(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】単結晶引上げ装置および単結晶引上げ方法
(51)【国際特許分類】
C30B 15/20 20060101AFI20240903BHJP
C30B 29/06 20060101ALI20240903BHJP
C30B 15/00 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
C30B15/20
C30B29/06 502G
C30B15/00 Z
(21)【出願番号】P 2021041331
(22)【出願日】2021-03-15
【審査請求日】2023-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】高野 清隆
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 洋之
【審査官】山本 一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-051475(JP,A)
【文献】特開平08-333190(JP,A)
【文献】特開2001-302392(JP,A)
【文献】特開2020-183334(JP,A)
【文献】国際公開第2007/007456(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 15/20
C30B 29/06
C30B 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱ヒーター及び溶融した半導体原料が収容される坩堝が配置され中心軸を有する引上げ炉と、該引上げ炉の周囲に設けられ、超電導コイルを有する磁場発生装置とを備え、前記超電導コイルへの通電により前記溶融した半導体原料に水平磁場を印加して、前記溶融した半導体原料の前記坩堝内での対流を抑制する単結晶引上げ装置であって、
前記磁場発生装置の前記超電導コイルは、前記引上げ炉の外形に沿って湾曲した鞍型形状で
縦幅が横幅よりも短いものであり、前記引上げ炉の周囲に、対向配置された前記鞍型形状の超電導コイルの対が2組設けられており、
該対向配置された対の超電導コイルの中心同士を通る軸をコイル軸としたときに、
前記2組の超電導コイルの対における2本の前記コイル軸は同じ水平面内に含まれており、
該水平面内において前記引上げ炉の中心軸における磁力線方向をX軸とし、前記水平面内において前記X軸と垂直な方向をY軸としたときに、前記2本のコイル軸間の前記X軸を挟む中心角度αが90度以下であるとともに、隣り合う前記超電導コイル同士間の前記Y軸を挟むコイル間角度βが20度以下であることを特徴とする単結晶引上げ装置。
【請求項2】
前記磁場発生装置は、鉛直方向に上下移動可能な昇降装置を具備するものであることを特徴とする請求項1に記載の単結晶引上げ装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の単結晶引上げ装置を用いて、半導体単結晶を引上げることを特徴とする単結晶引上げ方法。
【請求項4】
前記半導体単結晶を引上げる際に、該半導体単結晶中に含まれる酸素濃度の狙い値に応じて、前記磁場発生装置の高さ位置を調整することを特徴とする
請求項3に記載の単結晶引上げ方法。
【請求項5】
前記半導体単結晶を引き上げる際に、該半導体単結晶の狙いの欠陥領域に応じて、磁場強度を調整することを特徴とする
請求項3または請求項4に記載の単結晶引上げ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶引上げ装置、及びこれを用いた単結晶引上げ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコンやガリウム砒素などの半導体は単結晶で構成され、小型から大型までのコンピュータのメモリ等に利用されており、記憶装置の大容量化、低コスト化、高品質化が要求されている。
従来、これら半導体の要求を満たす単結晶を製造するための単結晶引上げ方法の1つとして、坩堝内に収容されている溶融状態の半導体原料に磁場を印加させ、これにより、溶融液に発生する熱対流を抑制して、大口径かつ高品質の半導体を製造する方法(一般に磁場印加チョクラルスキー(MCZ)法と称している)が知られている。
【0003】
図8により従来のCZ法による単結晶引上げ装置の一例を説明する。
この単結晶引上げ装置100は、上面が開口した引上げ炉101を備え、この引上げ炉101内に坩堝102を内蔵した構成となっている。そして、引上げ炉101の内側には坩堝102内の半導体原料106を加熱溶融するためのヒーター103が坩堝102の周囲に設けられ、引上げ炉101の外側には、1対(2個)の超電導コイル104(104a、104b)を円筒型容器としての冷媒容器(以下、円筒型冷媒容器とも称する)105に内蔵した超電導磁石130が配置されている。
【0004】
単結晶の製造に際しては、坩堝102内に半導体原料106を入れてヒーター103により加熱し、半導体原料106を溶融させる。この溶融液中に図示しない種結晶を例えば坩堝102の中央部上方から下降して接触し、図示しない引上げ機構により種結晶を所定の速度で引上げ方向108の方向に引上げていく。これにより、固体・液体境界層に結晶が成長し、単結晶が生成される。この際、ヒーター103の加熱によって誘起される溶融液の流体運動、即ち熱対流が生じると、引上げられる単結晶が有転位化しやすくなり単結晶生成の歩留りが低下する。
【0005】
そこで、この対策として、超電導磁石130の超電導コイル104を使用する。即ち、溶融液の半導体原料106は、超電導コイル104への通電によって発生する磁力線107により動作抑止力を受け、坩堝102内で対流することなく、種結晶の引上げに伴ってゆっくりと上方に向って引上げられ、固体の単結晶109として製造されるようになる。なお、引上げ炉101の上方には、図示しないが、単結晶109を坩堝中心線(引上げ炉101の中心軸110)に沿って引上げるための引上げ機構が設けられている。
【0006】
次に、
図9により、
図8に示した単結晶引上げ装置100に使用される超電導磁石130の一例について説明する。
