(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】ギヤ機構及びロボット用アーム機構
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20240903BHJP
F16H 55/06 20060101ALI20240903BHJP
B25J 17/00 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
F16H57/04 G
F16H55/06
B25J17/00 E
(21)【出願番号】P 2024501978
(86)(22)【出願日】2023-04-12
(86)【国際出願番号】 JP2023014922
(87)【国際公開番号】W WO2024004327
(87)【国際公開日】2024-01-04
【審査請求日】2024-01-12
(31)【優先権主張番号】P 2022105044
(32)【優先日】2022-06-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【氏名又は名称】貴志 浩充
(74)【代理人】
【識別番号】100202326
【氏名又は名称】橋本 大佑
(72)【発明者】
【氏名】黒川 隆平
(72)【発明者】
【氏名】倉田 地人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 良尚
(72)【発明者】
【氏名】森 耕太郎
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-028368(JP,A)
【文献】特開2008-020011(JP,A)
【文献】特開2004-324821(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
F16H 55/06
B25J 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットに用いられるギヤ機構であって、
スーパーエンジニアリングプラスチックからなる群から選択される少なくとも1種の第1樹脂を含有するギヤと、
前記ギヤに対して作用する液剤が流れる流路と、
前記ギヤを複数内蔵するギヤボックスと、
前記ギヤボックスを囲む第2ハウジングと、
を備え、
前記流路は、前記液剤が前記ギヤに対して触れて直接作用するように前記液剤を流し、
前記液剤は、洗浄液及び
冷却液の少なくとも一方を含
み、
前記流路は、前記液剤を前記第2ハウジングの内部へと導く第2管と、前記第2ハウジングに形成され、該第2管が接続されている第2流入口と、前記第2流入口から前記第2ハウジングの内部に流入して前記ギヤボックスに触れた前記液剤を前記第2ハウジングの内部から外部へと排出する第2排出口と、を有する、
ギヤ機構。
【請求項2】
請求項1に記載のギヤ機構であって、
前記第1樹脂は、ポリアリーレンスルフィド樹脂である、
ギヤ機構。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のギヤ機構であって
、
前記ギヤボックスは、
複数の前記ギヤと、
複数の前記ギヤの各々に取り付けられているシャフトと、
前記シャフトを前記シャフトの中心軸回りに回転可能に支持する第1ハウジングと、
を有し、
複数の前記ギヤが前記第1ハウジング内で連動する、
ギヤ機構。
【請求項4】
請求項3に記載のギヤ機構であって、
前記流路は、前記液剤を前記第1ハウジングの内部へと導く第1管と、前記第1ハウジングに形成され、該第1管が接続されている第1流入口と、前記第1流入口から前記第1ハウジングの内部に流入して前記ギヤに触れた前記液剤を前記第1ハウジングの内部から外部へと排出する第1排出口と、を有する、
ギヤ機構。
【請求項5】
請求項3に記載のギヤ機構であって、
前記シャフト及び前記第1ハウジングの少なくとも一方は、スーパーエンジニアリングプラスチックからなる群から選択される少なくとも1種の第2樹脂を含有する、
ギヤ機構。
【請求項6】
請求項5に記載のギヤ機構であって、
前記第2樹脂は、ポリアリーレンスルフィド樹脂である、
ギヤ機構。
【請求項7】
請求項5に記載のギヤ機構であって、
前記ギヤボックスは、汚れが付着して洗浄を必要とする素材で被覆されているか、又は前記素材と前記第2樹脂とが複合化されている、
ギヤ機構。
【請求項8】
請求項3に記載のギヤ機構であって、
前記ギヤボックスは、前記ギヤ機構において着脱可能に構成される、
ギヤ機構。
【請求項9】
請求項1又は2に記載のギヤ機構と、
前記ギヤを駆動するためのモーターであって、防水性を有する前記モーターと、
を備える、
ロボット用アーム機構。
【請求項10】
請求項
9に記載のロボット用アーム機構であって、
前記液剤を貯蔵し、前記流路と接続されている貯蔵部をさらに備える、
ロボット用アーム機構。
【請求項11】
請求項
9に記載のロボット用アーム機構であって、
前記ギヤ機構を乾燥させるためのヒータをさらに備える、
ロボット用アーム機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ギヤ機構及びロボット用アーム機構に関する。本出願は、2022年6月29日に日本国に特許出願された特願2022-105044号の優先権を主張するものであり、当該出願の開示全体を、ここに参照のために取り込む。
【背景技術】
【0002】
従来、製造現場での人代替が主流だった産業用ロボットアームは、医療及び介護などを含む様々な分野において新たな用途で使用され始めている。ロボットアームには多くのギヤ機構が組み込まれており、当該ギヤ機構において樹脂製のギヤが用いられることもある。ロボットに用いられるこのようなギヤ機構において、洗浄液を用いて樹脂製のギヤを洗浄したり、冷却液を用いて樹脂製のギヤを冷却したりすることが必要とされる場合がある。
【0003】
一方で、ロボット以外の用途では、洗浄液を用いてギヤを直接洗浄する技術が知られている。例えば、特許文献1には、各ギヤの左右側面と、これを両側から挟む左右側板部との隙間に侵入した塗料を色残りなく短時間で確実に洗浄できるようにする塗料用ギヤポンプが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような従来技術と異なり、ロボットに用いられるギヤ機構では、洗浄液に限らず、洗浄液及び冷却液を含む液剤に対する耐性がより強く求められる。特許文献1に記載の技術も含め、従来技術では、このような液剤に対する耐性を向上させることは十分に考慮されていなかった。
【0006】
本開示は、液剤に対する耐性が向上するギヤ機構及びロボット用アーム機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示は、
(1)
ロボットに用いられるギヤ機構であって、
スーパーエンジニアリングプラスチックからなる群から選択される少なくとも1種の第1樹脂を含有するギヤと、
前記ギヤに対して作用する液剤が流れる流路と、
を備える、
ギヤ機構、
である。
【0008】
(2)
上記(1)に記載のギヤ機構では、
前記流路は、前記液剤が前記ギヤに対して触れて直接作用するように前記液剤を流してもよい。
【0009】
(3)
上記(1)又は(2)に記載のギヤ機構では、
前記液剤は、洗浄液及び冷却液の少なくとも一方を含んでもよい。
【0010】
(4)
上記(1)乃至(3)のいずれか1つに記載のギヤ機構では、
前記第1樹脂は、ポリアリーレンスルフィド樹脂であってもよい。
【0011】
(5)
上記(1)乃至(4)のいずれか1つに記載のギヤ機構は、
前記ギヤを複数内蔵するギヤボックスをさらに備え、
前記ギヤボックスは、
複数の前記ギヤと、
複数の前記ギヤの各々に取り付けられているシャフトと、
前記シャフトを前記シャフトの中心軸回りに回転可能に支持する第1ハウジングと、
を有し、
複数の前記ギヤが前記第1ハウジング内で連動してもよい。
【0012】
(6)
上記(5)に記載のギヤ機構では、
