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  • 特許-リチウム含有酸化物、電極、及び電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】リチウム含有酸化物、電極、及び電池
(51)【国際特許分類】
   C01G 45/00 20060101AFI20240902BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240902BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240902BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240902BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20240902BHJP
   C01G 37/00 20060101ALI20240902BHJP
   C01B 25/45 20060101ALI20240902BHJP
   C01B 33/20 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
C01G45/00
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/36 B
H01M4/485
C01G37/00
C01B25/45 M
C01B33/20
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022177543
(22)【出願日】2022-11-04
(65)【公開番号】P2023175608
(43)【公開日】2023-12-12
【審査請求日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2022088039
(32)【優先日】2022-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100182914
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 善紀
(74)【代理人】
【識別番号】100223424
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 雄二
(74)【代理人】
【識別番号】100189452
【弁理士】
【氏名又は名称】吉住 和之
(72)【発明者】
【氏名】山林 奨
(72)【発明者】
【氏名】陰山 洋
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-077491(JP,A)
【文献】特開2019-145360(JP,A)
【文献】特表2015-535801(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 45/00
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/36
H01M 4/485
C01G 37/00
C01B 25/45
C01B 33/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カチオン不規則岩塩型構造を有し、
固体Li-NMRスペクトルを測定した際に、1mol/LのLiCl水溶液のピークを0ppmとした-ppmの化学シフトの範囲に半値幅がppm以上15ppm以下であるシグナル1と、83392ppmの化学シフトの範囲に半値幅が327ppm以上1140ppm以下であるシグナル2とが観測され、
前記シグナル1と前記シグナル2との積分強度の合計に対する前記シグナル1の積分強度が0%より大きく60%以下であり、
一般式:LiM’M’’2-e・・・(1)で表され、
式(1)中、[(1.1/2.1)×2]≦x≦[(1.6/2.4)×2]であり、[(0.7/2.6)×2]≦a≦[(0.9/2.1)×2]であり、[(0.1/2.2)×2]≦b≦[(0.3/2.6)×2]であり、1.8≦x+a+b≦2.2であり、0≦c≦0.20であり、0≦d<0.70であり、0≦e<0.70であり、
M’は、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、及びCuからなる群から選択される少なくとも1種類の元素を含有し、M’’はSi、S、V、及びGeからなる群から選択される1種の元素である、又はSi、P、S、V、及びGeからなる群から選択される少なくとも2種類以上であり、Zは、Li、O、M’、M’’及びハロゲン以外の元素であり、Xはハロゲン元素である、リチウム含有酸化物。
【請求項2】
一般式:LiM’M’’2-eで表され、
式中、[(1.1/2.1)×2]≦x≦[(1.6/2.4)×2]、0.55≦a≦[(0.9/2.1)×2][(0.1/2.2)×2]≦b≦0.22、1.8≦x+a+b≦2.2、0≦c≦0.20、0≦d<0.70、0≦e<0.70であり、
M’は、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、及びCuからなる群から選択される少なくとも1種類の元素であり、
M’’はSiである、又はSiとP、S、V、及びGeからなる群から選択される少なくとも1種の元素との2種以上の元素であり、
ZはLi、O、M’、M’’及びハロゲン以外の元素であり、
