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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】試料ホルダおよび解析システム
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/20 20060101AFI20240902BHJP
【FI】
H01J37/20 A
H01J37/20 C
H01J37/20 D
H01J37/20 G
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2023522004
(86)(22)【出願日】2021-05-17
(86)【国際出願番号】 JP2021018607
(87)【国際公開番号】W WO2022244055
(87)【国際公開日】2022-11-24
【審査請求日】2023-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅倉 浩之
(72)【発明者】
【氏名】菊池 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】矢口 紀恵
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-090973(JP,A)
【文献】特開2014-089936(JP,A)
【文献】特開2015-018645(JP,A)
【文献】特開2016-100119(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子線装置で用いられる試料ホルダであって、
第1方向に延在するホルダ軸と、
前記ホルダ軸の先端に設けられ、且つ、試料を載置可能な載置部と、
前記第1方向に前記ホルダ軸を移動させるための移動機構と、
前記第1方向と垂直な断面視における前記ホルダ軸の中心を回転軸とした第1回転方向に、前記ホルダ軸を回転させるための回転機構と、
前記第1方向と交差する第2方向に突出するように、前記ホルダ軸に固定され、且つ、その位置が前記ホルダ軸の回転および移動に応じて変更される突出部と、
前記第1回転方向において前記ホルダ軸の外周を囲み、且つ、その位置が前記ホルダ軸の回転および移動に応じて変更されないガイド部と、
前記突出部の位置を検出するためのセンサと、
を備え、
前記ガイド部には、第1貫通孔、および、前記第1貫通孔に連通する第2貫通孔が設けられ、
前記第1回転方向における前記第1貫通孔の幅は、前記第1回転方向における前記第2貫通孔の幅よりも大きく、
前記突出部は、前記第1貫通孔の内部および前記第2貫通孔の内部を移動可能であり、
前記センサによって検出された前記突出部の位置から、前記ホルダ軸の回転状態を算出できる、試料ホルダ。
【請求項2】
請求項1に記載の試料ホルダにおいて、
前記回転機構によって前記ホルダ軸が回転する際に、前記突出部は、前記第1貫通孔の内部を前記第1回転方向に沿って移動し、
前記移動機構によって前記ホルダ軸が移動する際に、前記突出部は、前記第2貫通孔の内部を前記第1方向に沿って移動する、試料ホルダ。
【請求項3】
請求項2に記載の試料ホルダにおいて、
前記第1貫通孔の内部において、前記突出部が前記第1貫通孔と前記第2貫通孔との連通箇所に位置している場合、前記突出部は、前記移動機構による前記ホルダ軸の移動と共に、前記第2貫通孔の内部を前記第1方向に沿って移動できる、試料ホルダ。
【請求項4】
請求項3に記載の試料ホルダにおいて、
前記第1方向と交差する第3方向に延在し、且つ、前記載置部に固定された回転軸部材を更に備え、
前記載置部は、前記試料を載置するための第1面を有し、且つ、前記第3方向と垂直な断面視における前記回転軸部材の中心を回転軸とした第2回転方向に回転可能であり、
前記突出部が前記第2貫通孔の内部を前記第1方向に沿って移動する際に、前記第1面が、前記第1方向および前記第3方向によって構成される面と平行になっている、試料ホルダ。
【請求項5】
請求項1に記載の前記試料ホルダと、試料作製装置と、試料観察装置とを含む解析システムであって、
前記試料ホルダは、その内部に前記載置部を格納可能な格納部を更に備え、
前記試料作製装置は、第1試料室と、イオンビームを照射可能なイオン源と、試料作製手段とを備え、
前記試料観察装置は、第2試料室と、電子ビームを照射可能な電子源と、試料観察手段とを備え、
前記試料作製手段は、
(a)前記ホルダ軸を前記第1方向に移動し、前記載置部を前記格納部の外部に位置させた状態で、前記試料ホルダを前記第1試料室の内部に挿入するステップ、
(b)前記ステップ(a)の後、前記試料を前記載置部に載置するステップ、
(c)前記ステップ(b)の後、前記イオンビームを前記試料に対して照射し、前記試料の一部を加工するステップ、
(d)前記ステップ(c)の後、前記ホルダ軸を前記第1方向に移動し、前記載置部を前記格納部の内部に格納するステップ、
(e)前記ステップ(d)の後、前記試料ホルダを前記第1試料室の外部に取り出すステップ、
を有し、
前記試料観察手段は、
(f)前記試料作製装置において加工された前記試料が前記載置部に載置され、且つ、前記載置部が前記格納部の内部に格納された状態で、前記試料ホルダを前記第2試料室の内部に挿入するステップ、
(g)前記ステップ(f)の後、前記ホルダ軸を前記第1方向に移動し、前記載置部を前記格納部の外部へ移動するステップ、
(h)前記ステップ(g)の後、前記電子ビームを前記試料に対して照射し、前記試料の観察を行うステップ、
を有する、解析システム。
【請求項6】
荷電粒子線装置で用いられる試料ホルダであって、
第1方向に延在するホルダ軸と、
前記ホルダ軸の先端に設けられ、且つ、試料を載置するための第1面を有する載置部と、
前記第1方向に前記ホルダ軸を移動させるための移動機構と、
前記第1方向と垂直な断面視における前記ホルダ軸の中心を回転軸とした第1回転方向に、前記ホルダ軸を回転させるための回転機構と、
前記第1方向と交差する第3方向に延在し、且つ、前記載置部に固定された回転軸部材と、
を備え、
前記載置部は、伝達部材を介して前記ホルダ軸の先端に設けられ、
前記ホルダ軸の先端には、前記載置部を前記伝達部材に押し当てるように、弾性部材が設けられ、
前記伝達部材は、前記ホルダ軸の先端に固定された接続部、および、前記接続部から前記載置部へ向かって前記第1方向に延在し、且つ、前記第1面に接触する伝達部を有し、
前記第1方向と垂直な断面視において、前記伝達部の中心は、前記ホルダ軸の中心からずれており、
前記載置部は、前記第3方向と垂直な断面視における前記回転軸部材の中心を回転軸とした第2回転方向に回転可能である、試料ホルダ。
【請求項7】
請求項に記載の試料ホルダにおいて、
前記回転機構によって前記ホルダ軸が回転する際に、前記第1面と前記伝達部との接触位置が前記第1回転方向に沿って変化することで、前記載置部が、前記第2回転方向に回転する、試料ホルダ。
【請求項8】
請求項に記載の試料ホルダにおいて、
前記載置部のうち前記第1面と反対側の第2面には、前記第2面側から前記第1面側へ向かって凹形状を成す第1溝が設けられ、
前記弾性部材は、前記第1溝の内部において、前記載置部を前記伝達部材に押し当てている、試料ホルダ。
【請求項9】
請求項に記載の試料ホルダにおいて、
前記試料を搭載可能なメッシュを前記載置部に載置するためのメッシュ押さえを更に備え、
前記メッシュ押さえは、平板形状の挟込部、および、前記挟込部と一体化され、且つ、釣針形状を成す装着部を有し、
前記第2面のうち前記第1方向で前記第1溝から離れた位置には、前記第1溝に近づくに連れて、その深さが断続的に深くなる第2溝が設けられ、
前記メッシュを前記載置部に載置する場合、前記装着部を前記第2溝に嵌め合わせながら、前記第1面と前記挟込部との間に前記メッシュを挿入できる、試料ホルダ。
【請求項10】
請求項に記載の前記試料ホルダと、試料作製装置と、試料観察装置とを含む解析システムであって、
前記試料ホルダは、その内部に前記載置部を格納可能な格納部を更に備え、
前記試料作製装置は、第1試料室と、イオンビームを照射可能なイオン源と、試料作製手段とを備え、
前記試料観察装置は、第2試料室と、電子ビームを照射可能な電子源と、試料観察手段とを備え、
前記試料作製手段は、
(a)前記ホルダ軸を前記第1方向に移動し、前記載置部を前記格納部の外部に位置させた状態で、前記試料ホルダを前記第1試料室の内部に挿入するステップ、
(b)前記ステップ(a)の後、前記試料を前記載置部に載置するステップ、
(c)前記ステップ(b)の後、前記イオンビームを前記試料に対して照射し、前記試料の一部を加工するステップ、
