(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】臭いが低減された、根菜類を具材として含むレトルト食品
(51)【国際特許分類】
A23L 3/00 20060101AFI20240903BHJP
【FI】
A23L3/00 101C
(21)【出願番号】P 2020032308
(22)【出願日】2020-02-27
【審査請求日】2022-09-22
(31)【優先権主張番号】P 2019085778
(32)【優先日】2019-04-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004477
【氏名又は名称】キッコーマン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥下 歩
(72)【発明者】
【氏名】井ノ本 也寸志
【審査官】高山 敏充
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-308477(JP,A)
【文献】特開2011-030536(JP,A)
【文献】特開平06-339364(JP,A)
【文献】特開平01-289464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
Google
Mintel GNPD
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む、根菜類を含むレトルト食品
における根菜類の臭いを低減する方法:
中心部から表面のいずれかの部位までの最短の距離が5mm以上であり、体積に対する表面積の割合が0.6以下である、1つ又は2つ以上の根菜類の切片
を調製すること;
根菜類の前記切片、チキンオイル、及び水
を混和し、得られた混和物をレトルト殺菌して、得られたレトルト食品における根菜類の前記切片の臭いを低減すること、
ただし、チキンオイルの量はレトルト食品における液体部分(調味液)の量に対して2.5%~10%
である。
【請求項2】
根菜類としてニンジン、及び/又はジャガイモを含む、請求項1に記載の
方法。
【請求項3】
1つ又は2つ以上の根菜類の切片として、中心部から表面のいずれかの部位までの最短の距離が15mm以下である切片を含む、請求項1又は2に記載の
方法。
【請求項4】
根菜類の切片の総重量に対するレトルト食品における液体部分(調味液)の総重量が、0.25倍~22倍である、請求項1~3のいずれかに記載の
方法。
【請求項5】
食品がスープカレーである請求項1~4のいずれかに記載の
方法。
【請求項6】
以下を含む、根菜類を含むレトルト食品の製造方法:
中心部から表面のいずれかの部位までの最短の距離が5mm以上であり、体積に対する表面積の割合が0.6以下である、1つ又は2つ以上の根菜類の切片を調製すること;
根菜類の前記切片、チキンオイル、及び水を混和し、得られた混和物をレトルト殺菌して前記レトルト食品を得る
とともに、該レトルト食品における根菜類の前記切片の臭いを低減すること、
ただし、チキンオイルの量はレトルト食品における液体部分(調味液)の量に対して2.5%~10%である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は根菜類を具材として含むレトルト食品に関する。
【背景技術】
【0002】
近時の高齢世帯や共働き世帯、あるいは単身者世帯の増加を背景に、レトルト食品の需要が高まりつつある。レトルト食品は、調理を簡略化し、調理の時間を短縮することができるからである。
【0003】
レトルト食品には多用な種類があり、調味ソース類(カレーを含む)、鍋つゆ類、おかず類、スープ類、及び飯類などが例示される。レトルト食品のうち調味ソース類、おかず類、及びスープ類には固形加工食品素材として野菜を含むものが多い。
【0004】
固形加工食品素材には好ましくない臭いが生じること、及びかかる好ましくない臭いに対する処理の方法についての報告がある。
