(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】メタン発酵処理施設の運転方法
(51)【国際特許分類】
C02F 11/04 20060101AFI20240903BHJP
【FI】
C02F11/04 A ZAB
(21)【出願番号】P 2020200401
(22)【出願日】2020-12-02
【審査請求日】2023-09-29
(31)【優先権主張番号】P 2019228441
(32)【優先日】2019-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】鏡 つばさ
【審査官】長谷部 智寿
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-282897(JP,A)
【文献】特開2005-111338(JP,A)
【文献】特開2002-045896(JP,A)
【文献】特開2008-307486(JP,A)
【文献】特開2021-094535(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 11/04
B09B 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物を含有する処理対象物をメタン発酵槽に供給して嫌気性消化するメタン発酵処理施設の運転方法において、
あらかじめ求めた処理対象物の分解性とメタン菌の活性を指標として運転管理することを特徴とするメタン発酵処理施設の運転方法
であって、
前記メタン発酵槽から消化液を引き抜き、嫌気性条件下に保持して該消化液中の未分解の有機物を分解した後、処理対象物を規定量投入し、メタンガス発生速度aを求め、
該メタンガス発生速度aを近似する計算を行うことにより求めた値を処理対象物の分解性とし、
前記メタン発酵槽から消化液を引き抜き、嫌気性条件下に保持して該消化液中の未分解の有機物を分解した後、メタン菌の基質を所定量投入し、メタンガス発生速度bを求め、
該メタンガス発生速度bを近似する計算を行うことにより求めた値をメタン菌の活性とし、
[処理対象物分解性]/[メタン菌の活性]比が0.1~10となるように、前記メタン発酵槽への前記処理対象物の供給量を制御することを特徴とするメタン発酵処理施設の運転方法。
【請求項2】
前記メタン菌の活性から前記メタン発酵槽の有機物負荷を決定することを特徴とする請求項
1のメタン発酵処理施設の運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機性廃棄物をメタン発酵処理する施設の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水汚泥、生ごみ、家畜糞尿などの有機性廃棄物をメタン発酵菌の作用で嫌気性分解するメタン発酵処理は、廃棄物を大幅に減容化すると共に、メタンガスを含むバイオガスを生成させることができるという優れた利点を有する。
【0003】
メタン発酵処理においては、糖質、タンパク質、脂質などの有機物は、まず酸生成菌の働きにより、プロピオン酸、酪酸、乳酸、酢酸などの低級脂肪酸に分解され、次いで、炭素数が3以上の有機酸は酢酸生成菌により酢酸に分解される。そして、最後にメタン生成細菌により、この酢酸生成反応で生成した酢酸及び水素を利用して、メタン生成が行なわれる。
【0004】
メタン発酵は温度変化、負荷変動等の外乱により、ガス発生率が低下し、時には、ガスが殆ど発生しなくなる酸敗と呼ばれる状態に陥ることがある。その原因の一つとして、メタン発酵槽中の汚泥の持っている処理能力以上の負荷がかかると、メタンに転換されない中間物質、特に有機酸が蓄積しメタン発酵に悪影響を及ぼすことが挙げられる。
【0005】
この問題を解決するため、特許文献1には、メタン発酵槽から発生するメタン、二酸化炭素濃度を測定し、その比率から、メタン発酵槽の不調の状態をとらえることが記載されている。しかし、このようにメタン発酵槽全体から発生するメタン等の濃度比を測定しても、発酵槽内で種々の反応を担っている各微生物群の状態を把握することはできず、投入すべき負荷量を決定することは難しい。
【0006】
