(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】ヘモグロビン調製液及びヘモグロビン調製液を用いたヘモグロビン類の測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/88 20060101AFI20240903BHJP
G01N 30/06 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
G01N30/88 Q
G01N30/06 C
(21)【出願番号】P 2020191417
(22)【出願日】2020-11-18
【審査請求日】2023-10-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大西 達也
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-107436(JP,A)
【文献】国際公開第2010/067612(WO,A1)
【文献】特開2018-004606(JP,A)
【文献】特開2009-133654(JP,A)
【文献】特開2014-190938(JP,A)
【文献】特開2015-158515(JP,A)
【文献】国際公開第2010/010881(WO,A1)
【文献】特開2010-164579(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0165608(US,A1)
【文献】荻野慎士 その他,東ソー自動グリコヘモグロビン分析計 HLC-723G11バリアントモード/サラセミアモードの開発,東ソー研究・技術報告,日本,東ソー株式会社,2017年12月20日,61,105-109
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00 -30/96
B01J 20/281-20/292
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体クロマトグラフィー法によるヘモグロビン類の定量分析に用いられるヘモグロビン調製液であって、調製液に少なくとも1種以上の親水性基に糖アルコール又は糖分子が含まれ、かつ親水性基と疎水性基とがエステル結合を介して結合している界面活性剤を含
み、
測定試薬中における前記界面活性剤の含有量が0.01から1.00重量%であることを特徴とする、ヘモグロビン調製液。
【請求項2】
前記界面活性剤を構成する親水性基がスクロースであることを特徴とする、請求項1に記載のヘモグロビン調製液。
【請求項3】
前記界面活性剤を構成する疎水性基が炭素数7から22の脂肪酸である、請求項1または2に記載のヘモグロビン調製液。
【請求項4】
前記界面活性剤のpHが5.5から9.0である、請求項1から
3のいずれか一項に記載のヘモグロビン調製液。
【請求項5】
保存剤が、少なくとも1種類以上含まれることを特徴とする、請求項1から
4のいずれか一項に記載のヘモグロビン調製液。
【請求項6】
保存剤が、エチレンジアミン四酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、エチレンジアミン-N,N’-ジコハク酸、エチレンジアミン四酢酸のナトリウム塩、エチレンジアミン四酢酸のカリウム塩、エチレンジアミン-N,N’-ジコハク酸のナトリウム塩またはアジ化ナトリウムの中から、少なくとも1種類以上含まれていることを特徴とする、請求項
5に記載のヘモグロビン調製液。
【請求項7】
請求項1から
6のいずれか一項に記載のヘモグロビン調製液と、ヘモグロビン類を含む試料とを混合することで測定試料を得る工程と、前記の測定試料を液体クロマトグラフィーにより測定する工程を備える、ヘモグロビン類の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフィーによりヘモグロビン類を測定する際に用いる界面活性剤を含むヘモグロビン調製液、及び前記のヘモグロビン調製液を用いたヘモグロビン類の定量測定に関するものである。
【背景技術】
【0002】
血液の主要タンパク質であるヘモグロビンは、補因子として結合しているヘムを介して生体内に酸素分子を運搬する働きを持つ。ヘモグロビン分子はヘムを構成するプロトポルフィリンIXと2価の鉄イオンの存在により青色光を吸収するため赤色を帯びている。この性質を利用したヘモグロビン類の分析方法の一つに液体クロマトグラフィー法が挙げられる。