特許文献1においては平均粒子径が1μm以下の油滴の状態にある油脂を含む水性処理液で固形食品素材を処理することを特徴とする食品処理方法により、肉、魚、野菜、これらを原料とする固形加工食品等の固形食品素材を処理して、これらの固形食品素材から好ましくない臭いが出ないようにすると共に風味を向上させることについての開示がある。
特許文献2には食品に対して風味油を0.1~10重量%添加することを特徴とする、食品のレトルト臭除去方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-87903号公報
【文献】特開平6-339364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
これまでのレトルト食品においては、具材として野菜等が含まれる場合、個々の具材が小さく食べ応えに乏しいため、具材がより大きいものに対する需要がある。一方、具材を大きくすると、具材である野菜類として根菜類が含まれる場合には好ましくない特有の臭い・香気(土臭)が発生することを、本発明者らは見出した。かかる臭いは、食材由来の臭いを低減するための技術を開示している特許文献1又は2の技術が適用される対象として具体的に示されていないため、従来技術では対応ができないものである。
したがって本発明は、根菜類を含むレトルト食品において好ましくない臭いが生じるものについて、その臭いが低減されたものを提供することを課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく根菜類を含むレトルト食品における臭いを低減する手法について研究を重ねたところ、ある種の調理用成分を用いることにより上記課題が解決できる可能性があることを見出し、さらに研究を進めた結果本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち本発明は、少なくとも以下の発明に関する:
[1]
以下を含む、根菜類を含むレトルト食品:
1つ又は2つ以上の根菜類の切片において、中心部から表面のいずれかの部位までの最短の距離が5mm以上であり、体積に対する表面積の割合が0.6以下である、根菜類の前記切片;
チキンオイル;及び
水、
ただし根菜類の切片が前記最短の距離が15mm以上である立方体形状であり、かつ前記根菜類の切片の重量が30gであり、チキンオイル及び水の合計の量が70gである場合、チキンオイルの量がレトルト食品における液体部分(調味液)の量に対して約2.9重量%以上である。
なお本発明についての数値のうち、試験結果から得られた数値については四捨五入により有効数字2けたの数値とし、「約」の記載を付記して発明の範囲を画定する。
[2]
根菜類としてニンジン、及び/又はジャガイモを含む、[1]に記載のレトルト食品。
[3]
1つ又は2つ以上の根菜類の切片として、中心部から表面のいずれかの部位までの最短の距離が15mm以下である切片を含む、[1]又は[2]に記載のレトルト食品。
[4]
チキンオイルの量がレトルト食品における液体部分(調味液)の量に対して2.5%~10%である、[1]~[3]のいずれかに記載のレトルト食品。
[5]
根菜類の切片の総重量に対するレトルト食品における液体部分(調味液)の総重量が、0.25倍~22倍である、[1]~[4]のいずれかに記載のレトルト食品。
[6]
スープカレーである[1]~[5]のいずれかに記載のレトルト食品。
[7]
以下を含む、根菜類を含むレトルト食品の製造方法:
中心部から表面のいずれかの部位までの最短の距離が5mm以上であり、体積に対する表面積の割合が0.6以下である、1つ又は2つ以上の根菜類の切片を調製すること;
根菜類の前記切片、チキンオイル、及び水を混和し、得られた混和物をレトルト殺菌して前記レトルト食品を得ること。
[8]
以下を含む、根菜類を含むレトルト食品における根菜類の臭いを低減する方法:
中心部から表面のいずれかの部位までの最短の距離が5mm以上であり、体積に対する表面積の割合が0.6以下である、1つ又は2つ以上の根菜類の切片を調製すること;
