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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】SiCエピタキシャルウェハ
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20240903BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20240903BHJP
   C30B 23/06 20060101ALN20240903BHJP
   H01L 21/304 20060101ALN20240903BHJP
【FI】
C30B29/36 A
H01L21/20
C30B23/06
H01L21/304 601
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023070229
(22)【出願日】2023-04-21
(62)【分割の表示】P 2022089089の分割
【原出願日】2022-05-31
(65)【公開番号】P2023177253
(43)【公開日】2023-12-13
【審査請求日】2023-04-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】周防 裕政
(72)【発明者】
【氏名】金田一 麟平
(72)【発明者】
【氏名】山下 任
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-145150(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0198804(US,A1)
【文献】特開2007-290880(JP,A)
【文献】特開2017-069334(JP,A)
【文献】特表2016-501809(JP,A)
【文献】特表2021-503170(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 29/36
H01L 21/20
C30B 23/06
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiC基板と、前記SiC基板の一面に積層されたSiCエピタキシャル層とを有し、
前記SiC基板の直径が195mm以上であり、かつ、前記SiC基板のWarpが50μm以下であり、
Warpが50μm以下である、SiCエピタキシャルウェハ。
【請求項2】
前記SiCエピタキシャル層の表面において、最外周から7.5mm内側の円周と重なる位置にある支持体と、厚み方向から見て重なる部分を通る面を基準面とした際のBowが30μm以下である、請求項1に記載のSiCエピタキシャルウェハ。
【請求項3】
Warpが30μm以下である、請求項1に記載のSiCエピタキシャルウェハ。
【請求項4】
前記SiCエピタキシャル層の表面において、最外周から7.5mm内側の円周と重なる位置にある支持体と、厚み方向から見て重なる部分を通る面を基準面とした際のBowが10μm以下である、請求項2に記載のSiCエピタキシャルウェハ。
【請求項5】
前記SiCエピタキシャル層の表面において、最外周から7.5mm内側の円周と重なる位置にある支持体と、厚み方向から見て重なる部分を通る面を基準面とした際のBowが-30μm以上である、請求項2に記載のSiCエピタキシャルウェハ。
【請求項6】
前記SiC基板の板厚が350μm以下である、請求項1に記載のSiCエピタキシャルウェハ。
【請求項7】
SiC基板と、前記SiC基板の一面に積層されたSiCエピタキシャル層とを有するSiCエピタキシャルウェハであって、
前記SiC基板の直径が195mm以上であり、
前記SiCエピタキシャルウェハのWarpが50μm以下であり、
前記SiCエピタキシャルウェハのWarpから前記SiC基板のWarpを引いた値が0μm以上78μm以下である、SiCエピタキシャルウェハ。
【請求項8】
前記SiCエピタキシャルウェハのWarpから前記SiC基板のWarpを引いた値が0μm以上47μm以下である、請求項7に記載のSiCエピタキシャルウェハ。
【請求項9】
SiC基板と、前記SiC基板の一面に積層されたSiCエピタキシャル層とを有し、
前記SiC基板の直径が195mm以上であり、かつ前記SiC基板の板厚が350μm以下であり、
