(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】品質特性マップの生成方法
(51)【国際特許分類】
G06T 7/00 20170101AFI20240903BHJP
H01J 37/22 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
G06T7/00 350C
H01J37/22 502H
(21)【出願番号】P 2020192492
(22)【出願日】2020-11-19
【審査請求日】2023-09-11
(31)【優先権主張番号】P 2020000158
(32)【優先日】2020-01-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】小野 眞
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 貴浩
(72)【発明者】
【氏名】守谷 浩志
(72)【発明者】
【氏名】槙 智仁
(72)【発明者】
【氏名】八木 崇志
【審査官】藤原 敬利
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-012037(JP,A)
【文献】特開2019-007944(JP,A)
【文献】特開2016-095640(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06T 7/00- 7/90
G06V 10/00-20/90
H01J 37/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つ以上の学習用材料を撮像して得られた、複数の学習用画像からなる学習用画像群と、前記学習用画像における前記学習用材料の品質特性と、を対応付けて読み込み、
前記学習用画像から複数の学習用領域を切り出して、
前記学習用領域から学習用特徴量を抽出し、前記学習用特徴量から前記学習用材料の品質特性を予測する回帰モデルを学習する機械学習ステップと、
一つ以上の評価用材料の評価用画像を読み込み、
前記評価用画像から複数の評価用領域を切り出して、
前記評価用領域から評価用特徴量を抽出し、
前記評価
用特徴量と、前記回帰モデルによって、前記評価用領域毎に、前記評価用材料の品質特性を予測し、
予測した前記評価用材料の品質特性を用いて、前記評価用画像内における前記評価用材料の品質特性の分布のマッピングを行うマップ生成ステップと、
を有することを特徴とする品質特性マップの生成方法。
【請求項2】
前記学習用特徴量及び前記評価用特徴量の抽出は、学習済みの畳み込みニューラルネットワークを用いて行うことを特徴とする請求項1に記載の品質特性マップの生成方法。
【請求項3】
前記回帰モデルの学習は、ランダムフォレストを用いて行うことを特徴とする請求項2に記載の品質特性マップの生成方法。
【請求項4】
前記マップ生成ステップにおける前記マッピングは、等高線図であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の品質特性マップの生成方法。
【請求項5】
一つ以上の学習用材料を撮像して得られた、複数の学習用画像からなる学習用画像群と、前記学習用画像における前記学習用材料の品質特性と、を対応付けて読み込み、
前記学習用画像から複数の学習用領域を切り出して、
前記学習用領域から学習用特徴量を抽出し、前記学習用特徴量から前記学習用材料の品質特性を予測する回帰モデルを学習する機械学習ステップと、
一つ以上の評価用材料の評価用画像を読み込み、
前記評価用画像から複数の評価用領域を切り出して、
前記評価用領域から第1の評価用特徴量を抽出し、
前記第1の評価用特徴量と、前記回帰モデルによって、前記評価用領域毎に、前記評価用材料の品質特性を予測する第1の予測ステップと、
前記評価用領域の一部の画素の輝度の値を任意の値に置換し、第2の評価用特徴量を抽出し、前記第2の評価用特徴量と、前記回帰モデルによって、前記評価用領域毎に、前記評価用材料の品質特性を予測する第2の予測ステップと、
前記第1の予測ステップと前記第2の予測ステップでそれぞれ予測した前記評価用材料の品質特性の差を前記一部の画素の輝度の値を変化させてマッピングするマップ生成ステップと、
を有することを特徴とする品質特性マップの生成方法。
【請求項6】
前記学習用特徴量、前記第1の評価用特徴量及び前記第2の評価用特徴量の抽出は、学習済みの畳み込みニューラルネットワークを用いて行うことを特徴とする請求項5に記載の品質特性マップの生成方法。
【請求項7】
