(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】超高分子量ポリエチレンの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 10/02 20060101AFI20240903BHJP
C08F 4/6592 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
C08F10/02
C08F4/6592
(21)【出願番号】P 2020076552
(22)【出願日】2020-04-23
【審査請求日】2023-03-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】稲富 敬
(72)【発明者】
【氏名】池田 隆治
(72)【発明者】
【氏名】鹿子木 啓介
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/074073(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/013144(WO,A1)
【文献】特開昭61-275313(JP,A)
【文献】特開2013-049783(JP,A)
【文献】特開2018-145412(JP,A)
【文献】特開2017-155096(JP,A)
【文献】特開平08-053509(JP,A)
【文献】特開2015-034287(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 10/02
C08F 4/6592
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
遷移金属化合物系触媒と水素の存在下、エチレン又はエチレンとα-オレフィンとの重合を行い超高分子量ポリエチレンの製造を行う際に、
遷移金属化合物系触媒がメタロセン系触媒であり、少なくとも
、重合系中における水素濃度がエチレンの濃度に対して50ppm以上600ppm以下(モル比)となる条件下にてポリエチレンを生成する低分子量成分の生成工程と
重合系中における水素濃度がエチレンの濃度に対して0ppm以上30ppm以下(モル比)となる条件下にて超高分子量ポリエチレンを生成する高分子量成分の生成工程を経る、二段階以上の逐次重合工程を行うことを特徴とする超高分子量ポリエチレンの製造方法。
【請求項2】
低分子量成分の生成工程による生成量/高分子量成分の生成工程による生成量=1/99~20/80(重量比)の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の超高分子量ポリエチレンの製造方法
。
【請求項3】
エチレンとブテンとの重合を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の超高分子量ポリエチレンの製造方法。
【請求項4】
低分子
量成分の生成工程が、135℃で測定した固有粘度([η])が1.5dL/g以上9dL/g以下のポリエチレンを生成する工程であり、高分子量成分の生成工程が、135℃で測定した固有粘度([η])が12dL/g以上80dL/g以下の超高分子量ポリエチレンを生成する工程であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の超高分子量ポリエチレンの製造方法。
【請求項5】
遷移金属化合物系触媒が、
ジルコニウム又はハフニウムのメタロセン系触媒であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の超高分子量ポリエチレンの製造方法。
【請求項6】
重合が、スラリー重合、塊状重合、気相重合のいずれかの重合であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の超高分子量ポリエチレンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成形加工性に優れ、成形体の機械強度に優れる、超高分子量ポリエチレンの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、超高分子量ポリエチレンは、汎用のポリエチレンに比べ、耐衝撃性、自己潤滑性、耐摩耗性、摺動性、耐候性、耐薬品性、寸法安定性等に優れており、エンジニアリングプラスチックに匹敵する物性を有するものとして知られている。
