(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】凝固卵白様食品、加工食品及び凝固卵白様食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 15/00 20160101AFI20240902BHJP
A23L 29/244 20160101ALI20240902BHJP
A23L 29/269 20160101ALI20240902BHJP
【FI】
A23L15/00 Z
A23L29/244
A23L29/269
(21)【出願番号】P 2023200297
(22)【出願日】2023-11-28
【審査請求日】2024-02-09
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野▲崎▼ 郁夫
(72)【発明者】
【氏名】渡▲邊▼ 正記
【審査官】関根 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-147536(JP,A)
【文献】特開2009-136247(JP,A)
【文献】国際公開第2022/181768(WO,A1)
【文献】国際公開第2023/189332(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0084361(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 15/00
A23L 29/244
A23L 29/269
A23J 3/00
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA/AGRICOLA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵を含有しない凝固卵白様食品であって、
カードランと、
グルコマンナンと、
アルカリ剤と、
水分と、を含有し、
前記カードランに対する前記グルコマンナンの質量比が、0.01以上0.35以下であり、
前記グルコマンナンに対する前記アルカリ剤の質量比が、0.015超0.5未満であ
り、
前記凝固卵白様食品における前記カードランの含有量が、1質量%以上5質量%以下であり、
前記凝固卵白様食品における前記グルコマンナンの含有量が、0.01質量%以上1質量%以下であり、
前記凝固卵白様食品における前記アルカリ剤の含有量が、0.001質量%以上0.25質量%以下である、
凝固卵白様食品。
【請求項2】
油脂をさらに含有する、
請求項1に記載の凝固卵白様食品。
【請求項3】
前記アルカリ剤が、水酸化カルシウム又は水酸化ナトリウムの少なくとも一方である、
請求項1に記載の凝固卵白様食品。
【請求項4】
澱粉をさらに含有する、
請求項1に記載の凝固卵白様食品。
【請求項5】
請求項1から
4のいずれか一項に記載の凝固卵白様食品を含有する加工食品。
【請求項6】
卵を含有しない凝固卵白様食品の製造方法であって、
カードランと、グルコマンナンと、アルカリ剤と、水分と、を混合して混合物を調製する工程と、
調製された前記混合物を80℃以上に加熱する工程と、を含み、
前記混合物における前記カードランに対する前記グルコマンナンの質量比が、0.01以上0.35以下であり、
前記混合物における前記グルコマンナンに対する前記アルカリ剤の質量比が、0.015超0.5未満であ
り、
前記混合物における前記カードランの含有量が、1質量%以上5質量%以下であり、
前記混合物における前記グルコマンナンの含有量が、0.01質量%以上1質量%以下であり、
前記混合物における前記アルカリ剤の含有量が、0.001質量%以上0.25質量%以下である、
凝固卵白様食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、卵を含有しない凝固卵白様食品及びそれを含む加工食品、並びに凝固卵白様食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液卵白を加熱凝固させゲル状にした凝固卵白は、茹で卵としてそのまま食されることに加えて、タマゴサラダ、タマゴスプレッド、タマゴフィリング、タルタルソース等の加工食品にも広く使用されている。一方、従来より、凝固卵白の加工及び保存における問題や食物アレルギー等に対応する観点から、卵を含有しない凝固卵白の代替物が知られている。例えば、特許文献1及び2には、凝固卵白の代替物として、冷却凝固材と油脂及び乳化材とを水中油型の状態で凝固してなる卵白様凝固物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-284374号公報
