(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】二酸化炭素分離用組成物、並びに二酸化炭素の分離方法
(51)【国際特許分類】
B01D 53/14 20060101AFI20240903BHJP
B01D 53/62 20060101ALI20240903BHJP
B01D 53/78 20060101ALI20240903BHJP
C01B 32/50 20170101ALI20240903BHJP
【FI】
B01D53/14 210
B01D53/62
B01D53/78
C01B32/50
(21)【出願番号】P 2020101175
(22)【出願日】2020-06-10
【審査請求日】2023-05-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】藤井 亮太郎
(72)【発明者】
【氏名】柳瀬 学
【審査官】山田 陸翠
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-202298(JP,A)
【文献】特開2019-098316(JP,A)
【文献】特開2006-240966(JP,A)
【文献】国際公開第2012/169634(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/14-53/18
B01D 53/34-53/73
B01D 53/74-53/85
C01B 32/00-32/991
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2-ヒドロキシメチルピペラジンと、
水からなり、2-ヒドロキシメチルピペラジン 100重量部に対して、水の含量が 10~1,000重量部である二酸化炭素分離用組成物。
【請求項2】
二酸化炭素を含む混合ガスを、請求項
1に記載の二酸化炭素分離用組成物に接触させて、該混合ガス中の二酸化炭素を吸収させる工程を含むことを特徴とする二酸化炭素の分離方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素含有混合ガスからの二酸化炭素を選択的に分離するための二酸化炭素分離用組成物、並びに該組成物を用いた二酸化炭素の分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化問題のため、二酸化炭素の分離・回収が注目されており、二酸化炭素吸収液の開発が盛んにおこなわれている。
【0003】
二酸化炭素吸収液として、モノエタノールアミン水溶液が最も一般的である。モノエタノールアミンは、安価で工業的に入手しやすいが、低温で吸収した二酸化炭素を120℃以上の高温にしないと放散しないという特性がある。そして、二酸化炭素放散温度を水の沸点以上にすると、水の高い潜熱、比熱のため、二酸化炭素の回収に多くのエネルギーを要することになる。
【0004】
そのため、モノエタノールアミンより二酸化炭素放散温度が低く、二酸化炭素回収エネルギーの低いアミンの開発がおこなわれている。例えば、N-メチルジエタノールアミン(特許文献1)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のN-メチルジエタノールアミンについては、放散効率(CO2放散量/CO2吸収量の効率)が低く、その改善が求められている。
【0007】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、先行技術であるN-メチルジエタノールアミンに比べて、放散効率に優れる(CO2放散量/CO2吸収量の数値が1に近い)二酸化炭素分離用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定のアミン化合物を含有する二酸化炭素分離用組成物が、放散効率に優れる(CO2放散量/CO2吸収量の数値が1に近い)という知見を見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下に示すとおりの二酸化炭素分離用組成物、及び二酸化炭素の分離方法である。
【0010】
[1] 下記式(1)で示されるアミン化合物と、その他溶媒を含む二酸化炭素分離用組成物。
