(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】ポリアルキレングリコール共重合ポリエステル
(51)【国際特許分類】
C08G 63/672 20060101AFI20240903BHJP
【FI】
C08G63/672
(21)【出願番号】P 2020155442
(22)【出願日】2020-09-16
【審査請求日】2023-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】八幡 芳和
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-147744(JP,A)
【文献】特開2018-165343(JP,A)
【文献】国際公開第2019/188285(WO,A1)
【文献】特開2013-116987(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/672
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分、ジオール成分及び下記式(1)で表されるポリアルキレングリコール成分を含むポリアルキレングリコール共重合ポリエステルであって、
該ポリアルキレングリコール成分の重量平均分子量が500~5,000であり、融点が220℃以上、300℃以下であ
り、
前記ポリアルキレングリコール成分の前記ポリアルキレングリコール共重合ポリエステル中の含有量が10~80質量%であるポリアルキレングリコール共重合ポリエステル。
HO-[(CH
2)
n-O-]
mH ・・・(1)
(式中、nは5~20の整数を示し、mは、式(1)で表されるポリアルキレングリコール成分の重量平均分子量が500~5,000の範囲内となるように設定された値を示す。)
【請求項2】
前記ジカルボン酸成分がテレフタル酸成分を70~100モル%含み、同時に前記ジオール成分が1,4-シクロヘキサンジメタノール成分を50~100モル%含むことを特徴とする、請求項
1に記載のポリアルキレングリコール共重合ポリエステル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルキレン鎖の長いポリアルキレングリコールを共重合したポリアルキレングリコール共重合エステルに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は、その優れた機械的特性や化学的特性から、工業的に重要な位置を占めている。例えば、ポリエチレンテレフタレートやポリブチレンテレフタレート(PBT)等の芳香族ポリエステルは、耐熱性、耐薬品性に優れた樹脂で、成形加工の容易さと経済性から、繊維、フィルム、シート、ボトル、電気電子部品、自動車部品、精密機器部品等の押出成形用途、射出成形用途等の分野で広く使用されている。しかし、近年、ポリエステルの基本特性を維持しつつ、柔軟性や低温特性、そして耐衝撃性といった新たな機能を付与したポリエステルが求められるようになった。またそのようなポリエステルを効率的に製造することが望まれている。
【0003】
例えば、PBTにおいては、その物性改良のため、これまで数多くの共重合成分の検討がなされてきたが、実用化に至るケースは極めて限定的であった。これは、共重合成分がPBT鎖中にランダム的に組み込まれやすく、PBTの融点降下や結晶化速度の低下を引き起こし、PBT本来の高い融点、易成形性等の長所を打ち消す方向に作用するためである。
【0004】
一方、共重合成分がPBT鎖にブロック的に組み込まれた場合には、導入割合に対応する融点降下の作用が小さいため、PBTの融点を低下させずに各種物性の改質を行うことができる。その代表的な共重合成分として、ポリテトラメチレングリコール(本発明に係る式(1)においてnが4のポリアルキレングリコールであって、ポリテトラメチレンオキサイドグリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコールともいう。(以下「PTMG」と称する。)を用いることは公知である(特許文献1(実施例))。すなわち、結晶性であるPBTをハードセグメントとして、ソフトセグメントであるPTMGを共重合することで、PBTに柔軟性を付与することができる技術が知られており、現在ではフィルム分野等で広く使用されている。
特許文献2には、PTMGの含有量が10重量%であるPTMG共重合体を積層フィルムの一層として使用した例が記載されている(特許文献2[0037])。
【0005】
一方で、柔軟性が要求されているポリエステルの中には、柔軟性と同時に特に高い耐熱性が求められているものがある。特に、自動車、航空機、化学等の産業に用いられるフレキシブルホースの材料の中には、220~300℃の高温において寸法安定性や弾性率等の物性変化を抑制することが望まれるものがある。上記のような要求を満足するためには、ポリエステルを高融点化することで、耐熱性を高める必要がある。
【0006】
しかしながら、PTMGセグメントは、適正範囲を超える熱が加わると、揮発性、引火性、有害性の分解ガスであるテトラヒドロフラン(THF)を発生するという欠点がある。この特性は、物性面においては熱分解温度の低下、分解ガスの発生といったネガティブな結果をもたらす。そして、加工面においては溶融成形中に、発生したTHF気泡が樹脂中に混入するという問題を引き起こす。また、ポリエステルの重合中に分解を引き起こすといった問題も生じる。具体的には、上記のような比較的高融点のポリエステルを重合する場合、重合温度を適正範囲を超えた高温とする必要があるため、高温でも熱分解が抑制されたソフトセグメント成分を用いる必要がある。