【文献】特開2002-325564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、植物性食品への嗜好の高まりや鶏卵の供給量の変動等により、卵を含有しない凝固卵白の代替物への要求が高まっている。それに伴い、本物の凝固卵白に近い食感を有する凝固卵白様食品が求められている。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、本物の凝固卵白に近い食感を有する凝固卵白様食品及びそれを含む加工食品、並びに凝固卵白様食品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、凝固卵白の代替物について鋭意研究を重ねた。その結果、カードラン、グルコマンナン、アルカリ剤及び水分を含有し、かつ、カードランに対するグルコマンナンの質量比、及びグルコマンナンに対するアルカリ剤の質量比を所定の範囲とすることで、卵を含有していないにも関わらず、凝固卵白特有の食感を再現できることに想到し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明は、
(1)卵を含有しない凝固卵白様食品であって、
カードランと、
グルコマンナンと、
アルカリ剤と、
水分と、を含有し、
前記カードランに対する前記グルコマンナンの質量比が、0.01以上0.35以下であり、
前記グルコマンナンに対する前記アルカリ剤の質量比が、0.015超0.5未満である、
凝固卵白様食品、
(2)油脂をさらに含有する、
(1)に記載の凝固卵白様食品、
(3)前記凝固卵白様食品における前記グルコマンナンの含有量が、0.01質量%以上1質量%以下である、
(1)又は(2)に記載の凝固卵白様食品、
(4)前記凝固卵白様食品における前記カードランの含有量が、1質量%以上5質量%以下である、
(1)から(3)のいずれか1つに記載の凝固卵白様食品、
(5)前記凝固卵白様食品における前記アルカリ剤の含有量が、0.001質量%以上0.25質量%以下である、
(1)から(4)のいずれか1つに記載の凝固卵白様食品、
(6)前記アルカリ剤が、水酸化カルシウム又は水酸化ナトリウムの少なくとも一方である、
(1)から(5)のいずれか1つに記載の凝固卵白様食品、
(7)澱粉をさらに含有する、
(1)から(6)のいずれか1つに記載の凝固卵白様食品、
(8)(1)から(7)のいずれか1つの凝固卵白様食品を含有する加工食品、
(9)卵を含有しない凝固卵白様食品のであって、
カードランと、グルコマンナンと、アルカリ剤と、水分と、を混合して混合物を調製する工程と、
調製された前記混合物を80℃以上に加熱する工程と、を含み、
前記混合物における前記カードランに対する前記グルコマンナンの質量比が、0.01以上0.35以下であり、
前記混合物における前記グルコマンナンに対する前記アルカリ剤の質量比が、0.015超0.5未満である、
凝固卵白様食品の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明によれば、本物の凝固卵白に近い食感を有する凝固卵白様食品及びそれを含む加工食品、並びに凝固卵白様食品の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本発明において、「%」は「質量%」を意味し、「部」は「質量部」を意味する。また、本発明において、「含有量」とは、明記しない限り、凝固卵白様食品全体における含有量を意味し、計算値でも分析値でもよいし、配合量であってもよい。
【0010】
<凝固卵白様食品>
本発明は、卵を含有しない凝固卵白様食品に関する。本発明の凝固卵白様食品は、カードランと、グルコマンナンと、アルカリ剤と、水分と、を含有し、カードランに対するグルコマンナンの質量比、及びグルコマンナンに対するアルカリ剤の質量比が所定の範囲であることを特徴とする。上記構成の凝固卵白様食品は、本物の凝固卵白と近い食感を有し、凝固卵白の代替物として用いることができる。本発明において「本物の凝固卵白と近い食感」とは、本物の凝固卵白と同等又は類似する食感をいうものとする。なお、「卵を含有しない」とは、鶏、鶉、アヒルの卵など、一般に食用に供される鳥類の卵由来の原料を含有していないことをいう。
