(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】発泡シート、発泡シートの製造方法、及び成型体
(51)【国際特許分類】
C08J 9/04 20060101AFI20240903BHJP
B29C 44/00 20060101ALI20240903BHJP
B29C 44/36 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
C08J9/04 101
C08J9/04 CFD
B29C44/00 E
B29C44/36
(21)【出願番号】P 2023030405
(22)【出願日】2023-02-28
【審査請求日】2023-06-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【氏名又は名称】廣田 浩一
(72)【発明者】
【氏名】廣川 悠哉
(72)【発明者】
【氏名】熊井 秀充
(72)【発明者】
【氏名】森本 一弘
(72)【発明者】
【氏名】田村 里彩
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-142625(JP,A)
【文献】国際公開第2011/068081(WO,A1)
【文献】特開2009-235316(JP,A)
【文献】特開2012-041400(JP,A)
【文献】特開2001-098104(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0836496(KR,B1)
【文献】特開2007-246610(JP,A)
【文献】特開2022-042177(JP,A)
【文献】特開2021-134348(JP,A)
【文献】特開2016-190950(JP,A)
【文献】特開2006-348060(JP,A)
【文献】特開2006-328318(JP,A)
【文献】特開2022-159976(JP,A)
【文献】特開2022-164470(JP,A)
【文献】特許第7392881(JP,B1)
【文献】特開2023-143672(JP,A)
【文献】特開2023-143671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C44/00-44/60
67/20
C08J9/00-9/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸樹脂を含有する組成物からなる発泡シートであって、
前記ポリ乳酸樹脂は、該ポリ乳酸樹脂の構成モノマー単位である乳酸のD体又は乳酸のL体のいずれか一方が該ポリ乳酸樹脂中98モル%以上であり、
前記発泡シートにおける有機物の総量に対する前記ポリ乳酸樹脂の含有量が98質量%以上であり、
前記発泡シートのかさ密度が0.063g/cm
3以上0.250g/cm
3以下であり、
前記発泡シートの厚み方向、かつ、前記発泡シートの押出方向に直行する方向の断面から見た、前記発泡シートの少なくとも一方の表面の、前記発泡シートの押出方向に直行する方向の形状について、JIS B 0601:2013に準拠して算出した算術平均粗さRaと、JIS B 0601:2013に準拠して算出した粗さ曲線要素の平均長さRSmとの比[Ra/RSm]が0.050以下であることを特徴とする発泡シート。
【請求項2】
前記比[Ra/RSm]が0.030以下である、請求項1に記載の発泡シート。
【請求項3】
前記発泡シートのかさ密度が0.063g/cm
3以上0.125g/cm
3以下である、請求項1又は2に記載の発泡シート。
【請求項4】
前記発泡シートがエポキシ基を有する化合物を含有し、
前記エポキシ基を有する化合物のエポキシ当量が250以上350以下であり、
前記エポキシ基を有する化合物の重量平均分子量(Mw)が10,000以上20,000以下である、請求項1に記載の発泡シート。
【請求項5】
前記発泡シートの発泡径がメジアン径で800μm以下である、請求項1に記載の発泡シート。
【請求項6】
ポリ乳酸樹脂を含有する組成物からなる発泡シートであって、
前記ポリ乳酸樹脂は、該ポリ乳酸樹脂の構成モノマー単位である乳酸のD体又は乳酸のL体のいずれか一方が該ポリ乳酸樹脂中98モル%以上であり、
前記発泡シートにおける有機物の総量に対する前記ポリ乳酸樹脂の含有量が98質量%以上であり、
前記発泡シートのかさ密度が0.063g/cm
3
以上0.250g/cm
3
以下であり、
前記発泡シートの厚み方向、かつ、前記発泡シートの押出方向に直行する方向の断面から見た、前記発泡シートの少なくとも一方の表面の、前記発泡シートの押出方向に直行する方向の形状について、JIS B 0601:2013に準拠して算出した算術平均粗さRaと、JIS B 0601:2013に準拠して算出した粗さ曲線要素の平均長さRSmとの比[Ra/RSm]が0.050以下であり、
前記発泡シートは冷結晶化エンタルピーが20J/g以上である
ことを特徴とする発泡シート。
【請求項7】
請求項1
又は6に記載の発泡シートを熱成型してなることを特徴とする成型体。
【請求項8】
請求項1
又は6に記載の発泡シートの製造方法であって、
ポリ乳酸樹脂を含有する組成物を、該ポリ乳酸樹脂を含有する組成物100質量部に対して、2質量部以上5質量部以下の発泡剤の存在下で混練する工程と、
前記ポリ乳酸樹脂を含有する組成物から前記発泡剤を気化して前記ポリ乳酸樹脂を含有する組成物を発泡させる工程と、
を含むことを特徴とする発泡シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発泡シート、発泡シートの製造方法、及び成型体に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは、袋、容器など様々な製品形状に加工され広く流通している。しかし、プラスチック製品は、自然界で分解されにくい性質を有しているため、使用後の廃棄処理が問題となっている。近年、環境意識の高まりから、プラスチック製品について、自然界で分解されにくい非生分解性プラスチックから、自然界で分解されやすい生分解性バイオマスプラスチックへ置き換えるための材料開発が盛んに行われている。
【0003】
生分解性バイオマスプラスチックの中でもポリ乳酸樹脂は、プラスチックとして従来使用されているポリスチレンなどと性質が似ていることから、非分解性プラスチックの代替材料として注目されている。ポリスチレンの利用形態の1つに、ポリスチレンを発泡させることで、軽量性、緩衝性、断熱性等の機能を付与した発泡ポリスチレンがあり、広く用いられている。このような発泡ポリスチレンの環境に配慮した代替素材として、生分解性プラスチックであるポリ乳酸樹脂を用いた発泡ポリ乳酸も提案されている(例えば、特許文献1~4参照)。
【0004】
一般に、ポリ乳酸樹脂はガラス転移温度(約60℃)が低いことに起因して、ポリ乳酸樹脂を食品用容器に適用する場合、耐熱性が低いことが指摘されているが、成型過程でポリ乳酸樹脂の結晶化度を高めることで耐熱性を向上することが確認されている(特許文献5及び6参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、成型性、耐熱性、断熱性、及び生分解性に優れる発泡シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための手段としての本発明の発泡シートは、ポリ乳酸樹脂を含有する組成物からなる発泡シートであって、前記ポリ乳酸樹脂は、該ポリ乳酸樹脂の構成モノマー単位である乳酸のD体又は乳酸のL体のいずれか一方が該ポリ乳酸樹脂中98モル%以上であり、前記発泡シートにおける有機物の総量に対する前記ポリ乳酸樹脂の含有量が98質量%以上であり、前記発泡シートのかさ密度が0.063g/cm3以上0.250g/cm3以下であり、前記発泡シートの厚み方向、かつ、前記発泡シートの押出方向に直行する方向の断面から見た、前記発泡シートの少なくとも一方の表面の、前記発泡シートの押出方向に直行する方向の形状について、JIS B 0601:2013に準拠して算出した算術平均粗さRaと、JIS B 0601:2013に準拠して算出した粗さ曲線要素の平均長さRSmとの比[Ra/RSm]が0.050以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、成型性、耐熱性、断熱性、及び生分解性に優れる発泡シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の発泡シートの断面のTD方向の最表面形状を説明する概略模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の発泡シートの製造方法に用いる連続式混練装置の一例を示す概略説明図である。
【
図3】
図3は、本発明の発泡シートの製造方法に用いるタンデム型の連続式発泡シート製造装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の発泡シート、発泡シートの製造方法、及び成型体について詳細に説明する。なお、本発明は、以下に示す実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態、追加、修正、又は削除などの当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用及び効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【0010】
(発泡シート)
本発明の発泡シートは、ポリ乳酸樹脂を含有する組成物(以下、「ポリ乳酸樹脂組成物」と称することがある)からなる発泡シートであって、前記ポリ乳酸樹脂は、該ポリ乳酸樹脂の構成モノマー単位である乳酸のD体又は乳酸のL体のいずれか一方が該ポリ乳酸樹脂中98モル%以上であり、前記発泡シートにおける有機物の総量に対する前記ポリ乳酸樹脂の含有量が98質量%以上であり、前記発泡シートのかさ密度が0.063g/cm3以上0.250g/cm3以下であり、前記発泡シートの厚み方向、かつ、前記発泡シートの押出方向に直行する方向の断面から見た、前記発泡シートの少なくとも一方の表面の、前記発泡シートの押出方向に直行する方向の形状について、JIS B 0601:2013に準拠して算出した算術平均粗さRaと、JIS B 0601:2013に準拠して算出した粗さ曲線要素の平均長さRSmとの比[Ra/RSm]が0.050以下である。
【0011】
なお、本発明において、「発泡シートの押出方向」を「MD(machine dirrection)方向」、「発泡シートの押出方向に直行する方向」を「TD(transverse dirrection)方向」と称することがある。前記発泡シートのTD方向は、前記発泡シートの幅方向と同義である。
【0012】
本発明者らは、断熱性や軽量化などの機能を高めるために発泡シートの発泡倍率を高めようとした場合、つまり、かさ密度の低い発泡シートを作製した場合に、発泡シート製造時に該発泡シートの表面にコルゲート状のしわが発生することがあること、そして、発泡シートの表面のコルゲート状のしわがある場合、容器形状に発泡シートを成型する場合には、コルゲート状のしわ部分が破れるなどの成型不良が起きてしまうという課題を見出した。
【0013】
このような課題に対し、本発明者らは鋭意検討を行い、上記構成を有することにより、耐熱性、断熱性、及び生分解性に優れ、かつ食品用容器等の容器形状に成型する際に破れなどの成型不良を起こさない成型性に優れる発泡シートを提供することができることを見出した。
【0014】
本発明の発泡シートはポリ乳酸樹脂組成物からなるため、本発明の発泡シートは、「ポリ乳酸発泡シート」、「発泡ポリ乳酸組成物シート」などと称してもよい。詳細は後述するが、本発明の発泡シートは良好な耐熱性を有し、例えば耐熱食品容器としても使用することが可能となる。
なお、本発明の発泡シートは、ポリ乳酸樹脂組成物を発泡させ、シート状にしたものを意味する。
【0015】
[発泡シートの物性]
前記発泡シートは、前記ポリ乳酸樹脂組成物を発泡して得られることから、前記発泡シートの熱履歴や形体を特徴付ける物性を除いて、前記発泡シートの物性と前記ポリ乳酸樹脂組成物の物性は同義である。詳細は後述するが、前記発泡シートの熱履歴を特徴付ける物性としては冷結晶化エンタルピーがあり、形体を特徴付ける物性としては、かさ密度、発泡径、坪量、Ra、RSmがある。
【0016】
-かさ密度-
前記発泡シートのかさ密度は、0.063g/cm3以上0.250g/cm3以下であり、0.063g/cm3以上0.125g/cm3以下であることが好ましく、0.063g/cm3以上0.098g/cm3以下であることがより好ましい。前記発泡シートのかさ密度が0.063g/cm3未満であると、成型性が悪化し、0.250g/cm3を超えると、断熱性が不十分となる。一方、前記発泡シートのかさ密度を0.063g/cm3以上0.250g/cm3以下にすることで、断熱効果の高い気泡を多く含んだ発泡シートとなり、高い断熱性に繋がる。
【0017】
前記発泡シートのかさ密度は、前記発泡シートを製造する際の発泡温度、発泡剤の量、ダイの種類などで発泡倍率を変えることにより調整可能である。具体的には、前記発泡シートを製造する際の発泡温度を低くする、前記発泡剤の量を多くする、前記ダイとしてサーキュラーダイを用いるなどの方法を取ることで発泡倍率が上がるため、前記発泡シートのかさ密度を小さくすることができる。
【0018】
本発明における発泡シートのかさ密度は、次のようにして測定した値である。
前記発泡シートを温度23℃、相対湿度50%に調整された環境下で24時間以上静置し、50mm×50mmの試験片を切り出す。切り出した試験片に対して、自動比重計(例えば、株式会社東洋精機製作所製のDSG-1など)を用い、液中秤量法を用いてかさ密度を求める。
液中秤量法においては、前記発泡シートの試験片の大気中の質量(g)を精秤し、次いで発泡シートの試験片の水中での質量(g)を精秤し、下記式(1)により算出することができる。
かさ密度[g/cm3]=水の密度[g/cm3]×大気中の試験片の質量[g]/(大気中の試験片の質量[g]-液体中の試験片の質量[g]) ・・・ 式(1)
【0019】
-発泡径(メジアン径)-
前記発泡シートの発泡径としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、メジアン径で、1,220μm以下が好ましく、800μm以下がより好ましく、500μm以下が更に好ましい。前記発泡シートの発泡径(メジアン径)を1,220μm以下にすることで、気泡内の対流が抑えられ、熱伝導が低下し断熱性が向上し、800μm以下にすることで、更に断熱性が向上する。
【0020】
前記発泡シートの発泡径(メジアン径)の測定方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
例えば、前記発泡シートを鋭利なカミソリ(例えば、日新EM株式会社製の76カミソリなど)を用いて断面切削を行い、走査電子顕微鏡(SEM)(例えば、KEYENCE社製の3Dリアルサーフェスビュー顕微鏡 VE-9800)を用い、発泡シート断面のSEM観察を行う。拡大倍率は、後述の画像解析に適する画像が得られるように、観察範囲の気泡数が数十~数百個になるように調整する(100μm程度の発泡径であれば、例えば50倍)。必要に応じて、複数の視野を撮影し、画像を連結させて画像解析に供してもよい。得られた画像は、例えば、画像解析ソフト(例えば、ImageJのMorphoLibJプラグイン)を用い、watershed法(Morphological segmetation)による領域分割を行う。この際、Toleranceは分割が妥当になるように画像毎に調整する(例えば60等)。領域の分割線を2値画像として出力し、画像解析ソフトの粒子径解析機能により気泡面積の分布を求める。この際、画像端部に接する気泡は解析から除外する。気泡面積の累積分布を表計算ソフト等で作成し、累積分布が50%になる面積を求め、該面積の円相当径を計算し発泡径(メジアン径)として用いる。
【0021】
-坪量-
前記発泡シートの坪量としては、特に制限はなく、用途に応じて適宜選択することができるが、前記発泡シートを食品包装容器として用いる場合は、100g/m2以上300g/m2以下が好ましく、140g/m2以上280g/m2以下がより好ましく、250g/m2以上280g/m2以下が更に好ましい。前記発泡シートの坪量が100g/m2以上300g/m2以下であると、軽量性と強度を両立した発泡シートを得られる傾向にある。
【0022】
本発明における前記発泡シートの坪量の測定方法としては、特に限定されないが、例えば以下のようにして測定することができる。
前記発泡シートを温度23℃、相対湿度50%に調整された環境下で24時間以上静置し、50mm×50mmの試験片を切り出す。前記試験片の質量を天秤で測定する。測定した質量をから下記式(2)により坪量を算出することができる。前記発泡シートの坪量は、該発泡シートの押出方向(MD方向)と、MD方向に対して直行する方向(TD方向)にそれぞれ3点以上測定を行い、この3点の算術平均値とする。
坪量[g/m2]=測定質量[g]/(0.05m×0.05m) ・・・ 式(2)
【0023】
-発泡シートの最表面形状-
前記発泡シートの厚み方向かつTD方向の断面から見た、該発泡シートの少なくとも一方の表面のTD方向の形状は、上述の通り、該発泡シートの成型時の破れなどの成型不良に大きく影響を与える。特に、発泡シートの表面にコルゲート状のしわがある場合、該発泡シートの成型時に成型不良が起きやすい。これに対し、本発明の発泡シートの表面はコルゲート状のしわの起伏が非常に少ないものである。
【0024】
--比[Ra/RSm]--