【0007】
なお、アルキレン鎖の長いポリアルキレングリコールの製造方法については、特許文献3に提案がなされているが、ポリエステルの共重合成分として用いるとの記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭49-31795号公報
【文献】特開2007-307708号公報
【文献】特開2018-165343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、共重合成分としてポリアルキレングリコールを用いたポリエステルにおいて、高融点で柔軟なポリアルキレングリコール共重合ポリエステルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題について鋭意検討した結果、共重合成分であるポリアルキレングリコール成分のアルキレン鎖の炭素数を増加させるとともに、生成するポリアルキレングリコール共重合ポリエステルの融点を特定範囲内とするならば、得られるポリアルキレングリコール共重合ポリエステルの熱安定性、耐熱性が向上し、これらの課題が克服できることを知見し、本発明に到達した。
即ち本発明の要旨は以下である。
【0011】
[1] ジカルボン酸成分、ジオール成分及び下記式(1)で表されるポリアルキレングリコール成分を含むポリアルキレングリコール共重合ポリエステルであって、該ポリアルキレングリコール成分の重量平均分子量が500~5,000であり、融点が220℃以上、300℃以下であるポリアルキレングリコール共重合ポリエステル。
HO-[(CH2)n-O-]mH ・・・(1)
(式中、nは5~20の整数を示し、mは、式(1)で表されるポリアルキレングリコール成分の重量平均分子量が500~5,000の範囲内となるように設定された値を示す。)
【0012】
[2] 前記ポリアルキレングリコール成分の前記ポリアルキレングリコール共重合ポリエステル中の含有量が10~80質量%であることを特徴とする、[1]に記載のポリアルキレングリコール共重合ポリエステル。
【0013】
[3] 前記ジカルボン酸成分がテレフタル酸成分を70~100モル%含み、同時に前記ジオール成分が1,4-シクロヘキサンジメタノール(1,4-CHDM)成分を50~100モル%含むことを特徴とする、[1]または[2]に記載のポリアルキレングリコール共重合ポリエステル。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、PTMGを共重合した既存のポリアルキレングリコール共重合ポリエステルにおいて課題となっていた熱安定性を改善し、共重合成分としてポリアルキレングリコールを有するポリエステルにおいて、高温下における重合が可能となり、柔軟かつ高融点なポリアルキレングリコール共重合ポリエステルを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定されるものではない。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0016】
また、本明細書において「主成分とする」とは、当該成分の70モル%以上を占めることを意味する。例えば、「テレフタル酸成分を主成分として含むジカルボン酸成分」とは、ポリエステルを構成する全酸成分の70モル%以上がテレフタル酸成分であることを意味する。
また、「ジカルボン酸成分」とは、「ジカルボン酸成分に由来してポリアルキレングリコール共重合ポリエステル中に組み込まれる構成単位」との意味合いでも用いられる。「ジオール成分」、「ポリアルキレングリコール成分」についても同様である。
【0017】
なお、本発明のポリアルキレングリコール共重合エステルは、ポリアルキレングリコール成分を含まないポリエステルと混合した組成物として用いてもよい。
【0018】
本発明のポリアルキレングリコール共重合ポリエステルは、ジカルボン酸成分、ジオール成分及び下記式(1)で表されるポリアルキレングリコール成分を含むポリアルキレングリコール共重合ポリエステルであって、該ポリアルキレングリコール成分の重量平均分子量が500~5,000であり、融点が220℃以上、300℃以下であることを特徴とする。
HO-[(CH2)n-O-]mH ・・・(1)
(式中、nは5~20の整数を示し、mは、式(1)で表されるポリアルキレングリコール成分の重量平均分子量が500~5,000の範囲内となるように設定された値を示す。)
【0019】
本発明においては、ソフトセグメントとして用いるポリアルキレングリコールのアルキレン鎖の炭素数を5以上、即ち、上記式(1)におけるn≧5とすることで、熱分解し易いエーテル結合の、ポリアルキレングリコール共重合ポリエステル全体に対する数濃度を減少させることができ、また、エーテル結合切断時に、安定な五員環エーテルのTHFの発生を抑え、熱安定性を向上させることができる。
【0020】
従来、アルキレン鎖の炭素数が5以上のポリアルキレングリコールは、品質面及び価格面で良好なものを得ることが困難で、ポリアルキレングリコール共重合ポリエステルの共重合成分とする検討は実質的になされていない。まして、この特定のポリアルキレングリコールを用いることにより、熱安定性を向上させることができるという技術思想は存在しなかった。
【0021】
[1]ポリアルキレングリコール共重合ポリエステルの原料
本発明のポリアルキレングリコール共重合ポリエステルは、ジカルボン酸成分、ジオール成分、及びポリアルキレングルコール成分、さらに必要に応じて用いられる、その他の共重合可能な成分をエステル交換反応及び/又はエステル化反応させた後、重縮合反応することにより得られる。
