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特許7548064重力沈降式集塵機、集塵方法、集塵設備、及び酸化亜鉛鉱の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】重力沈降式集塵機、集塵方法、集塵設備、及び酸化亜鉛鉱の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 45/02 20060101AFI20240903BHJP
   F27D 17/00 20060101ALI20240903BHJP
   C22B 19/38 20060101ALI20240903BHJP
   C22B 7/02 20060101ALI20240903BHJP
   C22B 1/02 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
B01D45/02
F27D17/00 105A
C22B19/38
C22B7/02 A
C22B1/02
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021032228
(22)【出願日】2021-03-02
(65)【公開番号】P2022133515
(43)【公開日】2022-09-14
【審査請求日】2023-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】高谷 悟
(72)【発明者】
【氏名】高橋 武史
(72)【発明者】
【氏名】川野 正浩
【審査官】中村 泰三
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-301449(JP,A)
【文献】実開昭63-020917(JP,U)
【文献】特開平04-268007(JP,A)
【文献】特開2003-129824(JP,A)
【文献】国際公開第2012/035611(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2018-0095200(KR,A)
【文献】中国特許出願公開第101417813(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 45/00-02
B01D 50/00、
B01D 51/00-10
F23J 15/00-08
F27D 17/00
C22B 1/02
C22B 19/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略函型の集塵室と、
処理対象とする排ガスを、前記集塵室の前面壁の側から前記集塵室に吹き入れるガス導入管と、
処理済の前記排ガスを、前記集塵室の背面壁の側から排出するガス排出管と、
冷却水噴射部と、
を備え、
前記集塵室の内部空間において前記排ガスを横方向に流動させながら、前記排ガス中のダストを重力により沈降させて集塵する、重力沈降式集塵機であって、
前記ガス導入管は、前記集塵室の前面壁の側において天面壁の近傍から斜め下方に向けて前記排ガスを前記集塵室内に吹き入れることができるように、斜め下方に向けて傾斜させて設置されていて、
前記冷却水噴射部は、前記前面壁の内壁面において、前記ガス導入管のガス導入口よりも下方に設置されていて、尚且つ、前記冷却水噴射部の先端が、下記の定義によるガス高濃度領域から離間した位置にある、
重力沈降式集塵機。
(ガス高濃度領域):集塵室内の部分空間領域であって、前記集塵室を側面壁側から視た場合における鉛直断面において、ガス導入管のガス導入口の下端を始点とし、前記ガス導入管のガス導入方向に沿って斜め下方に延長した仮想線よりも上方の範囲を占める領域。
【請求項2】
前記冷却水噴射部は、冷却水を圧縮空気の高速気流で粉砕しつつ噴射する2流体ノズルである、
請求項1に記載の重力沈降式集塵機。
【請求項3】
前記冷却水噴射部の先端と、前記ガス高濃度領域の外縁との距離が、0mmを超えて、100mm以下である、
請求項1又は2に記載の重力沈降式集塵機。
【請求項4】
請求項1から3の何れかに記載の重力沈降式集塵機を用いて行う、排ガスからの集塵方法であって、
前記排ガスがダイオキシンを含有するガスであって、
冷却水の噴射流量を、前記ガス排出管の入口における前記排ガスの温度が250℃以上280℃以下の温度範囲となる流量に調節する、
集塵方法。
【請求項5】
請求項1から3の何れかに記載の重力沈降式集塵機である前処理用の集塵機と、該前処理用の集塵機の下流側に連接されていて、乾式の集塵機を含んで構成される後処理用の集塵機と、からなる、
集塵設備。
【請求項6】
粗酸化亜鉛原料を還元焙焼する還元焙焼工程と、還元焙焼工程において排出される排ガスから、亜鉛を含有する粗酸化亜鉛ダストを分離回収する粗酸化亜鉛ダスト回収工程が行われる、酸化亜鉛鉱の製造方法であって、
前記粗酸化亜鉛ダスト回収工程においては、還元焙焼工程において排出される排ガスからの前記粗酸化亜鉛ダストの分離回収を、請求項5に記載の集塵設備によって行う、