前記流路は、前記液剤を前記第1ハウジングの内部へと導く第1管と、前記第1ハウジングに形成され、該第1管が接続されている第1流入口と、前記第1流入口から前記第1ハウジングの内部に流入して前記ギヤに触れた前記液剤を前記第1ハウジングの内部から外部へと排出する第1排出口と、を有してもよい。
【0013】
(7)
上記(5)又は(6)に記載のギヤ機構では、
前記シャフト及び前記第1ハウジングの少なくとも一方は、スーパーエンジニアリングプラスチックからなる群から選択される少なくとも1種の第2樹脂を含有してもよい。
【0014】
(8)
上記(7)に記載のギヤ機構では、
前記第2樹脂は、ポリアリーレンスルフィド樹脂であってもよい。
【0015】
(9)
上記(7)又は(8)に記載のギヤ機構は、
前記ギヤボックスを囲む第2ハウジングをさらに備え、
前記流路は、前記液剤を前記第2ハウジングの内部へと導く第2管と、前記第2ハウジングに形成され、該第2管が接続されている第2流入口と、前記第2流入口から前記第2ハウジングの内部に流入して前記ギヤボックスに触れた前記液剤を前記第2ハウジングの内部から外部へと排出する第2排出口と、を有してもよい。
【0016】
(10)
上記(7)乃至(9)のいずれか1つに記載のギヤ機構では、
前記ギヤボックスは、汚れが付着して洗浄を必要とする素材で被覆されているか、又は前記素材と前記第2樹脂とが複合化されていてもよい。
【0017】
(11)
上記(5)乃至(10)のいずれか1つに記載のギヤ機構では、
前記ギヤボックスは、前記ギヤ機構において着脱可能に構成されてもよい。
【0018】
本開示は、
(12)
上記(1)乃至(11)のいずれか1つに記載のギヤ機構と、
前記ギヤを駆動するためのモーターであって、防水性を有する前記モーターと、
を備える、
ロボット用アーム機構、
である。
【0019】
(13)
上記(12)に記載のロボット用アーム機構は、
前記液剤を貯蔵し、前記流路と接続されている貯蔵部をさらに備えてもよい。
【0020】
(14)
上記(12)又は(13)に記載のロボット用アーム機構は、
前記ギヤ機構を乾燥させるためのヒータをさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0021】
本開示によれば、液剤に対する耐性が向上するギヤ機構及びロボット用アーム機構を提供可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本開示の第1実施形態に係るギヤ機構の外観を示す模式図である。
【
図2】
図1のギヤ機構の内部を模式的に示す透視図である。
【
図3】本開示の第2実施形態に係るギヤ機構の構成を示す模式図である。
【
図4】本開示の第3実施形態に係るギヤ機構の構成を示す模式図である。
【
図5】本開示の第4実施形態に係るギヤ機構の構成を示す模式図である。
【
図6】本開示の一実施形態に係るロボット用アーム機構の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本開示のPAS樹脂組成物は、例えばポリアリーレンスルフィド樹脂を主成分として配合してなることを特徴とする。
【0024】
本開示のPAS樹脂組成物は、主成分としてPAS樹脂を配合してなる。ポリアリーレンスルフィド樹脂は、芳香族環と硫黄原子とが結合した構造を繰り返し単位とする樹脂構造を有するものであり、具体的には、下記一般式(1)
【0025】
【化1】
(式中、R
1及びR
2は、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1~4の範囲のアルキル基、ニトロ基、アミノ基、フェニル基、メトキシ基、エトキシ基を表す。)で表される構造部位と、必要に応じてさらに下記一般式(2)
【0026】
【化2】
で表される3官能性の構造部位と、を繰り返し単位とする樹脂である。式(2)で表される3官能性の構造部位は、他の構造部位との合計モル数に対して0.001~3モル%の範囲が好ましく、特に0.01~1モル%の範囲であることが好ましい。
【0027】
ここで、前記一般式(1)で表される構造部位は、特に該式中のR1及びR2は、前記PAS樹脂の機械的強度の点から水素原子であることが好ましく、その場合、下記式(3)で表されるパラ位で結合するもの、及び下記式(4)で表されるメタ位で結合するものが挙げられる。
【0028】
【化3】
これらの中でも、特に繰り返し単位中の芳香族環に対する硫黄原子の結合は前記一般式(3)で表されるパラ位で結合した構造であることが前記PAS樹脂の耐熱性及び結晶性の面で好ましい。
【0029】
前記PAS樹脂は、前記一般式(1)及び(2)で表される構造部位のみならず、下記の構造式(5)~(8)
【0030】
【化4】
で表される構造部位を、前記一般式(1)と一般式(2)で表される構造部位との合計の30モル%以下で含んでいてもよい。特に本開示では上記一般式(5)~(8)で表される構造部位は10モル%以下であることが、PAS樹脂の耐熱性、機械的強度の点から好ましい。前記PAS樹脂中に、上記一般式(5)~(8)で表される構造部位を含む場合、それらの結合様式としては、ランダム共重合体、ブロック共重合体の何れであってもよい。
【0031】
前記PAS樹脂は、その分子構造中に、ナフチルスルフィド結合などを有していてもよいが、他の構造部位との合計モル数に対して、3モル%以下が好ましく、特に1モル%以下であることが好ましい。
【0032】
PAS樹脂の物性は、本開示の効果を損ねない限り特に限定されないが、以下の通りである。
【0033】
(溶融粘度)
本開示に用いるPAS樹脂の溶融粘度は特に限定されないが、流動性及び機械的強度のバランスが良好となることから、300℃で測定した溶融粘度(V6)が、好ましくは2Pa・s以上の範囲であり、好ましくは1000Pa・s以下の範囲、より好ましくは500Pa・s以下の範囲であり、さらに好ましくは200Pa・s以下の範囲である。ただし、溶融粘度(V6)の測定は、ポリアリーレンスルフィド樹脂を島津製作所製フローテスター、CFT-500Dを用いて行い、300℃、荷重:1.96×106Pa、L/D=10(mm)/1(mm)にて、6分間保持した後に測定した溶融粘度の測定値とする。
【0034】
(非ニュートン指数)
本開示に用いるPAS樹脂の非ニュートン指数は特に限定されないが、0.90以上から、2.00以下の範囲であることが好ましい。リニア型ポリアリーレンスルフィド樹脂を用いる場合には、非ニュートン指数が、好ましくは0.90以上の範囲、より好ましくは0.95以上の範囲から、好ましくは1.50以下の範囲、より好ましくは1.20以下の範囲である。このようなポリアリーレンスルフィド樹脂は機械的物性、流動性、耐磨耗性に優れる。ただし、本開示において非ニュートン指数(N値)は、キャピログラフを用いて融点+20℃、オリフィス長(L)とオリフィス径(D)の比、L/D=40の条件下で、剪断速度(SR)及び剪断応力(SS)を測定し、下記式を用いて算出した値である。非ニュートン指数(N値)が1に近いほど線状に近い構造であり、非ニュートン指数(N値)が高いほど分岐が進んだ構造であることを示す。
【0035】
【数1】
[ただし、SRは剪断速度(秒
-1)、SSは剪断応力(ダイン/cm
2)、そしてKは定数を示す。]
【0036】
(製造方法)