Xはハロゲン元素である、請求項1に記載のリチウム含有酸化物。
【請求項3】
一般式:LiM’M’’2-eで表され、
式中、[(1.1/2.1)×2]≦x≦1.30、[(0.7/2.6)×2]≦a≦0.85、[(0.1/2.2)×2]≦b≦[(0.3/2.6)×2]、1.8≦x+a+b≦2.2、0≦c≦0.20、0≦d<0.70、0≦e<0.70であり、
M’はCr、Mn、Fe、Co、Ni、及びCuからなる群から選択される少なくとも1種類の元素であり、
M’’はVである、又はVとP、S、Si及びGeからなる群から選択される少なくとも1種の元素との2種以上の元素であり、
ZはLi、O、M’、M’’及びハロゲン以外の元素であり、
Xはハロゲン元素である、請求項1に記載のリチウム含有酸化物。
【請求項4】
一般式:LiM’M’’2-eで表され、
式中、[(1.1/2.1)×2]≦x≦[(1.6/2.4)×2]、0.55≦a≦[(0.9/2.1)×2][(0.1/2.2)×2]≦b≦0.22、1.8≦x+a+b≦2.2、0≦c≦0.20、0≦d<0.70、0≦e<0.70であり、
M’はCr、Mn、Fe、Co、Ni、及びCuからなる群から選択される少なくとも1種類の元素であり、
M’’はGeである、又はGeとP、S、Si及びVからなる群から選択される少なくとも1種の元素との2種以上の元素であり、
ZはLi、O、M’、M’’及びハロゲン以外の元素であり、
Xはハロゲン元素である、請求項1に記載のリチウム含有酸化物。
【請求項5】
一般式:LiM’M’’2-eで表され、
式中、[(1.1/2.1)×2]≦x≦1.30、[(0.7/2.6)×2]≦a≦[(0.9/2.1)×2][(0.1/2.2)×2]≦b≦[(0.3/2.6)×2]、1.8≦x+a+b≦2.2、0≦c≦0.20、0≦d<0.70、0≦e<0.70であり、
M’はCr、Mn、Fe、Co、Ni、及びCuからなる群から選択される少なくとも1種類の元素であり、
M’’はSi、P、S、V、及びGeからなる群から選択される少なくとも2種類以上であり、
ZはLi、O、M’、M’’及びハロゲン以外の元素であり、
Xはハロゲン元素である、請求項1に記載のリチウム含有酸化物。
【請求項6】
25℃においてCuKα線を用いて粉末X線回折測定をした際に、2θが42~46°の範囲内に観測されるピークの半値幅が0.5~5°である、請求項1~5のいずれか一項に記載のリチウム含有酸化物。
【請求項7】
Liを8~12質量%、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、及びCuからなる群から選択される少なくとも1種類の元素であるM’を35~56質量%、Si、P、S、V、及びGeからなる群から選択される少なくとも1種の元素であるM’’を0質量%より大きく15質量%以下含み、
25℃においてCuKα線を用いて粉末X線回折測定をした際にカチオン不規則岩塩型構造に由来する回折パターンが観測され、
固体Li-NMRスペクトルを測定した際に、1mol/LのLiCl水溶液のピークを0ppmとした-ppmの化学シフトの範囲に半値幅がppm以上15ppm以下であるシグナル1と、83392ppmの化学シフトの範囲に半値幅が327ppm以上1140ppm以下であるシグナル2とが観測され、
前記シグナル1と前記シグナル2との積分強度の合計に対する前記シグナル1の積分強度が0%より大きく60%以下であり、
M’’はSi、S、V、及びGeからなる群から選択される1種の元素である、又はSi、P、S、V、及びGeからなる群から選択される少なくとも2種類以上である。リチウム含有酸化物。
【請求項8】
請求項1~5及び7のいずれか一項に記載のリチウム含有酸化物を含む、電極。
【請求項9】
請求項8に記載の電極を含む、電池。
【請求項10】
アモルファス相を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のリチウム含有酸化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム含有酸化物、電極、及び電池に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ金属イオンが正極及び負極の間を移動することにより、充電及び放電を行う二次電池が知られている。そのような二次電池の中では、リチウムイオン二次電池が代表的であり、携帯電話やノートパソコンなどの小型電源として既に実用化され、さらに、電気自動車、ハイブリッド自動車等の自動車用電源や分散型電力貯蔵用電源等の大型電源として使用可能であることから、その需要は増大しつつある。
【0003】
リチウムイオン二次電池の正極材として、カチオン不規則岩塩型の結晶構造を有するLi1.2Mn0.4Ti0.4やLi1.3Mn0.4Nb0.3等のリチウム含有酸化物が知られている。カチオン不規則リチウム含有組成物は従来のLiCoO等のリチウム含有層状酸化物に比べて、組成中のリチウム含有割合を高くすることが可能であり、高エネルギー密度な正極材となる。また、Mn2+等の低価数遷移金属とV4+等の高価数遷移金属を組み合わせたカチオン不規則リチウム含有酸化物およびオキシフッ化物、さらにLiSO等のリチウム塩を導入したカチオン不規則リチウム含有酸化物も知られている。(非特許文献1、特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-92958号公報
【文献】特開2020-534234号公報
【文献】国際公開第2017/169599号
