(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】水性インク及びインクジェット用インク
(51)【国際特許分類】
C09D 11/037 20140101AFI20240903BHJP
C09D 11/033 20140101ALI20240903BHJP
C09D 11/322 20140101ALI20240903BHJP
C09D 11/38 20140101ALI20240903BHJP
C09D 11/324 20140101ALI20240903BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20240903BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
C09D11/037
C09D11/033
C09D11/322
C09D11/38
C09D11/324
B41M5/00 120
B41J2/01 501
(21)【出願番号】P 2024522663
(86)(22)【出願日】2023-12-14
(86)【国際出願番号】 JP2023044771
【審査請求日】2024-04-16
(31)【優先権主張番号】P 2022208118
(32)【優先日】2022-12-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】合田 恵吾
(72)【発明者】
【氏名】鍋 卓哲
(72)【発明者】
【氏名】藤本 怜美
(72)【発明者】
【氏名】内藤 友理
【審査官】河村 明希乃
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-095088(JP,A)
【文献】特開平10-219165(JP,A)
【文献】国際公開第2004/061015(WO,A1)
【文献】特許第6443607(JP,B1)
【文献】国際公開第2000/004102(WO,A1)
【文献】特開2015-168792(JP,A)
【文献】特開平10-237349(JP,A)
【文献】特開2000-119571(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/54
B41M 5/00
B41J 2/00-2/525
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料分散体と、溶剤とを含有する水性インクであって、
前記顔料分散体中の顔料が、pHが3.5以下である酸性カーボンとカウンターイオンとしてのアルカリ金属イオン又はアンモニウムイオンから構成され、
フミン酸塩又はフミン酸塩誘導体とを含有し、
前記溶剤が、ハンセンの溶解度パラメーターの極性項が
3以上9以下であり、かつ水素結合項が
3以上18以下であり、大気圧下での沸点が150~223℃である溶剤の1種又は2種以上を含有する、水性インク。
【請求項2】
体積平均粒子径が前記顔料分散体中の顔料の体積平均粒子径より小さく、酸価が50mgKOH/g以下であるバインダーをさらに含む、請求項1に記載の水性インク。
【請求項3】
前記顔料分散体中の顔料の体積平均粒子径が150nm以上である、請求項1又は2に記載の水性インク。
【請求項4】
前記フミン酸塩又はフミン酸塩誘導体の含有量が、前記水性インクの全量に対して0.1質量%以上である、請求項1又は2に記載の水性インク。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の水性インクを含む、インクジェット用インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インク、及び該水性インクを含むインクジェット用インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を記録部材に直接吐出し、付着させて文字や画像を得る記録方式である。この方式は、使用する装置の騒音が小さく、操作性がよいという利点を有するのみならず、カラー化が容易であり、かつ記録部材として普通紙を使用できる利点を有するため、近年、オフィスや家庭での出力機として広く用いられている。
一方、産業用プリンターにおいても、インクジェット記録方式の技術向上により、デジタル印刷の出力機としての利用が期待され、一部ではアナログ印刷機からの置き換えが進んでいる。また、インクジェット記録方式用のインク(インクジェットインク)として、環境面への対応等の点から、従来の溶剤インク、UVインクに代わり、水性インクの需要が高まっている(例えば特許文献1参照)。
水性インクの印刷品質(印字品質)において、特に黒の発色については、高い光学濃度(高OD値)が求められる。特許文献2には、表面に存在する特定の水素含有官能基の総和量を所定量以上に改質したカーボンブラックを、水性媒体中に分液させた含水分散液にフミン酸塩類を添加混合して、分散液のpHを7~11に調整した、カーボンブラック含有水性顔料インキが開示されている。特許文献3には、フミン酸もしくはその誘導体、又はそれらの塩により吸着処理されたカーボンブラックを、水性の液体中に分散してなるインクジェット用記録液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-12226号公報
【文献】特開平11-199810号公報
【文献】特開平10-219165号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
カーボンブラックに含有されているフミン酸は、不定形高分子有機酸であり、分子量分布が広く、分子量が105以上の高分子量体も存在する。カーボンブラックが分散した状態のインクでは、時間の経過に伴い、フミン酸がインクを構成する溶媒に溶出又は析出することで分散不良を引き起こす要因となることが知られている。分散性の改善のため、特許文献2ではカーボンブラック表面の特定の官能基の調整を行い、特許文献3では高分子量のフミン酸もしくはその誘導体又はそれらの塩を除去しているが、分散安定性を確保する観点からのその効果や、高分子量のフミン酸を除去するプロセスが必要となるため生産性や費用の面からの課題があった。
【0005】
本発明の目的は、フミン酸を除去するプロセスを経なくとも、保存安定性に優れ、かつ印刷物の光学濃度(OD値)が良好な水性インクを提供することにある。
