(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】磁気センサ及び磁気センサシステム
(51)【国際特許分類】
G01R 33/02 20060101AFI20240903BHJP
H10N 50/00 20230101ALI20240903BHJP
H10N 50/80 20230101ALI20240903BHJP
【FI】
G01R33/02 D
H10N50/00
H10N50/80 Z
(21)【出願番号】P 2020216214
(22)【出願日】2020-12-25
【審査請求日】2023-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【氏名又は名称】尾形 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100173598
【氏名又は名称】高梨 桜子
(72)【発明者】
【氏名】冨田 浩幸
【審査官】青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-024470(JP,A)
【文献】特開昭52-052675(JP,A)
【文献】特開2003-161635(JP,A)
【文献】特開2001-281313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 33/02
H10N 50/00
H10N 50/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気インピーダンス効果により磁界を感受する感受素子を含む感受素子部と容量素子を含む容量素子部とが直列接続され、当該感受素子部と当該容量素子部とにより発振の周波数を設定する周波数設定部と、
前記周波数設定部により周波数が設定される交流電流が当該周波数設定部に流れるように電位を供給する電位供給部と
、を備え
、
前記電位供給部は、完全差動アンプを備え、
前記周波数設定部の一方側が、前記完全差動アンプの一方の出力に接続され、
前記周波数設定部の他方側が、前記完全差動アンプの他方の出力に接続され、
前記周波数設定部における前記感受素子部と前記容量素子部との接続点が、前記完全差動アンプの一方の入力に接続されている
磁気センサ。
【請求項2】
前記周波数設定部は、直列接続された二個の抵抗素子と並列接続され、
二個の前記抵抗素子の接続点が、前記完全差動アンプの他方の入力に接続されている
ことを特徴とする請求項
1に記載の磁気センサ。
【請求項3】
磁気インピーダンス効果により磁界を感受する感受素子を含む感受素子部と容量素子を含む容量素子部とが直列接続され、当該感受素子部と当該容量素子部とにより発振の周波数を設定する周波数設定部と、当該周波数設定部により周波数が設定される交流電流が当該周波数設定部に流れるように電位を供給する電位供給部と、を備える磁気センサと、
前記磁気センサに流れる交流電流の周波数に基づいて、前記感受素子が感受する磁界又は磁界の変化を算出する磁界算出部と
、を備え
、
前記磁気センサにおいて、前記電位供給部は、完全差動アンプを備え、
前記周波数設定部の一方側が、前記完全差動アンプの一方の出力に接続され、
前記周波数設定部の他方側が、前記完全差動アンプの他方の出力に接続され、
前記周波数設定部における前記感受素子部と前記容量素子部との接続点が、前記完全差動アンプの一方の入力に接続されている
磁気センサシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気センサ及び磁気センサシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
公報記載の従来技術として、非磁性基板上に形成された硬磁性体膜からなる薄膜磁石と、前記薄膜磁石の上を覆う絶縁層と、前記絶縁層上に形成された一軸異方性を付与された一個または複数個の長方形状の軟磁性体膜からなる感磁部とを備えた磁気インピーダンス効果素子が存在する(特許文献1参照)。
【0003】
また、公報記載の従来技術として、アモルファス磁性体線と、当該アモルファス磁性体線の長手方向に直接高周波電流を流し、その磁性体線内および周囲に当該磁性体線を中心とした同心円状の交番磁界を発生させておき、当該アモルファス磁性体線の長手方向の外部磁界に基づく上記交番磁界の変化を電気信号に変換する変換回路とを備えた磁界センサが存在する(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-249406号公報
【文献】特開平6-281712号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
磁界を感受する感受素子として磁気インピーダンス効果素子を用いた磁気センサは、感受素子に交流電流を供給し、感受素子におけるインピーダンスの変化から磁気を検出する。この際、感受素子におけるインピーダンスの変化は、感受素子の電圧振幅の変化によって検出されていた。
本発明は、磁気インピーダンス効果を利用した感受素子に流れる交流電流の周波数の変化により磁気が検出できる磁気センサなどを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明が適用される磁気センサは、磁気インピーダンス効果により磁界を感受する感受素子を含む感受素子部と容量素子を含む容量素子部とが直列接続され、感受素子部と容量素子部とにより発振の周波数を設定する周波数設定部と、周波数設定部により周波数が設定される交流電流が周波数設定部に流れるように電位を供給する電位供給部と、を備え、電位供給部は、完全差動アンプを備え、周波数設定部の一方側が、完全差動アンプの一方の出力に接続され、周波数設定部の他方側が、完全差動アンプの他方の出力に接続され、周波数設定部における感受素子部と容量素子部との接続点が、完全差動アンプの一方の入力に接続されている。
【0008】
そして、周波数設定部は、直列接続された二個の抵抗素子と並列接続され、二個の抵抗素子の接続点が、完全差動アンプの他方の入力に接続されていることを特徴とすることができる。
【0009】
本発明が適用される磁気センサシステムは、磁気インピーダンス効果により磁界を感受する感受素子を含む感受素子部と容量素子を含む容量素子部とが直列接続され、感受素子部と容量素子部とにより発振の周波数を設定する周波数設定部と、周波数設定部により周波数が設定される交流電流が周波数設定部に流れるように電位を供給する電位供給部と、を備える磁気センサと、磁気センサに流れる交流電流の周波数に基づいて、感受素子が感受する磁界又は磁界の変化を算出する磁界算出部と、を備え、磁気センサにおいて、電位供給部は、完全差動アンプを備え、周波数設定部の一方側が、完全差動アンプの一方の出力に接続され、周波数設定部の他方側が、完全差動アンプの他方の出力に接続され、周波数設定部における感受素子部と容量素子部との接続点が、完全差動アンプの一方の入力に接続されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、磁気インピーダンス効果を利用した感受素子に流れる交流電流の周波数の変化により磁気が検出できる磁気センサなどが提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1の実施の形態が適用される磁気センサシステムを説明する図である。
【
図2】感受素子の一例を説明する図である。(a)は、感受素子の平面図、(b)は、(a)のIIB-IIB線での感受素子の断面図である。
【
図3】感受素子の感受部の長手方向に印加された磁界と感受素子のインピーダンスとの関係を説明する図である。
【
図4】第1の実施の形態が適用される磁気センサを説明する図である。(a)は、論理記号で示す等価回路、(b)は、トランジスタで示す等価回路、(c)は、(b)を変形した等価回路である。
【
図5】第1の実施の形態が適用される磁気センサの動作を説明するタイミングチャートである。(a)は、
図4(c)に示した磁気センサの等価回路、(b)は、接地電位を基準としたα点、β点及びγ点の各電位のタイミングチャート、(c)は、γ点の電位を基準としたα点、β点の各電位のタイミングチャート、(d)は、α点の電位を基準としたβ点、γ点の各電位のタイミングチャートである。
【
図6】
図5(b)に示したタイミングチャートを詳細に説明する図である。(a)は、
図4(c)に示した磁気センサの等価回路、(b)は、接地電位を基準としたα点、β点及びγ点の各電位のタイミングチャートである。
【
図7】第2の実施の形態が適用される磁気センサを説明する図である。(a)は、論理記号で示す等価回路、(b)は、トランジスタで示す等価回路、(c)は、磁気センサの動作を説明するタイミングチャートである。
【
図8】
図6(a)、(b)に示した第1の実施の形態が適用される磁気センサにおいて、β点から取り出した差動信号D-とγ点とから取り出した差動信号D+とを伝送させる場合のコモンモードノイズを説明する図である。(a)は、β点から取り出した差動信号D-、(b)は、γ点から取り出した差動信号D+、(c)は、差動信号が伝送される際に発生するコモンモードノイズである。