前記第1の予測ステップと前記第2の予測ステップでそれぞれ予測した前記評価用材料の品質特性の差は、SHAP値であることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の品質特性マップの生成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁石やセラミクスなどの材料を画像撮像装置で撮像し、その画像から品質特性マップを生成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、情報科学、特にデータ科学を効果的に活用して、新材料を開発するマテリアルズインフォマティクスという技術分野が注目されている。
マテリアルズインフォマティクスでは、様々な実験条件や実験結果などのデータを関連付けてデータベースに蓄積し、統計解析、機械学習、シミュレーションなどを駆使して、新材料の開発に役立つ情報を抽出している。
特に、製作した材料を電子顕微鏡や光学顕微鏡などの画像撮像装置で撮像して得た画像や、分析装置で測定した材料の性能を表す品質特性は、有益な情報として蓄積されている。
【0003】
ここで、材料を撮像して得た画像を分析して、有益な情報を得る方法として、たとえば、特許文献1に電子顕微鏡で撮像された画像の強調方法が開示されている。特許文献1の方法では、電子顕微鏡から得られるエネルギー信号や角度信号などと、組成情報や組織構造との関係に準じた、画像の変換処理を予め用意しておき、新材料の開発者が注目したい組成情報や組織構造が写った部位を強調した画像を生成できる。
【0004】
また、材料を撮像して得た画像の分析に、機械学習を応用する方法として、たとえば、特許文献2にニューラルネットワークを用いて品質特性を予測する方法が開示されている。特許文献2の方法は、複数の材料を撮像して得た画像群と夫々の品質特性の対を予め多数用意し、ニューラルネットワークを学習しておくことで、学習済みのニューラルネットワークに新たに撮像して得た画像を入力することで、その材料の品質特性を予測できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-133174号公報
【文献】特開2019-012037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の方法で画像を生成するには、予め電子顕微鏡から得られるエネルギー信号や角度信号などと、組成情報や組織構造との関係に準じた画像の変換処理を実行する必要がある。更に、新材料の開発者が電子顕微鏡の原理、組成情報、組織構造などの知識を有ししていなければならない。
【0007】
また、特許文献2の方法は、ニューラルネットワークの学習のために大量な材料、それらの画像、それらの品質特性を予め測定しなければ活用できない問題もある。新材料の開発では、ニューラルネットワークの学習に必要なだけの大量な材料を準備することは難しい。
【0008】
そこで本発明では、大量の材料、画像、品質特性測定がなくても、また、電子顕微鏡などの原理、組成情報、組織構造などの知識を有しなくても、材料の特性、すなわち品質特性の分布を表すマップを生成することが可能な品質特性マップの生成方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る品質特性マップの生成方法は、一つ以上の学習用材料を撮像して得られた、複数の学習用画像からなる学習用画像群と、学習用画像における学習用材料の品質特性とを対応付けて読み込み、学習用画像から複数の学習用領域を切り出して、学習用領域から学習用特徴量を抽出し、学習用特徴量から学習用材料の品質特性を予測する回帰モデルを学習する機械学習ステップと、一つ以上の評価用材料の評価用画像を読み込み、評価用画像から複数の評価用領域を切り出して、評価用領域から評価用特徴量を抽出し、評価用特徴量と、回帰モデルによって、評価用領域毎に、評価用材料の品質特性を予測し、予測した評価用材料の品質特性を用いて、評価用画像内における評価用材料の品質特性の分布のマッピングを行うマップ生成ステップを有する。
【0010】
また、前記学習用特徴量及び前記評価用特徴量の抽出は、学習済みの畳み込みニューラルネットワークを用いて行うことが好ましい。
【0011】
また、回帰モデルの学習は、ランダムフォレストを用いて行うことが好ましい。
【0012】
また、前記マップ生成ステップにおける前記マッピングは、等高線図であることが好ましい。
【0013】