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、所定のカウンターアニオンで中和された特定の酸性カーボンと、フミン酸塩又はフミン酸塩誘導体と、特定の溶媒を所定の範囲で含有する水性インクにより、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記の態様を有する。
[1] 顔料分散体と、溶剤とを含有する水性インクであって、
前記顔料分散体中の顔料が、pHが3.5以下である酸性カーボンとカウンターイオンとしてのアルカリ金属イオン又はアンモニウムイオンから構成され、
フミン酸塩又はフミン酸塩誘導体とを含有し、
前記溶剤が、ハンセンの溶解度パラメーターの極性項が9以下であり、かつ水素結合項が18以下である溶剤の1種又は2種以上を含有する、水性インク。
[2] 体積平均粒子径が前記顔料分散体中の顔料の体積平均粒子径より小さく、酸価が50mgKOH/g以下であるバインダーをさらに含む、[1]に記載の水性インク。
[3] 前記顔料分散体中の顔料の体積平均粒子径が150nm以上である、[1]又は[2]に記載の水性インク。
[4] 前記フミン酸塩又はフミン酸塩誘導体の含有量が、前記水性インクの全量に対して0.1質量%以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の水性インク。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の水性インクを含む、インクジェット用インク。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、保存安定性に優れ、かつ印刷物の光学濃度(OD値)が良好な水性インクを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明は、顔料分散体と、溶剤とを含有する水性インクであって、
前記顔料分散体中の顔料が、pHが3.5以下である酸性カーボンとカウンターイオンとしてのアルカリ金属イオン又はアンモニウムイオンから構成され、
フミン酸塩又はフミン酸塩誘導体とを含有し、
前記溶剤が、ハンセンの溶解度パラメーターの極性項が9以下でありかつ水素結合項が18以下である溶剤の1種又は2種以上を含有する、水性インクである。
本発明の水性インクは、保存安定性に優れ、かつ印刷物の光学濃度(OD値)が良好である。以下、本発明の水性インクの各構成成分について説明する。
【0009】
本発明の水性インクを構成する顔料分散体は、pHが3.5以下である酸性カーボンと、カウンターイオンとしてのアルカリ金属イオン又はアンモニウムイオンから構成される顔料を含む。換言すれば、顔料分散体中においては、顔料として、酸性カーボンが所定のカウンターアニオンで中和された状態で存在する。
【0010】
酸性カーボンは、チャネルブラック法、ファーネスブラック法、アセチレンブラック法、コンタクト法又はサーマル法等の種々の方法で製造されたカーボンブラックを、オゾン酸化、次亜ハロゲン酸塩酸化、低温酸化プラズマ等の酸化処理を行って得られる。
酸性カーボンのpHは3.5以下であり、1.0~3.5の範囲が好ましく、2.0~3.0の範囲がより好ましい。なお、酸性カーボンのpHは、例えばJIS K 5101-17-1に記載の煮沸抽出法等によって測定できる。
酸性カーボンとして、市販品を用いることもでき、例えば「SPECIAL BLACK 4A」(ORION社製)、「HCF #2650、#2350」、「LFF MA8、MA100、MA220、MA230」(三菱ケミカル社製)が挙げられる。
【0011】
カウンターイオンとしてのアルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオンが挙げられる。カウンターイオンは、酸性カーボンの表面に存在する吸着水を維持して、本発明の水性インクの分散安定性を担保する観点から、水和力の小さいイオンが好ましく、カリウムイオン又はアンモニウムイオンがより好ましい。
かかるカウンターイオンは、顔料分散体の調製時に、中和剤として水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化アンモニウム(アンモニア水)を適時に添加することで分散体中に供給できる。
【0012】
顔料分散体中の顔料の体積平均粒子径は、150nm以上であるのが好ましく、150~300nmの範囲がより好ましく、160~250nmの範囲がさらに好ましい。
なお、顔料の体積平均粒子径は、例えば、レーザー散乱型粒径測定装置であるマイクロトラック社製のNanotrac Wave IIを用いて、ローディングインデックス値が1となるよう希釈倍率を調整し、測定時間180秒、繰返し測定回数3の条件により測定できる。
顔料分散体のpHは、10以下であるのが好ましく、7~9の範囲であるのがより好ましい。顔料分散体のpHは、前記した中和剤の添加量により調整できる。
【0013】
本発明の水性インクが含有するフミン酸塩又はフミン酸塩誘導体(ニトロフミン酸を含む)は、試薬又は工業的に製造される市販品として入手できる。
フミン酸塩としては、フミン酸の金属塩、アンモニウム塩、アミン塩等が挙げられる。中でも、フミン酸カリウム又はフミン酸アンモニウムが好ましい。
フミン酸塩誘導体としては、ニトロフミン酸リチウム、ニトロフミン酸カリウム、ニトロフミン酸アンモニウム等が挙げられる。
フミン酸塩又はフミン酸塩誘導体の含有量は、水性インクの全量に対して、0.05質量%以上であるのが好ましく、0.05~0.5質量%の範囲がより好ましく、0.05~0.3質量%の範囲がさらに好ましい。
なお、フミン酸含有量の測定は、例えば以下の手順により測定できる。
すなわち、水性インクを超遠心分離(20000rpm、10分)により顔料成分と上澄み液に分離し、上澄み液を取りだす。この上澄み液を分画分子量500kDのTFF限外ろ過カプセルを用いて、ろ液の量がろ過に供する上澄み液の初期量の5倍になるまで限外ろ過を実施する。限外ろ過を実施した上澄み液を、さらに限外ろ過を行うことにより濃縮し、最終的に80℃の乾燥機で溶媒を留去する。得られた乾固物の固体NMR(13C)を測定してフミン酸のリファレンススペクトルとの比較で同定を行い、合わせて乾固物の質量測定によりフミン酸を定量する。
【0014】
本発明の水性インクでは、必要に応じて、ブラックインクに使用可能な顔料を使用してもよい。ブラックインクに使用可能な顔料(ブラック顔料)としては、例えば、C.I.ピグメントブラック1、6、7、8、10、26、27、28等が挙げられる。中でも、C.I.ピグメントブラック7が好ましい。