【
図9】第3の実施の形態が適用される磁気センサの論理記号で示す等価回路である。
【
図10】完全差動アンプをトランジスタで示す等価回路の一例である。
【
図11】第3の実施の形態が適用される磁気センサの動作を説明するタイミングチャートである。(a)は、β点、γ点、α点の各電位のタイミングチャート、
図11(b)は、感受素子に印加される電圧のタイミングチャートである。
【
図12】第3の実施の形態が適用される磁気センサからの差動信号D+、D-の一例を説明する図である。(a)は、外部から永久磁石を近づけない場合、(b)は、外部から永久磁石を近づけた場合である。
【
図13】第3の実施の形態が適用される磁気センサの変形例の磁気センサを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。
[第1の実施の形態]
(磁気センサシステム100)
図1は、第1の実施の形態が適用される磁気センサシステム100を説明する図である。磁気センサシステム100は、磁気センサ110と、磁気センサ110に流れる交流電流の周波数を測定する周波数測定部120と、周波数測定部120により測定された周波数に基づいて、後述する感受素子1で感受される磁界又は磁界の変化を算出する磁界算出部130とを備える。
【0013】
図1に示すように、磁気センサ110は、周波数設定部10と周波数設定部10に電圧を供給する電位供給部20とを備える。周波数設定部10は、所謂磁気インピーダンス効果を用いた感受素子1を含む感受素子部11と、容量素子2を含む容量素子部12とを備える。なお、容量素子2は、電荷を蓄積する素子であって、コンデンサ又はキャパシタと呼ばれることがある。
感受素子部11と容量素子部12とは直列接続されている。周波数設定部10において、感受素子部11を介して容量素子部12における容量素子2が充放電を繰り返すことにより、感受素子部11における感受素子1に交流電流が流れる。この際、感受素子1は、磁界又は磁界の変化によって、インピーダンス(以下では、インピーダンスZと表示する。)が変化する。よって、周波数設定部10において、容量素子2が充放電を繰り返す周期が変化する。つまり、感受素子1に流れる交流電流の周波数が変化する。
【0014】
感受素子部11は、感受素子1に加え、他の電子素子、例えば抵抗素子やインダクタンス素子を直列接続又は並列接続で含んでいてもよい。容量素子部12は、容量素子2に加え、他の電子素子、例えば抵抗素子やインダクタンス素子を直列接続又は並列接続で含んでもよい。以下では、説明の簡単化のために、感受素子部11は感受素子1で構成され、容量素子部12は、容量素子2で構成されているとして説明する。そして、感受素子部11を感受素子1、容量素子部12を容量素子2と表記する。つまり、感受素子1は、感受素子部11であり、容量素子2は容量素子部12である。そして、
図1では、感受素子部11を11(1)と表記し、容量素子部12を12(2)と表記する。
【0015】
周波数測定部120は、例えば水晶振動子等を用いた周波数カウンタにより構成される。そして、周波数測定部120は、磁気センサ110から発振された交流電流の周波数を測定し、磁界算出部130に出力する。
【0016】
磁界算出部130は、周波数測定部120から取得した周波数に基づいて、感受素子1が感受する磁界又は磁界の変化を算出する。磁界算出部130は、感受素子1のインピーダンスと感受される磁界の強さとの関係を記憶している。よって、磁界算出部130は、周波数測定部120にて測定された周波数から感受素子1のインピーダンスを算出し、インピーダンスに基づいて感受素子1で感受される磁界または磁界の変化を算出する。
【0017】
(感受素子1の構成)
図2は、感受素子1の一例を説明する図である。
図2(a)は、感受素子1の平面図、
図2(b)は、
図2(a)のIIB-IIB線での感受素子1の断面図である。
図2(a)において、紙面の右方向をx方向、紙面の上方向をy方向とし、紙面の表面方向をz方向とする。
図2(b)において、紙面の右方向をx方向、紙面の上方向をz方向とし、紙面の裏面方向をy方向とする。
【0018】
図2(b)に示すように、感受素子1は、非磁性体の基板50上に設けられた硬磁性体(硬磁性体層503)で構成された薄膜磁石60と、薄膜磁石60に対向して積層され、磁場を感受する感受回路70と、ヨーク80とを備える。
なお、感受素子1の断面構造については、後に詳述する。
【0019】
ここで磁性体における軟磁性体とは、外部磁界によって容易に磁化されるが、外部磁界を取り除くと速やかに磁化がないか又は磁化が小さい状態に戻る、いわゆる保磁力の小さい材料である。磁性体における硬磁性体とは、外部磁界によって磁化されると、外部磁界を取り除いても磁化された状態が保持される、いわゆる保磁力の大きい材料である。
【0020】
なお、本明細書においては、感受素子1を構成する要素(薄膜磁石60など)を二桁の数字で表し、要素に加工される層(硬磁性体層503など)を500番台の数字で表す。そして、要素に対して、要素に加工される層を( )内に表記する。例えば薄膜磁石60の場合、薄膜磁石60(硬磁性体層503)と表記する。図においては、60(503)と表記する。また、要素に加工される層に対して、要素を( )内に表記する。例えば、硬磁性体層503の場合、硬磁性体層503(薄膜磁石60)と表記する。他の場合も同様である。
【0021】
図2(a)により、感受素子1の平面構造を説明する。感受素子1は、一例として四角形の平面形状を有する。ここでは、感受素子1の最上部に形成された感受回路70及びヨーク80を説明する。感受素子1の平面形状は、数mm角である。なお、感受素子1の大きさは、他の値であってもよい。
【0022】
感受回路70は、軟磁性体(軟磁性体層505)で構成された複数の感受部71と、感受部71間をつづら折りに直列接続する接続部72と、直列接続された感受部71の一方の端部と他方の端部に設けられた端子部73とを備える。
感受部71は、平面形状が長手方向と短手方向とを有する短冊状である。
図2(a)に示す感受部71は、x方向を長手方向、y方向を短手方向とする。そして、
図2(a)では、4個の感受部71がy方向に並列配置されている。感受部71が、磁気インピーダンス効果を示す。よって、感受素子1を磁気インピーダンス素子と表記することがある。
【0023】
各感受部71は、例えば長手方向の長さが1mm~10mm、短手方向の幅が50μm~150μmである。厚さ(軟磁性体層505の厚さ)が0.5μm~5μmである。隣接する感受部71の間隔は、50μm~150μmである。そして、感受部71の数は、
図8(a)では4個を示すが、これ以外であってもよい。感受部71の数は、例えば20である。
なお、それぞれの感受部71の大きさ(長さ、面積、厚さ等)、感受部71の数、感受部71同士の間隔等は、感受、つまり計測したい磁界の大きさなどによって設定されればよい。なお、感受部71は、1個でもよい。
【0024】
接続部72は、隣接する感受部71の端部間に設けられ、複数の感受部71を直列接続する。つまり、接続部72は、隣接する感受部71をつづら折り(ミアンダ状)に接続されるように設けられている。
図2(a)に示す4個の感受部71を備える感受素子1では、接続部72は3個である。接続部72の数は、感受部71の数によって異なる。例えば、感受部71が6個であれば、接続部72は5個である。また、感受部71が1個であれば、接続部72を備えない。なお、接続部72の幅は、感受回路70に流す電流などによって設定すればよい。例えば、接続部72の幅は、感受部71と同じであってもよい。
【0025】
端子部73は、直列接続された感受部71の一方の端部と他方の端部に設けられている。
図2(a)においては、紙面の下側の端部に端子部73aが設けられ、紙面の上側の端部に端子部73bが設けられている。端子部73a、73bをそれぞれ区別しないときは、端子部73と表記する。端子部73は、電線を接続しうる大きさであればよい。なお、
図2(a)に示す感受素子1では、感受部71が4個であるため、端子部73a、73bは、紙面の左側に設けられている。感受部71の数が奇数の場合には、2個の端子部73a、73bを紙面の左右に分けて設ければよい。
【0026】
以上説明したように、感受回路70は、感受部71が接続部72によってつづら折りに直列接続され、両端部に設けられた端子部73a、73bから電流が流れるように構成されている。よって、感受回路70と表記する。
【0027】
さらに、感受素子1は、感受部71の長手方向の端部に対向して設けられたヨーク80を備える。ここでは、感受部71の長手方向の両端部に対向してそれぞれが設けられた2個のヨーク80a、80bを備える。なお、ヨーク80a、80bをそれぞれ区別しない場合には、ヨーク80と表記する。ヨーク80は、感受部71の長手方向の端部に磁力線を誘導する。このため、ヨーク80は磁力線が透過しやすい軟磁性体で構成されている。この例では、感受部71及びヨーク80は、同じ軟磁性体層505で構成されている。なお、感受部71の長手方向に磁力線が十分透過する場合には、ヨーク80を備えなくてもよい。