(d)前記ステップ(c)の後、前記ホルダ軸を前記第1方向に移動し、前記載置部を前記格納部の内部に格納するステップ、
(e)前記ステップ(d)の後、前記試料ホルダを前記第1試料室の外部に取り出すステップ、
を有し、
前記試料観察手段は、
(f)前記試料作製装置において加工された前記試料が前記載置部に載置され、且つ、前記載置部が前記格納部の内部に格納された状態で、前記試料ホルダを前記第2試料室の内部に挿入するステップ、
(g)前記ステップ(f)の後、前記ホルダ軸を前記第1方向に移動し、前記載置部を前記格納部の外部へ移動するステップ、
(h)前記ステップ(g)の後、前記電子ビームを前記試料に対して照射し、前記試料の観察を行うステップ、
を有する、解析システム。
【請求項11】
荷電粒子線装置で用いられる試料ホルダであって、
第1方向に延在するホルダ軸と、
前記ホルダ軸の先端に設けられ、且つ、試料を載置可能な載置部と、
開口部を有し、且つ、その内部に前記載置部を格納可能な格納部と、
前記第1方向に前記ホルダ軸を移動させるための移動機構と、
前記第1方向と垂直な断面視における前記ホルダ軸の中心を回転軸とした第1回転方向に、前記ホルダ軸を回転させるための回転機構と、
前記第1方向に延在し、且つ、前記移動機構による前記ホルダ軸の移動に連動して、前記第1方向に移動可能な支持部と、
前記第1方向と交差する第3方向に延在し、且つ、前記載置部に固定された回転軸部材と、
を備え、
前記支持部は、前記第3方向で前記ホルダ軸および前記載置部に隣接し、
前記支持部の先端には、ハッチカバーが設けられ、
前記ホルダ軸および前記支持部が前記第1方向に移動し、前記載置部が前記格納部の内部に格納された格納状態では、前記開口部は、前記ハッチカバーによって塞がれ、
前記第1方向と垂直な断面視において、前記開口部および前記ハッチカバーの各々は、前記第3方向を長軸とした長円形状または楕円形状を成し
前記載置部は、前記試料を載置するための第1面を有し、且つ、前記第3方向と垂直な断面視における前記回転軸部材の中心を回転軸とした第2回転方向に回転可能であり、
前記格納状態では、前記第1面が、前記第1方向および前記第3方向によって構成される面と平行になっている、試料ホルダ。
【請求項12】
請求項11に記載の試料ホルダにおいて、
前記格納部のうち前記開口部には、封止部材が設けられ、
前記格納状態では、前記ハッチカバーが前記封止部材に密着することで、前記格納部の内部が密閉される、試料ホルダ。
【請求項13】
請求項11に記載の前記試料ホルダと、試料作製装置と、試料観察装置とを含む解析システムであって、
前記試料作製装置は、第1試料室と、イオンビームを照射可能なイオン源と、試料作製手段とを備え、
前記試料観察装置は、第2試料室と、電子ビームを照射可能な電子源と、試料観察手段とを備え、
前記試料作製手段は、
(a)前記ホルダ軸および前記支持部を前記第1方向に移動することで、前記載置部を前記格納部の外部に位置させた状態で、前記試料ホルダを前記第1試料室の内部に挿入するステップ、
(b)前記ステップ(a)の後、前記試料を前記載置部に載置するステップ、
(c)前記ステップ(b)の後、前記イオンビームを前記試料に対して照射し、前記試料の一部を加工するステップ、
(d)前記ステップ(c)の後、前記ホルダ軸および前記支持部を前記第1方向に移動し、前記載置部を前記格納部の内部に格納するステップ、
(e)前記ステップ(d)の後、前記試料ホルダを前記第1試料室の外部に取り出すステップ、
を有し、
前記試料観察手段は、
(f)前記試料作製装置において加工された前記試料が前記載置部に載置され、且つ、前記載置部が前記格納部の内部に格納された状態で、前記試料ホルダを前記第2試料室の内部に挿入するステップ、
(g)前記ステップ(f)の後、前記ホルダ軸および前記支持部を前記第1方向に移動し、前記載置部を前記格納部の外部へ移動するステップ、
(h)前記ステップ(g)の後、前記電子ビームを前記試料に対して照射し、前記試料の観察を行うステップ、
を有する、解析システム。
【請求項14】
荷電粒子線装置で用いられる試料ホルダであって、
第1方向に延在するホルダ軸と、
前記ホルダ軸の先端に設けられ、且つ、試料を載置可能な載置部と、
前記第1方向に前記ホルダ軸を移動させるための移動機構と、
前記第1方向と垂直な断面視における前記ホルダ軸の中心を回転軸とした第1回転方向に、前記ホルダ軸を回転させるための回転機構と、
前記ホルダ軸と離間した位置に設けられ、前記第1方向と交差する第2方向に延在し、且つ、その位置が前記ホルダ軸の回転および移動に応じて変更されない突出部と、
を備え、
前記ホルダ軸には、第1凹部、および、前記第1凹部に連通する第2凹部が設けられ、
前記第1回転方向における前記第1凹部の幅は、前記第1回転方向における前記第2凹部の幅よりも大きく、
前記ホルダ軸は、前記突出部が前記第1凹部の内部に嵌め込まれた状態で、前記第1回転方向に沿って回転でき、
前記ホルダ軸は、前記突出部が前記第2凹部の内部に嵌め込まれた状態で、前記第1方向に沿って移動できる、試料ホルダ。
【請求項15】
請求項14に記載の試料ホルダにおいて、
前記第1方向と交差する第3方向に延在し、且つ、前記載置部に固定された回転軸部材を更に備え、
前記載置部は、前記試料を載置するための第1面を有し、且つ、前記第3方向と垂直な断面視における前記回転軸部材の中心を回転軸とした第2回転方向に回転可能であり、
前記ホルダ軸が前記第1方向に沿って移動する際に、前記第1面が、前記第1方向および前記第3方向によって構成される面と平行になっている、試料ホルダ。
【請求項16】
請求項14に記載の試料ホルダにおいて、
前記第1凹部と前記第2凹部との連通箇所を検出するためのセンサを更に備え、
前記センサによって検出された前記連通箇所の位置から、前記ホルダ軸の回転状態を算出できる、試料ホルダ。
【請求項17】
請求項14に記載の前記試料ホルダと、試料作製装置と、試料観察装置とを含む解析システムであって、
前記試料ホルダは、その内部に前記載置部を格納可能な格納部を更に備え、
前記試料作製装置は、第1試料室と、イオンビームを照射可能なイオン源と、試料作製手段とを備え、
前記試料観察装置は、第2試料室と、電子ビームを照射可能な電子源と、試料観察手段とを備え、
前記試料作製手段は、
(a)前記ホルダ軸を前記第1方向に移動し、前記載置部を前記格納部の外部に位置させた状態で、前記試料ホルダを前記第1試料室の内部に挿入するステップ、
(b)前記ステップ(a)の後、前記試料を前記載置部に載置するステップ、
(c)前記ステップ(b)の後、前記イオンビームを前記試料に対して照射し、前記試料の一部を加工するステップ、
(d)前記ステップ(c)の後、前記ホルダ軸を前記第1方向に移動し、前記載置部を前記格納部の内部に格納するステップ、
(e)前記ステップ(d)の後、前記試料ホルダを前記第1試料室の外部に取り出すステップ、
を有し、
前記試料観察手段は、
(f)前記試料作製装置において加工された前記試料が前記載置部に載置され、且つ、前記載置部が前記格納部の内部に格納された状態で、前記試料ホルダを前記第2試料室の内部に挿入するステップ、
(g)前記ステップ(f)の後、前記ホルダ軸を前記第1方向に移動し、前記載置部を前記格納部の外部へ移動するステップ、
(h)前記ステップ(g)の後、前記電子ビームを前記試料に対して照射し、前記試料の観察を行うステップ、
を有する、解析システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料ホルダおよび解析システムに関し、特に、ホルダ軸の先端に試料を載置可能な載置部を備えた試料ホルダ、および、その試料ホルダを含む解析システムに関する。
【背景技術】
【0002】
材料開発の分野では、試料の結晶構造の観察に対する重要性が増している。近年では、特に環境エネルギー材料である有機EL素子またはリチウムイオン電池の分野において、大気成分との反応を避けながら、試料の結晶構造を観察する要求が高まっている。例えば、集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)装置またはFIB-SEM(Focused Ion Beam - Scanning Electron Microscope)装置のような試料作製装置によって、結晶構造の観察用の試料が作製され、透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)のような試料観察装置を用いて、試料の観察が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、FIB加工による試料の作製と、TEMによる試料の観察とを、試料の付け替えを行うこと無く、単一の試料ホルダで実現する機能が開示されている。特許文献1では、ホルダ軸の回転を歯車機構によって伝達することで、ホルダ軸の延在方向に対して垂直な任意の回転軸(Azimuth軸)を中心として、試料を360度回転させることができる。
