(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】電力ケーブル接続装置
(51)【国際特許分類】
H02G 15/064 20060101AFI20240903BHJP
H02G 15/08 20060101ALI20240903BHJP
H01R 13/58 20060101ALI20240903BHJP
H01R 11/11 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
H02G15/064
H02G15/08
H01R13/58
H01R11/11 Z
(21)【出願番号】P 2021027092
(22)【出願日】2021-02-24
【審査請求日】2023-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】角 陽介
(72)【発明者】
【氏名】村田 亘
【審査官】鈴木 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-116279(JP,A)
【文献】特開2019-193390(JP,A)
【文献】実開昭61-007220(JP,U)
【文献】特開2000-278852(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 15/02
H02G 15/064
H02G 15/08
H01R 13/58
H01R 11/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側に電力ケーブルが挿入される碍管と、
前記電力ケーブルに対向するよう前記碍管の内側に配された、前記碍管よりも高剛性のパイプ部材と、
前記パイプ部材よりも外周側の位置に配され、前記碍管に一部が埋設された、前記碍管よりも高剛性の埋設部材と、
前記パイプ部材と前記碍管との間に設けられた第1半導電層と、
前記埋設部材と前記碍管との間に設けられた第2半導電層と、を備え、
前記パイプ部材の外周面と前記第1半導電層との境界、及び、前記埋設部材の内周面と前記第2半導電層との境界のうち、少なくとも一方の境界は、固着されていない部位を有
し、
前記パイプ部材には、前記パイプ部材を径方向に貫通する多数の孔部が形成されている、
電力ケーブル接続装置。
【請求項2】
前記パイプ部材の前記外周面と前記第1半導電層との境界、及び、前記埋設部材の前記内周面と前記第2半導電層との境界のうち、少なくとも一方の境界は、軸方向における前記埋設部材の前記内周面が形成された領域において、固着されていない部位を有する、請求項1に記載の電力ケーブル接続装置。
【請求項3】
前記パイプ部材の前記外周面と前記第1半導電層との境界、及び、前記埋設部材の前記内周面と前記第2半導電層との境界のうち、少なくとも一方の境界には、離型剤が存在する、
請求項1又は2に記載の電力ケーブル接続装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力ケーブル接続装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電力ケーブルを他の電線等と接続するための電力ケーブル接続装置が開示されている。特許文献1に記載の電力ケーブル接続装置は、ポリマー系材料からなる碍管と、碍管の内周側に配された金属製のパイプ部材と、パイプ部材と碍管との間に配された第1半導電層と、パイプ部材を外周側から囲むように環状に形成されるとともに、一部が碍管に埋設された金属製の埋設部材と、埋設部材と碍管との間に設けられた第2半導電層とを備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、碍管と金属製のパイプ部材との間に配される第1半導電層は、碍管とパイプ部材との双方に固着され、碍管と金属製の埋設部材との間に配される第2半導電層は、碍管と埋設部材との双方に固着される。これにより、碍管とパイプ部材との間、及び、碍管と埋設部材との間に空隙が形成されて当該空隙に放電が生じることが抑止される。しかしながら、この場合、碍管と金属製のパイプ部材及び金属製の埋設部材とでは熱膨張係数が異なるため、特に埋設部材とパイプ部材とに挟まれた碍管の部位である介在部において応力が生じやすい。例えば、碍管が、パイプ部材及び埋設部材よりも内径側に大きく収縮しようとしたとき、碍管の介在部においては、その外周側の埋設部材に引っ張られることによって応力が生じる。また、碍管が、パイプ部材及び埋設部材よりも外径側に大きく膨張しようとしたとき、碍管の介在部においては、その内周側のパイプ部材に引っ張られることによって応力が生じる。そして、前述のような応力が過度に大きくなった場合又は前述のような応力が繰り返し生じた場合には、碍管にクラックが生じ、碍管の絶縁性が低下するおそれがある。