【0011】
【0012】
[上記式(1)中、R6は、ヒドロキシ基を有する炭素数1~4のアルキル基を表す。R1~R5は、各々独立して、水素原子またはヒドロキシ基を有する炭素数1~4のアルキル基を表す。]
[2] R6が、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、又はヒドロキシブチル基である、請求項1に記載の二酸化炭素分離用組成物。
【0013】
[3] R1~R6が、各々独立して、水素原子、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基又はヒドロキシブチル基である、請求項1に記載の二酸化炭素分離用組成物。
【0014】
[4] 上記式(1)で示されるアミン化合物が、
2-ヒドロキシメチルピペラジン(R1=R2=R3=R4=R5=水素原子、R6=ヒドロキシメチル基)、2-ヒドロキシエチルピペラジン(R1=R2=R3=R4=R5=水素原子、R6=ヒドロキシエチル基)、2-ヒドロキシプロピルピペラジン(R1=R2=R3=R4=R5=水素原子、R6=ヒドロキシプロピル基)、2-ヒドロキシブチルピペラジン(R1=R2=R3=R4=R5=水素原子、R6=ヒドロキシブチル基)、2,3-ジヒドロキシメチルピペラジン(R1=R2=R3=R4=水素原子、R5=R6=ヒドロキシメチル基)、2,3-ジヒドロキシエチルピペラジン(R1=R2=R3=R4=水素原子、R5=R6=ヒドロキシエチル基)、2,3-ジヒドロキシプロピルピペラジン(R1=R2=R3=R4=水素原子、R5=R6=ヒドロキシプロピル基)、2,3-ジヒドロキシブチルピペラジン(R1=R2=R3=R4=水素原子、R5=R6=ヒドロキシブチル基)、2,5-ジヒドロキシメチルピペラジン(R1=R2=R3=R5=水素原子、R4=R6=ヒドロキシメチル基)、2,5-ジヒドロキシエチルピペラジン(R1=R2=R3=R5=水素原子、R4=R6=ヒドロキシエチル基)、2,5-ジヒドロキシプロピルピペラジン(R1=R2=R3=R5=水素原子、R4=R6=ヒドロキシプロピル基)、2,5-ジヒドロキシブチルピペラジン(R1=R2=R3=R5=水素原子、R4=R6=ヒドロキシブチル基)、2,6-ジヒドロキシメチルピペラジン(R1=R2=R4=R5=水素原子、R3=R6=ヒドロキシメチル基)、2,6-ジヒドロキシエチルピペラジン(R1=R2=R4=R5=水素原子、R3=R6=ヒドロキシエチル基)、2,6-ジヒドロキシプロピルピペラジン(R1=R2=R4=R5=水素原子、R3=R6=ヒドロキシプロピル基)、2,6-ジヒドロキシブチルピペラジン(R1=R2=R4=R5=水素原子、R3=R6=ヒドロキシブチル基)、1-ヒドロキシエチル-3-ヒドロキシメチルピペラジン(R2=ヒドロキシエチル基、R1=R3=R4=R5=水素原子、R6=ヒドロキシメチル基)、1-ヒドロキシエチル-2-ヒドロキシメチルピペラジン(R1=ヒドロキシエチル基、R2=R3=R4=R5=水素原子、R6=ヒドロキシメチル基)、1,4-ジヒドロキシエチル-2-ヒドロキシメチルピペラジン(R1=R2=ヒドロキシエチル基、R3=R4=R5=水素原子、R6=ヒドロキシメチル基)からなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1及至請求項3に記載の二酸化炭素分離用組成物。
【0015】
[5] 前記の式(1)で示されるアミン化合物 100重量部に対して、その他溶媒の含量が 10~1,000重量部である、請求項1乃至4のいずれかに記載の二酸化炭素分離用組成物。
【0016】
[6] さらに、アルカノールアミン類、プロピレンジアミン類、及びポリエチレンポリアミン類からなる群より選ばれる少なくとも1種のアミン化合物(A)(ただし、式(1)で示されるアミン化合物を除く)を含む、請求項1及至5のいずれかに記載の二酸化炭素分離用組成物。
【0017】
