(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】非水系二次電池用バインダー組成物、非水系二次電池機能層用スラリー組成物、非水系二次電池用機能層、非水系二次電池用電池部材および非水系二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 50/411 20210101AFI20240903BHJP
H01M 50/403 20210101ALI20240903BHJP
H01M 50/434 20210101ALI20240903BHJP
H01M 50/443 20210101ALI20240903BHJP
H01M 50/446 20210101ALI20240903BHJP
H01M 50/451 20210101ALI20240903BHJP
H01M 50/457 20210101ALI20240903BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240903BHJP
H01M 4/139 20100101ALI20240903BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
H01M50/411
H01M50/403 D
H01M50/434
H01M50/443 B
H01M50/443 E
H01M50/443 M
H01M50/446
H01M50/451
H01M50/457
H01M4/13
H01M4/139
H01M4/62 Z
(21)【出願番号】P 2020548260
(86)(22)【出願日】2019-09-02
(86)【国際出願番号】 JP2019034467
(87)【国際公開番号】W WO2020066479
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2018185782
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】大久保 雄輝
(72)【発明者】
【氏名】山本 徳一
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/002366(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/031163(WO,A1)
【文献】特開2016-181443(JP,A)
【文献】国際公開第2018/163969(WO,A1)
【文献】特開2017-117597(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 50/411
H01M 4/62
H01M 4/139
H01M 4/13
H01M 50/449
H01M 50/443
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状重合体、菌、および水を含み、
前記菌の平均サイズが0.5μm以下である、非水系二次電池用バインダー組成物
(但し、アルミナ粒子または酸化マグネシウム粒子を含むものを除く。)。
【請求項2】
表面張力が、22mN/m以上55mN/m以下である、請求項1に記載の非水系二次電池用バインダー組成物。
【請求項3】
前記粒子状重合体のテトラヒドロフラン不溶分量が、10質量%以上95質量%以下である、請求項1または2に記載の非水系二次電池用バインダー組成物。
【請求項4】
請求項1~3の何れかに記載の非水系二次電池用バインダー組成物を用いて調製される、非水系二次電池機能層用スラリー組成物。
【請求項5】
更に機能性粒子を含む、請求項4に記載の非水系二次電池機能層用スラリー組成物。
【請求項6】
請求項4または5に記載の非水系二次電池機能層用スラリー組成物を用いて形成される、非水系二次電池用機能層。
【請求項7】
請求項6に記載の非水系二次電池用機能層を備える、非水系二次電池用電池部材。
【請求項8】
請求項7に記載の非水系二次電池用電池部材を備える、非水系二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系二次電池用バインダー組成物、非水系二次電池機能層用スラリー組成物、非水系二次電池用機能層、非水系二次電池用電池部材および非水系二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池などの非水系二次電池(以下、単に「二次電池」と略記する場合がある。)は、小型で軽量、且つエネルギー密度が高く、更に繰り返し充放電が可能という特性があり、幅広い用途に使用されている。そして、非水系二次電池は、一般に、電極(正極および負極)、並びに、正極と負極とを隔離して正極と負極との間の短絡を防ぐセパレータなどの非水系二次電池用電池部材(以下、単に「電池部材」と略記する場合がある。)を備えている。
【0003】
ここで、電池部材としては、結着材としての重合体を含み、任意に、電池部材に所望の機能を発揮させるために配合されている粒子(以下、「機能性粒子」という。)を含んでなる機能層を備える部材が使用されている。
具体的に、二次電池のセパレータとしては、セパレータ基材の上に、結着材を含む接着層や、結着材と機能性粒子としての非導電性粒子とを含む多孔膜層を備えるセパレータが使用されている。また、二次電池の電極としては、集電体の上に、結着材と機能性粒子としての電極活物質粒子とを含む電極合材層を備える電極や、集電体上に電極合材層を備える電極基材の上に、さらに上述の接着層や多孔膜層を備える電極が使用されている。
【0004】
上述した機能層は、例えば、結着材としての重合体と、任意に含まれる機能性粒子とが、溶媒中に分散および/または溶解してなる非水系二次電池機能層用スラリー組成物を乾燥することで形成することができる。そして、二次電池の更なる性能向上を達成すべく、スラリー組成物の改良が従来から試みられている。例えば、スラリー組成物の調製に用いる溶媒の菌の個数等を制御して、二次電池の性能を向上させる手法が検討されている(特許文献1および2参照)。
【0005】
特許文献1では、菌の個数が所定の範囲となるように硫酸還元細菌が加えられた溶媒を用いて、正極活物質、導電材、増粘剤、結着材および溶媒を含有するリチウムイオン二次電池用正極ペーストを調製することで、リチウムイオン二次電池の特性劣化を引き起こす硫酸根(SO4
2-)を低減させている。
特許文献2では、菌の個数が所定の範囲となるように紫外線などを照射され、且つpHおよび温度がそれぞれ所定の範囲内である溶媒を用いて、負極活物質および溶媒を含有するリチウムイオン二次電池負極用スラリーを調製することで、バクテリア由来のセルラーゼにより増粘剤であるカルボキシメチルセルロース塩が加水分解されるのを抑制して、負極スラリーの粘性低下を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2013-134924号公報
【文献】特開2013-114959号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記従来の技術では、スラリー組成物を調製する際に、得られるスラリー組成物が過度に増粘してしまう場合がある等、スラリー組成物の粘度安定性を十分に確保することが困難であった。また、当該スラリー組成物を用いて得られる機能層の接着性を確保しつつ、二次電池に優れたサイクル特性を発揮させることができなかった。したがって、上記従来の技術には、スラリー組成物の粘度安定性を向上させると共に、機能層の接着性および二次電池のサイクル特性を高める点において、改善の余地があった。
【0008】
そこで、本発明は、粘度安定性に優れる非水系二次電池機能層用スラリー組成物を調製可能な非水系二次電池用バインダー組成物の提供を目的とする。
また、本発明は、粘度安定性に優れる非水系二次電池機能層用スラリー組成物の提供を目的とする。
そして、本発明は、接着性に優れる非水系二次電池用機能層の提供を目的とする。
更に、本発明は、非水系二次電池に優れたサイクル特性を発揮させる非水系二次電池用電池部材の提供を目的とする。
加えて、本発明は、サイクル特性に優れる非水系二次電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。まず、本発明者は、バインダー組成物の調製に際し、製造工程において意図せず混入しうる菌が存在する点に着目した上で、それらの菌の内、サイズの大きいものが特にバインダー組成物中の重合体の安定性を著しく低下させることを見出した。そして、本発明者は、含有される菌の平均サイズが所定の値以下であるバインダー組成物によれば、粘度安定性に優れるスラリー組成物を調製可能であると共に、機能層の接着性および二次電池のサイクル特性を高めることが可能となることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池用バインダー組成物は、重合体、菌、および水を含み、前記菌の平均サイズが0.5μm以下である、ことを特徴とする。このように、水中に重合体および菌を含むバインダー組成物において、菌の平均サイズを上述した値以下となるように制御すれば、当該バインダー組成物を用いて調製されるスラリー組成物の粘度安定性を向上させることができ、また、スラリー組成物を用いて得られる機能層の接着性を高めつつ、当該機能層を備える二次電池に優れたサイクル特性を発揮させることができる。
