IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立ハイテクサイエンスの特許一覧

特許7547586アミノ酸の検出方法、およびクロマトグラフ
<>
  • 特許-アミノ酸の検出方法、およびクロマトグラフ 図1
  • 特許-アミノ酸の検出方法、およびクロマトグラフ 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】アミノ酸の検出方法、およびクロマトグラフ
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/281 20060101AFI20240902BHJP
   B01J 20/286 20060101ALI20240902BHJP
   B01J 20/283 20060101ALI20240902BHJP
   B01J 20/284 20060101ALI20240902BHJP
   B01J 20/282 20060101ALI20240902BHJP
   B01J 20/287 20060101ALI20240902BHJP
   G01N 30/88 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
B01J20/281 X
B01J20/286
B01J20/283
B01J20/284
B01J20/282 E
B01J20/287
G01N30/88 F
B01J20/281 Y
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023144131
(22)【出願日】2023-09-06
(62)【分割の表示】P 2019174642の分割
【原出願日】2019-09-25
(65)【公開番号】P2023158101
(43)【公開日】2023-10-26
【審査請求日】2023-09-25
(73)【特許権者】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正人
(72)【発明者】
【氏名】源 法雅
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-501243(JP,A)
【文献】特表2008-512493(JP,A)
【文献】国際公開第2010/100914(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/026569(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/092818(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/281 - 20/295
G01N 30/00 - 30/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機材から成る担体イオン交換基、および疎水性相互作用に寄与する官能基で修飾された充填剤がカラム体に充填されて成る分離カラムと、
20MPa以上の圧力で溶離液を送液可能なポンプと、
を用い、
上記ポンプにより上記溶離液を上記分離カラムに送液し、イオン交換と疎水性相互作用の2つの分離モードによってアミノ酸を分離し、検出することを特徴とするアミノ酸の検出方法
【請求項2】
請求項1のアミノ酸の検出方法であって、
上記無機材は、シリカ、チタニア、アルミナ、ジルコニア、および有機-無機複合型シリカ素材のうちの少なくとも何れかであることを特徴とするアミノ酸の検出方法
【請求項3】
請求項1から請求項2のうち何れか1項のアミノ酸の検出方法であって、
上記イオン交換基は、スルホン酸、第四級アミン、カルボキシメチル、およびジエチルアミノエチルのうちの少なくとも何れかであることを特徴とするアミノ酸の検出方法
【請求項4】
請求項1から請求項3のうち何れか1項のアミノ酸の検出方法であって、
上記疎水性相互作用に寄与する官能基は、C18、C8、C1、C30、C4、PFP、フェニル、およびビフェニル基のうちの少なくとも何れかであることを特徴とするアミノ酸の検出方法
【請求項5】
請求項1から請求項4のうち何れか1項のアミノ酸の検出方法であって、
上記充填剤の粒子径がμm以下であることを特徴とするアミノ酸の検出方法
【請求項6】
請求項1から請求項5のうち何れか1項のアミノ酸の検出方法であって、
上記カラムに送液される上記溶離液が、複数種の緩衝液から選択されることを特徴とするアミノ酸の検出方法。
【請求項7】
請求項6のアミノ酸の検出方法であって、
ニンヒドリン試薬を送液するニンヒドリンポンプをさらに備え、
上記分離カラムで分離されたアミノ酸と上記ニンヒドリン試薬とを混合して、当該アミノ酸を検出することを特徴とするアミノ酸の検出方法。
【請求項8】
無機材から成る担体が、イオン交換基、および疎水性相互作用に寄与する官能基で修飾された充填剤がカラム体に充填されて成る分離カラムと、
20MPa以上の圧力で溶離液を送液可能なポンプと、
検出器と、を備え、
上記ポンプにより上記溶離液が上記分離カラムに送液され、イオン交換と疎水性相互作用の2つの分離モードによって分離されたアミノ酸を、前記検出器により検出可能に構成されたことを特徴とするクロマトグラフ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高速液体クロマトグラフ(HPLC)や、超高速液体クロマトグラフ(UHPLC)などの液体クロマトグラフ、これに用いられる分離カラム、および分離カラムに充填される充填剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
