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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】アモルファス合金薄帯の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 1/153 20060101AFI20240903BHJP
   C21D 8/12 20060101ALI20240903BHJP
   C22C 45/02 20060101ALN20240903BHJP
【FI】
H01F1/153 141
H01F1/153 108
C21D8/12 H
C22C45/02 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020197912
(22)【出願日】2020-11-30
(65)【公開番号】P2022086091
(43)【公開日】2022-06-09
【審査請求日】2023-10-12
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】板垣 肇
(72)【発明者】
【氏名】野口 敦弘
(72)【発明者】
【氏名】黒木 守文
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 淳
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/099219(WO,A1)
【文献】特開昭61-258404(JP,A)
【文献】特開昭57-097606(JP,A)
【文献】特開昭60-233804(JP,A)
【文献】特開昭61-029103(JP,A)
【文献】特公平05-032881(JP,B2)
【文献】中国特許出願公開第101509053(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第1644714(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/153、27/245-27/25、41/02
B23K 26/00-26/70
C21D 1/34、6/00、8/12、9/46
C22C 38/00、45/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe基アモルファス合金からなるアモルファス合金薄帯を走行させながら、前記アモルファス合金薄帯にレーザを照射し、前記アモルファス合金薄帯にレーザ照射痕を形成するアモルファス合金薄帯の製造方法であって、
前記レーザ照射痕は、前記アモルファス合金薄帯の幅方向に向かって形成された線状痕であり、前記線状痕が前記アモルファス合金薄帯の長手方向に間隔を開けて複数形成され、
前記アモルファス合金薄帯の走行速度をS1m/secとし、前記レーザの走査速度をS2m/secとしたとき、前記S1が1m/sec以上30m/sec以下であり、前記S2が3m/sec以上800m/sec以下であり、S2/S1が3.0以上である、アモルファス合金薄帯の製造方法。
【請求項2】
前記レーザの走査方向と、前記アモルファス合金薄帯の走行方向に直交する方向と、の角度差が30度以下である、請求項1に記載のアモルファス合金薄帯の製造方法。
【請求項3】
前記レーザが出力されるレンズから、前記アモルファス合金薄帯の表面までの距離が200mm~1200mmである、請求項1または請求項2に記載のアモルファス合金薄帯の製造方法。
【請求項4】
前記レーザがCW(連続波)発信方式によるレーザである、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のアモルファス合金薄帯の製造方法。
【請求項5】
前記CW(連続波)発信方式によるレーザのレーザ密度が5J/m以上35J/m以下である、請求項4に記載のアモルファス合金薄帯の製造方法。
【請求項6】
前記レーザがパルスレーザである、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載のアモルファス合金薄帯の製造方法。
【請求項7】
前記パルスレーザのレーザ出力が0.4mJ~2.5mJである、請求項6に記載のアモルファス合金薄帯の製造方法。
【請求項8】
前記アモルファス合金薄帯は、幅が30mm~300mmであり、厚さが18μm~35μmである、請求項1~請求項7のいずれか1項に記載のアモルファス合金薄帯の製造方法。
【請求項9】
前記線状痕の前記アモルファス合金薄帯の長手方向の間隔が2mm~200mmである、請求項1~請求項8のいずれか1項に記載のアモルファス合金薄帯の製造方法。
【請求項10】
前記アモルファス合金薄帯にレーザが照射される位置の前後に、前記アモルファス合金薄帯の振れを抑制する機構を備える、請求項1~請求項9のいずれか1項に記載のアモルファス合金薄帯の製造方法。
【請求項11】
前記アモルファス合金薄帯の振れを抑制する機構は、複数のロールを用いて前記アモルファス合金薄帯の走行位置を調整する機構である、請求項10に記載のアモルファス合金薄帯の製造方法。
【請求項12】