【0003】
しかし、超高分子量ポリエチレンは、その高い分子量故に、溶融時の流動性が低く、分子量が数万から約50万の範囲にある通常のポリエチレンのように混練押出により成形することは困難である。そこで、超高分子量ポリエチレンは、重合により得られた重合体粉末を直接焼結する方法、圧縮成形する方法、間歇圧縮させながら押出成形するラム押出機による押出成形方法、溶媒等に分散させた状態で押出成形した後、溶媒を除去する方法等の方法により成形されている。しかし、これらの成形加工法は、技術的難易度が高く、成形体を得るのが困難であるという課題、さらには、高分子鎖の絡み合いによる局部的な高粘度部位の存在やポリマー粒子の流動性不足等に起因して圧縮時に疎な部分が形成されることによりウイークポイントが発生するため、得られる成形体が本来有するはずであろう機械的強度を発現することができず、機械的強度が比較的低くなるという課題があった。
【0004】
成形体の機械的強度を上げる手段として、メタロセン触媒等の触媒を用いた分子量分布の狭い超高分子量ポリエチレンが提案されている(例えば特許文献1、2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許4868853号
【文献】特開2006-36988号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1、2に提案された超高分子量ポリエチレンにおいては、成形品としての性能向上は見られるものの、超高分子量ポリエチレンは分子量が高くなるほど、溶融粘度が高くなるため、分子量の高くなるほど、パウダーの粒界での、融着不良が発生するなどして、分子量から期待される効果を十分発現することができず、製品物性のバランスに劣るという課題があった。
【0007】
この対策として、融点をかなり超える高い温度での成形などが行われているが、この結果、樹脂の酸化劣化による変色が問題となっていた。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、強度、耐薬品性に優れ、かつ、伸び、靭性、耐衝撃性等にも優れる、加工性と成形体の機械物性のバランスに優れる成形体を供給することが可能な超高分子量ポリエチレンの製造方法の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、遷移金属化合物系触媒を用いて、特定の重合条件において、二段以上のエチレンの逐次重合を行うことで、優れた成形性を有し、高い機械物性を有する成形体を提供しうる超高分子量ポリエチレンが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、遷移金属化合物系触媒と水素の存在下、エチレン又はエチレンとα-オレフィンとの重合を行い超高分子量ポリエチレンの製造を行う際に、少なくとも低分子量成分の生成工程と高分子量成分の生成工程を経る、二段階以上の逐次重合工程を行うことを特徴とする超高分子量ポリエチレンの製造方法に関するものである。
【0011】
以下に、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の超高分子量ポリエチレンの製造方法は、遷移金属化合物系触媒と水素の存在下、エチレン又はエチレンとα-オレフィンとの重合を行い超高分子量ポリエチレンの製造を行うものであり、その生成工程を少なくとも低分子量成分の生成工程と高分子量成分の生成工程を経る、二段階以上の逐次重合工程とするものである。
【0013】
本発明における遷移金属化合物系触媒は、遷移金属化合物を用いた触媒系を例示することができ、詳細には、(置換)シクロペンダジエニル環、(置換)インデニル環、(置換)フルオレニル環、(置換)アズレニル環等のシクロペンタジエニル骨格を有する配位子から選ばれる、2個の配位子と中心金属によりサンドイッチ構造を形成する錯体であるメタロセン錯体:1個の(置換)シクロペンダジエニル環、(置換)インデニル環、(置換)フルオレニル環等を有する錯体である、ハーフメタロセン錯体:シリルアミド錯体、シクロペンタジエニル骨格を有さず、アルコキシ基、アミド基、イミノ基等の配位子を有する、フェノシキイミド錯体、ピリジルイミノ錯体等のポストメタロセン錯体:等を用いた触媒を例示することができる。
【0014】