この超電導磁石130は、円筒型真空容器119に超電導コイル104(104a、104b)を円筒型の冷媒容器を介して収納した構成とされている。この超電導磁石130においては、円筒型真空容器119内の中心部を介して互いに向き合う1対の超電導コイル104a、104bが収納されている。これら1対の超電導コイル104a、104bは横向きの同一方向に沿う磁場を発生しているヘルムホルツ型磁場コイルであり、
図8に示すように、引上げ炉101及び円筒型真空容器119の中心軸110に対して左右対称の磁力線107を発生している(この中心軸110の位置を磁場中心と称している)。
【0007】
なお、この超電導磁石130は、
図8、9に示すように2つの超電導コイル104a、104bに電流を導入する電流リード111、円筒型真空容器119の内部に納められた第1の輻射シールド117および第2の輻射シールド118を冷却するための小型ヘリウム冷凍機112、円筒型冷媒容器105内のヘリウムガスを放出するガス放出管113および液体ヘリウムを補給する補給口を有するサービスポート114等を備えている。このような超電導磁石130のボア115内(ボアの内径はDで表される)に、
図8に示した引上げ炉101が配設される。
【0008】
図10は、上述した従来の超電導磁石130の磁場分布を示している。
この
図10に示すように、従来の超電導磁石130においては、互いに向き合った1対の超電導コイル104a、104bが配置されていることから、各コイル配置方向(
図10のX方向)では両側に向って磁場が次第に大きくなり、これと直交する方向(
図10のY方向)では上下方向に向って次第に磁場が小さくなる。このような従来の構成では
図9、10に示すようにボア115内の範囲の磁場勾配が大きすぎるため、溶融液に発生する熱対流抑制が不均衡になっており、かつ磁場効率が悪い。即ち、
図10に斜線で示したように、磁場中心近傍付近の領域では、磁場均一性がよくない(すなわち、
図10において、上下、左右に細長いクロス状になっている)ため、熱対流の抑制精度が悪く、高品質の単結晶を引上げることができないという問題点があった。
【0009】
上記の問題点を解決するための技術が特許文献1に開示されている。特許文献1に開示された技術を、
図11A、11Bを参照して説明する。
超電導磁石の別の一例を示したものであり、
図11Aは斜視図であり、
図11Bは、
図11AのA-A横断面を示している。特許文献1には、上記の問題点を解決するため、
図11A、
図11Bに示すように、超電導コイル104の数を4以上(例えば、104a、104b、104c、104dの4つ)とし、各超電導コイル104の中心を引上げ炉の周囲に同軸的に設けた円筒型真空容器119内の平面上に配置するとともに、その配置された各超電導コイル104を円筒型真空容器119の軸心を介して対向する向きに設定し、かつ超電導コイルの相互に隣接する1対ずつのもの同士が円筒型真空容器119の内側に向く配設角度θ(
図11B参照)を100゜~130゜の範囲(すなわち、X軸を挟んで隣接するコイル軸間の中心角度α(
図11B参照)は50°~80°)に設定することが開示されている。
【0010】
これによって、ボア115内部に磁場勾配の小さい均一性のよい横磁場を発生することができ、また、平面上に同心円状又は正方形状の磁場分布を発生することができ、不均衡電磁力を大幅に抑制することができるとされている。また、その結果、引上げ方向の均一磁場領域が向上するとともに、横磁場方向の磁場がほぼ水平になり、不均衡電磁力の抑制により、高品質の単結晶の製造が実現でき、さらに、この単結晶引上げ方法によれば、高品質の単結晶体を歩留りよく引上げることができることも開示されている。なお、
図11B中の符号dは超電導コイルの直径(内径)、符号lは1対のコイル間の距離である。
この方法によれば、溶融した半導体原料にかかる磁場分布は均一化され、不均衡電磁力が抑制されるため、2コイルを使用した従来技術に比べて、より低い磁束密度でも熱対流が抑制されるようになった。
【0011】
しかしながら、このように均一な磁場分布であっても、磁力線がX軸方向に向かう横磁場においては、X軸と平行な断面内とY軸に平行な断面内では熱対流に違いがあることが、3次元の融液対流を含む総合伝熱解析により明らかとなった(特許文献2参照)。
磁場中で導電性流体が運動する場合、磁力線ならびに磁力線に垂直な速度成分と直交する方向に誘起電流が生ずるが、電気的に絶縁性を有する石英坩堝を用いた場合は、坩堝壁と溶融した半導体原料の自由表面が絶縁壁となるため、これらに直交する方向の誘起電流は流れなくなる。このため、溶融した半導体原料の上部においては電磁力による対流抑制力が弱くなっており、また、X軸に平行な断面(磁力線に対して平行な断面)とX軸に垂直な断面(磁力線に対して垂直な断面)を比べると、X軸と垂直な断面内(磁力線と垂直な断面内)の方が、対流が強くなっている。
【0012】
このように前記4コイルにより均一な磁場分布としたものでは、多少、対流の速度差が小さくなっているが、それでも周方向で不均一な流速分布となっている。特に、磁力線に垂直な断面内に坩堝壁から成長界面をつなぐ流れ場が残存することで、石英坩堝から溶出する酸素が結晶に到達するため、磁場印加による酸素濃度低下効果には限界があり、最近要求が多くなっているパワーデバイスやイメージセンサー用半導体結晶のように、極低濃度の酸素濃度要求に応えることが難しい。また、周方向で不均一な流れ場が存在することは、結晶を回転させながら引上げる結晶においては成長縞の原因となり、成長方向に平行な断面内を評価すると、結晶回転周期の抵抗率・酸素濃度変動が観察されるため、成長方向に垂直にスライスしたウェーハ面内ではリング状の分布となってしまう。
【0013】
特許文献2では、この問題を解決するため、
図12A、12Bに示すような単結晶引上げ装置が開示されている。
図12Aは装置の概略図であり、
図12Bは超電導磁石の一例を示す横断面を示している。