アモルファス合金薄帯保持スプールから巻き出された前記アモルファス合金薄帯を走行させながら、前記アモルファス合金薄帯にレーザを照射する、請求項1~請求項11のいずれか1項に記載のアモルファス合金薄帯の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、アモルファス合金薄帯の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アモルファス合金薄帯は、例えば、変圧器の鉄心材料として、その普及が進みつつある。
【0003】
アモルファス合金薄帯の異常渦電流損失を低減する方法として、アモルファス合金薄帯の表面を機械的にスクラッチする方法、アモルファス合金薄帯の表面にレーザ光を照射することにより局部的に溶解・急冷凝固させて磁区を細分化するレーザスクライビング法等が知られている。
レーザスクライビング法として、例えば特公平3-32886号公報には、パルスレーザを非晶質合金薄帯の幅方向に照射することにより、非晶質合金薄帯の表面を局部的かつ瞬間的に溶解し、次いで急冷凝固させてアモルファス化させたスポットを点列状に形成することにより磁区を細分化する方法が開示されている。
特開昭61-258404号公報には、非晶質合金薄帯の表面温度が300℃以上にある間にレーザ光を非晶質合金薄帯の幅方向に掃引しながら照射することが開示されている。この特許文献には、冷却ロールの表面で急冷凝固した非晶質合金薄帯が冷却ロールと接触した状態にある間に、YAGパルスレーザ装置を用い、薄帯の自由面にレーザビームを照射する実施例が開示されている。このとき、冷却ロールの周速は10m/secであり、レーザビームの照射の条件はレーザパワー200W、周波数20kHz、ビーム径0.15mm、掃引速度25m/secである。
特開昭61-29103号公報には、非晶質合金薄帯の表面を局部的かつ瞬間的に溶解し、次いで急冷凝固させて再び非晶質化した後、該薄帯を焼鈍することを特徴とする非晶質合金薄帯の磁性改善方法が開示されている。また、非晶質合金薄帯の自由面にYAGレーザを照射して局所溶解部を導入する際の条件として、レーザの照射条件は周波数400Hz、ビ-ム径0.2mmφ、出力5w、ライン速度2cm/sec、ビーム掃引速度10cm/secの記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特公平3-32886号公報
【文献】特開昭61-258404号公報
【文献】特開昭61-29103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、アモルファス合金薄帯にレーザを照射し、鉄損を改善する試みは行われていた。アモルファス合金薄帯は、例えば、電力トランス、高周波トランスなどの電力変換器の鉄心として用いられる。この電力トランスや、高周波トランス用のアモルファス合金薄帯は、性能が高いことが求められる。しかしながら、単に性能が高いことのみでは、市場で広く受け入れられることにはならない。市場で広く受け入れられるためには、生産性が高く、コストが過大とならないことが必要である。ここで、性能が高いとは、例えば、鉄損が低い、保磁力が低い、励磁電力が低いということである。
上記のとおり、アモルファス合金薄帯にレーザを照射して、鉄損が改善されることは知られている。しかしながら、レーザ照射されたアモルファス合金薄帯が市場で広く利用されている状況とはなっていない。このことは、市場で受け入れられるような生産性が伴っていないからであると考えられる。
そこで、本開示は、レーザ照射を効率よく行うことができ、生産性の高いアモルファス合金薄帯の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための具体的手段には、以下の態様が含まれる。
<1> アモルファス合金薄帯を走行させながら、前記アモルファス合金薄帯にレーザを照射し、前記アモルファス合金薄帯にレーザ照射痕を形成するアモルファス合金薄帯の製造方法であって、
前記レーザ照射痕は、前記アモルファス合金薄帯の幅方向に向かって形成された線状痕であり、前記線状痕が前記アモルファス合金薄帯の長手方向に間隔を開けて複数形成され、
前記アモルファス合金薄帯の走行速度をS1m/secとし、前記レーザの走査速度をS2m/secとしたとき、前記S1が0.1m/sec以上30m/sec以下であり、前記S2が1m/sec以上800m/sec以下であり、S2/S1が3.0以上である、アモルファス合金薄帯の製造方法。
<2> 前記レーザの走査方向と、前記アモルファス合金薄帯の走行方向に直交する方向と、の角度差が30度以下である、<1>に記載のアモルファス合金薄帯の製造方法。
<3> 前記レーザが出力されるレンズから、前記アモルファス合金薄帯の表面までの距離が200mm~1200mmである、<1>または<2>に記載のアモルファス合金薄帯の製造方法。
【0007】
<4> 前記レーザがCW(連続波)発信方式によるレーザである、<1>~<3>のいずれか1項に記載のアモルファス合金薄帯の製造方法。
<5> 前記CW(連続波)発信方式によるレーザのレーザ密度が5J/m以上35J/m以下である、<4>に記載のアモルファス合金薄帯の製造方法。
【0008】