【0028】
次に、
図2(b)により、感受素子1の断面構造を説明する。感受素子1は、非磁性体の基板50上に、密着層501、制御層502、硬磁性体層503(薄膜磁石60)、誘電体層504、軟磁性体層505(感受部71及びヨーク80)が、この順に配置されて構成されている。
【0029】
基板50は、非磁性体からなる基板であって、例えばガラス、サファイアといった電気絶縁性の酸化物基板、シリコン等の半導体基板、又は、アルミニウム、ステンレススティール、ニッケルリンメッキを施した金属等の金属基板などである。
密着層501は、基板50に対する制御層502の密着性を向上させるための層である。密着層501としては、Cr又はNiを含む合金を用いるのがよい。Cr又はNiを含む合金としては、CrTi、CrTa、NiTa等が挙げられる。密着層501の厚さは、例えば5nm~50nmである。なお、基板50に対する制御層502の密着性に問題がなければ、密着層501を設けることを要しない。なお、本明細書においては、Cr又はNiを含む合金の組成比を示さない。以下同様である。
【0030】
制御層502は、硬磁性体層503で構成される薄膜磁石60の磁気異方性が膜の面内方向に発現しやすいように制御する層である。制御層502としては、Cr、Mo若しくはW又はそれらを含む合金(以下では、制御層502を構成するCr等を含む合金と表記する。)を用いるのがよい。制御層502を構成するCr等を含む合金としては、CrTi、CrMo、CrV、CrW等が挙げられる。制御層502の厚さは、例えば10nm~300nmである。
【0031】
薄膜磁石60を構成する硬磁性体層503は、Coを主成分とし、Cr又はPtのいずれか一方又は両方を含む合金(以下では、薄膜磁石60を構成するCo合金と表記する。)を用いることがよい。薄膜磁石60を構成するCo合金としては、CoCrPt、CoCrTa、CoNiCr、CoCrPtB等が挙げられる。なお、Feが含まれていてもよい。硬磁性体層503の厚さは、例えば1μm~3μmである。
【0032】
制御層502を構成するCr等を含む合金は、bcc(body-centered cubic(体心立方格子))構造を有する。よって、薄膜磁石60を構成する硬磁性体(硬磁性体層503)は、bcc構造のCr等を含む合金で構成された制御層502上において結晶成長しやすいhcp(hexagonal close-packed(六方最密充填))構造であるとよい。bcc構造上にhcp構造の硬磁性体層503を結晶成長させると、hcp構造のc軸が面内に向くように配向しやすい。よって、硬磁性体層503によって構成される薄膜磁石60が面内方向に磁気異方性を有するようになりやすい。なお、硬磁性体層503は結晶方位の異なる集合からなる多結晶であり、各結晶が面内方向に磁気異方性を有する。この磁気異方性は結晶磁気異方性に由来するものである。
【0033】
なお、制御層502を構成するCr等を含む合金及び薄膜磁石60を構成するCo合金の結晶成長を促進するために、100℃~600℃に加熱するとよい。この加熱により、制御層502を構成するCr等を含む合金が結晶成長しやすくなり、hcp構造を持つ硬磁性体層503が面内に磁化容易軸を持つように結晶配向されやすくなる。つまり、硬磁性体層503の面内に磁気異方性が付与されやすくなる。
【0034】
誘電体層504は、非磁性の誘電体で構成され、薄膜磁石60と感受回路70との間を電気的に絶縁する。誘電体層504を構成する誘電体としては、SiO2、Al2O3、TiO2等の酸化物、又は、Si3N4、AlN等の窒化物等が挙げられる。また、誘電体層504の厚さは、例えば0.1μm~30μmである。
【0035】
感受回路70における感受部71は、長手方向に交差する方向、例えば直交する短手方向(幅方向)に一軸磁気異方性が付与されている。なお、長手方向に交差する方向とは、長手方向に対して45°を超え、且つ90°以下の角度を有すればよい。
感受部71を構成する軟磁性体層505としては、Coを主成分とした合金に高融点金属Nb、Ta、W等を添加したアモルファス合金(以下では、感受部71を構成するCo合金と表記する。)を用いるのがよい。感受部71を構成するCo合金としては、CoNbZr、CoFeTa、CoWZr等が挙げられる。感受部71を構成する軟磁性体の厚さは、例えば0.2μm~2μmである。
【0036】
感受回路70における接続部72及び端子部73は、導電性に優れた導電体層506で構成されている。例えば、Ag、Cu、Au、Al等が用いられるが特に限定されるものではない。なお、接続部72と端子部73とを異なる導体層で構成してもよい。また、接続部72及び端子部73を、感受部71と一体に形成してもよい。このようにすることで、感受部71と、接続部72及び端子部73とを別途形成することを要しない。
【0037】
密着層501、制御層502、硬磁性体層503、及び誘電体層504は、平面形状が四角形(
図2(a)参照)になるように加工されている。そして、露出した側面のうち、x方向の対向する二つの側面において、薄膜磁石60がN極(
図2(b)における(N))及びS極(
図2(b)における(S))となっている。なお、薄膜磁石60のN極とS極とを結ぶ線が、感受回路70における感受部71の長手方向(ここでは、x方向)に向くようになっている。ここで、長手方向に向くとは、N極とS極とを結ぶ線と長手方向とがなす角度が45°未満であることをいう。なお、N極とS極とを結ぶ線と長手方向とがなす角度は、小さいほどよい。
【0038】
感受素子1において、薄膜磁石60のN極から出た磁力線は、一旦感受素子1の外部に出る。そして、一部の磁力線が、ヨーク80aを介して感受部71を透過し、ヨーク80bを介して再び外部に出る。そして、感受部71を透過した磁力線が感受部71を透過しない磁力線とともに薄膜磁石60のS極に戻る。つまり、薄膜磁石60は、感受部71の長手方向に磁界を印加する。
なお、薄膜磁石60のN極とS極とをまとめて両磁極と表記し、N極とS極とを区別しない場合は磁極と表記する。
【0039】
なお、
図2(a)に示すように、ヨーク80(ヨーク80a、80b)は、基板50の表面側から見た形状が、感受回路70に近づくにつれて狭くなっていくように構成されている。これは、感受部71における磁束密度を高める(磁力線を集める)ためである。つまり、感受部71における磁界を強くして感度のさらなる向上を図っている。なお、ヨーク80(ヨーク80a、80b)の感受回路70に対向する部分の幅を狭くしなくてもよい。
ここで、ヨーク80(ヨーク80a、80b)と感受回路70との間隔は、例えば1μm~100μmであればよい。
【0040】
上記においては、感受部71は、一層の軟磁性体層505で構成されているとしたが、軟磁性体層505を上層軟磁性体層と下層軟磁性体層との二層とし、上層軟磁性体層と下層軟磁性体層との間に、上層軟磁性体層と下層軟磁性体層とを反強磁性結合(AFC:Anti-Ferro-Coupling)させる反強磁性結合層を設けてもよい。このような反強磁性結合層としては、Ruなどが挙げられる。反強磁性結合層を設けることで、反磁界が抑制され、感受素子1の感度が向上する。
【0041】
また、感受部71を構成する上層軟磁性体層と下層軟磁性体層との間に、感受部71の電気抵抗を低減する導電体層を設けてもよい。導電体層としては、導電性が高い金属または合金を用いることが好ましく、導電性が高く且つ非磁性の金属または合金を用いることがより好ましい。このような導電体としては、アルミニウム、銅、銀等の金属が挙げられる。導電体層の厚さは、例えば、10nm~500nmである。導電体層を設けることで、感受回路70に流す交流電流の周波数を高くできる。
【0042】
さらにまた、感受部71を構成する上層軟磁性体層と下層軟磁性体層との間に、上層軟磁性体層及び下層軟磁性体層に還流磁区の発生を抑制する磁区抑制層を設けてもよい。このような磁区抑制層としては、Ru、SiO2等の非磁性体や、CrTi、AlTi、CrB、CrTa、CoW等の非磁性アモルファス金属が挙げられる。感受部71における還流磁区の発生を抑制することにより、磁壁の移動に基づく、所謂バルクハウゼン効果によるノイズの発生が抑制される。
【0043】
なお、感受部71を構成する軟磁性体層505を二層を超える多層とし、それぞれの層の間に、反強磁性結合層、導電体層又は磁区抑制層を設けてもよい。また、上記の反強磁性結合層、導電体層及び磁区抑制層の二つ又はすべてを組み合わせて用いてもよい。
【0044】
以上においては、感受素子1は、感受回路70に加え、薄膜磁石60及びヨーク80を備えるとした。薄膜磁石60は、感受回路70における感受部71に後述するバイアス磁界Hbを印加するために設けられている。バイアス磁界Hbを、感受素子1の外部から印加する場合には、感受素子1は、薄膜磁石60を備えることを要しない。この場合には、薄膜磁石60のために設けられた密着層501、制御層502、硬磁性体層503、及び誘電体層504を備えることを要しない。つまり、感受素子1は、基板50上に、感受回路70を設けて構成すればよい。この場合、ヨーク80は、設けられてもよく、設けられなくてもよい。