また、本発明に係る品質特性マップの生成方法は、一つ以上の学習用材料を撮像して得られた、複数の学習用画像からなる学習用画像群と、前記学習用画像における前記学習用材料の品質特性と、を対応付けて読み込み、前記学習用画像から複数の学習用領域を切り出して、前記学習用領域から学習用特徴量を抽出し、前記学習用特徴量から前記学習用材料の品質特性を予測する回帰モデルを学習する機械学習ステップと、一つ以上の評価用材料の評価用画像を読み込み、前記評価用画像から複数の評価用領域を切り出して、前記評価用領域から第1の評価用特徴量を抽出し、前記第1の評価用特徴量と、前記回帰モデルによって、前記評価用領域毎に、前記評価用材料の品質特性を予測する第1の予測ステップと、前記評価用領域の一部の画素の輝度の値を任意の値に置換し、第2の評価用特徴量を抽出し、前記第2の評価用特徴量と、前記回帰モデルによって、前記評価用領域毎に、前記評価用材料の品質特性を予測する第2の予測ステップと、前記第1の予測ステップと前記第2の予測ステップでそれぞれ予測した前記評価用材料の品質特性の差を前記一部の画素の輝度の値を変化させてマッピングするマップ生成ステップと、を有してもよい。
【0014】
また、前記学習用特徴量、前記第1の評価用特徴量及び前記第2の評価用特徴量の抽出は、学習済みの畳み込みニューラルネットワークを用いて行うことが好ましい。
【0015】
また、前記第1の予測ステップと前記第2の予測ステップでそれぞれ予測した前記評価用材料の品質特性の差は、SHAP値であることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、製作した材料を撮像した画像に対して、前記材料の性能、すなわち品質特性を、例えば一つしか得ることができなくても、画像内における品質特性の分布を表すマップを生成することが可能となり、それらは、新材料の開発における有益な情報として、マテリアルズインフォマティクスにおいて極めて有用となる。
また、画像などの情報が少ない材料でも品質特性マップを描くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】電子顕微鏡の画像と生成した品質特性マップの例である。
【
図3】回帰モデルを学習する機械学習ステップの学習手順を示すフローチャートの例である。
【
図5】本発明おける、画像と矩形領域の関係を示す図の例である。
【
図6】マップ生成ステップの手順を示すフローチャートの例である。
【
図8】モンテカルロシミュレーションによる、ボロノイ図の画像生成の手順を示すフローチャートの例である。
【
図9】ボロノイ図が描画された画像と、それを入力として生成された品質特性マップの例である。
【
図10】モンテカルロシミュレーションによる、粒界構造の画像生成の手順を示すフローチャートの例である。
【
図11】線分と打点が描画された画像と、それを入力として生成された品質特性マップの例である。
【
図12】電子顕微鏡の画像と生成した品質特性マップの例である。
【
図13】マップ生成ステップの手順を示すフローチャートの例である。
【
図14】ボロノイ図が描画された画像と、それを入力して生成された品質特性マップの例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の品質特性マップの生成方法について、五つの実施形態を用いて詳細に説明する。第1の実施形態では、磁石の電子顕微鏡の画像から、前記磁石の品質特性として重要な磁束密度と保磁力の分布を表す品質特性マップを生成した例を説明する。第2、第3の実施形態では、本発明の方法の確からしさを検証するために実施したシミュレーションの例を説明する。第4の実施形態では、磁石の電子顕微鏡の画像から、磁束密度と保磁力の分布を示す品質特性マップを、分解能を向上させる方法で生成した例について説明する。そして、第5の実施形態では、第4の実施形態で用いた方法の確からしさを検証するために実施したシミュレーションの例を説明する。
【0019】
(第1の実施形態)
図1は、入力する電子顕微鏡の画像と、本実施形態に基づいて生成した品質特性マップの例である。入力画像10は、磁石の材料の一部を電子顕微鏡で撮像した画像であり、磁束密度マップ11、及び保磁力マップ12は、夫々、本発明を用いて生成した磁束密度のマップと保磁力のマップである。
磁束密度マップ11や保磁力マップ12の品質特性マップは、後述のとおり、生成時に用いる矩形領域のサイズに従って、画像の端部は生成することができない。
【0020】
生成した磁束密度マップ11と保磁力マップ12は、濃淡が濃い部位ほど予測した品質特性が高く、淡い部位ほど予測した品質特性が低いことを表している。
入力画像10の電子顕微鏡で撮像した画像と、磁束密度マップ11や保磁力マップ12の品質特性マップを視覚的に照らし合わせて、磁束密度が高く予測された部位は、どのような組織構造で、磁束密度が低く予測された部位は、どのような組織構造で、また、保磁力が高く予測された部位は、どのような組織構造で、保磁力が低く予測された部位は、どのような組織構造なのか、比較することができる。
