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特許7548334リチウムイオン伝導性固体電解質および全固体電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】リチウムイオン伝導性固体電解質および全固体電池
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/06 20060101AFI20240903BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20240903BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20240903BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240903BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20240903BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240903BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20240903BHJP
   H01M 4/485 20100101ALI20240903BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20240903BHJP
   H01M 4/40 20060101ALI20240903BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
H01B1/06 A
H01B1/08
H01M10/0562
H01M10/052
H01M4/58
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/485
H01M4/48
H01M4/40
H01M4/62 Z
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2022571611
(86)(22)【出願日】2021-12-23
(86)【国際出願番号】 JP2021047810
(87)【国際公開番号】W WO2022138804
(87)【国際公開日】2022-06-30
【審査請求日】2023-06-16
(31)【優先権主張番号】P 2020217271
(32)【優先日】2020-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】李 建燦
(72)【発明者】
【氏名】清 良輔
【審査官】神田 太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/025582(WO,A1)
【文献】特開2015-187936(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/06
H01B 1/08
H01M 10/0562
H01M 10/052
H01M 4/58
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/485
H01M 4/48
H01M 4/40
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単斜晶の結晶構造を有し、
前記単斜晶のa軸長が9.690~9.711Å、b軸長が11.520~11.531Å、c軸長が10.680~10.695Åであり、軸角βが90.01~90.08°の範囲にあるカルコゲン化物を含むリチウムイオン伝導性固体電解質。
【請求項2】
前記カルコゲン化物が、リチウム、タンタル、ホウ素、リンおよび酸素を構成元素として有する、請求項1に記載のリチウムイオン伝導性固体電解質。
【請求項3】
前記単斜晶の結晶構造が、リチウム、タンタル、リンおよび酸素を構成元素として構成されている、請求項1または2に記載のリチウムイオン伝導性固体電解質。
【請求項4】
前記単斜晶の単位格子の体積が、1193.0~1197.9Å3である、請求項1~3のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性固体電解質。
【請求項5】
ホウ素の含有量が0.10~5.00原子%である、請求項2~4のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性固体電解質。
【請求項6】
タンタルの含有量が10.00~17.00原子%である、請求項2~5のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性固体電解質。
【請求項7】
リンの含有量が5.00~8.50原子%である、請求項2~6のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性固体電解質。
【請求項8】
リチウムの含有量が5.00~20.00原子%である、請求項2~7のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性固体電解質。
【請求項9】
さらに、ニオブを含み、ニオブの含有量が0.10~5.00原子%である、請求項2~8のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性固体電解質。
【請求項10】
前記単斜晶の含有率が70.0%以上である、請求項1~9のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性固体電解質。
【請求項11】
さらに、ケイ素を含み、ケイ素の含有量の上限が0.15原子%である、請求項1~10のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性固体電解質。
【請求項12】
ホウ素が結晶粒界に存在している、請求項2~11のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性固体電解質。
【請求項13】
正極活物質を有する正極と、
負極活物質を有する負極と、
前記正極と前記負極との間に固体電解質層と、
を含み、
前記固体電解質層が、請求項1~12のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性固体電解質を含む、
全固体電池。
【請求項14】
前記正極活物質が、LiM3PO4[M3は、Mn、Co、Ni、Fe、Al、TiおよびVからなる群より選ばれる1種以上の元素、またはVおよびOの2元素である。]、LiM5VO4[M5は、Fe、Mn、Co、Ni、AlおよびTiからなる群より選ばれる1種以上の元素である。]、Li2M6P27[M6は、Fe、Mn、Co、Ni、Al、TiおよびVからなる群より選ばれる1種以上の元素、またはVおよびOの2元素である。]、LiVP27、Lix7y7M7z7[2≦x7≦4、1≦y7≦3、0≦z7≦1、1≦y7+z7≦3、M7は、Ti、Ge、Al、GaおよびZrからなる群より選ばれる1種以上の元素である。]、Li1+x8Alx8M82-x8(PO43[0≦x8≦0.8、M8は、TiおよびGeからなる群より選ばれる1種以上の元素である。]、LiNi1/3Co1/3Mn1/32、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24、Li2CoP27、Li32(PO43、Li3Fe2(PO43、LiNi0.5Mn1.54およびLi4Ti512からなる群より選ばれる1種以上の化合物を含む、請求項13に記載の全固体電池。