根菜類の前記切片、チキンオイル、及び水を混和し、得られた混和物をレトルト殺菌して、得られたレトルト食品における根菜類の前記切片の臭いを低減すること。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、従来のレトルト食品に用いられるものより大きい根菜類の切片を含むレトルト食品として、好ましくない臭いが低減されたものを提供することができる。
【0010】
根菜類を含むレトルト食品の臭いは、根菜類の切片が従来のように小さい場合には、同食品に用いられている調味料を含む液体部分(調味液)におけるメイラード反応によるタンパク質又はアミノ酸と糖による産物であるメラノイジンが同切片内部に十分に浸透することにより臭いは低減されていた。これに対し切片が従来のレトルト食品に用いられるものより大きい場合、レトルト殺菌により特異的に発生する臭いが増強されることが、本発明者らにより見出された。例えば根菜類の切片が略立方体の形状である場合、中心部から表面のいずれかの部位までの最短の距離が5mm以上であり、体積に対する表面積の割合が0.6以下である場合には調味液が同切片の内部まで十分に浸透せず、同切片の増強された臭いが十分に低減されないことが見出された。
本発明は、本発明者らにより見出されたかかる問題点に端を発するものである。すなわち本発明が解決を指向した課題は、本発明者らによりはじめて見出された新規なものであり、これまで認識されておらず、まして解決が検討されることはなかったものである。したがって本願発明が奏する効果は、従来技術では達成し得なかった格別なものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明において、レトルト食品とは、レトルト殺菌、すなわちレトルト包装された食品を加圧加熱釜に入れ、100℃以上の蒸気や加圧熱水により殺菌することがなされた食品を表す。レトルト殺菌の条件は食品衛生法において「原材料等に由来して当該食品中に存在し、かつ、発育し得る微生物を死滅させるのに十分な効力を有する方法であること」、及び「そのpHが4.6を超え、かつ、水分活性が0.94を超える容器包装詰加圧加熱殺菌食品にあっては、中心部の温度を120℃で4分間加熱する方法又はこれと同等以上の効力を有する方法であること」と定められている。本発明におけるレトルト殺菌もかかる基準に則り実施されるものである。
【0012】
本発明において、根菜類とは、植物体の地下部が食材として用いられる植物を表す。本発明における根菜類はとくに限定されず、ニンジン、ジャガイモ、サツマイモ、サトイモ、クワイ、ゴボウ、及びレンコンが例示される。本発明における上記各根菜類の品種や産地は、本発明の所望の目的が達成される対象であれば限定されない。
本発明において、チキンオイルとは鶏がら(食用の肉を取り去った鶏の骨であり、骨・髄と付着した少量の肉からなるもの。本明細書において「鶏骨」と表記することもある)を煮込んで得られる油脂、鶏の脂肪を加熱して得られる油脂、鶏がらと鶏脂を煮込んで得られるオイル、もしくは鶏皮と鶏脂を煮込んで得られるオイル又はこれらの油脂から実質的になる食材を意味する。本発明において、チキンオイルとして鶏がらを煮込んで得られる油脂を用いるものは好ましい。
本発明において「臭いが低減された」とは、チキンオイルを含まないこと以外においては本発明のレトルト食品と同じ構成からなるレトルト食品における臭いより、本発明のレトルト食品における臭いのほうが小さい場合に、本発明のレトルト食品について「臭いが低減された」という。
【0013】
本発明は以下の構成により、上記課題を解決したものである:
以下を含む、根菜類を含むレトルト食品:
中心部から表面のいずれかの部位までの最短の距離が5mm以上であり、体積に対する表面積の割合が0.6以下である、1つ又は2つ以上の根菜類の切片;
チキンオイル;及び
水、
ただし根菜類の切片が前記最短の距離が15mm以上である立方体形状であり、かつ前記根菜類の切片の重量が30gであり、チキンオイル及び水の合計の量が70gである場合、チキンオイルの量が本発明のレトルト食品における液体部分(調味液)に対して約2.9重量%以上である。
本発明における上記「体積に対する表面積の割合」は、数値のみによる計算値としての割合であって、単位は有しないものとする。
【0014】