【0004】
また、特許文献2では、支持棒をスライドさせる機構によって、支持棒の先端を試料ホルダの内部に格納することで、試料台の近傍に気密室を形成する技術が開示されている。これによれば、FIB加工とTEM観察とを、試料の付け替えを行うこと無く、且つ、試料を大気曝露すること無く、単一の試料ホルダで実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4654216号公報
【文献】特許第5517559号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1および2では、試料が針形状である場合が想定されているが、FIB加工およびTEM観察において通常使用される、直径3mmのメッシュまたはハーフメッシュを試料ホルダに載置することは想定されていない。そのため、特殊な形状を持つ試料の準備、トモグラフィーなどの特殊用途、または特定のメッシュの使用を前提とする。このとき、単一の試料ホルダに、通常サイズのメッシュを含む大きな試料を載置しようとすると、TEM観察において、試料ホルダの先端が挿入されるポールピースギャップの狭さが問題となる。
【0007】
特許文献2では、円筒形状の格納部を有しているが、試料ホルダに直径3mmのメッシュを載置しようとしても、格納部の直径が少なくとも3mmを超える。それ故、TEM観察において、例えば3mm以下であるポールピースギャップに、試料ホルダを挿入できないという問題が発生する。
【0008】
ポールピースギャップの距離は磁場レンズおよび光学の設計により決定される。収差補正技術の向上により、ポールピースギャップ距離の短縮化は緩和されつつあるものの、今後のTEMの性能向上に伴って、ポールピースギャップ距離の短縮化は避けられない。そのため、試料ホルダに大きな試料を載置し、且つ、用途に合わせた動作を行えるかという問題は今後も発生し得る。
【0009】
したがって、メッシュを含む大きな試料を載置でき、且つ、FIB加工からTEM観察までを単一で実施できる試料ホルダを実現するためには、試料を載置する箇所が、ポールピースギャップ方向、すなわち光軸に沿った方向において、薄い平板形状である必要がある。同様に、試料載置部の周囲を構成する部材も、光軸に沿った方向において薄い平板形状である必要がある。
【0010】
また、通常使用される試料ホルダは、ホルダ軸の延在方向を回転軸(Tilt軸)とした回転方向(Tilt回転方向)と、ホルダ軸に交差する方向を回転軸(Azimuth軸)とした回転方向(Azimuth回転方向)の2方向に回転できる。
【0011】
特許文献2では、試料のAzimuth回転方向に回転した状態(試料の傾斜状態)が、どのような状態であるかに拠らず、試料の格納動作が行える。特許文献2においては、針形状の試料を含めた構成部材が円筒の内側に全て納まっており、ある特定の回転状態において試料の一部が円筒の外側に出るということはない。すなわち、任意の回転状態において試料を格納部に格納することが可能であった。
【0012】
ここで、FIB加工およびTEM観察において、より普遍的に使用できる試料ホルダを想定すると、特殊な試料形状または特殊用途のメッシュを使用することなく、直径3mmのメッシュを載置できる試料ホルダが望ましい。このとき、平板形状の試料載置部がAzimuth回転方向に傾斜したまま格納動作を行おうとすると、載置部が格納部と干渉する状況が生じてしまう。従って、載置部がAzimuth回転方向に回転できる(載置部が傾斜できる)構造を備え、且つ、試料の格納動作時には、載置部が格納部と干渉しないような工夫が必要となる。
【0013】
本願の主な目的は、FIB装置またはFIB-SEM装置のような試料作製装置と、TEMのような試料観察装置とで共用できるような、汎用性の高い試料ホルダを提供することにある。そのために、大きな試料または試料を搭載したメッシュを載置可能な平板形状の載置部が、Tilt回転方向およびAzimuth回転方向に回転できる技術を提供する。また、載置部が格納部と干渉しないように、載置部を格納部の内部に格納できる技術を提供する。また、格納部の内部の気密性を保つことで、試料を大気暴露すること無く、試料作製装置および試料観察装置で利用できる技術を提供する。
【0014】
その他の課題および新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願において開示される実施の形態のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0016】
一実施の形態における試料ホルダは、荷電粒子線装置で用いられる。また、試料ホルダは、第1方向に延在するホルダ軸と、前記ホルダ軸の先端に設けられ、且つ、試料を載置可能な載置部と、前記第1方向に前記ホルダ軸を移動させるための移動機構と、前記第1方向と垂直な断面視における前記ホルダ軸の中心を回転軸とした第1回転方向に、前記ホルダ軸を回転させるための回転機構と、前記第1方向と交差する第2方向に突出するように、前記ホルダ軸に固定され、且つ、その位置が前記ホルダ軸の回転および移動に応じて変更される突出部と、前記第1回転方向において前記ホルダ軸の外周を囲み、且つ、その位置が前記ホルダ軸の回転および移動に応じて変更されないガイド部と、を備える。ここで、前記ガイド部には、第1貫通孔、および、前記第1貫通孔に連通する第2貫通孔が設けられ、前記第1回転方向における前記第1貫通孔の幅は、前記第1回転方向における前記第2貫通孔の幅よりも大きく、前記突出部は、前記第1貫通孔の内部および前記第2貫通孔の内部を移動可能である。
【0017】
一実施の形態における試料ホルダは、荷電粒子線装置で用いられる。また、試料ホルダは、第1方向に延在するホルダ軸と、前記ホルダ軸の先端に設けられ、且つ、試料を載置するための第1面を有する載置部と、前記第1方向に前記ホルダ軸を移動させるための移動機構と、前記第1方向と垂直な断面視における前記ホルダ軸の中心を回転軸とした第1回転方向に、前記ホルダ軸を回転させるための回転機構と、前記第1方向と交差する第3方向に延在し、且つ、前記載置部に固定された回転軸部材と、を備える。ここで、前記載置部は、伝達部材を介して前記ホルダ軸の先端に設けられ、前記ホルダ軸の先端には、前記載置部を前記伝達部材に押し当てるように、弾性部材が設けられ、前記伝達部材は、前記ホルダ軸の先端に固定された接続部、および、前記接続部から前記載置部へ向かって前記第1方向に延在し、且つ、前記第1面に接触する伝達部を有し、前記第1方向と垂直な断面視において、前記伝達部の中心は、前記ホルダ軸の中心からずれており、前記載置部は、前記第3方向と垂直な断面視における前記回転軸部材の中心を回転軸とした第2回転方向に回転可能である。
【0018】
一実施の形態における試料ホルダは、荷電粒子線装置で用いられる。また、試料ホルダは、第1方向に延在するホルダ軸と、前記ホルダ軸の先端に設けられ、且つ、試料を載置可能な載置部と、開口部を有し、且つ、その内部に前記載置部を格納可能な格納部と、前記第1方向に前記ホルダ軸を移動させるための移動機構と、前記第1方向と垂直な断面視における前記ホルダ軸の中心を回転軸とした第1回転方向に、前記ホルダ軸を回転させるための回転機構と、前記第1方向に延在し、且つ、前記移動機構による前記ホルダ軸の移動に連動して、前記第1方向に移動可能な支持部と、を備える。ここで、前記支持部は、前記第1方向と交差する第3方向で前記ホルダ軸および前記載置部に隣接し、前記支持部の先端には、ハッチカバーが設けられ、前記ホルダ軸および前記支持部が前記第1方向に移動し、前記載置部が前記格納部の内部に格納された格納状態では、前記開口部は、前記ハッチカバーによって塞がれ、前記第1方向と垂直な断面視において、前記開口部および前記ハッチカバーの各々は、前記第3方向を長軸とした長円形状または楕円形状を成している。
【発明の効果】
【0019】
一実施の形態によれば、汎用性の高い試料ホルダを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施の形態1における試料ホルダ、格納システムおよび解析システムを示す模式図である。
図2】実施の形態1における試料ホルダの開放状態を示す断面図である。
図3】実施の形態1における試料ホルダの開放状態を示す平面図である。
図4】実施の形態1における試料ホルダの格納状態を示す断面図である。
