力で15分にわたってプレス成形を行い、それぞれ厚さが2mmおよび3mmである2枚の平滑なシートを得た。
【0064】
[比較例6]
表2に示す割合(質量部)で、ペレット状のナイロン46およびトリアリルイソシアヌレートをドライブレンドして樹脂組成物を得た後、この樹脂組成物を295℃の混練温度で一軸押出により混錬して樹脂を生成し、厚さの異なる2枚のシート状の試料を作製した。それら2枚の試料について、305℃の成形温度に加熱し、11MPaの圧力で10分間にわたってプレス成形を行い、それぞれ厚さが2mmおよび3mmである2枚の平滑なシートを得た。
【0065】
[比較例7]
下記表2に示す割合(質量部)で、ペレット状のナイロン66をドライブレンドして樹脂組成物を得た後、この樹脂組成物を210℃の混練温度で一軸押出により混錬して樹脂を生成し、厚さの異なる2枚のシート状の試料を作製した。それら2枚の試料について、220℃の成形温度に加熱し、11MPaの圧力で10分間にわたってプレス成型を行い、それぞれ厚さが2mmおよび3mmである2枚の平滑なシートを得た。
【0066】
[本発明例1~6および比較例1~7の評価]
上記の本発明例1~6および比較例1~7に係る樹脂組成物から作製されるシートを用いて、下記に示す特性評価を行った。各特性の評価条件は下記のとおりである。結果を表1および表2に示す。
【0067】
[1]防蟻性
本発明例および比較例で得られた厚さ2mmのシートを切り出して、縦20mm×横20mm×厚さ2mmの小片サンプルを3枚作製し、JIS K 1571(2010)「木材保存剤-性能基準の試験方法」に準拠した強制摂食試験を行った。底部を硬石膏で固めた内径80mm、高さ60mmのアクリル製の円筒容器を用い、円筒容器の中にプラスチック製の網を設けた。この網の上に、試験容器1個につき、小片サンプルを1枚、イエシロアリの職蟻を150頭、兵蟻を15頭投入して容器の蓋を閉め、暗所下、室温28℃±2℃、相対湿度80%以上の環境下で、3週間にわたって静置した。ここで、容器の蓋には、通気のための小孔を空けたものを用いた。そして、3週間が経過した後、以下の数式1を用いて試験前後の小片サンプルの質量を比較することで、シロアリによる加害率Xを求め、これにより防蟻性を定量化した。
X=(W0-W1)/W0×100[%] ・・・(数式1)
(ここで、W0は試験開始時の小片サンプルの質量であり、W1は試験終了時の小片サンプルの質量である。)
【0068】
上記数式1により求められた、シロアリによる加害率Xの数値[%]の平均値を、表1および表2に示す。この「加害率」は、数値が小さいことが好ましく、より具体的には0.03%以下であるとより好ましい。
【0069】
[2]難燃性
本発明例および比較例で得られた厚さ3mmのシートを切り出して、縦130mm×横6.5mm×厚さ3mmの小片サンプルを作製し、JIS K 7201-2「プラスチック-酸素指数による燃焼性の試験方法」に準拠した試験を実施した。この試験により得られる酸素指数[%]を、表1および表2に示す。難燃性は、酸素指数の数値が大きいことが好ましく、より具体的には22%以上であることが好ましく、25%以上であることがより好ましい。
【0070】
[3]ブリードアウトの有無
本発明例および比較例で得られた厚さ2mmのシートを切り出して、縦100mm、横100mm×厚さ2mmのサンプルを3枚作製し、室温20℃±2℃、相対湿度60%±10%の環境下で、1ヶ月にわたりサンプルを吊るした状態で静置した。そして、1ヶ月が経過した後、各シートについて、表面の光沢の有無を目視で確認し、質量を測定した後、シートの表裏の全面積(200cm2)についてベンコットンで拭き取り、再度質量を測定した。その結果、3枚のサンプルのいずれにも、ふき取り前の表面に光沢が見られ、かつ拭き取りの前後で質量が減少していたものを、ブリードアウト「有」とした。また、3枚のサンプルの少なくともいずれかにおいて、光沢と質量減少のいずれか一方のみが確認されたものと、光沢と質量減少の両方が確認されなかったものを、ブリードアウト「無」とした。この試験によって確認したブリードアウトの有無を、表1および表2に示す。