【0045】
基板50上に感受回路70を設ける場合、基板50が、シリコン等の半導体基板、又は、アルミニウム、ステンレススティール、ニッケルリンメッキを施した金属等の金属基板などであると、導電性が高い。このような場合には、感受回路70が設けられる側の基板50の表面に、基板50と感受回路70とを電気的に絶縁する絶縁体層を設けるとよい。このような絶縁体層を構成する絶縁体としては、誘電体層504を構成する誘電体と同様のSiO2、Al2O3、TiO2等の酸化物、又は、Si3N4、AlN等の窒化物等が挙げられる。
【0046】
本明細書における感受素子1は、
図2(a)、(b)に示した薄膜磁石60を備えるものの他、基板50上に感受回路70が設けられたものであってもよい。さらに、感受素子1は、感受回路70のみであってもよい。
【0047】
(感受素子1の作用)
続いて、感受素子1の作用について説明する。
図3は、感受素子1の感受部71の長手方向(
図2(a)のx方向)に印加された磁界Hと感受素子1のインピーダンスZとの関係を説明する図である。
図3において、横軸が磁界H、縦軸がインピーダンスZである。なお、インピーダンスZは、
図2(a)に示す感受回路70の端子部73a、73b間に交流電流を流して測定される。よって、インピーダンスZは感受回路70のインピーダンスであるが、感受素子1のインピーダンスと表記する。
【0048】
図3に示すように、感受素子1のインピーダンスZは、感受部71の長手方向に印加する磁界Hが大きくなるにしたがい大きくなる。そして、印加する磁界Hが感受部71の異方性磁界Hkより小さい範囲において、磁界Hの変化量ΔHに対してインピーダンスZの変化量ΔZが急峻な部分(ΔZ/ΔHが大きい)を用いると、磁界Hの微弱な変化をインピーダンスZの変化量ΔZとして取り出すことができる。
図3では、ΔZ/ΔHが大きい磁界Hの中心を磁界Hbとして示している。つまり、磁界Hbの近傍(
図3で矢印で示す範囲)における磁界Hの変化量(ΔH)が高精度に測定できる。ここで、インピーダンスZの変化量ΔZが最も急峻な(ΔZ/ΔHが最も大きい)部分、つまり磁界Hbにおける単位磁界当たりのインピーダンスの変化量Zmaxを、磁界HbでのインピーダンスZ(インピーダンスZbと表記する。)で割ったもの(Zmax/Zb)が感度である。感度が高いほど、磁気インピーダンス効果が大きく、磁界又は磁界の変化を計測しやすい。そして、感度は、感受回路70に流される交流電流の周波数が高いほど、高くなる。磁界Hbは、バイアス磁界と呼ばれることがある。以下では、磁界Hbをバイアス磁界Hbと表記する。
【0049】
感受素子1は、
図2(b)に示した薄膜磁石60によって、予めバイアス磁界Hbが印加された状態となっている。
【0050】
(磁気センサ110)
図4は、第1の実施の形態が適用される磁気センサ110を説明する図である。
図4(a)は、論理記号で示す等価回路、
図4(b)は、トランジスタで示す等価回路、
図4(c)は、
図4(b)を変形した等価回路である。
【0051】
図4(a)に示すように、磁気センサ110は、周波数設定部10と、二個のインバータINV1、INV2を備える電位供給部20とを備える。前述したように、ここでは、周波数設定部10は、感受素子1と容量素子2とが直列接続されているとして説明する。以下において、感受素子1を感受素子1(Z)、容量素子2(C)と表記する場合がある。また、
図4(a)では、感受素子1を1(Z)、容量素子2を2(C)と表記する。以下同様とする。なお、インバータINV1が第1のインバータの一例であり、インバータINV2が第2のインバータの一例である。
【0052】
インバータINV1は、入力端子IN1、出力端子OUT1を備える。インバータINV2は、入力端子IN2、出力端子OUT2を備える。以下では、入力端子を入力、出力端子を出力と表記する。
インバータINV1、INV2は、入力信号の論理レベルを反転して出力信号とする素子である。つまり、インバータINV1は、入力IN1に論理レベル“H”が入力されると、出力OUT1より反転した論理レベル“L”を出力し、入力IN1に論理レベル“L”が入力されると、出力OUT1より反転した論理レベル“H”を出力する。なお、インバータINV1、INV2をそれぞれ区別しない場合は、インバータINVと表記する。また、インバータINVの出力が反転することをスイッチングすると表記することがある。
【0053】
ここで、感受素子1(Z)の一方の端子部73(例えば、端子部73a(
図2(a)参照))と容量素子2(C)の一方の端子とが接続された接続点をα点、感受素子1(Z)の他方の端子部73(例えば、端子部73b(
図2(a)参照))をβ点、容量素子2(C)の他方の端子をγ点とする。なお、端子とは、
図2(a)に示した配線を接続するために設けられたパッド状のものの他、回路基板などに設けられて、容量素子2が搭載される配線パターンなどを含む。また、端子を省略して、容量素子2の一方、容量素子2の他方と表記したり、容量素子2の一方側、容量素子2の他方側と表記したりすることがある。他の場合も同様である。
【0054】
インバータINV1とインバータINV2とは、直列接続されている。つまり、インバータINV1の出力OUT1とインバータINV2の入力IN2とが接続されている。そして、周波数設定部10のβ点が、インバータINV1の出力OUT1とインバータINV2の入力IN2との接続点に接続されている。つまり、β点、出力OUT1及びIN2は、同じ電位である。よって、β点(出力OUT1)、β点(入力IN2)などと表記し、同じ電位であることを示すことがある。そして、周波数設定部10のα点がインバータINV1の入力IN1に接続され、周波数設定部10のγ点がインバータINV2の出力OUT2に接続されている。つまり、α点及びIN1は同じ電位であり、γ点及びOUT2は同じ電位である。よって、α点(入力IN1)、γ点(出力OUT2)と表記して同じ電位であることを示すことがある。
【0055】
図4(b)では、インバータINV1、INV2を、一例としてCMOS構成のインバータとして示している。ここで、インバータINV1は、pチャネルのトランジスタpTr1とnチャネルのトランジスタnTr1とを備える。同様に、インバータINV2は、pチャネルのトランジスタpTr2とnチャネルのトランジスタnTr2とを備える。そして、インバータINV1において、トランジスタpTr1のゲートとトランジスタnTr1のゲートとが接続されて入力IN1となっている。また、トランジスタpTr1のドレインとトランジスタnTr1のドレインとが接続されて出力OUT1となっている。同様に、インバータINV2において、トランジスタpTr2のゲートとトランジスタnTr2のゲートとが接続され、入力IN2となっている。また、トランジスタpTr2のドレインとトランジスタnTr2のドレインとが接続されて出力OUT2となっている。そして、トランジスタnTr1のソースとトランジスタnTr2のソースとに基準電位である接地電位GNDが供給され、トランジスタpTr1のソースとトランジスタpTr2のソースとに電源電位V
CCが供給される。ここで、接地電位GNDが論理レベル“L”であり、電源電位V
CCが論理レベル“H”である。
【0056】
インバータINV1、INV2の動作をインバータINV1で説明する。
インバータINV1の入力IN1が接地電位GND(論理レベル“L”)であると、トランジスタpTr1がオンに、トランジスタnTr1がオフになり、出力OUT1が電源電位VCC(論理レベル“H”)になる。逆に、インバータINV1の入力IN1が電源電位VCC(論理レベル“H”)であると、トランジスタpTr1がオフに、トランジスタnTr1がオンになり、出力OUT1が接地電位GND(論理レベル“L”)になる。そして、入力IN1が、接地電位GND側からしきい電圧Vthを超えて電源電位VCC側に移行する際、入力IN1がしきい電圧Vthに達した時点で、出力OUT1が電源電位VCC(論理レベル“H”)から接地電位GND(論理レベル“L”)に反転する。逆に、入力IN1が、電源電位VCC側からしきい電圧Vthを下回って接地電位GND側に移行する際、入力IN1がしきい電圧Vthに達した時点で、出力OUT1が接地電位GND(論理レベル“L”)から電源電位VCC(論理レベル“H”)に反転する。
【0057】
図4(c)では、
図4(b)の等価回路を変形して、周波数設定部10が図の中央になるように示している。素子間の接続関係は、
図4(b)と
図4(c)とで同じである。
図4(c)から分かるように、インバータINV1、INV2は、フルブリッジを構成する。
【0058】
(磁気センサ110の動作)
図5は、第1の実施の形態が適用される磁気センサ110の動作を説明するタイミングチャートである。
図5(a)は、
図4(c)に示した磁気センサ110の等価回路、
図5(b)は、接地電位GNDを基準としたα点、β点及びγ点の各電位のタイミングチャート、