これら遷移金属化合物系触媒の形態は、助触媒であるイオン化イオン性化合物、粘土化合物、アルミノオキサンを担持した担体等の粒子に該遷移金属化合物を担持した触媒を例示することができる。
【0015】
そして、遷移金属化合物系触媒としては、超高分子量ポリエチレンの製造が可能であれば如何なるものを用いることも可能であり、例えば遷移金属化合物(A)、脂肪族塩にて変性した有機変性粘土(B)及び有機アルミニウム化合物(C)より得られる遷移金属化合物系触媒を挙げることができる。
【0016】
該遷移金属化合物(A)(以下、(A)成分と記すこともある。)としては、例えば(置換)シクロペンタジエニル基と(置換)フルオレニル基を有する遷移金属化合物錯体、(置換)シクロペンタジエニル基と(置換)インデニル基を有する遷移金属化合物錯体、(置換)インデニル基と(置換)フルオレニル基を有する遷移金属化合物錯体等を挙げることができ、その際の遷移金属としては、例えばジルコニウム、ハフニウム等を挙げることができる。
【0017】
該脂肪族塩にて変性した有機変性粘土(B)(以下、(B)成分と記すこともある。)としては、脂肪族アンモニウム塩、脂肪族ホスフォニウム塩等の脂肪族塩により変性された粘土を挙げることができる。
【0018】
また、該有機変性粘土(B)を構成する粘土化合物としては、粘土化合物の範疇に属するものであれば如何なるものであってもよく、天然品、または合成品でもよく、例えば、カオリナイト、タルク、スメクタイト、バーミキュライト、雲母、脆雲母、縁泥石等を例示することができ、その中でも、スメクタイト、特に、ヘクトライトまたはモンモリロナイトが好ましい。
【0019】
該有機変性粘土(B)は、該粘土化合物の層間に該脂肪族塩を導入し、イオン複合体を形成することにより得る事が可能である。
【0020】
該有機アルミニウム化合物(C)(以下、(C)成分と記すこともある。)としては、有機アルミニウム化合物と称される範疇に属するものであれば如何なるものも用いることができ、例えばトリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウムなどのアルキルアルミニウムなどを挙げることができる。
【0021】
該遷移金属化合物系触媒の調製方法に関しては、該(A)成分、該(B)成分および該(C)成分を含む触媒を調製することが可能あり、例えば各(A)成分、(B)成分、(C)成分に関して不活性な溶媒中あるいは重合を行うモノマーを溶媒として用い、混合する方法などを挙げることができる。また、これら(A)成分、(B)成分、(C)成分を互いに反応させる順番に関しても制限はなく、この処理を行う温度、処理時間も制限はない。また、(A)成分、(B)成分、(C)成分のそれぞれを2種類以上用いて触媒を調製することも可能である。
【0022】
本発明の超高分子量ポリエチレンの製造方法においては、エチレン又はエチレンとα-オレフィンとの重合を行うものであり、その際のα-オレフィンとしては、例えばプロピレン、1-ブテン、4-メチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン等を挙げることができる。また、その際の重合方法としては、例えば溶液重合法、スラリー重合法、塊状重合法、気相重合法等の方法を挙げることができ、その中でも、特に粒子形状が整った超高分子量ポリエチレンの製造が可能となると共に、高融点、高結晶化度を有し、機械強度、耐熱性、耐摩耗性に優れる成形体を提供しうる超高分子量ポリエチレンを効率よく安定的に製造することが可能となることからスラリー重合法、塊状重合法、気相重合法が好ましく、更に高分子量成分のポリエチレンと低分子量成分のポリエチレンが、非常に細かいレベルで分散される超高分子量ポリエチレンの製造が可能となることから、スラリー重合法であることが好ましい。また、スラリー重合法に用いる溶媒としては、一般に用いられている有機溶媒であればいずれでもよく、例えばベンゼン、トルエン、キシレン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等が挙げられ、イソブタン、プロパン等の液化ガス、プロピレン、1-ブテン、1-オクテン、1-ヘキセンなどのオレフィンを溶媒として用いることもできる。
【0023】
本発明の超高分子量ポリエチレンを製造する際の重合温度、重合時間、重合圧力、モノマー濃度などの重合条件については高分子量成分と低分子量成分の生成が可能な逐次重合が可能であれば任意に選択可能であり、その中でも、重合温度0~100℃、重合時間10秒~20時間、重合圧力常圧~100MPaの範囲で行うことが好ましい。