【0071】
[4]押出加工への適性
(本発明例1、2)
本発明例1、2で得られた樹脂組成物について、それぞれ110℃の混練温度に設定した二軸ロール機(大竹製機株式会社製)を用いてこの樹脂組成物を混練した後、得られる樹脂を110℃の押出温度に設定した押出加工機(IKG社製、型番:PMS25-25)を用いて造粒することでペレットに加工した。
【0072】
(本発明例3~5)
本発明例3~5で得られた樹脂組成物について、それぞれ150℃の混練温度に設定した二軸ロール機(大竹製機株式会社製)を用いてこの樹脂組成物を混練した後、得られる樹脂を150℃の押出温度に設定した押出加工機(IKG社製、型番:PMS25-25)を用いて造粒することでペレットに加工した。
【0073】
(本発明例6)
本発明例6で得られた樹脂組成物について、150℃の混練温度に設定したヘンシェル(日本コークス工業株式会社製、FM型)を用いてこの樹脂組成物を混練した後、得られる樹脂を210℃の押出温度に設定した押出加工機(IKG社製、型番:PMS25-25)を用いて造粒することでペレットに加工した。
【0074】
(比較例1~5)
比較例1~5で得られた樹脂組成物について、それぞれ110℃の混練温度に設定した二軸ロール機(大竹製機株式会社製)を用いてこの樹脂組成物を混練した後、得られる樹脂を110℃の押出温度に設定した押出加工機(IKG社製、型番:PMS25-25)を用いて造粒することでペレットに加工した。
【0075】
(比較例6)
比較例6で得られた樹脂組成物について、150℃の混練温度に設定したヘンシェル(日本コークス工業株式会社製、FM型)を用いてこの樹脂組成物を混練した後、得られる樹脂を295℃の押出温度に設定した押出加工機(IKG社製、型番:PMS25-25)を用いて造粒することでペレットに加工した。
【0076】
(比較例7)
比較例7で得られた樹脂組成物について、150℃の混練温度に設定したヘンシェル(日本コークス工業株式会社製、FM型)を用いてこの樹脂組成物を混練した後、得られる樹脂を210℃の押出温度に設定した押出加工機(IKG社製、型番:PMS25-25)を用いて造粒することでペレットに加工した。
【0077】
(押出加工への適性の評価)
各本発明例および比較例の樹脂組成物について、本発明例および比較例のそれぞれに該当する方法でペレットへの加工を3回行い、3回とも白煙が生じずに、ペレットが均一な混練状態で押出加工ができた場合をランク「A」と評価し、白煙が生じるか、またはペレットが不均一な混練状態で押出加工され、もしくはペレットの押出加工ができなかったことが、3回のうち1回だけ生じた場合を、ランク「B」と評価し、3回のうち2回以上生じた場合を、ランク「C」と評価した。評価結果を表1および表2に示す。
【0078】
【0079】
【0080】
表1および表2に記載される樹脂組成物の調製に用いた各成分の詳細は、以下のとおりである。
【0081】
[ベース樹脂(A)]
・ポリエチレン(株式会社プライムポリマー製、型番:HIZEX5000S、SP値:8.0)
・ポリ塩化ビニル(新第一塩ビ株式会社製、型番:ZEST1400Z、SP値:10.8)
・ナイロン66(宇部興産株式会社製、型番:UBECナイロン3024LU、SP値:11.6)
・ナイロン46(日本エクストロン株式会社製、型番:N46、SP値:12.2)
[イソシアヌレート構造を有する化合物(B)]
・トリアリルイソシアヌレート(日本化成株式会社製、製品名:タイク(登録商標)、SP値:14.9)
