(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】露光装置、制御方法、及びデバイス製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/20 20060101AFI20240903BHJP
【FI】
G03F7/20 501
G03F7/20 521
(21)【出願番号】P 2023533578
(86)(22)【出願日】2022-06-30
(86)【国際出願番号】 JP2022026201
(87)【国際公開番号】W WO2023282168
(87)【国際公開日】2023-01-12
【審査請求日】2024-01-11
(31)【優先権主張番号】P 2021111804
(32)【優先日】2021-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004112
【氏名又は名称】株式会社ニコン
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】加藤 正紀
(72)【発明者】
【氏名】水野 恭志
(72)【発明者】
【氏名】中島 利治
(72)【発明者】
【氏名】藤村 嘉彦
【審査官】坂上 大貴
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-065094(JP,A)
【文献】特開2003-332221(JP,A)
【文献】特開2004-146789(JP,A)
【文献】特開2007-318069(JP,A)
【文献】特開2002-367900(JP,A)
【文献】特開2007-033973(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2009-0116118(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を保持して移動する基板ホルダと、
2次元配列された光変調素子を有する空間光変調器と、前記空間光変調器に照明光を照射する照明ユニットと、前記基板上において第1方向及び前記第1方向に垂直な第2方向に2次元配列された光照射領
域のそれぞれへと前記光変調素子からの前記照明光を導く投影ユニットと、を含むモジュールと、
前記基板ホルダを走査方向に駆動する制御部と、を備え、
前記光変調素子は、前記走査方向及び該走査方向に直交する非走査方向に対して所定角度θ(0°<θ<90°)傾斜し2次元配列され、
前記制御部は、前記基板の所定範囲を露光する際に、前記所定範囲内に照射される前記光変調素子それぞれから出射される前記照明光の中心を示すスポット位置が千鳥配置となるような速度で、前記基板ホルダを走査する、露光装置。
【請求項2】
前記モジュールを複数備え、
前記制御部は、前記複数のモジュールのうちの第1のモジュールと、前記第1のモジュールに隣接する第2のモジュールと、を用いて露光できる第1範囲を露光する際に、前記第1範囲内の前記スポット位置の配置が千鳥配置となるような速度で、前記基板ホルダを走査する、請求項1に記載の露光装置。
【請求項3】
前記モジュールは、前記第1のモジュールと、前記第2のモジュールとの両方のモジュールにより、前記第1範囲を露光する、請求項2に記載の露光装置。
【請求項4】
前記千鳥配置となるように前記所定範囲を露光することと、前記走査方向及び前記非走査方向に並ぶ格子点上に前記スポット位置が配置される正方配置となるように前記所定範囲を露光することと、前記所定範囲の内側に前記スポット位置が千鳥配置される内側千鳥配置となるように前記所定範囲を露光することと、のいずれかの選択を受け付ける受付部を備える請求項1~3のいずれか一項に記載の露光装置。
【請求項5】
前記所定範囲内を露光するときの前記スポット位置の一部を、前記所定範囲の外側の前記非走査方向に隣接する箇所に位置するように変更した描画データを用いて前記空間光変調器を駆動することで、前記所定範囲から前記非走査方向にずれた範囲を露光する、請求項1
~3のいずれか一項に記載の露光装置。
【請求項6】
前記所定範囲内を露光するときの前記スポット位置の一部を減らす又は減らさず、前記所定範囲の前記非走査方向の両側に隣接する箇所に新たなスポット位置を追加するように変更した描画データを用いて前記空間光変調器を駆動することで、前記所定範囲よりも前記非走査方向に幅が広い範囲を露光する、請求項1
~3のいずれか一項に記載の露光装置。
【請求項7】
前記モジュールによる投影像の歪みの測定結果に基づいて、前記投影像の歪みがない状態で前記所定範囲内を露光するときの前記スポット位置の一部を減らす又は減らさず、前記所定範囲の外側の前記非走査方向に隣接する箇所に新たなスポット位置を追加するように変更した描画データを生成し、生成した前記描画データを用いて前記空間光変調器を駆動することで、前記所定範囲を露光する、請求項1
~3のいずれか一項に記載の露光装置。
【請求項8】
前記投影像の歪みを2次元面内の複数箇所で測定し、前記非走査方向に関する位置が一致する箇所の平均に基づいて、前記非走査方向の各位置に対応する描画データを生成する、請求項7に記載の露光装置。
【請求項9】
前記モジュールの照明分布の測定結果に基づいて、前記照明分布が理想的な状態で前記所定範囲内を露光するときの前記スポット位置の一部を減らす又は減らさず、前記所定範囲の前記非走査方向の両側に隣接する箇所に新たなスポット位置を追加するように変更した描画データを生成し、生成した前記描画データを用いて前記空間光変調器を駆動することで、前記所定範囲を露光する、請求項1
~3のいずれか一項に記載の露光装置。
【請求項10】
前記所定角度θは、tanθ=1/AのAの値が5,7,9,11となる角度である、請求項1
~3のいずれか一項に記載の露光装置。
【請求項11】
基板を保持し2次元に移動可能な基板ホルダを、前記2次元の平面内で所定角度θ(0°<θ<90°)傾斜し2次元配列された光変調素子それぞれから前記基板の所定範囲に出射される光の中心を示すスポット位置が千鳥配置となるような速度で、移動すること、
を含む制御方法。
【請求項12】
前記所定角度θは、tanθ=1/AのAの値が5,7,9,11となる角度である、請求項11に記載の制御方法。
【請求項13】
請求項11または12に記載の制御方法を用いて前記基板を露光することと、
前記露光された基板を現像することと、
を含むデバイス製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
露光装置、制御方法、及びデバイス製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶や有機ELによる表示パネル、半導体素子(集積回路等)等の電子デバイス(マイクロデバイス)を製造するリソグラフィ工程では、ステップ・アンド・リピート方式の投影露光装置(いわゆるステッパ)、あるいはステップ・アンド・スキャン方式の投影露光装置(いわゆるスキャニング・ステッパ(スキャナとも呼ばれる))などが使用されている。この種の露光装置は、ガラス基板、半導体ウェハ、プリント配線基板、樹脂フィルム等の被露光基板(以下、単に基板とも呼ぶ)の表面に塗布された感光層に電子デバイス用のマスクパターンを投影露光している。