前記発泡シートの表面のコルゲート状のしわは、前記発泡シートの厚み方向、かつ、前記発泡シートの押出方向に直行する方向(TD方向)の断面から見た、前記発泡シートの少なくとも一方の表面の、前記発泡シートの押出方向に直行する方向(TD方向)の形状について、JIS B 0601:2013(製品の幾何特性仕様(GPS)-表面性状:輪郭曲線方式-用語,定義及び表面性状パラメータ)に準拠して算出した算術平均粗さRaと、JIS B 0601:2013に準拠して算出した粗さ曲線要素の平均長さRSmとの比[Ra/RSm]で表すことができる。
【0025】
前記発泡シートの厚み方向かつTD方向の断面から見た、該発泡シートの少なくとも一方の表面のTD方向の形状について、図面を用いて具体的に説明する。
図1は、本発明の発泡シートの厚み方向かつTD方向の断面から見た、該発泡シートの少なくとも一方の表面のTD方向の形状の概略説明図(斜視図)である。
図1において、上下方向が発泡シート200の厚み方向を示し、左右方向が発泡シート200のTD方向を示し、奥行き方向が発泡シート200のMD方向を示す。発泡シート200の厚み方向かつTD方向の断面201から見た、発泡シート200の一方の表面(最表面)202の輪郭形状は、太線で示すように、コルゲート状のしわ(波型の凹凸、波型の周期的な起伏)を有する。なお、ここでは、発泡シート200の一方の表面(最表面)202について説明したが、発泡シート200の他方の表面(最表面)についても同様の形状を有する。
【0026】
以下、本明細書において、前記発泡シートの厚み方向かつTD方向の断面から見た、該発泡シートの少なくとも一方の表面のTD方向の形状を「発泡シートの断面のTD方向の最表面形状」と称することがある。
【0027】
前記発泡シートの断面のTD方向の最表面形状について、JIS B 0601:2013に準拠して算出した算術平均粗さRaと、JIS B 0601:2013に準拠して算出した粗さ曲線要素の平均長さRSmとの比[Ra/RSm]は、0.050以下であるが、0.030以下が好ましく、0.021以下がより好ましい。前記比[Ra/RSm]が0.050以下であることは、前記発泡シートの断面のTD方向の最表面においてコルゲート状のしわの起伏が非常に少ないことを示しており、該発泡シートの成型時に破れの起点となる部分が少なく成型不良を抑制することができる。一方、前記比[Ra/RSm]が0.050超であると、前記発泡シートの断面のTD方向の最表面においてコルゲート状のしわの起伏が非常に多いことを示し、該発泡シートの成型時に破れの起点となる部分が多く、成型不良となる。
【0028】
--算術平均粗さRa--
前記発泡シートの断面のTD方向の最表面形状について、JIS B 0601:2013に準拠して算出した算術平均粗さRa(以下、「算術平均粗さRa」と略記することがある)は、前記発泡シートのコルゲート状のしわの起伏の大きさと相関する。前記算術平均粗さRaが大きな数値になると、より前記発泡シートのコルゲート状のしわが強く出ており、前記発泡シートを成型する際の破れの起点になりやすく、成型不良に繋がる。
【0029】
前記算術平均粗さRaとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.15mm以下が好ましく、0.08mm以下がより好ましい。前記算術平均粗さRaを0.15mm以下にすることで、前記発泡シートの成型時の成型不良を抑制することができる。
【0030】
--粗さ曲線要素の平均長さRSm--
前記発泡シートの断面のTD方向の最表面形状について、JIS B 0601:2013に準拠して算出した粗さ曲線要素の平均長さRSm(以下、「粗さ曲線要素の平均長さRSm」と略記することがある)は、前記発泡シートのコルゲート状のしわの周期を示している。前記粗さ曲線要素の平均長さRSmが小さい時、前記発泡シートのコルゲート状のしわ発生の周期が短く、より急峻な凹凸となり、前記発泡シートを成型する際の破れの起点になりやすく、成型不良に繋がる。
【0031】
前記粗さ曲線要素の平均長さRSmとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、4.0mm以上が好ましく、5.0mm以上がより好ましい。前記粗さ曲線要素の平均長さRSmを4.0mm以上とすることで、前記発泡シートの成型時の成型不良を抑制することができる。
【0032】
本発明における前記発泡シートの断面のTD方向の最表面形状は、レーザー顕微鏡や3次元計測器などを用いて測定することができ、前記算術平均粗さRa及び前記粗さ曲線要素の平均長さRSmは、前記発泡シートの断面のTD方向の最表面形状を計測したレーザー顕微鏡や3次元計測器などの付属のソフトから算出することができる。測定装置及び測定条件としては、特に限定されないが、例えば下記測定方法が挙げられる。
【0033】
まず、測定用試料の調製方法として、前記発泡シートのTD方向の中央部を5cm×5cmの正方形に切り出し、レーザー顕微鏡や3次元計測器のステージに両面テープなどで発泡シートが浮かないよう固定する。
【0034】
前記発泡シートの成型時の成型不良に影響するのは、特に、前記発泡シートの断面のTD方向の最表面形状における周期が短く高低差が大きな応答うねりである。一方、前記発泡シートの断面のTD方向の最表面形状において、周期の長いうねりは、該発泡シートの成型時の成型不良に大きく影響しない。したがって、前記算術平均粗さRa及び前記粗さ曲線要素の平均長さRSmに対する大きなうねりの影響を排除して測定を行うことが好ましい。本発明においては、前記粗さ曲線要素の平均長さRSmを評価した際に、10mm以上の数値が計測される場合には、うねりのカットオフ(λc)を10mmに設定して計測を行う。
【0035】
本発明において、前記発泡シートの前記算術平均粗さRa及び前記粗さ曲線要素の平均長さRSmは、JIS B 0601:2013に準拠して算出した値であるが、具体的には、下記測定装置及び測定条件で、前記発泡シートの断面のTD方向の最表面形状を観察し、付属のソフトを用いて、前記算術平均粗さRa及び前記粗さ曲線要素の平均長さRSmを算出することができる。なお、本発明において、前記算術平均粗さRa及び前記粗さ曲線要素の平均長さRSmは、前記測定用試料の調製の際に、前記発泡シートから切り出す場所を変えて3個以上の測定用試料を作製し、合計3回以上の測定結果の平均値を用いる。
[[測定装置及び測定条件]]
・ 装置:3次元計測器 VR-3200(Keyence社製)
・ 観察倍率:12倍
・ 測定モード:スタンダード
・ 測定方向:両側
・ 測定用明るさ調整:オート(設定値:80)
・ 基準面設定:画面のx方向、y方向のそれぞれを選択して実施
【0036】
-冷結晶化エンタルピー-
前記発泡シートの冷結晶化エンタルピーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、20J/g以上が好ましく、30J/g以上がより好ましい。なお、前記発泡シートの冷結晶化エンタルピーが20J/g以上であり、前記発泡シートの再結晶化エンタルピーが20J/g以上であることは、前記発泡シートの結晶化速度は速いが、結晶化の余地を十分に残していることを意味している。
【0037】
熱成型では前記発泡シートをガラス転移温度以上の温度で延伸するが、前記発泡シートの結晶化度が高くなるにつれて該発泡シートの破断伸びが小さくなる傾向にある。前記発泡シートの冷結晶化エンタルピーが20J/g以上であると、熱成型時に前記発泡シートが伸びずに成型品に破れが生じたり、金型に追従できずに賦形が甘くなる不具合を防止したりすることができる。前記発泡シートの冷結晶化エンタルピーの上限値としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、概ね50J/g以下である。
【0038】
前記発泡シートの冷結晶化エンタルピーは、前記発泡シートの製造装置全体の温度を適切に設定することや、押し出した発泡シートの冷却することで前記好ましい範囲内に調整することができる。前記発泡シート中の発泡剤の濃度や前記ポリ乳酸樹脂を含有する組成物にも拠るが、前記発泡シートの製造装置の最低温度を前記ポリ乳酸樹脂の融点から-20℃の範囲内に設定し、押し出した発泡シートを急冷することで、前記発泡シートの冷結晶化エンタルピーを前記好ましい範囲内に調整できる傾向にある。
【0039】
前記発泡シートの冷却方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができ、例えば、後述する発泡シートの製造方法において、ダイから吐出された筒状の発泡体を冷却したマンドレルに沿わせながら引き取って冷却する方法、筒状の発泡体の外周から冷却用の空気を吹き付ける方法などが挙げられる。
【0040】
本発明において、前記発泡シートの冷結晶化エンタルピーは、JIS K 7122:2012(プラスチックの転移熱測定方法)に準拠した示差走査熱量(DSC)測定から求めることができる。
具体的には、前記発泡シートを5mg~10mg程度とり、65℃に熱したホットプレート上で銅製の丸棒(直径20mm程度、丸棒も同様に65℃に熱しておく)により1秒間~3秒間プレス(500gf程度の荷重に拠る)して平坦化して試料を作製する。この平坦化は、試料と試料パンの熱接触を良くし、精度良く冷結晶化エンタルピーを測定するために行う。この試料を、下記測定装置及び測定条件にて測定し、下記解析方法で解析する。なお、本発明において、冷結晶化エンタルピーは、試料の調製から解析までを5回行って得られた結果の算術平均を用いる。
[[測定装置及び測定条件]]
・ 装置:Q-2000(TAインスツルメント社製)
・ 温度プログラム:10℃/分間の昇温速度で10℃から200℃まで走査する(1st heating)。
・ 冷結晶化エンタルピーの解析:1st heatingの60℃~100℃において観察される結晶化に伴う発熱ピークについて積分により面積を求めて冷結晶化エンタルピーとする。積分のベースラインは、該発熱ピークの前後を結ぶ直線とする。
【0041】
-冷結晶化温度-
前記発泡シートの冷結晶化温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、70℃~100℃が好ましく、75℃~85℃がより好ましい。前記発泡シートの冷結晶化温度が70℃以上であると、成型性の観点で優位であり、100℃以下であると、耐熱性の観点で優位である。
前記発泡シートの冷結晶化温度は、前記発泡シートに含有されるポリ乳酸樹脂の構成モノマー単位である乳酸のD体及び乳酸のL体のいずれか一方のモル比率により調整することができる。
【0042】
前記発泡シートの冷結晶化温度は、JIS K 7121:2012(プラスチックの転移温度測定方法)に準拠した示差走査熱量(DSC)測定から求めることができる。
具体的には、前記発泡シートから切り出した5mg~10mgの試料を、示差走査熱量計装置(例えば、TAインスツルメント社製のQ-2000型)の容器に入れ、10℃から200℃まで昇温速度10℃/分間で昇温する。この際、ガラス転移温度以上の温度域で観測される発熱ピークのピークトップ温度を前記発泡シートの冷結晶化温度として測定することができる。
【0043】
-再結晶化エンタルピー-
本発明において、前記発泡シートの結晶性が高いとは、DSCで測定した再結晶化エンタルピーが20J/g以上であることを意味する。前記発泡シートの再結晶化エンタルピーが20J/g以上であると、前記発泡シートの熱成型時に金型上での結晶化による形状の固定や、成型品への耐熱性の付与が現実的な成型時間で可能になり、熱成型性に優れた発泡シートとすることができる。
【0044】
前記発泡シートの再結晶化エンタルピーの上限値としては、特に制限はないが、本発明における前記発泡シートにおいては、概ね40J/g~50J/gである。前記発泡シートの再結晶化エンタルピーは、前記ポリ乳酸樹脂の光学純度を高くする方法や、結晶核剤となるような成分を添加する方法(結晶核の発生を促進する方法)、結晶化促進剤となるような成分を添加する方法(結晶核の成長を促進する方法)、鎖伸長剤(架橋剤)としてエポキシ基を有する(メタ)アクリルモノマー及びスチレンモノマー(エポキシ官能性(メタ)アクリル-スチレン系鎖伸長剤)を用いる方法などにより調整することができる。これらの中でも、前記ポリ乳酸樹脂組成物の発泡性を阻害せず、前記発泡シートのリサイクル性、環境適性、及びコストの観点から、前記ポリ乳酸樹脂の光学純度を高くすること、及び前記エポキシ官能性(メタ)アクリル-スチレン系鎖伸長剤を用いる方法を併用することで、前記発泡シートの再結晶化エンタルピーを調整することが好ましい。
【0045】
一方、このような結晶性に優れたポリ乳酸樹脂組成物の押出成型では、材料投入エリアを除いた混練から押出しまでの温度を、前記ポリ乳酸樹脂組成物の融点以上、若しくは前記ポリ乳酸樹脂組成物の再結晶化温度以上に維持することが肝要となる。前記ポリ乳酸樹脂組成物の再結晶化温度は、熱履歴や、該ポリ乳酸樹脂組成物の構成、せん断の程度等に拠って変化し得るため、一概には言えないが、本発明においては、混練から押出しまでの温度が前記ポリ乳酸樹脂組成物の融点-20℃以上であることが好ましい。
【0046】
混練から押出しまでの温度を前記ポリ乳酸樹脂組成物の融点-20℃以下とした場合、該ポリ乳酸樹脂組成物が冷却されることで発泡に適した粘度に調整しやすい反面、過冷却度(融点と樹脂温度との乖離)が高くなり、装置内での急激な結晶化による操業停止のリスクや、得られる発泡シートの結晶化が進行してしまい、熱成型性に劣る傾向にある。混練から押出しまでの温度が前記ポリ乳酸樹脂組成物の融点-20℃以上であれば、結晶化による操業停止のリスクを低減でき、得られる発泡シートの結晶化度を低く抑えられ、熱成型性に優れた発泡シートを得ることができる傾向にある。前記発泡シートの結晶化度は、DSCで測定した前記発泡シートの冷結晶化エンタルピーで評価できる。
【0047】
本発明において、前記発泡シートの再結晶化エンタルピーは、JIS K 7122:2012(プラスチックの転移熱測定方法)に準拠した示差走査熱量(DSC)測定から求めることができる。
具体的には、前記発泡シートを5mg~10mg程度とり、65℃に熱したホットプレート上で銅製の丸棒(直径20mm程度、丸棒も同様に65℃に熱しておく)により1秒間~3秒間プレス(500gf程度の荷重に拠る)して平坦化して試料を作製する。この平坦化は、試料と試料パンの熱接触を良くし、精度良く再結晶化エンタルピーを測定するために行う。この試料を、下記測定装置及び測定条件にて測定し、下記解析方法で解析する。なお、本発明において、再結晶化エンタルピーは、試料の調製から解析までを5回行って得られた結果の算術平均を用いる。
[[測定装置及び測定条件]]
・ 装置:Q-2000(TAインスツルメント社製)
・ 温度プログラム:10℃/分間の昇温速度で10℃から200℃まで走査し(1st heating)、200℃で1分間保持した後、10℃/分間の降温速度で200℃から25℃まで走査する(1st cooling)。
・ 再結晶化エンタルピーの解析:1st coolingにおいて観察される結晶化に伴う発熱ピークについて、積分により面積を求めて再結晶化エンタルピーとする。結晶化に伴う発熱ピークの位置は本発明においては、おおよそ100℃~130℃の範囲である。積分のベースラインは、発熱ピークの前後を結ぶ直線とする。
【0048】
-再結晶化温度-
前記発泡シートの再結晶化温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、120℃~150℃が好ましく、130℃~145℃がより好ましい。前記発泡シートの再結晶化温度が120℃以上であると、前記ポリ乳酸樹脂の結晶化速度が速いことを示し、成型過程で結晶化が進み耐熱性に有利であり、150℃以下であると、前記発泡シートの製造時点で結晶化が進み過ぎず、成型時の破れが起きにくいため、成型性の観点で優位である。
前記発泡シートの再結晶化温度は、前記発泡シートに含有されるポリ乳酸樹脂の構成モノマー単位である乳酸のD体及び乳酸のL体のいずれか一方のモル比率により調整することができる。
【0049】
前記発泡シートの再結晶化温度は、JIS K 7121:2012(プラスチックの転移温度測定方法)に準拠した示差走査熱量(DSC)測定から求めることができる。
具体的には、前記発泡シートから切り出した5mg~10mgの試料を、示差走査熱量計装置(例えば、TAインスツルメント社製のQ-2000型)の容器に入れ、10℃から200℃まで昇温速度10℃/分間で昇温し10分間保持後、200℃から10℃まで10℃/分間で降温する。この際、発熱ピークのピークトップ温度を前記発泡シートの再結晶化温度として測定することができる。
【0050】
-融点-
前記発泡シートの融点は、JIS K 7121:2012(プラスチックの転移温度測定方法)に準拠した示差走査熱量(DSC)測定から求められる。
具体的には、前記発泡シートの融点のDSC測定は、例えば、示差走査熱量計装置(例えば、Q-2000型、TAインスツルメント社製)を用いることができ、前記発泡シート5mg~10mgの試料を、前記示差走査熱量計装置の容器に入れ、10℃/分間の昇温速度で200℃まで昇温速度10℃/分間で昇温することにより測定することができる。
ガラス転移温度より高温側で観測される結晶の溶融に伴う吸熱ピークのピークトップ温度(融解ピーク温度、Tpm)を前記発泡シートの融点とする。ガラス転移温度より高温側で複数の吸熱ピークが観察される場合、面積が最大となるピークのピークトップ温度を前記発泡シートの融点として扱う。前記発泡シートの融点は、概ね160℃~190℃の範囲内である。
【0051】
-ガラス転移温度-
前記発泡シートのガラス転移温度は、JIS K 7121:2012(プラスチックの転移温度測定方法)に準拠した示差走査熱量(DSC)測定から求められる。