【0024】
そして、本発明の超高分子量ポリエチレンの製造方法においては、その生成工程を少なくとも低分子量成分の生成工程と高分子量成分の生成工程を経る、二段階以上の逐次重合工程とすることを特徴とするものであり、該逐次重合工程とすることにより高分子量成分と低分子量成分とが、非常に細かいレベルで分散していると考えられる。そして、このような超高分子量ポリエチレンとなることにより、優れた加工特性、力学特性を発現する超高分子量ポリエチレンの製造が可能となるものである。ここで、単段の重合工程である場合、得られる超高分子量ポリエチレンは、加工特性、力学特性に課題を発現しやすいものとなる。
【0025】
そして、高分子量成分、低分子量成分、二段階以上の逐次重合とは、相対的に高分子量、低分子量、逐次との範疇に属するものであれば如何なるものであってもよく、特に低分子量成分による熱融着性と高分子量成分による機械特性のバランスに優れる超高分子量ポリエチレンの製造方法として適したものとなることから、例えば、低分子量成分の生成工程を135℃で測定した固有粘度([η])が1.5dL/g以上9dL/g以下のポリエチレンを生成する工程、高分子量成分の生成工程を135℃で測定した固有粘度([η])が12dL/g以上80dL/g以下の超高分子量ポリエチレンを生成する工程、とする、少なくとも二段階以上の逐次重合を挙げることができる。
【0026】
また、その際の高分子量成分の生成工程の生産量と低分子量成分の生成工程による生産量の割合は任意であり、中でも加工特性、力学特性に優れる超高分子量ポリエチレンとなることから、高分子量成分の生成量/低分子量成分の生成量-=99/1~80/20(重量比)であることが好ましく、特に99/1~90/10であることが好ましい。
【0027】
さらに、本発明により得られる超高分子量ポリエチレンは、高分子量成分と低分子量成分の固有粘度([η])の比[η]高分子量成分/[η]低分子量成分が1.5以上20以下であることが好ましい。
【0028】
本発明の超高分子量ポリエチレンの製造方法における水素は、生成する超高分子量ポリエチレンの低分子量成分、高分子量成分の分子量を調整するために用いられるものであり、通常の水素の範疇に属するものであればよく、重合系中における、エチレン濃度に対する水素濃度(エチレンと水素の濃度比)を制御することにより分子量の調整が可能となるものである。そして、該水素濃度としては、目的とする低分子量成分、高分子量成分の分子量により適宜選択可能であり、その中でも特に低分子量成分による熱融着性と高分子量成分による機械特性のバランスに優れる超高分子量ポリエチレンの製造方法として適したものとなることから、低分子量成分の生成工程は、重合系中における水素濃度がエチレン濃度に対して50ppm以上(モル比)であることが好ましく、特に50ppm以上600ppm以下(モル比)の条件下であることが好ましい。また、高分子量成分の生成工程は、重合系中における水素濃度がエチレン濃度に対して30ppm以下であることが好ましく、特に0ppm以上30ppm以下の条件下であることが好ましい。なお、重合系中における濃度とは、製造時の重合反応場における濃度を示すものであり、例えばスラリー重合、溶液重合においては、重合反応場は重合溶媒中であることから重合溶媒への溶解濃度を示し、気相重合、塊状重合においては仕込み濃度を示すものである。
【0029】
また、本発明における分子量の調節は、水素濃度による調整の他、重合温度、水素捕獲剤等、分子量を調整する方法を付加的に選択することもできる。重合はバッチ式、半連続式、連続式のいずれの方法でも行うことが可能である。
【0030】
超高分子量ポリエチレンの製造を行う際には、低分子量成分→高分子量成分の順で重合しても、高分子量成分→低分子量成分の順で重合してもよく、低分子量成分→高分子量成分→低分子量成分→高分子量成分・・・のように繰り返しても良い。
【0031】
本発明における固有粘度([η])は、例えばウベローデ型粘度計を用い、デカリンを溶媒としたポリマー濃度0.0005~0.01wt%の溶液にて、135℃において測定する方法により測定することが可能である。生産量は、実測する他、原料モノマーの消費量等から間接的に算出する方法も可能である。また、二段目以降のポリエチレンは得られた超高分子量ポリエチレンが、前工程で重合したポリエチレンを含んでいるが、固有粘度の加成則より算出し求めることもできる。