<6> 前記レーザがパルスレーザである、<1>~<3>のいずれか1項に記載のアモルファス合金薄帯の製造方法。
<7> 前記パルスレーザのレーザ出力が0.4mJ~2.5mJである、<6>に記載のアモルファス合金薄帯の製造方法。
【0009】
<8> 前記アモルファス合金薄帯は、幅が30mm~300mmであり、厚さが18μm~35μmである、<1>~<7>のいずれか1項に記載のアモルファス合金薄帯の製造方法。
<9> 前記線状痕の前記アモルファス合金薄帯の長手方向の間隔が2mm~200mmである、<1>~<8>のいずれか1項に記載のアモルファス合金薄帯の製造方法。
<10> 前記アモルファス合金薄帯にレーザが照射される位置の前後に、前記アモルファス合金薄帯の振れを抑制する機構を備える、<1>~<9>のいずれか1項に記載のアモルファス合金薄帯の製造方法。
<11> 前記アモルファス合金薄帯の振れを抑制する機構は、複数のロールを用いて前記アモルファス合金薄帯の走行位置を調整する機構である、<10>に記載のアモルファス合金薄帯の製造方法。
<12> アモルファス合金薄帯保持スプールから巻き出された前記アモルファス合金薄帯を走行させながら、前記アモルファス合金薄帯にレーザを照射する、<1>~<11>のいずれか1項に記載のアモルファス合金薄帯の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、レーザ照射を効率よく行うことができ、生産性の高いアモルファス合金薄帯の製造方法を提供することができる。また、性能が高いアモルファス合金薄帯を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本開示の一実施形態のアモルファス合金薄帯の製造方法を示す図である。
図2】本開示により得られたアモルファス合金薄帯の一例を示す図である。
図3】本開示のアモルファス合金薄帯の走行方向と、レーザの走査方向との関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について詳細に説明する。本開示は、以下の実施形態に何ら制限されず、本開示の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0013】
本開示の実施形態について図面を参照して説明する場合、図面において重複する構成要素、及び符号については、説明を省略することがある。図面において同一の符号を用いて示す構成要素は、同一の構成要素であることを意味する。図面における寸法の比率は、必ずしも実際の寸法の比率を表すものではない。
【0014】
本開示において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ下限値及び上限値として含む範囲を示す。本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0015】
本開示の一実施形態にかかるアモルファス合金薄帯の製造方法について、図1を用いて説明する。
図1に示す本開示の一実施形態のアモルファス合金薄帯の製造方法は、アモルファス合金薄帯が巻かれて保持されているアモルファス合金薄帯保持スプール1からアモルファス合金薄帯2を巻き出し、アモルファス合金薄帯2を矢印Aで示す方向に走行させる。
アモルファス合金薄帯が走行する経路に、レーザ照射装置3が備えられている。レーザ照射装置3は、アモルファス合金薄帯にレーザ4を照射する。レーザが照射され、レーザ照射痕が形成されたアモルファス合金薄帯2は矢印Aで示す方向に走行する。なお、レーザ照射痕とは、レーザが照射された痕跡のことである。
【0016】
アモルファス合金薄帯にレーザ照射痕を形成する場合、アモルファス合金薄帯を走行させながら、レーザを照射することが生産性を向上させる上で好ましい。
生産性を向上させるために、アモルファス合金薄帯の走行速度は0.1m/sec以上とする。好ましくは、1m/sec以上であり、より好ましくは2m/sec以上である。
アモルファス合金薄帯の走行速度が速くなりすぎると、レーザ照射を安定して行うことが困難となり、レーザ照射痕の形態が乱れてしまう。そのため、アモルファス合金薄帯の走行速度は30m/sec以下とする。好ましくは、20m/sec以下であり、より好ましくは10m/sec未満であり、更に好ましくは9m/sec以下である。
【0017】
走行するアモルファス合金薄帯にレーザを照射して、目的とするレーザ照射痕を形成するため、並びにレーザ出力の安定性からレーザの走査速度は1m/sec以上とする。好ましくは、2m/sec以上であり、より好ましくは3m/sec以上である。更に、10m/sec以上としても良いし、35m/sec以上としても良い。また、レーザの走査速度が800m/sec超となると、走行するアルファス合金薄帯にレーザ照射を安定して行うことが困難となり、レーザ照射痕の形態が乱れてしまう。そのため、レーザの走査速度は800m/sec以下とする。好ましくは、500m/sec以下であり、より好ましくは300m/sec以下である。
【0018】