本発明の対象であるレトルト食品は、限定されず、調味ソース類(カレーを含む)、鍋つゆ類、おかず類、スープ類、及び飯類などのいずれであってもよい。
本発明における水は限定されず、水道水等を用いてよい。
【0015】
<根菜類の切片>
本発明のレトルト食品は根菜類の切片として、中心部から表面のいずれかの部位までの最短の距離が5mm以上であり、表面積の体積に対する割合が0.6以下である切片を1つ又は2つ以上含む。該切片の形状は限定されず、略立方体及び略直方体を含む略角柱形状、細長形状、平板形状、略角錐及び曲面を有する形状(略球体、略楕円球体、略円錐、、略円柱)が例示される。
前記切片の形状が略立方体形状である場合、その一辺の長さは10mm以上である。また前記切片の形状が球状である場合、その半径の長さは5mm以上である。
根菜類の前記切片における中心部とは、切片の重心に相当する部位である。根菜類の切片が、略立方体である場合、中心部は各頂点から等距離にある点であり、略球体である場合には中心である。
【0016】
中心部から表面のいずれかの部位までの最短の距離が15mm以下である1つ又は2つ以上の根菜類の切片を含み、チキンオイルの量がレトルト食品における液体部分(調味液)に対して約2.9重量%以上である、本発明のレトルト食品は好ましい。最短の距離が15mm以下である場合、根菜類の該切片の形状が略立方体形状又は球状である場合、表面積の体積に対する割合はいずれにおいても0.2である。体積に対する表面積の割合が0.2以上である本発明のレトルト食品はより好ましい。
また、一辺の長さが10mm~30mmであるの略立方体形状の根菜類の切片を1つ又は2つ以上含む本発明のレトルト食品はより好ましい。
本明細書における「~」の表記は、当該表記により示される範囲の下限値及び上限値を包含する。
【0017】
<根菜類>
本発明のレトルト食品における根菜類は限定されず、可食部が根であるニンジン、ダイコン、カブ、ゴボウ、サツマイモ及びヤマイモ、ならびに可食部が地下茎であるジャガイモ、サトイモ、レンコン、クワイ、及びショウガ等からの、1種又は2種以上を用いてよい。本発明のレトルト食品において、根菜類としてニンジン及び/又はジャガイモを含む本発明のレトルト食品は好ましい。
本発明のレトルト食品における根菜類の産地や品種は限定されない。
【0018】
<チキンオイル及びチキンオイルと含有する構成成分>
本発明のレトルト食品におけるチキンオイルの量は、本発明の所望の目的を達成する量であれば限定されない。チキンオイルの量がレトルト食品における液体部分(調味液)の量に対して約2.5%~約10%である本発明のレトルト食品は好ましく、約2.9%~約7.5%であるものはより好ましく、約4.3%~約7.5%であるものは一層より好ましく、約5.7%~約7.5%であるものはさらにより好ましい。
本明細書における「%」の表記は、他に定義がない場合には重量%を示す。
【0019】
本発明のレトルト食品における液体部分(調味液)、すなわちチキンオイル及び水を併せてなる部分の量は、本発明の所望の目的を達成する量であれば限定されず、レトルト殺菌の際に根菜類の切片の少なくともほぼ全体が該調味液と接触する量であってよい。
根菜類の切片の総重量に対するチキンオイル及び水の総重量が、約0.25倍~約22倍である本発明のレトルト食品は好ましい。根菜類の切片の総重量に対するチキンオイル及び水の総重量が、約0.67倍~約5.0倍である本発明のレトルト食品も好ましい。
【0020】
本発明のレトルト食品におけるチキンオイルの量は、本発明の所望の目的を達成する量であれば限定されない。
根菜類がニンジンである場合、レトルト食品における液体部分(調味液)に対するチキンオイルの量として、約2.9%以上は好ましく、約5.7%以上はより好ましい。
根菜類がジャガイモである場合、レトルト食品における液体部分(調味液)に対するチキンオイルの量として、約0.7%以上は好ましく、約4.2%以上はより好ましい。
本発明のレトルト食品におけるチキンオイルの量は、該レトルト食品の総重量に対して約2%以上であることが好ましく、該レトルト食品における香味を考慮して、約5%以下であることは好ましい。
【0021】