【0011】
<凝固卵白>
本発明において、凝固卵白とは、一般に食用に供される鳥類の卵の卵白を完全に加熱凝固させゲル状にしたものをいい、具体的には、目視で観察したとき凝固卵白の表面だけでなく中身も凝固し、全体において凝固していない部分、即ち、半熟状の部分がほとんど観察されない状態にあるものをいう。本発明の凝固卵白様食品は、例えば、茹で卵の卵白部様の食品であるとよい。ここでいう「茹で卵」は、一般に食用に供される鳥類の殻付き卵をボイルして卵白部を完全に凝固させたものをいう。このような凝固卵白は、歯で押圧した際の柔らかさと、抵抗感(弾力感)として感じられる歯応えとのバランスが良好であり、さらに、歯応えは感じつつも、比較的容易に噛み切れる感覚(以下、「歯切れ感」とも称する)も有する。加えて、凝固卵白は、口腔内で圧縮されつつも歯や舌の動きに柔らかく沿うように変形する粘り付き感や、つるっとした滑らかさなども有し、特有の複雑な食感を有する。本発明の凝固卵白様食品は、後述するように、このような凝固卵白特有の複雑な食感を再現することができる。
【0012】
<カードラン>
本発明においてカードランとは、β-1,3グルコシド結合を主体とする加熱凝固性多糖類の総称であり、例えば、Alcaligenes faecalis var.myxogenes菌類によって生産される多糖類が挙げられる。カードランをグルコマンナンに対して所定の質量比で配合することで、後述するように、凝固卵白に近い柔らかさや歯切れ感を有するゲルを形成することができる。さらに、カードランにより、耐熱性の高いゲルを形成することができるため、加熱殺菌が可能で保存後の食感も保持しやすい凝固卵白様食品を得ることができる。
【0013】
<カードランの含有量>
本発明の凝固卵白様食品において、カードランの含有量(以下、「A」とも称する)は、後述する質量比の条件を満たすように設定されればよいが、以下のような範囲に設定されることが好ましい。カードランの含有量(A)の下限は、柔らかすぎる食感を抑制する観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは1.5質量%以上、さらに好ましくは1.7質量%以上である。カードランの含有量(A)の上限は、硬すぎる食感を抑制する観点から、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、さらに好ましくは3.5質量%以下、さらに好ましくは3質量%以下である。
【0014】
<グルコマンナン>
本発明において、グルコマンナンとは、こんにゃく芋に含まれる多糖類であって、D-グルコースとD-マンノースがほぼ、1:1.6のモル比で、β-1,4結合により結合した多糖類をいう。グルコマンナンは、こんにゃく粉の形態で使用してもよいし、こんにゃく粉からアルコール等によって精製された精製物を使用してもよい。グルコマンナンをカードラン及びアルカリ剤に対して所定の質量比で配合することで、カードランのゲル化物だけでは得られない、歯応えや粘り付き感などの凝固卵白特有の食感を付与することができる。さらに、グルコマンナンにより、耐熱性が高く、かつ製造後の離水の少ないゲルを形成することができるため、保存後の食感をより維持しやすい凝固卵白様食品を得ることができる。
【0015】
<グルコマンナンの含有量>
本発明の凝固卵白様食品において、グルコマンナンの含有量(以下、「B」とも称する)は、後述する質量比の条件を満たすように設定されればよいが、以下のような範囲に設定されることが好ましい。グルコマンナンの含有量(B)の下限は、柔らかすぎる食感となることを抑制し、かつ製造後の離水を抑制する観点から、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上、さらに好ましくは0.03質量%以上である。グルコマンナンの含有量(B)の上限は、硬すぎる食感を抑制する観点から、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.7質量%以下、さらに好ましくは0.6質量%以下、さらに好ましくは0.5質量%以下である。
【0016】
<アルカリ剤>