[7] 二酸化炭素を含む混合ガスを、請求項1乃至6のいずれかに記載の二酸化炭素分離用組成物に接触させて、該混合ガス中の二酸化炭素を吸収させる工程を含むことを特徴とする二酸化炭素の分離方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の二酸化炭素分離用組成物は、従来公知の材料に比べて、放散効率(放散量/吸収量)に優れるという効果を奏する。このため本発名の二酸化炭素分離用組成物は、従来公知の材料に比べて、高効率(低エネルギー)での二酸化炭素ガスの回収分離を実現することが可能となり、環境負荷影響を低減できるという効果を有する。
【0019】
また、本発明の二酸化炭素分離用組成物は、従来公知の材料に比べて、単位時間当たりの二酸化炭素吸収速度が速く、尚且つ単位時間当たりの放散速度も速いという特徴があり、大量の二酸化炭素を高速で吸収分離処理することができるという効果を有する。このため、本発明は、大規模火力発電などで大量に排出される二酸化炭素を効率よく吸収分離することができるという点で、工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0021】
まず、本発明の二酸化炭素分離用組成物について説明する。
【0022】
本発明の二酸化炭素分離用組成物は、上記式(1)で示されるアミン化合物と、その他溶媒を含むことをその特徴とする。例えば、特に限定するものではないが、より具体的には、上記式(1)で示されるアミン化合物と水を含む二酸化炭素分離用組成物を挙げることができる。
【0023】
本発明において上記式(1)で示されるアミン化合物は、主に、二酸化炭素を吸着、及び/又は脱着する役割を担う。
【0024】
本発明において、上記式(1)における、R6は、ヒドロキシ基を有する炭素数1~4のアルキル基を表し、R1~R5は、各々独立して、水素原子、またはヒドロキシ基を有する炭素数1~4のアルキル基を表す。
【0025】
上記の炭素数1~4のアルコキシ基については、特に限定するものではないが、例えば、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ヒドロキシブチル基等を例示することができる。
【0026】
前記のR1とR2については、その他溶媒への溶解度と二酸化炭素の吸収量に優れる点で、水素原子、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基又はヒドロキシブチル基であることが好ましく、水素原子、ヒドロキシエチル基、又は2-ヒドロキシプロピル基であることがより好ましい。
【0027】
前記のR6については、その他溶媒への溶解度と二酸化炭素の吸収量に優れる点で、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、またはヒドロキシブチル基であることが好ましく、ヒドロキシメチル基であることがより好ましい。
【0028】
前記のR3~R5については、その他溶媒への溶解度と二酸化炭素の吸収量に優れる点で、各々独立して、水素原子、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基又はヒドロキシブチル基であることが好ましく、各々独立して、水素原子、ヒドロキシメチル基、又はヒドロキシエチル基であることがより好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0029】
本発明において、上記式(1)で示されるアミン化合物としては、具体例としては、例えば、2-ヒドロキシメチルピペラジン(R1=R2=R3=R4=R5=水素原子、R6=ヒドロキシメチル基)、2-ヒドロキシエチルピペラジン(R1=R2=R3=R4=R5=水素原子、R6=ヒドロキシエチル基)、2-ヒドロキシプロピルピペラジン(R1=R2=R3=R4=R5=水素原子、R6=ヒドロキシプロピル基)、2-ヒドロキシブチルピペラジン(R1=R2=R3=R4=R5=水素原子、R6=ヒドロキシブチル基)、2,3-ジヒドロキシメチルピペラジン(R1=R2=R3=R4=水素原子、R5=R6=ヒドロキシメチル基)、2,3-ジヒドロキシエチルピペラジン(R1=R2=R3=R4=水素原子、R5=R6=ヒドロキシエチル基)、2,3-ジヒドロキシプロピルピペラジン(R1=R2=R3=R4=水素原子、R5=R6=ヒドロキシプロピル基)、2,3-ジヒドロキシブチルピペラジン(R1=R2=R3=R4=水素原子、R5=R6=ヒドロキシブチル基)、2,5-ジヒドロキシメチルピペラジン(R1=