(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】触媒付着体の製造方法及び製造装置、並びに、繊維状炭素ナノ構造体の製造方法及び製造装置
(51)【国際特許分類】
B01J 37/02 20060101AFI20240903BHJP
B01J 23/745 20060101ALI20240903BHJP
B01J 37/08 20060101ALI20240903BHJP
C01B 32/162 20170101ALI20240903BHJP
【FI】
B01J37/02 301M
B01J23/745 M
B01J37/08
C01B32/162
(21)【出願番号】P 2020553253
(86)(22)【出願日】2019-10-16
(86)【国際出願番号】 JP2019040739
(87)【国際公開番号】W WO2020085170
(87)【国際公開日】2020-04-30
【審査請求日】2022-09-26
(31)【優先権主張番号】P 2018201217
(32)【優先日】2018-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】李 墨宸
(72)【発明者】
【氏名】野田 優
(72)【発明者】
【氏名】前田 里沙
(72)【発明者】
【氏名】大沢 利男
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 明慶
【審査官】安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-506540(JP,A)
【文献】特表2005-502446(JP,A)
【文献】特開2017-186228(JP,A)
【文献】特開2014-061516(JP,A)
【文献】特開平04-090853(JP,A)
【文献】特開2015-151277(JP,A)
【文献】特表2010-527777(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
C01B 32/162
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
縦型容器を用いて対象粒子に対して触媒原料を付着させる触媒付着体の製造方法であって、
前記縦型容器の下部に配置された第1供給口から、前記縦型容器の上部方向に向かって少なくとも一種のガスを供給して、前記縦型容器内の対象粒子を流動させる流動工程と、
前記縦型容器の下部に配置された第2供給口から、前記縦型容器の前記上部方向に向かって、
構成元素の組み合わせが異なる複数種類の触媒原料溶液ミストを供給して、前記対象粒子に対して前記触媒原料を付着させて触媒付着体を得る触媒付着工程と、
を含み、
前記触媒付着工程を実施している間は、前記流動工程を継続
し、
前記複数種類の触媒原料溶液ミストのそれぞれが、Si、Al、Mg、Fe、Co、及びNiの中から選択される1種以上の元素を含有する化合物を、一種又は複数種含む、
触媒付着体の製造方法。
【請求項2】
前記第1供給口及び前記第2供給口が、同一の供給口であり、前記ガス及び前記触媒原料溶液ミストが、同一の供給口を通じて、前記縦型容器内に導入される、
請求項1に記載の触媒付着体の製造方法。
【請求項3】
前記触媒付着工程にて、前記縦型容器を100℃以上1000℃以下で加熱することを含む、請求項1又は2に記載の触媒付着体の製造方法。
【請求項4】
前記対象粒子の体積平均粒子径が0.1mm以上1mm以下、
前記触媒原料溶液ミストの体積平均粒子径が前記対象粒子の体積平均粒子径の1/10以下、且つ、
前記第2供給口の最小幅が、前記触媒原料溶液ミストの体積平均粒子径の100倍以上である、
請求項1~3の何れかに記載の触媒付着体の製造方法。
【請求項5】
請求項1~4の何れかに記載の触媒付着体の製造方法に従って得られた触媒付着体を用いた、繊維状炭素ナノ構造体の製造方法であって、
前記縦型容器内に炭素原料気体を供給して、前記触媒付着工程を経て得られた前記触媒付着体上にて繊維状炭素ナノ構造体を成長させる繊維状炭素ナノ構造体成長工程を含む、
繊維状炭素ナノ構造体の製造方法。
【請求項6】
前記炭素原料気体を、前記第2供給口とは異なる供給口を通じて、前記縦型容器内に供給する、請求項5に記載の、繊維状炭素ナノ構造体の製造方法。
【請求項7】
前記触媒付着工程と、前記繊維状炭素ナノ構造体成長工程とを並行実施しない、請求項6に記載の、繊維状炭素ナノ構造体の製造方法。
【請求項8】
対象粒子に対して触媒原料を付着させて触媒付着体を得る触媒付着体製造装置であって、該触媒付着体製造装置は、
上部に排気口を有するとともに、下部に供給口を有する、縦型容器と、
前記供給口に対して接続された流動ガス配管を介して、前記縦型容器と連通するように配置され、前記縦型容器の上部方向に向かって、前記対象粒子を流動させるための少なくとも一種のガスを供給する、ガス供給装置と、
前記供給口を介して、前記縦型容器と連通するように配置された、触媒原料溶液ミスト供給装置と、
前記縦型容器にて調製された前記触媒付着体を回収可能に構成された回収装置と、
を備え、
前記回収装置が前記縦型容器の下端に位置する前記供給口に対して接続された主配管に対して接続されてなり、
前記触媒原料溶液ミスト供給装置のミスト含有ガス配管が前記主配管に対して接続する接続口であるミスト含有ガス配管接続口が、前記流動ガス配管が前記主配管に対して接続する接続口である流動ガス配管接続口よりも、上部に配置されている、触媒付着体製造装置。
【請求項9】
対象粒子に対して触媒原料を付着させて触媒付着体を得る触媒付着体製造装置であって、該触媒付着体製造装置は、
上部に排気口を有するとともに、下部に第1供給口及び第2供給口を有する、縦型容器と、
前記第1供給口を介して、前記縦型容器と連通するように配置され、前記縦型容器の上部方向に向かって、前記対象粒子を流動させるための少なくとも一種のガスを供給する、ガス供給装置と、
前記第2供給口を介して、前記縦型容器と連通するように配置された、触媒原料溶液ミスト供給装置と、
前記縦型容器にて調製された前記触媒付着体を回収可能に構成された回収装置と、
を備え、
前記回収装置が前記縦型容器の下端に位置する前記第2供給口に対して接続された主配管に対して接続されてなり、
前記第1供給口は、前記第2供給口に対して底部が接続されたテーパ状の多孔質板に設けられた複数の孔又はスリットである、触媒付着体製造装置。
【請求項10】
前記第2供給口の最小幅が、3mm以上である、請求項9に記載の触媒付着体製造装置。
【請求項11】
前記縦型容器内に炭素原料気体を供給する炭素原料気体供給装置を備える、
請求項8~10の何れかに記載された触媒付着体製造装置を含む、繊維状炭素ナノ構造体製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒付着体の製造方法及び製造装置、並びに、繊維状炭素ナノ構造体の製造方法及び製造装置に関するものである。特に、本発明は、繊維状炭素ナノ構造体を合成するために好適に用いることができる触媒付着体の製造方法、かかる触媒付着体の製造方法を好適に実施することができる触媒付着体製造装置に関する。また、特に、本発明は、上記の触媒付着体を用いた繊維状炭素ナノ構造体の製造方法、及びかかる繊維状炭素ナノ構造体の製造方法を好適に実施することができる繊維状炭素ナノ構造体製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、触媒成分を担持させるための粒子である担体粒子表面に、触媒成分を効率的に付着させるための方途が、種々検討されてきた。例えば、特許文献1及び2では、気相酸化用の触媒の製造方法が記載されている。これらの特許文献1及び2では、流動させた担体粒子に対して、触媒活性材料を含む懸濁液を噴霧することで、担体粒子表面に触媒成分が付着されてなる担持触媒を製造する方法が記載されている。
【0003】
また、近年、導電性、熱伝導性および機械的特性に優れる材料として、繊維状炭素材料、特にはカーボンナノチューブ(以下、「CNT」と称することがある。)等の繊維状炭素ナノ構造体が注目されている。CNTは、炭素原子により構成される筒状グラフェンシートからなり、その直径はナノメートルオーダーである。CNT等の繊維状炭素ナノ構造体は、概して、製造コストが高いため他の材料よりも高価であった。このため、上述したような優れた特性を有するにもかかわらず、その用途は限られていた。さらに、近年、比較的高効率でCNT等を製造することができる製造方法として、触媒を用いたCVD(Chemical Vapor Deposition)法(以下、「触媒CVD法」と称することがある)が用いられてきた。しかし、触媒CVD法でも、製造コストを十分に低減することができなかった。
【0004】