アモルファス合金薄帯の走行速度に対し、レーザの走査速度が遅すぎたり、速すぎたりすると、レーザ照射が不安定となり、レーザ照射痕を安定して形成することが困難となり、生産性を保ちつつ、目的とするレーザ照射痕を形成することが困難となる。このため、アモルファス合金薄帯の走行速度をS1m/secとし、レーザの走査速度をS2m/secとしたとき、S2/S1を3.0以上とする。好ましくは、5.0以上であり、より好ましくは、7以上であり、更に好ましくは、10以上である。また、好ましくは、300以下であり、より好ましくは100以下である。
【0019】
レーザ照射装置3のレーザが出力されるレンズから、レーザ照射されるアモルファス合金薄帯2の表面までの距離を200mm~1200mmとすることが好ましい。これにより、走行するアモルファス合金薄帯2に、目的とするレーザ照射痕を形成することができる。この距離が200mm未満であると、レーザ焦点深度が浅く、レーザ焦点が合わないため、安定したレーザ照射ができない。また、この距離が1200mm超であると、レーザビーム径が広くなり、目的とするレーザ照射痕が得られない。より好ましくは、250mm以上であり、更に好ましくは、260mm以上であり、更に好ましくは、270mm以上であり、更に好ましくは、300mm以上である。また、より好ましくは、1000mm以下であり、更に好ましくは、800mm以下である。
このレーザ照射装置3のレーザが出力されるレンズから、レーザ照射されるアモルファス合金薄帯2の表面までの距離を、図1のBで示す。
【0020】
本開示の一実施形態のアモルファス合金薄帯の製造方法では、複数のロール6~9を介して、アモルファス合金薄帯2が搬送される。このロールにより、アモルファス合金薄帯2を目的とする位置へ走行させることができる。そのため、目的とする位置によって、ロールの配置、数を調整することができる。
また、レーザ照射痕が形成されたアモルファス合金薄帯は、図1には記載がないが、切断したり、打抜いたりして薄帯片としても良いし、スプールに巻いて、アモルファス合金薄帯が巻かれたアモルファス合金薄帯保持スプールとしても良い。
【0021】
ここで、ロール7、8は、レーザ照射されるときのアモルファス合金薄帯2の振れを抑制する機構として機能する。そのため、ロール7、8と、アモルファス合金薄帯2のレーザ照射される位置との距離(アモルファス合金薄帯2のレーザ照射される位置と、アモルファス合金薄帯2がロール7またはロール8と接触する位置と、の距離)は、離れ過ぎないことがよい。例えば、200mm以内とすることが好ましい。
【0022】
本開示のレーザ照射痕は、アモルファス合金薄帯の幅方向に向かって形成された線状痕であり、線状痕は、アモルファス合金薄帯の長手方向に間隔を開けて複数形成される。この線状痕は、パルスレーザを用いて形成された点列状であったり、CW(連続波)発振方式のレーザを用いて形成された線状であったりすることができる。
【0023】
複数の線状痕のアモルファス合金薄帯の長手方向の間隔(以下、ライン間隔とも言う)が2mm~200mmであることが好ましい。ライン間隔は、隣り合う線状痕間の最短部分の長さとすることができる。ライン間隔は、より好ましくは3.5mm以上であり、更に好ましくは5mm以上であり、更に好ましくは10mm以上であり、更に好ましくは15mm以上である。また、より好ましくは100mm以下であり、更に好ましくは80mm以下であり、更に好ましくは60mm以下である。更に50mm以下、40mm以下、30mm以下と狭くすることができる。
【0024】
レーザ照射痕を形成するレーザは、パルスレーザもしくはCW(連続波)発振方式のレーザを用いることが好ましい。
パルスレーザを用いる場合、例えば、国際公開第2019/189813号に開示されたレーザ照射痕の形態を利用できる。
【0025】
パルスレーザを用いる場合、レーザ照射痕は、アモルファス合金薄帯の幅方向に向かって、点状のレーザ照射痕が間隔を開けて連なった点列状の線状痕が形成される。そして、この点列状の線状痕が、アモルファス合金薄帯の走行方向において、間隔を開けて形成される。
この点状のレーザ照射痕の間隔(スポット間隔とする)は、0.10mm~0.50mmであることが好ましい。このような間隔を開けて形成することにより、鉄損を低減すること、並びに、励磁電力の増大を抑制することが期待できる。特に、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件で測定される鉄損、並びに励磁電力の低減に効果がある。
【0026】
また、アモルファス合金薄帯の走行方向における点列状の線状痕の間隔(ライン間隔とする)は、10mm~60mmであることが好ましい。
また、ライン間隔をd1(mm)とし、スポット間隔をd2(mm)とし、点状のレーザ照射痕の数密度DをD=(1/d1)×(1/d2)としたとき、数密度Dが、0.05個/mm~0.50個/mmであることが好ましい。
このライン間隔、数密度にすることにより、アモルファス合金薄帯の鉄損を低減すること、並びに、励磁電力の増大を抑制することが期待できる。特に、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件で測定される鉄損、並びに励磁電力の低減に効果がある。
【0027】
パルスレーザのレーザ出力は0.4mJ~2.5mJであることが好ましい。
【0028】
また、CW(連続波)発振方式のレーザ(以下、CWレーザともいう)を用いる場合、レーザ照射痕は、アモルファス合金薄帯の幅方向に向かって、連続した線状の線状痕となる。なお、線状痕は、断続的な線状となっていてもよい。
