(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】希土類磁石接合体の製造方法及び希土類磁石接合体
(51)【国際特許分類】
H01F 41/02 20060101AFI20240903BHJP
H01F 1/057 20060101ALI20240903BHJP
H01F 7/02 20060101ALI20240903BHJP
H02K 15/03 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
H01F41/02 G
H01F1/057 170
H01F7/02 E
H02K15/03 Z
(21)【出願番号】P 2021018902
(22)【出願日】2021-02-09
【審査請求日】2023-01-25
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】栗原 雄太
(72)【発明者】
【氏名】赤田 和仁
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2010/038748(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/004368(WO,A1)
【文献】実開平05-033740(JP,U)
【文献】特開2006-073557(JP,A)
【文献】特開2010-029035(JP,A)
【文献】特開平11-223989(JP,A)
【文献】特開2003-134750(JP,A)
【文献】国際公開第2012/111065(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 41/02
H01F 1/057
H01F 7/02
H02K 15/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の希土類磁石を接合した希土類磁石接合体において、該希土類磁石接合体を構成する少なくとも一対の希土類磁石について、一面同士が互いに接触し接合された接合面の縁部を挟んで隣接する両希土類磁石の隣接面の少なくとも一部に、インクジェット方式により塗布された樹脂組成物の硬化被膜が、上記接合面の縁部を跨いで上記両隣接面に渡り連続して形成され
ており、かつ該被膜の平均膜厚が30~90μmであり、該被膜により希土類磁石同士が接合されていることを特徴とする希土類磁石接合体。
【請求項2】
上記被膜の硬度が、JIS K 5600に規定の鉛筆硬度で6H以上である請求項1に記載の希土類磁石接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Nd-Fe-B焼結磁石などの希土類磁石を複数個接合した希土類磁石接合体の製造方法、及び複数個の希土類磁石を接合してなる希土類磁石接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
Nd-Fe-B焼結磁石は合金粉末を加圧成形した後、焼結して得られ、用途としては自動車用の電動モータなどが挙げられる。電動モータのロータコアは、積層鋼板と磁石との間を絶縁していないと、磁石に生じる渦電流が積層鋼板を介して、隣接するスロットに挿入された別の磁石にまで流れてしまい、比較的大きなループの渦電流が生じる場合がある。その結果、渦電流によって磁石の温度が上昇し、熱損失や磁気特性の低下が発生することで電動モータにおいて所望の性能が得られがたくなるという問題があった。
【0003】
このような電動モータの問題への対策の一つは、Nd-Fe-B焼結磁石の表面に被膜を形成させ、絶縁性や耐食性を向上させることで、渦電流を抑えるといった手法が挙げられる(例えば、特開2011-193621号公報(特許文献1))。
【0004】