エステル化反応及び/又はエステル交換反応、重縮合反応においては反応触媒を使用することができる。
【0022】
(ジカルボン酸成分)
本発明におけるジカルボン酸成分としては、下記に記載するジカルボン酸並びにそれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。またこれらは、石油化学法及び/又はバイオマス資源由来の発酵工程を有する製法によって製造されたものを用いることもできる。ジカルボン酸のエステル形成性誘導体としてはジカルボン酸の低級アルコールエステルの他、酸無水物や酸塩化物等のエステル形成性誘導体が好ましい。ここで、低級アルコールとは、通常、アルキル基の炭素数が1~4の直鎖式もしくは分岐鎖式のアルコールを指す。
【0023】
本発明におけるジカルボン酸成分としては、特に限定されないが、具体的には、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸等の脂肪族鎖式ジカルボン酸及びそのエステル形成性誘導体;
ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸及び1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル(1,4-DMCD)等の脂環式ジカルボン酸のエステル形成性誘導体;
テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、ジブロモイソフタル酸、スルホイソフタル酸ナトリウム、フェニレンジオキシジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルケトンジカルボン酸、4,4’-ジフェノキシエタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸及びテレフタル酸メチルエステル(DMT)等の芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体等
が挙げられる。
【0024】
また、前記エステル形成性誘導体としては、前記のほかに例えば無水コハク酸、無水アジピン酸等の無水物等が挙げられる。
【0025】
これらのなかでも得られるポリエステルの物性の面から、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、テレフタル酸ジメチルエステル(DMT)等の芳香族ジカルボン酸のエステル形成性誘導体、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸ジメチル(1,4-DMCD)等の脂環式ジカルボン酸のエステル形成性誘導体等が好ましく、特にテレフタル酸、テレフタル酸のエステル形成性誘導体、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸のエステル形成性誘導体が好ましい。本発明のジカルボン酸成分はこれらを主成分として含むことが好ましい。
【0026】
これらのジカルボン酸成分は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0027】
(ジオール成分)
本発明におけるジオール成分としては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブチレングリコール(1,4-BG)、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール等の直鎖式脂肪族ジオール;
1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール(1,4-CHDO)、1,4-シクロヘキサンジメタノール(1,4-CHDM)等の環式脂肪族ジオール;
キシリレングリコール、4,4'-ジヒドロキシビフェニル、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン等の芳香族ジオール;
イソソルビド、イソマンニド、イソイデット、エリトリタン等の植物原料由来のジオール等
が挙げられる。
【0028】
なお、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-BG等もバイオマス資源由来のものを使用することができる。
【0029】
これらの中でも得られるポリエステルの物性の面から、1,4-BG、1,4-CHDO、1,4-CHDMが好ましく、特に1,4-CHDMが好ましい。
【0030】
これらのジオール成分は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0031】
これらのジオール成分はジカルボン酸成分と組み合わさって、ポリアルキレングリコール共重合ポリエステルのハードセグメントを構成する。
本発明においては、融点が220~300℃のポリアルキレングリコール共重合ポリエステルを得るためには、ジオール成分として1、4-CHDMを全ジオール成分に対し50~100モル%用いるのがよい。この値は好ましくは60~100モル%、さらに好ましくは70~100モル%である。この場合、同時にジカルボン酸成分としてはテレフタル酸を全カルボン酸成分に対し70~100モル%用いるのがよい。この値は好ましくは80~100モル%、さらに好ましくは90~100モルである。
ジオール成分及びジカルボン酸成分に関し、かかる要件が満たされることにより、本発明に特徴的な、融点が220~300℃のポリアルキレングリコール共重合ポリエステルを得ることができる。