図5A】実施の形態1におけるガイド部および突出部を示す側面図および断面図である。
図5B】実施の形態1におけるガイド部および突出部を示す側面図および断面図である。
図5C】実施の形態1におけるガイド部および突出部を示す側面図および断面図である。
図6】実施の形態1における開放状態と格納状態との切り替えを示すフローチャートである。
図7】実施の形態1における載置部を示す斜視図である。
図8】実施の形態1における載置部を示す斜視図である。
図9】実施の形態1における載置部を示す断面図である。
図10】実施の形態1におけるメッシュ押さえを示す断面図である。
図11】実施の形態1における載置部、メッシュおよびメッシュ押さえを示す斜視図である。
図12】実施の形態1における載置部、メッシュおよびメッシュ押さえを示す断面図である。
図13A】実施の形態1における試料ホルダを示す平面図および断面図である。
図13B】実施の形態1における試料ホルダを示す平面図および断面図である。
図13C】実施の形態1における試料ホルダを示す平面図および断面図である。
図14】実施の形態1における試料作製装置を示す模式図である。
図15】実施の形態1における試料観察装置を示す模式図である。
図16】実施の形態1における試料にイオンビームが照射される様子を示す断面図である。
図17】実施の形態1における試料に電子ビームが照射される様子を示す断面図である。
図18】実施の形態1における試料作製手段および試料観察手段を示すフローチャートである。
図19】変形例における試料ホルダ、格納システムおよび解析システムを示す模式図である。
図20】変形例における格納状態から開放状態への切り替えを示すフローチャートである。
図21】変形例における開放状態から格納状態への切り替えを示すフローチャートである。
図22A】実施の形態2におけるホルダ軸および突出部を示す側面図および断面図である。
図22B】実施の形態2におけるホルダ軸および突出部を示す側面図および断面図である。
図22C】実施の形態2におけるホルダ軸および突出部を示す側面図および断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なとき以外は同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0022】
また、本願において説明されるX方向、Y方向およびZ方向は、試料ホルダの各構成の向きを説明するために使用され、互いに交差し、互いに直交している。また、以下では、X方向およびY方向によって構成される面をZ方向から見ることを、平面視として説明する場合もある。
【0023】
(実施の形態1)
<試料ホルダ100について>
以下に図1図4を用いて、実施の形態1における試料ホルダ100の概要について説明する。図1は、試料ホルダ100、試料ホルダ100を用いた格納システム200、および、格納システム200を含む解析システム300を示す模式図である。
【0024】
試料ホルダ100は、荷電粒子線装置に用いられ、格納部1と、ホルダ軸2と、載置部3と、移動機構4と、回転機構5と、突出部6と、ガイド部7とを備える。格納部1は、ホルダ軸2を移動した際に、その内部に載置部3を格納可能である。また、移動機構4、回転機構5、突出部6およびガイド部7は、格納部1の内部に設けられている。
【0025】
ホルダ軸2は、第1方向(X方向)に延在し、移動機構4および回転機構5に接続されている。ホルダ軸2の先端には、試料SAMを載置可能な載置部3が設けられている。移動機構4は、X方向にホルダ軸2を移動させるための機構であり、回転機構5は、第1回転方向にホルダ軸2を回転させるための機構である。なお、第1回転方向とは、ホルダ軸2の延在方向(X方向)と垂直な断面視におけるホルダ軸2の中心を回転軸とした回転方向である。突出部6およびガイド部7の詳細については、後で図5A図5Cを用いて説明する。
【0026】
制御部C1は、移動機構4および回転機構5に電気的に接続され、これらの動作を制御する。すなわち、制御部C1によって、ホルダ軸2のX方向への移動と、ホルダ軸2の第1回転方向への回転とが制御される。なお、制御部C1を用いずに、オペレータが、移動機構4または回転機構5を直接操作し、ホルダ軸2の移動および回転を行うこともできる。
【0027】
格納システム200は、試料ホルダ100および制御部C1を含み、試料作製装置400および試料観察装置500に適用可能である。例えば、制御部C1を、試料作製装置400の一部の制御部、または、試料観察装置500の一部の制御部として構成することもできる。解析システム300は、格納システム200(試料ホルダ100)、試料作製装置400および試料観察装置500を含み、単一の試料ホルダ100を用いて、試料SAMの加工から試料SAMの観察までを行える。
【0028】
図2図4は、試料ホルダ100のうち載置部3の周囲を拡大して示している。図2および図3は、ホルダ軸2がX方向に移動し、載置部3が格納部1の外部に位置している状態である開放状態を示している。図4は、ホルダ軸2がX方向に移動し、載置部3が格納部1の内部に格納された状態である格納状態を示している。以降の説明で、「開放状態」または「格納状態」と表現した場合、それらは、載置部3が上述のような状態にあることを意味する。
【0029】
試料ホルダ100は、第1方向(X方向)に延在する支持部8を更に備える。支持部8は、移動機構4によるホルダ軸2の移動に連動して、X方向に移動可能である。また、支持部8は、第1方向(X方向)と交差する第3方向(Z方向)でホルダ軸2および載置部3に隣接している。また、支持部8は、試料作製装置400での加工時に、イオンビーム照射を阻害しないようにするために、片側が開放された構造になっている。図2の場合、支持部8は、ホルダ軸2および載置部3の下方に存在するが、ホルダ軸2および載置部3の上方に存在していない。
【0030】
また、試料ホルダ100は、第3方向(Z方向)に延在し、且つ、載置部3に固定された回転軸部材9を更に備える。回転軸部材9は、回転軸部材9が第2回転方向に回転できる程度に、支持部8に設けられた孔の内部に嵌め込まれている。すなわち、載置部3は、回転軸部材9によって支持部8に取り付けられている。なお、回転軸部材9の支持部8への取り付けは、特に限定されず、例えば載置部3と反対側の支持部8にネジ止めによって固定する方法でもよい。
【0031】
なお、第2回転方向とは、回転軸部材9の延在方向(Z方向)と垂直な断面視における回転軸部材9の中心を回転軸とした回転方向である。回転軸部材9に固定されている載置部3は、回転軸部材9の回転に応じて第2回転方向に回転できる。
【0032】
支持部8の先端には、ハッチカバー10が設けられている。ハッチカバー10は、格納部1の開口部14と、ほぼ同じサイズで形成されている。図4に示されるように、格納状態では、開口部14は、ハッチカバー10によって塞がれる。また、格納部1のうち開口部14には、例えばOリングのような封止部材15が設けられている。格納状態では、ハッチカバー10が封止部材15に密着することで、格納部1の内部が密閉される。これにより、格納部1の内部の真空度が保たれる。
【0033】
図2および図3に示されるように、載置部3は、伝達部材(カム)12を介してホルダ軸2の先端に設けられている。また、ホルダ軸2の先端には、載置部3を伝達部材12に押し当てるように、例えばバネのような弾性部材13が設けられている。また、伝達部材12は、接続部12aおよび伝達部12bを有する。接続部12aは、ホルダ軸2の先端に固定されている。伝達部12bは、接続部12aから載置部3へ向かってX方向に延在し、且つ、載置部3に接触する。
【0034】
このような伝達部材12、弾性部材13および回転軸部材9によって、載置部3を第2回転方向に回転させることができるが、これらの詳細については、後で図13A図13Cを用いて説明する。
【0035】
<突出部6およびガイド部7について>
図5A図5Cは、突出部6およびガイド部7の側面図と、側面図のA-A線に沿った断面図とを示している。
【0036】
図5A図5Cに示されるように、突出部6は、第1方向(X方向)と交差する第2方向に突出するように、ホルダ軸2に固定されている。第2方向は、ホルダ軸2の延在方向と交差する方向であればよく、Y方向またはZ方向であってもよいし、これらと異なる方向であってもよい。突出部6は、回転機構5によってホルダ軸2が回転すると回転し、移動機構4によってホルダ軸2が移動すると移動する。すなわち、突出部6の位置は、ホルダ軸2の回転および移動に応じて変更される。
【0037】
ガイド部7は、第1回転方向においてホルダ軸2の外周を囲み、ホルダ軸2と離間している。ガイド部7はホルダ軸2の動作に影響を受けないので、ガイド部7の位置は、ホルダ軸2の回転および移動に応じて変更されない。