【0029】
このCWレーザによる線状痕は、レーザが照射された痕跡であり、表面に凹凸が形成される。この凹凸をアモルファス合金薄帯の走行方向に評価したとき、アモルファス合金薄帯の厚さ方向における最高点と最低点との差HLが0.20μm~2.0μmであることが好ましい。
【0030】
また、線状痕の最高点と最低点との差HLと、線状痕の線幅WLとから算出されるHL×WLが6~180μmであることが好ましい。ここで、線状痕の線幅WLは、アモルファス合金薄帯の走行方向における線状痕の幅である。
また、線幅WLは28μm以上であることが好ましい。
【0031】
互いに隣り合う線状痕間の間隔をライン間隔とした場合に、ライン間隔は2mm~200mmであることが好ましい。このようにライン間隔を開けて形成することにより、鉄損を低減すること、並びに、励磁電力の増大を抑制することが期待できる。特に、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件で測定される鉄損、並びに励磁電力の低減に効果がある。
このライン間隔は、より好ましくは3.5mm以上であり、更に好ましくは5mm以上であり、更に好ましくは10mm以上であり、更に好ましくは15mm以上である。また、より好ましくは100mm以下であり、更に好ましくは80mm以下であり、更に好ましくは60mm以下である。更に50mm以下、40mm以下、30mm以下と狭くすることができる。
【0032】
CWレーザのレーザ密度は、5J/m以上35J/m以下であることが好ましい。より好ましくは6J/m以上であり、更に好ましくは7J/m以上であり、更に好ましくは8J/m以上であり、更に好ましくは10J/m以上である。また、より好ましくは31J/m以下であり、更に好ましくは30J/m以下であり、更に好ましくは28J/m以下であり、更に好ましくは25J/m以下である。レーザ密度はレーザ線密度ともいう。
【0033】
レーザ照射痕の形成にあたり、CWレーザを用いる場合、レーザ光源としては、YAGレーザ、COガスレーザ、ファイバーレーザ、ダイオードレーザなどを利用することができる。中でも、高品位のレーザ光を長時間に亘り安定的に照射することができる点で、ファイバーレーザが好ましい。シングルモードファイバーレーザの場合、ビーム品質をあらわすM(エムスクエア)はおおむね1.3以下である。ファイバーレーザでは、ファイバーに導入されたレーザ光が、ファイバー両端の回折格子によりFBG(Fiber Bragg grating)の原理で発振する。レーザ光は、細長いファイバー中で励起されるので、結晶内部に生じる温度勾配によりビーム品質が低下する熱レンズ効果の問題がない。更に、ファイバーコアは、数ミクロンと細いので、レーザ光は高出力でもシングルモードで伝播可能であり、ビーム径が絞られ、高エネルギー密度のレーザ光が得られる。その上、焦点深度が深いので、幅広(例えば、薄帯の幅が300mm以上)の薄帯にも精度良くレーザ照射痕を形成できる。
【0034】
CWレーザを用いる場合、レーザ光の波長は、レーザ光源により、約250nm~10600nmであるが、900~1100nmの波長が、合金薄帯において十分吸収されるため好適である。
レーザ光のビーム径としては、10μm以上500μm以下が好ましく、さらに25μm以上100μm以下がより好ましい。
【0035】
上記した、点列状や線状の線状痕は、アモルファス合金薄帯の幅方向に沿う方向に形成される。なお、アモルファス合金薄帯の幅方向とは、アモルファス合金薄帯の走行方向に直交する方向である。
アモルファス合金薄帯の幅方向の長さ全体に占める、線状痕の長さの割合が、幅方向の中心から幅方向両端に向かう方向にそれぞれ10%~50%であることが好ましい。なお、ここでの「%」は、アモルファス合金薄帯の幅方向の長さ全体を100%としている。
なお、線状痕の方向が幅方向に対して傾きを持つ場合は、傾きを持った線状痕自体の長さではなく、線状痕が形成されている部分において薄帯の幅方向における長さに換算した値を線状痕の幅方向の長さとする。
【0036】
上記線状痕の長さの割合が50%であるとは、線状痕が、アモルファス合金薄帯の幅方向の中央を起点とし、幅方向に一端及び他端にまで到達していることを意味する。つまり、線状痕が薄帯の幅方向において、一端から他端まで形成されている状態である。
また、上記線状痕の長さの割合が10%とは、線状痕が、アモルファス合金薄帯の幅方向の中央を起点とし、幅方向両端に向かう方向にそれぞれ10%ずつの長さを有していること、即ち、アモルファス合金薄帯の幅方向の長さの20%の長さの線状痕を、アモルファス合金薄帯の中心領域に有していることをいう。換言すると、線状痕が、アモルファス合金薄帯の幅方向の両端に、幅方向の全体の長さに対して40%ずつの余白を残して形成されていることを意味する。
アモルファス合金薄帯の幅方向の長さ全体に占める線状痕の幅方向の長さの割合が、幅方向の中心から幅方向両端に向かう方向にそれぞれ25%以上であることがより好ましい。
【0037】
線状痕は、アモルファス合金薄帯の幅方向に向かって形成される。