【請求項15】
前記負極活物質が、LiM3PO4[M3は、Mn、Co、Ni、Fe、Al、TiおよびVからなる群より選ばれる1種以上の元素、またはVおよびOの2元素である。]、LiM5VO4[M5は、Fe、Mn、Co、Ni、AlおよびTiからなる群より選ばれる1種以上の元素である。]、Li2M6P27[M6は、Fe、Mn、Co、Ni、Al、TiおよびVからなる群より選ばれる1種以上の元素、またはVおよびOの2元素である。]、LiVP27、Lix7y7M7z7[2≦x7≦4、1≦y7≦3、0≦z7≦1、1≦y7+z7≦3、M7は、Ti、Ge、Al、GaおよびZrからなる群より選ばれる1種以上の元素である。]、Li1+x8Alx8M82-x8(PO43[0≦x8≦0.8、M8は、TiおよびGeからなる群より選ばれる1種以上の元素である。]、(Li3-a9x9+(5-b9)y9M9x9)(V1-y9M10y9)O4[M9は、Mg、Al、GaおよびZnからなる群より選ばれる1種以上の元素であり、M10は、Zn、Al、Ga、Si、Ge、PおよびTiからなる群より選ばれる1種以上の元素であり、0≦x9≦1.0、0≦y9≦0.6、a9はM9の平均価数、b9はM10の平均価数である。]、LiNb27、Li4Ti512、Li4Ti5PO12、TiO2、LiSiおよびグラファイトからなる群より選ばれる1種以上の化合物を含む、請求項13または14に記載の全固体電池。
【請求項16】
前記正極および負極が、請求項1~12のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性固体電解質を含有する、請求項13~15のいずれか1項に記載の全固体電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン伝導性に優れた新規な固体電解質および全固体電池に関する。
【背景技術】
【0002】
充放電が可能な二次リチウムイオン電池は、携帯用電子機器から電気自動車用バッテリーに至るまで、様々な応用分野で使用される。しかし、商業リチウムイオン電池は、熱安定性が低い可燃性有機液体電解質を使用する上での重要な安全性の問題がある。また、有機電解質中でリチウムの樹枝状結晶(dendrite)が成長すると、リチウムイオン電池が短絡されるという問題点があった。
【0003】
このような有機液体電解質の問題点を解決するために、固体電解質材料の多くの研究が行われている。揮発性がなく、熱的に安定固体電解質として有機液体電解質を代替する安全性を大幅に向上させることができる。イオン伝導度が高く、機械的強度に優れた固体リチウムイオン電解質は、リチウム空気電池、リチウム系レドックス-フローセル、Li-H2O2半燃料電池、化学的センサーなどのように適用されるようになっている。
【0004】
このため、リチウムを含有した酸化物系の固体電解質と硫化物系の固体電解質が広く研究されてきた。硫化物系固体電解質は、従来の液体電解質と同様かそれ以上に高いリチウムイオン伝導度を有する。一方、酸化物系固体電解質は、扱いやすさ、機械的特性、化学的特性および熱的安定性が相対的に優れている。
【0005】
たとえば、硫化物系の固体電解質としては、特許文献1(特開2020-173992号公報)には、 Li元素、P元素およびS元素を含有する硫化物の構成成分を含有する原料組成物とテトラヒドロフランとを混合して前駆体を得たのち、焼成してテトラヒドロフランを揮発させる硫化物固体電解質の製造方法が開示されている。
【0006】
また、酸化物系の固体電解質として、非特許文献1には、単斜晶の結晶構造を有するLiTa2PO8が、高いリチウムイオン伝導度(トータル伝導度(25℃):2.5×10-4S・cm-1)を示すことが記載されている。
【0007】
また、特許文献2には、低温焼成した際にも、高いイオン伝導度が実現できる固定電解質及び全固体電池が開示され、固体電解質は、ガーネット型構造を有するリチウムイオン伝導性物質と、LISICON型構造を有するリチウムイオン伝導性物質と、Li及びBを含有する化合物とを含むことが開示されている。
【0008】
また、特許文献3には、イオン伝導性固体電解質化合物が開示され、実施例1に基づいて製造されたLiTa2PO8は単斜晶であり、a軸長9.716Å、b軸長11.536Å、c軸長10.697Åであり軸角β90.04°の格子定数を有する結晶構造を有することが開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】J. Kim et al., J. Mater. Chem. A, 2018, 6, p22478-22482
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2020-173992号公報
【文献】国際公開2019/044901号
【文献】国際公開2020/036290号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、一般的に硫化物系固体電解質化合物は、湿度に対して不安定であるいう問題点があった。また、酸化物系固体電解質は、扱いやすさ、機械的特性、化学的特性および熱的安定性が相対的に優れているものの、イオン伝導性が相対的に低く、さらなる改善が求められていた。
したがって本発明の課題は、イオン伝導性に優れた新規な固体電解質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らが鋭意検討した結果、下記構成例によれば、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明の構成例は以下のとおりである。
[1]単斜晶の結晶構造を有し、
前記単斜晶のa軸長が9.690~9.711Å、b軸長が11.520~11.531Å、c軸長が10.680~10.695Åであり、軸角βが90.01~90.08°の範囲にあるカルコゲン化物を含むリチウムイオン伝導性固体電解質。
[2]前記カルコゲン化物が、リチウム、タンタル、ホウ素、リンおよび酸素を構成元素として有する、[1]に記載のリチウムイオン伝導性固体電解質。
[3]前記単斜晶の結晶構造が、リチウム、タンタル、リンおよび酸素を構成元素として構成されている、[1]または[2]に記載のリチウムイオン伝導性固体電解質。
[4]前記単斜晶の単位格子の体積が、1193.0~1197.9Å3である、[1]~[3]のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性固体電解質。
[5]ホウ素の含有量が0.10~5.00原子%である、[1]~[4]のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性固体電解質。
