IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 古河電気工業株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】溶接方法およびレーザ溶接システム
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/21 20140101AFI20240902BHJP
   B23K 26/064 20140101ALI20240902BHJP
   B23K 26/082 20140101ALI20240902BHJP
   B23K 26/073 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
B23K26/21 G
B23K26/064 Z
B23K26/082
B23K26/21 N
B23K26/073
【請求項の数】 24
(21)【出願番号】P 2022211138
(22)【出願日】2022-12-28
(62)【分割の表示】P 2022506866の分割
【原出願日】2021-03-12
(65)【公開番号】P2023029489
(43)【公開日】2023-03-03
【審査請求日】2022-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2020044765
(32)【優先日】2020-03-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020097702
(32)【優先日】2020-06-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 暢康
(72)【発明者】
【氏名】西野 史香
(72)【発明者】
【氏名】安岡 知道
(72)【発明者】
【氏名】寺田 淳
(72)【発明者】
【氏名】尹 大烈
(72)【発明者】
【氏名】梅野 和行
(72)【発明者】
【氏名】金子 昌充
【審査官】山下 浩平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/159857(WO,A1)
【文献】特開2004-148333(JP,A)
【文献】特開2002-219590(JP,A)
【文献】国際公開第2019/203367(WO,A1)
【文献】特開2010-269339(JP,A)
【文献】特開2008-028286(JP,A)
【文献】特開2006-094600(JP,A)
【文献】特開2019-046885(JP,A)
【文献】特開2018-051607(JP,A)
【文献】特開2015-103318(JP,A)
【文献】特開2007-319878(JP,A)
【文献】特開2011-212711(JP,A)
【文献】特開2015-047621(JP,A)
【文献】特開2014-161862(JP,A)
【文献】特開2001-276988(JP,A)
【文献】特開2004-025284(JP,A)
【文献】Markus Rutering,Hybrid Solution Moves Boundaries of Copper Welding,PhotonicsViews,米国,John Wiley & Sons, Inc.,2019年10月09日,Vol. 16, Issue 5,P46-50,https://onlinelibrary.wiley.com/doi/epdf/10.1002/phvs.201900044
【文献】武田 晋,高出カダイレクト半導体レーザ発振器の動向と遥用事例,レーザ加工学会誌,Vol. 26 No. 3,日本,レーザ加工学会,2019年10月,P13-19,https://www.jstage.jst.go.jp/article/jlps/26/3/26_13/_pdf/-char/ja
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
C21D 1/02 - 1/84
C21D 7/00 - 8/10
C21D 9/663 -11/00
C21F 1/00 - 3/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工対象に対して相対的に掃引方向に移動するレーザ光を前記加工対象の表面に照射することにより、前記加工対象のレーザ光が照射された部分を溶融して溶接を行う、溶接方法であって、
前記レーザ光は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光と、550[nm]以下の波長の第二レーザ光と、を含み、
前記表面上において、前記第二レーザ光のパワーの前記第一レーザ光のパワーに対する出力比が、0.1以上2以下であり、
前記第二レーザ光を照射せずに前記第一レーザ光のみを照射した場合に前記表面に形成される溶接部の幅をwb[μm]、前記第一レーザ光および前記第二レーザ光を照射する場合において前記第二レーザ光によって前記表面上に形成される第二スポットの外径をD2[μm]としたとき、次の式(1)
wb-400<D2<wb+400 ・・・(1)
を満たすよう、前記第二スポットの外径を設定した、溶接方法。
【請求項2】
前記加工対象は、銅系金属材料、アルミニウム系金属材料、ニッケル系金属材料、鉄系金属材料、およびチタン系金属材料のうちのいずれか一つである、請求項1に記載の溶接方法。
【請求項3】
次の式(1A)
wb-50<D2<wb+50 ・・・(1A)
を満たすよう、前記第二スポットの外径を設定した、請求項1または2に記載の溶接方法。
【請求項4】
前記レーザ光は、複数のビームを含む、請求項1~のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項5】
前記複数のビームは、ビームシェイパによって形成される、請求項に記載の溶接方法。
【請求項6】
前記表面の算術平均粗さが、21[μm]以下である、請求項1~のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項7】
前記レーザ光の前記表面上における掃引速度は、50[mm/s]以上である、請求項1~のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項8】
前記加工対象は、重ねられた複数枚の板状の金属材料を有した、請求項1~のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項9】
前記加工対象は、導体としての、端子、バスバー、コイル、電池のタブのうちいずれか一つである、請求項1~のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項10】
前記レーザ光をウォブリング、ウィービング、または出力変調を行いながら前記表面に照射する、請求項1~のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項11】
前記加工対象は、めっき付き金属板を含む、請求項1~10のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項12】
前記表面上において、前記第二レーザ光によって前記表面上に形成される第二スポットは、前記第一レーザ光によって前記表面上に形成される第一スポットより広い、請求項1~11のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項13】
前記表面上における前記第二レーザ光のパワー密度は、0.16[MW/cm]以上1.5[MW/cm]以下である、請求項1~12のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項14】
前記表面上において、前記レーザ光によって前記表面上に形成されるスポットの形状は、当該スポットの中心に対する点対称形状を有する、請求項1~13のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項15】
前記表面上において、前記第一レーザ光によって前記表面上に形成される第一スポットの中心と、前記第二レーザ光によって前記表面上に形成される第二スポットの中心とが略一致する、請求項1~14のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項16】
前記第一レーザ光と前記第二レーザ光とが同軸で照射される、請求項1~15のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項17】
前記表面上において、前記第一レーザ光によって前記表面上に形成される第一スポットの中心と、前記第二レーザ光によって前記表面上に形成される第二スポットの中心とがずれている、請求項1~13のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項18】
前記表面上において、前記第一レーザ光によって前記表面上に形成される第一スポットは、部分的に、前記第二レーザ光によって前記表面上に形成される第二スポットの外側に位置する、請求項1~1317のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項19】
前記表面上において、前記第一レーザ光によって前記表面上に形成される第一スポットと、前記第二レーザ光によって前記表面上に形成される第二スポットとが、互いにずれている、請求項1~131718のうちいずれか一つに記載の溶接方法。
【請求項20】