Warpが50μm以下である、SiCエピタキシャルウェハ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiCエピタキシャルウェハに関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて絶縁破壊電界が1桁大きく、バンドギャップが3倍大きい。また、炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて熱伝導率が3倍程度高い等の特性を有する。そのため炭化珪素(SiC)は、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等への応用が期待されている。このため、近年、上記のような半導体デバイスにSiCエピタキシャルウェハが用いられるようになっている。
【0003】
SiCエピタキシャルウェハは、SiCインゴットから切り出されたSiC基板の表面にSiCエピタキシャル層を積層することで得られる。以下、SiCエピタキシャル層を積層前の基板をSiC基板と称し、SiCエピタキシャル層を積層後の基板をSiCエピタキシャルウェハと称する。
【0004】
SiCエピタキシャルウェハは、片面にSiCエピタキシャル層を有するため、反る場合がある。SiCエピタキシャルウェハの反りは、半導体デバイスのプロセスに悪影響を及ぼす。例えば、反りは、フォトリソグラフィー加工における焦点ずれの原因となる。また反りは、搬送プロセス中におけるウェハの位置精度低下の原因となる。さらに、SiCエピタキシャルウェハは半導体プロセス中の酸化膜積層やイオン注入により、大きな反りが発生する場合がある。
【0005】
一方で、SiCエピタキシャル層を積層する前のSiC基板は平坦であり、SiC基板の状態でSiCエピタキシャルウェハの反りや半導体プロセス中の反りを予想することは難しい。例えば、特許文献1には、研磨が完了したSiC単結晶製品ウェハの反りの値を、研磨工程完了前に予測するために、ラマン散乱光の波数シフト量の差分を用いることが記載されている。特許文献2には、基板の厚み方向においてラマンスペクトルを測定し、厚み方向において応力の分布が低減されている基板が開示されている。また例えば、特許文献3には、結晶学的なストレスを緩和することで、SiC基板の反りが低減されることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-59073号公報
【文献】国際公開第2019/111507号
【文献】米国特許出願公開第2021/0198804号明細書
【文献】特開2007-290880号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2には、ラマンシフトを用いて、基板の内部応力の評価をしているが、ラマンシフトには方向の情報は含まれていない。また特許文献1~3には応力を小さくすることが記載されているが、応力を小さくすることだけでは、SiCエピタキシャルウェハの反りを十分抑制することができなかった。また、特許文献4にはインゴットの周方向の圧縮応力を大きくすることで、インゴットのクラックを抑制することが記載されているが、SiCエピタキシャルウェハの反りを十分抑制することができなかった。
【0008】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、SiCエピタキシャル層を積層する、酸化膜を積層する、イオン注入を実施する等の表面処理した後の反りを抑制できるSiC基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、外周近傍の円周方向の引張応力を中心近傍の円周方向の引張応力より大きくすることで、SiCエピタキシャル層を積層する等の表面処理した後の反りを抑制できることを見出した。すなわち、本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0010】
(1)第1の態様にかかるSiC基板は、中心から[11-20]方向で外周端から10mm内側の点を第1外周点とし、中心から直径10mmの円内の任意の点を第1中心点とした際に、前記第1外周点における前記第1外周点の円周方向である<1-100>方向の引張応力は、前記第1中心点における前記第1外周点の円周方向と同じ方向である<1-100>方向の引張応力より大きい。
【0011】
(2)上記態様にかかるSiC基板は、中心から[-1100]方向で外周端から10mm内側の点を第2外周点とした際に、前記第2外周点における前記第2外周点の円周方向と同じ方向である<11-20>方向の引張応力は、前記第1中心点における前記第2外周点の円周方向と同じ方向である<11-20>方向の引張応力より大きくてもよい。