ブラック顔料の具体例としては、三菱化学社製のNo.2300、No.2200B、No.900、No.960、No.980、No.33、No.40、No,45、No.45L、No.52、HCF88、MA7、MA8、MA100等;コロンビア社製のRaven5750、Raven5250、Raven5000、Raven3500、Raven1255、Raven700等;キャボット社製のRegal 400R、Regal 330R、Regal 660R、Mogul L、Mogul 700、Monarch800、Monarch880、Monarch900、Monarch1000、Monarch1100、Monarch1300、Monarch1400等;デグサ社製のColor Black FW1、同FW2、同FW2V、同FW18、同FW200、同S150、同S160、同S170、Printex 35、同U、同V、同1400U、Special Black 6、同5、同4、同4A、NIPEX150、NIPEX160、NIPEX170、NIPEX180等が挙げられる。
【0015】
分散安定性に優れた水性インクを得る観点から、顔料には、水及び水以外の溶媒成分中で安定して分散できる手段が講じられていることが好ましい。
【0016】
例えば、顔料の表面には、分散性付与基(親水性官能基及び/又はその塩)又は分散性付与基を有する活性種が、直接又はアルキル基、アルキルエーテル基、アリール基等を介して間接的に結合(グラフト)されていてよい。このような自己分散型顔料は、例えば、真空プラズマ処理、次亜ハロゲン酸及び/又は次亜ハロゲン酸塩による酸化処理、オゾンによる酸化処理等による方法や、水中で酸化剤により顔料表面を酸化する湿式酸化法、p-アミノ安息香酸を顔料表面に結合させることによりフェニル基を介してカルボキシ基を結合させる方法等によって製造できる。
自己分散型顔料を用いる場合、後述する顔料分散樹脂が不要となることから、顔料分散樹脂に起因する発泡等を抑制でき、吐出安定性に優れた水性インクが得られやすい。また、顔料分散樹脂に起因する粘度上昇を抑制できるため顔料の含有量を高められ、印字濃度の高い印刷物を製造しやすくなる。
【0017】
自己分散型顔料として市販品を用いてもよい。工業的に製造され市販されている自己分散型顔料としては、例えばマイクロジェットCW-1、BONJET BLACK CW-1、BONJET BLACK CW-1S、BONJET BLACK CW-2、BONJET BLACK CW-3(以上商品名;オリヱント化学工業社製)、CAB-O-JET200、CAB-O-JET300(以上商品名;キヤボット社製) 、SENSIJET Black SDP100、SENSIJET Black SDP1000、SENSIJET Black SDP2000(以上商品名:Sensient Technologies社製)等が挙げられる。
【0018】
また、顔料分散樹脂を表面に吸着させ、立体障害または静電反発力により、顔料である酸性カーボンを水及び水以外の溶媒成分中に分散安定化させてもよい。顔料分散樹脂は、後述するバインダーとは異なり、顔料の表面に吸着または前記顔料の表面の一部または全部を被覆した状態で存在する。顔料分散樹脂を使用する場合、顔料分散樹脂は本発明の水性インクの固形分に相当する。
【0019】
顔料分散樹脂としては、例えばポリビニルアルコール類、ポリビニルピロリドン類、アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体などのアクリル樹脂、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、スチレン-メタクリル酸-アクリル酸エステル共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-α-メチルスチレン-アクリル酸-アクリル酸エステル共重合体などのスチレン-アクリル樹脂、スチレン-マレイン酸共重合体、スチレン-無水マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン-アクリル酸共重合体の水性樹脂、及び前記水性樹脂の塩が挙げられる。
顔料分散樹脂としては市販品を使用でき、例えば味の素ファインテクノ社製の「アジスパー(登録商標)」PBシリーズ、ビックケミー社製の「DISPER(登録商標)BYK」シリーズ、BASF社製の「EFKA(登録商標)」シリーズ、日本ルーブリゾール社製の「SOLSPERSE(登録商標)」シリーズ、エボニック社製の「TEGO(登録商標)Dispers」シリーズ等が挙げられる。また、顔料分散樹脂として、WO2018/190139号においてポリマー(G)として例示された化合物を用いることもできる。これら顔料分散樹脂は、顔料分散後に架橋剤で架橋処理を施してもよい。
顔料分散樹脂を用いる場合、その量は、顔料に対して5~200質量%の範囲が好ましく、5~100質量%の範囲がより好ましい。
【0020】
本発明の水性インクにおける顔料の含有量は、充分な印字濃度を確保する観点から、水性インクの全量に対して、2質量%以上が好ましく、4質量%以上がより好ましい。顔料の含有量は、飛行曲がりによって発生する被記録媒体上の着弾位置のズレを低減する観点から、水性インクの全量に対して、10質量%以下が好ましく、8質量%以下がより好ましい。これらの観点から、顔料の含有量は、水性インクの全量に対して、2~10質量%が好ましく、4~8質量%がより好ましい。
【0021】
本発明の水性インクは、ハンセンの溶解度パラメーター(HSP)の極性項(δP)が9以下であり、かつ水素結合項(δH)が18以下である溶剤の1種又は2種以上を含有する。かかる溶剤の含有量は、水性インクの全量に対して0.1質量%以上4.0質量%未満の範囲であるのが好ましく、0.3~3.5質量%の範囲がより好ましく、0.3~3.0質量%の範囲がさらに好ましい。
【0022】
本発明の水性インクは、上記した所定カウンターイオンで中和された特定の酸性カーボンで構成される顔料を含む顔料分散体、及び上記した特定の溶剤を含有するため、フミン酸塩又はフミン酸誘導体が共存する場合も、顔料の凝集が抑制され、かつ顔料表面の濡れ性を高めることが可能となり、分散安定性に優れると考えられる。したがって、フミン酸の除去プロセスを経ることなく、保存安定性に優れかつ印刷物の光学濃度(OD値)を高められたと推定される。
【0023】