[ホウ素含有化合物(C)]
・ホウ酸亜鉛(米国Borax社製、型番:FIREBREAK290)
【0082】
表1および表2の評価結果から、所定のSP値を有するベース樹脂(A)、イソシアヌレート化合物(B)およびホウ素含有化合物(C)を含有し、かつ、イソシアヌレート化合物(B)およびホウ素含有化合物(C)の含有量が本発明の適正範囲内である本発明例1~6の樹脂組成物から生成される樹脂は、シロアリによる加害率Xが0.01%以下であり、酸素指数が25%以上であり、かつ、押出加工への適性が「A」または「B」と評価されることが確認された。
【0083】
また、これら本発明例1~6の樹脂組成物から生成される樹脂シート(試料)はいずれも、表面にブリードアウトした(滲み出した)、防蟻成分であるイソシアヌレート化合物(B)およびホウ素含有化合物(C)のうち一方または両方が確認された。ここで、イソシアヌレート化合物(B)の含有量が本発明の適正範囲よりも少ない比較例3と、ホウ素含有化合物(C)の含有量が本発明の適正範囲よりも多い比較例5とはいずれも、表面にブリードアウトが認められなかった。
【0084】
上記結果より、本発明例1~6の樹脂組成物は、難燃性および防蟻性の双方に優れたシースを得ることが可能であり、かつ押出加工への適性も有することが確認された。
【0085】
また、表1および表2に、イソシアヌレート化合物(B)の含有量(質量部)に対するホウ素含有化合物(C)の含有量(質量部)の比を示す。その結果、特にイソシアヌレート化合物(B)の含有量に対する、ホウ素含有化合物(C)の含有量の比の値が1以上のときに、押出加工への適性を有し、かつ高い酸素指数を有する傾向にあることが確認された。また、特にイソシアヌレート化合物(B)の含有量に対する、ホウ素含有化合物(C)の含有量の比の値が1000未満のときに、表面にブリードアウトが認められる傾向にあることも確認された。
【0086】
これに対し、比較例1の樹脂組成物は、イソシアヌレート化合物(B)およびホウ素含有化合物(C)をいずれも含有しないものであったため、シロアリによる加害率Xが高く、酸素指数が低く、また、表面にブリードアウトも認められず、防蟻性および難燃性が劣っていた。
【0087】
比較例2の樹脂組成物は、ホウ素含有化合物(C)を含有しないものであったため、酸素指数が低く、難燃性が劣っていた。
【0088】
比較例3の樹脂組成物は、イソシアヌレート化合物(B)の含有量が0.05質量部未満と本発明の適正範囲よりも少ないため、表面にブリードアウトが認められず、シロアリによる加害率Xが高く、防蟻性が劣っていた。
【0089】
比較例4の樹脂組成物は、イソシアヌレート化合物(B)の含有量が15質量部と本発明の適正範囲よりも多いため、押出加工への適性の評価が「C」であり、劣っていた。
【0090】
比較例5の樹脂組成物は、ホウ素含有化合物(C)の含有量が60質量部と本発明の適正範囲よりも多いため、表面にブリードアウトが認められず、シロアリによる加害率Xが高く、防蟻性が劣っていた。
【0091】
比較例6の樹脂組成物は、ベース樹脂に用いたナイロン46のSP値が12.2と本発明の適正範囲よりも大きく、かつ、ホウ素含有化合物(C)を含有しないものであったため、表面にブリードアウトが認められず、酸素指数が低く、難燃性が劣っており、また、押出加工への適性の評価が「C」であり、劣っていた。
【0092】
比較例7の樹脂組成物は、イソシアヌレート化合物(B)およびホウ素含有化合物(C)をいずれも含有しないものであったため、酸素指数が低く、また、表面にブリードアウトも認められず、難燃性が劣っていた。
【0093】
<電力ケーブルでの性能評価>
[本発明例7]
本発明例2の樹脂組成物を用いて、