【0003】
そのマスクパターンを固定的に形成するマスク基板の作製には時間と経費を要する為、マスク基板の代わりに、微少変位するマイクロミラーの多数を規則的に配列したデジタル・ミラー・デバイス(DMD)等の空間光変調素子(可変マスクパターン生成器)を使用した露光装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に開示された露光装置では、例えば、波長375nmのレーザダイオード(LD)からの光と波長405nmのLDからの光とをマルチモードのファイバーバンドルで混合した照明光を、デジタル・ミラー・デバイス(DMD)に照射し、傾斜制御された多数のマイクロミラーの各々からの反射光を結像光学系、マイクロレンズアレーを介して基板に投影露光している。
【0004】
露光装置においては、精度の高い露光を高スループットで実現することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【0006】
開示の態様によれば、露光装置は、基板を保持して移動する基板ホルダと、2次元配列された光変調素子を有する空間光変調器と、前記空間光変調器に照明光を照射する照明ユニットと、前記基板上において第1方向及び前記第1方向に垂直な第2方向に2次元配列された光照射領域群のそれぞれへと前記光変調素子からの前記照明光を導く投影ユニットと、を含むモジュールと、前記基板ホルダを走査方向に駆動する制御部と、を備え、前記光変調素子は、前記走査方向及び該走査方向に直交する非走査方向に対して所定角度θ(0°<θ<90°)傾斜し2次元配列され、前記制御部は、前記基板の所定範囲を露光する際に、前記所定範囲内に照射される前記光変調素子それぞれから出射される前記照明光の中心を示すスポット位置が千鳥配置となるような速度で、前記基板ホルダを走査する。
【0007】
なお、後述の実施形態の構成を適宜改良しても良く、また、少なくとも一部を他の構成物に代替させても良い。更に、その配置について特に限定のない構成要件は、実施形態で開示した配置に限らず、その機能を達成できる位置に配置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る露光装置の外観構成の概要を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、複数の露光モジュールの各々の投影ユニットによって基板上に投射されるDMDの投影領域の配置例を示す図である。
【
図3】
図3は、
図2において、特定の4つの投影領域の各々による継ぎ露光の状態を説明する図である。
【
図4】
図4は、X方向(走査露光方向)に並ぶ2つの露光モジュールの具体的な構成をXZ面内で見た光学配置図である。
【
図5】
図5(a)は、DMDを概略的に示す図であり、
図5(b)は、電源がOFFの場合のDMDを示す図であり、
図5(c)は、ON状態のミラーについて説明するための図であり、
図5(d)は、OFF状態のミラーについて説明するための図である。
【
図6】
図6は、露光装置が備える露光制御装置の機能構成を示す機能ブロック図である。
【
図7】
図7は、投影領域(光照射領域群)と、基板上の露光対象領域(ラインパターンを露光する領域)とを模式的に示す図である。
【
図8】
図8は、ライン状の露光対象領域の一部である矩形領域と、投影領域(光照射領域群)とを示す図である。
【
図9】
図9(a)~
図9(c)は、矩形領域においてスポット位置が正方配置となる場合の例について説明するための図である。
【
図10】
図10(a)~
図10(c)は、矩形領域においてスポット位置が千鳥配置となる場合の例について説明するための図である。
【
図11】
図11は、千鳥露光におけるスポット位置の配置例を示す表である。
【
図12】
図12は、継ぎ部における千鳥露光について説明するための図である。
【
図13】
図13は、継ぎ部において2つのDMDにより分担して露光する例について説明するための図である。
【
図14】
図14(a)~
図14(k)は、ラインパターンの位置補正について説明するための図である。
【
図15】
図15は、
図14(a)~
図14(k)の方法でラインパターンの位置補正を行ったときの、位置計測結果を示すグラフである。
【
図16】
図16(a)~
図16(k)は、ラインパターンの線幅調整について説明するための図(その1)である。
【
図17】
図17(a)~
図17(l)は、ラインパターンの線幅調整について説明するための図(その2)である。
【
図18】
図18は、
図16(a)~
図17(l)の方法でラインパターンの線幅調整を行ったときの、線幅計測結果を示すグラフである。
【
図19】
図19(a)~
図19(g)は、ディストーション測定結果に基づく補正について説明するための図である。
【
図20】
図20(a)~
図20(g)は、照度分布の測定結果に基づく補正について説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
一実施形態に係るパターン露光装置(以下、単に露光装置と記載する)について、図面を参照して説明する。
【0010】
〔露光装置の全体構成〕
図1は、一実施形態に係る露光装置EXの外観構成の概要を示す斜視図である。露光装置EXは、空間光変調素子(SLM:Spatial Light Modulator)によって、空間内での強度分布が動的に変調される露光光を被露光基板に結像投影する装置である。空間光変調器の例としては、液晶素子、デジタルマイクロミラーデバイス(DMD:Digital Micromirror Device)、磁気光学空間光変調器(MOSLM:Magneto Optic Spatial Light Modulator)等が挙げられる。本実施形態に係る露光装置EXは、空間光変調器としてDMD10を備えるが、他の空間光変調器を備えていてもよい。
【0011】
特定の実施形態において、露光装置EXは、表示装置(フラットパネルディスプレイ)などに用いられる矩形(角型)のガラス基板を露光対象物とするステップ・アンド・スキャン方式の投影露光装置(スキャナ)である。そのガラス基板は、少なくとも一辺の長さ、または対角長が500mm以上であり、厚さが1mm以下のフラットパネルディスプレイ用の基板Pとする。露光装置EXは、基板Pの表面に一定の厚みで形成された感光層(フォトレジスト)にDMDで作られるパターンの投影像を露光する。露光後に露光装置EXから搬出される基板Pは、現像工程の後に所定のプロセス工程(成膜工程、エッチング工程、メッキ工程等)に送られる。
【0012】
露光装置EXは、アクティブ防振ユニット1a、1b、1c、1d(1dは不図示)上に載置されたペデスタル2と、ペデスタル2上に載置された定盤3と、定盤3上で2次元に移動可能なXYステージ4Aと、XYステージ4A上で基板Pを平面上に吸着保持する基板ホルダ4Bと、基板ホルダ4B(基板P)の2次元の移動位置を計測するレーザ測長干渉計(以下、単に干渉計とも呼ぶ)IFX、IFY1~IFY4とで構成されるステージ装置を備える。このようなステージ装置は、例えば、米国特許公開第2010/0018950号明細書、米国特許公開第2012/0057140号明細書に開示されている。
