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  • 特許-海綿鉄粉の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-02
(45)【発行日】2024-09-10
(54)【発明の名称】海綿鉄粉の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/20 20060101AFI20240903BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240903BHJP
   C21B 13/00 20060101ALI20240903BHJP
【FI】
B22F9/20 F
B22F1/00 S
C21B13/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021017909
(22)【出願日】2021-02-08
(65)【公開番号】P2022120882
(43)【公開日】2022-08-19
【審査請求日】2023-12-08
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000224802
【氏名又は名称】DOWA IPクリエイション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111811
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】濱田 心
(72)【発明者】
【氏名】加藤 優典
(72)【発明者】
【氏名】朝井 奨馬
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-112710(JP,A)
【文献】米国特許第04822410(US,A)
【文献】国際公開第2018/212353(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00,9/00,9/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海綿鉄粉の製造方法であって、
酸化鉄と還元剤とを混合する混合工程と、
前記混合した混合物を蓋付きの容器に充填する充填工程と、
前記混合物が充填された前記容器を900℃以上1000℃未満の温度に昇温し保持して前記酸化鉄を還元する還元工程と、
を有し、
前記容器が外部と通気可能な開口部を有し、
前記容器の単位内容積当たりの前記混合物の充填量が0.3g/cm以上である
ことを特徴とする海綿鉄粉の製造方法。
【請求項2】
前記蓋が前記開口部を有し、
前記蓋における前記開口部の面積割合が1%以上10%以下の範囲である請求項記載の海綿鉄粉の製造方法。
【請求項3】
前記還元工程における昇温速度が2℃/min以上33℃/min以下の範囲である請求項1又は2記載の海綿鉄粉の製造方法。
【請求項4】
前記混合工程における前記酸化鉄に対する前記還元剤の混合割合が15質量%以上25質量%以下の範囲である請求項1~のいずれかに記載の海綿鉄粉の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は海綿鉄粉の製造方法などに関し、より詳細には、化学反応用鉄粉に好適に使用される海綿鉄粉の製造方法などに関するものである。
【背景技術】
【0002】
海綿鉄粉はアトマイズ鉄粉に比べて比表面積が大きく酸素との反応性が高いことから使い捨てカイロや脱酸素剤などの化学反応用鉄粉として広く使用されている。海綿鉄粉は酸化鉄をコークス粉などの還元材によって還元することによって製造される。
【0003】
特許文献1では、硫黄ガスを含まない所定の還元性ガス雰囲気下で所定の固定還元剤と共に酸化鉄を所定温度で還元して海綿鉄を製造する方法が提案され、この製造方法によれば海綿鉄粉の発熱特性およびハンドリング性が向上するとされている。
【0004】
