(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】回折格子の製造方法および複製回折格子の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/18 20060101AFI20240902BHJP
B81C 1/00 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
G02B5/18
B81C1/00
(21)【出願番号】P 2023533470
(86)(22)【出願日】2022-06-02
(86)【国際出願番号】 JP2022022546
(87)【国際公開番号】W WO2023281950
(87)【国際公開日】2023-01-12
【審査請求日】2023-12-13
(31)【優先権主張番号】P 2021111419
(32)【優先日】2021-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八重樫 健太
(72)【発明者】
【氏名】江畠 佳定
(72)【発明者】
【氏名】青野 宇紀
【審査官】鈴木 玲子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/130835(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/148118(WO,A1)
【文献】特開昭59-65810(JP,A)
【文献】国際公開第2020/021989(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18
B81C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)凹部および凸部が交互配置された形状を成すパターンを、その表面に有するウェハを準備する工程、
(b)前記(a)工程後、前記ウェハの表面上に金属膜を形成し、前記金属膜の表面の一部に前記パターンの形状が転写された第1転写領域を形成する工程、
(c)前記(b)工程後、前記ウェハから前記金属膜を取り外す工程、
(d)前記(c)工程後、接着剤を介して第1ガラス製基板に前記金属膜の裏面を接着する工程、
(e)その中央部に第1開口部を有する第1拘束治具と、その中央部に第2開口部を有する第2拘束治具とを準備する工程、
を備え、
前記(d)工程は、真空雰囲気内で行われ、
前記接着剤を介して接着する前記金属膜の裏面および前記第1ガラス製基板の接着面は、互いに平坦面であり、
前記(d)工程は、前記第1転写領域が、平面視において前記第1開口部および前記第2開口部の各々の内部に位置するように、前記第1転写領域の周囲の前記金属膜が、前記第1拘束治具および前記第2拘束治具によって挟み込まれた状態で行われ、
前記第1開口部および前記第2開口部の各々の平面形状は、多角形状を成し、
前記第1開口部の各角部および前記第2開口部の各角部には、前記第1開口部および前記第2開口部と一体化した穴が設けられ、
前記金属膜の平面形状は、多角形状を成し、
前記(d)工程では、前記金属膜の各角部は、平面視において、前記第1開口部および前記第2開口部の各々の前記穴の内部に位置している、回折格子の製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の回折格子の製造方法において、
(f)前記第1ガラス製基板に荷重を印加するための荷重印加部材を準備する工程、
を更に備え、
前記(d)工程は、前記金属膜の裏面に前記接着剤が設けられ、且つ、前記第1ガラス製基板が前記金属膜の裏面から物理的に離れた位置に設けられた状態から、前記荷重印加部材によって、前記第1ガラス製基板を前記金属膜の裏面へ向かって押し付けることで行われる、回折格子の製造方法。
【請求項5】
(a)凹部および凸部が交互配置された形状を成すパターンを、その表面に有するウェハを準備する工程、
(b)前記(a)工程後、前記ウェハの表面上に金属膜を形成し、前記金属膜の表面の一部に前記パターンの形状が転写された第1転写領域を形成する工程、
(c)前記(b)工程後、前記ウェハから前記金属膜を取り外す工程、
(d)前記(c)工程後、接着剤を介して第1ガラス製基板に前記金属膜の裏面を接着する工程、
(e)その中央部に平面視において円形状の第3開口部を有し、且つ、平面視において円形状を成す第3拘束治具を準備する工程、
(f)その中央部に平面視において円形状の第4開口部を有する第1固定板と、平面視において円形状の第2ガラス製基板と、前記第1ガラス製基板に荷重を印加するための荷重印加部材と、を準備する工程、
を備え、
前記(d〉工程は、真空雰囲気内で行われ、