そこで、繊維状炭素ナノ構造体の製造に用いるための担持触媒を製造する際に、担体粒子を流動させつつ、触媒原料を含むガスを供給して担持触媒を製造する方途が検討されてきた(例えば、特許文献3参照)。具体的には、特許文献3では、担体粒子を流動させているところに、触媒成分含有液を上から噴霧することで、効率的且つ均一に担持触媒を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第4800948号明細書
【文献】特開2007-506540号
【文献】特許第3913181号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、繊維状炭素ナノ構造体には、より一層の高品質化が求められている。高品質な、即ち、質の揃った繊維状炭素ナノ構造体を合成するためには、その製造に用いる担持触媒が均質であることが求められている。また、上述したように、均質な担持触媒を効率的に製造することも求められている。
しかしながら、特許文献1~2に記載されたような、触媒活性材料を含む懸濁液を噴霧することで、担体粒子表面に触媒成分が付着されてなる担持触媒を製造する方法、及び特許文献3に記載されたような、流動させた担体粒子に対して、触媒成分含有液を上から噴霧する方法によっては、担体粒子(以下、「対象粒子」とも称する。)表面に対して、触媒原料を充分に均一に付着させることができなかった。より具体的には、担体粒子を流動化させる流動ガスは下方から上方に流通させるのに対し、懸濁液を上方から下方に噴霧すると、噴霧された懸濁液が流動ガスにより上方へと押し戻されるため、担体粒子層の下方まで触媒活性材料が十分に届かない問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、対象粒子の表面に対して、効率的且つ均一に触媒原料を付着させることができる、触媒付着体の製造方法及びかかる製造方法に従って得られた触媒付着体を用いた繊維状炭素ナノ構造体の製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記本発明の触媒付着体の製造方法を好適に実施することができる触媒付着体製造装置を提供することを目的とする。
そして、本発明は、上記本発明の繊維状炭素ナノ構造体の製造方法を好適に実施することができる繊維状炭素ナノ構造体製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者らは、縦型容器内に収容して流動状態とした対象粒子に対して、下から上方向に、ミスト状の触媒原料溶液を供給することにより、効率的且つ均一に触媒原料を対象粒子の表面に付着させうることを新たに見出し、本発明を完成させた。対象粒子に対して下方から上方に流動ガスを供給して対象粒子を流動化させる際に、ミスト状の触媒原料溶液も流動ガスに同伴されて対象粒子層の下方から上方まで均一に届くためである。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の触媒付着体の製造方法は、縦型容器を用いて対象粒子に対して触媒原料を付着させる触媒付着体の製造方法であって、前記縦型容器の下部に配置された第1供給口から、前記縦型容器の上部方向に向かって少なくとも一種のガスを供給して、前記縦型容器内の対象粒子を流動させる流動工程と、前記縦型容器の下部に配置された第2供給口から、前記縦型容器の前記上部方向に向かって、触媒原料溶液ミストを供給して、前記対象粒子に対して前記触媒原料を付着させて触媒付着体を得る触媒付着工程と、を含み、前記触媒付着工程を実施している間は、前記流動工程を継続する、ことを特徴とする。本発明の触媒付着体の製造方法は、流動状態とした対象粒子に対して、縦型容器の下部方向から上部方向に向かって触媒原料溶液ミストを供給する触媒付着工程を含むため、効率的且つ均一に触媒原料を対象粒子の表面に付着させることができる。
【0010】
また、本発明の触媒付着体の製造方法は、前記第1供給口及び前記第2供給口が、同一の供給口であり、前記ガス及び前記触媒原料溶液ミストが、同一の供給口を通じて、前記縦型容器内に導入される、ことが好ましい。流動ガス及び前記触媒原料溶液ミストが、同一の供給口を通じて、縦型容器内に導入されるようにすることで、一層効率的且つ均一に、触媒原料を対象粒子の表面に付着させることができる。
【0011】
また、本発明の触媒付着体の製造方法は、前記触媒付着工程にて、前記縦型容器を100℃以上1000℃以下で加熱することを含むことが好ましい。縦型容器を100℃以上1000℃以下で加熱しつつ、触媒付着工程を実施することで、一層効率的に触媒原料を対象粒子の表面に付着させることができる。
【0012】
また、本発明の触媒付着体の製造方法において、前記対象粒子の体積平均粒子径が0.1mm以上1mm以下、前記触媒原料溶液ミストの体積平均粒子径が前記対象粒子の体積平均粒子径の1/10以下、且つ、前記第2供給口の最小幅が、前記触媒原料溶液ミストの体積平均粒子径の100倍以上である、ことが好ましい。対象粒子の体積平均粒子径と触媒原料溶液ミストの体積平均粒子径との相互関係が上記条件を満たすようにすることで、一層均一に触媒原料を対象粒子の表面に付着させることができる。また、触媒原料溶液ミストを供給する第2供給口の最小幅が、触媒原料溶液ミストの体積平均粒子径の100倍以上であれば、第2供給口がミストにより閉塞することを抑制することができる。
なお、対象粒子の体積平均粒子径、及び触媒原料溶液ミストの体積平均粒子径は、例えば、JIS Z8825:2013に従って測定することができる。
【0013】
さらに、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の繊維状炭素ナノ構造体の製造方法は、上述した触媒付着体の製造方法に従って得られた触媒付着体を用いるものであり、前記縦型容器内に炭素原料気体を供給して、前記触媒付着工程を経て得られた前記触媒付着体上にて繊維状炭素ナノ構造体を成長させる繊維状炭素ナノ構造体成長工程を含むことを特徴とする。本発明の繊維状炭素ナノ構造体の製造方法によれば、効率的に繊維状炭素ナノ構造体を製造することができる。
【0014】
また、本発明の繊維状炭素ナノ構造体の製造方法において、前記炭素原料気体を、前記第2供給口とは異なる供給口を通じて、前記縦型容器内に供給することが好ましい。炭素原料気体を第2供給口以外の供給口から供給すれば、第2供給口付近に留まった触媒付着体や第2供給口付近に付着した触媒にて繊維状炭素ナノ構造体が成長してしまい、第2供給口を閉塞し易くなることを抑制することができる。
【0015】
また、本発明の繊維状炭素ナノ構造体の製造方法において、前記触媒付着工程と、前記繊維状炭素ナノ構造体成長工程とを並行実施しないことが好ましい。触媒付着工程と、繊維状炭素ナノ構造体成長工程とを、時間的に分けて実施することで、得られる繊維状炭素ナノ構造体に、触媒原料が付着して混入することを予防することができる。
【0016】
さらに、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の触媒付着体製造装置は、対象粒子に対して触媒原料を付着させて触媒付着体を得る触媒付着体製造装置であって、上部に排気口を有するとともに、下部に第1供給口及び第2供給口を有する、縦型容器と、前記第1供給口を介して、前記縦型容器と連通するように配置され、前記縦型容器の上部方向に向かって、前記対象粒子を流動させるための少なくとも一種のガスを供給する、ガス供給装置と、前記第2供給口を介して、前記縦型容器と連通するように配置された、触媒原料溶液ミスト供給装置と、を備える、ことを特徴とする。本発明の触媒付着体の触媒付着体製造装置は、少なくとも一種のガス供給装置により供給したガスにより流動状態とした対象粒子に対して、縦型容器の下部方向から上部方向に向かって、触媒原料溶液ミスト供給装置により触媒原料溶液ミストを供給するため、効率的且つ均一に触媒原料を対象粒子の表面に付着させることができる。
【0017】
また、本発明の触媒付着体製造装置において、前記第1供給口及び前記第2供給口が、同一の供給口であることが好ましい。流動ガス及び前記触媒原料溶液ミストが、同一の供給口を通じて、縦型容器内に導入されるようにすることで、一層効率的且つ均一に、触媒原料を対象粒子の表面に付着させることができる。
【0018】
さらにまた、本発明の触媒付着体製造装置は、前記第2供給口の最小幅が、3mm以上であることが好ましい。第2供給口の最小幅が、3mm以上であれば、第2供給口が閉塞し易くなることを抑制することができる。
【0019】
そして、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の繊維状炭素ナノ構造体製造装置は、上述した何れかの触媒付着体製造装置を含み、さらに、前記縦型容器内に炭素原料気体を供給する炭素原料気体供給装置を備えることを特徴とする。かかる製造装置によれば、上述した本発明の繊維状炭素ナノ構造体の製造方法を好適に実施することができる。