図5(c)は、γ点の電位を基準としたα点、β点の各電位のタイミングチャート、
図5(d)は、α点の電位を基準としたβ点、γ点の各電位のタイミングチャートである。なお、
図5(d)に示す、α点の電位を基準としたβ点の電位は、感受素子1(Z)に印加される電圧に該当する。なお、電位とは接地電位GNDを基準とした電圧であり、電圧とは2点間の電位差であるが、電位と電圧との両者を区別しない場合がある。
【0059】
図5(b)、
図5(c)、
図5(d)では、横軸が時間、縦軸が電圧である。そして、横軸において時刻t
1~t
6として、この順に時間が経過するとする。ここでは、接地電位GNDを“0V”、電源電位V
CCを“5V”とする。ここで、しきい電圧Vthは、接地電位GND(0V)と電源電位V
CC(5V)との間の“2.5V”とする。電位とは接地電位GNDを基準とした電圧であり、電圧とは2点間の電位差であるが、両者を区別しない場合がある。
【0060】
図5(b)において、
図5(a)を参照して、接地電位GNDを基準にしたβ点の電位、γ点の電位及びα点の電位を説明する。
時刻t
1において、α点(入力IN1)が0V側からしきい電圧Vth(2.5V)になると、インバータINV1が反転してβ点(出力OUT1)が5Vから0Vに移行する。これにより、インバータINV2のβ点(入力IN2)が5Vから0Vに移行するので、インバータINV2が反転してγ点(出力OUT2)が0Vから5Vに移行する。インバータINV1が反転する直前において、α点は、しきい電圧Vth(2.5V)であった。よって、インバータINV2が反転してγ点(出力OUT2)が0Vから5Vに移行すると、α点は、しきい電圧Vth(2.5V)に5Vが加えられた7.5Vに移行する。
【0061】
この後、7.5Vのα点から0Vのβ点に向かって、容量素子2(C)に蓄積された電荷が感受素子1(Z)を介して流れる。これにより、α点の電位は、徐々に下降する。この下降する割合である時定数は、感受素子1のインピーダンスZと容量素子2の容量Cとによって決まる。この時定数は、理論的には、感受素子1のインピーダンスZと容量素子2の容量Cとによって決まる。
【0062】
そして、時刻t2において、α点(入力IN1)が7.5Vから下降してしきい電圧Vthになると、インバータINV1が反転してβ点(出力OUT1)が0Vから5Vに移行する。これにより、インバータINV2のβ点(入力IN2)が0Vから5Vに移行するので、インバータINV2が反転してγ点(出力OUT2)が5Vから0Vに移行する。インバータINV1が反転する直前において、α点は、しきい電圧Vth(2.5V)であった。よって、インバータINV2が反転してγ点(出力OUT2)が5Vから0Vに移行すると、α点は、しきい電圧Vth(2.5V)から5Vが減じられた-2.5Vに移行する。
【0063】
この後、5Vのβ点から-2.5Vのα点に向かって、感受素子1(Z)を介して容量素子2(C)に電荷を蓄積するように電流が流れることで、α点の電位が徐々に上昇する。
【0064】
そして、時刻t3において、α点(入力IN1)が-2.5Vから上昇してしきい電圧Vth(2.5V)になると、インバータINV1が反転してβ点(出力OUT1)が5Vから0Vに移行する。これにより、インバータINV2のβ点(入力IN2)が5Vから0Vに移行するので、インバータINV2が反転してγ点(出力OUT2)が0Vから5Vに移行する。インバータINV1が反転する直前において、α点は、しきい電圧Vth(2.5V)であった。よって、インバータINV2が反転してγ点(出力OUT2)が5Vに移行すると、α点は、しきい電圧Vth(2.5V)に5Vが加えられた7.5Vに移行する。つまり、時刻t3は、時刻t1と同様である。
この後、時刻t1から時刻t3までの電位変化が繰り返される。
【0065】
図5(c)において、
図5(a)を参照して、γ点を基準にしたα点の電圧及びβ点の電圧を説明する。なお、
図5(c)では、α点の電圧を実線で、β点の電圧を破線で示している。α点の電圧及びβ点の電圧は、それぞれ
図5(b)におけるα点の電位及びβ点の電位とγ点の電位との差から得られる。
β点は、時刻t
1で5Vから-5Vに移行し、時刻t
2で-5Vから5Vに移行する。そして、時刻t
3で時刻t
1と同様に5Vから-5Vに移行する。つまり、β点とγ点との電位差は、常に±5Vである。
【0066】
一方、α点は、時刻t1でしきい電圧Vth(2.5V)となり、時刻t2で負側にしきい電圧Vthずれた電圧(-2.5V)に移行し、時刻t3でしきい電圧Vth(2.5V)に戻る。
そして、α点及びβ点とも、時刻t1から時刻t3までの電圧変化が繰り返される。
【0067】
図5(d)において、
図5(a)を参照して、α点を基準にしたβ点の電圧及びγ点の電圧を説明する。なお、
図5(d)では、β点の電圧を実線で、γ点の電圧を破線で示している。β点の電圧及びγ点の電圧は、それぞれ
図5(b)におけるβ点の電位及びγ点の電位とα点の電位との差から得られる。なお、β点の電圧は、
図5(a)から分かるように、α点とβ点との間、つまり感受素子1(Z)に印加される電圧である。
【0068】
γ点は、α点とγ点との電位差であるので、
図5(c)に示したα点の電圧を正負逆にしたものである。
β点は、時刻t
1で、しきい電圧Vth(2.5V)から、負側においてしきい電圧Vth(2.5V)と電源電位V
CC(5V)とを足した-7.5Vに移行する。そして、時刻t
1から時刻t
2にかけて、徐々に電圧が上昇し、時刻t
2で、負側においてしきい電圧Vth(-2.5V)に至る。そして、時刻t
2において、-2.5Vからしきい電圧Vth(2.5V)と電源電位V
CC(5V)とを足した7.5Vに移行する。そして、時刻t
2から時刻t
3にかけて、徐々に電圧が下降し、時刻t
3で、しきい電圧Vth(2.5V)に至る。そして、時刻t
3において、2.5Vから負側においてしきい電圧Vth(2.5V)と電源電位V
CC(5V)とを足した-7.5Vに移行する。
そして、β点は、時刻t
1から時刻t
3までの電圧変化が繰り返される。
【0069】
上記したように、感受素子1(Z)には、時刻t
1から時刻t
3までの期間を1周期とする交流電圧が印加され、交流電流が流れる。交流電流の周波数は、感受素子1のインピーダンスZと容量素子2の容量Cとで決まる。そこで、感受素子1を含む感受素子部11と容量素子2を含む容量素子部12とをまとめて周波数設定部10と表記する。そして、感受素子1のインピーダンスZは、
図3に示したように、磁界Hにより変化する。よって、周波数測定部120により、磁気センサ110に流れる交流電流の周波数、又は周波数の変化を測定することにより、感受素子1が感受した磁界又は磁界の変化が計測される。つまり、インバータINV1、INV2で構成されたフルブリッジは、交流電流を発生する発振回路として構成される。
【0070】
そして、
図5(d)に示したように、感受素子1(Z)には、7.5V(電源電位V
CC+しきい電圧Vth)と2.5V(しきい電圧Vth)とが加えられた10Vの電圧が印加される。つまり、感受素子1(Z)には、電源電位V
CCの2倍の電圧が印加される。よって、感受素子1に電源電位V
CCが印加される場合に比べ、インピーダンスZの変化率が2倍になり、磁界又は磁界の変化の計測の誤差が1/2になる。
【0071】
図6は、
図5(b)に示したタイミングチャートを詳細に説明する図である。
図6(a)は、
図4(c)に示した磁気センサ110の等価回路、
図6(b)は、接地電位GNDを基準としたα点、β点及びγ点の各電位のタイミングチャートである。
図6(b)は、
図5(b)をより詳細に説明する。
図6(b)では、横軸が時間、縦軸が電位である。横軸において時刻t
1~t
3として、この順に時間が経過するとする。また、
図5(b)と同様に、接地電位GNDを“0V”、電源電位V
CCを“5V”とし、しきい電圧Vthを“2.5V”とする。
【0072】
図6(b)では、時刻t
1は、β点(出力OUT1)が5Vから0Vに移行する時刻、時刻t
2は、β点(出力OUT1)が0Vから5Vに移行する時刻、そして、時刻t
3は、β点(出力OUT1)が5Vから0Vに移行する時刻とする。
【0073】
以下では、時刻t
2によりインバータINV1、INV2の動作を説明する。
図5(b)においては、α点(入力IN1)が7.5Vから下降してしきい電圧Vth(2.5V)になると、インバータINV1が反転して、β点(出力OUT1)が0Vから5Vに移行するとして説明した。しかし、インバータINV1、INV2は、反転に際して入力に対応した出力が得られるまでに遅延が生じる。これを、遅延時間tdと表記する。ここでは、インバータINV1、INV2は、同じ遅延時間tdを有しているとする。すると、時刻t
2の直前において、入力IN1がしきい電圧Vthに達しても、出力OUT1は、遅延時間td後である時刻t
2において0Vから5Vに移行する。同様に、インバータINV1が反転してβ点(入力IN