Nd-Fe-B焼結磁石に絶縁性を付与する表面処理の代表的な手法としては、樹脂の吹付塗装、電着塗装が挙げられる。しかしながら、吹付塗装の場合、吹き付けであるが故に塗装対象物に付着しない塗料のロスが一定の割合で発生してしまう。また、吹付塗装や電着塗装に一般的に用いられる熱硬化性樹脂の場合、塗装後の乾燥や焼き付けの際のヒーターによる加熱が必須であり、この工程で一般に用いられる熱処理炉は、樹脂硬化のために時間とエネルギーを大きく消費する。さらに、設備の設置に広大なスペースが必要なことから、従来の手法では磁石の表面処理コストが高くなる傾向にあった。
【0005】
上述の表面処理のコストを下げる手段として、紫外線硬化樹脂による被膜形成が挙げられる。紫外線硬化樹脂は紫外線で硬化するため、熱処理炉による加熱硬化と比べ、短時間、低コスト、省スペースで被膜形成が可能である。紫外線硬化樹脂の塗布方法としては、磁石本体を浸漬させた後、回転させることで余分な未硬化成分を取り除き、紫外線照射によって硬化させる手法があるが、より均一に塗布する手法として、インクジェット方式によって塗布する手法があり、この手法を用いれば、短時間、低コスト、簡便な方法で均一な膜を形成できる。その結果、簡単に磁石に絶縁性を付与できるようになった。
【0006】
また、上記の電動モータの問題への別の対策としては、磁石を分割する手法が挙げられる。すなわち、スロット内のNd-Fe-B焼結磁石を複数個に分割することによって、電子の伝達を物理的に阻害し、渦電流を抑制することができる。しかしながら、磁石を分割したことで扱う磁石の個数が増え、スロットへの挿入といった組み立て工程の作業性が低下するという問題があった。この問題に対して、接着剤で複数の磁石を接合する手法や、絶縁テープによる固定といった手法(例えば、特開2015-61328号公報(特許文献2))が考案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2011-193621号公報
【文献】特開2015-61328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記の分割された複数の磁石を接着剤で接合する手法や、特許文献2に記載されている分割された磁石を固定する方法等は、どちらも高い寸法精度が得られない、作業が増える等といった欠点があった。
【0009】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、簡便な方法で、複数の希土類磁石を接合することができ、しかも同時に耐食性や絶縁性を付与することも可能な、複数の希土類磁石を接合してなる希土類磁石接合体の製造方法、及び、そのような方法で製造した希土類磁石接合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を行った結果、複数の希土類磁石を接合して、希土類磁石接合体を作製する際に、接合する希土類磁石の一面同士を互いに接触させ、かかる接触面(接合面)の隣接する両希土類磁石の隣接面に上記接触面の縁部を跨いで上記両隣接面に渡って連続する被膜を形成して、両希土類磁石接合することにより、被膜形成という比較的低コストかつ簡便な方法で複数の希土類磁石を接合し、希土類磁石接合体とすることができ、しかも同時に形成する被膜によって希土類磁石に耐食性と絶縁性を付与し得ることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0011】
従って、本発明は、下記の希土類磁石接合体を提供する。
1. 複数の希土類磁石を接合した希土類磁石接合体において、該希土類磁石接合体を構成する少なくとも一対の希土類磁石について、一面同士が互いに接触し接合された接合面の縁部を挟んで隣接する両希土類磁石の隣接面の少なくとも一部に、インクジェット方式により塗布された樹脂組成物の硬化被膜が、上記接合面の縁部を跨いで上記両隣接面に渡り連続して形成されており、かつ該被膜の平均膜厚が30~90μmであり、該被膜により希土類磁石同士が接合されていることを特徴とする希土類磁石接合体。
