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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】ニッケル酸化鉱石の製錬方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/02 20060101AFI20240903BHJP
   C22B 5/10 20060101ALI20240903BHJP
   C22C 33/04 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
C22B23/02
C22B5/10
C22C33/04 H
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2021038620
(22)【出願日】2021-03-10
(65)【公開番号】P2022138633
(43)【公開日】2022-09-26
【審査請求日】2023-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】井関 隆士
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-019388(JP,A)
【文献】特開2019-035127(JP,A)
【文献】実開昭56-136297(JP,U)
【文献】実開昭62-194751(JP,U)
【文献】特開平07-120364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
F27D 3/00-5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料鉱石であるニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを含む混合物を還元することによってフェロニッケルを製造するニッケル酸化鉱石の製錬方法であって、
前記ニッケル酸化鉱石と前記炭素質還元剤とを混合する混合処理工程と、
前記混合物を還元炉内に装入し、該混合物を加熱して還元処理を施す還元工程と、
を有し、
前記還元工程では、
柄と、該柄の先端に連結された試料載置部とを有する試料用柄杓を用い、該試料載置部に前記混合物を載置させ、該柄の内部に冷却用媒体を流しながら還元処理を行う、
ニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項2】
前記冷却用媒体として不活性ガスを前記柄の内部に流す、
請求項1に記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項3】
前記還元工程では、
前記還元炉内にて、還元温度を1200℃以上1500℃以下として還元処理を施す、
請求項1又は2に記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤との混合物を還元することによりフェロニッケルを製造するニッケル酸化鉱石の製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リモナイトあるいはサプロライトと呼ばれるニッケル酸化鉱石の製錬方法として、熔錬炉を使用してニッケルマットを製造する乾式製錬方法、ロータリーキルンあるいは移動炉床炉を使用してフェロニッケルを製造する乾式製錬方法、オートクレーブを使用してミックスサルファイドを製造する湿式製錬方法等が知られている。
【0003】
ニッケル酸化鉱石を製錬する場合、まず、その原料鉱石を塊状物化、スラリー化等するための処理(還元処理に先立つ「前処理」)が行われる。具体的に、その前処理では、ニッケル酸化鉱石を塊状物化、すなわち粉や微粒の形状から塊状にするにあたり、まず、ニッケル酸化鉱石以外の成分、例えばバインダーや還元剤と混合して混合物とし、水分調整等を行った後に塊状物製造機に装入して、例えば10mm~30mm程度の塊状物(ペレット、ブリケット等を指す。以下、単に「ペレット」という)とするのが一般的である。
【0004】
ペレットは、例えば、水分を飛ばすためにある程度の通気性が必要となる。また、ペレット内で還元が均一に行われないと、組成が不均一になってメタルが分散、偏在してしまうことがある。そのため、混合物を均一混合したり、ペレット還元時に可能な限り均一な温度と保持することが重要となる。
【0005】