【0032】
なお、ジオール成分の量は後述のポリアルキレングリコール成分と合算したグリコール全体のモル量がジカルボン酸成分のモル量と概ね等しくなるような量とする。ポリアルキレングリコール共重合ポリエステルが「その他の共重合可能な成分」を含む場合は、この量を加味してジオール成分の量を定める。
【0033】
(ポリアルキレングリコール成分)
本発明におけるポリアルキレングリコール成分は下記式(1)で表される構造を有する。
HO-[(CH2)n-O-]mH ・・・(1)
(式中、nは5~20の整数を示し、mは、式(1)で表されるポリアルキレングリコール成分の重量平均分子量が500~5,000の範囲内となるように設定された値を示す。)
【0034】
本発明で用いるポリアルキレングリコールとしては、例えば特許文献3に記載された製造方法によるものを使用することができる。具体的には、例えば1,10-デカンジオールを原料とする重縮合反応を用いてポリデカメチレングリコールを製造するように、まず適当な炭素数のアルキレン鎖を持つアルキレンジオールから適当な炭素数のアルキレン鎖を持つポリアルキレングリコールを製造する。続いて、このポリアルキレングリコールを酸性または塩基性の水溶液中、温度、触媒種、触媒量、重合温度、重合反応時間等の条件を調節して加水分解することで、適当なアルキレン鎖の炭素数、及び適当な分子量を持つポリアルキレングリコールを得ることができる。
【0035】
本発明に係るポリアルキレングリコール成分は、ポリアルキレングリコール共重合ポリエステルのソフトセグメントを構成するものであり、前記式(1)におけるnは5~20であることを特徴とする。即ち、nが5以上であることにより、得られるポリアルキレングリコール共重合ポリエステルの熱安定性を向上させることができる。一方、nが20以下であることで、エステル交換反応及び/又はエステル化反応時、ポリアルキレングリコールと、その他原料のモノマーとの相溶性が良好となり、共重合が可能となる。nは好ましくは5~18であり、より好ましくは5~10である。このようなポリアルキレングリコール成分としては、具体的には、例えばポリペンタメチレングリコール、ポリヘキサメチレングリコール(PHMG)、ポリへプタメチレングリコール、ポリオクタメチレングリコール、ポリデカメチレングリコール(PDMG))、ポリドデカメチレングリコール等を挙げることができる。
これらのなかでも最終的に得られるポリエステルの物性の面から、PHMG及びPDMGが好ましい。
【0036】
また、本発明におけるポリアルキレングリコール成分の重量平均分子量は500~5,000で、好ましくは1,000~4,000、より好ましくは1,500~3,000である。重量平均分子量がこの範囲であると、共重合ポリエステル製造時の反応性が良好であり、共重合による融点降下の程度が小さく、機械的特性等が良好な共重合ポリエステルを得ることができる。
【0037】
なお、ポリアルキレングリコール成分の重量平均分子量の測定方法は、後述の実施例の項に記載される通りである。ポリアルキレングリコールの重量平均分子量は、それを製造するときの反応温度、反応時間、触媒量等により制御することができる。
【0038】
これらのポリアルキレングリコール成分は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0039】
本発明に係るポリアルキレングリコール成分の、本発明のポリアルキレングリコール共重合ポリエステル中の含有量、即ち、本発明のポリアルキレングリコール共重合ポリエステルにおける共重合割合は好ましくは10~80質量%、より好ましくは15~65質量%、更に好ましくは20~55質量%である。ポリアルキレングリコール成分の共重合割合がこの範囲であると、熱安定性に優れ、柔軟性と融点のバランスがよいポリアルキレングリコール共重合ポリエステルを得ることができる。
【0040】
(その他の共重合可能な成分)
本発明のポリアルキレングリコール共重合ポリエステルは、前記のジカルボン酸成分、ジオール成分、及びポリアルキレングリコール成分に加えて、必要に応じその他の共重合可能な成分を含んでもよい。
【0041】
本発明でポリエステルの原料として使用可能なその他の共重合可能な化合物としては、グリコール酸、p-ヒドロキシ安息香酸、p-β-ヒドロキシエトキシ安息香酸等のヒドロキシカルボン酸やアルコキシカルボン酸;ステアリン酸、ベヘン酸、安息香酸、t-ブチル安息香酸、ベンゾイル安息香酸等の単官能カルボン酸;トリカルバリル酸、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ナフタレンテトラカルボン酸、没食子酸等の三官能以上の多官能カルボン酸;トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、シュガーエステル等の三官能以上の多官能アルコール等が挙げられる。
その他の共重合可能な成分は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上混合して使用してもよい。
【0042】
その他の共重合可能な成分の使用量、即ち、本発明のポリアルキレングリコール共重合ポリエステル中の含有量は、酸にあっては全カルボン酸成分に対し、水酸基化合物にあっては全ジオール成分に対し、好ましくは10モル%未満、より好ましくは5モル%未満である。
【0043】
[2]ポリアルキレングリコール共重合ポリエステルの製造方法