メタン発酵槽で有機物含有処理対象物を嫌気処理する嫌気性消化システムでは、メタン発酵槽の有機物負荷がなるべく一定となるように運転されることが一般的である。有機物負荷としては、VS(volatile solids:550℃で着火し、消失する固形分)負荷が使用される。
【0007】
これに対し、特許文献2には、消化槽に投入される複数種類の有機性処理対象物について、前記種類毎に投入量を測定し、測定された種類毎の投入量と種類毎に求められているガス発生速度とを用いて投入された有機性処理対象物全体のガス発生速度を予測演算し、この予測演算されたガス発生速度と消化槽から発生するガスの発生速度実測値とを比較して消化槽内の状況を監視する、嫌気性消化プロセスの監視方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平06-086996号公報
【文献】特開2005-111338号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
<第1の課題>
通常の場合、メタン発酵槽に投入される処理対象物中の有機物の分解性(例えばCODCr濃度や分解速度)は変動するのが一般的である。一般的に普及している嫌気性消化システムのように、VS負荷をできるだけ一定となるように投入する方法では、このように有機物の分解性が変動すると、処理性能が低下し易い。例えば、分解性が良い原料を投入した場合、メタン発酵槽で有機酸の蓄積が生じ易くなる。逆に、分解性が悪い原料を投入した場合は、分解率が悪いためにメタンガスの回収量が低下する。また、分解性が良い原料と悪い原料を投入した場合は、メタンガスの発生量が不安定になる。
【0010】
<第2の課題>
消化液のメタン菌活性は、投入した原料の種類や負荷によって、経日的に変動する。特に、メタン発酵システムの立ち上げ時(運転開始当初)には、メタン菌活性が日々変動する。
【0011】
特許文献2で提案されている方法は、メタン菌活性が常に一定であることを前提とするものであり、メタン菌の活性が変動する場合、あらかじめ処理対象物のメタンガス発生量を評価していたとしても、実際のガス発生量との差が生じる。
【0012】
また、特許文献2の方法では、過負荷を検知することができるが、実際に過負荷が発生してからでは、メタン発酵槽の運転を中長期的に停止することが必要となる。
【0013】
このように、従来の方法では、有機物投入時の定量的な指標がなく、過負荷が発生してからでないと、対策をとることができない。
【0014】
本発明は、有機性処理対象物を受け入れてメタン発酵処理する施設において、有機物の分解性が変動する場合であっても、メタン発酵処理を安定的に行うことができる運転方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のメタン発酵処理施設の運転方法は、有機物を含有する処理対象物をメタン発酵槽に供給して嫌気性消化するメタン発酵処理施設の運転方法において、あらかじめ求めた処理対象物の分解性とメタン菌の活性を指標として運転管理することを特徴とする。
【0016】
本発明の一態様では、メタン発酵槽から消化液を引き抜き、嫌気性条件下に保持して該消化液中の未分解の有機物を分解した後、処理対象物を規定量投入し、メタンガス発生速度aを求め、該メタンガス発生速度aを近似する計算を行うことにより求めた値を処理対象物の分解性とし、メタン発酵槽から消化液を引き抜き、嫌気性条件下に保持して該消化液中の未分解の有機物を分解した後、メタン菌の基質を所定量投入し、メタンガス発生速度bを求め、該メタンガス発生速度bを近似する計算を行うことにより求めた値をメタン菌の活性とする。この近似方法は、特に限定されず、線形近似、指数近似、ニューラルネットワーク法、樹木モデルを利用する方法などを用いることができる。
【0017】
本発明の一態様では、[処理対象物分解性]/[メタン菌の活性]比が0.1~10となるように前記メタン発酵槽への前記処理対象物の供給量を制御する。
【0018】
本発明の一態様では、前記メタン菌の活性から前記メタン発酵槽の有機物負荷を決定する。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様では、処理対象物の分解性及びメタン菌の活性に基づいて、例えば[処理対象物の分解性]/[メタン菌の活性]比が所定範囲となるように、メタン発酵槽への処理対象物の供給量を制御することにより、メタン発酵処理を安定的に行うことができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明では、処理対象物をメタン発酵槽に供給し、メタン発酵処理を行う。