加えて、還元されて生成したフェロニッケルを粗大化させることも重要となる。生成したフェロニッケルが、例えば数10μm~数100μm以下程度の大きさである場合では、スラグと分離することが困難となり、フェロニッケルの収率が大きく低下してしまう。このことから、還元後に生成したフェロニッケルを有効に粗大化する技術が必要となる。
【0006】
また、近年は、ニッケル品位が高く不純物が少ない鉱石は少なくなりつつあり、高品質のフェロニッケルを製造するためには様々な鉱石を効率よく処理してデータを蓄積することが求められる。
【0007】
例えば、還元炉に少量のペレットを装入し、還元処理を行い、生成した還元物の取出しを行って、各種特性を調べたりする。しかしながら、処理温度は1000℃~1500℃前後の高温であり、ペレットの装入や取出しは容易ではない。従来、そのような操作において、比較的高温に耐えられる金属で作った還元処理専用の杓等を用いて、ペレットを炉内に装入したり、生成した還元物を取出したりしていたが、温度が高いためその杓が曲がってしまい、取出しに際して炉内壁に引っかかる等の不具合が生じて、必要以上の時間を要し、その結果正確な知見を得ることが困難となることがあった。
【0008】
以上のように、ニッケル酸化鉱石を含む混合物を還元してメタルを製造する技術には多くの問題点が残されており、特に様々な試験を精度よく、効率よく行うようにすることは重要な課題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2018-178252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、ニッケル酸化鉱石を含む混合物を還元炉内にて加熱して還元することによりフェロニッケルを製造する技術において、処理対象の混合物の還元炉への装入や還元炉からの取出しを正確にかつ効率的に行うことができ、得られるメタルの品質低下を防ぐことができる方法を提供する目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、柄と、柄の先端に連結された試料載置部とを有する試料用柄杓を用い、試料載置部に混合物試料を載置させ、その柄の内部に冷却用媒体を流しながら還元処理を行うことで、上述した課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
(1)本発明の第1の発明は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを含む混合物を還元することによってフェロニッケルを製造するニッケル酸化鉱石の製錬方法であって、前記ニッケル酸化鉱石と前記炭素質還元剤とを混合する混合処理工程と、前記混合物を還元炉内に装入し、該混合物を加熱して還元処理を施す還元工程と、を有し、前記還元工程では、柄と、該柄の先端に連結された試料載置部とを有する試料用柄杓を用い、該試料載置部に前記混合物を載置させ、該柄の内部に冷却用媒体を流しながら還元処理を行う、ニッケル酸化鉱石の製錬方法である。
【0013】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記冷却用媒体として不活性ガスを前記柄の内部に流す、ニッケル酸化鉱石の製錬方法である。
【0014】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記還元工程では、前記還元炉内にて、還元温度を1200℃以上1500℃以下として還元処理を施す、ニッケル酸化鉱石の製錬方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ニッケル酸化鉱石を含む混合物を還元炉内にて加熱して還元することによりフェロニッケルを製造する技術において、処理対象の混合物の還元炉への装入や還元炉からの取出しを正確にかつ効率的に行うことができ、得られるメタルの品質低下を防ぐことができる方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ニッケル酸化鉱石の製錬方法の流れの一例を示す工程図である。
図2】還元炉の構成の一例を示す図である。
図3】試料用柄杓の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0018】
≪1.ニッケル酸化鉱石の製錬方法≫
