(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】フッ素含有排水の処理方法及び装置
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20230101AFI20240903BHJP
B01D 61/04 20060101ALI20240903BHJP
C02F 1/52 20230101ALI20240903BHJP
【FI】
C02F1/44 E
B01D61/04
C02F1/44 C
C02F1/52 J
(21)【出願番号】P 2020165680
(22)【出願日】2020-09-30
【審査請求日】2023-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】新井 尊久
(72)【発明者】
【氏名】藤田 誠章
(72)【発明者】
【氏名】青山 陽
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-082546(JP,A)
【文献】特開昭51-099686(JP,A)
【文献】特開2014-233714(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D21/01、61/00-71/82
C02F1/44、1/52-1/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
pHが5以下のフッ素含有排水に
カルシウム剤を添加することなくアルミニウム系凝結剤を添加して凝集処理する
凝集処理工程と、
この凝集処理液を固液分離して清澄水を得る工程と、
この清澄水を逆浸透膜装置によって逆浸透処理する
逆浸透処理工程と
を有するフッ素含有排水の処理方法において、
前記凝集処理工程のpHを7~8とし、
前記逆浸透膜装置への給水のpHを
5.5~6とする
ことを特徴とするフッ素含有排水の処理方法。
【請求項2】
前記アルミニウム系凝結剤は、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム及びポリ塩化アルミニウムから選ばれる1種以上であることを特徴とする請求項
1のフッ素含有排水の処理方法。
【請求項3】
前記フッ素含有排水のフッ素濃度が1~10mg/Lであり、前記アルミニウム系凝結剤の添加量は、前記フッ素含有排水に対してAl
2O
3換算で1~100mg/Lとなる量であることを特徴とする請求項1
又は2のフッ素含有排水の処理方法。
【請求項4】
フッ素含有排水に
カルシウム剤を添加することなくアルミニウム系凝結剤を添加して凝集処理する凝集処理装置と、
この凝集処理液を固液分離して清澄水を得る固液分離装置と、
この清澄水を逆浸透処理する逆浸透膜装置と
を有するフッ素含有排水の処理装置において、
前記凝集処理装置内の液のpHを7~8とする第1pH調整装置と、
前記逆浸透膜装置に供給される給水のpHを
5.5~6とする第2pH調整装置と
を有するフッ素含有排水の処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素を含有する排水の処理方法及び処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程等使用される超純水は、市水、井水、河川水、工業用水等や、半導体製造工程での使用済み排水などから、一次純水装置及び二次純水装置(サブシステム)を備える超純水製造装置によって製造される。
【0003】
半導体製造工程での使用済み排水などから超純水を製造する場合、該排水は、活性炭装置、陰イオン交換樹脂装置等を備える前段処理装置によって排水中の硫酸、フッ化水素、有機物、過酸化水素等の薬剤が除去されてから一次純水装置に供給される。
【0004】
特許文献1には、半導体製造工程等から排出されるフッ素含有排水の処理方法として、酸性のフッ素含有排水にアルカリを添加してpH6~8とした後、アルミニウム系凝集剤を添加して凝集処理し、次いで砂濾過した後、pH6.8~7.5としてRO(逆浸透)処理することが記載されている(特許文献1の0057段落及び