800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光を発振する第一レーザ発振器と、
550[nm]以下の波長の第二レーザ光を発振する第二レーザ発振器と、
前記第一レーザ光および前記第二レーザ光を含むレーザ光を加工対象の表面に照射することにより、前記加工対象の前記レーザ光が照射された部分を溶融して溶接を行う光学ヘッドと、
前記第一レーザ光および前記第二レーザ光のレーザ発振タイミングおよびパワーを制御する制御部と、
前記第一レーザ発振器、前記第二レーザ発振器、および前記光学ヘッドを冷却する冷却機構と、
を備え、
前記レーザ光が前記加工対象に対して相対的に掃引方向に移動するよう、前記加工対象と前記レーザ光とが相対移動可能に構成され、
前記表面上において、前記第二レーザ光のパワーの前記第一レーザ光のパワーに対する出力比が、0.1以上2以下であり、
前記第二レーザ光を照射せずに前記第一レーザ光のみを照射した場合に前記表面に形成される溶接部の幅をwb[μm]、前記第一レーザ光および前記第二レーザ光を照射する場合において前記第二レーザ光によって前記表面上に形成される第二スポットの外径をD2[μm]としたとき、次の式(1)
wb-400<D2<wb+400 ・・・(1)
を満たすよう、前記第二スポットの外径を設定した、レーザ溶接システム。
【請求項21】
前記レーザ光が前記表面上で前記掃引方向に移動するよう前記レーザ光の出射方向を変化させるガルバノスキャナを備えた、請求項20に記載のレーザ溶接システム。
【請求項22】
前記レーザ光を複数のビームに分割するビームシェイパを備えた、請求項20または21に記載のレーザ溶接システム。
【請求項23】
前記光学ヘッドは、前記レーザ光をウォブリング、ウィービング、または出力変調を行いながら前記表面に照射する、請求項2022のうちいずれか一つに記載のレーザ溶接システム。
【請求項24】
前記光学ヘッドは、前記第一レーザ光と前記第二レーザ光とを同軸で照射する、請求項2023のうちいずれか一つに記載のレーザ溶接システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接方法およびレーザ溶接システムに関する。
【背景技術】
【0002】
金属材料からなる加工対象を溶接する手法の一つとして、レーザ溶接が知られている。レーザ溶接とは、レーザ光を加工対象の溶接すべき部分に照射し、レーザ光のエネルギで当該部分を溶融させる溶接方法である。レーザ光が照射された部分には、溶融池と呼ばれる溶融した金属材料の液溜りが形成され、その後、溶融池が固化することによって溶接が行われる。
【0003】
また、レーザ光を加工対象に照射する際には、その目的に応じ、レーザ光のプロファイルが成形されることもある。例えば、レーザ光を加工対象の切断に用いる場合に、レーザ光のプロファイルを成形する技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2010-508149号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、溶接時には、スパッタやブローホールのような溶接欠陥を抑制することが求められている。スパッタは、溶融金属が飛散したものであるため、当該スパッタが発生すると溶接個所における金属材料が減少してしまっていることにもなる。つまり、スパッタの発生が多くなると、溶接個所の金属材料が不足してしまい、強度不良等を引き起こすことにもなる。また、発生したスパッタは、溶接個所の周辺に付着することになるが、これがのちに剥離し、電気回路等に付着すると、電気回路に異常をきたしてしまう。したがって、電気回路用の部品に対して溶接を行うことは困難な場合がある。また、ブローホールは、溶接部に生じた略球形の空洞であり、溶接強度の低下の一因となる。
【0006】
そこで、本発明の課題の一つは、例えば、より溶接欠陥を抑制することが可能な、溶接方およびレーザ溶接システムを得ること、である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の溶接方法にあっては、例えば、加工対象に対して相対的に掃引方向に移動するレーザ光を前記加工対象の表面に照射することにより、前記加工対象のレーザ光が照射された部分を溶融して溶接を行う、溶接方法であって、前記レーザ光は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光と、550[nm]以下の波長の第二レーザ光と、を含む。
【0008】
前記溶接方法では、前記第二レーザ光の波長は、400[nm]以上500[nm]以下であってもよい。
【0009】
前記溶接方法では、前記加工対象は、銅系金属材料、アルミニウム系金属材料、ニッケル系金属材料、鉄系金属材料、およびチタン系金属材料のうちのいずれか一つであってもよい。
【0010】
前記溶接方法では、前記表面上において、前記第二レーザ光によって前記表面上に形成される第二スポットの少なくとも一部は、前記第一レーザ光によって前記表面上に形成される第一スポットよりも前記掃引方向の前方に位置してもよい。
【0011】
前記溶接方法では、前記表面上において、前記第一スポットと前記第二スポットとは少なくとも部分的に重なってもよい。
【0012】
前記溶接方法では、前記表面上において、前記第二スポットの第二外縁は、前記第一スポットの第一外縁を取り囲んでもよい。
【0013】
前記溶接方法では、前記第二レーザ光を照射せずに前記第一レーザ光のみを照射した場合に前記表面に形成される溶接部の幅をwb、前記第一レーザ光および前記第二レーザ光を照射する場合における前記第二スポットの外径をD2としたとき、次の式(1)
wb-400<D2<wb+400 ・・・(1)
を満たすよう、前記第二スポットの外径を設定してもよい。
【0014】
前記溶接方法では、前記表面上において、前記第二レーザ光のパワーの前記第一レーザ光のパワーに対する出力比が、0.1以上2以下であってもよい。
【0015】
前記溶接方法では、前記レーザ光は、複数のビームを含んでもよい。
【0016】
前記溶接方法では、前記複数のビームは、ビームシェイパによって形成されてもよい。
【0017】
前記溶接方法では、前記表面の算術平均粗さが、21[μm]以下であってもよい。
【0018】
前記溶接方法では、前記レーザ光の前記表面上における掃引速度は、50[mm/s]以上であってもよい。
【0019】
また、本発明のレーザ溶接システムは、例えば、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光を発振する第一レーザ発振器と、500[nm]以下の波長の第二レーザ光を発振する第二レーザ発振器と、前記第一レーザ光および前記第二レーザ光を含むレーザ光を加工対象の表面に照射することにより、前記加工対象の前記レーザ光が照射された部分を溶融して溶接を行う光学ヘッドと、前記第一レーザ光および前記第二レーザ光のレーザ発振タイミングおよびパワーを制御する制御部と、前記第一レーザ発振器、前記第二レーザ発振器、および前記光学ヘッドを冷却する冷却機構と、を備え、前記レーザ光が前記加工対象に対して相対的に掃引方向に移動するよう、前記加工対象と前記レーザ光とが相対移動可能に構成される。
【0020】
前記レーザ溶接システムは、前記レーザ光が前記表面上で前記掃引方向に移動するよう前記レーザ光の出射方向を変化させるガルバノスキャナを備えてもよい。
【0021】
前記レーザ溶接システムは、前記レーザ光を複数のビームに分割するビームシェイパを備えてもよい。
【0022】
また、本発明の金属部材は、例えば、第一表面と、当該第一表面の裏側の第二表面と、前記第一表面に沿って延びた溶接部と、を備えた金属部材であって、前記溶接部は、前記第一表面から前記第二表面に向けて延びた溶接金属と、前記溶接金属の周囲に位置される熱影響部と、を有し、前記溶接金属は、前記第一表面に対して当該第一表面から前記第二表面に向かう厚さ方向に離れて位置された第一部位と、当該第一部位と前記第一表面との間に位置され前記第一部位よりも前記溶接部の延び方向と直交する断面における結晶粒の断面積の平均値が大きい第二部位と、を有する。
【0023】
前記金属部材では、前記第二部位に含まれる結晶粒の断面積の平均値は、前記第一部位に含まれる結晶粒の断面積の平均値の1.8倍以上であってもよい。
【0024】
また、本発明の金属部材は、例えば、第一表面と、当該第一表面の裏側の第二表面と、前記第一表面に沿って延びた溶接部と、を備えた金属部材であって、前記溶接部は、前記第一表面から前記第二表面に向けて延びた溶接金属と、前記溶接金属の周囲に位置される熱影響部と、を有し、第一粒界数比率を次の式(3-1)
Rb1=N12/N11 ・・・(3-1)
(ここに、Rb1は、第一粒界数比率、N11は、前記第一表面と直交しかつ前記溶接部の延び方向に沿った試験断面において、前記第一表面に沿った所定の長さの直線試験線と交差した粒界数であり、N12は、前記試験断面において、前記第一表面と直交した方向に延びた前記所定の長さの直線試験線と交差した粒界数である。)と表した場合に、前記溶接金属は、前記第一表面に対して当該第一表面から前記第二表面に向かう厚さ方向に離れて位置された第三部位と、当該第三部位と前記第一表面との間に位置され前記第一粒界数比率が前記第三部位の前記第一粒界数比率よりも低い第四部位と、を有する。
【0025】
また、本発明の金属部材は、例えば、第一表面と、当該第一表面の裏側の第二表面と、前記第一表面に沿って延びた溶接部と、を備えた金属部材であって、前記溶接部は、前記第一表面から前記第二表面に向けて延びた溶接金属と、前記溶接金属の周囲に位置される熱影響部と、を有し、第二粒界数比率を次の式(3-2)
Rb2=max(N22/N21,N21/N22) ・・・(3-2)
