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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】初期応力測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01L 5/00 20060101AFI20240903BHJP
   E21D 9/00 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
G01L5/00 A
E21D9/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020107123
(22)【出願日】2020-06-22
(65)【公開番号】P2022001853
(43)【公開日】2022-01-06
【審査請求日】2023-04-17
(73)【特許権者】
【識別番号】302060926
【氏名又は名称】株式会社フジタ
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】村山 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】新井 智之
(72)【発明者】
【氏名】池田 奈央
(72)【発明者】
【氏名】児玉 淳一
(72)【発明者】
【氏名】菅原 隆之
(72)【発明者】
【氏名】福田 大祐
【審査官】大森 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-316117(JP,A)
【文献】特開2011-052373(JP,A)
【文献】米国特許第04491022(US,A)
【文献】特開平09-288021(JP,A)
【文献】特開2015-113572(JP,A)
【文献】特表2002-541365(JP,A)
【文献】特開2009-299316(JP,A)
【文献】特開2000-205978(JP,A)
【文献】特開2020-066843(JP,A)
【文献】特開平10-325788(JP,A)
【文献】特開平02-110312(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102155239(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 5/00-5/28
E21D 1/00-9/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルが掘削される地山の初期応力を測定する初期応力測定方法であって、
切羽から前記地山内に向けてパイロット孔を形成するパイロット孔ボーリング工程と、
前記パイロット孔の変形量を測定する繰り返し使用可能な変形量測定装置を前記パイロット孔に配置する測定装置配置工程と、
前記切羽が少なくとも前記パイロット孔ボーリング工程時よりも前進するように前記地山を掘削することにより前記地山の応力を解放するトンネル掘削工程と、
前記変形量測定装置の測定結果に基づいて前記地山の前記初期応力を算出する初期応力算出工程とを含み、
前記トンネル掘削工程では、前記変形量測定装置周辺の前記地山を残しながら、前記トンネルの掘削方向に対して前記切羽が前記変形量測定装置の配置位置よりも前方の位置となるまで掘削を行い、
前記初期応力算出工程では、完全な応力解放時の前記変形量を算出する、
ことを特徴とする初期応力測定方法。
【請求項2】
前記パイロット孔ボーリング工程は、前記地山の地質調査用のボーリングを兼ねる、
ことを特徴とする請求項記載の初期応力測定方法。
【請求項3】
前記トンネル掘削工程後に前記パイロット孔から前記変形量測定装置を回収する回収工程を更に備え、
前記回収工程後に前記パイロット孔ボーリング工程を現在の切羽から再度行い、
前記測定装置配置工程では回収した前記変形量測定装置を再度形成された前記パイロット孔に配置する、
ことを特徴とする請求項記載の初期応力測定方法。
【請求項4】
前記パイロット孔ボーリング工程では、前記トンネルの掘削方向に沿って前記パイロット孔を形成する、
ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項記載の初期応力測定方法。
【請求項5】
前記パイロット孔ボーリング工程では、前記トンネルの掘削方向に対して所定角度で前記パイロット孔を形成する、
