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特許7547685マルチ荷電粒子ビーム描画領域の実効温度算出方法、マルチ荷電粒子ビーム描画方法、プログラムを一時的で無く記録した読み取り可能な記録媒体、及びマルチ荷電粒子ビーム描画装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-08-30
(45)【発行日】2024-09-09
(54)【発明の名称】マルチ荷電粒子ビーム描画領域の実効温度算出方法、マルチ荷電粒子ビーム描画方法、プログラムを一時的で無く記録した読み取り可能な記録媒体、及びマルチ荷電粒子ビーム描画装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/027 20060101AFI20240902BHJP
   G03F 7/20 20060101ALI20240902BHJP
   H01J 37/305 20060101ALI20240902BHJP
【FI】
H01L21/30 541M
H01L21/30 541W
G03F7/20 504
H01J37/305 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2024507111
(86)(22)【出願日】2023-09-21
(86)【国際出願番号】 JP2023034349
【審査請求日】2024-02-06
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【弁理士】
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 章
(74)【代理人】
【識別番号】100178984
【弁理士】
【氏名又は名称】高下 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】野村 春之
(72)【発明者】
【氏名】森 紳悟
【審査官】今井 彰
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-209599(JP,A)
【文献】特表2005-508528(JP,A)
【文献】特表2004-505462(JP,A)
【文献】特開2019-201071(JP,A)
【文献】特表2003-503837(JP,A)
【文献】特開2017-123431(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/027、21/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチ荷電粒子ビームで照射される試料の描画領域が、描画進行方向及び前記描画進行方向と線形独立な第1の方向で分割された複数のメッシュ領域のそれぞれにおいて、当該メッシュ領域内を照射するビームのドーズ量の代表値をドーズ量代表値として算出し、
前記試料が載置されるステージの速度と、マルチ荷電粒子ビームの前記試料の面上におけるビームアレイ領域の前記描画進行方向のサイズと、によって決定されるカーネルと、前記ドーズ量代表値と、の畳み込み処理によって、ビーム照射による熱が前記複数のメッシュ領域のそれぞれに与える上昇温度の代表値を、前記複数のメッシュ領域のそれぞれの実効温度としてそれぞれ算出し、出力する、
ことを特徴とするマルチ荷電粒子ビーム描画領域の実効温度算出方法。
【請求項2】
前記カーネルは、所定の範囲内の各位置の値として定義され、
前記カーネルの各位置での値は、前記ビームアレイ領域が連続的に等速移動しながら、前記カーネルの中心位置に点電荷を照射することを仮定し、かつ前記点電荷の照射が前記ビームアレイ領域の一方の端で開始し、他方の端で終了することを仮定し、当該2つの仮定の下に、当該位置を前記ビームアレイ領域が通過する間の温度の代表値を表すことを特徴とする請求項1記載のマルチ荷電粒子ビーム描画領域の実効温度算出方法。
【請求項3】
前記カーネルは、
前記ビームアレイ領域と同じサイズの処理領域内の前記描画進行方向におけるメッシュ領域を表す参照番号iを前記ビームアレイ領域と重なる前記処理領域内の前記描画進行方向におけるメッシュ領域数Nxで割った値に前記描画進行方向におけるビームアレイ領域のサイズLxを乗じた量を、Nxを無限大の極限にとることで変換される積分変数ωと、
前記ビームアレイ領域と同じサイズの前記処理領域内の前記第1の方向におけるメッシュ領域を表す参照番号jを前記ビームアレイ領域と重なる前記処理領域内の前記第1の方向におけるメッシュ領域数Nyで割った値に前記第1の方向におけるビームアレイ領域のサイズLyを乗じた量を、Nyを無限大の極限にとることで変換される積分変数ξと、
Nx×Nyのサイズで構成される前記処理領域が座標(k,l)の注目メッシュを通過するまでに順次Nx回行われる、m=k-Nx+1、k-Nx、・・・kのビーム照射番号mを前記メッシュ領域数Nxで割った値に前記描画進行方向におけるビームアレイ領域のサイズLxを乗じた量を、Nxを無限大の極限にとることで変換される積分変数uと、
m番目、m-1番目、m-2番目、・・・と順次行われるビーム照射番号nを前記メッシュ領域数Nxで割った値に前記描画進行方向におけるビームアレイ領域のサイズLxを乗じた量を、Nxを無限大の極限にとることで変換される積分変数vと、
を用いた積分式で定義されることを特徴とする請求項1記載のマルチ荷電粒子ビーム描画領域の実効温度算出方法。
【請求項4】
請求項1記載の実効温度算出方法により求められた前記実効温度を用いて算出された補正量を用いて前記試料にパターンを描画するマルチ荷電粒子ビーム描画方法であって、
前記複数のメッシュ領域のそれぞれにおける前記実効温度を用いて、前記マルチ荷電粒子ビームのうち前記複数のメッシュ領域の1つである注目メッシュ領域を照射する複数のビームのドーズ量又は前記注目メッシュ領域内に描画される図形のパターンデータを補正する補正量を算出し、
前記補正量を用いて、前記試料にパターンを描画する、
ことを特徴とするマルチ荷電粒子ビーム描画方法。
【請求項5】
マルチ荷電粒子ビームで照射される試料の描画領域が、描画進行方向及び前記描画進行方向と線形独立な方向で分割された複数のメッシュ領域のそれぞれにおいて、当該メッシュ領域内を照射するビームのドーズ量の代表値をドーズ量代表値として算出する機能と、
前記試料が載置されるステージの速度と、マルチ荷電粒子ビームの前記試料の面上における前記描画進行方向のビームアレイ領域のサイズとによって決定されるカーネルと、前記ドーズ量代表値と、の畳み込み処理によって、ビーム照射による熱が前記複数のメッシュ領域のそれぞれに与える上昇温度の代表値を、前記複数のメッシュ領域のそれぞれの実効温度としてそれぞれ算出する機能と、
をコンピュータに実行させるためのプログラムを一時的で無く記録した読み取り可能な記録媒体。
【請求項6】
請求項5に記載の各機能と、
前記複数のメッシュ領域のそれぞれにおける前記実効温度を用いて、前記マルチ荷電粒子ビームのうち前記複数のメッシュ領域の1つである注目メッシュ領域を照射する複数のビームのドーズ量又は前記注目メッシュ領域内に描画される図形のパターンデータを補正する補正量を算出する機能と、
前記補正量を用いて、前記試料にパターンを描画する機能と、
をコンピュータに実行させるためのプログラムを一時的で無く記録した読み取り可能な記録媒体。
【請求項7】
マルチ荷電粒子ビームで照射される試料の描画領域が、描画進行方向及び前記描画進行方向と線形独立な方向で分割された複数のメッシュ領域のそれぞれにおいて、当該メッシュ領域内を照射するビームのドーズ量の代表値をドーズ量代表値として算出するドーズ量代表値算出回路と、
前記試料が載置されるステージの速度と、マルチ荷電粒子ビームの前記試料の面上におけるビームアレイ領域の前記描画進行方向のサイズと、によって決定されるカーネルと、前記ドーズ量代表値と、の畳み込み処理によって、ビーム照射による熱が前記複数のメッシュ領域のそれぞれに与える上昇温度の代表値を、前記複数のメッシュ領域のそれぞれの実効温度としてそれぞれ算出する実効温度算出回路と、
前記複数のメッシュ領域のそれぞれにおける前記実効温度を用いて、前記マルチ荷電粒子ビームのうち複数のメッシュ領域の1つである注目メッシュ領域を照射する複数のビームのドーズ量又は前記注目メッシュ領域内に描画される図形のパターンデータを補正する補正量を算出する補正量算出回路と、
算出された前記補正量を用いて、前記試料にパターンを描画する描画機構と、
を備えたことを特徴とするマルチ荷電粒子ビーム描画装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチ荷電粒子ビーム描画領域の実効温度算出方法、マルチ荷電粒子ビーム描画装置、マルチ荷電粒子ビーム描画方法、及びプログラム(或いはプログラムを一時的で無く記録した読み取り可能な記録媒体)に係り、例えば、マルチビーム描画で生じるレジストヒーティングの補正手法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの微細化の進展を担うリソグラフィ技術は半導体製造プロセスのなかでも唯一パターンを生成する極めて重要なプロセスである。近年、LSIの高集積化に伴い、半導体デバイスに要求される回路線幅は年々微細化されてきている。ここで、電子線(電子ビーム)描画技術は本質的に優れた解像性を有しており、ウェハ等へ電子線を使って描画することが行われている。
【0003】
例えば、マルチビームを使った描画装置がある。1本の電子ビームで描画する場合に比べて、マルチビームを用いることで一度に多くのビームを照射できるのでスループットを大幅に向上させることができる。かかるマルチビーム方式の描画装置では、例えば、電子銃から放出された電子ビームを複数の穴を持ったマスクに通してマルチビームを形成し、各々、ブランキング制御され、遮蔽されなかった各ビームが光学系で縮小され、偏向器で偏向され試料上の所望の位置へと照射される。
【0004】
ここで、電子ビームを用いた描画では、照射エネルギー量を、より高密度な電子ビームで短時間に照射しようとすると、基板温度が過熱してレジスト感度が変化し、線幅精度が悪化する、レジストヒーティングと呼ばれる現象が生じてしまうといった問題があった(例えば、特許文献1参照)。例えば、シングルビーム描画では、1本のビームによる過去のショット毎の温度上昇の影響を累積して現在のショットのドーズ補正量を決定するといった手法がとられていた。しかしながら、マルチビーム描画では、複数のビームが用いられるため、過去のショット毎かつビーム毎の温度上昇の影響を累積する手法では、計算量が膨大となってしまう。また、マルチビーム描画では、複数のビームが同時にショットされるため、同時に照射される広範囲の領域に位置する他の複数のビームからの温度上昇の影響を考慮する必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特表2003-503837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の一態様は、マルチビーム描画において、ショット毎かつビーム毎の温度上昇の影響を累積せずに、レジストヒーティングを補正可能な装置及び方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様のマルチ荷電粒子ビーム描画領域の実効温度算出方法は、