【0005】
本発明は、前述の事情に鑑みてなされたものであり、碍管に生じる応力を低減することができる電力ケーブル接続装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記の目的を達成するため、内側に電力ケーブルが挿入される碍管と、前記電力ケーブルに対向するよう前記碍管の内側に配された、前記碍管よりも高剛性のパイプ部材と、前記パイプ部材よりも外周側の位置に配され、前記碍管に一部が埋設された、前記碍管よりも高剛性の埋設部材と、前記パイプ部材と前記碍管との間に設けられた第1半導電層と、前記埋設部材と前記碍管との間に設けられた第2半導電層と、を備え、前記パイプ部材の外周面と前記第1半導電層との境界、及び、前記埋設部材の内周面と前記第2半導電層との境界のうち、少なくとも一方の境界は、固着されていない部位を有する、電力ケーブル接続装置を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、碍管に生じる応力を低減することができる電力ケーブル接続装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施の形態における、電力ケーブル接続装置の断面図である。
【
図2】
図1の埋設部材周囲を拡大した拡大断面図である。
【
図4】第2の実施の形態における、電力ケーブル接続装置の埋設部材周辺を拡大した拡大断面図である。
【
図5】第3の実施の形態における、電力ケーブル接続装置の埋設部材周辺を拡大した拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態について、
図1乃至
図3を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0010】
(電力ケーブル接続装置1)
図1は、本形態における電力ケーブル接続装置1の断面図である。
図1に示すごとく、電力ケーブル接続装置1は、本体部2とカバー3と接続部4とを備える。本体部2は、段剥ぎされた電力ケーブル10と電力ケーブル10の周囲に配される部材との間の電気的絶縁性を確保する。カバー3は、本体部2の一部を覆っている。接続部4は、電力ケーブル10を電力ケーブル接続装置1の外部に接続するための部材である。以後、電力ケーブル10の中心軸Cが延在する方向を軸方向Xという。また、軸方向Xにおける電力ケーブル10の接続部4に接続される側を先端側X1といい、その反対側を基端側X2という。
【0011】
(本体部2)
本体部2は、碍管21、パイプ部材22、第1半導電層23、埋設部材24、第2半導電層25、及び第3半導電層26を備える。碍管21は、例えばポリマー系材料を管状に形成してなり、可撓性を有する。碍管21を構成するポリマー系材料としては、例えばシリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム(EPM)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)等を採用することができる。特に、碍管21の材料としては、引裂強度が比較的高いものを採用することにより、碍管21へのクラックの発生を抑制しやすくなり、また、弾性率が比較的低いものを採用することにより、碍管21への電力ケーブル10の挿入を行いやすくなる。碍管21の外周部には、外周側に突出した環状の傘部211が、軸方向Xの複数箇所に所定間隔で設けられている。碍管21に複数の傘部211を形成することにより、碍管21の外周面の沿面距離を確保することができ、碍管21の表面に沿った沿面放電の発生を抑制することができる。碍管21は、金型内にパイプ部材22、第1半導電層23、埋設部材24、第2半導電層25及び第3半導電層26等を配した状態において金型内に碍管21を構成する溶融樹脂を射出して硬化させるインサート成形により成形される。
【0012】
パイプ部材22は、碍管21よりも高剛性の素材、例えば黄銅、アルミニウム合金等の金属からなる。パイプ部材22は、碍管21の内周部に配されている。パイプ部材22は、可撓性を有する碍管21を補強する役割を有する。パイプ部材22の先端側X1の端部は、碍管21から突出しており、後述の接続部4を介して電力ケーブル10に電気的に接続されている。また、パイプ部材22の基端側X2の端部は、碍管21等を介して埋設部材24と径方向に対向している。パイプ部材22の内径は、電力ケーブル10におけるパイプ部材22の内側に配される部位の外径よりも大きくなるよう形成されている。これにより、電力ケーブル10をパイプ部材22の内側に挿入しやすくすることができる。
