(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】試料ホルダおよび電子顕微鏡
(51)【国際特許分類】
H01J 37/20 20060101AFI20240902BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
H01J37/20 A
H01J37/28 B
(21)【出願番号】P 2023510060
(86)(22)【出願日】2021-03-31
(86)【国際出願番号】 JP2021013940
(87)【国際公開番号】W WO2022208774
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 佑吏
(72)【発明者】
【氏名】波田野 道夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 光宏
【審査官】鳥居 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特表2008-512841(JP,A)
【文献】特開2014-203733(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/20
H01J 37/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子線の照射側に配置される第1部材と、
前記第1部材と対向して配置される第2部材と、
を有する、試料ホルダであって、
前記試料ホルダは、
前記第1部材に設けられた第1隔膜と、
前記第2部材に設けられた第2隔膜と、
前記第1隔膜と前記第2隔膜に挟まれ、かつ、液体を充填可能な空間と、
前記空間に充填可能な液体量を超える液体が前記電子線の照射側とは反対側から滴下されるように誘導する誘導部と、
を備え
、
前記第1部材の平面形状は、第1短辺と第1長辺とを有する長方形形状であり、
前記第2部材の平面形状は、第2短辺と第2長辺とを有する長方形形状であり、
前記第1部材と前記第2部材は、平面視において、前記第1長辺と前記第2短辺とが並行し、かつ、前記第2長辺と前記第1短辺とが並行するように配置され、
前記第1部材は、
前記第2部材と平面的に重なる重複部と、
前記第2部材と平面的に重ならない非重複部と、
を有し、
前記誘導部は、平面視において、前記空間から前記重複部を介して前記非重複部にまで前記液体を誘導するように構成されている、試料ホルダ。
【請求項2】
請求項1に記載の試料ホルダにおいて、
前記誘導部は、前記第1部材または前記第2部材に設けられた溝である、試料ホルダ。
【請求項3】
請求項1に記載に試料ホルダにおいて、
前記誘導部は、前記第1部材または前記第2部材に設けられた親水性材料によるコーティングから構成される、試料ホルダ。
【請求項4】
請求項1に記載の試料ホルダにおいて、
前記試料ホルダは、
前記第1部材と前記第2部材とが第1間隔で対向する第1対向部と、
前記第1部材と前記第2部材とが前記第1間隔よりも大きい第2間隔で対向する第2対向部と、
を含む、試料ホルダ。
【請求項5】
請求項1に記載の試料ホルダにおいて、
前記第1部材は、前記電子線の照射面側に設けられた導体膜を有する、試料ホルダ。
【請求項6】
請求項1に記載の試料ホルダにおいて、
前記試料ホルダは、電子顕微鏡用試料ホルダである、試料ホルダ。
【請求項7】
請求項1に記載の試料ホルダを装着可能な電子顕微鏡であって、
前記電子顕微鏡は、前記試料ホルダの前記誘導部によって、前記電子線の照射側とは反対側から液体が滴下される領域を封止する封止部を備える、電子顕微鏡。
【請求項8】
請求項
7に記載の電子顕微鏡において、
前記封止部は、前記領域を大気圧に封止する、電子顕微鏡。
【請求項9】
請求項
5に記載の試料ホルダを装着可能な電子顕微鏡であって、
前記電子顕微鏡は、バイアス電圧源を介して前記導体膜と電気的に接続され、前記第2部材の前記第2隔膜より下方に配置された検出電極を備え、前記試料ホルダを装着した状態で前記電子線を照射したとき、前記空間と平面的に重なる位置に配置された前記検出電極に流れる検出電流の大きさに基づいて、像を得るように構成されている、電子顕微鏡。
【請求項10】
電子線の照射側に配置される第1部材と、
前記第1部材と対向して配置される第2部材と、
を有する、試料ホルダであって、
前記試料ホルダは、
前記第1部材に設けられた第1隔膜と、
前記第2部材に設けられた第2隔膜と、
前記第1隔膜と前記第2隔膜に挟まれ、かつ、液体を充填可能な空間と、
前記空間に充填可能な液体量を超える液体が前記電子線の照射側とは反対側から滴下されるように誘導する誘導部と、
を備え、
前記誘導部は、前記第1部材または前記第2部材に設けられた親水性材料によるコーティングから構成される、試料ホルダ。
【請求項11】
電子線の照射側に配置される第1部材と、
前記第1部材と対向して配置される第2部材と、
を有する、試料ホルダであって、
前記試料ホルダは、
前記第1部材に設けられた第1隔膜と、
前記第2部材に設けられた第2隔膜と、
前記第1隔膜と前記第2隔膜に挟まれ、かつ、液体を充填可能な空間と、
前記空間に充填可能な液体量を超える液体が前記電子線の照射側とは反対側から滴下されるように誘導する誘導部と、
を備え、
前記試料ホルダは、
前記第1部材と前記第2部材とが第1間隔で対向する第1対向部と、
前記第1部材と前記第2部材とが前記第1間隔よりも大きい第2間隔で対向する第2対向部と、