本発明において、アルカリ剤は、食用のアルカリ剤であればよく、主にグルコマンナンのゲル化を補助するために用いられる。本発明に用いられるアルカリ剤としては、例えば、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、炭酸ナトリウム、酸化カルシウム、炭酸カルシウム等を挙げることができる。本発明の凝固卵白様食品では、アルカリ剤が、水酸基を含むものが好ましく、水酸化カルシウム又は水酸化ナトリウムの少なくとも一方であることがより好ましく、特に、水酸化カルシウムであることが好ましい。アルカリ剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0017】
<アルカリ剤の含有量>
本発明の凝固卵白様食品において、アルカリ剤の含有量(以下、「C」とも称する)は、後述する質量比の条件を満たすように設定されればよいが、以下のような範囲に設定されることが好ましい。アルカリ剤の含有量(C)の下限は、グルコマンナンを十分にゲル化させる観点から、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、さらに好ましくは0.007質量%以上である。アルカリ剤の含有量(C)の上限は、グルコマンナンの過度なゲル化を抑制する観点から、好ましくは0.25質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下、さらに好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0.05質量%以下である。
【0018】
<水分>
本発明の凝固卵白様食品に含まれる水分は、清水由来の水分に限定されず、本発明の効果を損なわない範囲で選択された材料由来の水分を含んでいてもよい。このような水分を含む材料としては、例えば、植物性ミルク(豆乳、アーモンドミルク、オーツミルク等)、果汁、野菜汁、液状調味料等が挙げられる。
【0019】
<カードランに対するグルコマンナンの質量比(B/A)>
本発明の凝固卵白様食品において、カードランに対するグルコマンナンの質量比は、0.01以上0.35以下である。当該質量比は、凝固卵白様食品における、カードランの含有量(A)に対するグルコマンナンの含有量(B)の比率として算出することができ、以下「B/A」とも称する。B/Aを0.01以上とすることで、カードラン由来の物性の影響が強くなること等により、凝固卵白様食品が凝固卵白と異なる食感になることを抑制できる。また、B/Aを0.35未満とすることで、カードランとグルコマンナンのゲル化のバランスが崩れて凝固卵白様食品が凝固卵白と異なる食感になることを抑制できる。B/Aの下限は、凝固卵白により近い食感を付与する観点から、好ましくは0.015以上、より好ましくは0.03以上、さらに好ましくは0.05以上である。また、B/Aの上限は、凝固卵白により近い食感を付与する観点から、好ましくは0.3以下、より好ましくは0.25以下、さらに好ましくは0.2以下、さらに好ましくは0.15以下である。
【0020】
<グルコマンナンに対するアルカリ剤の質量比(C/B)>
本発明の凝固卵白様食品において、グルコマンナンに対するアルカリ剤の質量比は、0.015超0.5未満である。当該質量比は、凝固卵白様食品における、グルコマンナンの含有量(B)に対するアルカリ剤の含有量(C)の比率として算出することができ、以下「C/B」とも称する。C/Bを0.015超とすることで、グルコマンナンが十分にゲル化せずに柔らかすぎる食感になることを抑制できる。また、C/Bを0.5未満とすることで、こんにゃく様の物性が強く発揮されて凝固卵白と異なる食感になることを抑制できる。さらに、C/Bの下限は、凝固卵白により近い食感を付与する観点から、好ましくは0.02以上、より好ましくは0.03以上、さらに好ましくは0.04以上、さらに好ましくは0.08以上である。C/Bの上限は、凝固卵白により近い食感を付与する観点から、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.3以下、さらに好ましくは0.2以下、さらに好ましくは0.15以下である。
【0021】
<油脂>