マルチ荷電粒子ビームで照射される試料の描画領域が、描画進行方向及び描画進行方向と線形独立な第1の方向で分割された複数のメッシュ領域のそれぞれにおいて、当該メッシュ領域内を照射するビームのドーズ量の代表値をドーズ量代表値として算出し、
試料が載置されるステージの速度と、マルチ荷電粒子ビームの試料の面上におけるビームアレイ領域の描画進行方向のサイズと、によって決定されるカーネルと、ドーズ量代表値と、の畳み込み処理によって、ビーム照射による熱が複数のメッシュ領域のそれぞれに与える上昇温度の代表値を、複数のメッシュ領域のそれぞれの実効温度としてそれぞれ算出し、出力する、
ことを特徴とする。
【0008】
本発明の一態様のマルチ荷電粒子ビーム描画方法は、
上述した実効温度算出方法により求められた実効温度を用いて算出された補正量を用いて試料にパターンを描画するマルチ荷電粒子ビーム描画方法であって、
複数のメッシュ領域のそれぞれにおける実効温度を用いて、マルチ荷電粒子ビームのうち複数のメッシュ領域の1つである注目メッシュ領域を照射する複数のビームのドーズ量又は注目メッシュ領域内に描画される図形のパターンデータを補正する補正量を算出し、
補正量を用いて、試料にパターンを描画する、
ことを特徴とする。
【0009】
本発明の一態様のコンピュータに実行させるためのプログラムを一時的で無く記録した読み取り可能な記録媒体は、
マルチ荷電粒子ビームで照射される試料の描画領域が、描画進行方向及び前記描画進行方向と線形独立な方向で分割された複数のメッシュ領域のそれぞれにおいて、当該メッシュ領域内を照射するビームのドーズ量の代表値をドーズ量代表値として算出する機能と、
試料が載置されるステージの速度と、マルチ荷電粒子ビームの試料の面上における描画進行方向のビームアレイ領域のサイズとによって決定されるカーネルと、ドーズ量代表値と、の畳み込み処理によって、ビーム照射による熱が複数のメッシュ領域のそれぞれに与える上昇温度の代表値を、複数のメッシュ領域のそれぞれの実効温度としてそれぞれ算出する機能と、
をコンピュータに実行させるためのプログラムを一時的で無く記録する。
【0010】
本発明の他の態様のコンピュータに実行させるためのプログラムを一時的で無く記録した読み取り可能な記録媒体は、
上述した各機能と、
複数のメッシュ領域のそれぞれにおける実効温度を用いて、マルチ荷電粒子ビームのうち複数のメッシュ領域の1つである注目メッシュ領域を照射する複数のビームのドーズ量又は注目メッシュ領域内に描画される図形のパターンデータを補正する補正量を算出する機能と、
補正量を用いて、試料にパターンを描画する機能と、
をコンピュータに実行させるためのプログラムを一時的で無く記録する。
【0011】
本発明の一態様のマルチ荷電粒子ビーム描画装置は、
マルチ荷電粒子ビームで照射される試料の描画領域が、描画進行方向及び描画進行方向と線形独立な方向で分割された複数のメッシュ領域のそれぞれにおいて、当該メッシュ領域内を照射するビームのドーズ量の代表値をドーズ量代表値として算出するドーズ量代表値算出回路と、
試料が載置されるステージの速度と、マルチ荷電粒子ビームの試料の面上におけるビームアレイ領域の描画進行方向のサイズと、によって決定されるカーネルと、ドーズ量代表値と、の畳み込み処理によって、ビーム照射による熱が複数のメッシュ領域のそれぞれに与える上昇温度の代表値を、複数のメッシュ領域のそれぞれの実効温度としてそれぞれ算出する実効温度算出回路と、
複数のメッシュ領域のそれぞれにおける実効温度を用いて、マルチ荷電粒子ビームのうち複数のメッシュ領域の1つである注目メッシュ領域を照射する複数のビームのドーズ量又は注目メッシュ領域内に描画される図形のパターンデータを補正する補正量を算出する補正量算出回路と、
算出された補正量を用いて、試料にパターンを描画する描画機構と、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、マルチビーム描画において、ショット毎かつビーム毎の温度上昇の影響を累積せずに、レジストヒーティングを補正できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。
図2】実施の形態1における成形アパーチャアレイ基板の構成を示す概念図である。
図3】実施の形態1におけるブランキングアパーチャアレイ機構の構成を示す断面図である。
図4】実施の形態1におけるブランキングアパーチャアレイ機構のメンブレン領域内の構成の一部を示す上面概念図である。
図5】実施の形態1の個別ブランキング機構の一例を示す図である。
図6】実施の形態1における描画動作の一例を説明するための概念図である。
図7】実施の形態1におけるマルチビームの照射領域と描画対象画素との一例を示す図である。
図8】実施の形態1におけるマルチビーム描画動作の一例を説明するための図である。
図9】実施の形態1の比較例における1ビームピッチ分の領域への1本のビーム照射に起因する温度分布と温度との関係の一例を示す図である。
図10】実施の形態1におけるマルチビームの同時照射に起因する温度分布と温度との関係の一例を示す図である。
図11】実施の形態1における描画方法の要部工程の一例を示すフローチャート図である。
図12】実施の形態1における処理メッシュの一例を示す図である。
図13】実施の形態1における実効温度の算出方法を説明するための図である。
図14】実施の形態1における実効温度の計算式の一部を説明するための図である。
図15】実施の形態1における熱広がり関数の計算式の一例を説明するための図である。
図16】実施の形態1における実効温度の計算式の他の一部を説明するための図である。
図17】実施の形態1における実効温度の計算式の他の一部を説明するための図である。
図18】実施の形態1における実効温度の計算式の他の一部を説明するための図である。
図19】実施の形態1における実効温度の仮想モデルの一例を説明するための図である。
図20】実施の形態1におけるカーネルの導出過程の一例を説明するための図である。
図21】実施の形態1におけるカーネルの導出過程の他の一例を示す図である。
図22】実施の形態1におけるカーネルの導出過程の他の一例を示す図である。
図23】実施の形態1におけるカーネルを説明するための図である。
図24】実施の形態1におけるステージ速度とカーネルとの関係の一例を示す図である。
図25】実施の形態1におけるビームアレイの移動方向サイズとカーネルとの関係の一例を示す図である。
図26】実施の形態1におけるビームアレイの移動方向サイズとカーネルとの関係の他の一例を示す図である。
図27】実施の形態1におけるテーブルとして定義されたカーネルの一例を示す図である。
図28】実施の形態1における連続関数として定義されたカーネルの式の一例を示す図である。
図29】実施の形態1における実効温度を算出する手法を説明するための図である。
図30】実施の形態1における線幅CDと温度との関係の一例を示す図である。
図31】実施の形態1における線幅CDとドーズ量との関係の一例を示す図である。
図32】実施の形態2における描画装置の構成の一例を示す図である。
図33】実施の形態2における描画方法の要部工程の一例を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、実施の形態では、荷電粒子ビームの一例として、電子ビームを用いた構成について説明する。但し、荷電粒子ビームは、電子ビームに限るものではなく、イオンビーム等の荷電粒子を用いたビームでも構わない。
【0015】
[実施の形態1]
図1は、実施の形態1における描画装置の構成を示す概念図である。図1において、描画装置100は、描画機構150と制御系回路160を備えている。描画装置100は、マルチ荷電粒子ビーム描画装置の一例であると共に、マルチ荷電粒子ビーム露光装置の一例である。描画機構150は、電子鏡筒102(電子ビームカラム)と描画室103を備えている。電子鏡筒102内には、電子銃201、照明レンズ202、成形アパーチャアレイ基板203、ブランキングアパーチャアレイ機構204、縮小レンズ205、制限アパーチャ基板206、対物レンズ207、主偏向器208、及び副偏向器209が配置されている。描画室103内には、XYステージ105が配置される。XYステージ105上には、描画時(露光時)には描画対象基板となるマスク等の試料101が配置される。試料101には、半導体装置を製造する際の露光用マスク、或いは、半導体装置が製造される半導体基板(シリコンウェハ)等が含まれる。また、試料101には、レジストが塗布されている。試料101には、例えば、レジストが塗布された、まだ何も描画されていないマスクブランクスが含まれる。XYステージ105上には、さらに、XYステージ105の位置測定用のミラー210が配置される。
【0016】
制御系回路160は、制御計算機110、メモリ112、偏向制御回路130、デジタル・アナログ変換(DAC)アンプユニット132,134、レンズ制御回路136、ステージ制御機構138、ステージ位置測定器139及び磁気ディスク装置等の記憶装置140,142,144を有している。制御計算機110、メモリ112、偏向制御回路130、レンズ制御回路136、ステージ制御機構138、ステージ位置測定器139及び記憶装置140,142,144は、図示しないバスを介して互いに接続されている。偏向制御回路130には、DACアンプユニット132,134及びブランキングアパーチャアレイ機構204が接続されている。副偏向器209は、4極以上の電極により構成され、電極毎にそれぞれのDACアンプ132を介して偏向制御回路130により制御される。主偏向器208は、4極以上の電極により構成され、電極毎にそれぞれのDACアンプ134を介して偏向制御回路130により制御される。ステージ位置測定器139は、ミラー210からの反射光を受光することによって、レーザ干渉法の原理でXYステージ105の位置を測長する。
【0017】
制御計算機110内には、パターン密度算出部50、ドーズ量算出部52、分割部53、ドーズ量代表値算出部54、取得部56、カーネル決定部57、実効温度算出部58、補正量算出部60、補正部62、照射時間データ生成部72、データ加工部74、転送制御部79、及び描画制御部80が配置される。パターン密度算出部50、ドーズ量算出部52、分割部53、ドーズ量代表値算出部54、取得部56、カーネル決定部57、実効温度算出部58、補正量算出部60、補正部62、照射時間データ生成部72、データ加工部74、転送制御部79、及び描画制御部80といった各「~部」は、処理回路を有する。かかる処理回路は、例えば、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置を含む。各「~部」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いても良いし、或いは異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。パターン密度算出部50、ドーズ量算出部52、分割部53、ドーズ量代表値算出部54、取得部56、カーネル決定部57、実効温度算出部58、補正量算出部60、補正部62、照射時間データ生成部72、データ加工部74、転送制御部79、及び描画制御部80に入出力される情報および演算中の情報はメモリ112にその都度格納される。