本発明のポリアルキレングリコール共重合ポリエステルは、ジカルボン酸成分、ジオール成分及びポリアルキレングリコール成分と、必要に応じて用いられるその他の共重合可能な成分を出発物質として、エステル交換反応及び/又はエステル化反応工程、及びこの反応により得られたオリゴマーの重縮合反応、更に必要に応じて固相重縮合を行う重縮合工程を経てポリエステルを得る方法により製造することができる。
【0044】
(エステル交換反応及び/又はエステル化反応)
本発明においては、第1段階として、ジカルボン酸成分と、ジオール成分及びポリアルキレングリコール成分との間のエステル交換反応及び/又はエステル化反応を行う。
【0045】
通常、ジカルボン酸成分とポリアルキレングリコール成分は、エステル交換反応及び/又はエステル化反応に続く後述の重縮合反応おいて留去されることはないが、ジオール成分には、重縮合反応において留去されるものとされないものがある。
重縮合反応において留去できるジオール成分を用いる場合には、ジオール成分とポリアルキレングリコール成分とを合算したグリコール全体のモル量をジカルボン酸成分のモル量よりも多少多く使用して、エステル交換反応及び/又はエステル化反応において全てのジカルボン酸成分を反応させた後、重縮合反応時に未反応のジオール成分を留去するのがよい。
一方、重縮合反応において留去できないジオール成分を用いる場合、重縮合反応を十分に進めるためには、使用するジオール成分とポリアルキレングリコール成分とを合算したグリコール全体のモル量を、ジカルボン酸成分のモル量とほぼ等しくするのがよい。
【0046】
すなわち、ジオール成分とポリアルキレングリコール成分とを合算したグリコール全体の使用量は、1,4-BG等の重縮合反応において留去できるジオール成分を用いる場合、ジカルボン酸成分1モルに対して、1.1~3.0モルであることが好ましく、さらには1.1~1.5モルが好ましい。この値が小さすぎると、重縮合反応が十分に進行しない傾向があり、大きすぎると1,4-BGの分解によるTHFの生成が増える傾向がある。また、1,4-CHDM等の重縮合反応において留去できないジオール成分を用いる場合、ジカルボン酸成分1モルに対して、0.9~1.1モルであることが好ましく、さらには0.98~1.02モルが好ましい。この値が小さすぎても大きすぎても、重縮合反応が十分に進行しない傾向がある。
【0047】
この第1段階の反応に用いる触媒としては、例えば、三酸化二アンチモン等のアンチモン化合物;二酸化ゲルマニウム、四酸化ゲルマニウム等のゲルマニウム化合物;テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタンアルコラート、テトラフェニルチタネート等のチタンフェノラート等のチタン化合物;ジブチルスズオキサイド、メチルフェニルスズオキサイド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキサイド、シクロヘキサヘキシルジスズオキサイド、ジドデシルスズオキサイド、トリエチルスズハイドロオキサイド、トリフェニルスズハイドロオキサイド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート等のスズ化合物;酢酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、マグネシウムアルコキサイド、燐酸水素マグネシウム等のマグネシウム化合物や、酢酸カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、カルシウムアルコキサイド、燐酸水素カルシウム等のカルシウム化合物等の周期表第2A族金属の原子を含む金属化合物の他、マンガン化合物、亜鉛化合物等が挙げられる。中でも、チタン原子及び周期表第2A族金属の原子を含む金属化合物が好ましく、特に、チタン化合物、スズ化合物が好ましく、テトラブチルチタネートが特に好ましい。これらの触媒は、単独でも2種以上混合して使用することもできる。
【0048】
これらの反応触媒は、製造されたポリアルキレングリコール共重合ポリエステルに含まれる該反応触媒由来の金属濃度が下記の範囲内となるように添加するのが好ましい。
エステル交換反応の場合、これらの触媒の使用量は、ポリアルキレングリコール共重合ポリエステル中の金属換算含有量として、通常1~300質量ppm、好ましくは5~250質量ppm、さらに好ましくは10~200質量ppm、特に好ましくは20~175質量ppm、最も好ましくは25~150質量ppmである。エステル化反応の場合、これらの触媒の使用量は、ポリアルキレングリコール共重合ポリエステル中の金属換算含有量として、通常1~300質量ppm、好ましくは5~200質量ppm、さらに好ましくは1~100質量ppm、特に好ましくは20~90質量ppm、最も好ましくは30~70質量ppmである。
エステル交換反応及び/又はエステル化反応において添加する触媒量が、ポリアルキレングリコール共重合ポリエステル中の金属換算含有量がこの範囲内にあると、異物の生成が抑制され、また得られるポリアルキレングリコール共重合ポリエステルの熱滞留時の劣化反応やガス発生が起こりにくい。
【0049】
エステル交換反応及び/又はエステル化反応条件は、その反応を進行させることができる限り任意であり、反応温度は通常120℃以上、好ましくは150℃以上、一方、通常300℃以下、好ましくは280℃以下、更に好ましくは270℃以下である。また、反応時間は通常2~8時間、好ましくは2~6時間、更に好ましくは2~4時間である。
【0050】
上記第1段階の反応により、ジカルボン酸成分、ジオール成分、及びポリアルキレングリコール成分が反応したオリゴマーが生成する。
【0051】
(重縮合反応)