【非特許文献】
【0005】
【文献】nature communications 7, Article number: 13814 (2016)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、従来のカチオン不規則リチウム含有酸化物は、充電と放電の間の電圧ヒステリシスや不可逆容量が大きく、充電と放電との間のエネルギー効率が低かった。
【0007】
本発明は、上述の事情に鑑みなされたものであり、エネルギー効率の高いカチオン不規則リチウム含有酸化物、並びにそれを用いた電極及び電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の実施形態[1]~[11]を含む。
[1]カチオン不規則岩塩型構造を有し、固体Li-NMRスペクトルを測定した際に、1mol/LのLiCl水溶液のピークを0ppmとした-3000~3000ppmの化学シフトの範囲に半値幅が0ppmより大きく40ppm以下であるシグナル1と、半値幅が100ppmより大きく2000ppm以下であるシグナル2とが観測され、
前記シグナル1と前記シグナル2との積分強度の合計に対する前記シグナル1の積分強度が0%より大きく60%以下である、リチウム含有酸化物。
[2]一般式:LiM’M’’2-eで表され、式中、1<x≦1.40、0.55≦a≦0.90、0.05≦b≦0.22、1.8≦x+a+b≦2.2、0≦c≦0.20、0≦d<0.70、0≦e<0.70であり、M’は、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、及びCuからなる群から選択される少なくとも1種類の元素であり、M’’はSiである、又はSiとP、S、V、及びGeからなる群から選択される少なくとも1種の元素との2種以上の元素であり、ZはLi、O、M’、M’’及びハロゲン以外の元素であり、Xはハロゲン元素である、[1]のリチウム含有酸化物。
[3]一般式:LiM’M’’2-eで表され、式中、1<x≦1.30、0.4≦a≦0.85、0.05≦b≦0.30、1.8≦x+a+b≦2.2、0≦c≦0.20、0≦d<0.70、0≦e<0.70であり、M’はCr、Mn、Fe、Co、Ni、及びCuからなる群から選択される少なくとも1種類の元素であり、M’’はVである、又はVとP、S、Si及びGeからなる群から選択される少なくとも1種の元素との2種以上の元素であり、ZはLi、O、M’、M’’及びハロゲン以外の元素であり、Xはハロゲン元素である、[1]のリチウム含有酸化物。
[4]一般式:LiM’M’’2-eで表され、式中、1<x≦1.40、0.55≦a≦0.90、0.05≦b≦0.22、1.8≦x+a+b≦2.2、0≦c≦0.20、0≦d<0.70、0≦e<0.70であり、M’はCr、Mn、Fe、Co、Ni、及びCuからなる群から選択される少なくとも1種類の元素であり、M’’はGeである、又はGeとP、S、Si及びVからなる群から選択される少なくとも1種の元素との2種以上の元素であり、ZはLi、O、M’、M’’及びハロゲン以外の元素であり、Xはハロゲン元素である、[1]のリチウム含有酸化物。
[5]一般式:LiM’M’’2-eで表され、式中、1<x≦1.30、0.4≦a≦0.85、0.05≦b≦0.30、1.8≦x+a+b≦2.2、0≦c≦0.20、0≦d<0.70、0≦e<0.70であり、M’はCr、Mn、Fe、Co、Ni、及びCuからなる群から選択される少なくとも1種類の元素であり、M’’はSi、P、S、V、及びGeからなる群から選択される少なくとも2種類以上であり、ZはLi、O、M’、M’’及びハロゲン以外の元素であり、Xはハロゲン元素である、[1]のリチウム含有酸化物。
[6]25℃においてCuKα線を用いて粉末X線回折測定をした際に、2θが42~46°の範囲内に観測されるピークの半値幅が0.5~5°である、[1]~[5]のいずれか一つのリチウム含有酸化物。
[7]Liを8~12質量%、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、及びCuからなる群から選択される少なくとも1種類の元素であるM’を35~56質量%、Si、P、S、V、及びGeからなる群から選択される少なくとも1種の元素であるM’’を0質量%より大きく15質量%以下含み、25℃においてCuKα線を用いて粉末X線回折測定をした際にカチオン不規則岩塩型構造に由来する回折パターンが観測され、固体Li-NMRスペクトルを測定した際に、1mol/LのLiCl水溶液のピークを0ppmとした-3000~3000ppmの化学シフトの範囲に半値幅が0ppmより大きく40ppm以下であるシグナル1と、半値幅が100ppmより大きく2000ppm以下であるシグナル2とが観測され、前記シグナル1と前記シグナル2との積分強度の合計に対する前記シグナル1の積分強度が0%より大きく60%以下である、リチウム含有酸化物。
[8]アモルファス相を有する、[1]~[7]のいずれか一つのリチウム含有酸化物。
[9][1]~[8]のいずれか一つのリチウム含有酸化物を含む、電極。
[10][9]に記載の電極を含む、非水二次電池。
[11]カチオン不規則岩塩型構造の結晶相とアモルファス相とを有し、
固体Li-NMRスペクトルを測定した際に、1mol/LのLiCl水溶液のピークを0ppmとした-3000~3000ppmの化学シフトの範囲に半値幅が0ppmより大きく40ppm以下であるシグナル1と、半値幅が100ppmより大きく2000ppm以下であるシグナル2とが観測され、