を含む、試料ホルダ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料ホルダおよび電子顕微鏡に関し、例えば、液体試料を充填可能な試料ホルダに適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電子顕微鏡は、電子線を使用して測定対象物の拡大像を得る顕微鏡である。電子線は、電磁波として見た場合、非常に波長の短い波である。このことから、電子線を使用する電子顕微鏡は、可視光を使用する光学顕微鏡よりも遥かに高い倍率で形態観察を行うことができる。したがって、電子顕微鏡は、様々な分野の試料測定に使用されている。特に、電子顕微鏡で固体試料だけでなく、液体試料の観察の要求も高まっている。
【0003】
ここで、本明細書でいう「液体」は、幅広く流動性を有する物質を意味しており、一般的な液体物質だけでなく、ゲル状物質も含む広い概念で使用している。
【0004】
電子顕微鏡では、測定の際に試料を真空中に配置する必要がある。このため、液体試料を測定する場合、以下に示すことが懸念される。すなわち、電子顕微鏡を構成する装置内に液体試料を直接配置すると、液体試料が揮発して本来見たいものを測定することができないおそれや、装置内の試料室が揮発した液体試料で汚染されるおそれがある。
このことから、電子顕微鏡で液体試料を測定するにあたっては工夫が望まれている。
以下に、液体試料を観察する手法に関する文献を挙げる。
【0005】
特表2013-535795号公報(特許文献1)には、プローブとなる電子線を透過させ、透過後の電子を検出することで、試料を観察する透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscopy)や走査型透過電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscopy)に関する技術が記載されている。
【0006】
特表2006-518534号公報(特許文献2)には、SEM用液状サンプル容器であって、電子ビーム透過性で流体不透過性の膜を備えるサンプルエンクロージャに関する技術が記載されている。
【0007】
特開2014-203733号公報(特許文献3)および特開2016-72184号公報(特許文献4)には、染色処理や固定化処理を施すことなく、走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscopy)を用いて水溶液中の生物試料を生きたままの状態で観察するための観察システムと試料ホルダに関する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表2013-535795号公報
【文献】特表2006-518534号公報
【文献】特開2014-203733号公報
【文献】特開2016-72184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1~4に記載された観察システムにおいては、電子線による観察を行うため、数十nm~数百nmの厚さを有する隔膜で挟まれた空間に液体試料を充填する必要がある。この点に関し、上述した空間の容積は、滴下される液体試料に対して非常に小さいので、この空間に充填できなかった液体試料が想定外の場所から外部に漏れ出る可能性がある。特に、漏れ出た液体試料は、試料ホルダの電子線照射面となる隔膜の上面に付着する場合がある。この場合、チャージアップの影響などによって、電子顕微鏡画像の劣化という悪影響を及ぼす可能性があることが分かっている。このことから、想定外の場所への液体試料の漏れ出しを抑制することが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一実施の形態における試料ホルダは、電子線の照射側に配置される第1部材と、第1部材と対向して配置される第2部材とを有する。このとき、試料ホルダは、第1部材に設けられた第1隔膜と、第2部材に設けられた第2隔膜と、第1隔膜と第2隔膜に挟まれ、かつ、液体を充填可能な空間と、空間に充填可能な液体量を超える液体が前記電子線の照射側とは反対側から滴下されるように誘導する誘導部とを備える。
【発明の効果】
【0011】
一実施の形態によれば、想定外の場所への液体試料の漏れ出しを抑制できる試料ホルダを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】関連技術における試料ホルダを模式的に示す図である。
【
図2】関連技術に存在する改善の余地を説明する図である。
【
図3】走査電子顕微鏡の模式的な構成を示す図である。
【
図8】試料ホルダに液体試料を充填した状態を示す図である。
【
図10】誘導部の第2具体的構成例を示す図である。
【
図11】(a)は隔膜の破損を模式的に示す図であり、(b)は隔膜の湾曲を模式的に示す図である。
【
図12】変形例1における試料ホルダを模式的に示す図である。
【
図13】(a)および(b)は、変形例2における試料ホルダを模式的に示す図である。
【
図14】変形例3における試料ホルダを模式的に示す図である。
【
図15】本変形例4における試料ホルダを模式的に示す図である。
【
図16】試料ホルダに液体試料を充填した状態を示す図である。
【
図17】走査顕微鏡の模式的な構成を示す図である。
【
図18】試料ホルダの模式的な構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