【0012】
(3)第2の態様にかかるSiC基板は、中心から[-1100]方向で外周端から10mm内側の点を第2外周点とし、中心から直径10mmの円内の任意の点を第1中心点とした際に、前記第2外周点における前記第2外周点の円周方向である<11-20>方向の引張応力は、前記第1中心点における前記第2外周点の円周方向と同じ方向である<11-20>方向の引張応力より大きい。
【0013】
(4)上記態様にかかるSiC基板は、中心から[11-20]方向で外周端から10mm内側の点を第1外周点とした際に、前記第1外周点における前記第1外周点の円周方向と同じ方向である<1-100>方向の引張応力は、前記第1中心点における前記第1外周点の円周方向と同じ方向である<1-100>方向の引張応力より大きくてもよい。
【0014】
(5)上記態様にかかるSiC基板において、前記第1外周点の円周方向の引張応力は、前記第1中心点における前記第1外周点の円周方向と同じ方向に作用する引張応力より10MPa以上大きくてもよい。また前記第2外周点の円周方向の引張応力は、前記第1中心点における前記第2外周点の円周方向と同じ方向に作用する引張応力より10MPa以上大きくてもよい。
【0015】
(6)上記態様にかかるSiC基板において、前記第1外周点の円周方向の引張応力は、前記第1中心点における前記第1外周点の円周方向と同じ方向に作用する引張応力より30MPa以上大きくてもよい。また前記第2外周点の円周方向の引張応力は、前記第1中心点における前記第2外周点の円周方向と同じ方向に作用する引張応力より30MPa以上大きくてもよい。
【0016】
(7)上記態様にかかるSiC基板は、直径が145mm以上でもよい。
【0017】
(8)上記態様にかかるSiC基板は、直径が195mm以上でもよい。
【0018】
(9)上記態様にかかるSiC基板は、第1面の表面粗さ(Ra)が、1nm以下でもよい。
【0019】
(10)上記態様にかかるSiC基板は、Warpが50μm以下でもよい。
【0020】
(11)上記態様にかかるSiC基板は、第1面において、最外周から7.5mm内側の円周と重なる位置にある支持体と、厚み方向から見て重なる部分を繋ぐ面を基準面とした際のBowが30μm以下でもよい。
【0021】
(12)第3の態様にかかるSiCエピタキシャルウェハは、上記態様にかかるSiC基板と、前記SiC基板の一面に積層されたSiCエピタキシャル層とを有する。
【0022】
(13)上記態様にかかるSiCエピタキシャルウェハは、Warpが50μm以下でもよい。
【0023】
(14)上記態様にかかるSiCエピタキシャルウェハは、前記エピタキシャル層の表面において、最外周から7.5mm内側の円周と重なる位置にある支持体と、厚み方向から見て重なる部分を通る面を基準面とした際のBowが30μm以下でもよい。
【発明の効果】
【0024】
上記態様にかかるSiC基板は、SiCエピタキシャル層を積層する等の表面処理した後の反りを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】SiCエピタキシャルウェハの反りを説明するための模式図である。
図2】本実施形態にかかるSiC基板の平面図である。
図3】第1外周点の円周方向の引張応力の測定方法を説明するための模式図である。
図4】第2外周点の円周方向の引張応力の測定方法を説明するための模式図である。
図5】WarpによるSiC基板の形状の評価方法を模式的に示した図である。
図6】BowによるSiC基板の形状の評価方法を模式的に示した図である。
図7】SiCインゴットの製造装置の一例である昇華法を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本実施形態にかかるSiC基板等について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本実施形態の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材質、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0027】
まずSiCエピタキシャルウェハ20の反りについて説明する。図1は、SiCエピタキシャルウェハ20の反りを説明するための模式図である。SiCエピタキシャルウェハ20は、SiC基板10の第1面10aにSiCエピタキシャル層11を積層することで得られる。SiCエピタキシャルウェハ20は、SiC基板10とSiCエピタキシャル層11とを有する。
【0028】