2. 上記被膜の硬度が、JIS K 5600に規定の鉛筆硬度で6H以上である1の希土類磁石接合体。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、低コストで簡便な方法により、複数の希土類磁石を寸法精度よく接合して、希土類磁石接合体を製造することができ、しかも同時に、希土類磁石に耐食性と絶縁性を付与することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の希土類磁石接合体の製造方法の一例を説明し、また当該製造方法により得られる本発明の希土類磁石接合体の一例を示す概略斜視図である。
【
図2】実施例1で得られた希土類磁石接合体の接合部分の被膜を示す走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について、更に詳しく説明する。
本発明の希土類磁石接合体の製造方法では、上述のように、互いに接合する希土類焼結磁石同士を両磁石に渡る被膜を形成して接合することにより、複数の希土類磁石が接合してなる希土類磁石接合体を製造するものである。
【0015】
具体的には、例えば、
図1に示したように、直方体形状の希土類磁石1a,1bを接合する場合、まず
図1(A)のとおり、接合する希土類磁石1a,1bの一面3a,3b同士を互いに接触させる。この互いに接触させた接触面3abが得られる接合体1の接合面となる。次いで、
図1(B)のとおり、かかる接触面3ab(接合面)の縁部を挟んで隣接する両希土類磁石1a,1bの隣接面4a,4bの少なくとも一部(
図1(B)では、二面の大部分)に、上記接触面3ab(接合面)の縁部を跨いで両隣接面4a,4bに渡って連続する被膜2,2を形成し、この被膜2,2により両希土類磁石1a,1bを接合し、本発明の希土類磁石接合体11を得るものである。
【0016】
ここで、上記被膜2を形成する面は、例えば得られる希土類磁石接合体11が直方体形状である場合、接合強度の観点から、
図1のように上記接触面(接合面)3abの縁部を含む2面以上に上記被膜2,2を形成することが好ましい。また、被膜2の面積は、特に制限されるものではないが、接合強度及び耐食性、絶縁性付与の観点から、できるだけ大きいことが好ましい。
【0017】
図1では同一形状の一対の希土類磁石1a,1bを接合して、希土類磁石接合体11としたが、希土類磁石の形状や大きさは互いに異なっていてもよく、また3個以上の希土類磁石を接合して希土類磁石接合体を構成してもよい。更に、互いに接合される希土類磁石の一方又は両方が、既に複数の希土類磁石が接合された接合体であってもよく、その場合、既に複数の希土類磁石が接合された磁石は、本発明と同様に被膜の形成により接合されたものであっても、その他の方法で接合されたものであってもよい。
【0018】
上記接合操作に供される上記希土類磁石としては、特に制限されるものではないが、例えばNd-Fe-B焼結磁石、SmCo焼結磁石のような焼結磁石が、接合の対象として好ましく用いられる。希土類磁石の形状は、後述する被膜の形成によって複数の希土類磁石を固定するため、希土類磁石の被膜形成面と希土類磁石同士の接合面が平面であることが好ましく、具体的には直方体形状が最も適している。
【0019】
上記被膜を形成する手段としては、特に制限されることなく、例えば、公知の吹き付け塗装等の手法を適用することが出来る。より好ましい効果を得るためには、例えば、樹脂組成物の液滴をヘッドから射出するインクジェット方式を適用することができ、さらに好ましくは、上記樹脂組成物として紫外線硬化樹脂組成物を適用することもできる。
【0020】
以下、本発明製造方法における被膜形成操作の一態様として、紫外線硬化樹脂組成物を利用したインクジェット方式により被膜を形成する場合について説明する。
インクジェット方式により被膜を形成する方法には、(A)ヘッドから液滴を射出するインクジェット方式により、ヘッドの先端から紫外線硬化樹脂組成物の液滴を射出して希土類磁石表面に付着させる工程、および、(B)希土類磁石表面に付着した紫外線硬化樹脂組成物に紫外線を照射して、紫外線硬化樹脂を硬化させる工程が含まれる。
【0021】
上記(A)工程及び(B)工程において、上記紫外線硬化樹脂は、例えば上記の