【0018】
描画装置100の描画動作は、描画制御部80によって制御される。また、各ショットの照射時間データの偏向制御回路130への転送処理は、転送制御部79によって制御される。
【0019】
また、描画装置100の外部からチップデータが入力され、記憶装置140に格納される。描画データには、チップデータ及び描画条件データが含まれる。チップデータには、図形パターン毎に、例えば、図形コード、座標、及びサイズ等が定義される。また、描画条件データには、多重度を示す情報、及びステージ速度が含まれる。
【0020】
また、記憶装置144には、レジストヒーティングを補正する変調率を算出するための後述する相関データが格納される。
【0021】
ここで、図1では、実施の形態1を説明する上で必要な構成を記載している。描画装置100にとって、通常、必要なその他の構成を備えていても構わない。
【0022】
図2は、実施の形態1における成形アパーチャアレイ基板の構成を示す概念図である。図2において、成形アパーチャアレイ基板203には、縦(y方向)p列×横(x方向)q列(p,q≧2)の穴(開口部)22が所定の配列ピッチでマトリクス状に形成されている。図2の例では、例えば、横縦(x,y方向)に500列×500行の穴22が形成される場合を示している。穴22の数は、これに限るものではない。各穴22は、共に同じ寸法形状の矩形で形成される。或いは、同じ直径の円形であっても構わない。これらの複数の穴22を電子ビーム200の一部がそれぞれ通過することで、マルチビーム20が形成されることになる。言い換えれば、成形アパーチャアレイ基板203は、マルチビーム20を形成する。
【0023】
図3は、実施の形態1におけるブランキングアパーチャアレイ機構の構成を示す断面図である。
図4は、実施の形態1におけるブランキングアパーチャアレイ機構のメンブレン領域内の構成の一部を示す上面概念図である。なお、図3図4において、制御電極24と対向電極26と制御回路41とパッド343の位置関係は一致させて記載していない。ブランキングアパーチャアレイ機構204は、図3に示すように、支持台33上にシリコン等からなる半導体基板を用いたブランキングアパーチャアレイ基板31が配置される。ブランキングアパーチャアレイ基板31の中央部のメンブレン領域330には、図2に示した成形アパーチャアレイ基板203の各穴22に対応する位置にマルチビーム20のそれぞれのビームの通過用の通過孔25(開口部)が開口される。そして、複数の通過孔25の各通過孔25について、当該通過孔25を挟んで対向する位置に制御電極24と対向電極26の組(ブランカー:ブランキング偏向器)がそれぞれ配置される。また、各通過孔25の近傍のブランキングアパーチャアレイ基板31内部には、各通過孔25用の制御電極24に偏向電圧を印加する制御回路41(ロジック回路;セル)が配置される。各ビーム用の対向電極26は、グランドに接続される。
【0024】
また、図4に示すように、各制御回路41は、制御信号用のnビット(例えば10ビット)のパラレル配線が接続される。各制御回路41は、照射時間制御信号(データ)用のnビットのパラレル配線の他、クロック信号、ロード信号、ショット信号および電源用の配線等が接続される。これらの配線等はパラレル配線の一部の配線を流用しても構わない。マルチビーム20を構成するそれぞれのビーム毎に、制御電極24と対向電極26と制御回路41とによる個別ブランキング機構47が構成される。また、実施の形態1では、データ転送方式として、例えば、シフトレジスタ方式を用いる。シフトレジスタ方式では、マルチビーム20は複数のビーム毎に複数のグループに分割され、同じグループ内の複数のビーム用の複数のシフトレジスタは、直列に接続される。具体的には、メンブレン領域330にアレイ状に形成された複数の制御回路41は、例えば、同じ行或いは同じ列の中で所定のピッチでグループ化される。同じグループ内の制御回路41群は、図4に示すように、直列に接続される。そして、グループ毎に配置されたパッド343からの信号がグループ内の制御回路41に伝達される。
【0025】
図5は、実施の形態1の個別ブランキング機構の一例を示す図である。図5において、制御回路41内には、アンプ46(スイッチング回路の一例)が配置される。図5の例では、アンプ46の一例として、スイッチング回路となるCMOS(Complementary MOS)インバータ回路が配置される。CMOSインバータ回路の入力(IN)には、閾値電圧よりも低くなるL(low)電位(例えばグランド電位)と、閾値電圧以上となるH(high)電位(例えば、1.5V)とのいずれかが制御信号として印加される。実施の形態1では、CMOSインバータ回路の入力(IN)にL電位が印加される状態では、制御回路41に印加されるCMOSインバータ回路の出力(OUT)は正電位(Vdd)となり、対向電極26のグランド電位との電位差による電界により対応ビーム20を偏向し、制限アパーチャ基板206で遮蔽することでビームOFFになるように制御する。一方、CMOSインバータ回路の入力(IN)にH電位が印加される状態(アクティブ状態)では、CMOSインバータ回路の出力(OUT)はグランド電位となり、対向電極26のグランド電位との電位差が無くなり対応ビーム20を偏向しないので制限アパーチャ基板206を通過することでビームONになるように制御する。かかる偏向によってブランキング制御される。
【0026】
そして、各個別ブランキング機構47が、各ビーム用に転送された照射時間制御信号に沿って、図示しないカウンタ回路を用いて当該ショットの照射時間をビーム毎に個別に制御する。
【0027】
次に、描画機構150の動作の具体例について説明する。電子銃201(放出源)から放出された電子ビーム200は、照明レンズ202によりほぼ垂直に成形アパーチャアレイ基板203全体を照明する。成形アパーチャアレイ基板203には、矩形の複数の穴22(開口部)が形成され、電子ビーム200は、すべての複数の穴22が含まれる領域を照明する。複数の穴22の位置に照射された電子ビーム200の各一部が、かかる成形アパーチャアレイ基板203の複数の穴22をそれぞれ通過することによって、例えば矩形形状のマルチビーム(複数の電子ビーム)20が形成される。かかるマルチビーム20は、ブランキングアパーチャアレイ機構204のそれぞれ対応するブランカー(第1の偏向器:個別ブランキング機構47)内を通過する。かかるブランカーは、それぞれ、設定された描画時間(照射時間)の間、ビームがON状態になるように個別に通過するビームをブランキング制御する。
【0028】
ブランキングアパーチャアレイ機構204を通過したマルチビーム20は、縮小レンズ205によって、縮小され、制限アパーチャ基板206に形成された中心の穴に向かって進む。ここで、ブランキングアパーチャアレイ機構204のブランカーによって偏向された電子ビームは、制限アパーチャ基板206の中心の穴から位置がはずれ、制限アパーチャ基板206によって遮蔽される。一方、ブランキングアパーチャアレイ機構204のブランカーによって偏向されなかった電子ビームは、図1に示すように制限アパーチャ基板206の中心の穴を通過する。このように、制限アパーチャ基板206は、個別ブランキング機構47によってビームOFFの状態になるように偏向された各ビームを遮蔽する。そして、ビームONになってからビームOFFになるまでに形成された、制限アパーチャ基板206を通過したビームにより、1回分のショットの各ビームが形成される。制限アパーチャ基板206を通過したマルチビーム20は、対物レンズ207により焦点が合わされ、所望の縮小率のパターン像となり、主偏向器208及び副偏向器209によって、制限アパーチャ基板206を通過したマルチビーム20全体が同方向にまとめて偏向され、各ビームの試料101上のそれぞれの照射位置に照射される。また、例えばXYステージ105が連続移動している時、ビームの照射位置がXYステージ105の移動に追従するように主偏向器208によってマルチビーム20を偏向することによるトラッキング制御が行われる。一度に照射されるマルチビーム20は、理想的には成形アパーチャアレイ基板203の複数の穴22の配列ピッチに上述した所望の縮小率を乗じたピッチで並ぶことになる。
【0029】
図6は、実施の形態1における描画動作の一例を説明するための概念図である。図6に示すように、試料101の描画領域30は、例えば、y方向に向かって所定の幅で短冊状の複数のストライプ領域32に仮想分割される。まず、XYステージ105を移動させて、第1番目のストライプ領域32の左端、或いはさらに左側の位置に一回のマルチビーム20のショットで照射可能な照射領域34が位置するように調整し、描画が開始される。第1番目のストライプ領域32を描画する際には、XYステージ105を例えば-x方向に移動させることにより、相対的にx方向へと描画を進めていく。XYステージ105は例えば等速で連続移動させる。第1番目のストライプ領域32の描画終了後、ステージ位置を-y方向に移動させて、今度は、XYステージ105を例えばx方向に移動させることにより、-x方向に向かって同様に描画を行う。かかる動作を繰り返し、各ストライプ領域32を順に描画する。交互に向きを変えながら描画することで描画時間を短縮できる。但し、かかる交互に向きを変えながら描画する場合に限らず、各ストライプ領域32を描画する際、同じ方向に向かって描画を進めるようにしても構わない。XYステージ105を等速で移動させる場合において、ストライプ毎に連続移動速度が異なっていてもよい。1回のショットでは、成形アパーチャアレイ基板203の各穴22を通過することによって形成されたマルチビームによって、最大で各穴22と同数の複数のショットパターンが一度に形成される。
【0030】
図7は、実施の形態1におけるマルチビームの照射領域と描画対象画素との一例を示す図である。図7において、ストライプ領域32は、例えば、マルチビーム20のビームサイズでメッシュ状の複数のメッシュ領域に分割される。かかる各メッシュ領域が、描画対象の画素36(単位照射領域、照射位置、或いは描画位置)となる。描画対象の画素36のサイズは、ビームサイズに限定されるものではなく、ビームサイズとは関係なく任意の大きさで構成されるものでも構わない。例えば、ビームサイズの1/a(aは1以上の整数)のサイズで構成されても構わない。図7の例では、試料101の描画領域30が、例えばy方向に、1回のマルチビーム20の照射で照射可能な照射領域34(ビームアレイ領域)のサイズと実質同じ幅サイズで複数のストライプ領域32に分割された場合を示している。矩形の照射領域34のx方向のサイズは、x方向のビーム数×x方向のビーム間ピッチで定義できる。矩形の照射領域34のy方向のサイズは、y方向のビーム数×y方向のビーム間ピッチで定義できる。図7の例では、例えば500列×500行のマルチビームの図示を8列×8行のマルチビームに省略して示している。そして、照射領域34内に、1回のマルチビーム20のショットで照射可能な複数の画素28(ビームの描画位置)が示されている。試料面上における隣り合う画素28間のピッチがマルチビーム20の各ビーム間のピッチとなる。x,y方向にビームピッチのサイズで囲まれた矩形の領域で1つのサブ照射領域29(ピッチセル)を構成する。各サブ照射領域29には、1つの画素28が含まれる。図7の例では、例えば、各サブ照射領域29の左上の角部の画素がビームの描画位置となる画素28として示されている。各サブ照射領域29は、例えば10×10画素で構成される。図7の例では、例えば10×10画素の各サブ照射領域29を、例えば4×4画素に省略して示している。