【0013】
図1において、直交座標系XYZのXY面はステージ装置の定盤3の平坦な表面と平行に設定され、XYステージ4AはXY面内で並進移動可能に設定される。また、本実施形態では、座標系XYZのX軸と平行な方向がスキャン露光時の基板P(XYステージ4A)の走査移動方向に設定される。基板PのX軸方向の移動位置は干渉計IFXで逐次計測され、Y軸方向の移動位置は、4つの干渉計IFY1~IFY4の内の少なくとも1つ(好ましくは2つ)以上によって逐次計測される。基板ホルダ4Bは、XYステージ4Aに対して、XY面と垂直なZ軸の方向に微少移動可能、且つXY面に対して任意の方向に微少傾斜可能に構成され、基板Pの表面と投影されたパターンの結像面とのフォーカス調整とレベリング(平行度)調整とがアクティブに行われる。更に基板ホルダ4Bは、XY面内での基板Pの傾きをアクティブに調整する為に、Z軸と平行な軸線の回りに微少回転(θz回転)可能に構成されている。
【0014】
露光装置EXは、更に、複数の露光(描画)モジュールMU(A)、MU(B)、MU(C)を保持する光学定盤5と、光学定盤5をペデスタル2から支持するメインコラム6a、6b、6c、6d(6dは不図示)とを備える。複数の露光モジュールMU(A)、MU(B)、MU(C)の各々は、光学定盤5の+Z方向側に取り付けられている。なお、複数の露光モジュールMU(A)、MU(B)、MU(C)は、それぞれ個別に光学定盤5に取り付けられても良いし、2つ以上の露光モジュール同士の連結により剛性を上げた状態で、光学定盤5に取り付けられても良い。複数の露光モジュールMU(A)、MU(B)、MU(C)の各々は、光学定盤5の+Z方向側に取り付けられて、光ファイバーユニットFBUからの照明光を入射する照明ユニットILUと、光学定盤5の-Z方向側に取り付けられてZ軸と平行な光軸を有する投影ユニットPLUとを有する。更に露光モジュールMU(A)、MU(B)、MU(C)の各々は、照明ユニットILUからの照明光を-Z方向に向けて反射させて、投影ユニットPLUに入射させる光変調部としてのDMD10を備える。照明ユニットILU、DMD10、投影ユニットPLUによる露光モジュールの詳細な構成は後述する。
【0015】
露光装置EXの光学定盤5の-Z方向側には、基板P上の所定の複数位置に形成されたアライメントマークを検出する複数のアライメント系(顕微鏡)ALGが取り付けられている。また、基板ホルダ4B上の-X方向の端部には、キャリブレーション用の較正用基準部CUが設けられている。キャリブレーションは、アライメント系ALGの各々の検出視野のXY面内での相対的な位置関係の確認(較正)、露光モジュールMU(A)、MU(B)、MU(C)の各々の投影ユニットPLUから投射されるパターン像の各投影位置とアライメント系ALGの各々の検出視野の位置とのベースライン誤差の確認(較正)、及び投影ユニットPLUから投射されるパターン像の位置や像質の確認の少なくとも1つを含む。なお、
図1では一部を不図示としたが、露光モジュールMU(A)、MU(B)、MU(C)の各々は、本実施形態では、一例として9つのモジュールがY方向に一定間隔で並べられるが、そのモジュール数は9つよりも少なくてもよいし、多くてもよい。また、
図1では、X軸方向に露光モジュールを3列配置しているが、X軸方向に配置する露光モジュールの列の数は、2列以下でもよいし、4列以上であってもよい。
【0016】
図2は、露光モジュールMU(A)、MU(B)、MU(C)の各々の投影ユニットPLUによって基板P上に投射されるDMD10の投影領域IAnの配置例を示す図であり、直交座標系XYZは
図1と同じに設定される。投影領域IAnは、DMD10が有する複数のマイクロミラー10aで反射され、投影ユニットPLUによって基板P上に導かれる照明光の照射範囲(光照射領域群)であるといえる。本実施形態では、X方向に離間して配置される1列目の露光モジュールMU(A)、2列目の露光モジュールMU(B)、3列目の露光モジュールMU(C)の各々は、Y方向に並べられた9つのモジュールで構成される。露光モジュールMU(A)は、+Y方向に配置された9つのモジュールMU1~MU9で構成され、露光モジュールMU(B)は、-Y方向に配置された9つのモジュールMU10~MU18で構成され、露光モジュールMU(C)は、+Y方向に配置された9つのモジュールMU19~MU27で構成される。モジュールMU1~MU27は全て同じ構成であり、露光モジュールMU(A)と露光モジュールMU(B)とをX方向に関して向かい合わせの関係としたとき、露光モジュールMU(B)と露光モジュールMU(C)とはX方向に関して背中合わせの関係になっている。
【0017】
図2において、モジュールMU1~MU27の各々による投影領域IA1、IA2、IA3、・・・、IA27(nを1~27として、IAnと表すこともある)の形状は、一例として、ほぼ1:2の縦横比を持ってY方向に延びた長方形になっている。本実施形態では、基板Pの+X方向の走査移動に伴って、1列目の投影領域IA1~IA9の各々の-Y方向の端部と、2列目の投影領域IA10~IA18の各々の+Y方向の端部とで継ぎ露光が行われる。そして、1列目と2列目の投影領域IA1~IA18の各々で露光されなかった基板P上の領域は、3列目の投影領域IA19~IA27の各々によって継ぎ露光される。1列目の投影領域IA1~IA9の各々の中心点はY軸と平行な線k1上に位置し、2列目の投影領域IA10~IA18の各々の中心点はY軸と平行な線k2上に位置し、3列目の投影領域IA19~IA27の各々の中心点はY軸と平行な線k3上に位置する。線k1と線k2のX方向の間隔は距離XL1に設定され、線k2と線k3のX方向の間隔は距離XL2に設定される。
【0018】
ここで、投影領域IA9の-Y方向の端部と投影領域IA10の+Y方向の端部との継ぎ部をOLa、投影領域IA10の-Y方向の端部と投影領域IA27の+Y方向の端部との継ぎ部をOLb、そして投影領域IA8の+Y方向の端部と投影領域IA27の-Y方向の端部との継ぎ部をOLcとしたとき、その継ぎ露光の状態を
図3にて説明する。
図3において、直交座標系XYZは
図1、
図2と同一に設定され、投影領域IA8、IA9、IA10、IA27(及び、他の全ての投影領域IAn)内の座標系X’Y’は、直交座標系XYZのX軸、Y軸(線k1~k3)に対して、角度θk(0°<θk<90°)だけ傾くように設定される。すなわち、DMD10の多数のマイクロミラーで反射した照明光が投影される基板P上の領域(光照射領域)は、X’軸及びY’軸に沿って2次元配列されている。
【0019】