前記シグナル1と前記シグナル2との積分強度の合計に対する前記シグナル1の積分強度が0%より大きく60%以下である、リチウム含有酸化物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、エネルギー効率の高いカチオン不規則リチウム含有酸化物、並びにそれを用いた電極及び電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施例1~3及び比較例1のリチウム含有酸化物の固体Li-NMRスペクトルを示す図である。
図2図2は、実施例2の試料の電子線回折像を示す図である。
図3図3は、実施例2の試料の透過型顕微鏡による暗視野観察像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態に係るリチウム含有酸化物は、カチオン不規則岩塩型構造を有し、固体Li-NMRスペクトルを測定した際に、1mol/LのLiCl水溶液のピークを0ppmとした-3000~3000ppmの化学シフトの範囲に半値幅が0ppmより大きく40ppm以下であるシグナル1と、半値幅が100ppmより大きく2000ppm以下であるシグナル2とが観測され、シグナル1とシグナル2との積分強度の合計に対するシグナル1の積分強度が0%より大きく60%以下である。このようなリチウム含有酸化物によれば、充放電間の電圧ヒステリシスと不可逆容量が小さく、充電と放電との間のエネルギー効率が向上する。また、本明細書において、特に断らない限り、固体Li-NMRスペクトルの化学シフトは、1mol/LのLiCl水溶液のピークを0ppmとした化学シフトを意味するものとする。
【0012】
なお、本明細書において半値幅とは、半値全幅を意味するものとする。また、本明細書において、シグナル1及びシグナル2の積分比とは、シグナル1とシグナル2との積分強度の合計に対するシグナル1及びシグナル2のそれぞれの積分強度(%)である。
【0013】
シグナル1の半値幅は、35ppm以下、30ppm以下、25ppm以下、又は20ppm以下であってよく、0.01ppm以上又は0.1ppm以上であってよい。また、シグナル1の半値幅は、0.01~40ppmであってよく、0.01~35ppmであってよく、0.1~30ppmであってよい。
【0014】
シグナル1は、化学シフトについて-1000~1000ppm、-500~500ppm、-100~100ppm、-50~50ppm、又は-10~50ppmにおいて観測されるシグナルであってよい。
【0015】
シグナル1は上記範囲の半値幅、及び化学シフトを有し、1つ以上のピークを有していて良い。シグナル1が2つ以上観測される場合、化学シフトについて、-20~10ppmの範囲と、10ppmより大きく、50ppm以下の二つの領域において観測されてよい。ここで、-20~10ppmの化学シフトの範囲において観測されるシグナルをシグナル1-1、10ppmより大きく、60ppm以下の化学シフトの範囲において観測されるシグナルをシグナル1-2とも呼ぶ。
【0016】
シグナル1-1は、化学シフトについて-15~8ppm、-10~5ppm、又は-5~3ppmにおいて観測されるシグナルであってよい。シグナル1-1の半値幅は、35ppm以下、30ppm以下、25ppm以下、又は20ppm以下であってよく、0.01ppm以上又は0.1ppm以上であってよい。また、シグナル1-1の半値幅は、0.01~40ppmであってよく、0.01~35ppmであってよく、0.1~30ppmであってよい。
【0017】
シグナル1-2は、化学シフトについて15~50ppm、25~45ppm、又は30~40ppmにおいて観測されるシグナルであってよい。シグナル1-2の半値幅は、35ppm以下、30ppm以下、25ppm以下、又は20ppm以下であってよく、0.01ppm以上又は0.1ppm以上であってよい。また、シグナル1-2の半値幅は、0.01~40ppmであってよく、0.01~35ppmであってよく、0.1~30ppmであってよい。
【0018】
シグナル1の積分比は50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、又は15%以下であってよく、0.01%以上、0.1%以上であってよく、0.01%~50%、0.01%~40%、0.1%~30%、又は0.3~20%であってよい。
【0019】
シグナル1-1及びシグナル1-2の両方が観測される場合、シグナル1-1の積分比は、40%以下、30%以下、20%以下、又は15%以下であってよく、0.01%以上、0.1%以上であってよく、0.01%~40%、0.01%~30%、0.1%~20%、又は0.3~15%であってよい。なお、シグナル1-1及びシグナル1-2の両方が観測される場合、シグナル1-1及びシグナル1-2の積分比は、シグナル1-1、シグナル1-2及びシグナル2の積分強度の合計に対するシグナル1-1及びシグナル1-2のそれぞれの積分強度の割合(%)である。
【0020】
シグナル1-1及びシグナル1-2の両方が観測される場合、シグナル1-2の積分比は、30%以下、20%以下、15%以下、10%以下、又は5%以下であってよく、0.01%以上、0.1%以上であってよく、0.01%~30%、0.01%~20%、0.1%~15%、又は0.3~10%であってよい。
【0021】
シグナル2の半値幅は、150~1800ppm、200~1500ppm、又は250~1300ppmであってよい。
【0022】