具体的には、前記発泡シートのガラス転移温度のDSC測定は、例えば、示差走査熱量計装置(例えば、Q-2000型、TAインスツルメント社製)を用いることができ、前記発泡シートから切り出した5mg~10mgの試料を、前記示差走査熱量計装置の容器に入れ、10℃から200℃まで昇温速度10℃/分間で昇温することにより測定することができる。
本発明におけるガラス転移温度とは、JIS K 7121:2012に記載の補外ガラス転移開始温度(Tig)を指す。前記発泡シートのガラス転移温度は、概ね55℃~70℃の範囲内である。
【0052】
-重量平均分子量(Mw)-
前記発泡シートの重量平均分子量(Mw)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、230,000以上600,000以下が好ましく、250,000以上400,000以下がより好ましい。前記発泡シートの重量平均分子量(Mw)が230,000以上600,000以下であると、発泡時に適した溶融粘度になり発泡倍率が向上し断熱性の向上に繋がる。
【0053】
前記発泡シートの重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。重量平均分子量(Mw)は、重量平均分子量が既知のポリスチレン試料(例えば、東ソー株式会社製のA-500(重量平均分子量589)、A-1000(重量平均分子量1,010)、A-2500(重量平均分子量312)、A-5000(重量平均分子量5,430)、F-1(重量平均分子量9,490)、F-2(重量平均分子量15,700)、F-4(重量平均分子量37,200)、F-10(重量平均分子量98,900)、F-20(重量平均分子量189,000)、F-40(重量平均分子量397,000)、F-80(重量平均分子量707,000)、F-128(重量平均分子量1,110,000))によって作成した検量線を標準として計算される。
【0054】
前記GPCに供する試料は、前記発泡シートとクロロホルムとを、該発泡シートの濃度が2mg/mL程度になるように混合し、卓上振盪機(例えば、アズワン株式会社製のMSI-60)で半日程度振盪し、前記発泡シートが溶解したことを確認した後、0.45μmのメンブレンフィルターにてろ過して用いる。溶解しにくいものはクロロホルムの沸点以下の温度で加熱して溶解することもできる。前記GPCの測定装置及び測定条件は、特に制限はないが、このようにして調製した試料を、例えば、下記条件でGPC測定することで、前記発泡シートの重量平均分子量(Mw)を測定することができる。
[[測定装置及び測定条件]]
・ 装置:HLC-8320GPC(東ソー・テクノシステム株式会社製)
・ カラム:TSKgel(登録商標) guardcolumn SuperHZ-L及びTSKgel SuperHZM-M×4本
・ 検出器:RI
・ 測定温度:40℃
・ 移動相:クロロホルム
・ 流量:0.45mL/分間
・ 注入量:20μL
【0055】
-溶融粘度-
前記発泡シートの溶融粘度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10,000Pa・s以上40,000Pa・s以下が好ましい。前記ポリ乳酸樹脂組成物の溶融粘度が10,000Pa・s以上であると、かさ密度が低く、断熱性や強度、表面性に優れたシートを、結晶化度を低く維持しながら得ることができる傾向にあり、40,000Pa・s以下であると、発泡装置の負荷が高くなり、生産性に劣ることを防ぐことができる。
【0056】
前記発泡シートの溶融粘度は、例えば、前記発泡シートを1.5g計量し、80℃の乾燥機で2時間乾燥させたものを試料として、フローテスターを用いて下記測定条件で測定することができる。
[[測定装置及び測定条件]]
・ 装置:CFT-100EX(株式会社島津製作所製)
・ 試験条件:
定温法、試験温度:190℃、試験力:40kgf、余熱時間:180秒間、ダイ穴径:1mm、ダイ長さ:1mm
・ 解析:付属ソフトCFT-EXを使用し、以下の計算パラメータによって溶融粘度を算出する。
・ 計算パラメータ:
限定法、計算開始位置:3.0mm、計算終了位置:7.0mm、試料密度:1g/cm3
【0057】
前記発泡シートの溶融粘度を前記好ましい範囲に調整する方法としては、本発明で開示される特徴を有するポリ乳酸樹脂と、鎖伸長剤(架橋剤)とを溶融混練(反応押出)してポリ乳酸樹脂組成物を得る方法が挙げられる。前記発泡シートの溶融粘度は、混練から押出しの温度に拠っても大きく変化するが、混練部に200℃~240℃、より好ましくは220℃~240℃に設定した区間を設けることが好ましい。
【0058】
<ポリ乳酸樹脂を含有する組成物>
本発明において、「ポリ乳酸樹脂を含有する組成物」とは、発泡させる前の組成物を意味する。
前記ポリ乳酸樹脂を含有する組成物(ポリ乳酸樹脂組成物)は、少なくともポリ乳酸樹脂を含有し、好ましくは結晶性ポリ乳酸樹脂を含有し、更に鎖伸長剤(「架橋剤」とも称する)及び発泡核剤を含有することがより好ましく、更に必要に応じて、その他の成分を含有していてもよい。
【0059】
<<ポリ乳酸樹脂>>
前記ポリ乳酸樹脂は微生物により生分解されるため、環境に優しい低環境負荷高分子材料として注目されている(「脂肪族ポリエステルの構造、物性、生分解性」、井上 義夫、高分子、2001年、50巻、6号、p374-377参照)。前記ポリ乳酸樹脂としては、例えば、乳酸のD体(D-乳酸)と乳酸のL体(L-乳酸)との共重合体(DL-乳酸);D-乳酸又はL-乳酸のいずれか一方の単独重合体;ラクチドのD体(D-ラクチド)、ラクチドのL体(L-ラクチド)、及びDL-ラクチドからなる群より選ばれた一又は二以上のラクチドの開環重合体などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。前記ポリ乳酸樹脂としては、適宜合成したものを用いても、市販されているものを用いてもよい。
【0060】
前記ポリ乳酸樹脂の合成は、公知の方法を用いることができる。例えば、乳酸を原料としてラクチドを生成し、該ラクチドをアルコール等の開始剤を用いて開環重合する方法、乳酸を直接脱水縮合する方法などが挙げられる。
【0061】
前記ポリ乳酸樹脂の合成においては、前記モノマーの他に、開始剤、触媒、酸化防止剤、末端封止剤等を含んでもよい。
【0062】
前記開始剤としては、水や活性水素基を1つ以上有するアルコールなどが挙げられる。
前記活性水素基を1つ以上有するアルコールとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、脂肪族アルコール類、ポリアルキレングリコール類、多価アルコール類などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
前記多価アルコールとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、1,4-シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、エリスリトールなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0064】
[ポリ乳酸樹脂の物性]
-光学異性体-
前記ポリ乳酸樹脂として、D-乳酸とL-乳酸との共重合体(DL-乳酸)、又はD-ラクチド、L-ラクチド、及びDL-ラクチドからなる群より選ばれた一又は二以上のラクチドの開環重合体を用いる場合、D体及びL体のうち少ない方の光学異性体が減少するに従って、結晶性が高くなり融点や結晶化速度が高くなる傾向がある。また、D体及びL体のうち少ない方の光学異性体が増加するに従って、結晶性が低くなり、やがて非晶性となる傾向がある。
【0065】
本発明においては、発泡時の泡成長に伴う結晶化により、充分な耐熱性を付与する必要がある点から、前記ポリ乳酸樹脂組成物に含有されるポリ乳酸樹脂の構成モノマー単位である乳酸のD体及び乳酸のL体のいずれか一方のモル比率は、該ポリ乳酸樹脂中98モル%以上であり、99モル%以上であることが好ましい。このようなことから、前記ポリ乳酸樹脂としては、乳酸のD体及び乳酸のL体のいずれか一方の光学異性体のみからなるポリ乳酸樹脂を用いてもよい。前記ポリ乳酸樹脂中の該ポリ乳酸樹脂の構成モノマー単位である乳酸のD体及び乳酸のL体のいずれか一方が98モル%未満である場合、前記ポリ乳酸樹脂組成物からなる発泡シートを成型してなる成型体は、良好な耐熱性が得られない。一方、前記ポリ乳酸樹脂中の該ポリ乳酸樹脂の構成モノマー単位である乳酸のD体及び乳酸のL体のいずれか一方を98モル%以上にすることによって、結晶化速度が速くなり成型過程での結晶化が進み成型品の耐熱性が向上する。
【0066】
前記構成モノマー単位である乳酸のD体及び乳酸のL体のいずれか一方の比率は、光学活性カラムを用いた液体クロマトグラフィーで分析することにより確認することができる。
具体的には、前記発泡シートを凍結粉砕し、該発泡シートの粉末200mgを三角フラスコに取り、1Nの水酸化ナトリウム水溶液30mLを加え、前記三角フラスコを振盪しながら65℃に加熱して、前記発泡シート中のポリ乳酸樹脂を完全に溶解させる。続いて、1Nの塩酸を用いてpHが4~7となるように調整し、メスフラスコを用いて所定の体積に希釈してポリ乳酸樹脂溶解液を得る。次に、前記ポリ乳酸樹脂溶解液を0.45μmのメンブレンフィルターで濾過した後、液体クロマトグラフを用いて分析する。得られたチャートに基づいて、乳酸のD体及び乳酸のL体由来のピークから面積比を算出し、これを存在比として乳酸のD体量及び乳酸のL体量を算出する。上記操作を3回行って得られた結果の算術平均した値を、前記発泡シートにおけるポリ乳酸樹脂を構成する乳酸のD体量及びL体量とする。
【0067】
前記液体クロマトグラフィーの測定装置及び測定条件としては、特に制限はないが、例えば、下記測定装置及び測定条件で測定することができる。
[[測定装置及び測定条件]]
・ HPLC装置(液体クロマトグラフ):PU-2085Plus型システム(日本分光株式会社製)
・ カラム:Chromolith(登録商標) coated with SUMICHIRAL OA-5000(内径4.6mm、長さ250mm)(株式会社住友分析センター製)
・ カラム温度:25℃
・ 移動相:2mM CuSO4水溶液と2-プロパノールとの混合液(CuSO4水溶液:2-プロパノール(体積比)=95:5)
・ 移動相流量:1.0mL/分間
・ 検出器:UV254nm
・ 注入量:20μL
【0068】
前記発泡シートに対して上記した液体クロマトグラフィー分析を行い、乳酸のD体及び乳酸のL体由来のピークの面積の合計に対して、乳酸のD体及び乳酸のL体由来のピークのうちピーク面積が大きい方の面積が98%以上である場合、前記発泡シート中の前記ポリ乳酸樹脂の構成モノマー単位である乳酸のD体又はL体のいずれか一方が該ポリ乳酸樹脂中98モル%以上であると言える。
【0069】
-重量平均分子量-
前記ポリ乳酸樹脂の重量平均分子量(Mw)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、180,000以上320,000以下が好ましく、210,000以上310,000以下がより好ましい。前記ポリ乳酸樹脂の重量平均分子量(Mw)が180,000以上320,000以下であると前記ポリ乳酸樹脂組成物の粘度を発泡に適正な範囲に制御することができ、前記発泡シートの製造時の気泡の合一及び破泡が抑制され、発泡倍率や表面性に優れた発泡シートを安定的に得ることができる。一方、前記ポリ乳酸樹脂の重量平均分子量(Mw)が180,000以下であると、前記ポリ乳酸樹脂組成物の粘度を発泡に適切な範囲とするために必要な鎖伸長剤の添加量が多くなるか、発泡に適切な粘度に調整しにくい傾向にある。前記鎖伸長剤は、一般的に石油由来化合物であり、非生分解性であるため、環境負荷を少なくする観点から可能な限り添加量を少なくできることが望ましい。また、前記ポリ乳酸樹脂の重量平均分子量(Mw)が320,000以上であると、前記ポリ乳酸樹脂組成物の粘度が前記鎖伸長剤の添加量に応じて急峻に変化する傾向にあり、前記ポリ乳酸樹脂組成物の粘度の制御性が低下し、前記発泡シートを安定的に製造することが難しくなることがある。
【0070】
前記ポリ乳酸樹脂の重量平均分子量(Mw)は、GPCを用いて測定することができる。前記ポリ乳酸樹脂の重量平均分子量(Mw)は、重量平均分子量が既知のポリスチレン試料(例えば、東ソー株式会社製のA-500(重量平均分子量589)、A-1000(重量平均分子量1,010)、A-2500(重量平均分子量312)、A-5000(重量平均分子量5,430)、F-1(重量平均分子量9,490)、F-2(重量平均分子量15,700)、F-4(重量平均分子量37,200)、F-10(重量平均分子量98,900)、F-20(重量平均分子量189,000)、F-40(重量平均分子量397,000)、F-80(重量平均分子量707,000)、F-128(重量平均分子量1,110,000))によって作成した検量線を標準として計算される。
【0071】
前記GPCに供する試料は、前記ポリ乳酸樹脂とクロロホルムとを、前記ポリ乳酸樹脂の濃度が2mg/mL程度になるように混合し、卓上振盪機(例えば、アズワン株式会社製のMSI-60)で半日程度振盪し、前記ポリ乳酸樹脂が溶解したことを確認した後、0.45μmのメンブレンフィルターにて濾過した濾液を用いる。溶解しにくいものはクロロホルムの沸点以下の温度で加熱して溶解することもできる。このようにして調製した試料を、例えば、前記発泡シートの重量平均分子量(Mw)の測定と同様の測定装置及び測定条件で測定することができる。
【0072】
-酸価-
前記ポリ乳酸樹脂組成物中のポリ乳酸樹脂の酸価としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5mgKOH/g以下が好ましい。前記ポリ乳酸樹脂の酸価が5mgKOH/g以下であると、前記ポリ乳酸樹脂組成物の粘度を発泡に適切な範囲に調整しやすく、更に前記ポリ乳酸樹脂の保管中の分解を抑制できる傾向がある。
前記ポリ乳酸樹脂の酸価の測定方法としては、特に制限はないが、例えば、滴定法により求めることができる。
【0073】
具体的には、前記ポリ乳酸樹脂1g~3g程度を三角フラスコにとり、ジクロロメタン40mLを加えて室温で半日程度振盪し、得られたポリ乳酸樹脂のジクロロメタン溶液を試料として測定に供する。前記ジクロロメタン溶液の粘度が高い場合は、ポリ乳酸樹脂量を減ずるか、ジクロロメタンの量を適宜増やして試料を調整する。前記試料に指示薬としてフェノールフタレインを加え、0.01Nの水酸化カリウムのエタノール溶液を用い、前記試料及びブランクを滴定し、下記式(3)により酸価を算出する。
酸価[mgKOH/g]=(滴定値[mL]-ブランク[mL])×ファクター×0.01[N]×56.1[g/mol]/(試料の質量[g]) ・・・ 式(3)
【0074】
-含水量-
前記ポリ乳酸樹脂は、前記ポリ乳酸樹脂組成物又は前記発泡シートの製造に供する前に、予め含水量を500ppm以下に低下させておくことが好ましい。前記ポリ乳酸樹脂の含水量が500ppm以下であると、前記ポリ乳酸樹脂組成物は発泡に適正な粘度に調整できる傾向にある。
【0075】
前記ポリ乳酸樹脂の含水量の測定方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができ、例えばカールフィッシャー滴定などが挙げられる。
前記ポリ乳酸樹脂の乾燥方法としては、特に制限はなく、公知の方法を用いることができ、例えば、熱風乾燥機や真空乾燥機を用いる方法などが挙げられる。
前記乾燥の温度としても、特に制限はないが、60℃~80℃が好ましい。含水量の測定方法は特に限定されず、例えばカールフィッシャー滴定等を適用することができる。
【0076】
-含有量-
前記ポリ乳酸樹脂組成物における前記ポリ乳酸樹脂の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、生分解性及びリサイクル性(リサイクルが容易となる)の観点から、該ポリ乳酸樹脂組成物における有機物の総量に対して98質量%以上であり、99質量%以上であることが好ましい。なお、前記ポリ乳酸樹脂組成物における有機物の総量に対する前記ポリ乳酸樹脂の含有量は、前記発泡シートが前記ポリ乳酸樹脂組成物からなるため、前記発泡シートにおける有機物の総量に対する前記ポリ乳酸樹脂の含有量と同義である。
【0077】
なお、前記ポリ乳酸樹脂組成物中の前記有機物としては、主に前記ポリ乳酸樹脂であるが、該ポリ乳酸樹脂以外の有機物としては、例えば、後述する発泡核剤としての有機系核剤、鎖伸長剤などが挙げられる。前記発泡シートの発泡核剤として無機系核剤を用いた場合、該無機系核剤は前記有機物には該当しない。
【0078】
前記ポリ乳酸樹脂組成物における有機物の総量に対する前記ポリ乳酸樹脂の含有量は、該ポリ乳酸樹脂組成物を調製する際の混合比(仕込み比)から計算により求めることができる。前記混合比が不明な場合、以下のように核磁気共鳴分析(NMR)によって求めてもよい。
【0079】
前記核磁気共鳴分析に用いる溶媒は、内部標準物質として1,3,5-トリメトキシベンゼン標準品(定量NMR用、富士フイルム和光純薬株式会社製)を約100mg量り取り、10mLメスフラスコにて重クロロホルム(テトラメチルシラン(TMS)0.3体積%含有)で溶解させたものを用いる。
【0080】
前記核磁気共鳴分析に供する試料としては、前記ポリ乳酸樹脂組成物又は前記発泡シートの濃度が10mg/mLとなるように、該ポリ乳酸樹脂組成物又は該発泡シート前記溶媒を加え、卓上振盪機(例えば、アズワン株式会社製のMSI-60)で半日程度振盪して溶解する。この際、蒸発による試料濃度の変化を最小限に留めるために、容器としては可能な限り小さいものを選ぶ。上記方法で調製した試料を直径5mmの試料管に封じてNMRに供する。