次いで、前記第1段階で生成したオリゴマーの重縮合反応(第2段階の反応)を行なう。重縮合反応は、通常溶融重縮合反応で行う。溶融重縮合反応における条件は、その反応を進行させることができる限り任意である。重縮合反応時における反応温度は好ましくは300℃以下、好ましくは280℃以下であり、一方200℃以上が好ましく、更に好ましくは240℃以上である。反応温度が上記上限値以下であると、製造時の熱分解反応を抑制し、色調が良化する傾向にある。反応温度が上記下限値以上であると効率的に重縮合反応を進行させやすい。
【0052】
重縮合反応触媒としては、エステル交換反応及び/又はエステル化反応において記載した触媒種を用いることができる。エステル交換反応及び/又はエステル化反応における触媒をそのまま重縮合反応触媒として用いてもよいし、触媒を更に添加してもよい。その量は、ポリアルキレングリコール共重合ポリエステル中の重縮合反応触媒の金属換算含有量が下記の範囲内となるように添加するのが好ましい。
【0053】
エステル交換反応に続いて重縮合する場合、追加する触媒量は、ポリアルキレングリコール共重合ポリエステル中の金属換算含有量で、通常5~300質量ppm、好ましくは10~200質量ppm、更に好ましくは15~150質量ppm、特に好ましくは20~100質量ppm、最も好ましくは30~50質量ppmである。
エステル化反応に続いて重縮合する場合、追加する触媒量は、ポリアルキレングリコール共重合ポリエステル中の金属換算含有量で、通常0.5~300質量ppm、好ましくは1~200質量ppm、更に好ましくは3~100質量ppm、特に好ましくは5~50質量ppm、最も好ましくは10~40質量ppmである。
【0054】
重縮合反応における追加する触媒量が、ポリアルキレングリコール共重合ポリエステル中の金属換算含有量としてこの範囲内にあると、異物の生成が抑制され、また得られるポリアルキレングリコール共重合ポリエステルの熱滞留時の劣化反応やガス発生が起こりにくい。
【0055】
重縮合反応時の反応槽内圧力は低いほど反応は進みやすく、最終段階では通常27kPa以下、好ましくは20kPa以下、より好ましくは13kPa以下、中でも少なくとも1つの重縮合反応槽においては好ましくは0.4kPa以下の状態をとることが好ましい。重縮合反応に要する時間は、得られるポリアルキレングリコール共重合ポリエステルの固有粘度を測定しその範囲を一定にするように調整されるが、通常2~12時間、好ましくは2~10時間である。重縮合反応を連続式で行う場合、重縮合反応槽での平均滞留時間を重縮合反応に要する時間とみなす。
【0056】
なお、本発明において、ポリアルキレングリコール成分の反応系への添加時期は、エステル交換反応及び/又はエステル化反応の開始時以降、重縮合反応終了までの間である。
この間にポリアルキレングリコール成分を添加することにより、共重合成分としてのブロック性が保持しやすく、高融点のポリアルキレングリコール共重合ポリエステルを得ることができる。添加時期としては、エステル交換反応及び/又はエステル化反応の開始時から重縮合反応開始までの間が、添加操作及びブロック性確保の点から好ましい。
【0057】
重縮合反応終了後、得られたポリマーを反応槽からストランド状に抜き出し、水冷下又は水冷後、カッティングしてペレットとする。ペレットは必要に応じて固相重縮合を行うことで更に高重合度化することができる。
【0058】
固相重縮合反応は、窒素等の不活性ガス雰囲気下、減圧にて、又は不活性ガス流通下行う。反応温度は通常180℃以上、好ましくは190℃以上で、一方、通常240℃以下、好ましくは230℃以下である。固相重縮合反応は所望の固有粘度に達するまで比較的長時間行われる。固相重縮合の反応時間は通常5~20時間、好ましくは6~15時間である。固相重縮合は回分式または連続式で行うことができる。
【0059】
[3]ポリアルキレングリコール共重合ポリエステルの物性
以下に、本発明のポリアルキレングリコール共重合ポリエステルの好適な物性値を挙げる。各物性の測定方法は後述の実施例の項に記載される通りである。
【0060】
(固有粘度)
本発明のポリアルキレングリコール共重合ポリエステルの固有粘度(dL/g)は好ましくは0.20~1.60であり、より好ましくは0.50~1.55、更に好ましくは0.70~1.50である。
固有粘度がこの範囲であると、成形性が良好で、成形品にしたときの物性に優れたものとなる。
【0061】
(融点)
本発明のポリアルキレングリコール共重合ポリエステルの融点は220℃以上、300℃以下である。好ましくはこの融点は220℃超、300℃以下であり、さらに好ましくは240℃以上、280℃以下である。
融点が220℃未満であると、耐熱性が劣り、使用時に寸法安定性が悪化したり、物性の変化が生じたりする不具合が生じるようになる。一方で、融点が300℃を超えると、製造に際し多大のエネルギーや装置的負担を要し、実用的でない。
【0062】
(熱分解温度)
本発明のポリアルキレングリコール共重合ポリエステルの熱分解温度は、通常300~380℃程度であるが、この値は高いほど熱安定性に優れ、好ましい。
【0063】
(曲げ弾性率)
本発明のポリアルキレングリコール共重合ポリエステルの曲げ弾性率は、通常100~800MPa程度、好ましくは150~600MPaとなるように設計されるが、この値が小さいほど柔軟性に優れ、好ましい。
【0064】
[4]組成物・成形体
本発明のポリアルキレングリコール共重合ポリエステルには、必要に応じて安定剤、酸化防止剤、充填剤、帯電防止剤、離型剤、難燃剤等の各種添加剤、あるいはPBTやその他の樹脂を配合してポリエステル組成物とすることができる。また、該ポリエステル組成物を用いて成形体とすることもできる。