【0021】
磁石は、入力画像10の濃淡の濃い部位が塊として面積が広いほど磁束密度が高くなることが知られており、磁束密度マップ11のマップにその現象が現れている。また、入力画像10の濃淡の淡い部位が込み入っているほど保磁力が高くなることも知られており、保磁力マップ12にその現象が現れている。
【0022】
なお磁束密度マップ11や保磁力マップ12の品質特性マップは、本実施形態では濃淡で図示したが、擬似カラーを用いると品質特性の大小関係がよりわかりやすくなる。
【0023】
図2は、材料リストの例である。材料リストには、材料番号、品質特性として測定された磁束密度と保磁力、さらに電子顕微鏡の画像ファイル名が記述されており、電子顕微鏡で撮像した材料の画像と、その画像に対する品質特性の対応付けに用いられる。
縦に各材料に対するデータが記述されている。この例では、一つの材料に対して、一つの磁束密度の測定結果、一つの保磁力の測定結果、一つの画像が管理されている。
【0024】
本実施形態における回帰モデルを学習する機械学習ステップは、複数の学習用材料を撮像して得られた学習用画像群と、学習用画像群の夫々の学習用画像における学習用材料の品質特性とを対応付けて読み込み、読み込んだ学習用画像から複数の学習用矩形領域を切り出して、切り出した学習用矩形領域を用いて学習用特徴量を抽出し、その学習用特徴量から学習用材料の品質特性を予測する回帰モデルを学習することである。
【0025】
図3は、本実施形態における回帰モデルを学習する機械学習ステップの学習手順を示すフローチャートの例である。
【0026】
段階101では、インターネット上に公開されている学習済みの畳み込みニューラルネットワーク(CNN)の特徴量抽出器を読み込む。
この特徴量抽出器は、本発明の対象である磁石やセラミクスなどの画像を解析するために学習したものではなく、動物や植物などを識別したり、自動車、歩行者などを識別したりするために学習されたものである。例えば、統計解析の分野で顕著なR言語では、深層学習用ライブラリKerasに組み込まれている関数application_vgg16を実行することで、この特徴量抽出器を読み込むことができる。
段階102では、
図2に示した材料リストを読み込む。
【0027】
段階103から段階111の間は、前記材料リストの行数分、すなわち画像の枚数分、ループで繰り返す。
段階104では、電子顕微鏡で撮像した画像ファイルを読み込む。
段階105から段階110の間、段階106から段階109の間は、読み込んだ画像に対して、学習用矩形領域(以下、矩形領域と略す。)の中心のX座標とY座標を動かしながら処理する。
段階107ではX座標、Y座標に基づいて矩形領域のデータを切り出し、段階108では、 段階101で読み込んだ学習済みの畳み込みニューラルネットワークの特徴量抽出器を用いて、切り出した矩形領域に対する学習用特徴量(以下、特徴量と略す。)を抽出する。
【0028】
段階112では、特徴量の種類を削減する。学習済みの畳み込みニューラルネットワークの特徴量抽出器を用いて特徴量を抽出する場合、必ずしも有効な特徴量だけが抽出されるわけではない。切り出す矩形領域のサイズが、256画素×256画素×3層(RGB)の場合、32768種類の特徴量が抽出される。しかし、特徴量の種類によっては、値としてゼロしか入っていない場合も多数あるため、例えば、特徴量の値としてゼロが入っている矩形領域が、全矩形領域に対して90%以上であるような特徴量は削除する。
【0029】
段階113では、磁束密度を予測するための回帰モデルを学習する。また段階114では、保磁力を予測するための回帰モデルを学習する。
【0030】
段階113、段階114ともに回帰モデルとして、重回帰分析、ランダムフォレスト、サポートベクターマシンなどのいずれの回帰系の機械学習方式でも適用できる。
これらの機械学習方式は、ニューラルネットワークよりも少ない材料の数でも学習できる利点がある。
重回帰分析は入力する特徴量の種類の数に制限があるため、主成分分析で事前に次元を削減するとよい。
かかる観点からは、ランダムフォレストが使いやすい。
【0031】
すなわち、画像を入力し、畳み込みニューラルネットワークを経由して、ランダムフォレストで品質特性、すなわち、ここでは磁束密度や保磁力を予測する回帰モデルを生成する。
【0032】
図4は、段階112の完了後の特徴量データの例である。この特徴量データは、一つの材料番号に対して、複数のX座標とY座標の対301が付いている。品質特性302は、同じ材料番号であれば、項目ごとに同じ値が付いている。特徴量303は、特徴量の種類の数だけ、列が並んでいる。
【0033】