超電導コイル104の対(104aと104c、104bと104d)の中心同士を通る2本のコイル軸121を含む水平面120内において、引上げ炉の中心軸110における磁力線107の方向をX軸としたときにX軸上の磁束密度分布が上に凸の分布であり、前記水平面120内の前記中心軸110における磁束密度を磁束密度設定値とした場合、X軸上の磁束密度は坩堝壁では磁束密度設定値の80%以下となると同時に、水平面120内においてX軸と直交し中心軸110を通るY軸上の磁束密度分布が下に凸の分布であり、Y軸上の磁束密度は坩堝壁では磁束密度設定値の140%以上となるように、磁場分布を発生させるものであり、磁場発生装置において、それぞれ対向配置された超電導コイル104の対(104aと104c、104bと104d)をそれぞれのコイル軸121が同じ水平面120内に含まれるように2対設けるとともに、2本のコイル軸121間のX軸を挟む中心角度αを100度以上120度以下とした。
【0014】
これにより、特許文献2に開示された技術では、以下の効果を得ることができる。すなわち、電磁力による対流抑制力が不十分だったX軸と垂直な断面内においても、溶融した半導体原料の流速を低減できるとともに、溶融した半導体原料のX軸に平行な断面における流速と、溶融した半導体原料のX軸に垂直な断面における流速とをバランスさせることができる。
また、X軸と垂直な断面内においても、溶融した半導体原料の流速を低減することによって、坩堝壁から溶出した酸素が単結晶に到達するまでの時間が長くなり、溶融した半導体原料の自由表面からの酸素蒸発量が増加することで、単結晶に取り込まれる酸素濃度を大幅に低減させることができる単結晶引上げ装置とすることができる。また、溶融した半導体原料のX軸に平行な断面における流速と、溶融した半導体原料のX軸に垂直な断面における流速とをバランスさせることによって、育成する単結晶中の成長縞を抑制することができる単結晶引上げ装置とすることができるとした。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【文献】特開2004-51475号公報
【文献】特開2017-57127号公報
【文献】特開平10-291892号公報
【文献】特開2003-63891号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、本発明者らが各種コイル配置での磁場分布を解析した結果、特許文献2と同様の効果をもたらす磁場分布は、特許文献2に記載のコイル配置以外でも実現可能であることが明らかとなった。
【0017】
また、前記コイル配置で磁場効率を上げるには、コイル直径を極力大きくする必要があるが、その分、コイルを含む容器の高さも必要となる。円筒容器の磁石装置(磁場発生装置や、超電導磁石とも言う)の場合、結晶引上げが終わった段階で、解体・セットが必要になるが、その際に磁石装置を下降・上昇させる必要があることから、磁石装置は昇降装置の上に設置する必要がある。
【0018】
また、特許文献2に記載のマグネットでは当該特許文献2の比較例として載っている特許文献1のコイル配置に比べて磁場発生効率が低下するために中心の磁束密度が小さくなるという課題もあった。CZ法で無欠陥領域結晶を引上げるには、結晶成長界面(以下、単に成長界面とも言う)全体で鉛直方向の温度勾配が同程度である必要があるが、結晶外周部が冷えやすいCZ結晶においては、上凸形状の成長界面が必要となる。しかし、中心の磁束密度が小さいと、回転する結晶直下の温度境界層が厚くなるためメルトからの熱流入が減少し、成長界面が上凸化しにくくなるという問題があった。
【0019】
磁石と溶融原料の位置関係については、特許文献3にも記載されているように、横磁場の磁場中心高さを溶融原料の融液面近くまで上げると結晶中の酸素濃度は低下し、融液の深い位置に下げると酸素濃度が高くなることが知られている。この磁石装置の上限位置は、昇降装置のストロークと、引上げ炉側との干渉により決まってくるが、一般に、引上げ炉のチャンバーは昇降・旋回を可能とするために、磁石装置の外側にある油圧シリンダーとアームで接続されている。
図13に引上げ炉の昇降装置122および超電導磁石の昇降装置123の一例を示す。このため、これが磁石装置の上限位置を決めることになる。磁石装置の全高が大きくなればなるほど、コイルの高さ方向の中間である磁場中心位置を上に上げることができなくなるため、低酸素濃度の結晶を得るには不利となる。
【0020】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、磁場発生効率を高めることでコイル高さを減らすことが可能であり、半導体原料の融液面近くまで磁場中心を上げることができ、従来よりもさらに酸素濃度の低い単結晶を得ることができるとともに、従来よりも高い磁束密度で励磁可能とすることで成長界面を上凸化し、より高速で無欠陥結晶を引上げることも可能な単結晶引上げ装置、及び単結晶引上げ方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記目的を達成するために、本発明は、加熱ヒーター及び溶融した半導体原料が収容される坩堝が配置され中心軸を有する引上げ炉と、該引上げ炉の周囲に設けられ、超電導コイルを有する磁場発生装置とを備え、前記超電導コイルへの通電により前記溶融した半導体原料に水平磁場を印加して、前記溶融した半導体原料の前記坩堝内での対流を抑制する単結晶引上げ装置であって、
前記磁場発生装置の前記超電導コイルは、前記引上げ炉の外形に沿って湾曲した鞍型形状であり、前記引上げ炉の周囲に、対向配置された前記鞍型形状の超電導コイルの対が2組設けられており、
該対向配置された対の超電導コイルの中心同士を通る軸をコイル軸としたときに、
前記2組の超電導コイルの対における2本の前記コイル軸は同じ水平面内に含まれており、
該水平面内において前記引上げ炉の中心軸における磁力線方向をX軸とし、前記水平面内において前記X軸と垂直な方向をY軸としたときに、前記2本のコイル軸間の前記X軸を挟む中心角度αが90度以下であるとともに、隣り合う前記超電導コイル同士間の前記Y軸を挟むコイル間角度βが20度以下であることを特徴とする単結晶引上げ装置を提供する。
【0022】