前記PAS樹脂の製造方法としては特に限定されないが、例えば(製造法1)硫黄と炭酸ソーダの存在下でジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、(製造法2)極性溶媒中でスルフィド化剤等の存在下にジハロゲノ芳香族化合物を、必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加えて、重合させる方法、(製造法3)p-クロルチオフェノールを、必要ならばその他の共重合成分を加えて、自己縮合させる方法、(製造法4)ジヨード芳香族化合物と単体硫黄とを、カルボキシ基やアミノ基等の官能基を有していてもよい重合禁止剤の存在下、減圧させながら溶融重合させる方法、等が挙げられる。これらの方法のなかでも、(製造法2)の方法が汎用的であり好ましい。反応の際に、重合度を調節するためにカルボン酸やスルホン酸のアルカリ金属塩や、水酸化アルカリを添加しても良い。上記(製造法2)方法のなかでも、加熱した有機極性溶媒とジハロゲノ芳香族化合物とを含む混合物に含水スルフィド化剤を水が反応混合物から除去され得る速度で導入し、有機極性溶媒中でジハロゲノ芳香族化合物とスルフィド化剤とを、必要に応じてポリハロゲノ芳香族化合物と加え、反応させること、及び反応系内の水分量を該有機極性溶媒1モルに対して0.02~0.5モルの範囲にコントロールすることによりポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する方法(特開平07-228699号公報参照。)や、固形のアルカリ金属硫化物及び非プロトン性極性有機溶媒の存在下でジハロゲノ芳香族化合物と必要ならばポリハロゲノ芳香族化合物ないしその他の共重合成分を加え、アルカリ金属水硫化物及び有機酸アルカリ金属塩を、硫黄源1モルに対して0.01~0.9モルの範囲の有機酸アルカリ金属塩及び反応系内の水分量を非プロトン性極性有機溶媒1モルに対して0.02モル以下の範囲にコントロールしながら反応させる方法(WO2010/058713号パンフレット参照。)で得られるものが特に好ましい。ジハロゲノ芳香族化合物の具体的な例としては、p-ジハロベンゼン、m-ジハロベンゼン、o-ジハロベンゼン、2,5-ジハロトルエン、1,4-ジハロナフタレン、1-メトキシ-2,5-ジハロベンゼン、4,4’-ジハロビフェニル、3,5-ジハロ安息香酸、2,4-ジハロ安息香酸、2,5-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロニトロベンゼン、2,4-ジハロアニソール、p,p’-ジハロジフェニルエーテル、4,4’-ジハロベンゾフェノン、4,4’-ジハロジフェニルスルホン、4,4’-ジハロジフェニルスルホキシド、4,4’-ジハロジフェニルスルフィド、及び、上記各化合物の芳香環に炭素原子数1~18の範囲のアルキル基を有する化合物が挙げられ、ポリハロゲノ芳香族化合物としては1,2,3-トリハロベンゼン、1,2,4-トリハロベンゼン、1,3,5-トリハロベンゼン、1,2,3,5-テトラハロベンゼン、1,2,4,5-テトラハロベンゼン、1,4,6-トリハロナフタレンなどが挙げられる。上記各化合物中に含まれるハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子であることが望ましい。
【0037】
重合工程により得られたポリアリーレンスルフィド樹脂を含む反応混合物の後処理方法としては、特に制限されるものではないが、例えば、(後処理1)重合反応終了後、先ず反応混合物をそのまま、あるいは酸又は塩基を加えた後、減圧下又は常圧下で溶媒を留去し、次いで溶媒留去後の固形物を水、反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回又は2回以上洗浄し、更に中和、水洗、濾過及び乾燥する方法、或いは、(後処理2)重合反応終了後、反応混合物に水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類、エーテル類、ハロゲン化炭化水素、芳香族炭化水素、脂肪族炭化水素などの溶媒(使用した重合溶媒に可溶であり、かつ少なくともポリアリーレンスルフィドに対しては貧溶媒である溶媒)を沈降剤として添加して、ポリアリーレンスルフィドや無機塩等の固体状生成物を沈降させ、これらを濾別、洗浄、乾燥する方法、或いは、(後処理3)重合反応終了後、反応混合物に反応溶媒(又は低分子ポリマーに対して同等の溶解度を有する有機溶媒)を加えて撹拌した後、濾過して低分子量重合体を除いた後、水、アセトン、メチルエチルケトン、アルコール類などの溶媒で1回又は2回以上洗浄し、その後中和、水洗、濾過及び乾燥をする方法、(後処理4)重合反応終了後、反応混合物に水を加えて水洗浄、濾過、必要に応じて水洗浄の時に酸を加えて酸処理し、乾燥をする方法、(5)重合反応終了後、反応混合物を濾過し、必要に応じ、反応溶媒で1回又は2回以上洗浄し、更に水洗浄、濾過及び乾燥する方法、等が挙げられる。
【0038】
尚、上記(後処理1)~(後処理5)に例示したような後処理方法において、ポリアリーレンスルフィド樹脂の乾燥は真空中で行なってもよいし、空気中或いは窒素のような不活性ガス雰囲気中で行なってもよい。
【0039】
本開示のPAS樹脂組成物は、必要に応じて、充填剤を任意成分として含有することができる。これら充填剤としては本開示の効果を損なうものでなければ公知慣用の材料を用いることもでき、例えば、繊維状のものや、粒状や板状などの非繊維状のものなど、さまざまな形状の充填剤等が挙げられる。具体的には、ガラス繊維、炭素繊維、シランガラス繊維、セラミック繊維、アラミド繊維、金属繊維、チタン酸カリウム、炭化珪素、珪酸カルシウム、ワラストナイト等の繊維、天然繊維等の繊維状充填剤が使用でき、またガラスビーズ、ガラスフレーク、硫酸バリウム、クレー、パイロフィライト、ベントナイト、セリサイト、マイカ、雲母、タルク、アタパルジャイト、フェライト、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、ガラスビーズ、ゼオライト、ミルドファイバー、硫酸カルシウム等の非繊維状充填剤も使用できる。
【0040】
本開示において充填剤は必須成分ではなく、配合する場合、その含有量は本開示の効果を損ねなければ特に限定されるものではない。充填剤の配合量としては、例えば、PAS樹脂100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは10質量部以上から、好ましくは600質量部以下、より好ましくは200質量部以下の範囲である。かかる範囲において、樹脂組成物が良好な機械的強度と成形性を示すため好ましい。
【0041】
本開示のPAS樹脂組成物は、必要に応じて、シランカップリング剤を任意成分として配合することができる。本開示のPAS樹脂シランカップリング剤としては、本開示の効果を損ねなければ特に限定されないが、カルボキシ基と反応する官能基、例えば、エポキシ基、イソシアナト基、アミノ基又は水酸基を有するシランカップリング剤が好ましいものとして挙げられる。このようなシランカップリング剤としては、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ基含有アルコキシシラン化合物、γ-イソシアナトプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルメチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジメトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルエチルジエトキシシラン、γ-イソシアナトプロピルトリクロロシラン等のイソシアナト基含有アルコキシシラン化合物、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有アルコキシシラン化合物、γ-ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン等の水酸基含有アルコキシシラン化合物が挙げられる。本開示においてシランカップリング剤は必須成分ではないが、配合する場合、その配合量は、本開示の効果を損ねなければその添加量は特に限定されないが、PAS樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上から、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下までの範囲である。かかる範囲において、樹脂組成物が良好な耐コロナ性と成形性、特に離形性を有し、かつ成形品がエポキシ樹脂と優れた接着性を呈しつつ、さらに機械的強度が向上するため好ましい。
【0042】