本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の製錬方法は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石を炭素質還元剤と混合し、その混合物に対して製錬炉(還元炉)内で還元処理を施すことによって、フェロニッケルのメタルとスラグとを生成させるものである。
【0019】
具体的に、ニッケル酸化鉱石の製錬方法では、少なくとも、ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合する混合処理工程と、得られた混合物を還元炉内に装入しその混合物を加熱して還元処理を施す還元工程と、を有する。
【0020】
このとき、本実施の形態に係る製錬方法では、還元工程において、柄と、その柄の先端に連結された試料載置部とを有する試料用柄杓を用い、試料載置部に混合物を載置させて混合物の還元炉への装入や、還元炉からの取出しを行うようにするとともに、その柄の内部に冷却用媒体を流しながら還元処理を行うことを特徴としている。
【0021】
このように試料用柄杓を用いて還元処理を施すようにすることで、特に、還元処理により生成する還元物を還元炉から取出す際に、炉内壁に引っ掛かる等の不具合を防いで、スムースな操作で取出しを行うことができる。そしてこれにより、その還元物であるフェロニッケルメタルの品質低下を抑えながら、効率的な操作によってフェロニッケルを製造することができる。
【0022】
≪2.製錬方法のプロセスについて≫
上述したように、ニッケル酸化鉱石の製錬方法は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤との混合物に対して、還元炉にてその混合物を加熱してニッケル(酸化ニッケル)と鉄(酸化鉄)を還元することで、鉄-ニッケル合金(フェロニッケル)のメタルを生成させるものである。なお、還元処理により得られた還元物からメタルを分離(スラグからメタルを分離)することで、フェロニッケルを得ることができる。
【0023】
具体的に、本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の製錬方法は、図1に示すように、ニッケル酸化鉱石を含む原料と炭素質還元剤とを混合する混合処理工程S1と、得られた混合物を所定の形状に成形する混合物成形工程S2と、成形された混合物を還元炉にて所定の還元温度で還元加熱する還元工程S3と、還元工程S3にて生成したメタルとスラグとを分離してメタルを回収する回収工程S4と、を有する。
【0024】
[混合処理工程]
混合処理工程S1は、ニッケル酸化鉱石を含む原料粉末を混合して混合物を得る工程である。具体的には、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合し、また任意成分の添加剤として、鉄鉱石、フラックス成分、バインダー等の、例えば粒径が0.2mm~0.8mm程度の粉末を混合して混合物を得る。なお、混合処理は、混合機等を用いて行うことができる。
【0025】
混合処理工程S1では、混合性を高めるために混練を行ってよい。例えば、二軸混練機等により混合物を混練することにより混合物にせん断力を加えることで、炭素質還元剤や原料粉末等の凝集を解いて、より均一に混合できる。また、各々の粒子の密着性を高めることができ、得られる混合物に対して均一な還元処理が行い易くなる。
【0026】
原料鉱石であるニッケル酸化鉱石としては、特に限定されず、リモナイト鉱、サプロライト鉱等を用いることができる。なお、ニッケル酸化鉱石は、構成成分として、酸化ニッケル(NiO)と酸化鉄(Fe)とを含有する。
【0027】
上述したように、混合処理工程S1では、ニッケル酸化鉱石に対して特定量の炭素質還元剤を添加して混合し混合物とする。炭素質還元剤としては、特に限定されないが、例えば、石炭粉、コークス粉等が挙げられる。なお、炭素質還元剤としては、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石と同等の粒度を有するものであることが好ましい。炭素質還元剤とニッケル酸化鉱石の粒度が同等であると、均一に混合し易くなり、その結果還元反応も均一に生じさせることができ好ましい。
【0028】