液体クロマトグラフィー法を用いたヘモグロビン類の分析は、測定値の精度が高く、糖尿病や先天性溶血性貧血の一種である血色素異常症(異常ヘモグロビン症,サラセミア症)などの診断方法として広く利用されている。
【0003】
通常成人のヘモグロビンはα鎖とβ鎖の2種類のグロビン鎖から構成されるヘテロテトラマー(α2β2)であるヘモグロビンA0がヘモグロビン類の90%以上を占める。その他ヘモグロビン類に、ヘモグロビンA0にグルコース或いは種々の誘導糖が結合したヘモグロビンA1や、α鎖とγ鎖の2種類のグロビン鎖から構成(α2γ2)される胎児性のヘモグロビンF、α鎖とδ鎖の2種類のグロビン鎖から構成(α2δ2)されるヘモグロビンA2が例示でき、ヘモグロビンA1に属する成分にはヘモグロビンA1a,A1b,A1cが含まれる。
【0004】
糖尿病の診断では、ヘモグロビンA0の安定型糖化成分であるヘモグロビンs-A1cが総ヘモグロビン量に占める割合(HbA1c%)が診断指標の一つとして用いられている。また、サラセミア症の診断においては、ヘモグロビンFとヘモグロビンA2が総ヘモグロビン量に占める割合(F%及びA2%)が診断指標として用いられている。
【0005】
液体クロマトグラフィー法を用いたヘモグロビン類の分析では、ヘモグロビンを含有する凍結乾燥試料や血液等の試料を、界面活性剤を含むヘモグロビン調製液を用いて溶血・希釈することが一般的であるが、この際に用いるヘモグロビン調製液には血液を短時間で十分に溶血させ、ヘモグロビン類を含む試料成分を溶解できることが求められる。また、液体クロマトグラフィーを用いたヘモグロビン分析装置は、手動による測定試料の調製などの前処理工程を省略し、装置内で試料とヘモグロビン調製液を混合希釈する機能を備えることが一般的である。更に、上記試料の連続する測定を精度良く行うために、上記ヘモグロビン調製液には、測定毎に装置内のサンプルループ部及びサンプラー部を洗浄する効果を有することがより好ましい。
【0006】
血液の溶血と試料成分の速やかな溶解を促進するために、ヘモグロビン調製液には界面活性剤が添加されている。
【0007】
特許文献1では、0.1wt%のポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルを溶解させた0.05Mリン酸緩衝液(pH7.0)をヘモグロビン調製液として用いている。
【0008】
特許文献2では、0.1wt%のポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートが含まれたヘモグロビン調製液を用いたヘモグロビン調製液として用いられている。
【0009】
特許文献3では、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルを含まない、種々のアルキルエーテル群について評価しており、特定の構造を持つポリオキシエチレンアルキルエーテルがポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルと同等の水準で血液検体を溶血可能であること、また同等の精度でヘモグロビン類の測定に使用することが可能であるとしている。
【0010】
特許文献1及び3に記載されているポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルはヘモグロビン類の調製にかぎらず、血液の調製液に幅広く利用されている。しかし、河川や海洋等へ排出された場合、環境ホルモンに分類されるアルキルフェノール等に分解されることから生物環境への悪影響が指摘されている。特に近年は、欧州においてThe European Chemical Agency(ECHA)がRegistration,Evaluation,Authorisation and Restrictions of Chemicals(REACH規制)の対象候補リストに、オクチルフェノールエトキシレートを部分構造に持つ一連の物質を追加したため、オクチルフェノールエトキシレート構造を含んだ界面活性剤の使用は可能な限り避ける必要がある。
【0011】