本開示のPAS樹脂組成物は、必要に応じて、熱可塑性エラストマーを任意成分として含有することができる。熱可塑性エラストマーとしては、ポリオレフィン系エラストマー、弗素系エラストマー又はシリコーン系エラストマーが挙げられ、このうちポリオレフィン系エラストマーが好ましいものとして挙げられる。これらのエラストマーを添加する場合、その配合量は、本開示の効果を損ねなければ特に限定されないが、PAS樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上から、好ましくは10質量部以下、より好ましくは5質量部以下までの範囲である。かかる範囲において、得られるPAS樹脂組成物の耐衝撃性が向上するため好ましい。
【0043】
例えば、前記ポリオレフィン系エラストマーは、α-オレフィンの単独重合体、又は2以上のα-オレフィンの共重合体、1又は2以上のα-オレフィンと、官能基を有するビニル重合性化合物との共重合体が挙げられる。この際、前記α-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン等の炭素原子数が2以上から8以下までの範囲のα-オレフィンが挙げられる。前記官能基としては、カルボキシ基、酸無水物基(-C(=O)OC(=O)-)、エポキシ基、アミノ基、水酸基、メルカプト基、イソシアネート基、オキサゾリン基等が挙げられる。前記官能基を有するビニル重合性化合物としては、酢酸ビニル;(メタ)アクリル酸等のα,β-不飽和カルボン酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のα,β-不飽和カルボン酸のアルキルエステル;アイオノマー等のα,β-不飽和カルボン酸の金属塩(金属としてはナトリウムなどのアルカリ金属、カルシウムなどのアルカリ土類金属、亜鉛等);グリシジルメタクリレート等のα,β-不飽和カルボン酸のグリシジルエステル等;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等のα,β-不飽和ジカルボン酸;前記α,β-不飽和ジカルボン酸の誘導体(モノエステル、ジエステル、酸無水物)等の1種又は2種以上が挙げられる。上述の熱可塑性エラストマーは、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
更に、本開示のPAS樹脂組成物は、上記成分に加えて、さらに用途に応じて、適宜、ポリエステル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリスルフォン樹脂、ポリエーテルスルフォン樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、ポリアリーレン樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリ四弗化エチレン樹脂、ポリ二弗化エチレン樹脂、ポリスチレン樹脂、ABS樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等の合成樹脂(以下、単に合成樹脂という)を任意成分として配合することができる。本開示において前記合成樹脂は必須成分ではないが、配合する場合、その配合の割合は本開示の効果を損ねなければ特に限定されるものではなく、また、それぞれの目的に応じて異なり、一概に規定することはできないが、本開示に係る樹脂組成物中に配合する合成樹脂の割合として、例えばPAS樹脂100質量部に対し5質量部以上の範囲であり、15質量部以下の範囲の程度が挙げられる。換言すれば、PAS樹脂(A)と合成樹脂との合計に対してPAS樹脂の割合は質量基準で、好ましくは(100/115)以上の範囲であり、より好ましくは(100/105)以上の範囲である。
【0045】
本開示のPAS樹脂組成物は、その他にも着色剤、帯電防止剤、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、発泡剤、難燃剤、難燃助剤、防錆剤、及びカップリング剤等の公知慣用の添加剤を必要に応じ、任意成分として含有してもよい。これらの添加剤は必須成分ではなく、例えば、PAS樹脂100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上の範囲であり、好ましくは1000質量部以下の範囲で、本開示の効果を損なわないよう目的や用途に応じて適宜調整して用いればよい。
【0046】
本開示のPAS樹脂組成物は、主成分、及び必要に応じてその他の任意成分を配合してなる。本開示に用いる樹脂組成物を製造する方法としては、特に限定されないが、主成分と必要に応じて任意成分を配合して、溶融混錬する方法、より詳しくは、必要に応じてタンブラー又はヘンシェルミキサー等で均一に乾式混合し、次いで、二軸押出機に投入して溶融混練する方法が挙げられる。
【0047】
溶融混錬は、樹脂温度がPAS樹脂の融点以上となる温度範囲、好ましくは該融点+10℃以上となる温度範囲、より好ましくは該融点+10℃以上、さらに好ましくは該融点+20℃以上から、好ましくは該融点+100℃以下、より好ましくは該融点+50℃以下までの範囲の温度に加熱して行うことができる。
【0048】
前記溶融混練機としては分散性や生産性の観点から二軸混練押出機が好ましく、例えば、樹脂成分の吐出量5~500(kg/hr)の範囲と、スクリュー回転数50~500(rpm)の範囲とを適宜調整しながら溶融混練することが好ましく、それらの比率(吐出量/スクリュー回転数)が0.02~5(kg/hr/rpm)の範囲となる条件下に溶融混練することがさらに好ましい。溶融混練機への各成分の添加、混合は同時に行ってもよいし、分割して行っても良い。例えば、前記成分のうち、添加剤を添加する場合は、前記二軸混練押出機のサイドフィーダーから該押出機内に投入することが分散性の観点から好ましい。かかるサイドフィーダーの位置は、前記二軸混練押出機のスクリュー全長に対する、該押出機樹脂投入部(トップフィーダー)から該サイドフィーダーまでの距離の比率が、0.1以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましい。かかる比率は0.9以下であることが好ましく、0.7以下であることがより好ましい。
【0049】
このように溶融混練して得られる本開示に係るPAS樹脂組成物は、前記主成分と、必要に応じて加える任意成分及びそれらの由来成分を含む溶融混合物であり、該溶融混練後に、公知の方法、例えば、溶融状態の樹脂組成物をストランド状に押出成形した後、ペレット、チップ、顆粒、粉末などの形態に加工してから、必要に応じて100~150℃の温度範囲で予備乾燥を施すことが好ましい。
【0050】
本開示の成形品はポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を成形してなる。本開示の成形品の製造方法は、前記ポリアリーレンスルフィド樹脂組成物を溶融成形する工程を有する。以下、詳述する。
【0051】
本開示のPAS樹脂組成物は、射出成形、ガスインジェクション成形、圧縮成形、コンポジット、シート、パイプなどの押出成形、引抜成形、ブロー成形、トランスファー成形など各種成形に供することが可能であるが、特に離形性にも優れるため射出成形用途に適している。射出成形にて成形する場合、各種成形条件は特に限定されず、通常一般的な方法にて成形することができる。例えば、射出成形機内で、樹脂温度がPAS樹脂の融点以上の温度範囲、好ましくは該融点+10℃以上の温度範囲、より好ましくは融点+10℃~融点+100℃の温度範囲、さらに好ましくは融点+20~融点+50℃の温度範囲で前記PAS樹脂組成物を溶融する工程を経た後、樹脂吐出口よりを金型内に注入して成形すればよい。その際、金型温度も公知の温度範囲、例えば、室温(23℃)~300℃、好ましくは120~180℃に設定すればよい。
【0052】
本開示のPAS樹脂組成物の成形品としては、例えば、耐水性、耐薬品性、耐熱性、防錆性、機械的強度、及び寸法安定性に優れることから、ギヤ及び当該樹脂製のギヤを複数備えるギヤボックスが示される。
【0053】
(成形品としてのギヤ機構)
以下では、添付図面を参照しながら本開示の一実施形態について主に説明する。
【0054】
(第1実施形態)
図1は、本開示の第1実施形態に係るギヤ機構10の外観を示す模式図である。
図2は、
図1のギヤ機構10の内部を模式的に示す透視図である。
図1及び