(ここに、Rb2は、第二粒界数比率、N21は、前記第一表面と直交しかつ前記溶接部の延び方向に沿った試験断面において、前記第一表面に沿う方向および前記第一表面と直交する方向の間の第一方向に延びた所定の長さを有する直線試験線と交差した粒界数であり、N22は、前記試験断面おいて、前記第一方向と直交した第二方向に延びた前記所定の長さを有する直線試験線と交差した粒界数であり、max(N22/N21,N21/N22)は、(N22/N21)が(N21/N22)以上である場合は(N22/N21)とし、(N22/N21)が(N21/N22)未満である場合は(N21/N22)とする。)と表した場合に、前記溶接金属は、前記第一表面に対して当該第一表面から前記第二表面に向かう厚さ方向に離れて位置された第三部位と、当該第三部位と前記第一表面との間に位置され前記第二粒界数比率が前記第三部位の前記第二粒界数比率よりも高い第四部位と、を有する。
【0026】
また、本発明の金属部材は、例えば、第一表面と、当該第一表面の裏側の第二表面と、前記第一表面に沿って延びた溶接部と、を備えた金属部材であって、前記溶接部は、前記第一表面から前記第二表面に向けて延びた溶接金属と、前記溶接金属の周囲に位置される熱影響部と、を有し、第一粒界数比率を次の式(3-1)
Rb1=N12/N11 ・・・(3-1)
(ここに、Rb1は、第一粒界数比率、N11は、前記第一表面と直交しかつ前記溶接部の延び方向に沿った試験断面において、前記第一表面に沿った所定の長さの直線試験線と交差した粒界数であり、N12は、前記試験断面において、前記第一表面と直交した方向に延びた前記所定の長さの直線試験線と交差した粒界数である。)と表し、かつ、第二粒界数比率Rb2を次の式(3-2)
Rb2=max(N22/N21,N21/N22) ・・・(3-2)
(ここに、Rb2は、第二粒界数比率、N21は、前記第一表面と直交しかつ前記溶接部の延び方向に沿った試験断面において、前記第一表面に沿う方向および前記第一表面と直交する方向の間の第一方向に延びた所定の長さを有する直線試験線と交差した粒界数であり、N22は、前記試験断面おいて、前記第一方向と直交した第二方向に延びた前記所定の長さを有する直線試験線と交差した粒界数であり、max(N22/N21,N21/N22)は、(N22/N21)が(N21/N22)以上である場合は(N22/N21)とし、(N22/N21)が(N21/N22)未満である場合は(N21/N22)とする。)と表した場合に、前記溶接金属は、前記第一表面に対して当該第一表面から前記第二表面に向かう厚さ方向に離れて位置された第三部位と、当該第三部位と前記第一表面との間に位置され前記第一粒界数比率が前記第三部位の前記第一粒界数比率よりも低くかつ前記第二粒界数比率が前記第三部位の前記第二粒界数比率よりも高い第四部位と、を有する。
【0027】
また、本発明の電気部品は、例えば、前記金属部材を導体として有してもよい。
【0028】
また、本発明の電子機器は、例えば、前記金属部材を導体として有してもよい。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、例えば、より溶接欠陥を抑制することが可能な、溶接方法、レーザ溶接システム、金属部材、電気部品、および電子機器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、第1実施形態のレーザ溶接装置の例示的な概略構成図である。
図2図2は、第1実施形態のレーザ溶接装置によって加工対象の表面上に形成されるレーザ光のビーム(スポット)を示す例示的な模式図である。
図3図3は、照射するレーザ光の波長に対する各金属材料の光の吸収率を示すグラフである。
図4図4は、実施形態の溶接部の例示的かつ模式的な断面図である。
図5図5は、実施形態の溶接部の一部を示す例示的かつ模式的な断面図である。
図6図6は、第1実施形態のレーザ溶接装置による第一レーザ光のパワー密度と第二レーザ光のパワー密度との組み合わせにおける溶接の実験結果を示すグラフである。
図7図7は、第1実施形態のレーザ溶接装置による第一レーザ光を単体で照射した場合の溶接部の幅と第二スポット径との組み合わせにおける溶接の実験結果を示すグラフである。
図8図8は、実施形態のレーザ溶接装置による第一レーザ光のパワーに対する第二レーザ光のパワーの比である出力比と、スパッタ抑制率との相関関係を示すグラフである。
図9図9は、実施形態の溶接部の例示的かつ模式的な断面図であって、掃引方向に沿うとともに表面と直交した断面における断面図である。
図10図10は、参考例として図9の場合と同じパワーでの第一レーザ光の単独の照射により形成された溶接部の例示的かつ模式的な断面図であって、掃引方向に沿うとともに表面と直交した断面における断面図である。
図11図11は、図9の一部の拡大図である。
図12図12は、実施形態の溶接部の断面中の一つの位置について、第一基準線を適用した場合を示す説明図である。
図13図13は、実施形態の溶接部の断面中の一つの位置について、第二基準線を適用した場合を示す説明図である。
図14図14は、第2実施形態のレーザ溶接装置の例示的な概略構成図である。
図15図15は、第2実施形態のレーザ溶接装置に含まれる回折光学素子の原理の概念を示す説明図である。
図16図16は、第3実施形態のレーザ溶接装置の例示的な概略構成図である。
図17図17は、第4実施形態のレーザ溶接装置の例示的な概略構成図である。
図18図18は、第5実施形態のレーザ溶接システムの例示的な概略構成図である。
図19図19は、第6実施形態のレーザ溶接システムの例示的な概略構成図である。
図20図20は、第7実施形態のレーザ溶接装置の例示的な概略構成図である。
図21図21は、第7実施形態のレーザ溶接装置によって加工対象の表面上に形成されるレーザ光のビーム(スポット)の一例を示す模式図である。
図22図22は、第7実施形態のレーザ溶接装置によって加工対象の表面上に形成されるレーザ光のビーム(スポット)の一例を示す模式図である。
図23図23は、第7実施形態のレーザ溶接装置によって加工対象の表面上に形成されるレーザ光のビーム(スポット)の一例を示す模式図である。
図24図24は、第8実施形態のレーザ溶接装置の例示的な概略構成図である。
図25図25は、第9実施形態のレーザ溶接装置の例示的な概略構成図である。
図26図26は、実施形態のレーザ溶接装置によって加工対象の表面上に形成されるレーザ光のビーム(スポット)の一例を示す模式図である。
図27図27は、実施形態の溶接部の掃引方向に沿うとともに表面と直交した断面における例示的かつ模式的な断面図であって、溶接部の掃引方向の前端部の断面図である。
図28図28は、参考例として図27の場合と同じパワーでの第一レーザ光の単独の照射により形成された溶接部の掃引方向に沿うとともに表面と直交した断面における例示的かつ模式的な断面図であって、溶接部の掃引方向の前端部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、一例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能である。また、本発明によれば、構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)のうち少なくとも一つを得ることが可能である。
【0032】
以下に示される実施形態は、同様の構成を備えている。よって、各実施形態の構成によれば、当該同様の構成に基づく同様の作用および効果が得られる。また、以下では、それら同様の構成には同様の符号が付与されるとともに、重複する説明が省略される場合がある。
【0033】
また、各図において、X方向を矢印Xで表し、Y方向を矢印Yで表し、Z方向を矢印Zで表している。X方向、Y方向、およびZ方向は、互いに交差するとともに直交している。Z方向は、加工対象Wの表面Wa(加工面)の法線方向である。
【0034】
また、本明細書において、序数は、部品や、部材、部位、レーザ光、方向等を区別するために便宜上付与されており、優先度や順番を示すものではない。
【0035】
[第1実施形態]
図1は、第1実施形態のレーザ溶接装置100の概略構成図である。図1に示されるように、レーザ溶接装置100は、レーザ装置111と、レーザ装置112と、光学ヘッド120と、光ファイバ130と、を備えている。
【0036】
レーザ装置111,112は、それぞれ、レーザ発振器を有しており、一例としては、数kWのパワーのレーザ光を出力できるよう構成されている。また、レーザ装置111,112は、例えば、内部に複数の半導体レーザ素子を備え、当該複数の半導体レーザ素子の合計の出力として数kWのパワーのマルチモードのレーザ光を出力できるよう構成されてもよい。また、レーザ装置111,112は、ファイバレーザ、YAGレーザ、ディスクレーザ等様々なレーザ光源を備えてもよい。
【0037】
レーザ装置111は、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光を出力する。レーザ装置111は、第一レーザ装置の一例である。レーザ装置111が有するレーザ発振器は、第一レーザ発振器の一例である。
【0038】
他方、レーザ装置112は、500[nm]以下の波長の第二レーザ光を出力する。レーザ装置112は、第二レーザ装置の一例である。レーザ装置112は、400[nm]以上500[nm]以下の波長の第二レーザ光を出力するのが好適である。レーザ装置112が有するレーザ発振器は、第二レーザ発振器の一例である。
【0039】
光ファイバ130は、それぞれ、レーザ装置111,112から出力されたレーザ光を光学ヘッド120に導く。
【0040】