【0020】
また、本発明の繊維状炭素ナノ構造体製造装置において、前記炭素原料気体供給装置は、前記縦型容器に対して、前記第2供給口以外の供給口を介して接続されることが好ましい。炭素原料気体供給装置が、第2供給口以外の供給口を介して、縦型容器に対して接続されていれば、第2供給口付近に留まった触媒付着体や第2供給口付近に付着した触媒にて繊維状炭素ナノ構造体が成長してしまい、第2供給口を閉塞し易くなることを抑制することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、対象粒子の表面に対して、効率的且つ均一に触媒原料を付着させることができる、触媒付着体の製造方法及びかかる製造方法に従って得られた触媒付着体を用いた繊維状炭素ナノ構造体の製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、上記本発明の触媒付着体の製造方法を好適に実施することができる触媒付着体製造装置を提供することができる。
そして、本発明によれば、上記本発明の繊維状炭素ナノ構造体の製造方法を好適に実施することができる繊維状炭素ナノ構造体製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の触媒付着体製造装置の構成の一例を示す概略図である。
【
図2】本発明の触媒付着体製造装置の構成の他の一例を示す概略図である。
【
図3】本発明の繊維状炭素ナノ構造体製造装置の構成の一例を示す概略図である。
【
図4】本発明の繊維状炭素ナノ構造体製造装置の構成の他の一例を示す概略図である。
【
図5】実施例1-1に従う、CNT合成後の触媒付着体のSEM画像である。
【
図6】実施例1-2に従う、CNT合成後の触媒付着体のSEM画像である。
【
図7】実施例1-3に従う、CNT合成後の触媒付着体のSEM画像である。
【
図8】実施例1-4に従う、CNT合成後の触媒付着体のSEM画像である。
【
図9】実施例2-1に従う、CNT合成後の触媒付着体のSEM画像である。
【
図10】実施例2-2に従う、CNT合成後の触媒付着体のSEM画像である。
【
図11】実施例2-3に従う、CNT合成後の触媒付着体のSEM画像である。
【
図12】実施例2-4に従う、CNT合成後の触媒付着体のSEM画像である。
【
図13】実施例3-1に従う、CNT合成後の触媒付着体のSEM画像である。
【
図14】実施例3-2に従う、CNT合成後の触媒付着体のSEM画像である。
【
図15】実施例3-3に従う、CNT合成後の触媒付着体のSEM画像である。
【
図16】実施例4-1に従う、CNT合成後の触媒付着体のSEM画像である。
【
図17】実施例5-1に従う、CNT合成後の触媒付着体のSEM画像である。
【
図18】実施例5-2に従う、CNT合成後の触媒付着体のSEM画像である。
【
図19】実施例5-3に従う、CNT合成後の触媒付着体のSEM画像である。
【
図20】実施例6-1に従う、CNT合成後の触媒付着体のSEM画像である。
【
図21】実施例6-2に従う、CNT合成後の触媒付着体のSEM画像である。
【
図22】実施例6-3に従う、CNT合成後の触媒付着体のSEM画像である。
【
図23】実施例6-4に従う、CNT合成後の触媒付着体のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の触媒付着体の製造方法、及び触媒付着体製造装置を用いて製造した触媒付着体は、例えば、カーボンナノチューブ、及びカーボンナノファイバー等の繊維状炭素ナノ構造体の製造に好適に使用することができる。以下、本発明の触媒付着体製造装置及びこれを含む繊維状炭素ナノ構造体製造装置について説明した後に、本発明の触媒付着体製造方法及び繊維状炭素ナノ構造体製造方法について説明する。
【0024】
(触媒付着体製造装置)
本発明の触媒付着体製造装置は、対象粒子に対して触媒原料を付着させて触媒付着体を得る触媒付着体製造装置である。そして、本発明の触媒付着体製造装置によれば、本発明の触媒付着体の製造方法を好適に実施することができる。
図1に、本発明の触媒付着体製造装置の一例に係る概略構造を示す。
図1に示す触媒付着体製造装置100は、縦型容器10と、縦型容器10の上部方向に向かって、対象粒子を流動させるための少なくとも一種のガスを供給するガス供給装置20と、縦型容器10の上部方向に向かって触媒原料溶液ミストを供給する触媒原料溶液ミスト供給装置30とを備える。かかる装置構成を有する本発明の触媒付着体製造装置及び製造方法によれば、対象粒子を流動して流動床を形成しつつ、かかる流動床に対して下方向から上方向に向かって、触媒原料溶液ミストを対象粒子に対して接触させることができるため、流動床を構成する粒子に対して満遍なく、且つ効率的に触媒原料溶液ミストを供給することができる。更に、流動床では、触媒原料溶液ミストが接触し付着した対象粒子を迅速に乾燥させることができる。従って、本発明の触媒付着体製造装置等によれば、対象粒子の表面に対して、効率的且つ均一に触媒原料を付着させることができる。
【0025】
<対象粒子>
触媒原料の付着対象である対象粒子としては、既に触媒材料が付着している担体粒子、又は、未だ触媒材料を付着させていない担体粒子でありうる。既に触媒材料が付着している担体粒子としては、例えば、(1)以前に触媒付着体とされた上で、繊維状炭素ナノ構造体の合成等の目的の用途に使用されたことがあり、表面上に失活した触媒材料を有してなる担体粒子;及び、(2)既に1回又は複数回の触媒付着操作を経た担体粒子であって、さらに触媒成分を付着させる必要がある担体粒子が挙げられる。言い換えれば、本発明の触媒付着体の製造方法は、未だ触媒材料を付着させていない状態の担体粒子に対して触媒材料を付着させるために用いることもできるし、既に触媒材料が付着している担体粒子に対して、更に触媒材料を付着させるために用いることもできる。
【0026】
一例において、対象粒子は、具体的には、アルミナビーズ、ジルコニアビーズ、石英ビーズ、ジルコンビーズ、及びムライトビーズのようなセラミック粒子よりなる担体粒子であり得る。また、対象粒子の体積平均粒子径は、好ましくは、0.1mm以上1mm以下でありうる。
なお、本発明において、「粒子」とは、アスペクト比が5未満の物体をいう。なお、対象粒子のアスペクト比は、例えば、顕微鏡画像上で、任意に選択した100個の対象粒子について(最大長径/最大長径に直交する幅)の値を算出し、その平均値を算出することで、確認することができる。また、対象粒子の体積平均粒子径は、JIS Z8825:2013に準拠して測定した粒度分布(体積基準)において、小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径(D50)を表す。
【0027】
<装置構成>
縦型容器10は、上部に排気口11を有するとともに、下部に第1供給口及び第2供給口を有する。なお、縦型容器10の「下部」とは、縦型容器10の高さ方向の長さの半分の位置を基準として、下側の部分を指す。そして、縦型容器10は、第1供給口及び第2供給口よりも上側に、排気口11を有する。また、第1供給口及び第2供給口は、それぞれ、単一の開口部及び複数の開口部のいずれで構成されていても良い。
【0028】
ここで、本一例に係る触媒付着体製造装置では、第1供給口及び第2供給口が同一の供給口であり、
図1では、縦型容器10の下底部に設けられた供給口12として示される。さらに、ガス供給装置20は、ミストキャリアガス供給部21及び流動ガス供給部22により実装される。ミストキャリアガス供給部21は、キャリアガス配管41、ミスト含有ガス配管42、及び、主配管43の一部を経て、供給口12(この場合、「第1供給口」に相当)を介して縦型容器10に接続されている。また、流動ガス供給部22は、流動ガス配管44及び主配管43の一部を経て、供給口12(この場合、「第1供給口」に相当)を介して縦型容器10に接続されている。また、触媒原料溶液ミスト供給装置30は、ミスト含有ガス配管42及び供給口12(この場合、「第2供給口」に相当)を介して、縦型容器10に接続されている。なお、各種配管41~44は、任意で、バルブ51~54をそれぞれ備えていても良い。なお、バルブ51~54に代えて、或いは追加して、配管内を流れる流体又は物体の流量を調節する機能を備えるあらゆる部材及び/又は装置が実装されていても良い。かかる部材及び装置には、特に限定されることなく、インバーターつきのポンプ、シャッター、及び流量計等が含まれていても良い。また、主配管43に配置されたバルブ53は、縦型容器10にて触媒付着工程が実施されている最中は閉塞状態とされ、触媒付着工程が終了した後に開放状態とされうる。
【0029】
<縦型容器>
縦型容器10は、内部に対象粒子を収容可能である限りにおいて特に限定されることなく、ステンレス及びガラス等の材料により構成される容器である。縦型容器10の形状は、「縦型」、即ち、容器の高さが当該高さの方向に対して垂直な方向の最大幅よりも大きいという条件を満たす形状であれば、特に限定されることなく、あらゆる形状であり得る。例えば、