SiC基板10に大きな反りは無く、ほぼ平坦である。ほぼ平坦とは、平坦面上に載置した際に、大きく浮き上がる部分がないことを意味する。
【0029】
デバイスが動作できる高品質のSiCを得るために、SiC基板10にはSiCエピタキシャル層11が積層される。またSiCエピタキシャル層11を積層する前には、研磨等の機械的な加工が施される場合が多い。この場合、SiC基板10の第1面10aに加工変質層が形成される。SiC基板10の一面に、SiCエピタキシャル層11が積層されたり、加工変質層が形成されるとSiCエピタキシャルウェハ20が反る場合がある。
【0030】
「第1実施形態」
図2は、本実施形態に係るSiC基板10である。SiC基板10は、SiCからなる。SiC基板10のポリタイプは、特に問わず、2H、3C、4H、6Hのいずれでもよい。SiC基板10は、例えば、4H-SiCである。
【0031】
SiC基板10の平面視形状は略円形である。SiC基板10は、結晶軸の方向を把握するためのオリエンテーションフラットOFもしくはノッチを有してもよい。SiC基板10の直径は、例えば、145mm以上であり、好ましくは195mm以上である。SiC基板10の直径が大きいほど、同じ曲率でも反りの絶対量が大きくなる。反りの大きなSiCエピタキシャルウェハは、後工程のプロセスに与える影響が大きく、反りの抑制が求められる。換言すると、本発明は、直径の大きいSiC基板10に適用するほど効果的である。
【0032】
本実施形態に係るSiC基板10は、第1外周点1の円周方向である<1-100>方向の引張応力が、第1中心点2における第1外周点1の円周方向と同じ方向である<1-100>方向の引張応力より大きい。第1外周点1の円周方向の引張応力は、第1中心点2における第1外周点の円周方向と同じ方向に作用する引張応力より10MPa以上大きいことが好ましく、30MPa以上大きいことがより好ましい。
【0033】
第1外周点1は、SiC基板10の外周端から10mm内側の外周部5にある。第1外周点1は、外周部5のうちSiC基板10の中心から[11-20]の方向にある点である。第1中心点2は、中心部6内の任意の点である。中心部6は、SiC基板10の中心から直径10mmの円内の領域である。第1中心点2は、例えば、SiC基板10の中心と一致する。
【0034】
ここで、ミラー指数の方向を示す括弧の表記として、<>、[]がある。<1-100>は、結晶方向の対称性から[-1100]を含む。<11-20>は、結晶方向の対称性から[11-20]を含む。
【0035】
引張応力は、歪εとヤング率との積で算出される。歪εは、(a0-a)/a0で求められる。a0は、基準格子定数である。a0は、4H-SiCの場合、約3.08Åである。aは、X線回折法(XRD)から求められる格子定数である。応力の方向は、X線回折の入射X線の方向から求められる。なお、本発明では引張を正、圧縮を負の値として取り扱う。応力の大小を議論する際は、絶対値で大小を規定する。格子定数aが、基準格子定数a0より小さくなればなるほど、歪εは大きくなり、その結果、引張応力が大きくなる。
【0036】
図3は、第1外周点1の円周方向の引張応力の測定方法を説明するための模式図である。第1外周点1における円周方向は、SiC基板10の中心と第1外周点1とを結ぶ線分と直交する方向(以下、第1方向と称する。)である。第1方向は、<1-100>方向である。第1外周点1の円周方向の引張応力を測定する場合は、第1方向からX線を照射する。この円周方向からX線をSiC基板10に入射することで、第1外周点1における円周方向の格子定数aが求められる。そしてこの格子定数aを用いて、上式から第1外周点1における円周方向の応力が求められる。なお、実測の格子定数aが基準格子定数a0より小さい場合は、引張応力が作用しているとみなす。
【0037】
第1中心点2において第1外周点1の円周方向と同じ方向に作用する引張応力は、第1外周点1と同じ方法で、第1中心点2にX線を入射することで求められる。第1外周点1の円周方向と同じ方向は、上述の第1方向である。第1外周点1と第1中心点2とは、同じ方向(第1方向)に作用する引張応力の大小を比較する。
【0038】
第1外周点1の円周方向の引張応力が、第1中心点2における第1外周点1の円周方向と同じ方向に作用する引張応力より大きいと、SiCエピタキシャル層11を積層後にSiCエピタキシャルウェハ20が反りにくい。これは、第1外周点1の円周方向に引張応力が強く加わることで、SiCエピタキシャルウェハ20を外側に向かって広げようとする力がSiCエピタキシャルウェハ20に作用するためと考えられる。