なお、本発明において、バインダー組成物に含まれる菌の「平均サイズ」は、バインダー組成物に含まれる菌を培養し、培地の任意の1cm×1cmの区画に存在する生菌のサイズを測定し、得られた測定値の算術平均値として算出することができる。ここで、本発明において、バインダー組成物に含まれる菌の「サイズ」は、電子顕微鏡で単一の生菌を観測した際に測定される最小径(例えば、球菌である場合は球の直径であり、桿菌である場合は短径である。)を意味する。
【0011】
ここで、本発明の非水系二次電池用バインダー組成物は、表面張力が、22mN/m以上55mN/m以下であることが好ましい。表面張力が上述した範囲内であるバインダー組成物を用いれば、スラリー組成物の粘度安定性、機能層の接着性、および二次電池のサイクル特性を十分に高めることができる。
なお、本発明において、バインダー組成物の「表面張力」は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0012】
そして、本発明の非水系二次電池用バインダー組成物は、前記重合体のテトラヒドロフラン不溶分量が、10質量%以上95質量%以下であることが好ましい。テトラヒドロフラン不溶分量(以下、「THF不溶分量」と称する場合がある。)が上述した範囲内である重合体は、容易に調製可能であると共に、当該重合体を含むバインダー組成物を用いれば、二次電池のサイクル特性を更に向上させることができる。
なお、本発明において、重合体の「テトラヒドロフラン不溶分量」は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0013】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池機能層用スラリー組成物は、上述した何れかの非水系二次電池用バインダー組成物を用いて調製されることを特徴とする。上述した何れかのバインダー組成物を含むスラリー組成物は、粘度安定性に優れる。そして、当該スラリー組成物から機能層を形成すれば、機能層の接着性を高めることができると共に、当該機能層を備える電池部材により、二次電池に優れたサイクル特性を発揮させることができる。
【0014】
ここで、本発明の非水系二次電池機能層用スラリー組成物は、さらに機能性粒子を含むことができる。上述したスラリー組成物が機能性粒子、即ち電極活物質粒子または非導電性粒子を含む場合、当該スラリー組成物を用いて、接着性に優れ、二次電池に優れたサイクル特性を発揮させうる電極合材層または多孔膜層を形成することができる。
【0015】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池用機能層は、上述した何れかの非水系二次電池機能層用スラリー組成物を用いて形成されることを特徴とする。上述した何れかのスラリー組成物から形成された機能層は、接着性に優れる。そして、当該機能層を備える電池部材を用いれば、二次電池に優れたサイクル特性を発揮させることができる。
【0016】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池用電池部材は、上述した非水系二次電池用機能層を備えることを特徴とする。上述した機能層を備える電池部材によれば、二次電池に優れたサイクル特性を発揮させることができる。
【0017】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の非水系二次電池は、上述した非水系二次電池用電池部材を備えることを特徴とする。上述した電池部材を備える二次電池は、サイクル特性に優れる。
【0018】
なお、本明細書では、結着材および電極活物質粒子を含む機能層を「電極合材層」と、結着材および非導電性粒子を含む機能層を「多孔膜層」と、結着材を含み、電極活物質粒子および非導電性粒子の何れも含まない機能層を「接着層」と称する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、粘度安定性に優れる非水系二次電池機能層用スラリー組成物を調製可能な非水系二次電池用バインダー組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、粘度安定性に優れる非水系二次電池機能層用スラリー組成物を提供することができる。
そして、本発明によれば、接着性に優れる非水系二次電池用機能層を提供することができる。
更に、本発明によれば、非水系二次電池に優れたサイクル特性を発揮させる非水系二次電池用電池部材を提供することができる。
加えて、本発明によれば、サイクル特性に優れる非水系二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の非水系二次電池用バインダー組成物は、非水系二次電池の製造用途に用いられるものであり、例えば、本発明の非水系二次電池機能層用スラリー組成物の調製に用いることができる。そして、本発明の非水系二次電池機能層用スラリー組成物は、非水系二次電池内において電子の授受、または補強若しくは接着などの機能を担う、任意の機能層(例えば、電極合材層、多孔膜層、接着層)の形成に用いることができる。さらに、本発明の非水系二次電池用機能層は、本発明の非水系二次電池機能層用スラリー組成物から形成される。また、本発明の非水系二次電池用電池部材は、本発明の非水系二次電池用機能層を備える。そして、本発明の非水系二次電池は、本発明の非水系二次電池用電池部材を備える。
【0021】
(非水系二次電池用バインダー組成物)
本発明のバインダー組成物は、重合体と、菌と、水とを含む。ここで、本発明のバインダー組成物中の菌は、平均サイズが0.5μm以下である。
なお、本発明のバインダー組成物は、重合体と、菌と、水以外の成分(以下、「その他の成分」と称する。)を含有していてもよい。
【0022】
そして、本発明のバインダー組成物は、含有する菌の平均サイズが0.5μm以下であるため、菌による重合体の腐敗を良好に抑制することができ、当該バインダー組成物を用いて粘度安定性に優れるスラリー組成物を調製することができる。更には、粘度安定性に優れるスラリー組成物によれば、重合体や機能性粒子などの成分の偏在が抑制された均一な構造を有する機能層が得られ、当該機能層の接着性を高めつつ、当該機能層により二次電池に優れたサイクル特性を発揮させることができる。
【0023】
<重合体>
バインダー組成物中の重合体は、結着材として機能しうる成分であり、バインダー組成物を含むスラリー組成物を使用して形成した機能層において、機能性粒子などの成分が機能層から脱離しないように保持すると共に、機能層を介した電池部材同士の接着を可能にする。
【0024】
<<重合体の種類>>
ここで、重合体としては、二次電池内において結着材として使用可能なものであれば、何れの重合体を使用することもできる。
例えば、重合体は、水を含むバインダー組成物中で溶解して存在しうる水溶性重合体であってもよいし、非水溶性であり、水を含むバインダー組成物中で分散して存在しうる粒子状重合体であってもよい。また、本発明のバインダー組成物は、1種類の重合体を含んでいてもよいし、2種類以上の重合体を含んでいてもよい。
なお、本発明において、重合体が「水溶性」とは、25℃において重合体0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が0.5質量%未満であることをいう。また、本発明において、重合体が「非水溶性」とは、25℃において重合体0.5gを100gの水に溶解した際に、不溶分が90質量%以上であることをいう。
以下、重合体が粒子状重合体である場合を一例に挙げて説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0025】
粒子状重合体としては、特に限定されないが、機能層の接着性および二次電池のサイクル特性を十分に確保する観点から、アクリル系重合体、共役ジエン系重合体を好ましく用いることができる。
【0026】
[アクリル系重合体]
アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を含む重合体である。ここで、アクリル系重合体は、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位以外の繰り返し単位(その他の繰り返し単位)を含んでいてもよい。
なお、本発明において、「(メタ)アクリル」とは、アクリルおよび/またはメタクリルを意味する。また、本発明において、「単量体単位を含む」とは、「その単量体を用いて得た重合体中に単量体由来の繰り返し単位が含まれている」ことを意味する。
【0027】
―(メタ)アクリル酸エステル単量体単位―
(メタ)アクリル酸エステル単量体単位を形成しうる(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ラウリルアクリレート、n-テトラデシルアクリレート、ステアリルアクリレートなどのアクリル酸アルキルエステル;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、t-ブチルメタクリレート、ペンチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、ヘプチルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、n-テトラデシルメタクリレート、ステアリルメタクリレートなどのメタクリル酸アルキルエステルなどが挙げられる。これらは単独で使用しても、2種以上併用してもよい。