ここで、アモルファス合金薄帯の幅方向とは、アモルファス合金薄帯の走行方向に直交する方向であり、長尺のアモルファス合金薄帯の長手方向に対し垂直な方向である。
本開示において、「アモルファス合金薄帯の幅方向に向かって」とは、長尺のアモルファス合金薄帯の長手方向に対し垂直な方向のみに限定されない。その垂直な方向に対し、角度を有していても、「幅方向に向かって」に相当すると解釈する。
本開示において、「幅方向に向かって」とは、アモルファス合金薄帯の長手方向に対し垂直な方向に平行もしくは30度以下の角度をなしていることが好ましい。この角度は、より好ましくは10度以下である。
【0038】
線状痕は、アモルファス合金薄帯の幅方向に向かって形成されるため、レーザの走査方向は、その線状痕の形成方向と同様となる。
アモルファス合金薄帯が走行している状態でレーザが照射されるので、厳密に言えば、線状痕の方向と、レーザの走査方向と、は完全一致ではないが、レーザの走査速度がアモルファス合金薄帯の走行速度よりも速いため、おおむね類似した方向となる。
例えば、幅方向に対し平行な線状痕とする場合、アモルファス合金薄帯の走行速度を考慮し、レーザの走査方向を幅方向に対して、やや傾けた方向とすることが好ましい。
レーザの走査方向と、アモルファス合金薄帯の走行方向に直交する方向と、の角度差は30度以下であることが好ましい。より好ましくは、10度以下であり、更に好ましくは5度以下である。
【0039】
図3を用いて、この方向について説明する。図3は、アモルファス合金薄帯の平面図を示す。アモルファス合金薄帯2の走行方向を矢印Aで示す。アモルファス合金薄帯2の走行方向に直交する方向を矢印Xで示す。レーザの走査方向の例をC1とC2の矢印で示す。レーザの走査方向C1,C2と、アモルファス合金薄帯の走行方向に直交する方向Xと、の角度差がθ1、θ2であり、このθ1、θ2が30度以下であることが好ましい。
【0040】
アモルファス合金薄帯は、単ロール法によって製造(鋳造)されていることが好ましい。単ロール法によって製造されたアモルファス合金薄帯は、鋳造時、冷却ロールに接して急冷凝固された面(「ロール接触面」とも言う)と、ロール接触面に対して反対側の面(即ち、鋳造時、雰囲気に暴露されていた面であり、「自由凝固面」とも言う)と、を備えている。
なお、アモルファス合金薄帯の長手方向とは、単ロール法で製造される場合の鋳造方向に相当し、冷却ロールの周方向に対応する方向となる。また、この鋳造方向と走行方向とは同方向となる。
【0041】
本開示のアモルファス合金薄帯は、幅が30mm~300mmであることが好ましい。幅が30mm以上であることにより、生産性を高めることができる。さらに好ましくは、60mm以上である。また、幅が広いアモルファス合金薄帯を製造することは容易ではなく、幅が300mmを超えると、逆に生産性が下がる傾向がある。
また、本開示のアモルファス合金薄帯の厚さには特に制限なはいが、厚さは、好ましくは18μm~35μmである。厚さが18μm以上であることは、アモルファス合金薄帯のうねり抑制、ひいては占積率向上の点で有利である。また、厚さが35μm以下であることは、アモルファス合金薄帯の脆化抑制、磁気的飽和性の点で有利である。アモルファス合金薄帯の厚さは、より好ましくは20μm~30μmである。
【0042】
本開示のアモルファス合金薄帯の化学組成には特に制限はないが、Fe基アモルファス合金の化学組成(即ち、Fe(鉄)を主成分とする化学組成)であることが好ましい。例えば、Fe、Si、B、及び不純物からなり、Fe、Si、及びBの合計含有量を100原子%とした場合に、Feの含有量が78原子%以上であり、Bの含有量が10原子%以上であり、B及びSiの合計含有量が17原子%~22原子%である化学組成であることが好ましい。
不純物としては、Fe、Si、及びB以外のあらゆる元素が挙げられるが、具体的には、例えば、C、Ni、Co、Mn、O、S、P、Al、Ge、Ga、Be、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、希土類元素などが挙げられる。なお、不純物は、1種のみであっても2種以上であってもよい。
これらの不純物元素は、Fe、Si、及びBの総質量に対し、総量で1.5質量%以下の範囲で含有することができる。これらの不純物元素の総含有量は、好ましくは1.0質量%以下であり、更に好ましくは0.8質量%以下であり、更に好ましくは0.75質量%以下である。なお、この範囲で、これらの不純物元素は添加されていてもかまわない。
【実施例
【0043】
〔実施例1〕
単ロール法により、Fe82Si14の化学組成を有し、厚さが25μmであり、幅が210mmであるアモルファス合金薄帯を製造した。
ここで、「Fe82Si14の化学組成」とは、Fe、Si、B、及び不純物からなり、Fe、Si、及びBの合計含有量を100原子%とした場合に、Feの含有量が82原子%であり、Bの含有量が14原子%であり、Siの含有量が4原子%である化学組成を意味する。
【0044】
アモルファス合金薄帯の製造は、Fe82Si14の化学組成を有する溶湯を1300℃の温度に保持し、次いでこの溶湯をスリットノズルから、軸回転する冷却ロールの表面に噴出した。噴出された溶湯を冷却ロールの表面で急冷凝固させ、アモルファス合金薄帯を作製した。