[η]total=[η]高分子量成分×A高分子量成分+[η]低分子量成分×A低分子量成分
(ここで、Aは各成分の重量分率であり、A高分子量成分+A低分子量成分=1である。)
本発明の方法により製造される超高分子量ポリエチレンは塩素含有量が少ないという特徴も有しており、好ましくは、塩素含有量が1ppm以下、より好ましくは、0.5ppm以下である。塩素含有量が1ppm以下の場合、成形加工の際の成形機の腐食が起きにくく、また、塩素含有量が多い場合に用いられる、金属石鹸等の中和剤が不要、もしくは、低減でき、これら中和剤のブリードによる、金型汚染や、粒子間の融着不良を低減できる。なお、塩素の含有量は、化学滴定法、蛍光X線分析装置、イオンクロマトグラフィー等による測定により求めることができる。
【0032】
本発明の方法にて、製造される超高分子量ポリエチレンは、その取扱い性に優れるものとなることから粒子形状を有するものであることが好ましく、粒子形状を有する際には、特に成形加工時の流動性、充填性に優れるものとなることから嵩比重が350kg/m3以上600kg/m3以下のものであることが好ましい。なお、嵩比重は、例えばJIS K6760(1995)に準拠した方法で測定することが可能である。
【0033】
また、特に成形性に優れるものとなることからメジアン径が5μm以上500μm以下であることが好ましく、特に5μm以上300μm以下が好ましく、更に50μm以上300μm以下であることが好ましい。なお、メジアン径とは、粒度分布を求めたときの、累積重量が50%となる粒径であり、一般に平均粒径の目安とされ、D50とも表記される。粒度分布は、例えばJIS Z8801で規定された標準篩を用いたふるい分け試験法、レーザー回折法、光学もしくは電子顕微鏡により観察したパウダーの粒度分布を画像解析により解析する方法等を例示することができる。
【0034】
本発明の方法にて、製造される超高分子量ポリエチレンは、成形性に優れ、得られる成形体の物性も良好な超高分子量ポリエチレンとなることから、粒子径分布の幾何標準偏差が0.25以下であることが好ましく、特に0.15以下であることが好ましい。
【0035】
なお、幾何標準偏差に関しては、メジアン径の測定に記載の方法により粒子径分布を測定し、粒子径と重量分率を対数確率紙にプロットし、目開きの小さい側から累積した重量分率が50%に相当する粒子径(メジアン径、D50)、目開きの小さい側から累積した重量分率84%に相当する粒子径(D84)から、下記関係式(a)で求められる。
標準偏差=log(D84/D50) (a)
本発明の製造方法により製造される超高分子量ポリエチレンは、分子量分布の狭い高分子量成分と低分子量成分から構成されている。この2つの成分は、同一の触媒(活性種)から逐次的に製造されるため、両成分は非常に細かいレベルで分散していると考えられる。このため、低分子量成分のドメイン形成により、機械物性のウイークポイントになることはなく、融着性のみが向上し、伸び、耐衝撃性等の物性が向上する。
【0036】
得られた超高分子量ポリエチレンは、必要に応じて公知の各種添加剤を含んでいても良く、例えばテトラキス(メチレン(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシ)ヒドロシンナメート)メタン、ジステアリルチオジプロピオネート等の耐熱安定剤;ビス(2,2’,6,6’-テトラメチル-4-ピペリジン)セバケート、2-(2-ヒドロキシ-t-ブチル-5-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール等の耐候安定剤等が挙げられる。また、着色剤として無機系、有機系のドライカラーを添加しても良い。また、滑剤や塩化水素吸収剤等として公知であるステアリン酸カルシウム等のステアリン酸塩も、好適な添加剤として挙げることができる。
【0037】
また、超高分子量ポリエチレンは、公知の成形方法により成形体とすることができる。具体的には、ラム押出等の押出成形、圧縮成形、粉体塗装、シート成形、圧延成形、各種溶媒に溶解又は混合させた状態での延伸成形等の方法を例示することができる。本発明の成形体は、成形後も強度が高く、ライニング材、食品、半導体、光学材料、医療等の部材の製造機械のギア等の部品、義肢、人工関節、スポーツ用品、微多孔膜、ネット、ロープ、手袋等に用いることができる。
【発明の効果】
【0038】