【0028】
アクリル系重合体における(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合は、アクリル系重合体に含有される全繰り返し単位の量を100質量%とした場合、50質量%超であることが好ましく、65質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましく、90質量%以上であることが特に好ましく、99質量%以下であることが好ましく、98質量%以下であることがより好ましい。アクリル系重合体中の(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合が上述した範囲内であれば、アクリル系重合体の柔軟性を十分に確保して、機能層の接着性および二次電池のサイクル特性を更に向上させることができる。
【0029】
―その他の繰り返し単位―
アクリル系重合体が任意に含み得るその他の繰り返し単位としては、上述した(メタ)アクリル酸エステル単量体と共重合可能な単量体に由来する繰り返し単位であれば特に限定されないが、例えば、親水性基含有単量体単位(カルボン酸基を有する単量体単位、リン酸基を有する単量体単位、スルホン酸基を有する単量体単位、水酸基を有する単量体単位など)、ニトリル基含有単量体単位、架橋性単量体単位が挙げられる。なお、親水性基含有単量体単位を形成しうる親水性基含有単量体(カルボン酸基を有する単量体、リン酸基を有する単量体、スルホン酸基を有する単量体、水酸基を有する単量体など)、ニトリル基含有単量体単位を形成しうるニトリル基含有単量体、架橋性単量体単位を形成しうる架橋性単量体としては、特に限定されず、例えば国際公開第2015/064099号公報に記載のものを用いることができる。
【0030】
ここで、アクリル系重合体は、「共役ジエン系重合体」の項で後述する「脂肪族共役ジエン単量体単位」や「芳香族ビニル単量体単位」を含んでいてもよいが、通常、アクリル系重合体においては、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合が、少なくとも脂肪族共役ジエン単量体単位の含有割合よりも多い。
また、アクリル系重合体は、その他の繰り返し単位を、1種類のみ含んでいてもよく、2種類以上含んでいてもよい。
【0031】
[共役ジエン系重合体]
共役ジエン系重合体は、脂肪族共役ジエン単量体単位を含む重合体である。ここで、共役ジエン系重合体の具体例としては、ポリブタジエンやポリイソプレンなどの脂肪族共役ジエン重合体;スチレン-ブタジエン系重合体(SBR)などの芳香族ビニル・脂肪族共役ジエン共重合体;アクリロニトリル-ブタジエン系重合体(NBR)などのシアン化ビニル-共役ジエン共重合体;水素化SBR、水素化NBR等が挙げられる。これらの中でも、スチレン-ブタジエン系重合体(SBR)などの芳香族ビニル・脂肪族共役ジエン共重合体が好ましい。
ここで、芳香族ビニル・脂肪族共役ジエン共重合体は、芳香族ビニル単量体単位と、脂肪族共役ジエン単量体単位とを含み、任意に、芳香族ビニル単量体単位および脂肪族共役ジエン単量体単位以外の繰り返し単位(その他の繰り返し単位)を含んでいてもよい。
【0032】
―芳香族ビニル単量体単位―
芳香族ビニル単量体単位を形成し得る芳香族ビニル単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼンなどが挙げられる。これらは、一種単独で、または、二種以上を組み合わせて用いることができる。そして、これらの中でも、スチレンが好ましい。
【0033】
芳香族ビニル・脂肪族共役ジエン共重合体における芳香族ビニル単量体単位の含有割合は、芳香族ビニル・脂肪族共役ジエン共重合体に含有される全繰り返し単位の量を100質量%とした場合、35質量%以上であることが好ましく、45質量%以上であることがより好ましく、55質量%以上であることが更に好ましく、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、65質量%以下であることが更に好ましい。芳香族ビニル・脂肪族共役ジエン共重合体中の芳香族ビニル単量体単位の含有割合が上述した範囲内であれば、機能層の強度および接着性を十分に確保して、二次電池のサイクル特性を更に向上させることができる。
【0034】
―脂肪族共役ジエン単量体単位―
脂肪族共役ジエン単量体単位を形成しうる脂肪族共役ジエン単量体としては、1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、2-クロル-1,3-ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換および側鎖共役ヘキサジエン類などが挙げられる。これらは一種単独で、または、二種以上を組み合わせて用いることができる。そして、これらの中でも、1,3-ブタジエンが好ましい。
【0035】
芳香族ビニル・脂肪族共役ジエン共重合体における脂肪族共役ジエン単量体単位の含有割合は、芳香族ビニル・脂肪族共役ジエン共重合体に含有される全繰り返し単位の量を100質量%とした場合、20質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、70質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることが更に好ましく、35質量%以下であることが特に好ましい。芳香族ビニル・脂肪族共役ジエン共重合体中の脂肪族共役ジエン単量体単位の含有割合が上述した範囲内であれば、機能層の柔軟性および接着性を十分に確保して、二次電池のサイクル特性を更に向上させることができる。
【0036】
―その他の繰り返し単位―
芳香族ビニル・脂肪族共役ジエン共重合体が任意に含み得るその他の繰り返し単位としては、上述した芳香族ビニル単量体および脂肪族共役ジエン単量体と共重合可能な単量体に由来する繰り返し単位であれば特に限定されないが、例えば、親水性基含有単量体単位(カルボン酸基を有する単量体単位、リン酸基を有する単量体単位、スルホン酸基を有する単量体単位、水酸基を有する単量体単位など)、ニトリル基含有単量体単位、架橋性単量体単位が挙げられる。なお、親水性基含有単量体単位を形成しうる親水性基含有単量体(カルボン酸基を有する単量体、リン酸基を有する単量体、スルホン酸基を有する単量体、水酸基を有する単量体など)、ニトリル基含有単量体単位を形成しうるニトリル基含有単量体、架橋性単量体単位を形成しうる架橋性単量体としては、特に限定されず、例えば国際公開第2015/064099号公報に記載のものを用いることができる。
【0037】
なお、芳香族ビニル・脂肪族共役ジエン共重合体などの共役ジエン系重合体は、「アクリル系重合体」の項で前述した「(メタ)アクリル酸エステル単量体単位」を含んでいてもよいが、通常、共役ジエン系重合体においては、脂肪族共役ジエン単量体単位の含有割合が、(メタ)アクリル酸エステル単量体単位の含有割合よりも多い。
【0038】
<<重合体のテトラヒドロフラン不溶分量>>
ここで、重合体のTHF不溶分量は、10質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることが更に好ましく、85質量%以上であることが特に好ましく、95質量%以下であることが好ましい。重合体のTHF不溶分量が10質量%以上であれば、二次電池内部において機能層中の重合体が電解液に溶出するのを抑制して、二次電池のサイクル特性を更に向上させることができる。また、THF不溶分量が95質量%以下である重合体は、容易に調製可能であるため、重合体を含むバインダー組成物を効率良く製造することが可能となる。
なお、重合体のTHF不溶分量は、重合体の単量体組成(用いる単量体の種類および使用比率)、並びに、重合体の重合条件(分子量調整剤の使用量、反応温度および反応時間など)を変更することにより調整することができる。
【0039】
<<重合体の体積平均粒子径>>
そして、重合体が粒子状重合体である場合、バインダー組成物の調製に用いる重合体の体積平均粒子径は、0.4μm以下であることが好ましく、0.2μm以下であることがより好ましい。重合体の体積平均粒子径が0.4μm以下であれば、後述するろ過工程に際し、フィルターの孔に重合体が過度に目詰まりすることを抑制して、菌のサイズが所定の値以下であるバインダー組成物を効率良く得ることができる。なお、バインダー組成物の調製に用いる粒子状重合体である重合体の体積平均粒子径の下限は、特に限定されないが、通常0.05μm以上である。
また、バインダー組成物中の重合体の体積平均粒子径は、0.05μm以上であることが好ましく、0.4μm以下であることが好ましく、0.2μm以下であることがより好ましい。
なお、本発明において、「体積平均粒子径」は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて測定することができる。