光学ヘッド120は、レーザ装置111,112から入力されたレーザ光を、加工対象Wに向かって照射するための光学装置である。光学ヘッド120は、コリメートレンズ121と、集光レンズ122と、ミラー123と、フィルタ124と、を備えている。コリメートレンズ121、集光レンズ122、ミラー123、およびフィルタ124は、光学部品とも称されうる。
【0041】
光学ヘッド120は、加工対象Wの表面Wa上でレーザ光Lの照射を行いながらレーザ光Lを掃引するために、加工対象Wとの相対位置を変更可能に構成されている。光学ヘッド120と加工対象Wとの相対移動は、光学ヘッド120の移動、加工対象Wの移動、または光学ヘッド120および加工対象Wの双方の移動により、実現されうる。
【0042】
なお、光学ヘッド120は、図示しないガルバノスキャナ等を有することにより、表面Wa上でレーザ光Lを掃引可能に構成されてもよい。
【0043】
コリメートレンズ121(121-1,121-2)は、それぞれ、光ファイバ130を介して入力されたレーザ光をコリメートする。コリメートされたレーザ光は、平行光になる。
【0044】
ミラー123は、コリメートレンズ121-1で平行光となった第一レーザ光を反射する。ミラー123で反射した第一レーザ光は、Z方向の反対方向に進み、フィルタ124へ向かう。なお、第一レーザ光が光学ヘッド120においてZ方向の反対方向へ進むように入力される構成にあっては、ミラー123は不要である。
【0045】
フィルタ124は、第一レーザ光を透過し、かつ第二レーザ光を透過せずに反射するハイパスフィルタである。第一レーザ光は、フィルタ124を透過してZ方向の反対方向へ進み、集光レンズ122へ向かう。他方、フィルタ124は、コリメートレンズ121-2で平行光となった第二レーザ光を反射する。フィルタ124で反射した第二レーザ光は、Z方向の反対方向に進み、集光レンズ122へ向かう。
【0046】
集光レンズ122は、平行光としての第一レーザ光および第二レーザ光を集光し、レーザ光L(出力光)として、加工対象Wへ照射する。加工対象Wは、金属部材の一例である。
【0047】
レーザ光Lの照射により、加工対象Wには、溶接部14が形成される。溶接部14は、表面Waから裏面Wbに向けて延びるとともに、表面Waに沿って掃引方向SDに線状に延びる。表面Waは、第一表面の一例であり、裏面Wbは、第二表面の一例である。
【0048】
図2は、加工対象Wの表面Wa上に照射されたレーザ光Lのビーム(スポット)を示す模式図である。図2に示されるように、表面Wa上において、レーザ光Lのビームは、第一レーザ光のビームB1と第二レーザ光のビームB2とが重なり、ビームB2がビームB1よりも大きく(広く)、かつ、ビームB2の外縁B2aがビームB1の外縁B1aを取り囲むように、形成されている。表面Wa上において、ビームB1は、第一スポットの一例であり、ビームB2は、第二スポットの一例である。
【0049】
図2に示される矢印SDは、掃引方向を示す。図2に示されるように、レーザ光Lのビームは、中心点Cに対する点対称形状を有しているため、任意の掃引方向SDについて、レーザ光Lのビーム(スポット)の形状は同じになる。よって、レーザ光Lの表面Wa上での掃引のために光学ヘッド120と加工対象Wとを相対的に動かす移動機構を備える場合、当該移動機構は、少なくとも相対的に並進可能な機構を有すればよく、相対的に回転可能な機構は省略できる場合がある。
【0050】
加工対象Wは、それぞれ、熱伝導率の比較的高い金属材料で作られ得る。金属材料は、例えば、銅系金属材料や、アルミニウム系金属材料、ニッケル系金属材料、鉄系金属材料、チタン系金属材料などであり、具体的には、銅や、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、錫、ニッケル、ニッケル合金、鉄、ステンレス、チタン、チタン合金等である。加工対象Wは、金属部材の一例である。
【0051】
[波長と光の吸収率、溶融状態]
ここで、金属材料の光の吸収率について説明する。図3は、照射するレーザ光Lの波長に対する各金属材料の光の吸収率を示すグラフである。図3のグラフの横軸は波長であり、縦軸は吸収率である。図3には、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、金(Au)、ニッケル(Ni)、銀(Ag)、タンタル(Ta)、およびチタン(Ti)について、波長と吸収率との関係が示されている。
【0052】
材料によって特性が異なるものの、図3に示されている各金属に関しては、一般的な赤外線(IR)のレーザ光(第一レーザ光)を用いるよりも、青や緑のレーザ光(第二レーザ光)を用いた方が、エネルギの吸収率がより高いことが理解できよう。この特徴は、銅(Cu)や、金(Au)等においては顕著となる。
【0053】
使用波長に対して吸収率が比較的低い加工対象Wにレーザ光が照射された場合、大部分の光エネルギは反射され、加工対象Wに熱としての影響を及ぼさない。そのため、十分な深さの溶融領域を得るには比較的高いパワーを与える必要がある。その場合、ビーム中心部は急激にエネルギが投入されることで、昇華が生じ、キーホールが形成される。
【0054】
他方、使用波長に対して吸収率が比較的高い加工対象Wにレーザ光が照射された場合、投入されるエネルギの多くが加工対象Wに吸収され、熱エネルギへと変換される。すなわち、過度なパワーを与える必要はないため、キーホールの形成を伴わず、熱伝導型の溶融となる。
【0055】
本実施形態では、加工対象Wの第二レーザ光に対する吸収率が、第一レーザ光に対する吸収率よりも高くなるよう、第一レーザ光の波長、第二レーザ光の波長、および加工対象Wの材質が、選択される。この場合、掃引方向が図2中の掃引方向SD1である場合、レーザ光Lのスポットの掃引により、加工対象Wの溶接される部位(以下、被溶接部位と称する)には、まずは、第二レーザ光のビームB2の、図2におけるSDの前方に位置する領域B2fによって、第二レーザ光が照射される。その後、被溶接部位には、第一レーザ光のビームB1が照射され、その後、第二レーザ光のビームB2の、掃引方向SD1の後方に位置する領域B2bによって、再度第二レーザ光が照射される。
【0056】
したがって、被溶接部位には、まずは、領域B2fにおける吸収率が高い第二レーザ光の照射により、熱伝導型の溶融領域が生じる。その後、被溶接部位には、第一レーザ光の照射によって、より深いキーホール型の溶融領域が生じる。この場合、被溶接部位には、予め熱伝導型の溶融領域が形成されているため、当該熱伝導型の溶融領域が形成されない場合に比べて、より低いパワーの第一レーザ光によって所要の深さの溶融領域を形成することができる。さらにその後、被溶接部位には、領域B2bにおける吸収率が高い第二レーザ光の照射により、溶融状態が変化する。このような観点から、第二レーザ光の波長は550nm以下とするのが好ましく、500nm以下とするのがより好ましい。
【0057】
また、発明者らの実験的な研究により、図2のようなビームのレーザ光Lの照射による溶接にあっては、溶接欠陥を低減できることが確認されている。これは、ビームB1が到来する前にビームB2の領域B2fによって加工対象Wを予め加熱しておくことにより、ビームB2およびビームB1によって形成される加工対象Wの溶融池がより安定化するためであると推定できる。
【0058】
[溶接方法]
レーザ溶接装置100を用いた溶接にあっては、まず、加工対象Wが、レーザ光Lが加工対象Wの表面Waに照射されるよう、セットされる。そして、ビームB1およびビームB2を含むレーザ光Lが表面Waに照射されている状態で、レーザ光Lと加工対象Wとが相対的に動かされる。これにより、レーザ光Lが表面Wa上に照射されながら当該表面Wa上を掃引方向SDに移動する(掃引する)。レーザ光Lが照射された部分は、溶融し、その後、温度の低下に伴って凝固することにより、加工対象Wが溶接される。
【0059】
[溶接部の断面]
図4は、加工対象Wに形成された溶接部14の断面図である。図4は、掃引方向SD(X方向)と垂直であるとともに厚さ方向(Z方向)に沿う断面図である。溶接部14は、掃引方向SD、すなわち図4の紙面と垂直な方向に、延びている。なお、図4は、厚さ2[mm]の1枚の銅板である加工対象Wに形成された溶接部14の断面を示している。厚さ方向(Z方向)に重ねられた複数枚の板状の金属材料に形成される溶接部14の形態は、同じ厚さの1枚の金属材料に形成される溶接部の形態と略同等であると推定できる。
【0060】
図4に示されるように、溶接部14は、表面WaからZ方向の反対方向に延びた溶接金属14aと、当該溶接金属14aの周囲に位置される熱影響部14bと、を有している。溶接金属14aは、レーザ光Lの照射によって溶融し、その後凝固した部位である。溶接金属14aは、溶融凝固部とも称されうる。また、熱影響部14bは、加工対象Wの母材が熱影響を受けた部位であって、溶融はしていない部位である。
【0061】
溶接金属14aのY方向に沿う幅は、表面Waから離れるほど狭くなっている。すなわち、溶接金属14aの断面は、Z方向の反対方向に向けて細くなるテーパ形状を有している。
【0062】
また、発明者らによる当該断面の詳細な分析により、溶接金属14aは、表面Waから離れた第一部位14a1と、第一部位14a1と表面Waとの間の第二部位14a2と、を含むことが判明した。
【0063】
第一部位14a1は、第一レーザ光の照射によるキーホール型の溶融によって得られた部位であり、第二部位14a2は、第二レーザ光のビームB2中の掃引方向SD1の後方に位置する領域B2bの照射による溶融によって得られた部位である。EBSD法(electron back scattered diffraction pattern、電子線後方散乱回折)による解析により、第一部位14a1と第二部位14a2とでは、結晶粒のサイズが異なっており、具体的には、X方向(掃引方向SD)と直交する断面において、第二部位14a2の結晶粒の断面積の平均値は、第一部位14a1の結晶粒の断面積の平均値よりも大きいことが判明した。