[6]タンタルの含有量が10.00~17.00原子%である、[1]~[5]のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性固体電解質。
[7]リンの含有量が5.00~8.50原子%である、[1]~[6]のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性固体電解質。
[8]リチウムの含有量が5.00~20.00原子%である、[1]~[7]のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性固体電解質。
[9]さらに、ニオブを含み、ニオブの含有量が0.10~5.00原子%である、[1]~[8]のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性固体電解質。
[10]前記単斜晶の含有率が70.0%以上である、[1]~[9]のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性固体電解質。
[11]さらに、ケイ素を含み、ケイ素の含有量の上限が0.15原子%である、[1]~[10]のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性固体電解質。
[12]ホウ素が結晶粒界に存在している、[2]~[11]のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性固体電解質。
[13]正極活物質を有する正極と、
負極活物質を有する負極と、
前記正極と前記負極との間に固体電解質層と、
を含み、
前記固体電解質層が、[1]~[12]のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性固体電解質を含む、全固体電池。
[14]前記正極活物質が、LiM3PO4[M3は、Mn、Co、Ni、Fe、Al、TiおよびVからなる群より選ばれる1種以上の元素、またはVおよびOの2元素である。]、LiM5VO4[M5は、Fe、Mn、Co、Ni、AlおよびTiからなる群より選ばれる1種以上の元素である。]、Li2M6P27[M6は、Fe、Mn、Co、Ni、Al、TiおよびVからなる群より選ばれる1種以上の元素、またはVおよびOの2元素である。]、LiVP27、Lix7y7M7z7[2≦x7≦4、1≦y7≦3、0≦z7≦1、1≦y7+z7≦3、M7は、Ti、Ge、Al、GaおよびZrからなる群より選ばれる1種以上の元素である。]、Li1+x8Alx8M82-x8(PO43[0≦x8≦0.8、M8は、TiおよびGeからなる群より選ばれる1種以上の元素である。]、LiNi1/3Co1/3Mn1/32、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24、Li2CoP27、Li32(PO43、Li3Fe2(PO43、LiNi0.5Mn1.54およびLi4Ti512からなる群より選ばれる1種以上の化合物を含む、[13]に記載の全固体電池。
[15]前記負極活物質が、LiM3PO4[M3は、Mn、Co、Ni、Fe、Al、TiおよびVからなる群より選ばれる1種以上の元素、またはVおよびOの2元素である。]、LiM5VO4[M5は、Fe、Mn、Co、Ni、AlおよびTiからなる群より選ばれる1種以上の元素である。]、Li2M6P27[M6は、Fe、Mn、Co、Ni、Al、TiおよびVからなる群より選ばれる1種以上の元素、またはVおよびOの2元素である。]、LiVP27、Lix7y7M7z7[2≦x7≦4、1≦y7≦3、0≦z7≦1、1≦y7+z7≦3、M7は、Ti、Ge、Al、GaおよびZrからなる群より選ばれる1種以上の元素である。]、Li1+x8Alx8M82-x8(PO43[0≦x8≦0.8、M8は、TiおよびGeからなる群より選ばれる1種以上の元素である。]、(Li3-a9x9+(5-b9)y9M9x9)(V1-y9M10y9)O4[M9は、Mg、Al、GaおよびZnからなる群より選ばれる1種以上の元素であり、M10は、Zn、Al、Ga、Si、Ge、PおよびTiからなる群より選ばれる1種以上の元素であり、0≦x9≦1.0、0≦y9≦0.6、a9はM9の平均価数、b9はM10の平均価数である。]、LiNb27、Li4Ti512、Li4Ti5PO12、TiO2、LiSiおよびグラファイトからなる群より選ばれる1種以上の化合物を含む、[13]または[14]に記載の全固体電池。
[16]前記正極および負極が、[1]~[12]のいずれか1項に記載のリチウムイオン伝導性固体電解質を含有する、[13]~[15]のいずれか1項に記載の全固体電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、所定の結晶構造を有する単結晶からなるリチウムイオン伝導性固体電解質が提供される。この固体電解質は、熱的および化学的安定性に優れ、イオン伝導性が高い。このような固体電解質は全体固体リチウムイオン電池、リチウム-空気電池(Li-Air battery)、リチウムレドックスフロー電池(Li-redox flow battery)、Li-H2O2半燃料電池、化学的センサーなどにイオン伝導性電解質物質に適用されることができる。
【0014】
また、本発明にともなうリチウムイオン伝導性固体電解質は製造方法が単純であり、たとえば、正極活物質層や負極活物質層が含む活物質等の材料の分解や変質等を抑制しながらも、正極材料や負極材料と積層し、あわせて焼結することにより、全固体電池を容易に作製することができる。また、本発明によれば、低温焼成が可能であるので、小型化が可能であり、また他の基材などのへの影響も少なくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施例3および比較例1で得られた固体電解質のXRD図形である。
図2】実施例3で得られた固体電解質のEPMAによる二次電子像およびホウ素マッピング画像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
≪リチウムイオン伝導性固体電解質≫
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン伝導性固体電解質(以下、本固体電解質ともいう。)は、カルコゲン化物を含み、単斜晶の結晶構造を有し、前記単斜晶のa軸長が9.690~9.711Å、b軸長が11.520~11.531Å、c軸長が10.680~10.695Å、軸角βが90.01~90.08°の範囲にあり、リチウムイオン伝導性を具備する。
【0017】
このような結晶構造を有する単斜晶を含むことで、従来のリチウムイオン伝導性固体電解質よりも優れたリチウムイオン伝導性を有するリチウムイオン伝導性固体電解質が提供される。
【0018】
単斜晶の結晶構造、単斜晶のa軸長、b軸長およびc軸長、および軸角βは、SEM-EDXによる形態観察、化学分析及びX線回折等により、その組成及び結晶構造等を確認することができる。
【0019】