2)が0Vから上昇してしきい電圧Vth(2.5V)に移行しても、インバータINV2の出力OUT2は、時刻t
2から遅延時間td後に5Vから0Vに移行する。つまり、二個のインバータINV1、INV2を備える磁気センサ110では、半周期に2×tdの遅延時間を有することになる。感受素子1の感度は、流す交流電流の周波数が高いほど高い。しかし、この遅延時間により、交流電流の周波数を高く設定しにくい。
【0074】
上記では、インバータINV1は、トランジスタpTr1、nTr1のみを備え、インバータINV2は、トランジスタpTr2、nTr2のみを備えているとして説明した。しかし、実際に利用できるインバータは、駆動能力を高めるためのバッファなどを備えて構成されている。よって、バッファなどにより、信号が伝播される段数が多くなると、さらに遅延時間が大きくなる。このようなインバータを磁気センサ110の電位供給部20に用いると、交流電流の周波数を高くしづらい。
【0075】
そこで、インバータINV1、INV2には、ゲート容量が小さく、駆動能力が高く、遅延時間が短いインバータを用いることがよい。特に、遅延時間を短くするために、信号が伝播される段数が少ないことがよい。このようなインバータとして、バッファを備えない、アンバッファタイプのインバータがよい。このようなインバータとして、電源電位が1.65V~5.5V、電源電位VCCが5Vで負荷容量50pFの場合に伝播遅延時間tdが1.7ns(Typ)、3ns(Max)、電力消費容量Cpdが7pF、出力電流が32mAのインバータが挙げられる。
【0076】
[第2の実施の形態]
第1の実施の形態が適用される磁気センサ110では、電位供給部20は、二個のインバータINV1、INV2を備えていた。第2の実施の形態が適用される磁気センサ111は、一個のシュミットトリガインバータINV3を備える。このようにすることで、インバータの数が少なくて済む。なお、シュミットトリガインバータは、シュミットインバータ、又はシュミットトリガタイプのインバータなどと呼ばれることがある。
【0077】
(磁気センサ111)
図7は、第2の実施の形態が適用される磁気センサ111を説明する図である。
図7(a)は、論理記号で示す等価回路、
図7(b)は、トランジスタで示す等価回路、
図7(c)は、磁気センサ111の動作を説明するタイミングチャートである。
図7(c)では、接地電位GNDを基準としたα点、β点の電位を示す。なお、α点を実線で、β点を破線で示す。
図7(c)において、横軸が時間、縦軸が電圧である。横軸において時刻t
1~t
3として、この順に時間が経過するとする。
【0078】
図7(a)に示すように、磁気センサ111は、周波数設定部10と、一個のシュミットトリガインバータINV3を備える電位供給部21とを備える。周波数設定部10は、第1の実施の形態が適用される磁気センサ110と同様であって、感受素子1と容量素子2とが直列接続されているとして説明する。
【0079】
電位供給部20のシュミットトリガインバータINV3は、入力IN3、出力OUT3を備える。周波数設定部10のα点とシュミットトリガインバータINV3の入力IN3とが接続されている。周波数設定部10のβ点がシュミットトリガインバータINV3の出力OUT3に接続されている。そして、周波数設定部10のγ点が接地され、接地電位GNDが供給されている。
【0080】
図7(b)では、シュミットトリガインバータINV3を、疑似的にCMOS構成のインバータとして示している。ここで、シュミットトリガインバータINV3は、pチャネルのトランジスタpTr3とnチャネルのトランジスタnTr3とを備える。そして、シュミットトリガインバータINV3において、トランジスタpTr3のゲートとトランジスタnTr3のゲートとが接続され、入力IN3となっている。また、トランジスタpTr3のドレインとトランジスタnTr3のドレインとが接続され、出力OUT3となっている。そして、トランジスタnTr3のソースに、接地電位GNDが供給され、トランジスタpTr3のソースに、電源電位V
CCが供給されている。
【0081】
図7(c)に示すタイミングチャートにより、磁気センサ111の動作を説明する。ここでは、接地電位GNDを“0V”、電源電位V
CCを“5V”とする。なお、シュミットトリガインバータINV3の出力OUT3が、接地電位GND(0V)である場合を論理レベル“L”、電源電位V
CC(5V)である場合を論理レベル“H”とする。シュミットトリガインバータINV3は、出力OUT3の電位が上昇する(“L”から“H”になる)ときと、下降する(“H”から“L”になる)ときとで異なるしきい電圧を有している。出力OUT3の電位が上昇する(“L”から“H”になる)ときをしきい電圧V
L、出力OUT3の電位が下降する(“H”から“L”になる)ときをしきい電圧V
Hとする。例えば、しきい電圧V
Lは1.4V、しきい電圧V
Hは2.4Vである。
【0082】
時刻t1で、α点(入力IN3)の電位が5V(電源電位VCC)側から下降して、しきい電圧VLに達すると、シュミットトリガインバータINV3は反転して、β点(出力OUT3)が0Vから5Vに上昇する。すると、5Vのβ点(出力OUT3)側から感受素子1(Z)を介して容量素子2(C)に電流が流れ、容量素子2(C)が充電されていく。これにより、α点(入力端子IN3)の電位が徐々に上昇する。
【0083】
時刻t2で、α点(入力IN3)がしきい電圧VHに達すると、シュミットトリガインバータINV3は反転して、β点(出力OUT3)が5Vから0Vに移行する。すると、α点の電位よりβ点の電位が低くなるため、容量素子2(C)に蓄積されていた電荷が感受素子1(Z)を介して放電される。これにより、α点(入力IN3)の電位が徐々に低下する。
そして、時刻t3において、α点(入力IN3)の電位が、しきい電圧VLに達すると、シュミットトリガインバータINV3が反転して、β点(出力OUT3)が0Vから5Vに移行する。つまり、時刻t3は、時刻t1と同様である。
この後、時刻t1から時刻t3までの電位変化が繰り返される。
【0084】
感受素子1(Z)には、α点とβ点との電位差が印加される。つまり、
図7(c)において、時刻t
1から時刻t
3との間において、矢印で示す電圧が印加される。すなわち、感受素子1(Z)には、交流電圧が印加され、交流電流が流れる。つまり、電位供給部21が一個のインバータ(シュミットトリガインバータINV3)のみで構成されたハーフブリッジであっても、感受素子1(Z)に交流電流を流す発振回路となる。
【0085】
しかし、電位供給部21が一個のインバータ(シュミットトリガインバータINV3)で構成されたハーフブリッジでは、感受素子1(Z)に印加される電圧は、
図7(c)に示したように、電源電位V
CCに比べて小さい。
【0086】
[第3の実施の形態]
第1の実施の形態が適用される磁気センサ110では、電位供給部20は、二個のインバータINV1、INV2を用いて構成されていた。前述したように、二個のインバータINV1、INV2が順に反転する。このため、一個のインバータINVの反転に伴う遅延時間をtdとすると、磁気センサ110には二個のインバータINV(インバータINV1、INV2)が含まれるために、半周期に2倍の遅延時間(2×td)が含まれる。このような遅延時間は、磁気センサ110における交流電流の周波数を高く設定しづらくする。
【0087】
図8は、
図6(a)、(b)に示した第1の実施の形態が適用される磁気センサ110において、β点から取り出した差動信号D-とγ点とから取り出した差動信号D+とを伝送させる場合のコモンモードノイズを説明する図である。
図8(a)は、β点から取り出した差動信号D-、
図8(b)は、γ点から取り出した差動信号D+、
図8(c)は、差動信号D+、D-が伝送される際に発生するコモンモードノイズである。
【0088】
図8(a)、
図8(b)に示すように、差動信号D-に対して、差動信号D+には、インバータINVが反転する毎に生じる遅延時間tdの2倍(2×td)の遅延、所謂スキューが生じる。すると、磁気センサ110において、2倍の遅延時間tdが生じると、感受素子1(Z)と容量素子2(C)で決まる理論上の周波数にならない。このため、磁気センサ110は、感度が低下する。また、
図8(c)に示すように、このスキューによりコモンモードノイズが発生する。
【0089】
また、インバータINV3は、電源電位VCCの変動によりしきい電圧VH、VLが変動しやすい。しきい電圧VH、VLが変動すると、交流電流の周波数が変動してしまう。
【0090】
そこで、第3の実施の形態が適用される磁気センサ112では、差動信号D+、D-にスキューが生じないようにしている。つまり、完全差動により差動信号D+、D-を伝送させる。このようにすれば、差動信号D+、D-の伝送においてスキューの発生が抑制されるため、電磁波が互いに打ち消しあって、コモンモードノイズの発生が抑制される。この際、差動信号D+、D-の伝送にツイストペアケーブルを用いれば、よりコモンモードノイズの発生が抑制される。
【0091】
(磁気センサ112)