R2=R3=R5=水素原子、R4=R6=ヒドロキシメチル基)、2,5-ジヒドロキシエチルピペラジン(R1=R2=R3=R5=水素原子、R4=R6=ヒドロキシエチル基)、2,5-ジヒドロキシプロピルピペラジン(R1=R2=R3=R5=水素原子、R4=R6=ヒドロキシプロピル基)、2,5-ジヒドロキシブチルピペラジン(R1=R2=R3=R5=水素原子、R4=R6=ヒドロキシブチル基)、2,6-ジヒドロキシメチルピペラジン(R1=R2=R4=R5=水素原子、R3=R6=ヒドロキシメチル基)、2,6-ジヒドロキシエチルピペラジン(R1=R2=R4=R5=水素原子、R3=R6=ヒドロキシエチル基)、2,6-ジヒドロキシプロピルピペラジン(R1=R2=R4=R5=水素原子、R3=R6=ヒドロキシプロピル基)、2,6-ジヒドロキシブチルピペラジン(R1=R2=R4=R5=水素原子、R3=R6=ヒドロキシブチル基)、1-ヒドロキシエチル-3-ヒドロキシメチルピペラジン(R2=ヒドロキシエチル基、R1=R3=R4=R5=水素原子、R6=ヒドロキシメチル基)、1-ヒドロキシエチル-2-ヒドロキシメチルピペラジン(R1=ヒドロキシエチル基、R2=R3=R4=R5=水素原子、R6=ヒドロキシメチル基)、1,4-ジヒドロキシエチル-2-ヒドロキシメチルピペラジン(R1=R2=ヒドロキシエチル基、R3=R4=R5=水素原子、R6=ヒドロキシメチル基)からなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0030】
当該式(1)で示されるアミン化合物としては、以下の化合物(例示化合物番号32~50)からなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0031】
【0032】
【0033】
本発明において、上記式(1)で示されるアミン化合物は市販のものでもよいし、公知の方法により合成したものでもよく、特に限定されない。また、上記式(1)で示されるアミン化合物の純度としては、特に限定するものではないが、95%以上が好ましく、99%以上が特に好ましい。純度が95%を下回ると、二酸化炭素の吸収量が低下する恐れがある。
【0034】
本発明において、上記のその他溶媒については、特に限定するものではないが、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、i-プロパノール、ブタノール、tert-ブタノール、エチレングリコール、エチレングリコールジメチルエーテル、炭酸プロピレン、1,3-ジメチル-3,4,5,6-テトラヒドロ-2(1H)-ピリミジノン、1-メチル-2-ピロリジノン、モルホリン、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-ホルミルモルホリン、N-アセチルモルホリン等を挙げることができ、単独で用いてもよいし、これらの混合物を用いてもよい。これらのうち、二酸化炭素ガスを重炭酸塩として吸収分離する効率性に優れる点で、水が好ましい。
【0035】
上記のその他溶媒を用いる場合において、当該その他溶媒の含有量については、本発明の二酸化炭素分離用組成物の操作性に優れる点で、式(1)で示されるアミン化合物 100重量部に対して、その他溶媒の含量が 10~1,000重量部であることが好ましく、式(1)で示されるアミン化合物 100重量部に対して、その他溶媒の含量が 50~500重量部であることがより好ましい。
【0036】
本発明の二酸化炭素分離用組成物については、上記式(1)で示されるアミン化合物及びその他溶媒に加え、さらに、アルカノールアミン類、プロピレンジアミン類、及びポリエチレンポリアミン類からなる群より選ばれる少なくとも1種のアミン化合物(A)を含んでいてもよい。なお、前記のアミン化合物(A)に上記式(1)で示されるアミン化合物は含まれない。当該アルカノールアミン類、プロピレンジアミン類、及びポリエチレンポリアミン類からなる群より選ばれる少なくとも1種のアミン化合物(A)を共存させることで、二酸化炭素分離用組成物の単位重量当たりのN原子含有量を増やすことができ、二酸化炭素分離用組成物の単位重量当たりの二酸化炭素吸収量が増えるため、工業的に有利である。
【0037】