【0021】
本発明におけるメタン発酵処理の処理方式は、溶解性物質を嫌気処理する上向流汚泥床法(UASB)、流動床法(EGSB)、固定床法などの高負荷嫌気性処理や、嫌気性消化槽(AD)方式などのいずれの方式でも良い。
【0022】
本発明において、処理対象物としては、生物処理汚泥、食品廃棄物、家畜糞尿、農業系廃棄物などが例示されるがこれに限定されない。
【0023】
有機性廃棄物は破砕機(ハンマーミルなど)を用いて細かく破砕し、希釈水(工業用水などの他に排水処理水又はメタン発酵槽からの汚泥を脱水した脱水ろ液も利用可能)及び消化液(メタン発酵槽内の循環又は余剰消化液)などを用いてスラリーにするのが好ましい。
【0024】
本発明では、処理対象物をメタン発酵槽に導入してメタン発酵処理を行うに際し、処理対象物の分解性及びメタン菌の活性を測定し、[処理対象物の分解性]/[メタン菌の活性]比が好ましくは0.1~10、特に好ましくは0.2~3.0となるように処理対象物の供給量や原料の組み合わせを制御する。
【0025】
<処理対象物の分解性の測定方法>
メタン発酵システムから消化液を引き抜き、嫌気性条件下で35℃などメタン菌に最適な温度条件で消化液中の未分解の有機物を分解する。その後、処理対象物を規定量投入し、メタンガス発生速度aを求め、このメタンガス発生速度aを近似する計算を行うことにより求めた値を処理対象物の分解性とする。
【0026】
消化液に対する処理対象物の投入量は、2,000 mg-CODcr/L程度とすることが好ましい。また、メタンガス発生速度aは、投入後、0~28日にわたって測定した平均値が好ましい。
【0027】
<メタン菌活性の測定方法>
メタン発酵システムから消化液を引き抜き、嫌気性条件下で35℃などメタン菌に最適な温度条件で消化液中の未分解の有機物を分解する。その後、酢酸、プロピオン酸、水素などメタン菌の基質を所定量投入し、メタンガス発生速度bを求め、このメタンガス発生速度bを近似する計算を行うことにより求めた値をメタン菌の活性とする。
【0028】
消化液に対する基質の投入量は、2,000 mg-CODcr/L程度とすることが好ましい。また、メタンガス発生速度bは、投入後、0~10日にわたって測定した平均値が好ましい。
【0029】
上記メタンガス発生速度a,bの単位は、例えばNmL/L/dであり、これを処理対象物およびメタン菌の基質の濃度に換算することにより算出される処理対象物の分解性及びメタン菌の活性の単位は例えばkg-VS/m3/dである。
【0030】
本発明では、処理対象物の分解性及びメタン菌の活性の測定を1~31日、特に1~7日に1回の頻度で行って、[処理対象物の分解性]/[メタン菌の活性]比を算出し、この[処理対象物の分解性]/[メタン菌の活性]比が0.1~10となるように処理対象物のメタン発酵槽への投入量や原料の組み合わせを制御する。
【0031】
一般に、処理対象物の投入量を減少させると、[処理対象物の分解性]/[メタン菌の活性]比は減少し、処理対象物の投入量を増加させると、[処理対象物の分解性]/[メタン菌の活性]比は増加する。従って、処理対象物の投入量を制御することにより、[処理対象物の分解性]/[メタン菌の活性]比を制御することができる。
【0032】
また、分解性の高い原料と分解性の低い原料の比率を変更することによっても、[処理対象物の分解性]/[メタン菌の活性]比を制御することができる。
【実施例】
【0033】
[処理対象物分解性]/[メタン菌活性]比を指標として、メタン発酵システムを運転した。メタン発酵槽は1000m3であった。種汚泥には下水処理施設の余剰汚泥消化槽から引き抜いた汚泥を使用した。投入対象物の有機物には野菜くず(キャベツ50%、パプリカ30%、ゴーヤ10%、キュウリ10%。5mm以下に破砕したもの。含水率93wt%)を用いた。
【0034】
<処理対象物分解性の測定方法>