そこで、第3の実施の形態が適用される磁気センサ112では、二個のインバータINVが順に動作するのではなく、差動信号D+、D-を出力する二個の出力段が同時に動作するようにしている。なお、第1の実施の形態が適用される磁気センサ110では、二個のインバータが順に動作していた。二個の出力段が同時に動作することで、磁気センサ112では、遅延時間tdが2倍にならず、交流電流の周波数を高く設定しやすい。
【0092】
図9は、第3の実施の形態が適用される磁気センサ112の論理記号で示す等価回路である。
磁気センサ112は、電位供給部22に完全差動アンプUと、抵抗R1、R2とを備える。周波数設定部10は、第1の実施の形態及び第2の実施の形態と同様である。
【0093】
完全差動アンプUは、二つの差動入力IN+、IN-と、二つの差動出力OUT+、OUT-とを備える。そして、電源電位V
CC、V
EEが供給される。そして、
図9に示すように、周波数設定部10のα点が完全差動アンプUの差動入力IN+に接続され、β点が完全差動アンプUの差動出力OUT-に接続され、γ点が完全差動アンプUの差動出力OUT+に接続されている。そして、差動出力OUT-から差動信号D-が出力され、差動出力OUT+から差動信号D+が出力される。
【0094】
そして、抵抗R1と抵抗R2とは、直列接続されるとともに、周波数設定部10に並列接続されている。抵抗R1、R2が直列接続された接続点であるδ点が差動入力IN-に接続されている。なお、抵抗R1の抵抗R2に接続されていない側が周波数設定部10のβ点に接続され、抵抗R2の抵抗R1に接続されていない側が周波数設定部10のγ点に接続されている。抵抗R1と抵抗R2との抵抗値は、同じであってもよい。ここでは、抵抗R1及び抵抗R2のそれぞれの抵抗値は、同じであるとする。なお、抵抗R1、R2は、抵抗素子の一例である。
【0095】
図9に示すように、完全差動アンプUは、フィードバック抵抗を入れず、オープンループゲインにより使用されている。よって、差動入力IN+と差動入力IN-との間にわずかな電位差が生じただけでも、完全差動アンプUは、飽和してスイッチ的な動作を行う。以下に説明するように、磁気センサ112は、完全差動アンプUのスイッチ的な動作に基づいて動作する。
【0096】
磁気センサ112において、β点、差動出力OUT-及び差動信号D-は、同じ電位である。よって、適宜、β点(差動信号D-)、差動信号D-(差動出力OUT-、β点)などと表記し、同じ電位であることを示すことがある。また、γ点、差動出力OUT+及び差動信号D+は、同じ電位である。よって、適宜、γ点(差動信号D+)、差動信号D+(差動出力OUT+、γ点)などと表記し、同じ電位であることを示すことがある。そして、α点及び差動入力IN+は、同じ電位である。よって、適宜、α点(差動入力IN+)又は差動入力IN+(α点)と表記し、同じ電位であることを示すことがある。さらに、δ点及び差動入力IN-は、同じ電位である。よって、δ点(差動入力IN-)又は差動入力IN-(δ点)と表記し、同じ電位であることを示すことがある。
【0097】
(完全差動アンプU)
図10は、完全差動アンプUをトランジスタで示す等価回路の一例である。ここでは、コモンモード電圧Vocmを設定する回路を簡略化のために省略している。
完全差動アンプUは、差動入力IN+、IN-がそれぞれのベースに接続されるnpnトランジスタQ1、Q2と、直列接続されたpnpトランジスタQ3とnpnトランジスタQ5と、直列接続されたpnpトランジスタQ4とnpnトランジスタQ6とを備える。そして、完全差動アンプUは、定電流源I1、I2、I3を備える。
npnトランジスタQ1、Q2のエミッタは、共通に定電流源I1の一方の側に接続されている。定電流源I1の他方の側は、電源電位V
EEに接続されている。npnトランジスタQ1のコレクタは、pnpトランジスタQ3のエミッタに接続され、npnトランジスタQ2のコレクタは、pnpトランジスタQ4のエミッタに接続されている。
【0098】
pnpトランジスタQ3のエミッタは、定電流源I2の一方の側に接続され、pnpトランジスタQ4のエミッタは、定電流源I3の一方の側に接続されている。定電流源I2の他方の側及び定電流源I3の他方の側は、電源電位VCCに接続されている。pnpトランジスタQ3とpnpトランジスタQ4とは、ベースが共通に接続され、npnトランジスタQ5とnpnトランジスタQ6とは、ベースが共通に接続されている。npnトランジスタQ5、Q6のエミッタは、電源電位VEEに接続されている。pnpトランジスタQ3のコレクタとnpnトランジスタQ5のコレクタとが差動出力OUT-に接続され、pnpトランジスタQ4のコレクタとnpnトランジスタQ6のコレクタとが差動出力OUT+に接続されている。
【0099】
上述したように、ここでは、コモンモード電圧Vocmを設定する回路の記載を省略した。コモンモード電圧Vocmを設定する回路は、差動出力OUT+と差動出力OUT-の中点がコモンモード電圧Vocmとなるように、npnトランジスタQ5、Q6を制御する。以下では、コモンモード電圧Vocmは、0Vに設定されているとして説明する。なお、コモンモード電圧Vocmを別の電位に設定してもよい。
【0100】
npnトランジスタQ1とnpnトランジスタQ2とは、差動入力ペアを構成し、入力IN+、IN-からの信号が同時に入力される。そして、npnトランジスタQ1とnpnトランジスタQ2との両方から取られた電流により、pnpトランジスタQ3及びnpnトランジスタQ5の高インピーダンスなコレクタと、pnpトランジスタQ4及びnpnトランジスタQ6の高インピーダンスなコレクタとから電圧を生成して、差動出力OUT-、OUT+に出力する。
【0101】
(磁気センサ112の動作)
次に、磁気センサ112の動作を説明する。
図11は、第3の実施の形態が適用される磁気センサ112の動作を説明するタイミングチャートである。
図11(a)は、β点(差動信号D-)、γ点(差動信号D+)、α点(差動入力IN+)の各電位のタイミングチャート、
図11(b)は、感受素子1に印加される電圧のタイミングチャートである。
図11(a)において、β点(差動信号D-)の電位をβ点(D-)、γ点(差動信号D+)の電位をγ点(D+)、そしてα点(差動入力IN+)の電位をα点(IN+)と表記する。なお、β点(差動信号D-)の電位、γ点(差動信号D+)の電位、そしてα点(差動入力IN+)の電位は、接地電位GNDを基準とした電位である。そして、
図11(b)において、感受素子1に印加される電圧を“感受素子の電圧”と表記する。そして、
図11(a)、
図11(b)では、横軸が時間、縦軸が電圧である。そして、横軸において時刻t
1~t
6として、この順に時間が経過するとする。
【0102】
ここでは、完全差動アンプUは、差動出力OUT+と差動出力OUT-とから出力される信号が、電位Vp(V)と電位-Vp(V)との間で振動するとする。なお、以下では、電位Vp(V)、電位-Vp(V)を、Vp、-Vpと表記する。
図11(a)に示すように、β点(差動信号D-)及びγ点(差動信号D+)は、差動信号であるので、位相が逆になる。
【0103】
時刻t1の直前において、β点(差動信号D-)がVp、γ点(差動信号D+)が-Vpであるとする。この場合、抵抗R1と抵抗R2との接続点(δ点(差動入力IN-))は、Vp+(-Vp)となり、0Vになる。なお、δ点(差動入力IN-)は、β点(差動信号D-)とγ点(差動信号D+)との中間の電位となるので、常に0Vである。後述するように、δ点(差動入力IN-)の電位は、しきい電圧として機能する。
【0104】
そして、時刻t1において、α点(差動入力IN+)が-Vp側からVp側に移行する際に、α点(差動入力IN+)がδ点(差動入力IN-)の0Vより高くなると、差動出力OUT-がVpから-Vpに反転し、β点(差動信号D-)がVpから-Vpに移行する。同時に、差動出力OUT+が-VpからVpに反転し、γ点(差動信号D+)が-VpからVpに移行する。すると、0Vであったα点(差動入力IN+)は、γ点(差動信号D+)が-VpからVpに移行するので、2Vpに移行する。この後、β点(差動信号D-)が-Vpであるので、α点(差動入力IN+)は、容量素子2(C)から感受素子1(Z)を介して電荷が放電されることで、2Vpから負側(-2Vp側)に向かって徐々に下降する。
【0105】
時刻t2において、α点(差動入力IN+)が2Vpから負側に向かって下降する際に、α点(差動入力IN+)がδ点(差動入力IN-)の0Vより低くなると、差動出力OUT-が-VpからVpに反転し、β点(差動信号D-)が-VpからVpに移行する。同時に、差動出力OUT+がVpから-Vpに反転し、γ点(差動信号D+)がVpから-Vpに移行する。すると、0Vであったα点(差動入力IN+)は、γ点(差動信号D+)がVpから-Vpに移行するので、-2Vpに移行する。この後、β点(差動信号D-)がVpであるので、α点(差動入力IN+)は、容量素子2(C)に感受素子1(Z)を介して電荷が充電されることで、-2Vpから正側(+2Vp側)に向かって徐々に上昇する。
【0106】