本発明において、アミン化合物(A)として例示したもののうち、アルカノールアミン類としては、特に限定するものはないが、具体例としては、例えば、エタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N,N-ジメチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-(2-アミノエチル)エタノールアミン、N-[2-(ジメチルアミノ)エチル],N-メチルエタノールアミン、N-[2-(ジエチルアミノ)エチル],N-エチルエタノールアミン、2-(2-アミノエトキシ)エタノール、2-[2-(ジメチルアミノ)エトキシ]エタノール、2-[2-(ジエチルアミノ)エトキシ]エタノール、N-[2-(2-アミノエトキシ)エチル]エタノールアミン、N-[2-{2-(ジメチルアミノ)エトキシ}エチル],N-メチルエタノールアミン、及びN-[2-{2-(ジエチルアミノ)エトキシ}エチル],N-エチルエタノールアミン、及び以下の化合物(例示化合物番号1~31)等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0038】
【0039】
本発明において、アミン化合物(A)として例示したもののうち、プロピレンジアミン類としては、具体例としては、例えば、1,3-プロパンジアミン、3-(ジメチルアミノ)プロピルアミン、3-(ジエチルアミノ)プロピルアミン、1,3-ビス(ジメチルアミノ)プロパン、及び1,3-ビス(ジエチルアミノ)プロパン等が挙げられる。これらのうち、入手のし易さ、及び製造コストの観点から、当該プロピレンジアミン類としては、1,3-プロパンジアミン、及び3-(ジメチルアミノ)プロピルアミンからなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0040】
本発明において、アミン化合物(A)として例示したもののうち、ポリエチレンポリアミン類としては、具体例としては、例えば、ジエチレントリアミン(DETA)、トリエチレンテトラミン(TETA)、テトラエチレンペンタミン(TEPA)、ペンタエチレンヘキサミン(PEHA)、ヘキサエチレンヘプタミン(HEHA)、及び8以上のアミノ基を有するポリエチレンポリアミン等が挙げられる。
【0041】
ここで、「TETA」とは、4つのアミノ基がエチレン鎖を介して直鎖状又は分岐状に連なっている化合物を指すが、本発明においては、同じくアミノ基を4つ有しており、且つピペラジン環構造を有するものも含まれる。TETAの具体的な化合物名としては、例えば、1,4,7,10-テトラアザデカン、N,N-ビス(2-アミノエチル)-1,2-エタンジアミン、1-[2-[(2-アミノエチル)アミノ]エチル]-ピペラジン、1、4-ビス(2-アミノエチル)-ピペラジン等が挙げられる。
【0042】
また、「TEPA」とは、5つのアミノ基がエチレン鎖を介して直鎖状又は分岐状に連なっている化合物を指すが、本発明においては、同じくアミノ基を5つ有しており、且つピペラジン環構造を有するものも含まれる。TEPAの具体的な化合物名としては、例えば、1,4,7,10,13-ペンタアザトリデカン、N,N,N’-トリス(2-アミノエチル)-1,2-エタンジアミン、1-[2-[2-[2-[(2-アミノエチル)アミノ]エチル]アミノ]エチル]-ピペラジン、1-[2-[ビス(2-アミノエチル)アミノ]エチル]-ピペラジン、ビス[2-(1-ピペラジニル)エチル]アミン等が挙げられる。
【0043】
また、「PEHA」とは、6つのアミノ基がエチレン鎖を介して直鎖状又は分岐状に連なっている化合物を指すが、本発明においては、同じくアミノ基を6つ有しており、且つピペラジン環構造を有するものも含まれる。PEHAの具体的な化合物名としては、例えば、1,4,7,10,13,16-ヘキサアザヘキサデカン、N,N,N’,N’-テトラキス(2-アミノエチル)-1,2-エタンジアミン、N,N-ビス(2-アミノエチル)-N’-[2-[(2-アミノエチル)アミノ]エチル]-1,2-エタンジアミン、1-[2-[2-[2-[2-[2-[(2-アミノエチル)アミノ]エチル]アミノ]エチル]アミノ]エチル]-ピペラジン、1-[2-[2-[2-[ビス(2-アミノエチル)アミノ]エチル]アミノ]エチル]-ピペラジン、N,N’-ビス[2-(1-ピペラジニル)エチル]-1,2-エタンジアミン等が挙げられる。