酸化亜鉛鉱の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重力沈降式集塵機、集塵方法、及び、集塵設備に関する。より詳しくは、本発明は、酸化亜鉛鉱の製造プラントにおいて行う排ガス処理に用いることができる、重力沈降式集塵機、集塵方法、及び、集塵設備、更には、それらの機器、方法、又は、設備を用いて行われる、酸化亜鉛鉱の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛製錬所における亜鉛地金の原料として、酸化亜鉛鉱が広く用いられている。この酸化亜鉛鉱の原材料として、鉄鋼業における高炉や電気炉等の製鋼炉から発生する副産物であり、鉄成分以外に比較的多くの亜鉛が含まれている鉄鋼ダストが広く用いられている。
【0003】
鉄鋼ダストを原材料として用いる酸化亜鉛鉱の製造プラントにおいては、鉄鋼ダストとカーボン等の還元剤とを還元焙焼炉で加熱し、排出される高温の排ガスを、還元焙焼炉の下流側に設置されている集塵設備に導入して、この排ガス中に含まれるダスト状の亜鉛成分(粗酸化亜鉛ダスト)を回収している。
【0004】
還元焙焼工程において排出される高温の排ガスから粗酸化亜鉛ダストを回収する集塵設備は、通常、集塵設備内の上流側から、予備的な集塵を行う重力沈降式集塵機、電気集塵機、及び、バグフィルターが、この順で連接される構成とされている。
【0005】
上記の集塵設備を構成する重力沈降式集塵装置には、還元焙焼炉から排出される高温の排ガスが導入される。そして、このような高温の排ガスに対して、予備的な集塵処理を行う重力沈降式集塵装置として、集塵室の内部空間において排ガスを横方向に流動させながら、排ガス中のダストを重力により沈降させるタイプの重力沈降式集塵機(特許文献1参照)が広く用いられている。
【0006】
ここで、鉄鋼ダストには、比較的多くの塩素が含まれている。そのため、還元焙焼炉による還元焙焼処理において、ダイオキシン類が発生することがある。そこで、還元焙焼工程において排出される排ガスを処理する上記の集塵設備においては、ダイオキシンの生成を抑制するために、冷却水の散布等によって、排ガスを冷却する処理が行われている(特許文献2参照)。
【0007】
ところが、集塵室の内部空間において排ガスを横方向に流動させながら、排ガス中のダストを重力により沈降させる上記タイプの重力沈降式集塵機においては、排ガスを冷却するための冷却水と排ガス中のダストの混合物が集塵機の内壁面に付着して、直径が500mm程度に及ぶ塊に成長することがあった。このように成長した巨大な塊は、例えば、集塵室の下方に設置されているコンベア装置上へ落下して同装置の破損や故障を引き起こす等、重力沈降式集塵装置の正常な動作を妨げたる様々な故障や損傷の要因となっていた。
【0008】
例えば、特許文献3には、排ガスを集塵室の外殻内に配置された内筒から下方に向けて噴出する態様で集塵室内に導入し、ダストが落下した後の排ガスを再上昇させて排出するタイプ、即ち、排ガスを主には縦方向に流動させながらダストを除去するタイプの重力沈降式集塵機が開示されている。そして、同文献には、そのようなタイプの集塵機において、冷却水を噴霧するノズルの位置を、ガスを導入する内筒の下端と天面側の内壁面に対して、それぞれ適切な離間距離をとった配置とすること、そして、それにより、噴霧水が蒸発せずに液体のまま集塵機の内壁面に付着することを回避できることが開示されている。
【0009】
しかしながら、特許文献3には、高温の排ガスを集塵室の内部空間において横方向に流動させるタイプの重力沈降式集塵機において、高温の排ガスの冷却効果を維持しながら、粗酸化亜鉛ダストを含む冷却水が集塵機の内壁面に付着することを防ぐ手段については何らの言及もない。
【0010】
一方、特許文献4には、高温の燃焼炉内で被処理材を高温処理すると供に、排ガス出口とダクトとの間に隙間を形成してダクト内に排ガスと併せて炉外の大気を吸入させることにより高温炉からの排ガスを急速冷却する、高温炉の操業方法が開示されている。
【0011】
しかしながら、特許文献4の操業方法は、燃焼炉出口において排ガスに多量の大気を混入させることによって急速冷却するものであり、排ガス量が増加して、排ガス処理設備が大きなものとなり、その設置コスト、運転コストも多大なものとなる。従って、既に十分に大きな排ガス処理設備を有する酸化亜鉛鉱の製造プラントに適用することは現実的ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】実開昭63-20917号公報
【文献】特開2015-202474号公報
【文献】特開平4-268007号公報
【文献】特開平11-61232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、高温の排ガスを横方向に流動させながら、排ガス中のダストを重力により沈降させるタイプの重力沈降式集塵機において、集塵室の内壁面に付着するダスト由来の塊の生成を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、集塵室内において排ガスを横方向に流動させながら、排ガス中のダストを重力により沈降させるタイプの重力沈降式集塵機において、排ガスを冷却するために集塵室内に設置される冷却水噴霧部を、排ガスの流路に対して適切に調整された特定の位置に配置することによって、上記課題を解決できることに想到し、本発明を完成させるに至った。