【0038】
また、ガイド部7には、貫通孔7a、および、貫通孔7aに連通する貫通孔7bが設けられている。第1回転方向における貫通孔7aの幅は、第1回転方向における貫通孔7bの幅よりも大きくなっている。そして、突出部6は、貫通孔7aの内部および貫通孔7bの内部を移動可能である。
【0039】
図5Aは、開放状態における突出部6の様子を示している。回転機構5によってホルダ軸2が回転する際に、突出部6は、貫通孔7aの内部を第1回転方向に沿って移動する。すなわち、開放状態では、第1回転方向における突出部6の移動が制限されないので、ホルダ軸2が、第1回転方向に回転できる。一方で、X方向における突出部6の移動は制限されるので、ホルダ軸2は、X方向に移動できない。
【0040】
図5Bは、開放状態と格納状態との切り替え時における突出部6の様子を示している。貫通孔7aの内部において、突出部6が貫通孔7aと貫通孔7bとの連通箇所に位置している場合、突出部6は、移動機構4によるホルダ軸2の移動と共に、貫通孔7bの内部をX方向に沿って移動できるようになる。すなわち、突出部6の回転状態が、突出部6が貫通孔7bの内部を移動できる状態である場合にのみ、開放状態と格納状態との切り替えを行うことができる。言い換えれば、移動機構4は、突出部6およびガイド部7の空間的干渉により、ホルダ軸2が特定の回転状態を満たしている場合にのみ駆動できる。
【0041】
図5Cは、格納状態における突出部6の様子を示している。移動機構4によってホルダ軸2が移動する際に、突出部6は、貫通孔7bの内部をX方向に沿って移動する。すなわち、格納状態では、X方向における突出部6の移動が制限されないので、ホルダ軸2が、X方向に移動できる。一方で、第1回転方向における突出部6の移動は制限されるので、ホルダ軸2は、第1回転方向に回転できない。なお、載置部3が完全に格納部1の内部に格納された後では、突出部6がガイド部7を通過しているので、ホルダ軸2を第1回転方向に回転させることもできる。
【0042】
図6に示されるステップS1~S3は、格納状態から開放状態へ切り替える場合のフローチャートであり、図6に示されるステップS4~S6は、開放状態から格納状態へ切り替える場合のフローチャートである。
【0043】
ステップS1では、ホルダ軸2の回転状態が特定の回転状態であるか否かを確認する。特定の回転状態以外の場合には、格納状態において回転機構5を駆動し、ホルダ軸2の回転状態が特定の回転状態になるように、ホルダ軸2を回転する。
【0044】
ステップS2では、ホルダ軸2の回転状態が特定の回転状態であると確認された場合、移動機構4を駆動し、ホルダ軸2をX方向に移動し、載置部3を格納部1の内部から外部へ移動する。この移動は、突出部6が貫通孔7aと貫通孔7bとの連通箇所に到達するまで行われる。すなわち、図5Cから図5Bへ移行する。
【0045】
ステップS3では、試料ホルダ100が開放状態になる。図5Bの状態から回転機構5を駆動することで、図5Aのように、ホルダ軸2を第1回転方向に回転できる。
【0046】
ステップS4では、開放状態において回転機構5を駆動し、ホルダ軸2の回転状態が特定の回転状態になるように、ホルダ軸2を回転する。これにより、突出部6が貫通孔7aと貫通孔7bとの連通箇所に移動する。すなわち、図5Aから図5Bへ移行する。
【0047】
ステップS5では、移動機構4を駆動し、ホルダ軸2をX方向に移動し、載置部3を格納部1の外部から内部へ移動する。すなわち、図5Bから図5Cへ移行する。
【0048】
ステップS6では、試料ホルダ100が格納状態となる。なお、ステップS1~S6において、移動機構4の駆動および回転機構5の駆動は、制御部C1によって行われてもよいし、オペレータによって行われてもよい。
【0049】
従来では、ホルダ軸2の回転状態を知るために、エンコーダの読取り値などから評価する方法が一般的に行われていた。それ故、評価値の校正が必要であった。
【0050】
これらの方法では、電気系のトラブルまたは校正ミスなどが生じた場合、ホルダ軸2の回転状態の把握が困難になる。
【0051】
実施の形態1では、突出部6およびガイド部7を用いることで、ホルダ軸2の回転状態が特定の回転状態である場合にのみ、ホルダ軸2のX方向への移動が可能となる。従って、開放状態と格納状態との切り替えを容易に行うことができる。
【0052】
<載置部3と、試料SAMの載置とについて>
図7図9は、載置部3の詳細な構造を示している。図9は、図7および図8のB-B線に沿った断面図である。
【0053】
載置部3は、Y方向における幅がX方向における幅およびZ方向における幅よりも小さい平板形状を成している。また、載置部3は、回転軸部材9の回転に応じて、第2回転方向に回転可能である。
【0054】
載置部3は、試料SAMを載置するための第1面(載置面)3aと、第1面3aと反対側の第2面3bとを有する。第2面3bには、第2面3b側から第1面3a側へ向かって凹形状を成す溝3cが設けられ、X方向で溝3cから離れた位置に溝3dが設けられている。溝3dは、第2面3bに対して一定の角度で傾斜し、溝3cに近づくに連れて、その深さが断続的に深くなるような形状を成している。言い換えれば、溝3dは、溝3cに近づくに連れて、第1面3aと第2面3bとの間の厚さが断続的に薄くなるような形状を成している。溝3cは、主に弾性部材13のガイドとして利用でき、溝3dは、主にメッシュ押さえ20の装着部22を装着する際に利用できる。
【0055】
図10は、メッシュ30を載置部3に載置するためのメッシュ押さえ20を示している。図11および図12は、試料SAMを搭載するメッシュ30を、メッシュ押さえ20を用いて載置部3に載置した様子を示している。なお、図12は、図11のB-B線に沿った断面図である。
【0056】
図10図12に示されるように、メッシュ押さえ20は、平板形状の挟込部21と、釣針形状を成す装着部22と、挟込部21から曲げられた着脱部23とを有する。なお、挟込部21、装着部22および着脱部23は、一体化した部材であり、弾性部材からなる。装着部22の釣針の先端は、第2面3bに対して一定の角度で傾斜するような構造となっており、溝3dと同程度の傾斜角度を成している。
【0057】
図11に示されるように、メッシュ30は、試料SAMを搭載可能であり、例えば直径3mm程度のハーフメッシュであり、1つ以上のマイクロピラー31を有している。試料SAMは、試料作製装置400などで作製され、デポジションによってマイクロピラー31に取り付けられている。
【0058】
メッシュ30を載置部3に載置する場合、釣針形状の装着部22を溝3dに嵌め合わせながら、第1面3aと挟込部21との間にメッシュ30を挿入できる。まず、装着部22の先端を溝3dに嵌め合わせることで、メッシュ押さえ20が載置部3に固定される。次に、オペレータが冶具または道具を用いて着脱部23を掴み、着脱部23を第1面3aから離れるように移動させると、第1面3aと挟込部21との間に隙間が発生する。次に、その隙間にメッシュ30を挿入する。その後、オペレータが着脱部23を第1面3aに近づけるように移動させる、または、オペレータが着脱部23を離すと、メッシュ30が挟込部21に押さえ付けられる。なお、メッシュ30を取り出す際にも、オペレータが着脱部23を掴み上げることで、第1面3aと挟込部21との間からメッシュ30を取り出せる。
【0059】
このようなメッシュ押さえ20によれば、ネジを使用せずメッシュ30を押さえる構造が実現できるので、メッシュ押さえ20および載置部3の各々の構造を小さくできる。また、オペレータが着脱部23を掴み上げる動作を行うだけで、メッシュ30の交換を迅速に短時間で行うことができる。
【0060】
<伝達部材12および弾性部材13について>
図13A図13Cを用いて、伝達部材12および弾性部材13の各々の役割と、載置部3の第2回転方向への回転動作とについて説明する。なお、図13Aの状態は、図5Bの状態に対応し、図13Bまたは図13Cの状態は、図5Aの状態に対応している。
【0061】
図2および図3で説明したように、ホルダ軸2の先端には、載置部3を伝達部材12に押し当てるように、弾性部材13が設けられている。また、伝達部材12は、ホルダ軸2の先端に固定された接続部12a、および、接続部12aから載置部3へ向かってX方向に延在する伝達部12bを有する。なお、X方向と垂直な断面視において、伝達部12bは、円形状を成している。
【0062】
図13Aに示されるように、伝達部12bは、載置部3の第1面3aに接触し、弾性部材13は、溝3cの内部において、載置部3を伝達部材12(伝達部12b)に押し当てている。溝3cが弾性部材13のガイドの役割を担うので、弾性部材13が載置部3から外れる恐れを防止できる。