図3中の投影領域IA8、IA9、IA10、IA27(及び、他の全ての投影領域IAnも同じ)の各々を包含する円形の領域は、投影ユニットPLUの円形イメージフィールドPLf’を表す。継ぎ部OLaでは、投影領域IA9の-Y’方向の端部の斜め(角度θk)に並ぶマイクロミラーの投影像(光照射領域)と、投影領域IA10の+Y’方向の端部の斜め(角度θk)に並ぶマイクロミラーの投影像(光照射領域)とがオーバーラップするように設定される。また、継ぎ部OLbでは、投影領域IA10の-Y’方向の端部の斜め(角度θk)に並ぶマイクロミラーの投影像(光照射領域)と、投影領域IA27の+Y’方向の端部の斜め(角度θk)に並ぶマイクロミラーの投影像(光照射領域)とがオーバーラップするように設定される。同様に、継ぎ部OLcでは、投影領域IA8の+Y’方向の端部の斜め(角度θk)に並ぶマイクロミラーの投影像(光照射領域)と、投影領域IA27の-Y’方向の端部の斜め(角度θk)に並ぶマイクロミラーの投影像(光照射領域)とがオーバーラップするように設定される。
【0020】
〔照明ユニットの構成〕
図4は、
図1、
図2に示した露光モジュールMU(B)中のモジュールMU18と、露光モジュールMU(C)中のモジュールMU19との具体的な構成をXZ面内で見た光学配置図である。
図4の直交座標系XYZは
図1~
図3の直交座標系XYZと同じに設定される。また、
図2に示した各モジュールのXY面内での配置から明らかなように、モジュールMU18はモジュールMU19に対して+Y方向に一定間隔だけずらされると共に、互いに背中合わせの関係で設置されている。モジュールMU18内の各光学部材とモジュールMU19内の各光学部材は、それぞれ同じ材料で同じに構成されるので、ここでは主にモジュールMU18の光学構成について詳細に説明する。なお、
図1に示した光ファイバーユニットFBUは、
図2に示した27個のモジュールMU1~MU27の各々に対応して、27本の光ファイバー束FB1~FB27で構成される。
【0021】
モジュールMU18の照明ユニットILUは、光ファイバー束FB18の出射端から-Z方向に進む照明光ILmを反射するミラー100、ミラー100からの照明光ILmを-Z方向に反射するミラー102、コリメータレンズとして作用するインプットレンズ系104、照度調整フィルター106、マイクロ・フライ・アイ(MFE)レンズやフィールドレンズ等を含むオプチカルインテグレータ108、コンデンサーレンズ系110、及び、コンデンサーレンズ系110からの照明光ILmをDMD10に向けて反射する傾斜ミラー112とで構成される。ミラー102、インプットレンズ系104、オプチカルインテグレータ108、コンデンサーレンズ系110、並びに傾斜ミラー112は、Z軸と平行な光軸AXcに沿って配置される。
【0022】
光ファイバー束FB18は、1本の光ファイバー線、又は複数本の光ファイバー線を束ねて構成される。光ファイバー束FB18(光ファイバー線の各々)の出射端から照射される照明光ILmは、後段のインプットレンズ系104でけられること無く入射するような開口数(NA、広がり角とも呼ぶ)に設定されている。インプットレンズ系104の前側焦点の位置は、設計上では光ファイバー束FB18の出射端の位置と同じになるように設定される。さらに、インプットレンズ系104の後側焦点の位置は、光ファイバー束FB18の出射端に形成される単一又は複数の点光源からの照明光ILmをオプチカルインテグレータ108のMFEレンズ108Aの入射面側で重畳させるように設定されている。従って、MFEレンズ108Aの入射面は光ファイバー束FB18の出射端からの照明光ILmによってケーラー照明される。なお、初期状態では、光ファイバー束FB18の出射端のXY面内での幾何学的な中心点が光軸AXc上に位置し、光ファイバー線の出射端の点光源からの照明光ILmの主光線(中心線)は光軸AXcと平行(又は同軸)になっているものとする。
【0023】
インプットレンズ系104からの照明光ILmは、照度調整フィルター106で0%~90%の範囲の任意の値で照度を減衰された後、オプチカルインテグレータ108(MFEレンズ108A、フィールドレンズ等)を通って、コンデンサーレンズ系110に入射する。MFEレンズ108Aは、数十μm角の矩形のマイクロレンズを2次元に多数配列したものであり、その全体の形状はXY面内で、DMD10のミラー面全体の形状(縦横比が約1:2)とほぼ相似になるように設定される。また、コンデンサーレンズ系110の前側焦点の位置は、MFEレンズ108Aの射出面の位置とほぼ同じになるように設定される。その為、MFEレンズ108Aの多数のマイクロレンズの各射出側に形成される点光源からの照明光の各々は、コンデンサーレンズ系110によってほぼ平行な光束に変換され、傾斜ミラー112で反射された後、DMD10上で重畳されて均一な照度分布となる。MFEレンズ108Aの射出面には、多数の点光源(集光点)が2次元的に密に配列した面光源が生成されることから、面光源化部材として機能する。
【0024】
図4に示すモジュールMU18内において、コンデンサーレンズ系110を通るZ軸と平行な光軸AXcは、傾斜ミラー112で折り曲げられてDMD10に至るが、傾斜ミラー112とDMD10の間の光軸を光軸AXbとする。本実施形態において、DMD10の多数のマイクロミラーの各々の中心点を含む中立面は、XY面と平行に設定されているものとする。従って、その中立面の法線(Z軸と平行)と光軸AXbとの成す角度が、DMD10に対する照明光ILmの入射角θαとなる。DMD10は、照明ユニットILUの支持コラムに固設されたマウント部10Mの下側に取り付けられる。マウント部10Mには、DMD10の位置や姿勢を微調整する為に、例えば、国際公開特許2006/120927号に開示されているようなパラレルリンク機構と伸縮可能なピエゾ素子を組み合わせた微動ステージが設けられる。
【0025】
[DMDの構成]
図5(a)は、DMD10を概略的に示す図であり、
図5(b)は、電源がOFFの場合のDMD10を示す図であり、
図5(c)は、ON状態のミラーについて説明するための図であり、
図5(d)は、OFF状態のミラーについて説明するための図である。なお、
図5(a)~
図5(d)において、ON状態にあるミラーをハッチングで示している。
【0026】
DMD10は、反射角変更制御可能なマイクロミラー10aを複数有する。本実施形態において、DMD10は、ON状態とOFF状態とをマイクロミラー10aのロール方向傾斜とピッチ方向傾斜とで切り換えるロール&ピッチ駆動方式のものとする。
【0027】
図5(a)に示すように、電源がオフの状態のとき、各マイクロミラー10aの反射面は、X’Y’面と平行に設定される。各マイクロミラー10aのX’方向の配列ピッチをPdx(μm)、Y’方向の配列ピッチをPdy(μm)とするが、実用上はPdx=Pdyに設定される。
【0028】
各マイクロミラー10aは、Y’軸周りに傾斜することでON状態となる。
図5(c)では、中央のマイクロミラー10aのみをON状態とし、他のマイクロミラー10aはニュートラルな状態(ONでもOFFでもない状態)とした場合を示している。また、各マイクロミラー10aは、X’軸周りに傾斜することでOFF状態となる。