また特許文献2では、海綿鉄の原料の酸化鉄として高結晶水含有鉄鉱石を使用する製造方法が提案され、この製造方法によれば海綿鉄粉の初期反応性が高まるとされている。
【0005】
また特許文献3では、所定サイズの鉄粉を酸素濃度が所定値以下の不活性雰囲気下で所定温度で還元して海綿鉄を製造する方法が提案され、この製造方法によればウスタイト量の少ない海綿鉄粉が製造でき、海綿鉄粉と酸素との反応で生じるガス量が低減できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2019-112710号公報
【文献】特開2020-147777号公報
【文献】特開平10-17907号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
使い捨てカイロや脱酸素剤などの化学反応用鉄粉の性能(反応性)向上と共に、近年の化学反応用鉄粉の需要増大に伴い化学反応用鉄粉をより効率的に製造する方法が望まれている。
【0008】
そこで本発明の目的は反応性の高い海綿鉄粉をより効率的に製造する方法を提供することにある。
【0009】
また本発明の他の目的は酸素吸収性などに優れた海綿鉄粉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成する本発明の一態様に係る製造方法は、海綿鉄粉の製造方法であって、酸化鉄と還元剤とを混合する混合工程と、前記混合した混合物を蓋付きの容器に充填する充填工程と、前記混合物が充填された前記容器を900℃以上1000℃未満の温度に昇温し保持して前記酸化鉄を還元する還元工程とを有し、前記容器の単位内容積当たりの前記混合物の充填量が0.3g/cm以上であることを特徴とする。
【0011】
前記構成によれば、容器内に多くの混合物を充填し酸化鉄の還元を行った場合でも、容器内で酸化鉄が還元されることで生成し体積膨張した海綿鉄粉が容器外に溢れ出すことが容器の蓋によって抑制される。また、容器内に多くの混合物を充填することによって、酸化鉄の還元反応で生成した二酸化炭素が容器内に滞留できる空間が小さくなって、生成した海綿鉄粉が二酸化炭素によって再び酸化鉄に戻ることが抑制される。
【0012】
前記構成の製造方法において、前記蓋付き容器が外部と通気可能な開口部を有するのが好ましい。
【0013】
これにより、酸化鉄の還元反応で生成した二酸化炭素が開口部から容器外に円滑に流出可能となる。
【0014】
また前記構成の製造方法において、前記蓋が前記開口部を有し、前記蓋における前記開口部の面積割合が1%以上10%以下の範囲であるのが好ましい。
【0015】
これにより、蓋に形成された開口部から酸化鉄の還元反応で生成した二酸化炭素が容器外に円滑に流出可能となり、容器本体に多くの混合物を充填可能となる。
【0016】
また前記構成の製造方法において、前記還元工程における昇温速度が2℃/min以上33℃/min以下の範囲であるのが好ましい。
【0017】
また前記構成の製造方法において、前記混合工程における前記酸化鉄に対する前記還元剤の混合割合が15質量%以上25質量%以下の範囲であるのが好ましい。
【0018】
また前記目的を達成する本発明に係る海綿鉄粉は、前記のいずれかに記載の製造方法で製造された海綿鉄粉であって、見掛密度が0.5g/cm以上1.4g/cm以下の範囲であることを特徴とする。
【0019】
また前記構成の海綿鉄粉において、BET比表面積が0.37m/g以上1.02m/g以下の範囲であるのが好ましい。
【0020】
前記構成の海綿鉄粉において、金属鉄の含有率が50質量%以上95質量%以下の範囲であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る製造方法によれば、反応性の高い海綿鉄粉をより効率的に製造することが可能となる。
【0022】
また本発明に係る海綿鉄粉によれば優れた酸素吸収性などが発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明で使用可能な蓋付きの容器の一例を示す斜視図である。