【0064】
発明者らは、被溶接部位に、第一レーザ光のビームB1のみが照射された場合、すなわちビームB2中の掃引方向SD1の後方に位置する領域B2bの照射が無かった場合には、第二部位14a2が形成されず、第一部位14a1が表面WaからZ方向の反対方向に深く延びていることを確認した。すなわち、本実施形態にあっては、ビームB2中の掃引方向SD1の後方に位置する領域B2bの照射によって、表面Waの近くに第二部位14a2が形成されるため、第一部位14a1は、当該第二部位14a2に対して表面Waとは反対側、言い換えると、表面WaからZ方向の反対方向に離れた位置に、形成されていると推定できる。
【0065】
図5は、溶接部14の一部を示す断面図である。図5は、EBSD法によって得られた結晶粒の境界を示している。また、図5中、一例として結晶粒径が13[μm]以下の結晶粒Aは、黒色に塗られている。なお、13[μm]は、物理的特性の閾値ではなく、当該実験結果の分析のために設定した閾値である。また、図5から、結晶粒Aは、第一部位14a1には比較的多く存在し、第二部位14a2には比較的少なく存在していることが明らかである。すなわち、第二部位14a2内の結晶粒の断面積の平均値は、第一部位14a1内の結晶粒の断面積の平均値よりも大きい。発明者らは、実験的な分析により、第二部位14a2内の結晶粒の断面積の平均値は、第一部位14a1内の結晶粒の断面積の平均値の1.8倍以上であることを確認した。
【0066】
図5中の領域I内に示されているように、このような比較的サイズが小さい結晶粒Aは、表面WaからZ方向に離れた位置で、Z方向に細長く延びた状態で密集している。また、X方向(掃引方向SD)の位置が異なる複数箇所での分析から、結晶粒Aが密集した領域は、掃引方向SDにも延びていることが確認されている。掃引しながらの溶接であるため、掃引方向SDには結晶が同様の形態に形成されることが推定できる。
【0067】
断面における外観あるいは硬度分布等からは第一部位14a1と第二部位14a2とを判別し難い場合にあっては、図4,5のような、溶接金属14aの表面Waにおける位置および幅wbから幾何学的に定めた第一領域Z1および第二領域Z2を、それぞれ、第一部位14a1および第二部位14a2としてもよい。一例として、第一領域Z1および第二領域Z2は、掃引方向SDと直交する断面において、幅wm(Y方向における等幅)で、Z方向に延びた四角形状の領域であり、第二領域Z2は、表面WaからZ方向に深さdまでの領域とし、第一領域Z1は、深さdよりもさらに深い領域、言い換えると深さdの位置に対して表面Waとは反対側の領域とすることができる。幅wmは、例えば、溶接金属14aの表面Waでの幅wb(ビード幅の平均値)の1/3とし、第二領域Z2の深さd(高さ、厚さ)は、例えば、幅wbの1/2とすることができる。また、第一領域Z1の深さは、例えば、第二領域Z2の深さdの3倍とすることができる。発明者らは、複数サンプルに対する実験的な分析により、このような第一領域Z1および第二領域Z2の設定において、第二領域Z2における結晶粒の断面積の平均値は、第一領域Z1における結晶粒の断面積の平均値よりも大きく、かつ、1.8倍以上となっていたことを確認した。このような第一領域Z1および第二領域Z2の結晶粒の大きさの関係は、加工対象Wにおいて強固な溶接強度を実現する要因と考えられるとともに、このような判別も、溶接により、溶接金属14aにおいて第一部位14a1と第二部位14a2とが形成されていることの証拠となりうる。
【0068】
また、発明者らの実験的な研究により、本実施形態のレーザ溶接による加工対象Wの厚さT(図1参照)が、0.05[mm]以上でありかつ2.0[mm]以下である場合に、同様の結果が得られることが判明した。
【0069】
[レーザ光のパワー密度]
図6は、加工対象Wの表面Wa上における第一レーザ光のパワー密度Pd1と第二レーザ光のパワー密度Pd2との組み合わせにおける溶接の実験結果を示すグラフである。図6中、「○」は、スパッタおよびブローホールが非常に少なかった場合(優)、「◇」は、スパッタおよびブローホール数が少なかった場合(良)、△は、スパッタおよびブローホールは少ないものの例えばエネルギロスが大きいなど他に若干の不都合が生じている場合(可)を示す。ここでは、一例として、「優」は、線状の溶接部位の単位長さ(例えば、1[cm])あたりのブローホール数が1個以下であった場合を示し、「良」および「可」は、溶接部位の単位長さあたりのブローホール数が2個以上5個未満であった場合を示す。また、この実験において、第一レーザ光の波長は、1070[nm]、出力は、1.5[kW]であり、第二レーザ光の波長は、450[nm]、出力は、150[W]であった。
【0070】
図6から、第二レーザ光のパワー密度Pd2が、0.16[MW/cm]以上1.5[MW/cm]以下である場合に、スパッタ数およびブローホール数を抑制できることが判明した。これは、第二レーザ光のパワー密度Pd2が0.16[MW/cm](下限値)よりも低い場合には、銅板表面に吸収される光エネルギ量が不足することにより予熱効果が充分得られないからであり、パワー密度Pd2が1.5[MW/cm](上限値)よりも高い場合には、第二レーザにおいてもキーホール型の溶融となるからであると、考えられる。
【0071】
[スポット径]
ビームB1およびビームB2のそれぞれは、そのビームの光軸方向と直交する断面の径方向において、たとえばガウシアン形状のパワー分布を有する。ただし、ビームB1およびビームB2のパワー分布はガウシアン形状に限定されない。また、図2のように各ビームB1,B2を円で表している各図において、当該ビームB1,B2を表す円の直径が、各ビームB1,B2のビーム径である。各ビームB1,B2のビーム径は、そのビームのピークを含み、ピーク強度の1/e以上の強度の領域の径として定義する。なお、図示されないが、円形でないビームの場合は、掃引方向SDと垂直方向における、ピーク強度の1/e以上の強度となる領域の長さをビーム径と定義できる。また、加工対象Wの表面Waにおけるビーム径は、スポット径と称する。
【0072】
図7は、ビームB1の単体照射時の溶接部の幅wb(ビード幅)とビームB2のスポット径D2(外径、図2参照)との組み合わせによる溶接の実験結果を示す図である。図7中の記号(○,◇,△)の意味および基準は、図6と同じである。また、この実験において、第一レーザ光の波長は、1070[nm]、出力は、1[kW]であり、第二レーザ光の波長は、450[nm]、出力は、400[W]であった。
【0073】
発明者らの実験的研究により、ビームB1の単体照射時の溶接部の幅wbとスポット径D2とが所定の関係にある場合、すなわち、以下の式(1)
wb-400<D2<wb+400 ・・・(1)
を満たす場合に、スパッタ数を抑制できることが判明した。
さらに、以下の式(1A)
wb-50<D2<wb+50 ・・・(1A)
を満たす場合に、エネルギロスの増大のような他の不都合を生じることなくスパッタ数を抑制できることが判明した。
【0074】
[第一レーザ光と第二レーザ光の出力比によるスパッタの抑制]
図8は、第一レーザ光のパワー(Pw1)に対する第二レーザ光のパワー(Pw2)の比である出力比(Rp=Pw2/Pw1)と、スパッタ抑制率との相関関係を示すグラフである。ここで、スパッタ抑制率Rsは、以下の式(2)のように定義する。
Rs=1-Nh/Nir ・・・(2)
ここに、Nhは、第一レーザ光と第二レーザ光との双方を照射した場合に所定エリア内に生じたスパッタ数であり、Nirは、Nhの計測時と同じパワーで第一レーザ光のみを照射した場合に所定エリア内に生じたスパッタ数である。また、図8は、各出力比において複数回実験を行った結果を示している。出力比に対応した線分は当該出力比における複数サンプル(少なくとも3サンプル以上)の実験結果におけるスパッタ抑制率のばらつきの範囲を示し、□は、出力比毎のスパッタ抑制率の中央値を示している。
【0075】
図8に示されるように、発明者らの実験的な研究により、出力比Rpは、0.1以上かつ0.18未満である場合が好ましく(○)、0.18以上かつ0.3未満である場合により好ましく(◎)、0.3以上かつ2以下である場合により一層好ましい(◎◎)ことが判明した。
【0076】
[掃引速度]
また、発明者らは、異なる掃引速度で複数サンプルについて実験を実施し、掃引速度により、スパッタやブローホールの発生状況が異なるという知見を得た。具体的に、スパッタやブローホールの発生数が減少するという観点において、掃引速度は、50[mm/s]以上であるのが好ましく、100[mm/s]以上であるのがより好ましいことが判明した。
【0077】
[ボイドの抑制効果]
また、発明者らの実験的な研究により、第一レーザ光と第二レーザ光との双方の照射による溶接においては、第一レーザ光の単独での照射による溶接に比べて、溶接部14におけるボイド(ブローホール)の発生が少なくなることが判明した。
【0078】
図9は、第一レーザ光と第二レーザ光との双方の照射により形成された溶接部14の、掃引方向に沿うとともに表面Waと直交した断面における断面図である。また、図10は、参考例として図9の場合と同じパワーでの第一レーザ光の単独の照射により形成された溶接部14の、掃引方向に沿うとともに表面Waと直交した断面における断面図である。なお、図10の例における第一レーザ光の単独照射である点以外の条件は、図9の例の場合と同じに設定されている。
【0079】