固体電解質の形状としては特に制限されず、粒子状すなわち粉末状であっても、ペレット、シートなどの形状に賦形されていても、無定形の塊状であってもよく、使用形態に応じて適宜選択される。
【0020】
本明細書におけるカルコゲン化物はカルコゲン元素とそれより電気陰性度の低い元素との化合物であり、酸化物、硫化物などである。このうち、前記特徴を有する単斜晶を構成しうるものであれば特に制限されないが、このうち本発明では酸素を含むものが好ましい。
【0021】
本発明では、前記カルコゲン化物として、下記一般式(1)の化学量論的化学式を有する。
Ax(MaTbGcKd)y (1)
【0022】
前記化学式1において、Aは+1の酸化状態を有する陽イオンを構成する元素であり、Mは+4、+5又は+6の酸化状態を有する陽イオンを構成する元素であり、TはMと異なる+4、+5価又は6価の酸化状態を有する陽イオンを構成する元素であり、Gは+3価の酸化状態を有する陽イオンを構成する元素であり、Kはカルコゲン元素であり、x及びyは互いに独立である0より大きい実数としてxは0より大きく3y以下の実数である。a,b,c,dは化学量論数となるように適宜選択される。
【0023】
具体的には、前記Aは、リチウム、ナトリウム、水素からなる群から選択された一つ以上の元素を含み、前記Mは、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、錫、鉛、アンチモン及びビスマスからなる群から選択される一つ以上の元素を含み、ここで、Tは、ケイ素、ゲルマニウム、リンおよび砒素からなる群から選択された一つ以上の元素を含み、Gはホウ素、アルミニウムおよびガリウムからなる群から選択された1つ以上の元素を含み、Kは酸素、硫黄からなる群から選択された1つ以上の元素を含むことができる。
【0024】
本発明の一つの好ましい実施形態では、Aがリチウム、Mがタンタル、Tがリン、Gがホウ素、Kが酸素として構成元素を構成し、さらにMとしてニオブを含む。
単斜晶の具体的構造は、以下のように本発明者らは推定している。前記Mは、Kアニオンにより6配位されMK6の八面体単位を形成し、Tは、Kにより4配位されTK4四面体単位を形成する。そして、前記MK6の八面体単位のいくつかは、2個の前記TK4四面体単位と頂点を共有するように結合されて三量体リンク単位を形成する。このとき、それぞれの三量体リンク単位において、前記2個のTK4四面体単位はMK6の八面体単位の頂点のうちの第1の頂点と
前記第1頂点に対向する第2の頂点に位置するKイオンを共有するように結合している。なお、このような構造の詳細は前記特許文献3に開示されている。
【0025】
上記AイオンはMK6の八面体単位及び前記TK4四面体単位の間の空間に配置されている。また、Gは結晶粒界に、酸化物や硫化物として、および、TK4四面体単位のTを一部置換して存在している。Gを含む上記のような構成元素を含むことで、所定のa、b、c軸長および軸角βが達成される。このようなカルコゲン化物は後述する製造方法で調製することが可能である。
【0026】
特定の単斜晶を含むカルコゲン化物は、固体電解質を作製する際の焼成温度を低温(例:900℃以下)としても、十分なイオン伝導度を有する固体電解質を提供することができる。
【0027】
本発明では、単斜晶の単位格子の体積は、1193.0~1197.9Å3の範囲であることが好ましい。この範囲にあると、十分なイオン伝導度を有する固体電解質となる。
固体電解質中の単斜晶の含有率(=単斜晶の結晶量×100/確認された全ての結晶の合計結晶量)は、好ましくは70.0%以上、さらに好ましくは80.0%以上であり、上限は特に制限されないが、好ましくは100.0%未満であり、より好ましくは99.5%以下である。
【0028】
本固体電解質の単斜晶含有率が前記範囲にあると、トータルのイオン伝導度の高い固体電解質となる傾向にある。
前記(1)のカルコゲン化物以外に含まれていてもよい化合物としては、LiPO3、Li3PO4、TaPO5、LiTa38およびLiTaO3などが挙げられる。また、原材料に由来する回折ピークが確認される場合がある。原材料として用いる、炭酸リチウム(Li2CO3)、五酸化タンタル(Ta25)、ホウ酸などが挙げられる。
【0029】
固体電解質中の単斜晶含有率は、例えば、固体電解質のXRD図形を、公知の解析ソフトウェアRIETAN-FP(作成者;泉富士夫のホームページ「RIETAN-FP・VENUS システム配布ファイル」(http://fujioizumi.verse.jp/download/download.html)から入手することができる。)を用いてリートベルト解析することで算出することができる。
【0030】
本発明の固体電解質は、カルコゲン化物が、リチウム、タンタル、ホウ素、リンおよび酸素を構成元素として含むものが好ましい態様である。また、単斜晶は、リチウム、タンタル、リンおよび酸素を構成元素として含むものが好ましい。またホウ素は結晶粒界に含まれることが好ましい。結晶粒界にホウ素が含まれると、単斜晶の形状を取りやすくできる、トータルのイオン伝導度が高くなる、焼成温度を低減できる等の効果が得られる。
【0031】
この場合、ホウ素の含有量は、十分なイオン伝導度を有する固体電解質を得る際の焼結温度をより低温化できる等の点から、好ましくは0.10原子%以上であり、より好ましくは0.50原子%以上である。また、上限は好ましくは5.00原子%以下であり、より好ましくは3.00原子%以下である。
【0032】
タンタルの含有量は、リチウムイオン伝導度がより高い固体電解質となる等の点から、好ましくは10.00原子%以上であり、より好ましくは11.00原子%以上である。また、上限は、好ましくは17.00原子%以下であり、より好ましくは16.00原子%以下である。
【0033】
リンの含有量は、リチウムイオン伝導度がより高い固体電解質となる等の点から、好ましくは5.00原子%以上であり、より好ましくは6.00原子%以上である。上限は、好ましくは8.50原子%以下であり、より好ましくは8.00原子%以下である。
【0034】
リチウム元素の含有量は、リチウムイオン伝導度がより高い固体電解質となる等の点から、好ましくは5.00原子%以上であり、より好ましくは6.00原子%以上である。上限は、好ましくは20.00原子%以下であり、より好ましくは15.00原子%以下である。
【0035】
好ましい態様として、リチウム、タンタル、ホウ素、リンおよび酸素とともに、ニオブを含む。ニオブを含む場合、ニオブの含有量は、十分なイオン伝導度の焼結体を得る際の焼成温度をより低温化できる等の点から、好ましくは0.10原子%以上であり、より好ましくは0.50原子%以上である。上限は、5.00原子%以下であり、より好ましくは3.00原子%以下でありさらに好ましくは2.00原子%以下であり、さらにより好ましくは1.60原子%以下である。
【0036】
本発明では、カルコゲン化物がケイ素を含む場合、その含有量の上限は0.15原子%であることが好ましい。ケイ素の含有量が上記上限を超えると、十分なイオン伝導度を有する固体電解質が得られない場合がある。
【0037】
なお、各元素の含有量は高周波誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置やオージェ電子分光法(AES:Auger Electron Spectroscopy)などの公知の手段により、求めることができる。