図2】本発明で使用可能な蓋付きの容器の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明に係る海綿鉄粉の製造方法について各工程ごとに説明する。
【0025】
(混合工程)
酸化鉄と還元剤とを混合する。両者の混合比は理論値を指標として適宜決定すればよい。通常、酸化鉄に対する還元剤の混合割合は15質量%以上25質量%以下であるのが好ましい。還元剤の混合割合が15質量%未満であると酸化鉄の還元が十分に行われない虞がある。一方、還元剤の混合割合が25質量%を超えると、作製した海綿鉄粉の空孔などに還元剤が残存し、例えば海綿鉄粉を酸素吸収剤として食品包装袋内に入れたときに還元剤が漏れ出る虞がある。酸化鉄としてはヘマタイトやミルスケールなどが好適に使用される。酸化鉄の粒子径は0.1μm~1.0μmの範囲が好適である。また還元剤としては、コークス(骸炭)、無煙炭、半無煙炭、瀝青炭、亜瀝青炭、褐炭などが好適に使用される。還元剤の粒子径は5μm~10μmの範囲が好適である。
【0026】
酸化鉄と還元剤とを混合する装置としては特に限定はないが、酸化鉄および還元剤の各々が一次粒子で凝集していると後述の還元反応が進みにくいので、原料粉の凝集を解消させる剪断作用のある混合装置が望ましい。このような混合装置としては例えばサンプルミルやロッドミル、ボールミル、ディスクミルなどが挙げられる。混合装置による混合時間に特に限定はなく原料粉の混合状態を確認しながら適宜決定すればよい。混合時間は通常数分間程度で足りる。
【0027】
(充填工程)
前記混合工程で混合した混合物を蓋付きの容器に充填する。ここで重要なことは、蓋付きの容器に混合物を充填することと容器の単位内容積当たり混合物の充填量が0.3g/cm以上であることである。後述の還元工程において酸化鉄は容器内で還元されて海綿鉄粉とされる。海綿鉄粉は酸化鉄よりも見掛密度が小さい、すなわち海綿鉄粉は酸化鉄よりも体積が大きく膨張する。このため従来の蓋のない容器を使用した製造方法では、混合物の容器への充填量は海綿鉄粉の体積膨張を見込んで容器から溢れない量とされていた。これに対して本発明の製造方法では蓋付きの容器を使用する。混合物を充填するための容器開口は蓋によって一部又は全部が封鎖されるので、容器内で酸化鉄が還元されて生成した海綿鉄粉が容器外に溢れ出すことが容器の蓋によって抑制される。これにより混合物の容器への充填量を従来よりも多くすることが可能となる。また、容器内に多くの混合物を充填することによって、酸化鉄の還元反応で生成する二酸化炭素が容器内に滞留できる空間が小さくなって、生成した海綿鉄粉の一部が二酸化炭素によって再び酸化鉄に戻ることが抑制され高品質の海綿鉄粉が得られる。
【0028】
容器の単位内容積当たりの混合物の充填量は0.3g/cm以上とする。容器の単位内容積当たりの混合物の充填量が0.3g/cm未満であると海綿鉄粉の生産性の向上が図れない。また生成した海綿鉄粉の一部が、容器内で発生し滞留する二酸化炭素によって再び酸化鉄に戻ることがあり高品質の海綿鉄粉が得られない。容器の単位内容積当たり混合物の充填量のより好ましい下限値は0.5g/cmである。
【0029】
本発明で使用する蓋付きの容器の形状および大きさに特に限定はなく還元工程での高温処理(約1000℃)に耐えられるものであればよい。容器の材質は耐熱性を有する金属やセラミックスなどである。図1に蓋付きの容器の一例を示す斜視図を示す。図1に示す容器1aは、上面開口20を有する円筒状の容器本体2aと、容器本体2aの上面開口20を覆う蓋3aとから構成される。蓋3aは、容器本体2aの外径よりも大きい直径を有する円板部31と、円板部31の外周縁から下方に所定長さ垂下した周壁部32とを有し、円板部31と周壁部32とは一体に形成されている。周壁部32の内径は容器本体2aの外径よりもわずかに大きく設定されている。これにより蓋3aは周壁部32によって位置決めされて容器本体2aの上面開口20を覆うように装着可能となる。円板部31の中心には円形の開口部4aが形成されている。還元工程において容器1a内で発生した二酸化炭素は開口部4aから容器1a外に流出する。