作製したアモルファス合金薄帯は、スプールに巻き回した。これにより、アモルファス合金薄帯保持スプールを作製した。
このとき、冷却ロールの表面における、溶湯のパドルが形成されるスリットノズルの直下の周辺の雰囲気は、非酸化性ガス雰囲気とした。
スリットノズルにおける、スリット長さは210mmとし、スリット幅は0.6mmとした。
冷却ロールの材質はCu系合金とし、冷却ロールの周速は27m/secとした。
溶湯を噴出する圧力及びノズルギャップ(即ち、スリットノズル先端と冷却ロール表面とのギャップ)は、製造される素材薄帯の自由凝固面における最大断面高さRt(詳細には、素材薄帯の鋳造方向に沿って測定された最大断面高さRt)が、3.0μm以下となるように調整した。
【0045】
次に、図1に示すとおり、アモルファス合金薄帯保持スプール1からアモルファス合金薄帯2を巻き出し、アモルファス合金薄帯をレーザ照射位置まで走行させる。そして、アモルファス合金薄帯を走行させながら、レーザ照射装置3からCW(連続波)発振方式のレーザ4を照射し、アモルファス合金薄帯2の自由凝固面に線状痕を形成した。ここで、アモルファス合金薄帯の走行方向と、アモルファス合金薄帯の長手方向とは、同方向となる。
【0046】
線状痕が形成されたアモルファス合金薄帯の模式図を図2に示す。線状痕25がアモルファス合金薄帯2の幅方向に向かって、幅方向の一端から他端まで形成されている。
【0047】
線状痕25は、アモルファス合金薄帯2の幅方向に向かって形成され、線状痕25の形成方向とアモルファス合金薄帯2の長手方向との角度差は、90度(90度との差が1度未満)であった。以下で説明するとおり、レーザの走査速度はアモルファス合金薄帯の走行速度に対し、約33倍であり、十分に速い。
この実施例では、アモルファス合金薄帯2の走行方向(図3、矢印A)に直交する方向(図3、矢印X)に対し、レーザの走査方向を図3のC1の矢印で示すように、1.7度の角度(θ1)となるように設定した。これにより、線状痕25は、アモルファス合金薄帯2の幅方向に向かって形成され、線状痕25の形成方向とアモルファス合金薄帯2の長手方向との角度差は、90度(90度との差が1度未満)となった。
【0048】
線状痕25は、アモルファス合金薄帯2の幅方向の一端から他端まで形成されている。これは、アモルファス合金薄帯の幅方向の長さ全体に占める、線状痕の幅方向の長さの割合が、幅方向の中心から幅方向両端に向かう方向にそれぞれ50%であることに相当する。
アモルファス合金薄帯の長手方向において、互いに隣り合う線状痕25の間隔LP1(ライン間隔)は20mmとした。
なお、W1はアモルファス合金薄帯の幅を示している。ここでは、W1は210mmである。
【0049】
また、CW(連続波)発振方式のレーザの照射条件は、以下の通りとした。
-CWレーザの照射条件-
・レーザ照射装置3のレーザが出力されるレンズから、レーザ照射されるアモルファス合金薄帯2の表面までの距離:550mm
・アモルファス合金薄帯の走行速度(S1):5m/sec
・レーザの走査速度(S2):165m/sec
・S2/S1=33
・レーザ密度:10J/m
レーザ発振器としては、IPGフォトニクス社のファイバーレーザ(YLR-150-WC)を使用した。このレーザ発振器のレーザ媒質はYbドープのガラスファイバーであり、発振波長は1064nmである。
一方、アモルファス合金薄帯2の自由凝固面におけるレーザのスポット径は、63.0μmとなるように調整した。ビーム径の調整は、光学部品であるコリメータレンズ:f100mmと、fθレンズ:焦点距離420mmと、を用いて行った。
ビームモードMは1.1(シングルモード)とした。
また、入射径DLとスポット径DL0との間に、DL0=4λf/πDL(ここで、λはレーザの波長を表し、fは焦点距離を表す)の関係が成り立つことから、コリメータレンズの焦点距離が大きくなるにつれ(即ち、入射径DLが大きくなるにつれ)、スポット径DL0が小さくなる傾向となる。
【0050】
この実施例により、全長が約20000mのアモルファス合金薄帯が巻かれたアモルファス合金薄帯保持スプールから、アモルファス合金薄帯を巻き出し、走行させながら、アモルファス合金薄帯の表面にレーザ照射痕を形成した。この実施例によれば、全長20000mのアモルファス合金薄帯を連続的に走行させながら、レーザ照射痕を形成することができた。
このレーザ照射痕を形成したアモルファス合金薄帯について、以下の評価を行った。評価した結果を表1に示す。
【0051】
<鉄損CLの測定>
レーザ照射痕を形成したアモルファス合金薄帯について、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件、並びに、周波数60Hz及び磁束密度1.50Tの条件の2条件にて、鉄損CLを、交流磁気測定器により正弦波励磁で測定した。
【0052】
<励磁電力VAの測定>
レーザ照射痕を形成したアモルファス合金薄帯について、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件、並びに、周波数60Hz及び磁束密度1.50Tの条件の2条件にて、励磁電力VAを、交流磁気測定器により正弦波励磁で測定した。
【0053】
<保磁力Hcの測定>