ことを特徴とする請求項1からのいずれか1項記載の初期応力測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルを掘削する際に地山の初期応力を測定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鉱山における鉱物採掘等に先立って、周辺地山に初期に作用している地山応力値(以下「初期応力」という)の測定が行われており、各種の初期応力測定方法が知られている(例えば、下記非特許文献1参照)。
初期応力測定方法の一例として、「応力解放法」が知られている。この応力解放法では、図11に示すように、岩盤(地山)81中に削孔したパイロット孔80(例えば直径40mm)の孔底に岩盤応力計82を設置した後、より大きな孔径(例えば直径80mm)のビットで同じ箇所にボーリングを行って(オーバーコアリング)更にパイロット孔84を形成し、岩盤応力計を設置したパイロット孔80の周囲の岩盤応力を解放させ、この応力解放による岩盤の変形を計測する。そして、計測した岩盤の変形と応力を解放させる前の岩盤の応力状態(初期応力)との関係式(図7参照)を用いて、ボーリングを行う前の岩盤の応力状態を評価する。
【0003】
一方、通常施工のトンネル掘削作業では、過去のトンネル掘削実績から地山性状(地山分類)に応じて、どの程度の支保を作用させれば地山が安定するかを想定し、その支保の組み合わせ(標準的な支保パターン)を採用しながら採掘を行っている。すなわち、一般的なトンネル掘削では初期応力の測定は行わず、過去の実績に基づいて施工計画を立てている(例えば、下記非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】横山幸也、「わが国で開発・改良された初期地圧測定法の基準化と国際化」、一般財団法人資源・素材学会、Journal of MMIJ Vol.129、P.683-693、2013年
【文献】「2016年制定 トンネル標準示方書」、土木学会、2016年8月
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
実際のトンネル掘削作業時には、断層破砕帯などの事前に想定できない地山不良部に遭遇し、計画通りの施工が困難な場合がある。このような場合、支保部材の組み合わせや地山強度を増加させるための補助工法の規模等を設計検討する必要があるが、その際に用いる設計ツールは、有限要素法などの数値解析手法を利用している。
この数値解析において地山の初期応力状態を設定することが求められるが、上述のようにトンネル掘削時には初期応力を測定しない場合がほとんどなので、既知のパラメータを用いて初期応力を推定して数値解析を行っている。具体的には、例えば土被り高さ(トンネルの地表からの深さ:m)と地山の単位体積重量γ(密度×重力kN/m)の積を鉛直荷重として想定して初期応力状態を再現する方法(自重解析)や、発生した変状現象からトンネルに作用していると考えられる荷重を推定して解析に反映するなどの方法が実用化されている。しかしながら、このような方法で算出した初期応力はあくまで推定値であり、実際の初期応力値とのずれがある可能性がある。
【0006】
一方で、トンネル掘削時に初期応力を測定する場合、従来の応力解放法では、岩盤応力計を設置するためのパイロット孔に加えて、応力を解放させるための大口径のパイロット孔の削孔を行う必要がある。また、トンネルで岩盤応力の評価を行う場合には、工期の遅延を防ぐために、掘削済の空洞の側壁や上下盤を利用して実施せざるを得ない。
すなわち、トンネル施工時において重要な情報となる切羽前方の応力状態を既存の方法で評価することは経済的な損失が大きいという課題がある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みなされたものであり、その目的は、トンネル掘削時に地山の初期応力を簡易かつトンネル掘削作業を妨げない方法で測定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の目的を達成するため、請求項1の発明にかかる初期応力測定方法は、トンネルが掘削される地山の初期応力を測定する初期応力測定方法であって、切羽から前記地山内に向けてパイロット孔を形成するパイロット孔ボーリング工程と、前記パイロット孔の変形量を測定する変形量測定装置を前記パイロット孔に配置する測定装置配置工程と、前記切羽が少なくとも前記パイロット孔ボーリング工程時よりも前進するように前記地山を掘削することにより前記地山の応力を解放するトンネル掘削工程と、前記変形量測定装置の測定結果に基づいて前記地山の前記初期応力を算出する初期応力算出工程と、を含んだことを特徴とする。