ここで、ハンセン(Hansen)の溶解度パラメーターとは、ヒルデブランド(Hildebrand)によって導入された溶解度パラメーター(SP値:δ)を、分散項δD、極性項δP、及び水素結合項δHの3成分に分割して3次元空間に表した、物質の極性を考慮したパラメーターであり、下記式の関係が成り立つ。
δ[(cal/cm3)0.5]]=(δD
2+δP
2+δH
2)0.5
上記の分散項δD、極性項δP、及び水素結合項δHは、ハンセン及びその後の研究者によって多数求められており、例えばPolymer Handbook(4th edition)のVII-698~711に掲載されている。また、多くの溶媒や樹脂に関するHansenの溶解度パラメーターが調べられており、例えばIndustrial Solvents Handbook(Wesley L.Archer著)にこれらの溶解度パラメーターが記載されている。また、Hansen Solubility Parameters in Practice(HSPiP)のソフトウェアを用いて求めることもできる。
【0024】
かかる溶剤のHSPの極性項は3以上9以下であるのが好ましく、4以上7以下であるのがより好ましい。また、溶剤のHSPの水素結合項は3以上18以下であるのが好ましく、4以上17.5以下であるのがさらに好ましい。溶剤のHSPの極性項及び水素結合項が共に前記した範囲を満足すると、上記した、所定のカウンターイオンで中和された特定の酸性カーボンで構成される顔料との相互作用がより発揮されて、本発明の水性インクにおける顔料表面の濡れ性がより向上すると考えられ、フミン酸塩又はフミン酸塩誘導体が共存する場合であっても、分散安定性に優れる。
溶剤の大気圧下での沸点は、本発明の水性インクの吐出安定性、及びインクジェットヘッドの吐出ノズルにおけるインクジェット用インクの乾燥を防止する観点から、150℃以上が好ましく、150℃~350℃の範囲がより好ましい。
このような溶剤としては、例えば3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール(δP=6.3、δH=12.9、沸点174℃)、3-メトキシ-1-ブタノール(δP=5.4、δH=13.6、沸点158℃)、1,2-ヘキサンジオール(δP=6.6、δH=17.1、沸点223℃)等が挙げられる。
【0025】
本発明の水性インク、また上記した顔料分散体が含有する水としては、イオン交換水、限外濾過水、逆浸透水、蒸留水等の、イオン性不純物等の不純物が極力除去された、純水又は超純水が好ましい。水は、紫外線照射又は過酸化水素添加等により滅菌されていてもよい。
水の含有量は、印刷後に被記録媒体の表面ですみやかに乾燥できる性質(乾燥性)及び吐出安定性の観点から、水性インクの全量に対して30~90質量%の範囲であるのが好ましく、40~80質量%の範囲がより好ましい。
【0026】
本発明の水性インクは、水、上記した溶剤以外の他の溶媒を含有してもよい。他の溶媒は、水、上記した溶剤と混和することが好ましい。他の溶媒は、本発明の水性インクの粘度を調節する役割、インクジェット印刷法で印刷する際の吐出安定性を一層向上させる役割、インクジェットヘッドの吐出ノズルにおけるインクジェット用インクの乾燥を防止する役割、上記した乾燥性を調節する役割、等を有することができる。
【0027】
他の溶媒としては、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、分子量2000以下のポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、イソプロピレングリコール、イソブチレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、メソエリスリトール、ペンタエリスリトール、グリセリン等が挙げられる。中でも、沸点が180~300℃の範囲の溶媒が好ましく、プロピレングリコール又はグリセリンがより好ましい。また、他の溶媒として、プロピレングリコール及びグリセリンを併用すると、水性インク中での顔料の凝集や沈殿が起こりにくくなり、分散安定性を維持しつつ所望の粘度に調整でき、インクジェット印刷法で印刷する際の吐出安定性の向上、印刷後のインクの乾燥性の向上を図りやすい観点で好ましい。
他の溶媒の含有量は、水性インクの全量に対して、0.1~35質量%の範囲が好ましく、15~35質量%の範囲がより好ましい。
【0028】
本発明の水性インクは、さらにバインダーを含有していてもよく、バインダーを含有することが好ましい。バインダーは、水性インクを構成する顔料を被記録媒体に定着させることを目的に使用する。
バインダーとしては、例えばポリビニルアルコール、ゼラチン、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂、変性ポリオレフィン樹脂(酸変性ポリプロピレン等)、デキストラン、デキストリン、カラーギーナン(κ、ι、λ等)、寒天、プルラン、水溶性ポリビニルブチラール、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等が挙げられる。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
バインダーとして、例えば芳香族ビニル単量体由来の構造単位を有するガラス転移温度(Tg)が50~100℃のビニル重合体(A1)、又はTgが50℃~100℃のハロゲン化ビニル重合体(A2)である、ビニル重合体(A)を使用できる。
ビニル重合体(A1)としては、芳香族ビニル単量体由来の構造単位と、(メタ)アクリル単量体由来の構造単位を有する共重合体が挙げられる。芳香族ビニル単量体としては、例えばスチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン等が挙げられ、中でもスチレンが好ましい。(メタ)アクリル単量体としては、例えば(メタ)アクリル酸;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル等の(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。ビニル重合体(A1)として、スチレン-アクリル樹脂が好ましい。
ビニル重合体(A1)の全量に対する、芳香族ビニル単量体由来の構造単位の含有量は、50~99質量%の範囲が好ましく、80~99質量%がより好ましい。また、ビニル重合体(A1)の全量に対する、(メタ)アクリル単量体由来の構造単位の含有量は、1~50質量%の範囲が好ましく、1~20質量%がより好ましい。