レーザ照射痕を形成したアモルファス合金薄帯について、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件、並びに、周波数60Hz及び磁束密度1.50Tの条件の2条件にて、保磁力Hcを、交流磁気測定器により正弦波励磁で測定した。
【0054】
【表1】
【0055】
表1に示すとおり、実施例1のアモルファス合金薄帯は、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件における鉄損が0.099W/kgであり、並びに、周波数60Hz及び磁束密度1.50Tの条件における鉄損が0.110W/kgであり、低鉄損のアモルファス合金薄帯が得られた。
また、実施例1のアモルファス合金薄帯は、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件における保磁力が2.26A/mであり、並びに、周波数60Hz及び磁束密度1.50Tの条件における保磁力が2.38A/mであり、低保磁力のアモルファス合金薄帯が得られた。
また、実施例1のアモルファス合金薄帯は、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件における励磁電力が0.182VA/kgであり、並びに、周波数60Hz及び磁束密度1.50Tの条件における励磁電力が0.283VA/kgであり、励磁電力の増加が抑制されていた。
以上のとおり、実施例1では、低鉄損、低保磁力で、低励磁電力のアモルファス合金薄帯が得られた。
【0056】
〔実施例2~、比較例1~
アモルファス合金薄帯の走行速度S1、レーザの走査速度S2、レーザが出力されるレンズから、レーザ照射されるアモルファス合金薄帯の表面までの距離、をそれぞれ変更して、レーザ照射痕を形成したアモルファス合金薄帯を作製した。それぞれ、全長20000mのアモルファス合金薄帯を作製した。
それぞれの条件、並びに特性の評価結果を表1に示す。
なお、比較例1は、レーザ照射を行わなかったアモルファス合金薄帯の例である。
【0057】
実施例1~は、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件における鉄損が0.130W/kg以下であり、極めて低損失のアモルファス合金薄帯が得られている。また、周波数60Hz及び磁束密度1.50Tの条件における鉄損が0.145W/kg以下であり、極めて低損失のアモルファス合金薄帯が得られている。
実施例1~は、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件における保磁力が3.00A/m以下であり、極めて低保磁力のアモルファス合金薄帯が得られている。また、周波数60Hz及び磁束密度1.50Tの条件における保磁力が3.10A/m以下であり、極めて低保磁力のアモルファス合金薄帯が得られている。
実施例1~は、周波数60Hz及び磁束密度1.45Tの条件における励磁電力が0.200VA/kg以下であり、励磁電力の増加が抑制されている。アモルファス合金薄帯にレーザ照射痕を形成した場合、励磁電力が増加する傾向にあるが、本実施例では、励磁電力の増加を抑制できている。また、周波数60Hz及び磁束密度1.50Tの条件における励磁電力が0.300VA/kg以下であり、この測定条件においても、励磁電力の増加を抑制できている。
【0058】
実施例1の線状痕をレーザ顕微鏡で観察して、各寸法を測定した。具体的には、カラー3Dレーザ顕微鏡VK-8710(株式会社KEYENCE製)を用いて、50倍対物レンズCF IC EPI Plan 50X(株式会社ニコン製)を使用して表面形状を撮影した(倍率は1000倍(対物レンズ50倍×モニター倍率20倍))。この光学写真から線幅WL(溶融凝固部の幅)を測定した。
また、線状痕の表面の凹凸状態を観察した。観察方法は、レーザ顕微鏡(上記したカラー3Dレーザ顕微鏡VK-8710、倍率も同じ)を用いた。具体的には、レーザ顕微鏡で線状痕の幅方向のプロファイルを計測する。このとき、線幅WLに対し、それぞれ略30μmの幅を前後に加え、その間(30μm+線幅WL+30μm)のプロファイルを計測する。このプロファイルから高低差HLを測定した。なお、プロファイルが傾いている場合は、前後に加えた30μmの範囲を利用して、水平方向となるように傾きを直線補正して、測定した。
その結果、実施例1の線状痕の最高点と最低点との差HLは0.73μmであり、線幅WLは78.63μmであった。そして、線状痕の最高点と最低点との差HLと、線状痕の線幅WLとから算出されるHL×WLは57.40μmであった。
【0059】
以上のとおり、本開示の実施例によれば、レーザ照射を効率よく行うことができ、生産性の高いアモルファス合金薄帯の製造方法を得ることができた。また、本開示の実施例によれば、性能の高いアモルファス合金薄帯を得ることができた。
また、本開示の実施例によれば、長尺のアモルファス合金薄帯に対し、アモルファス合金薄帯を連続して走行させながら、レーザ照射を行うものであり、生産性が高い。したがって、本開示の製造方法は、レーザ照射を効率よく行うことができ、生産性の高いアモルファス合金薄帯の製造方法であり、さらに、性能が高いアモルファス合金薄帯が得られる製造方法である。

図1
図2
図3