学習済みの畳み込みニューラルネットワークの特徴量抽出器は、F1からF3268まで、32768種類の特徴量を抽出するが、特徴量の値としてゼロが入っている矩形領域が、全矩形領域に対して90%以上であるような特徴量を削除した結果、この例で示すように、F28、F56など数百種類の特徴量に削減される。
【0034】
図5は、入力する画像、矩形領域、座標の関係を説明する図である。
段階104で読み込む画像に対して、横方向にX座標、縦方向にY座標をとり、左上部を原点とした画素数に応じて座標が定まる。同図のように横に2560画素、縦に1920画素の画像であれば、X座標は1から2560、Y座標は1から1920まである。
矩形領域13は、画像の一部分を切り出した画像の小片である。
【0035】
例えば、図示した矩形領域13は、中心の座標がX=2304、Y=256で、横に256画素、縦に256画素の領域である。
矩形領域13のサイズは、横に256画素、縦に256画素に限ったものではなく、画像のサイズや、画像に写り込んでいる組織のサイズなどに応じて自由に定めてよい。矩形領域13のサイズが小さいほど、生成される品質特性マップの分解能は高くなる。
しかし、矩形領域13のサイズが小さいと、品質特性の予測精度が低下し、生成された品質特性マップの信憑性が低下する。
そのため、品質特性の予測精度を確認し、妥当な矩形領域13のサイズを定めるとよい。
【0036】
本実施形態におけるマップ生成ステップは、少なくとも一つ以上の評価用材料の評価用画像を読み込み、読み込んだ評価用画像から複数の評価用矩形領域を切り出し、切り出した評価用矩形領域から評価用特徴量を抽出し、抽出した評価特徴量と回帰モデルによって、評価用矩形領域毎に、評価用材料の品質特性を予測し、予測した評価用材料の品質特性を用いて、評価用画像内における評価用材料の品質特性の分布をマッピングすることである。
【0037】
図6は、本実施形態におけるマップ生成ステップの手順を示すフローチャートの例である。
【0038】
段階201では、段階101と同じ学習済みの畳み込みニューラルネットワークの特徴量抽出器を読み込む。
段階202では、段階113で学習した磁束密度を予測するための回帰モデルを読み込む。
段階203では、段階114で学習した保磁力を予測するための回帰モデルを読み込む。
段階204では、品質特性マップを生成したい材料の画像を読み込む。
ここで読み込む画像は、回帰モデルの学習に用いた学習用材料の画像の一つでもよいし、学習に用いなかった別の材料の画像でもよい。
ただし、倍率やサイズなど画像の撮像条件は、回帰モデルの学習に用いた画像と同等である必要がある。
【0039】
段階205から段階212の間、段階206から段階211の間は、読み込んだ画像に対して、評価用矩形領域(以下、矩形領域と略す。)の中心のX座標とY座標を動かしながら処理する。
段階207では、X座標、Y座標に対する矩形領域を切り出す。
段階208では、矩形領域に対する評価用特徴量(以下、特徴量と略す。)を学習済みの畳み込みニューラルネットワークの特徴量抽出器を用いて抽出し、段階112で削減した特徴量の種類と同じものを削除する。
段階209では、矩形領域の磁束密度を予測する。
段階210では、矩形領域の保磁力を予測する。
【0040】
図7は、段階209と段階210で予測された品質特性データの例である。
X座標、Y座標の組み合わせ毎に、予測した磁束密度、予測した保磁力が列挙されている。
【0041】
ループが終了したら、段階213では、X座標、Y座標、予測した磁束密度を用いて、磁束密度マップを生成する。
段階214では、X座標、Y座標、予測した保磁力を用いて、保磁力マップを生成する。この例では、回帰モデルを学習するときと同じようにX座標とY座標を動かしたが、学習ではX座標、Y座標を粗く動かし、品質特性マップを生成するときには、学習の場合よりも細かく動かしてもよい。
細かく動かした方が、より分解能の高い品質特性マップを生成することができる。
【0042】
ここで、本発明におけるマッピングとは、上述のように予測された品質特性データから、品質特性の分布を画像化したものである。さらに、マッピングは、等高線図で画像化することが好ましく、その結果が、
図1で示した11の磁束密度マップや12の保磁力マップである。
【0043】
等高線図は、Python言語であれば、グラフ描画ライブラリのmatplotlibやseaborn、R言語であれば、基本関数のcontour、ないしはグラフ描画ライブラリのggplot2を用いれば容易に描くことができる。
ただし、それらを使うことができない場合には、例えば、品質特性データに対して、滑らかなBスプライン曲面を近似して、画像化してもよい。
さらに単純に、品質特性データのX座標、Y座標で散布図を描き、予測した磁束密度や予測した保磁力で各打点に色付けするだけでもよい。
