(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】多重織物
(51)【国際特許分類】
D03D 11/00 20060101AFI20240903BHJP
D03D 15/41 20210101ALI20240903BHJP
【FI】
D03D11/00 Z
D03D15/41
(21)【出願番号】P 2020036199
(22)【出願日】2020-03-03
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100152146
【氏名又は名称】伏見 俊介
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】橋本 昌樹
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-158951(JP,A)
【文献】特開2014-240533(JP,A)
【文献】特開2018-035459(JP,A)
【文献】実公昭51-023720(JP,Y1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D03D 1/00 - 27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表組織と裏組織が接結糸により交互に接結されている多重織物であって、前記表組織と前記裏組織が交互に接結されている間隔が経方向および緯方向共に8本以上30本以下であ
り、下記の式(1)で表される接結指数が1500以上4000以下である、多重織物。
接結指数=[√繊度(dtex)]×仕上経密度(本/インチ)×仕上緯密度(本/インチ)/接結頻度 (1)
【請求項2】
表組織と裏組織が接結糸により交互に接結されている多重織物であって、前記表組織と前記裏組織が交互に接結されている間隔が経方向および緯方向共に8本以上30本以下であ
り、前記接結糸の繊度が84dtex以下である、多重織物。
【請求項3】
表組織と裏組織が接結糸により交互に接結されている多重織物であって、前記表組織と前記裏組織が交互に接結されている間隔が経方向および緯方向共に8本以上30本以下であ
り、前記接結糸は撚糸であって、その撚り係数が3500以上7500以下である、多重織物。
【請求項4】
端部がリバーシブル縫製されている、請求項1~
3のいずれか1項に記載の多重織物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多重織物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、単位織組織を複数層備えた多重織物が知られている。ここで、単位織組織とは、1組の経糸・緯糸をもって形成された単層の織組織を意味する。
【0003】
高級梳毛のコートなどは、多重織物の端部の外観や、生地同士のつなぎ目の外観をよくするために、リバーシブル縫製が行われることがあるしかしながら、リバーシブル縫製は、専用機を用いて、多重織物の表組織と裏組織を分離させる必要がある。また、その作業も熟練作業者しかできないなど、生産性に課題があった。
これに対して、例えば、特許文献1には、熟練作業者以外でも表組織と裏組織とを容易に分離を可能とするデバイディング機が開示されている。しかし、中小企業が中心の縫製工場では、縫製用の機械の更新費用の負担が大きい。そのため、縫製工場では、依然として従来機を用いた熟練工による作業が大半を占めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、表組織と裏組織とを容易に分離することが可能な多重織物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成する本発明の構成は下記の通りである。
[1]表組織と裏組織が接結糸により交互に接結されている多重織物であって、前記表組織と前記裏組織が交互に接結されている間隔が経方向および緯方向共に8本以上30本以下である、多重織物。
[2]下記の式(1)で表される接結指数が1500以上4000以下である、[1]に記載の多重織物。
接結指数=[√繊度(dtex)]×仕上経密度(本/インチ)×仕上緯密度(本/インチ)/接結頻度 (1)