図1に示した縦型容器10の形状は、高さの方向に対して垂直な断面の形状が円形であり、下端付近にて、断面直径が下端に向かって漸次的に小さくなるテーパ状の部分(以下、「テーパ部」とも称する)を有する形状である。
【0030】
縦型容器10は、テーパ部と、かかるテーパ部に連なる本体部分にて対象粒子60を収容可能である。テーパ部は、対象粒子60を収容可能であるともに、テーパ部の底部に配置された供給口12から、調製した触媒付着体を排出可能に構成されている。対象粒子60は、縦型容器10内に収容された収容物であり、担体粒子及び触媒付着体の少なくとも一方を含む。縦型容器10は、上部、より具体的には、排気口11よりも上側に粒子投入口13を有しており、対象粒子60は、かかる粒子投入口13を介して縦型容器10内に導入されうる。
【0031】
そして、対象粒子60は、縦型容器10の内部において流動床を形成している。具体的には、対象粒子60は、少なくとも一部が供給口12を介して下方向から吹きあげられながら、縦型容器10の内部に留まり流動する。この流動により、対象粒子60の表面上に、触媒原料溶液ミストが接触する。
【0032】
<ガス供給装置>
ガス供給装置20を構成する、
図1に示した、ミストキャリアガス供給部21及び流動ガス供給部22は、それぞれ、所定のガスを縦型容器10の下底部に設けられた供給口12から上方向に向かって供給する。なお、
図1では、ガス供給装置20が、ミストキャリアガス供給部21及び流動ガス供給部22という二つの構成部を含んでなる構造を例示したが、他の例において、ガス供給装置が流動ガス供給部を含まず、ミストキャリアガス供給部から供給されるミストキャリアガスが、縦型容器にまでミストを到達させるとともに、縦型容器内に導入された後においては、対象粒子を流動させるガスとして機能することも可能である。
【0033】
ミストキャリアガス供給部21は、例えば、ミストキャリアガスの供給源でありうるタンク又はボンベ、及びポンプ等を含んでなりうる。なお、ミストキャリアガスとしては、ミストを搬送可能な限りにおいて特に限定されることなく、あらゆるガスを用いることができる。例えば、ミストキャリアガスとしては、アルゴン等の希ガス及び窒素等の不活性ガスを好適に用いることができる。
【0034】
流動ガス供給部22は、例えば、流動ガスの供給源であるタンク又はボンベ、及びポンプ等を含んでなりうる。なお、流動ガスとしては、ミストキャリアガスとして列挙した各種ガスと同様のガスを用いることができる。中でも、コスト低減の観点から、流動ガスとしては窒素ガスを用いることが好ましい。また、触媒付着体の製造時に、触媒の焼成を同時に行う場合は酸素や水蒸気を、触媒の還元を同時に行う場合は水素を、流動ガスに含ませることができる。
【0035】
そして、ガス供給装置20は、縦型容器10内で対象粒子60により流動床を形成するにあたり、対象粒子60の全てが自重で落下する速度以上であって、対象粒子60が縦型容器10外に飛ばされうる速度未満の速度で、ガスを縦型容器10内に流入させることが好ましい。これにより、流動床を形成する対象粒子60の少なくとも一部を縦型容器10内にて流動状態を保つことが可能となる。なお、落下の速度は対象粒子60の大きさや密度に基づいて決定することができる。
【0036】
<触媒原料溶液ミスト供給装置>
触媒原料溶液ミスト供給装置30は、触媒原料溶液からミストを生成することができる限りにおいて特に限定されることなく、あらゆる機構により具現化することでき、例えば、振動、静電気、又は、二流体を用いてミストを生成する機構が挙げられる。
図1では、触媒原料溶液ミスト供給装置30が、超音波による振動を用いてミストを生成する機構を採用した装置であるものとして図示する。触媒原料溶液ミスト生成装置30は、ミスト生成室31、振動子32、及び振動制御部33を備えて成る。振動制御部33は、所定の周波数で振動子32を振動させるように制御する。そして、振動子32が触媒原料溶液34内で振動することにより、触媒原料溶液ミスト35が生成される。生成された触媒原料溶液ミスト35は、ミストキャリアガス供給部21から、キャリアガス配管41を経てミスト生成室31内に導入されたミストキャリアガスにより搬送されて、ミスト含有ガス配管42内に導入される。その後、ミストキャリアガスにより搬送された触媒原料溶液ミスト35が、縦型容器10内に導入される。
【0037】
振動制御部33は、所望のサイズの触媒原料溶液ミスト35を生成するために、適宜、振動子32の振動周波数等の条件を決定することができる。触媒原料溶液ミストの体積平均粒子径は、対象粒子の体積平均粒子径の1/10以下であることが好ましく、1/30以下であることがより好ましい。触媒原料溶液ミストの体積平均粒子径を、対象粒子の体積平均粒子径の1/10以下、より好ましくは1/30以下となるようにすることで、一層均一に触媒原料を対象粒子の表面に付着させることができる。より具体的には、触媒原料溶液ミストの体積平均粒子径は、30μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。触媒原料溶液ミストの体積平均粒子径がかかる上限値以下であれば、一層均一に触媒原料を対象粒子の表面に付着させることができる。特に、ミストの体積平均粒子径を小径化することで、乾燥に要する時間を短縮せしめて、ミストが対象粒子表面にてはじかれることに起因して所謂「染み」のように、触媒原料の付着が不均一となる部分が生じることを効果的に抑制することができる。なお、触媒原料溶液ミストの体積平均粒子径は、通常、10nm以上、或いは、100nm以上であり得る。また、ミストの体積平均粒子径は、JIS Z8825:2013に準拠して測定した粒度分布(体積基準)において、小径側から計算した累積体積が50%となる粒子径(D50)を表す。さらにまた、触媒原料溶液ミストの体積平均粒子径は、触媒溶液からミストを生成する際の生成装置の設定に応じて、調節することができる。
【0038】
触媒原料溶液34としては、Si、Al、Mg、Fe、Co、及びNiの中から選択される1種以上の元素を含有する化合物を、一種又は複数種含む溶質を、水、エタノール、イソプロピルアルコール、トルエン、ヘキサン等の溶媒に対して溶解して得た溶液を好適に用いることができる。かかる化合物としては、具体的には、Al(NO3)3、Mg(NO3)2、Fe(NO3)3、Co(NO3)2、Ni(NO3)2等の無機金属塩、Al(CH3COO)3、Mg(CH3COO)2、Fe(CH3COO)2、Co(CH3COO)2、Ni(CH3COO)2等の有機金属塩、Si(OC2H5)4、Al(OC3H7)3、等の非金属/金属アルコキシド、Fe(C5H5)2、Co(C5H5)2、Ni(C5H5)2等の有機金属化合物等を挙げることができる。以上列挙したような化合物のうち、特に安価な無機金属塩を溶媒に対して溶解して成る溶液は、概して、表面張力が高い傾向がある。そして、かかる溶液を、対象粒子と単に接触させても、その高い表面張力に起因して、対象粒子表面で液滴を形成してしまい、均一に付着させることが難しいことが想定された。そこで、本発明者らは、対象粒子を流動化させているところに、ミストとして、これらの化合物を溶解してなる溶液を供給するという構成を採用することで、触媒原料を対象粒子の表面に均一に付着させることに成功した。
中でも、繊維状炭素ナノ構造体を合成する触媒として使用した場合に活性が高い触媒付着体を製造する観点から、触媒原料溶液34を得るにあたり、溶質として、Alを含有する化合物であるAl(NO3)3、及び、Feを含有する化合物であるFe(NO3)3を併用し、溶媒として水を採用して混合水溶液とすることが好ましい。また、上記と同様の観点から、触媒原料溶液34を得るにあたり、溶質として、Alを含有する化合物であるAl(O-i-Pr)3(即ち、アルミニウムイソプロポキシド)、及び、Feを含有する化合物であるFe(C5H5)2を併用し、溶媒としてエタノールを採用して混合エタノール溶液とすることも好ましい。なお、触媒原料溶液34中では、溶質が全て溶解状態にあるため、触媒原料溶液34は実質的に固形分を含有しない。また、触媒原料溶液34の底部に溶質が固形分として存在しても、溶液表面からミストを発生させることで、固形分を含まないミストを対象粒子に供給することも可能である。
【0039】