【0040】
<菌>
<<平均サイズ>>
本発明のバインダー組成物が含む菌の平均サイズは、0.5μm以下であることが必要であり、0.4μm以下であることが好ましく、0.3μm以下であることがより好ましい。本発明者らの検討によれば、バインダー組成物に含まれる菌の平均サイズが0.5μmを超えると、非水系二次電池用バインダー組成物中に結着材として含まれる重合体の腐敗を特に促進することが明らかとなった。従って、本発明のバインダー組成物に含まれる菌の平均サイズを0.5μm以下に制御することにより、重合体の腐敗を抑制して、スラリー組成物の粘度安定性、機能層の接着性、および二次電池のサイクル特性を高めることができる。なお、菌の平均サイズの下限は、特に限定されないが、通常0.05μm以上である。
【0041】
<<菌の形状>>
本発明のバインダー組成物が含む菌の形状は、特に限定されず、例えば、球菌、桿菌が挙げられる。なお、本発明のバインダー組成物に含まれる複数の菌の形状は、全て同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0042】
<<菌数>>
ここで、本発明のバインダー組成物は、菌数が1.0×106個/ml以下であることが好ましく、1.0×105個/ml以下であることがより好ましい。バインダー組成物の菌数が1.0×106個/ml以下であると、重合体の腐敗を十分に抑制して、スラリー組成物の粘度安定性を更に高めることができる。そして、当該スラリー組成物を用いて得られる機能層の接着性および当該機能層を備える二次電池のサイクル特性を一層向上させることができる。なお、菌数の下限は特に限定されないが、洗浄などの除菌操作が過度になることによる製造効率の低減や、過度な除菌操作によるバインダー組成物中の重合体の性能(結着能など)低下を抑制する観点からは、1個/ml以上であることが好ましい。
ここで、本発明において、バインダー組成物に含まれる「菌数」は、JIS K 0350-10-10(2002)に準拠して測定することができる。
【0043】
<<菌種>>
本発明のバインダー組成物が含む菌種は、平均サイズが上述した値以下となれば特に限定されず、任意の菌を含み得る。本発明のバインダー組成物が含み得る菌が属する属としては、例えば、Serratia属、Bacillus属、Burkholderia属、Achromobacter属、Alcaligenes属、Stenotrophomonas属、およびPseudomonas属が挙げられる。ここで、本発明のバインダー組成物は、1種の菌を含んでいてもよく、2種以上の菌を含んでいてもよい。そして、本発明のバインダー組成物が、菌を2種以上含む場合、これらの菌は、1種の属に属していてもよいし、異なる属に属していてもよい。
なお、本発明において、バインダー組成物に含まれる菌種の特定は、本明細書の実施例に記載の方法を用いて行うことができる。
【0044】
しかしながら、本発明のバインダー組成物は、菌の平均サイズの上昇を抑制して、スラリー組成物の粘度安定性、機能層の接着性、および二次電池のサイクル特性を十分に向上する観点から、Burkholderia属に属する菌、Achromobacter属に属する菌、Alcaligenes属に属する菌、Stenotrophomonas属に属する菌、およびPseudomonas属に属する菌を実質的に含まないことが好ましい。
なお、本発明において、バインダー組成物が、所定の属に属する菌を「実質的に含まない」とは、本明細書の実施例に記載された菌種の特定操作を実施した際に、当該属に属する菌が検出されないことを意味する。
【0045】
<その他の成分>
本発明のバインダー組成物は、その他の成分として、任意で、導電材、濡れ剤、電解液添加剤など、電極合材層、多孔膜層、および接着層などの機能層に添加しうる既知の添加剤を含有しても良い。また、バインダー組成物には、重合体の調製に用いられる各種製剤(乳化剤など)が持ち込まれていてもよい。
そして、本発明のバインダー組成物は、重合体の腐食を抑制しうる既知の防腐剤および/または殺菌剤を含んでいてもよい。しかしながら、これらの二次電池への持ち込みによる電池特性(サイクル特性など)の低下を防ぐ観点からは、バインダー組成物中の防腐剤および殺菌剤の配合量は、それぞれ、重合体100質量部当たり1質量部以下であることが好ましく、0.1質量部以下であることがより好ましく、0.01質量部以下であることが更に好ましく、0質量部(すなわち、防腐剤および殺菌剤を含まない)ことが特に好ましい。
【0046】
<バインダー組成物の製造方法>
そして、上述した本発明のバインダー組成物を製造する方法は、バインダー組成物中に含まれる菌の平均サイズを0.5μm以下に制御可能であれば特に限定されない。しかしながら、上述した本発明のバインダー組成物は、
反応器で、単量体と、水を含む単量体組成物を重合して、重合体と水を含む混合液を得る工程(重合工程)と、
重合体と水を含む混合液をろ過して、バインダー組成物を回収する工程(ろ過工程)と、
を経て製造することが好ましい。重合体と水を含む混合液をろ過することでサイズの大きい菌が除去されたバインダー組成物を用いることで、粘度安定性に優れるスラリー組成物、接着性に優れる機能層、およびサイクル特性に優れる二次電池を良好に提供することが可能となる。
【0047】
<<重合工程>>
重合工程では、例えば「重合体」の項で上述した単量体と、水とを含む単量体組成物を、重合する。なお、単量体組成物中の各単量体の含有割合は、重合体中の所望の単量体単位(繰り返し単位)の含有割合に準じて定めることができる。
ここで、重合様式は、特に制限なく、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。また、重合反応としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合、各種縮合重合、付加重合などいずれの反応も用いることができる。そして、重合に際しては、必要に応じて既知の乳化剤や重合開始剤を使用することができる。
そして、重合温度は、特に限定されないが、良好に重合反応を進行させつつ、得られるバインダー組成物の菌数を低減する観点から、60℃以上であることが好ましく、70℃以上であることがより好ましく、80℃以上であることが更に好ましく、90℃以下であることが好ましい。
【0048】
<<ろ過工程>>
ろ過工程では、上述の重合工程で得られた重合体と水を含む混合液(重合体の水溶液または水分散液)を、ろ過して、ろ過後の混合液をバインダー組成物として回収する。
【0049】
ここで、ろ過の方法としては、フィルターによりサイズの大きい菌を除去可能であれば特に限定されず任意のろ過方法を用いることができる。
【0050】
そして、ろ過に用いるフィルターの孔径は、12μm以下であることが好ましく、8μm以下であることがより好ましく、6μm以下であることが更に好ましい。孔径が12μm以下のフィルターを用いることで、サイズの大きい菌を十分に除去して、含まれる菌の平均サイズが0.5μm以下であるバインダー組成物を効率よく製造することができる。なお、フィルターの孔径の下限は、特に重合体が粒子状重合体である場合に、当該重合体によるフィルターの目詰まりを防止する観点から、0.3μm以上であることが好ましく、0.4μm以上であることがより好ましい。
なお、本発明において、フィルターの「孔径」は、当該フィルターが有する孔の径の平均値を意味する。
【0051】
<<その他の工程>>
上述したバインダー組成物の製造方法は、重合工程およびろ過工程以外の工程(その他の工程)を含んでいてもよい。
例えば、上述したバインダー組成物の製造方法は、重合工程の後、得られた重合体と水を含む混合液に、任意に用いられる上述したその他の成分を添加する工程(任意成分添加工程)を含んでいてもよい。
また例えば、上述したバインダー組成物の製造方法は、重合工程後および/またはろ過工程後の混合液に対し、紫外線照射などの殺菌処理を行う工程(殺菌処理工程)を含んでいてもよい。しかしながら、紫外線などの殺菌処理により、重合体の性能が低下し、機能層の接着性および二次電池のサイクル特性が損なわれる虞もある。従って、本発明のバインダー組成物の製造方法は、殺菌処理工程を含まないことが好ましい。
【0052】
そして例えば、上述したバインダー組成物の製造方法は、少なくともろ過工程に先んじて、70℃以上の水で、重合体と水を含む混合液の移送に用いる配管(例えば、ろ過工程で用いるフィルターが備え付けられた配管)内面を洗浄する工程(洗浄工程)を含んでいてもよい。重合体を移送する配管の内面においては、菌が増殖および付着し易い。しかしながら、上述した洗浄工程を経てバインダー組成物を製造すれば、洗浄工程により配管内面の菌を除去してバインダー組成物中の菌数を低減することができ、また重合工程後および/またはろ過工程後に過度な殺菌処理(紫外線照射など)を行う必要もないため、得られる重合体の十分良好な性能(結着能など)を確保できる。そのため、上述した工程を経て得られるバインダー組成物を用いることで、粘度安定性に優れるスラリー組成物、接着性に優れる機能層、およびサイクル特性に優れる二次電池を良好に提供することが可能となる。
【0053】
