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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】ポリエーテル化合物および気体分離膜
(51)【国際特許分類】
   C08G 65/333 20060101AFI20240903BHJP
   B01D 71/52 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
C08G65/333
B01D71/52
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020548501
(86)(22)【出願日】2019-09-17
(86)【国際出願番号】 JP2019036333
(87)【国際公開番号】W WO2020066743
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-09-05
(31)【優先権主張番号】P 2018184820
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】早野 重孝
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-043704(JP,A)
【文献】特開平02-202917(JP,A)
【文献】特開平05-105800(JP,A)
【文献】米国特許第06103029(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0182220(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G65
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2以上の重合体主鎖末端基、および、カチオン性基を有するポリエーテル化合物であって、全ての重合体主鎖末端基が、ヒドロキシル基およびアジド基のいずれかであり、重合体主鎖末端基としてヒドロキシル基およびアジド基の両方を含有し、
重合体主鎖が下記一般式(1)で表される単量体単位からなるポリエーテル化合物。
(上記一般式(1)中、Aは、カチオン性基またはカチオン性基含有基を表し、Xは、任意の対アニオンを表し、Rは非イオン性基を表し、nは1以上の整数であり、mは0~50,000の整数である。)
【請求項2】
重合体主鎖中に、多官能化合物に由来する連結基を含有する請求項1に記載のポリエーテル化合物。
【請求項3】
カチオン性基を有するオキシラン単量体単位を含有する請求項1または2に記載のポリエーテル化合物。
【請求項4】
請求項1~のいずれかに記載のポリエーテル化合物を含有する気体分離膜。
【請求項5】
2以上の重合体主鎖末端基、および、カチオン性基を有するポリエーテル化合物であって、全ての重合体主鎖末端基が、ヒドロキシル基およびアジド基のいずれかであり、
重合体主鎖が下記一般式(1)で表される単量体単位からなり、
重合体主鎖中に、多官能化合物に由来する連結基を含有し、
前記多官能化合物の官能基が、アルキニル基、イソシアネート基、酸ハライド基、カルボキシル基、ハロゲノシリル基、およびエポキシ基からなる群から選ばれる少なくとも1種であるポリエーテル化合物。
(上記一般式(1)中、Aは、カチオン性基またはカチオン性基含有基を表し、Xは、任意の対アニオンを表し、Rは非イオン性基を表し、nは1以上の整数であり、mは0~50,000の整数である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエーテル化合物および気体分離膜に関する。
【背景技術】
【0002】
カチオン性基を有するポリエーテル化合物は、イオン伝導性を有していることから、たとえば、二次電池、燃料電池、色素増感太陽電池、アクチュエーター等の電気化学デバイスにおいて、電極間のイオン伝導性を付与するための電解質として用いることが知られている。
【0003】
カチオン性基を有するポリエーテル化合物から形成されたイオン伝導膜は、通常の使用環境下において形状安定性に劣る場合がある。そこで、特許文献1では、形状保持性に優れたイオン伝導膜を与えることのできるイオン伝導性組成物として、カチオン性基を有するポリエーテル化合物100重量部に対し、アルカリ金属塩を3重量部以上の割合で含有するイオン伝導性組成物が提案されている。
【0004】
ここで、カチオン性基を有するポリエーテル化合物の製造方法としては、特許文献1に記載されているように、以下の(A)または(B)の方法により、ベースポリマー(カチオン性基を有しないポリエーテル化合物)を得た後、得られたベースポリマーに、イミダゾール化合物などのアミン化合物を反応させることにより、ベースポリマーのエピハロヒドリン単量体単位を構成するハロゲン基をオニウムハライド基に変換して、さらに必要に応じて、オニウムハライド基を構成するハロゲン化物イオンを、アニオン交換反応を行う方法が知られている。
【0005】
(A)エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリンなどのエピハロヒドリンを少なくとも含む、オキシラン単量体を含有する単量体を、触媒として、特許文献2に開示されている、周期表第15族または第16族の原子を含有する化合物のオニウム塩と、含有されるアルキル基が全て直鎖状アルキル基であるトリアルキルアルミニウムとを含んでなる触媒との存在下で開環重合することにより、ベースポリマーを得る方法。
【0006】
(B)エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリンなどのエピハロヒドリンを少なくとも含む、オキシラン単量体を含有する単量体を、特許文献3に開示されている、トリイソブチルアルミニウムにリン酸とトリエチルアミンを反応させた触媒の存在下で開環重合することにより、ベースポリマーを得る方法。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2018-6290号公報
【文献】特開2010-53217号公報
【文献】特公昭46-27534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、これらの製造方法では、化合物の一端には、触媒に由来する末端基が導入され、化合物の他端には重合停止剤に由来する末端基が導入されることから、導入しようとする末端基の種類に制約があったり、両末端に同じ種類の末端基を導入することが困難であったりする問題があった。
【0009】
本発明は、重合体主鎖末端を、他の重合体が有する官能基と反応させることによって、他の重合体に固定することができるポリエーテル化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、カチオン性基を有するポリエーテル化合物を用いて、ガス分離膜を作製することを試みた。しかしながら、カチオン性基を有するポリエーテル化合物から得られる膜は、必ずしも形状保持性に優れるとはいえず、それ自体をガス分離膜として利用することが容易でないことが判明した。そこで、本発明者は、鋭意検討した結果、カチオン性基を有するポリエーテル化合物を他の重合体に固定して用いることによって、形状保持性に劣るという問題を解決することを試みた。しかしながら、従来のカチオン性基を有するポリエーテル化合物では、他の重合体に固定することが容易ではなかったことから、新規な構造を有するカチオン性基を有するポリエーテル化合物を完成させることにした。本発明は、このような検討の結果として完成した発明である。
【0011】
すなわち、本発明によれば、2以上の重合体主鎖末端基、および、カチオン性基を有するポリエーテル化合物であって、全ての重合体主鎖末端基が、ヒドロキシル基およびアジド基のいずれかであるポリエーテル化合物が提供される。
【0012】
本発明のポリエーテル化合物においては、全ての重合体主鎖末端基が、ヒドロキシル基であること、または、全ての重合体主鎖末端基が、アジド基であることが好ましい。
本発明のポリエーテル化合物は、重合体主鎖中に、多官能化合物に由来する連結基を含有するものであってもよい。
本発明のポリエーテル化合物は、カチオン性基を有するオキシラン単量体単位を含有することが好ましい。
本発明のポリエーテル化合物は、下記一般式(1)で表される単量体単位からなることが好ましい。
【化1】
(上記一般式(1)中、Aは、カチオン性基またはカチオン性基含有基を表し、Xは、任意の対アニオンを表し、Rは非イオン性基を表し、nは1以上の整数であり、mは0以上の整数である。)
【0013】
また、本発明によれば、上記のポリエーテル化合物を含有する気体分離膜が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、重合体主鎖末端を、他の重合体が有する官能基と反応させることによって、他の重合体に固定することができるポリエーテル化合物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<ポリエーテル化合物>
本発明のポリエーテル化合物は、2以上の重合体主鎖末端基、および、カチオン性基を有しており、全ての重合体主鎖末端基が、ヒドロキシル基およびアジド基のいずれかである。
【0016】
本発明のポリエーテル化合物は、オキシラン構造を含有する化合物のオキシラン構造部分が開環重合することにより得られる単位である、オキシラン単量体単位を含んでなるポリエーテル化合物であって、その分子中にカチオン性基を有するものであることが好ましい。
【0017】
本発明のカチオン性基を有するポリエーテル化合物を形成する、オキシラン単量体単位の具体例としては、エチレンオキシド単位、プロピレンオキシド単位、1,2-ブチレンオキシド単位などのアルキレンオキシド単量体単位;エピクロロヒドリン単位、エピブロモヒドリン単位、エピヨードヒドリン単位などのエピハロヒドリン単量体単位;アリルグリシジルエーテル単位などのアルケニル基含有オキシラン単量体単位;フェニルグリシジルエーテル単位などの芳香族エーテル基含有オキシラン単量体単位;グリシジルアクリレート単位、グリシジルメタクリレート単位などの(メタ)アクリロイル基含有オキシラン単量体単位;などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0018】
本発明のカチオン性基を有するポリエーテル化合物は、2種以上のオキシラン単量体単位を含有するものであってもよく、この場合においては、それら複数の繰り返し単位の分布様式は特に限定されないが、ランダムな分布を有していることが好ましい。
【0019】