【0031】
図8は、実施の形態1におけるマルチビーム描画動作の一例を説明するための図である。図8の例では、試料101面上の各サブ照射領域29内を10本の異なるビームで描画する場合を示している。また、図8の例では、各サブ照射領域29内の1/10(照射に用いられるビーム本数分の1)の領域を描画する間に、XYステージ105が、例えば、25ビームピッチ分の距離Lだけ移動する速度で、連続移動する描画動作を示している。図8の例に示す描画動作では、例えば、XYステージ105が25ビームピッチ分の距離Lを移動する間に副偏向器209によって順に照射位置(画素36)をシフトさせながらショットサイクル時間ttrk-cycleでマルチビーム20を10ショットすることにより同じサブ照射領域29内の異なる10個の画素を描画(露光)する場合を示している。かかる10個の画素を描画(露光)する間、照射領域34がXYステージ105の移動によって試料101との相対位置がずれないように、主偏向器208によってマルチビーム20全体を一括偏向することによって、照射領域34をXYステージ105の移動に追従させる。言い換えれば、トラッキング制御が行われる。よって、1回あたりのトラッキング制御中に主偏向器208によって一括偏向される距離Lがトラッキング距離となる。
【0032】
1回のトラッキングサイクルが終了するとトラッキングリセットして、前回のトラッキング開始位置に戻る。なお、各サブ照射領域29の上から1番目の画素行の描画は終了しているので、トラッキングリセットした後に、次回のトラッキングサイクルにおいてまず副偏向器209は、各サブ照射領域29のまだ描画されていない例えば上から2行目の画素列を描画するようにビームの描画位置を合わせる(シフトする)ように偏向する。このように、トラッキングリセット毎に、次に描画する画素列を変えていく。10回のトラッキング制御を行う間に、各サブ照射領域29内の各画素36は1回ずつ描画されることになる。ストライプ領域32の描画中、かかる動作を繰り返すことで、図6に示すように、照射領域34a~34oといった具合に順次照射領域34の位置が移動していき、当該ストライプ領域32の描画を行っていく。
【0033】
図8の例では、幅Wの照射領域34の右下角部に位置した試料面上のサブ照射領域29が、2回目のトラッキング制御では、照射領域34の右下角部から左方向に距離Lだけ移動した位置になる。よって、1回目のトラッキング制御で照射領域34の右下角部に位置したサブ照射領域29は、2回目のトラッキング制御では、照射領域34の右下角部から左方向に距離Lだけ離れた位置の別のビームによって描画される。ここでは、右下角部のビームから、-x方向に、例えば、25個離れたビームによって描画されることになる。
【0034】
例えば、ステージ1パスあたり多重度2に設定される描画処理では、各サブ照射領域29内の各画素36は、20回のトラッキング制御によって、2回ずつ描画され得る。
【0035】
図9は、実施の形態1の比較例における1ビームピッチ分の領域への1本のビーム照射に起因する温度分布と温度との関係の一例を示す図である。図9において、縦軸に温度を示し、横軸に温度分布を示す。図9に示すように、1本のビーム照射に起因する温度分布は、裾野領域が広い。よって、広い範囲に影響が及ぶ。しかしながら、裾野領域への影響としては、1本のビームでの温度上昇はたかだか0.01℃以下と小さい。
【0036】
図10は、実施の形態1におけるマルチビームの同時照射に起因する温度分布と温度との関係の一例を示す図である。図10において、縦軸に温度を示し、横軸に温度分布を示す。1本のビームでの温度上昇はたかだか0.01℃以下だが、例えば、500×500=25万本のビームが同時に照射されると、図10に示すように裾野領域において各ビームによる温度上昇が重なることになる。その結果、例えば、500×500=25万本のビームが同時に照射されると、裾野領域において有意な温度上昇になる。
【0037】
シングルビームによる1本ビーム描画でのヒーティング効果予測・補正に関する技術は知られているが例えば25万本の複数ビームが同時に、1ステージパス当たりに何回もショットされるマルチビーム描画方式におけるヒーティング効果補正については前例がなかった。シングルビームと同じように例えば25万本の各ビームが作る熱を計算するのは計算ボリュームから現実的でない。
【0038】
マルチビームでは電流密度Jが例えばVSB方式のシングルビームに比べて極めて小さいため温度はゆっくり上昇する。そして、その間1ショットによる温度分布は数十μm拡散してしまっている。そのため、ストライプ内のショットデータ及びドーズデータを分割してある程度まとめて計算しても、十分精度が得られる。また、上述したように、マルチビーム描画では、ラスタスキャン方式を用いるため、時間により位置が決まる。よって、ドーズデータと描画速度(ステージ速度またはトラッキングサイクル時間)が決まれば、上昇温度が決まる。位置と時間の両方が必要なVSB方式の描画より簡易な補正が可能となる。
【0039】
そこで、実施の形態1では、ストライプ領域32のドーズ情報を、温度を求めるべき注目メッシュを含むあるNx×Ny個のピクセル情報に振り分ける。注目メッシュに対し、複数回に分けられた各回のビーム照射時の温度を計算する。そして、その統計値(例えば平均値)を実効的な温度として補正に用いる。以下、具体的に説明する。
【0040】
図11は、実施の形態1における描画方法の要部工程の一例を示すフローチャート図である。図11において、実施の形態1における描画方法は、パターン密度算出工程(S102)と、ドーズ量算出工程(S104)と、処理メッシュ分割工程(S106)と、ドーズ量代表値算出工程(S108)と、ステージ速度及びビームアレイサイズ入力工程(S109)と、カーネル決定工程(S110)と、実効温度算出工程(S112)と、補正量算出工程(S114)と、補正工程(S118)と、照射時間データ生成工程(S120)と、データ加工工程(S122)と、描画工程(S124)と、いう一連の各工程を実施する。
【0041】
まず、ストライプ領域32毎に、記憶装置140から描画データを読み出す。
【0042】
パターン密度算出工程(S102)として、パターン密度算出部50は、対象のストライプ領域32内の画素36毎にパターン密度ρ(パターンの面積密度)を算出する。パターン密度算出部50は、ストライプ領域32毎に、算出された各画素36のパターン密度ρを使ってパターン密度マップを作成する。各画素36のパターン密度は、パターン密度マップの各要素として定義される。作成されたパターン密度マップは記憶装置144に格納される。
【0043】
ドーズ量算出工程(S104)として、ドーズ量算出部52は、画素36毎に、当該画素36に照射するためのドーズ量(照射量)を演算する。ドーズ量は、例えば、予め設定された基準照射量Dbaseに近接効果補正照射係数Dpとパターン密度ρとを乗じた値として演算すればよい。このように、ドーズ量は、画素36毎に算出されたパターンの面積密度に比例して求めると好適である。近接効果補正照射係数Dpについては、描画領域(ここでは、例えばストライプ領域32)を所定のサイズでメッシュ状に複数の近接メッシュ領域(近接効果補正計算用メッシュ領域)に仮想分割する。近接メッシュ領域のサイズは、近接効果の影響範囲の1/10程度、例えば、1μm程度に設定すると好適である。そして、記憶装置140から描画データを読み出し、近接メッシュ領域毎に、当該近接メッシュ領域内に配置されるパターンのパターン面積密度ρ’を演算する。
【0044】
次に、近接メッシュ領域毎に、近接効果を補正するための近接効果補正照射係数Dpを演算する。ここで、近接効果補正照射係数Dpを演算するメッシュ領域のサイズは、パターン面積密度ρ’を演算するメッシュ領域のサイズと同じである必要は無い。また、近接効果補正照射係数Dpの補正モデル及びその計算手法は従来のシングルビーム描画方式で使用されている手法と同様で構わない。
【0045】
そして、ドーズ量算出部52は、ストライプ領域32毎に、算出された各画素36のドーズ量を使ってドーズマップ(1)を作成する。各画素36のドーズ量は、ドーズマップ(1)の各要素として定義される。上述した例では、基準照射量Dbaseを乗じた絶対値としてドーズ量を算出する場合を示したが、これに限るものではない。基準照射量Dbaseを1と仮定してドーズ量を基準照射量Dbaseに対する相対値として算出しても良い。言い換えれば、近接効果補正照射係数Dpとパターン密度ρとを乗じた係数値としてドーズ量を算出する場合であっても良い。作成されたドーズマップ(1)は記憶装置144に格納される。
【0046】
処理メッシュ分割工程(S106)として、分割部53(分割処理回路)は、試料101の描画領域を、描画進行方向及び描画進行方向と線形独立な方向で複数の処理メッシュ39(メッシュ領域)に分割する。言い換えれば、分割部53(分割処理回路)は、試料の描画領域が試料面上でのマルチ荷電粒子ビームのビームアレイ領域のy方向(第1の方向)のサイズでy方向に分割された複数のストライプ領域の各ストライプ領域内を、y方向と各ストライプ領域に沿ったステージの移動方向(-x方向)と平行なx方向(第2の方向)で複数のメッシュ領域に分割する。具体的には、分割部53(分割処理回路)は、各ストライプ領域32内を例えばy方向(第1の方向)にビームアレイ領域のサイズWの1/Nyのサイズで、y方向と直交するx方向(第2の方向)とにそれぞれビームアレイ領域のサイズWの1/Nxのサイズ(Nx、Nyは共に2以上の整数)で複数の処理メッシュ(メッシュ領域)に分割する。
【0047】
図12は、実施の形態1における処理メッシュの一例を示す図である。上述したように、試料101の描画領域30は、試料101面上でのマルチビーム20の照射領域34(ビームアレイ領域)のサイズWで例えばy方向に複数のストライプ領域32に分割される。そして、各ストライプ領域32は、y方向に照射領域34(ビームアレイ領域)のサイズWの1/Nyのサイズ(Nyは2以上の整数)で、かつ、x方向に照射領域34(ビームアレイ領域)のサイズWの1/Nxのサイズ(Nxは2以上の整数)で複数の処理メッシュ(メッシュ領域)39に分割される。各処理メッシュ39のx方向のサイズsx及びy方向のサイズsyは、ビームピッチサイズのサブ照射領域29よりも大きいサイズで構成される。図12の例では、各処理メッシュ39のx方向のサイズsx及びy方向のサイズsyが同じサイズsとして示している。
【0048】
実施の形態1では、処理メッシュ39のサイズsは、例えば、トラッキング距離Lに設定されると好適である。トラッキング距離Lは、試料101面上でのビーム間ピッチサイズのk倍(kは自然数)である。トラッキング距離Lは、上述した例では、例えば、ビーム間ピッチサイズの25倍に設定される。よって、処理メッシュ39のサイズsは、例えば、25ビームピッチ分のサイズに設定されると好適である。このように、処理メッシュ39のサイズsは、試料101面上でのビーム間ピッチサイズよりも大きいサイズである。ましてや処理メッシュ39は、各ビームが照射される単位領域となる画素36に対して十分大きな領域となる。