HPLCの分離モードの一種にイオン交換クロマトグラフィーがある。イオン交換クロマトグラフィーによってアミノ酸などのイオンを分析する場合の高分離分析と高速分析との両立を図るために、分離カラムの充填剤として、ポリマー等から成るコアがシェルによってポリマー被覆されるとともに、上記コアが上記シェルより低い浸透性を有するものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
ここで、一般にイオン交換クロマトグラフィーはイオン交換樹脂を充填したカラムを用いる。イオン交換樹脂は即ちポリマー充填剤であり、機械的な強度がシリカゲルに比べて劣る。つまり充填した層に圧力をかけ過ぎると、ポリマー充填剤が大きく変形し、充填剤の配置が乱れ、理論段数等一定の分離性能が得られなくなり元に戻らない。充填層に隙間が空く描像もある。このような機械強度的な臨界点である降伏点を超えた状態を圧密化と称する。降伏点を超えても圧力をかけ続けると、分離性能が得られないばかりでなく、著しい圧力上昇を生じ、カラムとしての機能は発揮できなくなる。また、圧力をかけ過ぎると、充填剤が機械材料的に破壊する描像もある。また、HPLCの分離モードにイオン排除クロマトグラフィーや配位子交換クロマトグラフィーもあるが、いずれもイオン交換樹脂を用いる。有機酸、および糖はそれぞれその代表的な分析種である。
これらイオン交換樹脂を用いて分離する成分は、カルボキシル基、アミノ基、または水酸基など極性の官能基をもつ有機化合物であり、水溶液中では電荷を帯びた状態、すなわちイオンになる場合がある。イオンにならなくとも極性は有する有機化合物である。例えば、ヌクレオチド、ヌクレオシド、生体アミン、糖類、オリゴ糖、またはたんぱく質、ポリペプチド抗体、核酸等生体高分子を含む分析種を分離することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】再表2012-026569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようにポリマーから成るコアがシェルによってポリマー被覆される充填剤であっても、溶離液の圧力を高くして、イオンまたは極性をもつ有機化合物の分離分析の大幅な高速化を図ることは容易でなかった。
【0006】
本発明は、上記の点に鑑み、イオンまたは極性をもつ有機化合物の分離のより高速な分析を容易に可能にすることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明は、
アミノ酸の検出方法であって、
無機材から成る担体が、イオン交換基、および疎水性相互作用に寄与する官能基で修飾された充填剤がカラム体に充填されて成る分離カラムと、
20MPa以上の圧力で溶離液を送液可能なポンプと、
を用い、
上記ポンプにより上記溶離液を上記分離カラムに送液し、イオン交換と疎水性相互作用の2つの分離モードによってアミノ酸を分離し、検出することを特徴とする。
【0008】
これにより、無機材から成る担体は圧密化を生じ難く、イオンの高速、高分離な分析が容易に可能になる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、アミノ酸や、有機酸、糖などのより高速な分析を容易に可能にできる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】液体クロマトグラフのシステムの流路構成図である。
図2】粒子径と線速と理論段相当高さとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0012】
(クロマトグラフ100の概略構成)
例えばアミノ酸などイオンを分析するクロマトグラフ100では、例えば図1に示すように、第1~第4緩衝液111~114、およびカラム再生液115が、電磁弁シリーズ116A~116Eにより択一的に溶離液等として選択され、緩衝液ポンプ117によって、好ましくは20MPa以上、より好ましくは40MPa以上の圧力で、アンモニアフィルタカラム118を介してオートサンプラ119に送られるようになっている。オートサンプラ119では、アミノ酸試料が導入され、分離カラム120に送られて分離されるようになっている。分離されたアミノ酸は、ニンヒドリンポンプ122によって送られてきたニンヒドリン試薬121とミキサ123で混合され、加熱された反応カラム124での反応によって発色したアミノ酸(ルーエマン パープル)は検出器125で連続的に検知され、データ処理装置200によりクロマトグラムおよびデータとして出力されて、記録、保存されるようになっている。
【0013】
(分離カラム120)
上記分離カラム120は、無機材から成る担体が用いられた充填剤が、円筒状のステンレス等から成るカラム体に充填されて、上記のように高圧な送液が行われても、圧密化を生じたりすることなく、高速、高分離な分析ができるようになっている。上記充填剤は、より詳しくは、例えば、無機材から成る担体が、イオン交換基、および疎水性相互作用に寄与する官能基で修飾されるとともに、粒子径が3μm以下、好ましくは2μm以下となるようにされている。
【0014】
より詳しくは、例えば、上記無機材としては、シリカ、チタニア、アルミナ、ジルコニア、および有機-無機複合型シリカ素材のうちの少なくとも何れかを適用することができる。また、陽イオン交換基としては、スルホン酸基やカルボキシメチル(CM)基を適用することができる。陰イオン交換基としては、第四級アミンや、ジエチルアミノエチル(DEAE)基第三級アミンなどを導入する。さらに、上記疎水性相互作用に寄与する官能基としては、C18、C8、C1、C30、C4、PFP(ペンタフルオロフェニル)、フェニル基(USP規定の番号ではL01、L07、L13、L62、L26、L43、L11)のうちの少なくとも何れかを適用することができる。