請求項2の発明にかかる初期応力測定方法は、前記トンネル掘削工程では、前記変形量測定装置周辺の前記地山を残しながら、前記トンネルの掘削方向に対して前記切羽が前記変形量測定装置の配置位置よりも前方の位置となるまで掘削を行う、ことを特徴とする。
請求項3の発明にかかる初期応力測定方法は、前記トンネル掘削工程では、前記トンネルの掘削方向に対して前記切羽が前記変形量測定装置の配置位置よりも後方の位置で掘削を停止し、前記初期応力算出工程では、数値解析を用いて前記切羽の位置が前記変形量測定装置より前方となった際の前記変形量を推定する、ことを特徴とする。
請求項4の発明にかかる初期応力測定方法は、前記パイロット孔ボーリング工程は、前記地山の地質調査用のボーリングを兼ねる、ことを特徴とする。
請求項5の発明にかかる初期応力測定方法は、前記トンネル掘削工程後に前記パイロット孔から前記変形量測定装置を回収する回収工程を更に備え、前記回収工程後に前記パイロット孔ボーリング工程を現在の切羽から再度行い、前記測定装置配置工程では回収した前記変形量測定装置を再度形成された前記パイロット孔に配置する、ことを特徴とする。
請求項6の発明にかかる初期応力測定方法は、前記パイロット孔ボーリング工程では、前記トンネルの掘削方向に沿って前記パイロット孔を形成する、ことを特徴とする。
請求項7の発明にかかる初期応力測定方法は、前記パイロット孔ボーリング工程では、前記トンネルの掘削方向に対して所定角度で前記パイロット孔を形成する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
請求項1にかかる発明によれば、切羽から地山内に向けてパイロット孔を形成して変形量測定装置を配置し、その状態で通常のトンネル掘削作業を行うことにより地山の応力を解放して地山の初期応力を算出する。これにより、トンネル工事開始後に、掘削作業を妨げることなく随時地山の初期応力を測定することができ、トンネル工事の安全性および作業効率を向上させることができる。
請求項2にかかる発明によれば、変形量測定装置周辺の地山を残しながら、変形量測定装置の配置位置よりも前方まで掘削を行うので、変形量測定装置周辺の地山の応力を100%解放し、初期応力の測定精度を向上させる上で有利となる。
請求項3にかかる発明によれば、トンネルの掘削方向に対して切羽が変形量測定装置の配置位置よりも後方の位置で掘削を停止するとともに、数値解析を用いて切羽の位置が変形量測定装置より前方となった際の変形量を推定する。これにより、掘削作業により変形量測定装置が破損するのを防止するとともに、変形量測定装置の位置における応力が100%解放された際の変形量を求めて初期応力の算出精度を向上させることができる。
請求項4にかかる発明によれば、地山の地質調査用のボーリングによって形成されたパイロット孔に変形量測定装置を設置するので、新たなボーリング作業を行うことなく初期応力を算出することができ、トンネル工事の作業効率を向上させることができる。
請求項5にかかる発明によれば、変形量測定装置を回収した後にパイロット孔のボーリングを現在の切羽から再度行うので、地質調査用のボーリングを行わないトンネル工事現場においても容易に初期応力の算出を行うことができる。
請求項6にかかる発明によれば、トンネルの掘削方向に沿ってパイロット孔を形成するのでトンネルが形成される地山の箇所の変形量を測定することができ、初期応力の算出精度を向上させることができる。
請求項7にかかる発明によれば、トンネルの掘削方向に対して所定角度でパイロット孔を形成するので、トンネル掘削作業に影響を与えることなく変形量の測定を行うことができるとともに、トンネル掘削作業により誤って変形量測定装置を破損するのを防止することができる。
すなわち、本発明によれば、トンネル掘削時に地山の初期応力を簡易かつトンネル掘削作業を妨げずに測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施の形態にかかる初期応力測定方法が適用されるトンネル掘削工事現場を模式的に示す説明図である。
図2】実施の形態にかかる初期応力測定方法の処理手順を示すフローチャートである。
図3】実施の形態にかかる初期応力測定方法を模式的に示す説明図である。
図4】変形量測定装置の配置方法の一例を示す説明図である。
図5】変形量測定装置の配置方法の一例を示す説明図である。
図6】変形量測定装置の外観を模式的に示す説明図である。
図7】孔径変化法における応力算出方法を模式的に示す図である。
図8】孔径変化法で測定したひずみ値の一例を示すグラフである。