【0049】
ドーズ量代表値算出工程(S108)として、ドーズ量代表値算出部54(ドーズ量統計値算出回路)は、マルチビーム20で照射される試料101の描画領域が、描画進行方向及び描画進行方向と線形独立な方向で分割された複数の処理メッシュ39(メッシュ領域)のそれぞれにおいて、当該処理メッシュ39内を照射するビームのドーズ量の代表値をドーズ量代表値Dとして算出する。言い換えれば、ドーズ量代表値算出部54(ドーズ量統計値算出回路)は、分割された処理メッシュ39毎に、当該処理メッシュ39内を照射する複数のビームによる複数のドーズ量の代表値をドーズ量代表値Dとして算出する。処理メッシュ39内には、複数のサブ照射領域29が含まれる。上述したように各サブ照射領域29は複数の異なるビームで照射される。上述した例では、例えば、x方向に25ビームピッチずつ離れた10本の異なるビームで照射される、また、処理メッシュ39内には、複数の画素36が含まれる。ここでは、処理メッシュ39内のすべての画素36に定義されるドーズ量の代表値(ドーズ量代表値Dij)を算出する。代表値として、例えば、平均値、最大値、最小値、或いは中央値が挙げられる。ここでは、ドーズ量代表値Dijとして、例えば、平均値である平均ドーズ量を算出する。ドーズ量代表値算出部54は、算出された各処理メッシュ39のドーズ量代表値Dijを使ってドーズ量代表値マップを作成する。各処理メッシュ39のドーズ量は、ドーズ量代表値マップの各要素として定義される。iは、処理メッシュ39のx方向のインデックスを示す。jは、処理メッシュ39のy方向のインデックスを示す。作成されたドーズ量代表値マップは、記憶装置144に格納される。
【0050】
実施の形態1では、後述する実効温度算出工程(S112)において説明するように各処理メッシュ39内の実効温度を算出する。まず、かかる実効温度について説明する。
【0051】
ビームアレイ領域に対応する処理領域内の各処理メッシュ39へのビーム照射による熱が複数の処理メッシュ39の1つである注目メッシュ領域に与える上昇温度の計算処理を実行する。かかる計算処理は、処理メッシュ39毎のドーズ量代表値と、処理メッシュ39が作る熱広がりを表す熱広がり関数とを用いた畳み込み処理によって行われる。
【0052】
ストライプ領域上においてx方向にビームアレイ領域に対応する処理領域の位置をずらしながら上述した計算処理を繰り返す繰り返し処理を行い、かかる繰り返し処理を、処理メッシュ39がかかる処理領域のx方向の一方の端から他方の端の位置になるまで複数回実施することで得られた複数の上昇温度の代表値を注目メッシュ領域の実効温度としてそれぞれ算出する。具体的には、処理メッシュ39毎に、処理メッシュ39毎のドーズ量統計値Dijと、各メッシュが作る熱広がりを表す熱広がり関数PSFとを用いて実効温度を算出する。熱広がり関数PSFは、例えば、一般的な熱拡散方程式として、次の式(1)で定義できる。
【0053】
【数1】
【0054】
式(1)から求められる石英ガラス基板表面温度を表す関数を用いることができる。ここで、λは温度が拡散する物質の熱拡散率を表す。上式の解の一例については式(3-1)の説明として後述する。
ドーズ量代表値Dijと熱広がり関数PSFとを用いて、例えば、Nx×Ny個の処理メッシュ39で構成されるビームアレイ領域と同じサイズの矩形領域とした処理領域内の各処理メッシュ39へのビーム照射による熱が、注目メッシュ領域に与える上昇温度を計算する畳み込み処理を、対象のストライプ領域32上において矩形領域をx方向に処理メッシュ39のサイズsで位置をずらしながら注目メッシュ領域が矩形領域に含まれるまで実施する処理を行う。かかる処理を、注目メッシュ領域がx方向における矩形領域内の一方の端の位置になるまでから他方の端の位置になるまでのN回の処理を実施する。そして、かかるN回の畳み込み処理の結果の統計値を実効温度T(k,l)として算出する。
【0055】
図13は、実施の形態1における実効温度の算出方法を説明するための図である。実効温度T(k,l)は、図13に示す式(2)で定義できる。ストライプ領域32内には、x方向にM個、y方向にN個の処理メッシュ39が配置される。式(2)では、ストライプ領域32内の複数の処理メッシュ39のうち、y方向にl行目、x方向にk列目の処理メッシュ39を注目メッシュ領域として示している。
【0056】
式(2)において、iは、ドーズ量統計値マップのうち、x方向のインデックスを示す。ストライプ領域32の左端の処理メッシュ39のx方向のインデックスi=0として定義される。
jは、ドーズ量統計値マップのうち、y方向のインデックスを示す。ストライプ領域32の最下部の処理メッシュ39のy方向のインデックスj=0として定義される。
Nは、実効温度計算のために用いる入力ドーズマップの縦方向(y方向)のメッシュ数を示す。
Mは、実効温度計算のために用いる入力ドーズマップの横方向(x方向)のメッシュ数を示す。
(k,l)は、(M×N)個の処理メッシュ内の実効温度Tが計算される処理メッシュ(注目メッシュ領域)のインデックス(参照番号)を示す。
Dijは、:ドーズ量代表値マップのうち、インデックス(k,l)に割り当てられた処理メッシュ39のドーズ量代表値を示す。(μC/cm^2)
mは、ビームアレイ領域(N×N、ここではNx=Ny=N)が注目メッシュ(k,l)を通過するまでに行われるl-N+1~l番目のビーム照射番号を示す。処理メッシュサイズsをトラッキング距離Lに設定した場合、mはビームアレイ領域が注目メッシュ(k,l)を通過するまでに行われるl-N+1~l番目のトラッキングリセット番号と一致する。m=l-N+1のとき、(N×N)のビームアレイ領域の右端に注目メッシュが位置する。m=lのとき、左端に注目メッシュが位置する。
nは、0番目からm番目のビーム照射番号を示す。処理メッシュサイズsをトラッキング距離Lに設定した場合、nは、0番目からm番目のトラッキングリセット番号と一致する。
1回目のトラッキング制御(トラッキングサイクル)は、まだトラッキングリセットを行っていないので、トラッキングリセット番号はゼロになる。2回目のトラッキング制御は、1回トラッキングリセットを行ったので、トラッキングリセット番号は1になる。
PSF(n,m,k-i,l-j)は、熱広がり関数を示す。
【0057】
図14は、実施の形態1における実効温度の計算式の一部を説明するための図である。図14において、式(2)のうち、点線で囲まれた部分が畳み込み処理の計算部分を示す。式(2)の畳み込み処理の計算部分では、N×N個の処理メッシュ39で構成されるビームアレイ領域と同じサイズの矩形領域35内の各メッシュ領域へのビーム照射による熱が、インデックス(k,l)の注目メッシュ領域に与える上昇温度を計算する畳み込み処理を行う。矩形領域35の左端が処理メッシュ39のn列目、右端が処理メッシュ39のn+N-1列目となる矩形領域35を用いる。よって、矩形領域35内には、x方向にn列目からn+N-1列目、y方向に0行目からN-1行目に相当するN×N個の処理メッシュ39が配置される。
【0058】
図15は、実施の形態1における熱広がり関数の計算式の一例を説明するための図である。熱広がり関数PSF(n,m,k-i,l-j)は、図15に示す式(3-1)で定義される。式(3-1)はビーム照射により基板表面にメッシュサイズにRgを乗じた体積に一様な熱が付与された場合の初期条件をのもと、XY方向は無限遠、Z方向には基板深さ方向に半無限遠の境界条件で前記熱伝導方程式を解くことで求めることができる。
熱広がり関数PSF(n,m,k-i,l-j)内の式(2)と重複する記号は、式(2)と同様の記号を示す。図15に示す熱広がり関数PSF(n,m,k-i,l-j)は、XYステージ105が描画方向となる例えばx方向の逆方向(-x方向)に一定速度で移動する場合を定義する。図15に示すように、熱広がり関数PSF(n,m,k-i,l-j)は、XYステージ105の速度vから求まるトラッキングサイクル時間を用いて定義される。
【0059】
式(3-1)において、Rgは、50kVの電子ビームの石英内での飛程を示す。例えば、飛程Rg=(0.046/ρ)E1.75を用いる。
ρは、基板(石英)の密度(例えば、2.2 g/cm^3)を示す。
σn,mは、n番目からm番目までに行われたトラッキングリセットの回数(m-n)で決まる関数を示す。関数σn,mは、式(3-3)に定義される。
関数Aは、式(3-2)に定義される。
式(3-2)において、Vは、電子ビームの加速電圧を示す。
Cpは、基板(石英)の比熱(例:0.77 J/g/K)を示す。
式(3-3)において、λは、基板(石英)の熱拡散率(例:0.0081 cm^2/sec)を示す。
(m-n)は、n番目からm番目までに行われたトラッキングリセットの回数を示す。
trk-cycleは、トラッキングサイクル時間を示す。トラッキングサイクル時
間ttrk-cycleは、式(3-4)で示す。
stageは、ステージ速度を示す。
通常マルチビーム描画装置ではステージパス内であるステージ速度vstage=(一定)に、トラッキング間の時間でショット(先の例だと10ショット)が終わるように最適化される。トラッキング距離L(=W/N)をステージ速度で追いかけることになるため、トラッキングサイクル時間ttrk-cycleは、式(3-4)で定義できる。
【0060】
図16は、実施の形態1における実効温度の計算式の他の一部を説明するための図である。図14において説明した畳み込み処理について、矩形領域35をストライプ領域32の左端(n=0)からx方向に処理メッシュ39のサイズsで位置をずらしながらインデックス(k,l)の注目メッシュ領域が矩形領域35に含まれる(n=mになる)まで実施する。かかる処理を図16に示す式(2)の点線で囲まれた計算部分が示す。図16の例では、インデックス(k,l)の注目メッシュ領域が矩形領域35の右端に位置する状態まで矩形領域35を移動させた場合を示している。かかる状態では、矩形領域35の左端はk-N+1列目、右端はk列目に位置することになる。
【0061】
図17は、実施の形態1における実効温度の計算式の他の一部を説明するための図である。
図18は、実施の形態1における実効温度の計算式の他の一部を説明するための図である。図18では、図17の計算部分が行う処理を具体的に式で示している。
図16に示した処理を、図17に示すように、注目メッシュ領域がx方向における矩形領域35内の一方の端である右端の位置になるまでから、他方の端である左端の位置になるまでのN回の処理を実施する。言い換えれば、図18の式(4)に示すように、n=0からn=m=k-N+1までの図16に示した処理と、n=0からn=m=k-N+2までの図16に示した処理と、n=0からn=m=k-N+3までの図16に示した処理と、・・・、n=0からn=m=kまでの図16に示した処理と、のN回の処理を行い、それらの合計を算出する。矩形領域35は、x方向にN個の処理メッシュ39が配置されるので、注目メッシュ領域が矩形領域35の右端から左端になるまでにはN回の処理となる。かかる処理を図17に示す式(2)の点線で囲まれた計算部分が示す。そして、N回の畳み込み処理の結果の統計値を実効温度T(k,l)として算出する。かかる処理を図18に示す式(2)の点線で囲まれた計算部分が示す。式(2)の例では、N回の畳み込み処理の合計をNで割ることにより得られる平均値を実効温度T(k,l)として算出する場合を示している。