【0013】
第1半導電層23は、パイプ部材22と碍管21との間に介在するよう設けられている。第1半導電層23は、パイプ部材22と碍管21との双方に固着する性質を有するが、後述するごとく、第1半導電層23とパイプ部材22の外周面220との境界は、固着されていない部位を有する。第1半導電層23は、パイプ部材22の先端部を除く部位を外周側から取り囲むよう筒状に形成されている。また、第1半導電層23は、パイプ部材22の基端側X2において電力ケーブル10と碍管21との間にも介在する。第1半導電層23は、例えば、シリコーンゴム、EPM、EPDM等にカーボン等の導電性粉末を分散して導電性を持たせた、弾性を有する半導電体からなる。第1半導電層23は、碍管21の内周面付近に電界が集中して碍管21が劣化することを抑制する役割を有する。
【0014】
埋設部材24は、筒部241と鍔部242とを備える。筒部241は、円筒状に形成されており、鍔部242は、筒部241から外周側に突出するよう円環状に形成されている。埋設部材24は、パイプ部材22の外周側に配されているとともに、碍管21を介してパイプ部材22の基端側X2の端部と対向するよう配されている。埋設部材24は、鍔部242の基端側X2の面に設けられた、カバー3との合わせ面部242aが露出するように碍管21に埋め込まれている。また、埋設部材24には、合わせ面部242aに開口する雌ねじ穴242bが設けられている。ボルト12と雌ねじ穴242bとの間にカバー3及び被取付部材100を共締めすることにより、電力ケーブル接続装置1が被取付部材100に締結される。埋設部材24は、碍管21よりも高剛性の素材、例えば黄銅、アルミニウム合金等の金属からなる。埋設部材24は、電力ケーブル接続装置1の使用状態においては接地電位に接続される。パイプ部材22及び埋設部材24のそれぞれの線膨張係数は、碍管21の線膨張係数よりも小さい。
【0015】
第2半導電層25は、埋設部材24と碍管21との間に介在するよう設けられている。第2半導電層25は、埋設部材24と碍管21との双方に固着する性質を有するが、後述するごとく、第2半導電層25と埋設部材24の内周面240との境界は、固着されていない部位を有する。本形態において、第2半導電層25は、埋設部材24と碍管21との互いの対向領域の全体に設けられており、埋設部材24と碍管21とは直接接触していない。第2半導電層25は、第1半導電層23と同様に、例えば、シリコーンゴム、EPM、EPDM等にカーボン等の導電性粉末を分散して導電性を持たせた、弾性を有する半導電体からなる。第2半導電層25は、碍管21における埋設部材24との対向面付近に電界が集中して碍管21が劣化することを抑制する役割を有する。
【0016】
図2は、
図1の埋設部材24周囲を拡大した拡大断面図である。
図3は、
図2のIII-III線矢視断面図である。パイプ部材22の外周面220と第1半導電層23との境界、及び、埋設部材24の内周面240と第2半導電層25との境界には、離型剤5が設けられている。離型剤5は、例えばパイプ部材22及び埋設部材24と、第1半導電層23及び第2半導電層25との少なくとも一方に対する剥離性を有するものであり、例えばフッ素系離型剤、シリコーン系離型剤などを採用することができる。離型剤5として例えばフッ素系離型剤を採用した場合、以後、パイプ部材22と第1半導電層23との境界に設けられた離型剤5を第1離型剤51といい、埋設部材24と第2半導電層25との境界に設けられた離型剤5を第2離型剤52といい、これらを特に区別しない場合は単に離型剤5という。離型剤5は、フッ素化合物等の離型成分、及び溶媒を含み得る。また、離型剤5は、電力ケーブル接続装置1の製造時に溶媒が蒸発して減少又は消失することもある。
【0017】
図2に示すごとく、軸方向Xにおける埋設部材24の内周面240(すなわち筒部241における内周側を向く面であって、軸方向Xに沿った面)が形成された領域を内周面領域Rと呼ぶ。このとき、第1離型剤51及び第2離型剤52のそれぞれは、軸方向Xの内周面領域Rに形成されている。また、第1離型剤51及び第2離型剤52のそれぞれは、軸方向Xの内周面領域Rにおいて、