【0015】
(1) 略函型の集塵室と、処理対象とする排ガスを、前記集塵室の前面壁の側から前記集塵室に吹き入れるガス導入管と、処理済の前記排ガスを、前記集塵室の背面壁の側から排出するガス排出管と、冷却水噴射部と、を備え、前記集塵室の内部空間において前記排ガスを横方向に流動させながら、前記排ガス中のダストを重力により沈降させて集塵する、重力沈降式集塵機であって、前記ガス導入管は、前記集塵室の前面壁の側において天面壁の近傍から斜め下方に向けて前記排ガスを前記集塵室内に吹き入れることができるように、斜め下方に向けて傾斜させて設置されていて、前記冷却水噴射部は、前記前面壁の内壁面において、前記ガス導入管のガス導入口よりも下方に設置されていて、尚且つ、前記冷却水噴射部の先端が、下記の定義によるガス高濃度領域から離間した位置にある、重力沈降式集塵機。
ガス高濃度領域:集塵室内の部分空間領域であって、前記集塵室を側面壁側から視た場合における鉛直断面において、ガス導入管のガス導入口の下端を始点とし、前記ガス導入管のガス導入方向に沿って斜め下方に延長した仮想線よりも上方の範囲を占める領域。
【0016】
(1)の重力沈降式集塵機によれば、高温の排ガスを横方向に流動させながら、排ガス中のダストを重力により沈降させるタイプの重力沈降式集塵機において、集塵室の内壁面に付着するダスト由来の塊の生成を抑制することができる。
【0017】
(2) 前記冷却水噴射部は、冷却水を圧縮空気の高速気流で粉砕しつつ噴射する2流体ノズルである、(1)に記載の重力沈降式集塵機。
【0018】
(2)の重力沈降式集塵機においては、冷却水噴射部を、冷却水の噴射形態をより微粒化することが可能な2流体ノズルで構成するものとした。これにより、冷却水粒子の適切な蒸発を促進して、(1)の重力沈降式集塵機の奏する上記効果を、更に安定的に発現させることができる。
【0019】
(3) 前記冷却水噴射部の先端と、前記ガス高濃度領域の外縁との距離が、0mmを超えて、100mm以下である、(1)又は(2)に記載の重力沈降式集塵機。
【0020】
(3)の重力沈降式集塵機においては、冷却水噴射部の先端位置との間の距離を、好ましい特定範囲に限定した。これにより、冷却水噴射部の先端に排ガス中のダストが付着することによる噴射部の詰まりを防ぐことができ、尚且つ、冷却水粒子を微細化させることと、冷却水粒子とガス流との適度の接触とを両立させて、冷却効果をより高い水準に保持しながら、(1)又は(2)の重力沈降式集塵機の奏する上記効果を発現させることができる。
【0021】
(4) (1)から(3)の何れかに記載の重力沈降式集塵機を用いて行う、排ガスからの集塵方法であって、前記排ガスがダイオキシンを含有するガスであって、前記冷却水の噴射流量を、前記ガス排出管の入口における前記排ガスの温度が250℃以上280℃以下の温度範囲となる流量に調節する、集塵方法。
【0022】
(4)の集塵方法によれば、高温の排ガスを横方向に流動させながら、排ガス中のダストを重力により沈降させるタイプの重力沈降式集塵機を用いた排ガス処理の実施において、上記の集塵機の集塵室の内壁面に付着するダスト由来の塊の生成を抑制することができる。
【0023】
(5) (1)から(3)の何れかに記載の重力沈降式集塵機である前処理用の集塵機と、該前処理用の集塵機の下流側に連接されていて、乾式の集塵機を含んで構成される後処理用の集塵機と、からなる、集塵設備。
【0024】
(5)の集塵設備によれば、高温の排ガスを横方向に流動させながら、排ガス中のダストを重力により沈降させるタイプの重力沈降式集塵機が前処理用の集塵機として配置されている集塵設備において、前処理用の上記集塵機の集塵室の内壁面に付着するダスト由来の塊の生成を抑制することができる。
【0025】
(6) 粗酸化亜鉛原料を還元焙焼する還元焙焼工程と、還元焙焼工程において排出される排ガスから、亜鉛を含有する粗酸化亜鉛ダストを分離回収する粗酸化亜鉛ダスト回収工程が行われる、酸化亜鉛鉱の製造方法であって、前記粗酸化亜鉛ダスト回収工程においては、還元焙焼工程において排出される排ガスからの前記粗酸化亜鉛ダストの分離回収を、(5)に記載の集塵設備によって行う、酸化亜鉛鉱の製造方法。
【0026】
(6)の酸化亜鉛鉱の製造方法によれば、(5)の集塵設備の奏する上記効果を享受して、ダイオキシン発生リスクを十分に抑えながら、従来方法よりも高い生産性の下で、酸化亜鉛鉱の製造を行うことができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、高温の排ガスを横方向に流動させながら、排ガス中のダストを重力により沈降させるタイプの重力沈降式集塵機において、集塵室の内壁面に付着するダスト由来の塊の生成を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の重力沈降式集塵機の構成を模式的に示す側面図(一部のみ透視図)である。