本発明の凝固卵白様食品は、さらに油脂を含有するとよい。油脂により、凝固卵白特有のコクや滑らかな舌触りを有する凝固卵白様食品を得ることができる。本発明における油脂は、食用の油脂であれば特に限定されないが、植物性食品へのニーズに応える観点から、植物性油脂を含んでいるとよい。植物性油脂としては、例えば、菜種油、コーン油、大豆油、オリーブ油、紅花油、ひまわり油、えごま油、パーム油、アマニ油等が挙げられる。また本発明における油脂は、凝固卵白に近い白色の外観の凝固卵白様食品を得やすくする観点から、乳化された油脂であるとよりよい。乳化された油脂は、別に添加された乳化剤によって乳化された油脂であってもよいし、予め乳化された乳化油脂であってもよい。乳化油脂は、水相中に油滴を均一に分散させた水中油型の乳化油脂でもよいし、油相中に水滴を均一に分散させた油中水型の乳化油脂でもよい。油脂は、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用してもよい。凝固卵白様食品における油脂の含有量は、コクや滑らかな舌触りを付与する観点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上であり、不自然な油っぽさを抑制する観点から、好ましくは25質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。
【0022】
<澱粉>
本発明の凝固卵白様食品は、さらに澱粉を含有するとよい。これにより、製造後の離水とそれに伴う食感の低下を抑制することができる。本発明において、澱粉は、未加工澱粉と、未加工澱粉を加工した加工澱粉とを含む。未加工澱粉は、例えば、イモ、コーン、タピオカ、小麦、米等の原料から精製された澱粉であり、具体的に、米澱粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉等が挙げられる。加工澱粉とは、未加工澱粉に所定の処理を加えたものであり、具体的には、ヒドロキシプロピル澱粉、アセチル化酸化澱粉、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム、酢酸澱粉、酸化澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、リン酸化澱粉等が挙げられる。これらの澱粉は、1種を単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。凝固卵白様食品における澱粉の含有量は、離水抑制の作用を得る観点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量%以上であり、凝固卵白とは異なる食感となることを抑制する観点から、好ましくは8質量%以下、より好ましくは5質量%以下であり、さらにより好ましくは4質量%以下である。
【0023】
<糖類>
本発明の凝固卵白様食品は、凝固卵白に近い風味を再現する観点から、さらに糖類を含有するとよい。本発明において、糖類とは、単糖類と二糖類のことをいう。単糖類としては、例えば、スクロース、グルコース、ガラクトース、フルクトース、マンノース等が挙げられる。二糖類としては、例えば、スクロース(ショ糖)、ラクトース、マルトース、セルビオース、トレハロース等が挙げられる。これらのうち、本発明の凝固卵白様食品は、凝固卵白により近い風味を再現する観点から、スクロース(ショ糖)を含有することが好ましい。凝固卵白様食品における糖類の含有量は、凝固卵白に近い風味を得る観点から、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.2質量%以上であり、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下である。
【0024】
<その他の材料>
本発明の凝固卵白様食品は、本発明の効果を損なわない範囲で、上記以外の原料を含有することができる。このような原料としては、例えば、食塩、醤油、アミノ酸等の調味料類、果糖ぶどう糖液糖、デキストリン、糖エタノール等の上記以外の糖質、グリシン、酢酸ナトリウム等の静菌剤、有機酸、有機酸塩等の上記以外のpH調整剤、保存料、酸化防止剤、香料等が挙げられる。なお、本発明の凝固卵白様食品は、カードラン、グルコマンナン、澱粉以外の増粘多糖類を含まなくてもよく、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース誘導体、ジェランガムを含まなくてもよい。
【0025】
<細断された茹で卵様の形状>