前記接着剤を介して接着する前記金属膜の裏面および前記第1ガラス製基板の接着面は、互いに平坦面であり、
前記(d)工程は、前記第1転写領域が、平面視において前記第3開口部の内部に位置するように、前記第3拘束治具が、前記第1転写領域の周囲の前記金属膜の裏面上に設置された状態で行われ、
前記第2ガラス製基板は、前記第4開口部の内部に設けられ、
前記第1転写領域の周囲の前記金属膜は、前記第3拘束治具と前記第1固定板との間で固定され、
前記(d)工程は、前記金属膜の表面が前記第2ガラス製基板に対向するように、前記金属膜が第2ガラス製基板上に設置され、前記金属膜の裏面に前記接着剤が設けられ、且つ、前記第1ガラス製基板が前記金属膜の裏面から物理的に離れた位置に設けられた状態から、前記荷重印加部材によって、前記第1ガラス製基板を前記金属膜の裏面へ向かって押し付けることで行われる、回折格子の製造方法。
【請求項8】
請求項1または5に記載の回折格子の製造方法において、
前記(b)工程では、前記金属膜は、前記パターンの前記凹部を埋め込み、且つ、前記パターンの前記凸部を覆うように、メッキ法によって前記ウェハの表面上に形成される、回折格子の製造方法。
【請求項9】
請求項1または5に記載の回折格子の製造方法において、
前記接着剤は、前記金属膜と前記第1ガラス製基板とを熱処理不要で接着可能な材料からなる、回折格子の製造方法。
【請求項10】
請求項1または5に記載の回折格子の製造方法において、
前記パターンの形状は、正弦波形状、矩形形状、三角形状またはプレーズ形状である、回折格子の製造方法。
【請求項11】
請求項1または5に記載の回折格子の製造方法において、
(h)前記(b)工程と前記(c)工程との間に、前記第1転写領域を含む前記金属膜の表面上に、前記金属膜を構成する材料よりも光の反射率が高い材料からなる第1反射膜を形成する工程、
を更に備えた、回折格子の製造方法。
【請求項12】
請求項1または5に記載の回折格子の製造方法によって製造され、且つ、前記接着剤を介して接着された前記第1ガラス製基板および前記金属膜を有する回折格子を型として用いることで行われる複製回折格子の製造方法であって、
(i)樹脂膜と、前記樹脂膜の裏面に接着された第3ガラス製基板とを準備する工程、
(j)前記(i)工程後、前記第1転写領域を含む前記金属膜の表面上に前記樹脂膜を押し付けることで、前記樹脂膜の表面の一部に前記第1転写領域の形状が転写された第2転写領域を形成する工程、
(k)前記(j)工程後、前記金属膜から前記樹脂膜および前記第3ガラス製基板を取り外す工程、
を備えた、複製回折格子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回折格子の製造方法、および、その回折格子を型として用いて行われる複製回折格子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
回折格子は、分析装置の分光器などに使用され、様々な波長が混ざった光(白色光)を狭帯域の波長毎に分けるための光学素子である。回折格子の表面には、微細な溝が刻まれ、微細な溝の表面には、反射膜が蒸着されている。
【0003】
従来、ルーリングエンジンなどの加工機械を用いて、金属膜を成膜したガラス製基板に溝を刻線することで、マスタ回折格子を作製し、このマスタ回折格子に刻線された溝形状を、樹脂膜または金属膜に転写することで、複製回折格子を製造する方法が実施されてきた。
【0004】
近年、回折格子の製造技術には、レーザの二光束干渉を使用したホログラフィック露光を用いた方法がある。ホログラフィック露光を用いた方法では、シリコンウェハ上に塗布したフォトレジストにホログラフィック露光を行うことによって、回折格子が製造される。
【0005】
また、近年では、半導体製造技術も回折格子の製造技術として用いられている。例えば特許文献1には、半導体製造に使用されている露光装置と、エッチング処理とを用いて、回折格子作製用の位相シフトマスクを製造する技術が開示されている。特許文献1では、レジストパターンをマスクとした高密度プラズマエッチングによってガラス製基板をエッチングし、更にガラス製基板にウェットエッチングを行うことで、ガラス製基板に凹凸形状を形成する技術が開示されている。
【0006】
特許文献2には、低圧力高密度プラズマエッチングなどの異方性ドライエッチング法を用いて、レジスト上に形成された凹凸形状をガラス製基板に転写することで、正弦波形状光学格子を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平11-223714号公報