上述したように、ガス供給装置20及び触媒原料溶液ミスト供給装置30は、供給口12を介して縦型容器10に接続されている。従って、供給口12及びその近傍には、触媒原料を含有するミストが付着し易い。そして、偶発的又は何らかの事情により流動床から落下してきた対象粒子又は触媒付着体が、ミストが付着して湿った状態となった供給口12及びその近傍に接触した場合に、これらの対象粒子又は触媒付着体が、供給口12及びその近傍にて留まりやすい。このような現象が生じて蓄積することで、最終的に、供給口12が閉塞する虞がある。そこで、かかる閉塞が生じる可能性を低減するために、供給口12の最小幅が、3mm以上であることが好ましい。さらに、かかる効果を一層高める観点から、供給口12の最小幅が、触媒原料溶液ミストの体積平均粒子径の100倍以上であることが好ましく、300倍以上であることがより好ましい。裏返せば、触媒原料溶液ミストの体積平均粒子径が、供給口12の最小幅の1/100以下であることが好ましく、1/300以下であることがより好ましい。
ここで、「供給口の最小幅」とは、具体的には、(1)供給口の開口形状が円の場合には当該円の直径を意味し;(2)供給口の開口形状が楕円状であるときは短径を意味し;(3)供給口の開口形状が長方形の場合は短辺の長さを意味し;(4)供給口の開口形状がスリット状であるときはスリットの最小幅を意味する。
【0040】
なお、
図1では、ガス供給装置20及び触媒原料溶液ミスト供給装置30が一つの供給口12を介して縦型容器10に対して接続する構成を採用したため、供給口12の開口形状の好適な特徴として、上述の特徴を示した。しかし、後述する
図2に示すように、ガス供給部及び触媒原料溶液ミスト供給装置が互いに異なる供給口を介して縦型容器10に対して接続する場合、即ち、第1供給口を介してガス供給装置が縦型容器と連通するように配置され、第2供給口を介して触媒原料溶液ミスト供給装置が縦型容器と連通するように配置されたような態様の場合には、少なくとも、第2供給口の開口形状が、上述したような各種条件を満たすことが好ましい。
【0041】
<加熱装置>
さらに、触媒付着体製造装置100は、縦型容器10内部を加熱することができるように構成された加熱装置70をさらに備えることが好ましい。加熱装置70は、特に限定されることなく、例えば各種ヒーターにより構成されうる。さらに、加熱装置70は縦型容器10を、好ましくは100℃以上、より好ましくは200℃以上、好ましくは1000℃以下、より好ましくは900℃以下に加熱することができる。縦型容器10を上記範囲内で加熱可能な加熱装置70を備えることで、対象粒子に対して付着したミストを効率的に乾燥することができ、一層効率的に触媒付着体を製造することができる。なお、加熱温度は、用いる触媒原料溶液の種類及び性状、並びに、流動ガス及びミストキャリアガスを供給する際の流量等に応じて、最適化することができる。また、加熱された縦型容器10の内部の温度も、上記好適範囲内となり得る。
【0042】
<回収装置>
さらに、触媒付着体製造装置100は、縦型容器10にて調製された触媒付着体を回収可能に構成された、回収装置80を備えることが好ましい。回収装置80は、
図1に示すように、縦型容器10の下方に位置することが好ましい。かかる構成によれば、供給口12を介して、触媒付着体を縦型容器よりも下方にて回収することで、効率的に触媒付着体を回収することができる。
図1では、縦型容器10の下端に位置する供給口12に連結された主配管43を介して、回収装置80を構成する回収室が接続されている。
【0043】
なお、触媒付着体の回収を容易にする観点から、ミスト含有ガス配管42が主配管43に対して接続する接続口であるミスト含有ガス配管接続口46が、流動ガス配管44が主配管43に対して接続する接続口である流動ガス配管接続口47よりも、上側(即ち、縦型容器10により近い側)に配置されていることが好ましい。主配管43の上部、より具体的には、ミスト含有ガス配管接続口46の接続位置から上側の内壁は、触媒原料溶液ミストが通過するために、触媒付着工程を実施している最中には湿りやすい。そこで、ミスト含有ガス配管接続口46よりも流動ガス配管接続口47が下部にあれば、流動ガス配管接続口47を経て主配管43を通過する流動ガスにより、主配管43の上部の内壁を、回収に先立って乾燥させることが可能となる。ミスト含有ガス配管接続口46及び流動ガス配管接続口47の相対的な位置関係を上記のようにすることで、触媒付着体が湿った内壁にトラップされることを抑制して、触媒付着体の回収を容易にすることができる。
【0044】
以上説明したような構成を有する、一例に従う触媒付着体製造装置によれば、効率的且つ均一に触媒原料を対象粒子の表面に付着させることができる。
なお、触媒付着体製造装置に備えられる縦型容器の下部が、
図1に示したようなテーパ部を備えることは必須ではない。即ち、ある変形態様において、縦型容器の底部が高さ方向に対して直交する平面よりなり、かかる底部から少し空間を空けて、ガス及び触媒原料溶液ミストを分散する分散板として機能する多孔板を備えていてもよい。かかる構造を有する縦型容器内部では、多孔板により対象粒子の少なくとも一部が支持される。そして、かかる構成では、多孔板に目詰まりが生じることを抑制する観点から、多孔板を貫通する管を用いて、多孔板の上面又は上方に、第2供給口を配置することが好ましい。
【0045】
また、
図1では、縦型容器10の下端に位置する供給口12に連結された主配管43を介して、回収装置80を構成する回収室が接続されている構成を例示したが、回収室の接続態様は、かかる構成に限定されるものではない。例えば、回収室が、縦型容器の上部、下部、又は側部の何れかに設けられた回収口を通じて、縦型容器と連通するように配置されていても良い。この場合、大流量の流動ガスを縦型容器に供給することで、触媒付着体を回収口まで運ぶことができる。また、回収時に縦型容器の上部から、縦型容器より小さい内径を有する回収管を下すことで、回収管の下端の回収口を縦型容器の下方に設け、この回収口から回収管を通して触媒付着体を縦型容器の上方に回収しても良い。さらに、触媒付着体製造装置は、必要に応じて、縦型容器を傾斜又は回転可能な機構を備えていても良い。かかる構成を有する触媒付着体製造装置によれば、種々の位置に設けられた回収口を開放し、且つ、必要に応じて縦型容器を傾斜又は回転させることで、触媒付着体を回収することができる。
【0046】
また、
図1では、縦型容器の下部に配置された第1供給口(対象粒子を流動させるガスの供給口)及び、第2供給口(触媒原料溶液ミストの供給口)が同じ供給口12として実装される態様を例示した。しかし、本発明の他の態様において、
図2に概略構成を例示する触媒付着体製造装置100’のように、第1供給口14と第2供給口15とが、異なる供給口として実装されていても良い。
図2において、
図1に示した各構成部に対応する各構成部については、同じ参照符号を付して示し、
図1に示した構成部と機能は対応するものの、配置及び/又は構造が異なる構成部については、同じ参照符号に「’」を付して示す。
図2に示す触媒付着体製造装置100’では、流動ガス供給部22’が、バルブ54’を有する流動ガス配管44’、及び第1供給口14を介して、縦型容器10’と連通するように配置されており、第2供給口15を介して、触媒原料溶液ミスト供給装置30が縦型容器10’と連通するように配置されている。よって、流動ガス供給部22’から供給され、流動ガス配管44’を経て移送されてきた流動ガスが第1供給口14を介して縦型容器10’内に供給される。ここで、
図2に示す第1供給口14は、第2供給口15に対して底部が接続されたテーパ状の多孔質板に設けられた複数の孔(又はスリット)として実装される。かかる第1供給口14を通過した流動ガスは、対象粒子を流動させるように機能する。なお、
図2では、第1供給口14を、多孔質板に設けられた複数の孔として図示したが、第1供給口14の数は1つであっても良い。また、第2供給口15に対して底部が接続されたテーパ状の多孔質板の形状は、テーパ状に限定されることなく、あらゆる形状であり得る。
【0047】
(繊維状炭素ナノ構造体製造装置)
図3に、
図1を参照して上述した本発明の触媒付着体製造装置100を含む、本発明の繊維状炭素ナノ構造体製造装置200の概略構成を示す。
図3において、機能及び構造が
図1と同じ構成部については、同じ参照符号を付して示す。
図3に示すように、繊維状炭素ナノ構造体製造装置200は、
図1を参照して説明した触媒付着体製造装置に対して、炭素原料気体供給装置90を接続して成る装置である。炭素原料気体供給装置90は、炭素原料供給配管45、流動ガス配管44の一部、及び主配管43の一部を介して、縦型容器10に接続されている。さらに、繊維状炭素ナノ構造体製造装置200は、図示しない制御装置を備えていても良い。
【0048】
炭素原料気体供給装置90は、詳細な構成を図示しないが、繊維状炭素ナノ構造体を製造するための材料となり得る炭素原料を含む気体を供給可能な限りにおいて特に限定されることなく、タンク及びボンベ等により実装されうる炭素原料気体供給源と、ポンプ等を含んでなる。炭素原料としては、既知のものを用いることができ、例えば、炭素アルキン及びアルケン(オレフィン炭化水素)、アルカン(パラフィン炭化水素)、アルコール、エーテル、アルデヒド、ケトン、芳香族炭化水素、及び一酸化炭素の中から選択される1種以上の炭素原料が挙げられる。なお、炭素原料気体は、これらの炭素原料に加えて、アルゴン等の希ガス及び窒素等の不活性ガス、水素等の還元性ガス及び/又は二酸化炭素等の酸素元素含有ガスを含んでも良い。