なお、矩形領域の分割数と、計算処理回数は必ずしも一致しなくてもよい。すなわち、N個に分割してNより小さい計算処理回数(ダウンサンプリング)としてもよい。また、N個に分割してNより大きい数のメッシュに配分(アップサンプリング)してもよい。
【0062】
実効温度T(k,l)は、平均値に限るものではなく、N回の畳み込み処理の結果の最大値、最小値、或いは中央値であっても構わない。より望ましくは中央値が良い。さらに望ましくは平均値が良い。
【0063】
注目メッシュ領域の位置を変えて、処理メッシュ39の各位置(i,j)について、実効温度T(i,j)を求める。
【0064】
以上のように、ショット毎かつビーム毎の温度上昇を計算するのではなく、処理メッシュ39のドーズ量代表値Dijを使って処理メッシュ39単位での実効温度T(i,j)が計算される。実効温度T(i,j)は、ショット毎のビーム照射の単位領域となる画素36に比べて十分大きな処理メッシュ39毎に計算できる。よって、計算量を大幅に低減できる。
【0065】
以上の手法により実効温度Tを都度計算しても好適であるが、実施の形態1では、かかる実効温度Tの計算の仕方について、さらに改良する。
【0066】
図19は、実施の形態1における実効温度の仮想モデルの一例を説明するための図である。図19において、位置座標(0,0)に1μCの電荷の点照射を、マルチビーム描画方式で行った場合に、任意の位置(x,y)に観測される実効温度(BAA領域が(x,y)領域を通過する間の平均温度)を計算することでカーネルを求める。図19の位置座標(0,0)の下のグラフでは縦軸に電荷量を示す。横軸に時間tを示す。また、任意の位置(x,y)の下のグラフでは縦軸に温度を示す。横軸に時間tを示す。
【0067】
図19の位置座標(0,0)の下のグラフに示すように、x方向のサイズLxのビームアレイ領域がステージ速度Vstageで連続的に線形に移動しつつ、連続的に線形に電荷を照射することを仮定する。さらにビームアレイ領域の右端で照射を開始し、左端で照射を終了することを仮定する。かかる2つの仮定のもと、任意の位置(x,y)の実効温度を近似的に求める。図19の位置座標(0,0)の下のグラフは、ビームアレイ領域が通過する時間で順次照射する状態を示す。任意の位置(x,y)の下のグラフに示すように、ビームアレイ領域が位置座標(0,0)に点照射を行っている時間(t=Lx/Vstage)及びその前後で温度上昇が生じる。実効温度は、ビームアレイ領域が通過している時刻内の温度平均を示す。
【0068】
図20は、実施の形態1におけるカーネルの導出過程の一例を説明するための図である。ストライプ領域32内には、x方向にM個、y方向にNy個の処理メッシュ39が配置される。ストライプ領域32内のy方向の中間位置をj=0とすると、ストライプ領域32内には、y方向に、-Ny/2から+Ny/2までの処理メッシュ39が配置される。また、ストライプ領域32内のx方向の中央部の位置をi=0とすると、ストライプ領域32内には、x方向に、例えば-∞からMまでの処理メッシュ39が配置される。式(5)では、ストライプ領域32内の複数の処理メッシュ39のうち、y方向にl行目、x方向にk列目の座標処理メッシュ39を注目メッシュ領域として示している。
【0069】
また、図20において、処理メッシュ39のx方向のサイズsxは、x方向のビームアレイサイズLxをビームアレイ内のx方向のメッシュ数Nxで割った値になる。また、処理メッシュ39のy方向のサイズsyは、y方向のビームアレイサイズLyをビームアレイ内のy方向のメッシュ数Nyで割った値になる。
【0070】
ここで、i=0及びj=0の位置の処理メッシュに1μCの電荷を点照射することを仮定する。このときの位置(0,0)の処理メッシュのドーズ量代表値Dijは、単位面積あたりの平均値とすると、Dij=1/(sxsy)となり、i=0及びj=0以外の処理メッシュのドーズ量代表値はゼロとする。かかる場合の実効温度T(k,l)をカーネルT(k,l)として定義する。カーネルT(k,l)は、図20に示す式(5)で定義できる。上述したようにインデックスの設定の仕方を変更したため、式(5)の右辺の積分範囲が式(2)の右辺の積分範囲から変換されている。
【0071】
ここで、Nx,Nyを無限大∞とすることを仮定する。言い換えれば、処理メッシュのサイズを無限小にすることを仮定する。
【0072】
図21は、実施の形態1におけるカーネルの導出過程の他の一例を示す図である。処理メッシュのサイズsx,syを無限小にすることで、式(5)は、式(6-1)に示すように変換できる。但し、関数Cは、式(6-2)に示す。関数Eは、式(6-3)に示す。ここで、熱広がり関数PSFは、上述した式(3-1)から式(3-3)で示す。トラッキングサイクル時間 trkcycle は、x方向の処理メッシュサイズsxをステージ速度Vstageで割った値で定義できる。また、処理メッシュサイズsxは、ビームアレイ領域のx方向サイズLxをビームアレイ領域内のx方向のメッシュ数Nxで割った値である。これは言い換えると、仮想的なトラッキング距離Lx/Nxを定義していることを意味している。よって、式(3-3)の関数σn,mは、式(6-4)に変換できる。
【0073】
図22は、実施の形態1におけるカーネルの導出過程の他の一例を示す図である。上述したように、ビームアレイ領域と重なる処理領域内のメッシュ数Nx,Nyを無限大にすることを仮定する。言い換えれば、処理メッシュ39のサイズを無限小にすることを仮定する。
そして、図22において、ビームアレイ領域と同じサイズの処理領域内のビーム進行方向(x方向)におけるメッシュ領域を表す参照番号iをビームアレイ領域と重なる処理領域内のビーム進行方向におけるメッシュ領域数Nxで割った値にビーム進行方向におけるビームアレイ領域のサイズLxを乗じた量を、Nxを無限大の極限にとることで変換される値を積分変数ωと定義する。
【0074】
また、図22において、ビームアレイ領域と同じサイズの処理領域内のy方向におけるメッシュ領域を表す参照番号jをビームアレイ領域と重なる処理領域内のy方向におけるメッシュ領域数Nyで割った値にy方向におけるビームアレイ領域のサイズLyを乗じた量を、Nyを無限大の極限にとることで変換される値を積分変数ξと定義する。
【0075】
また、図22において、Nx×Nyのサイズで構成される処理領域が座標(k,l)の注目メッシュを通過するまでに順次Nx回行われる、m=k-Nx+1、k-Nx、・・・kのビーム照射番号mをメッシュ領域数Nxで割った値にビーム進行方向(x方向)におけるビームアレイ領域のサイズLxを乗じた量を、Nxを無限大の極限にとることで変換される値を積分変数uと定義する。
【0076】
また、図22において、m番目、m-1番目、m-2番目、・・・と順次行われるビーム照射番号nをメッシュ領域数Nxで割った値にビーム進行方向(x方向)におけるビームアレイ領域のサイズLxを乗じた量を、Nxを無限大の極限にとることで変換される値を積分変数vと定義する。
【0077】
これにより、カーネルK(k,l)を定義した式(6―1)の右辺の項のうちLx/Nxをi=nからn+Nx-1まで合計する畳み込み処理部分は、式(7-1)に示すように、vからv+Lxまで積分変数ωで積分する積分操作を示す項成分として定義できる。
【0078】
また、カーネルK(k,l)を定義した式(6―1)の右辺の項のうちLy/Nyをj=-Ly/2から+Ly/2まで合計する畳み込み処理部分は、式(7-2)に示すように、-Ly/2から+Ly/2まで積分変数ξで積分する積分操作を示す項成分として定義できる。
【0079】
また、カーネルK(k,l)を定義した式(6―1)の右辺の項のうちLx/Nxをn=-∞からmまで合計する畳み込み処理部分は、式(7-3)に示すように、-∞からuまで積分変数vで積分する積分操作を示す項成分として定義できる。
【0080】
また、カーネルK(k,l)を定義した式(6―1)の右辺の項のうちLx/Nxをm=k-Nx+1からkまで合計する畳み込み処理部分は、式(7-4)に示すように、x-Lxからxまで積分変数uで積分する積分操作を示す項成分として定義できる。
【0081】
なお、積分変数ω,ξで積分する項成分:ビームアレイ領域がある位置vにある時に、ビームアレイ領域内のある位置(ω,ξ)で照射されたビームにより生じた熱が位置(x、y)に寄与する温度上昇の積算を表す積分操作。よってω,ξの積分範囲はビームアレイ領域内であり、ωは、vからv+Lxとなり、ξは、-Ly/2から+Ly/2となる。
積分変数vで積分する項成分:上記積分操作によって積算される温度上昇が位置(x,y)に寄与する温度上昇を、ビームアレイ領域が無限遠から位置uのそれぞれの位置にあるときについてさらに積算する積分操作。よってvの積分範囲は、-∞からuまでとなる。
積分変数uで積分する項成分:上記積分操作によって積算される温度上昇を、位置(x,y)にビームアレイ領域の一方の端があるときから、他方の端の端があるときまでさらに積算する積分操作。よってuの積分範囲は、x-Lxからxまでとなる。
【0082】
よって、カーネルK(k,l)は、積分変数ωと、積分変数ξと、積分変数uと、積分変数vと、を用いた積分式で定義できる。具体的には、カーネルK(k,l)は、積分変数ωで積分する積分操作を示す項成分と、積分変数ξで積分する積分操作を示す項成分と、積分変数vで積分する積分操作を示す項成分と、積分変数uで積分する積分操作を示す項成分と、関数A/(πσu,v )erf(Rg/σu,v)e^(-((x-ω)+(y-ξ))/σu,v)と、ディラックのデルタ関数δ(ω,ξ)と、を乗じた式(8-1)で定義できる。
なお、ディラックのデルタ関数δ(ω,ξ)は、式(8-2)及び式(8-3)を満たす関数である。また、関数σu,vは、式(8-4)で定義される。
また、処理メッシュのサイズsx,syを無限小にすることで、誤差関数の微分式は、式(8-5)で定義できる。
【0083】
図23は、実施の形態1におけるカーネルを説明するための図である。カーネルK(x,y)は、(x,y)=(0,0)に1μCの電荷をビームアレイ領域通過の間に連続的に照射した場合の、任意の位置におけるビームアレイ領域通過中の平均温度(実効温度)を示す。図23の右下図に、1μCの電荷をビームアレイ領域通過の間に連続的に照射する様子が示される。縦軸に電荷量を示し、横軸に時間を示す。かかる場合、図23の上の図に示すように、座標(0,0)の電荷照射点よりも後方においても、x>-Lxにはゼロでない実効温度が現れる。これは、ビームアレイ領域の右端で照射されて発生した熱が、図23の左下図に示すように、ビームアレイ領域の内側が照射されるときにヒーティング効果として寄与することによる。すなわち、カーネルはビームアレイ領域のサイズLxに依存する。
【0084】
図24は、実施の形態1におけるステージ速度とカーネルとの関係の一例を示す図である。図24の例では、ビームアレイのx方向サイズLxが一定のもと、vstage=v1~v4とステージ速度Vstageが異なる4つのカーネルの一例を示す。図24に示すように、ステージ速度ごとに高さ、形状が異なる非対称な温度分布のカーネルとなる。図24の例では、ステージ速度が大きくなるのに伴い温度分布の中心部の温度が高くなることがわかる。