図9】円錐孔底ひずみ法で測定したひずみ値の一例を示すグラフである。
図10】数値解析モデルの一例を示す説明図である。
図11】従来技術にかかる初期応力測定方法を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照して、本発明にかかる初期応力測定方法の好適な実施の形態を詳細に説明する。
本発明にかかる初期応力測定方法は、トンネルが掘削される地山の初期応力を測定する。
ここで、トンネル掘削工事とは、周辺地山を掘削して空間を確保して線状構造物であるトンネルを構築する工事であるが、地山の掘削は地山の応力解放を行う行為であるといえる。本実施の形態では、従来技術のようにオーバーコアリングにより応力解放を行うのではなく、トンネル掘削作業による応力解放を利用して地山の初期応力を測定する。
【0012】
まず、実施の形態にかかる初期応力測定方法が適用されるトンネル掘削工事現場について説明する。本実施の形態では、機械掘削によりトンネル施工を行うものとする。
図1に示すトンネル掘削工事現場10において、符号Tは地山11に施工されたトンネル、12は切羽(トンネル切削面)である。トンネル掘削工事現場10では、自由断面掘削機14や図示しない大型ブレーカあるいはトンネルボーリングマシン(TBM)などを用いて切羽12の掘削を行う。掘削により発生した「ずり」は、ホイルローダや重ダンプなどで坑外へ運搬される。
【0013】
なお、図1に示すような機械掘削の他、ダイナマイトなどの爆薬を用いて発破することにより掘削する発破工法を適用した現場にも、本発明は適用可能である。
例えば、後述する図5のようにボーリングを扇状に施工し、形成したパイロット孔に変形量測定装置を設置するようにすれば、発破時における変形量測定装置の損傷や発破振動による変形量測定装置の移動を防止することができ、発破工法適用時における初期応力の測定に有効である。
【0014】
図2は、実施の形態にかかる初期応力測定方法の手順を示すフローチャートである。
まず、図3Aに示すように、切羽12から地山11内に向けてボーリングを行い、パイロット孔30を形成する(ステップS200、パイロット孔ボーリング工程)。
なお、図3では、視認性の観点から、図中のパイロット孔30や後述する変形量測定装置32の大きさとトンネルTの断面積等との関係は、実際とは異なる縮尺で図示している。
【0015】
本実施の形態では、初期地圧の測定に当たり、応力解放法の一例である孔径変化法を採用する。
孔径変化法は、小口径のパイロット孔における孔周方向の変位(3成分以上)と孔軸方向の変位(4成分以上)を独立に計測することによって、3次元的な地山の応力成分が得るものである(図7参照)。なお、軸方向の変位の測定が難しい場合には、孔周方向の変位のみ測定し、ボーリング軸に直交する2次元断面での地圧成分を決定する手法も適用される。
孔径変化法では、測定器をパイロット孔内に機械的に固定することで応力解放前後の孔径変化を測定できるため、測定作業が容易な点が特徴となる。
なお、本発明における初期地圧測定方法は、上述した孔径変化法に限らず、応力解放を利用する測定手法であれば、例えば円錐孔底ひずみ法など従来公知の様々な方法が適用可能である。
【0016】
また、初期応力の測定のためにパイロット孔30を形成するのではなく、地質調査のための先進ボーリングにより形成された孔をパイロット孔30として利用してもよい。
すなわち、パイロット孔ボーリング工程が、地山11の地質調査用のボーリングを兼ねるようにしてもよい。
トンネル工事では、着工前の地質調査結果と施工時の地質状態とが一致しないことがある。特にトンネルの深奥部は、調査ボーリングを到達させることが難しく、正確な地質情報を得ることが困難な場合がある。このため、トンネル工事中に、切羽12より先の領域を一定距離ボーリング(先進ボーリング)して地質調査を行う場合がある。先進ボーリングにより形成された孔をパイロット孔30として利用することにより、効率的に応力測定を行うことができる。
【0017】
また、パイロット孔ボーリング工程では、図4に示すようにトンネルTの掘削方向Fに沿ってパイロット孔30を形成してもよいし、図5に示すようにトンネルTの掘削方向Fに対して所定角度α(またはα’、以下省略)でパイロット孔30を形成してもよい。なお、所定角度αとは、例えば45度以下とする。また、図5に示すように、複数のパイロット孔30(30A,30B)を形成してもよい。