炭素質還元剤の混合量は、特に限定されないが、ニッケル酸化鉱石を構成する酸化ニッケルと酸化鉄とを過不足なく還元するのに必要な炭素質還元剤の量を100%としたとき、50.0%以下の割合とすることが好ましく、40.0%以下とすることがより好ましい。ここで、酸化ニッケルと酸化鉄とを過不足なく還元するのに必要な炭素質還元剤の量とは、酸化ニッケルの全量をニッケルメタルに還元するのに必要な化学当量と、酸化鉄を鉄メタルに還元するのに必要な化学当量との合計値(以下、「化学当量の合計値」ともいう)と言い換えることができる。このように、炭素質還元剤の混合量を、化学当量の合計値を100%としたときに50.0%以下の割合とすることで、還元反応を効率的に進行させることができる。なお、炭素質還元剤の混合量の下限値としては、特に限定されないが、化学当量の合計値を100%としたときに、10.0%以上の割合とすることが好ましく、15.0%以上の割合とすることがより好ましい。
【0029】
ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤のほか、任意成分として添加する鉄鉱石としては、特に限定されないが、例えば鉄品位が50%程度以上の鉄鉱石、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬により得られるヘマタイト等を用いることができる。また、バインダーとしては、例えば、ベントナイト、多糖類、樹脂、水ガラス、脱水ケーキ等を挙げることができる。また、フラックス成分としては、例えば、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、二酸化珪素等を挙げることができる。
【0030】
下記表1に、混合処理工程S1にて混合する、一部の原料粉末の組成(重量%)の一例を示す。なお、原料粉末の組成としてはこれに限定されない。
【0031】
【表1】
【0032】
[混合物成形工程]
混合物成形工程S2は、混合処理工程S1で得られた混合物を成形する工程である。具体的には、原料粉末を混合して得られた混合物を、ある程度の大きさ以上の塊に成形し、次の還元工程S3での還元処理に際して、還元炉内に混合物を例えば積層して投入できるようにする。
【0033】
混合物を成形することで得られる塊状化物(ペレットとも称する)の形状としては、直方体状、円柱状、球状等とすることができる。このような形状であれば、混合物を成形し易く、成形にかかるコストを抑えることができる。また、これらの形状は、複雑なものではないため、不良品が出ることがほとんどなく成形における収率は極めて高い。また、直方体状、円柱状、球状の形状であれば、還元炉内で積層し易くなり、還元時に処理する量を多くすることが可能となる。そして、一つのペレットの形状を巨大化しなくても、還元時の処理量を増やすことができ、取り扱いも容易であり、また還元炉への装入時等に崩れ落ちたりすることがなく不良等が発生しづらい。
【0034】
成形(塊状化)した混合物のペレットの体積は、特に限定されず、例えば8000mm以上とすることができる。ペレットの体積が小さすぎると成形コストが高くなり、また還元炉に装入するのに手間がかかる可能性がある。さらに、ペレットの体積が小さい場合には、ペレット全体に占める表面積の割合が高くなるため、表面と内部とで還元の差の現れやすくなり、フェロニッケルの品質に影響を及ぼす可能性がある。混合物のペレットの体積を8000mm以上とすることで、成形コストを抑えることができ、取り扱いも容易なり好ましい。さらに、高い品質のフェルニッケルを製造することができる。
【0035】
混合物を成形した後には、乾燥処理を施すようにしてもよい。混合物中の水分により、還元処理における急激な昇温によって混合物中の水分が一気に気化、膨張して、混合物が粉々になってしまうこともある。そのため、混合物成形工程の後に乾燥工程を設け、混合物を乾燥するようにしてもよい。例えば、乾燥工程では、混合物の固形分が70重量%程度で、水分が30重量%程度となるように乾燥処理を施すことができる。
【0036】
混合物に対する乾燥処理の方法は、特に限定されず、例えば150℃~400℃の熱風を塊状物に対して吹き付けて乾燥させることができる。なお、比較的大きな塊状の混合物である場合、乾燥前や乾燥後の混合物にひびや割れが入っていてもよい。塊が大きい場合は、割れ等によって表面積が大きくなってもその影響は僅かである。
【0037】
下記表2に、混合物(乾燥処理後)における固形分中組成(重量部)の一例を示す。なお、混合物の組成としては、これに限定されるものではない。
【0038】
【表2】
【0039】
[還元工程]
還元工程S3では、混合物成形工程S2で得られた混合物(成形物)を、還元炉内において所定の還元温度に還元加熱する。このような還元処理により、ニッケル酸化鉱石を含む混合物に対する製錬反応(還元反応)が進行して、メタルとスラグとが生成する。
【0040】