シグナル2は、化学シフト-1000~1000ppm、-500~900ppm、-300~800ppm、-200~700ppm、又は-150~600ppmにおいて観測されるシグナルであってよい。
【0023】
シグナル2は上記範囲の半値幅、及び化学シフトを有し、1つ以上のピークを有していて良い。
【0024】
本実施形態のリチウム含有酸化物は、下記式(1)で表されるものであってよい。
LiM’M’’2-e・・・(1)
式(1)中、1<x≦1.40であり、1.03≦x≦1.36であってよい。
式(1)中、0.40≦a≦0.90であり、0.45≦a≦0.87であってよく、0.50≦a≦0.85であってよい。
式(1)中、0.01≦b≦0.35であり、0.05≦b≦0.30であってよく、0.07≦b≦0.25であってよい。
また、2≦x+a+b≦2.2である。
式(1)中、0≦c≦0.20であり、0≦d<0.70であり、0≦e<0.70である。
式(1)中、M’は、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、及びCuからなる群から選択される少なくとも1種類の元素を含有する。M’’はSi、P、S、V、及びGeからなる群から選択される少なくとも1種の元素である。
式(1)中、Zは、Li、O、M’、M’’及びハロゲン以外の元素であり、Xはハロゲン元素である。
【0025】
本実施形態のリチウム含有酸化物は、結晶相を有すると共に、アモルファス相を有していてもよい。結晶相は、アモルファス相内に分散されていてよい。アモルファス相が存在することで材料内でのリチウムイオンの拡散が改善する傾向がある。本実施形態のアルカリ金属含有酸化物は、円相当径で1~30nmの平均粒子径を有する結晶相(結晶子)を有していてもよい。結晶相の平均粒子径は、円相当径で1~20nmであってよく、1~15nmであってよい。ここで、アモルファス相は、透過型電子顕微鏡(TEM)による観察によって、確認することができる。
【0026】
また、本実施形態のリチウム含有酸化物は、Liを8~12質量%、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、及びCuからなる群から選択される少なくとも1種類の元素であるM’を35~56質量%、Si、P、S、V、及びGeからなる群から選択される少なくとも1種の元素であるM’’を0質量%より大きく15質量%以下含むものであってもよい。かかるリチウム含有酸化物は、上記Li、M’及びM’’以外にLi、O、M’、M’’及びハロゲン以外の元素を含んでいてよい。そのような元素としては、例えば、Li以外のアルカリ金属元素、及び周期表第2族~第16族の元素、及びハロゲン元素であってよい。Li以外のアルカリ金属としては、Na、K、Rb、Csが挙げられる。周期表第2族~第16族の元素としては、金属元素であってよく、Al等が挙げられる。ハロゲン元素は、F、Cl、Br及びIからなる群から選択される少なくとも1種類の元素を含んでいてよく、F及びClの少なくとも一方を含んでいてよく、Fを含んでいてよい。ハロゲン元素の含有量は、リチウム含有酸化物の総量に対して5質量%以下であってよい。本実施形態のリチウム含有酸化物は、単相でなくてもよい。すなわち、カチオン不規則岩塩型構造を有するリチウム含有酸化物以外のリチウム含有酸化物が含まれていてもよい。そのため、25℃においてCuKα線を用いて粉末X線回折測定をした際にカチオン不規則岩塩型構造に由来する回折パターンと共にそれ以外の回折パターンが観測されてよい。当該リチウム含有酸化物は、結晶相(結晶子)を有すると共に、アモルファス相を有していてもよい。
【0027】
本実施形態のリチウム含有酸化物におけるLiの含有量は、8.05~11.6質量%であってよく、8.1~11.4質量%であってよい。本実施形態のリチウム含有酸化物におけるM’の含有量は、35.5~54質量%であってよく、36~53質量%であってよい。本実施形態のリチウム含有酸化物におけるM’’の含有量は、1~15質量%であってよく、2~14.5質量%であってよい。本実施形態のリチウム含有酸化物はSi及びPの少なくとも一方を1~10質量%含んでいてもよく、1.5~8.5質量%含んでいてもよく、2~7質量%含んでいてもよい。
【0028】
M’’は、Siを含有していてよい。すなわち、M’’は、Siである、又はSiとP、S、V、及びGeからなる群から選択される少なくとも1種の元素との2種以上の元素であってよい。この場合、式(1)において1<x≦1.40、0.55≦a≦0.90、0.05≦b≦0.22、1.8≦x+a+b≦2.2であってよい。
【0029】
M’’は、Vを含有していてよい。すなわち、M’’はVである、又はVとSi、P、S、及びGeからなる群から選択される少なくとも1種の元素との2種以上の元素であってよい。この場合、式(1)において1<x≦1.30、0.4≦a≦0.85、0.05≦b≦0.30、1.8≦x+a+b≦2.2であってよい。Vは、5価であってよい。
【0030】
M’’は、Geを含有していてよい。すなわち、M’’はGeである、又はGeとSi、P、S、及びVからなる群から選択される少なくとも1種の元素との2種以上の元素であってよい。この場合、式(1)において1<x≦1.30、0.4≦a≦0.85、0.05≦b≦0.30、1.8≦x+a+b≦2.2であってよい。Geは、4価であってよい。
【0031】
M’’はSi、P、S、V、及びGeからなる群から選択される少なくとも2種類以上を含有してもよく、Si及びPの少なくとも一方を含有してよい。この場合、式(1)において式中、1<x≦1.30、0.4≦a≦0.85、0.05≦b≦0.30、1.8≦x+a+b≦2.2であってよい。