【0085】
図25は、実施の形態1におけるビームアレイの移動方向サイズとカーネルとの関係の一例を示す図である。図25の例では、ステージ速度が一定のもと、Lx=Lx1~Lx3とビームアレイのx方向サイズLxが異なる3つのカーネルの一例を示す。図25に示すように、ビームアレイのx方向サイズLxごとに高さ、形状が異なる温度分布のカーネルとなる。図25の例では、ビームアレイのx方向サイズLxが小さいほど温度分布の中心部の温度が高くなることがわかる。
【0086】
図26は、実施の形態1におけるビームアレイの移動方向サイズとカーネルとの関係の他の一例を示す図である。図26では、図25の3つのビームアレイのx方向サイズLxにおける温度分布の一例を示す。縦軸に温度を示す。横軸にx方向の位置を示す。図26の例に示すように、ビームアレイ領域のサイズLxに応じても、カーネルの温度分布の立ち上がり、及び立下りの形状が異なる。
【0087】
そこで、実施の形態1では、ステージ速度とビームアレイサイズLxとに応じた複数のカーネルを予め作成しておく。
【0088】
図27は、実施の形態1におけるテーブルとして定義されたカーネルの一例を示す図である。図27において、カーネルK(x,y)は、ビームアレイ領域よりも大きい範囲内の各位置の値として定義される。これは、ビームアレイが通過した後の残熱の影響があるからである。例えば、ビームアレイ領域のサイズLxが例えば100μm(最大値)から10μm(最小値)程度の範囲で設定される場合に、カーネルは、x,y方向にそれぞれ、例えば、±300μm程度の領域で計算しておくと好適である。
【0089】
図27の例では、ステージ速度Vstage、ビームアレイのx方向(ステージ進行方向の逆方向)サイズLx、位置(x,y)、及び各位置でのカーネル値K(x,y)が関連させてテーブルとして定義される。カーネルK(x,y)の各位置での値は、ビームアレイ領域が連続的に等速移動しながら、カーネルの中心位置に1μCの点電荷を照射することを仮定し、かつ点電荷の照射がビームアレイ領域の一方の端で開始し、他方の端で終了することを仮定し、当該2つの仮定の下に、当該位置をビームアレイ領域が通過する間の温度の代表値を表す。
なお、実際に使用されるステージ速度、ビームアレイ領域のサイズに応じて参照し、一致した値が無い場合には、前後の値を用いた線形補完値を用いればよい。
【0090】
図28は、実施の形態1における連続関数として定義されたカーネルの式の一例を示す図である。図28の例では、x,y方向に非等方な5つのガウス関数の足し合わせによる、ステージ速度の異なる5つのカーネルを近似した関数の一例を式(9)に示す。なお、ステージ速度ごとに係数Aiを用意しておき、テーブルで定義したステージ速度同士の間の速度は、線形補完した係数Ai,σxi,σyiを用いればよい。そして、例えば、ビームアレイ領域サイズLx毎に、連続関数として定義されたカーネルの式を用意すればよい。或いは、ステージ速度とビームアレイ領域サイズLxとが異なる複数のカーネルを近似した関数を用意しても好適である。
【0091】
以上のように、実施の形態1では、ステージ速度とビームアレイ領域サイズLxとに依存した、複数のカーネルを予め用意しておく。複数のカーネルは、記憶装置144に格納しておく。
【0092】
ステージ速度及びビームアレイサイズ入力工程(S109)として、取得部56は、今回の描画処理におけるステージ速度Vstageと、ビームアレイサイズLxとを取得する。具体的には、図示しない描画条件の設定時に設定されるステージ速度Vstageと、ビームアレイサイズLxとを取得する。描画条件の設定は、ユーザによる手入力操作によって行われる。或いは、ステージ速度VstageとビームアレイサイズLxとを含む、複数の描画条件パラメータについてそれぞれ複数の条件を選択できるように図示しない入力画面上に設定しておき、ユーザが設定された複数の条件の中からそれぞれの描画条件パラメータを選択するようにしても好適である。ビームアレイサイズLxは、描画装置100で照射可能なビームアレイのうち、例えばビーム数を限定して使用する場合に変化する。具体的には、ビームアレイのうち、収差の影響が小さい中央部のビームアレイだけを使用する場合等が挙げられる。これにより、ビーム数が減るので描画時間は長くなるものの描画位置精度を向上させることができる。
【0093】
カーネル決定工程(S110)として、カーネル決定部57は、取得(入力)されたステージ速度VstageとビームアレイサイズLxとに応じて、複数のカーネルの中から対応するカーネルを決定する。
【0094】
実効温度算出工程(S112)として、実効温度算出部58は、試料101が載置されるステージ105の速度と、マルチビーム20の試料101の面上におけるビームアレイ領域の描画進行方向のサイズと、によって決定されるカーネルと、ドーズ量代表値と、の畳み込み処理によって、ビーム照射による熱が複数の処理メッシュ39のそれぞれに与える上昇温度の代表値を、複数の処理メッシュ39のそれぞれの実効温度T(k,l)としてそれぞれ算出する。言い換えれば、実効温度算出部58は、ステージ105の速度Vstageとx方向におけるビームアレイ領域のサイズLxとを入力し、ステージ105の速度Vstageとx方向におけるビームアレイ領域のサイズLxとによって決定されるカーネルとドーズ量代表値を用いて、試料101面上のビームアレイ領域と重なるビームアレイ領域と同じサイズの処理領域内へのビーム照射による熱が複数の処理メッシュ39の1つである注目メッシュ領域(k,l)に与える上昇温度の代表値を注目メッシュ領域の実効温度T(k,l)としてそれぞれ算出する。算出された実効温度は、メモリ112或いは及び記憶装置142等に出力され記憶される。具体的には、以下のように動作する。
【0095】
図29は、実施の形態1における実効温度を算出する手法を説明するための図である。図29に示すように、実効温度算出部58は、ドーズ量代表値Dijのドーズ分布とカーネルK(xk,yl)との畳み込み処理を実施する。(xk,yl)は、カーネル内の位置を示す。これにより、注目メッシュの実効温度T(k,l)を算出できる。注目メッシュの実効温度T(k,l)は、かかる畳み込み処理を示す式(10)で定義できる。畳み込み処理では、ドーズ分布内でカーネル中心をずらしながら、位置が一致する要素同士の要素積の和を算出する。カーネル中心の位置が座標(k,l)における要素積の和が実効温度T(k,l)になる。
【0096】
ここで、上述した例では、ステージ105が等速移動する場合について説明したがこれに限るものではない。ステージ105が可変速移動する場合であっても上述した計算式(10)が適用できる。かかる場合、記憶装置144には、ステージ速度分布が記憶される。実効温度算出部58は、カーネル中心が位置する位置でのステージ速度を取得して、カーネル中心が位置する位置でのステージ速度に対応するカーネルを選択して使用すればよい。これにより、可変速移動の場合にも上述したカーネルを用いた実効温度の算出ができる。
【0097】
補正量算出工程(S114)として、補正量算出部60は、複数のメッシュ領域のそれぞれにおける実効温度を用いて、マルチビーム20のうち複数のメッシュ領域の1つである注目メッシュ領域を照射する複数のビームのドーズ量を算出する。例えば、まず、補正量算出部60は、実効温度Tに依存するドーズ量の変調率α(x)を算出する。
【0098】
図30は、実施の形態1における線幅CDと温度との関係の一例を示す図である。図30において、縦軸に線幅CD(Critical Dimension)を示し、横軸に温度を示す。図30に示すように、レジストの温度が高くなるに従い、線幅CDもずれが大きくなることがわかる。ヒーティング効果によるCD変動ΔCD/ΔT[nm/K]は線形の関係がある。この値はレジスト種、基板種ごとに異なるため、それらに対して実験を行い取得する。そこで、単位温度ΔTあたりのCD変化量ΔCDを近似した近似式を求めておく。かかる相関データ(1)は外部より入力され、記憶装置144に格納される。
【0099】
図31は、実施の形態1における線幅CDとドーズ量との関係の一例を示す図である。図31において、縦軸に線幅CDを示し、横軸にドーズ量を示す。図31の例では、横軸に対数を用いて示している。図31に示すように、線幅CDは、パターン密度に依存して、ドーズ量が増えるのに伴い、線幅CDも大きくなる。レジスト・基板種ごと、パターン密度ごとに依存するCD変動とドーズ量との関係ΔCD/ΔDを、実験を行い取得しておく。そして、単位ドーズあたりのCD変化量ΔCDを近似した近似式を求めておく。かかる相関データ(2)は外部より入力され、記憶装置144に格納される。
【0100】
補正量算出部60は、相関データ(1)(2)を記憶装置144から読み出し、パターン密度に依存した、単位温度ΔTあたりのドーズ変化量ΔDを、実効温度Tに依存するドーズ量の変調率α(x)として算出する。パターン密度ρに依存した変調率α(x)は、以下の式(11)で定義される。
(11) α(x)=(ΔCD/ΔT)/(ΔCD/ΔD)ρ=(ΔD/ΔT)ρ
補正量算出部60は、実効温度T(i,j)と変調率α(x)を乗じた値を補正量として算出する。
【0101】
補正工程(S118)として、補正部62(ドーズ補正回路の一例)は、実効温度T(i,j)を用いて、各注目メッシュ領域を照射する複数のビームのドーズ量を補正する。補正後のドーズ量D′(x)は以下の式(12)で求めることができる。xは画素36のインデックスを示す。(i,j)は処理メッシュのインデックスを示す。また、パターン密度ρは、対象となる画素36のパターン密度を用いれば良い。
(12) D′(x)=D(x)-T(i,j)・α(x)
【0102】
そして、補正部62は、ストライプ領域32毎に、算出された各画素36の補正後のドーズ量D′(x)を用いてドーズマップ(2)を作成する。各画素36のドーズ量D′(x)は、ドーズマップ(2)の各要素として定義される。これにより、補正後(変調後)のドーズ分布D’(x)が求まる。すなわち、温度上昇分のCD寸法をデザイン寸法通りに戻すことができる。作成されたドーズマップ(2)は記憶装置144に格納される。
【0103】
照射時間データ生成工程(S120)として、照射時間データ生成部72は、画素36毎に、当該画素36に演算された補正後のドーズ量D′(x)を入射させるための電子ビームの照射時間tを演算する。照射時間tは、ドーズ量D′(x)を電流密度Jで割ることで演算できる。ドーズマップ(1)に定義される補正前のドーズ量D(x)が、基準照射量Dbaseを1と仮定して算出された基準照射量Dbaseに対する相対値(ドーズ量の係数値)である場合には、各処理メッシュ39のドーズ量統計値Dijも基準照射量Dbaseに対する相対値として算出される。そのため、各処理メッシュ39の実効温度T(i,j)も基準照射量Dbaseに対する相対値として算出される。よって、かかる場合、照射時間tは、ドーズ量D′(x)に基準照射量Dbaseを乗じた値を電流密度Jで割ることで演算できる。
各画素36の照射時間tは、マルチビーム20の1ショットで照射可能な最大照射時間Ttr内の値として演算される。各画素36の照射時間tは、最大照射時間Ttrを例えば1023階調(10ビット)とする0~1023階調の階調値データに変換する。階調化された照射時間データは記憶装置142に格納される。