上述した洗浄工程では、70℃以上の水で配管内面を洗浄する。配管内面の洗浄は、具体的には、配管内部に70℃以上の水を通過させることで行うことができる。なお、配管内面の除菌を良好に行う観点から、洗浄に用いる水の温度は70℃以上である必要があり、80℃以上であることが好ましい。
また、洗浄工程においては、70℃以上の水で配管以外の設備を行ってもよい。例えば、上述した重合工程に先んじて、当該重合工程での重合に用いる反応器の洗浄を、配管の洗浄と共に行ってもよい。
【0054】
<バインダー組成物の表面張力>
ここで、バインダー組成物の表面張力は、22mN/m以上55mN/m以下であることが好ましく、25mN/m以上55mN/m以下であることがより好ましい。表面張力が上述した範囲内のバインダー組成物を用いれば、重合体が結着材としての性能を十分に発揮する等して、スラリー組成物の粘度安定性、機能層の接着性、および二次電池のサイクル特性を十分に高めることができる。
また、バインダー組成物の表面張力は、バインダー組成物に含まれる成分の種類および/または性状(例えば、重合体の種類および/または性状)などを変更することにより調整することができる。
【0055】
(非水系二次電池機能層用スラリー組成物)
本発明のスラリー組成物は、機能層の形成用途に用いられる組成物であり、上述したバインダー組成物を用いて調製される。そして、本発明のスラリー組成物は、含有する菌の平均サイズが所定の値以下である本発明のバインダー組成物を用いて調製されるため、粘度安定性に優れる。更に、本発明のスラリー組成物を用いれば、接着性に優れる機能層を得ることができる。そして、当該機能層を備える電池部材を使用すれば、二次電池に優れたサイクル特性を発揮させることができる。
【0056】
<バインダー組成物>
バインダー組成物としては、上述した本発明のバインダー組成物を用いる。なお、スラリー組成物中のバインダー組成物の配合量は、特に限定されない。例えばスラリー組成物が電極用スラリー組成物である場合、バインダー組成物の配合量は、電極活物質粒子100質量部当たり、固形分換算で、バインダー組成物由来の重合体の量が0.5質量部以上15質量部以下となる量とすることができる。また例えばスラリー組成物が多孔膜層用スラリー組成物である場合、バインダー組成物の配合量は、非導電性粒子100質量部当たり、固形分換算で、バインダー組成物由来の重合体の量が0.5質量部以上30質量部以下となる量とすることができる。
【0057】
<機能性粒子>
ここで、機能層に所期の機能を発揮させるための機能性粒子としては、例えば、機能層が電極合材層である場合には電極活物質粒子が挙げられ、機能層が多孔膜層である場合には非導電性粒子が挙げられる。
【0058】
<<電極活物質粒子>>
そして、電極活物質粒子としては、特に限定されることなく、二次電池に用いられる既知の電極活物質よりなる粒子を挙げることができる。具体的には、例えば、二次電池の一例としてのリチウムイオン二次電池の電極合材層において使用し得る電極活物質粒子としては、特に限定されることなく、以下の電極活物質よりなる粒子を用いることができる。
【0059】
[正極活物質]
リチウムイオン二次電池の正極の正極合材層に配合される正極活物質としては、例えば、遷移金属を含有する化合物、例えば、遷移金属酸化物、遷移金属硫化物、リチウムと遷移金属との複合金属酸化物などを用いることができる。なお、遷移金属としては、例えば、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Mo等が挙げられる。
具体的には、正極活物質としては、特に限定されることなく、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO2)、マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO2)、Co-Ni-Mnのリチウム含有複合酸化物、Ni-Mn-Alのリチウム含有複合酸化物、Ni-Co-Alのリチウム含有複合酸化物、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO4)、オリビン型リン酸マンガンリチウム(LiMnPO4)、Li1+xMn2-xO4(0<X<2)で表されるリチウム過剰のスピネル化合物、Li[Ni0.17Li0.2Co0.07Mn0.56]O2、LiNi0.5Mn1.5O4等が挙げられる。
なお、上述した正極活物質は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0060】
[負極活物質]
リチウムイオン二次電池の負極の負極合材層に配合される負極活物質としては、例えば、炭素系負極活物質、金属系負極活物質、および、これらを組み合わせた負極活物質などが挙げられる。
ここで、炭素系負極活物質とは、リチウムを挿入(「ドープ」ともいう。)可能な、炭素を主骨格とする活物質をいう。そして、炭素系負極活物質としては、具体的には、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチ系炭素繊維、熱分解気相成長炭素繊維、フェノール樹脂焼成体、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、擬等方性炭素、フルフリルアルコール樹脂焼成体(PFA)およびハードカーボンなどの炭素質材料、並びに、天然黒鉛および人造黒鉛などの黒鉛質材料が挙げられる。
また、金属系負極活物質とは、金属を含む活物質であり、通常は、リチウムの挿入が可能な元素を構造に含み、リチウムが挿入された場合の単位質量当たりの理論電気容量が500mAh/g以上である活物質をいう。そして、金属系活物質としては、例えば、リチウム金属、リチウム合金を形成し得る単体金属(例えば、Ag、Al、Ba、Bi、Cu、Ga、Ge、In、Ni、P、Pb、Sb、Si、Sn、Sr、Zn、Tiなど)およびそれらの酸化物、硫化物、窒化物、ケイ化物、炭化物、燐化物などが挙げられる。さらに、チタン酸リチウムなどの酸化物を挙げることができる。
なお、上述した負極活物質は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
<<非導電性粒子>>
また、多孔膜層に配合される非導電性粒子としては、特に限定されることなく、二次電池に用いられる既知の非導電性粒子を挙げることができる。
具体的には、非導電性粒子としては、無機微粒子と有機微粒子との双方を用いることができるが、通常は無機微粒子が用いられる。なかでも、非導電性粒子の材料としては、二次電池の使用環境下で安定に存在し、電気化学的に安定である材料が好ましい。このような観点から非導電性粒子の材料の好ましい例を挙げると、酸化アルミニウム(アルミナ)、水和アルミニウム酸化物(ベーマイト)、酸化ケイ素、酸化マグネシウム(マグネシア)、酸化カルシウム、酸化チタン(チタニア)、BaTiO3、ZrO、アルミナ-シリカ複合酸化物等の酸化物粒子;窒化アルミニウム、窒化ホウ素等の窒化物粒子;シリコン、ダイヤモンド等の共有結合性結晶粒子;硫酸バリウム、フッ化カルシウム、フッ化バリウム等の難溶性イオン結晶粒子;タルク、モンモリロナイト等の粘土微粒子;などが挙げられる。また、これらの粒子は必要に応じて元素置換、表面処理、固溶体化等が施されていてもよい。
なお、上述した非導電性粒子は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
<その他の成分>
スラリー組成物の調製には、上述したバインダー組成物および機能性粒子以外の成分(その他の成分)を用いることもできる。スラリー組成物に配合し得るその他の成分としては、特に限定することなく、本発明のバインダー組成物に配合し得るその他の成分と同様のものが挙げられる。なお、その他の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0063】
<スラリー組成物の調製>
スラリー組成物の調製方法は、特に限定はされない。
例えば、スラリー組成物が電極用スラリー組成物である場合は、バインダー組成物と、電極活物質粒子と、必要に応じて用いられるその他の成分とを、水を含む溶媒の存在下で混合してスラリー組成物を調製することができる。
また、スラリー組成物が多孔膜層用スラリー組成物である場合は、バインダー組成物と、非導電性粒子と、必要に応じて用いられるその他の成分とを、水を含む溶媒の存在下で混合してスラリー組成物を調製することができる。
そして、スラリー組成物が接着層用スラリー組成物である場合は、バインダー組成物をそのまま、または水などの溶媒で希釈してスラリー組成物として使用することもできるし、バインダー組成物と、必要に応じて用いられるその他の成分とを、水を含む溶媒の存在下で混合してスラリー組成物を調製することもできる。
なお、スラリー組成物の調製の際に用いる混合方法は特に制限されないが、通常用いられうる撹拌機や、分散機を用いて混合を行う。
【0064】
(非水系二次電池用機能層)
本発明の機能層は、非水系二次電池内において電子の授受または補強若しくは接着などの機能を担う層であり、機能層としては、例えば、電気化学反応を介して電子の授受を行う電極合材層や、耐熱性や強度を向上させる多孔膜層や、接着性を向上させる接着層などが挙げられる。そして、本発明の機能層は、上述した本発明のスラリー組成物から形成されたものであり、例えば、上述したスラリー組成物を適切な基材の表面に塗布して塗膜を形成した後、形成した塗膜を乾燥することにより、形成することができる。