【0081】
前記試料を用い、下記測定装置及び測定条件で、JIS K0138:2018(定量核磁気共鳴分光法通則(qNMR通則))に準拠して、1H核のNMR測定(1H-NMR測定)を行う。
[[測定装置及び測定条件]]
・ 核磁気共鳴(NMR)装置:JNM-ECX-500 FT-NMR(日本電子株式会社製)
・ 観測核:1H
・ 測定温度:30℃
・ スピン:オフ
・ デジタル分解能:0.25Hz
・ 観測範囲:-0.5~15ppm
・ パルス角:90°
・ 緩和時間:60秒
・ 積算回数:16回(本測定の前にダミースキャンを2回行う)
・ 13Cデカップリング:有
【0082】
得られたデータについて、下記化学シフトのピークに対する積分を行い、下記式(4)により積分比を計算する。
積分1(ポリ乳酸樹脂由来):5.2ppm
積分2(内部標準由来):6.1ppm
積分比=積分1/(積分2×試料質量) ・・・ 式(4)
【0083】
純度既知のポリ乳酸樹脂について、前記試料と共通の溶媒を用いて同様のNMR測定を行い、純度既知のポリ乳酸樹脂について前記式(4)より得られた積分比と、前記試料についての積分比との比を取り、下記式(5)により前記ポリ乳酸樹脂組成物又は前記発泡シート中の有機物の総量に対するポリ乳酸樹脂の含有量を算出する。なお、前記試料の調製から解析までの工程を3回行い、得られたポリ乳酸樹脂の含有量の算術平均を、前記ポリ乳酸樹脂組成物又は前記発泡シート中の有機物の総量に対するポリ乳酸樹脂の含有量とする。
ポリ乳酸樹脂の含有量[質量%]=100×純度既知のポリ乳酸樹脂の純度[質量%]×(試料の積分比)/(純度既知のポリ乳酸樹脂の積分比) ・・・ 式(5)
【0084】
-融点-
前記ポリ乳酸樹脂の融点は、JIS K 7121:2012(プラスチックの転移温度測定方法)に準拠した示差走査熱量(DSC)測定から求められる。
具体的には、前記ポリ乳酸樹脂の融点のDSC測定は、例えば、示差走査熱量計装置(例えば、Q-2000型、TAインスツルメント社製)を用いることができ、前記ポリ乳酸樹脂5mg~10mgの試料を、前記示差走査熱量計装置の容器に入れ、10℃/分間の昇温速度で200℃まで昇温速度10℃/分間で昇温することにより測定することができる。
ガラス転移温度より高温側で観測される結晶の溶融に伴う吸熱ピークのピークトップ温度(融解ピーク温度、Tpm)を前記ポリ乳酸樹脂の融点とする。ガラス転移温度より高温側で複数の吸熱ピークが観察される場合、面積が最大となるピークのピークトップ温度をポリ乳酸樹脂の融点として扱う。前記ポリ乳酸樹脂の融点は、概ね150℃~190℃の範囲内である。
【0085】
-ガラス転移温度-
前記ポリ乳酸樹脂のガラス転移温度は、JIS K 7121:2012(プラスチックの転移温度測定方法)に準拠した示差走査熱量(DSC)測定から求められる。
具体的には、前記ポリ乳酸樹脂のガラス転移温度のDSC測定は、例えば、示差走査熱量計装置(例えば、Q-2000型、TAインスツルメント社製)を用いることができ、前記ポリ乳酸樹脂5mg~10mgの試料を、前記示差走査熱量計装置の容器に入れ、10℃から200℃まで昇温速度10℃/分間で昇温することにより測定することができる。
本発明におけるガラス転移温度とは、JIS K 7121:2012に記載の補外ガラス転移開始温度(Tig)を指す。前記ポリ乳酸樹脂のガラス転移温度は、概ね55℃~70℃の範囲内である。
【0086】
-溶融粘度-
前記ポリ乳酸樹脂の溶融粘度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、500Pa.s以上1,500Pa.s以下が好ましい。前記ポリ乳酸樹脂の溶融粘度が500Pa.s以上1,500Pa.s以下であると、前記ポリ乳酸樹脂組成物の粘度を、発泡に適した粘度に調整しやすく、発泡装置の負荷を抑え生産性に優れると共に、かさ密度が低く、表面性に優れた発泡シートを得ることができる。
【0087】
前記ポリ乳酸樹脂の溶融粘度は、例えば、前記ポリ乳酸樹脂を1.5g計量し、80℃の乾燥機で2時間乾燥させたものを試料として、フローテスターを用いて下記測定条件で測定することができる。
[[測定装置及び測定条件]]
・ 装置:CFT-100EX(株式会社島津製作所製)
・ 試験条件:定温法、試験温度:190℃、試験力:40kgf、余熱時間:180秒間、ダイ穴径:1mm、ダイ長さ:1mm
・ 解析:付属ソフトCFT-EXを使用し、以下の計算パラメータによって溶融粘度を算出する。
・ 計算パラメータ:限定法、計算開始位置:3.0mm、計算終了位置:7.0mm、試料密度:1g/cm3
【0088】
-発泡シートの溶融粘度とポリ乳酸樹脂の溶融粘度の比-
前記発泡シートの溶融粘度と前記ポリ乳酸樹脂の溶融粘度の比としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、7以上80以下が好ましい。前記発泡シートの溶融粘度と前記ポリ乳酸樹脂の溶融粘度の比が7以上80以下であると、発泡装置の負荷を抑え生産性に優れると共に、かさ密度が低く、断熱性や強度、表面性に優れた発泡シートを、結晶化度を低く維持しながら得ることができる。
【0089】
前記発泡シートの溶融粘度と前記ポリ乳酸樹脂の溶融粘度の比は、下記式(6)によって求められる。
発泡シートの溶融粘度とポリ乳酸樹脂の溶融粘度の比=発泡シートの溶融粘度/ポリ乳酸樹脂の溶融粘度 ・・・ 式(6)
【0090】
<<鎖伸長剤(架橋剤)>>
前記鎖伸長剤(架橋剤)は、前記ポリ乳酸樹脂の粘度を発泡に適した範囲に調整するために前記ポリ乳酸樹脂組成物に含有することが好ましい。また、前記鎖伸長剤(架橋剤)は、前記ポリ乳酸樹脂組成物及び前記発泡シートの耐熱性や耐加水分解性を向上できる効果もある。
【0091】
前記鎖伸長剤(架橋剤)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水酸基及び/又はカルボン酸基と反応性を有する化合物や、過酸化物などを用いることができる。本発明においては、前記ポリ乳酸樹脂との反応後に、該ポリ乳酸樹脂の結晶性を阻害しない、若しくは結晶性を向上できる観点から、前記ポリ乳酸樹脂の水酸基及び/又はカルボン酸基と反応性を有する化合物が好ましい。
【0092】
前記ポリ乳酸樹脂の水酸基及び/又はカルボン酸基と反応性を有する化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、エポキシ基を有する化合物、イソシアネート基を有する化合物、カルボジイミド基を有する化合物が好ましい。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0093】
前記ポリ乳酸樹脂の水酸基及び/又はカルボン酸基と反応性を有する化合物としては、前記ポリ乳酸樹脂に分岐構造を導入し、該ポリ乳酸樹脂組成物の粘度を効率的に向上でき、未反応の鎖伸長剤(架橋剤)の遊離を少なくできる点から、分子内に2つ以上の反応性基を有する化合物が好ましく、分子内に2つ以上のエポキシ基を有する化合物又は分子内に2つ以上のイソシアネート基を有する化合物がより好ましく、作業性や安全性の観点から、分子内に2つ以上のエポキシ基を有する化合物が更に好ましく、反応性、作業性、安全性の観点から、分子内に2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ官能性(メタ)アクリル-スチレン系鎖伸長剤が特に好ましい。
【0094】
-エポキシ基を有する化合物-
前記鎖伸長剤(架橋剤)としての前記分子内に2つ以上のエポキシ基を有する化合物とは、少なくともエポキシ基を有する(メタ)アクリルモノマーを共重合させて得られる化合物である。
前記エポキシ基を有する(メタ)アクリルモノマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等の1,2-エポキシ基を含有するモノマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0095】
前記分子内に2つ以上のエポキシ基を有する化合物は、その共重合成分として、前記モノマーに加えて、更にエポキシ基を有しない(メタ)アクリルモノマーを含有していてもよい。前記エポキシ基を有しない(メタ)アクリルモノマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレートなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0096】
前記分子内に2つ以上のエポキシ基を有する化合物は、更に、前記エポキシ基を有しない(メタ)アクリルモノマーに加えて、二重結合基を有するモノマーを含有していてもよい。前記二重結合基を有するモノマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、スチレンモノマー、α-メチルスチレンモノマー、酢酸ビニルモノマーなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。前記スチレンモノマーとしては、例えば、スチレン、α-メチルスチレンなどが挙げられる。
【0097】
前記分子内に2つ以上のエポキシ基を有するエポキシ官能性(メタ)アクリル-スチレン系鎖伸長剤とは、少なくともエポキシ基を有する(メタ)アクリルモノマーとスチレンモノマーとを共重合させて得られた化合物である。
【0098】
前記エポキシ基を有する化合物としては、適宜合成してもよく、市販品を用いてもよい。前記エポキシ基を有する化合物の市販品としては、例えば、商品名で、マープルーフ(登録商標)G-01100(日油株式会社製)、マープルーフ(登録商標)G-0105SA(日油株式会社製)、マープルーフ(登録商標)G-2050M(日油株式会社製)、マープルーフ(登録商標)G-0130SP(日油株式会社製)、マープルーフ(登録商標)G-0130SF(日油株式会社製)、マープルーフ(登録商標)G-0250SP(日油株式会社製)、マープルーフG-0250SF(日油株式会社製)、メタブレン(登録商標)P1901(三井ケミカル株式会社製)、Joncy(登録商標) ADR4368(BASF社製)、Joncy(登録商標) ADR4370(BASF社製)、Joncy(登録商標) ADR4468(BASF社製)、ボンドファースト(登録商標)BF-2C(住友化学株式会社製)、ボンドファースト(登録商標)BF-E(住友化学株式会社製)、ボンドファースト(登録商標)BF-2B(住友化学株式会社製)、ボンドファースト(登録商標)BF-7B(住友化学株式会社製)、ボンドファースト(登録商標)BF-7M(住友化学株式会社製)、CESA-Extend OMAN698493(クラリアント社製)、ARUFON UG-4040(東亜合成株式会社製)などが挙げられる。これらの中でも、前記エポキシ基を有する化合物の市販品としては、前記発泡シートにコルゲート状のしわが発生しにくい発泡シートの製造の条件下において、低添加濃度で高発泡倍率化できるため、断熱性、生分解性、成型不良防止の観点から、マープルーフ(登録商標)G-0250SP(日油株式会社製)、マープルーフ(登録商標)G-0250SF(日油株式会社製)、Joncy(登録商標) ADR4468(BASF社製)を用いることが好ましい。
【0099】
前記エポキシ基を有する化合物の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記ポリ乳酸樹脂組成物中の有機物の総量に対して0.2質量%以上1.3質量%以下であることが好ましく、0.7質量%以上0.9質量%以下であることがより好ましい。前記エポキシ基を有する化合物は非生分解の材料であるため、含有量を可能な限り下げて前記ポリ乳酸樹脂組成物中の前記ポリ乳酸樹脂の含有量を多くすることで、生分解性が向上する。一方、前記エポキシ基を有する化合物の含有量が少ない場合には、溶融発泡時の溶融粘度が低く、発泡倍率が上がらないため断熱性が悪くなってしまうことがある。前記ポリ乳酸樹脂組成物中の有機物の総量に対する前記エポキシ基を有する化合物の含有量を0.2質量%以上1.3質量%以下とすることで、生分解性と断熱性との両立を図ることができる。また、前記エポキシ基を有する化合物の重量平均分子量(Mw)とエポキシ当量を適切な範囲内にしたエポキシ基を有する化合物を鎖伸長剤(架橋剤)として用いると、前記エポキシ基を有する化合物の含有量が少ない場合であっても、高い断熱性が得られるため生分解性の向上に繋がる。
【0100】
前記エポキシ基を有する化合物のエポキシ当量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、250以上350以下であることが好ましく、270以上330以下であることがより好ましい。前記エポキシ基を有する化合物のエポキシ当量は、前記ポリ乳酸樹脂と前記エポキシ基を有する化合物との反応物の架橋点間距離に影響を及ぼす。前記エポキシ基を有する化合物の仕込み量(質量)が、前記ポリ乳酸樹脂の仕込み量(質量)と同一の場合には、前記エポキシ基を有する化合物のエポキシ当量は小さいほど、前記エポキシ基を有する化合物1分子あたりのエポキシ基の量が増えて、前記ポリ乳酸樹脂と前記エポキシ基を有する化合物との反応物の架橋点間距離が短くなり、前記エポキシ基を有する化合物のエポキシ当量は大きいほど、前記エポキシ基を有する化合物1分子あたりのエポキシ基の量が減り、前記ポリ乳酸樹脂と前記エポキシ基を有する化合物との反応物の架橋点間距離が長くなる。前記ポリ乳酸樹脂と前記エポキシ基を有する化合物との反応物の架橋点間距離が短すぎる場合、前記ポリ乳酸樹脂と前記エポキシ基を有する化合物との反応物中で局所的に架橋構造が入り過ぎてしまい、溶融粘度にムラができて発泡倍率が上がらない。前記ポリ乳酸樹脂と前記エポキシ基を有する化合物との反応物の架橋点間距離が長すぎる場合も、溶融粘度向上の効果が少なく、同様に発泡倍率が上がらない。結果として、前記エポキシ基を有する化合物のエポキシ当量を250以上350以下にすることで、溶融粘度のムラがなく溶融粘度を高くできるので発泡倍率が高くなり断熱性向上に繋がる。
【0101】
前記エポキシ基を有する化合物のエポキシ当量の測定方法としては、特に制限はないが、JIS K 7236:2001(エポキシ樹脂のエポキシ当量の求め方)に準拠して滴定法により測定することができる。
具体的には、0.1g~0.3gの前記エポキシ基を有する化合物にクロロホルム10mLを加え、マグネティックスターラー等で攪拌しながら完全に溶解させる。20mLの酢酸、及び臭化テトラエチルアンモニウムのクロロホルム溶液10mL(濃度:0.25g/mL)を加えて試料とする。このようにして調製した試料を用い、例えば、下記測定装置及び測定条件で、前記試料のエポキシ当量を測定することができる。
[[測定装置及び測定条件]]
・ 装置:自動滴定装置 COM-A-19(株式会社HIRANUMA製)
・ 標準液:0.1mol/L過塩素酸-酢酸標準液
・ 電極:ガラス電極 GTRS10B
比較電極 GTPH1B(内部液は飽和過塩素酸ナトリウム/酢酸溶液)
・ 測定モード:変曲点検出
・ 微分判定値:100mV/mL
・ 計算式:1,000×S/((A1-BL)×M×f)
ここで、Sはエポキシ基を有する化合物の質量(g)を示し、A1は変曲点の滴下量(mL)を示し、BLはブランク測定の結果(mL)を示し、Mは標準液の濃度(mol/L)、fは標準液のファクターを示す。ブランク測定は2回行い、2回測定の平均値を用いる。
【0102】
前記エポキシ基を有する化合物の重量平均分子量(Mw)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10,000以上20,000以下であることが好ましく、12,500以上17,500以下であることがより好ましい。前記エポキシ基を有する化合物の重量平均分子量(Mw)は、前記ポリ乳酸樹脂と前記エポキシ基を有する化合物との反応物の架橋点数に影響を及ぼす。前記エポキシ基を有する化合物1分子あたりのエポキシ基の数にも影響を受けるが、該1分子あたりのエポキシ基の数が同じ場合で、かつ、前記エポキシ基を有する化合物の仕込み量(質量)が、前記ポリ乳酸樹脂の仕込み量(質量)と同一の場合には、前記エポキシ基を有する化合物の重量平均分子量(Mw)が小さいほど、前記ポリ乳酸樹脂と前記エポキシ基を有する化合物との反応物の架橋点数は小さくなり、前記エポキシ基を有する化合物の重量平均分子量(Mw)が大きいほど、前記ポリ乳酸樹脂と前記エポキシ基を有する化合物との反応物の架橋点数は大きくなる。前記ポリ乳酸樹脂とエポキシ基を有する化合物との反応物の架橋点数が大きいほど、該ポリ乳酸樹脂と該エポキシ基を有する化合物との反応物の分子鎖同士が絡み合うようになり、溶融発泡時の前記ポリ乳酸樹脂組成物の溶融粘度が高くなり、発泡倍率が高くなり、断熱性向上に繋がる。ただし、前記エポキシ基を有する化合物の重量平均分子(Mw)量が大きすぎる場合、前記エポキシ基を有する化合物の反応温度下での流動性が失われて、前記ポリ乳酸樹脂と前記エポキシ基を有する化合物との反応性が落ちて前記ポリ乳酸樹脂組成物の溶融粘度が高くならずに発泡倍率が上がらない。結果として、前記エポキシ基を有する化合物の重量平均分子量を10,000以上20,000以下することで、前記ポリ乳酸樹脂組成物の溶融粘度が高くなり、発泡倍率が高くなり、断熱性向上に繋がる。
【0103】
前記エポキシ基を有する化合物の重量平均分子量(Mw)は、GPCを用いて測定することができる。前記エポキシ基を有する化合物の重量平均分子量(Mw)は、重量平均分子量が既知のポリスチレン試料(例えば、東ソー株式会社製のA-500(重量平均分子量589)、A-1000(重量平均分子量1,010)、A-2500(重量平均分子量312)、A-5000(重量平均分子量5,430)、F-1(重量平均分子量9,490)、F-2(重量平均分子量15,700)、F-4(重量平均分子量37,200)、F-10(重量平均分子量98,900)、F-20(重量平均分子量189,000)、F-40(重量平均分子量397,000)、F-80(重量平均分子量707,000)、F-128(重量平均分子量1,110,000))によって作成した検量線を標準として計算される。