【0049】
繊維状炭素ナノ構造体製造装置200は、賦活済みの触媒付着体を収容した状態で、炭素原料気体供給装置90を駆動することで、縦型容器10内にて、触媒付着体上に繊維状炭素ナノ構造体を合成することができる。尚、賦活済みの触媒付着体は、例えば、縦型容器10内にて調製した触媒付着体を縦型容器10内に収容したまま、これらと水素、アンモニア、メタン等の還元性ガスとを接触させることにより、得ることができる。
【0050】
ここで、任意の構成である、図示しない制御装置は、触媒原料溶液ミスト供給装置30による縦型容器10内への触媒原料溶液ミストの供給と、炭素原料気体供給装置90による縦型容器10内への炭素原料気体の供給とを並行実施しないように、即ち、触媒原料溶液ミストの供給と、炭素原料気体の供給とを時間的に制御することができる。縦型容器10内に、触媒原料溶液ミスト及び炭素原料気体を同時に供給しない、換言すれば、繊維状炭素ナノ構造体を合成する最中に、触媒原料溶液ミストを縦型容器10内に供給しなければ、得られる繊維状炭素ナノ構造体に、触媒原料が付着して混入して、繊維状炭素ナノ構造体の純度が低下することを抑制することができる。
【0051】
そして、縦型容器10内にて触媒付着体上に繊維状炭素ナノ構造体を成長させた後に、炭素原料気体供給装置90の駆動を停止して、表面に繊維状炭素ナノ構造体を有する触媒付着体を回収装置80にて回収する。なお、
図3では、縦型容器10の底部(下部)に備えられた供給口12が回収口としても機能し得る構成、即ち、対象粒子を流動させるためのガスを縦型容器10内に導入するための第1供給口、及び、触媒原料溶液ミストを縦型容器10内に導入するための第2供給口が、回収口を兼ねる構成を示した。しかし、回収口の構成はかかる態様に限定されるものではなく、ある変形例において、縦型容器10は、側部又は上部に、回収口を有していても良い。
【0052】
また、
図3では、炭素原料気体供給装置90が、炭素原料供給配管45、流動ガス配管44の一部、及び主配管43の一部を介して縦型容器10に接続されてなる構造を例示した。しかし、炭素原料気体供給装置90の縦型容器10に対する接続態様は、図示の態様に限定されるものではない。ただし、炭素原料気体供給装置90は、縦型容器10に対して、縦型容器10内にて下方向から上方向に、炭素原料気体を流通させるような態様で、接続されることが好ましい。
【0053】
また、
図4では、
図2に示す触媒付着体製造装置100’を含む、本発明の他の態様に係る繊維状炭素ナノ構造体製造装置200’の概略構成を示す。
図4において、
図1~3に示した各構成部に対応する各構成部については、同じ参照符号を付して示す。また、
図3に係る、繊維状炭素ナノ構造体製造装置200とは配置の異なる、炭素原料気体供給装置及び炭素原料供給配管については、同じ参照符号に「’」を付して示す。
【0054】
繊維状炭素ナノ構造体製造装置200’では、炭素原料気体供給装置90’は、炭素原料供給配管45’、バルブ54’を有する流動ガス配管44’の一部、及び第1供給口14を介して、縦型容器10’に対して接続されている。そして、炭素気体供給装置90’から供給された炭素原料気体は、流動ガス配管44'との合流部にて、流動ガスと混合されてから、第1供給口14を介して縦型容器10’内に導入される。かかる構成によれば、触媒原料溶液ミストが供給される第2供給口15とは異なる供給口である、第一供給口14を介して炭素原料気体が縦型容器10’内に導入される。このため、第2供給口15付近にとどまった触媒付着体や第2供給口15付近に付着した触媒にて、繊維状炭素ナノ構造体が成長することを抑制することができる。この結果、第2供給口15が詰まり易くなることを抑制することができる。なお、
図4に示した態様とは異なる変形態様において、炭素気体供給装置が、第1供給口及び第2供給口の何れとも異なる供給口を介して、縦型容器と連通するように配置されていても良い。
【0055】
(触媒付着体の製造方法)
本発明の触媒付着体の製造方法は、縦型容器の下部に配置された第1供給口から上部方向に向かって少なくとも一種のガスを供給して対象粒子を流動させる流動工程と、縦型容器の下部に配置された第2供給口から上部方向に向かって触媒原料溶液ミストを供給して対象粒子に対して触媒原料を付着させて触媒付着体を得る触媒付着工程と、を含み、触媒付着工程を実施している間は、流動工程を継続する、ことを特徴とする。本発明の触媒付着体の製造方法は、流動状態とした対象粒子に対して、縦型容器の下部方向から上部方向に向かって触媒原料溶液ミストを供給する触媒付着工程を含むため、効率的且つ均一に触媒原料を対象粒子の表面に付着させることができる。以下、各工程について詳述する。本発明の触媒付着体の製造方法は、上述した本発明の触媒付着体製造装置により好適に実施することができる。以下、一例として、本発明の触媒付着体の製造方法を、本発明の触媒付着体製造装置を用いて実施する場合について説明する。
【0056】
<準備工程>
準備工程では、縦型容器10内に対象粒子60を収容する。対象粒子60としては、(触媒付着体製造装置)の項目にて詳述したような粒子を好適に用いることができる。なお、準備工程で縦型容器10内に対象粒子60を収容するための具体的な方途としては、例えば、
図1に示すように、縦型容器10の上部に設けられた粒子投入口13から、縦型容器10内に対象粒子60を投入することが挙げられる。
【0057】
<流動工程>
流動工程では、ガス供給装置20を駆動させて、下部に配置された供給口12から、縦型容器10の上部方向に向かって少なくとも一種のガスを供給して、対象粒子60を流動させる。ここで、「少なくとも一種のガス」には、本例においては、ミストキャリアガス供給部21由来のミストキャリアガスと、流動ガス供給部22由来の流動ガスとが含まれる。なお、
図1に示した触媒付着体製造装置100の一例に従う変形態様であって、流動ガス供給部22を有さない構成の触媒付着体製造装置を用いる場合には、ミストキャリアガスが、ミストキャリアとして機能するだけでなく、対象粒子60を流動させるためのガスとして機能する。なお、ミストキャリアガス供給部21由来のガスについて、「ミストキャリアガス」と称しているが、触媒原料溶液ミスト供給装置30を駆動しない間は、「ミストキャリアガス」は、ミストを搬送するミストキャリアとしてではなく、純粋に、対象粒子60を流動させるためのガスとして機能し得る。
【0058】
ミストキャリアガス、及び流動ガスとしては、それぞれ、(触媒付着体製造装置)の項目にて詳述したガスを好適に用いることができる。また、これらのガスの流入速度は、(触媒付着体製造装置)の項目にて詳述したような速度とすることが好ましい。
【0059】
<触媒付着工程>
触媒付着工程では、縦型容器10の下部に配置された供給口12から、縦型容器10の上部方向に向かって触媒原料溶液ミストを供給して、流動状態の対象粒子60に対して触媒原料を付着させて触媒付着体を得る。より具体的には、触媒付着工程では、触媒原料溶液ミスト供給装置30を駆動させて、触媒原料溶液ミストを生成して、ミストキャリアガス供給部21から供給されるミストキャリアガスに同伴させて、縦型容器10内に下方向から導入する。縦型容器10内の下方向から上方向に向かって、流動ガスと共に触媒原料溶液ミストが流れることで、ムラ無く均一な対象粒子表面への触媒原料の付着が実現可能となる。
【0060】
触媒原料溶液ミスト供給装置30にて生成される触媒原料溶液ミストの体積平均粒子径は、(触媒付着体製造装置)の項目にて好適な態様として説明した態様と同様に、対象粒子の体積平均粒子径の1/10以下であることが好ましく、1/30以下であることがより好ましく、且つ、供給口12の最小幅の1/100以下であることが好ましく、1/300以下であることがより好ましい。また、触媒原料溶液ミストの体積平均粒子径の具体的な値も、同様に、30μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、通常、10nm以上、或いは、100nm以上であり得る。
【0061】
ここで、均一且つ効率的な対象粒子表面への触媒原料の付着を実現する観点から、触媒付着工程を実施している間は、対象粒子60を流動状態としておくことが必要である。そして、触媒付着工程を完了した後、触媒原料溶液ミスト供給装置30の駆動を停止した後に、触媒付着済みの粒子(即ち、触媒付着体)を確実に乾燥させる観点から、必要に応じて、しばらくの間、対象粒子60を流動状態としておいても良い。
【0062】
さらに、触媒付着工程の間、加熱装置70を起動して、縦型容器10を好ましくは100℃以上、より好ましくは200℃以上、好ましくは1000℃以下、より好ましくは900℃以下で加熱することがより好ましい。なお、縦型容器10の加熱は、触媒付着工程の前後のタイミングにおいても継続していても良い。また、加熱温度は、用いる触媒原料溶液の種類及び性状、並びに、流動ガス及びミストキャリアガスを供給する際の流量等に応じて、最適化することができる。