【文献】特開2003-172639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来技術では、シリコンウェハ上に作成した凹凸形状を樹脂膜に転写する際に、シリコンウェハの反りも転写されているので、高い面精度が実現できないという課題がある。また、特許文献1および特許文献2に開示されている高密度プラズマエッチングを用いた方法では、反りのないシリコンウェハまたはガラス製基板を準備することは困難である。
【0009】
また、シリコンウェハのサイズが大きくなると、シリコンウェハの反りも大きくなるので、回折格子の大面積化が行い難いという課題もある。
【0010】
一方で、シリコンウェハの反りを抑制するために、シリコンウェハに荷重をかけて転写することで、回折格子の凹凸形状を樹脂膜に転写する方法も検討された。しかし、回折格子の周辺部が自由端になっている場合、回折格子と樹脂膜とを接着させるための接着剤が収縮し、しわが発生していた。従って、高い面精度が実現できないという課題があった。
【0011】
本願の主な目的は、高い面精度および大面積化が可能となる回折格子を提供することにある。その他の課題および新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
一実施の形態おける回折格子の製造方法は、(a)凹部および凸部が交互配置された形状を成すパターンを、その表面に有するウェハを準備する工程、(b)前記(a)工程後、前記ウェハの表面上に金属膜を形成し、前記金属膜の表面の一部に前記パターンの形状が転写された第1転写領域を形成する工程、(c)前記(b)工程後、前記ウェハから前記金属膜を取り外す工程、(d)前記(c)工程後、接着剤を介して第1ガラス製基板に前記金属膜の裏面を接着する工程、を備える。
【発明の効果】
【0013】
一実施の形態によれば、高い面精度および大面積化が可能となる回折格子を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施の形態1における回折格子の製造方法の概要を示す断面図である。
【
図2】実施の形態1における拘束治具を示す平面図である。
【
図3】実施の形態1における拘束治具および金属膜を示す斜視図である。
【
図4】実施の形態1におけるベース板を示す斜視図である。
【
図5】実施の形態1における下側固定板を示す斜視図である。
【
図6】実施の形態1における上側固定板を示す斜視図である。
【
図7】実施の形態1における荷重印加板を示す斜視図である。
【
図8】実施の形態1における接着治具に金属膜を設置する過程を示す斜視図である。
【
図9】実施の形態1における接着治具に金属膜が設置された状態を示す斜視図である。
【
図10】実施の形態1における接着治具に金属膜が設置された状態を示す断面図である。
【
図11】実施の形態1における接着治具に金属膜が設置された状態を示す断面図である。
【
図12】実施の形態1における複製回折格子の製造方法の概要を示す断面図である。
【
図13】実施の形態2における回折格子の製造方法の概要を示す断面図である。
【
図14】実施の形態2における拘束治具および金属膜を示す斜視図である。
【
図15】実施の形態2におけるベース板を示す斜視図である。
【
図16】実施の形態2における下側固定板を示す斜視図である。
【
図17】実施の形態2における上側固定板を示す斜視図である。
【
図18】実施の形態2における荷重印加板を示す斜視図である。
【
図19】実施の形態2における接着治具に金属膜を設置する過程を示す斜視図である。
【
図20】実施の形態2における接着治具に金属膜が設置された状態を示す斜視図である。
【
図21】実施の形態2における接着治具に金属膜が設置された状態を示す断面図である。
【
図22】実施の形態2における接着治具に金属膜が設置された状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施の形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。また、以下の実施の形態では、特に必要なとき以外は同一または同様な部分の説明を原則として繰り返さない。
【0016】
また、本願で説明されるX方向、Y方向およびZ方向は、互いに交差し、互いに直交している。本願では、Z方向をある構造体の縦方向、上下方向、高さ方向または厚さ方向として説明する。また、本願で用いられる「平面視」という表現は、X方向およびY方向によって構成される面をZ方向から見ることを意味し、「平面形状」という表現は、上記平面視における形状を意味する。
【0017】
(実施の形態1)
<回折格子の製造方法>
以下に
図1を用いて、実施の形態1における回折格子の製造方法について説明する。実施の形態1における回折格子の製造方法は、