図5(d)では、中央のマイクロミラー10aのみをOFF状態とし、他のマイクロミラー10aはニュートラルな状態とした場合を示している。なお、簡略化のため図示していないが、ON状態のマイクロミラー10aは、ON状態のマイクロミラー10aに照射された照明光がXZ平面のX方向に反射されるよう、X’Y’平面から所定の角度傾くように駆動される。また、OFF状態のマイクロミラー10aは、
OFF状態のマイクロミラー10aに照射された照明光がYZ面内のY方向に反射されるよう、X’Y’平面から所定の角度傾くように駆動される。DMD10は、各マイクロミラー10aのON状態及びOFF状態を切り替えることで、露光パターンを生成する。
【0029】
OFF状態のミラーによって反射された照明光は、不図示の光吸収体により吸収される。
【0030】
なお、DMD10を空間光変調器の一例として説明をしたため、レーザ光を反射する反射型として説明をしたが、空間光変調器は、レーザ光を透過する透過型でも良いし、レーザ光を回折する回折型でも良い。空間光変調器は、レーザ光を空間的に、且つ、時間的に変調することができる。
【0031】
図4に戻り、DMD10のマイクロミラー10aのうちのON状態のマイクロミラー10aに照射された照明光ILmは、投影ユニットPLUに向かうようにXZ面内のX方向に反射される。一方、DMD10のマイクロミラー10aのうちのOFF状態のマイクロミラー10aに照射された照明光ILmは、投影ユニットPLUに向かわないようにYZ面内のY方向に反射される。
【0032】
DMD10から投影ユニットPLUの間の光路中には、非露光期間中にDMD10からの反射光を遮蔽する為の可動シャッター114が挿脱可能に設けられている。可動シャッター114は、モジュールMU19側で図示したように、露光期間中は光路から退避する角度位置に回動され、非露光期間中はモジュールMU18側に図示したように、光路中に斜めに挿入される角度位置に回動される。可動シャッター114のDMD10側には反射面が形成され、そこで反射されたDMD10からの光は光吸収体117に照射される。光吸収体117は、紫外波長域(400nm以下の波長)の光エネルギーを再反射させることなく吸収して熱エネルギーに変換する。その為、光吸収体117には放熱機構(放熱フィンや冷却機構)も設けられる。なお、
図4では不図示ではあるが、露光期間中にOFF状態となるDMD10のマイクロミラー10aからの反射光は、上述したように、DMD10と投影ユニットPLUの間の光路に対してY方向(
図4の紙面と直交した方向)に設置された同様の光吸収体(
図4では不図示)によって吸収される。
【0033】
〔投影ユニットの構成〕
光学定盤5の下側に取り付けられた投影ユニットPLUは、Z軸と平行な光軸AXaに沿って配置される第1レンズ群116と第2レンズ群118とで構成される両側テレセントリックな結像投影レンズ系として構成される。第1レンズ群116と第2レンズ群118は、それぞれ光学定盤5の下側に固設される支持コラムに対して、Z軸(光軸AXa)に沿った方向に微動アクチュエータで並進移動するように構成される。第1レンズ群116と第2レンズ群118による結像投影レンズ系の投影倍率Mpは、DMD10上のマイクロミラーの配列ピッチPdと、基板P上の投影領域IAn(n=1~27)内に投影されるパターンの最小線幅(最小画素寸法)Pgとの関係で決められる。
【0034】
一例として、必要とされる最小線幅(最小画素寸法)Pgが1μmで、マイクロミラーの配列ピッチPdが5.4μmの場合、先の
図3で説明した投影領域IAn(DMD10)のXY面内での傾き角θkも考慮して、投影倍率Mpは約1/6に設定される。レンズ群116、118による結像投影レンズ系は、DMD10のミラー面全体の縮小像を倒立/反転させて基板P上の投影領域IA18(IAn)に結像する。
【0035】
投影ユニットPLUの第1レンズ群116は、投影倍率Mpを微調整(±数十ppm程度)する為にアクチュエータによって光軸AXa方向に微動可能とされ、第2レンズ群118はフォーカスの高速調整の為にアクチュエータによって光軸AXa方向に微動可能とされる。さらに、基板Pの表面のZ軸方向の位置変化をサブミクロン以下の精度で計測する為に、光学定盤5の下側には、斜入射光式のフォーカスセンサー120が複数設けられている。複数のフォーカスセンサー120は、基板Pの全体的なZ軸方向の位置変化、投影領域IAn(n=1~27)の各々に対応した基板P上の部分領域のZ軸方向の位置変化、或いは基板Pの部分的な傾斜変化等を計測する。
【0036】
以上のような照明ユニットILUと投影ユニットPLUとは、先の
図3で説明したように、XY面内で投影領域IAnが角度θkだけ傾ける必要があるので、
図4中のDMD10と照明ユニットILU(少なくとも光軸AXcに沿ったミラー102~ミラー112の光路部分)とが、全体的にXY面内で角度θkだけ傾くように配置されている。
【0037】
DMD10の各マイクロミラー10aのうちON状態にあるマイクロミラー10aからの反射光のみにより形成される光ビーム(すなわち、空間変調された光ビーム)は、投影ユニットPLUを介して、マイクロミラー10aに対して光学的に共役な基板P上の領域へと照射される。なお、以下においては、各マイクロミラー10aと共役な基板P上の領域を光照射領域と呼び、光照射領域の集合を光照射領域群と呼ぶものとする。なお、投影領域IAnは、光照射領域群と一致する。すなわち、基板P上の光照射領域群は、2次元方向(X’方向及びY’方向)に並ぶ多数の光照射領域を有する。
【0038】
[露光制御装置の構成]
上記構成を有する露光装置EXにおいて行われる、走査露光処理を含む各種処理は、露光制御装置300によって制御される。
図6は、本実施形態に係る露光装置EXが備える露光制御装置300の機能構成を示す機能ブロック図である。
【0039】
露光制御装置300は、描画データ記憶部310と、制御データ作成部を含む駆動制御部304と、露光制御部306と、を備える。
【0040】
描画データ記憶部310には、複数のモジュールMUn(n=1~27)の各々で露光される表示パネル用のパターンの描画データが記憶されている。描画データ記憶部310は、
図2に示した27のモジュールMU1~MU27の各々のDMD10に、パターン露光用の描画データMD1~MD27を送出する。モジュールMUn(n=1~27)は、描画データMDnに基づいてDMD10のマイクロミラー10aを選択的に駆動して描画データMDnに対応したパターンを生成し、基板Pに投影露光する。すなわち、描画データは、DMD10の各マイクロミラー10aのON状態とOFF状態とを切り換えさせるデータである。
【0041】
駆動制御部304は、干渉計IFXの計測結果に基づいて、制御データCD1~CD27を作成し、モジュールMU1~MU27に送出する。また、駆動制御部304は、干渉計IFXの計測結果に基づいて、XYステージ4Aを走査方向(X軸方向)に所定速度で走査する。
【0042】