【0038】
カルコゲン化物は、上記式(1)の化学量論比となるように混合した原料物質を焼成することで製造が可能である。
たとえば原料物質を、ボールミルやビーズミルなどで粉砕・混合したのち、焼成処理する。このとき、所定の形状に圧縮加工を行って焼成ないし焼結処理してもよい。
【0039】
また、得られた焼成物を、必要に応じて後述するような各種添加剤を混合し、粉砕してのち、プレス成形などの圧縮成形などにより賦形し、焼成ないし焼結して固体電解質とすることも可能である。
【0040】
前記式(1)におけるAの原料物質としては、Aの炭酸塩、硝酸塩、ホウ酸塩など塩が使用でき、Mの原料物質は、Mの酸化物、塩等の化合物を使用することができ、Tの原料物質は、Tの酸化物、塩を使用することができ、Gの原料物質はCの酸化物、塩を使用できる。酸化物には水酸化物も含まれる。
【0041】
カルコゲン化物が、リチウム、タンタル、ホウ素、リンおよび酸素を構成元素として含む場合、例えばリチウムの原料物質としては炭酸リチウム、酸化リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウム、酢酸リチウムおよびこれらの水和物が挙げられる。これらの中でも、分解、反応させやすいことから、炭酸リチウム、水酸化リチウム、および酢酸リチウムが好ましい。また、ナトリウムなどを含む化合物を原料として使用し、焼成後、ナトリウムとリチウムをイオン交換してもよい。
【0042】
タンタルの原料物質としては、五酸化タンタル、硝酸タンタルを用いることができる。
リンの原料物質としてはリン酸塩が好ましく、リン酸塩としては、分解、反応させやすいことから、例えば、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素一アンモニウム、リン酸アンモニウムが挙げられる。
【0043】
ホウ素の原料物質としては、ホウ酸、酸化ホウ素などを用いることも可能である。
さらに原料物質として、固体電解質を構成する元素を2種類以上含む塩を使用してもよく、たとえばLiPO3、LiH2PO4、LiBO2、LiB35、Li247、Li31118、Li3BO3、Li3712、Li425、Li649、Li3-x1-xx3(0<x<1)、Li4-x2-xx5(0<x<2)なども使用可能である。
【0044】
なおニオブ原子を含む化合物としては、例えば、酸化物や塩が挙げられ、例えば、Nb25、LiNbO3、LiNb38、NbPO5が使用できる。
これらの原材料はそれぞれ、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0045】
焼成は、焼成時間によるものの、500~1200℃、好ましくは700~1000℃の温度で約1~16時間加熱する。これにより原材料に含有された不純物成分等が揮発されて除去され、目的とする電解質が得られる。
【0046】
圧縮成形された成形体の焼結は、600~1200℃の温度範囲で約1~96時間加熱を行う。
上記の焼成および焼結は大気下で行ってもよいが、0~20体積%の範囲で酸素ガス含有量の調整された、窒素ガスおよび/またはアルゴンガスの雰囲気下で行ってもよく、水素ガスなどの還元性ガスを含む、窒素水素混合ガス等の還元性ガス雰囲気下で行ってもよい。還元性ガスとしては、水素ガス以外に、アンモニアガス、一酸化炭素ガスなどを用いてもよい。
【0047】
≪全固体電池≫
本発明の全固体電池は、正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、前記正極と前記負極との間に固体電解質層とを含み、前記固体電解質層が、前記したリチウムイオン伝導性固体電解質を含む。
【0048】
<固体電解質層>
固体電解質は、1種単独で、又は2種以上のものを用いることができる。また、2種以上の固体電解質を用いる場合、2種以上の固体電解質を混合してもよく、又は2層以上の固体電解質それぞれの層を形成して多層構造としてもよい。
【0049】
固体電解質層は、本発明に係る固体電解質を含めば特に制限されず、その含有量は例えば50質量%以上であり、60質量%以上100質量%以下の範囲内であってもよく、70質量%以上100質量%以下の範囲内であってもよく、100質量%であってもよい。好ましくは、前記した固体電解質から構成されるものである。
【0050】
なお前記した固体電解質を、正極活物質層、負極活物質層に含有させることは好ましい態様である。このようにすることによって、固体電解質層-正極活物質層間、固体電解質層-負極活物質層間の密着性を上げることによりイオン伝導性を向上させることができ、好ましい。
【0051】
固体電解質層には、可塑性を発現させる等の観点から、バインダーを含有させることもできる。そのようなバインダーとしては、アクリロニトリルブタジエンゴム(ABR)、ブタジエンゴム(BR)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等を例示することができる。ただし、高出力化を図り易くするために、固体電解質の過度の凝集を防止し且つ均一に分散された固体電解質を有する固体電解質層を形成可能にする等の観点から、固体電解質層に含有させるバインダーは5質量%以下とすることが望ましい。
【0052】
固体電解質層の厚みは特に限定されるものではなく、通常0.1μm以上1mm以下である。
固体電解質層を形成する方法としては、前記したように、固体電解質及び必要に応じ他の成分を含む固体電解質材料の粉末を加圧成形する方法等が挙げられる。固体電解質材料の粉末を加圧成形する場合には、通常、1MPa以上600MPa以下程度のプレス圧を負荷すればよい。
【0053】
本発明の一実施形態に係る全固体電池(以下「本電池」ともいう。)は、正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、前記正極と前記負極との間に固体電解質層とを含み、前記固体電解質層が本固体電解質を含む。
【0054】
電池は、一次電池であってもよく、二次電池であってもよいが、本発明の効果がより発揮される等の点から、二次電池であることが好ましく、リチウムイオン二次電池であることがより好ましい。
電池の構造は、正極と、負極と、該正極と該負極との間に固体電解質層を含めば特に制限されず、いわゆる、薄膜型、積層型、バルク型のいずれであってもよい。
【0055】
<正極>
正極は正極活物質を有すれば特に制限されないが、好ましくは、正極集電体と正極活物質層とを有する正極が挙げられる。
【0056】
[正極活物質層]
正極活物質層には、任意成分として、固体電解質、導電材、及びバインダー等が含まれていてもよい。
【0057】
正極活物質の種類について特に制限はなく、全固体電池の活物質として使用可能な材料をいずれも採用可能である。正極活物質としては、リチウム元素を含むものであってもよく、リチウム元素を含まないものであってもよい。
正極活物質層の厚さは、形成したい電池の構造に応じて適宜選択すればよく、特に限定されないが、30nm以上5000nm以下であってもよい。
【0058】
・正極活物質