図3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来のフッ素含有排水の処理方法及び装置において、凝集処理水中のアルミニウム濃度を低下させ、またRO装置のファウリングを抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のフッ素含有排水の処理方法は、pHが5以下のフッ素含有排水にアルミニウム系凝結剤を添加して凝集処理する工程と、この凝集処理液を固液分離して清澄水を得る工程と、この清澄水を逆浸透膜装置によって逆浸透処理する工程とを有するフッ素含有排水の処理方法において、前記凝集処理工程のpHを7~8とし、前記逆浸透膜装置への給水のpHを5~6.7又は8.7~10とすることを特徴とする。
【0008】
本発明の一態様では、前記逆浸透処理工程のpHを5.5~6とする。
【0009】
本発明の一態様では、前記アルミニウム系凝結剤は、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム及びポリ塩化アルミニウムから選ばれる1種以上である。
【0010】
本発明の一態様では、前記フッ素含有排水のフッ素濃度が1~10mg/Lであり、前記アルミニウム系凝結剤の添加量は、前記フッ素含有排水に対してAl2O3換算で1~100mg/Lとなる量である。
【0011】
本発明のフッ素含有排水の処理装置は、フッ素含有排水にアルミニウム系凝結剤を添加するアルミニウム系凝結剤を添加して凝集処理する凝集処理装置と、この凝集処理液を固液分離して清澄水を得る固液分離装置と、この清澄水を逆浸透処理する逆浸透膜装置とを有するフッ素含有排水の処理装置において、前記凝集処理装置内の液のpHを7~8とする第1pH調整装置と、前記逆浸透膜装置に供給される給水のpHを5~6.7又は8.7~10とする第2pH調整装置とを有する。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、フッ素含有排水の凝集処理時のpHを7~8としたことにより、凝集処理水中のアルミニウム濃度が低下する。
【0013】
また、本発明では、RO給水のpHを5~6.7又は8.7~10(好ましくは5.5~6)としたことにより、RO装置のファウリングが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施の形態に係るフッ素含有排水の処理方法及び装置を説明するフロー図である。
【
図3】
図3(a)は実施例1の水回収率の経時変化を示すグラフであり、
図3(b)は比較例1の水回収率の経時変化を示すグラフである。
【
図4】
図4(a)は実施例1の有効運転圧力の経時変化を示すグラフであり、
図4(b)は比較例1の有効運転圧力の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。
【0016】
図1の通り、原水としてのフッ素含有排水は、原水槽1から反応槽2に導入され、後段に配置された中継槽5でのpHが7~8となるように(中継槽5に設けたpH計5Aの測定値が7~8となるように)、pH調整剤の添加装置3により、pH調整剤が反応槽2に添加される。このようにpHの測定位置を後段に配置することで、pHのぶれを抑制して安定したpH調整が可能となる。また、アルミニウム系凝結剤の添加装置4および高分子凝集剤の添加装置6により、アルミニウム系凝結剤と高分子凝集剤とが反応槽2において原水に添加され撹拌される。アルミニウム系凝結剤と高分子凝集剤とが添加された原水は中継槽5に導入され、中継槽5で撹拌されてフロックが成長する。
【0017】
この中継槽5内の凝集液は、加圧浮上槽8で加圧浮上処理され、浮上した固形分は系外に排出される。加圧浮上槽8で固形分が分離された清澄水(第1清澄水)は、重力濾過器9にて濾過されて第2清澄水となり、タンク10に導入される。重力濾過器9の濾材としては、砂、アンスラサイト、砂利などを用いることができる。
【0018】
このタンク10内又は移送配管12の第2清澄水に対し、酸添加装置11によって酸又はアルカリ(好ましくは塩酸)が添加されてpHが5~6.8又は8.7~10、好ましくは5.5~6に調整された後、保安フィルタ(図示略)を経てRO装置13に供給され、RO処理され、RO膜透過水が処理水として取り出される。RO濃縮水の少なくとも一部は原水槽1又はその上流側に返送される。
【0019】
フッ素含有排水としては、半導体製造工程排水やその前段処理水等が挙げられる。半導体製造工程排水としては、半導体洗浄工程排水、ダイサー排水、原水濾過器逆洗排水等が挙げられるが、これらに限定されない。前段処理としては、生物処理、凝集濾過処理等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0020】