上記2本のコイル軸間のX軸を挟む中心角度αが90度以下であるとともに、上記隣り合う超電導コイル同士間のY軸を挟むコイル間角度βが20度以下であることで、X軸と垂直な断面近傍での対流抑制力を生じさせるとともに、コイル中心位置に相当する周方向の角度域において、坩堝に直交する磁束密度が高すぎないようにすることができるため、その部分で坩堝壁近傍の拡散境界層が薄くなることがなくなり、坩堝(石英坩堝)からの溶解がより抑えられる。すなわち、対流抑制によって坩堝壁から溶出した酸素の単結晶到達までの時間を長くして、溶融した半導体原料の自由表面からの酸素蒸発量を増加でき、また、坩堝からの溶解の抑制によって酸素の溶出を抑制できるため、単結晶に取り込まれる酸素濃度を大幅に低減することができ、極低酸素濃度の単結晶の引上げが可能である。
また、中心角度αとコイル間角度βが上記範囲であるため、例えば、特許文献2の超電導コイルよりもさらにコイルの全長を伸ばすことができるため、特許文献2よりも中心軸の磁束密度を高めることができる。成長界面近傍の磁束密度が高まることで、回転する単結晶直下における温度境界層が薄くなるためメルトから単結晶への熱流入が進み、結果的に成長界面が上凸化する。この状態で単結晶を側面から冷却すれば、面内均一な大きい温度勾配で引上げできることから、無欠陥領域結晶をより高速で引上げ可能なものとなる。
【0023】
なお、コイル間角度βが20度より大きくなると、磁力線(X軸)と垂直な断面近傍での坩堝に直交する磁力線成分が小さくなるため、この領域での対流抑制力が得られなくなる。また、中心角度αが90度より大きくなると、隣り合うコイル(別の対のコイル)との位置関係上、超電導コイルの全長が短くなるために磁場発生効率が低下するため、中心軸の磁束密度を高めることができるという上記効果が得られなくなる。
【0024】
さらには、中心角度αとコイル間角度βが上記範囲であるため、溶融した半導体原料のX軸に平行な断面における流速と、溶融した半導体原料のX軸に垂直な断面における流速とをバランスさせることができ、それによって、育成する単結晶中の成長縞を抑制することが可能な単結晶引上げ装置とすることができる。
【0025】
また、超電導コイルが従来のような円形コイルではなく、鞍型形状のコイルであることで、コイルの周長さを長くすることができるため、同じ電流値でもより大きい磁束密度の磁場を発生させることができる。すなわち、磁場発生効率を高めることができる。
さらに、鞍型形状のために円形のものよりもコイルの全高が小さくなることで、磁場発生装置内でのコイル中心高さ位置を上げることができる。そのため、昇降装置で上限まで上げた時に、融液に対してより高い位置に磁場中心を設定することができ、例えば特許文献2のような従来の単結晶引上げ装置よりも、さらに酸素濃度の低い単結晶を得ることが可能となる。
【0026】
このとき、前記磁場発生装置は、鉛直方向に上下移動可能な昇降装置を具備するものとすることができる。
【0027】
これにより、操業終了後の解体・セット時には磁場発生装置を下降させて、オペレータが炉内のホットゾーンの解体清掃を容易に行うことができる。また単結晶引上げにおいても、より容易に、単結晶中の酸素濃度が所望の値になるように、磁場発生装置の高さ位置を調整することが可能となる。
【0028】
また、前記鞍型形状の超電導コイルは、縦幅が横幅よりも短いものとすることができる。
【0029】
このようなものであれば、より確実にコイルの全高を小さくすることができ、コイル中心高さ位置を上げ、より高い位置に磁場中心を設定することができ、より容易に低酸素濃度の単結晶を得ることができる。
【0030】
また、本発明は、上記単結晶引上げ装置を用いて、半導体単結晶を引上げることを特徴とする単結晶引上げ方法を提供する。
【0031】
このような単結晶引上げ方法であれば、取り込まれる酸素濃度が大幅に低減されるとともに成長縞が抑制された半導体単結晶を育成することができる。また、所望の欠陥領域の単結晶を引上げ可能である。特には無欠陥領域結晶をより高速で引上げることができる。
【0032】
このとき、前記半導体単結晶を引上げる際に、該半導体単結晶中に含まれる酸素濃度の狙い値に応じて、前記磁場発生装置の高さ位置を調整することができる。
【0033】
このようにすれば、細かい酸素濃度制御が可能であるし、より確実に低酸素濃度の半導体単結晶を育成することができる。
【0034】
また、前記半導体単結晶を引き上げる際に、該半導体単結晶の狙いの欠陥領域に応じて、磁場強度を調整することができる。
【0035】
このようにすれば、例えば、前述したように中心軸の磁場強度(または磁束密度)を高めることで成長界面を上凸化させ、結晶側面から冷却することにより面内均一な温度勾配を得ることができ、より高速で無欠陥領域結晶を引上げることができる。逆に、中心軸の磁場強度(または磁束密度)を下げることで、特に結晶中央部の温度勾配を小さくさせて空孔リッチな単結晶を引上げることもできる。このように、狙いの欠陥領域の単結晶を育成することができる。
【発明の効果】
【0036】
以上のように、本発明の単結晶引上げ装置であれば、単結晶に取り込まれる酸素濃度を大幅に低減させることができるとともに、育成する単結晶中の成長縞を抑制することができる単結晶引上げ装置とすることができる。また所望の欠陥領域の単結晶(特には無欠陥領域結晶)を従来よりも高速で引上げ可能な単結晶引上げ装置とすることができる。
また、本発明の単結晶引上げ方法によれば、取り込まれる酸素濃度が大幅に低減されるとともに成長縞が抑制された半導体単結晶を育成することができる。また、中心軸の磁場強度(磁束密度)の調整によって所望の欠陥領域に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【
図1】本発明の単結晶引上げ装置の一例を示す概略図である。
【
図2A】本発明の超電導コイルの形状の一例を示す斜視図である。
【
図2B】本発明の超電導コイルの配置の一例を示す横断面図である。
【
図3】実施例1における磁束密度分布を示す解析図である。
【
図4】実施例1における融液内の速度ベクトルと酸素濃度分布を示す解析図である。
【
図5】実施例2における融液内の速度ベクトルと酸素濃度分布を示す解析図である。
【
図6】比較例1における磁束密度分布を示す解析図である。
【
図7】比較例1における融液内の速度ベクトルと酸素濃度分布を示す解析図である。
【
図8】従来の単結晶引上げ装置の一例を示す概略図である。
【
図9】従来の超電導磁石の一例を示す概略図である。
【
図10】従来の超電導磁石の磁場分布の一例を示す説明図である。