図2】本発明の重力沈降式集塵機の構成を模式的に示す正面図である。
図3図1の部分拡大図であり、冷却水噴射部の設置位置の説明に供する図面である。
図4】本発明の重力沈降式集塵機、又は、集塵設備を用いて実施することできる酸化亜鉛鉱の製造方法の流れを示すフロー図である。
図5】本発明の重力沈降式集塵機を含んで構成される集塵設備の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の好ましい実施形態について説明する。図4は、本発明の重力沈降式集塵機、集塵方法、又は、集塵設備を用いて好適に実施することができる、酸化亜鉛鉱の製造方法の流れを示すフロー図である。本発明の重力沈降式集塵機、集塵方法、又は、集塵設備は、図4に示すプロセス、即ち、鉄鋼ダスト等、一定量以上の塩素を含有する原料を還元焙焼することにより、亜鉛を回収して酸化亜鉛鉱を製造するプロセスを実施するための技術的手段として、特に好ましく用いることができる。
【0030】
<重力沈降式集塵機・集塵設備・集塵方法>
本発明の「重力沈降式集塵機」は、集塵室11の内部空間を横方向に流動する低速の気流中から重力沈降によってガス中に混在する粒子を分離して回収する集塵機である。本発明の重力沈降式集塵機の実施形態の一つである重力沈降式集塵機1は、図4に示す4つの工程、即ち、還元焙焼工程S10、粗酸化亜鉛ダスト回収工程S20、湿式工程S30、及び、乾燥加熱工程S40が順次行われる「酸化亜鉛鉱の製造方法」において、粗酸化亜鉛ダスト回収工程S20を行う「集塵設備」を構成する機器として好ましく用いることができる。
【0031】
[集塵設備]
上記の「集塵設備」は、図5に集塵設備100として例示する通り、還元焙焼工程S10を行う還元焙焼炉4の側(上流工程側)から順に、前処理用の集塵機として配置される重力沈降式集塵機1と、この下流側に連接されている乾式の集塵装置である、電気集塵機2、及び、バグフィルター3からなる複合的な集塵設備である。電気集塵機2は、コロナ放電によって荷電されたダストを電界に導き集塵電極に回収する装置であり、バグフィルター3は、この設備の最下流側において排ガス中に残存しているダストを、ろ布によってろ過することにより回収する装置である。
【0032】
重力沈降式集塵機1は、相対的に粒子径の大きな粒子を回収する機能に優れる集塵機である。従って、集塵設備100は、下流側の電気集塵機2、及び、バグフィルター3による集塵に先行して、相対的に粒子径の大きな粒子を回収する前処理を行う集塵機として、重力沈降式集塵機1を最上流側に配置した構成とされている。
【0033】
[集塵方法]
又、本発明の「集塵方法」は、同じく、上記の「酸化亜鉛鉱の製造方法」において、粗酸化亜鉛ダスト回収工程S20を実施するための技術的手段として用いることができるプロセスである。そして、この「集塵方法」は、重力沈降式集塵機1を備える集塵設備100を用いて行うことができるプロセスである。
【0034】
[重力沈降式集塵機]
図1、2に示すように、重力沈降式集塵機1は、処理対象とする排ガスを横方向に流動させる略函型の集塵室11と、同排ガスを、集塵室11の内部に前面壁111の側から吹き入れるガス導入管12と、処理済の排ガスを集塵室11の外部に背面壁112の側から排出するガス排出管13と、集塵室11の内部に設置される冷却水噴射部14と、を備える。又、集塵室11の底面側には、排ガスから沈降分離させたダストを運搬回収するフローコンベア15が設置されていることが好ましい。
【0035】
(集塵室・ガス導入管・ガス排出管)
集塵室11は、図1、2に示すように、ガス導入管12側の前面壁111、ガス排出管側の背面壁112、天面壁113、及び、排ガスの流動方向に沿う一対の側面壁114に取り囲まれてなる略箱形の構造体である。そして、前面壁111の天面壁113側の一部は、ガス導入管12を斜め下方に向けて接合するための傾斜がつけられた前面壁傾斜部115とされていることが好ましい。又、側面壁114の底面側の一部は、最下部のフローコンベア15に向けて集束する態様で傾斜がつけられた側面壁傾斜部116とされていることが好ましい。
【0036】
ガス導入管12は、集塵室11の前面壁111の側において天面壁113の近傍から斜め下方に向けて排ガスを集塵室11内に吹き入れることができるように、斜め下方に向けて傾斜させて設置されている。ガス導入管12は、前面壁傾斜部115に接合され、同部を貫通して開口するガス導入口121を形成する態様で設置されていることが好ましい。
【0037】
ガス排出管13は、集塵室11の背面壁112の側において排出することができるように天面壁113上における背面壁112の側の端部又はその近接部分に設置されている。
【0038】