蓋3aの円板部31(開口部4aを含む)に対する開口部4aの面積割合は1%以上10%以下であるのが好ましい。開口部4aの面積割合が1%未満であると二酸化炭素の容器1aからの排出が不十分となる虞があり、開口部4aの面積割合が10%を超えると、生成・膨張した海綿鉄粉が容器1aから溢れ出る虞がある。より好ましい開口部4aの面積割合は2%以上5%以下の範囲である。なお、蓋3aにおける開口部は1つに限定されるものではなく、複数個形成されていても構わない。開口部33が複数個形成されている場合、開口部の面積割合は複数個の開口部の面積割合を総合したものをいう。
【0030】
図2に、本発明で使用可能な蓋付きの容器の他の例を示す。図2(a)は蓋付き容器1bを上から見た図である。この図に示す蓋付き容器1bでは、図1の容器1aと同様に、円筒状の容器本体2bの上面開口20が蓋3bによって覆われているが、蓋3bは容器本体2bの上面開口20の全体は覆っておらず、また蓋3bには開口部は形成されていない。蓋3bによって覆われていない上面開口20の露出部分が容器1bの開口部4bとなる。還元工程において容器1b内で生成・膨張する海綿鉄粉は蓋3bによって容器1b外に溢れ出ることが抑制されるとともに、容器1b内で発生した二酸化炭素は開口部4bを通って容器1b外に流出する。
【0031】
図2(b)は蓋付き容器1cを横から見た図である。この図に示す蓋付きの容器1cでは、上面開口20の円筒状の容器本体2cの上端に、上端から下方に向かって長方形状の切欠き部21が周方向に所定間隔で複数形成されている。蓋3cは、図1の容器1aの蓋3aと同様に、円板部31と周壁部32とを有するが円板部32に開口部は形成されていない。容器本体2cの上面開口20を覆うように蓋3cが取り付けられると、容器本体2cの上端に蓋3cの円板部31の下面が当接し、容器本体2cの切欠き部21と蓋3cの円板部31とで開口部4cが形成される。容器本体2cの外周面と蓋3cの周壁部32の内周面との間には隙間が形成されるように設定されており、還元工程において容器1c内で発生した二酸化炭素は開口部4cおよび前記隙間から容器1c外に流出する。また還元工程において容器1c内で生成・膨張する海綿鉄粉は蓋3cによって容器1c外に溢れ出ることが抑制される。なお、切欠き部21の形状に特に限定は無くまた切欠き部21は1つであっても構わない。
【0032】
以上説明した蓋付きの容器1a~1cの形態例ではいずれも容器に開口部4a~4cが形成されていたが、還元工程において生成する気体や海綿鉄によって容器内圧が外圧よりも大きくなって、容器本体の上面開口を封鎖している蓋が上方に持ち上げられて容器内の二酸化炭素が容器外に流出可能となる場合には、容器に開口部が形成されていなくても構わない。あるいはまた蓋の材質が多孔質で内部と外部との通気性を有している場合にも容器に開口部が形成されていなくても構わない。
【0033】
(還元工程)
混合物が充填された蓋付き容器は900℃以上1000℃未満の還元温度に昇温され所定時間保持される。還元温度が900℃未満では酸化鉄の還元が十分に進まない虞がある。一方、還元温度が1000℃以上では酸化鉄の還元とともに海綿鉄の焼成が過度に進み解砕や粉砕によって海綿鉄を粉状化することが難しくなる虞がある。
【0034】
容器内における酸化鉄が還元されて海綿鉄粉となる反応は次のような反応ではないかと推測される。
(ア)2C+O→2CO
(イ)Fe+3CO→2Fe+3CO
(ウ)CO+C→2CO
還元剤(C)の一部が酸素(O)と反応(酸化)して還元ガスとしての一酸化炭素ガス(CO)が生成する(反応(ア))。次に、生成した一酸化炭素ガス(CO)と酸化鉄(Fe)とが接触して反応し、鉄(Fe)と二酸化炭素ガス(CO)とが生成する(反応(イ))。生成した二酸化炭素ガス(CO)は還元剤(C)と反応して一酸化炭素ガス(CO)が生成する(反応(ウ))。そしてこの一酸化炭素ガス(CO)が酸化鉄(Fe)と反応して鉄(Fe)を生成する(反応(イ))。これが繰り返されて酸化鉄の還元が進行する。