半導体製造工程排水やその前段処理水は、フッ素を含有し、かつpHが通常5以下、特に1.5~4である。また、排水のフッ素濃度は通常0.6~50mg/L、特に1~20mg/Lである。排水は、フッ素の他に、半導体製造工程で用いられた薬剤、例えば、硫酸、塩酸、硝酸、アンモニア、水酸化ナトリウム、過酸化水素、イソプロピルアルコールや界面活性剤などの有機物及び剥離したレジスト等の有機物を含むことがある。
【0021】
本発明が処理対象とするフッ素含有排水は、その他の排水(例えば、冷却塔排水、製造装置水スクラバー排水、除害燃焼装置スクラバー排水など)を含有してもよい。
【0022】
上記のフッ素含有排水は、通常の場合、酸性であるので、凝集槽2で添加されるpH調整剤はアルカリであり、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が好適に用いられる。凝集槽5でアルカリを添加する場合、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が好適に用いられ、酸を添加する場合は塩酸、硫酸などが用いられる。
【0023】
アルミニウム系凝結剤としては硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム(PAC)及び塩化アルミニウムのうち少なくとも1種を用いることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
アルミニウム系凝結剤の供給量は、排水に対してAl2O3換算で好ましくは1~100mg/L、より好ましくは5~50mg/Lとなる量とする。この範囲より少ないとフッ素の除去率が十分でなく、この範囲より超えるとアルミニウム系凝結剤の添加量が多すぎて無駄となる。
【0025】
高分子凝集剤としては、アニオン系高分子凝集剤が好適である。
図1では、固液分離装置として加圧浮上槽と重力式濾過器が用いられているが、繊維濾過器、回流式凝集槽などを用いてもよい。
【0026】
RO装置13は、スパイラル型、チューブラー型、ホローファイバ型等のいずれでもよい。RO装置を2段以上直列に接続して多段逆浸透膜装置としてもよい。
【実施例】
【0027】
以下、実験例及び実施例を用いて本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例によって限定されるものではない。
【0028】
[実験例1]
フッ素含有排水(原水)として、フッ素濃度0.8mg/L、pH5.6の設備系排水(原水A)とフッ素濃度7.0mg/L、pH4.7の設備系排水(原水B)を用いた(ビーカーテスト)。
【0029】
原水A、Bにそれぞれ水酸化ナトリウムを添加してpH6~8.5の間で種々のpH値に調整した後、それぞれPACを100mg/L(排水に対してAl
2O
3換算で100mg/Lとなる量)添加し、撹拌した。撹拌した後、5Aの濾紙で濾過し、濾過水中のアルミニウム濃度をICP-MSによって測定した。結果を
図2に示す。
【0030】
図2の通り、原水に水酸化ナトリウムを添加してpH調整するに際して、pHを7~8に調整した場合、前記濾過処理水中の残留アルミニウム濃度が極小となることが認められた。
【0031】
[実施例1]
フッ素濃度7.0mg/L、pH4.7の設備系排水を水酸化ナトリウムによりpH7~8に調整した後、PACを100mg/L添加し、撹拌した後、加圧浮上装置によって固液分離し、分離水を二層重力式濾過器(濾材はアンスラサイトと砂)によって濾過した。この濾過水を塩酸によってpH5.5~6に調整した後、RO装置にフラックス45m
3/本・日で通水し、水回収率及び有効運転圧力の経時変化を測定した。結果を
図3(a),
図4(a)に示す。
【0032】
図3(a),
図4(a)の通り、水回収率及び有効運転圧力は経時的に安定していることが認められた。
【0033】
[比較例1]
RO装置への給水のpHを7.0~7.3に調整したこと以外は実施例1と同様の試験を行った。RO装置の水回収率及び有効運転圧力の経時変化を測定した。結果を
図3(b),
図4(b)に示す。
図3(b)の通り、水回収率は不安定であり、また経時的に低下することが認められた。
図4(b)の通り、有効運転圧力も不安定であり、また経時的に上昇することが認められた。
【符号の説明】
【0034】
8 加圧浮上装置
9 重力濾過器
13 RO装置