図1に示されるステップS11~S18を備えている。
【0018】
ステップS11では、シリコン製回折格子1を準備する。シリコン製回折格子1は、例えばシリコンからなり、且つ、表面FS1および裏面BS1を有するウェハ1aを含む。また、ウェハ1aは、凹部および凸部が交互配置された形状を成すパターン1bを、その表面FS1に有している。
【0019】
パターン1bは、例えば、半導体製造分野で用いられているフォトリソグラフィー技術、または、レーザ光の干渉を用いたホログラフィック露光技術によって作製されたレジストパターンである。パターン1bの形状は、より具体的には、正弦波形状、矩形形状、三角形状またはブレーズ形状などである。また、パターン1bが形成される領域(刻線領域)の平面形状は、正方形状、長方形状または円形状である。
【0020】
ステップS12およびステップS13では、ウェハ1aの表面FS1上に金属膜3を形成し、金属膜3の表面FS2の一部にパターン1bの形状が転写された転写領域3aを形成する。
【0021】
まず、ステップS12において、例えばスパッタリング法によって、パターン1bを含むウェハ1aの表面FS1上にシード膜2を堆積する。シード膜2は、例えばクロム、チタン、白金または金などの導電性材料からなる。しかし、シード膜2を構成する材料は、上記材料に限定されず、電解メッキ時にウェハ1aの端部に配置される電極から、ウェハ1aの中央まで電圧降下を伴うことなく電子を運ぶことができるような機能有していればよい。
【0022】
次に、ステップS13において、パターン1bの凹部を埋め込み、且つ、パターン1bの凸部を覆うように、例えばメッキ法によって、金属膜3をウェハ1aの表面FS1上(シード膜2上)に形成する。上記メッキ法としては、電解メッキ法が好適である。また、金属膜3は、例えばニッケルまたは銅などの導電性材料からなる。しかし、金属膜3を構成する材料は、上記材料に限定されず、電解メッキが可能あり、且つ、パターン1bの形状に高精度に沿うように成膜することができる材料であればよい。なお、以降の図面では、シード膜2の図示を省略する。
【0023】
ステップS14では、ウェハ1aから金属膜3を取り外す。金属膜3は、表面FS2および裏面BS2を有する。表面FS2の一部には、パターン1bの形状が転写された転写領域3aが形成されている。すなわち、転写領域3aは、凹部および凸部が交互配置された形状を成し、正弦波形状、矩形形状、三角形状またはブレーズ形状を成す。また、裏面BS2は、平坦面となっている。
【0024】
ステップS15では、金属膜3の裏面BS2に接着剤4を設ける。接着剤4は、例えば塗布法によって裏面BS2に塗布され、金属膜3と後述のガラス製基板5とを熱処理不要で接着可能な材料からなる。金属とガラスとでは、線膨張係数の差が大きいので、接着剤4を構成する材料は、熱処理不要な材料であることが好ましい。
【0025】
ステップS16では、転写領域3aに重ならない位置において、金属膜3の外周を2つの拘束治具10によって挟み込むことで、金属膜3を固定する。
【0026】
ステップS17では、後述の接着治具100内において、ガラス製基板5を金属膜3に接着する。金属膜3の表面FS2側には、ガラス製基板5が設けられ、金属膜3の裏面BS2側には、ガラス製基板6が設けられる。その後、ガラス製基板5を裏面BS2へ向かって押し付け、接着剤4を介してガラス製基板5に金属膜3を接着する。
【0027】
ステップS18では、接着されたガラス製基板5および金属膜3を、接着治具100から取り出す。このような製造方法によって、ガラス製基板5、接着剤4および金属膜3を有する回折格子(ガラス製回折格子)7が製造される。
【0028】
上述のように、ステップS16以降では拘束治具10が使用されるが、拘束治具10を備えた接着治具100は予め準備されており、接着治具100を用いてステップS16以降が行われる。以下に
図2~
図11を用いて、接着治具100の各部材と、ステップS16以降の回折格子の製造方法とについて、詳細に説明する。
【0029】
図9に示されるように、実施の形態1における接着治具100は、2つの拘束治具10、ベース板20、下側固定板30、上側固定板40、荷重印加部材50および複数のネジ60を備えている。以下に
図2~
図7を用いて、これらの構造について説明する。
【0030】
図2および
図3は、拘束治具10を示している。拘束治具10は、平面視において多角形状を成し、ここでは四角形状を成している。また、拘束治具10は、強度が高く、耐熱性が高い材料からなり、例えばステンレス鋼からなる。拘束治具10は、その中央部に開口部13を有し、開口部13の周囲に複数の孔11および複数の孔12を有する。孔11は、他部材とネジ60で固定するために設けられ、孔12は、ベース板20のガイドピン22と位置合わせを行うために設けられている。