【0039】
また本実施形態に係るSiC基板10は、第2外周点3の円周方向の引張応力が、第1中心点2における第2外周点3の円周方向と同じ方向に作用する引張応力より大きいことが好ましい。また第2外周点3の円周方向の引張応力は、第1中心点2における第2外周点3の円周方向と同じ方向に作用する引張応力より10MPa以上大きいことが好ましく、30MPa以上大きいことがより好ましい。
【0040】
第2外周点3は、SiC基板10の外周端から10mm内側の外周部5にある。第2外周点3は、外周部5のうちSiC基板10の中心から[-1100]の方向にある点である。
【0041】
図4は、第2外周点3の円周方向の引張応力の測定方法を説明するための模式図である。第2外周点3における円周方向は、SiC基板10の中心と第2外周点3とを結ぶ線分と直交する方向(以下、第2方向と称する。)である。第2方向は、<11-20>方向である。第2外周点3の円周方向の引張応力を測定する場合は、第2方向からX線を照射する。この円周方向からX線をSiC基板10に入射することで、第2外周点3における円周方向の格子定数aが求められる。そしてこの格子定数aを用いて、上式から第2外周点3における円周方向の引張応力が求められる。
【0042】
第2外周点3の円周方向の引張応力と、第1中心点2における第2外周点3の円周方向と同じ方向に作用する引張応力とを比較する際は、第1中心点2において第2外周点3の円周方向と同じ方向である<11-20>方向の引張応力を求める。第1中心点2において第2外周点3の円周方向と同じ方向に作用する引張応力は、第2外周点3と同じ方法で、第1中心点2にX線を入射することで求められる。第2外周点3の円周方向と同じ方向は、上述の第2方向である。
【0043】
第2外周点3の円周方向の引張応力が、第1中心点2における第2外周点3の円周方向と同じ方向に作用する引張応力より大きいと、SiCエピタキシャル層11を積層後にSiCエピタキシャルウェハ20がより反りにくい。これは、SiCエピタキシャルウェハ20を外側に向かって広げようとする力が、SiCエピタキシャルウェハ20の面内の異なる方向に作用するためと考えらえる。
【0044】
また本実施形態に係るSiC基板10は、外周部5のいずれの位置でも円周方向の引張応力が、第1中心点2の引張応力より大きいことが好ましい。ここで、第1中心点2の引張応力は、測定点における円周方向と同じ方向に作用する引張応力である。また外周部5より外側の領域に加わる平均引張応力は、中心部6に加わる平均引張応力より大きいことが好ましい。ここで、平均引張応力は、例えば、その領域内の異なる5点で測定された引張応力の平均値である。
【0045】
SiC基板10の表面は研削されることが多い。SiC基板10の第1面10aの表面粗さ(Ra)は、例えば、1nm以下であることが好ましい。第1面10aは、例えば、SiCエピタキシャル層11が積層される側の面である。
【0046】
SiC基板10の第1面10a及び第2面10bは、いずれも研削されていてもよい。
第1面10aは例えばSi面で、第2面10bは例えばC面である。第1面10aと第2面10bの関係はこの逆でもよい。第1面10aと第2面10bは、いずれもスクラッチ等の残留した鏡面加工された鏡面でも、いずれもCMP(Chemical mechanical polish)されたCMP処理面でもよく、研磨の程度が第1面10aと第2面10bとで異なってもよい。スクラッチ等の残留した鏡面には加工変質層が形成され、CMP処理面にはほとんど加工変質層が形成されない。加工変質層は、加工によりダメージを受けた部分であり、結晶構造が崩れている部分である。
【0047】
例えば、第1面10aが鏡面研削面で第2面10bがCMP処理面の場合は、両面の表面状態の違いにより、SiC基板10にトワイマン効果が生じる。トワイマン効果は、基板の両面にある残留応力に差が生じた場合に、両面の応力の差を補おうとする力が働く現象である。トワイマン効果は、SiCエピタキシャルウェハ20の反りの原因となりうる。すなわち、本発明は、第1面10aと第2面10bの表面状態の異なるSiC基板10に適用するほど効果的である。
【0048】
本実施形態に係るSiC基板10は、Warpが50μm以下であることが好ましく、Warpが30μm以下であることがより好ましい。Warpが50μm以下で上記の引張応力の関係を満たすSiC基板10を用いると、SiCエピタキシャルウェハ20の反りを十分小さくできる。そのため、SiCエピタキシャルウェハ20が搬送中の精度低下を避けることができ、微細なリソグラフィープロセスにおいても、焦点を適切に合わせることができる。