図1を参照して説明したように、互いに接合する希土類磁石1a,1bの接触面(接合面)3abを挟んで隣接する両磁石1a,1bの隣接面4a,4bに、上記接触面(接合面)3abの縁部を跨いで両隣接面4a,4bに渡り連続する被膜2として塗布、硬化され、紫外線硬化樹脂の機械的強度と、希土類磁石表面に対する接合強度によって、複数個の磁石を連結させる。このとき、接合する希土類磁石が3個以上である場合には、3個以上の磁石の隣接面に渡って連続する被膜としてもよい。
【0022】
このような被膜の厚さ(平均膜厚)は、特に制限されるものではないが、通常30μm以上とされ、好ましくは40μm以上、さらに好ましくは50μm以上である。また、通常90μm以下、好ましくは80μm以下、さらに好ましくは70μm以下である。被膜の厚さが上記範囲であれば、耐食性と絶縁性が良好となり、例えば、モータ用途の磁石として十分な電気抵抗を有する希土類磁石接合体を得ることができる。
【0023】
上記(A)工程においては、ヘッドから液滴を射出するインクジェット方式により、ヘッド先端から紫外線硬化樹脂組成物の液滴を射出して希土類磁石の表面に紫外線硬化樹脂組成物を付着させる。インクジェット方式を適用した装置は、一般的に、インクジェットプリンタとして知られており、液状の塗工物を微液滴化して射出し、対象物の表面に直接付着させる装置である。紙などにインクを印刷する装置以外にも、インクの代わりに未硬化の樹脂組成物を射出し、対象物の表面に直接付着させる装置も市販されており、この場合も、通常、インクジェットプリンタと呼ばれている。インクジェット方式には2種類の型があり、液状の塗工物を常に射出しているコンティニュアス型と、必要なときのみ液状の塗工物を射出するオンデマンド型がある。オンデマンド型には、更に2方式が存在し、圧電素子を利用して液状の塗工物を射出するピエゾ方式と、加熱により発生した気泡を利用して液状の塗工物を射出するサーマル方式がある。本発明では、特に限定はされないが、装置の小型化が比較的容易とされているオンデマンド型が好ましく、また、紫外線硬化樹脂組成物は、熱によって硬化する場合もあるため、ピエゾ方式が好ましい。
【0024】
被膜の形成に紫外線硬化樹脂、紫外線硬化樹脂組成物の射出にインクジェット方式を適用することで、均一な被膜を形成することができる。これによって、均一な接合強度を得ることができ、さらに、希土類磁石接合体の寸法の誤差を抑えることができる。また、(A)工程と(B)工程を繰り返すことによって膜厚を上げ、接合強度を向上させることもできる。
【0025】
インクジェット方式により紫外線硬化樹脂組成物を付着させる際の解像度は、300dpi以上、特に600dpi以上、とりわけ1000dpi以上が好ましい。解像度を高くし、液滴を微細化することで、形成される被膜の凹凸やピンホールなどの未被覆部分が減り、被膜の密度が上がるため、接合強度が高くなる。一方で、解像度を上げて被膜の密度が上がることによる被膜の内部応力の影響を考慮して、解像度は通常1200dpi以下が好ましい。なお、1つのドットには液滴を1滴のみ付着させても、2滴以上付着させてもよい。
【0026】
インクジェット方式を用いるとき、液滴の液量は被膜の厚さ、解像度によって選択される。形成する被膜の特性と生産効率とを考慮すれば、1滴当たり3pL以上、特に6pL以上で、20pL以下、特に12pL以下、とりわけ10pL以下が好ましい。また、液滴を形成する紫外線硬化樹脂組成物の粘度は、25℃において17mPa/s以上、27mPa/s以下であることが好ましい。ここで、特に制限されるものではないが、被膜の密着性の向上を目的として、紫外線硬化樹脂組成物を付着させる前に、希土類磁石の被膜形成面の一部又は全部に、プライマー層を形成しておいてもよい。この場合、接合する希土類磁石の一方又は両方が、被膜形成による本発明の接合方法によって複数の磁石が既に接合された接合体である場合には、その被膜上にプライマー層を形成することもできる。
【0027】
本発明のインクジェット方式による被膜の形成では、上述した解像度や液滴の液量を制御することで、被膜密度を上げることが可能である。被膜密度は、好ましくは1.15g/cm3以上、より好ましくは1.17g/cm3以上であり、好ましくは1.21g/cm3以下、より好ましくは1.19g/cm3以下である。被膜密度がこのような範囲であると、高い接合力を確保しつつも、被膜の剥がれやクラック等の不具合を良好に抑制することができる。また、このような範囲であると耐食性や絶縁性が良好となる。なお、被膜密度は所定の面積に被膜を形成したときの膜厚と、被膜質量から算出することができる。