図2を参照しながら、第1実施形態に係るギヤ機構10の構成について主に説明する。
【0055】
ギヤ機構10は、ギヤ100を複数内蔵するギヤボックスBを有する。ギヤボックスBは、複数のギヤ100を有する。より具体的には、ギヤボックスBは、互いに噛み合って連動する第1ギヤ100a及び第2ギヤ100bを有する。第1ギヤ100a及び第2ギヤ100bは、共に任意の形状で形成されていてもよい。
図2では、第1ギヤ100a及び第2ギヤ100bは、一例として共に平歯車として形成されている。以下では、第1ギヤ100aと第2ギヤ100bとを互いに区別しないときは、まとめて「ギヤ100」と記載する。
【0056】
ギヤ100は、スーパーエンジニアリングプラスチックからなる群から選択される少なくとも1種の第1樹脂を含有する。第1樹脂は、例えばポリフェニレンスルフィド(PPS)樹脂などのPAS樹脂を含む。
【0057】
ギヤボックスBは、複数のギヤ100の各々に取り付けられているシャフト110を有する。例えば、ギヤボックスBは、第1ギヤ100aに取り付けられている第1シャフト110aを有する。例えば、ギヤボックスBは、第2ギヤ100bに取り付けられている第2シャフト110bを有する。以下では、第1シャフト110aと第2シャフト110bとを互いに区別しないときは、まとめて「シャフト110」と記載する。
【0058】
シャフト110は、その中心軸回りに回転してシャフト110が取り付けられているギヤ100を回転させる。互いに噛み合って連動する第1ギヤ100a及び第2ギヤ100bの回転に伴って、第1シャフト110a及び第2シャフト110bもそれぞれ回転する。
【0059】
ギヤボックスBは、シャフト110をシャフト110の中心軸回りに回転可能に支持する第1ハウジング120を有する。第1ギヤ100a及び第2ギヤ100bを含む複数のギヤ100は、第1ハウジング120内で連動する。
【0060】
シャフト110及び第1ハウジング120の少なくとも一方は、スーパーエンジニアリングプラスチックからなる群から選択される少なくとも1種の第2樹脂を含有する。第2樹脂は、例えばPPS樹脂などのPAS樹脂を含む。
【0061】
ギヤ機構10は、ギヤ100に対して作用する液剤が流れる流路Fを有する。本開示において、「液剤」は、例えばアルコールなどの洗浄液及び水などの冷却液の少なくとも一方を含む。流路Fは、液剤がギヤ100に対して触れて直接作用するように液剤を流す。例えば、流路Fは、ギヤボックスBの内部に位置するギヤ100に洗浄液が直接触れてギヤ100を洗浄するように洗浄液を流す。例えば、流路Fは、ギヤボックスBの内部に位置するギヤ100に冷却液が直接触れてギヤ100を冷却するように冷却液を流す。
【0062】
流路Fは、液剤を第1ハウジング120の内部へと導く第1流入管130aを有する。第1流入管130aは、例えばホースであってもよい。流路Fは、第1ハウジング120に形成され、第1流入管130aが接続されている第1流入口140aを有する。第1流入口140aは、例えば第1ハウジング120の上面に取り付けられている。第1流入口140aは、第1流入管130aの内部を流れてきた液剤を第1ハウジング120の内部へと導く。
【0063】
流路Fは、第1流入口140aから第1ハウジング120の内部に流入してギヤ100に触れた液剤を第1ハウジング120の内部から外部へと排出する第1排出口140bを有する。第1排出口140bは、例えば第1ハウジング120の下面に取り付けられている。第1排出口140bは、第1ハウジング120の内部で拡散した液剤を第1ハウジング120の外部へと導く。流路Fは、第1排出口140bに接続されている第1排出管130bを有する。第1排出管130bは、例えばホースであってもよい。第1排出管130bは、液剤を第1ハウジング120の外部へと導く。
【0064】
(効果)
以上のような第1実施形態に係るギヤ機構10によれば、液剤に対する耐性が向上する。本開示において、「耐性」は、例えば耐水性及び耐薬品性などを含む。ギヤ機構10では、ギヤ100は、スーパーエンジニアリングプラスチックからなる群から選択される少なくとも1種の第1樹脂を含有する。これにより、ギヤ機構10は、例えばギヤ100における耐水性及び耐薬品性を向上させることができる。したがって、ギヤ機構10は、液剤をギヤ100に対して直接作用させることが可能となる。例えば、ギヤ機構10は、アルコールなどの洗浄液でギヤ100を直接洗浄することも可能にする。例えば、ギヤ機構10は、水などの冷却液でギヤ100を直接冷却することも可能にする。
【0065】
例えば、金属製のギヤ及び他の樹脂製のギヤを含む従来のギヤは、耐水性及び耐薬品性に劣る。したがって、従来は、洗浄液及び冷却液を含む液剤をギヤに直接作用させることに対して消極的であった。むしろ、液剤がギヤに作用しないように、液剤を防ぐ保護カバーでギヤが位置する内部空間を密閉する構造をギヤ機構に採用するのが通常であった。この場合、ギヤのメンテナンスが必要になっても、保護カバーを分解してその内部にあるギヤを調整することが困難であるか、又は不可能であった。
【0066】
第1樹脂を含有するギヤ100は、例えば耐水性及び耐薬品性を向上させることが可能である。したがって、ギヤ機構10は、ギヤ100に対して液剤を直接作用させてもその劣化を抑制可能である。
【0067】
流路Fは、液剤がギヤ100に対して触れて直接作用するように液剤を流す。これにより、ギヤ機構10は、汚染されたギヤ100を洗浄液で直接洗浄することも可能であるし、加熱されたギヤ100を冷却液で直接冷却することも可能である。ギヤ機構10は、ギヤ100に対して液剤を直接作用させることで、洗浄機能及び冷却機能などを含む液剤による機能をより効果的に発揮させることができる。
【0068】
ギヤ機構10は、液剤が洗浄液及び冷却液の少なくとも一方を含むことで、ギヤ100に対する洗浄機能及び冷却機能の少なくとも一方を提供することが可能である。
【0069】
ギヤ100は、第1樹脂がPAS樹脂であることで、他の樹脂よりも耐水性及び耐薬品性に優れる。ギヤ100は、第1樹脂がPAS樹脂であることで、他の樹脂よりも吸水による膨張、膨潤、及び薬品による材料劣化を抑制可能である。したがって、ギヤ機構10は、ギヤ100に対して液剤を直接作用させてもその劣化を抑制し、性能低下を抑制することが可能である。ギヤ100は、例えば洗浄液によって洗浄されたり、冷却液によって冷却されたりしても、劣化を抑制可能である。
【0070】
加えて、PAS樹脂製のギヤ100は、金属製のギヤと比較して密度が小さく、射出成形による大量生産を可能にする。ギヤ100は、樹脂であることで、金属製のギヤと比較して錆の発生を抑制可能である。ギヤ100は、防錆性に優れる。
【0071】
ギヤ機構10は、ギヤボックスBを有することで、ギヤボックスBの内部で連動する複数のギヤ100を外部から保護可能である。
【0072】
流路Fは、第1流入管130aと、第1流入口140aと、第1排出口140bと、を有する。これにより、ギヤ機構10は、ギヤボックスBの内部で連動する複数のギヤ100を第1ハウジング120で外部から保護した状態であっても、複数のギヤ100に液剤を直接作用させることが可能である。
【0073】
シャフト110及び第1ハウジング120の少なくとも一方が第2樹脂を含有することで、ギヤ機構10は、シャフト110及び第1ハウジング120の少なくとも一方における耐水性及び耐薬品性を向上させることができる。したがって、ギヤ機構10は、シャフト110及び第1ハウジング120の少なくとも一方に対して液剤を直接作用させることが可能となる。例えば、ギヤ機構10は、シャフト110及び第1ハウジング120の少なくとも一方をアルコールなどの洗浄液で直接洗浄することも可能にする。例えば、ギヤ機構10は、シャフト110及び第1ハウジング120の少なくとも一方を水などの冷却液で直接冷却することも可能にする。ギヤ機構10は、シャフト110及び第1ハウジング120の少なくとも一方に対して液剤を直接作用させてもその劣化を抑制可能である。
【0074】