【
図11A】従来の別の超電導磁石の一例を示す斜視図である。
【
図11B】従来の別の超電導磁石の一例を示す横断面図である。
【
図12A】従来の別の単結晶引上げ装置の一例を示す概略図である。
【
図12B】従来の別の超電導磁石の一例を示す横断面図である。
【
図13】引上げ炉の昇降装置および超電導磁石の昇降装置の一例を示す概略図である。
【
図14】坩堝の内壁に対して直交する磁束密度成分(B⊥)と周角度との関係を示すグラフである。
【
図15】比較例2における磁束密度分布を示す解析図である。
【
図16】比較例2における融液内の速度ベクトルと酸素濃度分布を示す解析図である。
【
図17】比較例3における融液内の速度ベクトルと酸素濃度分布を示す解析図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
磁場中で導電性流体が運動する場合、磁力線ならびに磁力線に垂直な速度成分と直交する方向に誘起電流が生ずるが、電気的に絶縁性を有する石英坩堝を用いた場合は、坩堝壁と溶融した半導体原料の自由表面が絶縁壁となるため、これらに直交する方向の誘起電流は流れなくなる。このため溶融した半導体原料の中でもX軸と垂直な断面近傍では対流抑制力が不十分となる。
【0039】
しかしながら、引上げ炉の周囲に、対向配置された超電導コイルの対が2組設けられており、該対向配置された対の超電導コイルの中心同士を通る軸をコイル軸としたときに、上記2組の超電導コイルの対における2本のコイル軸が同じ水平面内に含まれており、2本のコイル軸間のX軸(上記水平面内での引上げ炉の中心軸における磁力線方向)を挟む中心角度αが90度以下であり、かつ、隣り合う超電導コイル同士間のY軸(上記水平面内においてX軸と垂直な方向)を挟むコイル間角度βが20度以下であれば、電磁力による対流抑制力が不十分だったX軸と垂直な断面内においても、溶融した半導体原料の流速を低減できるとともに、溶融した半導体原料のX軸に平行な断面における流速と、溶融した半導体原料のX軸に垂直な断面における流速とをバランスさせることができる。そして、その結果、前述したように単結晶に取り込まれる酸素濃度を大きく低減させることができるし、育成単結晶中の成長縞を抑制することが可能である。また、例えば特許文献2の超電導コイルよりもさらにコイルの全長を伸ばすことができ、中心軸の磁束密度をより高めることができ、その結果として、特には成長界面の上凸化が可能になり、無欠陥領域結晶をより高速で引上げ可能となる。
【0040】
さらには、超電導コイルとして鞍型形状のコイルを用いたものであれば、磁場発生効率を高めることができるとともに、円形コイルよりもコイルの全高を小さくしやすくすることができ、コイル中心高さ位置を上げることができ、磁場中心位置をより高い位置とすることができ、より一層低い酸素濃度の単結晶を得ることが可能である。
本発明者らはこれらのことを見出し、本発明を完成させた。
【0041】
以下、本発明について図面を参照して実施の形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
図1に本発明の単結晶引上げ装置の一例を示す。
図1の単結晶引上げ装置11は、CZ法によるものであり、加熱ヒーター3と、溶融した半導体原料(以下、融液またはメルトとも言う)6が収容される石英製の坩堝2が配置され、中心軸10を有する引上げ炉1と、引上げ炉1の周囲に設けられ、超電導コイルを有する超電導磁石(磁場発生装置30)とを備えており、超電導コイルへの通電により融液6に水平磁場を印加して、融液6の坩堝2内での対流を抑制しながら、単結晶9を引上げ方向8に引上げる構成になっている。
【0042】
ここで、
図2A、2Bを参照して、磁場発生装置30における超電導コイルの形状や配置について詳述する。
図2Aは超電導コイルの形状の一例を示す斜視図であり、
図2Bはその配置の一例を示す横断面図である。
超電導コイル(単に、コイルとも言う)4は計4つあり(4a-4d)、各々、筒状の引上げ炉1の外形に沿って湾曲した鞍型形状をしている。引上げ炉1の周囲に、対向配置されている対が2組設けられている。ここでは、4aと4c、4bと4dの組み合わせになっている。
【0043】
従来のような円形ではなく鞍型形状のコイル4であるため、コイルの周長さを長くすることができ、より一層大きな磁束密度の磁場を発生させることができ、磁場発生の効率が高いものとできる。
しかも、円形のものに比べてコイルの全高をより小さくしやすいため、円形のものに比べてコイルの中心高さ位置をより一層高い位置に上げることができる。すなわち、融液6に対してより高い位置に磁場中心を設定することができ、より酸素濃度の低い単結晶9の製造を図ることができる。
【0044】
なお、コイル4は縦幅が横幅よりも短いものとすることができる。この場合、より確実にコイルの全高を小さくすることができ、ひいては低酸素濃度の単結晶9を一層容易に得ることが可能になる。
【0045】
また、対向配置された対のコイル4の中心同士を通る軸をコイル軸としたとき、2組のコイル4の対(4aと4cの対と、4bと4dの対)における2本のコイル軸13、14は同一の水平面12内(
図1参照)に含まれている。さらには磁力線7に関して、水平面12内において、引上げ炉1の中心軸10における磁力線方向をX軸としたときに、2本のコイル軸13、14が形成する角度のうち、X軸を挟む角度(中心角度α)が90度以下である。
また、隣り合うコイル同士間のうちY軸(水平面12内でのX軸と垂直な方向)を挟む角度(コイル間角度β)が20度以下である。異なる対のコイル同士間であり、
図2A、2Bの場合、コイル4aにおけるコイル4d側の端部とコイル4dにおけるコイル4a側の端部との間の角度や、コイル4cにおけるコイル4b側の端部とコイル4bにおけるコイル4c側の端部との間の角度がコイル間角度βである。
【0046】
この鞍型形状のコイル4に関して、中心角度αとコイル間角度βが上記範囲の場合の効果について、以下に説明する。