【0028】
本発明の実施の一態様において、希土類磁石接合体を製造する場合、通常の接着剤による接合と比較して、接着剤のはみ出し等がないため、表面研磨といった寸法調整が必要ないという利点がある。また、接着剤を塗り、磁石を固定し、乾燥や加熱などで硬化させるといったプロセスがなく、1回の塗装で希土類磁石接合体の製造が可能となる。
【0029】
この一実施態様において被膜を形成する樹脂として用いられる紫外線硬化樹脂は、紫外線のエネルギーにより光化学反応を起こし、液体から固体へと秒単位で硬化する樹脂である。紫外線硬化樹脂組成物(未硬化の紫外線硬化樹脂)には、主成分である光重合性化合物(モノマー又は樹脂前駆体)、光重合開始剤、着色料、助剤などが含まれる。光重合性化合物としては、例えば、二重結合が開裂し重合するラジカル型のアクリルモノマーを挙げることができる。これ以外にも、カチオン型のエポキシモノマー、オキセタンモノマー、ビニルエーテルモノマーなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。ラジカル型では、光重合開始剤が光により分解してラジカルが発生し、これがモノマーと反応して新たなラジカルを生成することにより重合が進行する。この場合の光重合開始剤種としては、芳香族ケトンが挙げられる。一方、カチオン型では、光重合開始剤が光により分解して酸が発生し、これがモノマーと反応して新たなカチオン活性種を生成することにより重合が進行する。この場合の光重合開始剤種としては、トリアリルスルホニウムカチオンとヘキサフルオロホスフェートなどが挙げられる。着色料としては、例えばカーボンブラックなどが挙げられ、カーボンブラックは、被膜形成後の希土類磁石の視認性の向上にも寄与する。
【0030】
上記(B)工程においては、(A)工程で希土類磁石表面に付着させた紫外線硬化樹脂組成物に紫外線を照射して、紫外線硬化樹脂組成物を硬化させる。紫外線は、用いる紫外線硬化樹脂組成物の種類に応じて適宜選択されるが、通常、200~380nm程度の波長の紫外線を用いることができる。紫外線は、例えば、水銀ランプ、UV-LED、キセノンランプなどから照射することができる。
【0031】
本発明製造方法における被膜形成の一実施態様である、上記インクジェット方式による被膜形成方法では、上記(A)工程と(B)工程を、例えば以下の態様(1)または(2)のようにして実施することができる。
【0032】
態様(1):(A)工程において、ヘッドの先端を希土類磁石近傍で移動させながら、磁石の被膜形成面に対して紫外線硬化樹脂組成物の液滴を順次射出して液滴を連結しながら連ねていくことにより、複数の希土類磁石の隣接面(例えば、
図1の隣接面4a,4b)の一部又は全部に紫外線硬化樹脂組成物の連結した液滴が付着し、希土類磁石同士の接触面(接合面)(例えば、
図1の接触面(接合面)3ab)を跨いで紫外線硬化樹脂組成物からなる連続した薄層が形成される。次いで、上記(B)工程を実施して、当該紫外線硬化樹脂組成物の薄層を硬化させて被膜を形成し、この被膜により複数の希土類磁石を連結固定して接合させる。このとき、膜厚を厚くする目的で(A)工程と(B)工程を複数回行うことで、紫外線硬化樹脂組成物の薄膜を重ね、多層化させた被膜とすることもできる。
【0033】
態様(2):(A)工程において、ヘッドの先端から紫外線硬化樹脂組成物の液滴を射出して、その液滴に対して逐次又は随時(B)工程を実施し、液滴が硬化した紫外線硬化樹脂の隣接部にヘッドの先端を移動させて、更に(A)及び(B)工程を実施することを繰り返し、これをヘッドの先端を希土類磁石の表面近傍で移動させながら被膜形成の予定範囲に対して実施する。これにより、複数の希土類磁石の隣接面(例えば、
図1の隣接面4a,4b)の一部又は全部に、希土類磁石同士の接触面(接合面)(例えば、
図1の接触面(接合面)3ab)を跨いで紫外線硬化樹脂組成物からなる連続した被膜を形成する。