【0049】
図5は、WarpによるSiC基板の形状(変形)の評価方法を模式的に示した図である。Warpは、第1面10aの最高点hpと最低点lpとの厚み方向の距離である。Warpが大きいほど、SiC基板10は変形していると判断される。まずSiC基板10を平坦面Fに設置された3点の支持点上に設置する。第1面10aにおける最低点lpを通り平坦面Fと平行な仮想面Slpと、第1面10aにおける最高点hpを通り平坦面Fと平行な仮想面Shpを求める。Warpは、仮想面Slpと仮想面Shpとの高さ方向の距離として求められる。高さ方向は、平坦面Fと直交し、平坦面Fから離れる方向である。
【0050】
本実施形態に係るSiC基板10は、Bowが30μm以下であることが好ましく、Bowが10μm以下であることがより好ましい。また、Bowは-30μm以上であることが好ましい。Bowの絶対値が30μm以下で上記の引張応力の関係を満たすSiC基板10を用いると、SiCエピタキシャルウェハ20の反りを十分小さくできる。そのため、SiCエピタキシャルウェハ20の搬送中の精度低下を避けることができ、微細なリソグラフィープロセスにおいても、焦点を適切に合わせることができる。
【0051】
図6は、BowによるSiC基板の形状(変形)の評価方法を模式的に示した図である。Bowは、基準面Srに対するSiC基板10の中心cの高さ方向の位置である。言い換えると、Bowは、SiC基板10の中心cの、基準面Srからの符号付距離である。
基準面Srは、第1面10aのうち厚み方向から見て、複数の支持体のそれぞれと重なる点spを繋ぐ面である。複数の支持体は、例えば、SiC基板10の外周端から7.5mm内側の円周と重なる位置に配置される。例えば、3つの支持体でSiC基板10を支持する。3つの支持体のそれぞれは、支持体が支持するSiC基板10の中心を中心軸に、3回対称の位置にある。基準面Srは、例えば、3点基準平面である。Bowの絶対値が大きいほど、SiC基板10は変形していると判断される。まずSiC基板10を平坦面Fに設置された3点の支持点上に設置する。厚み方向から見て支持点上にある第1面10aの3つの点spを繋ぎ、基準面Srを求める。そして、基準面Srを0とし、基準面Srを基準に平坦面Fから離れる方向を+、基準面Srを基準に平坦面Fに近づく方向を-と規定する。Bowは、第1面10aの中心cの基準面Srに対する高さ方向の位置として求められる。言い換えると、Bowは、第1面10aの中心cの、基準面Srからの符号付距離として求められる。
【0052】
またエピタキシャル層11を積層後のSiCエピタキシャルウェハ20も、Warpが50μm以下であることが好ましく、Warpが30μm以下であることがより好ましい。またエピタキシャル層11を積層後のSiCエピタキシャルウェハも、Bowが30μm以下であることが好ましく、Bowが10μm以下であることがより好ましく、Bowは-30μm以上であることが好ましい。SiCエピタキシャルウェハ20のBowを測定する際の基準面は、エピタキシャル層11の表面のうち厚み方向から見て、複数の支持体のそれぞれと重なる点を繋ぐ面である。複数の支持体の位置は、SiC基板10のBowを測定する位置と同じである。まずSiCエピタキシャルウェハ20を平坦面Fに設置された3点の支持点上に設置する。厚み方向から見て支持点上にあるエピタキシャル層11の表面の3つの点を繋ぎ、SiCエピタキシャルウェハ20のBowを測定する際の基準面を求める。Bowは、エピタキシャル層11の表面の中心の基準面に対する高さ方向の位置として求められる。言い換えると、Bowは、エピタキシャル層11の表面の中心の、基準面からの符号付距離として求められる。
【0053】
次いで、本実施形態に係るSiC基板10の製造方法の一例について説明する。SiC基板10は、SiCインゴットをスライスして得られる。SiCインゴットは、例えば、昇華法によって得られる。
【0054】
図7は、SiCインゴットの製造装置30の一例である昇華法を説明するための模式図である。図7において台座32の表面と直交する方向をz方向、z方向と直交する一方向をx方向、z方向及びx方向と直交する方向をy方向とする。
【0055】
昇華法は、黒鉛製の坩堝31内に配置した台座32にSiC単結晶からなる種結晶33を配置し、坩堝31を加熱することで坩堝31内の原料粉末34から昇華した昇華ガスを種結晶33に供給し、種結晶33をより大きなSiCインゴット35へ成長させる方法である。坩堝31の加熱は、例えば、コイル36で行う。
【0056】