シャフト110及び第1ハウジング120の少なくとも一方は、第2樹脂がPAS樹脂であることで、耐水性及び耐薬品性に優れる。したがって、ギヤ機構10は、シャフト110及び第1ハウジング120の少なくとも一方に対して液剤を直接作用させてもその劣化を抑制可能である。シャフト110及び第1ハウジング120の少なくとも一方は、例えば洗浄液によって洗浄されたり、冷却液によって冷却されたりしても、劣化を抑制可能である。
【0075】
(変形例)
上記第1実施形態では、流路Fは、液剤がギヤ100に対して触れて直接作用するように液剤を流すと説明したが、これに限定されない。流路Fは、液剤がギヤ100に対して直接触れずに間接的に作用するように液剤を流してもよい。例えば、流路Fは、ギヤボックスBの第1ハウジング120の外面に沿って冷却液が流れ、第1ハウジング120を介してその内部に位置するギヤ100を間接的に冷却するように冷却液を流してもよい。
【0076】
上記第1実施形態では、液剤は、洗浄液及び冷却液の少なくとも一方を含むと説明したが、これに限定されない。液剤は、洗浄液及び冷却液の少なくとも一方に代えて、又は加えて、洗浄機能及び冷却機能以外の任意の他の機能をギヤ100に対して発揮する任意の他の液体を含んでもよい。
【0077】
上記第1実施形態では、第1樹脂は、PAS樹脂であると説明したが、これに限定されない。第1樹脂は、ギヤ100において液剤に対する耐性が向上する任意の他の樹脂であってもよい。例えば、第1樹脂は、融点が260℃以上、好ましくは260~390℃の範囲の、いわゆるスーパーエンジニアリングプラスチックからなる群から選択されてもよい。より具体的には、第1樹脂は、ポリアミド6T(6T-ナイロン)、ポリアミド9T(9T-ナイロン)などの芳香族骨格を有するポリアミドなど融点が260℃以上、好ましくは260~310℃の範囲であるポリアミドや、融点が300~390℃の範囲である、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)といったアリーレン基をエーテル基乃至ケトン基で結合した構造を有する芳香族ポリエーテルケトン(PAEK)や、さらに、パラヒドロキシ安息香酸を骨格中に有する融点が300℃以上、好ましくは300℃~熱分解温度(380℃)未満である液晶ポリマーなどからなる群から選択されてもよい。
【0078】
上記第1実施形態では、ギヤ機構10は、ギヤボックスBを有すると説明したが、これに限定されない。ギヤ機構10は、ギヤボックスBを有さなくてもよい。ギヤ機構10は、第1樹脂を含有するギヤ100を第1ハウジング120などの筐体で外側から囲むことなく完全に露出した状態で有していてもよい。このとき、流路Fは、完全に露出したギヤ100に対し液剤が触れて直接作用するように液剤を流してもよい。以上により、ギヤ機構10における部品数が低減し、ギヤ機構10の製造コスト及び重量が抑制される。
【0079】
上記第1実施形態では、流路Fは、第1流入管130aと、第1流入口140aと、第1排出口140bと、を有すると説明したが、これに限定されない。流路Fは、ギヤ100に対して直接的に又は間接的に液剤が作用するように液剤を流す任意の構成を有してもよい。
【0080】
上記第1実施形態では、シャフト110及び第1ハウジング120の少なくとも一方は、スーパーエンジニアリングプラスチックからなる群から選択される少なくとも1種の第2樹脂を含有すると説明したが、これに限定されない。シャフト110及び第1ハウジング120の少なくとも一方は、任意の他の樹脂を含有してもよいし、金属を含有してもよい。
【0081】
上記第1実施形態では、第2樹脂は、PAS樹脂であると説明したが、これに限定されない。第2樹脂は、任意の他の樹脂であってもよい。例えば、第2樹脂は、融点が260℃以上、好ましくは260~390℃の範囲の、いわゆるスーパーエンジニアリングプラスチックからなる群から選択されてもよい。より具体的には、第2樹脂は、ポリアミド6T(6T-ナイロン)、ポリアミド9T(9T-ナイロン)などの芳香族骨格を有するポリアミドなど融点が260℃以上、好ましくは260~310℃の範囲であるポリアミドや、融点が300~390℃の範囲である、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルケトン(PEK)、ポリエーテルケトンケトン(PEKK)、ポリエーテルエーテルケトンケトン(PEEKK)、ポリエーテルケトンエーテルケトンケトン(PEKEKK)といったアリーレン基をエーテル基乃至ケトン基で結合した構造を有する芳香族ポリエーテルケトン(PAEK)や、さらに、パラヒドロキシ安息香酸を骨格中に有する融点が300℃以上、好ましくは300℃~熱分解温度(380℃)未満である液晶ポリマーなどからなる群から選択されてもよい。
【0082】
上記第1実施形態では、流路Fは、第1流入管130a及び第1流入口140aを1組のみ有しているが、これに限定されない。流路Fは、第1流入管130a及び第1流入口140aを複数組有してもよい。
【0083】
上記第1実施形態では、流路Fは、第1排出管130b及び第1排出口140bを1組のみ有しているが、これに限定されない。流路Fは、第1排出管130b及び第1排出口140bを複数組有してもよい。
【0084】
上記第1実施形態では、ギヤボックスBは、汚れが付着して洗浄を必要とする素材で被覆されているか、又は当該素材と第2樹脂とが複合化されていてもよい。より具体的には、ギヤボックスBの第1ハウジング120は、汚れが付着して洗浄を必要とする素材で被覆されているか、又は当該素材と第2樹脂とが複合化されていてもよい。本開示において、「汚れが付着して洗浄を必要とする素材」は、例えば人工皮革及び布などを含んでもよい。
【0085】
上記第1実施形態では、ギヤ機構10は、第1ギヤ100a及び第2ギヤ100bの2つのギヤ100を有すると説明したが、これに限定されない。ギヤ機構10は、3つ以上のギヤ100を有してもよい。同様に、ギヤ機構10は、3つ以上のシャフト110を有してもよい。
【0086】
上記第1実施形態では、
図2に示すとおり、第1ギヤ100aが大きく、第2ギヤ100bが小さくなるように形成されているが、これに限定されない。ギヤのサイズは逆であってもよいし、第1ギヤ100aと第2ギヤ100bとの間でサイズが同一であってもよい。
【0087】
(第2実施形態)
図3は、本開示の第2実施形態に係るギヤ機構10の構成を示す模式図である。
図2を参照しながら、第2実施形態に係るギヤ機構10の構成について主に説明する。
【0088】
第2実施形態に係るギヤ機構10では、第1ハウジング120及び流路Fの構成が第1実施形態と相違する。その他の構成、機能、効果、及び変形例などについては、第1実施形態と同様であり、対応する説明が第2実施形態に係るギヤ機構10にも当てはまる。以下では、第1実施形態と同様の構成部については同一の符号を付し、その説明を省略する。第1実施形態と異なる点について主に説明する。
【0089】
上記第1実施形態では、第1ハウジング120は、筐体のように構成され、第1ハウジング120の内部に位置するギヤ100を外部から完全に覆っているが、これに限定されない。第1ハウジング120は、メッシュ構造で形成されていてもよく、ギヤ100が位置する内部空間を完全に密閉していなくてもよい。
【0090】
このとき、流路Fは、液剤がギヤ100に対して触れて直接作用するように液剤を流す。例えば、流路Fは、第1流入管130aの先端から液剤を拡散させてギヤ100に噴射するように液剤を流す。例えば、流路Fは、ギヤボックスBの内部に位置するギヤ100に洗浄液を直接噴射してギヤ100を洗浄するように洗浄液を流す。例えば、流路Fは、ギヤボックスBの内部に位置するギヤ100に冷却液を直接噴射してギヤ100を冷却するように冷却液を流す。
【0091】
(変形例)
上記第2実施形態では、流路Fは、第1流入管130aを1つのみ有しているが、これに限定されない。流路Fは、第1流入管130aを複数有してもよい。
【0092】
(第3実施形態)
図4は、本開示の第3実施形態に係るギヤ機構10の構成を示す模式図である。
図4を参照しながら、第3実施形態に係るギヤ機構10の構成について主に説明する。
【0093】