【0034】
希土類磁石の表面に液滴を付着させた後、紫外線照射を開始する(硬化を開始させる)までの時間(タイミング)は、特に制限されるものではない。ただし、液滴が凝集することにより形成する被膜の膜厚がばらつく等の不都合を防ぐ観点からは、液滴の付着と実質的にほぼ同時(例えば、液滴の射出直後から付着直後まで)に硬化する上記態様(2)が好ましく採用される。
【0035】
上記態様(2)のように、希土類磁石の表面に液滴を付着させた後、付着と実質的にほぼ同時に紫外線を照射する場合、紫外線硬化樹脂組成物の液滴を射出するヘッドの先端又はその近傍に、ヘッドの一部として又はヘッドとは別部として、紫外線照射部を設けることが有効である。例えば、紫外線硬化樹脂組成物の液滴を射出するヘッドの先端又はその近傍に、ヘッドの一部として又はヘッドとは別部として、紫外線照射部を備える紫外線硬化インクジェットプリンタなどを用いれば、ヘッドから液滴を射出したその場で紫外線硬化樹脂組成物を硬化させることができるので、吹き付け塗装による被膜の形成において実施されるような乾燥工程や、熱処理工程を別の装置で実施する必要がなく、より有利である。また、この場合、紫外線を照射するタイミングを制御すれば、液滴の付着後、一定の時間保持した後に、紫外線を照射することも可能であり、ヘッドを移動させずに又は液滴が付着した紫外線硬化樹脂組成物の隣接部にヘッドの先端を移動させてから、紫外線を照射することができる。
【0036】
一方、希土類磁石の表面に液滴を付着させた後、一定の時間保持した後に、紫外線を照射する場合、特に、上述した態様(1)の場合は、インクジェットプリンタとは別に、紫外線ランプなどの紫外線照射装置を別に設けて、紫外線硬化樹脂組成物の液滴や、紫外線硬化樹脂組成物の液滴が連結して形成された紫外線硬化樹脂組成物の薄層に、必要に応じて所定の時間保持した後、一括して紫外線を照射することにより(B)工程を実施してもよい。
【0037】
(A)工程と(B)工程を行う際は、良好な接合や寸法精度を得る観点から、希土類磁石を移動させず、装置から取り出さずに一連の流れで被膜を形成させることが好ましい。例えば、インクジェットプリンタを用いれば、(A)工程と(B)工程を一連の動作で行えるため、希土類磁石のずれが発生しにくく、さらに、治具等を使用すれば、寸法誤差を抑えることができる。
【0038】
複数の希土類磁石の被膜形成面は、通常、液滴の射出方向と直交する方向に配置され、例えば、希土類磁石が直方体形状の場合、1面を塗装したとき、被膜によって1辺のみが連結、固定された状態であり、接合面が完全には固定されていないため、複数の希土類磁石を1つの接合体として扱うことは難しい。したがって、例えば上述した
図1(B)に例示された希土類磁石接合体11の被膜2,2ように、少なくとも希土類磁石接合体を形成したときの2面以上に被膜を形成することが好ましい。希土類磁石接合体の2面に被膜を形成させるためには、例えば、1面を塗装した後、希土類磁石接合体を回転させ、塗装を行う必要がある。このとき、被膜の反りなどによって、接合される複数の希土類磁石の塗装面に隙間が生じてしまうと接合がうまくいかないため、塗装面の間隔は狭い方が好ましい。
【0039】
本発明において、上記インクジェット方式による被膜の形成方法では、上記(A)工程においてヘッドの先端から紫外線硬化樹脂組成物の液滴を射出する際、また、上記(B)工程において紫外線を照射する際のいずれにおいても、希土類磁石の表面を、液滴の射出方向に直交する方向から傾斜させて配置することもできる。希土類磁石が直方体形状の場合、希土類磁石の表面を例えば45°傾けることで、互いに隣接する2面を同時に処理することができる。希土類磁石の表面を、液滴の射出方向に直交する方向から傾斜させて配置する場合は、態様(2)を適用することが好適である。
【0040】
本発明において形成される上記被膜は、特に制限されるものではないが、JIS K 5600における鉛筆硬度で、6H以上の硬度を有するものであることが好ましい。このような硬度であると、被膜が剥がれにくくなり、良好な接合強度が得られる。
【0041】