昇華法での結晶成長条件を制御することで、SiCインゴット35から得られるSiC基板10の内部に加わる引張応力を制御できる。
【0057】
例えば、SiCインゴット35をc面成長させる際に、結晶成長面の中心部の温度と、外周部の温度と、を制御する。結晶成長面は、結晶の成長過程における表面である。例えば、SiCインゴット35をc面成長させる際に、結晶成長面の中心部の温度より外周部の温度を低くする。またxy面内の中央と外周の成長速度差が0.001mm/h以上、0.05mm/h以下となるように、結晶成長を行う。ここで、xy面内の中央の成長速度は、外周の成長速度より遅くする。成長速度は、結晶成長面の温度を変えることで変化する。
【0058】
結晶成長面の温度は、コイル36による坩堝31の加熱中心のz方向の位置を制御することで調整できる。例えば、坩堝31の加熱中心のz方向の位置は、コイル36のz方向の位置を変えることで変更できる。坩堝31の加熱中心のz方向の位置と結晶成長面のz方向の位置とが、0.5mm/hで離れるように制御する。ここで、坩堝31の加熱中心のz方向の位置が、結晶成長面のz方向の位置に対し、下側(原料粉末34側)にくるように制御する。
【0059】
次いで、このような条件で作製したSiCインゴットをSiC基板10へ加工する。一般的な加工方法では、SiCインゴットの状態とSiC基板の状態とで、単結晶にかかる応力が変わってしまう。例えば、成型工程では、直径180mmのSiCインゴットから、直径150mmのSiC基板に加工する際には直径を小さくする必要がある。また、例えば、マルチワイヤー切断工程では表面のうねりが発生し、うねりを除去する必要がある。このような工程を経ることで、例えば、SiCインゴットの応力が大きい部分が除去されることや結晶格子面の形状が変わることがあり、SiCインゴットの状態の応力が、SiC基板の状態では開放され、外周部で引張応力が大きいSiC基板は得られない。外周部で引張応力が大きいSiC基板を得るためには、インゴットの状態の単結晶にかかる応力を基板の状態に引き継ぐように加工することが必要である。
【0060】
例えば、SiCインゴットの片面へダメージフリー加工を施したのち、シングルワイヤーソーで切断し、ダメージフリー加工を施した面を吸着して切断面に対してさらにダメージフリー加工を行う。SiC基板10の両面に対してダメージフリー加工を行うことで、SiCインゴットの状態で生じた引張応力の一部が、基板にも引き継がれる。ダメージフリー加工は、例えばCMP加工である。このようにSiCインゴットの状態の格子面形状を残すように基板加工を行うことで、SiCインゴットの持つ応力が解放せずに大きな引張応力を持つSiC基板10を作製できる。その後、直径を調整する成型工程を行うことで、大きな引張応力を持つSiC基板10を得ることができる。
【0061】
上述のように、第1実施形態に係るSiC基板10は、SiCエピタキシャル層11を積層した後でも反りにくい。これは、SiC基板10の外側の周方向の引張応力を意図的に高めることで、SiCエピタキシャルウェハ20を外側に向かって広げようとする力が作用するためと考えられる。
【0062】
「第2実施形態」
第2実施形態に係るSiC基板10は、第2外周点3の円周方向である<11-20>方向の引張応力が、第1中心点2における第2外周点3の円周方向と同じ方向である<11-20>方向に作用する引張応力より大きい。第2実施形態におけるSiC基板10は、SiC基板10の状態を規定するための測定箇所が異なることを除いて、第1実施形態におけるSiC基板10と同様である。例えば、第2実施形態に係るSiC基板10のWarp、Bow、直径、表面粗さ等の好ましい範囲は、第1実施形態に係るSiC基板10と同様である。
【0063】
第2外周点3の円周方向の引張応力は、第1中心点2における第2外周点3の円周方向と同じ方向に作用する引張応力より10MPa以上大きいことが好ましく、30MPa以上大きいことがより好ましい。
【0064】
また第1外周点1の円周方向である<1-100>方向の引張応力は、第1中心点2における第1外周点1の円周方向と同じ方向である<1-100>方向の引張応力より大きいことが好ましい。第1外周点1の円周方向の引張応力は、第1中心点2における第1外周点の円周方向と同じ方向に作用する引張応力より10MPa以上大きいことがより好ましく、30MPa以上大きいことがさらに好ましい。
【0065】
第2実施形態に係るSiC基板10は、第1実施形態に係るSiC基板10と同様の効果を奏する。
【0066】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例
【0067】
(実施例1)