【0044】
また、「HEHA」とは、7つのアミノ基がエチレン鎖を介して直鎖状又は分岐状に連なっている化合物を指すが、本発明においては、同じくアミノ基を7つ有しており、且つピペラジン環構造を有するものも含まれる。HEHAの具体的な化合物名としては、例えば、1,4,7,10,13,16,19-ヘプタアザノナデカン、N-[2-[(2-アミノエチル)アミノ]エチル]-N,N’,N’-トリス(2-アミノエチル)-1,2-エタンジアミン、1-[2-[2-[2-[2-[2-[2-[(2-アミノエチル)アミノ]エチル]アミノ]エチル]アミノ]エチル]アミノ]エチル]-ピペラジン、N-(2-アミノエチル)-N,N’-ビス[2-(1-ピペラジニル)エチル]-1,2-エタンジアミン等が挙げられる。
【0045】
また、「8以上のアミノ基を有するポリエチレンポリアミン」とは、8つ以上のアミノ基がエチレン鎖を介して直鎖状又は分岐状に連なっている化合物を指すが、本発明においては、同じくアミノ基を8つ以上有しており、且つピペラジン環構造を有するものも含まれる。8以上のアミノ基を有するポリエチレンポリアミンの具体例としては、例えば、商品名「Poly8」(東ソー株式会社製)、ポリエチレンイミン等が挙げられる。
【0046】
これらのうち、入手のし易さ、及び取得コストの観点から、ポリエチレンポリアミン類としては、ジエチレントリアミン(DETA)、
1,4,7,10-テトラアザデカン、N,N-ビス(2-アミノエチル)-1,2-エタンジアミン、1-[2-[(2-アミノエチル)アミノ]エチル]-ピペラジン、及び1、4-ビス(2-アミノエチル)-ピペラジンの混合物よりなるトリエチレンテトラミン(TETA)、
1,4,7,10,13-ペンタアザトリデカン、N,N,N’-トリス(2-アミノエチル)-1,2-エタンジアミン、1-[2-[2-[2-[(2-アミノエチル)アミノ]エチル]アミノ]エチル]-ピペラジン、1-[2-[ビス(2-アミノエチル)アミノ]エチル]-ピペラジン、及びビス[2-(1-ピペラジニル)エチル]アミンの混合物よりなるテトラエチレンペンタミン(TEPA)、
1,4,7,10,13,16-ヘキサアザヘキサデカン、N,N,N’,N’-テトラキス(2-アミノエチル)-1,2-エタンジアミン、N,N-ビス(2-アミノエチル)-N’-[2-[(2-アミノエチル)アミノ]エチル]-1,2-エタンジアミン、1-[2-[2-[2-[2-[2-[(2-アミノエチル)アミノ]エチル]アミノ]エチル]アミノ]エチル]-ピペラジン、1-[2-[2-[2-[ビス(2-アミノエチル)アミノ]エチル]アミノ]エチル]-ピペラジン、及びN,N’-ビス[2-(1-ピペラジニル)エチル]-1,2-エタンジアミンの混合物よりなるペンタエチレンヘキサミン(PEHA)、
1,4,7,10,13,16,19-ヘプタアザノナデカン、N-[2-[(2-アミノエチル)アミノ]エチル]-N,N’,N’-トリス(2-アミノエチル)-1,2-エタンジアミン、1-[2-[2-[2-[2-[2-[2-[(2-アミノエチル)アミノ]エチル]アミノ]エチル]アミノ]エチル]アミノ]エチル]-ピペラジン、N-(2-アミノエチル)-N,N’-ビス[2-(1-ピペラジニル)エチル]-1,2-エタンジアミンの混合物よりなるヘキサエチレンヘプタミン(HEHA)、並びに
8以上のアミノ基を有するポリエチレンポリアミンである商品名「Poly8」(東ソー株式会社製)からなる群より選ばれる少なくとも一種であることが好ましい。
【0047】
本発明において、アルカノールアミン類、プロピレンジアミン類、及びポリエチレンポリアミン類からなる群より選ばれる少なくとも1種のアミン化合物(A)は、市販のものでもよいし、公知の方法により合成したものでもよく、特に限定されない。また、アルカノールアミン類、プロピレンジアミン類、又はポリエチレンポリアミン類の純度としては、特に限定するものではないが、95%以上が好ましく、99%以上が特に好ましい。純度が95%を下回ると、二酸化炭素の吸収量が低下する恐れがある。
【0048】