【0015】
上記のように無機材から成る担体が用いられることによって、例えば樹脂素材が用いられる場合のように臨界圧力に達すると不可逆的で急激な圧力損失が生じる圧密化が発生することはないので、ポンプの圧力を上記のように40MPa以上などに設定して、高速、高分離な性能を得ることが容易にできる。なお、圧力の上限は、実際上は、装置の各部の耐圧等によって設定され得るが、上記のように圧密化が生じ難い点では、特に制約されず、60MPa以上などに設定することも可能だと考えられる。
【0016】
ここで、圧力損失ΔP(MPa)は、下記Kozeny Carmanの式に従う。
【0017】
ΔP=(η×u0×L)/Kv
η (mPa・s):粘度
u0(mm/s) :線速度
L (mm) :カラム長さ
Kv(m^2) :カラムパーミアビリティ(例えば粒子径dpの2乗に比例)
そこで、例えば、
粘度ηが0.5(mPa・s)
線速度u0が1.0または2.0(mm/s)
カラム長さLが60(mm)
カラムパーミアビリティKvが3または1.5(m^2)
とすると、圧力損失ΔPは、下記(表1)のようになる。
【0018】
【表1】
【0019】
充填剤の粒子径については、図2にvan Deemterのプロットを示すように、3μm以下、好ましくは2μm以下にされることによって、より小さな理論段数相当高さHで、かつ、線速度に関わらず比較的安定した理論段相当高さHを得ることができる。より詳しくは、実用流量の0.4~0.6mL/minに対応する0.8~1.2mm/sの線速度域において、粒径が3μm以下、好ましくは2μm以下で理論段相当高さHが小さな値を示すので、望ましい。
【0020】
また、フェニルまたは、ビフェニル基などの疎水性相互作用に寄与する官能基を導入することによって、無機物の担体が用いられる場合でも、イオン交換クロマトグラフィーに加えて樹脂由来の担体と同様の疎水性相互作用が寄与するアミノ酸の分離様式を得ることができる。
【0021】
本発明は樹脂を用いざるを得ないと考えられてきたニンヒドリン法イオン交換クロマトグラフィーの短所を克服するものである。充填剤を無機材にして硬くし、かつ、前述のvan Deemterのプロットの観点から微細化をすすめ、高圧を許容することにより高速・高分離化を実現することができる。すなわち高い圧力を許容すればするほど流量が上げられ、高速化に寄与する。またカラムの長さを延ばすこともでき、理論段数すなわち分離性能も向上させることができる。
【0022】
上記のように、無機材から成る担体が用いられた充填剤が用いられることによって、圧密化を生じたりすることなく、高速、高分離な分析ができる。しかも、無機材から成る担体が用いられた充填剤が用いられる場合でも、ニンヒドリンを用いるポストカラム誘導体化イオン交換クロマトグラフィーが適用されることによって、ニンヒドリン試薬が安定であるとともに、反応自体も安定なため、逆相クロマトグラフィーのプレカラム誘導体化法よりも、日差変動の点でも再現性の高い定量分析が行われ得る。これはニンヒドリン試薬が安定であり、かつ、反応自体も安定なためである。また、イオン交換と疎水性相互作用の二つの分離モードを利用できるので、任意のアミノ酸成分の分離が容易に行われ得る。
【0023】
なお、無機材の望ましい形態例として、有機-無機複合型シリカ素材があげられる。
【0024】
(その他の事項)
イオン交換クロマトグラフィーを20 MPa以上、望ましくは60MPa以上でUHPLC化したい場合、圧密化を避けてポリマーを例えばシリカゲルに切替えることが考えられる。シリカゲル粒子であれば3μm以下の微細化も比較的容易である。つまりシリカゲルにスルホン酸基などイオン交換基を化学修飾することにより、理論的にはUHPLC用イオン交換クロマトグラフィー用充填剤ができあがる。ただし、ここに充填剤の置換によるUHPLC化を意図する場合、元々イオン交換樹脂が持っている疎水性相互作用の特性が得られないことが想定される。すなわち、ポリスチレンなどの樹脂母体が疎水性相互作用の特性を持っているため、シリカゲルに置き換えることにより、その特性が失われることがあり得る。
そこで、疎水性相互作用を示す官能基をさらにイオン交換基に加え、化学修飾することが考えられる。通常は疎水性相互作用の導入にはC18などのアルキル基が考えられるが、ポリスチレンなどは炭素原子間の二重結合、すなわちπ電子特有の相互作用も持っており、フェニル基、ビフェニル基などベンゼン環を導入することが望ましい場合もある。
【0025】
これにより、有機-無機複合型シリカ素材無機材から成る担体は圧密化を生じ難く、また加えて、疎水性相互作用官能基の導入により樹脂が元来有する化学的特性も置換できるため、イオン交換クロマトグラフィーのUHPLC化、すなわち高速、高分離な分析が容易に可能となる。
【0026】
上記のように、アミノ酸のみならず、有機酸や糖などのより高速な分析も容易に可能にできる。すなわち、イオン交換クロマトグラフィー、イオン排除クロマトグラフィーや配位子交換クロマトグラフィーに用いるイオン交換樹脂では20MPa以上、望ましくは60MPa以上、粒径3μm以下でUHPLC化できなかった分析種も分離・分析可能となる。例えば、ヌクレオチド、ヌクレオシド、生体アミン、糖類、オリゴ糖、またはたんぱく質、ポリペプチド抗体、核酸等生体高分子を含む分析種である。
【符号の説明】
【0027】
100 クロマトグラフ
111~114 第1~第4緩衝液
115 カラム再生液
116A~116E 電磁弁シリーズ
117 緩衝液ポンプ
118 アンモニアフィルタカラム
119 オートサンプラ
120 分離カラム
121 ニンヒドリン試薬
122 ニンヒドリンポンプ
123 ミキサ
124 反応カラム
125 検出器
200 データ処理装置
図1
図2