【0104】
前記GPCに供する試料は、前記エポキシ基を有する化合物とクロロホルムとを、該エポキシ基を有する化合物の濃度が2mg/mL程度になるように混合し、卓上振盪機(例えば、アズワン株式会社製のMSI-60)で半日程度振盪し、前記エポキシ基を有する化合物が溶解したことを確認した後、0.45μmのメンブレンフィルターにてろ過して用いる。溶解しにくいものはクロロホルムの沸点以下の温度で加熱して溶解することもできる。前記GPCの測定装置及び測定条件は、特に制限はないが、このようにして調製した試料を、例えば、前記発泡シートの重量平均分子量(Mw)の測定と同様の測定装置及び測定条件で測定することができる。
【0105】
-イソシアネート基を有する化合物-
前記鎖伸長剤(架橋剤)としての前記分子内に2つ以上のイソシアネート基を有する化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、脂肪族ジイソシアネート化合物、脂環族ポリイソシアネート化合物、芳香族ジイソシアネート化合物、トリイソシアネート化合物、変性ポリイソシアネート化合物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0106】
前記脂肪族ジイソシアネート化合物としては、例えば、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、3-イソシアネートメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(イソホロンジイソシアネート)、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、メチルシクロヘキシル-2,4-ジイソシアネート、メチルシクロヘキシル-2,6-ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネート)メチルシクロヘキサン、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、トランスシクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0107】
前記脂環族ポリイソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、水添トリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、水添テトラメチルキシリレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0108】
前記芳香族ジイソシアネートとしては、例えば、2,4-トルイレンジイソシアネート、2,6-トルイレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-イソシアネート、1,5’-ナフテンジイソシアネート、トリジンジイソシアネート、ジフェニルメチルメタンジイソシアネート、テトラアルキルジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’-ジベンジルジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0109】
前記トリイソシアネート化合物としては、例えば、リジンエステルトリイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、1,8-イソシアネート-4,4-イソシアネートメチルオクタン、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート、トリメチロールプロパンと2,4-トルイレンジイソシアネートとのアダクト体、トリメチロールプロパンと1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート等のジイソシアネートとのアダクト体などが挙げられる。
【0110】
前記変性ポリイソシアネート化合物としては、例えば、グリセリン、ペンタエリストール等の多価アルコールと、前記脂肪族ジイソシアネート化合物、前記芳香族ジイソシアネート化合物、及び/又は前記トリイソシアネート化合物などと反応させて得られる化合物などが挙げられる。
【0111】
前記ポリ乳酸樹脂組成物における前記鎖伸長剤(架橋剤)の含有量は、用いるポリ乳酸樹脂の分子量や分子量分布によっても異なる。例えば、重量平均分子量が小さいか、低分子量のポリ乳酸樹脂が多くなると、前記ポリ乳酸樹脂組成物を発泡に適した粘度に調整するためにより多くの前記鎖伸長剤(架橋剤)を添加することが必要となる傾向がある。しかし、前記鎖伸長剤(架橋剤)の添加量が増えると、生分解性に劣る傾向があることや、該鎖伸長剤(架橋剤)は一般的に石油由来化合物であることから、持続可能な社会への貢献の観点で好ましくない。
【0112】
前記ポリ乳酸樹脂組成物における前記エポキシ基を有する化合物以外の鎖伸長剤の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記エポキシ基を有する化合物と前記エポキシ基を有する化合物以外の鎖伸長剤との総和が、前記ポリ乳酸樹脂組成物中の有機物の総量に対して2質量%未満であることが好ましい。
【0113】
なお、前記鎖伸長剤(架橋剤)を配合すること以外のその他の粘度調整方法としては、電子線等により前記ポリ乳酸樹脂組成物を架橋する方法、高い溶融張力を有する別の樹脂組成物や少量の高分子量成分とブレンドする方法などが挙げられる。
【0114】
<<発泡核剤>>
前記発泡核剤(以下「フィラー」と称することもある)は、前記発泡シートの発泡状態(泡の大きさ、量、及び配置等)などを調節するために、前記ポリ乳酸樹脂組成物に含有することが好ましい。
前記発泡核剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、有機系核剤、無機系核剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記発泡シートの発泡径が小さくなり断熱性が向上する点で、無機系核剤が好ましい。
【0115】
前記有機系核剤としては、例えば、澱粉、セルロースナノファイバー、セルロース微粒子、木粉、おから、モミ殻、フスマ等の天然に存在するポリマーやこれらの変性品、またグリセリン化合物、ソルビトール化合物、安息香酸及びその化合物の金属塩、燐酸エステル金属塩、ロジン化合物などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0116】
前記無機系核剤としては、例えば、タルク、カオリン、炭酸カルシウム、層状ケイ酸塩、炭酸亜鉛、ワラストナイト、シリカ、アルミナ、酸化マグネシウム、ケイ酸カルシウム、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カルシウム、アルミノケイ酸ナトリウム、ケイ酸マグネシウム、ガラスバルーン、カーボンブラック、酸化亜鉛、三酸化アンチモン、ゼオライト、ハイドロタルサイト、金属繊維、金属ウイスカー、セラミックウイスカー、チタン酸カリウム、窒化ホウ素、グラファイト、ガラス繊維、炭素繊維等の無機粒子などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、前記無機系核剤としては、その表面処理により前記発泡シートに適した平均疎水化度及び炭素含有量を実現しやすい点から活性水素基を有する無機粒子が好ましく、層状ケイ酸塩、シリカが特に好ましい。
【0117】
前記無機系核剤の平均疎水化度及び炭素含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、平均疎水化度は65体積%以上が好ましく、炭素含有量は4質量%以上が好ましい。前記無機系核剤の平均疎水化度及び炭素含有量が前記好ましい範囲内であると、二酸化炭素や窒素等の非極性発泡剤を用いる場合に、疎水的な無機粒子表面が発泡核形成場として好適に作用し、発泡核を効率的に形成することができる。また、前記無機系核剤の平均疎水化度及び炭素含有量の上限値としても、特に制限はないが、平均疎水化度は68体積%以下が好ましく、炭素含有量は8.9質量%以下が好ましい。前記無機系核剤の平均疎水化度が前記好ましい範囲内であると、無機粒子の凝集を抑制することができる傾向にある。しかし、凝集の程度は適用する混練条件及び混練装置にも強く依存するため、本発明の効果は前記好ましい範囲に限定されるものではない。また、前記無機系核剤の炭素含有量が前記好ましい範囲内であると、無機粒子からの表面処理剤由来成分の遊離量を低減できる傾向にある。
【0118】
古典的核形成理論に拠れば、気泡核と無機粒子表面との接触角が小さくなれば発泡核形成の活性化エネルギーが低下し、核形成が円滑に進行する。したがって、無機粒子表面の化学的な性質としては疎水化度のみが重要であるように考えられる。しかし、本発明者らが鋭意検討した結果、前記無機系核剤としての無機粒子の疎水化度が高いだけでは、発泡核剤として有効ではない傾向にあった。詳細な理由は不明であるが、前記無機系核剤としての無機粒子の平均疎水化度が65体積%以上、かつ前記無機粒子の炭素含有量が4質量%以上である場合に、発泡核剤として顕著な効果が得られることを見出した。前記無機粒子の炭素含有量が4質量%以上であると、該無機粒子の表層に発泡剤との親和性が高い一定の体積が生じると考えられる。本発明のように、発泡剤の濃度が低い場合、発泡核形成のために発泡剤の拡散が律速となることが想像される。無機粒子表面に存在する発泡剤との親和性が高い一定の体積中では、発泡剤濃度がその他の部分と比べて実質的に高くなることが考えられ、発泡核形成時の発泡剤の調達に有利に働くものと考えられる。
【0119】
前記無機粒子の疎水化度は、メタノールウェッタビリティ法(MW法)により求められるものである。この数値が大きいほど疎水性が高く、数値が小さいほど親水性が高いことを示す。
前記無機粒子の疎水化度は、無機粒子をV1[mL]の純水に添加し、撹拌しながらメタノールを滴下し、無機粒子が湿潤して液中に分散するまでに要したメタノールの量をV2[mL]としたとき、下記式(7)で得られる。
疎水化度[体積%]={V2/(V1+V2)}×100 ・・・ 式(7)
【0120】
本発明における疎水化度とは以下に記載する測定方法により得られた値をいう。
50mLスクリュー管(ラボランスクリュー管瓶 9-852-09、No.7、ラボランテック製)に50mgの無機粒子を秤量し、純水5mL(V1[mL])を加えて試料とする。撹拌子(直径6mm、長さ20mm、楕円形)を静かに入れ、マグネティックスターラー(MX-1型、柴田科学株式会社製)で水面にボルテックスが生じない様に静かに攪拌を行う。孔を空けたパラフィルムで容器口を覆い、25mLビュレット(公差±0.03mL、アズワン株式会社製)を用いて、メタノール(特級、>99.8%、関東化学株式会社製)を0.3mL/分間の速度で壁面を伝わせるように加えていき、無機粒子が液中に分散するまでに要したメタノールの量(V2[mL])を測定する。測定は3回行い、前記式(7)で疎水化度を算出し算術平均した値を平均疎水化度とする。
【0121】
また、前記無機粒子の炭素含有量は、ISO 3262-20:2021に準拠し、以下に記載する測定方法により測定することができる。
前記無機粒子を800℃で完全燃焼した後、燃焼ガス成分中の二酸化炭素を熱伝導度検出器(TCD)ガスクロマトグラフで検出し、定量することにより算出する。
【0122】
-シリカ-
前記シリカは、SiO2で表される二酸化ケイ素を主成分とするものである。シリカ粒子の製造方法により大別して、乾式法シリカと湿式法シリカの2つに分けられるが、本発明では、いずれの方法で製造されたものも用いることができる。シリカは、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤等の反応性化合物によって、表面処理がなされていることが好ましく、オルガノポリシロキサン(シリコーンオイル)、炭素数16以上のアルキルシラン等の反応性化合物によって、表面処理がなされていることがより好ましい。
【0123】
-層状ケイ酸塩-
前記層状ケイ酸塩の体積平均粒子径(Mv)としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10μm以上200μm以下であることが好ましい。前記層状ケイ酸塩の体積平均粒子径(Mv)が10μm以上であると、回り道する経路が短くなり、十分にガス成分を保持できないため、発泡倍率の向上効果が得られないという不具合が生じにくい。また、前記層状ケイ酸塩の体積平均粒子径(Mv)が200μm以下であると、泡壁が脆くなりにくく、破泡につながりにくいため、発泡倍率向上効果が得られる。
【0124】
前記層状ケイ酸塩の体積平均粒子径(Mv)は仕込み前の層状ケイ酸塩を測定してもよいし、前記発泡シートから、例えば、以下の方法で取り出したものを測定してもよい。
前記発泡シートの試料を切り出して、るつぼに入れマッフル炉(例えば、FP-310、ヤマト科学株式会社製)を用いて600℃で4時間燃焼し、有機成分を燃焼させる。その後、デシケータ内でるつぼを1時間冷却し、得られた無機粒子を測定用試料とする。無機粒子が2種類以上含まれている場合は、更に比重分離によって層状ケイ酸塩を分離することができる。
前記層状ケイ酸塩の体積平均粒子径(Mv)の測定方法としては、特に制限はなく、例えば、以下の測定装置及び測定条件により求めることができる。本発明においては、前記層状ケイ酸塩の体積平均粒子径(Mv)を、該層状ケイ酸塩の平均粒子径とする。
[[測定装置及び測定条件]]
・ 装置:マイクロトラックMT3300EX(マイクロトラック・ベル株式会社製)
・ 測定条件:透過性/透過、屈折率/1.53、形状/非球形、溶媒/AIR、溶媒屈折率/1、測定時間/10s、拡張フィルタ/無効、分布/体積
【0125】
前記層状ケイ酸塩のアスペクト比としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、10以上100以下が好ましく、25以上75以下がより好ましい。前記層状ケイ酸塩のアスペクト比が10以上であると、配向性が良好であり、十分な曲路効果が得られるため、前記発泡シートの発泡倍率の向上効果が得らる。また、前記層状ケイ酸塩のアスペクト比が100以下であると、混練工程で前記ポリ乳酸樹脂組成物と前記層状ケイ酸塩とを混練する際に、該層状ケイ酸塩が粉砕され、結果としてアスペクト比が小さくなってしまうという不具合がないため十分な効果が得られる。
【0126】
前記層状ケイ酸塩のアスペクト比は、下記式(8)によって求められる。
アスペクト比=層状ケイ酸塩の体積平均粒子径(Mv)/層状ケイ酸塩の平均厚み ・・・ 式(8)
前記式(8)において、前記層状ケイ酸塩の体積平均粒子径(Mv)及び前記層状ケイ酸塩の厚みの測定方法は、特に制限はないが、例えば、体積平均粒子径(Mv)は前記測定方法によって求められ、また、厚みは以下の方法で求めることができる。
【0127】
前記層状ケイ酸塩の厚みの測定方法としては、例えば、走査電子顕微鏡(SEM)(例えば、3Dリアルサーフェスビュー顕微鏡 VE-9800、KEYENCE社製)を用いて層状ケイ酸塩のSEM観察を行う。拡大倍率は、観察範囲の粒子数が数十~数百個になるように調整する。必要に応じて、複数の視野を撮影し、画像を連結させて画像解析に供してもよい。取り込んだ画像から層状ケイ酸塩の厚み面が観察面に水平になっている粒子を選択し、厚みを計測する。粒子50個の平均値をとり、層状ケイ酸塩の平均厚みとする。
【0128】
前記ポリ乳酸樹脂組成物中の前記発泡核剤の含有量としては、前記発泡シートの物性を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記ポリ乳酸樹脂組成物の全質量に対して、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.25質量%以上2.5質量%以下がより好ましい。前記発泡核剤の含有量が、0.1質量%以上10質量%以下であると、前記発泡核剤同士が凝集する不具合や、前記ポリ乳酸樹脂組成物の比重が高くなり、前記発泡シートの軽量性が損なわれることを防止できる。また、前記発泡核剤の含有量が、0.25質量%以上2.5質量%以下であることにより、前記発泡核剤の量が少なく環境負荷が低減されることに加え、前記発泡シートが脆化することを防ぐことができる。
【0129】
<<その他の成分>>
前記ポリ乳酸樹脂組成物における前記その他の成分としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記ポリ乳酸樹脂以外の樹脂成分、各種添加剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0130】
-ポリ乳酸樹脂以外の樹脂成分-
前記ポリ乳酸樹脂以外の樹脂成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ブタジエン系樹脂、スチレン-ブタジエン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、アクリルスチレン系樹脂、アクリルシリコーン系樹脂などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0131】
-添加剤-