【0032】
式(1)において、Zは、例えば、Li以外のアルカリ金属元素、及び周期表第2族~第16族の元素であってよい。Zとしては、例えば、Na、K、Rb、Cs、Al、Mg、Ca、Zr、Nb、Mo、Ru、W、Sn等が挙げられる。Zは、金属元素であってよい。
【0033】
式(1)において、cは、0.10以下であってよく、0.05以下であってよく、0.01以下であってよく、実質的に0であってもよい。
【0034】
式(1)において、Xは、F、Cl、Br及びIからなる群から選択される少なくとも1種類の元素を含んでいてよく、F及びClの少なくとも一方を含んでいてよく、Fを含んでいてよい。
【0035】
式(1)において、dは、0.60以下であってよく、0.40以下であってよく、0.20以下であってよく、0.10以下であってよく、0.05以下であってよく、0.01以下であってよく、実質的に0であってもよい。dは、0.001以上であってよい。また、dは、0.001~0.6であってよく、0.001~0.4であってよく、0.001~0.2であってよい。eは、0.60以下であってよく、0.40以下であってよく、0.20以下であってよく、0.10以下であってよく、0.05以下であってよく、0.01以下であってよく、実質的に0であってもよい。eは、0.001以上であってよい。また、eは、0.001~0.6であってよく、0.001~0.4であってよく、0.001~0.2であってよい。
【0036】
本実施形態のリチウム含有酸化物は、CuKα線を用いて粉末X線回折測定をした際に、結晶空間群Fm-3mの特徴を有するカチオン不規則岩塩型構造に帰属される回折パターンが観測され、2θが42~46°の範囲内に観測されるピークの半値幅が0.5~5°であってよい。結晶空間群Fm-3mの特徴を有するカチオン不規則岩塩型構造において、2θが42~46°の範囲内に観測されるピークは(200)面の反射に由来している。
【0037】
上記リチウム含有化合物を製造する方法としては特に制限されないが、Li及びM’を含み岩塩組成を有する酸化物(岩塩組成酸化物)と、M’’を含むリチウム塩とをボールミルでメカノケミカル的に混合する方法が挙げられる。岩塩組成酸化物としては、LiCrO、LiMnO、LiFeO、LiCoO、LiNiO、LiCuOが挙げられる。リチウム塩としては、LiVO、LiSiO、LiSiO、Li0.50.54、Li3.5Si0.50.54、LiGeO、LiPO等が挙げられる。ボールミルの条件としては特に限定されず、回転数は100~700rpmであってよく、混合時間は、0.5~72時間であってよい。
【0038】
本実施形態のリチウム含有酸化物は、電池(リチウムイオン電池等)の材料に使用することができる。すなわち、本実施形態の電池は、上記リチウム含有酸化物を含む。電池は、一次電池であっても二次電池であってもよい。また、電池は、非水二次電池であってよい。電池において、上記リチウム含有酸化物は、電極に含まれていてよい。
【0039】
本実施形態の電池は、正極と、負極と、正極と負極との間に配置された電解質とを有する。
【0040】
本実施形態の正極は、正極活物質を含む。本実施形態の正極活物質は、本実施形態のリチウム含有酸化物を含むものである。正極は、集電体と、当該集電体上に担持された正極合剤とを含む。正極合剤は、集電体上で正極合材層を形成していてもよい。
【0041】
正極合剤は、正極活物質を含み、必要に応じて導電材、バインダー等を含んでいてよい。
【0042】
導電材としては、天然黒鉛、人造黒鉛、コークス類、カーボンブラックなどの炭素材料などが挙げられる。バインダーとしては、熱可塑性樹脂を挙げることができ、具体的には、ポリフッ化ビニリデン(以下では「PVDF」としても言及する)、ポリテトラフルオロエチレン、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、六フッ化プロピレン・フッ化ビニリデン系共重合体、四フッ化エチレン・パーフルオロビニルエーテル系共重合体などのフッ素樹脂;ならびにポリエチレン、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂等を挙げることができる。集電体としては、Al、Ni、ステンレスなどを用いることができる。
【0043】
集電体に正極合剤を担持させる方法としては、加圧成型する方法、電極合剤について有機溶媒等を用いてペースト化し、集電体上に塗工し、乾燥後プレスするなどして固着する方法等が挙げられる。ペースト化する場合、例えば、上記正極活物質、導電材、バインダー及び有機溶媒からなるスラリーを作製する。有機溶媒としては、N,N-ジメチルアミノプロピリアミン、ジエチルトリアミン等のアミン系;エチレンオキシド、テトラヒドロフラン等のエーテル系;メチルエチルケトン等のケトン系;酢酸メチル等のエステル系;ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等の非プロトン性極性溶媒等が挙げられる。電極合剤を集電体へ塗工する方法としては、例えばスリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法、静電スプレー法等が挙げられる。
【0044】
電池の負極としては特に限定されず、負極活物質を含み、且つ必要に応じて導電助剤、結合剤等を含むものであってよい。例えば、リチウムイオン電池の負極活物質としては、Li、Si、P、Sn、Si-Mn、Si-Co、Si-Ni、In、Auなどの元素の単体及びこれらの元素を含む合金又は複合体、グラファイト等の炭素材料、当該炭素材料の層間にリチウムイオンが挿入された物質などを挙げることができる。