【0065】
(配合方法)
前記の各種添加剤や樹脂の配合方法は、特に制限されない。各種添加剤はポリアルキレングリコール共重合ポリエステルの製造段階あるいは製造後に、PBTやその他の樹脂はポリアルキレングリコール共重合ポリエステルの製造後に配合することができる。ポリアルキレングリコール共重合ポリエステルの製造後に配合する場合は、ベント口から脱揮できる設備を有する1軸又は2軸の押出機を混練機として使用する方法が好ましい。各成分は、混練機に順次供給することもでき、また一括して供給することもできる。また、各成分から選ばれた2種以上の成分を予め混合しておいてもよい。
【0066】
(成形方法)
本発明のポリアルキレングリコール共重合ポリエステル及びそれを含む組成物は、熱可塑性樹脂について一般に使用されている成形法、すなわち、射出成形、中空成形、押出成形、プレス成形、延伸成形、インフレ成形等の成形法によってフィラメント、繊維、シート、フィルム等を含む各種の成形体とすることができる。
なお、得られる成形体は適度な柔軟性、例えば曲げ弾性率として150~600MPaを有するものとすることができ、柔軟性が必要とされる用途に好適に使用することができる。
【実施例】
【0067】
以下実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0068】
[測定・評価方法]
以下の諸例で採用した物性および評価項目の測定方法は次の通りである。
【0069】
<ポリアルキレングリコールの重量平均分子量>
PTMG、PDMGの分子量のSEC(サイズ排除クロマトグラフィー)測定は東ソー株式会社製高速GPC装置HLC-8120GPCを使用して行った。
試料は移動相液である試薬1級THF(酸化防止剤ジブチルヒドロキシトルエン含有)で溶解し、0.45μmのポリテトラフルオロエチレンのフィルターでろ過したものを測定に供した。
重量平均分子量(Mw)は、測定データから東ソー株式会社製高速GPC装置Tosoh GPC-8020modelIIを用いて解析し、ポリスチレン換算値として算出した数平均分子量(Mn)と、分子量分布(Mw/Mn)より導出した。
SEC条件を以下に示す。
検出器:RI(装置内蔵)
移動相:試薬1級THF(酸化防止剤ジブチルヒドロキシトルエン含有)
流速:PTMGの解析においては0.6mL/分
PDMGの解析においては1.0mL/分
注入量:PTMGの解析においては20μL
PDMGの解析においては50μL
カラム:PTMGの解析においてはTSKgel SuperHM-L
(6.0mmI.D.×15cmL×2)(東ソー株式会社製)
PDMGの解析においてはTSKgel GMHHR-N
(7.8mmI.D.×30cmL×2)(東ソー株式会社製)
カラム温度:40℃
較正試料:単分散ポリスチレン
較正法:ポリスチレン換算
較正曲線近似式:3次式。
【0070】
<ポリアルキレングリコール共重合ポリエステルの固有粘度>
(株)センテック製の全自動粘度測定装置(型式 DT553、毛細管式)を使用し次の要領で求めた。
すなわち、PTM11(フェノールと1,1,2,2-テトラクロロエタンとの質量比1/1混合物)の混合液を溶媒として使用し、30℃において、濃度1.0g/dLの試料溶液および溶媒のみの落下秒数を測定し、以下の式より求めた。
固有粘度(dL/g)=((1+4KHηsp)0.5-1)/(2KHC)
(但し、ηsp=η/η0-1であり、ηは試料溶液落下秒数、η0は溶媒の落下秒数、Cは試料溶液濃度(g/dL)、KHはハギンズの定数である。KHは0.33を採用した。)
【0071】
<ポリアルキレングリコール共重合ポリエステルの融点>
DSC(示差走査熱量計)により測定した。測定条件としては、-10℃から300℃まで20℃/分で昇温し、300℃で3分間保持した後、20℃/分で急冷した後に、再度-10℃から300℃まで20℃/分で昇温し、吸熱ピークの頂点の温度を融点とした。
【0072】
<ポリアルキレングリコール共重合ポリエステルの熱分解温度>
熱重量示差熱分析装置として、SII株式会社製のTG/DTA7200を使用した。測定条件としては、大気雰囲気下で30℃から550℃まで10℃/分で昇温し、試料が5%の重量減少を示す温度を熱分解温度(℃)とした。
【0073】
<ポリアルキレングリコール共重合ポリエステルの曲げ弾性率>
曲げ試験装置として、東洋精機製作所製のストログラフR2を用いた。100mmの間隔を空けた角柱状の2支点間に、長さ127mm、幅12.7mm、厚さ3.1mmの試験片を載せ、中央に一定速度(3mm/分)で荷重を加え、変形時の応力と歪みを測定した。これら測定結果より曲げ弾性率を算出した。なお、試験片は、得られたペレットを射出成形することにより作成した。
【0074】
[実施例1]
攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計、留出管を備えたエステル交換反応槽に、テレフタル酸ジメチルエステル(DMT)を69.8質量部、1,4-CHDM(cis体/trans体=3/7)を43.2質量部、重量平均分子量1,900のPDMGを60.0質量部(生成するポリアルキレングリコール共重合ポリエステルに対し40質量%)、触媒としてテトラブチルチタネートを金属チタン換算で、生成するPDMG共重合ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート(PDMG共重合PCT)に対して61質量ppmとなるようにブタノール溶液として添加した。次いで、槽内液温を150℃から120分かけて270℃まで昇温し、270℃で30分保持した。この間、生成するメタノールを留出させつつ、トータル150分エステル交換反応を行った。