[3]前記接結糸の繊度が84dtex以下である、[1]または[2]に記載の多重織物。
[4]前記接結糸は撚糸であって、その撚り係数が3500以上7500以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の多重織物。
[5]端部がリバーシブル縫製されている、[1]~[4]のいずれかに記載の多重織物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、表組織と裏組織とを容易に分離することが可能な多重織織物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1における接結平二重織物の組織図・接結位置を示す模式図である。
【
図2】実施例2における接結平二重織物の組織図・接結位置を示す模式図である。
【
図3】実施例3における接結綾二重織物の組織図・接結位置を示す模式図である。
【
図4】比較例1における接結綾二重織物の組織図・接結位置を示す模式図である。
【
図5】比較例2における接結平二重織物の組織図・接結位置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の多重織物の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0010】
[多重織物]
本実施形態の多重織物は、表組織と裏組織が接結糸により交互に接結されている多重織物であって、表組織と裏組織が交互に接結されている間隔が経方向および緯方向共に8本以上30本以下である。
以下、「表組織と裏組織が交互に接結されている間隔」を「接結間隔」と言う。
多重織物においては、各層の織組織(単位織組織)をつなげるため、経糸や緯糸を接結させるのが一般的である。具体的には、(1)多重織物において、表組織と裏組織の経糸および緯糸を任意の箇所で表裏交替して接結する方法、(2)表組織の経糸を裏組織の緯糸に所々で接結する(または表組織の緯糸を裏組織の経糸に所々で接結する)方法、(3)1本の緯糸を2往復させて1つ環状を形成させる方法等が知られている。
【0011】
前記の接結間隔が8本以上であると、組織面に過度な力が掛からず表組織と裏組織を容易に分離できる。前記の接結間隔が30本以下であると、製品部分が簡単に分離することがなく、製品の見た目に影響がでない。
これらの観点から、前記の接結間隔は、経方向および緯方向共に10本以上16本以下であることが好ましい。
【0012】
ここで、接結間隔とは、経方向については、接結位置から次の接結位置の間に存在する緯糸の本数である。また、接結間隔とは、緯方向については、同一緯に存在する接結位置の間に存在する経糸の本数である。
例えば、
図1に示す多重織物では、緯糸の本数は8本(
図1に示すMからMの間に存在する経糸の本数)、経糸の本数は12本および10本(
図1に示す△から×の間に存在する緯糸の本数)である。
【0013】
本実施形態の多重織物は、以下に示す接結指数が1500以上4000以下であることが好ましい。
接結指数は、下記の式(1)で算出される値である。
接結指数=[√繊度(dtex)]×仕上経密度(本/インチ)×仕上緯密度(本/インチ)/接結頻度 (1)
【0014】
本実施形態の多重織物では、繊度を10000メートルの糸の質量をグラム単位で表したデシテックス(dtex)で示す。本実施形態の多重織物における繊度とは、マルチフィラメントの場合は、全てのフィラメントの繊度の合計(総繊度)のことである。
上記の式(1)において、繊度とは多重織物のベースとなる経糸および緯糸の平均繊度である。
上記の式(1)において、接結頻度とは、接結糸を除く一完全組織数を、接結箇所の数(接結数)で除した値である。
上記の式(1)において、一完全組織とは、基本となる織の最小単位のことであり、接結糸が同じ位置に戻るまでの織単位である。
図1~
図5は、一完全組織を示している。
【0015】
前記接結指数が1500以上であると、表組織と裏組織を容易に分離できる。前記接結指数が4000以下であると、表組織と裏組織が縫製で織物を取り扱う時や着用時に簡単に分離することがなく、多重織物の外観に影響がでない。これらの観点から、前記接結指数は、2500以上3500以下であることがより好ましい。