【0030】
ハロゲン化ビニル重合体(A2)としては、例えば塩化ビニルの(共)重合体、塩素化ポリオレフィン、塩化ゴムが挙げられ、塩化ビニル単量体由来の構造単位と(メタ)アクリル単量体由来の構造単位を有する塩化ビニル-アクリル重合体が好ましい。(メタ)アクリル単量体は上述したとおりである。
ハロゲン化ビニル重合体(A2)の全量に対する、塩化ビニル単量体由来の構造単位の含有量は、30~90質量%の範囲が好ましく、50~80質量%の範囲がより好ましい。また、ハロゲン化ビニル重合体(A2)の全量に対する、(メタ)アクリル単量体由来の構造単位の含有量は、10~70質量%の範囲が好ましく、20~50質量の範囲がより好ましい。
【0031】
ビニル重合体(A)は、乳化重合法、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法等により製造できる。コアシェル構造を有するビニル重合体(A)がより好ましい。例えば、コア部に芳香族ビニル単量体由来の構造単位、又は塩化ビニル単量体由来の構造単位が局在化し、シェル部に(メタ)アクリル単量体由来の構造単位が局在化したコアシェル構造を有するビニル重合体が挙げられる。コアシェル構造を有するビニル重合体(A)は、例えば(メタ)アクリル単量体を含む単量体成分を重合してシェルを構成する重合体(x)を製造後、芳香族ビニル単量体等を反応容器に供給し前記重合体(x)の粒子内で重合させてコア部を形成して製造できる。
【0032】
ビニル重合体(A)として市販品を用いてもよい。例えば「JONCRYL PDX-7700」「JONCRYL PDX-7780」「JONCRYL 89-E」「JONCRYL 89J」(いずれも商品名(JONCRYLは登録商標である)、BASFジャパン社製);「ハイロスX BE7503」(星光PMC社製)、「ビニブラン745」「ビニブラン747」(日信化学工業社製)等が挙げられる。
【0033】
バインダーとしては、上記した中でも、スチレン-アクリル樹脂が、本発明の水性インクの吐出安定性を向上でき、かつ得られる印刷物の印字濃度や画像堅牢性を向上できる観点からより好ましい。
【0034】
バインダーの重量平均分子量(Mw)は、100000~1000000が好ましく、、300000~750000がより好ましい。なお、バインダーのMwは、ゲルパーミエ―ションクロマトグラフィー(GPC)により標準ポリスチレン換算で測定した値である。詳細には、以下に記載する測定条件に従い、GPCに多角度光散乱検出器を接続したGPC-MALS法により求めた。
GPC本体:アジレント・テクノロジー社製「LC1100」シリーズ
カラム:昭和電工(株)製「SHODEX SB806MHQ」
溶離液:N/10硝酸ナトリウムを含むN/3リン酸緩衝液(pH3)
流速:1.0ml/分
検出器1:ワイアットテクノロジー社製、多角度光散乱検出器DAWN
検出器2:昭和電工(株)製、示差屈折率検出器RI-101
【0035】
バインダーの酸価は50mgKOH/g以下が好ましく、10~50mgKOH/gの範囲がより好ましく、10~30mgKOH/gの範囲がさらに好ましい。
【0036】
バインダーの体積平均粒子径は、本発明の水性インク中の顔料、すなわち酸性カーボンを主体とする粒子の体積平均粒子径より小さいことが好ましい。
より具体的には、バインダーの体積平均粒子径は100nm以下であるのが好ましく、40~60nmの範囲であるのがより好ましい。バインダーの体積平均粒子径が前記した範囲内であると、本発明の水性インクの吐出安定性及び保存安定性を向上できる。
なお、バインダーの体積平均粒子径は、レーザー散乱型粒径測定装置であるマイクロトラック社製のNanotrac Wave IIを用いて、ローディングインデックス値が1となるよう希釈倍率を調整し、測定時間180秒、繰返し測定回数3の条件により測定できる。
【0037】
バインダーの含有量は、水性インクの全量に対して0.5質量%以上であるのが好ましく、0.5質量%~5.0質量%の範囲であるのがより好ましく、0.5~3.0質量%の範囲がさらに好ましい。バインダーの含有量が前記範囲であると、本発明の水性インクの吐出安定性及び保存安定性が向上する。また、印刷物の画像堅牢性をより向上でき、印刷物に水を滴下した場合や水を含んだ布等でこすった場合も、水性インクが剥離せず耐水性に優れる傾向となる。
【0038】
本発明の水性インクはコロイダルシリカをさらに含有していてもよい。コロイダルシリカは、平均粒子径が数100nm以下のケイ素を含む無機酸化物の微粒子からなるコロイドであり、コロイドシリカ、コロイド珪酸、シリカゾルとも称され、粒子分布が単分散であり安定性に優れる特性を有する。コロイダルシリカは、主成分として二酸化ケイ素(その水和物を含む)を含み、粒子の組成は不定でシロキサン結合(-Si-O-、-Si-O-Si-)を形成し、高分子化しているものもある。粒子表面は多孔性で、水中では一般的に負に帯電している。
コロイダルシリカは、アルミン酸ナトリウム、アルミン酸カリウム等のアルミン酸塩を少量含んでいてもよい。また、コロイダルシリカは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化アンモニウム等の無機塩類やテトラメチルアンモニウムヒドロキシド等の有機塩類を含んでいてもよい。これらの無機塩類及び有機塩類は、例えばコロイドの安定化剤として作用する。
コロイダルシリカの分散媒には特に制限はなく、水、上記した他の溶媒又はこれらの混合物のいずれでもよい。
【0039】
コロイダルシリカの製造方法に特に制限はなく、四塩化ケイ素の熱分解によるアエロジル合成、水ガラスを原料とする製造方法、アルコキシドの加水分解による液相合成法(例えば、「繊維と工業」、Vol.60、No.7(2004)P376参照)等の、公知の製造方法により製造できる。
【0040】
コロイダルシリカに含まれる粒子の体積平均粒子径は、60~150nmの範囲であるのが好ましく、65~100nmの範囲がより好ましい。体積平均粒子径が前記した範囲内であると、水性インク中の顔料同士の凝集を抑制し、分散安定性を高めて、吐出安定性を向上できる。また、インクジェットヘッドを構成する基材、保護膜、撥液膜等の各部材への水性インクによるダメージ(侵食による形状変形等)を抑制できる。