【0045】
電池の電解質としては、特に限定されず、アルカリ金属塩を有機溶媒に溶解させた電解液を用いることができる。また、電解質は、固体電解質であってもよい。アルカリ金属塩としては、ヨウ化物塩、テトラフルオロボレート塩、ヘキサフルオロホスフェート塩、ビス(フルオロスルホニル)イミド塩、ビス(トリフルオロメチルスルホニル)イミド塩等が挙げられる。
【0046】
電解液に含まれる有機溶媒としては、特に限定されないが、非水性溶媒、例えば、エチレンカーボネート(EC)またはプロピレンカーボネート(PC)などの環状カーボネートエステル、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、またはエチルメチルカーボネート(EMC)などの直鎖カーボネートエステル、又はスルトン等が挙げられる。溶媒は、単独で、または2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【実施例
【0047】
(実施例1)
LiMnOは炭酸リチウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)と酸化マンガン(III)(富士フイルム和光純薬株式会社製)を1:1のモル比で混合し、アルゴン雰囲気下、900℃で12時間焼成することによって得た。LiVOは炭酸リチウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)と酸化バナジウム(V)(富士フイルム和光純薬株式会社製)を3:1のモル比で混合し、大気中、650℃で12時間焼成することによって得た。LiMnO粉末とLiVO粉末とを0.9:0.1のモル比で混合し、4mm径のジルコニアボールと上記混合粉を65:1の質量比となるようにジルコニア製ボールミル容器に導入した。ボールミル容器を遊星ボールミル装置(Retsch社製、PM200)に導入し、500rpmの回転数で48時間、ボールミルを行うことでカチオン不規則リチウム含有酸化物を得た。
【0048】
(実施例2~11及び比較例1~4)
以下のとおり、原料を得た。
LiSiOは炭酸リチウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)と二酸化ケイ素(富士フイルム和光純薬株式会社製)とを2:1のモル比で混合し、大気下、900℃で4時間焼成することによって得た。
LiSiOは株式会社高純度化学研究所製の試薬を使用した。
LiGeOは炭酸リチウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)と酸化ゲルマニウム(株式会社高純度化学研究所製)とを2:1のモル比で混合し、大気下、650℃で12時間焼成することによって得た。
Li0.50.5は炭酸リチウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)とリン酸水素二アンモニウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)と酸化バナジウム(V)とを6:2:1のモル比で混合し、大気下、800℃で10時間焼成することによって得た。
Li3.5Si0.50.5は炭酸リチウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)とLiPOと二酸化ケイ素(富士フイルム和光純薬株式会社製)とを2:1:1のモル比で混合し、アルゴン雰囲気下、900℃で10時間焼成することによって得た。
LiPOは水酸化リチウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)とリン酸水素二アンモニウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)を3:1のモル比となるようにイオン交換水に溶解させ、発生した沈殿を濾過し、80℃で乾燥することによって得た。
LiCrOは炭酸リチウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)と酸化クロム(III)(富士フイルム和光純薬株式会社製)とを1:1のモル比で混合し、アルゴン雰囲気下、800℃で15時間焼成することによって得た。
Li1.2Mn0.5Ti0.3は炭酸リチウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)と酸化マンガン(III)(富士フイルム和光純薬株式会社製)と酸化マンガン(IV)とTiO(富士フイルム和光純薬株式会社製)とを6:2:1:3のモル比となるように秤量し、エタノールと8mm径のジルコニアボールとともに湿式のボールミルで混合し、ろ過、乾燥後の混合粉をアルゴン雰囲気下、900℃で12時間焼成することによって得た。
以上の原料を使用して配合を表1に示すとおりに変更し、比較例3以外は実施例1と同様の条件でボールミルを行い、リチウム含有酸化物を製造した。
【0049】
<充放電試験>
(1)正極の作製
比較例3を除く実施例及び比較例の各リチウム含有化合物、導電材としてアセチレンブラック(商品名:HS-100、デンカ株式会社製)及びバインダーとしてポリテトラフルオロエチレン(PTFE、品番:6-J、三井・ケマーズフロロプロダクツ株式会社)を、正極活物質:導電材:バインダー=70:20:10(質量比)の組成となるようにそれぞれ秤量した。そして、正極活物質と導電材をメノウ乳鉢で十分に混合し、バインダーを加えさらに混合した。混合物7mgを秤量し、乳鉢上で円形に引き延ばした。引き延ばした混合物を集電体である厚さ110μmのアルミメッシュ(100メッシュ、株式会社ニラコ製)に圧着し、正極活物質を含む正極を得た。