【0016】
本実施形態の多重織物では、接結糸の繊度が84dtex以下であることが好ましい。
接結糸の繊度が84dtex以下であると、表組織と裏組織を容易に分離できる。
この観点から、接結糸の繊度は40dtex以下であることがより好ましい。
【0017】
本実施形態の多重織物では、接結糸が撚糸であって、その撚り係数が3500以上7500以下であることが好ましい。
接結糸が撚糸であることで、接結糸の強度を高くできる。また、多重織物から接結糸が抜け易くなり、表組織と裏組織を分離する際に接結糸が破断し難くなる。
【0018】
接結糸の撚り係数が3500以上であると、接結糸の引き抜き抵抗(多重織物から接結糸を引き抜く際の力)が小さいことで、表組織と裏組織を容易に分離できる。接結糸の撚り係数が7500以下であると、接結糸がスナール(糸の撚りが縮んでできたループ状の縮れ)にならず、表組織と裏組織を容易に分離できる。
これらの観点から、接結糸の撚り係数は4000以上6500以下であることがより好ましい。
撚り係数は、下記の式(2)で算出される。
撚り係数=[√繊度(dtex)]×撚数 (2)
【0019】
本実施形態の多重織物では、端部がリバーシブル縫製されていることが好ましい。
端部がリバーシブル縫製されていることで、多重織物を製品にしたときに外観が良好となり、高級製品の品質に適応可能となる。
【0020】
接結糸の材質は、特に制限は無いが、例えば、強度の観点からポリエステル繊維が好ましい。また、接結糸の材質は、表組織と裏組織を容易に分離できる観点から毛羽の無い長繊維が好ましい。
【0021】
本実施形態の多重織物によれば、表組織と裏組織とを容易に分離できる多重織物を提供することができる。また、本実施形態の多重織物によれば、高級梳毛商品に見られるリバーシブル縫製の端部の外観が良好である多重織物を提供することができる。
【実施例】
【0022】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0023】
[実施例1]
(多重織物の作製)
ブライト84dtex20f(dtexはデシテックスの略である。以下、「デシテックス」を「dtex」と記する。fはフィラメントの略である。以下、「フィラメント」を「f」と記する。)の菊型断面のトリアセテートマルチフィラメント(三菱ケミカル社製)と、セミダル33dtex24fの丸型断面のポリエステルマルチフィラメント(三菱ケミカル社製)に仮撚加工を施した加工糸とを、撚り数が1400回/mでSまたはZ方向に合撚した合撚糸をそれぞれ作製した。以下、S方向に合撚した合撚糸を合撚糸Sと言い、Z方向に合撚した合撚糸を合撚糸Zと言う。
また、接結糸として、セミダル33dtex24fの丸型断面のポリエステルマルチフィラメント(三菱ケミカル社製)に、撚り数が800回/mでS方向に撚糸したS追撚糸を作製した。
【0024】
表糸は合撚糸Sと合撚糸Zを交互に用い、裏糸は合撚糸Sと合撚糸Zを交互に用い、接結糸はS追撚糸を用いて、
図1に示す配列および接結位置にて、経密度148本/吋、緯密度107本/吋として、平二重織物を作製した。得られた平二重織物において、経糸方向の接結間隔は8本、緯糸方向の接結間隔は10本および12本であった。
図1~
図5において、Fは表糸、Bは裏糸、Mは接結糸を表す。また、
図1~
図5において、△は接結糸が表組織に接結していることを表し、×は接結糸が裏組織に接結していることを表す。
この生機を常法に従って黒色に染色加工して、経密度228本/吋、緯密度144本/吋の織物を得た。
得られた織物は、膨らみ感のある梳毛調の風合いを有していた。
【0025】
(分離し易さの評価)
織物を構成する表組織と裏組織の端部を反対方向に手で剥がし、その時の分離し易さを、下記の基準に従って評価した。結果を表1に示す。
○:容易に分離する。
△:分離するのに時間がかかる。
×:分離するのは困難。
【0026】
(分離前後の目面の評価)
織物を構成する表組織と裏組織に分離する前後の目面を、下記の基準に従って評価した。結果を表1に示す。
○:接結部分は分からず、きれいである。
△:接結部分が分かる。
×:引けが発生して目立つ。
【0027】
表1の結果から、実施例1の織物は、表組織と裏組織を容易に分離する事が可能であり、また分離後の目面も良好であった。
【0028】