還元処理の温度(還元温度)としては、1200℃以上1500℃以下とすることが好ましく、1250℃以上1450℃以下とすることがより好ましい。このような範囲の還元温度とすることで、効率的にかつ確実に還元反応を進行させて、所望とする特性のフェロニッケルを得ることができる。
【0041】
なお、還元処理においては、混合物中のスラグは半熔融して液相と固相が混在した状態となるが、既に分離して生成したメタルとスラグとは混ざり合うことがなく、その後の冷却によってメタル固相とスラグ固相との別相として混在する混合物となる。この混合物の体積は、装入する混合物と比較すると50%~60%程度の体積に収縮している。
【0042】
さて、本実施の形態では、還元工程S3において、柄と、その柄の先端に連結された試料載置部とを有する試料用柄杓を用い、試料載置部に混合物を載置させて、柄の内部に冷却用媒体を流しながら還元処理を行うことを特徴としている。
【0043】
まず、還元工程S3での還元処理に用いる還元炉の構成について説明する。図2は、還元炉の構成の一例を示す模式図である。
【0044】
図2に示すように、還元炉1は、炉本体11が箱型形状(直方体形状)を有する箱型炉とすることができる。また、還元炉1は、特に限定されないが、所定の位置にバーナー12が備えられ、バーナーによる加熱によって還元処理を実行するバーナー炉とすることができる。還元炉1の加熱方式としてバーナー加熱(バーナー炉)を採用することで、優れた燃焼性により炉内を加熱することができ、好ましい。なお、バーナーの燃料は、特に限定されず、LPG等の気体燃料、重油等の液体燃料、石炭やコークス等の固体燃料のいずれであってもよいが、その中でもより燃焼性に優れている点でLPGが好ましい。
【0045】
また、還元炉1は、箱型の炉本体11の内部であって、その箱型の所定の面(炉本体11の内面)に接して配置される試料台13を備える。試料台13は、還元処理対象である混合物を載置するための台である。試料台13の上面には、炭素質還元剤等の還元剤を敷いておいてもよい。
【0046】
また、還元炉1は、例えばその上部面(天井面)に、炉内のガスを排気する排気口14を備える。
【0047】
また、還元炉1の所定の側面には、試料である混合物を還元炉内に装入し、また還元処理により得られる還元物を還元炉から取り出すための試料装入取出口15が設けられている。試料装入取出口15は、その高さ位置が、炉本体11の内部にある試料台13の載置面の高さにほぼ相当する。したがって、試料装入取出口15から混合物を装入したときに、試料台13の載置面に適切に載置することができる。また、還元物を取り出す際にも、試料台13と同等の高さに設けられた試料装入取出口15から簡易に還元物を取り出すことができる。
【0048】
なお、図示しないが、試料装入取出口15には、開閉扉が設けられており、混合物の装入や還元物の取り出しのときには開閉扉を開け、還元処理のときには開閉扉を閉めるといった操作を行うことができるようになっている。これにより、還元処理に際して還元炉1内を密閉空間とすることができる。
【0049】
次に、試料用柄杓について説明する。上述したように、本実施の形態においては、試料用柄杓を用い、還元炉1内への混合物の装入や、還元炉1からの還元物の取出しは、その試料用柄杓を用いて行う。また、試料用柄杓の試料載置部に混合物を載置させ、柄の内部に冷却用媒体を流しながら還元処理を行う。
【0050】
図3は、試料用柄杓の構成の一例を示す図である。図3に示すように、試料用柄杓2は、柄21と、柄21の先端に連結された試料載置部22と、を有している。
【0051】
試料用柄杓2において、柄21は、作業者がその手あるいは機械により把持する部分であり、棒状体により構成されている。試料載置部22は、柄21の先端に連結されており、その上面(載置面22a)に試料、すなわち還元処理対象の混合物を載置させる部分である。なお、図3では、試料載置部22として直方体状のもので構成されている例を示しているが、これに限られず、例えば試料である混合物の載置面が凹部を構成し、四方に壁面が立設され、上面が開口した容器のようなもので構成されていてもよい。
【0052】
試料用柄杓2において、柄21の内部は空洞となっており、その内部に冷却用媒体が流通される。このように、内部に冷却用媒体が流通するように柄21を構成することで、柄21を効果的に冷却することができ、還元炉1内での高温の熱による変形等を防ぐことができる。
【0053】