まず、前述したように、溶融した半導体原料の中でもX軸と垂直な断面近傍では対流抑制力が不十分となるが、中心角度が90度以下であるとともに、コイル間角度βが20度以下であることで、X軸と垂直な断面近傍での対流抑制力を生じさせることができる。またそれとともに、平面視での、コイル中心位置に相当する周方向の角度域において、坩堝に直交する磁束密度が高すぎないようすることができるため、その部分で坩堝壁近傍の拡散境界層が薄くなることがなくなり、石英坩堝からの溶解がより抑えられる。これらにより酸素濃度が大幅に低減された単結晶を得ることが可能である。
【0047】
ここで、上記の石英坩堝からの溶解の抑制の点について例を挙げてより具体的に説明する。
図14は32インチ(800mm)坩堝の坩堝壁に直交する磁束密度成分B⊥を、X軸を90度とした場合の周角度に対してプロットしたものである。なお、この周角度とは、ここでは、
図2Bに示すようにコイル4a、4dの間のY軸を基準(0度)とした反時計回りの角度θである。4種類のパターン(円形コイルパターン2つ、鞍型コイルパターン2つ)についてプロットしている。
図14中の円形コイルのパターンは特許文献2に記載のコイルであり、コイル軸を含む水平面内において、引上げ装置の中心軸における磁力線方向をX軸としたときに、対向配置された幅900mmのコイルの対を2組用意し、該2組のコイルの対のそれぞれのコイル軸が同じ水平面内に含まれるように設けるとともに、X軸を挟む中心角度αを120度ならびに60度として円筒容器内に配置したものである。α=60度の円形コイルでは磁力線(X軸)と垂直な断面に相当する0度付近でB⊥が小さくなっているのに対して、α=120度の円形コイルは90度付近が弱くなる代わりに0度付近が非常に強くなっていることから、磁力線(X軸)と垂直な断面近傍でも強い対流抑制力が得られることがわかる。
【0048】
一方、鞍型コイルであっても、α=120度、β=6度とすると、α=120度の円形コイルと同様に、0度付近のB⊥が大きく、90度付近は低下するという同様の分布になっていることがわかる。
それに対して、本発明の一例であるα=90度、β=20度の鞍型コイルでは、α=120度の鞍型コイルで35度付近に見られるピークが45度付近にずれ、極大値も小さくはなっている。しかし、α=60度の円形コイルに比べ、0度付近のB⊥は依然として強くなっているとともに、X軸に相当する90度付近ではB⊥が増加していることから、磁力線(X軸)と垂直な断面近傍のみならず、周方向全体で均等に対流抑制力が作用することがわかる。極端に大きなB⊥が無くなることで、その部分で坩堝壁近傍の拡散境界層が薄くなることがなくなり、石英坩堝からの溶解がより抑えられることになる。
【0049】
また、融液6のX軸に平行な断面における流速と、X軸に垂直な断面における流速とをバランスさせることが可能であり、そのバランスの実現化により単結晶9中の成長縞を抑制することができる。
【0050】
また、例えば特許文献2のコイルよりもコイル4の全長を伸ばすことができ、特には、中心軸10における磁束密度の更なる増加、育成する単結晶9の成長界面の上凸化を図ることができ、無欠陥領域結晶の高速引上げが可能となる。
ここで、例えば特許文献4には、坩堝の周囲に複数の鞍型コイルを配置した電磁石が開示されているが、当該電磁石が発生する磁場は、単結晶を引き上げる軸と直交する向きで坩堝の回転と同期する回転磁場であり、本発明のような静磁場とは全く異なるものである。この特許文献4では、複数コイルの励消磁時間を制御することで、坩堝回転と同期した回転磁場を生成することにより、メルトに周方向の駆動力を与えて坩堝とメルトの相対速度をゼロとし、坩堝からの溶解を少なくすることで不純物を含まない結晶が得られるとある。しかし、本発明の単結晶引上げ装置11はこの特許文献4のような複雑な制御を要する磁場発生装置でなくても、上記のように坩堝からの溶解を少なくして極低酸素濃度の結晶を得ることができるものであるとともに、また、所望の欠陥領域の単結晶、例えば10ppma-JEIDA程度の酸素を含む無欠陥領域結晶をより高速に引上げることも可能なものである。
【0051】
また単結晶引上げ装置11は、引上げ炉1の昇降装置22を有しており、引上げ炉1の鉛直方向の昇降や、旋回が可能になっている。
さらに、磁場発生装置30のための昇降装置23を有しており、該昇降装置23の上に設置されている磁場発生装置30は鉛直方向に昇降(上下移動)可能である。これにより、操業終了後において、引上げ炉1におけるホットゾーン解体清掃を容易に行うことができるし、磁場発生装置30の高さ調整により、育成する単結晶9の酸素濃度の調整がしやすい。
【0052】
次に、上記のような本発明の単結晶引上げ装置11を用いた本発明の単結晶引上げ方法について説明する。ここでは半導体単結晶であるシリコン単結晶を引上げる方法について説明する。
まず、単結晶引上げ装置11において、坩堝2内に半導体原料(多結晶シリコン)を入れて加熱ヒーター3により加熱し、半導体原料を溶融させる(融液6)。
次に、超電導コイル4への通電により、融液6に磁場発生装置30によって発生させた水平磁場を印加して、融液6の坩堝2内での対流を抑制する。
次に、融液6中に種結晶(不図示)を例えば坩堝2の中央部上方から下降して接触し、引上げ機構(不図示)により種結晶を所定の速度で引上げ方向8の方向に回転させながら引上げていく。これにより、固体・液体境界層に結晶が成長し、半導体の単結晶(シリコン単結晶)9が生成される。
【0053】
このような単結晶引上げ方法であれば、取り込まれる酸素濃度が大幅に低減されるとともに成長縞が抑制された半導体単結晶を育成することができる。引上げる単結晶中の酸素濃度は特に限定されないが、特には、5ppma-JEIDA以下、好ましくは3ppma-JEIDA以下、さらには1ppma-JEIDA以下のものを製造することができる。
【0054】
なお、この半導体単結晶を引上げる際に、該半導体単結晶中に含まれる酸素濃度の狙い値に応じて、昇降装置23を用いて、磁場発生装置30の高さ位置を調整することができる。
具体的には、磁場発生装置30の高さ位置と単結晶9中の酸素濃度の関係を予め実験等によって求めておき、引上げ開始前に、磁場発生装置30の高さ位置を所望の高さ位置に設定しておく。単結晶9の引上げ中は、磁場高さを変えずに、それ以外のパラメータで単結晶中の酸素濃度を制御することができる。代表的なパラメータは坩堝回転やヒーター位置などを使うことができる。
また、1本の単結晶9の引上げ中において、磁場発生装置30の高さ位置をパターン制御することでも細かい酸素濃度制御が可能である。