本発明により得られる超高分子量ポリエチレンは、分子量の異なる少なくとも2成分のポリエチレンを含有しており、成形加工性に優れており、かつ、得られた成形体の物性に優れることから、それより得られる成形体は、機械的強度、耐熱性、耐摩耗性に優れるものとなり各種産業用機器等の基材等として優れた特性を有するものとなる。
【実施例】
【0039】
以下に、実施例を示して本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例により制限されるものではない。
【0040】
なお、断りのない限り、用いた試薬等は市販品、あるいは既知の方法に従って合成したものを用いた。
【0041】
有機変性粘土の粉砕にはジェットミル(セイシン企業社製、(商品名)CO-JET SYSTEM α MARK III)を用い、粉砕後の粒子径はマイクロトラック粒度分布測定装置(日機装株式会社製、(商品名)MT3300)を用いてエタノールを分散剤として測定した。
【0042】
超高分子量ポリエチレン製造用触媒の調製、超高分子量ポリエチレンの製造および溶媒精製は全て不活性ガス雰囲気下で行った。トリイソブチルアルミニウムのヘキサン溶液(20wt%)は東ソーファインケム(株)製を用いた。
【0043】
さらに、実施例における超高分子量ポリエチレンの諸物性は、以下に示す方法により測定した。
【0044】
~固有粘度の測定~
ウベローデ型粘度計を用い、デカリンを溶媒として、135℃において、超高分子量ポリエチレン濃度0.005wt%で測定した。
【0045】
~塩素含有量の測定~
超高分子量ポリエチレンを燃焼炉において完全燃焼し、燃焼ガスを吸収液に吹き込み、塩素イオンを吸収させた。この吸収液を用いて、イオンクロマトグラフィー(東ソー(株)製、(商品名)IC2010)により、超高分子量ポリエチレン中の塩素含有量を測定した。
【0046】
~メジアン径、標準偏差の測定~
JIS Z8801で規定された9種類の篩(目開き:710μm、500μm、355μm、250μm、180μm、150μm、106μm、75μm、53μm)を用いて、80gの超高分子量ポリエチレンを分級した際に得られる各篩に残った粒子の重量を目開きの小さい側から積分した積分曲線において、50%の重量になる粒子径を測定することによりメジアン径を求めた。また、幾何標準偏差は、以下の式で求めた。
標準偏差=log(D84/D50)
ここで、D84は対数確率紙にプロットにおける、目開きの小さい側から累積した重量分率重量分率84%に相当する粒子径である。
【0047】
~嵩比重の測定~
JIS K6760(1995)に準拠した方法で測定した。
【0048】
~引張破壊応力、引張破壊呼びひずみの測定~
超高分子量ポリエチレンを150mm×150mmの金枠に充填し、ポリエチレンテレフタレートフィルムに挟んで、190℃で、5分間予熱した後、190℃、プレス圧力20MPaの条件にて加熱圧縮した。その後、金型温度120℃、10分間冷却し、厚さ8mmのプレスシートを得た。
【0049】
このシートから切り出した試験片を用い、引張試験機((株)エイ・アンド・ディー製、(商品名)テンシロンRTG-1210)にて、JIS K 6922-2(2005)に準拠した方法にて、引張破壊応力、引張破壊呼び歪みを測定した。
【0050】
~アイゾット衝撃強さの測定~
引張破壊応力、引張破壊呼びひずみと同じ方法で成形した圧縮成形体を用い、長さ63.5mm、幅12.7mm、厚さ6.35mmに切削したのち、後加工としてダブルノッチ(レザーノッチ、ノッチ間距離3.56mm)を付与した試験片を作製した。同試験片を用いて、ASTM D256に準拠して、ハンマー容量4J、温度23℃におけるダブルノッチアイゾット衝撃強さを測定した。
【0051】
実施例1
(1)有機変性粘土の調製
1リットルのフラスコに工業用アルコール(日本アルコール販売社製、(商品名)エキネンF-3)300ml及び蒸留水300mlを入れ、濃塩酸15.0g及びジオレイルメチルアミン(ライオン株式会社製、(商品名)アーミンM2O)64.2g(120mmol)を添加し、45℃に加熱して合成ヘクトライト(ビックケミー・ジャパン社製、(商品名)ラポナイトRDS)を100g分散させた後、60℃に昇温させてその温度を保持したまま1時間攪拌した。このスラリーを濾別後、60℃の水600mlで2回洗浄し、85℃の乾燥機内で12時間乾燥させることにより160gの有機変性粘土を得た。この有機変性粘土はジェットミル粉砕して、メジアン径を7μmとした。