図3に示すごとく全周にわたって形成されている。本形態において、第1離型剤51は、パイプ部材22の外周面220全体に塗布されており、第2離型剤52は、埋設部材24と第2半導電層25との対向領域の全体に設けられている。なお、離型剤5の種類によっては、離型剤5の厚みが極薄となることもあるが、
図2においては、便宜上、離型剤5の厚みを誇張して模式的に表している。
【0018】
前述のように離型剤5を配することにより、パイプ部材22の外周面220と第1半導電層23との境界、及び、埋設部材24と第2半導電層25との境界に、固着されていない部位を形成することができる。ここで、2つの部材同士が固着している状態とは、2つの部材に互いに引き離そうとする力が働いた場合、互いの境界に引っ張り応力が作用する状態であり、2つの部材同士が接着、圧着等によって固く結合している状態をいう。例えば、パイプ部材22の外周面220と第1半導電層23との境界が固着していない場合は、電力ケーブル接続装置1の全体の熱膨張、熱収縮が繰り返される間に、パイプ部材22の外周面220と第1半導電層23とが互いに引っ張り合わない。また、パイプ部材22の外周面220と第1半導電層23との境界が固着していない場合は、パイプ部材22の外周面220から第1半導電層23を剥がした際、パイプ部材22の外周面220に、少なくとも目視で確認できる第1半導電層23の残渣は残らない。埋設部材24と第2半導電層25との境界についても同様である。本形態においては、少なくとも、パイプ部材22の外周面220全体と第1半導電層23との境界、及び、埋設部材24の内周面240全体と第2半導電層25との境界の双方が、固着されていない。また、本形態においては、少なくとも、軸方向Xにおける内周面領域Rにおいて、パイプ部材22の外周面220と第1半導電層23との境界、及び、埋設部材24の内周面240と第2半導電層25との境界の双方が、固着されていない。
【0019】
図1に示すごとく、第3半導電層26は、碍管21の基端側X2の端部の内側に形成されており、環状を呈している。第3半導電層26は、その内側に電力ケーブル10が挿入され、挿入される電力ケーブル10の外周面に接触する。第3半導電層26は、第1半導電層23及び第2半導電層25と同様、例えば、シリコーンゴム、EPM、EPDM等にカーボン等の導電性粉末を分散して導電性を持たせた、弾性を有する半導電体からなる。第3半導電層26は、碍管21の内周面付近に電界が集中して碍管21が劣化することを抑制する役割を有する。
【0020】
本体部2における電力ケーブル10の外周面に接触する面部(すなわち碍管21の内周面、第1半導電層23におけるパイプ部材22の基端側X2に位置する部位の内周面、及び第3半導電層26の内周面)は、電力ケーブル10が本体部2に挿入される前の状態において、電力ケーブル10における前記面部の内側に配される部位の外径よりも小さい。電力ケーブル10は、前記面部を押し広げながら本体部2内に挿入され、本体部2に挿入された状態においては前記面部と密着する。
【0021】
(カバー3)
カバー3は、黄銅、アルミニウム合金等を筒状に形成してなり、埋設部材24から基端側X2に突出する本体部2を外周側から覆っている。カバー3の先端側X1の端部には、外周側に突出したカバー鍔部31が形成されている。電力ケーブル接続装置1が被取付部材100に固定される際は、埋設部材24の鍔部242、カバー鍔部31、及び被取付部材100がこの順に重ね合わされ、ボルト12を埋設部材24の鍔部242に形成された雌ねじ穴242bに螺合することにより、電力ケーブル接続装置1が被取付部材100に固定される。
【0022】
カバー3の基端側X2の端部と電力ケーブル10との間は、封止部13によって封止される。封止部13は、粘着材が設けられたポリエチレンテープ、エポキシテープ等を電力ケーブル10の外周部に巻き付けて形成されており、カバー3と電力ケーブル10との間を液密的に封止している。
【0023】
(接続部4)
図1に示すごとく、接続部4は、導体接続棒41、高圧シールド42、固定端子43、及び共締めナット44を備える。導体接続棒41には、基端側X2に開放された接続穴411が軸方向Xに沿って形成されている。接続穴411には電力ケーブル10の絶縁被覆から露出された導体部101が挿入されており、導体接続棒41の基端側X2の端部が導体部101に向けてかしめられている。これにより、導体接続棒41と電力ケーブル10とが接続されている。また、導体接続棒41には、先端側X1に突出した雄ねじ部412が形成されている。
【0024】