ただし、生成した二酸化炭素が容器外に排出されず容器内に滞留すると上記の反応(イ)の逆反応、すなわち鉄(Fe)と二酸化炭素ガス(CO)が反応して酸化鉄(Fe)と一酸化炭素ガス(CO)とが生成し、得られる海綿鉄粉の品質が低下する。
【0035】
還元温度までの昇温速度は2℃/min以上33℃/min以下の範囲が好ましい。昇温速度が2℃/min未満であると還元温度に達する前にガス化した還元剤の多くが容器外に流出し酸化鉄の還元反応が進まない虞がある。一方昇温速度が33℃/minを超えると還元剤が一気にガス化しその多くが還元反応に寄与せずに容器外に流出し酸化鉄の還元反応が進まない虞がある。
【0036】
還元工程における容器外の雰囲気については、本発明の製造方法では蓋付きの容器を使用するので、特に限定はなく大気雰囲気であってもよいし不活性雰囲気であってもよい。また還元温度での保持時間は通常2時間~40時間の範囲が好ましい。還元温度で所定時間保持された後は室温などの所定温度まで降温される。降温速度としては特に限定はないが5℃/min以上50℃/min以下の範囲が好ましい。
【0037】
(解砕工程)
還元工程によって得られた海綿鉄は容器内において緩やかな塊状になっていることがあるので、容器から取り出した海綿鉄は必要により解砕されて粉状にされる。ここで使用可能な解砕装置としては、例えばサンプルミルなどが好適に使用できる。解砕時間は塊の凝集具体などを考慮して適宜決定すればよい。通常数分程度で足りる。
【0038】
(磁選工程)
得られた海綿鉄粉から還元剤などを除去して金属鉄の含有率の高い海綿鉄粉を選出する必要がある場合は磁選を行ってもよい。
【0039】
(海綿鉄粉)
以上のようにして製造された海綿鉄粉は、酸化鉄が還元される際に鉄が繊維状に成長したものであって見掛密度が低くBET比表面積が大きい。このような構造的特徴を有する海綿鉄粉は使い捨てカイロや脱酸素剤などの化学反応用鉄粉として好適に使用される。
【0040】
本発明の海綿鉄粉の見掛密度は0.5g/cm以上1.4g/cm以下の範囲であるのが好ましい。海綿鉄粉の見掛密度が0.5g/cm未満であると、使い捨てカイロや脱酸素剤などとして使用する場合の体積が大きくなり過ぎて保管・輸送および使用の際の取り扱い性が低下する虞がある。一方、海綿鉄粉の見掛密度が1.4g/cmを超えると酸素吸収などの化学反応特性が低下する虞がある。
【0041】
本発明の海綿鉄粉のBET比表面積は0.37m/g以上1.02m/gの範囲が好ましい。海綿鉄粉のBET比表面積が0.37m/g未満であると酸素吸収などの化学反応特性が低下する虞がある。一方、海綿鉄粉のBET比表面積が1.02m/gを超えると使い捨てカイロや脱酸素剤などとして使用する場合の体積が大きくなり過ぎて保管・輸送および使用の際の取り扱い性が低下する虞がある。
【0042】
また本発明の海綿鉄粉における金属鉄の含有率は50質量%以上95質量%以下の範囲であるのが好ましい。金属鉄の含有率が50質量%未満であると酸素吸収などの所期の化学反応特性が得られない虞がある。一方、金属鉄の含有率が95質量%を超える海綿鉄粉を得るには磁選工程における収率が悪くなり生産性が著しく低下する虞がある。海綿鉄粉における金属鉄の含有率のより好ましい範囲は60質量%以上92質量%以下である。
【0043】
本発明の海綿鉄粉の体積平均粒径に特に限定はないが30μm以上150μm以下の範囲が好ましい。
【0044】
本発明の海綿鉄粉は、成分として金属鉄の外、炭素(C)やケイ素(Si)、アルミニウム(Al)などの元素成分を含んでいてもよい。また、本発明の海綿鉄粉の一部は空気中の酸素と不可避的に反応して酸化鉄になっているが、酸素(O)の含有量は11質量%以下に抑えられているのが好ましい。
【実施例
【0045】
実施例1
ヘマタイト粉末(酸化鉄,JFEケミカル社製「JD-HDKNF」,平均粒径0.5μm)26.2gと、木炭(還元剤,ジスコム社製「Class D」,平均粒径9.6μm)4.7gとをサンプルミル(協立理工社製「SK-M2」)に投入して2分間混合して混合物を得た。