メタン発酵槽から消化液1.5Lを引き抜き、嫌気性条件下で72hr、35℃に保持して消化液中の未分解の有機物を分解した。その後、処理対象物を30g投入し、35℃に48hr保持し、この間のメタンガス発生量(単位Nm3)を測定し、この測定値を単位時間あたりのメタンガス発生量に換算することによりメタンガス発生速度aを求めた。
【0035】
このメタンガス発生速度aを指数近似する計算を行うことにより処理対象物の分解性を算出した。
【0036】
<メタン菌活性の測定方法>
メタン発酵槽から消化液を1.5L引き抜き、嫌気性条件下で72hr、35℃に保持して消化液中の未分解の有機物を分解した。その後、酢酸を2.4gを投入し、35℃に48hr保持し、この間のメタンガス発生量(単位Nm3)を測定し、この測定値を単位時間あたりのメタンガス発生量に換算することによりメタンガス発生速度bを求めた。
【0037】
このメタンガス発生速度bを線形近似する計算を行うことによりメタン菌活性を算出した。
【0038】
[実施例1]
メタン発酵槽から消化液を168hrに1回の頻度で引き抜き、処理対象物分解性とメタン菌活性を測定し、[処理対象物分解性]/[メタン菌活性]比が0.1となるように野菜くず投入量を制御した。120日間メタン発酵システムを運転したところ、表1の通り、平均の有機物負荷は0.2kg-VS/m3/dであった。運転期間中、有機酸の濃度は200mg/L以下であり、メタンガスの発生量も±10%/dであった。
【0039】
[実施例2]
実施例1において、[処理対象物分解性]/[メタン菌活性]比が5となるように野菜くず投入量を制御した他は同様にしてメタン発酵システムを運転したところ、表1の通り、平均の有機物負荷は1.0kg-VS/m3/dであった。運転期間中、有機酸の濃度は500mg/L以下であった。メタンガス発生量の日間変動も±10%と小さかった。
【0040】
[実施例3]
実施例1において、[処理対象物分解性]/[メタン菌活性]比が10となるように野菜くず投入量を制御した他は同様にしてメタン発酵システムを運転したところ、表1の通り、平均の有機物負荷は2.0kg-VS/m3/dであった。運転期間中、有機酸の濃度は1000mg/L以下であり、有機物の除去率は90%であった。メタンガス発生量の日間変動も±10%と小さかった。
【0041】
[比較例1]
有機物負荷が2.5kg-VS/m3/dとなるように野菜くず投入量を一定量としたこと以外は実施例1と同様にしてメタン発酵システムを運転した。運転期間中、有機酸の濃度が上昇し、運転開始後15日後には10,000mg/Lとなり、メタンガスの発生が停止した(酸敗)。
【0042】
[比較例2]
メタン発酵槽から消化液を1.5L引き抜き、投入対象物ごとに求められているガス発生速度を参照することによりガス発生量を予測した。投入対象物のメタンガス発生量の予測値は、1.2Nm3/kg-VS/dであった。有機物負荷が2.5kg-VS/m3/dとなるように野菜くず投入量を一定量としたこと以外は実施例1と同様にしてメタン発酵システムを運転した。運転開始後、次第に有機酸の濃度が上昇し、運転開始後15日後には10,000mg/Lとなった。メタンガス発生量は、運転開始後3日間は1.0Nm3/kg-VS/dであったが、その後、徐々に発生量が低下し、運転開始15日後にはメタンガスの発生が停止した。
【0043】
[参考例1]
実施例1において、[処理対象物分解性]/[メタン菌活性]比が0.05となるようにした他は同様にしてメタン発酵システムを運転したところ、平均の有機物負荷は0.10kg-VS/m3/dであった。運転期間中、有機酸の濃度は100mg/L以下であり、有機物の除去率は90%であった。メタンガス発生量の日間変動も±10%と小さかった。
【0044】
[参考例2]
実施例1において、[処理対象物分解性]/[メタン菌活性]比が13となるようにした他は同様にしてメタン発酵システムを運転したところ、平均の有機物負荷は3.46kg-VS/m3/dであった。運転期間中、有機酸の濃度が上昇し、運転開始後15日後には10,000mg/Lとなり、メタンガスの発生が停止した(酸敗)。
【0045】
【0046】
表1から明らかな通り、[処理対象物分解性]/[メタン菌活性]比が0.1~10となるようにメタン発酵システムを運転することにより、酸敗を生じさせることなく、安定的にメタン発酵システムを運転することができた。