高圧シールド42は、導体からなり、基端側X2に開放された有底筒状を呈している。高圧シールド42の側壁421は、パイプ部材22における碍管21から先端側X1に突出した先端部を外周側から覆っている。雄ねじ部412は、高圧シールド42の底壁422を貫通している。
【0025】
固定端子43は、板状を呈しており、高圧シールド42の先端側X1の面と対向している。固定端子43には、雄ねじ部412を挿通させる第1孔431と、固定端子43を外部に接続するための電線等と接続するための第2孔432とが形成されている。固定端子43及び高圧シールド42は、導体接続棒41と共締めナット44との間において共締めされており、これにより固定端子43、高圧シールド42、及び導体接続棒41が互いに電気的に接続されている。
【0026】
(電力ケーブル接続装置1の使用例)
次に、本形態の電力ケーブル接続装置1の使用例につき説明する。
電力ケーブル接続装置1は、例えば鉄道車両の屋根において、碍管21が鉄道車両の外部に露出するよう取り付けられる。この場合、鉄道車両の屋根を構成する壁部が、被取付部材100となる。電力ケーブル接続装置1は、例えば、隣り合う鉄道車両間の電気的接続、パンタグラフとの電気的接続等の用途に用いることができる。
【0027】
(第1の実施の形態の作用及び効果)
本形態において、パイプ部材22の外周面220と第1半導電層23との境界、及び、埋設部材24の内周面240と第2半導電層25との境界のうち、少なくとも一方の境界は、固着されていない部位を有する。それゆえ、径方向における埋設部材24の内周面240とパイプ部材22の外周面220との間に介在する碍管21の部位である介在部212(
図2参照)に生じ得る熱応力を低減することができる。このことにつき、以下説明する。
【0028】
金属製のパイプ部材22及び埋設部材24のそれぞれと、碍管21とにおいては、線膨張係数差がある。そのため、パイプ部材22及び埋設部材24に挟まれた碍管21の介在部212において、第1半導電層23がパイプ部材22及び碍管21の双方に固着し、第2半導電層25が埋設部材24及び碍管21の双方に固着している場合は、介在部212に熱応力が生じやすくなる。例えば、温度変化に応じて碍管21がパイプ部材22及び埋設部材24よりも大きく内周側に収縮しようとしたとき、介在部212の外周部は、埋設部材24の内周面240に引っ張られ、介在部212に応力が生じやすい。また、温度変化に応じて碍管21がパイプ部材22及び埋設部材24よりも大きく外周側に膨張しようとしたとき、介在部212の内周部は、パイプ部材22の内周面に引っ張られ、介在部212に熱応力が生じやすい。かかる熱応力は、例えば碍管21の成形後に収縮応力が残存したり、電力ケーブル接続装置1の使用時において電力ケーブル接続装置1の各部の温度が変化したりすることに伴って発生する。そして、前述のような熱応力が過度に大きくなった場合又は前述のような熱応力が繰り返し生じた場合等においては、介在部212にクラックが発生し、埋設部材24と碍管21との間の電気的絶縁性が低下するおそれがある。
【0029】
そこで、本形態においては、パイプ部材22の外周面220と第1半導電層23との境界、及び、埋設部材24の内周面240と第2半導電層25との境界のうち、少なくとも一方の境界が、固着されていない部位を有する。これにより、温度変化に応じて碍管21がパイプ部材22及び埋設部材24よりも大きく内周側に収縮しようとしたとき、及び温度変化に応じて碍管21がパイプ部材22及び埋設部材24よりも大きく外周側に膨張しようとしたとき、介在部212がパイプ部材22及び埋設部材24に引っ張られることを抑制することができ、介在部212に生じる熱応力を低減することができる。その結果、介在部212にクラックが生じて碍管21の絶縁性能が低下することを抑制することができる。
【0030】
また、パイプ部材22の外周面220と第1半導電層23との境界、及び、埋設部材24の内周面240と第2半導電層25との境界のうち、少なくとも一方の境界は、軸方向Xにおける埋設部材24の内周面240が形成された内周面領域Rにおいて、固着されていない部位を有する。それゆえ、碍管21においてより応力が生じやすい介在部212に生じる応力を効果的に抑制することができる。
【0031】
また、パイプ部材22の外周面220と第1半導電層23との境界、及び、埋設部材24の内周面240と第2半導電層25との境界のうち、少なくとも一方の境界には、離型剤5が存在する。これにより、容易に、パイプ部材22の外周面220と第1半導電層23との境界、及び、埋設部材24の内周面240と第2半導電層25との境界のうち、少なくとも一方の境界に、固着されていない部位を形成することができる。また、離型剤5を配することにより、パイプ部材22と第1半導電層23との境界、及び埋設部材24と第2半導電層25との境界に空間が形成されることを抑制することができ、パイプ部材22と第1半導電層23との間、及び埋設部材24と第2半導電層25との間に放電が生じることを抑制することができる。