前記添加剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、熱安定剤、酸化防止剤、可塑剤、滑剤、結晶化促進剤、増粘剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
前記増粘剤としては、重量平均分子量が100万以上の高分子量成分などが挙げられる。
【0132】
前記その他の成分の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記ポリ乳酸樹脂組成物における有機物の総量に対して2質量%未満が好ましい。この場合、生分解性やリサイクル性がより良好になる。
【0133】
なお、前記ポリ乳酸樹脂組成物中の各成分の含有量は、該ポリ乳酸樹脂組成物からなる発泡シート中の各成分の含有量と同義である。
【0134】
以上のように、本発明においては、熱成型性に優れる発泡シートを得る為に、高い結晶性のポリ乳酸樹脂組成物を、低い結晶化度を維持して発泡シートに成型する点に特徴がある。前記特徴を実現するために、前記ポリ乳酸樹脂組成物の混練から押出までの温度を、前記ポリ乳酸樹脂組成物の融点から-20℃以上の比較的高い温度に維持する必要があるが、これは先行文献に開示されるようなポリ乳酸樹脂組成物を冷却することで発泡に適した粘度範囲に調整する方法が困難であることを意味する。したがって、本発明におけるポリ乳酸樹脂組成物は、前記ポリ乳酸樹脂組成物の融点から-20℃以上の比較的高い温度で発泡剤を保持できるように、高い溶融粘度を有する特徴がある。
【0135】
本発明の発泡シートは、そのまま使用されてもよいし、成型した成型体(製造物)として使用されてもよい。本発明の発泡シートは、成型性、耐熱性、断熱性、及び生分解性に優れるため、食品用容器、食器などとして好適に用いられる。また、耐熱性食品用容器として好適であるが、このような用途に限定されるものではない。また、本発明の発泡シートにそのまま印字などをして使用してもよい。
【0136】
(発泡シートの製造方法)
本発明における発泡シートは、前記ポリ乳酸樹脂組成物を押出発泡して得られる。
以下に本発明における発泡シートの製造工程について、より詳細な説明を行う。
本発明における発泡シートの製造工程は、少なくとも混練工程と、含浸工程と、発泡工程とを含むことが好ましく、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
【0137】
前記押出発泡に用いられる押出機としては、例えば、単軸押出機、二軸押出機、また、これらを組み合わせたタンデム型押出機等を用いることができる。これらの中でも、前記ポリ乳酸樹脂、更に必要に応じて、前記鎖伸長剤、前記発泡核剤、前記その他の成分、発泡剤等の発泡シートの原材料を効率的に溶融混練し、これら溶融混合物を所定の温度に冷却して押し出すことができる観点からタンデム型押出機を用いることが好ましく、溶融混練、冷却の効率性の観点から二軸押出機と単軸押出機とを組合せたタンデム型押出機が最も好ましい。また、必要に応じて二軸押出機と単軸押出機の間や、押出機とダイの間にギヤポンプ等の流量調整機構を設置してもよい。
【0138】
前記押出機の先端には、Tダイあるいはサーキュラーダイ(「丸ダイ」とも称することがある)と呼ばれる環状ダイを接続して前記溶融混合物を押出し、発泡シートを得ることができる。
【0139】
かさ密度の低い発泡シートを得ようとする場合、コルゲートを緩和しやすい観点からサーキュラーダイを用いて発泡シートを製造することが好ましい。この場合、サーキュラーダイから押し出される筒状の発泡体を、冷却したマンドレルに沿わせながら引き取って冷却し、更に外周からは空気を吹き付けて迅速に冷却することが好ましい。このような冷却を行うことで、発泡シートの押出し後の結晶化を抑制することができ、熱成型性に優れた発泡シートを得ることができる。
【0140】
また、必要に応じて二軸押出機と単軸押出機の間や、押出機とダイの間にギヤポンプ等の流量調整機構を設置してもよい。
【0141】
<<発泡剤>>
前記発泡シートは、好ましくは、前記ポリ乳酸樹脂組成物と発泡剤とを溶融混練した後、押出発泡することで得ることができる。前記発泡剤としては、公知の物理発泡剤を用いることができる。
例えば、物理発泡剤としては、エタン、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、エチレン、プロピレン、石油エーテルといった炭化水素類;塩化メチル、モノクロロトリフルオロメタン、ジクロロジフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロエタンといったハロゲン系発泡剤;空気;二酸化炭素;窒素などを挙げることができる。
【0142】
本発明においては環境負荷が低く、また作業安全性が高く、取り扱いが容易な点から二酸化炭素、窒素が好ましく、窒素と比べると二酸化炭素の方が、ポリ乳酸樹脂組成物への溶解性の観点から好ましい。
【0143】
一方、二酸化炭素は炭化水素系発泡剤と比べて蒸気圧が高く、ポリ乳酸樹脂組成物中での拡散速度も大きいことが知られている。したがって、二酸化炭素を発泡剤に用いて発泡シートを製造する場合、微細な発泡状態が得られるような高い発泡剤濃度では、発泡が急激に起こりコルゲートと呼ばれる筋状の外観不良や、破泡による表面のざらつき、発泡倍率の低下が起こりやすい傾向にある。
【0144】
発泡シートの表面性を損なわずに発泡する手段としては、発泡剤の濃度を下げる方法が知られているが、過飽和度が小さくなるため発泡径が粗大化する。粗大な気泡は溶融状態のポリ乳酸樹脂組成物を突き破って系外へ放出されて壊泡することで、発泡倍率が上がらず、断熱性が悪化する。したがって、従来の方法では、発泡シートの表面性と断熱性に係る特性がトレードオフになる問題があった。
【0145】
これに対し、本発明の発泡シートの製造方法では、前記ポリ乳酸樹脂と共に用いる前記鎖伸長剤(架橋剤)について、適切な範囲のエポキシ当量及び重量平均分子量(Mw)を持った鎖伸長剤(架橋剤)を好適に用いることで、前記ポリ乳酸樹脂組成物の溶融状態の粘度が上がり、低発泡剤領域でも破泡が抑えられて、表面性と断熱性を両立した発泡シートを得ることができる。同時に、適切な範囲のエポキシ当量及び重量平均分子量(Mw)を持った鎖伸長剤(架橋剤)は低添加濃度でも効果を発揮するため、前記ポリ乳酸樹脂組成物中のポリ乳酸樹脂の含有量を多くすることができるために生分解性が損なわれることもない。
【0146】
タンデム型の押出機を用いる場合、前記発泡剤は一段目の押出機に注入することが好ましい。前記発泡剤を一段目の押出機に注入することで、前記発泡剤と前記ポリ乳酸樹脂組成物とが接触する時間を長くすることができ、溶け残った発泡剤が膨張する事による気泡の部分的な粗大化や、ピンホール等の不具合を抑制できる傾向にある。
【0147】
本発明において、前記発泡剤の添加量は、前記ポリ乳酸樹脂組成物100質量部に対して、2質量部以上5質量部以下であり、2質量部以上4質量部以下が好ましい。前記発泡剤の添加量が前記ポリ乳酸樹脂組成物100質量部に対して、2質量部未満であると、前記ポリ乳酸樹脂組成物の可塑化が限定的になるという不具合や発泡倍率が高くできないといった不具合が生じる。また、前記発泡剤の添加量が前記ポリ乳酸樹脂組成物100質量部に対して、5質量部を超えると、急激な発泡による表面性の不良が生じる。
【0148】
<混練工程>
前記混練工程は、前記ポリ乳酸樹脂と、更に必要に応じて、前記鎖伸長剤と、前記発泡核剤と、前記その他の成分とを含む混合物を溶融及び混練し、発泡に適した粘度のポリ乳酸樹脂組成物を得る工程である。前記混練工程は、更に圧縮性流体を含むことが好ましい。前記圧縮性流体は、前記ポリ乳酸樹脂組成物を可塑化し、装置負荷を低減する目的で配合するが、後続の含浸工程を省略できる観点から前記発泡剤と同一であることが好ましい。
【0149】
前記ポリ乳酸樹脂に前記鎖伸長剤を添加した場合、前記混練工程では、前記ポリ乳酸樹脂と、前記鎖伸長剤との反応により前記ポリ乳酸樹脂組成物の粘度が調整される。
【0150】
本発明においては、前記鎖伸長剤として前記分子内に2つ以上のエポキシ基を有する化合物が好適に用いられるため、前記混練工程の温度としては、前記ポリ乳酸樹脂組成物の融点以上240℃以下が好ましく、220℃以上240℃以下がより好ましい。前記混練工程の温度がポリ乳酸樹脂組成物の融点以上240℃以下であると、前記ポリ乳酸樹脂組成物の粘度を効果的に向上でき、更に未反応の前記分子内に2つ以上のエポキシ基を有する化合物の溶出を少なくすることができる。
【0151】
<含浸工程>
前記含浸工程は、前記ポリ乳酸樹脂組成物と前記発泡剤とを溶融及び混練し、発泡性ポリ乳酸樹脂組成物を得る工程である。前記ポリ乳酸樹脂組成物に対する前記発泡剤の溶解性(溶解度、及び溶解速度)は、前記含浸工程の温度及び圧力によって異なる。前記含浸工程の温度及び圧力は、前記発泡シートの状態を観察しながら適宜設定すればよいが、一般に圧力を高くする、前記ポリ乳酸樹脂組成物の温度を低くすることで前記発泡剤の前記ポリ乳酸樹脂組成物に対する溶解度を高くすることができる。
【0152】
本発明において、「発泡性ポリ乳酸樹脂組成物」とは、前記ポリ乳酸樹脂組成物に前記発泡剤を溶解及び/又は分散させた状態の組成物を指し、後述する発泡工程で押出機内の圧力から大気圧へ解圧させると発泡する状態の組成物である。
【0153】
前記含浸工程は、前記発泡性ポリ乳酸樹脂組成物を緩やかに冷却しながら行うことが好ましい。二軸押出機及び単軸押出機を組み合わせたタンデム型押出機は、単軸押出機でポリ乳酸樹脂組成物を緩やかに冷却しながら発泡剤を溶解でき、本発明の発泡シートの製造に適している。
【0154】
<発泡工程>
前記発泡工程は、前記含浸工程で得られた発泡性ポリ乳酸樹脂組成物を押出機から吐出して発泡体を得る工程であり、好ましくは、前記含浸工程で得られた前記発泡性ポリ乳酸樹脂組成物に溶解していた発泡剤としての圧縮性流体を気化させて除去し、前記ポリ乳酸樹脂組成物に気泡を発生させ、発泡させると共に、前記ポリ乳酸樹脂組成物を押出機から吐出して成型する工程である。前記発泡工程においては、押出機内の圧力と大気圧との圧力差を駆動力に発泡が起こる。
【0155】
前記発泡性ポリ乳酸樹脂組成物は、前記発泡工程において150℃~170℃程度に調整されていることが好ましい。ここで、前記発泡工程の温度とは、ダイの設定温度を指す。前記発泡工程の温度を前記範囲とすることで、結晶化を抑制しながらも、前記発泡性ポリ乳酸樹脂組成物の粘度を発泡に適した範囲に調整することができる。
【0156】
ダイを130℃程度まで冷却した場合、結晶化が進行し、前記発泡シートの熱成型性を損なう傾向や、ダイが結晶により閉塞する傾向がある。前記発泡工程の温度を前記範囲とすることで、結晶化を抑制しながらも、前記発泡性ポリ乳酸組成物の粘度を発泡に適した範囲に調整することができる。
【0157】
前記混練工程と前記含浸工程とは同時に行ってもよく、前記混練工程のみを実施してポリ乳酸樹脂組成物を得た後に、前記含浸工程と前記発泡工程により発泡体を得てもよい。
【0158】
前記混練工程のみを実施して得られる非発泡性のポリ乳酸樹脂組成物は、マスターバッチ、又は単にポリ乳酸樹脂組成物と称することもある。
【0159】
次に、前記混練工程を行う装置の一例について、図面を用いて説明するが、本発明における前記混練工程はこれに限られるものではない。
図2は、本発明の発泡シートの製造装置における混練手段の一例としての二軸押出装置(連続式混練装置)100を示す概略図である。例えば、二軸押出装置100は、スクリュー口径が42mmであり、押出機長さ(L)と前記スクリュー口径(D)との比[L/D]を48とする。本例では、第一の供給部1及び第二の供給部2から原材料混合及び溶融部aに、例えば、ポリ乳酸樹脂、発泡核剤、鎖伸長剤等の原材料が供給され、混合及び溶融される。前記ポリ乳酸樹脂組成物が、前記原材料以外の成分(無機粒子等)を含む場合には、前記原材料以外の成分も供給され、溶融及び混合される。前記ポリ乳酸樹脂組成物が3つ以上の成分からなる場合は、供給部を適宜増やすか、前記ポリ乳酸樹脂と事前に混合するなどして供給部から原材料混合及び溶融部aに供給する。
【0160】
混合及び溶融された原材料は、圧縮性流体供給部bで圧縮性流体貯留部3から、好ましくは圧縮性流体の状態の二酸化炭素が供給される。次いで、圧縮性流体を含む混合物は混練部cにて混練される。次いで、前記混合物は圧縮性流体除去部dにて圧縮性流体Fが除去された後、成型加工部eで、例えば、ペレット化されて樹脂ペレットPとなる。このようにして、ポリ乳酸樹脂組成物(マスターバッチ)を得ることができる。
【0161】
なお、圧縮性流体は、例えば、冷却して液化したものを計量ポンプで供給し、また樹脂ペレットや発泡核剤などの固体の原材料は、例えば、定量フィーダーで供給することができる。
【0162】
前記混練工程と前記含侵工程、前記発泡工程を一貫して行う場合、前記圧縮性流体としては発泡剤を用いるのが好ましく、圧縮性流体除去部dにおいて圧縮性流体Fの除去は行わない。
【0163】
次に
図2に示した混練装置の各部で行われる工程について説明する。
【0164】
-原材料混合及び溶融部a-
前記原材料混合及び溶融部aでは、樹脂ペレットと必要に応じて添加するポリ乳酸樹脂以外の成分の混合と昇温を行う。加熱温度は樹脂の溶融温度以上に設定し、次の圧縮性流体供給部bで、圧縮性流体Fと均一に混合できる状態にする。
【0165】
-圧縮性流体供給部b-
前記圧縮性流体供給部bでは、樹脂ペレットが加熱により溶融状態となったところに、圧縮性流体Fを供給し、溶融樹脂を可塑化させる。
【0166】
-混練部c-
前記混練部cでは、ポリ乳酸樹脂中にポリ乳酸樹脂以外の成分を均一に分散させる。設定温度は、反応装置の仕様や負荷の状況等で適宜変更してよいが、ポリ乳酸樹脂組成物の融点以上240℃以下が好ましい。
【0167】
次に、前記混練及び前記発泡を連続して行う場合の前記発泡シートの製造装置(連続式発泡シート製造装置110)の一例を
図3に示す。
【0168】
連続式発泡シート製造装置110としては、混練装置10と単軸押出機20とを連結したタンデム型押出機を用いることができる。連続式発泡シート製造装置110では、例えば、第一の供給部1及び第二の供給部2から原材料混合及び溶融部aにポリ乳酸樹脂、発泡核剤、鎖伸長剤等の原材料が供給され、混合及び溶融される。
【0169】
混合及び溶融された原材料は、圧縮性流体供給部bで圧縮性流体貯留部3から発泡剤としての圧縮性流体が供給される。次いで、発泡剤としての圧縮性流体を含む混合物は混練部cで混練され、発泡性ポリ乳酸樹脂組成物となる。
【0170】
前記発泡性ポリ乳酸樹脂組成物は、温度調整部fに供給され、温度調整部fにおいて発泡に適した温度に調整すると共に、発泡剤を更に溶解させる。次いで、ダイから大気中に押出発泡させ、得られる筒状発泡体4を冷却マンドレル5上に沿わせながら、かつ、外周から空冷しながら冷却する。更に、一部を回転刃に拠って切り開き、平坦化した後、ロール状に巻き取って本発明の発泡シートを得ることができる。
【0171】
本発明においては、混練部cがポリ乳酸樹脂組成物の融点以上240℃以下、より好ましくは220℃以上240℃以下である。また、温度調整部fはポリ乳酸樹脂組成物の融点-20℃以上であることが好ましい。
【0172】
本例では、混練装置10により混練工程を行い、単軸押出機20により前記発泡工程を行っている。しかし、本発明ではこのような構成に制限されるものではない。例えば、前記混練工程と前記発泡工程を行う領域を適宜変更することができる。
【0173】
(成型体)
本発明の成型体の一実施形態は、本発明の発泡シートを含有するものである。これは、本発明の発泡シートからなる成型体であってもよく、更に必要に応じて、その他の成分を含んでいてもよい。
また、本発明の成型体の別の一実施形態は、本発明の発泡シートを熱成型してなるものであり、更に必要に応じて、その他の成分を含んでいてもよい。
前記その他の成分としては、通常の樹脂製品に用いられるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0174】
前記発泡シートの熱成型としては、特に制限されるものではなく、例えば、型を用いて熱成型して製品を得るプロセスに供してもよい。型を用いた発泡シートの熱成型方法としては、特に制限はなく、従来公知の熱可塑性樹脂の方法を用いることができ、例えば、真空成型、圧空成型、真空圧空成型、プレス成型などが挙げられる。
【0175】
前記成型体(製造物、消費材などとも称される)としては、例えば、生活用品として、容器、袋、包装容器、トレー、食器、カトラリー、文房具、緩衝材などが挙げられる。この成型体の概念には、成型体を加工するための中間体として、前記発泡シートをロール状にした原反や、単体としての成型体のみでなく、トレーの取っ手のような成型体からなる部品や、取っ手が取り付けられたトレーのような成型体を備えた製品なども含まれる。
【0176】
前記容器の形態としては、特に制限なく選択できる。例えば、トレーなどの蓋なしの容器としてもよく、シュリンクフィルムやトップシール、勘合蓋等で開口部を閉じる形態での容器としてもよい。また、本発明の容器には容器の蓋も含み、容器の蓋として利用することも可能である。
【0177】
前記袋としては、例えば、レジ袋、ショッピングバッグ、ごみ袋などが挙げられる。
【0178】
前記文房具としては、例えば、クリアファイル、ワッペンなどが挙げられる。
【0179】
また、前記成型体は、前記生活用品以外の用途としても適用でき、例えば、工業用資材、日用品、農業用品、食品用、医薬品用、化粧品等のシート、包装材などの用途として幅広く適用することができる。
【0180】
また、前記発泡シートは、必要に応じてラミネートやコーティング等の加工を施してもよい。発泡シート製造時の巻き取り前に加工を行っても、巻き取った発泡シートに対して後から加工を施してもよい。ラミネートフィルムやコーティング剤等の種類や加工方法は特に制限なく選択できる。