【0055】
また、磁場強度(磁束密度)の調整によって、育成する単結晶の欠陥領域を狙いの欠陥領域に調整することができる。前述したように、特許文献2のコイルよりもさらにコイルの全長を伸ばすことができることから、例えば、中心軸における磁束密度を高めることができ、その結果、無欠陥領域結晶をより高速で引上げ可能である。逆に、中心磁束密度を下げていけば特に中央部の温度勾配が小さくなるために、空孔リッチな単結晶を得ることができる。
【実施例】
【0056】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
図1、2A、2Bに示す本発明の単結晶引上げ装置11を用いて単結晶引上げを行った。
引上げ炉の中心軸を中心とする半径900mmの円に沿った鞍型コイルで、コイルの縦幅が620mm、横幅(湾曲に沿った最外周の長さ)が1262mm(1381mm)の超電導コイルを同じ水平面内に4個配置し(対向するコイルの対が2組)、中心軸における磁力線方向をX軸としたときに、2本のコイル軸間のX軸を挟む中心角度αを90度、X軸と垂直なY軸を挟むコイル間角度βを20度として配置した磁場発生装置について、磁場解析と3Dメルト対流解析を行った後、この装置を用いてシリコン単結晶の引上げを行った。
解析時の計算条件は、チャージ量400kg、32インチ(800mm)坩堝、直径306mmのシリコン単結晶、結晶回転9rpm、坩堝回転0.4rpm、引上げ速度0.4mm/minで計算している。
【0057】
図3は、ANSYS-Maxwell3Dによる磁場解析結果であり、中心軸における磁束密度が1000Gaussとなるようにコイルの電流×巻き数を調整して解析した後、磁束密度の分布を表示させたものである。
上記の磁場解析の結果から、結晶とメルト領域を含む空間の磁束密度を抽出し、磁場分布を考慮した3Dメルト対流解析をCGSim 3D Flowを用いて実施した。コイルの中心高さ位置(コイル軸の高さ位置とも言う)は、後述する比較例3と同様に融液表面に設定した。
図4の左側は、その結果から得られたメルト内の速度ベクトル、また右側はメルト内の酸素濃度分布を示している。⊥Bは磁力線に垂直な断面、∥Bは磁力線に平行な断面を示す。
【0058】
実施例1の磁場でも、後述する比較例3と同様に、磁力線と垂直な断面においても対流抑制力が強く結晶端下にのみ比較的活発な流れが見られる程度で、メルト内の酸素濃度も低くなっている。
このような本発明におけるコイル形状、配置であっても、全面で1ppma-JEIDAを切ると共に面内分布に優れた極低酸素濃度の結晶を得ることができた。
【0059】
(実施例2)
実施例1の鞍型コイルはコイルが長くなると共に、磁場発生効率も高くなることで、中心軸で4000Gaussまで励磁可能となる。このことから、実施例2では、中心軸における磁束密度を4000Gaussとし、コイル軸の高さ位置を融液表面に設定して3Dメルト対流解析を行った後、この装置を用いてシリコン単結晶の引き上げを行った。
【0060】
図5は、数値解析で得られたメルト内の速度ベクトルとメルト内の酸素濃度分布を示している。実施例1に比べて、メルト内の酸素濃度は高くなるが(成長界面付近で3-5ppma-JEIDA)成長界面が大きく上側に凸形状となっていることがわかる。このような成長界面の形状であれば、面内で鉛直方向の温度勾配Gが同程度になることから、無欠陥領域結晶の引き上げが可能となる。
【0061】
(比較例1)
図12A、12Bに示す従来の超電導磁石(磁場発生装置)の単結晶引上げ装置を用いて単結晶引上げを行った。
コイル軸を含む水平面内において、引上げ装置の中心軸における磁力線方向をX軸としたときに、対向配置された直径900mmの円形コイルの対をそれぞれのコイル軸が同じ水平面内に含まれるように2組設けるとともに、X軸を挟むコイル軸間の中心角度αを120度として円筒型真空容器内に配置した磁場発生装置について、磁場解析と3Dメルト対流解析を行った後、この装置を用いてシリコン単結晶の引上げを行った。
解析時の計算条件は、チャージ量400kg、32インチ(800mm)坩堝、直径306mmのシリコン単結晶、結晶回転9rpm、坩堝回転0.4rpm、引上げ速度0.4mm/minで計算している。
【0062】
図6は、ANSYS-Maxwell3Dによる磁場解析結果であり、中心軸における磁束密度が1000Gaussとなるようにコイルの電流×巻き数を調整して解析した後、磁束密度の分布を表示させたものである。
上記の磁場解析の結果から、結晶とメルト領域を含む空間の磁束密度を抽出し、磁場分布を考慮した3Dメルト対流解析を実施した。コイル軸の高さ位置は比較例1においての上限位置である、融液表面から140mm下の位置に設定した。
図7は、その結果から得られたメルト内の速度ベクトル、また右側はメルト内の酸素濃度分布を示している。
【0063】
比較例1の磁場では、磁力線と垂直な断面においても対流抑制力が強く結晶端下にのみ比較的活発な流れが見られる程度で、メルト内の酸素濃度も低くなっている。
このコイル配置であれば、全面で3~5ppma-JEIDA程度で面内分布に優れた極低酸素濃度の結晶を得ることができるが、磁場発生効率を上げるためにはコイル径を大きくする必要があり、さらに酸素濃度を下げるためにコイルの中心高さを上げようとすると、引上げ装置との干渉を生じやすい。したがって、比較例1の装置では、酸素濃度をさらに下げるのは難しい。
【0064】
(比較例2)
引上げ炉の中心軸を中心とする半径900mmの円に沿った鞍型コイルで、コイルの縦幅が620mm、横幅(湾曲に沿った最外周の長さ)が855mm(887mm)の超電導コイルを同じ水平面内に4個配置し(対向するコイルの対が2組)、中心軸における磁力線方向をX軸としたときに、コイル軸間のX軸を挟む中心角度αを120度、X軸と垂直なY軸を挟むコイル間角度βを6度として配置した磁場発生装置について、磁場解析と3Dメルト対流解析を行った後、この装置を用いてシリコン単結晶の引き上げを行った。
【0065】
図15は、ANSYS-Maxwell3Dによる磁場解析結果であり、中心軸における磁束密度が1000Gaussとなるようにコイルの電流×巻き数を調整して解析した後、磁束密度の分布を表示させたものである。