<その他の材料・調味料>
本発明のレトルト食品は、根菜類、チキンオイル及び水以外の各種材料・調味料を含んでよい。かかる材料・調味料としては、砂糖、ぶどう糖、果糖、水飴、異性化液糖などの糖類、穀物酢、及び醸造酢などの食酢;食塩、胡椒、グルタミン酸ナトリウム、及びグリシン等のアミノ酸系調味料;イノシン酸ナトリウム、及びグアニル酸ナトリウム等の核酸系調味料等の調味料類;でん粉、加工でん粉、多糖類、及びガム類等の増粘剤;醤油、酸味調味料、有機酸類、果汁、清酒、ワイン、発酵調味料、味噌、大豆油、ナタネ油、ゴマ油、ラー油等の食用油脂類、小麦粉、カレー粉、オイスターソース、乳化剤、香料、ならびに着色料等が例示される。
また、本発明のレトルト食品は、ダシ汁類、エキス類、各種具材等を含んでよい。
【0022】
<レトルト食品>
本発明のレトルト食品の種類は固形加工食品素材である野菜として根菜類を含むものであれば限定されず、調味ソース類、おかず類、及びスープ類が例示される。
前記調味ソース類としてカレー、ハヤシライスのソース、及びパスタソース等が例示される。
前記おかず類として肉じゃが、煮込み、及び煮物類(筑前煮等)等が例示される。
前記スープ類として、スープカレー、コンソメスープ、及びシチュー等が例示される。
【0023】
<製造方法>
本発明のレトルト食品の製造方法は限定されず、上記において示した根菜類の切片、ならびにチキンオイル及び水(調味液)を含む材料をレトルト殺菌して得ることができる。
本発明のレトルト食品は、例えば以下の製造方法により製造することができる:
中心部から表面のいずれかの部位までの最短の距離が5mm以上であり、体積に対する表面積の割合が0.6以下である、1つ又は2つ以上の根菜類の切片を調製すること;
根菜類の前記切片、チキンオイル、及び水を混和し、得られた混和物をレトルト殺菌して前記レトルト食品を得ること。
【0024】
本発明のレトルト食品の製造におけるレトルト殺菌の温度としては約110℃~130℃が例示され、約120℃が好ましい。殺菌時間としては約15分~約60分が例示され、殺菌温度が約120℃の場合には約15分~約30分が好ましい。
【0025】
●臭いを低減する方法
本発明により、根菜類を含むレトルト食品における根菜類の臭いを低減する方法(以下において「本発明の方法」ということがある)も提供される。かかる方法は、以下を含むものである:
中心部から表面のいずれかの部位までの最短の距離が5mm以上であり、体積に対する表面積の割合が0.6以下である、1つ又は2つ以上の根菜類の切片を調製すること;
根菜類の前記切片、チキンオイル、及び水を混和し、得られた混和物をレトルト殺菌して、得られたレトルト食品における根菜類の前記切片の臭いを低減すること。
【0026】
本発明の方法における根菜類、根菜類の切片、チキンオイル、ならびにチキンオイル及び水(調味液)については、上記において本発明のレトルト食品について記載した説明事項が適用される。
【実施例】
【0027】
実施例及び試験例により本発明についてさらに説明するが、本発明はかかる実施例にいかなる意味においても限定されるものではない。
【0028】
[参考試験例]
(目的)
カットサイズの異なる根菜類をレトルト殺菌し、根菜類が含まれる場合に生じる好ましくない特有の臭い・香気(以下において「土臭」という)の強度を確認する。
(材料と方法)
●サンプルの調製
根菜類(にんじん)をカットし、にんじんが完全に漬かる量の水で加熱してから90℃に達温後、スチール製の網ボールにあけてお湯を切ってから、にんじんのみを取り出して水を70g入れてあるレトルトパウチに入れ、レトルト殺菌(120℃、20分)し、サンプルを作製した(表1)。
【表1】
●評価の方法
3名の分析型官能評価パネルにより官能評価を実施した。すなわち、作製した上記各サンプルを試食し、土臭の強度を確認した。
官能評価は、土臭の強度を下記の4段階評価で評価し、3名の合計点数が3~4点は○、5点~7点を△、8点以上を×とした。また、○の中でも合計点数が3点のものは最も好ましい評価として「◎」とした。
4:非常に強い
3:強い
2:弱い
1:非常に弱い
【0029】
(結果)