また、マッピングは、2次元表示だけでなく、3次元表示で画像化しても良い。
【0044】
(第2の実施形態)
次に、本実施形態の方法で生成する品質特性マップの確からしさを検証するために、モンテカルロシミュレーションで、磁石の組織構造と類似したボロノイ図を描いた画像を生成し、その画像を入力して品質特性マップを生成した。
【0045】
図8は、モンテカルロシミュレーションによる、ボロノイ図の画像生成の手順を示すフローチャートである。ここでは256画素×256画素の正方形の画像を生成する例を説明する。
【0046】
段階401から段階408の間は、組織の個数を変数として繰り返す。
例えば、変数Nが40のとき、一つの画像内に40個の組織を生成する。
すなわち、組織の平均の面積は、画像サイズの40分の1となる。
段階402から段階407の間は、組織の個数が等しい画像を20枚生成するために20回繰り返す。
段階403では、変数Nに基づき、N個のランダムなX,Y座標を生成する。X座標として1から256までの整数をランダムに発生させる。また、Y座標も1から256までの整数をランダムに発生させる。
段階404では、N個のランダムな座標からボロノイ図の頂点群を計算する。
段階405では計算された頂点群を線分で結びボロノイ図を描画する。
段階406でボロノイ図が描画された画像を保存する。このフローチャートの処理を実行することで、異なる組織構造の画像を100枚生成できる。
【0047】
図9は、ボロノイ図が描画された画像と、それを入力として、生成された品質特性マップの例を示す。
ボロノイ図画像421は、段階406で保存されたボロノイ図が描画された256画素×256画素の画像の例である。品質特性マップ422は、ボロノイ図画像421の画像を入力して、生成された品質特性マップである。
回帰モデルは、目的変数を組織の平均の面積として生成した。
【0048】
この結果、画像毎に組織の平均の面積で回帰モデルを生成しても、品質特性マップ422のように、組織の面積が広い部位は、濃淡が濃く、組織の面積が小さい部位は、濃淡が淡く描かれている。
たとえば、ボロノイ図画像421の画像の右上端のように面積の広い組織があると、それに対応するように、品質特性マップ422の右上端は、濃淡が濃く描かれている。
一方、ボロノイ図画像421の画像の右下端のように面積の狭い組織が密集している部位は、それに対応するように、品質特性マップ422の右下端は、濃淡が淡く描かれている。
従って、本発明を用いて生成された品質特性マップ422は、ボロノイ図画像421の面積に関する特徴をよく表していることが分かる。
【0049】
(第3の実施形態)
次に、本実施形態の方法で生成する品質特性マップの確からしさを別の対象で検証するために、モンテカルロシミュレーションでセラミクスの粒界構造と類似した図を描いた画像を生成し、その画像を入力して品質特性マップを生成した。
【0050】
セラミクスの粒界構造として、小さな打点がランダムに散りばめられたような画像が撮像される。
しかし、焼結条件によって、直線状に異常成長する粒体が発生し、それが曲げ強度を低下させる。 そこで、ランダムな打点とランダムな線分を混ぜ合わせた画像を生成して、線分の総長を予測する回帰モデルを生成して検証した。
【0051】
図10は、モンテカルロシミュレーションによる、粒界構造の画像生成の手順を示すフローチャートである。ここでは256画素×256画素の正方形の画像を生成する例を説明する。
【0052】
段階501から段階507の間は、生成する画像数分だけ繰り返す。
段階502では、50組のランダムなXY座標の対を生成する。すなわち座標(X1,Y1)と座標(X2,Y2)を生成し、それらを結ぶ線分を異常成長した粒体とする。ただし、あまりに長い異常成長は存在しない。
そこで、段階503でそれぞれの線分の長さを計算し、段階504では、50個の線分を整列し、短い方から10個だけを選び出して、10本の線分を描画する。
段階505では、200個のランダムな打点を描画する。
段階506では、線分と打点が描画された画像を保存する。
【0053】
図11は、線分と打点が描画された画像と、それを入力として、生成された品質特性マップの例を示す。
擬セラミクス粒界構造画像521は、段階506で保存された線分と打点が描画された256画素×256画素の画像の例である。
品質特性マップ522は、擬セラミクス粒界構造画像521の画像を入力して、生成された品質特性マップである。
回帰モデルは、目的変数を複数の線分の総長として生成した。
【0054】
この結果、複数の線分の総長として回帰モデルを生成しているにもかかわらず、長い線分が存在している部位や、複数の線分が密集している部位で、品質特性マップ522の濃淡が濃く描かれていることが確認できる。