【0065】
本発明の機能層は、本発明のバインダー組成物を用いて調製される本発明のスラリー組成物から形成されているので、優れた接着性を有すると共に、本発明の機能層を備える電池部材を有する二次電池に、優れたサイクル特性を発揮させることができる。
【0066】
<<基材>>
ここで、スラリー組成物を塗布する基材に制限は無く、例えば、離型基材の表面にスラリー組成物の塗膜を形成し、その塗膜を乾燥して機能層を形成し、機能層から離型基材を剥がすようにしてもよい。このように、離型基材から剥がされた機能層を自立膜として二次電池の電池部材の形成に用いることもできる。
しかし、機能層を剥がす工程を省略して電池部材の製造効率を高める観点からは、基材として、集電体、セパレータ基材、または電極基材を用いることが好ましい。具体的には、電極合材層の調製の際には、スラリー組成物を、基材としての集電体上に塗布することが好ましい。また、多孔膜層や接着層を調製する際には、スラリー組成物を、セパレータ基材または電極基材上に塗布することが好ましい。
【0067】
[集電体]
集電体としては、電気導電性を有し、かつ、電気化学的に耐久性のある材料が用いられる。具体的には、集電体としては、例えば、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などからなる集電体を用い得る。中でも、負極に用いる集電体としては銅箔が特に好ましい。また、正極に用いる集電体としては、アルミニウム箔が特に好ましい。なお、前記の材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0068】
[セパレータ基材]
セパレータ基材としては、特に限定されないが、有機セパレータ基材などの既知のセパレータ基材が挙げられる。有機セパレータ基材は、有機材料からなる多孔性部材であり、有機セパレータ基材の例を挙げると、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン樹脂、芳香族ポリアミド樹脂などを含む微多孔膜または不織布などが挙げられ、強度に優れることからポリエチレン製の微多孔膜や不織布が好ましい。
【0069】
[電極基材]
電極基材(正極基材および負極基材)としては、特に限定されないが、上述した集電体上に、電極活物質粒子および結着材を含む電極合材層が形成された電極基材が挙げられる。
電極基材中の電極合材層に含まれる電極活物質粒子および結着材としては、特に限定されず、「非水系二次電池機能層用スラリー組成物」の項で上述した電極活物質粒子、および、「非水系二次電池用バインダー組成物」の項で上述した重合体を使用することができる。
【0070】
<<機能層の形成方法>>
上述した集電体、セパレータ基材、電極基材などの基材上に機能層を形成する方法としては、以下の方法が挙げられる。
1)本発明のスラリー組成物を基材の表面(電極基材の場合は電極合材層側の表面、以下同じ)に塗布し、次いで乾燥する方法;
2)本発明のスラリー組成物に基材を浸漬後、これを乾燥する方法;および
3)本発明のスラリー組成物を離型基材上に塗布し、乾燥して機能層を製造し、得られた機能層を基材の表面に転写する方法。
これらの中でも、前記1)の方法が、機能層の層厚制御をしやすいことから特に好ましい。前記1)の方法は、詳細には、スラリー組成物を基材上に塗布する工程(塗布工程)と、基材上に塗布されたスラリー組成物を乾燥させて機能層を形成する工程(乾燥工程)を含む。
【0071】
[塗布工程]
そして、塗布工程において、スラリー組成物を基材上に塗布する方法としては、特に制限は無く、例えば、ドクターブレード法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。
【0072】
[乾燥工程]
また、乾燥工程において、基材上のスラリー組成物を乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。乾燥法としては、例えば、温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、赤外線や電子線などの照射による乾燥が挙げられる。
【0073】
(非水系二次電池用電池部材)
本発明の電池部材(セパレータおよび電極など)は、上述した本発明の機能層を有するものであり、例えば、上述した機能層と、上述した基材(集電体、セパレータ基材、電極基材)を備える。なお、本発明の電池部材は、本発明の効果を著しく損なわない限り、上述した本発明の機能層と、基材以外の構成要素を備えていてもよい。このような構成要素としては、特に限定されることなく、本発明の機能層に該当しない電極合材層、多孔膜層、および接着層などが挙げられる。
また、本発明の電池部材は、本発明の機能層を複数種類備えていてもよい。例えば、電極は、集電体上に本発明の電極用スラリー組成物から形成される電極合材層を備え、且つ、当該電極合材層上に本発明の多孔膜層用および/または接着層用スラリー組成物から形成される多孔膜層および/または接着層を備えていてもよい。また例えば、セパレータは、セパレータ基材上に本発明の多孔膜層用スラリー組成物から形成される多孔膜層を備え、且つ、当該多孔膜層上に本発明の接着層用スラリー組成物から形成される接着層を備えていてもよい。
本発明の電池部材は、隣接する電池部材と良好に接着することができ、また二次電池に優れたサイクル特性を発揮させることができる。
【0074】
(非水系二次電池)
本発明の二次電池は、上述した本発明の電池部材を備えるものである。より具体的には、本発明の非水系二次電池は、正極、負極、セパレータ、および電解液を備え、正極、負極およびセパレータの少なくとも一つとして、本発明の電池部材を備える。そして、本発明の二次電池は、優れたサイクル特性を発揮し得る。
【0075】
<正極、負極およびセパレータ>
本発明の二次電池に用いる正極、負極およびセパレータは、少なくとも一つが、上述した本発明の機能層を備える本発明の電池部材である。なお、本発明の機能層を備えない正極、負極およびセパレータとしては、特に限定されることなく、既知の正極、負極およびセパレータを用いることができる。
【0076】
<電解液>
電解液としては、通常、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。支持電解質としては、例えば、リチウムイオン二次電池においてはリチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiAsF6、LiBF4、LiSbF6、LiAlCl4、LiClO4、CF3SO3Li、C4F9SO3Li、CF3COOLi、(CF3CO)2NLi、(CF3SO2)2NLi、(C2F5SO2)NLiなどが挙げられる。なかでも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すので、LiPF6、LiClO4、CF3SO3Liが好ましい。なお、電解質は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。通常は、解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0077】
電解液に使用する有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えばリチウムイオン二次電池においては、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ビニレンカーボネート(VC)等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル類;1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類;などが好適に用いられる。また、これらの溶媒の混合液を用いてもよい。中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いので、カーボネート類が好ましい。通常、用いる溶媒の粘度が低いほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、溶媒の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
なお、電解液中の電解質の濃度は適宜調整することができる。また、電解液には、既知の添加剤を添加してもよい。
【0078】
<非水系二次電池の製造方法>
上述した本発明の二次電池は、例えば、正極と負極とをセパレータを介して重ね合わせ、これを必要に応じて、巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することで製造することができる。なお、正極、負極、セパレータのうち、少なくとも一つの部材を、本発明の電池部材とする。また、電池容器には、必要に応じてエキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、リード板などを入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をしてもよい。電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【実施例】