カットサイズが大きくなるほど土臭の強度が強まることが確認された(表2)。かかる結果を踏まえ、以降の試験では上記の官能評価結果を評価指標として適宜用いた。
【表2】
【0030】
[試験例1]
(目的)
カットサイズの異なる根菜類(一定量)にチキンオイルを添加し、本発明における土臭の抑制効果を確認する。
(材料と方法)
●サンプルの調製
根菜類(にんじん)をカットし、にんじんが完全に漬かる量の水で加熱してから90℃に達温後、スチール製の網ボールにあけてお湯を切ってから、チキンオイル(株式会社司食品工業製)及び水を加えたレトルトパウチに入れ、レトルト殺菌(120℃、20分)し、サンプルを作製した(表3)。
【表3】
●評価の方法
作製したサンプルを試食し、土臭の強度を確認した。
【0031】
(結果)
カットサイズが大きいサンプル(30mm×30mm×30mm)においてもチキンオイルをパウチ内重量(レトルト食品の総重量)として2重量%以上添加することで土臭の抑制が認められた。添加量はレトルト食品の総重量に対して4~5重量%であることがより好ましいことが明らかになった(表4)。
【表4】
またチキンオイル添加量が5%を超えない量にすることにより鶏臭を抑制して喫食に適するものにすることができる。
以上の結果を「液体部分(調味液)に対するチキンオイルの割合(%)」としてまとめ、示した(表5)。
【表5】
【0032】
[試験例2]
(目的)
根菜類の重量が変動しても同様の効果が得られることを確認する。
(材料と方法)
●サンプルの調製
根菜類(にんじん)をカットし、にんじんが完全に漬かる量の水で加熱してから90℃に達温後、スチール製の網ボールにあけてお湯を切ってから、チキンオイル(株式会社司食品工業製)及び水を加えたレトルトパウチに入れ、レトルト殺菌(120℃、20分)し、サンプルを作製した(表6)。
【表6】
●評価の方法
作製したサンプルを試食し、土臭の強度を確認した。
【0033】
(結果)
作製したサンプルを試食し、土臭の強度を確認した(表7)。
【表7】
実施例8と実施例11及び12との比較により、根菜類の重量が変動しても同様の抑制効果が得られることが確認された。
また、以上の結果を「液体部分(調味液)に対するチキンオイルの割合(%)」として以下に示した(表8)。
【表8】
【0034】
上記のとおり、「液体部分(調味液)に対するチキンオイルの割合」は表5及び表8の結果は整合している。したがって、チキンオイルの添加量は「液体部分(調味液)に対するチキンオイルの割合」に好適に規定される。
また、調味液量に対してチキンオイルを2.86%以上添加すると土臭の抑制が認められ、5.71%~7.50%がより好ましかった。
【0035】
[試験例3]
(目的)
他の根菜類(ジャガイモ)でも同様の効果が得られることを確認する。
(材料と方法)
●サンプルの調製
根菜類(ジャガイモ)をカットし、ジャガイモが完全に漬かる量の水で加熱してから90℃に達温後、スチール製の網ボールにあけてお湯を切ってから、チキンオイル(株式会社司食品工業製)及び水を加えたレトルトパウチに入れ、レトルト殺菌(120℃、20分)し、サンプルを作製した(表9)。
【表9】
●評価の方法
作製したサンプルを試食し、土臭の強度を確認した。
【0036】
(結果)
他の根菜類でも、同様の効果が得られることが確認された(表10)。
【表10】
【0037】
[試験例4]
(目的)
水煮以外でも同様の効果が得られることを確認する。
(材料と方法)
●サンプルの調製
根菜類(にんじん)をカットし、にんじんが完全に漬かる量の水で加熱してから90℃に達温後、スチール製の網ボールにあけてお湯を切ってから、カレー粉OKN(株式会社ギャバン製)、チキンオイル(株式会社司食品工業製)及び水を加えたレトルトパウチに入れ、レトルト殺菌(120℃、20分)し、サンプルを作製した(表11)。
【表11】
●評価の方法
作製したサンプルを試食し、土臭の強度を確認した。
【0038】
(結果)
水煮以外でも、同様の効果が得られることが確認された(表12)。
【表12】
【0039】
[試験例5]
(目的)
チキンオイル以外の油脂含有原料でも同様の効果が得られるかを確認する。