【0031】
金属膜3の平面形状は、多角形状を成し、ここでは四角形状を成している。開口部13の平面形状は、金属膜3の平面形状に対応する多角形状を成し、ここでは四角形状を成している。また、開口部13の各角部には、開口部13と一体化した穴14が設けられている。言い換えれば、拘束治具10は複数の穴14を有し、複数の穴14は、開口部13の各角部を内包している。
【0032】
上述のステップS16は、転写領域3aが、平面視において開口部13の内部に位置するように、転写領域3aの周囲の金属膜3が、2つの拘束治具によって挟み込まれた状態で行われる。このとき、金属膜3の各角部は、平面視において穴14の内部に位置している。ステップS17では、金属膜3がガラス製基板5によって押し付けられるが、金属膜3の各角部は、応力が集中し易い箇所となる。それ故、各角部において、特異な応力が生じる場合が多い。そこで、金属膜3の各角部を穴14の内部に位置させておくことで、各角部における応力の集中を緩和でき、金属膜3に対する荷重分布が均一となる構造を実現できる。
【0033】
図4は、ベース板20を示している。ベース板20は、拘束治具10と同様の平面形状を成す。ベース板20の外周部には、複数の孔21およびガイドピン22が設けられている。孔21は、他部材とネジ60で固定するために設けられ、ガイドピン22は、他部材と位置合わせを行うために設けられている。
【0034】
図5は、下側固定板30を示している。下側固定板30は、拘束治具10と同様の平面形状を成す。下側固定板30は、その中央部に開口部33を有し、開口部33の周囲に複数の孔31および複数の孔32を有する。孔31は、他部材とネジ60で固定するために設けられ、孔32は、ベース板20のガイドピン22と位置合わせを行うために設けられている。
【0035】
また、下側固定板30は、ガラス製基板6の位置を固定するための部材であり、開口部33を有する。開口部33およびガラス製基板6の各々の平面形状は、多角形状を成し、ここでは四角形状を成している。これにより、ガラス製基板6が開口部33の内部に嵌め込まれる。
【0036】
図6は、上側固定板40を示している。上側固定板40は、拘束治具10と同様の平面形状を成す。上側固定板40は、その中央部に開口部43を有し、開口部43の周囲に複数の孔41および複数の孔42を有する。孔41は、他部材とネジ60で固定するために設けられ、孔42は、ベース板20のガイドピン22と位置合わせを行うために設けられている。
【0037】
また、上側固定板40は、ガラス製基板5の位置を固定するための部材であり、開口部43を有する。開口部43およびガラス製基板5の各々の平面形状は、多角形状を成し、ここでは四角形状を成している。これにより、ガラス製基板5が開口部43の内部に嵌め込まれる。
【0038】
図7は、荷重印加部材50を示している。荷重印加部材50は、ガラス製基板5に荷重を印加する際に用いられる。荷重印加部材50の平面形状は、多角形状を成し、ここでは四角形状を成している。荷重印加部材50は、上側固定板40の開口部43の内部に収まるように設計されている。
【0039】
なお、ベース板20、下側固定板30、上側固定板40および荷重印加部材50は、強度が高く、耐熱性が高い材料からなり、例えばステンレス鋼からなる。
【0040】
図8は、接着治具100に金属膜3を設置する過程を示し、
図9は、接着治具100に金属膜3が設置された状態を示している。
【0041】
図8に示されるように、ベース板20、下側固定板30、ガラス製基板6、金属膜3および2つの拘束治具10を準備する。まず、ベース板20のガイドピン22に孔32を嵌め込みながら、ベース板20上に下側固定板30を設ける。次に、下側固定板30の開口部33の内部にガラス製基板6を設ける。
【0042】
次に、ベース板20のガイドピン22に孔12を嵌め込みながら、下側固定板30上に1つ目の拘束治具10を設ける。次に、ガラス製基板6上に金属膜3を設置し、1つ目の拘束治具10上に転写領域3aの周囲の金属膜3を設ける。なお、金属膜3の裏面BS2には接着剤4が設けられている。次に、ベース板20のガイドピン22に上側固定板40の孔12を嵌め込みながら、転写領域3aの周囲の金属膜3の裏面BS2上に、2つ目の拘束治具10を設ける。
【0043】
次に、
図9に示されるように、上側固定板40、ガラス製基板5、荷重印加部材50およびネジ60を準備する。ベース板20のガイドピン22に孔42を嵌め込みながら、2つ目の拘束治具10上に上側固定板40を設置する。次に、上側固定板40の開口部43の内部にガラス製基板5を設置する。次に、ガラス製基板5上に荷重印加部材50を設置する。