本発明の凝固卵白様食品は、用いられる調理品の種類に応じた大きさ及び形状を有しているとよく、例えば、細断された茹で卵様の形状であるとよい。本発明において、「細断された茹で卵様の形状」とは、フードカッター、包丁やダイサーなどで細かく切断された茹で卵のような形状をいい、定形でも不定形でもよく、具体的にはダイス状、みじん切り形状、粉砕された形状等が挙げられる。細断された茹で卵様の凝固卵白様食品は、体積に対する表面積の割合が大きいため、ソースや具材との味馴染みを向上させることができる。細断された茹で卵様の凝固卵白様食品は、板状や塊状等の凝固卵白様食品を、ダイサー、フードカッター、包丁、粉砕機、撹拌機等により細断することで調製され得る。細断された茹で卵様の凝固卵白様食品において、一つの断片のサイズは特に限定されないが、例えば一辺の寸法が、好ましくは2mm以上、より好ましくは3mm以上であり、好ましくは30mm以下、より好ましくは20mm以下である。
【0026】
<本発明の凝固卵白様食品の作用効果>
本発明の凝固卵白様食品は、カードランと、グルコマンナンと、アルカリ剤と、水分とを含有し、かつ、B/Aを0.01以上0.35以下、C/Bを0.015超0.5未満とすることで、卵を使用していないにも関わらず、凝固卵白に近い柔らかさに加えて、凝固卵白特有の歯応えや歯切れ感、粘り付き感や滑らかさなどの食感を再現することができる。具体的に、上記質量比の条件を満たすカードランにより、凝固卵白様食品に対して、凝固卵白のような柔らかさ及び歯切れ感を付与することができると考えられる。また、上記質量比の条件を満たすグルコマンナン及びアルカリ剤により、十分な歯応えと歯切れ感の双方の実現に加え、粘り付き感やつるっとした滑らかさを付与することができると考えられる。また、微視的な観点からは、B/A及びC/Bを上述の質量比とすることで、カードラン、グルコマンナン、及びアルカリ剤が相互に協働して複雑な食感を生み出すことが可能なゲルネットワークを構築するものと考えられる。さらに、本発明の凝固卵白様食品は、耐熱性の高いゲルを形成できるため、製造後の加熱殺菌が可能となる。また、本発明の凝固卵白様食品は、製造後の離水を抑制することができ、保存による食感の低下を抑制することができる。これにより、本発明の凝固卵白様食品によれば、加工や保存を経ても、凝固卵白特有の複雑な食感を保持することができる。
【0027】
<凝固卵白様食品を含有する加工食品>
本発明の凝固卵白様食品は、凝固卵白の代替物として加工食品に用いることができる。本発明の凝固卵白様食品を含有する加工食品としては、例えば、茹で卵を用いた代表的な加工食品である、タルタルソース、タマゴスプレッド、タマゴフィリング、タマゴサラダ等が挙げられる。但し、本発明の加工食品は、本発明の凝固卵白様食品を用いたものであればこれらに限定されず、例えば、ソース、サラダ(タマゴサラダ以外のサラダを含む)、サンドイッチ、総菜パン、煮卵、カレー、シチュー、スープ、お粥、雑炊、オムレツ、ラーメン、丼の具材等であってもよい。本発明の加工食品は、本発明の凝固卵白様食品を用いて、通常の凝固卵白を用いた場合と同様の工程を経ることで製造され得る。また、本発明の加工食品は、レトルト殺菌やその他の加熱殺菌が施されたものであってもよい。本発明の加工食品は、上述の凝固卵白様食品を用いるため、凝固卵白を用いたものと近い食感を有する。さらに、本発明の凝固卵白様食品は、加熱や保存に対する耐性が高いため、加工食品の製造過程や保存を経ても好ましい食感を保持することができる。
【0028】
<酸性液状調味料>
本発明の加工食品は、例えば酸性液状調味料であってもよい。このような酸性液状調味料としては、一般に凝固卵白を含む酸性液状調味料であるとよく、例えば、タルタルソース、タマゴスプレット等が挙げられる。本発明の酸性液状調味料により、本物の凝固卵白を用いているような食感を楽しむことができる。
【0029】
<凝固卵白様食品の製造方法>
本発明の凝固卵白様食品の製造方法は、例えば、カードランと、グルコマンナンと、アルカリ剤と、水分と、を含有する混合物を調製する工程と、混合物を加熱する工程と、を含む。
【0030】
<混合物の調製工程>
本工程では、カードランと、グルコマンナンと、アルカリ剤と、水分と、を混合して混合物を調製する。本工程において、カードラン及びグルコマンナンの不均一なゲル化を抑制する観点から、混合物の調製は加熱を伴わないことが好ましい。例えば、混合物の温度は、好ましくは50℃以下、より好ましくは30℃以下であり、混合処理を円滑に行う等の観点から、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上である。本工程の混合には、例えばミキサー、ホモジナイザー等の撹拌機を用いることができる。混合物において、カードラン、グルコマンナン及びアルカリ剤の含有量は、上述のB/A、C/Bの範囲を満たすように適宜設定される。なお、混合物は、上記材料の他、任意の材料を含んでいてもよい。