コロイダルシリカの体積平均粒子径は、分散粒子の一般的な測定である動的光散乱法、レーザ回折法等により求められる。例えば動的光散乱法による場合、分散液であるコロイダルシリカを、レーザー散乱型粒径測定装置であるマイクロトラック社製のNanotrac Wave IIを用いて、ローディングインデックス値が1となるよう希釈倍率を調整し、測定時間180秒、繰返し測定回数3の条件により、コロイダルシリカの粒子の体積平均粒子径を測定できる。
コロイダルシリカの粒子形状は特に限定されず、球状、長尺の形状、針状、一次粒子が複数個連結した鎖状粒子、三次元網目構造を有する粒子等のいずれでもよい。本発明の水性インクの吐出安定性をより向上できる観点からは、球状であることが好ましい。
【0041】
コロイダルシリカは、上記製造方法で製造されたものであっても、市販品であってもよい。市販品としては、日産化学工業社の「スノーテックス(登録商標)」シリーズ;Remet社の「Syton」シリーズ;Nalco Chem社の「Nalcoag-1060」、「Nalcoag-ID21~64」;扶桑化学工業製の「クォートロン(登録商標)」PLシリーズ;日揮触媒化成社の「Cataloid(登録商標)」シリーズ;W.R.Grace社の「Ludox(登録商標)」シリーズ、ADEKA社の「アデライト」シリーズ等が挙げられる。
これらのコロイダルシリカは、1種を単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
なお、市販のコロイダルシリカ分散液のpHは、コロイダルシリカの安定分散領域に調整されているものが多い。そのため、後述する本発明のインクジェット用インクのpHは、かかるコロイダルシリカの安定分散領域のpHを考慮して決定するのが好ましい。
【0042】
コロイダルシリカの含有量は、水性インクの全量に対して、コロイダルシリカ中の固形分として0.1~5.0質量%の範囲であるのが好ましく、0.3~4.0質量%の範囲がより好ましい。コロイダルシリカの含有量が前記範囲内であると、水性インクの吐出安定性が向上し、またノズルプレートやインク流路等のヘッド部材の侵食によるインクジェットヘッドの形状変形への影響を抑制できる。
【0043】
本発明の水性インクは界面活性剤をさらに含有していてもよい。界面活性剤を含有すると、インクジェットヘッドの吐出口から吐出された水性インクが被印刷体に着弾後、表面で良好に濡れ広がりやすくなり、印刷不良の発生を防止しやすい。また、水性インクの表面張力を低下させ、レベリング性を向上させやすい。
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられ、アニオン性界面活性剤又はノニオン性界面活性剤が好ましい。
アニオン性界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルフェニルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、高級脂肪酸塩、高級脂肪酸エステルの硫酸エステル塩又はスルホン酸塩、高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩又はスルホン酸塩、高級アルキルスルホコハク酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルの硫酸塩、リン酸塩又はアルキルリン酸塩等が挙げられる。
【0044】
ノニオン性界面活性剤としては、例えばグリコール系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アセチレンジオール系界面活性剤が挙げられる。
グリコール系界面活性剤としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレングリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレン脂肪酸アミド、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー等が挙げられる。
【0045】
シリコーン系界面活性剤としては、例えばポリシロキサン系化合物、ポリエーテル変性オルガノシロキサン等が挙げられる。シリコーン系界面活性剤の市販品としては、例えばビックケミー・ジャパン社製の「BYK(登録商標)」シリーズ、信越化学工業社製の「KF」シリーズ等が挙げられる。
フッ素系界面活性剤としては、例えばパーフルオロアルキルカルボン酸塩、パーフルオロアルキルスルホン酸塩、オキシエチレンパーフルオロアルキルエーテル、パーフルオロアルキルリン酸エステル、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルアミンオキシド等が挙げられる。フッ素系界面活性剤の市販品としては、例えばDIC社製の「メガファック(登録商標)」シリーズ、ネオス社製の「フタージェント(登録商標)」シリーズ、住友スリーエム社製の「ノベック(登録商標)」シリーズ;等が挙げられる。
【0046】
アセチレンジオール系界面活性剤は、分子中に炭素-炭素三重結合を有する界面活性剤であり、アセチレンジオール(同一分子内にアセチレン結合と2つの水酸基を有する)界面活性剤、アセチレンジオールにエチレンオキシド、プロピレンオキシド等のアルキレンオキシドが付加した界面活性剤が挙げられる。例えば、2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオール及び2,4,7,9-テトラメチル-5-デシン-4,7-ジオールのアルキレンオキシド付加物、2,4-ジメチル-5-デシン-4-オール及び2,4-ジメチル-5-デシン-4-オールのアルキレンオキシド付加物等が挙げられる。アセチレンジオール系界面活性剤の市販品としては、例えばエボニック社製又は日信化学工業社製の「サーフィノール(登録商標)」シリーズ、日信化学工業社製の「オルフィン(登録商標)」シリーズ;川研ファインケミカル社製の「アセチレノール(登録商標)」シリーズが挙げられる。
【0047】
上記した中でも、印刷不良の発生を防止しやすい観点から、本発明の水性インクを構成する界面活性剤として、アセチレンジオール系界面活性剤がより好ましい。
また、本発明の水性インクを構成する界面活性剤は、そのHLB値が10以下であるのが好ましく、9以下がより好ましい。界面活性剤のHLB値は、3以上が好ましく、3.5以上がより好ましい。界面活性剤のHLB値が前記した範囲内であると、顔料表面の濡れ性を高め、上述した溶媒の存在による効果をより発揮でき、分散安定性が向上して、本発明のインクの保存安定性が一層優れる。本発明の水性インクにおいて、界面活性剤のHLB値は、3.5~9の範囲がより好ましい。