なお、図4(A)および図5(A)は切羽12の正面図を、図4(B)および図5(B)は地山11のうち切羽12より前方の平面図を、図4(C)および図5(C)は地山11のうち切羽12より前方の立体図を、それぞれ示す。また、図4および図5の符号32(32A,32B)は、後述する変形量測定装置である。また、符号12は現在の切羽位置、符号12’は次回以降の切羽位置となる。
【0018】
図4のようにトンネルTの掘削方向Fに沿ってパイロット孔30を形成した場合、地山11のうちトンネルTが形成される箇所の初期応力が測定できる。また、後述するトンネル掘削工程において応力解放される箇所の延長線上にパイロット孔30を形成するので、より精度よく初期応力を測定することができる。
【0019】
また、図5のようにトンネルTの掘削方向Fに対して所定角度αでボーリングすることを「扇状ボーリング」と称する。施工時に実施する調査ボーリングや対策工としての水抜きボーリングは切羽で実施することが望ましいが、湧水が多い条件では切羽に地下水が集中し掘削時に切羽が不安定化しやすくなるため、切羽の脇部あるいは側壁から扇状ボーリングを行うケースは少なくない。
また、図5のような扇状ボーリングでは、地山11の掘削領域(トンネルTが形成される箇所)からずれた位置にパイロット孔30が形成され、変形量測定装置32が配置されるので、掘削作業に影響を与えることなく初期応力の測定を行うことができる。また、変形量測定装置32の設置位置がトンネル掘削断面からずれるので、変形量測定装置32を損傷することなく、切羽位置が変形量測定装置32よりも掘削方向Fの前方に位置するまでの解放応力を測ることができる。この場合、解放される応力は100%ではないため、解析での補完が必要となるが、トンネル掘削によりで解放される応力はパイロット孔30の大きさに対して非常に大きいため、トンネル周辺地山で顕著な変形量として計測できると考えられる。
【0020】
つぎに、図3Bに示すように、パイロット孔30の変形量を測定する変形量測定装置32をパイロット孔30に配置する(ステップS202、測定装置配置工程)。
変形量測定装置32の一例を図6に示す。
図6に示す変形量測定装置32は、筐体320、周方向測定部322、軸方向測定部324を備える。筐体320は、内部にデータロガー(周方向測定部322、軸方向測定部324の測定値を記録する記録装置)およびバッテリが内蔵されている。このため、変形量測定装置32に配線を接続する必要がなく、配線を考慮することなく掘削作業を進めることができる。
周方向測定部322は、パイロット孔30の孔周方向の変位を測定する。周方向測定部322は、ゲージ325の先端に取付された周方向センサ326を備える。
軸方向測定部324は、パイロット孔30の孔軸方向の変位を測定する。軸方向測定部324は、筐体320に設けられた第1の固定点327、軸方向測定部324に設けられた第2の固定点328および軸方向センサ329を備える。
変形量測定装置32の全長は約300mm程度であり、直径約40mm程度である。
【0021】
本実施の形態では、切羽12が変形量測定装置32から一定距離となるまで掘削を進めた段階で変形量測定装置32を回収し、コンピュータでデータロガー内のデータを読み出して初期応力を算出するものとする。
また、例えば変形量測定装置32に通信装置を内蔵させ、各測定部322,324での測定値を随時コンピュータに送信し、リアルタイムで初期応力を算出するようにしてもよい。
【0022】
なお、例えば円錐孔底ひずみ法である場合は、変形量測定装置32として複数のひずみゲージが表面に配置されたストレインセルを用いる。ストレインセルは、表面に三軸または二軸直交ひずみゲージが等間隔で所定数配置されたひずみ計であり、パイロット孔30の岩盤先端部に接着剤等で貼付することにより測定を行う。
【0023】
つづいて、図3Cに示すように、切羽12が少なくともパイロット孔ボーリング工程時よりも前進するように地山11を掘削することにより地山11の応力を解放する。本実施の形態では、トンネルTの掘削方向Fに対して切羽12が変形量測定装置32の後端部から所定距離X後方の位置となるまでトンネルTを掘削することにより地山11の応力を解放する(ステップS204,S206、トンネル掘削工程)。すなわち、トンネル掘削工程では、トンネルTの掘削方向に対して切羽12が変形量測定装置32の配置位置よりも後方の位置で掘削を停止する。
【0024】
変形量測定装置32は、トンネル掘削工程中継続して測定箇所における変形量を検出する。また、後述する初期応力算出工程において、変形量測定装置32の測定結果(変形量)と切羽12の位置とを対応付けできるように、例えば自由断面掘削機14の位置を記録しておく。