以上説明した構成からなる集塵室11、ガス導入管12及びガス排出管を備える重力沈降式集塵機1においては、集塵室11の内部にガス導入管12から吹き入れられる排ガス中のダストの濃度分布は、集塵室11を側面壁114側から視た場合における鉛直断面において、ガス導入管12の端部のガス導入口121の下端を始点とし、ガス導入管12のガス導入方向に沿って斜め下方に延長した仮想線(図1における線d)よりも上方の範囲を占める領域(図1における領域A)において、同仮想線よりも下方の範囲を占める領域(図1における領域B)よりも相対的に高濃度となる。本明細書においては、上記の領域A、即ち、「集塵室内の部分空間領域であって、集塵室を側面壁側から視た場合における鉛直断面において、集塵室のガス導入口の下端を始点とし、ガス導入管のガス導入方向に沿って斜め下方に延長した仮想線よりも上方の範囲を占める領域」のことを、集塵室内の「ガス高濃度領域」と定義する。又、集塵室内の部分空間領域のうち、「ガス高濃度領域」を除く領域(図1における領域B)のことを、集塵室内の「ガス低濃度領域」と定義する。又、上述のガス導入管のガス導入方向とは、図3におけるガス導入管の傾斜角度(図3における俯角θの角度)によって規定されるガス導入管の下側外側辺に沿う方向(図3における方向d)のことを言うものとする。
【0039】
(冷却水噴射部)
冷却水噴射部14の構造は、冷却水を所望の態様で噴射することできるものであれば特定の構造に限定はされない。但し、重力沈降式集塵機1においては、冷却水噴射部14の配置態様が、独自の技術思想から導かれた要件によって特定の位置範囲に限定されていることを必須の要件とする。重力沈降式集塵機1における冷却水噴射部14の配置態様の「第1の要件」は、集塵室11の前面壁111の内壁面において、ガス導入管12のガス導入口121よりも下方に設置されていることである。そして、「第2の要件」は、冷却水噴射部14の先端が上記の定義による「ガス高濃度領域」から離間した位置にあることである。
【0040】
前面壁111の側において天面壁113近傍から斜め下方に向けて排ガスを集塵室内に吹き入れるガス導入管12を備える重力沈降式集塵機1において、冷却水噴射部14の配置態様が、上記の「第1の要件」及び「第2の要件」を満たしていることによって、集塵室11の内部空間を概ね横方向に流れる処理対象の高温の排ガスに対して、その流れの後方から冷却水を噴霧することができ、尚且つ、噴射される冷却水を拡散させて十分に微粒化した状態で「ガス高濃度領域(領域A)」内に到達させることができる。これにより、ダストに接触してこれを取り込んだ状態の冷却水粒子の水分の蒸発が促進され、冷却水粒子が液体のまま集塵室11の内壁面に到達して付着することを抑制して、当該内壁面に付着した状態で成長してしまうダスト由来の塊の生成を低減させることができる。
【0041】
又、冷却水噴射部14の先端が上記の定義による「ガス高濃度領域」から離間した位置にあること、即ち、上記の「第2の要件」を満たしていることによって、冷却水噴射部14の先端が、高濃度のガスに触れ続けることによってノズル詰まりが生じて、冷却水が内壁面方向に飛散して内壁面を濡らしてしまうことを抑制することができる。この効果によっても、当該内壁面に付着した状態で成長してしまうダスト由来の塊の生成を低減させることができる。
【0042】
ここで、従来の重力沈降式集塵機においては、冷却水噴射部14の配置は、冷却効率を高めるために、できるだけガス濃度が高い領域に速やかに冷却水を到達させることを優先的に考慮した配置とされていることが一般的であった。このような従来一般的な冷却水噴射部の配置の具体例として、図1の重力沈降式集塵機1において、冷却水噴射部を、同図に示す位置ではなく、天面壁113の内壁面における前面壁111寄りの領域に配置する例(図示せず)を挙げることができる。
【0043】
冷却水噴射部14の配置が、上述の従来の一般的な配置である場合、冷却水が集塵室11内で十分に拡散する前に高濃度で存在するダストに接触してしまう割合が大きくなり、このような態様での接触によって内部に粗酸化亜鉛ダストが取り込まれた粒子が多量に形成される。そして、そのようなダストを内包する大量の粒子が、水分が十分に蒸発せずに液体のまま集塵室11の内壁面に到達し、その場所に付着してしまうことが、内壁面に付着した状態で成長してしまうダスト由来の巨大な塊の生成の原因となっていた。
【0044】
これに対して、本発明の重力沈降式集塵機1においては、冷却水噴射部14の配置は、その先端が「ガス高濃度領域」から流れ方向の後方に離間した位置となる配置、即ち、冷却水噴射部14がガス流の背後にあって、その先端が、「ガス高濃度領域」に侵入しないような配置とされている。(図3参照)。これにより、冷却水噴射部14の先端から噴射された冷却水は、先ずダスト濃度が相対的に低い領域(領域B)内で一定程度以上に拡散した状態、即ち、一定程度以上に微粒化した状態となり、その後に、「ガス高濃度領域(領域A)」内に到達し、高濃度で存在するガス中のダストに接触する。従って、上述の冷却水噴射部の一般的な配置と比較して、ダストに接触した後のダストが取り込まれた状態の冷却水粒子の水分を、より速やかに蒸発させることができる。
【0045】
又、冷却水噴射部14の先端が高濃度のガスに触れ続けることによってノズルの詰まりが生じ、冷却水が内壁面方向に飛散することによって内壁面を濡らし、ここにダスト中の大量の粒子が付着してしまうことも、内壁面に付着した状態で成長してしまうダスト由来の巨大な塊の生成を更に促進する原因となっていた。
【0046】