特許文献2の記載の、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートが含まれたヘモグロビン調製液は調製後のヘモグロビン類の安定性に優れているものの溶血作用が弱く、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルに比べて完全な溶血・溶解に時間を要する。このため、液体クロマトグラフィー法を用いたヘモグロビン類の分析においてポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートが含まれたヘモグロビン調製液を使用した場合、短時間で連続して多量の血液検体を測定するとカラム内に溶血・溶解が不十分な成分が蓄積し、コンタミネーションが発生する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開平10-010107号公報
【文献】特開2018-004606号公報
【文献】特許第6651066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
液体クロマトグラフィー法によるヘモグロビン測定時には、これまで界面活性剤としてポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルが含まれた溶血液が一般的に用いられてきていたが、上記界面活性剤は生物環境への悪影響が懸念されており、環境保全の観点からポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルに替わる界面活性剤が必要であるという課題があった。
【0014】
本発明の目的は、これまで液体クロマトグラフィーを用いたヘモグロビン類の測定において、広く用いられてきたポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルに替わる界面活性剤、及びそれらを添加したヘモグロビン調製液を提供することである。より具体的には、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルと同等以上の溶血性能と高精度なヘモグロビン類の測定を実現する、少なくとも1種以上の親水性基に糖アルコール又は糖分子が含まれ、かつ親水性基と疎水性基とがエステル結合を介して結合している界面活性剤を含むヘモグロビン調製液を提供し、同時に、前記ヘモグロビン調製液を用いたヘモグロビン類の測定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、親水性基に糖アルコール又は糖分子が含まれ、親水性基と疎水性基とがエステル結合を介して結合している界面活性剤を添加した溶液を、ヘモグロビン調製液として用いることにより、溶解後安定性に優れ、ヘモグロビンを精度良く連続して測定可能であり、かつコンタミネーションを低減可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0016】
以下、本発明について詳細に報告する。
本発明は、液体クロマトグラフィー法によるヘモグロビン類の定量分析に用いられるヘモグロビン調製液であって、調製液に少なくとも1種以上の親水性基に糖アルコール又は糖分子が含まれ、かつ親水性基と疎水性基とがエステル結合を介して結合している界面活性剤を含むことを特徴とする、ヘモグロビン調製液、及び前記ヘモグロビン調製液を用いたヘモグロビン類の測定方法に関するものである。
【0017】
前記界面活性剤の親水性基の糖アルコール又は糖分子には、単糖ではグルコース、ガラクトース、フルクトース、リボース等が、二糖ではスクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、セロビオース等が、三糖ではラフィノース、メレジトース、マルトトリオース等が、四糖ではアカルボース、スタキオース等が、糖アルコールとしてはグリセリン、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、イソマルト、ラクチトール、マルチトール、マンニトール等が挙げられるが特に制限はない。
【0018】
前記界面活性剤は、非イオン性であることが好ましいが、カチオン性またはアニオン性基、あるいはその両方が付加していてもよい。カチオン性基を有する糖分子としてはグルコサミン等が、アニオン性基を有する糖分子としてはグルクロン酸等が挙げられる。
【0019】
前記界面活性剤の疎水性基は、炭素数が7から22で構成される脂肪酸であることを特徴としているが、脂肪酸中の不飽和度に関して特に制限はない。前記界面活性剤の脂肪酸には、例えばエナント酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸等が挙げられる。
【0020】
ヘモグロビン類を含む試料としては、凍結乾燥試薬、コントロール、キャリブレーター又は血液などが挙げられる。
【0021】