なお、上記単量体単位のうち、エピハロヒドリン単量体単位、アルケニル基含有オキシラン単量体単位、および(メタ)アクリロイル基含有オキシラン単量体単位は、架橋性基を有するオキシラン単量体単位であり、このような架橋性基を有するオキシラン単量体単位を含有することで、本発明のカチオン性基を有するポリエーテル化合物中に、カチオン性基に加えて架橋性基をも導入でき、カチオン性基を有するポリエーテル化合物を架橋可能なものとすることができる。特に、本発明のカチオン性基を有するポリエーテル化合物が架橋性基を有する場合には、架橋剤を配合することにより架橋性組成物を調製することができ、これを架橋させることにより得られる架橋物は、架橋構造を含むものであることから、所定の形状に成形した場合等における、形状保持性により優れるものとなる。なお、架橋性基を有するオキシラン単量体単位としては、架橋性基を有する単量体単位であればよく、上記したものに特に限定されるものではない。また、カチオン性基を有するポリエーテル化合物を構成するオキシラン単量体単位において、カチオン性基と架橋性基とは、同一の繰り返し単位として含まれていてもよいし、別個の繰り返し単位として含まれていてもよいが、別個の繰り返し単位として含まれていることが好ましい。
【0020】
本発明のカチオン性基を有するポリエーテル化合物中における、架橋性基を有するオキシラン単量体単位が占める割合は、特に限定されず、カチオン性基を有するポリエーテル化合物を構成するオキシラン単量体単位全体に対して、99モル%以下が好ましく、50モル%以下がより好ましく、20モル%以下がさらに好ましい。なお、架橋性基を有するオキシラン単量体単位が占める割合の下限は、特に限定されないが、本発明のポリエーテル化合物を架橋可能な架橋性組成物とし、これを架橋させることにより得られる架橋物を、形状保持性により優れるものとする観点から、好ましくは1モル%以上である。
【0021】
また、本発明のカチオン性基を有するポリエーテル化合物は、オキシラン単量体単位のうち少なくとも一部として、カチオン性基を有するオキシラン単量体単位を含有する。すなわち、本発明のポリエーテル化合物において、カチオン性基は、重合体主鎖末端に結合しておらず、重合体主鎖を構成するオキシラン単量体単位中で、重合体主鎖から垂れ下がるように結合している懸垂基である。
【0022】
本発明のカチオン性基を有するポリエーテル化合物に含有させることのできるカチオン性基としては、特に限定されないが、気体分離性能の観点から、周期表第15族または第16族の原子がオニウムカチオン構造を形成したカチオン性基であることが好ましく、窒素原子がオニウムカチオン構造を形成したカチオン性基であることがより好ましく、窒素原子含有芳香族複素環中の窒素原子がオニウムカチオン構造を形成したカチオン性基であることがさらに好ましく、イミダソリウム環中の窒素原子がオニウムカチオン構造を形成したカチオン性基であることが特に好ましい。
【0023】
カチオン性基の具体例としては、アンモニウム基、メチルアンモニウム基、ブチルアンモニウム基、シクロヘキシルアンモニウム基、アニリニウム基、ベンジルアンモニウム基、エタノールアンモニウム基、ジメチルアンモニウム基、ジエチルアンモニウム基、ジブチルアンモニウム基、ノニルフェニルアンモニウム基、トリメチルアンモニウム基、トリエチルアンモニウム基、n-ブチルジメチルアンモニウム基、n-オクチルジメチルアンモニウム基、n-ステアリルジメチルアンモニウム基、トリブチルアンモニウム基、トリビニルアンモニウム基、トリエタノールアンモニウム基、N,N-ジメチルエタノールアンモニウム基、トリ(2-エトキシエチル)アンモニウム基等のアンモニウム基;ピペリジニウム基、1-ピロリジニウム基、1-メチルピロリジニウム基、イミダゾリウム基、1-メチルイミダゾリウム基、1-エチルイミダゾリウム基、ノルマルブチルイミダゾリウム基、ベンズイミダゾリウム基、ピロリウム基、1-メチルピロリウム基、オキサゾリウム基、ベンズオキサゾリウム基、ベンズイソオキサゾリウム基、ピラゾリウム基、イソオキサゾリウム基、ピリジニウム基、2,6-ジメチルピリジニウム基、ピラジニウム基、ピリミジニウム基、ピリダジニウム基、トリアジニウム基、N,N-ジメチルアニリニウム基、キノリニウム基、イソキノリニウム基、インドリニウム基、イソインドリウム基、キノキサリウム基、イソキノキサリウム基、チアゾリウム基等のカチオン性の窒素原子を含有する複素環を含んでなる基;トリフェニルホスホニウム塩、トリブチルホスホニウム基等のカチオン性のリン原子を含んでなる基;等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらの中でも、1-メチルピロリジニウム基、イミダゾリウム基、1-メチルイミダゾリウム基、1-エチルイミダゾリウム基、ノルマルブチルイミダゾリウム基、ベンズイミダゾリウム基等のカチオン性の窒素原子を含有する複素環を含んでなる基が好ましい。
【0024】
また、カチオン性基は、通常対アニオンを有するものであるが、その対アニオンとしては特に限定されないが、たとえば、Cl、Br、Iなどのハロゲン化物イオンや(FSO、(CFSO、(CFCFSOなどのスルホニルイミド化物イオン、さらには、OH、SCN、BF 、PF 、ClO 、CHSO 、CFSO 、CFCOO、PhCOO、CHCOO、(NC)、B(CN) 、などを挙げることができる。これら対アニオンは、得ようとするポリエーテル化合物の特性に応じて適宜選択すればよい。
【0025】
本発明のカチオン性基を有するポリエーテル化合物においては、ポリエーテル化合物を構成するオキシラン単量体単位のうち、その少なくとも一部がカチオン性基を有するオキシラン単量体単位であればよく、たとえば、ポリエーテル化合物を構成するオキシラン単量体単位の全てがカチオン性基を有するものであってもよく、あるいは、カチオン性基を有するオキシラン単量体単位およびカチオン性基を有しないオキシラン単量体単位が混在するものであってもよい。本発明のカチオン性基を有するポリエーテル化合物において、カチオン性基を有するオキシラン単量体単位が占める割合は、特に限定されず、カチオン性基を有するポリエーテル化合物を構成するオキシラン単量体単位全体に対して、1モル%以上が好ましく、10モル%以上がより好ましく、20モル%以上がさらに好ましい。カチオン性基を有するオキシラン単量体単位が占める割合を上記範囲とすることにより、気体分離性能をより優れたものとすることができる。なお、カチオン性基を有するオキシラン単量体単位が占める割合の上限は、特に限定されないが、本発明のポリエーテル化合物を架橋可能な架橋性組成物とし、これを架橋させることにより得られる架橋物を、形状保持性により優れるものとする観点から、好ましくは99モル%以下である。
【0026】
本発明のカチオン性基を有するポリエーテル化合物の構造としては特に限定されないが、下記一般式(1)で表される単量体単位からなるものであることが好ましい。
【化2】
(上記一般式(1)中、Aは、カチオン性基またはカチオン性基含有基を表し、Xは、任意の対アニオンを表し、Rは非イオン性基を表し、nは1以上の整数であり、mは0以上の整数である。)
【0027】
上記一般式(1)中、Aは、カチオン性基またはカチオン性基含有基を表し、カチオン性基の具体例としては、上述したものが挙げられ、また、カチオン性基含有基としては、上述したカチオン性基を含有する基が挙げられる。
【0028】
上記一般式(1)中、Xは、任意の対アニオンを表し、たとえば、対アニオンの具体例としては、上述したものが挙げられる。
【0029】
上記一般式(1)中、Rは、非イオン性基であり、非イオン性の基であれば特に限定されず、架橋性基を含むものであってもよい。Rとしては、たとえば、水素原子;メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基等の炭素数1~10のアルキル基;ビニル基、アリル基、プロペニル基等の炭素数2~10のアルケニル基;エチニル基、プロピニル基等の炭素数2~10のアルキニル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数3~20のシクロアルキル基;フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基等の炭素数6~20のアリール基;等が挙げられる。
これらのうち、炭素数1~10のアルキル基、炭素数2~10のアルケニル基、炭素数2~10のアルキニル基、炭素数3~20のシクロアルキル基、および炭素数6~20のアリール基は、任意の位置に置換基を有していてもよい。
置換基としては、メチル基、エチル基等の炭素数1~6のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基等の炭素数1~6のアルコキシ基;ビニルオキシ基、アリルオキシ基等の炭素数2~6のアルケニルオキシ基;フェニル基、4-メチルフェニル基、2-クロロフェニル基、3-メトキシフェニル基等の置換基を有していてもよいアリール基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;メチルカルボニル基、エチルカルボニル基等の炭素数1~6のアルキルカルボニル基;アクリロイルオキシ基、メタクリロイルオキシ基等の(メタ)アクリロイルオキシ基;等が挙げられる。
【0030】
また、上記一般式(1)中、nは1以上の整数であり、mは0以上の整数であればよいが、nは、1~100,000整数であることが好ましく、2~50,000の整数であることがより好ましく、5~5000の整数であることがさらに好ましく、5~900の整数であることが特に好ましい。また、mは、0~100,000の整数であることが好ましく、2~50,000の整数であることがより好ましく、5~5000の整数であることがさらに好ましく、5~100の整数であることが特に好ましい。また、n+mは、1~200,000の整数であることが好ましく、4~100,000の整数であることがより好ましく、10~10,000の整数であることがさらに好ましく、10~1000の整数であることが特に好ましい。
【0031】
本発明のカチオン性基を有するポリエーテル化合物の数平均分子量(Mn)は、特に限定されないが、750~2,000,000であることが好ましく、1000~1,000,000であることがより好ましく、1500~500,000であることがさらに好ましい。また、本発明のカチオン性基を有するポリエーテル化合物の分子量分布(Mw/Mw)は、好ましくは1.0~3.0、より好ましくは1.0~2.0である。なお、カチオン性基を有するポリエーテル化合物の数平均分子量、および分子量分布は、後述する実施例に記載の方法で求めることができる。なお、カチオン性基を有するポリエーテル化合物の分子量分布は、カチオン性基を導入する前のベースポリマー(カチオン性基を有しないポリエーテル化合物)の分子量分布から変化していないものとして取り扱うことができる。
【0032】
また、本発明のカチオン性基を有するポリエーテル化合物の鎖構造は特に限定されず、直鎖状のものであってもよいし、グラフト状、放射状などの分岐を有する鎖構造のものであってもよい。
【0033】
本発明のポリエーテル化合物は、上記したカチオン性基に加えて、2以上の重合体主鎖末端基を有しており、全ての重合体主鎖末端基が、ヒドロキシル基およびアジド基のいずれかである。
【0034】
本発明において、重合体主鎖とは、2以上のエーテル結合(-C-O-C-)を含有する分子鎖を意味し、好ましくは2以上のオキシラン単量体単位の連結により形成された分子鎖を意味する。また、重合体主鎖末端基とは、重合体主鎖の末端に結合している基を意味する。
【0035】
ポリエーテル化合物の重合体主鎖末端基の個数としては、他の重合体により強固に固定できる観点から、ポリエーテル化合物一分子あたり、好ましくは2~10個であり、より好ましくは2~4個である。また、ポリエーテル化合物の重合体主鎖末端基が2個であって、ポリエーテル化合物が分岐していない一本の分子鎖で構成されていることも、好適な態様の一つである。