図9図10とを比較すれば、第一レーザ光と第二レーザ光との双方の照射による溶接(図9)においては、第一レーザ光の単独での照射による溶接(図10)に比べて、溶接部14におけるボイドVの発生が少なくなることが、明らかである。
【0080】
[結晶粒の向きによる部位の区別]
図11は、図9の一部の拡大図である。発明者らの実験的な研究により、図11に示されるように、第一レーザ光と第二レーザ光との双方の照射により形成された溶接部14にあっては、表面Waからの深さに応じて結晶粒の向き(長手方向、成長方向)が異なることが判明した。これは、第一レーザ光の照射によるキーホール型の溶融によって得られた第三部位14a3と、第二レーザ光のビームB2中の掃引方向の後方に位置する領域B2bの照射による溶融によって得られた第四部位14a4とで、凝固時の結晶粒の成長の状況が異なることに起因するものと考えられる。ここで、第三部位14a3は、表面Waから離れて位置された部位であって、上述した第一部位14a1に相当する部位である。また、第四部位14a4は、第三部位14a3と表面Waとの間に位置した部位であって、上述した第二部位14a2に相当する部位である。
【0081】
このような構成を数値的に表すため、発明者らは、JIS G 0551:2020のA.2:切断法に準拠し、溶接部14内の各部における結晶粒の向き(長手方向)を表す指標を定義した。
【0082】
具体的には、図11に示されるように、断面の画像において、互いに直交した2本の直線試験線を含む二種類の第一基準線R1および第二基準線R2を用いる。図11において、第一基準線R1は、実線で示されており、第二基準線R2は、破線で示されている。第一基準線R1は、直線試験線L11,L12として、基準円R0の互いに直交する2本の直径を有しており、一つの直線試験線L11は、表面Waに沿うX方向(掃引方向)に延びており、もう一つの直線試験線L12は、表面Waと直交するZ方向に延びている。また、第二基準線R2は、直線試験線L21,L22として、第一基準線R1と同じ基準円R0の互いに直交する2本の直径を有しており、一つの直線試験線L21は、X方向とZ方向との間の方向に延びており、もう一つの直線試験線L12は、X方向の反対方向とZ方向の間の方向、あるいはZ方向の反対方向とX方向の間の方向に、延びている。直線試験線L11と直線試験線L21との間の角度差は45°または135°であり、直線試験線L12と直線試験線L22との間の角度差は45°または135°である。基準円R0の直径の長さ、すなわち、直線試験線L11,L12,L21,L22の長さは、一例としては、200[μm]に対応する長さ(所定の長さ、の一例)であるが、結晶粒の大きさに応じて、適宜に設定することができる。
【0083】
そして、溶接部14内の各点Pにおいて、第一基準線R1および第二基準線R2を適用し、次の式(3-1),(3-2)により、第一粒界数比率Rb1および第二粒界数比率Rb2を求める。
Rb1=N12/N11 ・・・(3-1)
Rb2=max(N22/N21,N21/N22) ・・・(3-2)
ここに、N11は、直線試験線L11と交差する結晶粒の数であり、N12は、直線試験線L12と交差する結晶粒の数である。N21は、直線試験線L21と交差する結晶粒の数であり、N22は、直線試験線L22と交差する結晶粒の数である。結晶粒の数は、粒界数とも称されうる。また、式(3-2)において、(N22/N21)が(N21/N22)以上である場合、max(N22/N21,N21/N22)は(N22/N21)であり、(N22/N21)が(N21/N22)未満である場合、max(N22/N21,N21/N22)は(N21/N22)である。実際の測定では、50倍で撮影されたX-Z断面の顕微鏡写真において、任意の所定箇所以上、例えば10箇所以上で上記の測定を行い、その平均値をそれぞれRb1,Rb2とすることができる。尚、溶接部14内のある点PにおいてN11,N12,N21,N22のいずれかが0となる場合、当該点Pでの粒界数はRb1,Rb2の算出に用いなくてよい。
【0084】
図12,13は、溶接部14の断面内の一つの点Pについて、第一基準線R1を適用した場合(図12)、および第二基準線R2を適用した場合(図13)を示す模式的な説明図である。図12,13に示されるように、結晶粒A(粒界)が直線試験線L11,L12,L21,L22と交差する数は、それぞれ異なっている。図12,13の例では、直線試験線L21と結晶粒Aとの角度差が比較的小さいため、粒界数N21が、他の粒界数N11,N12,N22よりも小さくなる。よって、図12,13の例に示す点Pは、第二粒界数比率Rb2が第一粒界数比率Rb1よりも高い点Pということになる。同様に、上述した定義においては、基準円R0内において結晶粒Aの長手方向とX方向との角度差が比較的小さい点Pでは、第一粒界数比率Rb1が比較的高くなるとともに第二粒界数比率Rb2よりも大きくなる。また、結晶粒Aの長手方向とX方向およびZ方向の間の方向(45°方向)との角度差が比較的小さい点Pにおいては、第二粒界数比率Rb2が比較的高くなるとともに第一粒界数比率Rb1よりも大きくなる。
【0085】
発明者らの実験的な研究により、第四部位14a4内の各点Pにおける第一粒界数比率Rb1は、第三部位14a3内の各点Pにおける第一粒界数比率Rb1よりも低いことが判明した。また、第四部位14a4内の各点Pにおける第二粒界数比率Rb2は、第三部位14a3内の各点Pにおける第二粒界数比率Rb2よりも高いことが判明した。また、第三部位14a3内の各点Pにおいては、第一粒界数比率Rb1が第二粒界数比率Rb2よりも高く、第四部位14a4内の各点Pにおいては、第二粒界数比率Rb2が第一粒界数比率Rb1よりも高いことが判明した。溶接部14内にこのような第一粒界数比率Rb1および第二粒界数比率Rb2の異なる部位が存在していることは、加工対象Wにおいて強固な溶接強度を実現する要因と考えられるとともに、第一レーザ光と第二レーザ光との双方の照射による溶接が行われたことの証拠となりうる。
【0086】
また、発明者らの実験的な研究により、本実施形態のレーザ溶接装置100による第一レーザ光と第二レーザ光との照射による溶接において、加工対象Wの表面Waの算術平均粗さRaが21[μm]以下である場合にあっても、良好な結果(上記の「優」相当)が得られることが判明した。当該実験は、算術平均粗さRaが21[μm]、8[μm]、および6[μm]である各場合において実施され、いずれにおいても良好な結果が得られた。従来のレーザ溶接装置にあっては、表面Waが例えば鏡面に近いような場合には、当該表面Waでレーザ光が反射し、溶接が困難になったりできなかったりすることがあった。この点、本実施形態によれば、表面Waにおいてレーザ光がより効率良く吸収されるため、算術平均粗さRaが21[μm]以下であり、さらに低い8[μm]や6[μm]であるような鏡面に近い表面Waを有する加工対象Wに対しても、より低いパワーのレーザ光によって、より良好な溶接を実行することができる。
【0087】
以上、説明したように、本実施形態の溶接方法では、例えば、表面Waに、当該表面Waに沿って相対的にスポットが移動するようレーザ光Lを照射することにより、加工対象Wを溶接する。レーザ光Lは、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光と、550[nm]以下の波長の第二レーザ光と、を含んでいる。
【0088】
また、第二レーザ光の波長は、400[nm]以上500[nm]以下であるのが好適である。
【0089】
このような方法によれば、例えば、より溶接欠陥の少ないより高品質な溶接を実行することができる。
【0090】
また、本実施形態では、例えば、表面Waにおいて、第二レーザ光のビームB2(第二照射領域)は、第一レーザ光のビームB1(第一照射領域)よりも広く、かつビームB2の外縁B2a(第二外縁)は、ビームB1の外縁B1a(第一外縁)を取り囲んでいる。
【0091】
このような方法によれば、例えば、より溶接欠陥の少ないより溶接品質の高い溶接部14を備えた加工対象Wを得ることができる。また、例えば、第一レーザ光のパワーをより低くすることができたり、光学ヘッド120と加工対象Wとの相対的な回転が不要となったりといった、利点も得られる。
【0092】
また、本実施形態では、例えば、加工対象Wは、銅系金属材料、アルミニウム系金属材料、ニッケル系金属材料、鉄系金属材料、およびチタン系金属材料のうちのいずれかで作られる。なお、金属材料は、導電性を有してもよいし導電性を有しなくてもよい。
【0093】
本実施形態の溶接方法による効果は、加工対象Wが上記材料のうちのいずれかで作られている場合に、得られる。
【0094】
また、本実施形態では、例えば、表面Wa上において、第二レーザ光のビームB2(第二スポット)の少なくとも一部は、第一レーザ光のビームB1(第一スポット)よりも掃引方向SDの前方に位置している。
【0095】
また、本実施形態では、例えば、表面Wa上において、ビームB1とビームB2とは少なくとも部分的に重なっている。
【0096】
また、本実施形態では、例えば、表面Wa上において、ビームB2は、ビームB1よりも広い。
【0097】
また、本実施形態では、例えば、表面Wa上において、ビームB2の外縁B2a(第二外縁)は、ビームB1の外縁B1a(第一外縁)を取り囲んでいる。
【0098】
また、本実施形態では、例えば、ビームB1の単体照射時の溶接部の幅wbと、スポット径D2と、について、次の式(1)
wb-400<D2<wb+400 ・・・(1)
を満たすよう、スポット径D2が設定される。
【0099】
また、本実施形態では、例えば、表面Wa上において、第二レーザ光のパワーの第一レーザ光のパワーに対する出力比が、0.1以上2以下である。