本発明のヘモグロビン調製液には、保存剤として防腐剤が含まれていてもよく、防腐剤には例えばアジ化ナトリウムやアジ化リチウム、ストレプトマイシン、カナマイシン、ピューロマイシン、テトラサイクリン等が挙げられるが、特に限定されない。また、保存剤としてヘモグロビン安定化剤が含まれても良く、ヘモグロビン安定化剤として例えばEDTAのナトリウム塩及びカリウム塩等が挙げられるが、特に限定されない。
【0022】
本発明のヘモグロビン調製液の界面活性剤の含有量は測定条件に合わせ0.01~1.00wt%の濃度で用いることが可能である。好ましくは0.01~0.10wt%の濃度である。
【0023】
また、pH緩衝剤として例えば、カルボン酸塩、リン酸塩、アンモニウム塩、アルキルアミン等を含ませることもできる。本発明のヘモグロビン調製液pHは5.0~9.0の範囲であることが望ましい。
【0024】
本発明は、前記ヘモグロビン調製液と、ヘモグロビン類を含む試料を混合することで試料を溶血・溶解させ測定試料を得る工程と、得られた測定試料を液体クロマトグラフィーにより測定する工程を備える、ヘモグロビン類の測定方法に関するものである。
【0025】
上記の混合工程は、ヘモグロビン測定装置により行われるか、或いは予め測定者により行われるかを問わない。上記ヘモグロビン類の測定方法としては、例えば、次のような操作より求めることが可能である。
1.前記ヘモグロビン類測定用試薬と、前記ヘモグロビン類を含む試料とを混合する。
2.1.で得られた溶液を、陽イオン交換クロマトグラフィーを用いて測定する。
3.下記の計算式Aを用いて測定するピークの割合を算出する。
〔計算式A〕対象成分の存在割合(%)=(測定成分のピーク面積/全成分のピーク面積の和)
液体クロマトグラフィーによるヘモグロビン類の測定では、ヘモグロビン類を含有する試料を希釈させる工程からピーク面積を算出する工程までを全自動で行うことのできる自動分析装置を使用することがより簡便である。市販されている分析装置として自動グリコヘモグロビン分析計HLC-723 G11(東ソー株式会社製)等が挙げられる。
【発明の効果】
【0026】
本発明のヘモグロビン調製液は、ヘモグロビン類が含まれた試料の溶血・溶解能力に優れ、従来、ヘモグロビン類の定量測定分野において広く用いられてきたポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルと同等以上の連続再現性、及びキャリーオーバー値の低減が可能となる。また、上記ヘモグロビン類測定用試薬を用いることにより、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルの使用量を削減することで、環境負荷の軽減が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】実施例1で得られたクロマトグラムを示した図である。
【
図2】比較例1で得られたクロマトグラムを示した図である。
【
図3】実施例7及び比較例2のクロマトグラムを示した図である。
【
図4】実施例8で得られたクロマトグラムを示した図である。
【
図5】実施例9,10,11,12で得られたクロマトグラムを示した図である。
【
図6】実施例13,14,15で得られたクロマトグラムを示した図である。
【実施例】
【0028】
以下に実施例を挙げて本発明の形態について詳細に述べるが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0029】
(実施例1)
下記のヘモグロビン調製液を用いて、血液検体の測定を行った。
【0030】
1.ヘモグロビン調製液の調製
純水に、界面活性剤として0.05wt%のスクロースラウリン酸エステル(三菱ケミカル株式会社製、商品名:L-1695)、防腐剤として0.05wt%アジ化ナトリウム(富士フィルム和光株式会社製)、ヘモグロビン安定化剤としてEDTA・4Na(株式会社同仁化学研究所製)とEDTA・2K(株式会社同仁化学研究所製)を溶解させ、pH7.5のヘモグロビン調製液Aを得た。
【0031】
2.ヘモグロビン類の測定
ヘモグロビン類を含む試料として血液検体を用い、ヘモグロビン調製液Aを用いてヘモグロビン自動分析計HLC-723 G11 STDモード(測定時間:30秒/テスト)で、血液検体を20回連続で測定しHbA1c%を測定し、続けて純水を測定してキャリーオーバー値を測定した。得られた5検体測定毎のクロマトグラムを
図1に示す。また、連続測定の結果からHbA1c%の平均値とそれらの変動係数(CV%)を算出した。