【0063】
また、「C-C断面」に示されるように、第1方向(X方向)と垂直な断面視において、伝達部12bの中心は、ホルダ軸2の中心からずれている。それ故、ホルダ軸2が第1回転方向に回転すると、伝達部12bは、ホルダ軸2の中心を回転軸として、ホルダ軸2の周りを大きな軌道を描きながら第1回転方向に移動する。
【0064】
すなわち、図13Bおよび図13Cに示されるように、回転機構5によってホルダ軸2が回転する際に、第1面3aと伝達部12bとの接触位置が、第1回転方向に沿って変化する。このような伝達部12bの移動によって、載置部3は、伝達部12bに押され、回転軸部材9と共に第2回転方向に回転する。また、載置部3は、弾性部材13によって常に反力を与えられ、常に伝達部材12に押し当てられる。言い換えれば、載置部3は、上記反力によって伝達部12bの移動に追従する。
【0065】
このように、伝達部材12および弾性部材13によって、ホルダ軸2の第1回転方向への回転と、載置部3の第2回転方向への回転とを同期させることができる。また、これらを用いた構造は、原理的にバックラッシの無い回転動作であり、歯車構造を用いた回転機構よりも位置精度などの点で優れている。
【0066】
また、弾性部材13の実装には、載置部の第2面3b側のみが使用されるので、省スペースな回転機構が実現できる。ホルダ軸2以外の部材に弾性部材13を取り付けることも考えられる。例えば、支持部8に弾性部材13を取り付ける場合、ネジ等を取り付けるための部材の厚みが影響する。それ故、載置部3とその周囲の各部材とを薄肉化するためには、ホルダ軸2に弾性部材13を取り付けることが望ましい。
【0067】
なお、弾性部材13と伝達部12bとの位置関係によって、反力が変化するので、反力の変化を緩和する目的で、溝3cに溝3dのような傾斜を設けてもよい。また、伝達部12bの断面を円形状から楕円形状に変えてもよい。また、弾性部材13の形状を変えてもよい。
【0068】
ところで、第1方向(X方向)と垂直な断面視において、格納部1の開口部14と、ハッチカバー10とは、それぞれ第3方向(Z方向)を長軸とした長円形状または楕円形状を成している。試料ホルダ100では、Y方向の幅が相対的に薄い平板形状の載置部3を採用し、メッシュ押さえ20およびメッシュ30などを用いて、第1面3aに試料SAMを載置している。開口部14がZ方向を長軸とした長円形状などであることで、そのような平板形状に対応できる。
【0069】
そして、格納状態では、開口部14に設けられた封止部材15と、ハッチカバー10とが密着する。これにより、格納部1の内部の気密性を保つことができる。なお、封止部材15は、開口部14の形状に合わせて、長円形状または楕円形状のOリングなどによって構成されている。
【0070】
ここで、図13Bおよび図13Cに示されるように、載置部3が回転した際に、Y方向において、載置部3が支持部8からはみ出し、格納部1の開口部14の内部に収まらなくなる場合がある。載置部3が回転したままの状態で、図4のような格納状態に移行すると、載置部3が格納部1と干渉してしまう。すなわち、図11のように、載置部3に試料SAMが載置されている場合、試料SAMが損傷する恐れがある。
【0071】
従って、格納状態に移行する際には、図5Bのように、ホルダ軸2を特定の回転状態にする。突出部6が貫通孔7bの内部をX方向に沿って移動する際に、図13Aのように、第1面3aが、X方向およびY方向によって構成される面と平行になる。それ故、載置部3が格納部1と干渉するという不具合を解消できる。
【0072】
一方で、開放状態では、図5Aのように、ホルダ軸2は第1回転方向に回転でき、図13Bおよび図13Cのように、載置部3は第2回転方向に回転できる。それ故、例えば試料作製装置400で試料SAMにイオンビームを照射する際、または、試料観察装置500で試料SAMに電子ビームを照射する際に、試料SAMを傾斜させることが可能となる。
【0073】
<試料作製装置400>
図14は、実施の形態1における試料作製装置400を示す模式図である。試料作製装置400は、例えばFIB装置のような荷電粒子線装置によって構成される。
【0074】
試料作製装置400は、試料室40、イオン源41、照射レンズ42、絞り43、走査電極44、対物レンズ45、二次電子検出器46、デポジション銃47、マイクロプローブ48およびコントローラC2を備える。試料ホルダ100は、試料室40の内部に挿入可能である。載置部3は、メッシュ30などを用いることで、加工された試料SAMを載置可能である。
【0075】
コントローラC2は、イオン源41、照射レンズ42、絞り43、走査電極44、対物レンズ45、二次電子検出器46、デポジション銃47およびマイクロプローブ48に電気的に接続され、これらの動作を制御する。また、コントローラC2は、試料観察装置500のコントローラC3にも電気的に接続され、コントローラC3と情報の通信を行える。
【0076】
試料ホルダ100の各動作を制御する制御部C1は、試料作製装置400の一部として、コントローラC2に電気的に接続されている。すなわち、格納システム200は、試料作製装置400に含まれている。試料ホルダ100は、制御部C1を介してコントローラC2から指示を与えられ、試料ホルダ100の各動作は、コントローラC2によって制御される。
【0077】
コントローラC2からの指示によって、載置部3を第2回転方向に回転できるので、載置部3に載置された試料SAMは、イオンビームIBの光軸上で傾斜角度を変えることが可能となる。従って、様々な角度から試料SAMの加工を行うことが可能である。
【0078】
入力デバイス70およびディスプレイ71は、試料作製装置400または試料観察装置500の各々の内部または外部に設けられている。入力デバイス70は、例えば、解析対象の情報の入力、イオンビームIBおよび電子ビームEB1の照射条件の変更などの指示を、オペレータが入力するためのデバイスである。入力デバイス70は、例えばキーボードまたはマウスなどである。ディスプレイ71は、試料作製装置400および試料観察装置500の各構成を制御するための画面である。入力デバイス70によって各種指示が入力された場合、上記指示がコントローラC2またはコントローラC3に送信される。
【0079】
イオン源41は、イオンビームIBを照射可能である。イオン源41から放出されたイオンビームIBは、照射レンズ42および絞り43により収束され、対物レンズ45を通過し、試料SAM上に収束する。対物レンズ45の上方に位置する走査電極44は、コントローラC2の指示により、試料SAMに入射するイオンビームIBを偏向し走査する。
【0080】
試料ホルダ100の上方において、試料室40には、二次電子検出器46、デポジション銃47およびマイクロプローブ48が取り付けられている。
【0081】
イオンビームIBが試料SAMに照射されると、試料SAMがスパッタされると共に、試料SAMから二次電子が発生する。発生した二次電子は、二次電子検出器46により検出される。二次電子検出器46は、二次電子を検出信号として演算処理し、画像化する回路または演算処理部を備える。
【0082】
デポジション銃47から試料SAMへ向かって方向放出されたガスは、イオンビームIBと反応し、分解される。そうすると、イオンビームIB照射領域において試料SAM上に、金属が膜として堆積する。この堆積膜は、加工前の試料SAMの表面の保護膜として用いられると共に、微小試料片の試料台への固定に用いられる。また、マイクロプローブ48を用いることで、加工された試料SAMを試料ホルダ100の載置部3へ搬送できる。
【0083】
<試料観察装置500>
図15は、実施の形態1における試料観察装置500を示す模式図である。試料観察装置500は、例えばTEMのような荷電粒子線装置によって構成される。
【0084】
試料観察装置500は、試料室50、電子源51、照射レンズ52、走査コイル53、ホルダアダプタ54、二次電子検出器55、対物レンズ56、投影レンズ57、円環状検出器58、検出器59、カメラ60およびコントローラC3を備える。試料ホルダ100は、ホルダアダプタ54を利用することで、試料室50の内部に挿入可能である。
【0085】
コントローラC3は、電子源51、照射レンズ52、走査コイル53、ホルダアダプタ54、二次電子検出器55、対物レンズ56、投影レンズ57、円環状検出器58、検出器59およびカメラ60に電気的に接続され、これらの動作を制御する。
【0086】
試料ホルダ100の各動作を制御する制御部C1は、試料観察装置500の一部として、コントローラC3に電気的に接続されている。すなわち、格納システム200は、試料観察装置500に含まれている。試料ホルダ100は、制御部C1を介してコントローラC3から指示を与えられ、試料ホルダ100の各動作は、コントローラC3によって制御される。