【0036】
本発明のポリエーテル化合物は、全ての重合体主鎖末端基が、ヒドロキシル基であるもの、または、全ての重合体主鎖末端基が、アジド基であるもののいずれかが好ましい。全ての重合体主鎖末端基を、ヒドロキシル基またはアジド基のいずれかのみとすることで、これらの末端基を用いた他の重合体への固定を、より円滑に進行させることができる。
【0037】
本発明のポリエーテル化合物は、重合体主鎖中に、多官能化合物に由来する連結基を含有してもよい。すなわち、本発明のポリエーテル化合物は、オキシラン単量体単位により形成された2以上の重合体鎖が、多官能化合物に由来する連結基を介して、お互いに結合した構造を有していることが好ましい。
【0038】
連結基の価数は、2価以上であれば特に限定されないが、2~8価であることが好ましく、2~4価であることがより好ましい。また、連結基の価数が2価であることも、好適な態様の一つである。
【0039】
多官能化合物としては、2以上の官能基を有する化合物であれば特に限定さない。多官能化合物が有する官能基としては、たとえば、アルキニル基、イソシアネート基、酸ハライド基、カルボキシル基、ハロゲノシリル基、エポキシ基などが挙げられる。
【0040】
多官能化合物としては、
1,9-デカジイン、1,8-ノナジイン、1,7-オクタジイン、1,6-ヘプタジイン、1,5-ヘキサジイン、2,4-ヘキサジイン、2,6-オクタジイン、3,5-オクタジインなどのジアルキン化合物;
ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサンジイソシアネート、1,4-シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキシレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネートなどの多価イソシアナート化合物;
アジピン酸ジクロライド、フタル酸ジクロライド、ベンゼン-1,2,5-トリカルボン酸トリクロリドなどの多価カルボン酸ハライド化合物;
コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、フマル酸、フタル酸、トリメリット酸などの多価カルボン酸化合物;
ジメチルジクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、ジヘキシルジクロロシラン、ジオクチルジクロロシラン、ジブチルジクロロシラン、メチルジクロロシランなどのジハロゲン化ケイ素化合物;
フェニルトリクロロシラン、ヘキシルトリクロロシラン、オクチルトリクロロシラン、ブチルトリクロロシラン、メチルトリクロロシランなどのトリハロゲン化ケイ素化合物;
テトラクロロシランなどのテトラハロゲン化ケイ素化合物;
1,2,7,8-ジエポキシオクタン、1,2,3,4-ジエポキシブタン、1,2,4,5-ジエポキシペンタン、1,2,5,6-ジエポキシヘキサンなどの多価エポキシ化合物;
などが挙げられる。
【0041】
全ての重合体末端基がアジド基の場合、多価イソシアナート化合物、多価カルボン酸ハライド化合物、多価カルボン酸化合物、ジハロゲン化ケイ素化合物、トリハロゲン化ケイ素化合物、または、テトラハロゲン化ケイ素化合物に由来する連結基を有してもよい。
【0042】
全ての重合体末端基がヒドロキシル基の場合、ジアルキン化合物に由来する連結基を有してもよい。
【0043】
連結基は、一分子の多官能化合物のみにより構成されていてもよいが、多数の多官能化合物が重合または結合することにより構成されていてもよい。この場合のポリエーテル化合物は、オキシラン単量体単位により形成された、2本を超える重合体鎖(アーム)が、1個の連結基(ミクロゲル)の複数の官能基に結合した形状を有する。このような化合物は、星型重合体と呼ばれることがある。ミクロゲルを形成するための多官能化合物としては、2以上のエポキシ基を有する多価エポキシ化合物が好ましい。
【0044】
<ポリエーテル化合物の製造方法>
<第1の製造方法>
本発明のポリエーテル化合物の製造方法としては、たとえば、
エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリンなどのエピハロヒドリンを少なくとも含む、オキシラン単量体を含有する単量体を、周期表第15族または第16族の原子を含むカチオン部、および、アジドアニオンを有するオニウム化合物と、含有されるアルキル基が全て直鎖状アルキル基であるトリアルキルアルミニウムとを含んでなる触媒の存在下で開環重合することにより、ベースポリマーを得る重合工程、および、
得られたベースポリマーに、オニウム化剤を反応させることにより、ベースポリマーのエピハロヒドリン単量体単位を構成するハロゲン基をカチオン性基に変換するオニウム化工程
を含む製造方法(本明細書において、「第1の製造方法」ということがある)が挙げられる。
【0045】
第1の製造方法における重合工程
第1の製造方法における重合工程において、オニウム化合物の使用量は、目的とするベースポリマーの分子量などに応じて決定すればよく、特に限定されないが、用いる全単量体に対して、通常0.0001~50モル%であり、好ましくは0.0005~20モル%であり、特に好ましくは0.001~10モル%である。
【0046】
第1の製造方法における重合工程においては、触媒として、オニウム化合物と、含有されるアルキル基が全て直鎖状アルキル基であるトリアルキルアルミニウムとを含んでなる触媒を用いる。
【0047】
第1の製造方法における重合工程において用いるオニウム化合物は、カチオン部とアニオン部とを有しており、カチオン部が周期表第15族または第16族の原子を含み、アニオン部がアジドアニオンにより構成される。
【0048】
カチオン部としては、アンモニウムイオン(たとえば、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオンなどのテトラアルキルアンモニウムイオン)、ピリジニウムイオン、イミダゾリウムイオン、ホスホニウムイオン、アルソニウムイオン、スチボニウムイオン、オキソニウムイオン、スルホニウムイオン、セレノニウムイオンなどが例示され、アンモニウムイオン、ピリジニウムイオン、イミダゾリウムイオン、ホスホニウムイオン、スルホニウムイオンが好ましく、アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン、スルホニウムイオンがより好ましく、アンモニウムイオンがさらに好ましい。
【0049】
オニウム化合物としては、アンモニウムアジド、ピリジニウムアジド、イミダゾリウムアジド、ホスホニウムアジド、アルソニウムアジド、スチボニウムアジド、オキソニウムアジド、スルホニウムアジド、セレノニウムアジドが例示され、アンモニウムアジド、ピリジニウムアジド、イミダゾリウムアジド、ホスホニウムアジド、スルホニウムアジドが好ましく、アンモニウムアジド、ホスホニウムアジド、スルホニウムアジドがより好ましく、アンモニウムアジドがさらに好ましい。
【0050】
オニウム化合物としては、下記一般式(2)で表される化合物が挙げられる。
【0051】
【化3】
【0052】
一般式(2)において、R~Rはそれぞれ独立してヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~20のアルキル基またはアリール基を表し、Nはいずれも窒素原子を表す。また、R~Rはそれぞれ独立して、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~10のアルキル基またはアリール基であることが好ましく、メチル基、エチル基、ノルマルブチル基またはノルマルオクチル基であることが特に好ましい。
【0053】
オニウム化合物としては、テトラメチルアンモニウムアジド、テトラブチルアンモニウムアジドなどを挙げることができ、なかでも、テトラブチルアンモニウムアジドが好ましい。
【0054】
第1の製造方法における重合工程において用いるトリアルキルアルミニウムとしては、有するアルキル基が全て直鎖状のアルキル基であるトリアルキルアルミニウムが好ましい。トリアルキルアルミニウムとしては、一般式:RAlで表されるトリアルキルアルミニウムが挙げられる。
【0055】
~Rはそれぞれ独立して炭素数1~18の直鎖状のアルキル基を表し、Alはアルミニウム原子を表す。また、R~Rはそれぞれ独立して、炭素数1~12の直鎖状のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~8の直鎖状のアルキル基(すなわち、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、ノルマルブチル基、ノルマルペンチル基、ノルマルヘキシル基、ノルマルヘプチル基またはノルマルオクチル基)であることが特に好ましい。さらに、R~Rは、全て同じ基であることが特に好ましい。
【0056】
トリアルキルアルミニウムとしては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリノルマルオクチルアルミニウムが挙げられ、なかでも、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムが好ましい。
【0057】
第1の製造方法における重合工程において、オニウム化合物と、トリアルキルアルミニウムとの使用割合は、特に限定されないが、オニウム化合物:トリアルキルアルミニウムのモル比が、1:1~1:100の範囲であることが好ましく、1.0:1.1~1.0:50.0の範囲であることがより好ましく、1.0:1.2~1.0:10.0の範囲であることが特に好ましい。
【0058】
なお、触媒として用いる、オニウム化合物と、トリアルキルアルミニウムとの混合物には、必要に応じて、例えば、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンなどのルイス塩基やクラウンエーテルなどの他の成分を添加することもできる。
【0059】
オニウム化合物と、トリアルキルアルミニウムとの混合方法は特に限定されないが、それぞれを溶媒に溶解または懸濁して、それらを混合することが好ましい。用いる溶媒は特に限定されないが、不活性の溶媒が好適に用いられ、例えば、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;n-ペンタン、n-へキサンなどの鎖状飽和炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;テトラヒドロフラン、アニソール、ジエチルエーテルなどのエーテル;あるいはこれらの混合溶媒;などが用いられる。触媒の成分を混合する際の温度や時間は特に限定されないが、-30~50℃の条件下で10秒間~30分間混合することが好ましい。
【0060】