上記の磁場解析の結果から、結晶とメルト領域を含む空間の磁束密度を抽出し、磁場分布を考慮した3Dメルト対流解析を実施した。コイルの中心高さ位置は比較例1と同じ融液表面から140mm下に設定した。
図16の左側は、その結果から得られたメルト内の速度ベクトル、また右側はメルト内の酸素濃度分布を示している。
【0066】
比較例2の磁場でも、比較例1と同様に、磁力線と垂直な断面においても対流抑制力が強く結晶端下にのみ比較的活発な流れが見られる程度で、メルト内の酸素濃度も低くなっている。
【0067】
このようなコイル形状、配置であっても、全面で3~5ppma-JEIDA程度で面内分布に優れた極低酸素濃度の結晶を得ることができる。
また、比較例1に比べてコイルの縦幅が小さいことから、さらに酸素濃度を下げるためにコイルの中心高さ位置を上げることができる余地がある。これについては比較例3として後述する。
【0068】
(比較例3)
比較例2の鞍型コイルを使用することで、比較例1(コイル全高:900mm)に比べてコイル高さ(コイルの縦幅)を280mm低くすることができた。そこで比較例3では、コイル軸の高さ位置を融液表面に設定して3Dメルト対流解析を行った後、この装置を用いてシリコン単結晶の引き上げを行った。
【0069】
図17は、数値解析で得られたメルト内の速度ベクトルとメルト内の酸素濃度分布を示している。比較例2に比べて、メルト内の酸素濃度が低くなっていることがわかる。
実際に、このコイル配置であれば、コイルの中心高さ位置を融液表面に設定することができ、ウェーハ全面で1ppma-JEIDAを切ると共に面内分布に優れた極低酸素濃度の結晶を得ることができた。
【0070】
しかし、比較例2と比較例3に示したように、中心角度αが90度より大となるコイル配置では、コイル長さが短くなり、また磁力線が反発しあう配置になっていることから磁場発生効率が低いために、中心での磁束密度を高くすることが難しい。磁束密度の上限は、コイルに掛かる力が構造材で支持可能な範囲にあることと、コイル内部の経験磁場が超電導線の飽和磁束密度に達しないように余裕をもって設計することで決定されるが、このコイルは、中心で2000Gauss程度が上限だった。この程度の磁束密度では回転する結晶直下での温度境界層が十分に薄くならないために、結晶の成長界面を上凸化させることが難しく、成長界面全体の温度勾配が均一である必要のある無欠陥領域結晶を得ることが難しいという欠点がある。すなわち、低酸素濃度の単結晶の引上げのみならず、無欠陥領域結晶の引上げにも適した本発明のような引上げ装置ではない。
【0071】
(比較例4)
引上げ炉の中心軸を中心とする半径900mmの円に沿った鞍型コイルで、コイルの縦幅が620mm、横幅(湾曲に沿った最外周の長さ)が942mm(986mm)の超電導コイルを同じ水平面内に4個配置し(対向するコイルの対が2組)、中心角度αを90度、コイル間角度βを30度として配置した磁場発生装置について、磁場解析と3Dメルト対流解析を行った後、この装置を用いてシリコン単結晶の引き上げを行った。
【0072】
比較例3と同様にコイルの中心高さ位置を融液表面に設定することができたが、酸素濃度はウェーハ全面で2-3ppma-JEIDA程度となり、比較例3より酸素濃度が高くなった。コイル間角度βが20度より大きくなり、X軸と垂直な断面近傍での坩堝に直交する磁力成分が小さくなり、そこでの対流抑制が弱くなるため、酸素濃度が増加したものと思われる。
また、コイル間角度βが20度より大となるコイル配置では、コイル長さが短くなり、また磁力線が反発しあう配置になっていることから磁場発生効率が低いために、中心での磁束密度を高くすることが難しい。磁束密度の上限は、コイルに掛かる力が構造材で支持可能な範囲にあることと、コイル内部の経験磁場が超電導線の飽和磁束密度に達しないように余裕をもって設計することで決定されるが、このコイルはコイル内部の経験磁場が高くなりやすいため、中心で3000Gauss程度が上限だった。この程度の磁束密度では回転する結晶直下での温度境界層がまだ十分には薄くならないために、成長界面の上凸度が小さく、成長界面全体の温度勾配が均一である必要のある無欠陥領域結晶を高速で引き上げることが難しいという欠点がある。すなわち、低酸素濃度の単結晶の引上げのみならず、無欠陥領域結晶の引き上げにも適した本発明のような引上げ装置ではない。
【0073】
(実施例3)
コイルの縦幅が620mm、横幅(湾曲に沿った最外周の長さ)が1185mm(1282mm)の超電導コイルを同じ水平面内に4個配置し(対向するコイルの対が2組)、中心角度αを86度、コイル間角度βを16度として配置したこと以外は実施例1と同様にして、磁場解析と3Dメルト対流解析を行った後、この装置を用いてシリコン単結晶の引き上げを行った。
【0074】
このような本発明におけるコイル形状、配置であっても、実施例1とほぼ同様に、全面で1ppma-JEIDAを切ると共に面内分布に優れた極低酸素濃度の結晶を得ることができた。
【0075】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0076】
1…引上げ炉、 2…坩堝、 3…加熱ヒーター、
4、4a、4b、4c、4d…超電導コイル、 6…半導体原料(融液)、
7…磁力線、 8…引上げ方向、 9…単結晶(半導体単結晶)、
10…中心軸、 11…単結晶引上げ装置、 12…コイル軸を含む水平面、
13、14…コイル軸、 22…引上げ炉の昇降装置、
23…磁場発生装置の昇降装置、 30…磁場発生装置、
100…単結晶引上げ装置、 101…引上げ炉、 102…坩堝、
103…ヒーター、
104、104a、104b、104c、104d…超電導コイル、
105…円筒型冷媒容器、 106…半導体原料、 107…磁力線、
108…引上げ方向、 109…単結晶、 110…中心軸、
111…電流リード、 112…小型ヘリウム冷凍機、 113…ガス放出管、
114…サービスポート、 115…ボア、 117…第1の輻射シールド、
118…第2の輻射シールド、 119…円筒型真空容器、
120…コイル軸を含む水平面、 121…コイル軸、
122…引上げ炉の昇降装置、 123…超電導磁石の昇降装置、
130…超電導磁石。