(材料と方法)
●サンプルの調製
根菜類(にんじん)をカットし、にんじんが完全に漬かる量の水で加熱してから90℃に達温後、スチール製の網ボールにあけてお湯を切ってから、カレー粉OKN(株式会社ギャバン製)、油脂含有原料及び水を加えたレトルトパウチに入れ、レトルト殺菌(120℃、20分)し、サンプルを作製した(表13)。
【表13】
●評価の方法
作製したサンプルを試食し、土臭の強度を確認した。
【0040】
(結果)
他の油脂含有原料ではマスキング効果が認められない、もしくは顕著な効果が認められなかった(表14)。
【表14】
【0041】
[試験例6]
(目的)
抑制効果が認められる調味液量に対する野菜重量の上限値を確認する。
(材料と方法)
●サンプルの調製
根菜類(にんじん)をカットし、にんじんが完全に漬かる量の水で加熱してから90℃に達温後、スチール製の網ボールにあけてお湯を切ってから、チキンオイル(株式会社司食品工業製)及び水を加えたレトルトパウチに入れ、レトルト殺菌(120℃、20分)し、サンプルを作製した(表15)。
【表15】
●評価の方法
作製したサンプルを試食し、土臭の強度を確認した。
【0042】
(結果)
土臭の抑制効果が認められる調味液量に対する野菜重量の上限は「調味液量の4倍量」であった(表16)。
【表16】
【0043】
[試験例7]
(目的)
産地の異なる根菜類でも同様の抑制効果が得られることを確認する。
(材料と方法)
●サンプルの調製
根菜類(ジャガイモ)をカットし、ジャガイモが完全に漬かる量の水で加熱してから90℃に達温後、スチール製の網ボールにあけてお湯を切ってから、チキンオイル(株式会社司食品工業製)及び水を加えたレトルトパウチに入れ、レトルト殺菌(120℃、20分)し、サンプルを作製した(表17)。
【表17】
●評価の方法
作製したサンプルを試食し、土臭の強度を確認した。
【0044】
(結果)
産地が異なる根菜類を使用した場合でも土臭の抑制効果は認められた(表18)。
【表18】
【0045】
[試験例8]
(目的)
鶏骨(鶏がら)由来以外のチキンオイルでも同様の抑制効果が得られることを確認する。
(材料と方法)
●サンプルの調製
根菜類(にんじん)をカットし、にんじんが完全に漬かる量の水で加熱してから90℃に達温後、スチール製の網ボールにあけてお湯を切ってから、チキンオイルとして、チキンオイル(株式会社司食品工業製)、mzチキンオイルM(丸善食品工業株式会社製)及びmz鶏皮オイルB(丸善食品工業株式会社製)のいずれか、及び水を加えたレトルトパウチに入れ、レトルト殺菌(120℃、20分)し、サンプルを作製した(表19)。
【表19】
●評価の方法
作製したサンプルを試食し、土臭の強度を確認した。
【0046】
(結果)
鶏骨に加えて鶏皮又は鶏脂を由来として含むチキンオイルでも抑制効果が認められた。鶏骨を由来として含むチキンオイルのほうが抑制効果は優れていた(表20)。
【表20】
【0047】
[試験例9]
(目的)
立方体形状以外の形状の根菜類の切片についても同様の抑制効果が得られることを確認する。
(材料と方法)
●サンプルの調製
根菜類(にんじん)をカットし、にんじんが完全に漬かる量の水で加熱してから90℃に達温後、スチール製の網ボールにあけてお湯を切ってから、チキンオイルとして、チキンオイル(株式会社司食品工業製)、mzチキンオイルM(丸善食品工業株式会社製)及びmz鶏皮オイルB(丸善食品工業株式会社製)のいずれか、及び水を加えたレトルトパウチに入れ、レトルト殺菌(120℃、20分)し、サンプルを作製した(表21)。
【表21】
●評価の方法
作製したサンプルを試食し、土臭の強度を確認した。
【0048】
(結果)根菜類の切片の形状が直方体又は円柱であっても抑制効果が認められた(表22)。
【表22】
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明によれば根菜類を含むレトルト食品において好ましくない臭いが生じるものについて、その臭いが低減されたものを提供することができる。したがって本発明は食品産業及びその関連産業の発展に寄与するところ大である。