モジュールMU1~MU27は、走査露光中、描画データMD1~MD27と、駆動制御部304から送出された制御データCD1~CD27に基づいて、DMD10のマイクロミラー10aの駆動を制御する。ここで、制御データCD1~CD27は、リセットパルスである。各マイクロミラー10aは、リセットパルスを受信すると、描画データMD1~MD27に従って所定の姿勢になる。このとき、各マイクロミラー10aは、リセットパルスを受信するごとに、リセットパルスを受信した回数に対応する姿勢に変化する。
【0043】
露光制御部(シーケンサー)306は、基板Pの走査露光(移動位置)に同期して、描画データ記憶部310からの描画データMD1~MD27のモジュールMU1~MU27への送出と、駆動制御部304からの制御データCD1~CD27(リセットパルス)の送出とを制御する。
【0044】
[ラインパターンの露光処理]
図7は、投影領域(光照射領域群)IAnと、基板P上の露光対象領域(ラインパターンを露光する領域)30とを模式的に示す図である。本実施形態では、露光対象領域30が投影領域(光照射領域群)IAnに対して走査され、DMD10は、投影領域(光照射領域群)IAnに含まれる光照射領域32の中心(スポット位置と呼ぶ)が露光対象領域30内に位置するタイミングで、当該光照射領域32に対応するマイクロミラー10aをON状態にする。
【0045】
ここで、
図8に示すように、ライン状の露光対象領域30の一部である矩形領域34に着目する(
図7の破線枠(符号34)参照)。この矩形領域34は、例えば一辺が1μmの正方形領域である。また、各マイクロミラー10aに対応する光照射領域32も一辺が1μmの正方形領域であるとする。そして、θk(X軸に対するX’軸の傾斜角度)は、tanθk=1/5を満たす角度であるものとする。
【0046】
以下、基板Pの走査速度の違いに応じた、矩形領域34の露光され方の違いについて説明する。
【0047】
(第1の走査速度の場合)
第1の走査速度は、
図8に示すように、矩形領域34が位置34AにあるタイミングでDMD10が駆動制御部304からリセットパルスを受信して光照射領域210aに対応するマイクロミラーをオン状態とし、DMD10が次のリセットパルスを受信して光照射領域210cに対応するマイクロミラーをオン状態とするときに矩形領域34が位置34Cに位置するような速度である。この場合、矩形領域34は、リセットパルス間において、
図8に示す空走距離だけ移動することになる。つまり、空走距離とは、位置34Aに位置する矩形領域34と、位置34Cに位置する矩形領域34の間の距離である。
【0048】
ここで、位置34Cの手前の位置34B(破線矩形枠参照)では、矩形領域34の中心位置と、光照射領域210bの中心位置とが一致している。また、位置34Aにおいても、矩形領域34の中心位置と、光照射領域210aの中心位置とが一致している。したがって、空走距離を省略すると、第1の走査速度で基板Pを走査する場合の、矩形領域34と光照射領域群との位置関係は、
図9(a)のように表すことができる。
図9(a)においては、DMD10がマイクロミラー10aの状態を変化させる毎の矩形領域34の位置と、矩形領域34を露光するマイクロミラー10aに対応する光照射領域32の中心位置(●)とが示されている。なお、
図9(b)は、
図9(a)から光照射領域32の図示を省略した図である。このように矩形領域34を露光した場合、26パルスで、6×6の正方配置でスポット位置が位置するように(XY方向に並ぶ格子点上にスポット位置が位置するように)矩形領域34が露光されることになる。このとき、隣接するスポット位置間の、X軸方向及びY軸方向の間隔は0.2μmとなる。
【0049】
(第2の走査速度の場合)
第2の走査速度は、
図8に示すように、矩形領域34が位置34DにあるタイミングでDMD10が駆動制御部304からリセットパルスを受信して光照射領域210dに対応するマイクロミラーをオン状態とし、DMD10が次のリセットパルスを受信して光照射領域210fに対応するマイクロミラーをオン状態とするときに矩形領域34が位置34Fに位置するような速度である。この場合、矩形領域34は、リセットパルス間において
図8に示す空走距離+1/5(μm)だけ移動することになる。
【0050】
ここで、位置34Fの手前の位置34Eでは、矩形領域34の中心位置と光照射領域210eの中心位置とが一致している。また、位置34Dにおける矩形領域34の中心位置と光照射領域210dの中心位置とが一致している。したがって、空走距離を省略すると、第2の走査速度で基板Pを走査する場合の、矩形領域34と光照射領域群との位置関係は、
図10(a)のように表すことができる。
図10(a)においては、DMD10がリセットパルスを受信して、マイクロミラー10aの状態を変化させる毎の矩形領域34の位置と、矩形領域34を露光するマイクロミラー10aに対応する光照射領域32の中心位置(●)を示している。なお、
図10(b)は、
図10(a)から光照射領域32の図示を省略した図である。このように矩形領域34を露光した場合、14パルスで、
図10(c)に示すように18箇所にスポット位置が配置(千鳥配置)された状態で矩形領域34が露光されることになる。このとき、隣接するスポット位置とのX軸方向及びY軸方向の間隔は0.2μmとなる。
【0051】
このように千鳥配置(
図10(c)参照)とすることで、パルス数が正方配置(
図9(c))より少なくても正方配置の場合と同等に密な露光を行うことができる。すなわち、千鳥配置とすることで、正方配置の場合と同等の分解能で露光をすることができる。これにより、基板Pの走査速度を速めることが可能となり、高スループット化を図ることができる。したがって、本実施形態では、スポット位置が
図10(c)のような千鳥配置となるように、θkと基板Pの走査速度を決定することとしている。以下、
図10(c)のような露光を千鳥露光と呼ぶものとする。
【0052】
なお、
図8~
図10の例では、tanθk=1/5である場合について説明したが、千鳥露光を行うためには、tanθk=1/AのAを5,7,9,11…とすればよい。なお、回転角(θk)を小さくすることで、DMD10の長さを有効に使用することができるため、露光装置では実質的に1:Bの回転角とすればよい(但しBは整数)。
【0053】
例えば、tanθk=1/11とし、矩形領域34(一辺1μm)内にスポット位置を千鳥配置する場合(隣接するスポット位置のX軸、Y軸方向の間隔=0.1μm)、
図11の配置(1)のように、矩形領域34の四隅部にスポット位置を位置させる配置とすることができる。また、配置(2)のように、矩形領域34の四隅部にスポット位置を位置させない配置とすることもできる。また、配置(3)のように、各スポット位置が矩形領域34の内側に存在するようにすることもできる。
図11に示すように、配置(1)、(2)では、必要パルス数が61であるのに対し、配置(3)では、必要パルス数を50とすることができる。したがって、例えば、基板P上に塗布するレジストの感度に合わせて、配置(1)、(2)又は(3)のいずれかを選択することができる。
【0054】
〔継ぎ部を用いたラインパターンの露光〕
図12は、継ぎ部(例えば継ぎ部OLa)においてラインパターンを露光する状態を模式的に示す図である。