【0052】
(2)超高分子量ポリエチレン製造用触媒の懸濁液の調製
温度計と還流管が装着された300mlのフラスコを窒素置換した後に(1)で得られた有機変性粘土25.0gとヘキサンを108ml入れ、次いでジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(2-(ジメチルアミノ)-9-フルオレニル)ジルコニウムジクロライドを0.600g、及び20%トリイソブチルアルミニウム142mlを添加して60℃で3時間攪拌した。45℃まで冷却した後に上澄み液を抜き取り、200mlのヘキサンにて2回洗浄後、ヘキサンを200ml加えてポリエチレン製造用触媒の懸濁液を得た(固形重量分:12.3wt%)。
【0053】
(3)超高分子量ポリエチレンの製造
エチレンの積算流量計を取り付けた、2リットルのオートクレーブにヘキサンを1.2リットル、20%トリイソブチルアルミニウムを1.0ml、(2)で得られたポリエチレン製造用触媒の懸濁液を380mg(固形分46.7mg相当)加え、60℃に昇温したのち、エチレン分圧が0.9MPa、ヘキサン中の水素濃度がエチレン濃度に対して180ppm(モル比)に維持できるように、エチレン、水素の供給を続け、積算流量計におけるエチレン供給量(消費量)が16gとなるまで、エチレン重合(低分子量成分を重合)を継続したのち、オートクレーブを50℃まで急冷し、脱圧、窒素パージを繰り返し、残留エチレンを除去した。少量サンプルを抜き出し、[η]を測定したところ、2dL/gであった。その後、再び、60℃に昇温後、分圧が0.9MPaになるようにエチレンのみを連続的に供給(ヘキサン中に残存する水素による水素濃度は2ppm)しエチレンのスラリー重合を行った。積算流量計におけるエチレン供給量が184gとなるまで、エチレン重合(高分子量成分を重合)を継続した。その後、脱圧し、スラリーを濾別後、乾燥することで、201gの超高分子量ポリエチレンを得た。得られた超高分子量ポリエチレンの物性を表1に示す。
【0054】
比較例1
(1)有機変性粘土の調製及び(2)ポリエチレン製造用触媒の懸濁液の調製
実施例1と同様に実施した。
【0055】
(3)超高分子量ポリエチレンの製造
2リットルのオートクレーブにヘキサンを1.2リットル、20%トリイソブチルアルミニウムを1.0ml、(2)で得られた超高分子量ポリエチレン製造用触媒の懸濁液を440mg(固形分54.1mg相当)加え、60℃に昇温後、エチレン分圧が0.9MPaに維持できるように、エチレンの供給を続け、積算流量計におけるエチレン供給量(消費量)が200gとなるまで、エチレン重合を継続した。その後、脱圧し、スラリーを濾別後、乾燥することで、198gの超高分子量ポリエチレンを得た。得られた超高分子量ポリエチレンの物性を表1に示す。本比較例1の超高分子量ポリエチレンは、引張破壊伸び、アイゾット衝撃強さが、実施例1と比較して低かった。
【0056】
比較例2
(1)有機変性粘土の調製及び(2)ポリエチレン製造用触媒の懸濁液の調製
実施例1と同様に実施した。
【0057】
(3)超高分子量ポリエチレンの製造
エチレン分圧が0.9MPa、ヘキサン中の水素濃度がエチレン濃度に対して180ppmに維持できるように、エチレン、水素の供給を続け、積算流量計におけるエチレン供給量(消費量)が200gとなるまで、エチレン重合を継続した。その後、脱圧し、スラリーを濾別後、乾燥することで、198gのポリエチレンを得た。得られたポリエチレンの物性を表1に示す。本比較例2のポリエチレンは、引張破壊応力、アイゾット衝撃強さが、実施例1と比較して低かった。
【0058】
実施例2
(1)有機変性粘土の調製及び(2)ポリエチレン製造用触媒の懸濁液の調製
実施例1と同様に実施した。
【0059】
(3)超高分子量ポリエチレンの製造