第3実施形態に係るギヤ機構10は、ギヤ100を囲むギヤボックスBの第1ハウジング120aに加えて、ギヤボックスBをさらに囲む第2ハウジング120bを有する点で、第1実施形態及び第2実施形態と相違する。その他の構成、機能、効果、及び変形例などについては、第1実施形態と基本的には同様であり、対応する説明が第3実施形態に係るギヤ機構10にも当てはまる。以下では、第1実施形態と同様の構成部については同一の符号を付し、その説明を省略する。第1実施形態と異なる点について主に説明する。
【0094】
ギヤ機構10は、ギヤボックスBを囲む第2ハウジング120bをさらに有する。第2ハウジング120bは、第1ハウジング120aと同様に筐体として構成され、内部に位置するギヤボックスBを外部から完全に覆う。第2ハウジング120bは、ギヤボックスBが位置する内部空間を完全に密閉する。
【0095】
流路Fは、液剤がギヤボックスBに対して触れて直接作用するように液剤を流す。例えば、流路Fは、第2ハウジング120bの内部に位置するギヤボックスBに洗浄液が直接触れてギヤボックスBを洗浄するように洗浄液を流す。例えば、流路Fは、第2ハウジング120bの内部に位置するギヤボックスBに冷却液が直接触れてギヤボックスBを冷却するように冷却液を流す。このとき、流路Fは、液剤がギヤ100に対して直接触れずに間接的に作用するように液剤を流す。例えば、流路Fは、ギヤボックスBの第1ハウジング120aの外面に沿って冷却液が流れ、第1ハウジング120aを介してその内部に位置するギヤ100を間接的に冷却するように冷却液を流す。
【0096】
流路Fは、液剤を第2ハウジング120bの内部へと導く第2流入管130cを有する。第2流入管130cは、例えばホースであってもよい。流路Fは、第2ハウジング120bに形成され、第2流入管130cが接続されている第2流入口140cを有する。第2流入口140cは、例えば第2ハウジング120bの上面に取り付けられている。第2流入口140cは、第2流入管130cの内部を流れてきた液剤を第2ハウジング120bの内部へと導く。
【0097】
流路Fは、第2流入口140cから第2ハウジング120bの内部に流入してギヤボックスBに触れた液剤を第2ハウジング120bの内部から外部へと排出する第2排出口140dを有する。第2排出口140dは、例えば第2ハウジング120bの下面に取り付けられている。第2排出口140dは、第2ハウジング120bの内部で拡散した液剤を第2ハウジング120bの外部へと導く。流路Fは、第2排出口140dに接続されている第2排出管130dを有する。第2排出管130dは、例えばホースであってもよい。第2排出管130dは、液剤を第2ハウジング120bの外部へと導く。
【0098】
ギヤボックスBは、ギヤ機構10において着脱可能に構成される。ギヤボックスBは、例えば螺合、嵌合、及び係合などにより第2ハウジング120bの内部に対し着脱可能となるように構成される。
【0099】
(効果)
流路Fは、第2流入管130cと、第2流入口140cと、第2排出口140dと、を有する。これにより、ギヤ機構10は、第2ハウジング120bの内部に位置するギヤボックスBを第2ハウジング120bで外部から保護した状態であっても、ギヤボックスBに液剤を直接作用させることが可能である。
【0100】
ギヤボックスBがギヤ機構10において着脱可能に構成されることで、ギヤボックスBをギヤ機構10から取り外した状態で、ギヤボックスB及びその内部に含まれるギヤ100などに液剤を作用させることが可能となる。例えば、作業者は、ギヤボックスB及びその内部に含まれるギヤ100などの洗浄を、ギヤボックスBをギヤ機構10から取り外して容易に行うことができる。例えば、作業者は、ギヤボックスB及びその内部に含まれるギヤ100などの冷却を、ギヤボックスBをギヤ機構10から取り外して容易に行うことができる。
【0101】
(変形例)
上記第3実施形態では、流路Fは、液剤がギヤボックスBに対して触れて直接作用するように液剤を流すと説明したが、これに限定されない。流路Fは、液剤がギヤボックスBに対して直接触れずに間接的に作用するように液剤を流してもよい。例えば、流路Fは、第2ハウジング120bの外面に沿って冷却液が流れ、第2ハウジング120bを介してその内部に位置するギヤボックスBを間接的に冷却するように冷却液を流してもよい。
【0102】
上記第3実施形態では、流路Fは、第2流入管130cと、第2流入口140cと、第2排出口140dと、を有すると説明したが、これに限定されない。流路Fは、ギヤボックスBに対して直接的に又は間接的に液剤が作用するように液剤を流す任意の構成を有してもよい。
【0103】
上記第3実施形態では、流路Fは、第2流入管130c及び第2流入口140cを1組のみ有しているが、これに限定されない。流路Fは、第2流入管130c及び第2流入口140cを複数組有してもよい。
【0104】
上記第3実施形態では、流路Fは、第2排出管130d及び第2排出口140dを1組のみ有すると説明したが、これに限定されない。流路Fは、第2排出管130d及び第2排出口140dを複数組有してもよい。
【0105】
上記第3実施形態では、ギヤボックスBは、ギヤ機構10において着脱可能に構成されると説明したが、これに限定されない。ギヤボックスBは、ギヤ機構10において着脱不可能に構成されていてもよい。例えば、ギヤボックスBは、第2ハウジング120bの内部で、一体成形及び接着などにより第2ハウジング120bに対し着脱不可能となるように構成されてもよい。
【0106】
(第4実施形態)
図5は、本開示の第4実施形態に係るギヤ機構10の構成を示す模式図である。
図5を参照しながら、第4実施形態に係るギヤ機構10の構成について主に説明する。
【0107】
第4実施形態に係るギヤ機構10では、第2ハウジング120b及び流路Fの構成が第3実施形態と相違する。その他の構成、機能、効果、及び変形例などについては、第3実施形態と同様であり、対応する説明が第4実施形態に係るギヤ機構10にも当てはまる。以下では、第3実施形態と同様の構成部については同一の符号を付し、その説明を省略する。第3実施形態と異なる点について主に説明する。
【0108】
上記第3実施形態では、第2ハウジング120bは、筐体のように構成され、第2ハウジング120bの内部に位置するギヤボックスBを外部から完全に覆っているが、これに限定されない。第2ハウジング120bは、メッシュ構造で形成されていてもよく、ギヤボックスBが位置する内部空間を完全に密閉していなくてもよい。
【0109】
このとき、流路Fは、液剤がギヤボックスBに対して触れて直接作用するように液剤を流す。例えば、流路Fは、第2流入管130cの先端から液剤を拡散させてギヤボックスBに噴射するように液剤を流す。例えば、流路Fは、第2ハウジング120bの内部に位置するギヤボックスBに洗浄液を直接噴射してギヤボックスBを洗浄するように洗浄液を流す。例えば、流路Fは、第2ハウジング120bの内部に位置するギヤボックスBに冷却液を直接噴射してギヤ100を冷却するように冷却液を流す。
【0110】
(変形例)
上記第4実施形態では、流路Fは、第2流入管130cを1つのみ有しているが、これに限定されない。流路Fは、第2流入管130cを複数有してもよい。
【0111】
(ロボット用アーム機構)
以上のような第1実施形態乃至第4実施形態に係るギヤ機構10は、任意の機械に用いることができる。例えば、ギヤ機構10は、耐水性及び耐薬品性が必要とされるような任意の環境下で用いることができる。一例として、ギヤ機構10は、産業用ロボット、介護用ロボット、海洋ロボット、及び医療用ロボットなどのアーム、医療用途のアクチュエータ、水回り部品、自動車部品、並びにドローンの回転翼などに応用可能である。以下では、一例としてロボット、より具体的にはロボットアームにギヤ機構10が用いられるときの一実施形態について説明する。
【0112】
図6は、本開示の一実施形態に係るロボット用アーム機構1の構成を示す模式図である。
【0113】
ロボット用アーム機構1は、ギヤ機構10に加えて、例えばロボット本体などに接続される第1アームA1と、ロボット用アーム機構1の先端で稼働する部分を含む第2アームA2と、を有する。ロボット用アーム機構1は、第1アームA1と第2アームA2との間に位置する関節部Jにギヤ機構10を有する。