図12に示すように、継ぎ部OLaにおいてラインパターンを露光する場合にも、本実施形態では、矩形領域34内を千鳥露光する。この場合、継ぎ部OLaを露光する一方のDMD(例えば投影領域IA10に対応するDMD)でラインパターン全体を露光できる場合には、一方のDMDのみを用いてラインパターンを露光してもよい。また、両方のDMDを用いなければラインパターンを露光できない場合には、一方のDMDで露光できる箇所は露光し、残りの箇所を他方のDMDで露光することとしてもよい。また、2つのDMDそれぞれに対して露光パルス数を略均等に分担してもよい。この場合、各DMDを用いて露光する箇所(スポット位置)をランダムに設定しても良いし、
図13において「黒丸(●)」と「白丸(○)」で示すように、一方のDMDが露光する箇所の割合が、非走査方向(Y軸方向)や走査方向に関して徐々に増減するようにしてもよい。
【0055】
なお、
図12では、継ぎ部が2つのDMDを用いて露光する箇所である場合について説明したが、これに限られるものではない。例えば、基板Pを1つのDMDの投影領域に対して走査方向に走査し、非走査方向にステップした後に、先ほどとは逆向きに走査する動作を繰り返すステップ・アンド・スキャン方式の露光を行う場合には、DMDの投影領域が2回連続して通過する箇所が継ぎ部となる。この継ぎ部を露光する際にも、上述したようにして千鳥露光を行うことができる。
【0056】
〔ラインパターンの位置補正〕
図14(a)に示すように1μm幅のラインパターンをグリッドが0.1μm間隔である千鳥ショットで実現する場合において、10nm(=0.01μm)単位でラインパターンの非走査方向に関する位置を補正する方法について説明する。
【0057】
図14(a)のラインパターンを、例えば100nmだけ左方向(―Y方向)にずらす場合、
図14(k)に示すように、右端のスポット列(白丸で示す5つのスポット位置)を無くし、新たなスポット列(二重黒丸で示す5つのスポット位置)を左側(ラインパターンを移動したい側)の隣接する位置に1列追加することで、実現することができる。
【0058】
一方、ラインパターンを100nmの1/5である20nmだけ左方向にずらす場合について、
図14(c)に示すように、右端のスポット列の中央付近の1つのスポット位置(白丸で示すスポット位置)を無くし、新たなスポット位置(二重黒丸で示すスポット位置)を左側に1つ追加することで実現することができる。
【0059】
また、ラインパターンを10nmだけ左方向にずらす場合には、
図14(b)に示すように、中央のスポット位置(白丸で示すスポット位置)を無くし、新たなスポット位置(二重黒丸で示すスポット位置)を左側に1つ追加することで実現することができる。ラインパターンは、ラインパターンのエッジ上もしくは、エッジに近いスポット位置を無くしたり/追加したりすることで、ラインパターンの中央部またはその付近のスポット位置を無くしたり/追加したりするよりも、ずらし量を大きくすることができる。
【0060】
このように左側に新たなスポット
位置を追加することと、元から存在していたスポット位置の一部を削除する(又は削除しない)ことと、の組み合わせを変えることで、
図14(b)~
図14(k)に示すように、ラインパターンを10nm、20nm、…、90nm、100nmというように、10nm刻みで左側にずらすことができる。
【0061】
図15には、
図14(a)~
図14(k)の方法でラインパターンの位置補正を行ったときの、位置計測結果が示されている。この位置計測においては、
図14(a)において矢印で示すX軸方向の11箇所において、ラインパターンの位置がどの程度Y軸方向に補正されたか(ずれたか)を計測した。
図15からは、X軸方向のいずれの位置においても、ラインパターンの位置をおおよそ所望の位置に補正できていることがわかる。
【0062】
本実施形態では、千鳥配置のグリッド間隔(スポット位置のX、Y方向の間隔)以下の距離だけラインパターンの位置を補正したい場合に、
図14(b)~
図14(k)で示すような千鳥露光が行われるように、DMD10のマイクロミラー10aのON/OFF状態を制御する。これにより、所望の位置にパターンを露光することができる。なお、ラインパターンの位置を右側(+Y方向)にずらす補正を行う場合には、
図14(b)~
図14(k)を左右反転させて、適用すればよい。
【0063】
〔ラインパターンの線幅調整〕
図16(a)に示すように、1μm幅のラインパターンを隣接するスポット位置の間隔(X軸及びY軸方向の間隔)が0.1μmである千鳥配置で実現する場合において、10nm(=0.01μm)単位でラインパターンの非走査方向(Y軸方向)に関する幅(線幅)を調整する方法について説明する。本実施形態では、
図16(a)に示す元のラインパターン(基準パターンと呼ぶ)の両外側の隣接する位置に同数の新たなスポット位置を配置することと、基準パターンの一部のスポット位置を削除する(又は削除しない)ことと、の組み合わせにより、線幅を調整する。
【0064】
例えば、
図16(b)に示すように、
図16(a)の基準パターンの両外側に新たなスポット位置(二重黒丸)を1つずつ配置するとともに、基準パターンのスポット位置を2つ削除する(白丸)ことで、10nmだけ線幅を大きくできる。また、20nmだけ線幅を大きくする場合、
図16(c)に示すように、基準パターンの両外側に新たなスポット位置(二重黒丸)を1つずつ配置するとともに、基準パターンのスポット位置(
図16(b)とは異なるスポット位置)を2つ削除すればよい。
【0065】
また、30nmだけ線幅を大きくする場合、
図16(d)に示すように、基準パターンの両外側に新たなスポット位置(二重黒丸)を1つずつ配置するとともに、基準パターンの中央列のスポット位置を3つ削除すればよい。更に、40nmだけ線幅を大きくする場合、
図16(e)に示すように、基準パターンの両外側に新たなスポット位置(二重黒丸)を1つずつ配置する一方で、基準パターンのスポット
位置は削除しないようにすればよい。
【0066】
50nm、60nm、…220nmだけ線幅を大きくする場合についても、
図16(f)~
図16(k)、
図17(a)~
図17(l)に示すように、
図16(a)の基準パターンの両外側に同数の新たなスポット位置を配置することと、基準パターンのスポット位置の一部を削除する(又は削除しない)ことと、の組み合わせにより、線幅を調整することができる。
【0067】
図18には、
図16(a)~
図17(l)の方法でラインパターンの線幅調整を行ったときの、線幅の計測結果が示されている。この線幅計測においては、
図16(a)において矢印で示すX軸方向の11箇所において、ラインパターンの線幅(Y軸方向の幅)がどの程度となったかを計測した。
図18からは、X軸方向のいずれの位置においても、ラインパターンの線幅をおおよそ所望の線幅に調整できたことがわかる。
【0068】
本実施形態では、千鳥配置のグリッド間隔(スポット位置のX、Y方向の間隔)以下の大きさだけラインパターンの線幅を調整したい場合に、
図16(b)~
図17(l)で示すような露光が行われるように、DMD10のマイクロミラー10aのON/OFF状態を制御する。これにより、精度よく所望のラインパターンを得ることができる。