【0100】
上述したように、発明者らは、表面Wa上にこのようなビームB1,B2を形成するレーザ光Lのビームの照射による溶接にあっては、溶接欠陥を低減できることを確認した。これは、上述したように、ビームB1が到来する前にビームB2の領域B2fによって加工対象Wを予め加熱しておくことにより、ビームB2およびビームB1によって形成される加工対象Wの溶融池がより安定化するためであると推定できる。よって、このようなビームB1,B2を有したレーザ光Lによれば、例えば、より溶接欠陥の少ないより溶接品質の高い溶接を実行することができる。また、このようなビームB1,B2の設定によれば、例えば、第一レーザ光のパワーをより低くすることができるという利点も得られる。また、ビームB1とビームB2とが同軸で照射される場合にあっては、光学ヘッド120と加工対象Wとの相対的な回転が不要となるという利点も得られる。
【0101】
また、本実施形態の加工対象W(金属部材)の溶接金属14aは、表面Wa(第一表面)から厚さ方向(Z方向の反対方向)に離れて位置された第一部位14a1と、当該第一部位14a1と表面Waとの間に位置され第一部位14a1よりも結晶粒の断面積の平均値が大きい第二部位14a2と、を有している。
【0102】
また、本実施形態では、溶接部14の延び方向(X方向、掃引方向SD)と直交する断面において、第二部位14a2に含まれる結晶粒の断面積の平均値は、第一部位14a1に含まれる結晶粒の断面積の平均値の、1.8倍以上である。
【0103】
上述したように、このような溶接部14は、図2に示されるような第一レーザ光のビームB1と第二レーザ光のビームB2とを有したレーザ光Lのビームを表面Waに掃引方向SDに掃引しながら照射することによって得られたものである。また、上述したように、発明者らは実験的に、図2のようなレーザ光Lのビームの照射による溶接にあっては、溶接欠陥を低減できることを確認した。よって、上記構成によれば、例えば、より溶接欠陥の少ないより溶接品質の高い溶接部14を備えた加工対象W(金属部材)を得ることができる。また、本実施形態によれば、例えば、第一レーザ光のパワーをより低くすることができたり、光学ヘッド120と加工対象Wとの相対的な回転が不要となったりといった、利点も得られる。
【0104】
加工対象Wとしての金属部材は、種々の電気部品や、当該電気部品を有した電子機器に適用することができる。電気部品は、例えば、端子、バスバー、コイル、電池のタブのような、導体である。また、電子機器は、例えば、当該導体を有したものであり、具体的には、モータや、組電池、インバータ、コンピュータ、等である。
【0105】
[第2実施形態]
図14は、第2実施形態のレーザ溶接装置100Aの概略構成図である。本実施形態では、光学ヘッド120は、コリメートレンズ121-1とミラー123との間に、DOE125を有している。この点を除き、レーザ溶接装置100Aは、第1実施形態のレーザ溶接装置100と同様の構成を備えている。
【0106】
DOE125は、第一レーザ光のビームB1の形状(以下、ビーム形状と称する)を成形する。図15に概念的に例示されるよう、DOE125は、例えば、周期の異なる複数の回折格子125aが重ね合わせられた構成を備えている。DOE125は、平行光を、各回折格子125aの影響を受けた方向に曲げたり、重ね合わせたりすることにより、ビーム形状を成形することができる。DOE125は、ビームシェイパとも称されうる。
【0107】
なお、光学ヘッド120は、コリメートレンズ121-2の後段に設けられ第二レーザ光のビーム形状を調整するビームシェイパや、フィルタ124の後段に設けられ第一レーザ光および第二レーザ光のビーム形状を調整するビームシェイパ等を有してもよい。ビームシェイパによってレーザ光Lのビーム形状を適宜に整えることにより、溶接において溶接欠陥の発生をより一層抑制することができる。
【0108】
[第3実施形態]
図16は、第3実施形態のレーザ溶接装置100Bの概略構成図である。本実施形態では、光学ヘッド120は、フィルタ124と集光レンズ122との間に、ガルバノスキャナ126を有している。この点を除き、レーザ溶接装置100Bは、第1実施形態のレーザ溶接装置100と同様の構成を備えている。
【0109】
ガルバノスキャナ126は、2枚のミラー126a,126bを有しており、当該2枚のミラー126a,126bの角度を制御することで、光学ヘッド120を移動させることなく、レーザ光Lの照射位置を移動させ、レーザ光Lを掃引することができる装置である。ミラー126a,126bの角度は、それぞれ、例えば不図示のモータによって変更される。このような構成によれば、光学ヘッド120と加工対象Wとを相対的に移動する機構が不要になり、例えば、装置構成を小型化できるという利点が得られる。
【0110】
[第4実施形態]
図17は、第4実施形態のレーザ溶接装置100Cの概略構成図である。本実施形態では、光学ヘッド120は、コリメートレンズ121-2とフィルタ124との間に、DOE125(ビームシェイパ)を有している。この点を除き、レーザ溶接装置100Cは、第3実施形態のレーザ溶接装置100Bと同様の構成を備えている。このような構成によれば、ガルバノスキャナ126を有することによる第3実施形態と同様の効果、およびDOE125(ビームシェイパ)を有することによる第2実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0111】
なお、本実施形態においても、光学ヘッド120は、コリメートレンズ121-1の後段に設けられ第一レーザ光のビーム形状を調整するビームシェイパや、フィルタ124の後段に設けられ第一レーザ光および第二レーザ光のビーム形状を調整するビームシェイパ等を有してもよい。
【0112】
[第5実施形態]
図18は、第1実施形態のレーザ溶接装置100を含むレーザ溶接システム1000の概略構成図である。なお、レーザ溶接システム1000は、レーザ溶接装置100に替えて他の実施形態のレーザ溶接装置100A~100Cを備えてもよい。
【0113】
レーザ溶接システム1000は、レーザ溶接装置100の他に、メイン電源1001、サブ電源1002,1003、統合コントローラ1004、および冷却機構1005を備えている。
【0114】
メイン電源1001は、サブ電源1002,1003に電力を供給する。また、サブ電源1002は、レーザ装置111に電力を供給し、サブ電源1003は、レーザ装置112に電力を供給する。
【0115】
統合コントローラ1004は、レーザ装置111およびレーザ装置112の双方の作動を制御する。具体的には、レーザ装置111,112の出力するレーザ光のパワーや、発振するタイミング、波長を制御するとともに、掃引に関する作動、例えば、相対移動機構やガルバノスキャナ126の作動を、制御することができる。これにより、レーザ装置111(第一レーザ発振器)およびレーザ装置112(第二レーザ発振器)を統括的により確実に制御することができる。統合コントローラ1004は、制御部の一例である。
【0116】
冷却機構1005は、例えば冷却液のような冷媒を流す配管1006を備えている。配管1006は、それぞれ、レーザ装置111,112および光学ヘッド120を通るよう配置されている。冷却機構1005は、各配管1006を流れる冷媒の供給と停止とを切り替えたり、流量を変更したり、冷媒の温度を調整したりすることができる。これにより、レーザ装置111,112および光学ヘッド120を冷却し、例えば、レーザ装置111,112の作動を安定化させたり、光学ヘッド120の過度の温度上昇を抑制したりすることができる。なお、冷却機構1005の作動は、統合コントローラ1004が制御してもよい。
【0117】
[第6実施形態]
図19は、第1実施形態のレーザ溶接装置100を含むレーザ溶接システム1000Aの概略構成図である。なお、レーザ溶接システム1000Aは、レーザ溶接装置100に替えて他の実施形態のレーザ溶接装置100A~100Cを備えてもよい。本実施形態では、レーザ溶接システム1000Aは、統合コントローラ1004に替えてレーザ装置111用のコントローラ1004-1と、レーザ装置112用のコントローラ1004-2と、を備えている点を除き、第5実施形態のレーザ溶接システム1000と同様の構成を備えている。このような構成によっても、第5実施形態のレーザ溶接システム1000と同様の効果が得られる。コントローラ1004-1,1004-2は、制御部の一例である。
【0118】
[第7実施形態]