【0032】
以上のごとく、本形態によれば、碍管に生じる応力を低減することができる電力ケーブル接続装置を提供することができる。
【0033】
なお、本形態においては、パイプ部材22の外周面220と第1半導電層23との境界、及び、埋設部材24の内周面240と第2半導電層25との境界に、離型剤5が残存する例を示したが、これに限られない。例えば電力ケーブル接続装置1の製造工程においては離型剤5が存在するが電力ケーブル接続装置1の製品完成時において離型剤5が消滅していてもよい。この場合においても、電力ケーブル接続装置1の製造工程においてパイプ部材22の外周面220と第1半導電層23との境界、及び、埋設部材24の内周面240と第2半導電層25との境界に離型剤5を配することにより、これらそれぞれの境界を固着していない状態とすることができる。
【0034】
また、本形態において、離型剤5を用いて、パイプ部材22の外周面220と第1半導電層23との境界、及び、埋設部材24の内周面240と第2半導電層25との境界のうち、少なくとも一方の境界に、固着されていない部位を形成したが、これに限られず、例えばパイプ部材22の外周面220上に第1半導電層23を形成した後に、これらの間に筒状の部材を後入れして抜き出すことで、パイプ部材22の外周面220と第1半導電層23との境界を固着されていない状態にすることも可能である。埋設部材24と第2半導電層25との境界についても同趣旨の変更が可能である。
【0035】
また、本形態においては、パイプ部材22の外周面220と第1半導電層23との境界、及び、埋設部材24の内周面240と第2半導電層25との境界の双方に、固着されていない部位を形成したが、これに限られず、少なくともどちらか一方に固着されていない部位が形成されていればよい。例えば、本形態において、パイプ部材22と第1半導電層23との境界に設けられた第1離型剤51を無くすことができる。この場合において、パイプ部材22と第1半導電層23との境界に応力緩和層を形成してもよい。応力緩和層は、熱変化に伴って碍管21に生じる応力を低減するための部材であり、例えばパイプ部材22と第1半導電層23とに固着するが碍管21よりも低弾性(例えば弾性率が1MPa以下)の絶縁ゴムから構成することができる。或いは、応力緩和層は、パイプ部材22の線膨張係数と第1半導電層23の線膨張係数との間の線膨張係数を有する素材(例えば電気的絶縁性を有するエンジニアリングプラスチック)によって構成してもよい。埋設部材24と第2半導電層25との境界についても同趣旨の変更が可能である。
【0036】
[第2の実施の形態]
図4は、本形態における電力ケーブル接続装置1の埋設部材24周辺を拡大した拡大断面図である。本形態は、パイプ部材22に、パイプ部材22を径方向に貫通する複数の孔部221が形成されている形態である。パイプ部材22には、少なくとも軸方向Xにおける埋設部材24の内周面240が形成された内周面領域Rに多数の孔部221が形成されている。パイプ部材22は、軸方向Xにおける少なくとも内周面領域Rが網状に構成されており、それぞれの網目部分が孔部221を構成している。碍管21を成形する際のインサート成形において、この孔部221は碍管21を構成する溶融樹脂によって完全には塞がれず、孔部221の内側は空間となっている。パイプ部材22における孔部221が存在する領域において、パイプ部材22と第1半導電層23との固着が防止される。なお、第1半導電層23の一部が孔部221に入り込んでいてもよい。各孔部221の内側空間の内周端は、電力ケーブル10の外周側の空間に開口している。
【0037】
本形態のその他の構成は、第1の実施の形態の構成と同様である。
なお、第2の実施の形態以降において用いた符号のうち、既出の形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0038】
(第2の実施の形態の作用及び効果)
本形態においては、パイプ部材22に多数の孔部221が形成されているため、パイプ部材22における孔部221が存在する領域において、パイプ部材22と第1半導電層23との固着が防止される。それゆえ、パイプ部材22と第1半導電層23との境界に固着されていない部位を容易に形成することができる。