具体的に、試料用柄杓2においては、柄21の端部(冷却用媒体供給口21a)に、例えば冷却用媒体の供給ホースが接続され、図3中の矢印Xで示すように、柄21の内部に冷却用媒体が流入する。流入した冷却用媒体は、柄21の内部を試料載置部22が連結されている方向に向かって流通し、その後、試料載置部22との連結箇所の手間に設けられた冷却用媒体排出口21bから排出(図3中の矢印Y)されるようになっている。
【0054】
ここで、冷却用媒体としては、特に限定されず、水等の液体、空気や不活性ガス等の気体等、様々な媒体を用いることができる。ただし、その冷却用媒体を試料用柄杓2の外部に排出する場合に、還元雰囲気である還元炉1内に水分や酸素を含むガス等の媒体が放出されることは好ましくない。この点から、冷却用媒体としては、窒素ガスやアルゴンガス等の不活性ガスを用いることが特に好ましい。
【0055】
なお、試料用柄杓2の柄21を、断面が2重となる2重管等の構造にし、流通させた冷却用媒体が還元炉1内に排出されずに還元炉1外に排出されるような構造とする場合には、冷却用媒体として水等の液体や酸素を含むガス等を用いてもよい。
【0056】
還元処理における操作についてより具体的に説明すると、まず、試料用柄杓2の試料載置部22に試料である混合物を載置し、その状態で、作業者の手あるいは機械により柄21を把持し、還元炉1の試料装入取出口15を開口して、試料用柄杓2の柄21を押し込むようにして、試料載置部22の部分を還元炉1の内部の方向に装入する。そして、還元炉1内に入れた試料用柄杓2を試料台13の中央部付近まで移動させた後、試料用柄杓2それ自体を試料台13上に置いて、その状態のまま(試料用柄杓2に混合物を載置させた状態のまま)、還元処理を開始する。すなわち、還元処理に際して、試料用柄杓2を還元炉1内に残したまま加熱を開始する。
【0057】
還元処理においては、試料用柄杓2の柄21の内部に冷却用媒体を流通させながら行う。これにより、還元炉1内に試料用柄杓2を載置させたまま、例えば1200℃~1500℃程度の高温に加熱して還元処理を行っても、柄21が熱変形する等の不具合の発生を効果的に防ぐことができる。
【0058】
なお、試料用柄杓2の試料載置部22には、灰や炭素質還元剤等を敷いておいてもよい。これにより、試料載置部22の載置面での混合物の融着を防ぐことができる。
【0059】
還元炉1内での還元処理の終了後、還元処理により得られた還元物を、試料装入取出口15から取り出す。上述したように、本実施の形態においては、試料用柄杓2を用い、その試料載置部22に混合物を載置させ、柄21の内部に冷却用媒体を流しながら還元処理を行うようにしていることから、高温の還元温度による柄21の熱変形を効果的に防止できる。これにより、試料用柄杓2を取出すことによって還元物を還元炉1から取出すに際しても、炉内壁に引っ掛かって取出せなくなるといった作業上の不具合を防ぐことができ、短時間の作業で取出すことが可能となる。そして、このように作業性が向上して作業時間も短縮できることにより、生成した還元物の品質低下も効果的に抑えることができる。
【0060】
以上のような還元工程S3での還元処理を行うことで、精度よく確実に、かつ効率的にフェロニッケルを製造することができる。
【0061】
[回収工程]
回収工程S4では、還元工程S3にて生成したメタルとスラグとを分離してメタルを回収する。具体的には、容器に充填させた状態の混合物に対する還元加熱処理によって得られた、メタル相(メタル固相)とスラグ相(スラグ固相)とを含む混合物(混在物)からメタル相を分離して回収する。
【0062】
固体として得られたメタル相とスラグ相との混在物からメタル相とスラグ相とを分離する方法としては、例えば、篩い分けによる不要物の除去に加えて、比重による分離や、磁力による分離等の方法を利用することができる。
【0063】
また、得られたメタル相とスラグ相は、濡れ性が悪いことから容易に分離することができ、上述した還元工程S3における処理で得られた、大きな混在物に対して、例えば、所定の落差を設けて落下させる、あるいは篩い分けの際に所定の振動を与える等の衝撃を与えることで、その混在物からメタル相とスラグ相とを容易に分離することができる。
【0064】
このようにしてメタル相とスラグ相とを分離することによってメタル相、すなわちフェロニッケルを回収する。
【実施例
【0065】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0066】
[実施例、比較例]