【0069】
〔ディストーション測定結果に基づく補正〕
図19(a)には、テスト露光等によって露光モジュールに含まれるモジュールの投影像の歪み(ディストーション)を測定した結果の一例が示されている。各点において示す矢印は、ディストーションの方向と大きさを示す。ディストーションの測定は、テストパターンを用いた基板Pの露光(テスト露光)、基板P上に露光された像(転写像)の検出、及びその検出結果を用いた像歪みデータ(ディストーション・データ)の作成を含む。
【0070】
例えば一辺が1μmの正方形の領域を露光するときには、ディストーションの影響を相殺するため、以下のような露光を行う。
【0071】
例えば、
図19(a)に示すようなディストーションの測定結果が得られた場合、非走査方向
における位置が一致する点のディストーションの平均値を算出する。非走査方向
における位置ごとのディストーションの平均値の算出結果の一例が、
図19(b)に示されている。この非走査方向
における位置ごとのディストーションの平均値を用いて、非走査方向の位置ごとに、正方形の領域を露光するときのスポット位置を工夫する。例えば、
図19(b)の左端に示すように、ディストーションの平均値がX方向:0.05μm、Y方向:-0.06μmである場合には、
図19(c)に示すように、基準となる千鳥露光パターン(基準パターン)の左側と下側に新たなスポット位置(二重黒丸)を3つずつ配置するとともに、元の正方形パターンのスポット位置を5つ削除すればよい。
【0072】
また、他の非走査方向の位置においても、ディストーションの平均値に合わせて、
図19(d)~
図19(g)に示すように、スポット位置を変更すればよい。これにより、ディストーションによる露光精度への影響を抑制することができる。なお、本例では、非走査方向
における位置ごとのディストーションの平均値を算出して処理に用いるため、処理を簡素化することができる。また、非走査方向
における位置ごとのディストーションの平均値を用いることで、例えば走査方向に延びるパターンがギザギザな形状に露光されるのを防止することができる。
【0073】
〔照度分布測定結果に基づく補正〕
図20(a)には、1つの露光領域における照度分布の測定結果の一例が示されている。
【0074】
例えば一辺が1μmの正方形の領域を露光するときには、照度分布による影響を抑制するため、以下のような露光を行う。
【0075】
図20(a)に示すような照度分布の測定結果が得られた場合、非走査方向
における位置が一致する点の照度の平均値を算出する。非走査方向
における位置ごとの照度の平均値の算出結果の一例が、
図20(b)に示されている。
図20(b)の例では、左から、1.0%、0.4%、0.2%、0.0%、0.3%と算出されたものとする。また、本例では、フォトレジストの条件から、照度が1.0%上がると、線幅が50nm狭くなるものとし、照度が高いほど線幅が大きくなるように露光を行うこととする。なお、線幅を広げる方法は、
図16(b)~
図17(l)と同様である。
【0076】
例えば、
図20(b)の左端に示すように、照度が1.0%の場合、線幅を50nmだけ広げるため、
図20(c)に示すように、基準となる千鳥露光パターン(基準パターン)の両側に新たなスポット位置(二重黒丸)を2つずつ配置するとともに、基準パターンのスポット位置を2つ削除する。
【0077】
また、他の非走査方向の位置においても、照度に合わせて、
図20(d)~
図20(g)に示すように、基準パターンからスポット位置を変更する。これにより、照度分布による露光精度への影響を抑制することができる。なお、本例では、非走査方向
における位置ごとの照度の平均値を算出して処理に用いるため、処理を簡素化することができる。また、非走査方向
における位置ごとの照度の平均値を用いることで、例えば走査方向に延びるパターンがギザギザな形状に露光されるのを防止することができる。
【0078】
以上、詳細に説明したように、本実施形態によると、基板Pを保持して移動する基板ホルダ4Bと、DMD10を有する露光モジュールMU(A)、MU(B)、MU(C)と、基板ホルダ4Bを走査方向に駆動する駆動制御部304と、を備えている。そして、露光モジュールの光照射領域群における光照射領域の配列方向(X’軸、Y’軸)が走査方向及び非走査方向に対して角度θkだけ傾斜しており、駆動制御部304は、基板Pの所定範囲を露光するときに千鳥露光となる(スポット位置が千鳥配置となる)ような速度で基板ホルダ4Bを走査する。これにより、スポット位置が正方配置になる場合よりもパルス数が少なく(6割程度)であるにもかかわらず正方配置と同等の分解能で露光を行うことができる。DMD10は、走査方向においてマイクロミラー10aの数が有限であるが、少ないパルス数でパターンを露光することで、1度の走査の間に所望とするパターンを露光できる可能性を高めることができる。また、少ないパルス数でパターンを露光できるため、ステージの速度を早くでき、露光装置のスループットを向上することができる。
【0079】
また、本実施形態では、2つのDMD10を用いて継ぎ部を露光する場合にも千鳥露光を行うので、継ぎ部においても継ぎ部以外と同様のパターンを露光することができる。
【0080】
また、本実施形態では、ラインパターンをグリッド間隔よりも小さい距離だけずらして露光したい場合に、ずらす前のラインパターン内のスポット位置の一部をラインパターンの外側(ずらしたい方向の外側)に露光するようにDMD10を駆動する。これにより、簡易に、ラインパターンをグリッド間隔よりも小さい距離だけずらして露光することができる。
【0081】
また、本実施形態では、ラインパターンの線幅をグリッド間隔よりも小さい寸法だけ大きくしたい場合に、元のラインパターン(基準パターン)の両外側に新たなスポット位置を同数配置するとともに、元のラインパターンのスポット位置を減らす(又は減らさない)ようにDMD10を駆動する。これにより、簡易に、ラインパターンの線幅をグリッド間隔よりも小さい寸法だけ大きく露光することができる。
【0082】
また、本実施形態では、モジュールのディストーションや、照度分布に基づいて、ディストーションや照度分布の影響が抑制されるように、ラインパターンのスポット位置を変更する。これにより、簡易にディストーションや照度分布による露光精度への影響を抑制することができる。
【0083】
なお、上記実施形態の照明ユニットILUにおいては、解像度を上げるために、NAやσを可変にしたり、照明条件を可変にしたり、OPC(Optical Proximity Correction)技術(補助パターンにより光近接効果を克服する技術)を用いるなどすることができる。
【0084】
上述した実施形態は本発明の好適な実施の例である。但し、これに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施可能である。
【符号の説明】
【0085】
4B 基板ホルダ
10 DMD
10a マイクロミラー
304 駆動制御部
EX 露光装置
P 基板