時刻t3において、α点(差動入力IN+)が-2Vpから正側に向かって上昇する際に、α点(差動入力IN+)がδ点(差動入力IN-)の0Vより高くなると、差動出力OUT-がVpから-Vpに反転し、β点(差動信号D-)がVpから-Vpに移行する。同時に、差動出力OUT+が-VpからVpに反転し、γ点(差動信号D+)が-VpからVpに移行する。すると、0Vであったα点(差動入力IN+)は、γ点(差動信号D+)が-VpからVpに移行するので、2Vpに移行する。この後、β点(差動信号D-)が-Vpであるので、α点(差動入力IN+)は、容量素子2(C)から感受素子1(Z)を介して電荷が放電されることで、2Vpから負側(-2Vp側)に向かって徐々に下降する。つまり、時刻t3は、時刻t1と同様である。
この後、時刻t1から時刻t3までを1周期とした電位変化が繰り返される。
【0107】
図11(b)に示す感受素子1(Z)の電圧(感受素子の電圧)は、α点(差動入力IN+)を基準としたβ点(差動信号D-)の電圧である。よって、感受素子1(Z)の電圧(感受素子の電圧)は、
図10(a)に示したβ点(差動信号D-)の電位からα点(差動入力IN+)の電位を引き算したものである。なお、感受素子1(Z)の電圧は、絶対値で評価し、電圧が大きくなる又は小さくなると表記する。
【0108】
時刻t1において、感受素子1(Z)の電圧は、0Vから-3Vpに大きくなる。その後、感受素子1(Z)を介して容量素子2(C)の電荷が放電されることで、感受素子1(Z)の電圧は、-3Vpから0Vへと徐々に小さくなる。
時刻t2において、感受素子1(Z)の電圧は、0Vから3Vpに大きくなる。その後、感受素子1(Z)を介して容量素子2(C)に電荷が充電されることで、感受素子1(Z)の電圧は、3Vpから0Vに向かって徐々に小さくなる。
そして、時刻t3において、感受素子1(Z)の電圧は、0Vから-3Vpに大きくなる。その後、感受素子1(Z)を介して容量素子2(C)の電荷が放電されることで、感受素子1(Z)の電圧は、-3Vpから0Vに向かって徐々に小さくなる。つまり、時刻t3は、時刻t1と同じである。
そして、時刻t1から時刻t3までを1周期として電圧変化が繰り返される。
【0109】
以上説明したように、磁気センサ112は、差動入力IN+(α点)の電位が差動入力IN-(δ点)の電位(ここでは、0V)より低くなると、差動出力OUT-が-VpからVpに反転し、差動信号D-(β点)が-VpからVpに移行する。同時に、差動出力OUT+がVpから-Vpに反転し、差動信号D+(γ点)がVpから-Vpに移行する。そして、差動入力IN+(α点)の電位が差動入力IN-(δ点)の電位(ここでは、0V)より高くなると、差動出力OUT-がVpから-Vpに反転し、差動信号D-(β点)がVpから-Vpに移行する。同時に、差動出力OUT+が-VpからVpに反転し、差動信号D+(γ点)が-VpからVpに移行する。
【0110】
差動入力IN+(α点)の電位は、容量素子2(C)の電荷が感受素子1(Z)を介して充放電されることで変化する。つまり、容量素子2(C)の電荷が感受素子1(Z)を介して充放電されることで、差動信号D-(β点)と差動信号D+(γ点)とには、時刻t
1から時刻t
3までの期間を1周期とする交流電圧が発生する。そして、この周期は、感受素子1のインピーダンスZと容量素子2の容量Cとによって定められる時定数によって決まる。そして、感受素子1のインピーダンスZは、
図3に示したように、磁界Hにより変化する。よって、周波数測定部120により、磁気センサ110に流れる交流電流の周波数、又は周波数の変化を測定することにより、感受素子1が感受した磁界又は磁界の変化が計測される。つまり、完全差動アンプUは、交流電流を発生する発振回路として構成される。
【0111】
そして、
図11(b)に示したように、感受素子1(Z)には、3Vpの電圧が印加される。つまり、感受素子1(Z)には、出力OUT+、OUT-から出力される信号Vpの3倍の電圧が印加される。よって、感受素子1に信号Vpが印加される場合に比べ、インピーダンスZの変化率が3倍になり、磁界又は磁界の変化の計測の誤差が1/3になる。
【0112】
なお、差動入力IN-(δ点)には、予め定められた電位を別の電源、例えば電池などを用いて別途供給してもよい。
【0113】
以上説明したように、完全差動アンプUでは、
図10に示したように、
pnpトランジスタQ3とnpnトランジスタQ5で構成される出力段とpnpトランジスタQ4とnpnトランジスタQ6で構成される出力段とが同時に動作する。よって、第1の実施の形態が適用される磁気センサ110では二個のインバータINV1、INV2が順に動作する場合
に遅延時間tdが2倍になることに比べ、磁気センサ112では、遅延時間tdが生じたとしても2倍にならない。また、差動信号D+、D-間にスキューの発生が抑制される。これにより、コモンモードノイズの発生が抑制される。
【0114】
図12は、第3の実施の形態が適用される磁気センサ112からの差動信号D+、D-の一例を説明する図である。
図12(a)は、外部から永久磁石を近づけない場合、
図12(b)は、外部から永久磁石を近づけた場合である。
図12(a)、
図12(b)では、差動信号D+を実線で、差動信号D-を破線で示している。なお、
図12(b)では、
図12(a)に示した差動信号D+を比較のために一点鎖線(
図12(b)において、(a)D+として表記する。)で示している。
図12(a)、
図12(b)において、横軸は、時間で一目盛りが2ns、縦軸は、電圧で一目盛りが200mVである。永久磁石を近づけた場合と、近づけない場合とで、磁気センサ112の感受素子1(Z)に印加される磁界Hが異なる(
図3参照)。すると、
図3に示したように、感受素子1のインピーダンスZが異なる。よって、永久磁石を近づけた場合と、近づけない場合とで、磁気センサ112の交流の周波数が異なる。
【0115】
図12(a)に示すように、永久磁石を近づけない場合には、磁気センサ112は、4ns~5nsの周期、つまり200MHz~250MHzの周波数で動作している。そして、
図12(b)に示すように、永久磁石を近づけた場合には、磁気センサ112は、9nsの周期、つまり111MHzの周波数で動作している。つまり、磁気センサ112は、磁界Hの変化により周波数が変化する。このように、磁気センサ112に流れる交流電流の周波数を測定することで、磁界又は磁界の変化が計測できる。
【0116】
なお、完全差動アンプUの代わりに、差動伝送ドライバを用いることも考えられるが、差動伝送ドライバは、定電流出力であるため、交流電流を発生させる発振回路として構成しづらい。
【0117】
図13は、第3の実施の形態が適用される磁気センサ112の変形例の磁気センサ112′を説明する図である。磁気センサ112′は、磁気センサ112に、完全差動アンプU2を設けている。なお、磁気センサ112の部分の完全差動アンプU、電源電位V
CC、V
EEを、完全差動アンプU1、電源電位V
CC1、V
EE1とする。
【0118】
完全差動アンプU2において、差動入力IN+には周波数設定部10のβ点が接続され、差動入力IN-には周波数設定部10のγ点が接続されている。そして、差動出力OUT-は抵抗R3を介して同軸ケーブルに接続されている。そして、差動出力OUT+は抵抗R4を介して他の同軸ケーブルに接続されている。なお、抵抗R3、R4は、出力インピーダンスを設定する。そして、完全差動アンプU2には、電源電位VCC2、VEE2が接続されている。なお、電源電位VCC1、VCC2は同じ電圧であってもよく、電源電位VEE1、VEE2は同じ電圧であってもよい。
【0119】
完全差動アンプU2は、バッファとして機能し、完全差動アンプU2の川下側に設けられる回路や川下側で発生するノイズなどが、磁気センサ112に影響することを抑制する。
【0120】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は本実施の形態に限定されるものではない。本発明の趣旨に反しない限りにおいては様々な変形や組み合わせを行っても構わない。
【符号の説明】
【0121】
1…感受素子、2…容量素子、10…周波数設定部、11…感受素子部、12…容量素子部、20、21、22…電位供給部、50…基板、60…薄膜磁石、70…感受回路、71…感受部、72…接続部、73、73a、73b…端子部、80、80a、80b…ヨーク、100…磁気センサシステム、110、111、112、112′…磁気センサ、120…周波数測定部、130…磁界算出部、501…密着層、502…制御層、503…硬磁性体層、504…誘電体層、505…軟磁性体層、506…導電体層、C…容量、D+、D-…差動信号、GND…接地電位、H…磁界、Hb…バイアス磁界、Hk…異方性磁界、I1、I2、I3…定電流源、INV、INV1、INV2…インバータ、INV3…シュミットトリガインバータ、Q1、Q2、Q5、Q6…npnトランジスタ、Q3、Q4…pnpトランジスタ、VCC、VCC1、VCC2、VEE、VEE1、VEE2…電源電位、Z…インピーダンス