エチレンの積算流量計を取り付けた、2リットルのオートクレーブにヘキサンを1.2リットル、20%トリイソブチルアルミニウムを1.0ml、(2)で得られたポリエチレン製造用触媒の懸濁液を405mg(固形分49.8mg相当)加え、60℃に昇温後、エチレン分圧が0.9MPa、ヘキサン中の水素濃度がエチレン濃度に対して160ppmに維持できるように、エチレン、水素の供給を続け、積算流量計におけるエチレン供給量(消費量)が10gとなるまで、エチレン重合(低分子量成分を重合)を継続したのち、オートクレーブを50℃まで急冷し、脱圧、窒素パージを繰り返し、残留エチレンを除去した。少量サンプルを抜き出し、[η]を測定したところ、2.5dL/gであった。その後、再び、60℃に昇温したのち、エチレン分圧が0.9MPa、ヘキサン中の水素濃度がエチレン濃度に対して5ppmになるように、エチレン、水素を連続的に供給しエチレンのスラリー重合を行った。積算流量計におけるエチレン供給量が190gとなるまで、エチレン重合(高分子量成分を重合)を継続した。その後、脱圧し、スラリーを濾別後、乾燥することで、203gの超高分子量ポリエチレンを得た。得られた超高分子量ポリエチレンの物性を表1に示す。
【0060】
実施例3
(1)有機変性粘土の調製
有機変性粘土の調製は、実施例1と同様に実施した。
【0061】
(2)ポリエチレン製造用触媒の懸濁液の調製
温度計と還流管が装着された300mlのフラスコを窒素置換した後に(1)で得られた有機変性粘土25.0gとヘキサンを108ml入れ、次いでジフェニルメチレン(シクロペンタジエニル)(2-(ジメチルアミノ)-9-フルオレニル)ハフニウムジクロライドを0.786g、及び20%トリイソブチルアルミニウム142mlを添加して60℃で3時間攪拌した。45℃まで冷却した後に上澄み液を抜き取り、200mlのヘキサンにて2回洗浄後、ヘキサンを200ml加えてポリエチレン製造用触媒の懸濁液を得た(固形重量分:11.8wt%)。
【0062】
(3)超高分子量ポリエチレンの製造
エチレンの積算流量計を取り付けた、2リットルのオートクレーブにヘキサンを1.2リットル、20%トリイソブチルアルミニウムを1.0ml、(2)で得られたポリエチレン製造用触媒の懸濁液を348mg(固形分41.1mg相当)加え、70℃に昇温後、エチレン分圧が0.9MPa、ヘキサン中の水素濃度がエチレン濃度に対して2ppmに維持できるように、エチレン、水素の供給を続け、積算流量計におけるエチレン供給量(消費量)が180gとなるまで、エチレン重合(高分子量成分を重合)を継続したのち、オートクレーブを50℃まで急冷し、脱圧、窒素パージを繰り返し、残留エチレンを除去した。少量サンプルを抜き出し、[η]を測定したところ、22.9dL/gであった。再び、70℃に昇温したのち、エチレン分圧が0.9MPa、ヘキサン中の水素濃度がエチレン濃度に対して116ppmに維持できるように、エチレン、水素の供給を続け、積算流量計におけるエチレン供給量が20gとなるまで、エチレン重合(低分子量成分を重合)を継続した。その後、脱圧し、スラリーを濾別後、乾燥することで、199gの超高分子量ポリエチレンを得た。得られた超高分子量ポリエチレンの物性を表1に示す。
【0063】
実施例4
(1)有機変性粘土の調製及び(2)ポリエチレン製造用触媒の懸濁液の調製
実施例3と同様に実施した。
【0064】
(3)超高分子量ポリエチレンの製造
エチレンの積算流量計を取り付けた、2リットルのオートクレーブにヘキサンを1.2リットル、20%トリイソブチルアルミニウムを1.0ml、(2)で得られたポリエチレン製造用触媒の懸濁液を380mg(固形分44.8mg相当)加え、70℃に昇温後、ブテンを0.15g供給した後、エチレン分圧が0.9MPa、ヘキサン中の水素濃度がエチレン濃度に対して84ppmに維持できるように、エチレン、水素の供給を続け、積算流量計におけるエチレン供給量(消費量)が10gとなるまで、エチレン重合(低分子量成分を重合)を継続したのち、オートクレーブを50℃まで急冷し、脱圧、窒素パージを繰り返し、残留エチレンを除去した。少量サンプルを抜き出し、[η]を測定したところ、2.2dL/gであった。再び、70℃に昇温したのち、ブテンを0.08g供給、その後、エチレン分圧が0.9MPa、ヘキサン中の水素濃度がエチレン濃度に対して1ppmに維持できるように、エチレン、水素の供給を続け、積算流量計におけるエチレン供給量が10gとなるまで、エチレン重合(高分子量成分を重合)を継続した。その後、脱圧し、スラリーを濾別後、乾燥することで、205gの超高分子量ポリエチレンを得た。得られた超高分子量ポリエチレンの物性を表1に示す。
【0065】
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明の製造法により重合した超高分子量ポリエチレンは、成形加工性に優れており、これを用いることにより、機械物性、耐熱性、耐衝撃性、耐久性に優れる成形体を提供することが可能となり、その産業上の利用可能性は極めて高いものである。