前記正極活物質が、LiM3PO4[M3は、Mn、Co、Ni、Fe、Al、TiおよびVからなる群より選ばれる1種以上の元素、またはVおよびOの2元素である。]、LiM5VO4[M5は、Fe、Mn、Co、Ni、AlおよびTiからなる群より選ばれる1種以上の元素である。]、Li2M6P27[M6は、Fe、Mn、Co、Ni、Al、TiおよびVからなる群より選ばれる1種以上の元素、またはVおよびOの2元素である。]、LiVP27、Lix7y7M7z7[2≦x7≦4、1≦y7≦3、0≦z7≦1、1≦y7+z7≦3、M7は、Ti、Ge、Al、GaおよびZrからなる群より選ばれる1種以上の元素である。]、Li1+x8Alx8M82-x8(PO43[0≦x8≦0.8、M8は、TiおよびGeからなる群より選ばれる1種以上の元素である。]、LiNi1/3Co1/3Mn1/32、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24、Li2CoP27、Li32(PO43、Li3Fe2(PO43、LiNi0.5Mn1.54およびLi4Ti512からなる群より選ばれる1種以上の化合物を含むことが好ましい。
【0059】
正極活物質の表面には、Liイオン伝導性酸化物を含有するコート層が形成されていても良い。正極活物質と、固体電解質との反応を抑制できるからである。
Liイオン伝導性酸化物としては、例えば、LiNbO3、Li4Ti512、及びLi3PO4等が挙げられる。コート層の厚さは、例えば、0.1nm以上であり、1nm以上であっても良い。一方、コート層の厚さは、例えば、100nm以下であり、20nm以下であっても良い。正極活物質の表面におけるコート層の被覆率は、例えば、70%以上であり、90%以上であっても良い。
正極層における固体電解質の含有量は、特に限定されないが、正極層の総質量を100質量%としたとき、例えば1質量%~80質量%の範囲内であってもよい。
【0060】
・固体電解質
正極活物質層に含まれる固体電解質は、本発明の固体電解質を用いてもよく、本発明の固体電解質以外の、後述する酸化物系固体電解質、及び硫化物系固体電解質等も挙げられる。
【0061】
硫化物系固体電解質としては、例えば、Li2S-P25、Li2S-SiS2、LiX-Li2S-SiS2、LiX-Li2S-P25、LiX-Li2O-Li2S-P25、LiX-Li2S-P25、LiX-Li3PO4-P25、及びLi3PS4等が挙げられる。「X」は、ハロゲン元素を示す。
【0062】
酸化物系固体電解質としては、例えばLi6.25La3Zr2Al0.2512、Li3PO4、及びLi3+xPO4-xx(1≦x≦3)等が挙げられる。
固体電解質の形状は、取扱い性が良いという観点から粒子状であることが好ましい。固体電解質の粒子の体積平均粒径(D50)は、特に限定されないが、下限が0.5μm以上であることが好ましく、上限が2μm以下であることが好ましい。
【0063】
導電材としては、公知のものを用いることができ、例えば、炭素材料、及び金属粒子等が挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラックやファーネスブラック等のカーボンブラック、カーボンナノチューブ、及び、カーボンナノファイバーからなる群より選ばれる少なくとも一種を挙げることができ、中でも、電子伝導性の観点から、カーボンナノチューブ、及び、カーボンナノファイバーからなる群より選ばれる少なくとも一種が好ましい。当該カーボンナノチューブ、及び、カーボンナノファイバーはVGCF(気相法炭素繊維)であってもよい。金属粒子としては、Ni、Cu、Fe、及びSUS等の粒子が挙げられる。正極活物質層における導電材の含有量は特に限定されるものではない。
【0064】
バインダーとしては、アクリロニトリルブタジエンゴム(ABR)、ブタジエンゴム(BR)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、スチレンブタジエンゴム(SBR)等を例示することができる。正極活物質層におけるバインダーの含有量は特に限定されるものではない。
【0065】
正極活物質層の厚みについては特に限定されるものではない。
正極活物質層は、従来公知の方法で形成することができる。
例えば、正極活物質、及び、必要に応じ他の成分を溶媒中に投入し、撹拌することにより、正極活物質層用スラリーを作製し、当該正極活物質層用スラリーを正極集電体等の支持体の一面上に塗布して乾燥させることにより、正極活物質層が得られる。
【0066】
溶媒は、例えば酢酸ブチル、酪酸ブチル、ヘプタン、及びN-メチル-2-ピロリドン等が挙げられる。
正極集電体等の支持体の一面上に正極活物質層用スラリーを塗布する方法は、特に限定されず、ドクターブレード法、メタルマスク印刷法、静電塗布法、ディップコート法、スプレーコート法、ロールコート法、グラビアコート法、及びスクリーン印刷法等が挙げられる。
【0067】
支持体としては、自己支持性を有するものを適宜選択して用いることができ、特に限定はされず、例えばCu及びAlなどの金属箔等を用いることができる。
また、正極活物質層の形成方法の別の方法として、正極活物質及び必要に応じ他の成分を含む正極合剤の粉末を加圧成形することにより正極活物質層を形成してもよい。正極合剤の粉末を加圧成形する場合には、通常、1MPa以上600MPa以下程度のプレス圧を負荷する。
【0068】
加圧方法としては、特に制限されないが、例えば、平板プレス、及びロールプレス等を用いて圧力を付加する方法等が挙げられる。
正極集電体としては、全固体電池の集電体として使用可能な公知の金属を用いることができる。そのような金属としては、Cu、Ni、Al、V、Au、Pt、Mg、Fe、Ti、Co、Cr、Zn、Ge、及びInからなる群から選択される一又は二以上の元素を含む金属材料を例示することができる。
【0069】
正極集電体の形態は特に限定されるものではなく、箔状、及びメッシュ状等、種々の形態とすることができる。
正極の全体としての形状は特に限定されるものではないが、シート状であってもよい。この場合、正極の全体としての厚みは特に限定されるものではなく、目的とする性能に応じて、適宜決定すればよい。
【0070】
正極活物質層中の正極活物質の含有量は、好ましくは20~80体積%、より好ましくは30~70体積%である。
正極活物質の含有量が前記範囲にあると、正極活物質が好適に機能し、エネルギー密度の高い電池を容易に得ることができる傾向にある。
【0071】
・添加剤
前記導電助剤の好適例としては、Ag、Au、Pd、Pt、Cu、Snなどの金属材料、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどの炭素材料が挙げられる。
【0072】
前記焼結助剤としては、前記化合物(b)と同様の化合物、ニオブ原子を含む化合物、ビスマス原子を含む化合物、ケイ素原子を含む化合物が好ましい。
正極活物質層に用いられる添加剤はそれぞれ、1種でもよく、2種以上でもよい。
【0073】
・正極集電体
正極集電体は、その材質が電気化学反応を起こさずに電子を導電するものであれば特に限定されない。正極集電体の材質としては、例えば、銅、アルミニウム、鉄等の金属の単体、これらの金属を含む合金、アンチモンドープ酸化スズ(ATO)、スズドープ酸化インジウム(ITO)などの導電性金属酸化物が挙げられる。