第1の製造方法における重合工程においては、以上のようにして得た、オニウム化合物と、トリアルキルアルミニウムとからなる触媒の存在下で、エピハロヒドリンを少なくとも含む、オキシラン単量体を含有する単量体の開環重合を行なう。触媒と単量体との混合方法は特に限定されず、例えば触媒を含む溶媒に単量体を添加してもよいし、単量体を含む溶媒に触媒を添加してもよい。重合方法は、特に限定されないが、重合を良好に制御する観点からは、溶液重合法により重合を行なうことが好ましい。溶媒としては、不活性の溶媒が好適に用いられ、例えば、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;n-ペンタン、n-へキサンなどの鎖状飽和炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;テトラヒドロフラン、アニソール、ジエチルエーテルなどのエーテル;あるいはこれらの混合溶媒;などが用いられる。これらの溶媒のなかでも、重合反応速度が速くなることから、非極性の溶媒が特に好適に用いられる。溶媒の使用量は特に限定されないが、単量体濃度が1~50重量%となるように用いることが好ましく、3~40重量%になるように用いることが特に好ましい。
【0061】
第1の製造方法において、重合を行なう条件は、特に限定されず、用いる単量体や触媒の種類、目的とする分子量などに応じて決定すれば良い。重合時の圧力は、通常1~500atmであり、好ましくは1~100atmであり、特に好ましくは1~50atmである。重合時の温度は、通常-70~200℃であり、好ましくは-40~150℃であり、特に好ましくは-20~100℃である。重合時間は、通常10秒間~100時間であり、好ましくは20秒間~80時間であり、特に好ましくは30秒間~50時間である。
【0062】
単量体は、一度に全量を反応系に添加しても良いし、複数回に分けて添加してもよい。上記の製造方法では、重合反応がリビング性を伴って進行するので、異種の単量体を逐次的に添加し、添加するごとに重合反応を完結させることで、ブロック共重合体を得ることも可能である。
【0063】
全ての単量体の重合反応が完結した後は、重合反応停止剤を反応系に添加することが好ましい。重合反応停止剤としては、例えば、水やアルコール類が使用できる。このような重合反応停止剤を用い、アニオン部がアジドアニオンにより構成されるオニウム化合物と、トリアルキルアルミニウムとからなる触媒を用いることにより、重合開始末端にアジド基を持ち、重合停止末端にヒドロキシル基を持つ、少なくともエピハロヒドリン単量体単位により構成されたベースポリマーを得ることができる。
【0064】
重合反応を停止した後は、例えば減圧乾燥などの常法に従い、ベースポリマーを回収すればよい。
【0065】
第1の製造方法におけるカップリング工程
第1の製造方法における重合工程では、重合開始末端にアジド基を持ち、重合停止末端にヒドロキシル基を持つベースポリマーが得られる。
第1の製造方法は、重合工程においてベースポリマーを得た後、得られたベースポリマーと多官能化合物とを反応させるカップリング工程を含むことも好ましい。カップリング工程を含む製造方法を用いることにより、全ての重合体主鎖末端基が、ヒドロキシル基であるベースポリマー、または、全ての重合体主鎖末端基が、アジド基であるベースポリマーを、容易に製造することができる。
【0066】
たとえば、重合工程において得られた重合開始末端にアジド基を持ち、重合停止末端にヒドロキシル基を持つベースポリマーと、ジアルキン化合物とを反応させることによって、ベースポリマーが重合体主鎖末端に有するアジド基と、ジアルキン化合物が有するアルキニル基とが反応することにより、1,2,3-トリアゾール環が形成される。結果として、重合工程において得られたベースポリマーに由来する2つの重合体鎖が、ジアルキン化合物に由来する連結基を介して、お互いに結合しており、かつ、2つの重合体主鎖末端基がヒドロキシル基であるベースポリマーを製造することができる。
【0067】
重合開始末端にアジド基を持ち、重合停止末端にヒドロキシル基を持つベースポリマーとジアルキン化合物との反応は、有機溶媒中または水中で進行させることができる。ジアルキン化合物としては、上記したジアルキン化合物を用いることができる。また、一価の銅イオンを触媒として用いることにより、反応速度を高めることができる。反応温度は、-30~100℃であってよく、反応時間は、通常、1分~96時間である。
【0068】
また、たとえば、重合工程において得られた重合開始末端にアジド基を持ち、重合停止末端にヒドロキシル基を持つベースポリマーと、2以上のハロゲノシリル基を有するハロゲン化ケイ素化合物とを反応させることによって、ベースポリマーが重合体主鎖末端に有するヒドロキシル基と、ハロゲン化ケイ素化合物が有するハロゲノシリル基とが反応することにより、シロキサン結合が形成される。結果として、重合工程において得られたベースポリマーに由来する2以上の重合体鎖が、ハロゲン化ケイ素化合物に由来する連結基を介して、お互いに結合しており、かつ、全ての重合体主鎖末端基がアジド基であるベースポリマーを製造することができる。
【0069】
重合開始末端にアジド基を持ち、重合停止末端にヒドロキシル基を持つベースポリマーとハロゲン化ケイ素化合物との反応は、有機溶媒中で進行させることができる。ハロゲン化ケイ素化合物としては、上記したハロゲン化ケイ素化合物を用いることができる。また、ハロゲン化ケイ素化合物以外の他の多官能化合物、たとえば、上述した多価イソシアナート化合物、多価カルボン酸クロリド化合物、多価カルボン酸化合物なども、ハロゲン化ケイ素化合物と同様に用いることができ、全ての重合体主鎖末端基がアジド基であるベースポリマーを製造することができる。
【0070】
カップリング工程において用いる多官能化合物が有する官能基の数を調節することによって、得られるベースポリマーが有する重合体末端基の個数を調整することも可能である。たとえば、2つのアルキニル基を有するジアルキン化合物、または、2つのハロゲノシリル基を有するジハロゲン化ケイ素化合物を用いた場合には、得られるベースポリマーが有する重合体末端基の個数は2となる。
【0071】
<第2の製造方法>
また、本発明のポリエーテル化合物の製造方法としては、たとえば、周期表第15族または第16族の原子を含有する化合物のオニウム塩と、含有されるアルキル基が全て直鎖状アルキル基であるトリアルキルアルミニウムとを含んでなる触媒の存在下で、多官能化合物を予め重合または結合させることによりミクロゲルを形成させた後、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリンなどのエピハロヒドリンを少なくとも含む、オキシラン単量体を含有する単量体を開環重合することにより、ベースポリマーを得る重合工程、および、
得られたベースポリマーに、オニウム化剤を反応させることにより、ベースポリマーのエピハロヒドリン単量体単位を構成するハロゲン基をカチオン性基に変換するオニウム化工程
を含む製造方法(本明細書において、「第2の製造方法」ということがある)が挙げられる。
【0072】
第2の製造方法における重合工程
第2の製造方法における重合工程においては、多官能化合物を予め重合または結合させることによりミクロゲルを形成させた後、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリンなどのエピハロヒドリンを少なくとも含む、オキシラン単量体を含有する単量体を開環重合する。この場合、1個の連結基(ミクロゲル)の複数の官能基に、オキシラン単量体単位により形成された、2本を超える重合体鎖が結合した星型重合体を得ることができる。この際、多官能化合物の重合度を調節することによって、連結基(ミクロゲル)の官能基の個数を調整でき、最終的に得られるベースポリマーが有する重合体末端基の個数を調整することも可能である。連結基(ミクロゲル)の官能基の個数(すなわち、ベースポリマーの分岐度)は、平均で2.1~4.0であってよい。
【0073】
多官能化合物としては、上述したものが挙げられ、なかでも、多価エポキシ化合物が好ましく、1,2,7,8-ジエポキシオクタン、1,2,3,4-ジエポキシブタン、1,2,4,5-ジエポキシペンタン、1,2,5,6-ジエポキシヘキサンがより好ましい。
【0074】
たとえば、多官能化合物として、多価エポキシ化合物を用い、重合反応停止剤として、水やアルコール類を用いた場合には、多価エポキシ化合物に由来する連結基と、該連結基に結合した複数の重合体鎖と、該重合体鎖の末端に結合した複数の重合体主鎖末端基とを有しており、全ての重合体主鎖末端基がヒドロキシル基である星型ベースポリマーを得ることができる。
【0075】
第2の製造方法における重合工程においは、触媒として、周期表第15族または第16族の原子を含有する化合物のオニウム塩と、含有されるアルキル基が全て直鎖状アルキル基であるトリアルキルアルミニウムとを含んでなる触媒を用いる。
【0076】
オニウム塩としては、アンモニウム塩、ピリジニウム塩、イミダゾリウム塩、ホスホニウム塩、アルソニウム塩、スチボニウム塩、オキソニウム塩、スルホニウム塩、セレノニウム塩が例示され、アンモニウム塩、ピリジニウム塩、イミダゾリウム塩、ホスホニウム塩、スルホニウム塩が好ましく、アンモニウム塩、ホスホニウム塩、スルホニウム塩がより好ましく、アンモニウム塩がさらに好ましい。
【0077】
第2の製造方法における重合工程において用いるオニウム塩としては、下記一般式(3)で表されるアンモニウム塩が挙げられる。
【0078】
【化4】
【0079】
一般式(3)において、R~R11はそれぞれ独立してヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~20のアルキル基またはアリール基を表し、Nは窒素原子を表し、Xは無機または有機の基からなる対イオンを表す。また、R~R11はそれぞれ独立して、ヘテロ原子を含んでいてもよい炭素数1~10のアルキル基またはアリール基であることが好ましく、メチル基、エチル基、ノルマルブチル基またはノルマルオクチル基であることが特に好ましい。Xが表す無機または有機の基としては、ハロゲン原子、水酸基、アルコキシル基、アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、水素化ホウ素基が例示され、臭素原子、塩素原子、ヨウ素原子のいずれかであることが好ましい。
【0080】
オニウム塩としては、テトラノルマルブチルアンモニウムブロミドが特に好ましい。
【0081】
第2の製造方法における重合工程において用いるトリアルキルアルミニウムとしては、含有されるアルキル基が全て直鎖状アルキル基であるトリアルキルアルミニウムであれば、特に限定されず、たとえば、一般式:R121314Alで表されるトリアルキルアルミニウムが挙げられる。
【0082】
12~R14はそれぞれ独立して炭素数1~18の直鎖状のアルキル基を表し、Alはアルミニウム原子を表す。また、R12~R14はそれぞれ独立して、炭素数1~12の直鎖状のアルキル基であることが好ましく、炭素数1~8の直鎖状のアルキル基(すなわち、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、ノルマルブチル基、ノルマルペンチル基、ノルマルヘキシル基、ノルマルヘプチル基またはノルマルオクチル基)であることが特に好ましい。さらに、R12~R14は、全て同じ基であることが特に好ましい。
【0083】