また、本発明の製造方法で得られる希土類磁石接合体における各希土類磁石間の接合力は、例えば、(株)島津製作所AG-I 250kNで3点曲げ試験を行い抗折力を測定することで評価することが出来る。特に制限されるものではないが、抗折力の平均が60N以上であることが好ましい。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0043】
[実施例1]
直方体形状(14.23mm×7.06mm×5.16mm)のNd-Fe-B焼結磁石を用意し、2つ一組として治具で固定した後、UV-LED硬化フラットヘッドインクジェットプリンタUFJ-6042MkII((株)ミマキエンジニアリング製)を使用して、
図1(B)に示した例と同様に、両磁石(1a,1b)の接触面(接合面)(3ab)の縁部を挟んで隣接する両隣接面(4a,4b)に、上記接触面(接合面)(3ab)の縁部を跨いで上記両隣接面(4a,4b)に渡って連続する被膜(2)を形成した。被膜を形成する紫外線硬化樹脂組成物は、アクリル酸エステルを主成分とし、反応希釈材として二アクリル酸ヘキサメチレン、重合開始剤、および着色料としてカーボンブラックを含むものを用いた。上記インクジェットプリンタで吐出させる紫外線硬化樹脂組成物の液滴の液量は10pLとし、解像度は1200dpi×1200dpiとした。被膜形成作業は、次の通りに行った。
【0044】
組み合わせた2つのNd-Fe-B焼結磁石の2つの隣接面(4a,4b)からなる一面(合計14.23mm×14.12mm)全体に対して、ヘッドの先端を希土類磁石の表面近傍で移動させながら紫外線硬化樹脂組成物の液滴を順次射出し、紫外線硬化樹脂組成物の薄層を形成した後、ただちに紫外線を照射することで紫外線硬化樹脂の被膜を形成した。その後、希土類磁石を180度反転させ、先ほどと同様にして被膜を形成し、対向する2面に被膜を形成してNd-Fe-B焼結磁石を接合させた。この操作を3組のNd-Fe-B焼結磁石に行い、希土類磁石接合体を3個得た。
【0045】
得られたNd-Fe-B焼結磁石接合体について、(株)島津製作所AG-I 250kNで3点曲げ試験を行い、抗折力を測定することで接合力を評価した。抗折力の平均は114.5Nであり、電動モータに使用する場合に十分な強度が得られた。また、被膜の硬度をJIS K 5600に準拠した鉛筆硬度計で測定した結果、6H以上であった。さらに、接合体の断面を走査電子顕微鏡(SEM)で観察したところ、
図2に示したように、被膜を形成する紫外線硬化樹脂の一部が接合面の隙間に侵入していた。なお、
図2において、被膜の上側に表れている濃いグレーの部分はバックグラウンドであり、接合体の一部ではない。
【0046】
また、同様にして作製した希土類磁石接合体30個について、その寸法を(株)ミツトヨ製デジマチックキャリパーで測定し、接合前後の比較をしたところ、その寸法ばらつきは±0.8%に収まった。被膜が成膜された面に対する高さには膜厚や膜の表面粗さが含まれるため、そのばらつきは±0.8%となるが、成膜されていない部分の寸法はさらにばらつきが小さくなり、±0.5%に収まる。このように良好な寸法精度の希土類磁石接合体が得られた。
【0047】
次に、被膜の耐熱性を調べるため、オーブンで160度の加熱を行った。24時間経過したところでオーブンから取り出し、表面を観察したが大きな変化は見られなかった。また、同様の希土類磁石接合体を電極で挟み込み、7MPaに加圧した状態で、接続された抵抗計により電気抵抗を測定したところ、1MΩ以上であり、良好な電気抵抗を有していた。
【0048】
さらに、被膜の状態を調査するため、29mm×18mm×2mmのNd-Fe-B焼結磁石に対して、実施例1と同様の条件で10mm×10mmの紫外線硬化樹脂被膜を形成した。形成した紫外線硬化樹脂の被膜全体の平均膜厚を(株)ミツトヨ製デジマチックインジケータで測定した結果、81.6μmであった。また、被膜を形成した面の面積、被膜の膜厚、および被膜形成前後の希土類磁石の重量変化から算出した被膜密度は1.18g/cm3であった。
【0049】
[実施例2]