【0074】
なお、正極集電体としては、導電体の表面に導電性接着層を設けた集電体を用いることもできる。該導電性接着層としては、例えば、粒状導電材や繊維状導電材などを含む層が挙げられる。
【0075】
<負極>
負極は負極活物質を有すれば特に制限されないが、好ましくは、負極集電体と負極活物質層とを有する負極が挙げられる。
【0076】
[負極活物質層]
負極活物質層は、負極活物質を含めば特に制限されないが、負極活物質と固体電解質とを含むことが好ましく、さらに、導電助剤や焼結助剤等の添加剤を含んでいてもよい。
負極活物質層の厚さは、特に限定されないが、30nm以上5000nm以下であってもよい。
【0077】
・負極活物質
負極活物質としては、例えば、公知のものを用いることが可能であり、具体的には、LiM3PO4[M3は、Mn、Co、Ni、Fe、Al、TiおよびVからなる群より選ばれる1種以上の元素、またはVおよびOの2元素である。]、LiM5VO4[M5は、Fe、Mn、Co、Ni、AlおよびTiからなる群より選ばれる1種以上の元素である。]、Li2M6P27[M6は、Fe、Mn、Co、Ni、Al、TiおよびVからなる群より選ばれる1種以上の元素、またはVおよびOの2元素である。]、LiVP27、Lix7y7M7z7[2≦x7≦4、1≦y7≦3、0≦z7≦1、1≦y7+z7≦3、M7は、Ti、Ge、Al、GaおよびZrからなる群より選ばれる1種以上の元素である。]、Li1+x8Alx8M82-x8(PO43[0≦x8≦0.8、M8は、TiおよびGeからなる群より選ばれる1種以上の元素である。]、(Li3-a9x9+(5-b9)y9M9x9)(V1-y9M10y9)O4[M9は、Mg、Al、GaおよびZnからなる群より選ばれる1種以上の元素であり、M10は、Zn、Al、Ga、Si、Ge、PおよびTiからなる群より選ばれる1種以上の元素であり、0≦x9≦1.0、0≦y9≦0.6、a9はM9の平均価数、b9はM10の平均価数である。]、LiNb27、Li4Ti512、Li4Ti5PO12、TiO2、LiSiおよびグラファイトからなる群より選ばれる1種以上の化合物を含むことが好ましい。
【0078】
負極活物質層中の負極活物質の含有量は、好ましくは20~80体積%、より好ましくは30~70体積%である。
負極活物質の含有量が前記範囲にあると、負極活物質が好適に機能し、エネルギー密度の高い電池を容易に得ることができる傾向にある。
【0079】
負極活物質層に固体電解質が含まれていてもよい。固体電解質としては本発明の固体電解質を含め、公知のものを挙げることができる。
負極集電体は、Liと合金化しない材料であってもよく、例えばSUS、銅、及び、ニッケル等を挙げることができる。負極集電体の形態としては、例えば、箔状、及び、板状等を挙げることができる。負極集電体の平面視形状は、特に限定されるものではないが、例えば、円状、楕円状、矩形状、及び、任意の多角形状等を挙げることができる。また、負極集電体の厚さは、形状によって異なるものであるが、例えば1μm~50μmの範囲内であり、5μm~20μmの範囲内であってもよい。
【0080】
負極活物質層は、従来公知の方法で形成することができる。
全固体電池は、必要に応じ、正極、負極、及び、固体電解質層を収容する外装体を備える。
【0081】
外装体の材質は、電解質に安定なものであれば特に限定されないが、ポリプロピレン、ポリエチレン、及び、アクリル樹脂等の樹脂等が挙げられる。
全固体電池としては、全固体リチウム二次電池であってもよい。
【0082】
全固体電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型、及び角型等を挙げることができる。
全固体電池の製造方法は特に制限なく、前記各層を積層し、必要に応じて加圧圧縮などを行えばよい。
【実施例
【0083】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例に限定されない。
【0084】
[実施例1]
炭酸リチウム(Li2CO3)(メルク社シグマアルドリッチ製、純度99.0%以上)、五酸化タンタル(Ta25)(富士フイルム和光純薬(株)製、純度99.9%)、ホウ酸(H3BO3)(富士フイルム和光純薬(株)製、純度99.5%以上)、および、リン酸水素二アンモニウム((NH42HPO4)(メルク社シグマアルドリッチ製、純度98%以上)を、リチウム、タンタル、ホウ素およびリンの原子数比(Li:Ta:B:P)が、表1の化学量論式を満たすように秤量した。さらに焼成工程において系外に流出するリチウム原子を考慮し、炭酸リチウムを表1中のリチウム原子量を1.05倍した量となるように秤量し、さらに焼成工程において副生成物の生成を抑制するために、リン酸水素二アンモニウムを表1中のリン原子量を1.06倍した量となるように秤量した。秤量した各原料粉末に、適量のトルエンを加え、ジルコニアボールミル(ジルコニアボール:直径5mm)を用いて2時間粉砕混合し、一次混合物を得た。
【0085】
得られた一次混合物をアルミナボートに入れ、回転焼成炉((株)モトヤマ製)を用い、空気(流量:100mL/分)の雰囲気下、昇温速度10℃/分の条件で1000℃まで昇温し、該温度において4時間焼成を行い、一次焼成物を得た。
【0086】
得られた一次焼成物に適量のトルエンを加え、ジルコニアボールミル(ジルコニアボール:直径1mm)を用いて2時間粉砕混合し、二次混合物を得た。
錠剤成形機を用い、得られた二次混合物に、油圧プレスで40MPaの圧力をかけることで、直径10mm、厚さ1mmの円盤状成形体を形成し、次いでCIP(冷間静水等方圧プレス)により、円盤状成形体に300MPaの圧力をかけることでペレットを作製した。
【0087】
得られたペレットをアルミナボートに入れ、回転焼成炉((株)モトヤマ製)を用い、空気(流量:100mL/分)の雰囲気下、昇温速度10℃/分の条件で850℃まで昇温し、該温度において96時間焼成を行い、焼結体を得た。
得られた焼結体を室温まで降温後、回転焼成炉から取り出し、除湿された窒素ガス雰囲気下に移して保管し、固体電解質を得た。
【0088】
[実施例2~4]
リチウム、タンタル、ホウ素およびリンの原子数比が表1の化学量論式を満たすように、原材料の混合比を変更した以外は、実施例1と同様にして、固体電解質を作製した。
【0089】
[実施例5および6]
実施例1において、五酸化ニオブ(Nb25)(富士フイルム和光純薬(株)製、純度99.9%)をさらに用い、リチウム、タンタル、ニオブ、ホウ素およびリンの原子数比(Li:Ta:Nb:B:P)が、表1の化学量論式を満たすように各原料粉末を用いた以外は、実施例1と同様にして、固体電解質を作製した。
【0090】
[実施例7]
実施例1において、二酸化ケイ素(SiO2)(富士フイルム和光純薬(株)製、純度99.9%)をさらに用い、リチウム、タンタル、ホウ素、リンおよびケイ素の原子数比(Li:Ta:B:P:Si)が、表1の化学量論式を満たすように各原料粉末を用いた以外は、実施例1と同様にして、固体電解質を作製した。
【0091】
[比較例1]