本発明において上記式(1)で示されるアミン化合物と、アルカノールアミン類、プロピレンジアミン類、及びポリエチレンポリアミン類からなる群より選ばれる少なくとも1種のアミン化合物(A)との重量分率は、特に制限されるものではない。
【0049】
本発明の二酸化炭素分離用組成物は、二酸化炭素を分離することが可能であり、二酸化炭素の分離方法に用いることができる。
【0050】
本発明の二酸化炭素の分離方法は、本発明の二酸化炭素分離用組成物と、二酸化炭素を含む混合ガスを接触させ、二酸化炭素を前記二酸化炭素分離用組成物に高選択的に吸収させることを特徴とし、さらにこのように二酸化炭素を吸収させた後、前記の二酸化炭素分離用組成物を高温及び/又は減圧することにより、吸収された二酸化炭素を放散させる工程を含んでいてもよい。
【0051】
本発明の二酸化炭素の分離方法において、二酸化炭素を含む混合ガスを、本発明の二酸化炭素分離用組成物に接触させる方法については、特に制限はなく、公知の方法を用いることができる。公知の方法としては、バブリング法や、充填塔又は棚段塔を用いた対向接触法などが挙げられる。
【0052】
本発明の二酸化炭素の分離方法において、二酸化炭素を含む混合ガスを、本発明の二酸化炭素分離用組成物に接触させる際の温度としては、特に制限するものではないが、通常0℃~50℃の範囲を挙げることができる。
【0053】
本発明の二酸化炭素の分離方法において、二酸化炭素を本発明の二酸化炭素分離用組成物から放散させる温度は、特に制限するものではないが、通常60~150℃の範囲を挙げることができる。但し、エネルギー低減の観点から、100℃以下とすることが好ましい。
【0054】
また、本発明の二酸化炭素分離用組成物については、二酸化炭素吸収放散剤として、二酸化炭素の化学吸収法に用いることができる。
【0055】
当該化学吸収法は、上記の二酸化炭素分離用組成物と二酸化炭素を含む混合ガスを接触させ、二酸化炭素を吸収させた後、高温又は減圧することにより吸収された二酸化炭素を放散させる方法を表す。この化学吸収法では、一般的に二酸化炭素を放散させる温度は100℃以上とされるが、本発明の二酸化炭素分離用組成物を使用する場合には、特に温度に関する制約は無く、100℃未満の温度としてもよい。
【0056】
また、本発明の二酸化炭素分離用組成物については、担体に担持して、二酸化炭素吸収放散剤として使用することもできる。
【0057】
前記の担体としては、特に限定するものではないが、例えば、シリカ、アルミナ、マグネシア、多孔性ガラス、活性炭、ポリメチルメタクリレート系の多孔性樹脂、又は繊維などを用いることができる。
【0058】
前記のシリカとしては、結晶性と非結晶性(アモルファス)があり、細孔を有するゼオライト状のシリカ、メソポーラスシリカなど多種知られている。本発明の二酸化炭素吸収放散剤において、使用できるシリカには特に制限はなく、工業的に流通しているものを使用することができるが、表面積が大きいシリカが好ましい。表面積が大きいほどポリエチレンポリアミン誘導体が効率的に作用する。なお、本発明の二酸化炭素分離剤においては、用いるポリエチレンポリアミン誘導体に応じて最適のシリカを適宜選択することが好ましい。
【0059】
本発明の担体を用いた二酸化炭素吸収放散剤においては、更に水を含有させてもよい。
【0060】
本発明の担体を用いた二酸化炭素吸収放散剤における二酸化炭素分離用組成物の担持量は、二酸化炭素の吸収量及び二酸化炭素分離用組成物の担持操作に優れる点で、担体重量に対し5~70重量%であることが好ましく、更に好ましくは10~60重量%である。
【0061】
本発明の担体を用いた二酸化炭素吸収放散剤に含まれる水の量は、吸収する二酸化炭素に対し等モル以上が好ましい。水の量が二酸化炭素に対し等モル以上であると、二酸化炭素の放散エネルギーが余り大きくならない点で好ましい。
【0062】
本発明の担体を用いた二酸化炭素吸収放散剤は固体吸収法として広く知られた二酸化炭素分離方法に適用できる。固体吸収法は、二酸化炭素分離剤と二酸化炭素を含む混合ガスを接触させ、二酸化炭素を吸収させた後、高温又は減圧することにより吸収された二酸化炭素を放散させる方法を表す。固体吸収法では、一般的に二酸化炭素を放散させる温度は100℃以上とされるが、本発明の二酸化炭素分離組成物を使用する場合には、特に温度に関する制約は無く、100℃未満としてもよい。