【0114】
ロボット用アーム機構1では、ギヤ機構10が動作することで、第2アームA2が関節部Jを支点として円運動する。ロボット用アーム機構1は、制御信号に基づいてギヤ機構10を駆動し、指定された位置へと第2アームA2の先端を移動させる。
【0115】
ロボット用アーム機構1は、ギヤ機構10を駆動するためのモーターMであって、防水性を有するモーターMを有する。例えば、モーターMは、ギヤ機構10の第1シャフト110a側の第1ギヤ100aを駆動側ギヤとして駆動する。モーターMにより駆動された第1ギヤ100aは、第2シャフト110b側の第2ギヤ100bを従動側ギヤとして、第2ギヤ100bに回転を伝える。
【0116】
ギヤ機構10及びモーターMを含むモジュールは、ロボット用アーム機構1において着脱可能に構成される。当該モジュールは、関節部Jにおいて、例えば螺合、嵌合、及び係合などにより着脱可能となるように構成される。
【0117】
ロボット用アーム機構1は、液剤を貯蔵し、ギヤ機構10の流路Fと接続されている貯蔵部Rをさらに有する。ギヤ機構10において流路Fを流れる液剤は、貯蔵部Rから供給される。
【0118】
ロボット用アーム機構1は、液剤によって濡れたギヤ機構10を乾燥させるためのヒータHをさらに有する。ヒータHは、ギヤ機構10に隣接するように配置され、電気を用いて熱を発生させる。ヒータHは、発生させた熱に基づいてギヤ機構10を加熱する。
【0119】
(効果)
ロボット用アーム機構1では、防水性を有するモーターMを有することで、ギヤ機構10と同様に液剤に対する耐性が向上する。したがって、ロボット用アーム機構1は、ギヤ機構10と共に、液剤をモーターMに対しても直接作用させることが可能となる。例えば、ロボット用アーム機構1は、ギヤ機構10と共に、アルコールなどの洗浄液でモーターMも直接洗浄することを可能にする。例えば、ロボット用アーム機構1は、ギヤ機構10と共に、水などの冷却液でモーターMも直接冷却することを可能にする。
【0120】
ロボット用アーム機構1は、液剤を貯蔵し、流路Fと接続されている貯蔵部Rを有することで、流路Fを用いてギヤ機構10に対し作用させる液剤の供給を外部から受けることなく、自装置内で液剤の供給を完結させることができる。これにより、ロボット用アーム機構1は、任意のタイミング及び任意の場所でギヤ機構10に対し液剤を作用させることができる。したがって、ロボット用アーム機構1の利便性が向上する。
【0121】
ロボット用アーム機構1は、ギヤ機構10を乾燥させるためのヒータHを有することで、ギヤ機構10の耐熱性を活かして、液剤が作用した後もギヤ機構10に残存する液剤を除去することができる。他の樹脂製のギヤを含む従来のギヤは、耐熱性に劣る。一方で、ギヤ100が第1樹脂を含有し、シャフト110及び第1ハウジング120の少なくとも一方が第2樹脂を含有することで、ロボット用アーム機構1に搭載されたギヤ機構10は、耐熱性を向上させることができる。例えば、ギヤ100は、第1樹脂がPAS樹脂であることで、他の樹脂よりも耐熱性に優れる。シャフト110及び第1ハウジング120の少なくとも一方は、第2樹脂がPAS樹脂であることで、他の樹脂よりも耐熱性に優れる。PAS樹脂製のギヤ100などは、他の樹脂よりもガラス転移点及び融点が高い。
【0122】
以上により、ロボット用アーム機構1は、ヒータHによってギヤ機構10を加熱しても、ギヤ機構10が耐熱性に優れることで、熱による材料の物性低下を抑制可能である。したがって、ロボット用アーム機構1は、ヒータHによってギヤ機構10を加熱してもその劣化を抑制し、性能低下を抑制することが可能である。
【0123】
ギヤ機構10及びモーターMを含むモジュールが、ロボット用アーム機構1において着脱可能に構成されることで、当該モジュールをロボット用アーム機構1から取り外した状態で、ギヤボックスB及びその内部に含まれるギヤ100、並びにモーターMなどに液剤を作用させることが可能となる。例えば、作業者は、これらの部品などの洗浄を、当該モジュールをロボット用アーム機構1から取り外して容易に行うことができる。例えば、作業者は、これらの部品などの冷却を、当該モジュールをロボット用アーム機構1から取り外して容易に行うことができる。
【0124】
(変形例)
図6では、ギヤ機構10はロボットのアーム機構に用いられているが、ギヤ機構10の用途はこれに限定されない。ギヤ機構10は、ロボットのアーム機構に加えて、又は代えて、任意の他の構成部に用いられてもよい。ロボットは、ギヤ100による駆動を必要とするような任意の構成部においてギヤ機構10を有してもよい。
【0125】
ロボット用アーム機構1においても、ギヤ機構10は、ギヤボックスBを有さなくてもよい。ギヤ機構10は、第1樹脂を含有するギヤ100を第1ハウジング120などの筐体で外側から囲むことなく完全に露出した状態で有していてもよい。このとき、流路Fは、完全に露出したギヤ100に対し液剤が触れて直接作用するように液剤を流してもよい。
【0126】
以上により、ロボット用アーム機構1において、ギヤ100を保護する部品が不要であるため、ギヤ機構10における部品数が低減し、ロボット用アーム機構1の製造コスト及び重量が抑制される。加えて、ロボット用アーム機構1においてギヤ100の洗浄及び冷却が容易となる。例えば、ロボット用アーム機構1の保護カバーなどを分解してギヤ100を露出させるといった作業が不要であり、洗浄及び冷却に関するメンテナンスが容易になる。
【0127】
上記実施形態では、ロボット用アーム機構1は、防水性を有するモーターMを有すると説明したが、これに限定されない。ロボット用アーム機構1のモーターMは、防水性を有さなくてもよい。
【0128】
上記実施形態では、ギヤ機構10及びモーターMを含むモジュールは、ロボット用アーム機構1において着脱可能に構成されると説明したが、これに限定されない。当該モジュールは、ロボット用アーム機構1において着脱不可能に構成されていてもよい。例えば、当該モジュールは、関節部Jにおいて、一体成形及び接着などにより着脱不可能となるように構成されてもよい。
【0129】
上記実施形態では、ロボット用アーム機構1は貯蔵部Rを有すると説明したが、これに限定されない。ロボット用アーム機構1は、貯蔵部Rを有さなくてもよい。このとき、ロボット用アーム機構1は、液剤の供給を、ロボット用アーム機構1の外部から受けてもよい。
【0130】
上記実施形態では、ロボット用アーム機構1はヒータHを有すると説明したが、これに限定されない。ロボット用アーム機構1は、ヒータHを有さなくてもよい。このとき、ロボット用アーム機構1は、ギヤ機構10の加熱を、ロボット用アーム機構1の外部から受けてもよい。ロボット用アーム機構1は、ヒータHに代えて、又は加えて、ドライヤのように温風を放出する加熱モジュールを有してもよい。
【0131】
本開示は、その精神又はその本質的な特徴から離れることなく、上述した実施形態以外の他の所定の形態で実現できることは当業者にとって明白である。したがって、先の記述は例示的であり、これに限定されない。開示の範囲は、先の記述によってではなく、付加した請求項によって定義される。あらゆる変更のうちその均等の範囲内にあるいくつかの変更は、その中に包含されるとする。
【0132】
例えば、上述した各構成部の形状、大きさ、配置、向き、及び個数などは、上記の説明及び図面における図示の内容に限定されない。各構成部の形状、大きさ、配置、向き、及び個数などは、その機能を実現できるのであれば、任意に構成されてもよい。
【符号の説明】
【0133】
1 ロボット用アーム機構
10 ギヤ機構
100 ギヤ
100a 第1ギヤ
100b 第2ギヤ
110 シャフト
110a 第1シャフト
110b 第2シャフト
120 第1ハウジング
120a 第1ハウジング
120b 第2ハウジング
130a 第1流入管(第1管)
130b 第1排出管
130c 第2流入管(第2管)
130d 第2排出管
140a 第1流入口
140b 第1排出口
140c 第2流入口
140d 第2排出口
A1 第1アーム
A2 第2アーム
B ギヤボックス
F 流路
H ヒータ
J 関節部
M モーター
R 貯蔵部