以下に示すような条件で、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤との混合物を還元してフェロニッケルを製造するニッケル酸化鉱石の製錬方法を実行した。
【0067】
(混合処理工程)
原料鉱石としてのニッケル酸化鉱石と、鉄鉱石と、フラックス成分である珪砂及び石灰石、バインダー、及び炭素質還元剤(石炭粉、炭素含有量:79重量%、平均粒径:約82μm)を、適量の水を添加しながら混合機を用いて混合して混合物を得た。炭素質還元剤は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に含まれる酸化ニッケルと酸化鉄(Fe)とを過不足なく還元するのに必要な量を100%としたときに36.0%の割合となる量で含有させた。
【0068】
(混合物成形工程)
次に、得られた混合物を、パン型造粒機を用いて造粒し、φ15.0±0.5mmの大きさに篩った。その後、試料については、還元前に、固形分が70重量%程度、水分が30重量%程度となるように170℃~250℃の熱風を吹き付けることで乾燥処理を施した。下記表3に、乾燥処理後の試料の固形分組成(炭素を除く)を示す。
【0069】
【表3】
【0070】
(還元工程)
次に、篩った試料(混合物試料)を12個に分け(実施例1~9、比較例1~3)、還元炉(バーナー炉)を用いて加熱して還元処理を施した。
【0071】
このとき、実施例では、還元炉として、図2に模式図を示したような箱型のバーナー炉を用いた。なお、還元炉のバーナー燃料には微粉炭、LPG、重油、及びコークスを用いた。また、図3に模式図を示したような、柄と、柄の先端部に試料載置部とを備える試料用柄杓を用い、試料載置部に混合物試料を載置させ、その柄の内部に冷却用媒体として窒素ガスを流しながら還元処理を行った。なお、試料載置部の上面に灰(主成分はSiO、その他の成分としてAl、MgO等の酸化物を少量含有する)を敷き詰め、その上に混合物試料を載置するようにした。
【0072】
混合物の還元炉への装入に際しては、還元炉の試料装入取出口の蓋を開口させ、混合物試料を載置させた試料用柄杓を還元炉内の試料台に置いた。そして、試料台上に試料用柄杓に載置させたままの状態で、試料装入取出口の蓋を閉めて還元炉内を密閉空間とし、バーナーによる加熱を開始し、還元処理を行った。所定の還元時間の終了後、混合物(還元物)を載せた試料用柄杓を還元炉から取出した。
【0073】
取出した還元物を冷却させた後、下記に示すニッケルメタル化率、メタル中ニッケル含有率を測定した。
【0074】
一方、比較例では、実施例と同様の試料用柄杓を用いたが、柄には冷却用媒体を流通させずに、還元処理を行った。
【0075】
[評価]
各試料を冷却した後、下記式により定義される、ニッケルメタル化率、メタル中ニッケル含有率について、ICP発光分光分析器(SHIMAZU S-8100)により分析して算出した。
ニッケルメタル率=混合物中のメタル化したNiの量÷(混合物中の全てNiの量)×100(%) ・・・[1]式
メタル中ニッケル含有率=混合物中のメタル化したNiの量÷(混合物中のメタルしたNiとFeの合計量)×100(%) ・・・[2]式
【0076】
また、還元炉からの還元物の取出し作業についても評価を行った。すなわち、取出し作業を問題なく行うことができた場合を『○』とし、試料用柄杓が変形して炉内壁に引っ掛かる等して30秒以上の時間を要した場合を『△』、試料用柄杓が変形して炉内壁に引っ掛かる等して取出すことができなかった場合を『×』、として、評価した。
【0077】
下記表4に、還元処理の条件と、ニッケルメタル率、メタル中ニッケル含有率の算出結果をそれぞれ示す。
【0078】
【表4】
【0079】
表4に示されるように、実施例1~11では、ニッケルメタル化率、メタル含有率が共に良好な結果となった。これは、試料用柄杓の柄の内部に冷却用媒体を流しながら還元処理を行ったことにより、柄の熱変形を効果的に防ぐことができ、特に還元物の取出し作業をスムースに行うことができたことによると考えられる。
【0080】
一方で、試料用柄杓の柄の内部に冷却用媒体を流さずに還元処理を行った比較例1では、試料用柄杓の柄が熱により変形が生じ、還元物の取出しに際して炉内壁に引っ掛かるといった不具合が生じて、作業時間を要してしまった。また、比較例2、3では、柄の変形がひどく、生成した還元物を取出すことができなかった。
【符号の説明】
【0081】
1 還元炉
11 炉本体
12 バーナー
13 試料台
14 排気口
15 試料装入取出口
2 試料用柄杓
21 柄
22 試料載置部
図1
図2
図3