【0087】
コントローラC3からの指示によって、載置部3を第2回転方向に回転できるので、載置部3に載置された試料SAMは、電子ビームEB1の光軸上で傾斜角度を変えることが可能となる。従って、様々な角度から試料SAMの観察を行うことが可能である。
【0088】
電子源51は、電子ビームEB1を照射可能である。照射レンズ52と対物レンズ56の間には走査コイル53が設けられ、走査コイル53の下方に試料SAMが挿入される。試料SAMの上方であり、走査コイル53の下方には、二次電子検出器55が設けられている。二次電子検出器55は、二次電子を検出信号として演算処理し、画像化する回路または演算処理部を備える。
【0089】
電子源51から放出された電子ビームEB1は、照射レンズ52により試料SAM上でスポット収束され、走査コイル53によって試料SAM上を走査する。二次電子検出器55は、電子ビームEB1の照射によって試料SAMから発生する二次電子を検出し、二次電子像を生成できる。このような二次電子像は、ディスプレイ71で確認できる。
【0090】
投影レンズ57の下方には、STEM暗視野像観察用の円環状検出器58が配置されている。円環状検出器58の下方には、電子ビーム軸からの出し入れが可能な検出器59(STEM明視野像観察用の検出器)が備えられている。検出器59の下方には、透過像観察用のカメラ60が配置されている。
【0091】
照射レンズ52の条件を変えることによって、試料SAM上に、ある広がりを持った電子ビームEB1が照射され、試料SAMを透過した透過電子EB2は対物レンズ56によって結像され、その像は、投影レンズ57により拡大され、カメラ60に表示される。検出器59は、透過電子EB2を検出して、明視野透過電子像を生成できる。円環状検出器58は、電子ビームEB1の照射によって試料SAMから散乱した電子(弾性散乱電子)を検出して、暗視野透過電子像を生成できる。
【0092】
電子ビームEB1の光軸上で試料SAMの傾斜角度を変えることで、様々な角度から試料SAMの観察を行うことができ、二次電子像、走査透過像および透過電子像を観察することができる。また、これらは、画像データとしてコントローラC3に保存される。
【0093】
図16は、試料作製装置400において試料SAMにイオンビームIBが照射される様子を示し、図17は、試料観察装置500において試料SAMに電子ビームEB1が照射される様子を示している。図17では、試料SAMを透過させた透過電子EB2を用いるために、試料ホルダ100の向きを図16と垂直な方向にして、観察を行っている。
【0094】
<試料作製手段および試料観察手段>
以下に図18を用いて、試料作製装置400が備える試料作製手段と、試料観察装置500が備える試料観察手段とについて説明する。図18に示されるステップS11~S16が試料作製手段に対応し、図18に示されるステップS17~S19が試料観察手段に対応する。
【0095】
ステップS11では、試料SAMを試料作製装置400の試料室40の内部に準備する。試料SAMは、大気中において、大気成分と反応または劣化する物質でもよい。また、予め真空状態にされた空間に試料SAMを用意し、構造の劣化を防いでもよい。
【0096】
ステップS12では、開放状態で、試料ホルダ100を試料室40の内部に挿入する。試料ホルダ100を開放状態にする方法は、図6のステップS1~S3と同様である。なお、試料ホルダ100を試料作製装置400に挿入する前に開放状態にすると、格納部1の内部の気密状態が開放されるが、格納部1の内部の空気は、試料作製装置400の排気システムによって排気できる。
【0097】
ステップS13では、まず、試料室40の内部を高真空状態とする。イオンビームIBを試料SAMに対して照射し、試料SAMの一部を加工する。次に、デポジション銃47およびマイクロプローブ48使用して、試料SAMを載置部3に載置する。ここでは、メッシュ30を利用して、試料SAMを、載置部3に載置されたメッシュ30上のマイクロピラー31上に取り付ける。ここで、試料SAMをマイクロピラー31に取付ける代わりに、試料SAMをメッシュ30または載置部3に直接載置してもよい。
【0098】
ステップS14では、イオンビームIBを試料SAMに対して照射し、試料SAMの一部を更に加工する。この際、載置部3または試料ホルダ100の少なくとも一方を回転させることで、載置部3とイオンビームIBの角度を調節し、試料SAMを様々な方向から加工できる。
【0099】
ステップS15では、載置部3を格納部1の内部に格納する。試料ホルダ100を格納状態にする方法は、図6のステップS4~S6と同様である。格納状態では、ハッチカバー10と封止部材15とが接触し、格納部1が密閉されるので、格納部1の内部は、試料室40の内部と同様の高真空状態に保たれる。
【0100】
ステップS16では、試料ホルダ100を試料室40から取り出し、試料観察装置500へ搬送する。この際、試料ホルダ100は格納状態であるので、試料ホルダ100が大気中に取り出されても、格納部1の内部は高真空状態に保たれている。
【0101】
ステップS17では、試料ホルダ100を試料室50の内部に挿入する。この際、試料ホルダ100は、格納状態になっており、試料作製装置400において加工された試料SAMが載置部3に載置され、且つ、載置部3が格納部1の内部に格納された状態になっている。また、試料室50の内部は、予め高真空状態になっている。
【0102】
ステップS18では、ホルダ軸2をX方向に移動し、載置部3を格納部1の外部へ移動する。すなわち、試料ホルダ100を開放状態にする。試料ホルダ100を開放状態にする方法は、図6のステップS1~S3と同様である。
【0103】
ステップS19では、電子ビームEB1を試料SAMに対して照射し、試料SAMの観察を行う。これにより、二次電子像、走査透過像および透過電子像を観察することができ、これらの画像データを取得できる。
【0104】
従来では、大気下で劣化する試料に対しては、グローブボックス内において、目的に合わせた試料ホルダへの試料の搬送が必要であった。それ故、作業の煩雑さおよび低効率が問題であった。また、単一の試料ホルダによって上述の試料作製手段および試料観察手段を実施しようとする場合、試料SAMを載置する箇所が、ポールピースギャップ方向において薄い平板形状である必要がある。また、試料ホルダ100の開放状態と格納状態との切り替えにおいて、載置部3が格納部1と干渉する恐れを抑制する必要がある。
【0105】
実施の形態1の試料ホルダ100は、平板形状に対応でき、ホルダ軸2が特定の回転状態である場合のみ、開放状態と格納状態との切り替えを行うことができる。従って、試料作製手段および試料観察手段を効率良く、且つ、確実に実施することができる。このように、実施の形態1によれば、試料作製装置400と、試料観察装置500とで共用できるような、汎用性の高い試料ホルダ100を提供できる。
【0106】
(変形例)
以下に図19図21を用いて、実施の形態1の変形例について説明する。なお、以下では、実施の形態1との相違点を主に説明し、実施の形態1と重複する点については説明を省略する。
【0107】
図19に示されるように、変形例の試料ホルダ100および格納システム200は、図1と比較して、センサ11aおよび読み取り操作機構11bを更に備えている。センサ11aは、ホルダ軸2に取り付けられ、ガイド部7および突出部6の近傍に位置し、突出部6の位置を検出するために設けられている。すなわち、センサ11aは、第1回転方向における突出部6の位置の変更を検出できる。
【0108】
読み取り操作機構11bは、開放状態と格納状態との切り替えを自動的に行うための機構であり、例えばボタンである。制御部C1は、センサ11aおよび読み取り操作機構11bに電気的に接続され、センサ11aによって検出された突出部6の位置から、ホルダ軸2の回転状態を算出できる。
【0109】
オペレータが読み取り操作機構11bを駆動する(ボタンを押す)ことで、制御部C1は、センサ11aに指示を出し、センサ11aによって突出部6の位置を検出させる。次に、制御部C1は、突出部6の位置からホルダ軸2の回転状態を算出する。次に、制御部C1は、回転機構5に指示を出し、突出部6が貫通孔7bの内部を移動できる状態になるように(ホルダ軸2の回転状態が特定の回転状態になるように)、回転機構5によってホルダ軸2を回転させる。その後、制御部C1は、移動機構4へ指示を出し、移動機構4によってホルダ軸2をX方向へ移動させる。このように、開放状態と格納状態との切り替えを自動的に行うことができる。