トリアルキルアルミニウムとしては、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリノルマルオクチルアルミニウムが挙げられ、なかでも、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウムが好ましい。
【0084】
第2の製造方法における重合工程において、オニウム塩と、トリアルキルアルミニウムとの使用割合は、特に限定されないが、オニウム塩:トリアルキルアルミニウムのモル比が、1:1~1:100の範囲であることが好ましく、1.0:1.1~1.0:50.0の範囲であることがより好ましく、1.0:1.2~1.0:10.0の範囲であることが特に好ましい。
【0085】
なお、触媒として用いる、オニウム塩と、トリアルキルアルミニウムとの混合物には、必要に応じて、例えば、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミンなどのルイス塩基やクラウンエーテルなどの他の成分を添加することもできる。
【0086】
オニウム塩と、トリアルキルアルミニウムとの混合方法は特に限定されないが、それぞれを溶媒に溶解または懸濁して、それらを混合することが好ましい。用いる溶媒は特に限定されないが、不活性の溶媒が好適に用いられ、例えば、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;n-ペンタン、n-へキサンなどの鎖状飽和炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;テトラヒドロフラン、アニソール、ジエチルエーテルなどのエーテル;あるいはこれらの混合溶媒;などが用いられる。触媒の成分を混合する際の温度や時間は特に限定されないが、-30~50℃の条件下で10秒間~30分間混合することが好ましい。
【0087】
第2の製造方法における重合工程においては、以上のようにして得た、オニウム塩と、トリアルキルアルミニウムとからなる触媒の存在下で、多官能化合物を重合または結合させることによりミクロゲルを形成させる。触媒と多官能化合物との混合方法は特に限定されず、例えば触媒を含む溶媒に多官能化合物を添加してもよいし、多官能化合物を含む溶媒に触媒を添加してもよい。重合または結合させる方法は、特に限定されないが、反応を良好に制御する観点からは、溶媒中で行なうことが好ましい。溶媒としては、不活性の溶媒が好適に用いられ、例えば、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;n-ペンタン、n-へキサンなどの鎖状飽和炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素;テトラヒドロフラン、アニソール、ジエチルエーテルなどのエーテル;あるいはこれらの混合溶媒;などが用いられる。これらの溶媒のなかでも、非極性の溶媒が特に好適に用いられる。
【0088】
第2の製造方法における重合工程においては、多官能化合物が重合または結合し、ミクロゲルが形成されたら、ミクロゲルに対して、エピクロロヒドリン、エピブロモヒドリン、エピヨードヒドリンなどのエピハロヒドリンを少なくとも含む、オキシラン単量体を含有する単量体を添加し、単量体の開環重合を行う。
【0089】
第2の製造方法において、重合を行なう条件は、特に限定されず、用いる単量体や触媒の種類、目的とする分子量などに応じて決定すれば良い。重合は、ミクロゲルを含有する溶液中で行うことができる。重合時の圧力は、通常1~500atmであり、好ましくは1~100atmであり、特に好ましくは1~50atmである。重合時の温度は、通常-70~200℃であり、好ましくは-40~150℃であり、特に好ましくは-20~100℃である。重合時間は、通常10秒間~100時間であり、好ましくは20秒間~80時間であり、特に好ましくは30秒間~50時間である。
【0090】
単量体は、一度に全量を反応系に添加しても良いし、複数回に分けて添加してもよい。第2の製造方法では、重合反応がリビング性を伴って進行するので、異種の単量体を逐次的に添加し、添加するごとに重合反応を完結させることで、ブロック共重合体を得ることも可能である。
【0091】
全ての単量体の重合反応が完結した後は、重合反応停止剤を反応系に添加することが好ましい。重合反応停止剤としては、例えば、水やアルコール類が使用できる。このような重合反応停止剤を用いることにより、全ての末端にヒドロキシル基を持つ、少なくともエピハロヒドリン単量体単位により構成された多分岐のベースポリマーを得ることができる。
【0092】
重合反応を停止した後は、例えば減圧乾燥などの常法に従い、ベースポリマーを回収すればよい。
【0093】
第1の製造方法および第2の製造方法におけるオニウム化工程
第1の製造方法および第2の製造方法は、いずれも、オニウム化工程を含む。オニウム化工程では、得られたベースポリマー中のエピハロヒドリン単量体単位を構成するハロゲン原子の少なくとも一部を、オニウム化剤を用いて、カチオン性基に置換する。オニウム化工程において得られるカチオン性基は、通常、オニウムハライド基である。オニウム化剤としては、窒素原子含有芳香族複素環式化合物が好ましく、たとえば、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、ピロール、1-メチルピロール、チアゾール、オキサゾール、ピラゾール、イソオキサゾールなどの五員複素環式化合物;ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、2,6-ルチジンなどの六員複素環式化合物;キノリン、イソキノリン、キノキサリン、キナゾリン、シンノリン、プリン、インドール、イソインドール、ベンゾイミダゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾイソオキサゾールなどの縮合複素環式化合物;などを挙げることができる。これらのなかでも、五員複素環式化合物および六員複素環式化合物が好ましく、反応後の物質安定性の観点から、1-メチルイミダゾールがより好ましい。
【0094】
ベースポリマー中のエピハロヒドリン単量体単位を構成するハロゲン原子の少なくとも一部を、カチオン性基に置換する方法は、公知のオニウム化反応を応用したものであるが、公知のオニウム化反応については、特開昭50-33271号公報、特開昭51-69434号公報、および特開昭52-42481号公報などに開示されている。
【0095】
ベースポリマー中のエピハロヒドリン単量体単位を構成するハロゲン原子の少なくとも一部を、カチオン性基に置換する方法としては、上述したオニウム化剤と、エピハロヒドリン単量体単位を含有しているベースポリマーとを混合し反応させることで、置換する方法などが挙げられる。オニウム化剤と、ベースポリマーとの混合方法は、特に限定されず、たとえば、溶媒を用いて、溶媒を介してこれらを混合する方法や、実質的に溶媒を介さずに混合する方法などが挙げられる。
【0096】
溶媒を用いて、エピハロヒドリン単量体単位を含有しているベースポリマーと、オニウム化剤とを混合する方法としては、特に限定されず、例えば、ベースポリマーを溶媒に溶解してなる溶液にオニウム化剤を添加し混合する方法、オニウム化剤を溶媒に溶解してなる溶液にベースポリマーを添加し混合する方法、オニウム化剤とベースポリマーとの両方を溶媒に溶解して溶液として調製しておき、両溶液を混合する方法などが挙げられる。なお、ベースポリマーやオニウム化剤は、溶媒中に分散していてもよく、ベースポリマーやオニウム化剤が溶媒に溶解しているか、分散しているかは問わない。
【0097】
溶媒としては、不活性の溶媒が好適に用いられ、非極性であっても極性であってもよい。非極性溶媒としては、たとえば、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素;n-ペンタン、n-へキサンなどの鎖状飽和炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサンなどの脂環式飽和炭化水素;などが挙げられる。極性溶媒としては、テトラヒドロフラン、アニソール、ジエチルエーテルなどのエーテル;酢酸エチル、安息香酸エチルなどのエステル;アセトン、2-ブタノン、アセトフェノンなどのケトン;アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒;エタノール、メタノール、水などのプロトン性極性溶媒;などが挙げられる。溶媒としては、これらの混合溶媒も好適に用いられる。溶媒の使用量は、特に限定されないが、エピハロヒドリン単量体単位を含有しているベースポリマーの濃度が1~50重量%となるように用いることが好ましく、3~40重量%になるように用いることがより好ましい。
【0098】
溶媒を用いた場合の反応時の温度は、好ましくは20~170℃であり、反応時間は、好ましくは1分~500時間である。
【0099】
オニウム化剤の使用量は、特に限定されないが、用いるオニウム化剤やベースポリマーの構造、目的とするベースポリマー中のオニウムイオン含有基の置換率などに応じて決定すればよい。具体的には、オニウム化剤の使用量は、用いるエピハロヒドリン単量体単位を構成するハロゲン原子1モルに対し、通常、0.01~100モル、好ましくは0.02~50モル、より好ましくは0.03~10モル、さらに好ましくは0.05~2モルの範囲である。オニウム化剤の量が少なすぎると、置換反応が遅く、所望の組成のカチオン性基を有するポリエーテル化合物が得られなくなるおそれがあり、一方、オニウム化剤の量が多すぎると、得られたポリエーテル化合物から未反応のオニウム化剤を除去することが困難になるおそれがある。
【0100】
第1の製造方法および第2の製造方法におけるアニオン交換工程
第1の製造方法および第2の製造方法は、さらに必要に応じて、オニウムハライド基を構成するハロゲン化物イオンを、所望のアニオンに交換するアニオン交換工程を含むこともできる。
【0101】
オニウム化工程により得られたポリエーテル化合物中の対アニオンは、電離性のイオン結合であるため、公知のイオン交換反応により、少なくとも一部を、任意の対アニオンにアニオン交換することができる。上記オニウム化剤と、エピハロヒドリン単量体単位を含有しているポリエーテル化合物とを混合し反応が終了した段階においては、上記一般式(1)のXはハロゲン原子であるが、Aの対アニオンであるハロゲン化物イオンに対し、公知のアニオン交換反応を行ってもよい。アニオン交換反応は、オニウムイオン含有基を有するポリエーテル化合物に対し、電離性を有するイオン性化合物を混合することで行うことができる。アニオン交換反応を行う条件は、特に限定されないが、用いるイオン性化合物やポリエーテル化合物の構造、目的とするAの対アニオンの置換率などに応じて決定すればよい。反応には、イオン性化合物と、オニウムイオン含有基を有するポリエーテル化合物とのみで行っても構わないし、有機溶媒などのその他の化合物を含んでいても構わない。イオン性化合物の使用量は、特に限定されないが、エピハロヒドリン単量体単位を構成するハロゲン原子1モルに対し、通常、0.01~100モル、好ましくは0.02~50モル、より好ましくは0.03~10モルの範囲である。イオン性化合物の量が少なすぎると、置換反応が進行しにくくなるおそれがあり、一方、多すぎると、イオン性化合物の除去が困難になるおそれがある。
【0102】