【0044】
その後、ネジ60を上側固定板40の孔41、2つの拘束治具10の孔11、下側固定板30の孔31およびベース板20の孔21に差し込むことで、これらの位置が固定される。これにより、転写領域3aの周囲の金属膜3が2つの拘束治具によって挟み込まれた状態で、金属膜3が固定される。
【0045】
以下に
図10および
図11を用いて、金属膜3に荷重を印加する前後の状態について説明する。
図10および
図11は、
図9に示されるA-A線に沿った断面図である。
【0046】
図10に示される「荷重印加前」の状態から、
図11に示される「荷重印加後」の状態へ移行することで、接着剤4を介してガラス製基板5に金属膜3の裏面BS2を接着する工程が行われる。なお、この工程は、真空雰囲気内で行われる。
【0047】
まず、
図10では、金属膜3の表面FS2がガラス製基板6に対向するように、金属膜3がガラス製基板6上に設置されている。また、金属膜3の裏面BS2に接着剤4が設けられている。また、ガラス製基板5が金属膜3の裏面から物理的に離れた位置に設けられている。すなわち、ガラス製基板5と金属膜3(接着剤4)との間に、ギャップ70が形成されている。なお、金属膜3が設置されるガラス製基板6の設置面と、接着剤を介して金属膜3に接着されるガラス製基板5の接着面は、平坦面となっている。
【0048】
このような状態から、荷重印加部材50によって、ガラス製基板5を金属膜3の裏面BS2へ向かって押し付けることで、
図11のような状態となる。「荷重印加後」は、
図1のステップS17に相当している。その後、接着治具100を解体することで、接着剤4を介して接着されたガラス製基板5および金属膜3を有する回折格子7を取得できる。
【0049】
<実施の形態1の主な効果>
以上のように、実施の形態1における回折格子の製造方法によれば、ウェハ1aに設けられたパターン1bの形状を金属膜3に転写し、この金属膜3を回折格子7に用いている。従って、従来技術において課題であったシリコンウェハの反りが転写されることを防止できるので、高い面精度および大面積化が可能となる回折格子7を提供できる。
【0050】
一方で、本願発明者らの検討によれば、接着剤4を介してガラス製基板5および金属膜3を接着させる際に、接着剤4が収縮し、金属膜3が引き込まれ、しわが発生する問題があった。また、接着工程を大気中で行うと、気泡が混入した場合にしわが発生し、高い面精度が実現し難いという問題があった。
【0051】
これに対して、実施の形態1では、金属膜3の外周を拘束治具10によって固定しながら、ガラス製基板5を押し当てている。これにより、接着剤4の収縮の影響によるしわの発生を抑制することができる。また、接着剤4が熱処理不要な材料で構成されていることで、接着剤4の収縮の影響を抑制できる。
【0052】
また、接着剤4を介して接着する金属膜3の裏面BS2およびガラス製基板5の接着面は、互いに平坦面となっている。ここで、単にガラス製基板5を金属膜3の裏面BS2に押し当てると、気泡が混入し、しわが発生し易くなる。そのため、
図10に示されるように、ガラス製基板5と金属膜3(接着剤4)との間に、ギャップ70を設けている。そして、真空雰囲気内において、ガラス製基板5を金属膜3の裏面BS2に押し当てることで、接着剤4を介して金属膜3の裏面BS2およびガラス製基板5を接着させている。これにより、気泡によるしわの発生を抑制することができ、高い面精度が実現できる。
【0053】
<回折格子7の適用例1>
実施の形態1で製造された回折格子7は、分光器などに使用される光学素子として適用できる。例えば、
図1のステップS14とステップS15との間で、転写領域3aを含む金属膜3の表面FS2上に、金属膜3を構成する材料よりも光の反射率が高い材料からなる反射膜を形成する工程を追加する。そのような反射膜は、例えばアルミニウム膜であり、例えば蒸着法によって形成できる。これにより、回折格子7を反射型の光学素子として利用することができる。
【0054】
<回折格子7の適用例2>
図12は、回折格子7の他の適用例であり、回折格子7を型として用いることで行われる複製回折格子の製造方法を示している。すなわち、
図12は、回折格子7をマスタ回折格子として、複数の複製回折格子を製造するための方法である。
【0055】
まず、ステップS31では、表面FS3および裏面BS3を有する樹脂膜91と、樹脂膜91の裏面BS3に接着されたガラス製基板92とを準備する。樹脂膜91は、例えばエポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂である。
【0056】