[実施例2]
経密度174本/吋、緯密度124本/吋に変更し、経糸方向の接結間隔を12本、緯糸方向の接結間隔を12本とし、
図2に示す配列および接結位置に変更した以外は、実施例1と同様にして、経密度252本/吋、緯密度163本/吋の織物を得た。
得られた織物は、膨らみ感のある梳毛調の風合いを有していた。
また、実施例1と同様にして、織物を構成する表組織と裏組織の分離し易さの評価と、織物を構成する表組織と裏組織に分離する前後の目面の評価を行った。結果を表1に示す。
表1の結果から、実施例2の織物は、表組織と裏組織を容易に分離する事が可能であり、また分離後の目面も良好であった。
【0029】
[実施例3]
ベース組織を綾二重とし、経密度222本/吋、緯密度151本/吋に変更し、経糸方向の接結間隔を18本、緯糸方向の接結間隔を12本とし、
図3に示す配列および接結位置に変更した以外は、実施例1と同様にして、経密度290本/吋、緯密度195本/吋の織物を得た。
得られた織物は、膨らみ感のある梳毛調の風合いを有していた。
また、実施例1と同様にして、織物を構成する表組織と裏組織の分離し易さの評価と、織物を構成する表組織と裏組織に分離する前後の目面の評価を行った。結果を表1に示す。
表1の結果から、実施例3の織物は、表組織と裏組織を容易に分離する事が可能であり、また分離後の目面も良好であった。
【0030】
[比較例1]
ブライト84dtex20fの菊型断面のトリアセテートマルチフィラメント(三菱ケミカル社製)と、セミダル33dtex24fの丸型断面のポリエステルマルチフィラメント(三菱ケミカル社製)に仮撚加工を施した加工糸とを、撚り数が1600回/mでSまたはZ方向に合撚した合撚糸をそれぞれ作製した。
また、接結糸として、セミダル56dtex12fの潜在捲縮型のポリエステル系複合繊維(三菱ケミカル社製)に、撚り数が1600回/mでS方向に撚糸したS追撚糸を作製した。
【0031】
表糸は合撚糸Sと合撚糸Zを交互に用い、裏糸は合撚糸Sと合撚糸Zを交互に用い、接結糸はS追撚糸を用いて、
図4に示す配列および接結位置にて、経密度221本/吋、緯密度141本/吋にて綾二重織物を作製した。
この生機を常法に従って黒色に染色加工して、経密度310本/吋、緯密度188本/吋の織物を得た。
得られた織物は、膨らみ感のある梳毛調の風合いを有していた。
また、実施例1と同様にして、織物を構成する表組織と裏組織の分離し易さの評価と、織物を構成する表組織と裏組織に分離する前後の目面の評価を行った。結果を表1に示す。
表1の結果から、比較例1の織物は、表組織と裏組織を容易に分離し難く、また接結部が分かる状態であった。
【0032】
[比較例2]
ブライト84dtex20fの菊型断面のトリアセテートマルチフィラメント(三菱ケミカル社製)と、セミダル33dtex24fの丸型断面のポリエステルマルチフィラメント(三菱ケミカル社製)に仮撚加工を施した加工糸とを、撚り数が1600回/mでSまたはZ方向に合撚した合撚糸をそれぞれ作製した。
また、接結糸として、比較例1と同じ合撚糸を用いた。
【0033】
表糸は合撚糸Sと合撚糸Zを交互に用い、裏糸は合撚糸Sと合撚糸Zを交互に用い、接結糸はS追撚糸を用いて、
図5に示す配列および接結位置にて、経密度161本/吋、緯密度138本/吋にて平二重織物を作製した。
この生機を常法に従って黒色に染色加工して、経密度240本/吋、緯密度180本/吋の織物を得た。
得られた織物は、膨らみ感のある梳毛調の風合いを有していた。
また、実施例1と同様にして、織物を構成する表組織と裏組織の分離し易さの評価と、織物を構成する表組織と裏組織に分離する前後の目面の評価を行った。結果を表1に示す。
表1の結果から、比較例2の織物は、表組織と裏組織を容易に分離し難く、また分離後の目面も引けが目立つ状態であった。
【0034】
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明の多重織物は、表組織と裏組織とを容易に分離可能な多重織物を提供することができる。従って、熟練作業者以外でも表組織と裏組織とを容易に分離を可能とすることができるため、縫製工場における作業効率の向上等が期待できる。
【符号の説明】
【0036】
F 表糸
B 裏糸
M 接結糸
△ 表組織に接結
× 裏組織に接結