紫外線硬化樹脂組成物の液滴の液量を6pLとし、解像度を600dpi×600dpiとした以外は実施例1と同様にして、希土類磁石接合体を3個得た。
【0050】
得られたNd-Fe-B焼結磁石接合体について、(株)島津製作所AG-I 250kNで3点曲げ試験を行い、抗折力を測定することで接合力を評価した。抗折力の平均は66.3Nであり、電動モータに使用する場合に十分な強度が得られた。また、実施例1と同様に、被膜の硬度を鉛筆硬度計で測定した結果、6H以上であり、さらに接合体の断面をSEMで観察したところ、紫外線硬化樹脂の一部が接合面の隙間に侵入していた。
【0051】
また、同様にして作製した希土類磁石接合体30個について、その寸法を(株)ミツトヨ製デジマチックキャリパーで測定し、接合前後の比較をしたところ、その寸法ばらつきは±0.8%に収まった。被膜が成膜された面に対する高さには膜厚や膜の表面粗さが含まれるため、そのばらつきは±0.8%となるが、成膜されていない部分の寸法はさらにばらつきが小さくなり、±0.5%に収まる。このように良好な寸法精度の希土類磁石接合体が得られた。
【0052】
次に、被膜の耐熱性を調べるため、オーブンで160度の加熱を行った。24時間経過したところでオーブンから取り出し、表面を観察したが大きな変化は見られなかった。また、同様の希土類磁石接合体を電極で挟み込み、7MPaに加圧した状態で、接続された抵抗計により電気抵抗を測定したところ、1MΩ以上であり、良好な電気抵抗を有していた。
【0053】
さらに、被膜の状態を調査するため、29mm×18mm×2mmのNd-Fe-B焼結磁石に対して、実施例2と同様の条件で10mm×10mmの紫外線硬化樹脂被膜を形成した。形成した紫外線硬化樹脂の被膜全体の平均膜厚を(株)ミツトヨ製デジマチックインジケータで測定した結果、42.3μmであった。また、被膜を形成した面の面積、被膜の膜厚、および被膜形成前後の希土類磁石の重量変化から算出した被膜密度は1.17g/cm3であった。
【0054】
[実施例3]
紫外線硬化樹脂組成物の液滴の液量を8pLとした以外は実施例1と同様にして、希土類磁石接合体を3個得た。
【0055】
得られたNd-Fe-B焼結磁石接合体について、(株)島津製作所AG-I 250kNで3点曲げ試験を行い、抗折力を測定することで接合力を評価した。抗折力の平均は64.1Nであり、電動モータに使用する場合に十分な強度が得られた。また、実施例1と同様に、被膜の硬度を鉛筆硬度計で測定した結果、6H以上であり、さらに接合体の断面をSEMで観察したところ、紫外線硬化樹脂の一部が接合面の隙間に侵入していた。
【0056】
また、同様にして作製した希土類磁石接合体30個について、その寸法を(株)ミツトヨ製デジマチックキャリパーで測定し、接合前後の比較をしたところ、その寸法ばらつきは±0.8%に収まった。被膜が成膜された面に対する高さには膜厚や膜の表面粗さが含まれるため、そのばらつきは±0.8%となるが、成膜されていない部分の寸法はさらにばらつきが小さくなり、±0.5%に収まる。このように良好な寸法精度の希土類磁石接合体が得られた。
【0057】
次に、被膜の耐熱性を調べるため、オーブンで160度の加熱を行った。24時間経過したところでオーブンから取り出し、表面を観察したが大きな変化は見られなかった。また、同様の希土類磁石接合体を電極で挟み込み、7MPaに加圧した状態で、接続された抵抗計により電気抵抗を測定したところ、1MΩ以上であり、良好な電気抵抗を有していた。
【0058】
さらに、被膜の状態を調査するため、29mm×18mm×2mmのNd-Fe-B焼結磁石に対して、実施例3と同様の条件で10mm×10mmの紫外線硬化樹脂被膜を形成した。形成した紫外線硬化樹脂の被膜全体の平均膜厚を(株)ミツトヨ製デジマチックインジケータで測定した結果、65.8μmであった。また、被膜を形成した面の面積、被膜の膜厚、および被膜形成前後の希土類磁石の重量変化から算出した被膜密度は1.18g/cm3であった。
【符号の説明】
【0059】
1a,1b 希土類磁石
11 希土類磁石接合体
2 被膜
3a,3b 希土類磁石の一面
3ab 接触面(接合面)
4a,4b 隣接面