実施の形態を説明するための全図において、同一の部材には原則として同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。なお、図面をわかりやすくするために平面図であってもハッチングを付す場合がある。
【0014】
<試料ホルダの必要性>
電子顕微鏡は、様々な分野の試料の測定に使用されており、固体試料だけでなく、液体試料の観察にも幅広く使用されている。ただし、電子顕微鏡での測定に使用する試料は、通常は真空中に配置される。したがって、例えば、液体試料を電子顕微鏡で測定するために真空中に配置すると、液体試料が揮発して本来見たいものを観察することができないおそれが生じるとともに、電子顕微鏡の試料室が揮発した液体試料で汚染されるおそれがある。この問題を回避するために最も多く採用されている手法は、測定前に液体試料をパッケージングして真空雰囲気から液体試料を隔離する手法である。この手法で液体試料をパッケージングするために使用される構造体が試料ホルダである。つまり、液体試料を電子顕微鏡で測定するためには、液体試料をパッケージングする試料ホルダが必要とされる。
【0015】
ただし、電子顕微鏡での測定において、液体試料をパッケージングするだけでは、溶媒の蒸発などによりサンプルの状態が変化し、電子線を照射しても液体試料の情報は得られないことから、真空雰囲気から液体試料を隔離する際に窒化シリコン膜などの薄膜を使用することが行われる。
【0016】
<関連技術の説明>
以下では、薄膜を介して液体試料を閉じ込める試料ホルダに関する関連技術を説明する。
本明細書でいう「関連技術」とは、公知技術ではないが、本発明者が見出した課題を有する技術であって、本願発明の前提となる技術である。
図1は、関連技術における試料ホルダ1000を模式的に示す図である。
【0017】
図1において、試料ホルダ1000は、例えば、電子線の照射側に配置される上側チップ1100と、この上側チップ1100と対向配置される下側チップ1200とを有する。上側チップ1100および下側チップ1200は、例えば、シリコンなどの半導体材料や絶縁材料から構成される。そして、上側チップ1100には、隔膜1300が設けられているとともに、下側チップ1200には、隔膜1400が設けられている。
【0018】
図1に示す関連技術における試料ホルダ1000では、下側チップ1200に設けられている隔膜1400上に液体試料500を滴下した後、上側チップ1100と下側チップ1200の間隔を狭めることにより、滴下した液体試料500を隔膜1300と隔膜1400で挟まれる空間に充填する。これにより、試料ホルダ1000によれば液体試料500を充填することができる。
【0019】
このような関連技術における試料ホルダ1000に充填された液体試料500を電子顕微鏡で観察する場合、電子線照射による情報を得るために、隔膜1300と隔膜1400との間の距離を最大でも数十μm程度と充分に小さくする必要がある。このため、隔膜1400に滴下された液体試料500のうち、試料ホルダ1000に充填できる液体試料500の量は、滴下した液体試料500の量に対して非常に少なくなる。この結果、試料ホルダ1000の空間容積以上に液体試料を滴下した場合、以下の改善の余地が存在する。
【0020】
<関連技術に存在する改善の余地>
例えば、
図2に示すように、充填できなかった液体試料500が試料ホルダ1000の想定外の場所から外部に漏れ出るおそれがある。さらに、漏れ出た液体試料500は、電子線照射面となる隔膜1300の上面に付着する場合がある。この場合、チャージアップの影響等により電子顕微鏡画像の劣化という悪影響を及ぼす可能性があることが分かっている。
【0021】
このように、関連技術における試料ホルダ1000には、改善の余地が存在する。本実施の形態では、関連技術に存在する改善の余地に対する工夫を施している。以下では、この工夫を施した本実施の形態における技術的思想を説明する。具体的に、本実施の形態における技術的思想は、試料ホルダの構造に関する工夫である。
【0022】
以下では、まず、本実施の形態における試料ホルダについて説明する前に、試料ホルダが使用される電子顕微鏡について説明する。本実施の形態における試料ホルダは、幅広い種類の電子顕微鏡に適用可能である。
【0023】
具体的に、本実施の形態における試料ホルダは、二次電子や反射電子を検出することにより像を得る電子顕微鏡や、液体試料における誘電率分布から生じる電界変化によって引き起こされる検出電流の変化に基づいて像を得る電子顕微鏡にも適用可能である。
【0024】
そこで、まず、二次電子や反射電子を検出することにより像を得る電子顕微鏡に装着可能な構成の試料ホルダを取り挙げて、本実施の形態における技術的思想を説明する。
【0025】
その後、検出電流の変化に基づいて像を得る電子顕微鏡に装着可能な構成の試料ホルダを取り挙げて、本実施の形態における技術的思想を説明する。
【0026】
<走査電子顕微鏡の構成>
図3は、走査電子顕微鏡100の模式的な構成を示す図である。
図3において、筐体10は、観察対象である液体試料に対して電子線13を照射する電子光学系が内蔵されるカラム11と、液体試料が配置される試料室12とを含む。筐体10は、電子線13を液体試料に照射する際には、高真空環境とする必要があるため、試料室12には、室内の気圧を計測するための圧力センサ14が設けられている。
【0027】
電子光学系は、電子銃15と、電子銃15から放出された電子線13を集束して微小スポットを液体試料に向けて照射するコンデンサレンズ16および対物レンズ17と、電子線13の非点収差を補正する非点収差補正器18と、電子線13を液体試料上で2次元的に走査する偏向器19を含む。