上述のように、本実施の形態では自由断面掘削機14を用いて機械掘削を行うため、任意の位置で掘削を中断することが可能である。掘削により変形量測定装置32が破損しないように、変形量測定装置32の手前の所定距離Xで掘削を中断する。
【0025】
なお、例えば変形量測定装置32の周辺は地山を掘り残して、切羽12の外側部分は地山を堀り進めることにより、切羽12の位置が変形量測定装置32よりも掘削方向前方となるまで掘削作業を行ってから変形量測定装置32を回収してもよい。
すなわち、トンネル掘削工程では、変形量測定装置32周辺の地山11を残しながら、トンネルTの掘削方向に対して切羽12が変形量測定装置32の配置位置よりも前方の位置となるまで掘削を行うようにしてもよい。
また、図5のように扇状ボーリングを行った場合には、切羽12の位置が変形量測定装置32の側方を通過するまで(掘削方向前方となるまで)、すなわち解放応力の影響を受けなくなるまで掘削作業を行ってから変形量測定装置32を回収することが可能となる。
【0026】
切羽12が変形量測定装置32の貼付位置から所定距離となると(ステップS206:No)、作業員等がパイロット孔30から変形量測定装置32を回収する(ステップS208、回収工程)。
その後、回収した変形量測定装置32をトンネル工事現場の詰所等に搬送して初期応力算出工程に移行する。この時、変形量測定装置32を回収する毎に初期応力を算出してもよいし、現在の切羽から更に奥にボーリングを行って現在よりも先の位置に変形量測定装置32を配置して(もしくは地盤調査のためのパイロット孔30の更に奥の位置に変形量測定装置を再設置して)測定を行った後に初期応力を算出してもよい。
すなわち、回収工程後にパイロット孔ボーリング工程を現在の切羽から再度行い、測定装置配置工程では回収した変形量測定装置32を再度形成されたパイロット孔30に配置してもよい。この場合、複数回変形量の測定を行ってから初期応力算出工程をまとめて行うことになる。
【0027】
つづいて、トンネル工事現場の詰所等に設置されたパーソナルコンピューター(図示なし)により変形量測定装置32のデータロガー内のデータを用いて、測定箇所(変形量測定装置32の設置場所)における初期応力を算出する。すなわち、トンネル掘削工程中における変形量測定装置32の検出結果に基づいて、地山11の初期応力を算出する(ステップS210、初期応力算出工程)
【0028】
図7は、孔径変化法における応力算出方法を模式的に示す図である。
孔周方向(半径方向)の変位を(U1,U2,U3)、孔軸方向の変位を(W4,W5,W6,W7)とすると、既知量である変位{W}は図7の式(1)のように表せる。一方、未知量である応力{σ}は図7の式(2)のように表せる。変位{W}と応力{σ}は図7の式(3)の関係にあるので、これを解いて応力{σ}を算出する。
【0029】
また、例えば円錐孔底ひずみ法の場合は、事前に各チャンネルのひずみ量と変位の校正係数を確定し、ひずみを変位に換算して観測方程式を解くことで6つの応力成分を得ることができる。
【0030】
図8は、変形量測定装置(孔径変化法)で測定したひずみ値の一例を示すグラフである。
図8Aは周方向センサ326の検出結果を示し、図8Bは軸方向センサ329の検出結果を示す。図8Aおよび図8Bにおいて、縦軸は変位(ひずみを校正係数で変位に換算したもの)を示し、横軸は掘削開始からの経過時間(オーバーコアリング長併記)を示す。
図8における測定は、掘削(オーバーコアリング)開始位置から35cm(350mm)の位置に周方向センサ326が、28cm(280mm)の位置に第2の固定点328が、42cm(420mm)の位置に第1の固定点327が位置するように変形量測定装置32を配置し、掘削開始位置から100cm(1000mm)掘削を行ったものである。
図8を参照すると、掘削開始から約4900秒で掘削位置が周方向センサ326(35cm地点)を通過し、掘削開始から約5050秒で掘削位置が50cmとなり、データがほぼ収束している。
【0031】
ここで、本実施の形態では、トンネル切羽等の掘削による応力解放を活用して地山11の応力状態を測定することを特徴としているが、変形量測定装置32の保護のために完全(100%)には応力解放してない状態(切羽12が変形量測定装置32と所定距離にある状態)で測定を中断せざるを得ない。よって、測定では得ることができない完全な応力解放時の変形量を、応力解放の途中段階の測定データから数値解析によってデータ補間するのが好ましい。
すなわち、トンネル掘削工程でトンネルTの掘削方向に対して切羽12が変形量測定装置32の配置位置よりも後方の位置まで掘削を停止した場合、初期応力算出工程では、数値解析を用いて切羽12の位置が変形量測定装置32より前方となった際の変形量を推定する。