これに対して、本発明の重力沈降式集塵機1においては、上述した通り、冷却水噴射部14の先端が「ガス高濃度領域」に侵入しないような配置とされていることによって、冷却水噴射部14の先端が高濃度のガスに触れ続けることによるノズルの詰まりを抑制することができるため、上述した通り、このような作用によっても、集塵室11の内壁面におけるダスト由来の巨大塊の生成を抑制することができる。
【0047】
尚、冷却水噴射部14の配置にかかる上記の「第2の要件」について、具体的には、冷却水噴射部14の先端と、「ガス高濃度領域」の外縁との距離(図3に示す距離S)が、0mmを超えて、100mm以下であることが好ましく、10mm以上100mm以下であることがより好ましい。この距離Sが、少なくとも0mmを超えていることにより、冷却水噴射部14の先端の全面が「ガス高濃度領域」に侵入して先端の前面が高濃度のガスに覆われて、ダストを内包した粒径の大きな水粒子が多量に生成されることを回避することができる。更には、冷却水噴射部14の先端が高濃度のガスに触れ続けることによるノズルの詰まり等のリスクも低減させることができる。又、距離Sが、10mm以上であることによって、噴射される冷却水の拡散を促進させることができる。つまり、冷却水の微粒化を促進させることができる。一方で、距離Sを100mm以下に維持することによって、冷却効果を高い水準に保持しながら、集塵室11の内壁面におけるダスト由来の巨大塊の生成を抑制することができる。
【0048】
冷却水噴射部14の配置は、上述の「第1の要件」及び「第2の要件」を共に満たす配置であればよく、それ以外の詳細な配置条件は特に限定されない。但し、冷却水噴射部14の好ましい配置の具体例の一つとして、図2に示すように、冷却水噴射部14として、1対のスプレーノズルが、上述の2つの要件を満たす同一の高さ位置に、ガス導入口121を間に挟んだ対称位置に並置されている配置を挙げることができる。
【0049】
冷却水噴射部14の構成については、所望の態様で冷却水を噴霧可能な機能を有するものであれば、特に限定なく、従来公知の各種のスプレーノズル等により構成することができる。但し、冷却水噴射部14を構成するスプレーノズルとして、冷却水を圧縮空気の高速気流で粉砕しつつ噴射する2流体ノズルを特に好ましく用いることができる。
【0050】
ところで、冷却水噴射部14からの冷却水の噴射角度は、噴射された冷却水が、集塵室11の側面壁114の内壁面に、蒸発せずに液体のまま到達することがないように調節することが好ましい。この調節は、例えば、冷却水噴射部14を構成するスプレーノズルの噴射口の位置や冷却水の噴射角度を最適化することにより行うことができる。所望の噴射角度を得るために、噴射角度の異なる複数のスプレーノズルを予め準備しておき、所望の噴射角度となるスプレーノズルに都度交換することにより、噴射角度を調節できるようにしておくことも本発明における好ましい実施態様の一つである。尚、上記の「噴射角度」とは、冷却水噴射部14を構成するスプレーノズル等の噴射口を頂点とする噴射水の拡散範囲の外縁によって規定される円錐形状の頂角の大きさのことを意味する。
【0051】
冷却水噴射部14の「噴射角度」は、冷却水が蒸発することなく、液体のまま集塵室11の内壁面に直接到達することがない範囲に調節されることが好ましい。そのような要求を満たしている限りにおいて、具体的な特定の角度範囲に限定されない。但し、「噴射角度」が一定以上の大きさになると、冷却水噴射部14の先端から噴射された冷却水が集塵室11内の側面壁114の内壁面に到達するまでの距離は必然的に短くなるため、この距離を、冷却水が蒸発せずに上記内壁面に液体のまま到達してしまうことがないだけの距離として確保することができる最大角度が、実質的な好ましい「噴射角度」の上限値となる。一方、「噴射角度」が一定以上に小さくなると、それに伴って噴射される冷却水の流束密度が大きくなり、冷却水が「ガス高濃度領域」に到達するまでの間に十分に拡散しないリスクが高くなる。従って、上記の好ましい上限値の範囲内で、噴射角度はできるだけ大きくすることが好ましい。一般的な目安として冷却水噴射部14からの冷却水の噴射角度の好ましい角度範囲は20°以上30°以下程度である。
【0052】
冷却水噴射部14から噴射する冷却水の噴射流量は、ガス排出管13の入口における処理済の排ガスのガス温度が、ダイオキシンの再合成が抑制される温度範囲となる流量に調節することが好ましい。重力沈降式集塵機1の集塵室11の内部で再合成されたダイオキシンは、電気集塵機2から排出される排ガスに吹き込まれる活性炭に吸着される。しかし、再合成されるダイオキシンの生成量が過剰となると、活性炭の吸着負荷が過負荷となってダイオキシンの回収が困難となる懸念がある。このため、重力沈降式集塵機1において噴射する冷却水の噴射流量を、ガス排出管13の入口における排ガスのガス温度が250℃以上280℃以下の温度範囲となる流量に調節することが好ましい。冷却水噴射部14から噴射する冷却水の噴射流量を、このような流量に調節することにより、ダイオキシンの再合成を低減させることができる。又、処理済の排ガスの温度を上記範囲とすることにより、合わせて、集塵室11の内壁面に付着した状態で成長してしまうダスト由来の塊の生成も低減させることができる。
【0053】