図2に記載されるような、心線11である導体の外周に、内部半導電層121、絶縁層122、外部半導電層123および金属遮蔽層124が順に積層され、その外周に最外層としてシース13が積層された電力ケーブル1Aを製造した。
【0094】
心線11として断面積800mm2の銅からなる円形圧縮導体を用い、これに厚さ1mmのカーボン添加架橋ポリエチレン(株式会社NUC製、型番:NUCV-9563)からなる内部半導電層121と、厚さ11mmの架橋ポリエチレン(株式会社NUC製、絶縁コンパウンドNUCV-9253)からなる絶縁層122と、厚さ0.5mmのカーボン添加架橋ポリエチレンからなる外部半導電層123と、厚さ3mmのアルミニウム金属からなる金属遮蔽層124を順に設けた。そして、本発明例2の樹脂組成物について、金属遮蔽層124の外周に押出加工することによって、厚さ5.0mmのシース13を被覆形成した。
【0095】
[比較例8]
比較例3の樹脂組成物を用いて、金属遮蔽層124の外周に厚さ4mmのシース13を難燃シースとして被覆形成するとともに、この難燃シースの外周に、ポリプロピレンコンパウンド(出光ライオンコンポジット株式会社製のカルプ(商品名))からなる厚さ1.5mmの防蟻シースを被覆形成した以外は、本発明例7と同様にして電力ケーブルを製造した。このとき、電力ケーブル9は、
図3に示すように、心線91とシース93との間に、中間層92として内部半導電層、絶縁層、外部半導電層および金属遮蔽層(図示せず)が順に積層された構成とし、その外周に設けられるシース93の構造は、難燃シース931と防蟻シース932の二層構造とした。
【0096】
[本発明例7および比較例8の評価]
上記の本発明例7および比較例8に係る電力ケーブルを用いて、下記に示す特性評価を行った。各特性の評価条件は下記のとおりである。結果を表3に示す。
【0097】
[1]電力ケーブルの燃焼性評価
本発明例7および比較例8で得られた電力ケーブルについて、IEEE std.383-1974に準拠した垂直トレイ燃焼試験を行い、JEC3403-2001に記載の3種ビニルシースへの適合の有無について判断した。ここで、燃焼試験は各々の電力ケーブルについて、異なる部分を用いて3回行い、測定されるバーナ口からの燃焼長と残燃時間について、平均値を求めた。また、いずれも燃焼長がバーナ口から1200mm以下であり、かつ残燃時間が1時間以内であるものについて、JEC3403-2001に記載の3種ビニルシースに適合するとして、表3の判定欄に「〇」と記載した。
【0098】
【0099】
表3の評価結果から、本発明例7の単層のシースを有する電力ケーブルは、比較例8に記載される2層構造のシースを有する電力ケーブルと同様に、燃焼長がバーナ口から1200mm以下であり、かつ残燃時間が1時間以内であるため、JEC3403-2001に記載の3種ビニルシースに適合することが確認された。
【0100】
他方で、本発明例7の単層のシースを有する電力ケーブルは、シースの厚さが5.0mmであり、比較例8に記載される2層構造のシースを有する電力ケーブルと比べて、シースを約10%薄くすることができた。また、本発明例7の単層のシースを有する電力ケーブルは、1回の押出成形によってシースを形成することができるため、比較例8に記載される2層構造のシースと比べて、シース材料の相対コストも約13%抑えることができた。
【0101】
上記結果より、本発明例7の電力ケーブルは、単層であっても2層構造と同等の難燃性を有するとともに、シースを薄くして電力ケーブルの外径を小さくすることができ、また、電力ケーブルの製造も効率よく行うことができることが確認された。
【符号の説明】
【0102】
1、1A、9 電力ケーブル
11、91 心線
12、92 中間層
121 内部半導電層
122 絶縁体層
123 外部半導電層
124 金属遮蔽層
13、93 シース
931 難燃シース
932 防蟻シース