【0063】
上記の二酸化炭素を含む混合ガスについては、純粋な二酸化炭素ガスであってもよいし、二酸化炭素とその他ガスを含む混合ガスであってもよい。前記のその他のガスとしては、特に限定するものではないが、例えば、大気、窒素、酸素、水素、アルゴン、ネオン、ヘリウム、一酸化炭素、水蒸気、メタン、又は窒素酸化物等が挙げられる。
【0064】
本発明の二酸化炭素の分離方法に適用できる混合ガスについては、二酸化炭素を含む混合ガスであれば特に制限されないが、二酸化炭素と他のガスとの分離性能を向上させるためには、二酸化炭素濃度が5%以上であることが好ましく、より好ましくは10%以上であることが望ましい。
【0065】
本発明の二酸化炭素の分離方法においては、上記の工程(吸収工程、放散工程)以外の工程を追加して実施しても一向に差し支えない。例えば、冷却工程、加熱工程、洗浄工程、抽出工程、超音波処理工程、蒸留工程、その他薬液で処理する工程などを適宜実施することができる。
【0066】
本発明の二酸化炭素の分離方法は、特に限定するものではないが、例えば、火力発電所、鉄鋼プラント、及びセメント工場などで発生する燃焼排ガスからの二酸化炭素(CO2)の分離や、水蒸気改質プロセスで得られる水蒸気改質ガスからの二酸化炭素(CO2)の分離に適用することができる。
【実施例】
【0067】
以下に実施例を用いて本発明を説明するが、本発明はこれらに限定して解釈されるものではない。
【0068】
[実施例1]
2-ヒドロキシメチルピペラジン 30gに純水 70gを加え、二酸化炭素分離用組成物を調製した。これを200mLのガス吸収瓶に入れ、水浴で40℃にした。この二酸化炭素分離用組成物に、100mL/分の二酸化炭素ガスと400mL/分の窒素ガスの混合気体を1時間吹き込み、ガス流量計と二酸化炭素濃度計を用いて二酸化炭素ガスの吸収量を測定したところ、標準状態換算で2.78Lであった。すなわち、二酸化炭素分離用組成物 1kg当たり標準状態で二酸化炭素を27.8L吸収した。また、単位時間当たりの二酸化炭素ガス吸収量は、二酸化炭素分離用組成物 1kg当たり463mL/分(標準状態換算)であった。
【0069】
次に、上記の二酸化炭素ガスを吸収した二酸化炭素分離用組成物の入ったガス吸収瓶を70℃の水浴に入れ、この二酸化炭素分離用組成物に、500mL/分の窒素ガスを2時間吹き込み、ガス流量計と二酸化炭素濃度計を用いて二酸化炭素ガスの放散量を測定したところ、標準状態換算で1.52Lであった。すなわち、吸収液1kg当たり標準状態で二酸化炭素ガスを15.2L放散した。また、単位時間当たりの二酸化炭素ガス放散量は、吸収液 1kg当たり127mL/分(標準状態換算)であった。以上の結果から、本実施例の二酸化炭素分離用組成物における二酸化炭素ガスの放散効率(2時間の放散量/1時間の吸収量)は0.55であった。
【0070】
[比較例1]
N-メチルジエタノールアミン(富士フイルム和光純薬工業製) 30gに純水 70gを加え、二酸化炭素分離用組成物を調製した。これを200mLのガス吸収瓶に入れ、水浴で40℃にした。この二酸化炭素分離用組成物に、100mL/分の二酸化炭素ガスと400mL/分の窒素ガスの混合気体を1時間吹き込み、ガス流量計と二酸化炭素濃度計を用いて二酸化炭素ガスの吸収量を測定したところ、標準状態換算で0.60Lであった。すなわち、二酸化炭素分離用組成物 1kg当たり標準状態で二酸化炭素を6.0L吸収した。また、単位時間当たりの二酸化炭素ガス吸収量は、二酸化炭素分離用組成物 1kg当たり100mL/分(標準状態換算)であった。
【0071】
次に、上記の二酸化炭素ガスを吸収した二酸化炭素分離用組成物の入ったガス吸収瓶を70℃の水浴に入れ、この二酸化炭素分離用組成物に、500mL/分の窒素ガスを2時間吹き込み、ガス流量計と二酸化炭素濃度計を用いて二酸化炭素ガスの放散量を測定したところ、標準状態換算で0.21Lであった。すなわち、吸収液1kg当たり標準状態で二酸化炭素ガスを2.1L放散した。また、単位時間当たりの二酸化炭素ガス放散量は、吸収液 1kg当たり17mL/分(標準状態換算)であった。以上の結果から、本実施例の二酸化炭素分離用組成物における二酸化炭素ガスの放散効率(2時間の放散量/1時間の吸収量)は0.35であった。