【0028】
試料室12には、3次元的に移動可能なステージ20が設けられている。ステージ20には、観察対象である液体試料を充填した試料ホルダ200が搭載される。
【0029】
対物レンズ17の直下には検出器21が設けられている。この検出器21は、電子線13の照射により液体試料との相互作用で放出される反射電子を検出するように構成されており、例えば、半導体検出器、シンチレータ、ライトガイド、光電子増倍管などから構成することができる。また、ステージ20の下部にも検出器22が設けられている。検出器22は、液体試料を透過した電子を検出するように構成されており、検出器21と同様に、半導体検出器、シンチレータ、ライトガイド、光電子増倍管などが使用される。
【0030】
なお、本実施の形態において、走査電子顕微鏡100は、検出器21と検出器22のいずれか一方を備えているだけでもよく、両者を備えていてもよい。
【0031】
試料ホルダ200は、内部が中空の真空隔壁内に固定される。真空隔壁は、真空隔壁下部品23と真空隔壁上部品24によって構成される。真空隔壁下部品23と真空隔壁上部品24は、例えば、アルミニウムなどの導体から構成される。真空隔壁下部品23と真空隔壁上部品24は、気密のためのシール材25を介して接続される。
【0032】
真空隔壁と試料ホルダ200で挟まれた空間は、大気圧、あるいは、試料室12よりも低い真空度の準大気圧状態に保持される。試料ホルダ200は、真空隔壁下部品23を介してステージ20に搭載される。電子光学系とステージ20と筐体10の内部空間を真空環境とするための真空排気系26は主制御部27によって制御される。
【0033】
主制御部27は、表示部28が接続されたコンピュータ29に接続されている。コンピュータ29と表示部28上のユーザインターフェース(GUI)とを用いて、ユーザは、走査電子顕微鏡100を操作することができる。コンピュータ29は、ユーザがGUIを用いて入力した命令を主制御部27に伝達するように構成されており、主制御部27は、その命令にしたがって走査電子顕微鏡100の各構成要素を制御する。さらに、コンピュータ29は、主制御部27からの画像データに対する画像処理や表示部28への画像表示を行うように構成されている。
以上のようにして、走査電子顕微鏡100が構成されている。
【0034】
<走査電子顕微鏡の原理>
走査電子顕微鏡100は、真空中で細く絞った電子線13で試料表面を走査することにより、試料から出てくる信号を検出して表示部28に試料の拡大像を表示する。具体的に、真空中で電子線13を試料に照射すると、二次電子が試料から放出される。このとき、二次電子の他にも試料からは反射電子や特性X線なども放出される。
【0035】
走査電子顕微鏡100では、検出器21や検出器22によって二次電子や反射電子を検出することで得られた信号を使用して像を表示する。例えば、二次電子は、試料の表面近傍から発生する電子で、二次電子を検出することにより得られる二次電子像は、試料の微細な凹凸を反映している。一方、反射電子は、試料を構成する原子に当たって跳ね返された電子で、反射電子の数は、試料の組成(平均原子番号や結晶方位など)に依存する。このことから、反射電子像は、試料の組成分布を反映した像となる。
【0036】
このように、走査電子顕微鏡100の原理は、試料に対して細く絞った電子線13を走査することにより発生する二次電子や反射電子を検出し、検出された二次電子や反射電子に基づく信号から像を得るという原理である。
【0037】
<試料ホルダの構成>
次に、本実施の形態における試料ホルダ200の構成について説明する。
図4は、電子線照射側から見た上側チップ300の平面形状を示す平面図である。
図4に示すように、上側チップ300は、第1長辺310と第1短辺320を有する長方形形状をしている。この上側チップ300は、「課題を解決するための手段」の欄に記載されている「第1部材」に対応する。そして、上側チップ300の中央部には、電子線が照射されるウィンドウ部330が形成されている。また、このウィンドウ部330を囲み、上側チップ300の一端面にまで延在する誘導部340が形成されている(
図4のハッチング領域で示されている)。
図5は、電子線照射側から見た下側チップ400の平面形状を示す平面図である。
【0038】
図5に示すように、下側チップ400は、第2長辺410と第2短辺420とを有する長方形形状をしている。この下側チップ400は、「課題を解決するための手段」の欄に記載されている「第2部材」に対応する。そして、下側チップ400の中央部には、ウィンドウ部430が形成されている。
【0039】
このように構成されている上側チップ300と下側チップ400とを重ねて配置することにより、試料ホルダ200が構成される。具体的に、
図6は、試料ホルダ200の平面図である。
図6に示すように、試料ホルダ200を構成する上側チップ300と下側チップ400は、平面視において、第1長辺310と第2短辺420とが並行し、かつ、第2長辺410と第1短辺320とが並行するように配置される。この結果、
図6に示すように、上側チップ300は、下側チップ400と平面的に重なる重複部と、下側チップ400と平面的に重ならない非重複部とを有することになる。このとき、誘導部340は、平面視において、ウィンドウ部330から重複部を介して非重複部にまで達するように構成されている。このようにして、試料ホルダ200の平面形状が構成されている。