ステップS32では、回折格子7を準備し、金属膜3の周辺部をガラス基板5の大きさに合わせて切断する。
【0057】
ステップS33では、転写領域3aを含む金属膜3の表面FS2上に、樹脂膜91を押し付ける。これにより、樹脂膜91の表面FS3の一部に、転写領域3aの形状が転写された転写領域91aを形成する。すなわち、転写領域91aは、凹部および凸部が交互配置された形状を成し、正弦波形状、矩形形状、三角形状またはブレーズ形状を成す。次に、樹脂膜91に対して、例えば70~150℃の熱処理を施すことで、転写領域91aの形状が維持された状態で、樹脂膜91が硬化する。
【0058】
ステップS34では、金属膜3から樹脂膜91およびガラス製基板92を取り外す。これにより、転写領域91aを含む樹脂膜91およびガラス製基板92を有する複製回折格子93が製造される。このようなステップS31~S33を繰り返すことで、回折格子7を基にして、複数の複製回折格子93を容易に製造することができる。
【0059】
上述のように、金属膜3を含む回折格子7は、ウェハ1aの反りが転写されることを防止しており、高い面精度を実現している。従って、転写領域3aの形状が転写された転写領域91aを含む樹脂膜91と、ガラス製基板92とを有する複製回折格子93においても、ウェハ1aの反りが転写されることが防止され、高い面精度が実現されている。
【0060】
なお、複製回折格子93を反射型の光学素子として適用する場合、転写領域91aを含む樹脂膜91の表面FS3上に、反射膜を形成する。そのような反射膜は、例えばアルミニウム膜であり、例えば蒸着法によって形成できる。
【0061】
(実施の形態2)
以下に
図13を用いて、実施の形態2における回折格子の製造方法について説明する。実施の形態2における回折格子の製造方法は、
図13に示されるステップS21~S28を備えている。なお、以下の説明では、実施の形態1との相違点について主に説明し、実施の形態1と重複する点については説明を省略する。
【0062】
ステップS21~S25は、実施の形態1におけるステップS11~S15と同じである。ステップS26では、転写領域3aに重ならない位置において、金属膜3の外周を、拘束治具80を用いて固定する。
【0063】
ステップS27では、後述の接着治具200内において、ガラス製基板5を金属膜3に接着する。金属膜3の表面FS2側には、ガラス製基板5が設けられ、金属膜3の裏面BS2側には、ガラス製基板6が設けられる。その後、ガラス製基板5を裏面BS2へ向かって押し付け、接着剤4を介してガラス製基板5に金属膜3を接着する。
【0064】
ステップS28では、接着されたガラス製基板5および金属膜3を、接着治具100から取り出す。このように、実施の形態1における回折格子として、ガラス製基板5、接着剤4および金属膜3を有する回折格子7が製造される。
【0065】
実施の形態2におけるガラス製基板5およびガラス製基板6は、それぞれの平面形状が円形状である点で実施の形態1と異なっている。円形状のガラス製基板5およびガラス製基板6を使用することによって、荷重印加時において特異な応力が生じることを抑制できる。従って、実施の形態2では、金属膜3に対する荷重分布が均一となる構造を実現でき、高い面精度を実現することができる。
【0066】
以下に
図14~
図22を用いて、接着治具200の各部材と、ステップS26以降の回折格子の製造方法とについて、詳細に説明する。
【0067】
図20に示されるように、実施の形態1における接着治具200は、拘束治具80、ベース板20、下側固定板30、上側固定板40、荷重印加部材50および複数のネジ60を備えている。以下に
図14~
図20を用いて、これらの構造について説明する。
【0068】
図14は、拘束治具80を示している。拘束治具80は、平面視において円形状を成している。また、拘束治具80は、例えば銅からなる。拘束治具80は、その中央部に開口部83を有する。開口部83の平面形状は、円形状を成している。
【0069】
上述のステップS26は、転写領域3aが、平面視において開口部83の内部に位置するように、拘束治具80が、転写領域3aの周囲の金属膜3の裏面BS2上に設置された状態で行われる。
【0070】
図15~
図18に示されるように、ベース板20、下側固定板30、上側固定板40および荷重印加部材50は、主にこれらの平面形状が円形状である点を除き、ほぼ実施の形態1と同様の構造体であり、実施の形態1と同様の役割を担う。また、実施の形態2では、ベース板20にガイドピン22が設けられておらず、下側固定板30および上側固定板40に孔32および孔42が設けられていないが、これらを設けてもよい。
【0071】
また、