【0079】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
実施例および比較例において、重合体のTHF不溶分量および体積平均粒子径、バインダー組成物に含まれる菌の平均サイズ、菌数および菌種の特定、並びにバインダー組成物の表面張力、スラリー組成物の粘度安定性、多孔膜層の接着性、そして二次電池のサイクル特性は、下記の方法で測定および評価した。
【0080】
<THF不溶分量>
得られた重合体の水分散液(バインダー組成物)を、50%湿度、23℃~25℃の環境下で乾燥させて、厚み3±0.3mmのフィルムを作製した。作製したフィルムを5mm角に裁断して複数のフィルム片を用意し、これらのフィルム片を約1g精秤した。精秤されたフィルム片の重量をW0とした。次いで、精秤されたフィルム片を、100gのテトラヒドロフラン(THF)に25℃で24時間浸漬した。その後、THFからフィルム片を引き揚げ、引き揚げたフィルム片を105℃で3時間真空乾燥して、その重量(不溶分の重量)W1を計測した。そして、下記式に従って、THF不溶分量(%)を算出した。
THF不溶分量(%)=W1/W0×100
<体積平均粒子径>
固形分濃度0.1質量%に調整した重合体の水分散液について、レーザー回折式粒子径分布測定装置(ベックマン・コールター社製、製品名「LS-230」)により粒子径分布(体積基準)を測定した。そして、得られた粒子径分布において小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径を求め、各種重合体の体積平均粒子径(D50)とした。
<菌の平均サイズ>
バインダー組成物の一部をサンプリングして検体とし、SCD寒天培地(日本製薬株式会社製、製品名「ダイゴ(登録商標)」)に塗抹し、35℃下で好気的に3日間、菌を培養した。なお、バインダー組成物中に含まれる菌数が少ない場合は、SCD寒天培地(日本製薬株式会社製、製品名「ダイゴ」)90mLにバインダー組成物10mLを接種し、35℃下で好気的に3日間培養したものを検体として用いた。そして、SCD寒天培地を電子顕微鏡で観察して、任意に選択した1cm×1cmの区画に存在する生菌のサイズ(最小径)を測定した。得られた測定値の算術平均値を求め、バインダー組成物に含まれる菌の平均サイズ(μm)とした。
<菌数>
JIS K 0350-10-10(2002)に準じて、バインダー組成物1ml当たりの菌数(個/ml)を測定した。
<菌種の特定>
バインダー組成物について、寒天平板法にて細菌分離を実施し、至適濃度の培地に発育した細菌を純培養化した。この純培養化した細菌について、コロニー形態およびグラム染色像から異なる細菌株を選別し、更にマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析計(MALDI/TOFMS)により、バインダー組成物に含まれる菌種を特定した。
ここで、寒天平板法による細菌分離および純培養化は、具体的には以下のように行った。
SCD寒天培地(日本製薬株式会社製、製品名「ダイゴ」)を用いて検体の10倍階段希釈液を作製した。次いで、SCD寒天培地(日本製薬株式会社製、製品名「ダイゴ」)に、バインダー組成物と、各濃度の希釈液とをそれぞれ100μL塗抹した。35℃下で好気的に3日間培養後、SCD寒天培地上に発育した菌株からコロニー形状、サイズ、色調等の異なるものを釣菌し、新たなSCD寒天培地(日本製薬株式会社製、製品名「ダイゴ」)に継代して純培養化した。
なお、バインダー組成物中に含まれる菌数が少ない場合は、SCD寒天培地(日本製薬株式会社製、製品名「ダイゴ」)90mLにバインダー組成物10mLを接種し、35℃下で好気的に3日間培養してから上記手順による細菌分離および純培養化を実施した。
<表面張力>
バインダー組成物を、ガラスシャーレ上に注ぎ、白金プレートを用いてプレート法により表面張力を測定した。なお、表面張力計として、協和界面科学社製「CBVP-Z」を用いた。測定は合計2回行い、2回の測定値の平均値を、バインダー組成物の表面張力とした。
<粘度安定性>
B型粘度計(東機産業社製、製品名「TVB-10」、回転数:60rpm)を用いて、得られたスラリー組成物の粘度η0を測定した。次に、粘度を測定したスラリー組成物を、プラネタリーミキサー(回転数:60rpm)を用いて24時間撹拌し、撹拌後のスラリー組成物の粘度η1を、上記と同様のB型粘度計(回転数:60rpm)を用いて測定した。そして、撹拌前後のスラリー組成物の粘度維持率Δη=η1/η0×100(%)を算出し、以下の基準にてスラリー組成物の粘度安定性を評価した。なお、粘度測定時の温度は25℃であった。粘度維持率Δηの値が100%に近いほど、スラリー組成物の粘度安定性が優れていることを示す。
A:粘度維持率Δηが90%以上110%以下
B:粘度維持率Δηが80%以上90%未満
C:粘度維持率Δηが70%以上80%未満
D:粘度維持率Δηが70%未満
<接着性>
作製した多孔膜層を備えるセパレータを長さ100mm、幅10mmの長方形に切り出して試験片とし、多孔膜層を有する面を下にして、試験片の多孔膜層表面をセロハンテープ(JIS Z1522に規定されるもの)を介して試験台(SUS製基板)に貼り付けた。その後、セパレータ基材の一端を垂直方向に引張り速度50mm/分で引っ張って剥がしたときの応力(N/m)を測定した(なお、セロハンテープは試験台に固定されている)。上記と同様の測定を3回行い、その平均値を求めてこれをピール強度とし、以下の基準により評価した。ピール強度の値が大きいほど、多孔膜層とセパレータ基材とが強固に密着し、多孔膜層が接着性に優れることを示す。
A:ピール強度が3.0N/m以上
B:ピール強度が2.5N/m以上3.0N/m未満
C:ピール強度が1.5N/m以上2.5N/m未満
D:ピール強度が1.5N/m未満
<サイクル特性>
製造したリチウムイオン二次電池を、25℃の環境下で24時間静置させた後、25℃の環境下において、0.1Cの充電レートで4.4Vまで充電し、0.1Cの放電レートで2.75Vまで放電する充放電の操作を行い、初期容量C0を測定した。その後、更に、60℃の環境下で、同様の充放電の操作を繰り返し、1000サイクル後の容量C1を測定した。
そして、サイクル前後での容量維持率ΔC(=(C1/C0)×100%)を算出し、下記の基準で評価した。容量維持率ΔCの値が大きいほど、二次電池が高温サイクル特性に優れ、長寿命であることを示す。
A:容量維持率ΔCが85%以上
B:容量維持率ΔCが80%以上85%未満
C:容量維持率ΔCが75%以上80%未満
D:容量維持率ΔCが75%未満
【0081】
(実施例1)
<バインダー組成物の調製>
<<重合工程(アクリル系重合体)>>
撹拌機を備えた反応器に、イオン交換水70部、乳化剤としてラウリル硫酸ナトリウム(花王ケミカル社製、「エマール(登録商標)2F」)0.15部、および過流酸アンモニウム0.5部を、それぞれ供給し、気相部を窒素ガスで置換し、60℃に昇温した。
一方、別の容器でイオン交換水50部、分散剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5部、そして(メタ)アクリル酸エステル単量体としてn-ブチルアクリレート94部、親水性基含有単量体としてメタクリル酸2部、ニトリル基含有単量体としてアクリロニトリル2部、架橋性単量体としてアリルメタクリレート1部およびアリルグリシジルエーテル1部を混合して単量体組成物を得た。この単量体組成物を4時間かけて前記反応器に連続的に添加して重合を行った。添加中は、60℃で反応を行った。添加終了後、さらに70℃で3時間撹拌して反応を終了し、粒子状重合体であるアクリル系重合体の水分散液(アクリル系重合体と、水を含む混合液)を得た。この水分散液を用いて、アクリル系重合体の体積平均粒子径を測定した。結果を表1に示す。
<<ろ過工程>>
上述の重合工程で得られたアクリル系重合体の水分散液を、フィルター(日本ポール社製、製品名「NXT0.5」、孔径:5μm)を通過させてろ過し、バインダー組成物として回収容器に回収した。回収したバインダー組成物を用いて、菌の平均サイズおよび菌数の測定、並びに菌種の特定を行った。また、バインダー組成物の表面張力、並びにアクリル系重合体のTHF不溶分量を測定した。結果は何れも表1に示す。
<多孔膜層用スラリー組成物の調製>
非導電性粒子としてアルミナ粒子(住友化学社製、製品名「AKP-3000」、体積平均粒子径D50:0.45μm、テトラポッド状粒子)を用意した。
また、粘度調整剤として、カルボキシメチルセルロース(ダイセルファインケム社製、製品名「D1200」、エーテル化度:0.8~1.0、1%水溶液の粘度:10~20mPa・s)を用意した。
上記非導電性粒子を100部、上記粘度調整剤を1.5部、およびイオン交換水を、固形分濃度が40%になるように混合して分散させた。得られた分散液に、さらに、上記で得られたバインダー組成物を4部(固形分相当量)、および、ポリエチレングリコール型界面活性剤(サンノプコSNウェット366)を0.2部加えて混合し、多孔膜層用スラリー組成物を得た。この多孔膜層用スラリー組成物について、粘度安定性を評価した。結果を表1に示す。