アニオン交換反応時の圧力は、通常、0.1~50MPaであり、好ましくは0.1~10MPaであり、より好ましくは0.1~5MPaである。反応時の温度は、通常、-30~200℃、好ましくは-15~180℃、より好ましくは0~150℃である。反応時間は、通常、1分~1000時間であり、好ましくは3分~100時間であり、より好ましくは5分~10時間であり、さらに好ましくは5分~3時間である。
【0103】
対アニオンのアニオン種は、特に限定されないが、たとえば、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなどのハロゲン化物イオン;硫酸イオン;亜硫酸イオン;水酸化物イオン;炭酸イオン;炭酸水素イオン;硝酸イオン;酢酸イオン;過塩素酸イオン;リン酸イオン;アルキルオキシイオン;トリフルオロメタンスルホン酸イオン;ビストリフルオロメタンスルホンイミドイオン;ヘキサフルオロリン酸イオン;テトラフルオロホウ酸イオン;酢酸イオン;ジシアナミドイオン;テトラシアノボレートイオンなどが挙げられる。
【0104】
<ブロック共重合体>
本発明のポリエーテル化合物は、ブロック共重合体中の構造単位として使用できる。特に、ポリエーテル化合物のブロックと、該ブロックの両端に設けられており、ハードセグメントを構成するブロックとを有するブロック共重合体(ABA型ブロックポリマー、ABABA型ブロックポリマーなど)は、後述するポリエーテル化合物の気体分離性能を十分に発揮させながら、薄い自立膜を形成することができるので、気体分離膜に好適に利用することができる。
【0105】
ハードセグメントを構成するブロックとしては、ポリウレタン、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミド、ポリカーボネート、フェノール樹脂、ポリ(メタ)アクリレート、ポリウレア、ポリオレフィン、ポリスチレンなどにより形成されるブロックを挙げることができる。
【0106】
ブロック共重合体は、ポリエーテル化合物が重合体主鎖末端に有するヒドロキシル基またはアジド基を利用して、ポリエーテル化合物とハードセグメントを構成するポリマーとを、カップリングさせることにより、製造することができる。
【0107】
<架橋性組成物>
ポリエーテル化合物として、カチオン性基に加えて架橋性基を有するものを用い、これに架橋剤を配合して用いてもよい。カチオン性基および架橋性基を有するポリエーテル化合物またはブロック共重合体と、架橋剤とを含有する架橋性組成物を架橋することにより、機械的強度に優れた成形体を得ることができる。
【0108】
架橋剤としては、カチオン性基を有するポリエーテル化合物の有する架橋性基の種類などに応じて適宜選択すればよい。架橋剤の具体例としては、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄などの硫黄;一塩化硫黄、二塩化硫黄、モルホリンジスルフィド、アルキルフェノールジスルフィド、ジベンゾチアジルジスルフィド、N,N’-ジチオ-ビス(ヘキサヒドロ-2H-アゼノピン-2)、含リンポリスルフィド、高分子多硫化物などの含硫黄化合物;ジクミルペルオキシド、ジターシャリブチルペルオキシドなどの有機過酸化物;p-キノンジオキシム、p,p’-ジベンゾイルキノンジオキシムなどのキノンジオキシム;トリエチレンテトラミン、ヘキサメチレンジアミンカルバメート、4,4’-メチレンビス-o-クロロアニリンなどの有機多価アミン化合物;s-トリアジン-2,4,6-トリチオールなどのトリアジン系化合物;メチロール基を持つアルキルフェノール樹脂;2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-[4-(4-モルホリニル)フェニル]-1-ブタノンなどのアルキルフェノン型光重合開始剤などの各種紫外線架橋剤;などが挙げられる。たとえば、カチオン性基を有するポリエーテル化合物が有する架橋性基が、エチレン性炭素-炭素不飽和結合含有基である場合には、上記架橋剤のなかでも、硫黄、含硫黄化合物、有機過酸化物および紫外線架橋剤から選択される架橋剤を用いることが好ましく、紫外線架橋剤を用いることが特に好ましい。これらの架橋剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0109】
架橋剤の配合割合は、特に限定されないが、カチオン性基を有するポリエーテル化合物100重量部に対して、好ましくは0.1~10重量部、より好ましくは0.2~7重量部、さらに好ましくは0.3~5重量部である。架橋剤の配合量を上記範囲とすることにより、機械的強度に優れた成形体を得ることができる。
【0110】
架橋性組成物を架橋させるための方法としては、用いる架橋剤の種類などに応じて選択すればよく、特に限定されないが、たとえば、加熱による架橋や紫外線照射による架橋を挙げることができる。加熱により架橋する場合の架橋温度は、特に限定されないが、130~200℃が好ましく、140~200℃がより好ましい。架橋時間も特に限定されず、たとえば1分間~5時間の範囲で選択される。加熱方法としては、プレス加熱、オーブン加熱、蒸気加熱、熱風加熱、マイクロ波加熱などの方法を適宜選択すればよい。紫外線照射による架橋を行う場合は、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、水銀-キセノンランプなどの光源を用いて、常法に従って、架橋性組成物に紫外線を照射すればよい。
【0111】
<成形体>
本発明のポリエーテル化合物、上記したブロック共重合体、または、上記した架橋性組成物を用いて、成形体を得ることができる。本発明の成形体は、気体分離膜、二次電池のセパレータなどに好適に利用できる。
【0112】
成形の方法としては、特に限定されないが、
成形機を用いて、ポリエーテル化合物、ブロック共重合体または架橋性組成物を成形することにより、成形体を得る方法、
ポリエーテル化合物、ブロック共重合体または架橋性組成物を、溶媒に溶解または分散させて液状組成物を調製した後、得られた液状組成物を基材にキャストすることにより、フィルム状の成形体を得る方法、
ポリエーテル化合物、ブロック共重合体または架橋性組成物を、溶媒に溶解または分散させて液状組成物を調製した後、得られた液状組成物に多孔質体を含浸させて、成形体(含浸多孔質体)を得る方法、
などを挙げることができる。
【0113】
成形機を用いた成形方法としては、特に限定されないが、押出成形法、射出成形法、圧縮成形法、カレンダー成形法などを挙げることができる。
【0114】
特に上記したブロック共重合体を用いる場合には、自立膜を容易に製造できることから、成形機を用いて、ブロック共重合体を成形することにより、成形体を得る方法が好ましい。
【0115】
また、ポリエーテル化合物、ブロック共重合体または架橋性組成物に、補強剤;老化防止剤;紫外線吸収剤;耐光安定剤;粘着付与剤;界面活性剤;導電性付与剤;電解質物質;着色剤(染料・顔料);難燃剤;帯電防止剤;などの添加剤を配合した後、成形体に成形してもよい。
【0116】
<気体分離膜>
本発明のポリエーテル化合物は、気体分離性能を有することから、気体分離膜に好適に利用できる。本発明の気体分離膜は、上記したポリエーテル化合物を含有することから、優れた気体分離性能を有している。特に、上記したブロック共重合体から形成される膜は、優れた気体分離性能を有するとともに、優れた機械的強度を有するものであり、自立膜としても利用可能である。
【0117】
本発明の気体分離膜は、たとえば、天然ガスからのCOの分離、バイオガスからのCOの分離、CO/CH含有ガスからのCOの分離、CO/N含有ガスからのCOの分離に好適に利用することができる。分離の対象とするガスには、硫化水素、メルカプタン(チオール)、ジスルファイド、二硫化炭素などが含まれていてもよい。特に、本発明の気体分離膜は、CO分離膜として好適である。
【0118】
本発明の気体分離膜は、それのみで自立膜として利用することもできるし、多孔性支持体と積層して利用することもできる。
【実施例
【0119】
以下に、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明する。以下において、特記しない限り「部」は重量基準である。なお、試験、評価は以下によった。
【0120】
〔数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)〕
テトラヒドロフランを溶媒とするゲルパーミエーションクロマトグラフィ-(GPC)により、ポリスチレン換算値として測定した。なお、測定器としてはHLC-8320(東ソー社製)を用い、カラムはTSKgel SuperMultiporeHZ-H(東ソー社製)二本を直列に連結して用い、検出器は示差屈折計RI-8320および紫外可視検出計(UV-波長を254ナノメートルに設定)(東ソー社製)を用いた。
【0121】
〔核磁気共鳴スペクトル(NMR)測定〕
まず、試料となるポリエーテル化合物30mgを、1.0mLの重ジメチルスルホキシドに加え、1時間振蕩することにより均一に溶解させた。そして、得られた溶液についてNMR測定を行って、H-NMRスペクトルを得て、定法に従いポリエーテル化合物の構造を帰属した。NMR装置は、JEOL JNM-EX400WB spectrometer(399.78 MHz for 1H, 100.53 MHz for 13C)、もしくは、Bruker Avance III 500MHz spectrometer(500.13 MHz for 1H, 125.77 MHz for 13C)を用いた。
【0122】
製造実施例A
(エピクロロヒドリンのリビングアニオン重合)
アルゴンで置換した攪拌機付きガラス反応器に、テトラノルマルブチルアンモニウムアジド2.84gとトルエン50mlを添加し、これを0℃に冷却した。次いで、トリエチルアルミニウム1.256g(テトラノルマルブチルアンモニウムアジドに対して1.1当量)をノルマルヘキサン10mlに溶解したものを添加して、15分間反応させて、触媒組成物を得た。得られた触媒組成物に、エピクロロヒドリン15.0gを添加し、0℃において重合反応を行った。重合反応開始後、徐々に溶液の粘度が上昇した。12時間反応後、重合反応液に少量の水を注いで反応を停止した。得られた重合反応液を0.1Nの塩酸水溶液で洗浄することにより触媒残渣の脱灰処理を行い、さらにイオン交換水で洗浄した後に、有機相を50℃で12時間減圧乾燥した。これにより得られた無色透明のオイル状物質の収量は14.9gであった。また、得られた物質の示差屈折計によるGPCによる数平均分子量(Mn)は1,580、分子量分布(Mw/Mn)は1.21であった。得られた物質はGPCの紫外可視検出計では検出されなかった。以上より、得られたオイル状物質は、重合開始末端にアジド基を持ち、重合停止末端にヒドロキシル基を持つ、エピクロロヒドリン単位により構成されたオリゴマー(平均17量体)(以下ポリエピクロロヒドリンA)であるといえる。
【0123】
製造実施例B
(ポリエピクロロヒドリンAのアジド基のクリックケミストリーによるカップリング)