図20は、第7実施形態のレーザ溶接装置100Dの概略構成図である。レーザ溶接装置100Dは、第1実施形態のレーザ溶接装置100をベースとして改変されている。図20に示されるように、本実施形態では、光学ヘッド120は、第一部位120-1と、第二部位120-2と、第三部位120-3と、を有している。第一部位120-1は、コリメートレンズ121-1およびミラー123を含む。第二部位120-2は、コリメートレンズ121-2、フィルタ124、および集光レンズ122を含む。第三部位120-3は、第一部位120-1と第二部位120-2との間に介在している。ミラー123で反射し第一部位120-1から出力された第一レーザ光は、第三部位120-3の開口部を貫通し、第二部位120-2へ入力されフィルタ124へ入力される。また、第一部位120-1、第二部位120-2、および第三部位120-3は、それぞれ、第一部位120-1から出力され第二部位120-2へ入力されるレーザ光の光軸が平行な状態のまま、当該光軸に対して直交する方向(Z方向に対して直交する方向)にずれることが可能となるよう、相対スライド可能に構成されている。具体的に、図20の例では、第一部位120-1と第三部位120-3とは、Z方向に対する姿勢変化の無い状態でX方向またはX方向の反対方向に相対スライド可能に構成されている。また、第二部位120-2と第三部位120-3とは、Z方向に対する姿勢変化の無い状態でY方向およびY方向の反対方向に相対スライド可能に構成されている。具体的に、第一部位120-1の第一レーザ光の出口、および第二部位120-2の第一レーザ光の入口には、それぞれ、第一レーザ光の光軸方向と直交する方向に広がる円環状かつ板状のフランジ120aが設けられている。そして、これら二つのフランジ120aの間に、第一レーザ光の光軸方向と直交する方向に広がる円環状かつ板状の形状を有した第三部位120-3が挟まれている。二つのフランジ120aおよび第三部位120-3は、それぞれの当接面に沿ってZ軸に対する姿勢変化の無い状態で相対的にスライドすることができる。第一部位120-1と第三部位120-3との間には、X方向への相対スライドをガイドするとともにX方向における任意の相対位置で固定可能なガイド機構(不図示)が設けられる。第二部位120-2と第三部位120-3との間には、Y方向への相対スライドをガイドするとともにY方向における任意の相対位置で固定可能なガイド機構(不図示)が設けられる。このような構成において、二つのガイド機構におけるスライド位置の調整により、フィルタ124へ入力されフィルタ124から出力される第一レーザ光の光軸とフィルタ124から出力される第二レーザ光の光軸とを、それら光軸に対して直交する方向にずらすことができる。なお、第一部位120-1とレーザ装置111との間、および第二部位120-2とレーザ装置112との間は、それぞれ可撓性を有した光ファイバ130で接続されているため、第一部位120-1あるいは第二部位120-2の位置の変化が生じた場合にあっても、レーザ装置111,112は固定しておくことができる。
【0119】
図21~23は、レーザ溶接装置100Dによって加工対象Wの表面Wa上に形成されたレーザ光のビームB1,B2の例を示している。図21~23に示されるように、レーザ溶接装置100Dによれば、ビームB1,B2の相対位置を、任意に変更することができる。発明者らの研究により、表面Wa上において、図21~23のように、ビームB2(第二スポット)の少なくとも一部がビームB1(第一スポット)よりも掃引方向SDの前方に位置している場合、およびビームB1とビームB2とが互いに接するかあるいは少なくとも部分的に重なっている場合においては、ビームB2の予熱効果による第1実施形態と同様の効果が得られることが判明している。また、ビームB2の少なくとも一部がビームB1よりも掃引方向SDの前方に位置している場合にあっては、ビームB1とビームB2とは微少距離離間していてもよいことも判明している。なお、図21~23は、それぞれ一例に過ぎず、レーザ溶接装置100Dによって得られるビームB1,B2の配置や各ビームB1,B2のサイズは、図21~23の例には限定されない。なお、ビームB2がビームB1よりも掃引方向SDの前方に位置するとは、図23に示されるように、表面Wa上において、ビームB1の掃引方向SDの前端を通り掃引方向SDと直交する仮想直線VLよりも掃引方向SDの前方の領域内に、ビームB2の少なくとも一部が存在していることを言う。
【0120】
[第8実施形態]
図24は、第8実施形態のレーザ溶接装置100Eの概略構成図である。レーザ溶接装置100Eは、第3実施形態のレーザ溶接装置100Bをベースとして改変されている。図24に示されるように、レーザ溶接装置100Bは、コリメートレンズ121の光軸方向における位置を可変設定する位置調整機構140を有している。位置調整機構140により、加工対象Wの表面WaにおけるビームB1,B2のサイズ(スポット径D1,D2)を適宜に変更することができる。すなわち、位置調整機構140は、スポットサイズ可変機構とも称されうる。なお、同様の位置調整機構140は、集光レンズ122に対しても適用可能であるし、コリメートレンズ121および集光レンズ122の双方に適用してもよいし、他の実施形態のレーザ溶接装置100,100A,100C,100D,100Fのコリメートレンズ121や集光レンズ122に対しても適用可能である。
【0121】
[第9実施形態]
図25は、第9実施形態のレーザ溶接装置100Fの概略構成図である。本実施形態では、光学ヘッド120は、それぞれ別のボディ(ハウジング)によって構成された、第一レーザ光L1を照射する第一部位120-1と、第二レーザ光L2を照射する第二部位120-2と、を備えている。このような構成によっても、上記実施形態と同様の作用および効果が得られる。
【0122】
また、図26は、上述したいずれかの実施形態のレーザ溶接装置100,100A~100Fによって加工対象Wの表面Wa上に形成されたビームB1,B2のスポットの一例を示す。図26に示されるように、ビームB2のスポット径は、ビームB1のスポット径と略同等であってもよい。また、図示されないが、ビームB2のスポット径は、ビームB1のスポット径より小さくてもよい。
【0123】
以上、本発明の実施形態が例示されたが、上記実施形態は一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、等のスペック(構造や、種類、方向、型式、大きさ、長さ、幅、厚さ、高さ、数、配置、位置、材質等)は、適宜に変更して実施することができる。
【0124】
例えば、加工対象に対してレーザ光を掃引する際に、公知のウォブリングやウィービングや出力変調等により掃引を行い、溶融池の表面積を調節するようにしてもよい。
【0125】
また、加工対象は、めっき付き金属板のように、金属の表面に薄い他の金属の層が存在するものでもよい。
【0126】
また、第一レーザ光のビームの中心と、第二レーザ光のビームの中心は必ずしも一致している必要はなく、ずれていてもよい。
【0127】
また、第一レーザ光のビームは、部分的に第二レーザ光のビームの外側に位置してもよい。
【0128】
[溶接部の断面]
図27は、実施形態の溶接部14の掃引方向SDに沿うとともに表面Waと直交した断面における断面図であって、溶接部14の掃引方向SDの前端部分の断面図である。また、図28は、参考例として図27の場合と同じパワーでの第一レーザ光の単独の照射により形成された溶接部14の掃引方向SDに沿うとともに表面Waと直交した断面における断面図であって、溶接部14の掃引方向SDの前端部分の断面図である。
【0129】
図27,28に示す断面図では、画像処理により溶融池(溶接部14)の輪郭が可視化されている。図27に示される本実施形態の第一レーザ光と第二レーザ光とを照射するハイブリッドレーザでの加工において形成される溶融池は、図28に示される第一レーザ光のみを照射するファイバレーザでの加工によって形成される溶融池に比べて、図27中に破線枠DLで示されるように、掃引方向SDの後方に長く尾を引いている。また、図27に示されるように、本実施形態の溶融池(溶接部14)の前部14fは、掃引方向SDの前方に張り出している。これらにより、ハイブリッドレーザでの加工において形成された溶融池の掃引方向SDにおける長さLw1(図27参照)は、ファイバレーザでの加工において形成された溶融池の掃引方向SDにおける長さLw2(図28参照)よりも長くなっている。すなわち、ハイブリッドレーザでの加工においては、ファイバレーザでの加工に比べて、溶融池が大きくなる。本実施形態の第一レーザ光と第二レーザ光とを照射するハイブリッドレーザ加工によれば、第二レーザ光(青色レーザ光)の照射により、溶融池が拡大し内部の熱対流がより安定化するとともに、キーホール開口部の拡大が生じて蒸発時の蒸気圧がより外へ逃げ易くなるため、第一レーザ光の単独照射に比べてスパッタの発生が抑えられるとともに安定した溶融池が得られると推定できる。
【符号の説明】
【0130】
14…溶接部
14a…溶接金属
14a1…第一部位
14a2…第二部位
14a3…第三部位
14a4…第四部位
14b…熱影響部
14f…前部
100,100A~100F…レーザ溶接装置
111…レーザ装置(第一レーザ発振器)
112…レーザ装置(第二レーザ発振器)
120…光学ヘッド
120-1…第一部位
120-2…第二部位
120-3…第三部位
120a…フランジ
121,121-1,121-2…コリメートレンズ
122…集光レンズ
123…ミラー
124…フィルタ
125…DOE(回折光学素子)
125a…回折格子
126…ガルバノスキャナ
126a,126b…ミラー
130…光ファイバ
140…位置調整機構
1000,1000A…レーザ溶接システム
1001…メイン電源
1002,1003…サブ電源
1004…統合コントローラ(制御部)
1004-1,1004-2…コントローラ(制御部)
1005…冷却機構
1006…配管
A…結晶粒
B1…ビーム(第一スポット)
B1a…外縁
B2…ビーム(第二スポット)
B2a…外縁
B2b…領域
B2f…領域
C…中心点
D1…スポット径(外径)
D2…スポット径(外径)
d…深さ
I…領域
L…レーザ光
L1…第一レーザ光
L2…第二レーザ光
L11,L12,L21,L22…直線試験線
Lw1,Lw2…長さ
N11,N12,N21,N22…粒界数
P…点
Pd1…(第一レーザ光の)パワー密度
Pd2…(第二レーザ光の)パワー密度
R0…基準円
R1…第一基準線
R2…第二基準線
SD,SD1…掃引方向
T…厚さ
V…ボイド(ブローホール)
W…加工対象
Wa…表面
Wb…裏面
wb…(溶接金属の表面での)幅
wm…(第一領域および第二領域の)幅
X…方向
Y…方向
Z…方向(厚さ方向)
Z1…第一領域(第一部位)
Z2…第二領域(第二部位)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28