【0063】
さらにまた、触媒付着工程において、異なる組成の触媒原料溶液より生成したミストを所定時間ずつ、切り替えて縦型容器10に対して供給しても良い。これにより、触媒原料溶液ミストの組成に応じて、組成の相異なる複数の層を、対象粒子表面に形成することができる。かかる複数の層の組み合わせを最適化することで、得られる触媒付着体が呈し得る触媒活性を高めることができる。
【0064】
<回収工程>
そして、触媒付着工程を完了した後に、縦型容器10に導入するガスの流量を低下させる、又はゼロとすることで、触媒付着済みの粒子(触媒付着体)を流下させて回収する。触媒付着体の回収を容易にする観点から、触媒付着工程の完了後にも、少しの間、ガス供給装置20を駆動させたままとして、流動工程を継続して、ミストが付着して湿った状態となった主配管43の上部及び供給口12の近傍を乾燥させることが好ましい。
【0065】
(繊維状炭素ナノ構造体の製造方法)
本発明の繊維状炭素ナノ構造体の製造方法は、上述した本発明の触媒付着体の製造方法に従って得られた触媒付着体を用いて、繊維状炭素ナノ構造体を製造する。そして、本発明の繊維状炭素ナノ構造体の製造方法は、縦型容器内に炭素原料気体を供給して、触媒付着工程を経て得られた触媒付着体上にて繊維状炭素ナノ構造体を成長させる繊維状炭素ナノ構造体成長工程を含む。
【0066】
<繊維状炭素ナノ構造体成長工程>
繊維状炭素ナノ構造体成長工程では、賦活済みの触媒付着体に対して、炭素原料気体を供給して、触媒付着体上にて繊維状炭素ナノ構造体を成長させる。かかる繊維状炭素ナノ構造体成長工程を、触媒付着工程と並行実施しないことが好ましい。触媒付着工程と、繊維状炭素ナノ構造体成長工程とを、時間的に分けて実施することで、得られる繊維状炭素ナノ構造体に、触媒原料が付着して混入することを予防することができる。なお、本工程で用いる賦活済みの触媒付着体を得るための方途、及び炭素原料気体に含まれうる炭素原料としては、(繊維状炭素ナノ構造体製造装置)の項目にて詳述した通りである。また、触媒原料溶液ミストを縦型容器内に導入する供給口に詰まりが生じることを効果的に抑制する観点からは、縦型容器内に触媒原料溶液ミストを供給するための供給口とは異なる供給口から、炭素原料を縦型容器内に供給することが好ましい。
【0067】
上述した繊維状炭素ナノ構造体製造装置200、200’を用いて、本工程を実施する場合には、縦型容器10内にて繊維状炭素ナノ構造体成長工程を実施することができる。しかしながら、本発明に従う繊維状炭素ナノ構造体の製造方法はこれに限定されるものではなく、別途の反応容器にて、繊維状炭素ナノ構造体成長工程を実施することも勿論可能である。かかる場合には、例えば、既知の装置構成に従う気流層合成器、固定層合成器、移動層合成器、及び流動層合成器等内に触媒付着体を収容して、賦活化、炭素材料気体の供給を経て、繊維状炭素ナノ構造体を合成することができる。
【0068】
そして、繊維状炭素ナノ構造体成長工程にて得られた繊維状炭素ナノ構造体を表面に有する触媒付着体は、例えば、アルゴン等の希ガスや、窒素等の不活性ガスを一時的に大流量で供給して分離器に移送し、分離器で不活性ガス流から重力沈降、遠心分離、ろ過などにより分離して回収することができる。或いは、第1の供給口、第2の供給口、及び/又は、縦型容器10の下方に設置された回収口より、得られた繊維状炭素ナノ構造体を表面に有する触媒付着体を重力沈降によって縦型容器10から下方に回収しても良い。回収された繊維状炭素ナノ構造体を有する触媒付着体は、特に限定されることなく、例えば、振とうする、液中に投入して撹拌する等の比較的簡易な方法で繊維状炭素ナノ構造体と触媒付着体とに分離することができる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0070】
実施例、比較例において、触媒付着の均一性、触媒付着の効率性、触媒付着体を用いてCNTを合成した場合のCNTの成長、及びCNTの収量は以下の方法により評価又は測定した。
【0071】
<触媒付着の均一性>
実施例1-1~1-4、実施例3-1~3-3では、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製S-4800)を用いて、ランダムに選択した10個の触媒付着体を観察した。これらの触媒付着体表面について触媒の塗り斑が無いことを確認した。このことを、表中、「A」と表記する。
また、全ての実施例にて、各例で得られた触媒付着体を用いてCNTを合成した後に得られた、CNT付きの触媒付着体10個をランダムに選択し、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製S-4800)を用いて観察した。観察の結果、触媒付着体表面からCNTが略一様に成長していることを確認し、触媒付着が均一であることを確認した。このことを、表中、「A」と表記する。
【0072】
<触媒付着の効率性>
上記<触媒付着の均一性>の評価にて観察した、CNT付きの触媒付着体の全てにおいて、CNTが成長していたことをもって、本発明に従う触媒付着体の製造方法を採用した場合に、対象粒子を効率的に触媒付着処理し得た(即ち、縦型容器内の対象粒子に触媒付着処理漏れが無かった)ということを確認した。このことを、表中、「A」と表記する。
【0073】
<カーボンナノチューブの成長>
全ての実施例にて、各例で得られた触媒付着体を用いてCNTを合成して得られたCNT付きの粒子を、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ社製S-4800)を用いて観察した結果を
図5~
図23に示す。
【0074】
<カーボンナノチューブの収量>
CNTの収量は、CNT合成前の触媒付着体の質量(gBeads)に対する、CNTの合成前後における触媒付着体の質量の差分(mgCNT)の比として算出した。
【0075】
(実施例1-1)
<触媒付着体の製造>
図1に示したような概略構成を有する触媒付着体製造装置を用いて、以下の工程に従って触媒付着体を製造し、得られた触媒付着体を用いて固定床にてCNTを合成した。触媒付着体製造装置の下部に設けられた供給口(
図1で云うところの、供給口12に相当)は直径4mmの円形であった。
<<準備工程>>
Alを含有する化合物であるAl(NO
3)
3、及び、Feを含有する化合物であるFe(NO
3)
3を、イオン交換水に対して溶解させて、触媒原料溶液としての混合水溶液を得た。各化合物の使用量は、それぞれ、混合水溶液中におけるFe濃度が30mM、Al濃度が30mMとなる量とした。
また、縦型容器の上部に設けられた粒子投入口から、対象粒子としての、体積平均粒子径0.3mmのジルコニア(ZrO
2)ビーズ30gを、縦型容器内に収容した。加熱装置の設定温度(加熱温度)を150℃として、縦型容器の加熱を開始した。
<<流動工程>>
流動ガス供給部を駆動させて、供給口から、縦型容器の下部から上部方向に向かって、流量4.5slmで、流動ガスとしての窒素ガスを供給して、ジルコニアビーズの流動を開始して流動床を形成した。また、アルゴンガスのガス流量が0.5slmとなるように設定して、ミストキャリアガス供給部の運転を開始した。ここで、アルゴンガスは、触媒原料溶液ミスト供給装置を駆動しない状態では、対象粒子を流動させるためのガスとして機能する。
<<触媒付着工程>>
触媒原料溶液ミスト供給装置を、生成されるミストの体積平均粒子径D50が、1μm以上5μm以下の範囲に入るように設定し、運転を開始した。ミストキャリアガス供給部から供給されてくるミストキャリアガスにより、触媒原料溶液ミストを搬送して、供給口を通じて縦型容器の下部から上部方向に向かって、触媒原料溶液ミストを供給した。10分間にわたり、触媒原料溶液ミスト、ミストキャリアガス、及び流動ガスの供給を継続してから停止し、触媒付着工程を完了した。
<<回収工程>>
触媒付着工程を完了したタイミング以降に、供給口に接続された主配管(
図1の主配管43に相当)に備えられたバルブを開放状態として、回収装置(
図1の回収装置80に相当)に触媒付着体を流下させて回収した。
<<繊維状炭素ナノ構造体成長工程>>
回収工程で回収した触媒付着体を、横型炉を備えたカーボンナノチューブ合成用固定床装置に充填し、CNT合成用固定床装置内を800℃に昇温した状態で、炭素原料としてのアセチレン(C
2H
2)を0.3体積%と、水素10体積%と、二酸化炭素0.5体積%と、窒素89.2体積%とを含むガスを1slmで10分間供給して、CNTを合成した。上記に従って各種評価及び測定を行った。結果を表1に示す。
【0076】
(実施例1-2~1-4)