炭酸リチウム(Li2CO3)(メルク社シグマアルドリッチ製、純度99.0%以上)、五酸化タンタル(Ta25)(富士フイルム和光純薬(株)製、純度99.9%)、および、リン酸水素二アンモニウム((NH42HPO4)(メルク社シグマアルドリッチ製、純度98%以上)を、リチウム、タンタルおよびリンの原子数比(Li:Ta:P)が、表1の化学量論式を満たすように各原料粉末を用いた以外は、実施例1と同様にして、固体電解質を作製した。
【0092】
[比較例2]
二酸化ケイ素(SiO2)(富士フイルム和光純薬(株)製、純度99.9%)をさらに用い、リチウム、タンタル、リンおよびケイ素の原子数比(Li:Ta:P:Si)が、表1の化学量論式を満たすように各原料粉末を用いた以外は、比較例1と同様にして、固体電解質を作製した。
【0093】
[比較例3]
五酸化ニオブ(Nb25)(富士フイルム和光純薬(株)製、純度99.9%)をさらに用い、リチウム、タンタル、ニオブおよびリンの原子数比(Li:Ta:Nb:P)が、表1の化学量論式を満たすように各原料粉末を用いた以外は、比較例1と同様にして、固体電解質を作製した。
【0094】
[比較例4]
炭酸リチウム(Li2CO3)(メルク社シグマアルドリッチ製、純度99.0%以上)、五酸化タンタル(Ta25)(富士フイルム和光純薬(株)製、純度99.9%)、および、リン酸水素二アンモニウム((NH42HPO4)(メルク社シグマアルドリッチ製、純度98%以上)を、リチウム、タンタルおよびリンの原子数比(Li:Ta:P)が、1.05:2.00:1.06を満たすように秤量した。秤量した各原料粉末に、適量のトルエンを加え、ジルコニアボールミル(ジルコニアボール:直径5mm)を用いて2時間粉砕混合し、一次混合物を得た。
【0095】
得られた一次混合物をアルミナボートに入れ、回転焼成炉((株)モトヤマ製)を用い、空気(流量:100mL/分)の雰囲気下、昇温速度10℃/分の条件で1000℃まで昇温し、該温度において4時間焼成を行い、一次焼成物を得た。
【0096】
得られた一次焼成物と、公知の製造方法で得たLi425とを、モル比が0.85:0.15となるように秤量した。秤量した各粉末を、メノウ乳鉢を用いて30分間粉砕混合し、二次混合物を得た。
【0097】
錠剤成形機を用い、得られた二次混合物に、油圧プレスで40MPaの圧力をかけることで、直径10mm、厚さ1mmの円盤状成形体を形成し、次いでCIP(冷間静水等方圧プレス)により、円盤状成形体に300MPaの圧力をかけることでペレットを作製した。
【0098】
得られたペレットをアルミナボートに入れ、回転焼成炉((株)モトヤマ製)を用い、空気(流量:100mL/分)の雰囲気下、昇温速度10℃/分の条件で850℃まで昇温し、該温度において96時間焼成を行い、焼結体を得た。
得られた焼結体を室温まで降温後、回転焼成炉から取り出し、除湿された窒素ガス雰囲気下に移して保管し、固体電解質を得た。
【0099】
<X線回折(XRD)>
得られた固体電解質を、メノウ乳鉢を用いて30分解砕し、XRD測定用の粉末を得た。
【0100】
粉末X線回折測定装置パナリティカルMPD(スペクトリス(株)製)を用い、得られたXRD測定用の粉末をX線回折測定(Cu-Kα線(出力:45kV、40mA)、回折角2θ=10~50°の範囲、ステップ幅:0.013°、入射側Sollerslit:0.04rad、入射側Anti-scatter slit:2°、受光側Sollerslit:0.04rad、受光側Anti-scatter slit:5mm)を行い、X線回折(XRD)図形を得た。得られたXRD図形を、公知の解析ソフトウェアRIETAN-FP(作成者;泉富士夫のホームページ「RIETAN-FP・VENUS システム配布ファイル」(http://fujioizumi.verse.jp/download/download.html)から入手することができる。)を用いてリートベルト解析を行うことで、含まれる結晶構造を確認し、単斜晶のa、b、c軸長、軸角β、単位格子の体積Vおよび含有率を算出した。算出した単斜晶のa、b、c軸長、軸角β、単位格子の体積Vおよび含有率を表1に併せて記す。
【0101】
実施例3および比較例1で得られた固体電解質のXRD図形を図1に示す。
図1から、比較例1では、LiTa2PO8の単斜晶の結晶構造に由来するピークのみが観測された。実施例3で得られた固体電解質では、LiTa2PO8構造に由来するピークに加え、LiTa38(ICSDコード:493)に由来するピークとTa25(ICSDコード:66366)に由来するピークが観測された。
【0102】
実施例で得られた固体電解質の各XRD図形には、比較例1の固体電解質のXRD図形と同様の回折パターンがそれぞれ確認されたが、リートベルト解析により算出した単斜晶のa、b、c軸長および単位格子の体積Vが比較例よりも小さくなった。本固体電解質においては、リチウム、タンタル、リンおよび酸素を構成元素として構成される、単斜晶の結晶構造の格子内に、ホウ素原子が含まれると考えられる。
【0103】
比較例4で得られた固体電解質の各XRD図形には、比較例1の固体電解質のXRD図形と同様の回折パターンがそれぞれ確認され、リートベルト解析により算出した単斜晶のa、b、c軸長および単位格子の体積Vが比較例1と同水準であった。本固体電解質においては、リチウム、タンタル、リンおよび酸素を構成元素として構成される、単斜晶の結晶構造の格子内に、ホウ素原子が含まれていないと考えられる。
【0104】
<電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)>
得られた固体電解質を切断し、イオンミリング法(CP加工、加速電圧:6kV、加工時間:8時間)によって断面出しを行った。
【0105】
EPMA装置JMX-8530F(日本電子製)を用い、得られた固体電解質の断面のEPMA測定(加速電圧:10kV、照射電流:1×10-7A)を行い、二次電子像とホウ素マッピング画像を得た。
【0106】
実施例3で得られた固体電解質のEPMAによる二次電子像とホウ素マッピング画像を図2に示す。二次電子像において、灰色中間色にあたる部分が単斜晶であり、黒色および白色部分が結晶粒界を示す。ホウ素マッピングにおいて、ホウ素原子の含有量が多い部分は白色で、少ない部分は黒色で示されている。
図2より、ホウ素原子は結晶粒界に多く存在することが分かる。
【0107】
<トータル伝導度>
得られた固体電解質の両面に、スパッタ機を用いて金層を形成することで、イオン伝導度評価用の測定ペレットを得た。
【0108】
得られた測定ペレットを、測定前に25℃の恒温槽に2時間保持した。次いで、25℃において、インピーダンスアナライザー(ソーラトロンアナリティカル社製、型番:1260A)を用い、振幅25mVの条件で、周波数1Hz~10MHzの範囲におけるACインピーダンス測定を行った。得られたインピーダンススペクトルを、装置付属の等価回路解析ソフトウェアZViewを用いて等価回路でフィッティングして、結晶粒内および結晶粒界における各リチウムイオン伝導度を求め、これらを合計することで、トータルイオン伝導度を算出した。結果を表1に併せて示す。
【0109】
【表1】
【0110】
表1から、本発明のリチウムイオン伝導性固体電解質は、イオン伝導性に優れていることが分かる。
図1
図2