アルゴンで置換した攪拌機付きガラス反応器に、ポリエピクロロヒドリンAを1.5gとジメチルホルムアミド10mlを添加し、これを室温で保持した。次いで、臭化銅(I)0.287gとペンタメチルジエチレントリアミン0・347gと1,7-オクタジイン0.053gとを、上記の溶液に添加し、室温で48時間反応した。得られた重合反応液をトルエンで抽出、イオン交換水にて有機相を洗浄することにより触媒残渣の脱灰処理を行い、有機相を50℃で12時間減圧乾燥した。これにより得られた無色透明のオイル状物質の収量は1.4gであった。また、得られた物質の示差屈折計によるGPCによる数平均分子量(Mn)は2,800、分子量分布(Mw/Mn)は1.26であった。得られた物質はGPCの紫外可視検出計でも検出され、1,2,3-トリアゾール環の形成を示唆した。またH-NMRによりトリアゾール環が導入されていることを確認した。
以上より、得られたオイル状物質は、ポリエピクロロヒドリンAの末端のアジド基と、1,7-オクタジインとがカップリングしてポリエピクロロヒドリンAが2量化した、両方の末端にヒドロキシル基を持つテレケリックポリエピクロロヒドリンB(GPCによると平均30量体)であるといえる。
【0124】
実施例1
(テレケリックポリエピクロロヒドリンBの1-メチルイミダゾールによる4級化)
製造実施例Bで得られた両方の末端にヒドロキシル基を持つテレケリックポリエピクロロヒドリンB1.0gと、1-メチルイミダゾール2.4gと、アセトニトリル2.0gとを、アルゴンで置換した攪拌機付きガラス反応器に添加し、80℃に加熱した。80℃で48時間反応させた後、室温に冷却し反応を停止した。得られた反応物をトルエン/メタノール/水の等重量混合溶液にて洗浄した後、1-メチルイミダゾールおよびトルエンを含む有機相を除去して、水相を50℃で12時間減圧乾燥したところ、薄赤色の固体1.9gが得られた。この固体について、H-NMR測定および元素分析を行ったところ、出発原料のテレケリックポリエピクロロヒドリンBの、繰り返し単位におけるクロロ基全てが対アニオンとして塩化物イオンを有する1-メチルイミダゾリウム基に置換された、両方の末端にヒドロキシル基を持ち対アニオンとして塩化物イオンを有するイミダゾリウム構造含有テレケリックポリエーテル化合物1であると同定された。
【0125】
実施例2
(対アニオンとして塩化物イオンを有するイミダゾリウム構造含有テレケリックポリエーテル化合物1のリチウム(ビストリフルオロメチルスルホン)イミドによるアニオン交換)
両方の末端にヒドロキシル基を持ち対アニオンとして塩化物イオンを有するイミダゾリウム構造含有テレケリックポリエーテル化合物1を1.25gと、リチウム(ビストリフルオロメチルスルホン)イミド2.1gと、イオン交換水10mLとを攪拌機付きガラス反応器に添加した。室温で30分間反応させた後、50℃で12時間減圧乾燥し、得られた固液混合物を水で洗浄して無機塩を除去した後、トルエンで液相を抽出した。得られたトルエン溶液を50℃で12時間減圧乾燥したところ、ほぼ無色透明な粘性液状物質2.8gが得られた。得られた粘性液状物質についてH-NMRスペクトル測定と元素分析を行ったところ、出発原料である対アニオンとして塩化物イオンを有するイミダゾリウム構造含有ポリエーテル化合物の、塩化物イオンの全てが、(ビストリフルオロメチルスルホン)イミドアニオンに交換された、両方の末端にヒドロキシル基を持ち対アニオンとして(ビストリフルオロメチルスルホン)イミドアニオンを有するイミダゾリウム構造含有テレケリックポリエーテル化合物2であると同定された。
【0126】
製造実施例C
(エピクロロヒドリンとアリルグリシジルエーテルのリビングアニオン共重合)
アルゴンで置換した攪拌機付きガラス反応器に、テトラノルマルブチルアンモニウムアジドを2.84gとトルエン50mlを添加し、これを0℃に冷却した。さらにトリエチルアルミニウム1.370g(1.2eq)をノルマルヘキサン10mlに溶解したものを添加して、15分間反応した。かくして得られた混合物に、エピクロロヒドリン9.0gとアリルグリシジルエーテル1.0gを添加し、0℃において重合反応を行った。重合反応開始後、徐々に溶液の粘度が上昇した。12時間反応後、重合反応液に少量の水を注いで反応を停止した。0.1Nの塩酸水溶液にて触媒残渣の脱灰洗浄を行い、さらにイオン交換水で洗浄の後に、有機相を50℃で12時間減圧乾燥した。得られた無色透明のオイル状物質の収量は9.9gであった。また、得られた重合体(オイル状物質)の示差屈折計によるGPCによる数平均分子量(Mn)は1,050、分子量分布(Mw/Mn)は1.35であった。H-NMRにより、得られた重合体の組成は、エピクロロヒドリンユニット91.7モル%とアリルグリシジルエーテルユニット8.3モル%と算出され、重合反応に導入した組成比と一致した。得られたオイル状物質はGPCの紫外可視検出計では検出されなかった。以上より、得られたオイル状物質は、重合開始末端にアジド基を持ち、重合停止末端にヒドロキシル基を持つ、ポリ(エピクロロヒドリン-co-アリルグリシジルエーテル)(平均11量体)(以下ポリエーテルC)であるといえる。
【0127】
製造実施例D
(ポリエーテルCのアジド基のクリックケミストリーによるカップリング)
アルゴンで置換した攪拌機付きガラス反応器に、ポリエーテルCを1.0gとジメチルホルムアミド10mlを添加し、これを室温で保持した。次いで、臭化銅(I)0.287gとペンタメチルジエチレントリアミン0・347gと1,7-オクタジイン0.053gとを、上記の溶液に添加し、室温で48時間反応した。得られた重合反応液をトルエンで抽出、イオン交換水にて有機相を洗浄することにより触媒残渣の脱灰処理を行い、有機相を50℃で12時間減圧乾燥した。これにより得られた無色透明のオイル状物質の収量は1.0gであった。また、得られた物質の示差屈折計によるGPCによる数平均分子量(Mn)は1,900、分子量分布(Mw/Mn)は1.19であった。得られた物質はGPCの紫外可視検出計でも検出され、1,2,3-トリアゾール環の形成を示唆した。またH-NMRによりトリアゾール環が導入されていることを確認した。
以上より、得られたオイル状物質は、ポリエーテルCの末端のアジド基と、1,7-オクタジインとがカップリングしてポリエーテルCが2量化した、両方の末端にヒドロキシル基を持つテレケリックポリエーテルD(GPCによると平均21量体)であるといえる。
【0128】
実施例3
(テレケリックポリエーテルDの1-メチルイミダゾールによる4級化)
製造実施例Dで得られた両方の末端にヒドロキシル基を持つテレケリックポリエーテルD1.0gと、1-メチルイミダゾール2.4gと、アセトニトリル2.0gとを、アルゴンで置換した攪拌機付きガラス反応器に添加し、80℃に加熱した。80℃で48時間反応させた後、室温に冷却し反応を停止した。得られた反応物をトルエン/メタノール/水の等重量混合溶液にて洗浄した後、1-メチルイミダゾールおよびトルエンを含む有機相を除去して、水相を50℃で12時間減圧乾燥したところ、薄赤色の固体1.9gが得られた。この固体について、H-NMR測定および元素分析を行ったところ、出発原料のテレケリックポリエーテルDの、繰り返し単位におけるクロロ基全てが対アニオンとして塩化物イオンを有する1-メチルイミダゾリウム基に置換された、両方の末端にヒドロキシル基を持ち対アニオンとして塩化物イオンを有するイミダゾリウム構造含有テレケリックポリエーテル化合物3であると同定された。
【0129】
実施例4
(対アニオンとして塩化物イオンを有するイミダゾリウム構造含有テレケリックポリエーテル化合物3のリチウム(ビストリフルオロメチルスルホン)イミドによるアニオン交換)
両方の末端にヒドロキシル基を持ち対アニオンとして塩化物イオンを有するイミダゾリウム構造含有テレケリックポリエーテル化合物3を1.25gと、リチウム(ビストリフルオロメチルスルホン)イミド2.1gと、イオン交換水10mLとを攪拌機付きガラス反応器に添加した。室温で30分間反応させた後、50℃で12時間減圧乾燥し、得られた固液混合物を水で洗浄して無機塩を除去した後、トルエンで液相を抽出した。得られたトルエン溶液を50℃で12時間減圧乾燥したところ、ほぼ無色透明な粘性液状物質2.8gが得られた。得られた粘性液状物質についてH-NMRスペクトル測定と元素分析を行ったところ、出発原料である対アニオンとして塩化物イオンを有するイミダゾリウム構造含有ポリエーテル化合物の、塩化物イオンの全てが、(ビストリフルオロメチルスルホン)イミドアニオンに交換された、両方の末端にヒドロキシル基を持ち対アニオンとして(ビストリフルオロメチルスルホン)イミドアニオンを有するイミダゾリウム構造含有テレケリックポリエーテル化合物4であると同定された。
【0130】
製造実施例E
(エピクロロヒドリンのリビングアニオン重合)
アルゴンで置換した攪拌機付きガラス反応器に、テトラノルマルブチルアンモニウムアジド0.284gとトルエン50mlを添加し、これを0℃に冷却した。次いで、トリエチルアルミニウム0.143g(テトラノルマルブチルアンモニウムアジドに対して1.25当量)をノルマルヘキサン2mlに溶解したものを添加して、15分間反応させて、触媒組成物を得た。得られた触媒組成物に、エピクロロヒドリン15.0gを添加し、0℃において重合反応を行った。重合反応開始後、徐々に溶液の粘度が上昇した。12時間反応後、重合反応液に少量の水を注いで反応を停止した。得られた重合反応液を0.1Nの塩酸水溶液で洗浄することにより触媒残渣の脱灰処理を行い、さらにイオン交換水で洗浄した後に、有機相を50℃で12時間減圧乾燥した。これにより得られた無色透明のオイル状物質の収量は14.8gであった。また、得られた物質の示差屈折計によるGPCによる数平均分子量(Mn)は13,900、分子量分布(Mw/Mn)は1.33であった。得られた物質はGPCの紫外可視検出計では検出されなかった。以上より、得られたオイル状物質は、重合開始末端にアジド基を持ち、重合停止末端にヒドロキシル基を持つ、ポリエピクロロヒドリン(平均150量体)(以下ポリエピクロロヒドリンE)であるといえる。
【0131】
製造実施例F
(ポリエピクロロヒドリンEのMeSiClによるカップリング)
アルゴンで置換した攪拌機付きガラス反応器に、ポリエピクロロヒドリンEを1.5gとトルエン10mlを添加し、これを室温で保持した。次いで、MeSiClの0.000697gをトルエン1mlに溶解した溶液を、上記の溶液に添加し、室温で48時間反応した。得られた重合反応液をトルエンで抽出、イオン交換水にて有機相を洗浄することにより触媒残渣の脱灰処理を行い、有機相を50℃で12時間減圧乾燥した。これにより得られた無色透明のオイル状物質の収量は1.4gであった。また、得られた物質の示差屈折計によるGPCによる数平均分子量(Mn)は26,600、分子量分布(Mw/Mn)は1.43であった。得られた物質はGPCの紫外可視検出計で検出されなかった。以上より、得られたオイル状物質は、ポリエピクロロヒドリンEの末端のヒドロキシル基と、MeSiClとがカップリングしてポリエピクロロヒドリンEが2量化した、両方の末端にアジド基を持つテレケリックポリエピクロロヒドリンF(GPCによると平均288量体)であるといえる。
【0132】
実施例5
(テレケリックポリエピクロロヒドリンFの1-メチルイミダゾールによる4級化)