その他、本形態においても、第1の実施の形態と同様の作用及び効果を有する。
【0039】
なお、本形態において、パイプ部材22の外周面220及び多数の孔部221のそれぞれの内周面に、第1の実施の形態と同様に離型剤5を設けて、パイプ部材22と第1半導電層23との固着をより一層抑制するようにしてもよい。
【0040】
また、本形態において、パイプ部材22の少なくとも一部を網状にすることにより、網目部分を孔部221としたが、これに限られず、例えばパイプ部材22の少なくとも一部を多孔質の部材(例えば、多孔質金属)とすることもできる。この場合、多孔質部材の孔部は、パイプ部材22をパイプ部材22の内周面から外周面220まで連通していることが好ましい。
【0041】
[第3の実施の形態]
図5は、本形態における電力ケーブル接続装置1の埋設部材24周辺を拡大した拡大断面図である。本形態は、第1の実施の形態の構成からパイプ部材22の長さを変更し、かつ、第1離型剤(
図2の符号51参照)を無くした形態である。すなわち、本形態において、第1半導電層23は、パイプ部材22の外周面220と碍管21との双方に固着した状態にある。パイプ部材22の基端側X2の端部は、埋設部材24の内周面240の先端側X1の端部の位置よりも先端側X1に位置している。すなわち、軸方向Xにおいて、パイプ部材22は、内周面領域RよりもX1側に離れた位置に配されている。なお、第2離型剤52は、埋設部材24と第2半導電層25との対向領域の全体に設けられている。
その他の構成は、第1の実施の形態における構成と同様である。
【0042】
(第3の実施の形態の作用及び効果)
本形態においては、軸方向Xにおいて、パイプ部材22は、内周面領域RよりもX1側に離れた位置に配されている。それゆえ、軸方向Xの内周面領域Rにおいて、径方向における埋設部材24の内周面240と碍管21とは互いに拘束されず、埋設部材24の内周面240の内周側に位置する碍管21の部位213に応力が生じることを防止することができる。
その他、本形態においても、第1の実施の形態と同様の作用効果を有する。
【0043】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0044】
[1]内側に電力ケーブル(10)が挿入される碍管(21)と、前記電力ケーブル(10)に対向するよう前記碍管(21)の内側に配された、前記碍管(21)よりも高剛性のパイプ部材(22)と、前記パイプ部材(22)よりも外周側の位置に配され、前記碍管(21)に一部が埋設された、前記碍管(21)よりも高剛性の埋設部材(24)と、前記パイプ部材(22)と前記碍管(21)との間に設けられた第1半導電層(23)と、前記埋設部材(24)と前記碍管(21)との間に設けられた第2半導電層(25)と、を備え、前記パイプ部材(22)の外周面(220)と前記第1半導電層(23)との境界、及び、前記埋設部材(24)の内周面(240)と前記第2半導電層(25)との境界のうち、少なくとも一方の境界は、固着されていない部位を有する、電力ケーブル接続装置(1)。
【0045】
[2]前記パイプ部材(22)の前記外周面(220)と前記第1半導電層(23)との境界、及び、前記埋設部材(24)の前記内周面(240)と前記第2半導電層(25)との境界のうち、少なくとも一方の境界は、軸方向における前記埋設部材(24)の前記内周面が形成された領域において、固着されていない部位を有する、前記[1]に記載の電力ケーブル接続装置(1)。
【0046】
[3]前記パイプ部材(22)の前記外周面(220)と前記第1半導電層(23)との境界、及び、前記埋設部材(24)の前記内周面(240)と前記第2半導電層(25)との境界のうち、少なくとも一方の境界には、離型剤(5)が存在する、前記[1]又は前記[2]に記載の電力ケーブル接続装置(1)。
【0047】
[4]前記パイプ部材(22)には、前記パイプ部材(22)を径方向に貫通する多数の孔部(221)が形成されている、前記[1]乃至[3]のいずれか1つに記載の電力ケーブル接続装置(1)。
【0048】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、前述した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0049】
10…電力ケーブル
21…碍管
22…パイプ部材
220…前記パイプ部材の外周面
221…孔部
23…第1半導電層
24…埋設部材
240…埋設部材の内周面
25…第2半導電層
5…離型剤
R…領域R