図16に示されるように、下側固定板30の開口部33の平面形状は、円形状を成している。これにより、円形状のガラス製基板6を開口部33の内部に嵌め込むことができる。また、
図17に示されるように、上側固定板40の開口部43の平面形状は、円形状を成している。これにより、円形状のガラス製基板5を開口部43の内部に嵌め込むことができる。
【0072】
図19は、接着治具200に金属膜3を設置する過程を示し、
図20は、接着治具200に金属膜3が設置された状態を示している。
【0073】
図19に示されるように、ベース板20、下側固定板30、ガラス製基板6、金属膜3および2つの拘束治具80を準備する。まず、ベース板20上に下側固定板30を設ける。次に、下側固定板30の開口部33の内部にガラス製基板6を設ける。次に、ガラス製基板6上に金属膜3を設置し、下側固定板30上に転写領域3aの周囲の金属膜3を設ける。なお、金属膜3の裏面BS2には接着剤4が設けられている。次に、転写領域3aの周囲の金属膜3の裏面BS2上に、拘束治具80を設ける。
【0074】
次に、
図20に示されるように、上側固定板40、ガラス製基板5、荷重印加部材50およびネジ60を準備する。拘束治具80上に上側固定板40を設置する。次に、上側固定板40の開口部43の内部にガラス製基板5を設置する。次に、ガラス製基板5上に荷重印加部材50を設置する。
【0075】
その後、ネジ60を上側固定板40の孔41、下側固定板30の孔31およびベース板20の孔21に差し込むことで、これらの位置が固定される。これにより、転写領域3aの周囲の金属膜3が、拘束治具80と下側固定板30との間で固定される。なお、実施の形態2では、上側固定板40をネジ60で固定した際に、拘束治具80が上側固定板40によって潰される場合があるが、金属膜3を固定できれば、拘束治具80が潰れていても特に問題は無い。
【0076】
以下に
図21および
図22を用いて、金属膜3に荷重を印加する前後の状態について説明する。
図21および
図22は、
図20に示されるB-B線に沿った断面図である。
【0077】
図21に示される「荷重印加前」の状態から、
図22に示される「荷重印加後」の状態へ移行することで、接着剤4を介してガラス製基板5に金属膜3の裏面BS2を接着する工程が行われる。なお、この工程は、実施の形態1と同様に、真空雰囲気内で行われる。
【0078】
まず、
図21では、金属膜3の表面FS2がガラス製基板6に対向するように、金属膜3がガラス製基板6上に設置されている。また、金属膜3の裏面BS2に接着剤4が設けられている。また、ガラス製基板5が金属膜3の裏面から物理的に離れた位置に設けられている。すなわち、ガラス製基板5と金属膜3(接着剤4)との間に、ギャップ70が形成されている。なお、実施の形態2でも、金属膜3が設置されるガラス製基板6の設置面と、接着剤4を介して金属膜3に接着されるガラス製基板5の接着面は、平坦面となっている。
【0079】
このような状態から、荷重印加部材50によって、ガラス製基板5を金属膜3の裏面BS2へ向かって押し付けることで、
図22のような状態となる。「荷重印加後」は、
図13のステップS27に相当している。その後、接着治具200を解体することで、接着剤4を介して接着されたガラス製基板5および金属膜3を有する回折格子7を取得できる。
【0080】
このように、実施の形態2によっても実施の形態1とほぼ同様な効果を得ることができる。また、実施の形態2で製造された回折格子7も、実施の形態1と同様に、分光器などに使用される光学素子として適用できるし、
図12に示されるように、マスタ回折格子として複数の複製回折格子の製造に適用できる。
【0081】
以上、本発明を上記実施の形態に基づいて具体的に説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【符号の説明】
【0082】
1 シリコン製回折格子
1a ウェハ
1b パターン
2 シード膜
3 金属膜
3a 転写領域
4 接着剤
5、6 ガラス製基板
7 回折格子(ガラス製回折格子)
10 拘束治具
11 固定用の孔
12 位置合わせ用の孔
13 開口部
14 穴
20 ベース板
21 固定用の孔
22 ガイドピン
30 ガラス製基板用の下側固定板
31 固定用の孔
32 位置合わせ用の孔
33 開口部
40 ガラス製基板用の上側固定板
41 固定用の孔
42 位置合わせ用の孔
43 開口部
50 荷重印加部材
60 ネジ
70 ギャップ
80 拘束治具
83 開口部
91 樹脂膜
91a 転写領域
92 ガラス製基板
93 複製回折格子
100、200 接着治具
FS1 ウェハの表面
FS2 金属膜の表面
FS3 樹脂膜の表面
BS1 ウェハの裏面
BS2 金属膜の裏面
BS3 樹脂膜の裏面