触媒原料溶液としての混合水溶液におけるFe濃度及びAl濃度、加熱装置の設定温度、窒素ガス(流動ガス)流量、アルゴンガス(ミストキャリアガス)流量、及び/又は、<<触媒付着工程>>の継続時間(担持時間)を、それぞれ表1に示す通りに変更した以外は、実施例1-1と同様にして、触媒付着体を製造し、得られた触媒付着体を用いてCNTを合成した。また、上記に従って各種評価及び測定を行った。結果を表1に示す。
【0077】
(実施例2-1)
実施例1-1~1-4で用いた触媒付着体製造装置と同じ構成を有する装置を用いて、以下の工程に従って触媒付着体を製造し、得られた触媒付着体を用いて固定床にてCNTを合成した。
<<準備工程>>
Alを含有する化合物であるAl(O-i-Pr)3、及び、Feを含有する化合物であるFe(C5H5)2を併用した混合エタノール溶液を調製した。各化合物の使用量は、それぞれ、混合エタノール溶液中におけるFe濃度が22.5mM、Al濃度が27.5mMとなる量とした。
また、縦型容器の上部に設けられた粒子投入口から、対象粒子としての、体積平均粒子径0.3mmのジルコニア(ZrO2)ビーズ30gを、縦型容器内に収容した。加熱装置の設定温度を550℃として、縦型容器の加熱を開始した。
<<流動工程>>
流動ガス供給部を駆動させて、供給口から、縦型容器の下部から上部方向に向かって、流量1slmで、流動ガスとしての窒素ガスを供給して、ジルコニアビーズの流動を開始して流動床を形成した。また、アルゴンガスのガス流量が4slmとなるように設定して、ミストキャリアガス供給部の運転を開始した。
<<触媒付着工程>>
触媒原料溶液ミスト供給装置を、生成されるミストの体積平均粒子径D50が、1μm以上5μm以下の範囲に入るように設定し、運転を開始した。ミストキャリアガス供給部から供給されてくるミストキャリアガスにより触媒原料溶液ミストを搬送して、供給口を通じて縦型容器の下部から上部方向に向かって、触媒原料溶液ミストを供給した。30分間にわたり、触媒原料溶液ミスト、ミストキャリアガス、及び流動ガスの供給を継続してから停止し、触媒付着工程を完了した。
<<回収工程>>
触媒付着工程を完了したタイミング以降に、供給口に接続された主配管に備えられたバルブを開放状態として、回収装置に触媒付着体を流下させて回収した。
<<繊維状炭素ナノ構造体成長工程>>
回収工程で回収した触媒付着体を、横型炉を備えたカーボンナノチューブ合成用固定床装置に充填し、賦活し、CNT合成用固定床装置内を800℃とした状態で、炭素原料としてのアセチレン(C2H2)を0.3体積%と、水素10体積%と、二酸化炭素0.5体積%と、窒素89.2体積%とを含むガスを1slmで10分間供給して、CNTを合成した。上記に従って各種評価及び測定を行った。結果を表1に示す。
【0078】
(実施例2-2~2-4)
加熱装置の設定温度を、それぞれ表1に示す通りに変更した以外は、実施例2-1と同様にして、触媒付着体を製造し、得られた触媒付着体を用いてCNTを合成した。また、上記に従って各種評価及び測定を行った。結果を表1に示す。
【0079】
(実施例3-1~3-3)
触媒原料溶液としての混合水溶液におけるFe濃度及びAl濃度、加熱装置の設定温度、窒素ガス(流動ガス)流量、アルゴンガス(ミストキャリアガス)流量、及び/又は、<<触媒付着工程>>の継続時間(担持時間)を、それぞれ表1に示す通りに変更した以外は、実施例1-1と同様にして、触媒付着体を製造した。得られた触媒付着体を用いて、流動床にてCNTを合成した。流動床装置の縦型容器内に、触媒付着体を充填し、賦活し、縦型容器内を800℃とした状態で、炭素原料としてのアセチレン(C2H2)を1体積%と、水素10体積%と、二酸化炭素1体積%と、窒素88体積%とを含むガスを8.9slmで20分間供給して、CNTを合成した。上記に従って各種評価及び測定を行った。結果を表1に示す。
【0080】
(実施例4-1)
混合エタノール溶液におけるFe濃度、及び、Al濃度がそれぞれ表1に示す通りとなるように各化合物の配合量を変更し、さらに、加熱装置の設定温度を表1に示す通りに変更した以外は、実施例2-1と同様にして、触媒付着体を製造し、CNTを合成した。また、上記に従って各種評価及び測定を行った。結果を表1に示す。
【0081】
(実施例5-1~5-3)
実施例1-1等で用いた触媒付着体製造装置と同じ構成を有する装置を用いて、以下の工程に従って触媒付着体を製造し、得られた触媒付着体を用いて流動床にてCNTを合成した。より具体的には、<<触媒付着工程>>において、触媒原料溶液として、表2に示すような組成の相異なる2種類の溶液を用い、表2に示す所定時間ずつ、これらの溶液より成るミストを切り替えて縦型容器に対して供給して、触媒付着体を得た。得られた触媒付着体は、対象粒子表面上に、Fe及びAlを含む層、並びに、Feを含む層がこの順に形成されてなるものであった。なお、各層の厚みは、各溶液のミストの供給時間に応じた厚みであった。そして、かかる触媒付着体を用いて、実施例3-1~3-3と同様の条件に従ってCNTを合成した。また、上記に従って各種評価及び測定を行った。結果を表2に示す。
【0082】
(実施例6-1~6-3)
<<触媒付着工程>>において、触媒原料溶液として、表2に示すような、2種類の溶液であって、Fe濃度、及び、Al濃度がそれぞれ表2に示す通りである溶液を用いた以外は、実施例5-2と同様の条件に従って触媒付着体を得た。そして、得られた触媒付着体を用いて、実施例3-1~3-3と同様の条件に従ってCNTを合成した。また、上記に従って各種評価及び測定を行った。結果を表2に示す。
【0083】
【0084】
【0085】
表1に示すように、流動状態とした対象粒子に対して、縦型容器の下部方向から上部方向に向かって触媒原料溶液ミストを供給する触媒付着工程を含む本発明の触媒付着体の製造方法によれば、効率的且つ均一に触媒原料を対象粒子の表面に付着させることができたことが分かる。
また、例えば、実施例1-1~1-4の結果(表及び図)より、触媒原料溶液として、無機金属塩の水溶液を用いた場合には、実施した窒素ガス及びアルゴンガスの流量の条件下では、加熱装置の設定温度を200℃以上400℃以下とすることが好ましいことが分かる。その理由は明らかではないが、かかる条件を採用することで、ミストが対象粒子の表面に到達するタイミングとミストの乾燥速度とを良好にバランスすることができることに起因すると考えられる。
また、例えば、実施例2-1~2-4(表及び図)のように、触媒原料溶液として、有機金属エタノール溶液を用いた場合には、実施した窒素ガス及びアルゴンガスの流量の条件下では、加熱装置の設定温度を600℃以上850℃以下とすることが好ましいことが分かる。その理由は明らかではないが、比較的高温の雰囲気にて有機金属エタノール溶液に由来する触媒原料溶液ミストを乾燥させて有機金属を熱分解させることで、対象粒子の表面に触媒成分を良好に付着させることができるためであると考えられる。
さらにまた、例えば、実施例3-1~3-3及び実施例4-1より、種々の条件で対象粒子の表面に触媒成分を良好に付着させることができ、更に、得られた触媒付着体を用いて、CNTを良好に合成できたことが分かる。
そして、例えば実施例5-1~5-3、及び実施例6-1~6-4より、触媒付着工程において複数種類の触媒原料溶液ミストを用いることによっても対象粒子の表面に触媒成分を良好に付着させることができ、更に、得られた触媒付着体を用いて、CNTを良好に合成できたことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明によれば、対象粒子の表面に対して、効率的且つ均一に触媒原料を付着させることができる、触媒付着体の製造方法及びかかる製造方法に従って得られた触媒付着体を用いた繊維状炭素ナノ構造体の製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、上記本発明の触媒付着体の製造方法を好適に実施することができる触媒付着体製造装置を提供することができる。
そして、本発明によれば、上記本発明の繊維状炭素ナノ構造体の製造方法を好適に実施することができる繊維状炭素ナノ構造体製造装置を提供することができる。
【符号の説明】
【0087】
10、10’ 縦型容器
11 排気口
12 供給口
13 粒子投入口
14 第1供給口
15 第2供給口
20 ガス供給装置
21 ミストキャリアガス供給部
22、22’ 流動ガス供給部
30 触媒原料溶液ミスト供給装置
31 ミスト生成室
32 振動子
33 振動制御部
34 触媒原料溶液
35 触媒原料溶液ミスト
41 キャリアガス配管
42 ミスト含有ガス配管
43 主配管
44、44’ 流動ガス配管
45 炭素原料供給配管
46 ミスト含有ガス配管接続口
47 流動ガス配管接続口
51~54、54’ バルブ
60 対象粒子
70 加熱装置
80 回収装置
90、90’ 炭素原料気体供給装置
100、100’ 触媒付着体製造装置
200、200’ 繊維状炭素ナノ構造体製造装置