<多孔膜層付きセパレータの作製>
セパレータ基材(ポリプロピレン製、製品名「セルガード2500」)上に、上述で得られた多孔膜層用スラリー組成物を、当該多孔膜層用スラリー組成物の塗布量が0.3mg/cm2となるように塗布し、50℃で3分間乾燥させた。この操作をセパレータ基材の両面に施すことにより、セパレータ基材の両面に、それぞれ多孔膜層が形成された孔膜層付きセパレータを得た。
<正極の作製>
正極活物質粒子としてLiCoO2(体積平均粒子径D50:12μm)を100部、導電材としてアセチレンブラック(デンカ株式会社製、製品名「HS-100」)を2部、正極合材層用結着材としてPVDF(ポリフッ化ビニリデン、クレハ社製、製品名「#7208」)を固形分相当で2部を、NMP(N-メチルピロリドン)中で混合して全固形分濃度が70%となる量とし、さらにこれらをプラネタリーミキサーにより混合し、正極用スラリー組成物を調製した。
得られた正極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ20μmのアルミ箔の上に、乾燥後の膜厚が150μm程度になるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、アルミ箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、120℃にて2分間加熱処理してプレス前の正極原反を得た。このプレス前の正極原反をロールプレスで圧延して、正極合材層の厚みが80μmの正極を得た。
<負極の作製>
撹拌機付き5MPa耐圧容器に、1,3-ブタジエン33.5部、イタコン酸3.5部、スチレン62部、2-ヒドロキシエチルアクリレート1部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.4部、イオン交換水150部および重合開始剤としてペルオキソ二硫酸カリウム0.5部を入れ、十分に撹拌した後、50℃に加温して重合を開始した。重合転化率が96%になった時点で冷却し反応を停止して、負極合材層用結着材(SBR)を含む混合物を得た。上記負極合材層用結着材を含む混合物に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pH8に調整後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体の除去を行った後、30℃以下まで冷却し、所望の負極合材層用結着材を含む水分散液を得た。
人造黒鉛(体積平均粒子径D50が15.6μm)100部と、増粘剤としてのカルボキシメチルセルロースのナトリウム塩(日本製紙社製、MAC350HC)の2%水溶液を固形分相当で1部との混合物をイオン交換水で固形分濃度68%に調製した後、25℃で60分間混合した。さらにイオン交換水で固形分濃度62%に調製した後、25℃で15分間混合した。上記の負極合材層用結着材(SBR)を固形分相当量で1.5部、およびイオン交換水を入れ、最終固形分濃度52%となるように調整し、さらに10分間混合した。これを減圧下で脱泡処理して流動性の良い負極用スラリー組成物を調製した。
得られた負極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ20μmの銅箔の上に、乾燥後の膜厚が150μm程度になるように塗布し、乾燥させた。この乾燥は、銅箔を0.5m/分の速度で60℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより行った。その後、120℃にて2分間加熱処理してプレス前の負極原反を得た。このプレス前の負極原反をロールプレスで圧延して、負極合材層の厚みが80μmの負極を得た。
<二次電池の製造>
上記で得られた正極を49×5cmに切り出した。そして、上記で得られた多孔膜層付きセパレータを55×5.5cmに切り出し、上記切り出した正極の合材層の上に配置した。さらに、上記で得られた負極を50×5.2cmに切り出し、多孔膜層付きセパレータ上に、負極合材層側の表面がセパレータに向かい合うように配置し積層体を得た。この積層体を、捲回機により捲回し、捲回体を得た。この捲回体を60℃、0.5MPaでプレスし扁平体とした。この扁平体を、電池の外装としてのアルミ包材外装で包み、電解液(溶媒:エチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)/ビニレンカーボネート(VC)=68.5/30/1.5(体積比)、電解質:濃度1MのLiPF6)を空気が残らないように注入した。さらに、アルミ包材の開口を密封するために、150℃のヒートシールをしてアルミ外装を閉口し、捲回型リチウムイオン二次電池を製造した。
作製した捲回型リチウムイオン二次電池について、サイクル特性を評価した。結果を表1に示す。
【0082】
(実施例2)
以下のようにして調製したバインダー組成物を使用した以外は、実施例1と同様にして、多孔膜層用スラリー組成物、多孔膜層付きセパレータ、負極、正極、および二次電池を製造し、各種測定および評価を行った。結果を表1に示す。
<バインダー組成物の調製>
<<重合工程(スチレン-ブタジエン系重合体)>>
反応器に、イオン交換水150部、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液(濃度10%)25部、芳香族ビニル単量体としてスチレン63部、親水性基含有単量体としてイタコン酸3.5部および2-ヒドロキシエチルアクリレート1部、並びに、分子量調整剤としてのt-ドデシルメルカプタン0.5部を、この順に投入した。次いで、反応器内部の気体を窒素で3回置換した後、脂肪族共役ジエン単量体として1,3-ブタジエン32.5部を投入した。60℃に保った反応器に、重合開始剤として過硫酸カリウム0.5部を投入して重合反応を開始し、撹拌しながら重合反応を継続した。重合転化率が96%になった時点で冷却し、重合停止剤としてハイドロキノン水溶液(濃度10%)0.1部を加えて重合反応を停止し、粒子状重合体であるスチレン-ブタジエン系重合体の水分散液(スチレン-ブタジエン系重合体と、水を含む混合液)を得た。
<<ろ過工程>>
上述の重合工程で得られたスチレン-ブタジエン系重合体の水分散液を、フィルター(日本ポール社製、製品名「NXT0.5」、孔径:5μm)を通過させてろ過し、バインダー組成物として回収容器に回収した。
【0083】
(実施例3)
バインダー組成物の調製に際し、ろ過工程に用いるフィルターとして、日本ポール社製の製品名「NXT1」(孔径:10μm)を用いた以外は、実施例1と同様にして、バインダー組成物、多孔膜層用スラリー組成物、多孔膜層付きセパレータ、負極、正極、および二次電池を製造し、各種測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0084】
(比較例1)
バインダー組成物の調製に際し、ろ過工程を行わず、重合工程で得られたアクリル系重合体の水分散液をバインダー組成物とした以外は、実施例1と同様にして、バインダー組成物、多孔膜層用スラリー組成物、多孔膜層付きセパレータ、負極、正極、および二次電池を製造し、各種測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0085】
(比較例2)
バインダー組成物の調製に際し、比較例1とは異なる生産設備(重合工程で用いる反応器、回収工程で用いる配管など)を用いた以外は、比較例1と同様にして、バインダー組成物、多孔膜層用スラリー組成物、多孔膜層付きセパレータ、負極、正極、および二次電池を製造し、各種測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0086】
なお、以下に示す表1中、
「ACL」は、アクリル系重合体を示し、
「SBR」は、スチレン-ブタジエン系重合体を示す。
【0087】
【0088】
表1より、重合体、菌、および水を含み、菌の平均サイズが所定の値以下であるバインダー組成物を用いた実施例1~3では、粘度安定性に優れる多孔膜層用スラリー組成物を得ることができ、そして、多孔膜層に優れた接着性を発揮させつつ、二次電池のサイクル特性を向上できていることが分かる。
一方、表1より、重合体、菌、および水を含み、菌の平均サイズが所定の値を超えるバインダー組成物を用いた比較例1および2では、多孔膜層用スラリー組成物の粘度安定性、多孔膜層の接着性、および二次電池のサイクル特性が低下してしまうことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明によれば、粘度安定性に優れる非水系二次電池機能層用スラリー組成物を調製可能な非水系二次電池用バインダー組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、粘度安定性に優れる非水系二次電池機能層用スラリー組成物を提供することができる。
そして、本発明によれば、接着性に優れる非水系二次電池用機能層を提供することができる。
更に、本発明によれば、非水系二次電池に優れたサイクル特性を発揮させる非水系二次電池用電池部材を提供することができる。
加えて、本発明によれば、サイクル特性に優れる非水系二次電池を提供することができる。