続いて、
図7は、
図6のA-A線で切断した断面図である。
【0040】
図7に示すように、試料ホルダ200では、上側チップ300と下側チップ400とが対向配置されている。ここで、上側チップ300は、電子線の照射側に配置される一方、下側チップ400は、電子線の照射側とは反対側に配置される。
【0041】
図7において、上側チップ300のウィンドウ部330には、隔膜350が設けられている一方、下側チップ400のウィンドウ部430には、隔膜450が設けられている。そして、隔膜350と隔膜450とが、空間600を介して対向するように、上側チップ300と下側チップ400とが配置されている。隔膜350および隔膜450は、例えば、カーボン材、有機材、金属材、窒化シリコン(シリコンナイトライド)、炭化シリコン(シリコンカーバイド)、酸化シリコンなどから構成される。隔膜350および隔膜450のそれぞれの厚さは、一次荷電粒子線(電子線)を透過あるいは通過させる必要があるため、数nm~数μmである。また、隔膜350および隔膜450のそれぞれの面積は、例えば、真空と大気圧を分離するための差圧下で破損しないことが必要であるため、数平方マイクロメートルから数平方ミリメートル程度である。さらに、隔膜350および隔膜450のそれぞれの形状に関しては、正方形、長方形あるいは円形のいずれの形状でも構わない。
【0042】
このように構成されている試料ホルダ200では、隔膜350と隔膜450に挟まれた空間600に液体試料を充填する。例えば、下側チップ400の隔膜450上に液体試料を滴下した後、下側チップ400に上側チップ300を重ね合わせることにより、空間600に液体試料を充填する。
図8は、試料ホルダ200に液体試料500を充填した状態を示す図である。
【0043】
図8において、隔膜350と隔膜450に挟まれた空間600に液体試料500が充填されている。このとき、滴下された液体試料500の量が、空間600の容積を超えると、液体試料500の一部が空間600から漏れ出る。ここで、本実施の形態における試料ホルダ200には、空間600から重複部を介して非重複部まで延在する誘導部340が設けられている。この結果、空間600に充填可能な液体量を超える液体試料500は、誘導部340によって、電子線の照射側とは反対側(鉛直下方向)から滴下されるように誘導される。このように、誘導部340は、空間600から漏れ出る液体試料500の流出経路を予め設定された経路に沿って誘導する機能を有する。
以上のようにして、本実施の形態における試料ホルダ200が構成されている。
【0044】
<誘導部の具体的構成例1>
図9は、誘導部340の具体的構成例1を示す図である。
図9に示すように、誘導部340は、例えば、上側チップ300に形成された溝340Aから構成することができる。つまり、溝340Aが形成された領域では、上側チップ300と下側チップ400との間の隙間が大きくなる。そして、隙間の大きい領域ほど漏れ出た液体試料500が流れやすくなることから、誘導部340を溝340Aから構成することにより、空間600から漏れ出る液体試料500の流出経路を溝340Aに沿って誘導することができる。これにより、溝340Aは、誘導部340として機能する。
【0045】
<誘導部の具体的構成例2>
図10は、誘導部340の具体的構成例2を示す図である。
図10に示すように、誘導部340は、例えば、上側チップ300に設けられた親水性材料によるコーティング340Bから構成することができる。つまり、コーティング340Bが形成された領域では、コーティング340Bの親水性によって、漏れ出た液体試料500が他の領域(シリコン領域)よりも流れやすくなることから、誘導部340を親水性材料によるコーティング340Bから構成することにより、空間600から漏れ出る液体試料500の流出経路をコーティング340Bに沿って誘導することができる。これにより、親水性材料によるコーティング340Bは、誘導部340として機能する。
【0046】
なお、本実施の形態でいう「親水性」とは、上側チップ300や下側チップ400を構成する材料よりも親水性が高いことを意味している。上側チップ300ならびに下側チップ400が、例えば、シリコンから構成され、上側チップの隔膜350や下側チップの隔膜450が、例えば、シリコンナイトライド膜から構成されるとすると、コーティング340Bを構成する親水性材料は、シリコンならびにシリコンナイトライドよりも親水性が高ければよいことになる。
【0047】
<実施の形態における特徴>
続いて、本実施の形態における特徴点について説明する。
本実施の形態における特徴点は、例えば、試料ホルダ200において、
図8に示すように、空間600から重複部を通って非重複部まで延在する誘導部340を設ける点にある。この誘導部340の機能について説明する。
【0048】
誘導部340の機能は、空間600に充填可能な液体量を超える液体が鉛直下方向に滴下されるように誘導する機能である。この誘導部340の機能を実現するために、本実施の形態では、試料ホルダ200を構成する上側チップ300と下側チップ400の平面形状を工夫している。具体的に、本実施の形態では、例えば、
図4および
図5に示すように、上側チップ300と下側チップ400の平面形状を長方形形状としている。
【0049】
そして、
図6に示すように、第1長辺310と第2短辺420とが並行し、かつ、第2長辺410と第1短辺320とが並行するように上側チップ300と下側チップ400とを重ね合わせるように配置する。
【0050】