ここで、界面活性剤の「HLB(Hydrophilic-Lipophilic Balance)値」は、Griffin法により、次の算出式(Griffin式)で定義される値である。
HLB値=20×[親水部の化学式量の総和]/分子量
界面活性剤を含有する場合、その含有量は、水性インクの全量に対して、0.01~5質量%の範囲であるのが好ましく、0.1~2質量%の範囲がより好ましい。
界面活性剤は、1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0048】
本発明の水性インクは、上述した成分以外に、必要に応じてpH調整剤、防腐剤、ポリオレフィンワックス、酸化防止剤、粘度調整剤、湿潤剤(乾燥抑止剤)、浸透剤、キレート化剤、可塑剤、紫外線吸収剤等のその他の添加剤をさらに含んでいてもよい。
【0049】
pH調整剤としては、例えばリン酸二水素カリウム、リン酸水素二ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、水酸化カリウム、アンモニア、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
防腐剤としては、例えば安息香酸ナトリウム、ペンタクロロフェノールナトリウム、2-ピリジンチオール-1-オキシドナトリウム、ソルビン酸ナトリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、1,2-ジベンジソチアゾリン-3-オン等が挙げられる。防腐剤として市販品を用いてもよく、例えば「ACTICIDE(登録商標)B20」(商品名、ソー・ジャパン社製)、「プロキセル(登録商標)GXL」(商品名、SCジョンソン社製)等が挙げられる。
ポリオレフィンワックスとしては、エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィン又はその誘導体から製造されるワックス又はコポリマーが挙げられ、例えばポリエチレン系ワックス、ポリプロピレン系ワックス、ポリブチレン系ワックス、これらの変性ワックス等が挙げられる。中でも、ポリエチレンワックスを酸化変性処理した、酸化ポリエチレンワックスが、印刷物の画像堅牢性を向上できる観点から好ましい。ポリオレフィンワックスとして市販品を用いてもよく、例えば「AQUACER(登録商標)」シリーズ(ビックケミー・ジャパン社製)等が挙げられる。
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等が挙げられる。
その他の添加剤をさらに含有する場合、その量は水性インクの全量に対して0.01~5質量%の範囲が好ましく、0.02~3質量%の範囲がより好ましい。
【0050】
本発明の水性インクの調製方法には特に制限はなく、上述した成分を混合することで調製できる。上述した成分は、一括して混合してもよく、順次混合してもよい。例えば、バインダーは水又は他の溶媒に溶解又は分散させてから混合してよい。また、顔料分散体の調製時に、フミン酸及び中和剤を添加することで、顔料分散体中にフミン酸塩を形成させてから混合してもよい。混合に際しては、ビーズミル、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ボールミル、ロールミル、サンドミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ディスパーマット、SCミル、ナノマイザー等の分散機を使用できる。
【0051】
本発明はまた、本発明の水性インクを含むインクジェット用インクである。
本発明の水性インクを含むインクジェット用インクの25℃における粘度は、保存安定性や吐出安定性に優れ、かつ、インクジェット記録方式で使用した場合に、飛行曲がりによって発生する被記録媒体上の着弾位置のズレを軽減し、印刷物のスジ発生を抑制しやすい観点から、1mPa・s以上が好ましく、2mPa・s以上がより好ましい。かかる粘度は30mPa・s以下が好ましく、15mPa・s以下がより好ましい。
なお、インクジェット用インクの粘度は、例えば、E型粘度計に相当する円錐平板形(コーン・プレート形)回転粘度計を使用し、下記条件にて測定される値である。
装置:TVE-25形粘度計(東機産業社製、TVE-25L)
校正用標準液:JS20
測定温度:25℃
回転速度:10~100rpm
注入量:1200μL
【0052】
インクジェット用インクの25℃における表面張力は、20mN/m以上であるのが好ましく、25mN/m以上がより好ましい。かかる表面張力は、40mN/m以下であるのが好ましく、35mN/m以下がより好ましい。表面張力がこの範囲にあると、インクジェット記録方式で使用した場合に、吐出液滴の被記録媒体表面でのインクの濡れ性が良好となり、着弾後に充分な濡れ広がりを有する傾向となる。
【0053】
インクジェット用インクの25℃におけるpHは、インクの保存安定性を向上させ、被記録媒体に印刷した際の濡れ広がり、印字濃度、画像堅牢性を向上させる観点、またインクの塗布又は吐出装置を構成する部材(インク吐出口、インク流路等)の劣化を抑制する観点から、7.0~11.0であるのが好ましく、7.5~10.5であるのがより好ましい。
【0054】
以上、本発明の水性インク及びインクジェット用インクについて説明したが、本発明は、上述した実施形態の構成に限定されない。例えば、本発明の水性インク及びインクジェット用インクは、それぞれ、上述した実施形態の構成において、他の任意の構成を追加して有していてもよく、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されていてもよい。
【実施例】
【0055】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は下記の実施例のみに限定されない。本実施例等で使用した化合物を以下に示す。
<カーボンブラック>
CB-A:SPECIAL BLACK 4A(ORION社製、pH=3)
CB-B:SPECIAL BLACK 550(ORION社製、pH=4)
<溶媒>
Gly:グリセリン(δP=11.3、δH=27.2、沸点290℃)
PG:プロピレングリコール(δP=10.4、δH=21.3、沸点188℃)
1,2HD:1,2-ヘキサンジオール
(δP=6.6、δH=17.1、沸点223℃)