【0032】
図9は、円錐孔底ひずみ法で測定したひずみ値の一例を示すグラフである。
図9において、左縦軸はひずみ値、右縦軸は温度、横軸は基準位置からの堀進長である。
各系統におけるひずみ値は、堀進長50mm付近で極大値を取り、一旦減少した後、堀進長100mm付近で収束値に至る。すなわち、堀進長100mm付近で応力が100%解放された状態となる。
一方で、例えば上記所定距離(切羽12と変形量測定装置32との距離)をXとすると、本実施の形態で実際に測定できるのは堀進長0cmからXの間のひずみ値のみである。このため、初期応力算出工程において、網掛けで示す堀進長Xから100mmの間の区間のひずみ値を、堀進長0mmからXのひずみ値に基づいて数値解析により補間する。
【0033】
より詳細には、円形トンネルなどの比較的単純な形状のトンネルを対象に3次元モデルを作製し、初期の岩盤応力が既知である数値シミュレーションを行う。
具体的には、まず岩盤を等方弾性体と仮定し、既知の岩盤応力をモデルに与えた状態でトンネルの掘削解析を行い、パイロット孔の変形を分析する。次に、既に求めているパイロット孔の変形と初期の岩盤応力の関係式を用いて、パイロット孔の変形から初期の岩盤応力を推定する。最後に、この推定した岩盤応力とモデルに与えた岩盤応力が一致していることを確認する。
図10に数値解析モデルの一例を示す。
※応力計測は3次元計測(3次元の応力成分の測定)であり,数値解析も当然3次元解析となります.図9の解析メッシュは2次元に見えますが,3次元の図が必要であれば別途追加で送付します.ご検討ください.
【0034】
以上説明したように、実施の形態にかかる初期応力測定方法は、切羽12から地山11内に向けてパイロット孔30を形成して変形量測定装置32を配置し、その状態で通常のトンネル掘削作業を行うことにより地山11の応力を解放して地山11の初期応力を算出する。これにより、トンネル工事開始後に、掘削作業を妨げることなく随時地山11の初期応力を測定することができ、トンネル工事の安全性および作業効率を向上させることができる。
【0035】
また、実施の形態にかかる初期応力測定方法において、変形量測定装置周辺32の地山を残しながら、変形量測定装置32の配置位置よりも前方まで掘削を行うようにすれば、変形量測定装置32周辺の地山の応力を100%解放し、初期応力の測定精度を向上させる上で有利となる。
【0036】
また、実施の形態にかかる初期応力測定方法において、トンネルの掘削方向に対して切羽12が変形量測定装置32の配置位置よりも後方の位置で掘削を停止するとともに、数値解析を用いて切羽12の位置が変形量測定装置32より前方となった際の変形量を推定するようにすれば、掘削作業により変形量測定装置32が破損するのを防止するとともに、変形量測定装置32の位置における応力が100%解放された際の変形量を求めて初期応力の算出精度を向上させることができる。
【0037】
また、実施の形態にかかる初期応力測定方法において、地山11の地質調査用のボーリングによって形成されたパイロット孔に変形量測定装置32を設置するので、新たなボーリング作業を行うことなく初期応力を算出することができ、トンネル工事の作業効率を向上させることができる。
【0038】
また、実施の形態にかかる初期応力測定方法において、変形量測定装置32を回収した後にパイロット孔のボーリングを現在の切羽から再度行うようにすれば、地質調査用のボーリングを行わないトンネル工事現場においても容易に初期応力の算出を行うことができる。
【0039】
また、実施の形態にかかる初期応力測定方法において、トンネルの掘削方向に沿ってパイロット孔30を形成するようにすれば、トンネルが形成される地山11の箇所の変形量を測定することができ、初期応力の算出精度を向上させることができる。
【0040】
また、実施の形態にかかる初期応力測定方法において、トンネルの掘削方向に対して所定角度でパイロット孔30を形成するようにすれば、トンネル掘削作業に影響を与えることなく変形量の測定を行うことができるとともに、トンネル掘削作業により誤って変形量測定装置32を破損するのを防止することができる。
【符号の説明】
【0041】
10 トンネル掘削工事現場
11 地山
12 切羽
30 パイロット孔
32 変形量測定装置
320 筐体
322 周方向測定部
324 軸方向測定部
F 掘削方向
T トンネル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11