SiC基板の表面に、SiCエピタキシャル層を積層した際の反りをシミュレーションにより求めた。シミュレーションは、有限要素法シミュレータANSYSを用いて行った。有限要素法シミュレータANSYSを用いたシミュレーションが、実際に作製した物の結果と一致することは別途確認した。
【0068】
シミュレーションは以下の手順で行った。まず、SiC基板及び応力が異なる表面層の物性値を設定した。設定する物性値は、SiC基板の板厚、表面層の膜厚、ヤング率、ポアソン比、である。SiC基板の板厚は、350μmとした。SiC基板の直径は、150mmとした。SiC基板のWarpは、0μmとした。SiC基板のヤング率は480GPa、ポアソン比は0.20とした。表面層の膜厚は、10μmとした。ここで表面層はイオン注入により応力が発生した場合を考え、表面層のヤング率およびポアソン比は、SiC基板と同じ値を用いた。
【0069】
次いで、SiC基板の応力分布と表面層の応力を設定した。まずSiC基板の応力分布を設定した。SiC基板の第1外周点1の引張応力を第1中心点2の引張応力より40MPa大きく設定した。すなわち、第1外周点1と第1中心点2の応力差は、40MPaに設定し、第1外周点1が第1中心点より強く引張応力がかかるように設定した。表面層の全体には、応力として60MPaを印可した。
【0070】
上記条件でシミュレーションを行い、表面層付きSiC基板の反りをもとめた。反りは、Warpで評価した。実施例1の反り(Warp)は、47μmであった。表面層付きSiC基板の反りは、表面層をエピタキシャル層とみなすことで、エピタキシャルウェハの反りとみなすことができる。表面層がエピタキシャル層の場合は、エピタキシャル層の膜厚や不純物濃度差に依存する応力差によって、Warpの大小は変わるが、求められた表面層付きSiC基板の反りと相関があることを確認した。
【0071】
(実施例2)
実施例2は、SiC基板の第1外周点1の引張応力を第1中心点2の引張応力より20MPa大きく設定した点が実施例1と異なる。すなわち、第1外周点1と第1中心点2の応力差は、20MPaに設定し、第1外周点1が第1中心点より強く引張応力がかかるように設定した。その他のパラメータは実施例1と同じとし、実施例1と同様に、シミュレーションで表面層付きSiC基板の反り(Warp)を求めた。実施例2の反り(Warp)は、78μmであった。
【0072】
(比較例1)
比較例1は、SiC基板の第1外周点1の引張応力を第1中心点2の引張応力と同じに設定した点が実施例1と異なる。すなわち、第1外周点1と第1中心点2の応力差は、0MPaに設定し、第1外周点1が第1中心点2と同じ応力がかかるように設定した。その他のパラメータは実施例1と同じとし、実施例1と同様に、シミュレーションで表面層付きSiC基板の反り(Warp)を求めた。比較例1の反り(Warp)は、116μmであった。
【0073】
(比較例2)
比較例2は、SiC基板の第1中心点2の引張応力を第1外周点1の引張応力より20MPa大きく設定した点が実施例1と異なる。すなわち、第1外周点1と第1中心点2の応力差は、-20MPaに設定し、第1中心点2が第1外周点1より強く引張応力がかかるように設定した。すなわち、第1外周点1は、第1中心点2より圧縮応力がかかっている。その他のパラメータは実施例1と同じとした、実施例1と同様に、シミュレーションで表面層付きSiC基板の反り(Warp)を求めた。比較例2の反り(Warp)は、189μmであった。
【0074】
実施例1,2及び比較例1,2の結果を表1にまとめた。
【0075】
【表1】
【0076】
中央部と比較して外周部に大きな引張応力が作用している実施例1及び実施例2は、中央部と比較して外周部に引張応力が作用していない比較例1及び外周部に圧縮応力が作用している比較例2と比較して表面層付きSiC基板の反りが小さかった。すなわち中央部と比較して外周部に引張応力を持つ基板においては、先行文献に示されるような、中央部と比較して外周部に引張応力が作用していないSiC基板及び外周部に圧縮応力が作用しているSiC基板より、エピタキシャルウェハおよび半導体プロセス中の反りが低減できる。
【符号の説明】
【0077】
1 第1外周点
2 第1中心点
3 第2外周点
5 外周部
6 中心部
10 SiC基板
10a 第1面
10b 第2面
11 SiCエピタキシャル層
20 SiCエピタキシャルウェハ
hp 最高点
lp 最低点
sp 支持点
Shp、Slp 仮想面
Sr 基準面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7