冷却水噴射部14から噴射する冷却水の噴射流量の流量調節は、例えば、ガス排出管13の入口における排ガスのガス温度を監視しながら、調節弁を手動で調節することにより行うことができる。しかし、これに限られることはなく、例えば、PLC(プログラマブルロジックコントローラ)内に冷却水の噴射流量を制御するための制御部、及び、ガス排出管入口に排ガスのガス温度を検知するセンサーを設けて、調節弁の制御を自動で行うようにしてもよい。
【0054】
<酸化亜鉛鉱の製造方法>
一般的な酸化亜鉛鉱の製造方法の基本的な流れは、図4に示す通りである。通常、酸化亜鉛鉱の製造は、鉄鋼ダスト等の亜鉛含有鉱を還元焙焼ロータリーキルン(RRK)等の加熱炉で還元焙焼して亜鉛成分を揮発させる還元焙焼工程S10、還元焙焼工程から排出される排ガスから、粗酸化亜鉛ダストを回収する粗酸化亜鉛ダスト回収工程S20、粗酸化亜鉛ダストから塩素等のハロゲン及びカドミウムを分離除去して粗酸化亜鉛ケーキを得る湿式工程S30、粗酸化亜鉛ケーキを乾燥加熱ロータリーキルン(DRK)で乾燥加熱して酸化亜鉛鉱を得る乾燥加熱工程S40を順次行う製造方法によって行われる。
【0055】
本発明に係る「酸化亜鉛鉱の製造方法」は、上記各工程のうち、粗酸化亜鉛ダスト回収工程S20において行われる、排ガスからの粗酸化亜鉛ダストの分離回収を、本発明の重力沈降式集塵機1を含んで構成される集塵設備100を用いて行うプロセスである。
【0056】
[還元焙焼工程]
還元焙焼工程S10は、鉄鋼ダスト等の亜鉛含有鉱の還元焙焼処理を行う工程である。還元焙焼処理は、通常、亜鉛含有鉱と還元材とを、還元焙焼ロータリーキルン(RRK)等の還元焙焼炉を用いて焙焼することにより行われる。尚、還元焙焼ロータリーキルン(RRK)とは、耐火性を備える円筒形の釜であるキルン本体、キルン本体の排出口側近傍に設けられるバーナー部、キルン本体に回転力を伝える駆動ギヤを備える回転式の加熱炉であり、酸化亜鉛鉱の製造プロセスにおいては、本体の炉長が概ね50m程度のものが多く用いられている。
【0057】
還元焙焼炉には、鉄鋼ダストを、コークス等の還元材と共に予めペレット化した原材料が装入されるが、コークスの燃焼によって発生する一酸化炭素の作用によって、鉄鋼ダスト中の亜鉛は亜鉛蒸気として還元揮発し、鉄鋼ダスト中の鉄は金属鉄として還元焙焼炉内に残留し、クリンカーとして排出端側から排出される。還元焙焼工程において排出される排ガスの温度は500~700℃で、ガス流量は25000~27000Nm/hである。又、排ガスの一般的な組成は、COが5体積%、Oが14体積%、COが2体積%、HOが4~5体積%である。還元焙焼炉内で揮発した亜鉛蒸気は、再酸化して酸化亜鉛へと形態を変え、粗酸化亜鉛ダストになる。還元焙焼炉の排ガスに含まれる酸化亜鉛ダストの一般的な濃度は、100~200g/Nm程度である。又、この粗酸化亜鉛ダストは、一般に8~20%程度の塩素等のハロゲン不純物を含有する。
【0058】
[粗酸化亜鉛ダスト回収工程]
粗酸化亜鉛ダスト回収工程S20は、還元焙焼工程S10を行う還元焙焼炉4から排出される亜鉛を含有する排ガスから、粗酸化亜鉛ダストを回収する工程である。
【0059】
粗酸化亜鉛ダスト回収工程S20においては、還元焙焼炉4から排出される排ガスを、集塵設備100を構成する重力沈降式集塵機1、電気集塵機2、及び、バグフィルター3を順次通過させることにより、粗酸化亜鉛ダストを回収する。
【0060】
粗酸化亜鉛ダスト回収工程S20では、還元焙焼炉4から排出された排ガスを、先ず、重力沈降式集塵機1に導入する。還元焙焼工程S10において排出された粗酸化亜鉛ダストを含む排ガスは急激に自然放冷されるが、重力沈降式集塵機1内において更に冷却水による冷却処理を行う。そして、このようにして冷却された排ガスは、後段の電気集塵機2、及び、バグフィルター3に、順次導入される。電気集塵機2からバグフィルター3への導入の過程で、電気集塵機2から排出される排ガスには活性炭が吹き込まれる。排ガス中に残存しているダイオキシン類が吸着した状態で活性炭をバグフィルター3のろ布の表面に付着させることによって、排ガス中のダイオキシン類を更に除去することができる。
【0061】
[湿式工程]
湿式工程S30は、粗酸化亜鉛ダスト回収工程S20で得た粗酸化亜鉛ダストに含有される塩素、フッ素等の水溶性不純物を処理液中に分離抽出し、更に固液分離処理によって、粗酸化亜鉛ダストから不純物を水洗浄法により除去して粗酸化亜鉛ケーキを得る工程である。
【0062】
[乾燥加熱工程]
乾燥加熱工程S40は、湿式工程S30で得た粗酸化亜鉛ケーキを焼成することにより、ハロゲン濃度を更に低減させつつ、高品位の酸化亜鉛鉱を製造する工程である。通常、上記の焼成は、乾燥加熱ロータリーキルン(DRK)を用いて行われる。乾燥加熱ロータリーキルン(DRK)とは、RRKと同様の基本構成からなる回転式の加熱炉であり、酸化亜鉛鉱の製造プロセスにおいては、本体の炉長が概ね30m程度のものが多く用いられている。
【0063】
乾燥加熱工程S40において、DRKから排出される酸化亜鉛鉱のサイズは、概ね、1mm以上6mm以下であり、その一般的な組成は、亜鉛が60質量%以上70質量%以下、鉛が3質量%以上5質量%以下、塩素が0.5質量%以上1.5質量%以下、フッ素が0.6質量%以下程度(何れも乾燥量基準)である。