得られた混合物50cmを蓋付き容器(丸型磁性るつぼ「CM-50」)に充填した。蓋付き容器の内容積当たりの混合物の充填量は0.6g/cmである。蓋付き容器の詳細は下記のとおりである。
・容器本体:内容積50cm,外径53mm,高さ43mm
・蓋:円板形,外径56mm,面積24.6cm,円形開口面積0.9cm(開口率3.6%)
混合物が充填された蓋付き容器を電気炉(ADVANTEC社製「FUM332FB」)に入れ窒素ガスを炉内に供給しながら昇温速度10℃/minで還元温度1000℃まで加熱した後15時間保持して還元処理を行った。その後降温速度10℃/minで常温まで冷却した。
蓋付き容器から還元物を取り出してサンプルミル(協立理工社製「SK-M2」)に投入して2分間解砕処理して海綿鉄粉を得た。
得られた海綿鉄粉の組成、粉体物性、酸素吸収量を後述の方法で測定した。測定した結果を表1に示す。
【0046】
実施例2
ヘマタイト粉末の配合量を12.7g、木炭の配合量を2.3gとした以外は実施例1と同様にして混合物を作製し、還元処理および解砕処理を行って海綿鉄粉を得た。蓋付き容器の内容積当たりの混合物の充填量は0.3g/cmである。
得られた海綿鉄粉の組成、粉体物性、酸素吸収量を実施例1と同様にして測定した。測定した結果を表1に示す。
【0047】
実施例3
ヘマタイト粉末の配合量を33.9g、木炭の配合量を6.1gとした以外は実施例1と同様にして混合物を作製し、還元処理および解砕処理を行って海綿鉄粉を得た。蓋付き容器の内容積当たりの混合物の充填量は0.8g/cmである。
得られた海綿鉄粉の組成、粉体物性、酸素吸収量を実施例1と同様にして測定した。測定した結果を表1に示す。
【0048】
実施例4
ヘマタイト粉末の配合量を38.1g、木炭の配合量を6.9gとした以外は実施例1と同様にして混合物を作製し、還元処理および解砕処理を行って海綿鉄粉を得た。蓋付き容器の内容積当たりの混合物の充填量は0.9g/cmである。
得られた海綿鉄粉の組成、粉体物性、酸素吸収量を実施例1と同様にして測定した。測定した結果を表1に示す。
【0049】
実施例5
ヘマタイト粉末の配合量を43.6g、木炭の配合量を7.8gとした以外は実施例1と同様にして混合物を作製し、還元処理および解砕処理を行って海綿鉄粉を得た。蓋付き容器の内容積当たりの混合物の充填量は1.0g/cmである。
得られた海綿鉄粉の組成、粉体物性、酸素吸収量を実施例1と同様にして測定した。測定した結果を表1に示す。
【0050】
実施例6
還元処理における昇温速度を2℃/minとした以外は実施例5と同様にして海綿鉄粉を得た。
得られた海綿鉄粉の組成、粉体物性、酸素吸収量を実施例1と同様にして測定した。測定した結果を表1に示す。
【0051】
実施例7
還元処理における昇温速度を20℃/minとした以外は実施例5と同様にして海綿鉄粉を得た。
得られた海綿鉄粉の組成、粉体物性、酸素吸収量を実施例1と同様にして測定した。測定した結果を表1に示す。
【0052】
実施例8
還元処理における昇温速度を33℃/minとした以外は実施例5と同様にして海綿鉄粉を得た。
得られた海綿鉄粉の組成、粉体物性、酸素吸収量を実施例1と同様にして測定した。測定した結果を表1に示す。
【0053】
実施例9
ヘマタイト粉末の配合量を44.7g、木炭の配合量を6.7gとした以外は実施例1と同様にして混合物を作製し、還元処理および解砕処理を行って海綿鉄粉を得た。蓋付き容器の内容積当たりの混合物の充填量は1.0g/cmである。
得られた海綿鉄粉の組成、粉体物性、酸素吸収量を実施例1と同様にして測定した。測定した結果を表1に示す。
【0054】
実施例10
ヘマタイト粉末の配合量を41.1g、木炭の配合量を10.3gとした以外は実施例1と同様にして混合物を作製し、還元処理および解砕処理を行って海綿鉄粉を得た。蓋付き容器の内容積当たりの混合物の充填量は1.0g/cmである。
得られた海綿鉄粉の組成、粉体物性、酸素吸収量を実施例1と同様にして測定した。測定した結果を表1に示す。
【0055】
実施例11
還元温度を900℃とした以外は実施例1と同様にして混合物を作製し、還元処理および解砕処理を行って海綿鉄粉を得た。