この結果、
図6に示すように、上側チップ300は、下側チップ400と平面的に重なる重複部と、下側チップ400と平面的に重ならない非重複部とを有することになる。この構成を前提として、空間600から重複部を介して非重複部にまで達するように誘導部340を構成することによって、空間600から漏れ出た液体が鉛直下方向から滴下されるように誘導するという誘導部340の機能が実現される。そして、誘導部340による機能が実現される結果、空間600に充填可能な液体量を超える液体を意図した鉛直下方向に滴下させることが可能となる。
【0051】
さらに、この空間600に充填可能な液体量を超える液体を空間600から外部に流れやすくする機能により、空間600に過度の液体が充填されて内部圧力が高くなることを抑制する効果が合わせて得られる。このことは、
図11(a)および
図11(b)に示す関連技術のように、空間600を挟む隔膜1300と隔膜1400が破損したり、湾曲したりすることを抑制できることを意味する。この結果、
図8に示す本実施の形態における試料ホルダ200によれば、誘導部340によって、隔膜350および隔膜450の破損から生じる液体試料500の漏洩に起因する試料室の汚染を防止することができるとともに、隔膜350および隔膜450に圧力が加わることによって生じる隔膜350および隔膜450の湾曲に起因する焦点位置の視野毎のずれを抑制できる。
【0052】
ここで、鉛直下方向に滴下された液体試料500は、電子顕微鏡の試料室に溜まることになる。ただし、試料室は、真空状態となっていることから、滴下された液体試料500は、揮発して試料室が汚染されるおそれがある。
【0053】
この点に関し、本実施の形態では、例えば、
図3に示す走査電子顕微鏡100のように、液体試料500が滴下される滴下領域が、真空隔壁下部品23と真空隔壁上部品24とシール材25によって封止されている。すなわち、本実施の形態における試料ホルダ200が装着される走査電子顕微鏡100は、試料ホルダ200の誘導部340によって、電子線の照射側とは反対側から液体が滴下される滴下領域を封止する封止部を備えている。例えば、この封止部は、滴下領域を大気圧に封止している。このようにして、本実施の形態によれば、滴下された液体試料500に起因する試料室の汚染を抑制することができる。
【0054】
以上のことから、本実施の形態によれば、試料ホルダ200に誘導部340を形成するとともに、誘導部340によって誘導された液体試料500の滴下位置を真空雰囲気から隔離して封止する封止部を走査電子顕微鏡100に設けている。この結果、本実施の形態によれば、関連技術に存在する改善の余地を克服することができる。
【0055】
したがって、本実施の形態における技術的思想は、液体試料500を充填可能な試料ホルダ200の性能を向上できるとともに、液体試料500の測定にも適した走査電子顕微鏡100を提供できる点で非常に優れている。
【0056】
<変形例1>
図12は、本変形例1における試料ホルダ200Aを模式的に示す図である。
図12において、試料ホルダ200Aに形成されている誘導部340は、上側チップ300の一端面にまで達していない点が、
図7に示す試料ホルダ200との相違点である。このように構成されている試料ホルダ200Aによれば、
図7に示す試料ホルダ200よりも、空間600に充填可能な液体量を超える液体を意図しない上側チップ300の上面(表面)に付着することを防ぐポテンシャルを高めることができる。
【0057】
<変形例2>
図13(a)は、本変形例2における試料ホルダ200B1を模式的に示す図であり、
図13(b)は、本変形例2における試料ホルダ200B2を模式的に示す図である。
図13(a)において、例えば、下側チップ400には、溝460が形成されている。これにより、試料ホルダ200Bは、上側チップ300と下側チップ400とが第1間隔で対向する第1対向部2010と、上側チップ300と下側チップ400とが第1間隔よりも大きい第2間隔で対向する第2対向部2020とを含むように構成される。
【0058】
ただし、第1対向部2010と第2対向部2020を実現する構成は、上述した構成に限らず、例えば、
図13(b)に示すように、上側チップ300に深さの異なる溝340A1と溝340A2を階段状に設けることにより、上側チップ300と下側チップ400とが第1間隔で対向する第1対向部2010と、上側チップ300と下側チップ400とが第1間隔よりも大きい第2間隔で対向する第2対向部2020とを含むように構成することができる。
【0059】
ここで重要な点は、間隔の異なる第1対向部2010と第2対向部2020を設ける構造にあり、下側チップ400の構成を変更して、この構造を実現してもよいし、上側チップ300の構成を変更して、この構造を実現してもよい。さらには、下側チップ400と上側チップ300の両方の構成を変更して、この構造を実現してもよい。
【0060】
さらには、間隔の異なる第1対向部2010と第2対向部2020を設けるだけでなく、間隔の異なる3つ以上の対向部を設けてもよい。
【0061】
この結果、誘導部340の体積をより大きく設けることが可能となり、誘導部340の流路としての性能をより高めることが可能となる。したがって、充填可能な液体量を超える液体を意図しない上側チップ300の上面(表面)に付着することを防ぐポテンシャルを高めることができ、これによって、空間600を挟む隔膜350と隔膜450が破損したり、湾曲したりするリスクをより強く抑制することができる。
【0062】
<変形例3>