また、本工程は、攪拌による細かい気泡を除去する観点から、混合物を脱気する工程を含んでいてもよい。脱気処理は、混合しながら行われてもよいし、混合後に行われてもよい。具体的な脱気処理としては、例えば、真空ポンプや真空シーラーなどで容器内の空気を脱気する処理が挙げられる。
混合物の調製工程は、混合物におけるカードラン及び/又はグルコマンナンの不均一なゲル化や凝集(ダマ)を抑制する観点から、例えば、カードラン及び水分を含有するカードラン混合液を調製する工程と、グルコマンナン、アルカリ剤及び水分を含有するグルコマンナン混合液を調製する工程と、カードラン混合液とグルコマンナン混合液とを混合する工程と、を含むことが好ましい。
【0031】
<カードラン混合液の調製工程>
本工程では、カードランと水分とを混合することで、カードラン混合液を調製する。カードラン混合液は、例えばカードランの懸濁液であり、ペースト状であってもよい。カードラン混合液では、混合物におけるカードランの凝集(ダマ)を抑制する観点から、カードランが均質に混合されていることが好ましい。本工程における混合液の温度は、カードランのゲル化を抑制する観点から、好ましくは50℃以下、より好ましくは30℃以下である。カードラン混合液において、カードランの含有量は、上述のB/Aの範囲を満たすように適宜設定され得るが、好ましくは15質量%以下、より好ましくは10質量%以下である。なお、カードラン混合液は、カードランと水との他、任意の材料を含んでいてもよい。
【0032】
<グルコマンナン混合液の調製工程>
本工程では、グルコマンナンと、アルカリ剤と、水分とを混合することで、グルコマンナン混合液を調製する。グルコマンナン混合液は、例えばグルコマンナンの懸濁液であり、ペースト状であってもよい。グルコマンナン混合液では、上記混合物におけるグルコマンナンの凝集(ダマ)を抑制する観点から、グルコマンナンとアルカリ剤が均質に混合されていることが好ましい。本工程における混合液の温度は、グルコマンナンのゲル化を抑制する観点から、好ましくは70℃以下、より好ましくは50℃以下であり、混合液の流動性を確保する等の観点から、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上である。グルコマンナン混合液において、グルコマンナンの含有量は、上述のB/A及びB/Cの範囲を満たすように適宜設定され得るが、好ましくは5質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。なお、グルコマンナン混合液は、グルコマンナン、アルカリ剤及び水分の他、任意の材料を含んでいてもよい。
【0033】
<カードラン混合液とグルコマンナン混合液との混合工程>
本工程では、カードラン混合液と、グルコマンナン混合液とを混合することで、上記混合物を調製する。本工程では、上述の脱気処理を行うことが好ましい。
【0034】
<加熱工程>
本工程では、調製された混合物を80℃以上に加熱する。加熱方法は特に限定されず、例えば混合物を充填して密封された容器を、湯煎、スチーム等により加熱してもよい。あるいは、混合物をトレー等の別の容器に移し、蒸煮、通電加熱、マイクロ波加熱等により加熱処理を行ってもよい。本工程における加熱温度は、カードラン、グルコマンナン及びアルカリ剤によるゲルを確実に形成する観点から、80℃以上、好ましくは85℃以上、より好ましくは90℃以上であり、加熱による変性を抑制する観点から、好ましくは140℃以下である。また、本工程における加熱時間は、ゲル化の進行に応じて適宜設定することができるが、好ましくは30分以上、より好ましくは60分以上であり、好ましくは3時間以下、より好ましくは2時間以下である。
【実施例】
【0035】
さらに、本発明を実施例に基づき詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0036】
[凝固卵白様食品の製造]