比較例3については、Li1.2Mn0.5Ti0.3とアセチレンブラック(商品名:HS―100、デンカ株式会社製)とを9:1の質量比となるように秤量し、8mm径のジルコニアボールとともに500rpmの回転数で9時間、ボールミルを行った。上記混合粉とアセチレンブラック、及びバインダーとしてPVDFのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)溶液(KFポリマー、品番:L#1120、クレハ社製)を正極活物質:アセチレンブラック:PVDFが72:18:10(質量比)の組成となる割合で加えて混錬することにより、ペースト状の正極合材を調整した。正極合材の調製時には、NMPを添加することでペーストの粘度を調整した。得られた正極合材を集電体となる厚さ40μmのAl箔に塗布して60℃で1時間大気乾燥した後、150℃で8時間真空乾燥を行い正極を得た。
【0050】
(2)Liハーフセルの作製及び評価
上記正極と、セパレータとしてポリエチレン製多孔質フィルム(厚み16μm)、非水電解液として1MのLiPF溶液(溶媒は、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)とを30:35:35の体積比で含む混合溶媒)、及び対極として金属リチウムを用いてコイン型電池CR2032タイプを組み立てた。なお、電池の組み立てはアルゴン雰囲気のグローブボックス内で行った。作製したコイン型電池を用いて、25℃、1.5~4.8Vの電圧の範囲で以下の条件により充放電試験を行った。充放電試験の結果から、横軸に電池容量(mAh/g)、縦軸に電池電圧(V vsLi/Li)を取った充放電曲線を作成し、充電時及び放電時ついてそれぞれ曲線と横軸に囲まれた領域の面積を求め、充電エネルギー密度及び放電エネルギー密度を算出した。初回の放電エネルギー密度及びエネルギー効率(充電エネルギー密度に対する放電エネルギー密度の比(%))の測定結果を表1に示す。
充放電条件:30mA/g、カットオフ条件6mA/gで定電流定電圧充電(CC―CV)充電を行った。
放電時条件:30mA/gで定電流(CC)放電を行った。
【0051】
【表1】
【0052】
<固体Li-NMR測定>
実施例及び比較例で得られた各リチウム含有酸化物について、室温(25℃)において以下の条件で固体Li-NMRの測定を行った。結果を表2及び表3に示す。ここで、シグナル1は試料中の常磁性成分の影響が比較的小さいリチウムに由来する、半値幅が0ppmより大きく40ppm以下のシグナルであり、シグナル2は試料中の常磁性成分の影響を比較的強く受けているLiに由来する、半値幅が100ppmより大きく2000ppm以下のシグナルを指す。表2及び表3において、シグナル積分比は、シグナル1とシグナル2の積分強度の合計に対する各シグナルの積分強度の割合(%)を表す。なお、各シグナルの積分強度は、ガウス関数によってカーブフィッティングを行い、シグナルを分離してから算出した。実施例1~3及び比較例1のリチウム含有酸化物の固体Li-NMRスペクトルを図1に示す。なお、図1中、*のシグナルは、抑制しきれなかったスピニングサイドバンドである。
前処理として、分析試料約6mgを1.3mmφのジルコニア製ローターに詰めた。
固体Li-NMRの測定は以下のとおりである。
分光器:AVANCE300(Bruker社製)
観測核:7Li(共鳴周波数117MHz)
測定法:MATPASS法
MAS条件:50kHz
待ち時間:0.2秒
積算回数:81920回
測定温度:25℃
基準物質:1mol/L LiCl水溶液
【0053】
【表2】
【0054】
【表3】
【0055】
<X線回折>
実施例及び比較例の各リチウム含有酸化物に粉末X線回折測定装置(株式会社Rigaku製Ultima IV)を用いて粉末X線回折測定を行った。測定は室温において、リチウム含有酸化物をガラスプレートに充填し、空気及び湿気を避けるためにベリリウム窓がついた気密試料台内に試料を載せたガラスプレートを密閉し、大気非暴露で測定を行った。CuKα線源を用い40kV、40mAの出力にて、回折角2θ=10°~90°の範囲を0.02°ステップ、2°/分の速度にて行った。結果を表4に示す。
【0056】
【表4】
【0057】
<透過型電子顕微鏡による観察>
以下の測定条件で、実施した。
装置:分析電子顕微鏡 ARM200F 日本電子株式会社製
測定条件: 加速電圧 200kV
試料調整:実施例2のリチウム含有酸化物に対して不活性雰囲気下で乾式分散法により試料調製を行った。
図2に、実施例2の試料の電子線回折像を示す。図中のBFで表される円は、明視野像(図示せず)の観察位置である。図2における1、2及び3の円は、対物絞りの挿入位置(開口)を示す。図2では、複数の輝点がリング状に配列していることが観測されると共に、ハローが観測されることから結晶相及びアモルファス相が存在していることがわかる。
図3は、実施例2の試料の透過型顕微鏡による暗視野観察像を示す図である。図3における(A)、(B)及び(C)は、それぞれ、図2における1、2及び3の位置に対物絞りを挿入して測定した暗視野観察像に対応する。図3における白い粒状の構造は結晶相を示す。結晶相は、円相当径で3~10nm程度の粒径を有していた。
図1
図2
図3