図14は、本変形例3における試料ホルダ200Cを模式的に示す図である。
図14において、試料ホルダ200Cに形成されている誘導部340は、上側チップ300の両端面にまで達している点が、
図7に示す試料ホルダ200との相違点である。このように構成されている試料ホルダ200Cによれば、
図7に示す試料ホルダ200よりも、空間600に充填可能な液体量を超える液体の流出経路が拡大する結果、空間600に充填可能な液体量を超える液体を空間600の外部に流出させるポテンシャルを高めることができる。
【0063】
<変形例4>
図15は、本変形例4における試料ホルダ200Dを模式的に示す図である。
図15において、試料ホルダ200Dでは、上側チップ300ではなく、下側チップ400に誘導部440が形成されている点が、
図7に示す試料ホルダ200との相違点である。このように構成されている試料ホルダ200Dにおいても、例えば、
図16に示すように、誘導部440によって、空間600に充填可能な液体量を超える液体を意図した鉛直下方向に滴下させることが可能となる。すなわち、誘導部(340、440)は、上側チップ300に設けてもよいし、下側チップ400に設けてもよい。さらには、上側チップ300と下側チップ400の両方に設けてもよい。
【0064】
<走査電子顕微鏡の別構成>
次に、
図3に示す走査電子顕微鏡100とは異なる構成を有する走査電子顕微鏡100Aに本実施の形態における技術的思想を具現化した試料ホルダ200Eを適用する例を説明する。
図17は、走査電子顕微鏡100Aの模式的な構成を示す図である。
以下では、
図3に示す走査電子顕微鏡100とは異なる構成を中心に説明する。
【0065】
図17において、走査電子顕微鏡100Aに装着された試料ホルダ200Eには、電子線13の照射面側に設けられた導体膜360が設けられている。この導体膜360は、走査電子顕微鏡100Aに設けられたバイアス電圧源700と電気的に接続されており、導体膜360には、バイアス電圧源700から正電位が印加される。
【0066】
一方、走査電子顕微鏡100Aに装着された試料ホルダ200Eには、検出電極800が設けられている。この検出電極800は、液体試料が充填される空間と平面的に重なる位置に配置されている。そして、検出電極800は、信号検出部900を介して主制御部27と電気的に接続されている。このようにして、走査電子顕微鏡100Aが構成される。
【0067】
<試料ホルダの構成>
図18は、走査電子顕微鏡100Aに装着される試料ホルダ200Eの模式的な構成を示す図である。
図18において、試料ホルダ200Eには、上側チップ300の電子線照射側の表面に導体膜360が設けられているとともに、下側チップ400に設けられた隔膜450の下方に検出電極800が設けられている。
【0068】
<走査電子顕微鏡の別原理>
続いて、
図17に示す走査電子顕微鏡100Aにおける原理について説明する。
まず、バイアス電圧源700から導体膜360に検出電極800に対してバイアス電圧(正電位)を印加した状態で、液体試料500に向かって電子線13を照射する。照射された電子線13に起因して、隔膜350の液体試料500と接する界面には局所的な電位変化が生じる。この電位変化に基づく電気信号は、液体試料500を挟んで隔膜350の反対側に配置された隔膜450の下方に設けられた検出電極800により検出される。
【0069】
上述した電子線照射に起因する局所的な電位変化は、隔膜350の直下に存在する液体試料500の誘電率に依存する。このことから、検出電極800では、液体試料500の誘電率分布に依存する強度の電気信号が検出される。この結果、検出電極800の検出信号に基づく画像データには、観察対象である液体試料500のコントラストが反映される。このようにして、走査電子顕微鏡100Aによれば、像を取得することができる。つまり、走査電子顕微鏡100Aは、液体試料500が充填された試料ホルダ200Eを装着した状態で電子線13を照射したとき、バイアス電圧源700を介して導体膜360と電気的に接続された検出電極800であって、空間600と平面的に重なる位置に配置された検出電極800に流れる検出電流の大きさに基づいて、像を得るように構成されている。
【0070】
さらに、詳細に原理を説明すると、導体膜360にバイアス電圧を印加した状態で液体試料500に向かって電子線13を照射すると、電子線13の照射に起因して、液体試料500には、局所的な誘電率変化が生じる。そして、液体試料500の局所的な誘電率変化が生じると、局所的な電界変化が引き起こされる。具体的には、隔膜350の液体試料500と接する界面において、2次元的な電界分布が変化する。この結果、隔膜350において、この電界分布に基づいて発生する電子・正孔対の数が変化する。このことは、発生した電子が正電位の導体膜360に流れ込むことによって、導体膜360と検出電極800を構成要素に含む閉回路に流れる検出電流が変化することを意味する。したがって、検出電流には、液体試料500の像に関する情報が含まれていることになり、検出電流の大きさに基づいて像を取得できる。
【0071】
<実施の形態における技術的思想を適用する有用性>
以下では、このように構成されている走査電子顕微鏡100Aに装着される試料ホルダに対して、本実施の形態における技術的思想を適用する有用性について説明する。
【0072】
例えば、走査電子顕微鏡100Aに装着する試料ホルダに対して、例えば、