分析用カラムにはTSK gel G11(東ソー株式会社製)を使用し、溶離液にはG11溶離液 第1液、第2液、第3液(東ソー株式会社製)を使用した。
キャリーオーバー値は下記の計算式Bより算出した。
〔計算式B〕:キャリーオーバー値(%)=(純水測定時に検出された全ピーク面積の総和/純水測定直前の検体測定時に検出された全ピーク面積の総和)×100
(実施例2)
実施例1においてヘモグロビン調製液に使用する界面活性剤を、スクロースラウリン酸エステルからスクロースミリスチン酸エステル(三菱ケミカル株式会社製、商品名:M-1695)に変更し、ヘモグロビン調製液Bを得た。その他の条件は、実施例1と同様に実施した。
【0032】
(実施例3)
実施例1においてヘモグロビン調製液に使用する界面活性剤を、スクロースラウリン酸エステルからスクロースパルミチン酸エステル(三菱ケミカル株式会社製、商品名:P-1670)に変更しヘモグロビン調製液Cを得た。その他の条件は、実施例1と同様に実施した。
【0033】
(実施例4)
実施例1においてヘモグロビン調製液に使用する界面活性剤を、スクロースラウリン酸エステルからスクロースオレイン酸エステル(三菱ケミカル株式会社製、商品名:O-1570)に変更しヘモグロビン調製液Dを得た。その他の条件は、実施例1と同様に実施した。
【0034】
(実施例5)
実施例1においてヘモグロビン調製液に使用する界面活性剤を、スクロースラウリン酸エステルからスクロースステアリン酸エステル(三菱ケミカル株式会社製、商品名:S-1670)に変更しヘモグロビン調製液Eを得た。その他の条件は、実施例1と同様に実施した。
【0035】
(実施例6)
実施例1においてヘモグロビン調製液に使用する界面活性剤を、スクロースラウリン酸エステルからソルビトールカプリル酸エステル(理研ビタミン株式会社製、商品名:ポエムC-250)に変更しヘモグロビン調製液Fを得た。その他の条件は、実施例1と同様に実施した。
【0036】
(比較例1)
実施例1においてヘモグロビン調製液に使用する界面活性剤を、スクロースラウリン酸エステルからポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(富士フィルム和光株式会社製、商品名:Tween20)に変更しヘモグロビン調製液Xを得た。その他の条件は、実施例1と同様に実施した。比較例1で得られた5検体測定毎のクロマトグラムを
図2に示した。
【0037】
図1及び
図2より、比較例1では連続測定中にカラムへのコンタミネーションによりA0ピークの後ろに不明ピークが現れ、測定回数が進むとともに徐々に成長した。また、不明ピークの成長とともにHbA1c%の低下も観察された。一方で実施例1では比較例1で見られたような不明ピークは出現せず、HbA1c%の低下も観察されなかった。
【0038】
表1に実施例1,2,3,4,5,6及び比較例1で得られたキャリーオーバー値及び20回の連続測定におけるHbA1c%の変動係数(CV%値)を表1に示した。なお、キャリーオーバー値は計算式Bを用いて算出した。表1の結果から、実施例1,2,3,4,5及び6のキャリーオーバー値はいずれも2%未満となっており、カラムへのコンタミネーションは認められず、血液検体を十分に溶血・溶解できていることが示されている。一方で、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレートを界面活性剤として用いた比較例1のキャリーオーバー値は10%を超えており。カラムへのコンタミネーションが生じていた。測定精度も、実施例1,2,3,4,5及び6ではCV%がいずれも1%未満で良好な再現性を示した。一方、比較例1はカラムへのコンタミネーションが影響したため、約2%となった。
【0039】
【0040】
(実施例7)
ヘモグロビン類を含む試料として血液検体を用い、実施例1にて調製したヘモグロビン調製液Aを用いて、血液検体を20回連続で測定したのち、続けて純水を3回連続測定し、A2%の測定値及びキャリーオーバー値を測定した。測定後、連続測定の結果からA2%の平均値と変動係数CV%を算出した。
【0041】
なお、ヘモグロビン類の分析にはヘモグロビン自動分析計HLC-723 G11 β-Thalassemiaモード(測定時間:5分/テスト)を使用し、陽イオン交換カラムにはTSK gel G11 β-Thal.(東ソー株式会社製)を、溶離液にはG11 β-Thalassemia Elution Buffer No.1(S)、No.2(S)、No.3(S)(東ソー株式会社製)を使用した。