MMB:3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール
(δP=6.3、δH=12.9、沸点174℃)
3MB:3-メトキシ-1-ブタノール
(δP=5.4、δH=13.6、沸点158℃)
1,3BD:1,3-ブタンジオール
(δP=8.1、δH=20.9、沸点204℃)
TEG:テトラエチレングリコール
(δP=9.6、δH=15.3、沸点327℃)
【0056】
<バインダー>
スチレン-アクリル樹脂(体積平均粒子径50nm、Mw500000、酸価20mgKOH/g、DIC社製)
<コロイダルシリカ>
「Cataloid(登録商標)SI-80P」(商品名、体積平均粒子径80nm、40質量%分散液、日揮触媒化成社製)
<界面活性剤>
SF420:「サーフィノール420」(商品名、エボニック社製、HLB値=4)
<pH調整剤>
TEA:トリエタノールアミン(日本触媒社製)
<防腐剤>
B20:「ACTICIDE B20」(商品名、ソー・ジャパン社製)
【0057】
<カーボン分散体の調製>
<調製例1(分散体1)>
SUS製の撹拌釜に水81.9質量部、フミン酸0.06質量部、及び中和剤として水酸化カリウム0.04質量部を投入して、25℃で30分間撹拌し、その後、CB-Aを18質量部投入してさらに60分間撹拌して分散させ、分散体1を得た。分散体1のpHは8.5であり、分散体1中のCB-Aを主体とする粒子の体積平均粒子径は180nmであった。
【0058】
<調製例2(分散体2)>
上記で作成した分散体1について、限外ろ過(ミニメイト タンジェンシャルフローろ過(TFF)限外ろ過用カプセル(日本ポール社製、分画分子量:500000))を実施し、pHを8.5に保つため適宜水酸化カリウムを添加して、ろ液中にフミン酸を排出させ、残っている分散液を分散体2とした。分散体2のpHは8.5であった。
なお、限外ろ過の終点は、ろ液の量が初期の分散体量の3倍になる量とした。また、終点にて、ろ液の色が透明であることを確認した。分散体2中のCB-Aを主体とする粒子の体積平均粒子径は182nmであった。
【0059】
<調製例3(分散体3)>
調製例1において、中和剤を、水酸化カリウム0.03質量部からアンモニア水溶液に変更した以外は調製例1と同様の操作を行い、分散体3を得た。分散体3のpHが8.5となるように中和剤の添加量を調整した。分散体3中のCB-Aを主体とする粒子の体積平均粒子径は185nmであった。
<調製例4(分散体4)>
調製例1において、中和剤を、水酸化カリウム0.03質量部から水酸化リチウムに変更した以外は調製例1と同様の操作を行い、分散体4を得た。分散体4のpHが8.5となるように中和剤の添加量を調整した。分散体4中のCB-Aを主体とする粒子の体積平均粒子径は183nmであった。
【0060】
<調製例5(分散体5)>
調製例1において、中和剤を、水酸化カリウム0.03質量部から水酸化ナトリウムに変更した以外は調製例1と同様の操作を行い、分散体5を得た。分散体5のpHが8.5となるように中和剤の添加量を調整した。分散体5中のCB-Aを主体とする粒子の体積平均粒子径は182nmであった。
<調製例6(分散体6)>
調製例1において、CB-Aに代えてCB-Bを18質量部用いた以外は調製例1と同様の操作を行い、分散体6を得た。分散体6のpHが8.5となるように中和剤の添加量を調整した。分散体6中のCB-Bを主体とする粒子の体積平均粒子径は186nmであった。
分散体1~6の詳細を表1に示す。
【0061】
【0062】
1.水性インクの調製
<実施例1~8、比較例1~5>
分散体、バインダー、溶剤、界面活性剤、pH調整剤、防腐剤及び蒸留水を、表2の配合割合となるように混合して撹拌し、水性インク1~13を得た。
なお、上記含有量はいずれも水性インクの全量基準である。
【0063】
2.水性インクの評価
2-1.光学濃度(反射光学濃度:OD値)
各実施例及び比較例で得た水性インクを、セイコーエプソン社製のインクジェットヘッドI3200に充填した。解像度は600dpi×600dpiであり、1/600インチ×1/600インチの単位領域に、1滴当たりの質量が10ng±10%であるインク滴を1滴付与する条件を記録デューティが100%であると定義する。
被記録媒体(普通紙:商品名「NEXT-IJ<70>」、日本製紙社製、坪量81.4g/m2)に、記録デューティが100%であるベタ画像(2cm×2cm/1ライン)を記録した。記録の1日後に、分光測色計(商品名「eXact」、X-rite社製)を用いて、3箇所のベタ画像における光学濃度を測定し、その平均値を求めて、以下の基準で光学濃度を評価した。
<評価基準>
4:光学濃度が1.15以上である
3:光学濃度が1.05以上1.15未満である
2:光学濃度が1.05未満である
1:インク化できず
【0064】
2-2.保存安定性
各実施例及び比較例で得た水性インクをプラスチックボトルに充填し、60℃の恒温槽で4週間静置して保管した。恒温槽に保管前の水性インクの粘度(v0)及び4週間保管後の水性インクの粘度(v1)をそれぞれ測定して変化率を算出し、水性インクの保存安定性を以下の基準で評価した。なお、粘度の変化率は下式に従って算出した。
変化率(%)=100×(v1-v0)/v0
<評価基準>
5:変化率が±5%以内
4:変化率が±5%超~±10%以内
3:変化率が±10%超~±20%以内
2:変化率が±20%超
1:インク化の時点でゲル化または凝集してしまいインク作製不可
【0065】
以上の結果を纏めて表2に示す。
【0066】
【0067】
上記の実施例のとおり、本発明の水性インクは保存安定性に優れ、かつ印刷物の光学濃度(OD値)を高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明の水性インクは保存安定性に優れ、かつ印刷物の光学濃度(OD値)を高められ、黒の発色が良好なインクジェット用インクとして有用である。
【要約】
本発明は、保存安定性に優れ、かつ印刷物の光学濃度(OD値)が良好な水性インクを提供することを課題とする。
具体的には、顔料分散体と、溶剤とを含有する水性インクであって、前記顔料分散体中の顔料が、pHが3.5以下である酸性カーボンとカウンターイオンとしてのアルカリ金属イオン又はアンモニウムイオンから構成され、フミン酸塩又はフミン酸塩誘導体とを含有し、前記溶剤が、ハンセンの溶解度パラメーターの極性項が9以下であり、かつ水素結合項が18以下である溶剤の1種又は2種以上を含有する、水性インクである。