図2に示すような外部への液体の漏れ出しが生じる状況を考える。この場合、漏れ出た液体は、試料ホルダの側面(端面)を這い上がって、試料ホルダの電子線照射側の表面に付着する可能性がある。この場合、走査電子顕微鏡100Aに装着する試料ホルダには、電子線照射側の表面にバイアス電圧を印加するための導体膜が設けられていることから、この導体膜に液体が付着するおそれがある。
【0073】
そして、導体膜に液体が付着すると、意図しないショート不良が生じる可能性があり、走査電子顕微鏡100Aの動作に支障をきたす。したがって、走査電子顕微鏡100Aに装着する試料ホルダでは、導体膜に液体が付着しないようにする必要がある。
【0074】
この点に関し、
図18に示す試料ホルダ200Eでは、本実施の形態における技術的思想が具現化されている。すなわち、試料ホルダ200Eにおいて、
図18に示すように、空間600から重複部を通って非重複部まで延在する誘導部340が設けられている。
【0075】
これにより、誘導部340の機能によって、空間600に充填可能な液体量を超える液体を意図した鉛直下方向に滴下させることができる。このことは、空間600に充填可能な液体量を超える液体が電子線照射側の表面に形成されている導体膜360に付着するポテンシャルを大幅に低減できることを意味する。このことから、走査電子顕微鏡100Aに装着される試料ホルダ200Eによれば、導体膜360に液体が付着して走査電子顕微鏡100Aの動作に支障をきたすという致命的な問題点を回避することができる。このように、本実施の形態における技術的思想は、走査電子顕微鏡100Aに装着される試料ホルダ200Eに適用すると優れた効果が得られる。
【0076】
さらに、走査電子顕微鏡100Aに装着される試料ホルダに対して、本実施の形態における技術的思想を適用すると、以下に示す有用性も得られる。
【0077】
例えば、走査電子顕微鏡100Aに装着する試料ホルダに対して、隔膜に湾曲が生じる状況を考える(例えば、
図11(b)参照)。この場合、上下の隔膜の間の距離が広がることになり、このことは、走査電子顕微鏡100Aに装着する試料ホルダに設けられている検出電極に流れる検出電流が小さくなることを意味する。この結果、検出電流を検出することができなくなって、像を取得することが困難となる。つまり、走査電子顕微鏡100Aでは、隔膜に湾曲が生じる現象が像の取得を困難にするという致命的な問題となる。
【0078】
この点に関し、
図18に示す試料ホルダ200Eでは、本実施の形態における技術的思想が具現化されている。すなわち、試料ホルダ200Eにおいて、
図18に示すように、空間600から重複部を通って非重複部まで延在する誘導部340が設けられている。
【0079】
これにより、空間600に充填可能な液体量を超える液体を空間600から外部に流れやすくすることができる。この結果、空間600に過度の液体が充填されて内部圧力が高くなることを抑制できる。このことは、空間600を挟む隔膜350と隔膜450が破損したり、湾曲したりすることを抑制できることを意味する。この結果、走査電子顕微鏡100Aに装着される試料ホルダ200Eによれば、隔膜350および隔膜450の湾曲に起因する検出電流の減少を抑制できる結果、像の取得を困難にするという致命的な問題点を回避することができる。このように、本実施の形態における技術的思想は、走査電子顕微鏡100Aに装着される試料ホルダ200Eに適用すると優れた効果が得られる。
【0080】
なお、空間600に充填可能な液体量を超える液体が電子線照射側の表面に形成されている導体膜360に付着するポテンシャルを低減する観点からは、例えば、
図12に示すように、誘導部340が上側チップ300の端面まで達していない構成が有効である。なぜなら、この構成によれば、上側チップ300の端面まで液体が誘導されないことから、上側チップ300の端面からの液体の表面への這い上がりを抑制できるからである。
【0081】
また、空間600に充填可能な液体量を超える液体が電子線照射側の表面に形成されている導体膜360に付着するポテンシャルを低減する観点から、例えば、下側チップ400に誘導部440を設ける構成も有効である(
図15および
図16参照)。なぜなら、この場合も、上側チップ300の端面まで液体が誘導されにくくなるからである。
【0082】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0083】
10 筐体
11 カラム
12 試料室
13 電子線
14 圧力センサ
15 電子銃
16 コンデンサレンズ
17 対物レンズ
18 非点収差補正器
19 偏向器
20 ステージ
21 検出器
22 検出器
23 真空隔壁下部品
24 真空隔壁上部品
25 シール材
26 真空排気系
27 主制御部
28 表示部
29 コンピュータ
100 走査電子顕微鏡
200 試料ホルダ
200A 試料ホルダ
200B1 試料ホルダ
200B2 試料ホルダ
200C 試料ホルダ
200D 試料ホルダ
200E 試料ホルダ
300 上側チップ
310 第1長辺
320 第1短辺
330 ウィンドウ部
340 誘導部
340A 溝
340A1 溝
340A2 溝
340B コーティング
350 隔膜
360 導体膜
400 下側チップ
410 第2長辺
420 第2短辺
430 ウィンドウ部
440 誘導部
450 隔膜
460 溝
500 液体試料
600 空間
700 バイアス電圧源
800 検出電極
900 信号検出部
1000 試料ホルダ
1100 上側チップ
1200 下側チップ
1300 隔膜
1400 隔膜
2010 第1対向部
2020 第2対向部