【0042】
(比較例2)
ヘモグロビン調製液Aの代わりに比較例1にて調製したヘモグロビン調製液Xを使用し、実施例7と同様の評価を行った。
【0043】
実施例7及び比較例2で得られた20測定目のクロマトグラムを
図3に、得られたキャリーオーバー値、及び20回の連続測定中におけるA2%の変動係数CV%を表2に示した。なお、表2におけるキャリーオーバー値は計算式Bを用いて算出した。
図3に示すようにヘモグロビン調製液間でクロマトグラムには明らかな差は生じなかったが、表2の結果から、実施例7での測定は比較例2と比較してキャリーオーバー値が小さく、カラムのコンタミネーションが少なかった。
【0044】
【0045】
(実施例8)
ヘモグロビン類を含む試料として血液検体を用い、実施例1にて調製したヘモグロビン調製液Aを用いて、血液検体を20回連続で測定したのち、続けて純水を3回連続測定し、糖化ヘモグロビン%の測定値及びキャリーオーバー値を測定した。測定後、連続測定の結果から糖化ヘモグロビン%の平均値と変動係数CV%を算出した。
【0046】
なお、分析には東ソー株式会社製ヘモグロビン自動分析計 HLC-723 G8 Affinity モード(測定時間:2.2分/テスト)を使用し、アフィニティーカラムにはTSK gel AF-GHb(東ソー株式会社製)を、溶離液にはG8 eluent AF-GHb A(S)、B(S)(東ソー株式会社製)を使用した。
【0047】
実施例8で得られた20測定目のクロマトグラムを
図4に、得られたキャリーオーバー値、及び20回の連続測定中における糖化ヘモグロビン%に対するCV%を表3に示した。なお、表3におけるキャリーオーバー値は計算式Bを用いて算出した。
図4に示すように、ヘモグロビン調製液Aは、アフィニティークロマトグラフィー法によるヘモグロビン類の定量分析にも、イオン交換クロマトグラフィー法と同様に使用可能であり、また表3の結果からCV%が1%未満と高い測定精度で糖化ヘモグロビン%の測定が可能であることが示されている。
【0048】
【0049】
(実施例9)
実施例1で用いた界面活性剤の濃度を、0.05wt%から0.01wt%に変更したヘモグロビン調製液Gを得た。ヘモグロビン調製液Aの代わりにヘモグロビン調製液Gを使用し、実施例1と同様の評価を行った。
【0050】
(実施例10)
実施例1で用いた界面活性剤の濃度を、0.05wt%から0.10wt%に変更したヘモグロビン調製液Hを得た。ヘモグロビン調製液Aの代わりにヘモグロビン調製液Hを使用し、実施例1と同様の評価を行った。
【0051】
(実施例11)
実施例1で用いた界面活性剤の濃度を、0.05wt%から0.50wt%に変更したヘモグロビン調製液Iを得た。ヘモグロビン調製液Aの代わりにヘモグロビン調製液Iを使用し、実施例1と同様の評価を行った。
【0052】
(実施例12)
実施例1で用いた界面活性剤の濃度を、0.05wt%から1.00wt%に変更したヘモグロビン調製液Jを得た。ヘモグロビン調製液Aの代わりにヘモグロビン調製液Jを使用し、実施例1と同様の評価を行った。
【0053】
実施例9,10,11,12で得られた20回測定後のクロマトグラムを
図5に、計算式Bから得られたキャリーオーバー値を表4示した。表4に示すように、全てのヘモグロビン調製液でキャリーオーバー値は1%未満であり、カラムへのコンタミネーションは無かった。
【0054】
【0055】
(実施例13)
実施例1で用いたヘモグロビン調製液のpHを5.5に調製したヘモグロビン調製液Kを得た。ヘモグロビン調製液Aの代わりにヘモグロビン調製液Kを使用し、実施例1と同様の評価を行った。
【0056】
(実施例14)
実施例1で用いたヘモグロビン調製液のpHを6.5に調製したヘモグロビン調製液Lを得た。ヘモグロビン調製液Aの代わりにヘモグロビン調製液Lを使用し、実施例1と同様の評価を行った。
【0057】
(実施例15)
実施例1で用いたヘモグロビン調製液のpHを8.5に調製したヘモグロビン調製液Mを得た。ヘモグロビン調製液Aの代わりにヘモグロビン調製液Mを使用し、実施例1と同様の評価を行った。
【0058】
実施例13,14,15で得られたクロマトグラムを
図6に、計算式Bから得られたキャリーオーバー値を表5示した。
図6の結果から、ヘモグロビン調製液のpHがpH5.5から8.5の範囲でクロマトグラムに差はないことがわかった。表5に示すように、全てのヘモグロビン調製液でキャリーオーバー値は1%未満であり、カラムへのコンタミネーションは無かった。
【0059】