実施例1~6及び比較例1~4の凝固卵白様食品のサンプルを調製した。表1に示すように、実施例1~6の配合は、上記B/Aが0.01以上0.35以下で、かつ、上記C/Bが0.015超0.5未満であるという条件を満たすものとした。一方、比較例1~4の配合は、上記B/Aが0.01以上0.35以下、又は、上記C/Bが0.015超0.5未満の少なくともいずれか一方の条件を満たさないものとした。なお、実施例6以外ではアルカリ剤として水酸化カルシウムを用い、実施例6ではアルカリ剤として水酸化ナトリウムを用いた。
【0037】
まず、混合物全体における配合量の半量程度の清水に対し、表1の配合量となるようにカードランを添加したものを、ミキサーで攪拌、均質化し、カードラン混合液を調製した。また、カードラン混合液とは別に、混合物全体における配合量の半量程度の清水に対し、表1の配合量となるようにグルコマンナンとショ糖とを添加し、ミキサーで攪拌しながらアルカリ剤を加えることで、グルコマンナン混合液を調製した。調製されたグルコマンナン混合液を攪拌しながらカードラン混合液と混合し、これに加工澱粉及び植物性乳化油脂(原料中の油脂含有量:50%)を添加した。この混合物を脱気後、耐熱袋に充填することで、混合物を調製した。袋に充填された混合物を90℃で90分間加熱して、実施例1~6及び比較例1~4のサンプルを調製した。なお、加熱後の各サンプルは、10℃以下に冷却して冷蔵保存した。
【0038】
【0039】
[食感の評価]
1週間程度冷蔵保存された各サンプル袋を開封してサンプルを取り出し、匙で細かく裁断した。そして、3人以上の訓練されたパネルが各サンプルを喫食し、以下に示す採点基準に基づいて、各サンプルの食感を採点した。食感の評価においては、各パネルが、凝固卵白特有の柔らかさ、歯応え(弾力感)、歯切れ感、粘り付き感、滑らかさ等を総合的に判断して、本物の凝固卵白との類似性を評価した。評価点は、本物の凝固卵白の食感を3点(最高点)とし、凝固卵白とは異なる食感を1点(最低点)と設定した。サンプル毎に、全てのパネルの評価点の平均点を算出して四捨五入し、以下の評価基準に基づいてA~Cの評価を決定した。
【0040】
(食感の採点基準)
3点:凝固卵白と同等の食感を有する。
2点:凝固卵白と類似する食感を有する。
1点:凝固卵白と異なる食感を有する。
(評価基準)
A:四捨五入して3点(2.5点以上3点以下)
B:四捨五入して2点(1.5点以上2.5点未満)
C:四捨五入して1点(1点以上1.5点未満)
【0041】
表1に示すように、実施例1~6のサンプルは、いずれもA又はBの評価であり、凝固卵白と同等又は類似する食感を有していた。特に実施例1及び6のサンプルは、本物の凝固卵白と同等又はとても類似する食感を有し、好ましかった。実施例2のサンプルも、本物の凝固卵白に類似する食感を有していた。実施例3及び4のサンプルは、やや柔らかい食感を有するものの、本物の凝固卵白に類似する食感を有していた。実施例5のサンプルは、離水が生じており、やや硬めの食感を有するものの、本物の凝固卵白に類似する食感を有していた。また、これらの結果より、実施例1~6のサンプルは、1週間程度の冷蔵保存後であっても、凝固卵白と同等の又は類似する食感を保持できることがわかった。
【0042】
一方で、比較例1~4のサンプルは、いずれもCの評価であり、凝固卵白とは全く異なる食感を有していた。具体的に、比較例1のサンプルは、糊状の物性となり、凝固卵白のような歯応えは全く有していなかった。比較例2のサンプルは、全体として柔らかく、粥のような食感で、凝固卵白のような歯応え及び滑らかさは全く有していなかった。比較例3のサンプルは、歯応えがなく柔らかすぎ、凝固卵白とは全く異なる食感であった。比較例4のサンプルは、離水が多く生じており、硬すぎて、凝固卵白とは全く異なる食感であった。
【0043】
以上のように、カードランと、グルコマンナンと、アルカリ剤と、水分と、を含有し、上記B/Aが0.01以上0.35以下であり、かつ、上記C/Bが0.015超0.5未満である凝固卵白様食品は、凝固卵白と同様又は類似する食感を再現できることがわかった。
【要約】
【課題】本物の凝固卵白に近い食感を有する凝固卵白様食品及びそれを含む加工食品、並びに凝固卵白様食品の製造方法を提供する。
【解決手段】卵を含有しない凝固卵白様食品であって、カードランと、グルコマンナンと、アルカリ剤と、水分と、を含有し、前記カードランに対する前記グルコマンナンの質量比が、0.01以上0.35以下であり、前記グルコマンナンに対する前記アルカリ剤の質量比が、0.015超0.5未満である、凝固卵白様食品。
【選択図】なし