製造実施例Fで得られた両方の末端にアジド基を持つテレケリックポリエピクロロヒドリンF1.0gと、1-メチルイミダゾール2.4gと、アセトニトリル2.0gとを、アルゴンで置換した攪拌機付きガラス反応器に添加し、80℃に加熱した。80℃で48時間反応させた後、室温に冷却し反応を停止した。得られた反応物をトルエン/メタノール/水の等重量混合溶液にて洗浄した後、1-メチルイミダゾールおよびトルエンを含む有機相を除去して、水相を50℃で12時間減圧乾燥したところ、薄赤色の固体1.9gが得られた。この固体について、H-NMR測定および元素分析を行ったところ、出発原料のテレケリックポリエピクロロヒドリンFの、繰り返し単位におけるクロロ基全てが対アニオンとして塩化物イオンを有する1-メチルイミダゾリウム基に置換された、両方の末端にアジド基を持ち対アニオンとして塩化物イオンを有するイミダゾリウム構造含有テレケリックポリエーテル化合物5であると同定された。
【0133】
実施例6
(対アニオンとして塩化物イオンを有するイミダゾリウム構造含有テレケリックポリエーテル化合物5のリチウム(ビストリフルオロメチルスルホン)イミドによるアニオン交換)
両方の末端にアジド基を持ち対アニオンとして塩化物イオンを有するイミダゾリウム構造含有テレケリックポリエーテル化合物5を1.25gと、リチウム(ビストリフルオロメチルスルホン)イミド2.1gと、イオン交換水10mLとを攪拌機付きガラス反応器に添加した。室温で30分間反応させた後、50℃で12時間減圧乾燥し、得られた固液混合物を水で洗浄して無機塩を除去した後、トルエンで液相を抽出した。得られたトルエン溶液を50℃で12時間減圧乾燥したところ、ほぼ無色透明な粘性液状物質2.8gが得られた。得られた粘性液状物質についてH-NMRスペクトル測定と元素分析を行ったところ、出発原料である対アニオンとして塩化物イオンを有するイミダゾリウム構造含有ポリエーテル化合物の、塩化物イオンの全てが、(ビストリフルオロメチルスルホン)イミドアニオンに交換された、両方の末端にアジド基を持ち対アニオンとして(ビストリフルオロメチルスルホン)イミドアニオンを有するイミダゾリウム構造含有テレケリックポリエーテル化合物6であると同定された。
【0134】
製造実施例G
(1,2,7,8-ジエポキシオクタンとエピクロロヒドリンのリビングアニオン重合)
アルゴンで置換した攪拌機付きガラス反応器に、テトラノルマルブチルアンモニウムブロミド0.161g(0.0005モル)とトルエン10mlを添加し、これを0℃に冷却した。次いで、トリエチルアルミニウム0.0857g(テトラノルマルブチルアンモニウムブロミドに対して1.5当量)をノルマルヘキサン2mlに溶解したものを添加して、15分間反応させて、触媒組成物を得た。得られた触媒組成物に、1,2,7,8-ジエポキシオクタン0.0711gを添加し、0℃において重合反応を行った。重合反応開始後、徐々に溶液の粘度が上昇した。100分後、さらにエピクロロヒドリン2.5gを添加し、0℃においてさらに重合反応を行った。重合反応開始後、徐々に溶液の粘度が上昇した。12時間反応後、重合反応液に少量の水を注いで反応を停止した。得られた重合反応液を0.1Nの塩酸水溶液で洗浄することにより触媒残渣の脱灰処理を行い、さらにイオン交換水で洗浄した後に、有機相を50℃で12時間減圧乾燥した。これにより得られた無色透明のオイル状物質の収量は2.56gであった。また、得られた物質の示差屈折計によるGPCによる数平均分子量(Mn)は11,800、分子量分布(Mw/Mn)は1.92であった。得られた物質はGPCの紫外可視検出計では検出されなかった。テトラノルマルブチルアンモニウムブロミド0.0005モルに対し、2.5gのポリマーを得ており、開始剤1分子当たりの理論数平均分子量は5000である。11,800/5000=2.4であり、平均して2.4鎖からなるポリエピクロロヒドリンが得られており、すなわち、得られたポリエピクロロヒドリンは、全末端にヒドロキシル基を有し、平均して1分子鎖当たり2.4個のヒドロキシル基を有する。以上より、得られたオイル状物質は、すべての重合停止末端にヒドロキシル基を持つ、テレケリックポリエピクロロヒドリン(平均128量体)(以下テレケリックポリエピクロロヒドリンG)であるといえる。
【0135】
実施例7
(テレケリックポリエピクロロヒドリンGの1-メチルイミダゾールによる4級化)
製造実施例Gで得られたすべての重合停止末端にヒドロキシル基を持つ、テレケリックポリエピクロロヒドリンG1.0gと、1-メチルイミダゾール2.4gと、アセトニトリル2.0gとを、アルゴンで置換した攪拌機付きガラス反応器に添加し、80℃に加熱した。80℃で48時間反応させた後、室温に冷却し反応を停止した。得られた反応物をトルエン/メタノール/水の等重量混合溶液にて洗浄した後、1-メチルイミダゾールおよびトルエンを含む有機相を除去して、水相を50℃で12時間減圧乾燥したところ、薄赤色の固体1.9gが得られた。この固体について、H-NMR測定および元素分析を行ったところ、出発原料のテレケリックポリエピクロロヒドリンGの、繰り返し単位におけるクロロ基全てが対アニオンとして塩化物イオンを有する1-メチルイミダゾリウム基に置換された、すべての末端にヒドロキシル基を持ち対アニオンとして塩化物イオンを有するイミダゾリウム構造含有テレケリックポリエーテル化合物7であると同定された。
【0136】
実施例8
(すべての末端にヒドロキシル基を持ち対アニオンとして塩化物イオンを有するイミダゾリウム構造含有テレケリックポリエーテル化合物7のリチウム(ビストリフルオロメチルスルホン)イミドによるアニオン交換)
すべての末端にヒドロキシル基を持ち対アニオンとして塩化物イオンを有するイミダゾリウム構造含有テレケリックポリエーテル化合物7を1.25gと、リチウム(ビストリフルオロメチルスルホン)イミド2.1gと、イオン交換水10mLとを攪拌機付きガラス反応器に添加した。室温で30分間反応させた後、50℃で12時間減圧乾燥し、得られた固液混合物を水で洗浄して無機塩を除去した後、トルエンで液相を抽出した。得られたトルエン溶液を50℃で12時間減圧乾燥したところ、ほぼ無色透明な粘性液状物質2.8gが得られた。得られた粘性液状物質についてH-NMRスペクトル測定と元素分析を行ったところ、出発原料である対アニオンとして塩化物イオンを有するイミダゾリウム構造含有ポリエーテル化合物の、塩化物イオンの全てが、(ビストリフルオロメチルスルホン)イミドアニオンに交換された、すべての末端にヒドロキシル基を持ち対アニオンとして(ビストリフルオロメチルスルホン)イミドアニオンを有するイミダゾリウム構造含有テレケリックポリエーテル化合物8であると同定された。
【0137】
実施例9
(ポリエピクロロヒドリンAの1-メチルイミダゾールによる4級化)
製造実施例Aで得られた重合開始末端にアジド基を持ち、重合停止末端にヒドロキシル基を持つ、ポリエピクロロヒドリンA 1.0gと、1-メチルイミダゾール2.4gと、アセトニトリル2.0gとを、アルゴンで置換した攪拌機付きガラス反応器に添加し、80℃に加熱した。80℃で48時間反応させた後、室温に冷却し反応を停止した。得られた反応物をトルエン/メタノール/水の等重量混合溶液にて洗浄した後、1-メチルイミダゾールおよびトルエンを含む有機相を除去して、水相を50℃で12時間減圧乾燥したところ、薄赤色の固体1.9gが得られた。この固体について、H-NMR測定および元素分析を行ったところ、出発原料のポリエピクロロヒドリンAの、繰り返し単位におけるクロロ基全てが対アニオンとして塩化物イオンを有する1-メチルイミダゾリウム基に置換された、重合開始末端にアジド基を持ち重合停止末端にヒドロキシル基を持ち対アニオンとして塩化物イオンを有するイミダゾリウム構造含有テレケリックポリエーテル化合物9であると同定された。
【0138】
実施例10
(対アニオンとして塩化物イオンを有するイミダゾリウム構造含有テレケリックポリエーテル化合物9のリチウム(ビストリフルオロメチルスルホン)イミドによるアニオン交換)
重合開始末端にアジド基を持ち重合停止末端にヒドロキシル基を持ち対アニオンとして塩化物イオンを有するイミダゾリウム構造含有テレケリックポリエーテル化合物9を1.25gと、リチウム(ビストリフルオロメチルスルホン)イミド2.1gと、イオン交換水10mLとを攪拌機付きガラス反応器に添加した。室温で30分間反応させた後、50℃で12時間減圧乾燥し、得られた固液混合物を水で洗浄して無機塩を除去した後、トルエンで液相を抽出した。得られたトルエン溶液を50℃で12時間減圧乾燥したところ、ほぼ無色透明な粘性液状物質2.8gが得られた。得られた粘性液状物質についてH-NMRスペクトル測定と元素分析を行ったところ、出発原料である対アニオンとして塩化物イオンを有するイミダゾリウム構造含有ポリエーテル化合物の、塩化物イオンの全てが、(ビストリフルオロメチルスルホン)イミドアニオンに交換された、重合開始末端にアジド基を持ち重合停止末端にヒドロキシル基を持ち対アニオンとして(ビストリフルオロメチルスルホン)イミドアニオンを有するイミダゾリウム構造含有テレケリックポリエーテル化合物10であると同定された。
【0139】
実施例11
(ポリエピクロロヒドリンAの1-ノルマルブチルイミダゾールによる4級化)
製造実施例Aで得られた重合開始末端にアジド基を持ち、重合停止末端にヒドロキシル基を持つ、ポリエピクロロヒドリンA 1.0gと、1-ノルマルブチルイミダゾール3.6gと、アセトニトリル3.0gとを、アルゴンで置換した攪拌機付きガラス反応器に添加し、80℃に加熱した。80℃で48時間反応させた後、室温に冷却し反応を停止した。得られた反応物を60℃で24時間揮発成分を減圧留去し、次にメタノールに溶解してアセトン/テトラヒドロフラン等重量混合溶媒にて再沈殿を行った。得られたオイル状固体を80℃で12時間減圧乾燥したところ、薄赤色の固体2.3gが得られた。この固体について、H-NMR測定および元素分析を行ったところ、出発原料のポリエピクロロヒドリンAの、繰り返し単位におけるクロロ基全てが対アニオンとして塩化物イオンを有する1-ノルマルブチルイミダゾリウム基に置換された、重合開始末端にアジド基を持ち重合停止末端にヒドロキシル基を持ち対アニオンとして塩化物イオンを有するブチルイミダゾリウム構造含有テレケリックポリエーテル化合物11であると同定された。
【0140】
実施例12
(対アニオンとして塩化物イオンを有するブチルイミダゾリウム構造含有テレケリックポリエーテル化合物11のナトリウムテトラフルオロボレートによるアニオン交換)
重合開始末端にアジド基を持ち重合停止末端にヒドロキシル基を持ち対アニオンとして塩化物イオンを有するブチルイミダゾリウム構造含有テレケリックポリエーテル化合物11を2.2gと、ナトリウムテトラフルオロボレート1.2gと、イオン交換水10mLとメタノール5mLとを攪拌機付きガラス反応器に添加した。室温で30分間反応させた後に上澄みを除去し、さらにイオン交換水を10mLで2回洗浄した。得られた溶液を2-プロパノールにて再沈殿したところ、ほぼ無色透明な固体3.1gが得られた。得られた固体についてH-NMRスペクトル測定と元素分析を行ったところ、出発原料である対アニオンとして塩化物イオンを有するブチルイミダゾリウム構造含有ポリエーテル化合物の、塩化物イオンの全てが、テトラフルオロボレートアニオンに交換された、重合開始末端にアジド基を持ち重合停止末端にヒドロキシル基を持ち対アニオンとしてテトラフルオロボレートアニオンを有するブチルイミダゾリウム構造含有テレケリックポリエーテル化合物12であると同定された。