【0181】
このような成型体においては、前記発泡シートの性状を維持していない場合もあるが、前記発泡シートを原材料として使用している限り、本発明の範囲内である。
【0182】
<成型体の製造方法及び成型体の製造装置>
前記成型体の製造方法としては、特に制限はなく、所望の成型体の形状などに応じて適宜選択することができるが、熱成型方法によって成型体を製造する場合、加熱工程と、加熱成型工程と、を含むことが好ましく、更に必要に応じて、その他の工程を含む。
前記成型体の製造装置としては、特に制限はなく、所望の成型体の形状などに応じて適宜選択することができるが、加熱手段と、加熱成型手段と、を有することが好ましく、更に必要に応じて、その他の手段を有する。
前記成型体の製造方法は、前記成型体の製造装置によって好適に行われる。
【0183】
<<加熱工程及び加熱手段>>
前記加熱工程は、本発明の発泡シートを成型する前に、前記発泡シートを加熱し軟化させる工程である。
前記加熱手段は、本発明の発泡シートを成型する前に、前記発泡シートを加熱し軟化させる手段である。
前記加熱工程は、前記加熱手段により好適に行われる。
【0184】
前記加熱工程において、前記発泡シートを加熱する方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記発泡シートの上下、若しくは、前記発泡シートの上面と下面のいずれか一方に、前記加熱手段を配置して加熱する方法などが挙げられる。
【0185】
前記加熱手段としては、特に制限はなく、公知の加熱部材の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、電熱ヒーター、加熱板、IR(赤外線)ヒーターなどが挙げられる。
【0186】
前記加熱工程では、前記酸発泡シートの成型前にポリ乳酸樹脂の結晶化を進めずに、次の加熱成型工程で前記ポリ乳酸樹脂の結晶化を進めることが、耐熱性の向上の点で好ましい。そのため、前記加熱工程としては、短時間で前記発泡シートを加熱することができる方法が好ましく、前記発泡シートの上下にIR(赤外線)ヒーターを配置して加熱する方法が特に好ましい。
【0187】
前記加熱工程における前記発泡シートの加熱温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記ポリ乳酸樹脂のガラス転移温度以上の温度が好ましく、60℃以上の温度で行うことがより好ましく、80℃以上の温度で行うことが更に好ましい。また、前記ポリ乳酸樹脂の冷結晶化温度近傍で加熱すると、前記加熱工程中に結晶化が進んでしまうため、前記加熱工程における前記発泡シートの加熱温度は、最大でも110℃以下の温度で加熱することが好ましい。前記加熱温度の下限値と上限値とは適宜組み合わせることができるが、前記加熱工程における前記発泡シートの加熱温度は、60℃以上100℃以下がより好ましく、80℃以上100℃以下が特に好ましい。
【0188】
なお、前記加熱温度は、前記発泡シート自体の温度を意味する。前記加熱工程における前記発泡シートの加熱時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、結晶化を進め過ぎないという観点から、15秒間以内が好ましく、10秒間以内がより好ましく、5秒間以内が更に好ましい。
【0189】
<<加熱成型工程>>
前記加熱成型工程は、前記加熱工程によって軟化した前記発泡シートを、型、好ましくは金型を用いて成型する工程であり、容器の形状に賦形する工程であることが好ましい。
【0190】
前記型を用いた成型方法としては、特に制限はなく、従来公知の熱可塑性樹脂の熱成型方法を用いることができ、例えば、真空成型法、圧空成型法、真空圧空成型法、マッチモールド成型法などが挙げられるが、成型過程で前記発泡シートのポリ乳酸樹脂の結晶化を進めて耐熱性を向上させる観点から、マッチモールド成型法が特に好ましい。
【0191】
前記加熱成型工程における前記型の温度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記発泡シートにおける前記ポリ乳酸樹脂の結晶化が進むように、前記ポリ乳酸樹脂の冷結晶化温度近傍で行うことが好ましい。
【0192】
本発明において、「ポリ乳酸樹脂の冷結晶化温度近傍」とは、前記ポリ乳酸樹脂の冷結晶化温度に対して+20℃以下を意味する。具体的には、前記加熱成型工程における前記型の温度としては、100℃以上120℃以下が好ましく、100℃以上110℃以下が更に好ましい。前記加熱成型工程における前記型の温度を前記ポリ乳酸樹脂の冷結晶化温度近傍で行うことで、耐熱性に優れた成型体を得ることができる。
【0193】
前記加熱成型工程における加熱成型時間としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記発泡シートが結晶化するのに十分な時間を確保することが好ましく、5秒間以上がより好ましく、7秒間以上が更に好ましい。前記加熱成型時間の上限値としては、特に制限はないが、耐熱性の点から10秒間以下であることが好ましい。前記加熱成型時間の下限値と上限値とは適宜組み合わせることができ、前記加熱成型時間は、5秒間以上10秒間以下が好ましく、7秒間以上10秒間以下がより好ましい。
【0194】
<<その他の工程及びその他の手段>>
前記その他の工程としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記型から前記成型体を取り外す離形工程、前記発泡シートから前記成型体を打ち抜く工程、前記成型体以外の前記発泡シートの余分な部分を切り落とす工程、などが挙げられる。
【実施例】
【0195】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例において、別段の断りない限り、「部」は「質量部」を示し、「%」は、評価基準中のものを除き「質量%」を示す。
【0196】
(実施例1)
<発泡シートの作製>
-原材料混合及び溶融工程-
図3に示すタンデム型の連続式発泡シート製造装置110を用い、混練装置10の原材料混合及び溶融部aに、ポリ乳酸樹脂、発泡核剤としての無機粒子、及び鎖伸長剤を含有するポリ乳酸樹脂組成物が20kg/時間になるように、ポリ乳酸樹脂98.1部(REVODE190、HISUN社製)、無機粒子としてのシリル化シリカ1部(AEROSIL(登録商標)RY300、平均疎水化度:67.2体積%、炭素含有量:6.0質量%~8.5質量%、日本アエロジル株式会社製)、及び鎖伸長剤0.9部(マープルーフ(登録商標)G-0250SP、日油株式会社製)の割合で供給した。
【0197】
-圧縮性流体供給工程及び混練・含侵工程-
次いで、発泡剤としての圧縮性流体である二酸化炭素を0.76kg/時間(ポリ乳酸樹脂組成物100部に対して3.8部に相当)で混練装置10の圧縮性流体供給部bに供給し、これらを混練部cで混合、溶融、及び混練し、単軸押出機20に供給した。
【0198】
-発泡工程-
次いで、前記ポリ乳酸樹脂組成物を、単軸押出機20の温度調整部fで、樹脂温度が160℃になるまで冷却し、単軸押出機20の先端に取り付けたスリット口径70mm、ギャップ0.5mmのサーキュラーダイから大気中に吐出して二酸化炭素を気化させることで押出発泡させた。
【0199】
-成型工程-
得られた筒状の発泡シートを、冷却マンドレル5上に沿わせると共に、その外面にエアーを吹き付けて強制冷却し、回転刃式カッターによりシートを切開して、平坦なシート状発泡体(以下、実施例1の「発泡シート」と称することがある)を得た。
【0200】
実施例1において、各部の温度は下記の通りとした。
・ 混練装置の原材料混合及び溶融部a:200℃
・ 混練装置の圧縮性流体供給部b:240℃
・ 混練装置の混練部c:240℃
・ 単軸押出機の温度調整部f:180℃から160℃へ冷却
・ サーキュラーダイ:155℃
【0201】
また、実施例1において、各部の圧力は下記の通りとした。
・ 混練装置の圧縮性流体供給部b:7MPa~10MPa
・ 混練装置の混練部c:8MPa~20MPa
・ 単軸押出機の温度調整部f:8MPa~38MPa
【0202】
(実施例2~4、7~9、及び13)
実施例1において、ポリ乳酸樹脂組成物の処方を下記表1~表3に示す処方に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で実施例2~4、7~9、及び13の発泡シートを得た。
【0203】
(実施例5、6、10、及び12)
実施例1において、発泡シート作製工程の条件を下記表2及び表3に示す条件に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で実施例5、6、10、及び12の発泡シートを得た。
【0204】
(実施例11)
実施例1において、ポリ乳酸樹脂組成物の処方、及び発泡シート作製工程の条件を下記表3に示す処方に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で実施例11の発泡シートを得た。
【0205】
(比較例1~5)
実施例1において、ポリ乳酸樹脂組成物の処方及び発泡シート作製工程の条件を下記表4に示す処方及び条件に変更したこと以外は、実施例1と同様の方法で比較例1~5の発泡シートを得た。
【0206】
<物性の測定>
実施例1~13及び比較例1~5の発泡シートについて、以下の方法で、「発泡シート中の有機物の総量に対するポリ乳酸樹脂の含有量」、「発泡シート中のポリ乳酸樹脂を構成する乳酸のD体及び乳酸のL体のモル比率」、「発泡シート中のポリ乳酸樹脂の融点」、「発泡シート中のポリ乳酸樹脂の再結晶化温度」、「発泡シート中のポリ乳酸樹脂のガラス転移温度」、「発泡シート中のポリ乳酸樹脂の冷結晶化温度」、「鎖伸長剤(架橋剤)のエポキシ当量」、「鎖伸長剤(架橋剤)の重量平均分子量(Mw)」、「発泡シートの断面のTD方向の最表面形状」、「発泡シートのかさ密度」、「発泡シートの発泡径(メジアン径)」、及び「発泡シートの冷結晶化エンタルピー」を測定し、結果を下記表1~表4に示した。
また、実施例1~13及び比較例1~5の発泡剤供給工程及び混練工程で得られたポリ乳酸樹脂組成物について、「ポリ乳酸樹脂組成物の重量平均分子量」及び「ポリ乳酸樹脂組成物の再結晶化エンタルピー」を測定し、結果を下記表1~表4に示した。
【0207】
<<発泡シート中の有機物の総量に対するポリ乳酸樹脂の含有量の測定>>
実施例1~13及び比較例1~5の発泡シート中の有機物の総量に対するポリ乳酸樹脂の含有量は以下の手順で測定した。
【0208】
-溶媒の調製-
測定に用いる溶媒は、内部標準物質として1,3,5-トリメトキシベンゼン標準品(定量NMR用、富士フイルム和光純薬株式会社製)を約100mg量り取り、10mLメスフラスコにて重クロロホルム(テトラメチルシラン(TMS)0.3体積%含有)で溶解させたものを用いた。
【0209】
-試料の調製-
実施例1~13及び比較例1~5の発泡シートの濃度が10mg/mLとなるように、発泡シートに前記溶媒を加え、卓上振盪機(MSI-60、アズワン株式会社製)で半日程度振盪して溶解した。この際、蒸発による試料濃度の変化を最小限に留めるために、容器としては可能な限り小さいものを選んだ。上記方法で調製した試料を直径5mmの試料管に封じてNMRに供した。
【0210】
-測定-
下記測定装置及び測定条件で、JIS K 0138:2018(定量核磁気共鳴分光法通則(qNMR通則))に準拠して、1H核のNMR測定(1H-NMR測定)を行った。
[[測定装置及び測定条件]]
・ 核磁気共鳴(NMR)装置:JNM-ECX-500 FT-NMR(日本電子株式会社製)
・ 観測核:1H
・ 測定温度:30℃
・ スピン:オフ
・ デジタル分解能:0.25Hz
・ 観測範囲:-0.5~15ppm
・ パルス角:90°
・ 緩和時間:60秒
・ 積算回数:16回(本測定の前にダミースキャンを2回行う)
・ 13Cデカップリング:有
【0211】
-解析-
得られたデータについて、下記化学シフトのピークに対する積分を行い、下記式(4)により積分比を計算した。
積分1(ポリ乳酸樹脂由来):5.2ppm
積分2(内部標準由来):6.1ppm
積分比=積分1/(積分2×試料質量) ・・・ 式(4)
【0212】
純度既知のポリ乳酸樹脂について、前記試料と共通の溶媒を用いて同様のNMR測定を行い、純度既知のポリ乳酸樹脂について前記式(4)より得られた積分比と、前記試料についての積分比との比を取り、下記式(5)により発泡シート中の有機物の総量に対するポリ乳酸樹脂の含有量を算出した。
ポリ乳酸樹脂の含有量[質量%]=100×純度既知のポリ乳酸樹脂の純度[質量%]×(試料の積分比)/(純度既知のポリ乳酸樹脂の積分比) ・・・ 式(5)
【0213】
前記試料の調製から解析までの工程を3回行い、得られたポリ乳酸樹脂の含有量の算術平均を、実施例1~13及び比較例1~5の発泡シート中の有機物の総量に対するポリ乳酸樹脂の含有量とした。
【0214】
<<発泡シート中のポリ乳酸樹脂を構成する乳酸のD体及び乳酸のL体のモル比率の測定>>
実施例1~13及び比較例1~5の発泡シートを凍結粉砕し、凍結粉砕した該発泡シートの粉末を精密天秤にて三角フラスコに200mg量り取り、1Nの水酸化ナトリウム水溶液30mLを加えた。次に、三角フラスコを振盪しながら65℃に加熱して、ポリ乳酸樹脂を完全に溶解させた。続いて、1Nの塩酸を用いてpHが7となるように調整し、メスフラスコを用いて所定の体積に希釈してポリ乳酸樹脂溶解液を得た。次に、前記ポリ乳酸樹脂溶解液を0.45μmのメンブレンフィルターで濾過した後、下記測定条件で液体クロマトグラフィーにより分析した。
[[測定装置及び測定条件]]
・ HPLC装置(液体クロマトグラフ):PU-2085Plus型システム(日本分光株式会社製)
・ カラム:Chromolith(登録商標) coated with SUMICHIRAL OA-5000(内径4.6mm、長さ250mm)(株式会社住友分析センター製)
・ カラム温度:25℃
・ 移動相:2mM CuSO4水溶液と2-プロパノールとの混合液(CuSO4水溶液:2-プロパノール(体積比)=95:5)
・ 移動相流量:1.0mL/分間
・ 検出器:UV254nm
・ 注入量:20μL
【0215】
得られたチャートに基づいて、乳酸のD体由来のピーク面積及び乳酸のL体由来のピーク面積と、これらの合計面積とから、乳酸のD体由来のピーク面積比及び乳酸のL体由来のピーク面積比をそれぞれ算出し、これを存在比として、D体量比及びL体量比を算出した。上記操作を3回行って得られた結果の算術平均した値を、発泡シートにおけるポリ乳酸樹脂を構成する乳酸のD体量及び乳酸のL体量とした。結果は、「モル比率(L体:D体)」として、下記表1~表4に示した。
【0216】
<<発泡シート中のポリ乳酸樹脂の融点の測定>>
実施例1~13及び比較例1~5の発泡シート中のポリ乳酸樹脂の融点は、JIS K 7121:2012(プラスチックの転移温度測定方法)に準拠した示差走査熱量(DSC)測定から求めた。
具体的には、前記発泡シートから切り出した5mg~10mgの試料を、示差走査熱量計装置(Q-2000型、TAインスツルメント社製)の容器に入れ、10℃から200℃まで昇温速度10℃/分間で昇温して測定した。
ガラス転移温度より高温側で観測される結晶の溶融に伴う吸熱ピークのピークトップ温度(融解ピーク温度、Tpm)を発泡シート中のポリ乳酸樹脂の融点として測定した。また、ガラス転移温度より高温側で複数の吸熱ピークが観察された場合は、面積が最大となるピークのピークトップ温度を発泡シート中のポリ乳酸樹脂の融点とした。
【0217】
<<発泡シート中のポリ乳酸樹脂の再結晶化温度の測定>>
実施例1~13及び比較例1~5の発泡シート中のポリ乳酸樹脂の再結晶化温度は、JIS K 7121:2012(プラスチックの転移温度測定方法)に準拠した示差走査熱量(DSC)測定から求めた。
具体的には、前記発泡シートから切り出した5mg~10mgの試料を、示差走査熱量計装置(Q-2000型、TAインスツルメント社製)の容器に入れ、10℃から200℃まで昇温速度10℃/分間で昇温し10分間保持後、200℃から10℃まで10℃/分間で降温した。この際、発熱ピークのピークトップ温度を発泡シート中のポリ乳酸樹脂の再結晶化温度として測定した。なお、結晶化ピークが明確に見えないものは、下記表1~表4において「不明瞭」と記載した。
【0218】
<<発泡シート中のポリ乳酸樹脂のガラス転移温度の測定>>
実施例1~13及び比較例1~5の発泡シート中のポリ乳酸樹脂のガラス転移温度は、JIS K 7121:2012(プラスチックの転移温度測定方法)に準拠した示差走査熱量(DSC)測定から求めた。
具体的には、前記発泡シートから切り出した5mg~10mgの試料を、示差走査熱量計装置(Q-2000型、TAインスツルメント社製)の容器に入れ、10℃から200℃まで昇温速度10℃/分間で昇温して測定した。
【0219】
<<発泡シート中のポリ乳酸樹脂の冷結晶化温度の測定>>
実施例1~13及び比較例1~5の発泡シート中のポリ乳酸樹脂の冷結晶化温度は、JIS K 7121:2012(プラスチックの転移温度測定方法)に準拠した示差走査熱量(DSC)測定から求めた。
具体的には、前記発泡シートから切り出した5mg~10mgの試料を、示差走査熱量計装置(Q-2000型、TAインスツルメント社製)の容器に入れ、10℃から200℃まで昇温速度10℃/分間で昇温した。この際、ガラス転移温度以上の温度域で観測される発熱ピークのピークトップ温度を発泡シート中のポリ乳酸樹脂の冷結晶化温度として測定した。
【0220】
<<鎖伸長剤(架橋剤)のエポキシ当量の測定>>