従って、本実施形態を用いて生成された品質特性マップ522は、擬セラミクス粒界構造画像521に関する特徴をよく表していることが分かる。
【0055】
(第4の実施形態)
図12は、入力する電子顕微鏡の画像と、本実施形態に基づいて生成した品質特性マップの例である。入力画像15は、磁石の材料の一部を電子顕微鏡で撮像した画像であり、磁束密度マップ16、及び保磁力マップ17は、夫々、本発明を用いて生成した磁束密度のマップと保磁力のマップである。
磁束密度マップ16や保磁力マップ17の品質特性マップは、磁束密度マップ11や保磁力マップ12よりも分解能が高く、画像の端部も生成できる点で、磁束密度マップ11や保磁力マップ12と異なる。
【0056】
生成した磁束密度マップ16と保磁力マップ17は、濃淡が薄い部位ほど品質特性を高める作用のある組織、濃淡が濃い部位ほど品質特性を下げる作用のある組織であることを表している。
入力画像15の電子顕微鏡で撮像した画像と、磁束密度マップ16や保磁力マップ17の品質特性マップを視覚的に照らし合わせて、磁束密度を高くする作用がある部位は、どのような組織構造で、磁束密度を低くする作用がある部位は、どのような組織構造で、また、保磁力を高くする作用がある部位は、どのような組織構造で、保磁力を低くする作用がある部位は、どのような組織構造なのか、比較することができる。
【0057】
磁石は、入力画像15の濃淡の濃い部位、すなわち粒子部が塊として面積が広いほど磁束密度が高くなることが知られている。磁束密度マップ16は、面積が広い粒子部の端部に磁束密度を高める作用があることが現れている。特に、粒子部の左端と右端に磁束密度を高める作用があり、濃淡が淡くなっている。一方、粒子部の端部でも、上端と下端は濃淡が濃くなっていることがわかる。これは、電子顕微鏡画像15の磁化容易軸の向きが左右になっていることを現わしている。また、入力画像15の濃淡の淡い部位、すわなち、粒界部ほど保磁力が高くなることも知られている。保磁力マップ17にはその現象が現れている。これらの品質特性マップから、縦に長めの粒子部を形成できれば、磁束密度と保磁力の両方を高めることができることがわかる。
【0058】
なお磁束密度マップ16や保磁力マップ17の品質特性マップは、本実施形態では濃淡で図示したが、擬似カラーを用いると品質特性の大小関係がよりわかりやすくなる。例えば、品質特性を上げる作用がある部分は赤く色づけ、品質特性を下げる作業がある部分は青く色づけるとわかりやすい。
【0059】
磁束密度マップ16や保磁力マップ17を生成する手順において、機械学習ステップは、磁束密度マップ11や保磁力マップ12を生成するために例示した
図3のフローチャートと同じである。一方、マップ生成ステップは若干異なる。
【0060】
図13は、本実施形態におけるマップ生成ステップの手順を示すフローチャートの例である。
なお、以下に示される段階113や段階114については、
図3のフローチャートを参照する。
段階201では、学習済みの畳み込みニューラルネットワークの特徴量抽出器を読み込む。
段階202では、段階113で学習した磁束密度を予測するための回帰モデルを読み込む。
段階203では、段階114で学習した保磁力を予測するための回帰モデルを読み込む。
段階204では、品質特性マップを生成したい材料の画像を読み込む。
ここで読み込む画像は、回帰モデルの学習に用いた学習用材料の画像の一つでもよいし、学習に用いなかった別の材料の画像でもよい。
ただし、倍率やサイズなど画像の撮像条件は、回帰モデルの学習に用いた画像と同等である必要がある。
【0061】
段階205から段階212の間、段階206から段階211の間は、読み込んだ画像に対して、評価用矩形領域(以下、矩形領域と略す。)の中心のX座標とY座標を動かしながら処理する。
段階207では、X座標、Y座標に対する矩形領域を切り出す。
段階208では、矩形領域に対する第1の評価用特徴量(以下、特徴量1と略す。)を学習済みの畳み込みニューラルネットワークの特徴量抽出器を用いて抽出し、段階112で削減した特徴量の種類と同じものを削除する。
【0062】
また、矩形領域の一部の画素の輝度の値を任意の値に置換し、矩形領域に対する第2の評価用特徴量(以下、特徴量2と略す。)を学習済みの畳み込みニューラルネットワークの特徴量抽出器を用いて抽出し、段階112で削減した特徴量の種類と同じものを削除する。
【0063】
次に、特徴量1と、段階113や段階114で学習した回帰モデルによって、矩形領域毎に、評価用材料の品質特性を予測し(第1の予測ステップ)、同様に、特徴量2についても回帰モデルによって、矩形領域毎に、評価用材料の品質特性を予測する(第2の予測ステップ)。更に、第1の予測ステップと第2の予測ステップでそれぞれ予測した評価用材料の品質特性の差を一部の画素の輝度の値を変化させてマッピングする(マップ生成ステップ)。