【0104】
データ加工工程(S122)として、データ加工部74は、描画シーケンスに沿ってショット順に照射時間データを並び替えると共に、各グループのシフトレジスタの並び順を考慮したデータ転送順に並び替える。
【0105】
描画工程(S124)として、描画制御部80による制御のもと、転送制御部79は、ショット順に照射時間データを偏向制御回路130に転送する。偏向制御回路130は、ブランキングアパーチャアレイ機構204にショット順にブランキング制御信号を出力すると共に、DACアンプユニット132,134にショット順に偏向制御信号を出力する。そして、描画機構150は、実効温度T(i,j)を用いてそれぞれ補正されたドーズ量D′(x)のマルチビーム20を用いて、試料101にパターンを描画する。言い換えれば、描画機構150は、上述した実効温度算出方法により求められた実効温度を用いて算出された補正量を用いて試料101にパターンを描画する。
【0106】
上述した例では、ドーズ量D′(x)の計算が終わったストライプ領域32について順次、描画処理を行う場合を説明した。例えば、あるストライプ領域32の描画処理を行っている間に、並行して、当該描画処理中のストライプ領域32の1つ先のストライプ領域32、或いは2つ先のストライプ領域32のドーズ量D′(x)の計算を行う。言い換えれば、描画処理と同時進行でドーズ量D′(x)の計算を行う場合について説明した。但し、これに限るものではない。描画処理を開始する前の前処理として、実効温度T(i,j)及び/或いはドーズ量D′(x)の計算を行っても構わない。
【0107】
以上のように、実施の形態1によれば、マルチビーム描画において、ショット毎かつビーム毎の温度上昇の影響を累積せずに、レジストヒーティングを補正できる。さらに、複数のカーネルを予め用意しておくことで、描画処理中の計算処理のボリュームを大幅に低減できる。
【0108】
[実施の形態2]
実施の形態1では、カーネルを使って求めた実効温度に基づくドーズ変調によって、レジストヒーティングを補正する構成を説明した。レジストヒーティングを補正する手法はこれに限るものではない。実施の形態2では、カーネルを使って求めた実効温度に基づいて、描画する図形パターン自体をリサイズすることにより補正する構成について説明する。以下、特に説明する点以外の内容は実施の形態1と同様で構わない。
【0109】
図32は、実施の形態2における描画装置の構成の一例を示す図である。図32において、補正部62の代わりに補正部63を配置した点以外は、図1と同様である。
【0110】
図32において、パターン密度算出部50、ドーズ量算出部52、分割部53、ドーズ量代表値算出部54、取得部56、カーネル決定部57、実効温度算出部58、補正量算出部60、補正部63、照射時間データ生成部72、データ加工部74、転送制御部79、及び描画制御部80といった各「~部」は、処理回路を有する。かかる処理回路は、例えば、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置を含む。各「~部」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いても良いし、或いは異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。パターン密度算出部50、ドーズ量算出部52、分割部53、ドーズ量代表値算出部54、取得部56、カーネル決定部57、実効温度算出部58、補正量算出部60、補正部63、照射時間データ生成部72、データ加工部74、転送制御部79、及び描画制御部80に入出力される情報および演算中の情報はメモリ112にその都度格納される。
【0111】
図33は、実施の形態2における描画方法の要部工程の一例を示すフローチャート図である。図33において、補正量算出工程(S114)と補正工程(S118)との代わりに、補正量算出工程(S115)と補正工程(S117)を実施する点以外は、図11と同様である。
【0112】
パターン密度算出工程(S102)から実効温度算出工程(S112)までの各工程の内容は、実施の形態1と同様である。
【0113】
補正量算出工程(S115)として、補正量算出部60は、複数のメッシュ領域のそれぞれにおける実効温度を用いて、マルチビーム20のうち複数のメッシュ領域の1つである注目メッシュ領域内に描画される図形のパターンデータを補正する補正量を算出する。具体的には、以下のように動作する。補正量算出部60は、実効温度T(i,j)と描画されるパターンの寸法変化量(ΔCD/ΔT)との関係を用いて補正量を算出する。さらに言えば、補正量算出部60は、記憶装置144に格納された、単位温度ΔTあたりのCD変化量ΔCDを近似した相関データ(1)を参照する。そして、各注目メッシュ領域のT(i,j)と(ΔCD/ΔT)とを乗じた値を補正量として算出する。
【0114】
補正工程(S117)として、補正部63(リサイズ処理回路の一例)は、実効温度T(i,j)と描画されるパターンの寸法変化量(ΔCD/ΔT)との関係を用いて算出される補正量を用いて、処理メッシュ毎に、当該処理メッシュ内に描画される図形パターンのサイズをリサイズする。補正後のパターン寸法L′(x)は以下の式(13)で求めることができる。xは画素36のインデックスを示す。(i,j)は処理メッシュのインデックスを示す。また、パターン密度ρは、対象となる画素36の当初のパターン密度を用いれば良い。
(13) L′(x)=L(x)-T(i,j)・(ΔCD/ΔT)
【0115】
y方向のサイズL(y)についても、同様にリサイズする。そして、リサイズされた各図形パターンのデータは、記憶装置144に格納される。
【0116】
照射時間データ生成工程(S120)として、パターン密度算出部50は、リサイズされた図形パターンのデータを用いて、対象のストライプ領域32内の画素36毎にパターン密度ρ(パターンの面積密度)を算出する。そして、パターン密度マップを作成する。
【0117】
ドーズ量算出工程(S104)として、ドーズ量算出部52は、再作成されたパターン密度マップを用いて、画素36毎に、当該画素36に照射するためのドーズ量D′(x)(照射量)を演算する。そして、ドーズマップを再作成する。
【0118】
照射時間データ生成部72は、画素36毎に、当該画素36に演算されたリサイズ補正後のドーズ量D′(x)を入射させるための電子ビームの照射時間tを演算する。照射時間tは、ドーズ量D′(x)を電流密度Jで割ることで演算できる。
各画素36の照射時間tは、マルチビーム20の1ショットで照射可能な最大照射時間Ttr内の値として演算される。各画素36の照射時間tは、最大照射時間Ttrを例えば1023階調(10ビット)とする0~1023階調の階調値データに変換する。階調化された照射時間データは記憶装置142に格納される。
【0119】
データ加工工程(S122)と、描画工程(S124)の内容は、実施の形態1と同様である。描画工程(S124)において、描画機構150は、マルチビーム20を用いて、試料101にリサイズされたパターンを描画する。
【0120】
以上のように実施の形態2によれば、マルチビーム描画において、ショット毎かつビーム毎の温度上昇の影響を累積せずに、リサイズ処理によりレジストヒーティングを補正できる。さらに、複数のカーネルを予め用意しておくことで、描画処理中の計算処理のボリュームを大幅に低減できる。
【0121】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
また、実施の形態1,2で説明した処理の機能をコンピュータに実行させるようにしても構わない。そして、かかる処理の機能をコンピュータに実行させるためのプログラムが、例えば、磁気ディスク装置等の一時的でない有形の読み取り可能な記録媒体に格納されても良い。
【0122】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。例えば、描画装置100を制御する制御部構成については、記載を省略したが、必要とされる制御部構成を適宜選択して用いることは言うまでもない。
【0123】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全てのマルチ荷電粒子ビーム描画領域の実効温度算出方法、マルチ荷電粒子ビーム描画装置、マルチ荷電粒子ビーム描画方法、及びプログラム(或いはプログラムを一時的で無く記録した読み取り可能な記録媒体)は、本発明の範囲に包含される。
【産業上の利用可能性】
【0124】
マルチ荷電粒子ビーム描画領域の実効温度算出方法、マルチ荷電粒子ビーム描画装置、マルチ荷電粒子ビーム描画方法、及びプログラム(或いはプログラムを一時的で無く記録した読み取り可能な記録媒体)に係り、例えば、マルチビーム描画で生じるレジストヒーティングの補正手法に利用できる。
【符号の説明】
【0125】
20 マルチビーム
22 穴
24 制御電極
25 通過孔
26 対向電極
28,36 画素
29 サブ照射領域
30 描画領域
32 ストライプ領域
34 照射領域
35 矩形領域
39 処理メッシュ
41 制御回路
46 アンプ
47 個別ブランキング機構
50 パターン密度算出部
52 ドーズ量算出部
53 分割部
54 ドーズ量代表値算出部
56 取得部
57 カーネル決定部
58 実効温度算出部
60 補正量算出部
62,63 補正部
72 照射時間データ生成部
74 データ加工部
79 転送制御部
80 描画制御部
100 描画装置
101 試料
102 電子鏡筒
103 描画室
105 XYステージ
110 制御計算機
112 メモリ
130 偏向制御回路
132,134 DACアンプユニット
136 レンズ制御回路
138 ステージ制御機構
139 ステージ位置測定器
140,142,144 記憶装置
150 描画機構
160 制御系回路
200 電子ビーム
201 電子銃
202 照明レンズ
203 成形アパーチャアレイ基板
204 ブランキングアパーチャアレイ機構
205 縮小レンズ
206 制限アパーチャ基板
207 対物レンズ
208 主偏向器
209 副偏向器
210 ミラー
330 メンブレン領域
343 パッド
【要約】
マルチ荷電粒子ビーム描画において、ショット毎かつビーム毎の温度上昇の影響を累積する膨大な計算を行わずに、レジストヒーティングを補正可能な方法を提供することを目的とする。
マルチ荷電粒子ビーム描画領域の実効温度算出方法は、マルチ荷電粒子ビームで照射される試料の描画領域が、描画進行方向及び描画進行方向と線形独立な方向で分割された複数のメッシュ領域のそれぞれにおいて、当該メッシュ領域内を照射するビームのドーズ量の代表値をドーズ量代表値として算出し(S108)、試料が載置されるステージの速度と、マルチ荷電粒子ビームの試料の面上におけるビームアレイ領域の描画進行方向のサイズと、によって決定されるカーネルと、ドーズ量代表値と、の畳み込み処理によって、ビーム照射による熱が複数のメッシュ領域のそれぞれに与える上昇温度の代表値を、複数のメッシュ領域のそれぞれの実効温度としてそれぞれ算出する(S112)。
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