【0110】
なお、ガイド部7はホルダ軸2の回転に影響されないので、突出部6が貫通孔7bの内部を移動できる位置は、予め分かっている。すなわち、突出部6の位置をどの位置にすれば、ホルダ軸2が特定の回転状態になるのかという情報は、制御部C1に予め保存されている。
【0111】
また、オペレータによる読み取り操作機構11bの駆動に代えて、制御部C1が読み取り操作機構11bの駆動を担ってもよい。例えば、格納システム200が試料作製装置400または試料観察装置500に含まれている場合、ディスプレイ71上に読み取り操作機構11bに相当するGUIなどを表示させ、それをオペレータが操作してもよい。その場合、コントローラC2またはコントローラC3が、制御部C1を介してセンサ11aに指示を出し、センサ11aによって突出部6の位置を検出させる。
【0112】
図20および図21は、センサ11aおよび読み取り操作機構11bを用いて行われるフローチャートであり、開放状態と格納状態との切り替えを示すフローチャートである。図20に示されるステップS21~S25は、格納状態から開放状態へ切り替える場合のフローチャートである。図21に示されるステップS26~S30は、開放状態から格納状態へ切り替える場合のフローチャートである。
【0113】
ステップS21では、格納状態の試料ホルダ100を、制御部C1に電気的に接続する。これにより、制御部C1による移動機構4、回転機構5、センサ11aおよび読み取り操作機構11bの制御が可能になる。
【0114】
ステップS22では、読み取り操作機構11bの操作または制御部C1によって、センサ11aに開放指令を出力する。
【0115】
ステップS23では、センサ11aによって突出部6の位置を検出する。次に、制御部C1で突出部6の位置からホルダ軸2の回転状態を算出する。ホルダ軸2の回転状態が特定の回転状態でない場合、回転機構5を駆動し、ホルダ軸2の回転状態が特定の回転状態になるように、ホルダ軸2を回転する。ここで、ホルダ軸2の回転状態が制御された後、再度、センサ11aからの信号を制御部C1で読み取り、突出部6の位置を確認してもよい。
【0116】
ステップS24では、ホルダ軸2の回転状態が特定の回転状態であると確認された場合、移動機構4を駆動し、ホルダ軸2をX方向に移動し、載置部3を格納部1の内部から外部へ移動する。この移動は、突出部6が貫通孔7aと貫通孔7bとの連通箇所に到達するまで行われる。すなわち、図5Cから図5Bへ移行する。
【0117】
ステップS25では、試料ホルダ100が開放状態になる。図5Bの状態から、回転機構5を駆動することで、図5Aのように、ホルダ軸2を第1回転方向に回転できる。
【0118】
ステップS26では、開放状態の試料ホルダ100を、制御部C1に電気的に接続する。これにより、制御部C1による移動機構4、回転機構5、センサ11aおよび読み取り操作機構11bの制御が可能になる。
【0119】
ステップS27では、読み取り操作機構11bの操作または制御部C1によって、センサ11aに格納指令を出力する。
【0120】
ステップS28では、センサ11aによって突出部6の位置を検出する。次に、制御部C1で突出部6の位置からホルダ軸2の回転状態を算出する。ホルダ軸2の回転状態が特定の回転状態でない場合、回転機構5を駆動し、ホルダ軸2の回転状態が特定の回転状態になるように、ホルダ軸2を回転する。ここで、ホルダ軸2の回転状態が制御された後、再度、センサ11aからの信号を制御部C1で読み取り、突出部6の位置を確認してもよい。
【0121】
ステップS29では、ホルダ軸2の回転状態が特定の回転状態であると確認された場合、移動機構4を駆動し、ホルダ軸2をX方向に移動し、載置部3を格納部1の外部から内部へ移動する。すなわち、図5Bから図5Cへ移行する。
【0122】
ステップS30では、試料ホルダ100が格納状態となる。
【0123】
以上のように、センサ11aおよび読み取り操作機構11bを用いることで、開放状態と格納状態との切り替えを自動的に行うことができる。
【0124】
(実施の形態2)
以下に図22A図22Cを用いて、実施の形態2について説明する。なお、以下では、実施の形態1との相違点を主に説明し、実施の形態1と重複する点については説明を省略する。
【0125】
実施の形態1では、突出部6がホルダ軸2に固定され、貫通孔7aおよび貫通孔7bがガイド部7に設けられていた。実施の形態では、図22A図22Cに示されるように、凹部2aおよび凹部2bがホルダ軸2に設けられ、突出部6は、ホルダ軸2と離間した位置に設けられ、ガイド部7に固定されている。また、突出部6は、ホルダ軸2の延在方向(第1方向)と交差する方向(第2方向)に延在している。凹部2aは、凹部2bに連通し、第1回転方向における凹部2aの幅は、第1回転方向における凹部2bの幅よりも大きくなっている。
【0126】
実施の形態2では、ガイド部7の位置だけでなく突出部6の位置も、ホルダ軸2の回転および移動に応じて変更されない。一方で、凹部2aの位置および凹部2bの位置は、ホルダ軸2の回転および移動に応じて変更される。
【0127】
図22Aは、開放状態におけるホルダ軸2および突出部6の様子を示している。回転機構5によってホルダ軸2が回転する際に、ホルダ軸2は、突出部6が凹部2aの内部に嵌め込まれた状態で、第1回転方向に沿って回転できる。一方で、ホルダ軸2は、X方向に移動できない。
【0128】
図22Bは、開放状態と格納状態との切り替え時におけるホルダ軸2および突出部6の様子を示している。凹部2aの内部において、突出部6が凹部2aと凹部2bとの連通箇所に位置している場合、ホルダ軸2は、X方向に沿って移動できるようになる。また、図22Cの格納状態からホルダ軸2をX方向に沿って連通箇所まで移動させた後、ホルダ軸2は、第1回転方向に沿って回転できるようになる。
【0129】
図22Cは、格納状態におけるホルダ軸2および突出部6の様子を示している。移動機構4によってホルダ軸2が移動する際に、ホルダ軸2は、突出部6が凹部2bの内部に嵌め込まれた状態で、X方向に沿って移動できる。一方で、ホルダ軸2は、第1回転方向に回転できない。
【0130】
このような試料ホルダ100であっても、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
【0131】
なお、ここでは突出部6がガイド部7に固定されている場合を例示したが、突出部6は、その位置がホルダ軸2の回転および移動に応じて変更されないように固定されていればよく、他の部材に突出部6を取り付けることもできる。
【0132】
また、上述の変形例のようなセンサ11aを実施の形態2に適用する場合、センサ11aは、突出部6の近傍に位置し、第1凹部と第2凹部との連通箇所を検出するために設けられる。すなわち、センサ11aは、第1回転方向における連通箇所の位置の変更を検出できる。そして、センサ11aによって検出された連通箇所の位置から、ホルダ軸2の回転状態を算出することができる。
【0133】
以上、上記実施の形態に基づいて本発明を具体的に説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0134】
1 格納部
2 ホルダ軸
2a、2b 凹部
3 載置部
3a 第1面(載置面)
3b 第2面
3c 溝
3d 溝
4 移動機構
5 回転機構
6 突出部
7 ガイド部
7a、7b 貫通孔
8 支持部
9 回転軸部材
10 ハッチカバー
11a センサ
11b 読み取り操作機構
12 伝達部材(カム)
12a 接続部
12b 伝達部
13 弾性部材
14 開口部
15 封止部材
20 メッシュ押さえ
21 挟込部
22 装着部
23 着脱部
30 メッシュ
31 マイクロピラー
40 試料室
41 イオン源
42 照射レンズ
43 絞り
44 走査電極
45 対物レンズ
46 二次電子検出器
47 デポジション銃
48 マイクロプローブ
50 試料室
51 電子源
52 照射レンズ
53 走査コイル
54 ホルダアダプタ
55 二次電子検出器
56 対物レンズ
57 投影レンズ
58 円環状検出器
59 検出器
60 カメラ
70 入力デバイス
71 ディスプレイ
100 試料ホルダ
200 格納システム
300 解析システム
400 試料作製装置
500 試料観察装置
C1 制御部
C2 コントローラ
C3 コントローラ
EB1 電子ビーム
EB2 透過電子
IB イオンビーム
SAM 試料
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図13C
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22A
図22B
図22C