鎖伸長剤(架橋剤)のエポキシ当量の測定は、JIS K 7236:2001(エポキシ樹脂のエポキシ当量の求め方)に準拠して下記方法により行った。
【0221】
-試料の調製-
0.1g~0.3gの鎖伸長剤(架橋剤)としてのエポキシ基を有する化合物にクロロホルム10mLを加え、マグネティックスターラーで攪拌しながら完全に溶解させた。20mLの酢酸、及び臭化テトラエチルアンモニウムのクロロホルム溶液10mL(濃度:0.25g/mL)を加えて測定用試料とした。
【0222】
-測定-
下記測定装置及び測定条件で、調製した測定用試料のエポキシ当量を測定した。
[[測定装置及び測定条件]]
・ 装置:自動滴定装置 COM-A-19(株式会社HIRANUMA製)
・ 標準液:0.1mol/L過塩素酸-酢酸標準液
・ 電極:ガラス電極 GTRS10B
比較電極 GTPH1B(内部液は飽和過塩素酸ナトリウム/酢酸溶液)
・ 測定モード:変曲点検出
・ 微分判定値:100mV/mL
・ 計算式:1,000×S/((A1-BL)×M×f)
ここで、Sはエポキシ基を有する化合物の質量(g)を示し、A1は変曲点の滴下量(mL)を示し、BLはブランク測定の結果(mL)を示し、Mは標準液の濃度(mol/L)、fは標準液のファクターを示す。ブランク測定は2回行い、2回測定の平均値を用いた。
【0223】
<<鎖伸長剤(架橋剤)の重量平均分子量(Mw)の測定>>
鎖伸長剤(架橋剤)の重量平均分子量(Mw)の測定は下記方法により行った。
【0224】
-試料の調製-
鎖伸長剤(架橋剤)としてのエポキシ基を有する化合物とクロロホルムとを、エポキシ基を有する化合物の濃度が2mg/mL程度になるように混合し、卓上振盪機(MSI-60、アズワン株式会社製)で半日程度振盪し、エポキシ基を有する化合物が溶解したことを確認した後、0.45μmのメンブレンフィルターにてろ過した濾液を測定用試料として用いた。
【0225】
-測定-
下記測定装置及び測定条件で、調製した測定用試料の重量平均分子量(Mw)を測定した。
[[測定装置及び測定条件]]
・ 装置:HLC-8320GPC(東ソー・テクノシステム株式会社製)
・ カラム:TSKgel(登録商標) guardcolumn SuperHZ-L及びTSKgel SuperHZM-M×4本
・ 検出器:RI
・ 測定温度:40℃
・ 移動相:クロロホルム
・ 流量:0.45mL/分間
・ 注入量:20μL
【0226】
<<ポリ乳酸樹脂組成物の重量平均分子量の測定>>
実施例1~13及び比較例1~5の発泡剤供給工程及び混練工程で得られたポリ乳酸樹脂組成物の重量平均分子量(Mw)の測定は下記方法により行った。
【0227】
-試料の調製-
ポリ乳酸樹脂組成物とクロロホルムとを、ポリ乳酸樹脂組成物の濃度が2mg/mL程度になるように混合し、卓上振盪機(MSI-60、アズワン株式会社製)で半日程度振盪し、ポリ乳酸樹脂組成物が溶解したことを確認した後、0.45μmのメンブレンフィルターにてろ過した濾液を測定用試料として用いた。
【0228】
-測定-
鎖伸長剤(架橋剤)の重量平均分子量(Mw)の測定の[[測定装置及び測定条件]]と同様の測定装置及び測定条件で、調製した測定用試料の重量平均分子量(Mw)を測定した。
【0229】
<<ポリ乳酸樹脂組成物の再結晶化エンタルピーの測定>>
実施例1~13及び比較例1~5の発泡剤供給工程及び混練工程で得られたポリ乳酸樹脂組成物の再結晶化エンタルピーは、JIS K 7122:2012(プラスチックの転移熱測定方法)に準拠した示差走査熱量(DSC)測定から求めた。
具体的には、ポリ乳酸樹脂組成物を5mg~10mgとり、65℃に熱したホットプレート上で銅製の丸棒(直径20mm程度、丸棒も同様に65℃に熱しておいた)により1秒間~3秒間プレス(500gf程度の荷重に拠る)して平坦化して試料を作製した。この試料を、下記測定装置及び測定条件にて測定し、下記解析方法で解析した。なお、再結晶化エンタルピーは、試料の調製から解析までを5回行って得られた結果の算術平均を用いた。
[[測定装置及び測定条件]]
・ 装置:Q-2000(TAインスツルメント社製)
・ 温度プログラム:10℃/分間の昇温速度で10℃から200℃まで走査し(1st heating)、200℃で1分間保持した後、10℃/分間の降温速度で200℃から25℃まで走査した(1st cooling)。
・ 再結晶化エンタルピーの解析:1st coolingにおいて観察される結晶化に伴う発熱ピークについて、積分により面積を求めて再結晶化エンタルピーとした。結晶化に伴う発熱ピークの位置は、おおよそ100℃~130℃の範囲であった。積分のベースラインは、発熱ピークの前後を結ぶ直線とした。
【0230】
<<発泡シートの断面のTD方向の最表面形状>>
実施例1~13及び比較例1~5の発泡シートの断面のTD方向の最表面形状は以下の方法で評価した。
【0231】
-試料-
発泡シートのTD方向の中央部を5cm×5cmの正方形に切り出し、下記3次元計測器のステージに両面テープで該発泡シートが浮かないよう固定し、測定用試料とした。
なお、測定用試料は、発泡シートから切り出す場所を変えて、同様の方法で3個作製した。
【0232】
-うねりに対する処理-
粗さ曲線要素の平均長さRSmを評価した際に10mm以上の数値が計測される場合には、うねりのカットオフ(λc)を10mmに設定して計測を行った。
【0233】
-測定-
下記測定装置及び測定条件で、3個の測定用試料の厚み方向かつTD方向の、一方の表面のTD方向の形状を観察し、付属のソフトを用いて、それぞれJIS B 0601:2013に準拠して算出した算術平均粗さRa及び粗さ曲線要素の平均長さRSmを得た後、その平均値を算出した。また、算術平均粗さRa(平均値)と、粗さ曲線要素の平均長さRSm(平均値)との比[Ra/RSm]を算出した。
[[測定装置及び測定条件]]
・ 装置:3次元計測器 VR-3200(Keyence社製)
・ 観察倍率:12倍
・ 測定モード:スタンダード
・ 測定方向:両側
・ 測定用明るさ調整:オート(設定値:80)
・ 基準面設定:画面のx方向、y方向のそれぞれを選択して実施
【0234】
<<発泡シートのかさ密度の測定>>
実施例1~13及び比較例1~5の発泡シートを温度23℃、相対湿度50%に調整された環境下で24時間以上静置し、50mm×50mmの試験片を切り出した。切り出した試験片に対して、自動比重計(DSG-1、株式会社東洋精機製作所製)を用い、液中秤量法を用いてかさ密度を求めた。液中秤量法においては、発泡シートの試験片の大気中の質量(g)を精秤し、次いで発泡シートの試験片の水中での質量(g)を精秤し、下記式(1)により算出した。
かさ密度[g/cm3]=水の密度[g/cm3]×大気中の試験片の質量[g]/(大気中の試験片の質量[g]-液体中の試験片の質量[g]) ・・・ 式(1)
【0235】
<<発泡シートの発泡径(メジアン径)の測定>>
実施例1~13及び比較例1~5の発泡シートを鋭利なカミソリ(76カミソリ、日新EM株式会社製)を用いて断面切削を行い、走査電子顕微鏡(SEM)(3Dリアルサーフェスビュー顕微鏡 VE-9800、KEYENCE社製)を用いて、発泡シート断面の拡大倍率20倍から50倍の走査電子顕微鏡(SEM)観察を行った。得られた画像は、画像解析ソフトImageJ(フリーソフト)のMorphoLibJプラグインを用い、watershed法(Morphological segmetation)による領域分割を行った。この際、Toleranceは分割が妥当になるように画像毎に調整した。領域の分割線を2値画像として出力し、画像端部に接する気泡は解析から除外しながら画像解析ソフトの粒子径解析機能により気泡面積の分布を求めた。気泡面積の累積分布を表計算ソフト(Excel、Microsoft社製)で作成し、累積分布が50%になる面積を求め、該面積の円相当径を計算し、発泡径(メジアン径)として用いた。
【0236】
<<発泡シートの冷結晶化エンタルピーの測定>>
実施例1~13及び比較例1~5の発泡シート中の冷結晶化エンタルピーは、JIS K 7122:2012(プラスチックの転移熱測定方法)に準拠した示差走査熱量(DSC)測定から求めた。
具体的には、前記発泡シートから5mg~10mgの試料を切り出し、65℃に熱したホットプレート上で銅製の丸棒(直径20mm程度、丸棒も同様に65℃に熱しておいた)により、500gfの荷重で1秒間~3秒間プレスして平坦化して試料を作製した。この試料を示差走査熱量計装置(Q-2000型、TAインスツルメント社製)の容器に入れ、下記測定装置及び測定条件にて測定し、下記解析方法で解析した。なお、前記発泡シート中のポリ乳酸樹脂の冷結晶化エンタルピーは、試料の調製から解析までを5回行って得られた結果の算術平均とした。
[[測定装置及び測定条件]]
・ 装置:Q-2000(TAインスツルメント社製)
・ 温度プログラム:10℃/分間の昇温速度で10℃から200℃まで走査した(1st heating)。
・ 冷結晶化エンタルピーの解析:1st heatingの60℃~100℃において観察される結晶化に伴う発熱ピークについて積分により面積を求めて冷結晶化エンタルピーとした。積分のベースラインは、該発熱ピークの前後を結ぶ直線とした。
【0237】
<評価>
実施例1~13及び比較例1~5の発泡シートについて、以下の方法で「成型性」、「耐熱性」、「断熱性」、及び「生分解性」を評価した。評価結果は、下記表1~表4に示した。
【0238】
<<成型性>>
実施例1~13及び比較例1~5の発泡シートを予備加熱後、マッチモールド型加熱金型で110℃、10秒間かけてカップ焼きそば容器(開口部の直径180mm、底部の直径110mm、深さ60mm)の形状に成型した。得られたカップ焼きそば容器の成型体を専門評価者が観察し、成型性を下記評価基準に基づき評価した。評価結果はAが最も良く、許容範囲はA又はBとした。
-成型性の評価基準-
A:破れや薄くなっている場所がなく均一な厚みの容器が成型できている
B:破れはないが、薄くなり破れかけている場所が確認される
C:大きな破れが発生した
【0239】
<<耐熱性>>
実施例1~13及び比較例1~5の発泡シートを予備加熱後、マッチモールド型加熱金型で110℃、10秒間かけてカップ焼きそば容器(開口部の直径180mm、底部の直径110mm、深さ60mm)の形状に成型した。25℃の水を、実施例1~13及び比較例1~5の発泡シートの成型体(カップ焼きそば容器)の開口部のすりきりまで入れ、成型体内に入れた水の質量を測定し、25℃における水の密度で体積に換算した値を成型体の「初期体積」とした。
次に、実施例1~13及び比較例1~5の発泡シートの成型体を120℃で10分間加熱後に、25℃の水を開口部のすりきりまで入れ、成型体内に入れた水の質量を測定し、25℃における水の密度で体積に換算した値を成型体の「加熱後体積」とした。
下記式(9)により成型体の加熱前後の体積変化率を算出し、この体積変化率を成型体の耐熱性の指標として、下記評価基準に基づき評価した。評価結果はAが最も良く、許容範囲はA又はBとした。
体積変化率(%)=(初期体積-加熱後体積)/初期体積×100 ・・・ 式(9)
-耐熱性の評価基準-
A:体積変化率が3%未満である
B:体積変化率が3%以上10%未満である
C:体積変化率が10%以上である、若しくは、元の形状が認められないほど変形している
【0240】
<<断熱性>>
実施例1~13及び比較例1~5の発泡シートから50mm×50mmの試験片を切り出した。切り出した試験片を100℃に加熱したホットプレート上に置いて3分間静置した。静置後、加熱面とは反対側の面に熱電対を付けて発泡シート表面温度を計測し、発泡シート表面温度を断熱性の指標として下記評価基準に基づき評価した。評価結果はAが最も良く、許容範囲はA、B、又はCとした。
-断熱性の評価基準-
A:発泡シートの表面温度が45℃未満である
B:発泡シートの表面温度が45℃以上55℃未満である
C:発泡シートの表面温度が55℃以上65℃未満である
D:発泡シートの表面温度が65℃以上である
【0241】
<<生分解性>>
実施例1~13及び比較例1~5の発泡シートの生分解性は、JIS K 6953-2:2010(プラスチック-制御されたコンポスト条件下の好気的究極生分解度の求め方-発生二酸化炭素量の測定による方法-第2部:実験室規模における発生二酸化炭素の質量測定方法)に準拠して求め、下記評価基準に基づき評価した。評価結果はAが最も良く、許容範囲はA又はBとした。
-生分解性の評価基準-
A:45日間で生分解度60%以上
B:6か月間で生分解度60%以上
C:6か月間で生分解度60%未満
【0242】
【0243】
【0244】
【0245】
【0246】
本発明の態様としては、例えば、以下のものなどが挙げられる。
<1> ポリ乳酸樹脂を含有する組成物からなる発泡シートであって、
前記ポリ乳酸樹脂は、該ポリ乳酸樹脂の構成モノマー単位である乳酸のD体又は乳酸のL体のいずれか一方が該ポリ乳酸樹脂中98モル%以上であり、
前記発泡シートにおける有機物の総量に対する前記ポリ乳酸樹脂の含有量が98質量%以上であり、
前記発泡シートのかさ密度が0.063g/cm3以上0.250g/cm3以下であり、
前記発泡シートの厚み方向、かつ、前記発泡シートの押出方向に直行する方向の断面から見た、前記発泡シートの少なくとも一方の表面の、前記発泡シートの押出方向に直行する方向の形状について、JIS B 0601:2013に準拠して算出した算術平均粗さRaと、JIS B 0601:2013に準拠して算出した粗さ曲線要素の平均長さRSmとの比[Ra/RSm]が0.050以下であることを特徴とする発泡シートである。
<2> 前記比[Ra/RSm]が0.030以下である、前記<1>に記載の発泡シートである。
<3> 前記発泡シートのかさ密度が0.063g/cm3以上0.125g/cm3以下である、前記<1>又は<2>に記載の発泡シートである。
<4> 前記ポリ乳酸樹脂を含有する組成物がエポキシ基を有する化合物を含有し、
前記エポキシ基を有する化合物のエポキシ当量が250以上350以下であり、
前記エポキシ基を有する化合物の重量平均分子量(Mw)が10,000以上20,000以下である、前記<1>から<3>のいずれかに記載の発泡シートである。
<5> 前記エポキシ基を有する化合物が分子内に2つ以上のエポキシ基を有する化合物である、前記<4>に記載の発泡シートである。
<6> 前記ポリ乳酸樹脂を含有する組成物が無機粒子を含有し、
前記無機粒子の平均疎水化度が65体積%以上、かつ前記無機粒子の炭素含有量が4質量%以上である、前記<1>から<4>のいずれかに記載の発泡シートである。
<7> 前記無機粒子がシリカである、前記<6>に記載の発泡シートである。
<8> 前記発泡シートの発泡径がメジアン径で800μm以下である、前記<1>から<7>のいずれかに記載の発泡シートである。
<9> 前記発泡シートは冷結晶化エンタルピーが20J/g以上である、前記<1>から<8>のいずれかに記載の発泡シートである。
<10> 前記<1>から<9>のいずれかに記載の発泡シートを熱成型してなることを特徴とする成型体である。
<11> 前記<1>から<9>のいずれかに記載の発泡シートを含有することを特徴とする成型体である。
<12> 前記<1>から<9>のいずれかに記載の発泡シートの製造方法であって、
ポリ乳酸樹脂を含有する組成物を、該ポリ乳酸樹脂を含有する組成物100質量部に対して、2質量部以上5質量部以下の発泡剤の存在下で混練する工程と、
前記ポリ乳酸樹脂を含有する組成物から前記発泡剤を気化して前記ポリ乳酸樹脂を含有する組成物を発泡させる工程と、
を含むことを特徴とする発泡シートの製造方法である。
<13> 前記二酸化炭素が圧縮性流体である、前記<12>に記載の発泡シートの製造方法である。
【0247】
前記<1>から<9>のいずれかに記載の発泡シート、前記<10>又は<11>に記載の成型体、及び前記<12>から<13>のいずれかに記載の発泡シートの製造方法は、従来における前記諸問題を解決し、前記本発明の目的を達成することができる。
【符号の説明】
【0248】
1 第一の供給部
2 第二の供給部
3 圧縮性流体貯留部
4 筒状発泡体
5 冷却マンドレル
10 混練装置
20 単軸押出機
100 二軸押出装置(連続式混練装置)
110 連続式発泡シート製造装置
a 原材料混合及び溶融部
b 圧縮性流体供給部
c 混練部
d 圧縮性流体除去部
e 成型加工部
f 温度調整部
F 圧縮性流体
P 樹脂ペレット
200 発泡シート
201 発泡シート200の厚み方向かつTD方向の断面
202 発泡シート200の一方の表面(最表面)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0249】
【文献】特開2007-46019号公報
【文献】特許第5207277号公報
【文献】特許第5454137号公報
【文献】特開2006-328225号公報
【文献】特許4842745号公報
【文献】特開2020-158608公報
【要約】
【課題】成型性、耐熱性、断熱性、及び生分解性に優れる発泡シートを提供すること。
【解決手段】ポリ乳酸樹脂を含有する組成物からなる発泡シートであって、前記ポリ乳酸樹脂は、該ポリ乳酸樹脂の構成モノマー単位である乳酸のD体又は乳酸のL体のいずれか一方が該ポリ乳酸樹脂中98モル%以上であり、前記発泡シートにおける有機物の総量に対する前記ポリ乳酸樹脂の含有量が98質量%以上であり、前記発泡シートのかさ密度が0.063g/cm
3以上0.250g/cm
3以下であり、前記発泡シートの厚み方向かつTD方向の断面から見た、該発泡シートの少なくとも一方の表面のTD方向の形状について、JIS B 0601:2013に準拠して算出した算術平均粗さRaと、JIS B 0601:2013に準拠して算出した粗さ曲線要素の平均長さRSmとの比[Ra/RSm]が0.050以下である発泡シートである。
【選択図】
図1