【実施例
【0064】
図4に示す全体プロセスを実施可能な粗酸化亜鉛製造プラントにおいて、本発明の製造方法による粗酸化亜鉛鉱製造の試験操業を行った。各実施例及び比較例の試験操業の操業条件は以下に記す通りである。各操業において、重力沈降式集塵機の集塵室の内壁面における塊の生成の態様を観察し、合わせて、バグフィルターから排出される排ガスのダイオキシン濃度を測定した。測定観察結果については下記表1に記す通りであった。
【0065】
[実施例1]
(還元焙焼工程)
粗酸化亜鉛原料である鉄鋼ダストを、コークス等の炭素質還元剤と石灰石等と共に還元焙焼ロータリーキルン(RRK)に装入し、被処理物の最高温度が1000~1400℃となるように還元焙焼ロータリーキルンの温度を制御しながら、還元焙焼処理を行った。
【0066】
(粗酸化亜鉛ダスト回収工程)
還元焙焼工程において発生した粗酸化亜鉛ダストを、重力沈降式集塵機(前処理用の集塵機)と、その下流側に連接される電気集塵機及びバグフィルター(後処理用の集塵機)とで回収した。
【0067】
粗酸化亜鉛ダスト回収工程は、排ガスの流れに沿った長手方向の長さが16m、高さ方向の長さが4m、短手方向の長さが3mの重力沈降式集塵機を用いた。冷却水噴射部は前面壁の内壁面に1対のスプレーノズルを設置することにより構成した。これらのスプレーノズルによって、排ガス中の粗酸化亜鉛ダストの流れの後方から、排ガスの流れに向けて冷却水を噴射した。尚、両方のスプレーノズルの設置位置は、ガス導入口の下端から、100mm下方の高さ位置とした。そして、スプレーノズルの先端は、「ガス高濃度領域」から離間した位置に配置されるようにした。具体的にスプレーノズルの先端から「ガス高濃度領域」の外縁までの距離(図3に示す距離S)を10mmとした。
【0068】
又、スプレーノズルは噴射角度が20°のものを使用し、冷却水の噴射流量は、ガス排出管入口における排ガスのガス温度が280℃となる流量に調節した。このときの噴射流量は平均で25L/分となった。
【0069】
上記条件で1月間の試験操業を行い、バグフィルターから排出される排ガスのダイオキシン濃度を測定した。試験期間中に集塵室の内壁面に500mm以上の塊が生成された場合には、除去作業を行った。操業期間中に必要となった塊の除去作業の回数、及び、ダイオキシン濃度の測定結果を表1に示す。
【0070】
[実施例2]
噴射角度が35°のスプレーノズルを使用したこと以外は、実施例1と同条件で試験操業と内壁面に付着成長した塊の除去作業、及び、ダイオキシン濃度の測定を行った。操業期間中に必要となった塊の除去作業の回数、及び、ダイオキシン濃度の測定結果を表1に示す。
【0071】
[比較例]
両方のスプレーノズルの設置位置は、ガス導入口の下端から、100mm下方の高さ位置とした。そして、スプレーノズルの先端が「ガス高濃度領域」内に侵入している位置に配置されるようにした。具体的にスプレーノズルの先端から10mmの部分が「ガス高濃度領域」の内部に侵入している配置とした。その他の条件については、実施例2と同条件で試験操業と内壁面に付着成長した塊の除去作業、及び、ダイオキシン濃度の測定を行った。操業期間中に必要となった塊の除去作業の回数、及び、ダイオキシン濃度の測定結果を表1に示す。
【0072】
【表1】
【0073】
従来の実施態様を示す比較例1では、ダイオキシン濃度が0.04(ng-TEQ/Nm)となり、法規制値の10(ng-TEQ/Nm)を大きく下回ったが、粗酸化亜鉛ダストが重力沈降式集塵機内の内壁面に付着して、塊が高頻度で生成してしまった。その結果、この塊を除去するための作業が1月当り15回発生してしまった。
【0074】
一方、実施例2では、粗酸化亜鉛ダストが重力沈降式集塵機内の内壁面に付着して塊が生成してしまうものの、この塊を除去するための作業が1月当り4回にまで減少し、作業回数を大幅に低減することができた。
【0075】
更に、実施例1では、粗酸化亜鉛ダストが重力沈降式集塵機内の内壁面に付着しなくなり、上記の塊を除去するための作業自体が不要となった。
【0076】
上記結果より、本発明の重力沈降式集塵機によれば、鉄鋼ダスト等塩素を多く含有する粗酸化亜鉛を原料として用いる酸化亜鉛鉱の製造プラントにおいて、還元焙焼処理工程におけるダイオキシン類の発生を十分に抑制しながら、同工程において排出される排ガスから粗酸化亜鉛ダストを回収する処理を行う重力沈降式集塵機内への粗酸化亜鉛ダストの付着を有意に抑制して、安全性を維持したまま生産性を著しく向上させることができることが分かる。
【符号の説明】
【0077】
1 重力沈降式集塵機
11 集塵室
111 前面壁
112 背面壁
113 天面壁
114 側面壁
115 前面壁傾斜部
116 側面壁傾斜部
12 ガス導入管
121 ガス導入口
13 ガス排出管
14 冷却水噴射部
15 フローコンベア
2 電気集塵機
3 バグフィルター
100 集塵設備
S10 還元焙焼工程
S20 粗酸化亜鉛ダスト回収工程
S30 湿式工程
S40 乾燥加熱工程
図1
図2
図3
図4
図5