【0064】
ここで、第1の予測ステップと第2の予測ステップでそれぞれ予測した評価用材料の品質特性の差は、例えば、段階113や段階114で学習した回帰モデルを用いて算出できるSHAP値に相当する値である。
【0065】
なお、SHAP値はXAI(Explainable AI)において算出される数値の一例であり、LIME(Local Interpretable Model-agnostic Explanations)などのXAIを用いて、予測ステップ1と予測ステップ2でそれぞれ予測した評価用材料の品質特性の差を算出してもよい。
【0066】
そこで、本実施形態における段階231では、段階202で読み込んだ磁束密度を予測するための回帰モデルを用いて矩形領域の磁束密度のSHAP値の行列を算出する。SHAP値は256×256画素の矩形領域であれば、同様に256×256個のSHAP値が算出される。すなわち、画素毎にSHAP値が算出されるため、分解能の高い品質特性マップを生成できる。
段階232では、段階203で読み込んだ保磁力を予測するための回帰モデルを用いて矩形領域の保磁力のSHAP値の行列を算出する。
【0067】
ループが終了したら、段階233では、X座標、Y座標、算出したSHAP値の行列を用いて、磁束密度マップを生成する。
段階234では、X座標、Y座標、算出したSHAP値の行列を用いて、保磁力マップを生成する。
【0068】
(第5の実施形態)
次に、本実施形態の方法で生成する品質特性マップの確からしさを検証するために、モンテカルロシミュレーションで、磁石の組織構造と類似したボロノイ図を描いた画像を生成し、その画像を入力して品質特性マップを生成した。モンテカルロシミュレーションによるボロノイ図の画像生成の手順は、
図8と同じである。
【0069】
図14は、ボロノイ図が描画された画像と、それを入力として、第4の実施形態を用いて生成された品質特性マップの例を示す。
ボロノイ図画像431は、段階406で保存されたボロノイ図が描画された256画素×256画素の画像の例である。品質特性マップ432は、ボロノイ図画像431の画像を入力して、生成された品質特性マップである。回帰モデルは、目的変数を組織の平均の面積として生成した。
【0070】
この結果、画像毎に組織の平均の面積で回帰モデルを生成しても、品質特性マップ432のように、組織の面積が広い部位は、濃淡が濃く、組織の面積が小さい部位は、濃淡が淡く描かれている。特に、組織の面積が小さい部位の粒界部は、濃淡がほぼ白となった。
従って、本実施形態における品質特性マップ432は、ボロノイ図画像431の面積に関する特徴をよく表していることが分かる。
【0071】
本発明は、電子顕微鏡に限らず、いかなる画像撮像装置にも適用できる。
また、本発明は、画像撮像装置の原理、組成情報、組織構造などの知識を必要としない。
さらに、実験で製作した材料を撮像した画像に対して、その性能、すなわち品質特性が一つしか得られない場合でも、画像内の品質特性の分布を表すマップを生成できる。
【0072】
その結果、生成されたマップから、性能の良い部位と悪い部位を比較することができる。たとえば、セラミクスの強度のような品質特性には、粒界構造の異常成長が最も影響することがわかっている。
しかし、粒界構造の異常成長以外にも強度に影響を与える要因が潜んでいる。
【0073】
本発明は、そのような材料に対しても、材料を撮像して得た画像から、品質特性の分布、すなわち強度分布のマップを生成でき、強度の強い部位と弱い部位を比較することができる。その結果、新材料の開発者が想定していない現象に対して、気づきを与えることができる。
【0074】
また、本発明は、特許文献2の方法のように、多数の材料、それらの画像、それらの品質特性を測定しておかなくても活用できる。
【0075】
以上、本発明について、上記実施形態を用いて説明してきたが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。特許請求の範囲に含まれる技術範囲にて、内容を変更することができる。
例えば、上記実施形態では、磁石の磁束密度と保磁力という品質特性をマッピングしたが、セラミクスの熱伝導率と曲げ強度の品質特性をマッピングすることに用いることも可能である。
【符号の説明】
【0076】
10 入力画像
11 磁束密度マップ
12 保磁力マップ
13 矩形領域
421 ボロノイ図画像
422 品質特性マップ
521 擬セラミクス粒界構造画像
522 品質特性マップ
15 入力画像
16 磁束密度マップ
17 保磁力マップ
431 ボロノイ図画像
432 品質特性マップ