【0075】
エステル交換反応終了後、テトラブチルチタネートを生成するポリマーに対してチタン金属として33質量ppmとなる量をブタノールの溶液として添加した後、攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計、留出管、減圧用排気口を備えた重縮合反応槽に移送し、減圧を付加して重縮合反応を行った。
重縮合反応は槽内圧力を常圧から0.133kPaまで90分かけて徐々に減圧し、0.133kPa以下で継続した。反応温度は減圧開始から270から280℃まで90分間で昇温してこの温度で保持した。所定の撹拌トルクに到達した時点で反応を終了した。重縮合反応に要した時間は210分であった(重縮合反応時間は減圧開始から窒素で復圧までの時間とした)。
【0076】
次に槽内を減圧状態から窒素で復圧し、次いでポリマー抜出しのため加圧状態にした。抜出しの際の口金の熱媒温度を280℃としてポリマーを口金からストランド状にして押出し、次いで冷却水槽内でストランドを冷却した後、ストランドカッターでカッティングし、ペレット化した。
得られたPDMG共重合PCTの固有粘度は0.82dL/gであった。このPDMG共重合PCTの物性の評価結果を表-1に示す。
【0077】
[実施例2]
実施例1において、DMTを83.5質量部、1,4-CHDMを56.5質量部、重量平均分子量1,900のPDMGを37.5質量部(生成するポリアルキレングリコール共重合ポリエステルに対し25質量%)に変更した以外は実施例1と同様にしてPDMG共重合PCTを得た。このPDMG共重合PCTの物性の評価結果を表-1に示す。
【0078】
[比較例1]
実施例1において、PDMG60.0質量部の代わりに、重量平均分子量1,500のポリテトラメチレングリコール(PTMG)60.0質量部(生成するポリアルキレングリコール共重合ポリエステルに対し40質量%)を用いるほかは実施例1と同様にして、反応を行ったが、重縮合反応開始から、PTMGの熱分解による分解ガスが多く、ポリエステルを得ることができなかった。
【0079】
[比較例2]
実施例2において、PDMG37.5質量部の代わりに、重量平均分子量1,500のポリテトラメチレングリコール(PTMG)37.5質量部(生成するポリアルキレングリコール共重合ポリエステルに対し25質量%)を用いるほかは実施例2と同様にして、反応を行ったが、重縮合反応開始から、PTMGの熱分解による分解ガスが多く、ポリエステルを得ることができなかった。
【0080】
[比較例3]
攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計、留出管を備えたエステル交換反応槽に、テレフタル酸ジメチルエステル(DMT)を83.7質量部、1,4-BGを50.8質量部、重量平均分子量1,900のPDMGを60.0質量部(生成するポリアルキレングリコール共重合ポリエステルに対し40質量%)、触媒としてテトラブチルチタネートを金属チタン換算で、生成するポリマー(PDMG共重合PBT)に対して61質量ppmとなるように1,4-BG溶液として添加した。次いで、槽内液温を150℃に60分間保持した後、105分かけて210℃まで昇温し、210℃で30分保持した。この間、生成するメタノールを留出させつつ、トータル180分エステル交換反応を行った。
【0081】
エステル交換反応終了後、テトラブチルチタネートを生成するポリマーに対してチタン金属として33質量ppmとなる量を1,4-BGの溶液として添加した後、攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計、留出管、減圧用排気口を備えた重縮合反応槽に移送し、減圧を付加して重縮合反応を行った。
重縮合反応は槽内圧力を常圧から0.134kPaまで85分かけて徐々に減圧し、0.134kPa以下で継続した。反応温度は減圧開始から240℃まで45分間で昇温してこの温度で保持した。所定の撹拌トルクに到達した時点で反応を終了した。重縮合反応に要した時間は210分であった(重縮合反応時間は減圧開始から窒素で復圧までの時間とした)。このPDMG共重合PBTの物性の評価結果を表-1に示す。
【0082】
[比較例4]
比較例3において、DMTを101.9質量部、1,4-BGを66.3質量部、重量平均分子量1,900のPDMGを37.5質量部(生成するポリアルキレングリコール共重合ポリエステルに対し25質量%)に変更した以外は比較例3と同様にしてPDMG共重合PBTを得た。このPDMG共重合PBTの物性の評価結果を表-1に示す。
【0083】
【0084】
[結果の評価]
上記の実施例及び比較例から明らかなように、ソフトセグメントとしてPDMGを含む共重合PCT(実施例1、2)は、PDMGの代りにPTMGを同量含有しPTMGの分解ガスにより重合できず、所望のポリエステルを得ることができなかったPTMG共重合PCT(比較例1、2)や、PDMGを同量含有するが、ハードセグメントがPBTであるために融点が低い、PDMG共重合PBT(比較例3、4)と比較して、曲げ弾性率が低く柔軟性に優れ、かつ融点が高く耐熱性にも優れるものであった。
【0085】
以上のことから、アルキレン鎖の炭素数が5~20のポリアルキレングリコール成分を用い、かつ高融点化することにより、ポリアルキレングリコール共重合ポリエステルの熱安定性、耐熱性を効果的に向上させることができ、柔軟性かつ高耐熱性が必要とされる用途に好適に使用することができることが分かる。