得られた海綿鉄粉の組成、粉体物性、酸素吸収量を実施例1と同様にして測定した。測定した結果を表1に示す。
【0056】
比較例1
混合物の還元処理を蓋無し容器で行った以外は実施例1と同様にして混合物を作製し、還元処理および解砕処理を行って海綿鉄粉を得た。
得られた海綿鉄粉の組成、粉体物性、酸素吸収量を実施例1と同様にして測定した。測定した結果を表1に示す。
【0057】
(金属鉄(M.Fe))
試料中の金属鉄量の測定は、JIS M 8713-1993「鉄鉱石類の還元試験方法」の解説 参考 6.1金属鉄定量方法に準拠して、試料を臭素-メタノール溶液中で攪拌し、金属鉄を抽出・溶解し、電位差自動滴定装置を用いてキレートで滴定する方法で行った。
【0058】
(炭素(C))
試料中の炭素は、炭素・硫黄分析装置(LECO製 CS-744)を用いて算出した。
【0059】
(酸素(O))
試料中の酸素は、酸素・窒素分析装置(LECO製 TCH600)を用いて算出した。
【0060】
(BET比表面積)
海綿鉄粉のBET比表面積は、BET一点法比表面積測定装置(株式会社マウンテック製、型式:Macsorb HM model-1208)を用いて測定した。具体的には、サンプル5.000gを秤量して直径12mmの標準セルに充填し、200℃で、30分間脱気して測定を行った。
【0061】
(見掛密度,「AD」)
JIS-Z-2504:2012(金属粉-見掛密度測定方法)の記載に従って測定を行った。
【0062】
(酸素吸収量)
酸素吸収量は以下の方法で測定した。試料1gを通気性包装材に入れ、水10mLをしみこませた脱脂綿と共にガスバリア性袋に封入し、袋内をポンプで一度排気する。次に空気1500mLをガスバリア性袋の中に入れ、20℃で保管し、96時間後に袋の中の酸素濃度を測定し、次式により酸素吸収量を算出した。
酸素吸収量(mL/g)={(20.9%-酸素濃度%)/(100%-酸素濃度%)}×1500mL/試料重量(g)
【0063】
【表1】
【0064】
表1から明らかなように、蓋付き容器の内容積当たりの混合物の充填量を0.30g/cm~1.03g/cmとした実施例1~5の海綿鉄粉では、酸素吸収量は140mL/g~185mL/gと良好な反応性を示した。
【0065】
また蓋付き容器の内容積当たりの混合物の充填量を1.03g/cmとし、還元処理の昇温速度を2℃/min~33℃/minとした実施例6~8の海綿鉄粉でも、酸素吸収量は110mL/g~206mL/gと良好な反応性を示した。
【0066】
ヘマタイト粉末に対する木炭の混合割合を15質量%とした実施例9の海綿鉄粉では酸素吸収量は102mL/gと、混合割合が18質量%である実施例1の海綿鉄粉に比べて低下はしたものの従来に比べれば十分に高い値を示した。またヘマタイト粉末に対する木炭の混合割合を25質量%とした実施例10の海綿鉄粉では、酸素吸収量は234mL/gと、混合割合が18質量%である実施例1の海綿鉄粉よりも高い値を示した。還元温度を実施例1の1000℃よりも低い900℃とした実施例11の海綿鉄粉では酸素吸収量は実施例1よりも高い165mL/gであった。
【0067】
これに対して混合物の還元処理を蓋無し容器で行った比較例1の海綿鉄粉は、金属鉄(M.Fe)の含有量が40.5wt%と実施例の海綿鉄粉よりも低い一方、酸素(O)の含有量16.4wt%と実施例の海綿鉄粉よりも高かった。また、比較例1の海綿鉄粉はBET比表面積が0.21m/gと実施例の海綿鉄粉よりも小さい一方、見掛密度は1.6g/cmと実施例の海綿鉄粉よりも高かった。そして比較例1の海綿鉄粉では酸素吸収量は60mL/gと実施例の海綿鉄粉よりも格段に小さい値であった。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明に係る製造方法によれば反応性の高い海綿鉄粉をより効率的に製造することが可能となる。
【符号の説明】
【0069】
1a~1c 蓋付き容器
2a~2c 容器本体
3a~3c 蓋
4a~4c 開口部
20 上面開口
図1
図2